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隔離病棟の夏休み 二日目 の変更点


作者:[[333氏]]

二日目「朗読」 



夏休みの第一日目、月曜日。ぼくは朝から隔離病棟へ出かけた。 
…セレ姉さんはもう病院に来ていたけど、ルキは寝ていた。 
ルキは疲れが溜まりやすく、九時ごろになるまで眠り続けるそうだ。 



ルキが目覚めるまでに、僕はセレ姉さんからルキの生活スタイルなどについて説明してもらった。 
平日はたいてい午前が勉強、午後がリハビリ・フリータイムで、日曜日は午前中が自由になる。(セレ姉さんのスケジュールの関係で、平日の午前中が勉強を教えるのに一番いいらしい。)勉強は並にやっているらしく、僕と学力は同じくらいだという。 
ただし、二週間に一回、木曜日の夜に定期的に発作を抑える注射を受ける。その薬は副作用が強いため、その次の金曜日は半日眠り続け、午後のリハビリも休むそうだ。 
「月曜日から土曜日はルキと一緒に勉強をして。…そうだ、アスの夏休みの宿題を一緒にやったらどう? 分からないところを教えあって。私も協力するからね。」 
「うん。分かった。」 
夏休みの宿題はそんなにはないけど、でもルキとやれば、きっとそれだけ早く終わる。 
次に、病院のシステムについて聞いた。 
まず病院の入院費用はどうしているのかといえば、実は国から伝染病の為の保障が利いているらしく両親がいなくても問題ないそうだ。 
食事は一日三回。いたって普通のサイクル。 
基本的に看護婦さんがつきっきりということはない。看護婦さんに用事があるときはブザーを押す、ということになっている。 
ブザーには青いブザーと赤いブザーの二種類があって、青いブザーのときは普通に看護婦さんを呼ぶためのもの、赤いブザーは緊急用。赤いブザーは、例えばルキに発作が起きて危険なとき、僕やセレ姉さんが押すことになる。 
そして、二日に一度、夜七時に定期健診がある。それには付き添っても、そばにいなくてもかまわないそうだ。 
…いろいろなことを一度に説明されてそれを全て頭に入れるのは難しかったけど、僕も今日からルキの面倒を見る立場。全部頭に入れなければならない。僕が難しい顔をしていたら、セレ姉さんに 
「大丈夫よ。慣れればいいこと。あんまり焦らないで。」 
と言われた。 



ルキが九時半ごろ目を覚ました。昨日は比較的寝付くのが遅かったからだ。 
ルキが目を覚まして、すぐに僕を見て驚いた。 
「あ! アス! 来てくれてたんだ!」 
「おはよう、ルキ。」 
僕が何か言い出す前に、セレ姉さんが話を始めた。 
「今日は朝ごはん食べたらアスの宿題を一緒にやろうか、ルキ。」 
「はい、分かりました。」 
ルキの学力は僕と同じ、と言ってたけど、実際に一緒に勉強したらどんなだろう? 



僕はいったん家に戻り、宿題を取ってきた。病院に戻ったときには、ルキも朝食を食べ終えてたようだ。 
さて、ルキと一緒に宿題に取り掛かろうとしたけど…実はルキは僕よりも頭が良かった。 
「えーっと…この問題、どうやるんだっけ…?」 
僕が難しい問題に迷っていると、 
「アス、この問題は、こうして…こうすれば解けるよ。」 
「あっ、そっか!」 
ルキに教えてもらえる…。セレ姉さんに勉強を教えてもらっているだけあって、頭がいいみたい。さすがセレ姉さん! 
二人で一緒に考えながら宿題に取り組んで、分からないところはセレ姉さんに教わって、今日一日だけでかなりの量の宿題を終わらせることができた。この調子なら宿題を終えるのに一週間もかからない。 
さて…宿題を二人で解いて、かなり勉強をしたつもりだ。まだ十一時だけど、もう勉強はおしまい。夏休みの間はゆっくり勉強するんだって。 
昼食まであと一時間は自由だから、僕はルキと一緒にのんびりする。 
「それにしてもルキ、頭いいんだね。」 
「…ありがとう。」 
ルキはちょっとにっこり笑って見せてくれた。 
……………………… 
会話が途切れた。 
何にも話すことが無くて、僕とルキはただお互いを見つめあう。 
ルキ…あぁ、可愛い…綺麗な瞳で見つめられるとドキドキする。これって…恋…? 
「…………アス…」 
「…………! ん? 何?」 
急にわれにかえった僕。 
「…アス…今日も来てくれて…ありがとう。」 
「…あ、うん。」 
僕は呆然と聞いていたが、ルキは嬉しそうに言った。 
「…わたし、正直寂しかったんだ。話し相手になってくれる先生や看護婦さんはいるけど、なんだか、本当に…打ち解けた話ができる相手がいなくって…」 
「…じゃぁ、僕が?」 
ルキはうなずいた。 
「うん。なんだか…アス…わたしの話をきちんと聞いてくれる…それは、先生や看護婦さんもわたしの話は聞いてくれるけど…でも、やっぱり…その…なんだか、立場が違うような、気がしたの…えっと…ほら、アスとなら…敬語を使いあわなくていいような関係? みたいな…」 
「そっか。良かった。僕でも話し相手になれて。」 
「…わたし達、会ってまだ二日しか経ってないんだよね。でも…なんだか…アス…幼馴染みたいな感じがするの…」 
幼馴染? 
「うん…そっか。」 
僕はルキに笑って見せた。 
「良かったよ。僕、ルキに受け入れてもらえるか、会うまで心配だったんだ。…僕も嬉しいよ。」 
「わたしも…会えてよかった。」 
……………………なんだか自然な会話が出来ないなぁ… 



