ポケモン小説wiki
Mütant の変更点


#author("2025-06-20T14:23:29+00:00","","")
#author("2025-06-30T13:05:28+00:00","","")
#include(第二十一回短編小説大会情報窓,notitle)

&color(red){注意};
本作品中の科学分野の解説は架空の概念を含みます。また、実在する概念については極力間違いの無いよう注意して制作しておりますが、内容に責任は持ちません。知見を転用される際は、必ず他の信頼できる文献にあたるようお願いいたします。



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*4月9日 [#tb38f32e]
◯少女Aの日記

 きょうはお父さんとお母さんとビー太と一しょに、シンジこにピクニックにいきました。シンジこは三かいいったことがあるけど、いくたびにみずうみの大きさがかわってるような気がしてふしぎです。
 お母さんはパルデアち方の出しんなので、サンドイッチをつくるのがとくいです。きょうもいろいろなぐがたくさんはさまったサンドイッチをつくってくれました。とてもおいしかったです。
 きょうはお父さんがつりをおしえてくれました。みずうみのちかくにおちている木のえだにたこ糸をむすんでそのさきにサンドイッチをつくってると中のお母さんからもらったハムをむすんで、さおをつくりました。本とうはガケガニスティックだとたくさんつれるらしいですが、たかいからダメとお母さんに言われました。みずうみに糸をたらしてすぐにさおがビクビクふるえました。でも、ひき上げてみてもなにもつれませんでした。お父さんは
「このえさを食べてもいいか、ツンツンしてかくにんしてるんだよ」
 とおしえてくれました。今どはビクビクしてもまってみました。すると、すごい力でひっぱられてしまい、びっくりしてさおをはなしてしまって、さおがみずうみにひきこまれてしまいました。
 ビー太はものひろいがとくいなので、でかけるといつもいろいろなものをひろってきます。きょうはオレンのみとしんじゅとあおいかけらをひろってきました。しんじゅはつるつるぴかぴかしていてとてもきれいでした。ビー太は草むらの中に入ってものをさがすので、いつも気がついたらどろんこになってます。でも、ビー太の毛はさいしょからちゃ色いのでだきしめてからどろんこになってることに気ずきます。でも、わたしはそんなビー太が大すきです。


◯シンオウ新聞の記事

『新米トレーナーの門出 シンオウリーグ新シリーズ開幕』
 最も強いトレーナーを決めるポケモンバトルの祭典シンオウポケモンリーグの今年度の概要が発表された。シンオウ地方全土に八カ所設置されたポケモンジムでジムリーダーに実力を示すともらえるジムバッジを集めて回る旅に今年も多くのトレーナーが旅立った。ジム巡りの旅を開始する時期に制限は無いが、新生活が始まる年度初めに挑戦を開始するトレーナーは多い。例年、3月にリーグが開催され、それまでに八つのジムバッジを集めたトレーナー全員に参加権が付与される。今年度のリーグ参加の受付締め切りは2月28日。この日を目標に新しい旅に心躍らせる者、昨年度までの雪辱を晴らさんと闘志を燃やす者達が今年もシンオウ中を駆け巡る。
 今日からジム巡りの旅を開始したトバリシティのアイリさん(17)の声
「スモモちゃんの頑張ってる姿に憧れてトレーナーを目指してみたいと思うようになりました。ミミ(ミミロル)は格闘タイプが苦手なので、まずは近くを探索しながら仲間を増やして、スモモちゃんからバッジを貰うことを目標に頑張りたいです」


