十六章目です。 [[春風]] [[Memory Lost existence]]に戻る ---- 「で、どうするんだ? お前が損をせずに、セレナを取り返せるぞ」 俺は黙って、柱にもたれかかっているメッツォを見る。 「それとも、俺を疑って交渉を取りやめるか? その時はセレナを餌にして、娘を探せばいいことだしな」 &SIZE(30){&color(Red){Lost existence 十六章 未来というものは};}; ミナモを連れてこい? 冗談じゃない。ここで奴がミナモに何もしないなんて保証はない。 しかし、断ると言っても、セレナを助けだせることはできなくなるわけだし、ここで力に訴えても絶対に勝ち目なんてない。 一番ましな選択肢は、結局のところミナモをここに連れてくることなのだ。 「……冗談じゃねえよ」 俺はうつむいて、上目づかいにメッツォを睨みつける。 「どうした、交渉には乗らないのか?」 メッツォは見るからに余裕そうな表情を浮かべている。絶対に欲しい物が手に入ると確信しているようだ。 「………」 何も言い返せず、俺はうつむいたまま、拳を握りしめた。 ……その時。後ろから聞き覚えのある足音が、部屋の中に入ってきた。 「…あんたねぇ、そんなにうじうじして、恥ずかしくないの!? 男ならびしっと決めちゃいなさい!!」 振り返ると、足音の主の姿が見えた。 ミナモだ、彼女は部屋の入り口に立っている。 「……ミナモッッ!!」 ミナモはさっと柱に駆け寄ると、メッツォに顔を向ける。 「話は聞いていたわ、これを動かせばいいんでしょう?」 ミナモは怒りをこらえたような口調で、メッツォに話しかける。 「何でだよ!! 何で来たんだよ、危ないじゃないか!!」 俺はミナモの前に走りよると。彼女の肩を掴んで、じっと目を合わせた。 「だって、ルークを一人にして、危険な目に合わせたくなかったんだもん。だから、後をついてきた」 そう言うと、ミナモは俺の手を振り払い。メッツォと向き合った。 「……来たよ、来てほしかったんでしょ……… セレナのいる場所を言いなさい」 「聞いていた通り、ずいぶん威勢のいい嬢ちゃんだな」 メッツォは柱から離れると、どこからか古びた鍵を取り出して、ミナモに放り投げた。 「あいつはこの遺跡の奥にあった、地下牢に閉じ込めている。これでいいだろう?」 そう言うと、メッツォは柱の方に顔を向ける。 「そこに触るだけでいい。しかし、血が必要だ。血のついた前足で触ればいいそうだ」 「血……ね」 そう言うと、ミナモは自分の右前脚に噛みついた。振り上げた彼女の前足の毛には、血がべっとりと付いている。 そして……ミナモは柱に、前足をぐいっと押しつけた。 「……これでいいのね。でも、これは多分動かない。もし動いたとしても、絶対にあなたは後悔するわ。だって、未来なんて、絶対に知っちゃいけないと、あたしは思うから……」 ミナモはメッツォを睨みつけ、呟くように、言い放った。 ---- 血のついた手で、ミナモが柱に触ってから少しすると、俺達の立っている床がぐらぐらと揺れた。 「じ……地震?」 驚いて柱の方を見ると、柱の中心部、ちょうどミナモが触れている部分が、鈍い銀色の光を放っていた。 「……まさか……こんなことって……」 目の前の光景が信じられず、俺は思わず後ずさる。 そんな俺とは真逆に、メッツォは驚きの声をあげて柱に近づいていく。 「おお……マーチが言った通りだ。俺も半信半疑だったが、やはり本当だったな」 メッツォは柱との距離が目の鼻のさきになるまで来ると、柱全体を見回すようなそぶりをする。 「早速こいつに質問してみるか……おいっ、そこをどけ!!」 メッツォは半ば強引にミナモを柱から引き離すと、代わりに自分が彼女の居たところに割り込んだ。 「では、何を調べるかな……人間どもの動きか、今日の夕食か……いや、まずはあれだな」 そう言うとメッツォは、何やら柱に向かって何かをしだした。 「ミナモッ!! 大丈夫か!?」 俺は勢いよく突っぱねられて、尻もちをついているミナモの元へ走り寄った。 「うう……あいつ、力強すぎだよ…」 痛そうに背中をさすりながら、ミナモはゆっくりと立ち上がる。 「…よくわからないけれど、いいのか?あいつにあんなことさせて……」 横目でメッツォをにらみながら、俺はミナモの顔を見る。 