「ねぇ、ルキは自由なとき、何をして生活しているの?」 
正直に、気になっていた質問をした。ルキが気にしないかちょっと心配したけど、大丈夫、笑って答えてくれた。 
「…やっぱり、読書かな。ほら、」 
ルキの手が届くところに本棚がある。ルキは壁に寄りかかりながら本棚に手を伸ばして一冊の本をとった。 
「わたし、普通の人ができることでもできないの。だけど、本のページをめくって、それをじっくり読むことはできるから。」 
「そうなんだ。…本、好き?」 
ルキはにっこりした。 
「うん、大好き。先生が、時々本を薦めてくれるから、たくさん読めるんだ。」 
そうか、セレ姉さんがルキに本を薦めてるんだ。 
「ねぇ、本の話、してくれない?」 
ルキはベッドの背によりかかった。 
「うん。もちろん。じゃぁ何か本取って。読み聞かせとか、やり方教えてもらってるからできるよ。」 
「わかった。そうだね…」 
昼食まで40分ほどだから、短めの話を選ぶために一冊の短編集を取った。 
「じゃぁね…この中から、ルキが好きなのを選んで聞かせてよ。」 
「うん、いいよ。」 
ルキがその本の中から選んだのは、男の子と女の子の、純粋な恋愛の話だった。 
女の子はマリルで男の子のほうはシードラ。互いに恋してるんだけど、大きさの違いがあってなかなか互いの気持ちが伝えられない、という海の物語。(ルキは本の挿絵などで、外の世界を知らなくてもポケモンの姿は知っていた。) 
ぼくはじっとその話を聞きながら、頭の片隅で思った。 
僕とルキ…僕はルキが好きだけど…この話みたいに隔たりがある気がする… 
とにかく僕らは種類が違う。基本的に種類が違うポケモンの結婚は禁止されていないけど、タマゴが産めない(胎生ポケモンなら子供を産めない)というハンデがつきまとう。 
もしも(もしもだけど)僕とルキが結婚したとしても、どうしても子供は生まれない。養子を育てるなど手はあるけど、やっぱり…互いの血が混ざった子供が欲しいという願望はある…まぁ、そんなの何十年も先の話だけどね。 
って…何を考えてるんだ僕は…僕は恋してるけど、ルキは僕のことどう思ってるか分からない。 友達? 何でも話し合える親友? そんなところかもしれない。恋人まではいってないはずだ。ダメだ、こんなこと考えちゃぁ… 
ルキの話の中で、シードラが「自分とマリルでは、大きさが違う、こんな大きな壁があっては、マリルを幸せにできない。」と、マリルを突き放す場面があった。 
なんだか胸が痛んだ。まるで、自分の事を言われているようだった。もちろん、絶対にルキを突き放したりはしない。でも、この恋はあきらめなきゃならないかもしれない。辛かった。 
その話の最後は、二匹は付き合い始めておしまい、という結末だった。 
話が終わって僕は複雑な心境になった。 
現実は厳しい…付き合う…ことはできないかもしれない…そんな取りとめもない思いが僕の胸の中にひたすら響いていた。 
「…ルキ…」 
僕は話が終わった後でルキに聞いた。 
「この話、ルキはどう思う?」 
ルキは微笑んでいった。 
「この話、わたし好きだよ。二人とも、なかなかうまくいかないけど、でも最後には、お互いの気持ちを理解しあえて…ロマンチックで憧れちゃうなぁ…。」 
そっか…ロマンチックか…… 
僕がぼうっと考えこんでいると、逆にルキに聞かれた。 
「アス、どうだった、わたしの朗読…下手だったかな?」 
とんでもない。すごく上手かった。本物の語り手さんみたい。 
「上手だったよ。また、聞きたいなぁ。また、聞かせてもらっていいかな?」 
ルキは笑ってくれた。 
「もちろん。聞いてくれるなら、いくらでも話すよ。聞いてくれてありがとう。」 
さて、ルキが話し終わったころちょうど昼食が運ばれてきた。同時に、セレ姉さんがナースステーションから帰ってくる。 
「あら、二人とも、なんだか楽しそうね。」 
僕にとってルキの話が面白くて、またルキも楽しそうに話していたから、セレ姉さんも分かったらしい。 
…今気がついた。ルキの楽しそうな顔を初めて見た!!! 



