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Pokemon Survival Battle:青い百合の花

 地方大会の準決勝でトワイライツに敗北したブルーナイツは、全国大会で雪辱を晴らすべく、三位決定戦で見事勝利を手にして全国大会への切符を手にしました。その後もトレーニングを続けて力をつけていったブルーナイツは、ポケモンサバイバルバトルの第一回戦を明後日に控えていた。
 大会への最終調整のため、最近は皆会社を休んで鍛錬に没頭している。もとから会社勤めではないプロトレーナーもいるし、日本ではないので有給は簡単に取れるのである。そんな毎日が鍛錬という日々の中、パチリスは一人しょげていた。
「うまく行かないローテンション……へこんだまま戻れない……一緒じゃない……どんな食事も味がない……」
「どーしたのパチリス、今日はえらくローテンションね? まるでどこかの名探偵みたいよ?」
 どこかの名探偵なピカチュウのようにシワシワな顔をしたパチリスに、思わずフラージェスは心配して声をかける。フラージェスはこのポケモンサバイバルバトルではバッファーと呼ばれる役割についており、光の壁や神秘の光などで味方を守る役割がある。また共生の特性を持つ彼女は、離れたところにいる相手にも道具を渡すことが出来、弱点保険を押し付けてチャームボイスで攻撃するなど、過激なこともやってのけている。バンギラスやゲッコウガもよくやられているのだとか。
 他にも、サイドチェンジという技を用いて味方と位置を瞬時に交代することが出来るため、それを利用した奇襲戦法も非常に有効だ。その対象になるのも主にゲッコウガやバンギラスで、特にゲッコウガは耐性と弱点の関係でフォローが容易なため、彼女はたまに組まされるのだとか。
 彼女は、戦法からもわかる通り、他人に尽くすことが彼女の個性である。共生という特性からもそんな彼女の性格が垣間見えるが、当然のように世話焼きな性格なのである。パチリスを心配するのも、フラージェスの世話焼きな性格のあらわれであった。

「どうもこうもないのだ……僕には好きなエモンガがいたのだけれど……その子にはもうアイアントのつがいがいたのだ……僕は失恋したのだ……。もう発情期なのに、台無しなのだ……」
「あらあら、エモンガとアイアントって、タマゴグループが違う相手との恋模様なわけねぇ……なんだか、最近バンギラスから聞いた話だわ。ふむふむ……ううん、確かにあなたからは女の子の匂いが強いわ。発情期なのね」
 フラージェスは、パチリスの体に鼻を近づけてほほ笑む。
「あぁ、確かにあいつはジュナイパーにガブリアスを取られたとか言っていたのだ。それに関して、自分には関係ない話だと思っていたけれど、僕も思いっきり当事者になってしまったのだ……つらいさんなのだ」
「大変ね……思いもかけない相手に自分の好きな人を取られるって、とってもつらいことだと思うわ。でもなんでよりにもよってアイアントなんだろ……まぁいいか。私も、好きな人を別の相手にとられちゃったからねぇ……気持ちはわかるわ……私のご主人を奪いやがってあの優男……」
「うぅ、フラージェスも失恋はたくさんしてるのか?」
「まぁ、私の場合は好きになる相手が特殊だからね……ある程度仕方のないところもあるんだけれどね。でも、あれよぉ……貴方も私もまだまだ若いから、出会いなんて星の数よ。もっといい相手、気の合う相手を見つけましょう?」
「うん、そうするのだ……でも今日だけは泣かせてほしいのだ」
「いいわ。私の胸で泣きなさい」
 フラージェスは微笑み、パチリスを抱きしめる。最初こそいつくしむような目立ったのだが、パチリスから顔が見えない状態になると、彼女の笑みは怪しい方向へと変わっていくのであった。

 そんなことがあってから二日後、その日は苦労して掴んだ全国大会の第一試合である。会場は自然公園の端にある森の一画。夜になると、月明りすら木々に隠されるため、非常に暗くなるフィールドだ。
 相手チームは幻のポケモン、ダークライを従えるチーム、ブラックドリーマー。全国区ということもあり、伝説のポケモンを連れているチームは珍しくないが、その中でも非常に強力なポケモンを連れたチームであろう。
 このダークライ、眠らせる攻撃の厄介さは言うまでもないが、ダークライは得意技であるダークホールを使わなくとも非常に強い速攻アタッカーのポケモンだ。このダークライには対策せざるを得ないのだが、その対策をさせることで相手の手札を少なくさせて、勝利をもぎ取るのがブラックドリーマーの戦法であった。
 全国大会では、二勝先取、三回勝負形式なのだが、今回は運悪くデイゲーム。ナイトゲーム、ナイトゲームという組み合わせになっており、黒い体色で闇に紛れやすいポケモンが多いブラックドリーマーが得意とするナイトゲームが多くなってしまった結果、ブルーナイツとブラックドリーマーは一勝一敗の状態で、最後のナイトゲームで決着をつけることになってしまう。

