&size(22){&color(#215DC6){Fragment -9- 王都レジスタ};}; written by [[ウルラ]] RIGHT:[[BACK>Fragment-8-]] <<< [[INDEX>Fragment]] >>> [[NEXT>Fragment-10-]] #clear キタム港から王都レジスタへと続く道を歩くこと約半日。キタム港から出てすぐの道はそこまで舗装されていなかったが、王都に近づくにつれてその舗装具合も段々と立派なものになっていく。港を出た時は昇っていた太陽も、王都の白い城壁が見える頃にはもう傾きかけていた。ところどころにある休憩所で一息つきつつ来たものの、傷が治りかけで歩いているせいか、足の節々が小さな悲鳴を上げている。あまりゆっくりしていられないと休息を取る時間を惜しんで、ルイスにまだ休めと言われたところを無理して来たのが原因ではあるが、少なくとものんびりしていられる気分じゃない。 やがて城壁の前の検問所へと差し掛かり、ルイスはそこへと近づいていく。そこで小屋の中にいる誰かと話しているようだが……。ここからだと影になっていて話している相手がどんな様子なのかは分からない。 「キタム港とミナミム港の中間海域の騒動で検問をしていたらしいが。騎士団の俺は特に問題はないがな」 「ああ……なるほど」 話が終わったルイスが戻ってきてそう言う。門に立っているポケモンをよく見ると、皆ルイスがしているようなスカーフをどこかしらにつけている。特にどこに着けるかについては種族によって体のつくりが違うからか決まってはいないようだ。 大層な城壁の門をくぐると、開けた大通りが視界に広がる。その左右には宿泊施設や旅に必要な雑貨屋などがずらりと軒を連ねる。様々なポケモンたちが行き交い、品物を見たり買ったり、売却の算段をしたりしている。その大通りの先を目で追っていくと奥の方にやや高い建物が見えた。どうやらあれが城なのだろう。とするとここは城下町ということか。かつて住んでいた街のフラットは有名な観光街で、よく地方からポケモンたちが観光のために訪れてはいたが、ここまで多くのポケモンで道が埋まっているというのは見たことがない。 「で、これからどうするんだ」 喧騒に囲まれる中、やや力を入れて声を出す。そうでもしないと聞こえそうにない。ルイスはその場では話しづらいと感じたのか、人ごみから少し離れた路地に向かって歩き出す。建物の壁に半ば寄り掛かるようにしてから彼は話を始める。 「こっちに来る前の病院でも言ったとは思うが、今も部下に色々と聞いて回らせている。そいつとはこの城下町の騎士団宿舎で落ちあう予定だ」 ルイスの部下が一体どんなポケモンなのか、どんな性格なのかは分からない。ただあくまでルイスの個人的な事情……正確には俺の事情ではあるが、それに付き合っているあたり、彼を信頼しているか、彼がその部下を信頼しているんだろう。 「ならまずはその宿舎に向かうわけか」 「そういうことになるな」 確認の意味も込めてルイスに再度問うと、彼は頷く。この街についてからの最初の行動が決まった後は、そこへ向かうだけだ。ルイスは壁から背を離して、前方に出来ている流れに沿って奥へと歩いていく。それをなるべく見失わないように早足で進んでいく。なにせルイスのように目線が高くないために、この群衆の中見失わずに進むには一度たりとも目を離すことが出来ない。背の高いポケモンが付けている肩掛けバッグを避けたり、店から並べられて道にせり出している商品の台座にされている木箱に当たらないように注意しながらも、ルイスの進行方向を確認しつつ進んでいく。 不意に横の裏路地から出てきたポケモンに足を止めようとする。止めたはずなのに、それは遅かったらしく段々と目先とそのポケモンの距離が縮んでいく。 