「大丈夫、あれが本当に動くのかはわからないけれど、絶対あいつの思い通りにはならないと思う……」 ミナモは遠巻きに、メッツォを見ながらふうっとため息をついた。 「あいつの思うとおりに、事が進むなんて、到底思えないのに……」 メッツォは相変わらず柱の前に立って、何かをしている。 「……あいつ、何を調べようとしているんだ?」 少し彼の調べようとしているものが気になって、彼に近づいてみようと、俺は数歩前に歩き出す。 一歩、二歩、そして三歩目を踏み出そうとしたとき、突然メッツォの背中が、びくっと震えた。 「………え?」 俺は驚いて、思わず後ずさる。すると俺の前に、突然大きな岩の塊が投げつけられた。 「!!?」 俺は一瞬何が起こったのかわからなかった。しかし後ろで「避けて!!」とミナモの声が聞え、俺は反射的に後ろに飛び退けた。 すると、俺がさっきまでいたところにもうひとつ岩が落下していた。 「な……!!」 よく見ると、投げつけられた物は岩ではなく、柱の一部だった。柱は大きな力でもがれ、岩の塊のようになっていたのだ。 犯人はメッツォだった、すでに戦闘態勢になっている彼は何故か息を荒らげ、焦っているかのようだった。今の彼には、初めて会った時の余裕さは、微塵も感じられない。 「何よあんた、裏切る気? ちゃんとそれ動かしてあげたじゃない!!」 ミナモがメッツォに向かって、彼に怒鳴りつける。 「……悪いな嬢ちゃん、お前の忠告をちゃんと聞いておかなかった俺が悪かった」 ぜぇぜぇ息を荒げ、メッツォはじりじりとこちらに詰め寄ってくる。 「…おかげで、あんたを殺さなきゃならなくなったぜ……」 「!?」 メッツォの言葉を聞いた途端、ミナモは氷の剣を作り出し、彼の頭に向かって、飛びかかりながら切りつけた。 しかし、砕けたのはメッツォの頭ではなく、氷の方だった。岩と氷との相性の問題というよりも、強度そのものに大きな差があるようだ。 「手始めに、俺の復讐が成功するか、この柱に調べさせた、そしたらなぁ」 お返しとばかりに、メッツォはミナモに向かって頭突きを繰り出す。彼女はそれをすんでの所で避け、彼の頭突きは壁にぶつかり、そこに大きな穴をあける。 「復讐は失敗し、神官によって楽団は滅ぼされると出た。そういうことだ」 そう言って、彼は腕を伸ばし、ミナモの首に掴みかかる。 「……ぐっ…未来予知なんかで、あばれんな……」 首を掴まれて、ミナモは苦しそうに声をあげる。 「不安の芽は摘んでおくだけさ」 メッツォは一言つぶやくと、ミナモの頭に向かって頭突きを繰り出そうとする。 「やめろっ!!」 俺は火炎車を、メッツォの背中に当てる、さすがに不意をつかれたせいか、メッツォはよろけて、ミナモから手を放す。 「ミナモッ!!」 首を絞められたせいで、ミナモは激しく咳込む。 「お前ら、ぶっ殺す……」 よろよろとメッツォは立ち上がると、うなり声を上げ、こちらに突進してきた…… ---- 「やめろぉぉぉ!!」 メッツォが目の前まで迫ってきたかと思った瞬間、甲高い声が室内に響いた。そして声が聞えると同時に、何かが後ろから飛んできて、突進するメッツォの顔面にぶつかった。 「ぐえぇ!!」 低い悲鳴を上げながら、メッツォは体のバランスを失って横倒しに倒れる。見ると、泥が彼の顔面に付着しており、彼の視界を奪っていた。 「え……何だ?」 振り返ってみると、そこにはシオンが立っていた。半分べそをかきながら、体中ぶるぶると震えていて、必死の思いでここまで来たようだ。 「何で……何でここに来るのよ!! あなたは家に帰ってと言ったでしょ!!」 「いい、ミナモ!! 今はここから逃げよう!!」 俺はミナモとシオンを連れて、柱の部屋から走り出て、階段を駆け上がっていく。 「待て!! このガキども……ぶっ殺してやる!!」 なかなか起き上がることのできないメッツォの叫びが部屋から聞えるも、階段を駆け上がるたびにその声は小さくなっていった。 必死で階段を駆け上がっていき、とうとう俺が初めてメッツォと出会った大広間まで駆け上がると、ミナモはそこで足を止めた。 「シオン……なんでこんな所に…、ラナはどこにいるの!?」 ミナモはきつい口調でシオンに問いかける。シオンは泣きそうになりながら、小さな声で問いかけに答える。 