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陽と月の古本店 〜沖宮陽平という男〜 の変更点


writer is [[双牙連刃]]

 古本店を営み、数奇な縁を紡ぐ沖宮陽平。彼にも一人で古本店を営む以前があり、古本店の縁とは違う縁も確かに存在している……。

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 古本屋って言うのは常に忙しい事は無い。そもそも俺の祖父母が楽隠居に近い形でやっていた店だからして、何処かに本を卸してるって事も無いし客だって常連と不意に来る一見の客くらいなものだ。
 故に店の仕事はしているが、基本的に開店休業に近いのがここ、沖宮古本店の常である。当然、俺と共に暮らしている二匹のポケモンも漏れずに退屈を持て余していたりするのである。

「ポケモンの未知への探求か……これ、一般の古本店に並べていい部類の本ではないだろう? この分野の研究者が涎を出して欲しがる部類の物だと思うよ?」
「そうは言ってもこの店に売りに来てくれた物を買い取れませんとは言えんだろう。状態は良いし、よっぽど大事にされてた本なんだろうな」
『本の事はよく分からないけど、そんなに凄そうな本ならいずれ買いたい人も来るんじゃない? 陽平、幾らにするの?』
「そうさなぁ……ま、5000円ってとこかね」
「……絶対安過ぎると思うよ?」
「いいんだよ、この手の本は本当に欲しい奴が買ってくんだから。だったら手にし易い値段の方がいいだろうさ」

 無論、この本を手に入れた奴が転売する可能性もあるが……それはもう俺の管理から離れての事だ。それに文句を言うつもりは無いよ。ま、そんな奴は滅多にこの店に来ないけどな。
 さて、買い取った本の整理も終わりっと。棚に収めるのは月夜がやるって言うから任せて、俺は軽く店の中の掃除でもするかな。綺麗にしておかないと、橙虎の体が汚れる原因になっちゃうからな。毎晩洗ってはいるが、出来る事ならなるべく汚れないようにするべきだし。

『あ、陽平。それ終わってからでいいんだけど……』
「ブラッシングか? いいぞ、ちょっと待っててくれよ」

 橙虎も随分おねだりと言うか我が儘を言ってくれるようになり、俺達も同居者として仲が良くなっている……ような気がする。当然橙虎も節度ある我が儘を言うだけだから、喧嘩のような事は滅多に無いけどな。無論おかしな事をすれば叱りはするぞ? 俺がな。
 さて、店内清掃を終わらせて橙虎は俺が掛けるブラシを気持ち良さそうに受けている。と、月夜がヤキモチを焼くんだが……なんてなる事も今は無くなり、俺達の様子を微笑ましそうに眺めてるな。

「とはいえ、店内でするのには今でも疑問符が浮かぶけどね?」
「これだけの為に二階に戻るのも面倒だしな。客も居ないし、構わんだろ」

 とは言いつつも、実里さんから勧められた大型ポケモンブラッシング用シートなる物は引いてやってるんだがな。流石に落ちた毛を散らす訳にもいかないし。掃除の前にやればいいだろと思うかもしれないが、掃除前にこのシートを広げると橙虎の毛の前に店の中の埃なんかを吸着しちゃって使い物にならなくなっちゃってなぁ……初回に一枚無駄にしてからは掃除してから使ってる。いやでもこれ凄いんだ。落ちた毛はシートが放つ静電気だかなんだかで周りに散らずに集められてそのままゴミ箱にストンで終わりだからな。どういう原理で出来てんだろな?
 っと、よし。ブラッシングも終わって橙虎の毛並みもバッチリ、それだけで艶やかにすらなるんだから凄いもんだ。流石にデリケートな部分は、俺じゃやってやれんがな。そっちは月夜に頼んでやってもらってる訳だ。

『ぅん、気持ち良かったー。ありがとう、陽平』
「どういたしまして。なかなか上手くなったもんだろ」
「最初のおっかなびっくりの時よりは、ね」
「し、仕方無いだろ? こんな事生まれてこの方やった事無かったんだから」

 第一しっかり触れ合ったポケモンが月夜と橙虎が初めてなんだから致し方無しだろ。本当、避けてた訳じゃないが、よくこの歳までポケモンと接点が無かったもんだよなー。
 いや、厳密にはあったのか……確か俺が記憶に無いくらい小さい頃にギラティナと面識があったらしいしな。その辺聞くのも忘れてたな……今度酒盛りついでに聞き出してみるか。