 ナイトゲームが得意な相手に挑むため、不利な戦いになってしまうが、当然のことながら、我らがブルーナイツも対抗措置を用意している。まずは、夜戦が得意なポケモンとして、ジュナイパーやゲッコウガ、ニャオニクスといった夜目が効くポケモンを投入すること。また、ダークライのダークホールが厄介ではあるが、神秘の守りが使えればとりあえずは最低限の対策になるため、スタメンにフラージェス。控えにニャオニクスを置くことで対策をとっている。
 全体的な作戦としてはゲッコウガとフラージェスが共に行動する。攻撃が得意ではないフラージェスだが、彼女は特防が非常に高いために、敢えて前衛に置いて特殊攻撃を受けきる役目を与えられる。その代わり、彼女は開けた場所を歩かせる。遠距離攻撃は特殊攻撃が多く、物理的攻撃は少ないため、開けた場所で狙われやすくすることはむしろ彼女の身を守ることにつながるのだ。直接攻撃が多い物理攻撃ならば、開けた場所でなら探知しやすい。それに、開けた場所で戦うと、ジュナイパーからの援護もしやすい。
 特殊攻撃を受けたら、ゲッコウガがそのまま攻め立てに行くか、サイドチェンジで位置を入れ替えるか、それは臨機応変に対応する。

 ジュナイパーは後方からの支援及び、ルカリオが探知しきれない範囲を含む敵の視認を行い、サーチ役も兼ねている。

 ルカリオはブリガロン、グラエナと共に進み、サポーターとタンクで守りを固めながら、ルカリオとブリガロン主体で敵を迎撃する。威嚇の特性とバークアウトさえあれば大抵は何とかなるし、サーチャーのルカリオならば剣の舞を行うタイミングも間違えることは少ない。
 状況によってはジュナイパーの援護も可能だし、うまく行けば一網打尽にできるだろう。
 控えにはニャオニクス、ラティオス、バンギラス、ガブリアス、パチリス、ラムパルド。敵も疲弊したころに、パチリスが全力で囮になって拠点を破壊するという強引な戦法を取ることが出来る布陣で、一か八かのギャンブルになる戦略だ。
 全国大会最初の戦いは、夜戦ということもあり、非常に視界が悪く、暗所での戦いを得意とするポケモンが役立つ戦いだ。悪タイプやゴーストタイプはもちろんだが、ガブリアスなんかも洞窟暮らしのためかそれに当てはまる。そのため、ジュナイパーはこの戦いにうってつけのポケモンなのだが、彼女はいきなり大手柄につながる発見をした。ジュナイパーは単独行動を行っていたダークライらしきものを見つけたのだ。ダークライは影の中に潜んで音もたてずに移動することが可能なようだが、その移動の様子を偶然ジュナイパーが見てしまった。
「もふぅ……」
 ジュナイパーがヘッドセット越しにその光景を見ているトレーナーに語り掛ける。皆のバイザーには敵を示す赤い点が一つ追加される。
「この赤い点、影だ! 影が移動してる、つまりダークライだぜ! フラージェスをそっちに回して!」
 ジュナイパーの主人であるライアンが告げると、エリザベスはフラージェスを。ミストがゲッコウガに指示を下して向かわせる。
「お、あのダークライ、フラージェスの足音をを聞こえてるのかちょっと顔を出してこちらをうかがってる……ジュナイパー。影縫いだ!」
 指示されたジュナイパーが瞬時に矢を番え、放つ。ダークライの影に矢羽が突き刺さり、ダークライはその場から動けなくなる。
「ジュナイパー、あっちでも戦闘が始まってる、ルカリオたちを援護!」
「ゲッコウガ、フラージェスとは別方向から接近、切り刻め」
「フラージェス。派手に音を立ててそのまま前進。敵の攻撃を感じたら、そのままヘッドスライディングよ」
 いくつもの指示が飛び交う。フラージェスはあえて足音を立てさせたまま接近させる。ゲッコウガは忍び足が得意だから、そのフラージェスの足音に紛れて移動することが可能だ。影縫いをやられ、効果はいまひとつながら痛みで驚いて影から飛び出たダークライは、影縫いで縛られない範囲で木の陰に隠れてフラージェスの音に気を遣う。フラージェスがダークライの目の前に現れると、フラージェスは攻撃をされる前にヘッドスライディングで地面にへばりつく。
 目の前から消えて地面に飛び込んだフラージェスにダークライの攻撃をひらりと避け、気づけば後ろに迫っていたゲッコウガの辻斬りがダークライの急所を抉った。
 後ろから、完璧なまでの不意打ちには、効果はいまひとつとかそんなことは関係なくダークライを仕留めた。だが、ゲッコウガは少し油断していた。単独行動をしているように見えても、後衛がどこかに待機している可能性というのは当然ある。エンニュートがゲッコウガにヘドロウェーブを見舞う。ゲッコウガは、それをまともに食らってしまって、一撃で息も絶え絶えだ。しかし、ここで倒れてしまってはフラージェスにとってひどく相性の悪い相手。水手裏剣を乱打してエンニュートをけん制する。
 エンニュートがいる場所を考えると、ジュナイパーの援護は期待できない。今の彼女はルカリオたちの援護で手いっぱいだ。エンニュートは水手裏剣に顔をしかめるも、軽く毒を放って返り討ちにしてやる。
 ゲッコウガを援護するべく、エンニュートにフラージェスも向かっていた。恐ろしく相性が悪い相手であるが、サイコキネシスを用いれば、傷ついているエンニュートくらいはどうにかなる。
 体中から流血しているエンニュートを横からサイコキネシスで吹き飛ばす。何とかそれでひとまずの危機は脱したが、孤立してしまったし、現在ジュナイパーの援護も期待できない。一度体勢を立て直すために戻った方がいいかもしれない。