ルキが病院の昼食を食べている間、僕はセレ姉さんが作ってきてくれたお弁当をセレ姉さんと食べている。(この室内で何かを食べて病原菌が僕の体内に入らないか、と、ふと思ったけど、後で聞いた話だと僕やセレ姉さんの体内で病原菌は生きられないから問題ないらしい。) 
「ねぇ、ルキはときどき、セレ姉さんや看護婦さん相手に朗読するの?」 
昼食時にルキに話しかける。ルキは食べる手を止めて、僕に言った。 
「ううん…二人とも、いつも忙しいから…今日、アスにしたのが初めてだった。でも、すごく楽しかったよ。」 
「そうなんだ、良かった。」 
横で聞いていたセレ姉さんが言った。 
「私も、ルキの朗読聞きたかったなぁ。…でも、良かったね、ルキ。楽しかったでしょう。」 
「はい、こんなに楽しかったの、久しぶりです。…それとも、初めてかなぁ…?」 
僕は、ルキに楽しみを与えてあげることができた。そのことを後でセレ姉さんにすごく褒められた。 
もっともっと、ルキに楽しみを与えてあげる…僕にさらに目標ができた。 



午後一時。リハビリを二時ごろからはじめるから、空いた一時間でルキの朗読をまた聞くことにした。今度はセレ姉さんと一緒だ。二人に聞かれているからか、ルキもちょっと緊張気味で本の朗読をする。 
次の話は、一匹のプリンが鳥ポケモンに憧れて、空を飛ぼうと頑張る、さっきと比べれば明るく喜劇な話だった。陸に住むポケモンが空を目指す…かぁ。 
これもルキが好きな話だから、という理由で朗読をはじめたものだけど、ルキはひょっとしたら、心の奥底で自由を求めて、その気持ちとこの話を重ね合わせているのかもしれない… 
ただ、この話は「ポケモンには皆いるべきところがある。プリンは陸で生きるポケモンだから、空を求める必要はない。」という結論をプリンが悟って終わる。 
そんな悟りをルキにしてほしくない。ここは、ルキのいるべき場所じゃないから。ルキの病気が治って、それで表に出ることが出来たら、それが一番なんだ。 
僕は思い切ってそれをいった。 
「新しい場所を求める必要はない…っていってるけど、でも、やっぱり行きたいところには行きたいよね。努力すれば、きっと行けるんだから。」 
ルキは微笑んで、窓の外を見た。 
「そうだね…わたしの居場所は、ここじゃないのかな…」 
ルキは困惑しているようだ。でも、諦めてはいない、と知っただけで安心した。 



ルキの朗読会が終わり、セレ姉さんは夏休みの特別講習とかで出かけていった。午後二時。リハビリの時間だ。 
ルキは相変わらず真剣に、右手で手すりにつかまって、左手を僕の肩にかけながら歩く練習をしている。 
…練習に付き添うのは二回目だけど、やっぱり昨日と同じ。ルキと密接していてドキドキする。 
リハビリにおいて、問題はほとんど無かったけど、一つだけ、事故があった。ルキが思いっきり倒れそうになって、思わずルキを支えようとしてルキの二の腕をぎゅっとつかんでしまったのだ。 
おかげでルキは倒れなかったし、無理につかんだわけじゃないから怪我も痛みもなかったみたいだけど、ただ…女の子の二の腕をつかむなんてあんまり良くない。ルキにゴメンと謝ったら「倒れなくて良かった。」と笑ってくれたからまだ良かったけど…。ついついその柔らかい感触を意識してしまったことは後悔しても後悔しきれない。 



