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BCローテーションバトル奮闘記・第六十九話:決意のコイループ の変更点


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 クリスマスイブを襲ったあの事件以降、ブラックモールは急速に復旧が進められる。大晦日を迎えても、未だに店がめちゃくちゃになって営業不可能なお店もあるものの、襲撃されなかった店舗や、損傷が軽微であった店舗はすでに営業を再開している。
 とは言っても、普段ならば年末商戦を展開しているはずのこのブラックモールに、例年のような活気は少ない。それは開いている店舗が少ないことはもちろんのこと、あの事件がトラウマになって来れなくなってしまった人がたくさんいることや、献花が大量にささげられたショッピングモールでは盛り上がる気分になれないことが何よりの原因だろう。

 ただ、そんな中でも、ブラックモールは何とかして盛り上げようと、例年通りのイベントを開催する事を決定した。そのイベントというのは、コイループと呼ばれる、商売繁盛、恋愛成就祈願の催し物である。
 『客よ来い来い、コイループ 福よ来い来いコイループ 恋よ来い来いコイループ』という掛け声と共にコイルを交換し合い、コイルが入ったボールを交換し合う。その結果、中にレアコイルやジバコイルが入っていれば、あの人はその年、商売や恋愛、健康に不自由しなくなるという言い伝えがある。
 コイルだけでもどれか一つの効果はあるのだが、レアコイルはその3倍、ジバコイルはさらにその3倍の効果があるとされている。
 あのような事件があったため、今年はきちんと行われるかどうか心配だったが、せめてこれでもやって、カズキと一緒に気分転換をしたいところである。

 年末、年越しの番組を見ていると、時間はあっという間に午後10時を迎えていた。
「そろそろ寝るかな……」
「あら、キズナは年越しの瞬間まで起きていないの?」
「ねーちゃん、夜更かしは胸が小さくなるし、肌にも悪いぞ」
「……うっせぇやい、キズナ」
 ねーちゃんからの質問に答えるかわりに、俺は憎まれ口を叩いて二人の部屋に向かう。
「よく眠っているな……」
 早く皆に慣れて欲しいからと思って、ボールの外に出していたチラチーノのスズランは、アサヒと一緒になって布団を被っていた。冬だから体毛はものすごく豊かになっているものの、それでも寒いものは寒いらしい。布団に包まったり、他の人と一緒に寝たりすれば暖かい。
 そんな単純明快な共同作業を行うことで、2人は仲良く仲間意識を高めあっているのだろうか。
「……カズキ」
 スズランを見ていると、またあの時の光景が浮かんでくる。
 不安になったときは、コロモやねーちゃんが優しくしてくれるけれど、やっぱり俺はカズキが隣にいて欲しかった。
 そんな事を思っても、あいつにはあいつの都合があるから、いつだって会えるわけじゃないのは分かっているのだけれど。カズキは、現在ランドロスの調教に手間取っているようだ。ランドロスは夢の世界から強引に連れてこられたおかげで非常に強いストレスに常に苛まれており、現在誰にも心を開かない状態なのだという。
 育て屋にいるポケモン達の手を借り、アロマセラピーや癒しの鈴などの手段を用いて何とか落ち着かせようとしているものの、やはり難しいものは難しいそうだ。強力なポケモンだけに、懐いてしまえばかなりの戦力になるだろうが、そうするにはまだまだ時間がかかるそうだ。
 そんな忙しい状態でも、俺のわがままに付き合ってくれるというのだから、感謝しなくっちゃな。
「それとも案外、息抜きに俺と会いたがっていたりして……」
 願望を小さな声で口にして、俺はスズランとアサヒが眠る布団に包まる。すでに暖められた布団の中は、入った瞬間から快適であった。先んじて暖めてくれた2人に感謝して、顔を撫でて軽く口付けをし、俺は眠りにつく。
 明日はカズキと会えると思うと、胸が躍った。