「ん? 陽平、何か着信のようだよ。そら」
「っと、サンキュ。……あれ、実家からだ」
『実家? それって確か、陽平のお父さんとかが居るところだっけ』

 そうそうって答えながら、受け取った携帯の着信に出る。実家からの電話なんて久々だな。まぁ……俺が重大な用件が無い限り掛けないでくれって言ったからなんだが。
 因みに俺の実家は古本店じゃない書店をやってる。この古本店よりずっとデカいのをな。俺はこの店を継いでなかったらそっちの手伝いをしつつ次期店長だったかもしれないんだ。

「はい、沖宮古本店です」
「陽平か!? 陽平なんだな!?」
「……俺以外にこの電話番号の携帯を持ってる奴が居たらそれはそれで問題だろ。で、何の用さ?」
「い、いやぁ用は無いんだが独りで古本店を切り盛りしてるお前が久々に心配になって……」

 ……これだよ、俺が実家に電話しないしさせない理由。俺の親はずばり言うと、過保護って奴なんだ。俺がこっちに住居を変えた時なんか酷かったぞ? 毎日電話が掛かってくるし、酷い時は三時間に一回くらいのペースで掛かってきたからな。いい加減嫌になる気持ちも分かって頂けると思う。

「はぁ……用が無いなら切るからな?」
「い、いや待て! 用ならある! い、今思い出した!」
「何?」
「ど、どうだ? そろそろ考え直して、こっちに帰ってくる気になったりは……」
「してない。十分に満足した暮らしも出来てるし店の常連になってくれるお客も居る。この店を畳んでそっちに帰る気は無いよ」

 と、こんな感じで両親は俺に自分達の店を継いでもらいたいらしく、確か前に掛かってきた時も同じ事を聞かれたっけな。月夜が来る前だから、年単位で前になるな。

「そんなすっぱり断らなくても……」
「そっちの跡継ぎなら林太が居るだろ。あいつ、そっちの店の手伝いしてるんだろ?」
「な、知ってたのか?」
「ま、たまにメールでやり取りしてるから」

 沖宮林太(おきみやりんた)、俺の実弟にして向こうの書店、沖宮堂(ちゅうきゅうどう)書店の次期店長。電話こそしないが、時々ふらっとメールが来てしばらくやり取りする程度には仲は悪くない。元々林太は爺ちゃんや婆ちゃんが苦手でこの店にあまり寄り付かなかったから、俺が店を継ぐって時も反対しなかったし、寧ろ応援してくれさえした俺よりも出来る弟である。本来の跡継ぎ候補だった俺が居なくなってラッキーだなんて臆面も無いメールが来るぐらいには、あの店の事を気に入ってるみたいだしな。
 で、だ。電話の先に居るであろう親父は愕然とした声のトーンでそうだったのかと言ってる。今頃肩を落としてるのが手に取るように想像出来るな。

「ま、そういう事だから、そっちを離れた俺なんかより林太の事を大事にしてやりなよ」
「……はぁ、一度決めたら一念岩をも通ずな所は親父とそっくりだよお前は。だから親父もお前を跡継ぎにしたんだろうけどな」
「さてね、爺ちゃんの考えは俺にも分からんよ。あれ、ところで母さんは?」
「今俺の横で代われって視線をバリバリ送ってる……」
「代わらなくていいからな? で、用は終わりか?」
「あぁ。っとそうそう、今日そっちの様子を見たいって事で林太がそっちに向かってるんだが、もう着いたか?」
「……はい?」

 ちょ、そんな大事な事は先に言えよ! 分かってたら茶菓子くらい用意したが、そんなの無いぞ今!