「きゃっ!」 甲高い声が耳に入ったと同時に、軽い衝撃が頭から体に伝わっていく。視線の先には、横倒しになったレントラーの姿。すぐに起き上がり、すっとこちらへ金色に輝いた目を向ける。その目に一瞬だけたじろぎそうになったが、ぶつかってしまったのはこっちだ。とにかく謝らなければ……。 「す、すまな……」 「ご、ごめんなさいっ。急いでたので! ではっ!」 謝る言葉を遮るようにそのレントラーは早口で捲くし立てると、すぐさま横を通り過ぎて駆けて行ってしまう。それに驚いて覗き込んできていた野次馬はさっとばらけた。とにかく急いでたのは確かみたいだが、一体なんだったのだろう。過ぎ去っていくその後ろ姿を疑問に思いつつも、はっとして前方に振り返る。ルイスの後をついてきていたはずが、さきほどの出来事で見失ってしまう。 とにかくルイスが進んでいった方向に進んでいけば合流できるかもしれない。そんな淡い期待で進んでいくが、一向に彼は見えてこない。むしろこのまま無闇に進んで行っても逆に合流できなくなる可能性の方が高い。どこかこの人ごみを少しでも避けられる場所に退避しておいた方がいいだろうと、歩いている最中に見えてきた店と店の間にある路地裏への道に抜ける。 これからどうするべきだろうか。商人にルイスの言っていた騎士団の宿舎の場所を聞いて向かってみる方法もあるだろうが、行き違いになってしまうことを考えると迂闊に動くこともできない。 「ここで突っ立って何してるんだ?」 不意に後ろから声を掛けられていつでも技を出せる体勢にしながら後ろへと振り向いた。目に入ってきたのは寸胴な白い胴体。次に青いラインの入った羽のような手。肩近くの腕にはルイスが付けているような青と白のスカーフを付けている。ルイスのスカーフはラインが三本はあったが、このエンペルトのスカーフは二本だった。構えながらいきなり振り向いたからか、向こうも若干警戒して羽にある刃を構えようとしたが、こちらの顔を見てその表情を変える。 「お前は……あんときの」 そのエンペルトはそう言ったが、俺自身エンペルトに出会ったような覚えはない。ましてや騎士団員とはあまり接したことはないし、顔を覚えられるようなこともしていないはずだ。彼は構えていた刃を下げると、確かめるようにこちらを全体的に見た。そして二、三度頷くと「やっぱり……」と呟く。 「お前、フラットの生き残りのアブソルじゃないか? 二年前のオレの記憶が正しければだけどな」 「なんでそんなことを知ってる」 エンペルトから言われた事は意外だった。第一俺の方は彼の姿に全く覚えがない。となると事情をある程度知っていたレイタスクの住民か、あるいはフラットの……。いや、少なくともそこまで大きな街ではないし、ある程度顔見知りばかりだったからエンペルトが居れば覚えているはずだからそれはない。ああだこうだと頭の中で思考を巡らせるものの、記憶の中にエンペルトの姿はなかった。 「騎士団員として当時生き残りだったお前の事情聴取をしてたのはオレだからな。……ま、あの時お前は半ば放心状態だったから覚えてないのかもしれないけどな」 全く覚えていない。果たしてこのエンペルトの言うように俺が聴取を受けていたのかは定かじゃないが、少なくとも彼が騎士団員であるのなら、今のところ都合がよかった。街の通行者に聞いたり商人に聞いたりするよりかは、彼に聞く方が確実でなおかつ早い。行き違いの可能性もあるとも考えていたが、ここで待っていても埒が明かないと感じた末、今までの会話の流れを無視して切り出していた。 「あんた、騎士団員なんだよな」 「ま、まあそうだが?」 「城下町の騎士団宿舎って場所まで案内してくれないか?」 用件だけを手っ取り早く伝えると、エンペルトは首を傾げながら眉をひそめる。 「別に構わねぇけど……。