◯ジョーイ養成学校学生のノート

☆携帯獣分子生物学入門
-ポケモンの生体を構成する最小単位は人間と同様に&color(red){細胞};である。しかし、ポケモンの細胞はしばしば非生物に近しい性質を呈する。これはすべてのポケモンの祖先と想定されている原始ポケモンは食物連鎖の&color(red){下層};に位置していた種であり、生息環境に存在する他の生物、植物、物体に&color(red){擬態}する力を進化させることで生き延びてきたためというのが定説である(メタモンのようなもの?)
-ポケモンの生体を構成する最小単位は人間と同様に&color(red){細胞};である。しかし、ポケモンの細胞はしばしば非生物に近しい性質を呈する。これはすべてのポケモンの祖先と想定されている原始ポケモンは食物連鎖の&color(red){下層};に位置していた種であり、生息環境に存在する他の生物、植物、物体に&color(red){擬態};する力を進化させることで生き延びてきたためというのが定説である(メタモンのようなもの?)
-ポケモンの遺伝子発現機構も基本的には人間と同様である。すなわち、遺伝情報は&color(red){DNA};に保存され、そこから&color(red){転写};・&color(red){翻訳};過程を経て生存に必要な&color(red){タンパク質};が作られる
-細胞は同種・他種間で様々な情報のやり取りを行っている。その中でも特に重要なのが情報伝達物質と&color(red){受容体};を介するやり取りである。細胞は様々な受容体を&color(red){細胞膜};に発現している。それぞれの受容体は&color(red){細胞外};にある特定の情報伝達物質と結合し、"その物質が存在する"(あるいは"存在しなくなった")という情報を&color(red){細胞内};に伝達することで遺伝子発現量などが調節され、結果として細胞の、ひいては組織の機能が変化する



*5月15日 [#w0a49c61]
◯少女Aの日記

 きょうはビー太のトリミングにいきました。トリミングというのは、びよういんでかみの毛をきってもらうかんじのものです。
 ビー太の毛はけっこうかたくてごわごわしていて、のびすぎるとはっぱとかすながすごくからみつきやすいです。毛がのびてメリープみたいにもこもこなったビー太もかわいくてわたしは大すきですが、そういうゴミがからみついたビー太をだきしめると手とかうでにチクチクとささるので、一か月おきくらいにトリミングしてもらいにいっています。
 トリミングしてくれるおねえさんはいつもとおなじ人でビー太のしっぽとかほっぺの毛をかわいくととのえてくれます。あとビー太のシャンプーもしてくれます。ビー太はまい日わたしといっしょにおふろに入っていますが、おねえさんがシャンプーするとごわごわのビー太の毛がふわふわになってまほうみたいです。なんとなくビー太の二本のまえばもきらきらしているような気がします。
 あとおねえさんはいつもないしょだよって言ってもりのヨウカンを一きれくれます。わたしもビー太もあまくておいしいヨウカンが大すきなのでとてもうれしいです。


◯シンオウ新聞の記事

『テンガン山に変死体 心筋梗塞』
 午前9時20分頃、テンガン山洞窟内ハクタイ口とカンナギ口の間で六十代と推定される男性が倒れていると通報があった。救急隊が駆け付けた時点で男性は心肺停止しており、その場で死亡が確認された。搬送された病院では急性心筋梗塞が原因と診断され、死亡推定時刻は昨日午後8時頃と推定された。テンガン山洞窟はシンオウ地方中央を南北に走り、東西・南北に移動する際の交通の要である一方で野生ポケモンが多く生息する場所となっており、自然資源保護の観点から通路としての開発は最低限に抑えられている。そのため夜間帯は人通りが少なく携帯ライトまたはフラッシュが使えるポケモンがいなければ見通しが悪いという環境であり、男性の発見が遅れたものと見られる。


