&color(red){※この小説は偏った性的嗜好をテーマとしております}; author:[[macaroni]] <<[[第一話>S・I研究部〜SMのはなし〜]] ---- ひとは誰しも絶対に知られたくない秘密を持っている。 その秘密が特異であればあるほど打ち明けるのが困難になってしまう。 だからひとはその秘密に何重にも鍵をかけ、誰にも知られないように隠そうとする。 時にそれは隠しフォルダなどと呼ばれ、Dドライブという薄暗い部屋にひっそりとしまわれている。 そのパンドラの箱を開けられるのも、その中身を楽しめるのもあなた一人だけだ。 老若男女、あらゆるフェティシズムについての悩みを解消する為にこの学園に存在するのが、我々「S・I研究部」、通称フェチ研である。 ---- &size(20){S・I研究部〜童貞のはなし〜}; 手入れの行き届いた9本のしっぽをゆらゆらと左右に揺らしながら歩いているのは一匹のキュウコン。 透き通る様な乳白色の肌はまるで陶器と見間違う程で、育ちの良さを感じられる。 彼女の手には学園の全部活動が書かれているリストが握られており、次に向かう部活動の名前を確認して彼女は少し胸がときめいた。 ホコリっぽい旧校舎の3階の廊下を突き当たりまで進み、奥から2番目の部屋にその部室はある。 『S・I研究部』とほとんど走り書きに近い文字で書かれた張り紙が貼られた扉を、彼女は前脚で軽く2回ノックした。 中から「はい」と男性の声がして、彼女は少し身構えた。 部屋から出てきたのはなんだか眠そうな目をしているミルホッグだった。 彼は授業にあまり出ないのでいまいち印象が薄いのだが、なぜかクラスの皆からの信頼は厚いようで確か「ボッチ」というあだ名で呼ばれている。 確か同じクラスだったが、あまり会話をしたことは無かったので少し緊張した。 「あれ、委員長じゃん」 「こんにちは、ボッチ君。今年度の予算なんだけど」 監査委員長である彼女は部活動の予算や備品の管理を行うのが仕事である。 この学園は地区でもかなり大きな敷地を持つ学校で、全校生徒も多いがその分部活動も多い。 そのためすべての部活動の動向を把握するのはなかなか骨の折れる仕事だ。 「ああ、うちは校長が全部やってくれてるから大丈夫っすよ」 中でもこのS・I研究部は謎が多い部活動で、昨年発足して以来ずっと彼女は様子をうかがってきた。 たまに部室の横を通り過ぎてみてもとくに活動をしている様子は感じられず、いつ見ても雑談ばかりしているように思う。 まず「S・I研究部」という部活名自体どういう意味かわからないし、そんな部活の顧問をしているのがうちの学園の校長だというのだから気になって当然である。 しかし彼女がこの部活を気にかける理由は他にもあった。 「あの、ローリー君は今日は来てないのかな・・・?」 「ローリー?あぁ、今日は家庭教師のバイトがあるとかでもう帰ったぜ」 「そう」彼女はなるべく落胆した様子を見せぬよう努め、それをごまかす様に部屋の中をちらりと覗き見た。 部室の中は思ったより奇麗に整頓されており、特に本棚には沢山の小説が詰まっているのに驚いた。 もしかしたらこのボッチという男性は見かけによらず文学青年なのかもしれない。 そしてやはり最も気になるのは彼女、ミミロップの存在だ。 なぜ学園のアイドルといってもいい彼女がこんなパっとしない部活に所属しているのだろう。 その彼女は壁に貼ってある何かを熱心に見つめている様子だが、ここからでは何を見ているのかよく見えない。 視線の先に何があるのか気になった彼女は首を延ばし、部室の中をさらに覗き込もうとした。 「ちょちょ、いいんちょお!とにかく予算についてはもう大丈夫だから、ね!」 「う・・・うん」 ボッチに無理矢理回れ右をされ、彼女は廊下の方へ押し戻された。 「で、他に用事は?」 「あ・・・実はもう一つお願いがあるんだけど・・・」 「お願い?」 彼女は白い封筒を差し出した。 「委員長帰ったの?」 ボッチが冷や汗をかきながら部室へ戻ると、やおいが呑気な声で聞いた。 「やおい、今すぐそれを剥がせ」 そういってボッチは壁のポスターをばしばしと叩いた。 