なんでまた」 「そこで騎士団の知り合いが待ってる」 ルイスがそこで待っているという確証は特にないものの、ヒースをかばった時でも色々と慎重に判断と下した彼のことだ。闇雲に探し回ったりはしないはず。エンペルトは少しだけ空を眺めると、やがて頷く。 「面倒くせえけど案内してやるか。どうせ戻ったところで退屈なだけだしな」 軽い悪態をつきつつ、彼はくるりと方向を反転させる。てっきり大通りの方を通ると思って踵を返そうとしていた自分の足を止め、彼の後ろをついていく。 「わざわざ大通りを歩くより裏通りや路地裏の方が面倒がなくていいんだ。夜だと危ねぇけど、昼間ならあんま関係ねえしな」 前方を歩きながら、特に聞いてもいない知識をひけらかすこのエンペルト。腕に巻いているスカーフは確かに騎士団のものであることは確かみたいだが、本当に騎士団なのかどうか疑いたくなるほど言葉が荒い。警戒はしておくに越したことはないかもしれない。 しかしそんな警戒心を特に気にしていないのかそもそも気づいてすらいないのか、呑気に鼻歌を歌いながら歩いていく。時折細い路地の方に曲がって入り、また少しだけ広い路地へと出る。路地が迷路のように入り組んでるのか、それともこのエンペルトがただ目的地への最短経路を通ってるだけなのか。少なくとも初めて来た者がここに迷い込むとなかなか出られないだろう程に家と家の間の道が煩雑なほどにある。やがて大通りの喧騒が耳に入ってくると、エンペルトは鼻歌を止める。しばらく路地を進むと、ポケモンたちでごった返した大通りへと出た。 「そろそろ着くぞー」 エンペルトはそう言って一度こちらに振り向く。彼の大きな背で目の前がよく見えないが、肩の部分から見える建物は、それなりに大きいことが伺える。ここから見えるだけでも大体三階建てぐらいだろうか。作りもしっかりとしていそうで、確かに国の機関であることをうかがわせる。路地裏を出て大通りに出て、その建物の入り口が見えてくる。少しばかりコの字になった入り口の広場に、ルイスの姿が見えた。しばらくしてこちらの存在に気付いたようで、図体に見合わないくらいの速さでこちらへ走ってきた。 「いきなり居なくなったからこちらへ先に来てたんだが、どうやらそれで正解だったようだな」 「途中でレントラーにぶつかって見失ったんだ。で、このエンペルトに案内してもらって……ってあれ」 道案内をしてくれたエンペルトの方を向くが、ついさっきまで横にいたはずのエンペルトの姿がない。どこかへ行ってしまったのかと思って後ろに振り返ると、何やら妙にそそくさと怪しげに小走りで走っていくような姿が見えた。まるでなにかから逃げるかのようだ。ふと、ルイスが自分の横を通り過ぎて、エンペルトに向かって走っていくのが見えた。まさかとは思うが、ルイスとあのエンペルトは知り合いか? 「おいティト」 奇妙な小走りで走っているティトと呼ばれたエンペルトに、ルイスが追い付いて肩を叩くのが見えた。振り返ったティトの顔には引きつった笑みが。 「お……い、いやあ奇遇だなあルイス! 久々の再会のところ悪いが用事を思い出したんでそれじゃ!」 「まあちょっと待てせっかくの再会だ。宿舎付属のカフェテリアで休憩でもしようじゃないか。何、どうせ忘れるような用事だからさほど大事でもないんだろう?」 ルイスのそれはどう聞いても再会を喜んでいるようには聞こえず、声色には明らかな脅しが含まれていた。だが殺そうというような気迫までは感じないところから、まあ何かしらあるんだろうと、さほど心配もせずにその様子を眺める。しばらくして観念したのか、ルイスとティトは共にこちらへと歩いてきていた。 「いくぞ。中で休息しながら情報収集を任せておいたクレールを待つ」 「あ、ああ」 逃げないようにでもしているのか、少し先をティトに歩かせて進むルイス。ティトの方はため息をついていたが、ルイスの方は少々呆れた表情を浮かべる。