九章目です。 エロまではいかないけれど、ちょっと色っぽいシーンがあるかもです。BY[[春風]] [[Memory Lost existence]]に戻る ---- 真夜中の十二時ごろ、月明かりに照らされて不気味に光る古城に、サンドパンの青年が帰還していく。 彼は少し血痕の付着したボロボロの袋を背負い、城門をくぐりぬけ、薄暗い廊下の奥にある巨大な扉に手をかける、次の瞬間扉は彼の指紋のようなものを読み取ったのか、自動で開き、彼は平然と中に入る。 扉の内側に合った部屋は城の外見に似合わず、淡い青色で統一された、シンプルですっきりとした広い部屋だった、青年はその部屋を通り過ぎ、部屋の右端にある階段を昇り始める。 階段を上った先には、六角形の形をした、これまた青白い色で統一されたロビーがある、部屋の奥には巨大なモニター画面が掲げられていたが、今は何も映っていなかった。 &size(20){&color(Red){Lost existence 第九章 人間との違い};}; 「遅い帰還だな、ロンド、手ぶらで帰ってきたところを見ると、任務は失敗のようだな。」 ロビーに置かれているソファには、二匹のポケモンが腰かけていた、片方はラグラージ、そしてもう片方はエルレイド、その二匹の内のエルレイドのほうが話し出した。 「…確かにそういうことだな、それよりも、せっかくの帰還にしては出迎えが少ないではないか、ほかの団員はどうした、ラプソディ?」 「マーチはいつも通り研究施設に籠っているよ、ボスも今はそこに行っている。」 今度はラグラージが口を開く。 「ノクターンの奴は任務に失敗して重症で、今は医務室で眠っているところ、そして残りは各々の任務で外出している、だいたいそういうとこだな。」 「…説明感謝する、バルカル。」 ラプソディと呼ばれたエルレイドが、再び会話に介入する。 「しかし、今はお前に聞かれたわけじゃないぞ、余計なことはするな、これは仕事でも同じことだ。」 「…まあ待てよ、雑談の時ぐらい、自由にしたっていいじゃないか、別に命をかけているわけではないしな。」 ロンドはバルカルに助け船を出し、担いでいた袋をどさりと床に置いた。 「それよりも本題に入ろう、本当はもう少し大人数の時に話したかったが、まあいいだろう、…先ほど言った通り、俺は任務に失敗した、だがそれを取り消すほどの報告をさせてもらおう。」 彼は勿体ぶりながら、おもむろに袋の中から数枚の小汚い紙切れを取り出す。 「これはとある集落の書類倉庫から見つかったものだ、その集落は人間に村中を売っていてな、ほかにも理由があったが、ついかっとして全員殺してきてしまった。」 「下らない殺害報告は後にしろ。」 自慢したように話すロンドに対し、ラプソディは冷たくやめるよう言い放った。 「…そうだな、今はこちらのほうが大事だ、それでこの紙を見てくれ、ところどころ破かれていたり、墨のようなもので塗りつぶされているだろう。」 「そんなもの、見なくてもわかるぞ、何が言いたい。」 「そうせかすな、ラプソディ、…これは王朝が崩壊したときに書かれた例の書物の写しだ、これが不自然に塗りつぶされているということは、人間がアルセウスの存在に感づいたということだ。」 得意げな眼差しで、ロンドは紙切れを見つめながら話している、その様子を見て、ラプソディは少し腹を立てたのか、怒りのこもった口調を漏らす。 「お前はそのような下らない事を報告しに来たのか? 任務に失敗し、計画に遅れを取ることになった元凶のくせに。」 「…いいや、そんなこと報告するはずもないだろう、本題はこれからだ、…そう、言い忘れていたが、その立ち寄った村には、実は神官の末裔の者が住んでいた。」 「何だと!!」 報告の内容が意外なところに行きつき驚いたのか、彼らの横で黙って話を聞いていたバルカルが、思わず立ち上がる。 「…それで、そいつはどうしたんだ!?」 