◯ジョーイ養成学校学生のノート

☆携帯獣行動学I
-野生ポケモンはそれぞれの種に応じて活発に活動する季節と活動量が低下する季節が存在する
-&color(red){恒温動物};タイプのポケモンは基本的に年中活動が可能である。ただし、冬季の冷え込みが厳しい地域に生息している恒温動物タイプのポケモンは&color(red){冬眠};を行う種も多い
-&color(red){変温動物};タイプのポケモンは&color(red){春~夏};頃にかけて特に活動的となる。冬は&color(red){冬眠};を行うか、もしくは成体は死んで&color(red){タマゴ};の形で冬を越すのが基本だが、&color(red){水中};に生息している種は年中活動できる種も多い(水は比重が大きいので、陸地よりも季節間の温度差が小さいから)。特に&color(red){海中};に生息するような種は季節の移り変わりに合わせて適当な水温の地域に移動する種もいる。また、変温動物タイプであっても特に身体が大きな種は熱を蓄えやすく、冬でも活動量が低下しない場合がある
-ポケモンは繁殖の準備が整うと&color(red){発情期};を迎える。発情期を迎えたポケモンは&color(red){その特徴的な行動};により見分けが可能であるが、種によって千差万別であるため知識が要求される(ポケモン生態図鑑を参照、テスト範囲はシンオウ図鑑のポケモン全部!)
-変温動物タイプのポケモンは&color(red){季節};依存的に発情期を迎えることが多い。これは活動可能時期が限定されているため、集団で同時に発情することで&color(red){繁殖機会};を逃さないようにする戦略と考えられている
-年中活動ができる種は&color(red){いつでも発情し得る};パターンや&color(red){発情可能時期が長い};パターンなど、集団内でも&color(red){発情期に揺らぎがある};ことが多い。これは&color(red){行動可能な季節};に制限が無く&color(red){繁殖機会};が豊富にあることが要因と考えられている。また、雌雄どちらかが自発的に発情し、そこから放たれる&color(red){性フェロモン};や&color(red){求愛行動};に触発されて他方の発情が惹起される場合もある。この方法は&color(red){より優秀な遺伝子を持った個体を選別};して繁殖行動を取れるという利点を持った戦略と考えられる(イケメンや美人が人気なのと同じ感じかも)



*6月8日 [#q0c5660c]
◯少女Aの日記

 きょうはビー太とハクタイのもりにあそびにいきました。ハクタイのもりは虫タイプや草タイプのポケモンがたくさんいます。まひやどくになってしまうとたいへんなので、やせいのポケモンにはあまりちかづかないようにお母さんに言われています。だからいつもむしよけスプレーをつかってからもりに入ります。
 もりの中はひろくてみちもうねうねしているので、みちをおぼえるのはすごくたいへんです。でも、わたしとビー太はなんどもハクタイのもりであそんでいるので、大たいはもうわかります。
 さいきんはもりの中にある大きなおやしきにあそびにいくのがわたしとビー太のたのしみです。おやしきの中は私のおうちのなん十ばいもひろくて、ゆかにはながーいあかいじゅうたんがしかれているのですが、くさやつるがおやしきの中にまで生えてしまっています。お父さんにきいたら、もうこのおやしきはずっとだれもすんでいないらしいです。でも、おやしきにはチィちゃんとチィちゃんのおじいさんがいていつも一しょにあそぶので、お父さんはまちがっているとおもいます。
 チィちゃんはわたしとおない年くらいの女の子で、音を立てずにとなりのへやにいどうするのがとくいです。


◯シンオウ新聞の記事

『育て屋スタッフ急死』
 今日午後1時頃、ズイタウンの育て屋から、24歳の女性スタッフ1名が倒れたと救急要請が入り、ヨスガ病院に搬送された後死亡した。死因は脳梗塞と診断されたものの、全身の至る血管で狭窄や動脈硬化の兆候が観察され、病理解剖を担当した医師は他の原因があると見て調査を継続している。育て屋オーナーの話によると、当該スタッフは昨日の午後から発熱や軽い頭痛などの体調不良を訴えていたものの、業務には支障の無い程度だったため勤務を続けた。今日の朝出勤した際には昨日よりも顔色が悪く症状も悪化しており休暇を取るよう促したが、本人の強い希望で倒れる時まで勤務していたという。