どんな関係なのかは知らないが、やり取りからして、二人は長い付き合いだということは何となく分かったことだった。 ◇ ――柱や天井から下がる多くの明かりで店内は明るく照らされ、床は木板の表面に何かを塗っているのか、綺麗な色合いでざらついた印象が無い。それがところどころで向きを変えて模様を描いていて、ここが一般の店とは違うということがはっきりと伺える。騎士団のカフェテリアは想像していたよりも広い上、騎士団ではない一般のポケモンにも開放されているようで、スカーフをつけていないポケモンたちの姿も見受けられる。そのカフェテリアの隅の席に座って、ルイスが情報の収集を任せておいたといわれるクレールというポケモンを待っていた。 「てか、なんでオレまで待たされることになってんだよ」 ルイスに連れてこられたティトが悪態をつく。彼はその言葉に対して白眼視をティトに向けると鉤爪を差した。 「お前は放っておくと仕事を放棄する癖があるからな。それと、本来ならフリジッド大陸の管轄で勤務しているはずのお前がなんでここにいる」 「色々あんだよ。支部で待機してたら本部への呼び出しは受けるし、それで港に行ったら行ったで騎士団の作戦行動中で船は止まってるしよ……」 「本部に呼び出された?」 「ああそうだよ。一体何のことで呼び出そうとしてたのかは知らねえけどな」 本部に呼び出されたという部分で微かにルイスの表情が曇ったが、その表情は突然後ろから掛けられた声でいつもの表情へと戻る。どこかで聞き覚えるある声に後ろに顔を向けてみると、そこにはあのキタム港の入り口で出会ったラグラージ。彼と俺の目が若干合ってどうやら向こうも気づいたみたいだが、ルイスに用があるようですぐに視線をそちらに向けていた。 「お、クレールか」 「ルイス隊長。例の件についてですが……」 気さくに名前を呼んだティトを軽く無視して、クレールと呼ばれたそのラグラージはルイスへと話題を持ちかける。となるとルイスが情報収集を任せたのはこのラグラージなのだろう。ルイスは少しばかり周囲の様子を確認したのち、問題ないと踏んだのかクレールに続けるように軽く頷いて見せる。それに呼応して頷き返したクレールは話の続きを話し出した。 「まずキュウコンとルカリオの情報ですが、キタム港ではあのカイリューが港に倒れている時、どさくさに紛れてエネコロロを片目に傷のついたルカリオが担いで行ったという目撃情報がありました」 片目に傷のついたルカリオ……。その言葉に何か引っかかるものを感じたが、アセシアがリュミエスの飛行練習の時に襲撃を受けた時のそのルカリオを見たわけではないし、アセシアから詳細な話を聞いたわけでもない。だがその片目に傷のついたルカリオをどこかで見たことがあるような気がした。妙な違和感を感じつつも、話を続けるクレールに耳を傾ける。 「その後レジスタ前の検問で台車に酒を入れた樽を運んでいたキュウコンとその隻眼のルカリオを通したという他の騎士団員からの目撃もありました。露天の店主にも聞いて回ったところ、どうやら路地裏の方に台車を引いて運んで行ったそうです。それ以降は……」 クレールはそれ以降は分からないというように言葉を止めた。ルイスは鉤爪を顎に当てながらしばらく黙っていた。情報になんとも言わないからか、クレールの表情に段々と焦りが現れ始める。そのことに気付いたのか、ルイスはやっと口を開いた。 「路地裏の酒場というと俺が思い当たるのは一つだけだな。飲みに行ったことはないが、パトロールの際に見かけたことがある」 「確かに路地裏だとあそこしかねーだろうな」 ルイスが言っているだろう酒場の場所を知っているのか、それにティトも頷きながら相槌を打つ。自分の持ってきた情報が全くの無駄ではなかったことを察したのか、ほっと胸を撫で下ろして表情を緩ませるクレール。