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1対7のかくれんぼ の変更点


作[[呂蒙]]



「リクソン、食器、流しのところに置いておくから」
 エーフィが超能力で食器を宙に浮かべて、シンクのところに丁寧に置いた。これができるようになるまで結構訓練した。というよりもさせられたという。実家にもポケモンはたくさんいたのでエーフィがそれほど特別な存在だったわけではないが、超能力とはどうも人間にとって興味のある物らしく、リクソンの父親が半ば面白がって訓練させたのである。
「あー、悪いな」 
 リクソンは、そう言って食器を洗い始めた。
 大学での試験も一段落し、その日はたまたま大学がなかったので、リクソンたちは自宅にいた。何にもない日というのもたまにはいい。家でゆっくりして一日を使う、というのはリクソンにとってはぜいたくなことだった。
 といっても、家にいるだけなら休みの日ならいつでも、なのだが、家でのんびりゆっくりするした、という記憶はリクソンの中には無かった。7匹のポケモンと同じ屋根の下で暮らしており、とても静かに読書という環境とは程遠かった。
 7匹いれば、何かしら問題は起きるし、何かを要求してくることもある。最初はうんざりだったが、慣れとは恐ろしいものでその内、何とも思わなくなってしまった。むしろ、何も言ってこないと妙に寂しい気持ちになってしまうことさえある。
 昼食の片付けが済んだリクソンは、自分の部屋で、次の試験の勉強をしていた。といっても、板書を移したノートを読み返しているだけだが。
 しばらくして、部屋のドアを叩く音がした。
「ん? 誰だ?」
 ドアが開く。部屋の中にサンダースが入ってきて、こんなことを言った。
「リクソン、暇」
「え? オレが今暇かって?」
 暇かと言われば暇だが、一応テスト勉強をしている途中でもあるので、暇ではないとも言える。
「違うって、暇だからどっか連れてけって言ってるんだよ」
「あ、そっちの意味ね」
 しかし、どうしよう? 頼みのバリョウやカンネイは明日テストだって言っていたし、リクソンも4日後にテストがあるので、できれば「忙しい」と言おうかと思ったのだが、要求を突っぱねると、根に持たれてあとあと厄介なのだ。
「バショクん家はダメだってよ。明日テストだから忙しいんだと。リクソンは暇でいいな」
「うるさい。たまたま明日テストがないだけだ。暇人みたいに言うな」
 念のため言っておくと、テストがなくてもレポート提出などがあるので、結局、負担は変わらないのだ。リクソンは何か考える。確かにずっと家でテスト勉強をしてないで、少しは外へ出たほうが良いかもしれない。そこで、考えた。
「サンダース」
「ん?」
「今日の晩飯、何が食いたい?」
「何だよ、唐突に。うーん、さっき食ったばっかだしなぁ……」
「皆に話があるから、リビングに皆を集めろ」
「ああ、わあったよ」