◯ジョーイ養成学校学生のノート

☆携帯獣ウイルス学
Pokémon virus(PV)感染症
-PVはポケモンに特異的に感染する&color(red){DNAウイルス};
-野生ポケモンの無作為抽出標本調査によると、およそ&color(red){20000};匹に1匹の割合で感染個体が見つかる
-潜伏期間は&color(red){数時間~数日};、発症からおよそ&color(red){4日};以内に感染性を失う(感染性:他の個体に伝染してしまう状態のこと)
-症状は&color(red){感染個体の成長速度増強};。命に別状は無い。ただし、症状は生涯に亘って継続する
-感染経路は主として&color(red){接触感染};
-症状の発現機序の詳細は不明だが、PVタンパク質の一部が&color(red){宿主の能力成長};に関わる細胞内シグナルを増強する作用を持っていると考えられている
-PVは&color(red){宿主DNAにウイルスDNAを挿入する};ことで子ウイルスを作らせるという特徴的な増殖機序を持つ。このため、宿主は感染細胞の子孫細胞が淘汰されない限りPVを複製し続けることになる
-獲得免疫が形成されて十分量の抗PV抗体が生成されるようになるまでの期間は感染からおよそ&color(red){4日};程度と考えられており、これを以て感染性が失われる(できたウイルスが細胞外に飛び出ても免疫ですぐに除去されてしまう)
-ポケモンセンターで実施する簡易検査は&color(red){抗原};検査である。ただしこれは&color(red){感染~獲得免疫形成以前まで};の時期にしか陽性を示さない。他に用いられるものとして、&color(red){PCR};は&color(red){感染初期以降};、&color(red){抗体};検査は&color(red){獲得免疫形成以後};に陽性を示す検査である。(検査結果からポケルス感染の有無や時期を特定する過去問あり!)
-治療法は無し。対症療法も不要であり、発症が確認されても経過観察を基本とする



*6月30日 [#ab33b1ed]
◯少女Aの日記

 きょうはビー太のトリミングをしてもらいにいきました。でも、いつものおねえさんがいませんでした。トリミングしてくれたおにいさんに、いつものおねえさんのことをきいたら、びょう気になっておしごとをやめてしまったそうです。せっかくなかよくなったのにざんねんです。
 いつもとちがうおにいさんがビー太のシャンプーをしてくれたけど、それでもビー太の毛はふわふわになりました。おにいさんもまほうがつかえるみたいです。でも、いつもよりすこしだけほっぺたの毛がきられすぎたような気がします。あとおにいさんはヨウカンをくれませんでした。


◯シンオウ新聞の記事

『人間感染型ポケルス発生か 致死性の可能性』
 ヨスガ病院は今日、今月8日に搬送されて死亡が確認された育て屋スタッフの遺体から新型ポケルスと見られるウイルスが検出されたと発表した。遺体の全身の血管に見られた狭窄はこの新型ポケルス感染による症状の可能性が高いという。この発見を受けてシンオウ全土の病院で血管閉塞症により死亡した遺体の組織標本を調査したところ、その約二割からポケルス遺伝子が検出された。また、それらの遺体のうち七割にはポケモンに付けられた咬み傷や切り傷、またはポケモンとの粘膜接触の形跡が残っていたと記録されており、新型ポケルス感染ポケモンから伝染したと見られている。生命への影響も大きいと見られ、政府は野生ポケモンに近付かないように、また飼育するポケモンと接触する際も怪我を負わないように注意を呼び掛けている。
 ポケルスはポケモンにのみ感染が確認されていたウイルスで、人間には感染しないと考えられてきた。今回発見されたのは従来のポケルスとほぼ同一の遺伝子の痕跡だが、人間の細胞表面にあるなんらかの構造体と結合できる能力を持った新規の変異株であると予想されている。この新型ポケルスがポケモンの間でどの程度広まっているかについては不明で、新型ポケルスの検出方法が確立され次第緊急調査を実施するとしている。