 向こうの方では、ルカリオたちが四人がかりで攻められて耐え忍ぶのも難しそうだ。ブリガロンが守っている間にグラエナは必死で挑発をして、相手のタンクの守りを中断させる。
『あんた、守るしか能がないの? 金玉ちゃんとついてるのかしら? だっさーい』
 威嚇して相手の決定力を下げるとともに、挑発して相手の壁役を役立たずにする。案の定、相手チームのトリデプスは怒って向かってきてくれた。こうなればこっちのものである。
 相手の防壁は破れても、こちら側はまだブリガロンの防壁が維持できている。ムクホークのインファイトは防壁に弾かれ、トリデプスのアイアンヘッドも防壁にひびを入れたが、まだ防壁はこわれない。再度突撃しようとしたトリデプスに、ルカリオはボーンラッシュを繰り出した。
 鋼、岩タイプのトリデプスには地面タイプのボーンラッシュは効果が抜群である。数回の殴打でトリデプスはもうふらふらだが、こちらはこちらでブリガロンの防壁がもう限界である。

 その時、ルカリオとグラエナに下された指示は退避。ブリガロンに下された指示は、殿になって敵の追跡を防げというものであった。
 トレーナー曰く、『あのゴチルゼル、影を踏んでいない』のである。と、いう事はゴチルゼルの特性は勝気か御見通しだが、相手チームの情報を見る限り、勝気で間違いないだろう。ブラックドリーマーはゴチルゼルを二体連れており、影踏みと勝気のどちらかを繰り出すのだが、勝気の特性の場合は威嚇もバークアウトも、彼女をパワーアップさせてしまう。サイコキネシスの射程外に逃げなければ、ルカリオは確実に仕留められる。
「ちっ……、また俺はこんな役かよ。これだからタンクは……」
 ブリガロンは防壁が破られる前に自分からそれを破棄し、かわりにとおせんぼうの技を発動し、岩の壁を出現させてルカリオとグラエナの逃走を助ける。ジュナイパーは足爪を矢羽がわりに番えると、トリデプスの顔面に放ち、えんかくの特性を用いたローキックでとどめを刺した。
「邪魔よ! どきなさい!」
 ゴチルゼルが、岩の壁を乗り越えてブリガロンを見据える。
「それが俺の仕事だ!」
 ブリガロンはゴチルゼルのサイコキネシスに浮かされながら、やり遂げた漢の顔をしている。彼はこのまま一撃の下に叩き伏せられるが、彼が作り出した幾重もの岩の壁はゴチルゼルとレントラーの行く手を阻む。

 空を飛べるムクホークがルカリオとグラエナを全力で追ったが、ジュナイパーの攻撃がうざったくて思うようにスピードが出せず、ルカリオ、グラエナ、ジュナイパーから集中攻撃をされそうになったところで、ムクホークは一目散に逃げてしまった。
「こっちは二人やられたが、あっちは三人やられた……悪くない。ブリガロンの代わりはパチリス、ゲッコウガの代わりはラティオスを入れるんだ。倒れた二人が運営に回収されたら即座に出せるように急いで!
 ルカリオとフラージェスは一旦戻ってきて、木の実を用意しているから」
 ブルーナイツのリーダー、トニオが現在の状況を鑑みて、後続のポケモンの指示を出す。
「もふぅ……ブリガロン……守ってあげられなくてごめん」
 ブリガロンがやられてしまい、助けきれなかったジュナイパーは悔し気に唸る。しかし、これ以上大事な仲間はやらせないよう、深呼吸して気合を整え、目の前の戦いに臨む。