 朝、食事を終えてからテレビをつけると正月を祝う特番がそこかしこで行われていた。だからといっていつもより面白いかといえばそういうわけでもなく、最近心が麻痺してきている俺には、なんだか鬱陶しいものでしかない気がした。前までは、楽しんでいたんだけれどなぁ……そう思うと、少し寂しかった。
 クリスマスイブのときと同じでコイループは正午から開催される、ふと時計を覗いても待ち合わせの時間にはまだまだたっぷりとある。
「走るかな……」
 暇で暇で仕方が無いので、俺は時間を潰す事にした。ポケモンと一緒に走れば、気も紛れてくれるだろう。

 走って、帰って、着替えて。俺はブラックモールへと向かう。待ち合わせのフラワーショップの前まで走っていくと、そこにはすでにカズキが待っていた。
「あけましておめでとう、カズキ」
「あけましておめでとう、キズナ。やっぱり、メールよりも直接言った方が気持ちいいね」
 擦り傷切り傷など、所々怪我をしているカズキは、俺の顔を見て開口一番にそういった。
「あぁ、そうだな、カズキ……それで、その怪我……」
「やっぱり、気になるよね?」
 気にならないわけが無い。見える範囲では頬に脱脂綿を当てているくらいだが、全身から薬の匂いが漂ってくる。全身に薬を塗っているということは、相当やられているようだ。
「まぁ、察しているとは思うけれど、これはランドロスにやられたの。ほら、腕も……」
 しれっと言い放って、カズキは袖を下ろしてみせる。左手首には、包帯が巻かれていて、怪我がどうなっているかは見えないものの、結構広い範囲が傷ついているようである。
「引っかかれちゃってさ。しかも、その威力が可愛くないの。今は防具があるから引っかかれはしないけれども、それでも地震とか岩流れを食らったら防具越しでもかなり痛いし。今はもう、レンジャー用の装備と同じ素材で作られたプロテクターがあるから引っ掛かれた程度じゃどうってことはないけれどね」
 カズキは得意げに笑っている。実は、その下は案外そんなに重症でもないのかと邪推してしまうほどに。
「大丈夫なのか、お前……?」
「うん。破傷風の予防接種はきちんと受けているし、消毒もきちんとしている。まぁ、動かすと痛いけれど……タブンネとかに直してもらっているから治りも早いし、そこまで辛くないよ……むしろ、ルギアと連日戦った結果、風邪を引いちゃった母さんのほうがつらいと思う」
 少し誇らしげにカズキは笑う。

「ルギ……お前……どおりでこの頃嵐みたいな暴風雨が続くと思ったな……。というか、お前は俺と同じでポケモンとは拳で語り合っているのな。お互い物好きだな」
 ランドロス相手によくやるよ、と俺は苦笑する。
「いや、さ。母さんの真似をしてみたんだ。ポケモンと拳を交えたほうがポケモンと信頼も築けるし、命令を聞いてくれるしって……でも、言うほど楽じゃないね」
「そりゃ、俺だって今はもうタイショウに勝てなくなっているからな。ポケモンは成長が早いし、何よりランドロス……伝説のポケモンなんだろう? むしろよく死ななかったって言うか、死なないだけでもすごい気がするぜ?」
「馬鹿、俺1人で戦っているわけじゃないよ。鞭を持って、ポケモンたちと一緒に襲い掛かってくるランドロスを攻撃しているんだ。相手が、動きたくなくなるまで……無抵抗でいたら死んじゃうからね」
「そりゃ、一人で戦ったらさすがに死ぬよなぁ……四天王やチャンピオンクラスのトレーナーが戦っていても、流れ弾で死んだ奴も……いるみたいだしな」
「ママンとかね。そうやって死なないように、コッチモ対策はいろいろしているよ」
 カズキはそう言って、目を伏せた。
「ランドロスと俺達。どちらが上か、分かるまで戦って……それでもって、抵抗は無駄だと分からせたら、今度は従う事を覚えさせて……やることは一杯だよ、本当」
「カズキ……お前はすごいよな。ランドロスをゲットできるだなんて」
「運がよかったんだよ。代わりに、運が悪かったけれど。キズナだって、パルキアをゲットできそうだったんでしょ? ジャミングが無いか、ボングリ製のボールがあればよかったのにね」
 俺達2人は、寒空の下でとりとめもない会話をする。そのうち、外にいるのも馬鹿らしくなったので、俺たちは室内に入って暖かい空気を堪能する。フラワーショップでは、献花用に売れたためなのだろう、店内に残る商品は寂しげな品揃えになっていた。元々、多くのお客さんが常に入っているというお店でもないため、このお店は襲撃されることもなかったらしく、綺麗なものである。
 俺たちは、あまり高価な花は買えないが、一応こういうのはやっておくべきと、この場所を待ち合わせに選んだのだ。
「ところで、キズナはチラチーノはもう懐いた?」
「うん、すっかり懐いてる。主人をなくしても、塞ぎこむよりみんなと仲良くした方が健全だって考えているみたい。手話での挨拶はもう覚えたよ」
「へぇ……相変わらず、手話を教えるのが上手いなぁ」
 そんな他愛のない会話を楽しみながら、俺達2人は花を一本ずつ購入して、慰霊のための花がささげられている場所へと花をささげる。こんなことで死人がどこまで救われるかは分からないけれど、ないよりはましだろう。