「だって………だって心配だったんだもん……」 そう言うとシオンは、ぶるぶる震えながら、その場にしゃがみこんで泣き出してしまった。そんな彼をミナモはぎゅっと抱きしめ、今度は優しく話しかける。 「……きつく言ってごめんなさい。助けてくれて、ありがとう……怖かったよね、あんなやつに立ち向かっていくなんて……。ところで、ラナはどこ?」 「……あっち」 シオンは震える声で、外に出る方の出口を指差した。 「……手分けして探そうって、わかれ道で別れて……あとは、知らない」 「ということは、一緒にはいないってことね…」 ミナモは立ち上がると、シオンの涙を前足で拭く。 「ラナとセレナを探して、ここから逃げないと……。ここに来る前の通路に曲がりかどがあったよね? 多分二人はそこを曲がったところにいると思うわ…… 行くよ、ルーク」 ミナモはそういうと、出口に向かって歩き始めた。俺は少し遅れて彼女に付いていく。 「……なんなんだよ、あいつら。今まではミナモのことを神官だの姫だの言ってさらおうとしてたのに、急に殺しにかかるなんて……あいつら……」 ミナモの後に付いて行きながら、俺はメッツォや、楽団のことについて考える。 多分、あいつらは一枚岩ではないのだろう。全員がロンドのように王国の復活を目指しているわけではなく、人間への恨みなどで入団した奴もいて、きっとそれぞれが別々の思惑で活動しているのだろう。 「……わけわかんないよ、あいつら……」 そう考えたら、俺には楽団自体が、一段と不気味に思えてしまった。 ---- 「……あいつ、ついてこないな…」 入口に近い迷路のような道に差し掛かった時、俺はメッツォが追いかけてこないことに気がついた。 「確かに、泥を顔面にぶつけられただけなら、すぐに起き上がって追いかけてくるはずよね」 ミナモも少し心配になってきたのか、頻繁に後ろを振り向きながら歩くようになっている。 「まさか、先回りしてセレナの所に言っているかも……この遺跡の中がどうなっているかって、俺たちよりもあいつの方が知っているはずだし……」 「……そんな気味の悪いこと、言わないでよ。今にもどこかからあいつが出てきそうな気がするじゃん」 そんなことをミナモと話していた時。不意に何か音が聞えてきた。 「……何これ、足音?」 物音はとんとんとんと、一定のリズムを刻みながらどんどん大きくなっていく。間違いない、これは足音だ、音の速さからしておそらくメッツォが、駆け足でこちらに近づいてきているのだろう。 「シオン!! 逃げて!!」 ミナモはシオンを後ろに庇いながら、足音が聞える方を睨みつける。 「ミナモ、ここは一回逃げたほうがいい!!」 あんな奴と戦っても勝ち目なんかない、しかも相手はこちらを殺す気でかかってくる。ここは逃げたほうが賢明だ。 俺はミナモの背中を押して、逃げるよう言った時、足音はすぐ近くまで近づいていた……。 「何か…あったの?」 「……え?」 足音の主が、肉眼で見えるようになるまで、近づいて来て、俺たちに話しかけてくる。 足音の正体は、ラナだった。彼女が俺達を見つけて、走って近づいてきただけだったのだ。 「……なーんだ、ラナかぁ。変な奴がうろついてるから、てっきりそいつかと思ったよ」 ミナモはすっかり緊張を解いて、ラナの頭を撫でる。 「大丈夫? 何か変わったこととか無い?」 すると、ラナが今まで歩いてきた道を振り向いて、口を開いた。 「あそこの道をまっすぐ進んだ先に、変な鍵の付いた扉があったの。もしかしたら、あの中にセレナさんがとじこめられてるかも……」 「え?本当!!」 彼女の話を聞いて、ミナモは思わず走り出した。 「すぐだから、二人も来て」 ラナはそういうと、ミナモの後を追いかけるように走り出した。 「俺達も行こう」 俺もシオンを連れて、二人の後を追いかけた。 ---- 「……ここね」 俺達は道の突きあたりにある、不自然な岩の扉の前に立った。それは扉といっても壁に近く、無理やり穴をあけられて、真新しい南京錠で止められていた。 「お粗末なものね、あいつは地下牢があったって言っていたけれど、これじゃ作ったの間違いじゃない」 ミナモは自分の体毛に巻き付けていた鍵を取り出し、嬢に差し込んで回す。メッツォは約束を一応守っていたようで、南京錠は簡単に開けることが出来た。 