 敵の数が最後の一人になるが、こちらはパチリス、ルカリオ、ジュナイパーの三人が生き残っていた。敵は三対一という圧倒的に不利な状況だがしかし、最後まで諦めなかった。最後に残ったカビゴンは、バーストによってZ技を発動させられ本気を出しての攻撃に臨む。ルカリオもパチリスもボロボロで、すでに戦うだけの力はほとんど残っていない。アタッカーはルカリオのみなので、それさえやってしまえば何とかなる……が、ルカリオを守ったのはやはりパチリスであった。重量級の攻撃は、同じ重量級のものが受け止めたり、壁や床に挟まれていれば確かに重傷になったかもしれない。だが、軽いものを吹き飛ばしてもダメージは意外なほどに小さい。岩同士をぶつければ砕けるが、石同士をぶつけてもそう簡単には砕けないように。
 ふらふらしながらも、パチリスはその攻撃をこの指とまれで受け止め、そして他の仲間に攻撃のチャンスを作る。
「やるのだ……ルカリオ!」
「おう! すまない……勝つから、お礼はそれでお願いする!」
 パチリスの言葉に応えたのは、最後まで守られたルカリオであった。共鳴バーストの力でメガルカリオとなった彼は、あふれ出る波導を拳に込めてカビゴンの脇腹に何度も何度も突きを放つ。防御を無視したインファイトはカビゴンの分厚い脂肪を突き抜けて内臓までも衝撃を及ぼし、カビゴンは力を使い果たした疲労も手伝ってその場に倒れる。
「……守ってくれてありがとう、パチリス」
「へへ……お安い、御用なのだ……」
 結局、序盤に波に乗ることが出来たブルーナイツがそのまま押し切る形となったわけである。試合終了のコールがされると、ジュナイパーは安心して木の枝に座り、パチリスもルカリオもその場に座り込んでしまった。接戦ではあったが、何とかブルーナイツは勝利を得られた。

 今回のMVPは、最後まで生き残り、敵の攻撃を体を張って引き付けたパチリスであった。特に彼女が評価されたのは敵のZ技すらも受けきったことである。無茶な行動ではあったが、それがなければすでに満身創痍であったルカリオが倒れていた危険性があることを考えれば、彼女の活躍は大きい。
 とはいえ、動きが鈍いカビゴンがジュナイパーと真っ向勝負になって勝てるかといえば疑問だが、動きが鈍くてジュナイパーを倒せないのであれば、拠点を壊せばいいと開き直られる可能性もあるので、やはりカビゴンを倒せていなかったら負けていた可能性は十分にあったのである。


 トレーナーたちが全国大会の一回戦の勝利に沸き立ち、反省会を行う傍らで、フラージェスは傷だらけのパチリスに木の実をあげていた。
「んもう、貴方無茶しすぎよ……」
 カビゴンの本気を出す攻撃を喰らったパチリスをモニターで見ていたフラージェスは、パチリスの無茶なこの指とまれに苦笑しながら、オレンの実の汁を傷口に塗り、果肉を食べさせる。
「うー……独り身が辛くって、僕もう生きるのが辛いのだ……」
「自暴自棄になっちゃだめよ。素敵な男性はほかにもいると思うし、何よりこのブルーナイツだって素敵な男性ばっかりじゃない」
「むー……素敵といえば素敵だけれど、でもサイズが全然違うから駄目なのだ。やっぱり近いサイズのポケモンじゃないと……子供を作りにくいのだ」
「貴方も発情で辛いのかもだけれど、別に良いじゃない、子供を作ることにこだわらなくたって……子育ては結構大変だし、戦いから身を引いてからでもいいんじゃないかしら? もしも耐えられないのなら、適当な男を捕まえるとか」
「むー……確かに、この発情期を治めるならもう卵とか関係なしでもいいのだ……こうなったら自棄交尾なのだ」
「あ、でも適当な男いないわね。あなた、ブルーナイツじゃ飛びぬけて小さいし……」
 フラージェスの言う通り、最終進化系ばかりのブルーナイツの中では、進化しないパチリスはかなりの小型だ。ちょうどいいサイズのポケモンは雄どころか雌ですらいないのだ。
「確かにその通り……それじゃダメなのだ……」
「よし、いいわ。お姉さんが何とかしてあげるわ」
「何とかってどういうことなのだ?」
「簡単よ。性欲を鎮めるだけなら女の子同士でも出来るもの」
 妖艶な声でフラージェスはパチリスの頭を撫で、小さな口に指を当てる。
「なんか良くわからないけれど、この疼きがどうにかなるならそれでもいいのだ……はぁ」
 本当にピンと来ていないパチリス。そもそも、パチリスは性行為の知識など野生のポケモンがそうしているのを見たり、ルカリオとグラエナののろけ話を聞くくらいで、憧れはあっても大した知識などないため、彼女は本当に初心である。そんな初心であることをいいことに、フラージェスは彼女を好き勝手出来るとほくそえんでいた。
「じゃあ、今日はホテルを抜け出して、ホテル前の噴水広場で合流しましょう。そこから、少し人気のないところに移動して、野生のポケモンに混ざって楽しみましょう」
「うん……もうそれでいいのだ」
 意中の雄に振られたおかげで、パチリスは妙に自暴自棄な態度をとっている。こんな精神状態では、また大会の最中にムチャしてしまうんじゃないかという懸念もあった。が、それは建前。このフラージェス、性嗜好が、雌に向けられており、それは人間に対しても例外はないという性癖である。
 そんなことは思いもよらないパチリスは、発情期を前にして高まりつつある疼きを何とかしてくれるならば何でもいいやと、わけもわからずその提案を受け入れるのであった。