「まぁ、弟にそう気を遣う事も無いだろうから、よろしくやってくれ。じゃあ」
「あ、ちょっと!? くっ、切りやがった……」

 むぅ、仕方ない……とりあえず月夜と橙虎には説明すべきだな。

「月夜、橙虎。済まない、今からちょっと客、が……」
「あ、兄貴電話終わった? いやーでも凄いの居るな? こいつって確か……ミュウツーだっけ? テレビでしか見た事無かったよ。おまけにそっちのウインディ、毛艶がスゲー良いけど何処で見つけてきたのさ?」

 何時から居た林太よ!? いや、俺が電話の応対をしてる間に来たんだな。服装はジーパンにジャケットだからまぁ普通だが、月夜が物凄く怪しい物を見る目で見てるのに気にしないのは流石だな。

「……電話が終わるまで待ってたのはまぁいいとして、せめてもうちょい気配を出してていいと思うんだがな」
「ごめんごめん。少しは驚かせてやろうかなと思ったんだけどさ。これは逆に驚かされたよ」
『で、こいつは何者だい陽平? 何処となく君に似ているようだけど』

 とりあえずテレパシーで俺の弟である事を月夜、そして中継してもらって橙虎にも伝えた。弟が居たのか!? って心底驚かれたのは捨て置いてもいいだろうさ。

「にしても……結構整備は行き届いてるんだな。爺ちゃん達が店番してた時より随分綺麗だよ」
「そりゃどうも……で? 今日はどうした突然?」
「いや、実は一冊探してる本があってさ。どうも絶版しちゃってて仕入れも出来ない本みたいだから、ひょっとしたらこっちにあったりしないかと思ってね」

 絶版の本ねぇ……そりゃあ買い取った本を売ってる古本店なら、そういった希少になってしまった本がある可能性もある。が、そいつはどうやっても運次第になるし、無くても恨んでくれるなよってな。
 タイトルを聞くと、陽だまりの歌って小説だそうな。んー……あったかな?
 と、首を傾げてる間に俺の目の前には一冊の本が。やった当事者は横目にこれだろうって言いたげに自慢気な視線を送ってくる。流石、この店限定の本の虫様だ。

「よぉ、お目当ての本はこいつでいいのか?」
「ん? ……おぉぉ!? ほ、本当にあったの!?」
「みたいだな。落丁、ページ欠損、カバーに至るまで異常無し。著者は……姫島友利、だとさ」
「パーフェクト! いやぁ、この本が無いか、取り寄せられないかって客に聞かれて調べたら著者が亡くなってて、著者の遺言で絶版にしてくれって言われてたみたいなんだよ」

 なんとまぁ……そんな絶版にして欲しいような本なのかこれ? 見た感じ悪く無さそうだけどな?

『確か、自分が惚れ込んだ女性にひたすら詩や歌を送って気を引くって内容が延々と続いてたな。恥ずかしくはなるが……詩や歌の美しさは私が読んだ本の中でも五指に入るね』

 月夜がここまで言うなら、内容は満足出来そうだな。しかし凄いというか、マニアックな内容だな? 一体誰が欲しがってるんだ?

「いやー、まさかこんなに簡単に見つかるとは。凄いなこの店」
「代わりに、ある本しか取り扱ってないけどな。けどそうか、絶版になってる本なんてのもあるんだな……」
「この店にある本だって、もう他ではお目に掛かれないって本が大分ありそうだけどね。……おぉ!? この本は!」

 そこから何故か、林太に付き合って絶版レア本探しなる物に付き合わされる事になった。しかし何処で情報を仕入れるのか、林太は俺も知らなかった昔の学者が書いた研究成果を纏めた本やらコアなファンの多い小説家の初版本なんかを目聡く見つけて個人的に買っていくって言い出す始末だ。うちの店、そんな本置いてあったんだな。

『大体は読んだけど、そんな希少な本だっていうのは知らなかったな……』
「買い取るけど本自体の事は調べてなかったからなぁ……」
「兄貴、それ絶対調べた方がいいって。……おぁぁ!? ポケモンの未知への探究まである!?」
「あぁそれな、今日買い取ったばかりの奴なんだよ」
「マジで!? この本って確か、世界で初めてミュウを見つけたって研究チームの一人が書いたポケモンに関する幻の資料って言われてる本だぞ!?」

 なんと、そんな本だったのか。これも買い取りたいって言い始めたが、どうやら懐具合に限界が来てたらしく、泣く泣く諦めたよ。ま、買っての狙いはネットのオークションにでも流すつもりなんだろって聞いてみたら目を逸らしながらそんな事無いって言ってたし、読みたくて買う訳でも無さそうだから買えなくても困らんだろ。