「時間も、ちょうど良いな」
「うん……」
 それを終えて時計を見ると、時間は11時50分。コイループが行われる、ブラックモールの商店街中央広場まで歩いていけば、始まるころにはたどり着けるだろう。
「……正月なのに人も少ないし、ポケモンと一緒に行こうぜ」
「そうだね、せっかくだし」
 俺達2人は、ポケモンを繰り出していく。カズキは、ランドロスのハクを除く5体を。俺は6体全てを繰り出した。改めてみてみると、俺の手持ちはダゲキ、コジョンド、ルカリオ、エルフーン、ガバイト、チラチーノと、俗に言う女の子らしい可愛いポケモンが目立っている。
 カズキはまぁ、ヘラクロス、ストライク、ガマゲロゲ、バルジーナ、サンダースに加えてランドロス。ちょっと弱点がかぶっているポケモンが多いのが気になるところだ。

 普段はこんなにたくさんのポケモンを出したら迷惑だし、元旦ともなればなおさらだから、、本来ならば今日はポケモンを出すことは諦めるべきであっただろう。しかし、今日は本当に客が少ない。
「みんな……一週間ぶりにここに来たけれど、大丈夫か? 怖くないか?」
 と、そんな事を考えている場合ではなかった事に俺は気付く。よく考えれば、俺のポケモン達も存分に恐怖を味わった場所なんだ。けれど、ポケモンたちはそんな事を気にしている様子でもない。
「大丈夫だってさ……まぁ、俺はブラックモールの外で戦っただけだもんな。で、キズナ……君のポケモンはどうかな?」
 カズキもそんな事を言う始末だ。一番心配だったスズランはといえば……カズキはしゃがんで彼の目を見ている。
「……ここは嫌いかい? うん……そう」
 一通り聞き終えたカズキは、立ち上がって俺のほうを向き直る。
「嫌な思い出はあるけれど、楽しい思いでもあるから大丈夫って。そっか……君は何度も可愛がって貰ったんだね」
 言うなり、カズキは再びしゃがみこんで彼の頭を撫でる。スズランは、もっと撫でてくれとばかりに頭を差し出し、カズキに甘える。
「こういうところで警備員さんが連れているポケモンって、個性が出るよね。君は可愛いから、人気者なんだ」
 そう言ってカズキはスズランを抱き上げる。
「すごいな……このスズランって子はクリスマスイブの時は部屋の隅っこでいじけているだけだったし、触れ合ったのはこれが初めてだろう? それなのに、こんなになついてもらえるものなんだな……キズナも、ポケモンの扱いが上手になったんだね」
「この子、人懐っこいからさ。だから楽だっただけだよ」
 確かに、スズランは人懐っこいな。26日には、家族全員からエサを受け取るようになったし。
「こんな幸せな人が多いところの警備員をやっているのなら、人が好きになるのも当たり前かもね」
「だよな……」
 気持ちよさそうにカズキに撫でられているスズランを見ていると、こっちまで幸せな気分になってくる。