そこにはミルホッグとリングマが全身に汗を滴らせながら抱き合い、見つめ合っている写真がポスター大に引き延ばされて貼られていた。 ボッチはある事情からこの写真を撮られる羽目になったのだが、何度見ても恥ずかしい。 さらにローリーが微妙に切なげな表情など作って、まんざらでもない様子なのがさらに腹立たしい。 やおいは「いいじゃない、これくらい」などとぶつぶつ文句を言いながらそれを剥がして丁寧に丸めた。 「しかしローリーにもまいったぜ。みろよ、これ」 ボッチは先ほど委員長から手渡された封筒の中から数枚の写真を取り出した。 そこには委員長のプライベート写真が入っていた。 こうして写真で見ても彼女はまるでどこかの国のお姫様の様にしか見えない。 「ちょっと、何これ!?なんで委員長が自分の写真をローリーに渡すわけ?」 「ローリーから頼まれたそうだ『君の写真が欲しい』ってね」 やおいは額に手を当てた。 「あちゃー・・・それで彼女・・・?」 「ああ、委員長はローリーが自分に気があると思い込んでる」 「でもさ、ローリーって中学生以上はそういう対象としないんじゃなかった?それに委員長はキュウコンだし」 そう、ローリーは一度でも進化したポケモンには興味を示さないのだ。 ボッチはさらに封筒の中から一枚の写真を取り出した。 それはどこかの公園のベンチで彼女の隣にもう一匹、女の子のロコンが仲良さそうに並んでいる写真だった。 「あれ、この写真・・・」 「多分委員長の妹だろ。ローリーは間違いなく妹が狙いだ」 昼休みを告げるチャイムが鳴ると、教室は一斉に騒がしくなった。 40分しか無い貴重な休み時間を、やおいは屋上で昼ご飯を食べながらのんびり過ごすのが好きだった。 天気のいい今日も屋上で過ごそうとランチであるおにぎりを持って、屋上に向かっている最中だった。 「あ、やおいさん!」 何者かに呼び止められやおいが振り返ると、そこにはまるで造り物のような美しい姿をしたキュウコンがいた。 水色のシュシュで束ねられた9本の尻尾は、風になびく度にシャンプーのいい匂いがした。 「委員長、珍しいわね。あたしに何か用?」 「ちょっと相談があるんだけど、ランチ、いっしょにどうですか?」 学園のヒロインであるやおいと、さらにお嬢様の委員長が並んで歩いていればそれはそれはよく目立った。 屋上へ向かう途中何匹もの男子生徒が彼女達を振り返ってはうっとりしていた。 屋上への扉を開けると、抜ける様な青空が広がっていた。 2匹は適当な場所に腰を下ろすと、他愛のない話を織り交ぜながら食事を始めた。 そうしているうちにいつしか恋愛の話題になり、委員長が相談したいと言っていた悩みの話になった。 「ローリー君って、付き合ってる子とかいるのかな・・・?」 相談というのはやはりローリーについての事だった。 やおいは彼の普段の様子を思い出してみたが、どうにも彼女がいる様には思えなかったし、いつもお気に入りの女の子(もちろん幼女である)の話をしている印象しかなかった。 「やー、いないと思うけど」 「いままでに誰かと付き合ったりしたのかな?」 「さぁ、そこまでは・・・」 「あと、あの・・・!」 「ちょっと待って!そんなに知りたいならあたしじゃなくて本人に直接聞いたらいいじゃない」 やおいがそう言うと、委員長はすっかり黙り込んでしまった。 「本人には聞きづらい事なのね?」 委員長は恥ずかしそうに顔を横に背け、小さく頷いた。 「実は私変わった趣味があって・・・その・・・」 委員長がローリーに聞きたい事とは一体何なのかやおいは考えてみた。 彼女はしきりにローリーに彼女がいるのか、また今までいた事があるのか知りたがっている。 ということは彼女の性的嗜好というのは・・・。 「それってもしかして、童て・・・」 「言わないで!!誰かに聞かれちゃう!!」 わあわあと慌てふためく委員長の様子は、普段の落ち着いた彼女から想像できないほど子供っぽく、恋する乙女そのものだった。 そんな彼女を見ていると、やおいはどうしても彼女を助けてあげたい気持ちになった。 「だったらうちの部長に相談してみたら?」 「ボッチ君に?