 全国大会の会場近くにあるホテルにてポケモンもトレーナーも宿泊する。全国大会に招待された選手は、全員エコノミールームであれば無料でホテルに宿泊できるが、エリザベスはきっちり差額を払いやたらと豪華なスイートルームに宿泊している。快適な環境で早めに休んでいたフラージェスは、すっかり疲れも取れた状態で、パチリスと待ち合わせた場所へ優雅に登場する。
「ふふ、待っててくれたのかしら?」
「……体が疼いて仕方ないのだ。さっきから何度も野生のポケモンに声を掛けられたのだ。匂いをぷんぷんさせているみたいなのだ」
「あらぁ、そこら辺に転がってるポケモンは断った印なのねぇ?」
 パチリスにやられたのだろう、噴水広場の近くには、電気で痺れさせられたポケモンたちが転がっている。伸びているポケモンの中には地面タイプのポケモンもいて、パチリスは一対一での戦いは苦手だし、その上相性の悪いポケモンであっても野生のポケモン程度には負けない実力であることをうかがわせる。
「僕だって誰でもいいわけじゃないのだ。いくら何でも、名前も知らないような奴とは嫌なのだ」
「うんうん、いい心がけじゃない。やはり、お互いに信頼できる者同士じゃないとねぇ……と、いうことは私の事は信頼してくれているのね?」
「そりゃまぁ、同じチームメイトの中では一番の世話焼きだし、僕もお世話になっているのだ。僕が一人でみんなをかばおうとした時、お前のおかげで一発や二発の攻撃ならなんなく耐えられるようになるし……はぁ」
 フラージェスは、味方の守りを堅くする技を使うのが得意である。そのため、攻撃を引き付ける役になりやすいパチリスはよくお世話になっているのである。
「しょげないで、パチリス。こうやって大会で勝ち上がっていけば、有名になれるから、いつかきっといい雄が貴方と出会いたいと思うようになるわ」
「むぅ……でも、いつかはいつかだけれど、発情期はもうすぐそこなのだ。発情期が終わった後にその『いつか』が来ても何の意味もないのだ」
「うふふ、そうね。それじゃあ、発情期に備えて予行練習しておきましょうか」
 拗ねてそっけない態度をとるパチリスに、フラージェスは柔和な笑みで微笑みかける。
「それって、いったい何なのだ?」
「ま、どちらにせよあまり誰にも見つからないような場所の方がいいかしらね」
 ふふ、と微笑み、フラージェスはパチリスを頭の上にのせて、人気のない場所へと移動する。その場所は、ホテルのはずれの方にある森の小道から外れた場所。人間は基本的に道から外れることなく歩くが、ポケモンたちはそんな事お構いなしだ。木が生い茂っており、日が当たりにくいせいか下草はあまり生えていない。花も生えていないのでフラージェスとしては少々不満だが、そんな贅沢は言うまい。
 人気はなくともポケモンは結構平気で踏み入ってきそうな場所ではあるが、二人の実力であれば大抵の相手は問題なく、そこでならゆっくりとことに及ぶこともできそうだ。