◯ジョーイ養成学校学生のノート

☆病理学
虚血性心疾患
-心臓は血液を全身に送り出すポンプとして機能している器官であり、心臓の活動に必要な栄養素は&color(red){冠動脈};を通して心筋に供される
-冠動脈が狭窄したり閉塞したりすると心筋に十分量の血液が流れなくなり、&color(red){虚血状態};に陥って心機能が大きく低下、また&color(red){組織の壊死};を引き起こす。このような疾患を虚血性心疾患と総称し、冠動脈に狭窄が生じている状態を&color(red){狭心症};、閉塞が起こっている状態を&color(red){心筋梗塞};と呼ぶ
-虚血性心疾患の起因として代表的なのが&color(red){動脈硬化};である。動脈硬化は動脈の血管壁が硬化・厚化し、血管内腔が狭まることを指す。その成因により動脈硬化は&color(red){アテローム性動脈硬化};、&color(red){メンケベルク型動脈硬化};、&color(red){細動脈硬化};の三種類に分類される。最も頻繁に観察されるのは&color(red){アテローム性動脈硬化};であり、これは冠動脈以外にも頸動脈、脳動脈、大動脈等あらゆる動脈に発生し得るタイプである
-アテローム性動脈硬化の成立機序:
&color(red){血管内皮};細胞が損傷する(高血圧とかがリスクファクター、あと血流が乱流になるような部分は起きやすい)
↓内膜中に&color(red){LDLコレステロール};が入り込む(LDL:悪玉コレステロール、善玉はHDL)
↓&color(red){マクロファージ};がLDLコレステロールを貪食して蓄積する(&color(red){脂質コア};の形成)
↓これが繰り返されて徐々に内膜が肥大化していく(&color(red){プラーク};の形成)
↓肥大化したプラークの膜が破れると、プラークの内容物が血管内腔に露出し、急激な&color(red){血栓形成};を引き起こす。これにより血管が塞がれると梗塞となる

*7月7日 [#yf69362b]
◯少女Aの日記

 きょうは七夕という日でした。お母さんはホウエンち方にすんでいたことがあって、そこでは七夕の日におねがいごとをたんざくにかいてささの木にむすぶと、ジラーチというポケモンがおねがいをかなえてくれるというように言われているらしいので、わたしもおねがいごとをかきました。ささの木はテンガン山の森に生えているので、よるにお父さんにつれていってもらいました。もちろんビー太もいっしょでした。
 と中でビー太はなんかいもやぶの中にはしっていって、いろいろなものをひろってきました。きょうはヒメリのみやおおきなねっこをひろってきました。一どビー太はやせいのズバットとけんかしました。ビー太は一どズバットにかみつかれてしまったけど、たいあたりでやっつけました。ビー太はとてもつよいビッパです。
 テンガン山から見た空はほしがたくさんかがやいていて、ほしがながれる川みたいだなっておもいました。わたしはピンクのたんざくに『ビー太とずっとなかよしでいたいです』とおねがいごとをかきました。ささの木はすごくながかったけど、お父さんがかたぐるまをしてくれたので一ばんたかいところにおねがいごとをむすびつけられました。


◯シンオウ新聞の記事

『新型ポケルスまん延防止等重点措置適用』
 先月30日に発見された新型ポケルスの急速な被害拡大を受けシンオウ政府は昨日午後の関係閣議で新興感染症対策特別措置法を改正し、新型ポケルスまん延防止等重点措置の規定を新たに設置して本日施行した。これにより各企業・事業所に対して新型ポケルスの感染拡大を防止するための行動規制、及び状況改善のための人的資源および施設設備の提供協力を要請、また要請に応じない場合の命令、命令に違反した場合の過料を請求できるようになる。
 この重点措置規定は緊急事態宣言の前段階にあたるものとして、新型ポケルスまん延による社会活動基盤の崩壊を防ぐことを目的に設置されたものである。具体的な各団体への協力要請の内容については順次その詳細が明らかにされる見込みだ。