「なぁ、カズキ」
「ん、何?」
 俺の呼びかけに、カズキが振り向いた。
「後で俺の事も撫でてくれよ」
「キズナ……頭でも打った?」
 カズキは笑いながら、そんな事を聞いてくる。
「カズキの行動に胸を打たれたかな」
「なら仕方ないね」
 カズキは笑いを堪えながら立ち上がる。
「キズナにも、嫉妬する心があったんだ。しかもポケモンに嫉妬しちゃって、可愛い所あるじゃない」
「嫉妬じゃねーよ。うらやましいとは思ったけれど、それが高じて憎たらしいと思うまではしてないし」
 あまりムキになるのも格好悪いと思ったが、照れていることが丸分かりな態度を取ってしまう。ダメだ、すごく恥ずかしくなってきた。
「いいよ、何でも。キズナがそうして欲しいならそうするし。俺はキズナが好きだからね」
 発言するカズキの目が泳いでいる。カズキもまた恥ずかしがっているようだが、嬉しい事を言ってくれる。
「ありがとう……カズキ」
「そんなこと言わないでいいよ……まだ口約束だけだから。実行した時にでも行ってよ」
 いかにもむずがゆそうな顔で言って、カズキは笑って誤魔化した。お互い、まだまだ恥ずかしがっているのがわかり、なんだか気分も乗ってきた俺は、カズキの腕を抱いて歩く。カズキは何も言わずに、ただ腕を抱き返してくれた。

 そのまま、ぞろぞろとポケモンを引き連れて中央広場まで行ってみると、見慣れたポケモンが姿を見せていた。
「オノノクス……ねぇキズナ、あれって……」
「アクスウェルだな……ねーちゃんもいるぞ」
 背の高さから嫌でも目立つオノノクスの周囲には、案の定ねーちゃんがいた。
「……あれ、誰だ?」
「知らない人?」
 しかし、そのねーちゃんも、30代前半くらいの男と親しげに話している。ただ、その会話は、不自然なくらいに口を大きく開き、また手話を交えている。コロモやクラインも、一緒になって話して意思疎通している。
「ありゃ……なるほど。あの人耳が聞こえていないんじゃ……ほら、補聴器」
 抱いていた腕を放し走って近寄ってみると、話している男性の耳には補聴器があった。
「あぁ、なるほど……そういう。キズナもよくまぁ気付くね」
 カズキも、それに気付いたようで、走るのをやめて歩いて近寄る事にした。
「や、キズナにカズキ君」
 ポケモンをぞろぞろと引き連れているせいか、いやでも目に入ったのだろう。ねーちゃんはこっちを見て手を振った。
「ねーちゃん……来てたなら言ってくれればいいのに」
「いやぁ、キズナにはメールしたんだけれどね……気付かなかっただけじゃない?」
「え……?」
 というねーちゃんの言葉に、慌てて携帯電話を確認してみる。

「あー……本当だ。バイブ切ってたな……」
「ま、そんなこと良いじゃない。そんなことより、この人なんだけれどね」
 と言って、ねーちゃんは嬉々として目の前の人を紹介し始める。紹介と言っても、ねーちゃん曰く出会ったばかりの人のようで……耳が聞こえなくて、だから手話で会話ができる。後は名前がトモキであること、それくらいのことしか知らないようだ。
 フランクフルトやホットドックなどを車で売っている移動販売の店員との意思疎通が出来なくて、仕方なくスマートフォンの入力を使って話をしようとしたところ、どうにも調子が悪かったらしく、なかなか意思疎通も出来ずに困っていたらしい。
「そこを、私が助けたと言うわけなんだけれど……店員さんが頼まれたものを持ってくるまでの間に、コロモがね……手話で話しかけたの」
 紹介を聞いている間に、人もたくさん集まってくるので俺達2人はポケモンをしまう。ねーちゃんは……手話をさせるのが楽しいのか、アクスウェル出したままだ。いいのかな?
 ねーちゃんは、隣にいるトモキさんにも分かるように、口の形をはっきりとさせるように喋り、なおかつ手話を交えて喋る。なるほど、口の形で喋っている言葉を理解しているから、あんなに大口で話していたのか。
「『そうです』『まさか』『ポケモン』『喋る』『思わない』……まさかポケモンが会話するとは思わなかったってさ」
 トモキは手話でそう言い、恐らく付いていけないであろうカズキのために、俺が通訳をする
「『私も』『そういう子』『欲しい』……へぇ。ねーちゃん、『売って』『あげたら』?」
「え……」
 続けて手話で話す男の言葉を、俺は姉に振る……。
「売る……か」
 すると、ねーちゃんは考え込んでしまった。元々そのつもりだったはずだけれど、いざ手放すと考えると……まぁ、そうなるよな。
「いや、そうですね……私もいつかは、この子達の販売を考えていましてね」
 しかし、売るという行為を躊躇するわけではないらしく、ねーちゃんはトモキさんにそう告げる。
「ですから、無料で譲ると言うことはできませんが、その……あ」
 会話の最中に、コイループの開催の合図となる音が聞こえる。
「話は中断みたいだな。始めようぜ」
 と、俺が言うと、トモキさんは『そうですね』と言って話を中断した。
 特設のステージからは、司会の女性が現れる。司会の女性は、真っ白な振袖の上半身と、赤い袴の下半身。いわゆる和服の礼装である。
 まぁ、流石にクリスマスイブの事件の事を意識しているのだろう。