 フラージェスは後ろをついてきてくれたパチリスのことを振り返りつつ、木を背もたれにして地べたに座る。
「ここにしましょっか」
「ここで何をすればいいのだ?」
 パチリスはここに至ってなお、自分が何をすればいいのか良くわかっていないようだ。当然だ、人間のように、どこかでレズビアンの性行為というものがあるという知識を得る機会はポケモンには少ない。むしろ、そういう経験があるフラージェスの方が珍しいのである。
「言葉で説明するのは難しいから、まずは私に身を任せてみましょうか」
「むぅ……わかったのだ」
 パチリス納得したとみるや、フラージェスはパチリスのことを抱きしめ、一本しかない脚の太もも部分に乗っけてあげる。そして、そのままパチリスを撫でる。
「あぁ、ポケリフレみたいで気持ちいいのだ」
 パチリスは小さくため息をついて、フラージェスによる愛撫に身を任せる。撫でる、という行為は主人からの見様見真似であるが、初めてでも割とうまく行くものだ。後頭部や頬を撫でられたパチリスは、目を細めて安心したような表情を浮かべている。パチリスはもっと撫でるのだと言わんばかりにフラージェスの顎下にあるふわふわに顔をうずめ、そしてその手はフラージェスの体にしがみつくようにぎゅっと、彼女の体を掴んでいる。
 甘えたい、誰かの体に触れていたい。そんな気分は、彼女が発情期でなくとも湧いてくるものではあるが、パチリスはやっぱり発情期。そういう衝動が、いつもの何倍も強いようだ。
「いい匂いでしょう? アロマセラピーよ」
 抱きしめながらフラージェスが問う。フラージェスの首周りには鼻でできたモフモフがあり、彼女の場合はブルーナイツのイメージカラーと同じ青い花。そこから立ち上るさわやかな香りは、甘いだけでなく心が落ち着き、毒もマヒも火傷もはねのけそうな香りをしている。
「確かに、落ち着くのだ」
 パチリスは顔を緩ませ、フラージェスの愛撫に身をゆだねる。リラックスしたパチリスは今にも眠ってしまいそうだが、アロマセラピーの香りは覚醒効果もある。落ち着いてはいても意識ははっきりとしている。そのせいか、パチリスは下半身に渦巻く疼きに突き動かされるように、フラージェスにしきりに匂いをこすりつけている。
 その相手が雄ならば、特攻が下がってしまいそうな仕草だが、相手は同性、意味はない……かと思えばそうでもなく、フラージェスは微笑み、彼女の脇腹から太ももを撫でる。パチリスが本能的に最も刺激を欲しているであろう場所まで一気に距離が近くなったことで、パチリスの体が少しだけ反応した。
「ん……」
 小さな声。だが、大きな変化だ。
「ふふ、それじゃあ始めましょうか」
 フラージェスはこれ以上じらしてしまうのもかわいそうだと、太ももに回した手を、彼女の内股へと潜り込ませた。
「あぅ……」
 恥ずかしそうな声がパチリスから漏れた。
「どう、気持ちいい? 欲しかったのはこの刺激でしょう?」
 パチリスは気恥ずかしいのだろうか、唸るようにしてあいまいに答えると、より強い力でフラージェスの体に頭をこすりつける。いとおしいそのしぐさを見てフラージェスは彼女の内股へ伸ばした手を、より強い刺激にしてあげた。どうやら、気持ちいいらしい。
「うーん……もっとそれをやってほしいのだ」
「でしょうねぇ。そういう刺激が欲しくなるのが、発情期だから」
 交尾というものを知らないパチリスは、この刺激をとにかく感じたいという衝動に突き動かされるまま、フラージェスの指を導くように体勢を変える。甘い声がと息と混じって何度も何度も漏れてきて、それに合わせて彼女の性器にはじっとりと湿り気が帯びていく。
 これなら、指を入れても問題なさそうだ。しかしながら、彼女の膣はまだまだ未開発。いきなり指を入れるには筋肉が解れ切れていない可能性もある。摩擦に対しては強くとも、いきなり指を入れられては、今まで六に浸かってこなかった場所が裂けてしまう可能性も否定できない。発情期で充血していれば多少は柔らかくなっているかもしれないが、念には念をである。
 まずは入り口を撫でるところから。少しずつ押し付けるように、しかし、抵抗を感じたらそれ以上中には無理に侵入しようとしない。それを、飽きるくらいまで繰り返す。こういう時、雄だとがっついて、早く挿入したいと急ぎ足になってしまった色々と台無しにしてしまう可能性があると考えれば、女同士というのはなかなか楽なものだ。早く射精したいという焦燥感に突き動かされることがないため、この焦れったい行為に時間をかけてもさほど苦痛ではない。
 ゆっくりゆっくりと解されたパチリスの膣は、優しく出し入れされるフラージェスの指を、促されるままに受け入れていく。体格差ががあるため指一本でも受け入れるのは大変なはずだが、やはり発情期の生殖器は熱を帯びて、柔軟だ。血の巡りが良いということは、それだけ解れるのも早いという事だろうか。