「いやぁ、けど未知への探求を除いても地方立図書館にあってもおかしくない本がこんなに出て来るとは、爺ちゃん達も本に興味無かったのかね」
「あのなぁ……本に興味無かったら古本屋なんて開く訳無いだろ」
「それもそうか。ならどうして?」
「店を継ぐ時だけどな、婆ちゃんが言ってたよ。本は行く時は行きたい所に行く。だから、店に並べておくのが一番だってよく爺ちゃんが言ってたってな」

 その本を読みたい奴と、本は必ず出会う。この店は、そんな出会いの一つの窓口なんだってな。本に付き合ってやりながら、本の読み手が来るのを待つ。それが、古本屋の役目なんだって言うのが爺ちゃんの持論だったよ。

「……兄貴、俺が私欲の為に本を買い漁ってからそれ言っちゃう!? 爺ちゃんに祟られたらどうすんだ!」
「バーカ、よく考えてみろよ。お前がその本をネットで流したって、結局その本は読みたい奴の手に渡るんだよ。なら別に爺ちゃんもとやかく言わんだろうさ」
「あ、確かに。なら俺は本の橋渡しをしてやるって事だな」
「ま、あまり吹っ掛けた値段で橋渡ししたら、夢枕に立たれるかもだけどな」
「こ、怖い事言うなよぉ……マジで立たれたら飛び起きる自信あるぞ、俺」

 ははっ、爺ちゃん愛想は無かったからなぁ。俺はちょくちょくここに来てたから慣れちゃったけど、こいつは爺ちゃんが怖くて此処に来れなかったから、結局慣れないままだったっけな。葬式の時にもっと話とかしてみてれば良かったってぼやいてたのを覚えてるぞ。
 とりあえず懐も寂しくなったところで、林太の本探しも終わりみたいだな。珍客だったが、たまにはこういうのも悪くないだろうさ。

「しかし、兄貴がポケモンをねぇ……」
「なんだよ? そんなに変か?」
「変って言うより意外かな? 兄貴、ポケモンに興味無さそうだったし」
「興味は今もあるか怪しいが、別に嫌ってないから居てもおかしくないだろ」
「そういやそうだな。子供の頃、俺が見つけた弱ってるポケモンとか眉一つ動かさずにポケセンに連れてって助けてやって、そのまま野生に帰してやったりとかって結構あったっけ」

 あー、あったなそう言えば。月夜から昔から君はそういう奴なんだなって呆れた声が届いてきて、陽平らしいねなんて橙虎からは微笑まれてる。俺の性分なんだから仕方ないだろその辺は。
 で、ふと気付いた。林太の腰にモンスターボールが一つ付いてる事に。なんだ、林太もポケモン連れてたのか。

「なんだ林太、お前もポケモン連れてるんじゃないか」
「ん? あぁまぁね。兄貴が連れてる二匹に比べりゃインパクトは無いけどさ」

 そう言って林太がボールを放ると、割れて中からポケモンが出てきた。おー、なんだっけこいつ。メリープ……じゃなくて、そこから確か一つ進化したポケモンだっけな。

『ほぉ、モココだね。感じる限りだと、なかなかおっとりとした子かな?』
「知り合いからメリープの頃に育ててやってくれないかって預かってさ、今はまぁ暗い時の明かりとかで結構助けられてるよ」
「へぇ、いいんじゃないか? 親父達も育てていいって言ったんだろ?」
「その辺は抜かり無く。ただまぁバトルを持ち掛けられると厄介でなぁ……のんびり者だから勝率は良くないんだよ」
「そりゃあ何にも得手不得手はあるだろ? バトルだけがポケモンの能じゃないんだし」
「それは俺も分かってるけど、負ける度にこれがねぇ……」

 そう言って林太がやってるのは、所謂金銭を表すジェスチャーだな。そうだった、基本月夜も橙虎も負けないから忘れてたけど、バトルって負けたら賞金支払わないとならないんだったな。
 それなら避ければいいだろとも思うが、林太は結構負けず嫌いなところもあるからなぁ……まぁ、気長に付き合ってやればいいんじゃないか?