どうして・・・」 「知らない?ウチの部活ってそういう誰にも言えない悩みを解決するのが仕事なのよ」 「S・I研究部・・・」 委員長は少しの間思案する仕草を見せ、「相談してみる」と一言発した。 そして無口になった彼女は、ランチボックスの中のタマゴサンドをかじった。 放課後はローリーも部室にやってくるだろうという事で、やおいは5限目と6限目の間にボッチを屋上に呼び出し、事情を説明した。 ボッチは最初&ruby(・・・){非常に};面倒くさそうな顔をしていたが、委員長の話を聞いているうちにだんだん真剣な表情に変わっていった。 「私、経験無い男性しか好きになれないの」 「童貞の男としか付き合えないって事か」 ボッチの発した『童貞』という単語で彼女はゴクリと喉を鳴らした。 「初めて付き合った男性がその・・・童貞だったんだけど、初めてしたときに凄く感じてくれたのが印象に残っちゃって」 それ以来委員長は童貞の男性の『筆おろし』をこよなく愛する性癖になってしまったらしい。 「強がりな男性が甘えた声を出す瞬間って言うか、そういう時の表情っていうのかな?それが・・・たまらなく好きなの」 「処女信仰の男は多いって言うけど、童貞ってのは男にとってあまりいいステータスじゃ無いもんな。俺も早めに童貞捨てといて良かったと今では思うよ」 世の中の女性がすべて委員長のようになればいいのに、とボッチは思った。 「でもよかったな、委員長。ローリーは童貞だぜ」 「そうなの?ローリー君ってなんだか落ち着いてるし、クラスの女の子にもあまり興味ないみたいだから、てっきり経験が多いのかと思った」 それはあいつがロリコンだからだよ、という台詞が喉まででかかったが、ボッチはなんとか飲み込んだ。 「とにかく一度ローリーとデートしてみたら良いんじゃない?」やおいが提案する。 とりあえずまずはボッチがローリーに委員長の事をどう思っているか探ってみるという事でその場は収まった。 そろそろ6限目の授業が始まるという事で、委員長は足早に教室へ戻っていった。 「しかし委員長が童貞信仰だったとはな。委員長は手コキの達人に違いないな」 「そういうこと女の子の前でよく平気で言えるわね・・・」 「はっ、部室にあんなポスター飾ってる奴が良く言うぜ」 やおいはそのしなやかな脚でボッチに見事な飛び蹴りを決めた。 ボッチが屋上に崩れ落ちるのと同時に、6限目の開始を告げるチャイムが鳴り響いた。 放課後、部室にやってきたローリーに、昨日委員長から預かった封筒を手渡した。 ローリーは黙ってそれを受け取ると、中からあの一枚だけを抜き取り、ボッチに返した。 「おい、他の写真はいいのか」 「ああ、彼女に返しておいてくれ」 そう言っている間も、ローリーは写真の中のロコンに魅入っていた。 すっかり彼女の妹しか眼中に無いローリーの様子を見たボッチは、回りくどいやり方ではとてもローリーをその気にさせる事は不可能だと悟った。 「あーあ、委員長が可哀想だぜ。こんなロリコンに惚れちまうなんてな」 「誰が誰を好きになるかは個人の自由だ。俺に責任は無い」 「責任あるだろ。『あんたの写真が欲しい』なんて言い方すれば誰だって勘違いするさ」 「・・・ボッチには関係ない」 ローリーはその写真を大事そうに学生手帳にしまうと、机に座って携帯ゲーム機で遊び始めた。 そんなローリーを見ていて、昼間の委員長の事を思い出し、ボッチは胸の奥が熱くなるのを感じた。 あんなに真剣にこの男の事を想っているのに、この男は全くそれを受け取ろうとしない。 委員長のあの笑顔が脳裏に浮かび、ボッチは怒りを抑える事ができなかった。 「そんなことだからお前はいつまでたっても童貞なんだよ」 吐き捨てる様にボッチは言った。 ボッチのこの発言にはいつも冷静なローリーもさすがに腹を立てたようで、リングマ特有の鋭い目つきでボッチを睨みつけた。 「別に俺は童貞である事を恥じてはいないし、中途半端な気持ちで接する方がよほど彼女に失礼だ」 「じゃあどうすんだよ。このまま彼女をほっとくのか!」 ローリーはガタンという大きな音を立てて立ち上がると、携帯ゲーム機を乱暴に鞄に押し込み、鞄を肩にかけて歩き出した。 