「今日は寒い中、皆さんよく集まっていただきました。先日のプラズマ団による瑕もまだ癒えておらず、今年は例年のような活気はありませんが、それでも訪れてくださった皆様には、感謝の気持ちを表現しきれないと感じます」
 そんな挨拶と共に、長々と話は続いた。要点だけを纏めると、痛ましい事件があったけれど、このコイループでみんな幸せを呼び込もう……との事。今回の襲撃で死んでいった人たちのために黙祷をささげると、ようやくコイルが入ったボールが配り始められた。
 配られるボールは、それぞれハイパーボールだったりゴージャスボールだったり、様々なボールの中に入れられている。中にはマスターボールなんかも配られているように思えたが、よく見るとMではなくWの文字が書かれているワスターボールというジョークグッズだったり、なかなか洒落が利いている。

「カズキ。レアコイルやジバコイルがあたるといいな」
「そうだね。狙って出来るものでもないけれど」
 ボールを手に持つと、それだけでなんだかワクワクする。俺は一旦カズキの手を引きねーちゃんから離れて、カズキと一緒にコイループを始める事に。
 コイループは、笛と太鼓の音色に合わせて掛け声で囃し立てて、ボールを交換し合う。その太鼓と笛の音を奏でる奏者も特設のステージに入場し、敷かれた座布団の上に正座する。俺たちはワクワクしながら顔を見合わせて……トンッ、と小気味よい音が太鼓から鳴り響いた。
 司会の女性はマイクで声を張り上げて、交換しましょう交換しましょうと、催しに訪れた客を囃し立てる。そして、掛け声である『客よ来い来い、コイループ 福よ来い来いコイループ 恋よ来い来いコイループ』と、率先して場を盛り上げた。
「客よ来い来い、コイループ 福よ来い来いコイループ 恋よ来い来いコイループ」
 その司会の言葉に追従するように、俺も声を上げる。カズキも一緒に声を上げ、次第にそれは大合唱となっていた。笛の音と太鼓の音は鳴り止まず、俺達2人は肩を寄せ合いながら歩き回り、掛け声と共に見知らぬ誰かとモンスターボールを交換し合う。
 ごった返す人の流れの中、ねーちゃんもまたコシが歩くに任せながら交換し合っており(流石にアクスウェルは邪魔になるのでボールにしまっていた)存分に楽しんでいるようである。大声を張り上げ、歩き回り、着てきた服が分厚い防寒具だというのもあるが、そうしているうちに体が温まってきた。
 まだ汗をかいたり、胸元を開いたりするほどの暑さは感じなかったが、寒さを気にしなくなるというのはいいものだ。そのころになってようやく音楽は止まる。