『新型ポケルス 治療法は』
 新型ポケルスがシンオウ地方全土で猛威を振るっている。新型ポケルス感染によると見られる死者は昨日までの統計で4000人を超えた。シンオウ野生ポケモン研究所の調査によると、新型ポケルスに感染している野生ポケモンは1000匹に1匹の割合と推定されており、これは従来のポケルスのおよそ20倍の割合となっている。このような状況になった背景として、新型ポケルスの感染力が強化されている可能性がある点や、従来の抗ポケルス抗体が効かずポケルス感染歴のあるポケモンも再感染する可能性がある点が挙げられている。また、これから季節は虫タイプを始めとした多くの野生ポケモンの繁殖期に向かって行くため、血液や粘膜を介した爆発的な感染拡大が予想されている。
 シンオウ伝染病研究所所長ネムノキ博士の話によると、ポケルスは従来人間に感染することは無く、ポケモンに対しても健康被害をもたらさないウイルスだった。そのため社会的意義が極めて薄く、研究費を集めるのが難しい状況にあり治療についての研究は行われてこなかった。現段階で有効な治療手段は無く、社会全体と個人とが協力して感染予防を徹底することが最も重要であると強調した。現在、研究機関や製薬企業が一体となって新型ポケルスの特効薬および予防ワクチンの研究開発を進めているが、実用化に至る時期については未定とのことだった。


◯ジョーイ養成学校学生のノート

☆薬理学概論
ワクチンについて
-ワクチンはある病原体に対する獲得免疫を予め形成して感染症を予防する目的で接種する医薬品である。主要な要素は&color(red){抗原};と&color(red){アジュバント};である
-ワクチンは抗原の種類によって&color(red){生ワクチン};、&color(red){不活化ワクチン};、&color(red){トキソイド};、&color(red){mRNAワクチン};に分類される
-アジュバントは抗原の&color(red){免疫原性};を高める目的で、主として&color(red){不活化ワクチン};や&color(red){トキソイド};に添加される(抗原だけだと十分に免疫が誘導されないことがある)
-生ワクチンは&color(red){生きたウイルスや細菌};を発症しない程度まで弱毒化したものを接種するワクチンである。体内で病原体が増殖しながら免疫を獲得していくため、接種回数は&color(red){少回で済む};。また、&color(red){液性免疫};に加えて&color(red){細胞性免疫};も獲得できる
-不活化ワクチンは&color(red){ウイルスや細菌の病原性を完全に失くしたもの};を接種するワクチンである。生ワクチンよりも効果が&color(red){薄く};、十分な免疫が獲得されるまで&color(red){複数回};接種する必要がある
-トキソイドは&color(red){病原体が生成する毒素};のみを抽出し、毒性を失わせたものを接種するワクチンである。不活化ワクチンと同じく、&color(red){複数回};の接種が必要である
-mRNAワクチンは&color(red){ウイルスを構成するタンパク質をコードするmRNA};を接種し、体内でウイルスタンパク質を合成させることで免疫を獲得するワクチンである。比較的新しく開発された手法で、予防のためには&color(red){複数回};の接種が必要とされる。また、接種後に生体内でmRNAを増幅する機構も備えた&color(red){レプリコンワクチン};も開発されており、これはmRNAワクチンの&color(red){接種回数を減らす};効果が見込まれている


*7月14日 [#r64439ce]
◯少女Aの日記

 お父さんとお母さんといっしょにポケモンセンターにいきました。ビー太のけんこうしんだんのためです。ビー太はいつもげん気なので、きょうもきっと大じょうぶだとおもっていました。
 でも、ビー太はびょう気にかかっていたようです。ポケルスというウイルスだそうです。すごくおもいびょう気だそうなので、ビー太をちりょうしなければならないのであずけてほしいとジョーイさんは言いました。ビー太がびょう気なのはびっくりしたけど、びょう気のままなのはかわいそうなので、わたしはビー太をなおしてもらうことにしました。
 どれくらいでビー太はげん気になりますかときいたら、うまくいったら二しゅうかんくらいでげん気になるけど、とてもむずかしいびょう気だからもっとかかるかもと言われました。
 お見まいにいくねとビー太に言ってあずけました。でも、ジョーイさんは、
「うつっちゃうかもしれないから、なおるまであうことはできないの。ごめんね」
 と言いました。ビー太とずっとあえないのはさびしいけれど、ビー太はずっとげん気でいてほしいから、わたしはビー太をあずけました。
 お母さんは、わたしをだきしめながら、『ごめんね、ごめんね』となきながらあやまっていました。
 お父さんは、そんなわたしとお母さんをだきしめながらだまっていました。
 ビー太とまたあそべる日がたのしみです。