だが問題は……。 「問題はその酒場に本当にキュウコンと隻眼のルカリオが居るかどうかだな」 あくまで路地裏のその酒場に二匹が入っているかどうかは、憶測上の話でしかない。釘を刺すような言葉を俺自身言ってしまったとは思っているが、これを確認しない限り先には進まない。しかしルイスは意外にもその言葉に考え込むこともなく椅子から立ち上がった。 「確かにそれもそうだが、今のところ手に入る情報は目撃情報が精一杯だろう。それに、情報が新鮮なうちに確かめないと余計に探しているものからは遠ざかる。そうなるならいっそ、目星の付けた場所に一旦行ってみる方がいいだろう」 ルイスから帰ってきた言葉は意外だった。彼ほどの位を持っていればもうちょっと慎重になったっていいはずだと思っていた。だがルイスはそんな勝手な予想を越えて、自ら殴りこもうとしている。ドラゴンタイプという種族柄からか、血気盛んというか行動派なのだろうか。ふと、立ち上がったルイスを見てティトは疑問の声を上げた。 「おいおい行くのかよ。お前ひとりじゃさすがに二体相手はきついんじゃないか?」 「そこは問題ない。何も俺はひとりで行くとは言っていないしな。ルフと、他の大隊長のリュウにも手を貸してもらえるように頼んである」 ルイスが言ったリュウという、恐らく同じ騎士団員であろう物の名前を聞くのは初耳だった。ルイスの口からはそう言ったことは一言も発せられてはいない。いつの間に協力を仰いだのだろうか。だが今のところここにいるのは俺を含め、ルイス、ティト、クレールのみだ。そのリュウというポケモンは見当たらない。また待つことになるのだろうか。 「そろそろ来るはずなんだがな……」 「リュウさんは来ないですよ」 不意に掛けられた声に皆そちらの方に視線を向ける。そこにいたのは背の藍色と腹部のクリーム色のツートンカラーのやや小さめなポケモン。背の所々にある赤い斑点が特徴的なマグマラシだった。一様に目を向けられたからなのか少しばかりぎょっとしたような表情を見せると、すぐに姿勢を正して言った。 「あ、失礼。先に名乗るべきでした。俺はリュウさんの部隊に配属されているグレンっていいます。リュウさんの代理で来ました」 よく見るとそのグレンの首には青と白のスカーフが結び付けられ、前の方に見えるように下げられていた。体と比べてスカーフが大きくて邪魔なのか少しばかり畳んでいる上、さっきは四足の状態から中途半端に立ち上がった状態だったためかほとんど気づけなかった。 「代理?」 ルイスが尋ねる。グレンは頷くと、畳まれていたスカーフが広がりつつあるのを整えながらそれに答える。 「はい。リュウさんは先のミーディアとフリジッドの中間海域奪還作戦の際、民間者に攻撃してしまったあのリザードンの件で呼び出されて。それでリュウさんに頼まれて、俺が代わりに」 「なるほどな。あいつか……俺の部隊のやつが迷惑かけたな」 民間者を攻撃したことと、ミーディアとフリジッドの中間海域。つまるところ俺らに攻撃をしてきたのはそのリザードンということだろうか。ルイスの口調から察するにどうやらその話しているリザードンは色々と問題を抱えていたのだろうか。とはいえ、今はヒースもリュミエスも命に別状はない。今そいつに関して色々と考えを巡らすのは止めておく。深く考えたところで苛立ちがつのるだけだ。 「しかし……言っちゃ悪いがグレン、お前さんの戦闘の腕前がどのくらいか分からない以上、戦力に若干の不安がある」 「はい。リュウさんにはとても及ばないことは俺自身も分かってます」 ルイスが言ったことはあくまでリュウと比較しての話であって、グレン自体の戦力はむしろ騎士団ではない俺よりも実戦経験は豊富だろう。そのことを理解してか、グレンは憤る事もなく頷いてそれに返す。 「そこでだ」 「おい待てよ。