「殺されていた、人間にな。」 ロンドはバルカルの質問をあっさりと切り捨てると、自分の話を続ける。 「殺されたのはアリルフ家の全員だ、死因は銃殺、しかも人間は彼らを殺すため、その集落の者達と話をつけ、仲間に引き入れたそうだ、恐ろしい話だろう? それを聞いてから俺は少し調べてきたんだが、…おいバルカル、神官の家系はどのくらいある?」 「…確か、分家を抜くと、初期の神官が八人だから、多分八つだな。」 再び腰をソファに下ろしながら、バルカルは指を折りながら答える。 「そう、八つで合っている、その八つの中の内六つの家系の者たちが、人間の襲撃に会い、殺されている。」 「…何だって!?」 今度はラプソディが声を上げる。 「それで、残り二つの家系はどうなっているのだ?」 「現在残っている二つの家系の内、イスミィ家は行方が特定できず、ハイト家はどうやら自然消滅したらしい、…我々が今どんな状況に置かれているか、わかっただろう?」 ロンドは、少し動揺しているラプソディの足元に目線を落としながら、彼に問う。 「…つまり、今追いかけている生き残った娘を捕えなければ、我々の計画は絶望的、というわけだな。」 そう言うと、彼は立ち上がり、近くに置かれたテーブルの上の書類を手に取り、ぱらぱらとめくりながら、中を見る。 書類の内容は、人間を傷つけた、などで現在手配されているポケモンたちのリスト票だった。 「…本気で娘を捕えにかからなければ、そのためにはとりあえず、人数が必要だ。」 彼はその中の数枚を抜き取ると、残りを乱雑に置き、部屋を立ち去る。 「…おい、分家の奴を取り入れるっていう手段はないのか?」 後に残されたバルカルが、ロンドに恐る恐る尋ねる。 「駄目だ、分家の奴では、計画上不可能なほど血が薄すぎる、それに、俺たちが普通であることをやめた意味もなくなってしまうではないか。」 ロンドは袋をテーブルの上に置くと、ラプソディが先ほどまで座っていた場所に腰を下ろし、独り言を呟いた。「…やはり、あなたでしか駄目だったようでしたね、姫。」 ---- 「……へっくしっ!!」 真夜中俺は、ミナモの大きなくしゃみで目を覚ました。 「…なんだよ、風邪引いたのか?」 「ううん、ただ鼻がむずむずしただけだから、大丈夫、誰かあたしの噂でも言ったのかな?」 …確かに、かなり知名度のあるミナモなら誰かが噂してもおかしくないが、それは迷信の類だろう。 「それって迷信だろ、体温めておけ。」 「…わかった、ありがとう。」 そういうとミナモは、いきなり俺のほうに近づき、体をぴったり密着させて、横になった。 「……!?」 自分の剛毛とは違う柔らかい毛並みが俺の胸にあたり、彼女の体温と特有の体臭を感じて、俺は緊張で顔が真っ赤になった。 「…ねぇ、ルーク、あたしあんまし暑いの苦手だけど、これ位なら心地よいな。」 眠いのか、ミナモはとろんとした目でこちらを見つめる、そんな目をされたせいか、俺の心臓が音を立てて激しく動くのを感じた。 「そういえば、迷信ってさっき言っていたけど、人間の子供をポケモンが育てたっていう都市伝説、聞いたことあるよ、迷信とはちょっと違うけど。」 ミナモは俺の膝の上で、目を閉じながら話す。 「まあ、そんなこと、絶対あり得ないけどね…。」 そこまで言うと、ミナモは静かに寝息を立て、眠ってしまった。 俺は彼女が寝たことを確認すると、自分の横にそっと下ろし、そのすぐわきに横になり、眠った。 …少し興奮して眠ったせいか、その時見た夢は、…なんというか、人には言えないような夢だった。 何故かミナモが俺を誘惑するような内容の夢だった、その時には、俺もかなりその気だったようで、思い返すと恥ずかしいが、夢から覚めた後も、現実世界のミナモにたたき起こされるまで、卑猥な妄想にふけっていた、しかも、彼女に「何だかいやらしい顔している」と、見破られてしまった。 「…ねえ、ルークって最近変わったよね?」 