ミナモは南京錠を扉から外して投げ捨て、岩の扉を押す、扉はかなり重いのか、鈍い音を立てながらゆっくり開いていった。 「……開いたわ。私とルークで中を見てくるから、あなたたち二人はそこで待っていて」 ミナモは子供たちを待たせると、部屋の中に入っていく。俺もミナモの後から、部屋に入る。 「……真っ暗ね。ルーク、火を付けてよ」 確かに部屋暗くて何も見えない。俺は背中に意識を集中させて、炎を付ける。 すると、明るくなった部屋の中心には、血まみれで横たわるセレナの姿があった。 「……え……セレナ…どうしたのよ、そんな血だらけで!!」 セレナのそばにミナモがしゃがみこみ、血に染まった彼の頭部を覗き込む。 「……出血が止まっていない、きっと此処に閉じ込められてからずっと血を流していたみたいね……セレナ、大丈夫?」 ミナモが彼の頭を軽く叩いてみるも、セレナは全く返事をしない。 「ミナモ、セレナは生きているのか!?」 俺は彼が死んでしまったのかと思い、彼の体にゆっくりと触れてみる。すると、まだ彼の体には熱があった。 「……冷たくはなっていない、多分まだ生きているな…。でも、放っておくと死んでしまうかも……」 俺はセレナの体を起こし、彼を背負って立ちあがる。彼の心臓の鼓動が背中から伝わって、彼が生きていることを確信した。 「早くここを出よう!! 今は全員そろっている、あいつが来る前に村に戻れば、逃げ切れるかもしれない!!」 「……そうね、それが一番いいわ」 ミナモはそういうと、部屋の入口の方へ引き返す。俺もセレナを背負いながら彼女の跡を追いかける。 開け放してある扉から、俺とミナモは通路に出る。部屋の入り口で待っていたラナとシオンは、俺の背負っているセレナを見上げて、ひきつった顔をする。 「セレナはメッツォっていう奴にやられて怪我をしているんだ。早くここを出て手当てしないといけない、外への道は、わかるよな?」 二人は何も言わず、こくりとうなずいた。 「じゃあ行こう、少し走るぞ」 俺達は出口に向かって、通路の上を走りだした。 しかし、走り出してすぐに、後ろから何かが崩れるような轟音が聞えてきた。 ---- 「え……、何?」 大きな音に気がついて、後ろを振り返ってみると、後ろでメッツォが仁王立ちをしていた。通路の壁には無理やり壊して出来た穴が、ぽっかりと開いていた。 「……な、何であんたが後ろにいるのよ!! わざわざ壁を壊して、近道のつもり!?」 ミナモが驚いたような表情で、メッツォを怒鳴りつける。 「ああ、先回りしてやろうと思ったんだ。どうせお前らはそう簡単にここに辿りつけられないと思ったからな、こんなに早くここを見つけるとは、計算外だ!!」 メッツォはじりじりとこちらに近づいてくる。彼の顔は怒りに満ちており、同時に殺れると思ったのか、満足げな表情も浮かべている。 俺は彼の気迫に圧倒されて、思わず後ずさる。するとシオンが俺のわきを通り抜けて、泥をメッツォに投げつける 「くらえ!!」 泥はまっすぐメッツォの顔面めがけて飛んでいく。しかしメッツォは泥が自分にぶつかる前に頭を下げ、泥は顔面ではなく、彼の頭にぶつかった。 「…もう同じ手は食うかよ、クソガキが」 メッツォは頭部に付着した泥を片手で拭くと、シオンに向かって頭突きの構えをとり、走り出した。 「危ない!!」 思わずミナモはメッツォの前に飛び出し、シオンを突き飛ばす。シオンは勢いで横に吹き飛ばされ、地面にたたきつけられる。 そして、ミナモはシオンの代わりに頭突きを食らい、その場にたたきつけられた。 「……う………くぅ」 ミナモは起き上がれず、後足を前足で抑えて痛がる。おそらく、頭突きが当たった場所が足だったのだろう。 「ミナモッ!!」 俺はセレナを背負っているのも忘れてミナモに駆け寄ろうとするが、セレナの重さに耐えきれず転んでしまう。そうしているうちに、メッツォは再び頭突きの構えを取ろうとする。 「だめぇ!!」 ラナがメッツォめがけて走り出し、体当たりをする。しかしメッツォには全然きかず、逆に蹴り飛ばされてしまう。 「……てめぇも後で殺してやるよ、でもその前に、こっちを確実に殺してやる」 そう言うとメッツォは、頭を高く持ち上げる。 「食らえ!! 諸刃の頭突きだ!!」 メッツォはそう叫ぶと、ミナモに向かって頭を振りおろした。 