 ◇◇◇

 数分後、リクソンは手持ちの7匹を前にこんなことを言った。
「今日はみんなが食べたいものをご馳走してやろうと思う、が、世の中そんなに甘くない。条件が一つある」
「うーん、そっか。わかった」
「ん? サンダース。条件て何か分かるのか? まだ何も言ってないぞ?」
「さっきやってないから、リーフィアとここでやらせろと、リクソン、そういうことはっ……」
「最近、やってないから、リーフィアとここでやらせろと、リクソン、そういうことはっ……」
 サンダースの言葉はここで途切れた。横にいたシャワーズの容赦ない尻尾攻撃が、顔に直撃し、サンダースはフローリングに叩きつけられた。しかし、なおも言葉の応酬が続いている。
「まったく、何であんたはそーいうエロい発想しかできないわけ?」
「冗談を言って何が悪いんだよ、バカ!」
 言葉の応酬が続いているが、リクソンは無視して先に進めた。
「で、条件だが、かくれんぼでオレが7匹全員を制限時間内に見つけられなかったら、好きなものをご馳走してやろう」
「ああ、読めたぞ、皆が隠れてる間に、リクソンは部屋でリーフィアとやっちゃうわけだな」
「オーロラビーム撃っていい?」
「お返しで雷を落としてやる」
 さらに続く言葉の応酬。
「ええい、そこ2匹黙れ!」
 リクソンの一喝の後、ルール発表となった。隠れた7匹をリクソン一人で探さねばならないのだから、ある程度制限を付けなければならない。制限といっても非常識なものではない。隠れることができるのは家の中だけ、ただし屋根裏や天井は除くというものだ。制限時間を除けばルールはそれだけだった。あとはズルしたら負けで、7匹の方は連帯責任ということだけだった。
「何か、質問は?」
「私たちが負けたら、どうなるんですか?」
「あ、考えてなかったな。んー、そうだな、じゃあ、肩叩きとか、風呂掃除とかしてもらおうかな。代わりに晩御飯作れってのは無理でしょ」
「結構、普通ですね」
「じゃあ、エーフィとグレイシアの濡れ場を見せてもらう」
「いいんじゃないですか。お姉ちゃんスタイルいいですし。ポケモンの中じゃ可愛いとか綺麗な部類に入ることは間違いありませんから」
「……」
「じゃあ、隠れる時間に15分やるから、皆隠れてくれ。公平なゲームにしたいから、その間はオレは外にいるよ。その後、7匹を1時間30分以内に全員見つけられなかったら、オレの負けだ。で、見つけられたら……」
「濡れ場ですねっ」
「……ま、まぁ始めよっか」
 リクソンは外に出た。外は夏らしく暑い。額の汗をハンカチでぬぐうリクソン。
(やれやれ、冗談でもああいうことは言うべきじゃなかったな)
 じりじりと照りつける太陽がリクソンを襲う。家の中では冷房を効かせていただけになおさら熱く感じる。リクソンはすぐ近くのコンビニでよく冷えたジュースを一本買い、それを飲み干した。喉を冷たい液体がつたっていく。その場しのぎかもしれないが、何もしないよりははるかにマシだ。空になったペットボトルを屑かごに投げ入れ、リクソンは玄関前に戻った。
 腕時計で15分たったことを確かめ、家の中に入る。やはりエアコンをつけていたため、外の暑さがウソのようである。いたずらに電力を浪費するのは良くないが、暑いものは暑いのだ。
 廊下を歩く。まず目指すは2階の自分の部屋である。ここにあるリクソンの机の引き出しには、この家の見取り図が入っている。これにシャープペンシルで印を付けておけば、どこを探しているかいないかがすぐに分かる。
リクソンは家の見取り図を見て少し考える。家の中で隠れるとすれば一体どこがあるだろうか? 屋根裏や天井に隠れるのはルールで禁止しているので、隠れるとするならば、この家の部屋のどこか、ということになる。真っ先に考えたのが、クローゼットあるいは押し入れの中だ。けれど、誰もが真っ先に思いつきそうな場所に果たして隠れるだろうか? しかし、裏の裏をかいて隠れているということもあり得る。
 考えていても埒が明かないので、とにかく探し始めることにする。まずは自分の部屋からだ。リクソンの部屋には大きな本棚がある。リクソンは、本と背板の隙間に隠れているのではないかとも思ったが、さすがにこのわずかなスペースには隠れることはできなかったようだ。次に壁に貼ってある世界地図が目にとまった。これを外して壁に何らかの方法で壁に穴を開けて、その後再び世界地図で穴を隠したとしたら、どうだろう? そっと外してみるが、壁に穴など開いていなかった。考えてみれば、そんな家を壊すようなことをすれば、いくらリクソンでも黙ってはいない。それに何らかの方法で壁に隠れて、外を元通りにしたとしても15分でそんな大掛かりな作業ができるはずもない。
 家の中を一通り見て目星を付け、もう一度部屋に戻ってきた。
(さて、と……)
 リクソンはおもむろにベッドの上の掛け布団のカバーを掴んで、ファスナーを開けた。
「あっ!」
「ブラッキー、見っけ」
「ちっ、まさかオレが最初に見つかっちまったのか?」
「そうだよ、まさかこんな所に隠れてるとはね。中身は干している最中なのに、カバーが膨らんでるなんて、どう考えても不自然だろ?」
「まぁ、いいか。オレ以外にもあと6匹いるからな。あと1時間12分で見つけられるかな?」
「見つけるのは得意技だからな、絶対に見つけてやるぞ」
 次に同じ部屋にあった洋服ダンスを探し始めた。その中で、冬物が入っているあたりでリクソンの手が止まる。
「ブースター」
「え? あっ、見つかっちゃった」
「セーターに擬装とはなかなか考えたね」
その後も次々とリクソンはポケモンたちを見つけていった。残るはシャワーズだけであった。シャワーズは水に溶けてしまうと、どこにいるか分からなくなってしまうので、その点で非常に厄介だった。そのため、リクソンは先手を打つために一通り家の中を見まわる時に、風呂の残り湯を抜いておいたのだ。家の周りで工事をやっていることもあって、物音を頼りにすることができない。となれば、隠れそうなところを重点的に探すか、隠れられそうなところを最初に潰しておくに限る。
 やがて、工事は終わったのか、工事の時の騒音はピタリとやんだ。しかし、結局シャワーズを見つけることは出来なかった。
(ほっ……)
「な~んだ、濡れ場はお預けか」
 サンダースがそんなことを言う。が、時間が過ぎたのに、シャワーズは出てこなかった。
家じゅう探しても見つからない。ずるをして家の外や屋根裏に隠れているのではとも思ったが、シャワーズはそんなずるをするような性格ではない。リクソンは6匹に探すのを手伝わせたが、結局見つからなかった。何だか嫌な予感がする。リクソンはこんなことを言った。
「もしかして誰かに誘拐されたんじゃないだろうな」
「だって、リクソンは玄関の前にいたんでしょ? 庭から入ってきたんなら誰かが気付くだろうし」
 エーフィはそう言うが、リクソンが玄関の前にいたのはほんの1、2分で、後は近所のコンビニに行っていたのだ。
「いや、暑くて喉が渇いたから、コンビニに行ってたよ。カギは面倒だから掛けなかったし」
「仮に誰かが家の中に入ってきたとしても、誰かが気付くし、抵抗もするから、家の中はもっと荒れるはずだよ」
「そうか、そうだな……。じゃあ、一体どこに?」
「リクソン、何か変わったことしなかったか?」
「うーん、工事の音がうるさかったけど、特には……。強いて言うなら、ふろの残り湯を抜いたことくらいかな? かくれんぼが終わったら、掃除するつもりだったし」
「あー、そう。もしかすると……。残り湯に溶けてたシャワーズごと下水に……」
 その時、庭の向こうにある道路の方から何か音が聞こえた。ゴトンゴトンと、重い金属製のものが何かに当たっている、そんな音である。
「……そうっぽいな」
「僕、知らないよ、どうなっても」
「あ、ああ、そうだ。今日は恪先生と会う約束があったんだ。留守番よろしくっ」
 リクソンはそそくさと家を出ていった。というより何だか逃げていくようだった。後には6匹が残された。
「匿ってもらうつもりかな」
「だろうな」
 けれど、リクソンが皆を見つけられたのと同じように、みんなもリクソンがどこに隠れるかなんて、大体分かっているから、恐らくは……。


 おわり

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