切り株に腰かけ、朝食用の木の実を食べていた時、不意に後ろからミナモに声をかけられた、夢のこともあったため俺は思わず飛びのき、木の実を地面に落としてしまった。 「何だよ、いきなりそんなこと…。」 「だってさ、昔はあたしのこと警戒していたけれど、今は普通にリラックスしているような気がしてね、…多分、ノクターンとの一件ぐらいからそんな感じがして、大した意味はないけれど。」 そう言うとミナモは、お詫び、と言いながら、先ほどまで自分が食べていた木の実を、放り投げた後、近くの茂みに入って行った。 俺は木の実を受け取ると、体を起して再び切り株に座ると、齧りかけの木の実にかぶりついた。 甘い味が口中に広がる、俺は一通り齧り終えると、ミナモが入った茂みのほうに体の向きをずらし、そのまま空を見上げた。 確かに、俺はミナモと会う前と、少し変わったような気がする、確かにリラックスしていなければ、あのような夢も見てしまうこともないはずだろう。 「…まぁ別に、あいつのことが好きっていうわけじゃないけどな。」 独り言を漏らし、正面に向きなおって、ミナモの入っていった茂みに視線を合わせる。 そして、大きく伸びをした瞬間、俺は後ろに何か通ったような気配を感じ、振り返る。 「……?」 慎重に背後を観察する、しかし、どこを見ても何か人影らしいものは見つからなかった。 「…気のせいか。」 何もいなかったため、俺は緊張を解いて二回目の伸びをし、体を戻した瞬間、今度は後ろに何かがぶつかってきた。 驚いて振り返ると、口に沢山の木の実を咥えたミナモが、切り株の上に大の字で倒れていた。 「…おいっ、何があったんだ!?」 俺はミナモを助け起こすと、思いっきり体を揺さぶった。 「…うぅ…、人間がいたんだよぅ…。」 「何だって!?、それで、襲われたのか?」 ミナモが木の実をくわえたまま、慌てながら突っ込んできたため、彼女の身に何かあったのかと思いこみ、さらに体を揺らす。 「……ちょっと……苦しいって……放して…。」 ミナモが苦しそうに息をする、俺は慌てて彼女の体を放す。 「ごめん、俺てっきり何かあったのかと思って…。」 俺は苦しそうに深呼吸をするミナモに謝り、彼女の反応を用心深く調べる。 「…別にいいよ、ただあたしが言いたかったのは、その人間の様子がおかしかったからなの…。」 「様子がおかしい?」 「うん、事を説明すると、あたしが木の実を取りに行ったら、変な人間が来て、…たとえば人間は普通だったら端切れみたいな物を体に付けているけれど、その人間はほとんど何も身に付けていなかったの、それで様子を見てたら木の実を何個かもいで、そのあとルークのほうに走っていたから、びっくりして追いかけたの、それで…。」 「ぶつかったわけだな。」 かなり慌てている説明だったが、なんとか言っていることは聞きとれた。 話の内容を整理すると、自分の木の実を俺にあげたミナモが、新しい木の実を取りに行っていたら、ほとんど全裸の人間が現れて木の実を取り、俺のいるほうに行ったから、ミナモは俺の身を案じて戻ってきたというわけのようだ、勝手に推理してみるが、おそらく彼女が見たのは遭難者のようだ、山歩きか何かをしにきたおっさんか何かが道に迷い、長い間山中をさまよっているうちに洋服は破れてしまい、食料も尽きたため木の実を取って飢えをしのいでいる人間、と考えるのが普通だろう、確かに人間と鉢合わせしたら驚くのも無理はないが…。 「…で、その人間はここに来たの? 足が速くて見失っちゃったけれど…。」 ミナモが心配そうに、俺の顔を覗き込む。 「ああ、大丈夫だ、何も来ていない……。」 …まてよ、確かに誰も来ていないが、あの時確かにすぐ後ろで気配を感じた、その気配の主はもしかして…。 「ミナモ、何かおかしい、その人間を探しに行くぞ!!」 俺は立ち上がって、突然の事に驚いているミナモの腕を掴み、彼女を切り株から立ちあがらせる。 