リハビリを一時間半ほどやったら、ルキは昨日のように、シャワーを求めた。もちろん僕が付き添う。 
ルキは左手で壁の手すりをつかみながら、シャワーを浴びている。右肩は僕がつかんでいる状態だ。 
「ルキはシャワー好きなんだね。」 
僕はなんとなく、何も考えずに話しかけた。ルキも自然に答えてくれる。 
「うん、わたし、病気のせいで体温調節が苦手で…すぐに冷えちゃうの。シャワー浴びてると気持ちいいな。」 
「そうなんだ。うん。じゃぁゆっくり浴びてよ。」 
ルキはそれからしばらく無言で、シャワーを浴び続けた。 
水を浴びるルキは正直、かなり色っぽい。 
いつも顔色が良くないルキも、シャワーを浴びているときは身体が火照って顔にも血色が戻る。それに部屋の湯気でルキの身体のラインがぼやけて、ちょっとセクシーに見えてしまう。 
ルキは実際は脂質がほとんどない感じ…というか、痩せすぎている感じがする。食欲、ストレス、ほかにもいろいろな問題…。やっぱり、病気に付きまとわれるのは大変なんだ。 
「ふぅ…気持ちよかった。…ねぇアス、ごめん、夜にはちゃんと浴槽でお風呂に入るんだけど、その時も…」 
「…あ! あぁ、うん。いいよ。」 
やっぱり身体が冷えやすいだけに、一日に何度もお風呂に入りたくなるみたいだ。もちろん、その時も手伝ってあげるつもり。 



夕食の後、僕はセレ姉さんに呼び出された。 
ナースステーションにて 
「どうしたの? セレ姉さん?」 
セレ姉さんは深刻な顔で言った。 
「アス…ちょっと、アスにお願いがあるんだけど…」 
「?」 
深刻な顔でお願い? なんだろ? 
「何?」 
「…日記をつけてほしいの。」 
日記? 
「…ルキの日記よ。毎日、ルキと過ごした様子を日記に綴って、私に提出してほしいの。なるべく細かく、ルキの状況が分かるように…」 
「? 何で?」 
「…ルキのため。」 
「???」 
日記をつけることが、なんでルキのためなんだろう? 
「アス、私の言ってる意味、やっぱり分からないわよね。つまりね、あなたは私達が見られないルキの様子を見ることが出来るのよ。」 
「…それで?」 
「つまりそれは、例えば今日の朗読とか。わたし達、ルキが自分から朗読したがるなんて知らなかったのよ。ルキは私達には抵抗があって見せれない、話せないことが多いみたいだけど、あなたならそれを知ることが出来る。その、あなたしか知ることが出来ないことを、私達、ルキを保護する者も知りたいのよ。だから、それを教えてくれるよう日記をつけて…って。」 
なるほど。意味は分かった。 
「そうして、どうするの?」 
「うん、その日記を見てルキの心情が分かれば、ルキへの正しい接し方も分かるかもしれないでしょう。だから…」 
そうか…ルキとの日記によって、ルキを知りたい…とセレ姉さんは思ってるんだ。でも… 
抵抗がある。それは、ルキの『観察日記』をつけろということだ。…まるで実験のようで、ちょっとルキが可愛そうだ。 
「セレ姉さん…僕…出来ない…。」 
「…! どうして?」 
セレ姉さんは僕の予想外の反応に驚いたようだ。(隣で黙って聞いていたクラさんは相変わらず黙っていた) 
僕はセレ姉さんに対する申し訳ない気持ちと、ルキに対する気持ちでいっぱいになりながらもそれに答えた。 
「……僕…それじゃぁまるで、ルキを観察してるみたいな気がするんだ…実験してるみたいで…嫌なんだ………」 
理屈はない。ただ、気が引けるだけ。でもセレ姉さんは分かってくれた。 
「………そう。分かった。確かに…あなたの言うとおりかもしれないわね。でも…やっぱり…ルキを早く良くするためには、やっぱり日記が一番いいと思うんだ。」 
僕は本気で悩んだ。どうすればいいのか…ルキのために…いや、それじゃぁルキに悪いし…… 
「ちょっと待ってて…ルキの病室に行ってくる。」 
「…ひょっとして、ルキに直接…」 
「…うん、聞いて来るんだ…。」 
僕はナースステーションを出て、ルキの病室へと向かった。 