 指が完全に沈み込むと、同種の雄のペニスよりも大きなそれに、パチリスは少し苦しそうだった。しかし、お腹を圧迫されるようなその刺激は、苦しさの中にも心地よさが混ざっている。もっと、動かしてほしくなるような、もっと気持ち良くなれるような。体が自然に前後に動き出そうとするのは、その心地よさをもっと得たいと思う本能に突き動かされた結果だ。
 当然、フラージェスの指は膣に潜り込ませた一本のみならず、残った指は外側をゆっくり刺激している。しがみついたパチリスの膣周りを少しずつ撫で、もう片方の手も使って、パチリスの体を優しく叩いたり、優しく撫でたり。
 そうやって刺激を加え続けると、パチリスの吐息はいよいよ余裕がないものへと変わっていく。本来パチリスの交尾はこんなに長い時間をかけるものではなく、素早く本番に至って、素早く雄が射精に至り、雌がオーガズムを得られるかどうかは運しだいだ。
 けれど、フラージェスはねちっこい。腕に抱かれた小さな彼女がオーガズムを迎えるまで、絶対に指を離そうとしない。発情期の気分を沈めてあげると言った以上、やはり快感のてっぺんまで上り詰めて貰うまでがフラージェスの責任である。
 白くたおやかな指が、パチリスの体を何度も何度も刺激する。パチリスは、この気持ちよさの先に何があるのか知りたい気持ちはあるのだが、これ以上は何か、怖いという感覚を感じていた。今までに感じたことのない強い感覚に、必要以上に身構えているのだ。
 痛みではない、苦痛ではない、と頭ではわかっていても、強すぎる感覚というのは怖いものだ。しかし、パチリスもそれを言葉にするだけの知識も余裕もなく、彼女が出来ていたのは相変わらず喘ぎ声をあげながらフラージェスにしがみつくだけ。未知なる快感への恐怖に、体を離して逃げてしまいたい衝動と、このまま未知の快感に身をゆだねたい衝動。
 二つの板挟みに悩みながらも、パチリスは最終的に快感を受け入れることを選んだ。徐々に荒くなる呼吸に苛まれながら腰をよじるのは、快感を得るためか、それとも逃れるためか。フラージェスはマイペースにパチリスを攻めて、その緩むことのない手技によって受ける快感はより高みへと。
 あと一歩、薄い板に阻まれたかのように、ギリギリのところでパチリスは停滞する。嫌がるように抵抗して、フラージェスの指から逃れようとしているのだ。だけれど、本気で嫌がっているわけではない。オーガズムへ至るまでの覚悟が少し足りないだけで、もうそこに至るまで彼女の体の準備は出来ている。
 身じろぎ、体を縮めたパチリスはまるで怯えているかのようで。どうしても踏み出す決心がつかないようだ。
「力を抜いて?」
「う、うむ……」
 フラージェスの指示を、パチリスはどこまで理解していただろうか。自然と体の筋肉が張ってしまうことはもう押さえられず、はた目には苦しんでいるようにすら見える悶え方。しかし、フラージェスのアロマセラピーできちんとリラックス状態をできていておかげか、パチリスの壁を打ち破る波が押し寄せた。
「う、うん?」
 フラージェスの指を締め付ける力が非常に強くなった。パチリスがオーガズムに達したらしい。
「ふぅ……ふぅ」
 呼吸が荒い。運動しているわけでも無いのに、酸素を取り入れるのに苦労しているようだ。いや、これは彼女の体が異常なまでに火照っているようだ。尻尾の毛は限界まで逆立って熱を放熱しようとしており、もしもこれが人間であれば汗でびっしょにりになっていたことだろう、
 快感が与えた熱は、全身の酸素を消費して、それがこの荒い呼吸につながっているようだ。ただ、この荒い呼吸を『させられている』状況、苦しいけれど辛いものではないらしい。フラージェスの体に小さな手で必死にしがみつく力はさらに強く、胸に頭を押し付ける力も強くなっているが、その状況からもう逃げようとしなくなった。
 今まで感じたことのないよう新しい感覚は、息切れを伴うくらいの激しい運動につながっている。それが脳をとろけさせるような快感だけれど、そこには息苦しさという苦痛も確実に存在している。もちろん、充血しきった膣は、オーガズムによってさらに充血し、パンパンに張り詰めたその部分は、腫れたような痛痒い感覚も伴っている。
 今は快感に上書きされて、そんな些細な感覚は感じないでいられているが、冷静になったらじんじんとした痛みが残ることだろう。ポケモンの回復力だから、一晩も寝ていれば治るだろう。明日の練習に支障がない事を祈るばかりである。