あの気配がその人間なら、ただの遭難者じゃないと思ったからだ。 第一、基本的に人間は俺たちよりも足が格段に遅い、そんな人間を足の速いミナモが見失うのは不自然だ、それにただ足が速いと言っても、気配がしてから後ろを向くまでの少しの間に、俺の後ろを通り抜けて姿をくらますという荒業を成し遂げるには、普通の人間には無理だ。 「ミナモ、そいつは多分普通の人間じゃない、そいつの特徴を教えてくれ。」 「…えぇっ、普通じゃないって、どういうこと!?」 ミナモは最初は戸惑っていたが、俺が走り出すと、慌てて俺の後を追いかけてきた。 「ねぇ、だから普通じゃないってどういうことか教えてよ!!」 ミナモは甲高い声で、俺の背中に声をかける。 「気配がしたんだ、でもそれがおかしい。」 「…まさか、ただの気配で走ってんの!?」 「お前だってこの間気配でびびっていただろう、それよりそいつの特徴を教えてくれ!!」 少し強めに問い詰めると、ミナモは少し唸ってから、めんどくさそうに口を開いた。 「…やせてて、茶色っぽい黒色の毛をしていて、背丈は年齢と同じくらいの雄の、子供。」 「……子供!?」 人間の意外な年齢に驚いて、俺は足がもつれてしまい、大きく転倒した、その後を追いかけていたミナモは俺の横で止まり、助け起こしてくれた。 「ちょっと、いきなり転んで大丈夫、血出ているよ!?」 ミナモは転んだときにすりむいてしまった膝に手を当てると、傷口からしみでる血液をぬぐってくれた。 「…大丈夫、それよりそいつが、本当に子供だったのか?」 俺は傷口をさすってくれているミナモに尋ねる、彼女は傷口から前足を下ろし、付着した血を近くの木の葉でふき取りながら答えた。 「うん、確かに子供だったよ、年齢はラナよりもちょっと年上くらいだった。」 ミナモは俺の傷口を気にしているような視線で答える、大した怪我じゃなかったので、そのまま立ち上がれたが、出血しているので走るどころじゃない。 「ルークがこんな調子じゃ、人間を追いかけるのはきびしいね、とりあえず追いかけるのはやめて、今は傷の手当てをできる場所を探そう。」 彼女は応急処置とばかりに、長めの葉っぱを俺の膝にまきつけ、包帯の代わりにした。 ---- それから俺たちは奇妙な人間を追うのをあきらめ、体を休める場所を探していた、結構時間が立ったためか、ミナモが結んでくれた葉っぱも持たなくなり、血がにじみだした。 「…大丈夫、ルーク?」 ミナモが心配そうに俺に声をかける、大した怪我じゃないのにこんなにも心配してくれるなんて、ミナモは結構献身的だ。 「…ルーク、あれ見てよ。」 少し歩いたところで、ミナモが急に止まって、とある方角に指をさす。 彼女がさす方向を見ると、粗末な山小屋が一軒建っており、種族はわからなかったが、多分、二匹のポケモンが小屋の近くで何か作業をしていた。 「あの山小屋がどうかしたのか、あそこで休もうにも、先客がいるようだぞ?」 俺はミナモがなぜ山小屋に指をさしたのかがわからず、彼女に理由を聞く。 すると、とんでもない答えが返ってきた。 「…あそこにいる奴、一匹はザングースっていうポケモンだけど、もう片方は、さっき見た人間だよ…。」 「何っ、本当か!?」 ミナモに言われて、目を凝らしてよく見ようとしたが、この距離では俺の視力では特定することは不可能だった。 「とにかく逃げよう、あの様子だとザングースが仲間についている、人間だけだったらよかったけれど、ポケモンがいるなら危険よ。」 ミナモは警戒しながら、後ろ歩きで来た道をゆっくり戻ろうとした、だが…。 「……ひゃっ!!」 不自然な歩き方をしていたせいか、ミナモは足を滑らせ、数歩よろけたかと思うと、顔面から俺に突っ込んでしまい、俺たちは二人して山道を転がり落ちて、そのまま堅い何かにぶつかってしまった。 「…痛てぇ……、一体何だよ、ミナモ……。」 