<登場キャラクター紹介・簡易版>
カンネイ(21)・ラクヨウ国立大学法学部3年・政治家一族の嫡男。家柄はいいが、生後間もなく母を亡くし、苦労して育つ。
バリョウ(21)・ラクヨウ国立大学医学部3年・医者一家の4男。白い眉毛が特徴の俊才。温厚な人物で、人前で激昂することはまずない。
バショク(19)・ラクヨウ国立大学医学部1年・バリョウの弟。明るく、あまり物事にはこだわらない性格。その一方で、博学な一面もある。
サンダース(22)・カンネイに助けられ、その家で暮らしている。振る舞いに問題が多く、周囲を困らせる。性別・牝
エルレイド(24)・カンネイに仕えるポケモン。知力が高く、カンネイの身のまわりの手伝いをする。
性別・牡
新学期が始まって、1ケ月がたった。この1ヶ月、いろいろな出来事があった。カンネイの普通の生活も大きく変わってしまった。あいつのせいで・・・。
「ねー、朝だよ?」
「・・・もっと寝かせろ・・・」
「何軟弱なこといって」
「・・・わかった、起きる」
いつまでも起きないと、電撃を食らう羽目になる。逆らわないほうが得策というものだ。何だか、知らない間に、主従関係が逆転してしまったような気が・・・。
朝食の時間になったので、1階の食堂に行く。パンにコーヒー、卵料理が出される。それらを食べていると、サンダースがテーブルに飛び乗り、カンネイが朝食を食べる様をまじまじと見つめている。
(まったく。かわいいのに、性格に問題があるな・・・)
「食べるの遅いね」
「いいだろ別に」
もうこいつに何か言われるのは、慣れてしまった。免疫がついた、ということだろう。
「テーブルから降りろ。メシぐらいゆっくり食べさせてくれ」
が、言ったところで素直に応じたら苦労はしない。仕方ない、こうなれば実力行使だ。カンネイはエルレイドを呼んだ。そして、なにやら耳打ちをした。
「・・・あまり気が進みませんが、やってみましょう」
サンダースの体がふわりと宙に浮く。
「テーブルから降りていただきます」
(やったー、大成功。『サイコキネシス』を甘く見るな)
が、心の中で大喜びしたのもつかの間。思いもよらないことが起きてしまった。
「えっ、そっ、そんなぁ」
「本気で私に超能力が効くとでも思ったの?」
サンダースは「サイコキネシス」を振り切ると、テーブルに着地した。エルレイドの超能力を操る力はかなりのもの。なのに、効かないとはどういうことだ?
「カンネイ様・・・、申し訳ございません」
「・・・くそ。ここまでは計算できなかった・・・」
「うふふ。すごいでしょ?でも、こんなのまだ序の口だから」
カンネイの計略を打ち砕いたサンダースは、得意になって言った。
大学へ行く時間となり、カンネイは家を出た。サンダースは当然のようにカンネイについてくる。置いていってもいいのだが、留守の間に家の中をめちゃくちゃにされそうなので、むしろこっちの方が安心できる。まぁ、エルレイドに監視させておけば授業中も何とかなるだろう。
ギャロップにまたがり学校に向かう。最近はこのようにして通学することのほうが多い。まぁ、定期代は浮くし、姿勢もよくなる。これと言ったデメリットもないし、まぁ、いいかな。そうカンネイは思っている。
途中、ガラの悪そうなポケモンと人間が立ちはだかっているのが見えた。最近はこういう連中が増えて、社会問題になっているという。
「おい、何か来たぞ」
「ちょっと、脅せば簡単に金品を差し出すだろう・・・」
「やっちまいましょう」
嗚呼、あわれ悪党。風のように走るギャロップをどのようにして止めるかまでは考えていなかった。一方、カンネイ側。
「あ、何かいるよ」
「カンネイ、どうする?」
「・・・面倒だ。スピードを上げろ!このまま突破するッ!!」
無謀にも、悪党のリーダー格の男とポケモンがギャロップの目の前に出て、何か言う。