「終わったみたいだな……カズキ」
 僅かに荒くなった呼吸を落ち着けて、俺はカズキの顔を見る。動き回ったおかげか、一樹の顔は上気していて、少しだけ頬が赤くなっている
「いや、まだ後ちょっと続くよ」
「さぁ、皆さん。音楽は止まってしまいましたが後3回交換をしてください」
 静かになったイベント会場で、司会の女性の声が聞こえた。
「本当だ……」
「さ、あと一息」
「『客よ来い来い、コイループ』」
 司会の女性の掛け声と共に、太鼓が1つ鳴る。俺は目の前のおばさんと交換した。
「『福よ来い来いコイループ』」
 太鼓の音色が2つ。すぐ近くにいた小学1年か2年ほどの男の子と交換する。
「『恋よ来い来いコイループ』」
 最後に、俺はカズキの手を引っ張り、カズキのボールと交換した。手元にはヒールボール。カズキの手元にはプレミアボールが残った。
「……最後にキズナと交換?」
「いやほら、最後は一緒がいいじゃないか?」
 そう言って俺は、カズキに笑いかけてみせる。
「……そだね」
 カズキは少々照れたような様子を見せて、僅かに目を逸らしていた。
「それでは皆さん。モンスターボールを開いて、中にいるポケモンからお守りをもらってください!」
「だってさ、キズナ。せーので出そう?」
「おう……せーの!」
 俺たちは2人そろってボールの開閉ボタンを押す。中に入っていたのは……コイルと、コイルだ。
「あっちゃー……はずれだぁ」
 はずれだと言うのに、とても楽しそうな様子でカズキが言う。
「人生そんなに美味くいかねぇかぁ……」
 もちろん、コイルについているお守りは、普通の木彫りのコイル。しかし、そんな中……
「当たったぁ!!」
 と声を上げたのは……
「ねーちゃん……」
 である。ねーちゃんはレアコイルを引きあてて、水晶のレアコイルのお守りをその手に握り締めている。
「この中で、レアコイルを持っていた人は、幸運な人です。今年一年、運勢に困ることはないでしょう。そしてジバコイルを持っていた人は、幸せ者です。嫉妬されるレベルで幸運を呼び込むでしょう。でも、ギャンブルには効果が無いのでご用心ですよ。
 そして、色違いのコイルを持っている人は、これはもう他の人まで巻き込んで幸福になるでしょう! さぁ、皆さん。普通じゃないコイルを持っている人は高々と掲げてください」
 アナウンスが鳴り響く。ほかにも、ジバコイルを当てて銀のレアコイルを得た者、色違いのコイルを当てて純金のコイルを得た者がいる。それに比べると、ねーちゃんの商品である水晶のコイルは格が劣ってしまうが、十分すごい運であることには変わりない。