◯シンオウ新聞の記事

『新型ポケルス 強制検査・隔離・処分実施へ』
 ポケモン、人間共に日々新型ポケルス感染者が拡大している状況を受け、シンオウ政府は本日付けで家庭で飼育されている全てのポケモンに対して新型ポケルス感染の強制検査を開始した。感染性を示した場合、保健所にて隔離飼育または殺処分となる。この検査を受けること及びその後の処置に従うことはトレーナーの義務と定め、全てのポケモンセンターおよび携帯獣科を設置している医療機関に検査を実施するよう命令を下した。
 新型ポケルスは従来型よりも感染性を示す期間が長く、2週間程度と推定されている。ポケモンに感染している間は従来のポケルスと同様に外見に変化は示さないため、発見には医療機関での検査が必須とされる。
 この強制措置を決定した首相は取材陣に対し
「市民のみなさまにとってポケモンは協力して生活を営む仲間であり、家族同然であることは重々承知しております。ここシンオウの歴史におきましても我々人間はポケモンの助け無しには開拓を進めることは出来ませんでした。今回、非常に心苦しい決断を下しましたが、市民のみなさまの命と生活を護るために必要な措置と判断いたしました。新型ポケルス陽性となったポケモンについては可能な限り感染性が失われるまで隔離飼育し、殺処分は避けるよう尽力する所存ですが、飼育に係る資源も有限ですので力が及ばないこととなってしまう可能性もございます。どうかご理解ご協力いただきますようお願いいたします」
 とコメントした。


◯ジョーイ養成学校学生のノート

☆携帯獣医療関連法規
ポケモンの権利について
-"&color(red){ポケモンの愛護及び管理に関する法律(ポケモン愛護管理法)};"において、ポケモンは&color(red){『命あるもの』};と明記されている
-一方で、ポケモンは野生・飼育下の如何に関わらず、人権に相当する権利は設定されて&color(red){いない};



*反省会 [#sb651018]

 大遅刻すみませんでした。。。(5割減)(0票だったのでセーフ)

 お題『まん』に対して"新型ポケルスの出現と蔓延"を回答とするところまではスッと出たのですが、着地点を探るのが難しかったです。難しさのあまり、エントリー時から執筆を進めていたお話を投稿期間終了後に全て消して全く違うお話を書くことになりました。これが大遅刻の原因でして、実質本作を書き始めたのはなんと投票週の火曜日でした。なんとか間に合ってよかったです(間に合ってはないぞ)。

 ということで以下、だらだらと自作語りをしていきます。


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 まず、本作のタイトルから紐解いていきます。
 タイトルの『Mütant』は(üのウムラウトを外せば)"突然変異体"という意味の英単語です。üにしているのはuが突然変異したようなデザインであること、また無機質なuという文字に眼がついて生物的な見た目になることなどから採用しました。
 で、そのMütantが指す対象はもちろんポケルスです。ポケルスが突然変異して人間に対する病原性を獲得したらどうなっちゃうんだろうというのを、ポケルスの科学的考察を通して妄想していくのが本作の一つの目的でした。ファンタジー世界を科学するのは作者の性癖です。自慰にお付き合いいただきありがとうございました。
(本文中に書いたのは本作のために新たに産んだポケルスやポケモンそのものの考察の内のほんの一部に過ぎないのですが、今になって考察メモを見返すとなかなか素人質問のしどころが多いので詳細は割愛します)