黙ってボッチの横を通り過ぎようとするローリーの腕を掴み、ボッチはルーズリーフの切れ端を手渡した。 そこには委員長の達筆な文字で、デートへの誘いが書かれていた。 【よろしければ日曜日、海浜遊園地に遊びにいきませんか?】 その手紙をじっと見つめた後、ローリーは黙って部室の出口まで歩いていき、扉の前で振り返った。 「デートには行く。どうすればいいかはその時考える」 ピシャッという扉を閉める音が二匹を隔て、あとには静寂だけが残った。 窓の外は鬱陶しさを覚える程澄み切った青空が広がっていた。 ---- 日曜日も気持ちのいい天気となった。 そんな天気とは裏腹にローリーの気持ちは沈んでいた。 女の子とデートするのは久しぶりだが初めてではない。 しかしあの一件以来デートには一切行った事は無い。 それ故自分が一体どんな気持ちになるのか見当がつかず、それが不安なのだ。 しかしデートに誘うというのは誘われる側からは想像もしない程勇気のいる行為だということはローリーにもわかる。 だからこそ彼女の気持ちにはできるだけ答えたいという想いは強い。 待ち合わせ場所には彼女が先に来ていた。 その真っ白な肌を申し訳程度に隠す大きさの麦わら帽子をかぶり、尻尾はいつも通りシュシュで束ねられている。 委員長はローリーを見つけると一瞬口をぐっと結び、すぐに満面の笑みを浮かべた。 その笑顔が一瞬彼女の妹に重なって見えた彼は、軽く頭を振ってその雑念を振り払った。 「おはようございます、いい天気ですね」 「ああ、行こうか」 大丈夫、きっとやれる。 ローリーは何度も自分に言い聞かせた。 日曜日という事もあり、遊園地は賑わっていた。 家族連れの姿も見かけるが、やはり圧倒的にカップルが多い。 そんなデートにもってこいの場所のだというのに、俺は一体何をしているんだという想いがボッチを支配していた。 そんなデートにもってこいの場所だというのに、俺は一体何をしているんだという想いがボッチを支配していた。 「ほら、次はジェットコースターに乗るみたいよ!ボッチ早くして!」 ローリーの事が気になるから尾行しようと言い出したのはやおいだ。 やりたければ自分でやればいいだろうと何度も言ったのだが、女だけで遊園地に行くわけにはいかないと彼女も譲らなかった。 ローリーとはあれ以来会話をしていない。 喧嘩をすることはしょっちゅうあったが、あそこまで踏み込んだ言い争いになったことは無い。 無理矢理デートさせるのはやはりボッチも嫌だったが、今日のローリーを見る限りデートを楽しんでいる様に見えるし、その点は少し気持ちが楽になっていた。 「でもこうして見るとあの2匹すっかりカップルみたいね」 ジェットコースターの乗り場で整列しているローリーと委員長は楽しそうに談笑している。 「こんな場所に男女で来てれば嫌でもカップルに見えるに決まってるだろ」ボッチが愚痴を言う。 「はぁ!?あたし達は偵察に来てるんだからデ・・・デートしてる訳じゃないっての!」 「・・・知ってるよ、うるさいな」 当初の心配など無縁だった様に、デートは上手くいっていた。 遊園地を満喫し終えた頃にはすっかり日も暮れて、園内がオレンジ色に染まっている。 ソフトクリームとカップアイスを買ってきたローリーは、ベンチに行儀よく座っている彼女にカップアイスを手渡した。 「ありがとう」 彼女は一瞬ためらいがちにアイスに口をつけると、きれいに4つ脚をそろえてペロペロとアイスを舐め始めた。 そんな彼女を横目に見ながら、ローリーはソフトクリームを舐めた。 ひんやりとした甘さが舌の上に広がり、その予想外の冷たさに自分の体温が思いのほか上昇していた事を気づかされた。 「今日は本当に楽しかったなぁ・・・遊園地なんて久しぶりだったし」 「ああ、俺もだ」 気まずい沈黙が流れ、いよいよ来るべき時がやってきたことを2匹とも感じ取っていた。 彼女の前足がゆっくりとローリーの手に伸びる。 ローリーは真っ白な彼女の手を強く握りしめた。 雪の様に柔らかい。 最初に切り出したのは委員長だった。 