「やめろ……待ってくれ!!」 立ち上がろうとしても、セレナの重さで俺は立ち上がれず、ただ叫ぶしかできなかった。 そうしている間に、メッツォの頭突きがミナモの目の前まで迫り、彼女の命を奪おうとしていた。 ミナモは声にならない叫び声を上げ、必死で逃げようともがいている。 俺は傷を負ったセレナの下敷きになって、どうすることも出来なかった。 続く ―― そして、何かが砕ける音が、一瞬だけ耳に響いた。 「ぐぉぉぉぉぉぉぉっ!!」 砕けたのはミナモではなく、メッツォの頭部だった。彼はもう少しでミナモに頭突きをぶつけるような姿勢のまま、耳を裂くような呻き声を上げている。彼の頭の装甲はひび割れて、割れ目からは赤黒い鮮血が流れていた。 「まさか……セレナ…お前あの時、未来予知を……」 そう言うなり、メッツォはよろけ、壁にひび割れた頭を打ち付けた。 「ぐわぁぁぁぁぁぁ!!」 メッツォが壁に頭を打ち付けた瞬間、彼の頭は完全に砕け、ばらばらの頭殻が周りに散布する。そして彼は衝撃で落下する壁や天井の瓦礫の中に、うずもれて行った。 「……あのとき…仕掛けておいて……正解だった…」 俺の背中の上で気を失っていたはずのセレナが、苦しそうに話し出す。 「…あいつを切りつけた時、未来予知を仕掛けておいたんだ…… あいつが諸刃の頭突きを打ち付ける時に使えば……反動で自滅するからな……」 それだけ言うと、セレナはもう何も言わなくなった。おそらく、再び気を失ったのだろう。 「……あの人、どうなったの?」 後ろからラナの声がする。やっとセレナの下からはい出して振り返ると、幼い二人が身を寄せ合って震えていた。 「わからない、でももう俺達を追いかけてはこれないだろう……」 怯える二人を抱き寄せながら、俺はメッツォが埋もれた瓦礫の山を見つめる。 「とりあえず、ここを出よう。ミナモもセレナも怪我をしているし……」 俺はセレナと、いつの間にか気を失っていたミナモを担いで、瓦礫の前を後にした。 ---- ラムパルドが「いしあたま」を持っていたらなぁ、と思います。 そのころ、遺跡からそう遠くない丘の上で、一匹のフーディンが月を眺めていた。 「困ったことになりましたね……」 彼の足元には、頭を砕かれたメッツォが横たわり、虚ろな目を空に向けていた。 「……殺してくれ…殺して……娘を殺さないと…… 頼む…マーチ……」 ぜえぜえと苦しそうに息をしながら、メッツォはうわごとのように呻く。その顔に表情は無かった。 「そう事を急ぐと元も子もなくしますよ。第一そのようなことミューズやロンドは許しませんし、私はあなたを助けるのにテレポートを遠距離で使って、疲れましたし」 そう断られたにも関わらず、メッツォは呻き続ける。彼は完全に、状況を理解できていなかった。 「……これでおそらく、楽団は二つに分かれるでしょう。神官を信じ続ける集団と、殺しにかかる集団の二つに…… 残念ですね」 彼は立ち上がると、呻いているメッツォに片手をあてる。すると一瞬の内に、メッツォの体は消え去っていった。 「ここで秘密裏に、娘を無きものにするしかありません。幻想に浸る大部分の団員達が、厄介ですが」 そう言った瞬間、メッツォに続きマーチの姿も消え、丘の上には誰もいなくなった。 十六章終わり 十七章に続く ---- 未来予知の描写、あんな感じでよかったかな? そしてマーチの登場、これで楽団全員が出そろいました。 #pcomment(未来というものは、コメント,10); IP:114.167.199.13 TIME:"2012-02-02 (木) 14:33:39" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?guid=ON" USER_AGENT:"Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 8.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/4.0; YTB730; GTB6.5; SLCC2; .NET CLR 2.0.50727; .NET CLR 3.5.30729; .NET CLR 3.0.30729; Media Center PC 6.0; .NET4.0C)"