 しかし、このタイトルにはもう一つ暗示しているものがありました。

 Mütantが指すもう一つの対象、それが人間社会です。
 作中の人間社会はシンオウ地方に根差す『ポケモンとの共生社会』です。街中の風景にポケモンが居るのが当たり前、それが日常な世界でした。それが、"突然変異ポケルスの出現"という些細な変化により、突如としてポケモンが駆除対象と見做される社会へと変貌し、日常が崩壊してしまいました。これこそが人間社会の突然変異である、というのが作者の考えです。社会を生き物として捉え、"突然変異ポケルスの出現"のことを"社会という生物のゲノムの塩基配列が一ヶ所変わってしまった程度の変化"と見做しているというわけですね。そしてこれがホメオスタシスを維持するにあたって必要不可欠な遺伝子領域だったため日常が大きく変化してしまったのです。
 この"必要不可欠な遺伝子領域"というのは、言わば急所です。そしてその急所は、得てして全く予想だにしていなかったところに転がっているものなのです(∵予測可能な範疇にある急所は是正されるため)。この世界の人々が『ポケルスがヒトに感染するわけが無い、致命的な影響を及ぼすわけが無い』と思い込んでいたように。

 ということで本作の主眼は『新型ポケルスの発生と蔓延による人間社会の変化』で、作者個人的な目的としては『ポケルスの考察』でした。
 後者の方は完全に自己満足な目的ですので執筆しただけで(なんなら執筆していなくても)満足できています。しかもその一部を『学生のノート』という形で皆さんに見せびらかすこともできました。露出狂です。
 それで前者の方については『少女の日記』と『新聞記事』の二つの文献で描写しているわけですが、これらは世界に対する視点が異なるように設定していました。『少女の日記』は幼子らしい『主観的で狭い世界』を描写していて、『新聞記事』は『客観的で俯瞰した世界』を描写しています。『新聞記事』の方では明らかに世界に異変が起こっているにも関わらず同日の『少女の日記』では平穏な日常が展開されている(実際には不穏な描写もあるわけですが)という、滑稽にも見えるこのギャップを、少女とビー太にじわりじわりと忍び寄る黒い影を感じさせようということを執筆当時は狙っていました。

 しかし、ここで私はふと、こんなことを考えます。"私こそがこの少女Aになっていやしないか?"ということを。
 少女が世界の異変に気付いていないのは、何も少女が幼いことが原因ではありません。主観で構成された世界に居るからです。そしてそれは現実を生きる私の視点となんら変わりありません。確かに勉学や社会経験を通して少女よりかは知識を蓄えているかもしれませんが、それでも世界全体を俯瞰することは私個人では不可能です。私が見ている世界はどこまでいっても『主観的で狭い世界』に他ならないのです。

 ……というのはあくまで本作を読み返した作者本人が考えたことに過ぎません。
 読んでいただいた皆さんも、折角私の創作世界に来ていただいたので何かしらをお土産として持ち帰っていただけたらこれ幸いです。



 以降は完全に余談ですが、エントリー当初の構想ではこの新型ポケルスが蔓延した後の世界をがっつり書く予定でした。"ポケモンの隔離・駆除を推進する『人間ファースト主義』" VS "それに対抗する『ポケモン愛護主義』"の泥沼思想闘争を書きたかったんですが、ただただディストピア味が深まっていくだけで良い落とし所が思いつかなかったので諦めました。なんやかんや人類はいつかは対抗策を持つようになるのでしょうが、騒動が収束して元通りになるENDを書いてしまうとこの話の設定から導かれる主張や問いかけとして良くない気もしたので……。
 それで"お題への回答"と"ポケルスに関する考察"だけ流用して全く別のお話となったのが本作です。まあもとから前日譚的な感じでざっくりと考えていた世界の変遷ではあったのですが。
 エントリー当初のお話の構想では舞台がイッシュでしたし、明確な主人公が存在しましたし、主人公は独身サラリーマンでしたし、ポケルスに罹るパートナーはレパルダスでした。本当に、何もかもが違う。


 最後までお読みいただきありがとうございました。何かありましたらコメント欄へどうぞ。

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