 フラージェスはパチリスがオーガズムに達しても、まだまだ攻め立てるのを止めなかった。パチリスもそれに抵抗することはせず、体力が続く限りはそれに身を任せようとしていたが、ここで違う快感の波にのまれたのか、さらにもう一度ビクンと跳ねた。
「あぁ……」
 裏返り、喉が潰れたような声をパチリスがあげる。どうやら、膣内だけじゃなく、外の刺激でも彼女はオーガズムに至ってしまったようだ。二か所同時のオーガズムという事で、彼女は今まで以上に身を縮める。歯を食いしばるさまは、苦痛を耐えているようにしか見えなかった。しかし、嫌がって逃れようとしないのが、彼女が苦痛を感じっているわけではないという証拠である。
 ただ、疲れが快感を上まり始めたのだろう、パチリスはそろそろ耐えきれなくなったようで、フラージェスから逃れようとした。小さな手足を突っ張るようにしながら、力を込めている。これ以上意地悪を続けると、フラージェスは蹴られるだろう。蹴られるだけなら、力も弱く体も小さいパチリスの蹴りなんて取るに足らないが、電撃を食らってしまったら流石に目も当てられない。
 フラージェスは、言葉にも出来ずに逃げようとするパチリスの体から指を抜き、そのまま優しく抱きしめる。激しい息を付きながら、体温を下げようとするパチリスのことを、いたわるように優しく撫でて休ませる。
 いまだ強い快感の残り香に浸っているパチリスは、フラージェスの胸の中で少しずつ呼吸を整えている。フラージェスはパチリスを抱き上げると、ぐったりしている彼女を抱き上げ、そっと口付けする。フラージェスの意図と反するようにパチリスは、力強く口づけを返し、フラージェスを驚かせた。
 オーガズムに達したパチリスは、現在非常に人恋しい状況だ。誰かに甘えたい気持ちは、普段とは比にならない。爆発したその気持ちはフラージェスへと向かい、怯えながら母親にすがる子供のようにフラージェスにしがみつく。
 激しい息切れは、少しずつ収まっていき、だんだんと意識も鮮明になっていく。正気に戻ったパチリスは少しだけ恥ずかしそうに顔を背けていた。が、その表情の中に嫌悪感らしきものはなく、何をどう表現するか、悩んでいるかのようであった。
「大丈夫? 辛くなかった?」
「うむ……悪くなかったのだ……」
 照れ隠しなのか、パチリスは曖昧な答えを出すが、しばらく考えると、それではいけないと思ったようで……
「いや、良かったのだ。また、たのみたい……のだ」
 と、言いなおす。その時の表情のかわいらしさは格別だ。フラージェスは、こうやって誰かが自分に依存していくのが好きでたまらない。なんせ、トレーナーのエリザベスも、最初こそフラージェスをリードしていたが、最近ではフラージェスのされるがままになっているのだ。パチリスを落とすことが出来て、彼女はご満悦のようである。
「ところで、フラージェスは何もしていなかったけれど、それでもいいのか?」
 そのため、パチリスのもっともな疑問も、心配はご無用である。
「うーん、じゃあ、私が発情期になったときは貴方に頼もうかしら? 別に、ご主人に頼んでもいいんだけれど……」
 とはいっても、木を使わせるのも逆に悪いからと、フラージェスはそう言ってほほ笑んだ。
「ううむ……なら、お返しに、僕も頑張るのだ」
「ふふ、お願い」
 照れくさそうに言うパチリスの頭を撫でてフラージェスは微笑む。さて、やることをやった以上、そろそろホテルに帰らねばなるまい。この後、二人はオートロックを知らずに結局ホテルの室内に戻れなかったのは、また後の話である。


 ブラックドリーマーとの試合から二日後、次の対戦相手であるチャーミングビーストたちとの試合を勝利で終えた一行は、今や立派な宿敵となったトワイライツとの対戦を前にしていた。
「あぁぁぁ……ついに明日はトワイライツとの試合かぁ。前回の時は龍の波導をラティアスちゃんに当てられたけれど、次は何を当てられるかなぁ、何を当ててくれるかなぁ、楽しみだなぁ。今日は波乗りをビクティニにぶち当てられたし、もっともっとたくさんの技を当てる練習しなきゃなぁ」
 何やら物騒なことを口走っているラティオスだが、いつもの事である。

 さて、対戦相手となるラティアスはどんな調子なのかといえば……
「あぁ、愛しのダーリンに最高の竜星群を当ててあげられる……待っててねダーリン、私の超☆投げキッスで昇天させてあげるわ……あぁ、それに超☆虫の抵抗も浴びせてあげられるだなんて……私はなんて幸せなんでしょう?」
「また何か物騒なこと言ってやがる。恋する女は怖いねー」
 独り言を言いながら陶酔するラティアスの声を遠くから聴きながら、タブンネは次の試合でラティオスが死なないことを祈るのであった。

 つづく?……[[]]

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