俺は頭をさすりながら、立ち上がろうと上半身を上げ、状況や位置を把握しようと辺りを見回した、すると…。 「…えっ!?」 何と、人間の少年がすぐ近くに立って、俺たち二人を見降ろしていたのだ。 少年はミナモの言っていた通り、奇妙な姿をしていた、彼女の証言通り上半身に衣服らしいものはほとんど何も身に着けておらず、下半身に少しの端切れのような物をまきつけているだけだった、しかし、ほとんど裸体にも関わらず、彼の茶色がかかった体毛はきれいに整えられており、見ている限りでは不健康ではなかった。 「やばい……、ミナモ、大変だ!!」 俺は横に倒れていたミナモに視線をずらし、危険を知らせようと叫んだが、彼女に反応はない、思い切ってミナモの肩を掴み、彼女の体を仰向けにして様子を見た。 「…嘘だろ?」 仰向けにしてみると、ミナモは目を閉じたままぐったりとなって動かない、おそらく頭でも強く打って気絶したのだろう。 「くそっ、このままだと…。」 俺はどうにか立ち上がり、応戦しようとするも、力を入れた瞬間体に激痛が走り、動けない、自分自身の足を見てみると、先ほど怪我をした膝に、中くらいの小枝が刺さっており、鮮血が足を伝いながら滴り落ちていた。 俺の脳内に恐怖と焦りがよぎった、彼に敵と思われてザングースを呼ばれたら、今の俺たちにとってみればひとたまりもない。 「……おい、ミナモ、起きてくれ!!」 俺はミナモの肩を揺さぶりながら、彼女の名前を呼び続ける、しかし、ミナモは目を覚ます気配がない、そうしているうちに、少年は後ろを向き、どこかに行ってしまった。 彼はおそらくザングースを呼びに行ったのだろう、俺たちを敵と認識し、自分のポケモンに始末させるために、このままここにいたら、間違いなくやられてしまう。 俺は力を入れ、何度も立ち上がろうとするが、痛みに力を奪われて、立ち上がる事が出来ない、俺は何度も立ち上がろうとしている間に、とうとう人間はザングースを連れて戻ってきてしまった。 (…やばい、もう駄目だ!!) 俺は覚悟を決め、力をこめて目を瞑った、もう二人とも殺されてしまうだろう。 「……刺さっている木の枝はたいしたことないけれど、出血がひどいわね…。」 予想もしなかった暖かい声を掛けられて、俺は驚いて目を開ける。 目の前には例のザングースが、俺の膝に刺さっている木の枝に手をかけ、傷の具合を調べていた、その少し後ろで、先ほどの人間が心配そうにこちらを見ている。 「ねえエル、家の中から包帯を取ってきてくれる?」 ザングースは後ろを向くと、少年に包帯を持ってくるように頼む。 少年はザングースを見つめると、わかったとばかりに大きく首を縦に傾けた。 「わかったよ、お母さん。」 ―――お母さん? このザングースの事を言っているのか!? そんなことを思っているうちに、少年は、山小屋のほうに走っていき、中に入って行った。 「…えっ、お母さんって、人間の!?」 俺は思わず、目の前にいるザングースに聞いてみた。 「……ああ、エルのことね、よく驚かれるけれど、あの子は昔山に捨てられていたのを見つけて、私が育てたのよ。」 ザングースはそう言ってほほ笑むと、ミナモの方に行き、彼女の様子を見始めた。 「…えっ、育てたっていうと、まさか…。」 理解しがたい出来事に、頭の中がぐるぐると回転する、狂いそうな思考の中で、俺はミナモが昨日の夜言っていた都市伝説なるものを思い出した。 「…人間を育てる話って、本当だったんだ…。」 山小屋の中から勢いよく飛び出してきた少年を視界の端にとどめながら、俺は視線を横に傾けた。 ---- 「…捨てられた赤ん坊を見捨てられず、パームさんはエル君を育てたわけですか。」 あれから俺たちは傷の手当てをしてもらい、そればかりか山小屋の中に招き入れられ、暖かいスープを出してもらった。 「珍しいポケモンもいるものだね、いや、優しいの間違いか、人間を育てるなんて、普通できないよ。」 