「ねーちゃん、すごいな」
 俺は駆け寄って、話しかける。ねーちゃんは金属光沢が美しいコイルの冷たい表面を撫でている。
「で、でも……髪が逆立っているね」
「ひゃっ!? ほんとだ」
 それだけで電気がたまってきたのか、カズキの指摘どおり髪の毛が逆立ってきていたが、車椅子から伸びたギザギザの触手がその電気を吸い取り、ねーちゃんの逆立った髪を治していた。
「あは、ありがとう……コシ」
 さすが電気タイプ。こういうことも出来るんだなと感心しながら、俺はねーちゃんの様子をうかがう。コイルたちが持っていたアイテムは持ち帰り自由だが、コイルたちポケモン自体は主催に返さなくてはいけない。
 だと言うのに、ねーちゃんはレアコイルを未だにいとおしそうに撫でながら、何かを考えている。場内には、お守りを回収し終わったらコイルをボールに収納して返却してくださいというアナウンスが鳴り響いている。
「キズナ、カズキ君」
 やがて、思い出したようにねーちゃんが俺たちの名前を呼ぶ。
「無病息災、恋愛成就、商売繁盛……それが、このレアコイルがもつ福を呼ぶ力だったわね……?」
「あ、あぁ……それが?」
「はい、コロモ……お願い」
 俺が答えると、ねーちゃんはようやくレアコイルをボールの中に仕舞い、それをコロモに渡して、職員に届けさせる。
「……さっき、あの人。トモキさんに話しかけられたときから、ずっと考えていたの。私がやるべきことはなんなのかって」
 そう言って、ねーちゃんは深呼吸をする。
「クラインは、もう十分販売可能な域に達している。まだ介助ポケモンとしての申請を受けていないだけで、受ければタイショウやコロモと同じように、十分に受かるレベルだと思うの。
 だから、さ。あの人だって、クラインを欲しいって言っていたし……あ、どうも」
 話しているうちに、トモキさんが現れる。彼も普通のコイルだったらしく、手に持っていたお守りは木彫りのコイルであった。
「……クライン、出てきて」
 その姿を確認して、ねーちゃんはクラインを出す。メスのサマヨール……人を呪ったり呪われたりするのが好きな変態だが、根は優しくていい子だ。手話もそれなりに出来るし、腕力もそれなりに強ければ、サイコキネシスも使える。壁を透過する事も出来るし、痛みわけは場合によっては主人の回復にも使える。
 おまけに、進化させれば多少ならば空も飛べるし、至れり尽くせりのポケモンだ。
 見た目を除けば、介助ポケモンとしての質はコロモと比べても劣りはしないだろう。
 繰り出されたクラインは、どうしましたか? と、手話で問いかける。
「色々と考えていることがあってね……まずは、トモキさんに挨拶して」
 手話交じりに、下されたねーちゃんの命令に、クラインは素直に従って『こんにちは』と言う。トモキさんは笑ってこんにちは、と返してねーちゃんを見る。
「『私は』『何をする』『いい』……私は何をすればいいんだ? って」
 トモキさんが言う。ねーちゃんはそこで、先程の話の続きを始めた。
 介助用のポケモンを育てるポケモンブリーダーが将来の夢であること。
 そして、タイショウやコロモのポケモンはすでに介助ポケモンとしての資格を得ているために販売可能なくらいの域に達しており、クラインもいずれはそうなると言うこと。
 そして、生々しい値段の話になってしまうがクラインは値段としては大体150万程度は見なければいけないと言うこと。そういった事を話す。
 先程まで、こういうポケモンが欲しいと言っていたトモキさんも、値段の話を聞くと『手が出ないな』と言う風であったが、それを度外視して話を聞いている。
「私のポケモンは、全員ポケモン協会公認の資格を得させてから、売りに出そうと思っています。そして、それならば障害者認定を受けた人に料金の補助申請も通ると思いますし……でも、それをするには誰かがうちの子と生活して、その有用さを認めさせなければいけない……ですから」
 一旦、ねーちゃんが口ごもる。
「機会があったらレンタルしませんか? 無料で」
 ねーちゃんは、トモキさんに向けてはっきりとそういった。手話も、口の動きも、分かりやすい。トモキさんは、驚いた表情で『考えておきます』と返した。
「分かりました……では、メールアドレスを交換しましょうか」
 ねーちゃんのその提案にトモキさんは頷き、スマートフォンを差し出して赤外線通信をする。そのあとも、クラインと手話で話したり、撫でてあげたりと、トモキさんはずいぶんポケモン慣れしているようである。
 話す内容は人間のような会話は出来ず、トモキが『ご主人は好きかな?』と言えば、クラインが『うん、好き』とか、そんな感じの簡単なもの。
 けれどそれだけの会話でも、ポケモンとコミュニケーションがとられると言う事をトモキさんは喜んでいるらしい。ねーちゃんと別れるころには、すっかりと打ち解けていた。