話の流れからすると嫌な予感がするんだが……」 ルイスが提案をしようとしたのだろう言葉を聞いて、ティトが話を遮るように声を上げる。ルイスは口角を上げてにやりと笑みを浮かべた。 「ずいぶんと察しがいいな。その通りだ。ティトにも手伝ってもらう」 「やっぱそうなんのか……」 ルイスの言葉を聞いて深くため息をついたティト。その様子を見てクレールはどこかほっとした様子をしていた。ルイスは椅子から立ち上がると、出口の方へと歩き始める。 「決まったなら行くだけだ。あとクレール、お前はティトが遅れる事を本部に伝えておいてくれ」 「はあ……分かりました」 クレールはルイスの頼みに大きくため息をつきながら頷くと、もう一つの宿舎側の出口へと歩いていった。情報を聞き出して、そしてまた頼まれごと。必要とされているのか、それとも雑用を任されているだけなのか、彼には段々と不満が募ってるんだろう。ルイスはその様子に苦笑すると「何か埋め合わせしておかないとな……」と呟いたのが聞こえた。 「あまりぐずぐずしてられないな……。行くぞ。ティトとグレンには道中で詳細について話す。いいな」 ルイスのその言葉に、一同は深く頷き返した。 ◇ 天井から吊り下がる照明とその上で緩やかに回転をし続けるプロペラの動きをぼーっとした表情で眺める、カウンターにいるポケモン。炎のような色をした体に黒い縞模様が特徴的なそのウインディは、決して客がいないから暇なのではない。先ほど来た連絡によって、色々と面倒な事になっているなと頭の中で色々な事を思案している最中だった。更には仲間も連れ去れらたときた。その連れ去られた仲間のパートナーであるポケモンが周辺を捜してはいる最中だけに、情報を待って身動きが取れない状況下で、妙な違和感とそこからくる苛立ちが募っていくばかりだった。他の席に座っている客のポケモンたちは、昼間であるのにも関わらず蜂蜜酒や果実酒を飲みながら時間を潰していた。 そんな静穏を破って、店の扉が開かれる。ベルの音が店内に響き渡り、カウンターにいるウインディを含めて客全員がそちらへと視線だけを向ける。その目つきは変化への関心でも帰ってきた仲間たちへの賞賛でもない、あからさまな部外者に対する睨みを利かせたものだった。 「……少しばかりここの店主に話を聞きたい」 まず店の中に入ってきたのはガブリアスとアブソル。まだ店内に入って来ていないそのふたりの後ろにもまだいるようだった。アブソルの方は酒の臭いがダメなのか顔をしかめている。ガブリアスの腕には青と白のスカーフが巻かれていて、騎士団であることが伺える。その事が、彼らの警戒心をより強くしていた。更に店内に入ってきたエンペルトとマグマラシも同様に騎士団であったためか、ウインディは鼻で笑った。 「なんだ……? 最近は昼間に酒を飲んでるだけでも騎士団が動くようになったのか?」 ウインディの嘲るようなその言葉に、客のポケモンたちがくつくつと笑う。あまり歓迎されていないことを入ってきた者たちは悟ったのか、眉をひそめた。唯一眉をひそめなかったのは、ガブリアスただひとりだった。目は明らかに動揺の色を隠せてはいない。その視線はカウンターのウインディに向けられていた。逆にウインディの方はそのガブリアスが気づくよりも早く気づいていたようで、表情を変えることはない。 「お前は……クロウなのか」 「久々だなルイス。まだ真面目に騎士団やってたんだな」 クロウと呼ばれたウインディは、かつての旧友との再会に、笑みを浮かべながらも皮肉の言葉を口にした。 ---- CENTER:[[BACK>Fragment-8-]] <<< [[INDEX>Fragment]] >>> [[NEXT>Fragment-10-]] ---- #pcomment(,10,below) #pcomment(below)