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Elopements act13~17 の変更点


&color(red){この小説には、暴行、流血などの表現が含まれています。 閲覧の際にはご注意下さるようお願いいたします。};
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act13 朝

「ふぁ…くあぁ……」
上半身を起こし、欠伸をして目覚めたのはロキ。
彼は立ち上がると窓に歩み寄り、外を眺める。
「もう朝か。オレがルシオより早く起きるなんて珍しいな…」
そのルシオは今、いびきをかいて眠りについている。寝相が悪いのか、体が布団からはみ出していた。しかし…
「あれ、ユメルさんは…?」
ロキの布団の隣にいたはずのユメルの姿が無い。藁布団すらも。
昨日の出来事は夢だったのか? ーーいや、そんなはずは無い。
「ユメルさん…いるのか?」
ロキが彼女を呼ぶと部屋の隅にあった藁の山がガサガサと音を立て、中から彼女が姿を現した。
「ロキさん、おはようございます。あの…藁をこうしてここに隠れていた方が良いと思って…」
ユメルの姿を見つけ、ロキは安堵の表情を浮かべる。
「おはよう、ユメルさん。…確かにオレ達が部屋にいない時はそうして隠れていた方がいいかもな」
ロキがそう言うなり、ユメルのお腹から「グゥ~…」と腹の虫の鳴く声が。
これを聞いたロキは微笑む。彼女は恥ずかしそうに顔を赤くしてうつむく。
「ご、ごめんなさいっ!」
「ははは、待ってな。今朝飯を取ってきてやるから」
彼はルシオを揺すり起こすと朝食を取りに広間へ向かう。
「兄貴がオイラより早く起きるなんて珍しいでやんす。きっと今日は嫌な事が起こるでやんす!」
「…冗談を言うな。ん、今日は列が長いな……」
広間に出る二匹の前にポケモン達の長蛇の列が目に入る。
「う~ん、いい匂いでやんす!」
アース族の食事は小学校の給食のように並んで食事を受け取るような仕組みをしている。
こうして食事の時間になると集落全てのポケモンが広間に集まるのだ。
二匹は列に十分程並ぶと朝食を受け取る番になる。食事の配分をしているのはガルーラのマリエッタおばさんだ。
「おばさ~ん、今日は大盛りで!」
「オイラもお腹ペコペコでやんす!」
「あいよ、ちょっと待ってな!」
給仕係のマリエッタは元気よく返事をすると二匹に朝食を渡す。
お盆の上には焼き魚一尾におばさん特製のパンが三個、マトマのスープが乗っていた。
おばさんの機転で二匹の分は1,5倍の量が盛りつけられていた。
「おばさんありがとうでやんす!」
「はいはい。ちゃんと残さず食べるんだよ!」
二匹はお盆を受け取って「は~い」と返事をして部屋へと戻っていった。
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act14 朝食

ガチャ 「ただいま~」
ロキは尻尾で器用にドアを開けるとルシオを中に入れ、ドアを閉める。
部屋に入ってきたのが二匹だとわかるとユメルは身を隠していた藁の山から姿を現した。
二匹の持つ朝食は美味しそうに温かい湯気を立ち昇らせていた。
「お帰りなさい。わぁ、美味しそうですね…」
「じゃ、みんな座ろうか」
ロキは二匹を座らせると棚から予備の器を幾つか取り出し、それに彼女の分の朝食を分け入れて綺麗に三等分にした。
「「「いただきま~す!」」」
三匹は声を揃えて挨拶をすると各自朝食を食べ始めた。
「ん、美味しい!」「さすがマリエッタおばさんだな」「ほっぺが落ちそうでやんす~」
何とも言えぬ味の良さに瞬く間に器が空になってしまった。
「ふぅ…ご馳走様でした。こんなに美味しいものを食べたのは初めてです」
「だろ?おばさんの手料理は最高に旨いんだ」
「オイラおばさんの子供になりたかったでやんす~」
そうして三匹は食器を片づけながら談笑し、その後は集落の仲間や施設、ロキの特訓などについてユメルに説明していった。
彼女もアース族の生活を理解して二匹に馴染み始めた頃、ロキはふとあることを思い出して彼女に話し掛けた。
「そういえばユメルさんの言ってた“強大な力”って一体何の事なんだ?」
「…確かその“力”というのは古代のドラゴンタイプのポケモンだと族長らしきフーディンから聞きました。何でもその力を使って砂漠はおろか世界をヴァン族の手中に収めようとするとか…」
ヴァン族はやはり砂漠を我が物にしようとしていたのか……それに外の世界まで……
彼女の言葉に二匹も表情が険しくなる。
「ヴァン族の考える事は分からない…他の全てを力で捻じ伏せるのか…そしてその為にユメルさんが生け贄にされるのかがな……」
確かに古龍を甦らせるのに何故ユメルが必要なのか、ロキ達には分からなかった。
「…その災厄を呼び起こす為にはドラゴンの血を引く雌の血が必要だとか。私の祖父はガブリアスなので私は事実上ドラゴンの血を引いているんです」
「そういう事でやんすか……」
二匹はヴァン族が執拗にユメルを狙う理由をここで理解した。