「実は今日はあなたに大事な話があるんです」 「うん」 「私・・・あなたの事が好き・・・なんです」 「・・・」 ローリーは頭の中が空っぽになった様な、もしくは身体の中心にぽっかりと大きな風穴が開いてしまった様な不思議な感覚に包まれた。 ソフトクリームはもう溶け始めている。 「よかったら、私と・・・私と付き合ってくれませんか」 デートが始まった瞬間から約束されていた展開だったが、やはり実際に迎えてみると想像していたよりもかなり息苦しい。 ローリーはすっと息を吸い込むと、心に決めた想いを彼女に伝えた。 「ごめん、委員長。やっぱり俺は君とは付き合えない」 「・・・どうして?」 「気持ち悪いかもしれないが、俺は君よりもっと幼い女の子しか愛せないんだ」 彼女の顔を直視できず、まっすぐ前だけを見てローリーは告白した。 「俺が好きなのは君じゃなく、君の妹だ」 となりで彼女が小さく嗚咽を漏らすのが聞こえた。 つらいのは自分だって同じだったが、この際気持ちをすべてはっきりさせるべきだと思い、ローリーは続けた。 「君は俺が童貞だから好きになったのか?それとも、俺だから好きになったのか?」 「どうしてそれを・・・まさかボッチ君達から・・・?」 その言葉を聞いてローリーはやはりボッチ達が関わっていたのかと思い、そしてその言葉を否定する様に首を振った。 「いや、そうじゃない。俺は何となく君がそういう女性なんじゃないかと気づいていた」 「・・・」 「君の事を目で追う様になったのは、同じクラスになってからだ。さっきも言った様に俺は同世代の女の子には興味を抱く事なんてなかったし、こんな風にクラスの子の事が気になるなんて自分でも意外だったんだ」 手のひらに溶け落ちてくるソフトクリームが鬱陶しい。 「それはきっと君の中に少女のような部分が色濃く残っていたからだと思う。でも同時に君はいろんな男性と経験をした大人でもあった」 彼女の頬を一筋の涙が流れる。 「そんなとき君の妹を見て、俺は確信したんだ。俺は君の中の少女に惹かれていたんだとね」 「ローリー君・・・」 「自分のそういう嗜好っていうのはなかなか簡単に崩せないんだ。正直まいるよ」 閉園を知らせる放送が園内に響き渡った。 すでに園内に残っている者はほとんどいない。 ローリーがそろそろ帰ろうと彼女を促したが、彼女はふるふると首を振った。 「もう少しここにいたいの」 「そうか・・・」 彼はそれ以上言葉はかけず、静かにその場を離れた。 ローリーがいなくなった事を確認し、ボッチとやおいは委員長に近寄った。 2匹の存在に彼女が気づくと、委員長はちいさく微笑んだ。 「彼の問いかけに、結局答えられなかったな」 '''(君は俺が童貞だから好きになったのか?それとも、俺だから好きになったのか?)''' 「もし彼が童貞じゃなかったとしたら、こんな風に告白できたかなって考えると、何だかわからなくなっちゃって」 「委員長・・・」 「ふたりにも迷惑かけちゃったな・・・」 やおいは彼女に掛ける言葉が見つからず、ただ夕日に溶けていくアイスクリームを眺めていた。 どうせ溶けてなくなるなら、いっそ最初から無ければ良いのにな、とやおいは思った。 「失恋してひとは強くなる!」 突然ボッチが叫び、やおいと委員長の肩がびくっと跳ねた。 「困ったときはいつでもウチの部室に来いよ。歓迎するよ」 「・・・うん」 委員長の顔は涙でぐしゃぐしゃになっていたが、今までで最高の笑顔だった。 いよいよ園内に残されたのは彼らだけになったようで、遠くで従業員がじっとこちらを見ていた。 「私も帰らなきゃ」 瞳に溜まった涙を前足で拭い、彼女はひょいとベンチから飛び降りた。 「ボッチ君が童貞だったら良かったな」 最後にそう呟いたあと彼女は、2匹にお礼を告げ、ゆっくりと遊園地の出口へ向かって歩き出した。 向かう先は彼女にとっては新しい一歩への入り口である。 オレンジ色に染まった彼女の尻尾は真っ直ぐピンと上を向いていた。 「強いね、彼女」 「俺も、委員長が同級生で良かったよ」 その言葉の意味が何を表しているのかやおいは気になったが、問い詰める事はしなかった。 正確には、問い詰める事ができなかった。 「やっぱりお前達、来てたんだな」 背後から聞き覚えのある声が聞こえて、2匹は硬直した。 