「そうするつもりだよ。とは言え、もう少しなんとかする方法は無いもんかとは考えてるんだけどさ」
『ふむ……まぁ、一番手っ取り早いのはバトルに対して向上心の強いポケモンを迎える事だろうね』

 あぁ、俺もそう思う。林太のモココは今俺達が話してる傍でウトウトし始めちゃってるからな。林太のズボンの裾をちょっと握ってる様子は可愛らしいけどさ。
 ま、今の月夜からのアドバイスをそのまま伝えてやると、やっぱりそうなるかぁなんて言ってる辺り、次会う時には手持ちが増えてたりするかもな。

「ま、それは俺の問題だから、なんとかしますよってね。モック、お前はボールの中で昼寝してな」
「モック? また可愛らしい名前付けてやってるな」
「ニックネームって結構そんな感じっしょ? 兄貴はその二匹をなんて呼んでんのさ?」
「ミュウツーが月夜、ウインディが橙虎。橙に虎って感じで」
「……カッコいいけど渋いなー。兄貴っぽいけど」

 うるせいって言って渋い顔する俺を見て林太は笑ってる。そんなに渋い名前か? そも月夜については自分から言ってきたようなもんだし、俺のセンスが渋い訳じゃ……多少はあるかな?
 ま、しばらくぶりの兄弟話に満足したのか、林太は帰り足になるようだ。折角だし、店の前くらいまでは見送ってやるとするか。

「それじゃ、また時間見つけて遊びに来るわ。兄貴の店、なんか面白そうだし」
「そいつはどうも……次来る時は連絡くらいしろよ。茶と茶菓子くらい出してやる」
「それは有難い。じゃ、また」
「おう」

 ……まったく、嵐みたいな一時だったな。しかし家族と話すのも久々だったから、まぁ悪い気はしない。

「一応空気を読んで話したりテレパシーは使わなかったが、正しかったかな?」
「あぁ。もしやってたら林太の奴面白がって親父なんかにも話すだろうから面倒な事になってたろうな。お前や橙虎の事も話すだろうが……それくらいなら多分大丈夫だろ」
『それにしても、陽平の弟だからか、なんだか似てたね。林太って言ってたっけ」
「そうかぁ? 俺はあいつほど騒がしい事は無いと思うんだけどな」
『雰囲気って言うのかな? 優しそうな感じだなって言うのが、なんとなく伝わってきたんだよね』

 そういうもんかね? ま、橙虎がこんな事で嘘を言う事は無いだろうし、そう感じたんならそうなんだろうな。と、店の前で立ち話してないで店の中に戻るか。
 店に戻って暫くは誰も特に喋らず時間が過ぎていったんだが、月夜が何か考えるような仕草をした後、唐突に俺に話を振ってきた。そう言えばって感じでな。

「思えば、君の事を私も橙虎もあまり知らないね?」
「ん? そうか?」
『そう言えばそうだよね。今日まで弟が居るのも知らなかったし、そもそも子供の頃の話も聞いた事無いよね』

 聞かれてもなぁ? 普通に本屋の息子として過ごしてきただけだし、今の古本店の主になるまでは特殊な事は無かったしなぁ。語るような事が無いんだよな。

「むぅ、そう言われてしまうとこちらとしても聞きようが無いというものだよ? 学生時分に何か部活動をしていたーと言った事は無いのかい?」
「無いなぁ。そもそも中学辺りからは爺ちゃんからこの店に顔出せって言われて店の事とか教えられてたし、そのまま継いで今この通りだしな」
『って事は、月夜と会う前はずっと一人で店番してたって事?』

 ま、そういう事だな。ある意味、月夜を拾ったのが俺の人生の転換期だったのかもな。

「そうだとしたら、なかなかどうして悪くないだろ?」
「確実に我が家のエンゲル係数は上がったけどな」
「一人で食べる食事より、皆で食べた食事の方が美味しいと言うじゃないか。その点は大目に見ておくれよ」
『僕も二人と一緒に食べるご飯、大好きだよ』

 やれやれ、そう言われちゃ俺が折れるしかないな。そろそろ昼飯時だし、皆で食べる食事とやらを用意しに行くとするかな。

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~後書き~
 ……まずはもんの凄く久々の投稿になってしまったお詫びをば! はい、お久しぶりです! 作者まだ執筆を続けております! たまに大会には参加してるよ!
 鈍筆で気まぐれな更新ながら、これからも細々と活動させて頂きますゆえ、よろしくお願い致します……!

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