act15 境遇

「私はとある町のトレーナーに飼われていたポケモンでしたが、ある日突然両親とトレーナーに見放されてこの砂漠に捨てられてしまって……」
「…………」
彼女は親に見捨てられた……この台詞に二匹は言葉を失う。
過去に両親を失ったことのある二匹は彼女の気持ちを痛い程に理解していた。
「その後私は“龍の血を引く者”としてヴァン族の儀式の生け贄にされそうになって…」
そう呟く彼女の表情は暗く、今にも泣き出しそうな感じだった。
そうだ。独りぼっちの彼女を助けてあげられるのはオレ達しかいないんだ……
「…ユメルさん、大丈夫だ。オレ達がヴァン族から守ってやる」
「オイラも出来るだけのことはするでやんすよ」
ロキは突然立ち上がると真剣な眼差しでユメルを見つめる。ルシオもそれに続いた。
二匹のその真っ直ぐな想いにユメルの目に涙が浮かぶ。
「ありがとう、二人共……」
彼女は涙を拭い、少し間を置いて心を落ち着けてから口を開いた。
「それと…あの…私の事を“ユメル”って呼んで貰ってもいいですか? 私も二人の事をそう呼びたいので…」
呼び捨てか…別に“ロキ”と呼ばれるのは嫌ではないし、彼女の頼みを断る理由も無い。
「…オレは別に構わないが、ルシオはどうだ?」
「オイラも大丈夫でやんすよ。よろしくでやんす、ユメルの姉貴!」
姉貴って……まぁ、大丈夫だろ。彼女も嫌がってないみたいだし。
「ロキ…ルシオ…改めてよろしくお願いします」
そう言ってユメルはペコリと頭を下げ、二匹に握手を求める。
「オレ達三匹はこれから仲良くやっていけそうだな」
二匹も笑顔でそれに応じ、握手を交わす。
彼らの間にはほんの僅かではあったが、種族を越えた新たな絆が芽生え始めていた。
「…じゃ、オレは食器を片付けてくるわ」
しばらくしてロキは食べ終わった器をまとめると自身の長剣を腰に携え、鞄を背負い、身支度を整えると器を抱えて立ち上がる。
「それからついでに寄ってくとこがあるから、留守の間ユメルを頼むぞ」
「オイラに任せるでやんすよ。いってらっしゃ~いでやんす」
自信に満ちたルシオの声を背に受け、ロキはルシオとユメルを残して部屋を後にした。


「おばさん、ご馳走様でした」
「あいよ!使った器はそこに置いときな!」
ロキはおばさんの指さす場所に使用済みの器を返すと、その場で軽く背伸びをする。
(部屋にいる二人の為に外で何か採ってきてやるかな…)
背伸びで肩からずり落ちかけた鞄を背負い直すと、彼は単身で集落出口へと向かっていった。
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act16 収穫

「う…やっぱ外はキツいな…」
昨夜の幻想的な風景とはうってかわって熱帯地域特有の暑さがロキを襲う。
今日はいつにも増して日差しが強い。この眩しさなら草ポケモンが溜め無しでソーラービームが撃てるだろう。
そして今日もこの暑さの中にも関わらず柵の内側では子供達が元気そうに駆け回っている。
柵の内側は小学校の校庭程の広さがあり、子供向けの遊具や水場などの設備が充実していた。
「あ、ロキじゃん。おっはよ~!」
その中からロキに向かって手を振るのはジグザグマのロウファ。
側にいたエイミとトールもロキに気付いて手を振ったかと思うと三匹一緒にロキの元に走り寄ってきた。
「おはよーロキ君っ♪」
「朝から元気だな、お前らは……」
子供達は朝食を食べ終えるや否や、すぐにこうして外に出て遊び始めるのだ。
外に出るのはいつもこの三匹が一番乗りだった。
「そうだロキ君~、今日は久しぶりに稽古をつけてくれるか~い?」
そう言ってトールが期待の眼差しでロキを見つめる。エイミとロウファもだ。
「……悪い、今日も外に出るんだ。稽古はまたいずれつけてやるからさ」
「いいなぁ~ロキ君は。一人で砂漠に出られる位に強いんだからなぁ~…」
ロキの返事に落ち込むもなお一層尊敬の眼差しでロキを見つめる三匹。
「よし、オレ達が強くなるためにはまず体力作りだ!行くぞ、次は鬼ごっこだ!トール、お前が鬼な!」
ロウファはそう言うと走り出して行ってしまった。
「待ってよ~ロウファ~…」
「じゃあね、ロキ君!」
「ハハハ…さて、オレも行くか」
ロキはただ暴れているようにしか見えない三匹を見て苦笑いすると柵出口へ向かい、ジェイクに挨拶をして砂漠に出る。