ルキは一人でいる間、本を読んでいた。僕が部屋に戻るとルキは本から顔を上げた。 
「アス、お帰り。」 
「うん…ルキ…」 
僕は思い切ってルキに言おうとしたら 
「ねぇ、ルキ…」 
「ねぇ、アス…」 
被った。ルキも何か言おうとしたことがあったらしい。 
「ん? な、何? ルキ…」 
「う、ううん…アスから先に…」 
出だしが被ると、お互い譲り合ってしまう。 
「…いいよ、ルキからで。僕の話なんていつでもいいよ。」 
本当は早めに解決したい事だけど、でもあえてそういった。ルキはちょっともごもごしていたが、やがて、僕に向かって言った。 
「…お風呂入りたいの…手伝ってくれない?」 
そうか、一緒にお風呂入るって約束してたんだ。なぁんだ。そんな事だったのか。それなら、僕の話はお風呂の中ででもすればいい。 
さて、ルキは早く入りたいらしく、早速二人で、ルキの入浴準備をはじめた。  



もう浴槽にお湯がためてあった。 
ルキの病室に備え付けてある浴槽は浅く、ルキが倒れないような背もたれがちゃんとある。 
ルキが背に寄りかかって入り、僕はその隣に入る。仲良く一緒に入っている状態。 
「ふぅっ…温かいね。」 
「うん…」 
僕は日記について話し出そうと必死だった。 
「ねぇ、ルキ…」 
「ん?」 
僕は浴槽の中で、ルキのほうを向いた。 
「さっき、さっき言い出そうとしてたことなんだけど…」 
「あ、そうだったね。何の話?」 
「うんとね……………日記のことなんだ。」 
もう思い切って話し始めた。 
「日記? 日記って?」 
僕は、ルキに関する日記について、詳細を全て話した。 
これは、本来はこっそりやることだと思う。僕もそれは分かっている。でもこっそりやるなんてやっぱり心苦しい。これが、僕のやり方だ。 
「…そういうわけで、僕とルキの日記をつけることにしたんだ。」 
「ふぅん…でも、そういうのって、普通ならわたしに内緒ですることじゃないの?」 
うん、その通りです。 
「でも…やっぱり…そんな観察みたいなこと…やっぱりルキに申し訳ないよ。だから、こうしてルキにきちんと了解してもらって、初めようかなぁって…」 
ルキはちょっと考えてから言った。 
「もしも、わたしが嫌だって言ったら?」 
僕はちょっとびっくりして、でも正直に答えた。 
「そうしたら、もちろんやらない。セレ姉さんも説得する。」 
「ふぅん…」 
ルキは微笑んで言った。 
「アス…優しいんだね。」 
「ん?」 
僕は急になんでそんなことを言われたのか分からなかった。 
「アス…わたしのために、わざわざそのこと、話してくれたんでしょう。確かに、何にも言われないでそんなことされたら、あんまり気分よくないよ。」 
「や、やっぱり…」 
「でもアス、アスはそれを分かっていた。それで、わたしが傷つかないよう、わざわざわたしに言ってくれた…アス…ありがとう…何て優しいの…。」 
「えっ…」 
ルキは嬉しそうだった。ちょっと上目遣いで、僕の事を見つめてくる。 
「…日記の事。いいよ。もちろん。わたしのためなんでしょう。」 
「そう? いいの?」 
「えぇ。アスもわたしに言ってくれたんだし。そうしてくれたほうがいいんでしょう。そうして。」 
「うん…分かった。セレ姉さんに言っておくよ。」 



僕のこの行為は、セレ姉さんを驚かせた。 
「やっぱりすごい…あなたは、本当に、人の気持ちが読める…そして思いやれる…」 
そんな、すごいなんて…。僕はただ、誰にも傷ついて欲しくないだけ。もちろんルキにも、セレ姉さんにも。 
そして、ルキも病気が治るように…。それが僕の一番の願いだ。それを叶える第一歩が、日記。ルキも分かってくれたし。これでまた、ルキの治療へ、一歩近づいた。 
こうして、僕は明日から、ルキとの日記をつけることになった。 



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