振り返ると、ローリーがやや不機嫌な様子で腕を組み、立っていた。 「ロ、ローリー・・・」 「気づいてたのか?俺たちが尾けてた事」 「いや、おせっかいなボッチ達ならやりかねないと思ってな」 気まずい空気が流れる。 ふぅ、とボッチは息を吐き、ローリーを正面から見た。 「・・・悪かったよ、あんな事言って」 ボッチの言葉を聞いて、ローリーは腕組みを解き、こめかみの辺りをぽりぽりと掻いた。 「何の事か思い出せないな」 2匹はふっと小さく笑った。 そんな2匹を見て、やおいはほっと胸を撫で下ろした。 翌日、やおいがいつものように部室に向かうと、既にボッチが来ていた。 ボッチは机に片ひじを付きながら、やおいの持ってきたBL小説をさほど興味もなさそうに読んでいた。 「ローリーはまたカテキョのバイト?」 「おー」 やおいには一瞥もくれずにボッチは答えた。 いろいろあったけど、いつも通りのフェチ研に戻った様で少し安心した。 「そういえばボッチに聞きたい事があるんだけど」 「何」 「ボッチって熟女好きじゃない?恋愛でもやっぱり年上が好きなの・・・?」 「は?恋愛は別に年齢なんて関係ねぇじゃん」 読んでいたBL小説を閉じてボッチは大きなあくびをした。 「そりゃあ確かに年上の御姐さんは好きだけど、それはあくまであっちの趣味ってだけでさ、別に熟女と付き合いたい訳じゃないって」 「・・・そうなんだ」 あれ・・・? 彼の言葉にどうしてこんなに私はほっとしているんだろう、とやおいは不思議に思った。 ボッチがどんな女性と付き合おうとどうでもいい事では無いのか。 「つか、俺にそんなこと聞いてどうすんだ?」 「・・・え、何が」 「だから、俺が熟女と付き合いたいのかどうとかってさ」 「べ・・・別に、何となく聞いてみただけよ」 おかしい、どうしてこんな奴相手に動揺しなくてはいけないのだ。 「もしかして、お前・・・」 ボッチがやおいの顔を覗き込む。 心臓が早鐘の様に体中に鳴っている。 今私はどんな顔をしているのだろうか。 頭が変になりそう・・・。 「ローリーが年下の女性以外と付き合えるのか心配なんだろ」 「・・・へ?」 自分でもびっくりする程間抜けな声が出て、今までの心臓の高鳴りが一気に萎んでいくのを感じた。 まるで大きく膨らんだ風船が一気に空気が抜けていくような感覚だ。 そんなやおいの異変に全く気付く素振りを見せず、ボッチは呑気に笑ったりしている。 「ったくお前もとことんお節介だよなぁ」 「・・・う、うん」 「心配すんなって。今回は委員長に妹がいたから上手くいかなかったけど、いずれはローリーだって普通の女の子のことを好きになるさ」 自分はローリーの事が心配であんなにドキドキしていたのだろうか? 確かにローリーは今では大切な友達だし、恋愛だって応援してあげたいと思っている。 「なんだよ、珍しく真面目な事言ったんだから褒めろよな」 ボッチは顔をしかめ、頭を掻いた。 そんな彼を見ていると彼女は少しだけ心が軽くなった。 認めたくないけれど。それは事実だ。 「まぁ、でも俺と付き合う女はきっとお得だぜ。どんどん年を取るごとに俺のストライクゾーンに近づいていくんだからな」 「あんたみたいな変態、一生彼女なんてできる訳ないでしょ」 ボッチの背中を思い切り叩いて、やおいは声を出して笑った。 さっきの胸の高鳴りの理由はまだよくわからないけれど、今は何も考えないようにしようとやおいは思った。 ---- &size(20){あとがき}; フェチ研第2話ということでテーマを考えていましたが、この「童貞」「非童貞」論議はいつか書きたいテーマだったので、思い切って第2話にしてみました。 それに伴って3匹の関係もちょっとずつ進展してきましたね。 今の自分でもどうやってケリをつけようかまだ決まっていないので、あと数話書きながら結末を考えていきたいです。 本当はエッチな展開も絡めていきたいんですけど、キャラクターに感情移入しすぎるとなかなかそういう行動に動かしづらいんですよね・・・。 読んで頂きありがとうございました。 #pcomment(フェチ研2コメントログ,10,)