つい先ほど目を覚ましたミナモが口をはさむ、最初は彼女がエルに何か手を出さないかと心配だったが、ここまで世話をしてもらえた後だったからか、かなりおとなしくしている。 「確かに良く驚かれるのよ、人間を育てるってこと自体珍しいからね。」 パームと言う名前のザングースは笑いながら話している横で、エルは音を立ててスープを飲みほしている、俺の知っている限りでは、スープを飲むときに音を立てるのは「行儀が悪い」ということらしいが、平気で音を立てているエルを見ると、人間との違いが何となく奇妙に映る。 「…色々と大変でしょうね、周りから反感などを買わなかったのですか?」 「初めは親戚とかから反対されたけれど、今は周りも慣れているから何も言わないわよ、私が言うのも何だけど、エルは良い子に育ってくれて、人間らしい面なんて全く見せないし。」 「人間らしい面、ですか…。」 パームの言った言葉を俺が繰り返すと、ミナモの耳がピンと立った、おそらく何か考えが固まったのだろう。 「…いわゆる習慣の違いってことね。」 「習慣の違い?」 「うん、どんな種族の赤ん坊でも、育て方さえ間違えば残虐なことをするようになる、逆を言うとエルは生まれたばかりで捨てられたから、人間の習慣を知らない、だから彼はほかの人間のような行いは出来ないはず、…簡単に言うと彼は、ポケモンの育て方をされたから、ポケモンと同じ習性とかをそのまま覚えているってこと、多分。」 そう言うとミナモは、自分のスープを音を立てながら飲み干す、その姿は若干エルと似ていた。 「…というと、エルはポケモンってことか?」 「さあね、でもあたしが憎む相手じゃないて言うのは確か、それにルークの手当てもしてもらったんだし、感謝するのが普通よ。」 怪我の事を言われ、俺は自分の膝を見つめる。 先ほどまで小枝がささていた場所はパームによって丁寧に枝を抜かれ、何重にも包帯が巻かれている、薬もつけてもらったからか、痛みもかなり引いてきていた。 「…ねぇパーム、ルークの怪我の手当てのお礼をしたいけれど、何か出来ることはある?」 「お礼なんていいわよ、困った時はお互いさまっていうでしょ。」 パームは豪快に笑うと、ミナモの頭を軽くはたいた。 「……でも、何かお礼をしたいから、とりあえずこの小屋の修繕をさせてもらえる? 建てつけが悪かったりするとことか、直すからさ。」 「本当、じゃあお願いするわね。」 そう言ったパームの言葉を聞いて、ミナモは嬉しそうにほほ笑んだ。 「見た感じ小屋の外側が壊れそうだったから、外に出るよ、ルーク。」 ミナモは立ち上がると、外に飛び出して行こうとする。 「…僕も手伝うよ!!」 突然エルが立ち上がると、ミナモより先に走り出し、そのまま外に出て行ってしまった。 「あたしたちだけでもよかったのに、自分から行くなんて、エルっていい奴だね。」 ミナモが走り去っていくエルの後姿を見ながら、笑顔でつぶやいた。 「…あんな人間は見たことがない、…いや、人間と全く違うから、ポケモンかもね。」 ミナモはいたずらっぽく笑うと、彼の後を追うように外に飛び出した。 (もしかしたら、人間とポケモンの違いって、そんなにないのかもしれないな。) 俺はそんな事を考えながら、ゆっくりと外に歩いて行き、昼間の空を見上げ、大きく深呼吸をした。 この山に迫ってくる轟音に、全く気がつかないまま…。 九章終わり、[[Memory Lost existence 迫りくる破壊者]]に続く ---- 「いい人間を出してほしい!!」という声をよく聞くので、エル君を登場させました。 これからルークたちとどう絡むのか私ですらわかりませんが、初めての人間キャラをよろしくお願いします。 (多分、ラナのようなポジションだけれど。) それでは、春風が基本的に摂取している貴重な栄養源のコメント、お願いします!! #pcomment(人間との違い、コメント,10,);