外に出た彼はとある場所を目指して歩いていた。
「そろそろかな……お、見えてきた」
彼の目に入ってきたのは昨日オドシシを仕留めたあのオアシスだった。
オアシス周囲の草木には色とりどりの“木の実”が実をつけていた。
「どれから持っていこうかな……よし、まずはこれ…と」
ロキは側にあったモモンの木に近付き、実を数個もいで背負っていた鞄に入れる。
それからロキは数十分かけてマトマ、パイル、オレン、ヒメリなどの木の実を次々と鞄に詰め込んでいった。
「これだけあれば十分だな……帰るか」
ロキはきのみでいっぱいになった鞄を背負って集落へ帰ろうとした。
が、振り返った彼の目に緑の下地に黄緑の縦縞模様が入った見慣れない球形のきのみが。
「ん? これは……カイスじゃねぇか!」
驚愕の表情でそれに近付き手に取るロキ。少々小振りではあったがそれは正しく“カイスの実”だった。
ロキは図鑑でしかカイスを見た事が無い。それもそうだ。砂漠地帯の厳しい環境ではカイスは全くと言っていい程育たなかった。
ロキはカイスの一つを取って味を見る。
「うまっ! こいつも持って帰ろ。二人が喜びそうだな…」
期待通りの味だったのでまた別のカイスを両腕で抱え、上機嫌でロキはオアシスを後にした。
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act17 異変

現在午後二時過ぎ…日中最高気温を記録する時間帯である。
砂漠を一人で歩くのはカイスを抱えた身長70cm程のイーブイだった。

ーーしかし、オレのいない間にユメルが見つかってないだろうか…ルシオだけで本当に大丈夫だろうか……

ロキはユメルをかくまう事に不安感を抱き始めていた。
アース族集落はノーマルタイプのポケモンの集まり。よって特例を除いてそれ以外のポケモンは集落に住む事が族長によって禁じられていた。
特例というのは進化前にノーマルタイプを有しているポケモンが進化によりノーマルタイプを失っても集落に住むことが出来る、というものだ。
現にイーブイの頃から集落に住んでいたロキの両親……父、エーフィのテュールと母、グレイシアのシヴは進化後も集落に住み続けたという。

……なのに何故進化前からタイプの違うポケモンは受け入れられないのだろうか。
それは過去にタイプの異なるポケモン同士の争いが起きたからだ。
数百年前、この砂漠ではあらゆるタイプのポケモンが一つになって暮らしていたが、ある時にタイプの違いのちょっとした事が揉め事を生んだ。
これを大規模な争いに発展する事を恐れたファーブニルという名のカイリューが砂漠全てのポケモンをタイプごとに分けて別々の場所に住まわせ、数百年の間それを監視していた…という話だ。
ファーブニルが姿を消した今でも各集落の族長がその風習を守り続けている。
その族長を説得してユメルを集落に住めるようにして貰えれば…と彼は考えていた。
「明日にでも族長に相談してみるか…」

それからの帰路は特に何も無く、カイスを抱えた彼は柵の前に辿り着いた。
「ジェイクさ~ん、扉を開け……ん?」
門番のジェイクに声を掛けようとしたが、いない。
扉の鍵は壊されたような跡がある。柵を出る前にあれだけ騒いでいた子供達の姿も無く、中はガランとしていた。
「皆どこかに行ったのか…?」
仕方なく肩で扉を押し開けて柵の中へと入る。
足元の砂には見たことのないポケモンの足跡が複数あり、それは柵の扉から集落入り口の洞穴へと真っ直ぐに続いていた。
ロキの背中に戦慄が走った。嫌な予感がする。
例えようのない不安に襲われた彼の足は自然と早まっていく。


「う…ロキ…君…」

ふと、自分を呼ぶ微かな声が聞こえる。
ロキは反射的に辺りを見回し、遠くに倒れていたエイミを見つけると血相を変えてカイスを放り出し、彼女の元に駆け寄る。
「お…おい、大丈夫かエイミ!一体誰がこんな事を…」
彼女は虚ろな目でロキを見上げ、力無く口を開く。
「ロキ…君…エ…スパー…タイ…プの…ポケ…モ…ンが……」
エイミはそこまで言うと気を失って倒れてしまった。
「…エスパータイプのポケモンって事は……まさかヴァン族か!?」
ユメルの身の危険を感じた彼は砂上を滑る疾風と化して洞穴へと駆け込んでいった。
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感想など何かありましたらどうぞ。
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