「おい、と・・・」
「死にたくなければ道を開けろッ!!!!」
が、よけることができず、悪党どもはギャロップに蹴散らされた。何匹か踏んづけてしまったが、その時は気づかなかった。
数分後、大学についた。
「あー、面白かった。またやって、突破」
「できれば、もうやりたくないな・・・。何か踏んだような気がするし・・・」
「じゃ、オレは授業なんでな。エルレイド、ギャロップ。サンダースが悪さしないように見張っててくれ。」
「かしこまりました」
「で、ラウンジで待ってて欲しいんだけど、サンダースが何か買えって言ったら、これで・・・。おつり返せよ」
カンネイは、エルレイドに1000ルピー紙幣を渡し、教室へと向かった。
時間帯のせいもあって、ラウンジはすいていた。ラウンジのエアコンは心地よい風を室内に送っている。
「ねー、エルレイドー」
「何です?」
サンダースのことだ。どうせロクなことではない。
「お腹空いた」
「で?」
エルレイドはわざと意地悪をしてみた。仕えた先の者にそのようなことをするのはご法度ではあるが、日頃、こき使われているので、その仕返しの意味もあった。これくらいしてやらないと気がすまない。
すると、サンダースは、
「何で・・・、そーゆー言い方するの?私が普段あんななのは、皆が私を本当に愛してくれているか試しているだけだったのに・・・」
と、大粒の涙を流していった。
(それ、ほんとかいな。しかし、まずいぞ。この状況)
自然と、視線がこちらに集まる。だんだんこちらの分が悪くなってくる。
「も、申し訳ございません。疲れが溜まっていたので、つい・・・」
結局、サンダースが欲しがる物を買ってしまった。ゴディバチョコケーキとアールグレイティー、しめて400ルピーの出費・・・。
(高いもんばっか頼みやがって・・・)
「はぁ・・・」
「おいしーい。エルレイド、一口あげる」
「あ、どうも」
(ほんとにくれるとは、しかしこりゃ、うまい)
その後、ギャロップにもあげていた。
(・・・根は優しいのかな・・・)
その時、見覚えのある二人組の男性がラウンジに入ってきた。バリョウ、バショク兄弟であった。
「あ、白眉毛」
「・・・」
一瞬にして場の空気が悪くなった。
バリョウの聡明ぶりはこの大学では有名である。白眉、つまりある集団の中で最も優れた人物をさす言葉なのだが、彼の場合は、本当に眉も白髪なのでまさにこの言葉通りなのだが、サンダースが言うと、単なる侮辱にしか聞こえない。
「バリョウ様。申し訳ございません・・・」
「いいよ、もう。慣れた」
が、度重なる兄への侮辱にバショクの我慢は限界を超えた。
「こいつめ、今日と言う今日は・・・」
「あ・・・やめた方が・・・」
ギャロップが止めたが、もう遅かった。
「耳を引っ張るのはやめてよっ!」
サンダースの耳を引っ張ったバショクは、電撃をまともに食らってしまった。
「ぐ・・・くそぅ・・・」
が、やはり加減していたのか、バショクはちょっとしびれた程度で済んだ。
「バ、バショク様・・・」
「ああ、大丈夫。しかし、『心を攻むるは上と為し、城を攻むるは下と為す』とはよく言ったもんだ」
「え?どういう意味です?」
「よーするに、敵を攻めるには、さっきみたいな力ずくではダメで、時間がかかっても敵を心服させた方が得だということさ」
「なるほど・・・」
それからというものの、エルレイドはバショクの言葉通りにしてみた。速効性はなかったが、サンダースのふるまいは以前とは比べ物にならないくらいよくなった。
(あのときの言葉は、まんざら、うそでもなかったのかな・・・)
エルレイドはそう思った。
1人と7匹の物語・超短編作品3・終わり
コメントお待ちしています。(作者・呂蒙)
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