「アオイさん……ついに、決心したんですね。ポケモンを売ること」
 これまた襲撃されずに生き残ったファストフード店の中、テーブル席でポテトをつまみながらカズキが言う。
「うん。幸先よくレアコイルが当たったことだし……トモキさんとも出会えたし。こういうの、運命なのかなって……」
「運命ねぇ……なんというか、そういうのはもっとこう、いい男に出会ったときに使った方が様になると思うんだが……」
 と、ねーちゃんの言葉い俺は苦笑い。
「カズキ君みたいに?」
 そんな俺の言葉に対して、鬼の首を取ったようにねーちゃんが言う。
「そうだけど、茶化してもいいことないぞ」
「れ、冷静に返すねぇ……キズナ。俺は照れてるのに」
 と、カズキは目を逸らした。
「俺はねーちゃんに茶化されることなんて慣れたから」
 もう、茶化される事には慣れたんだよ、カズキ。
「で、ねーちゃんは俺たちに頼みたいことがあるらしいけれど……どうするんだ、具体的に?」
「ビデオを撮りたいの。私達は、シラモリ育て屋本舗の名前を借りてポケモンを売りに出すから……育て屋のブログにアップして、宣伝できるようなビデオを。聴導ポケモンや、介助ポケモンとしても活躍できる様を、撮りたいの。
 介助ポケモンとしての宣伝については、私が実際にやって見せる。けれど、聴導ポケモンのほうは……誰にやってもらおうかと考えたんだけれど……もし良ければ、キズナにやって欲しいの。ヘッドフォンで大音量の音楽でも聴きながら街を歩いてさ……貴方ならば、ポケモンと手話も出来るし」
「ふーん……なるほど。周囲の音が聞こえないってのは結構不安だが、ポケモンがその不安を解消してくれるって訳か。いいじゃないか、やってみようぜ」
 面白そうというわけではないが、ねーちゃんがこうして本格的に動こうとしてくれたのが嬉しくって、俺は当然のように乗り気になる。
「ありがとう……キズナ。そして、カズキ君には撮影をお願いしたいの……いや、もちろん嫌ならほかを探すけれど……一番親しくって、信頼できる人に頼みたいから、さ」
「いいですよ。アオイさんは、将来シラモリ育て屋本舗に就職させたいってスバルさんも言っていましたし、ちょうどいいですね」
 ねーちゃんの頼みには、カズキも乗り気だった。すごいな、ねーちゃんは……一生懸命頑張っているから、こうやってすぐに協力者がついてくれる。俺も、ポケモンレンジャーになるっていう夢に向かってがんばらねーとな。
「そのためにも、まずクラインに資格検定を受けさせないと。今はお正月だから、検定機関はお休みだけれど……応援、してくれるかな?」
「あぁ!」
「はい!」
 その言葉に、俺もカズキも異を唱えるはずはなく、2人そろって即答する。当たり前だ、最高の門出にしてやらなきゃ!

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今日は、キズナのデート気分を邪魔してしまうかなと思いつつも、下半身不随になったり、テロに巻き込まれたりと言う去年の厄を祓うためにも、コイループ祭りに参加をしました。
その際、トモキさんという難聴の人に出会い、その人が話が通じず困っているところを助ける事になったのだけれど。コロモはその時外に出ていたのだけれど、私達以外に手話で話せる人が珍しいのか、彼はトモキさんに話しかけていた。
それで、トモキさんと私のポケモン達は意気投合。アクスウェルやクラインも一緒になって、トモキさんとコミュニケーションをとっていた。

そんな発想すらないから知らなかったけれど、きっと私のポケモンたちは私達以外の人間ともコミュニケーションをとってみたかったのだと思う。
だから、あの時のポケモン達の活き活きとした表情は忘れられない。
その時、私は初めてあの子たちを売ってみたい(本当なら譲りたいところだけれど、生活もあるからこういう言い方に)人を見つけられたと思う。
私のポケモンを大切にしてくれる人、役立ててくれる人。トモキさんになら、クライン達を任せられると。

それに加えて、コイループの結果私はレアコイルを手に入れたんだ。商売繁盛……商売とはまた違うのかもしれないけれど、クライン達が成功するための後押しをしてくれているような。そんな気分がする。
だから、私は動き出そうと思う。協力してくれる仲間だっている。見守ってくれる人達がいる。ならば、出来ないことはないはずだ。


RIGHT:1月1日
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LEFT:



**コメント [#q17b8583]
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[[次回へ>BCローテーションバトル奮闘記・第七十話:ランドロスを慣れさせろ]]

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IP:223.132.192.191 TIME:"2014-05-16 (金) 00:02:45" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=BC%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%88%E3%83%AB%E5%A5%AE%E9%97%98%E8%A8%98%E3%83%BB%E7%AC%AC%E5%85%AD%E5%8D%81%E4%B9%9D%E8%A9%B1%EF%BC%9A%E6%B1%BA%E6%84%8F%E3%81%AE%E3%82%B3%E3%82%A4%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97&refer=BC%E3%83%AD%E3%83%BC%E3%83%86%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%83%90%E3%83%88%E3%83%AB%E5%A5%AE%E9%97%98%E8%A8%98%E3%83%BB%E7%AC%AC%E5%85%AD%E5%8D%81%E5%85%AB%E8%A9%B1%EF%BC%9A%E5%BE%8C%E5%A7%8B%E6%9C%AB" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 10.0; Windows NT 6.2; WOW64; Trident/6.0; MALNJS)"

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