*闇夜に光る二つの紅眼 [#a20f43c8] ある新月の夜。辺りが静まり返り、舗装された道を歩く者は誰一人いない街外れの森。聞こえるとすれば、時々微風に揺れて音を立てる木々くらいである。 その森の道外れに、二匹のポケモンが対峙していた。 一方は水色の引き締まった体に四本の腕を持ち、腰には力を抑えるためのベルトを付けた格闘タイプのポケモン、カイリキー。 理由はわからないが頭に血が上っているようで、額に血管が浮き出た顔は真っ赤であり、色違いのギャラドスとそっくりの顔である。 もう一方は赤い、と言うより紅い眼以外はよく見えず、種族ははっきりしない。怒っているカイリキーを冷たい眼で見つめているだけで、動く気配もない。 「テメェ……この俺様をナメてんのかコラァァ!」 「……」 カイリキーが叫ぶ。しかし、紅い眼のポケモンは相も変わらずただ見つめるだけ。 「うおぉぉぉ!」 完全に怒りきったカイリキーは紅い眼に向かって走り出す。手を交差させ、「クロスチョップ」の構えに入った。その刹那。 「……切り裂け」 紅い眼のポケモンが呟き、同時にカイリキーの体が幾多もの刃に斬られたかの様に切り裂かれ、辺りに鮮血を撒き散らす。カイリキーは悲鳴を上げる間も無くその場に倒れた。どう見ても現実とは思えない光景だった。 気付けば紅い眼のポケモンは既に背を向けている。 「……コイツでもないのか。ならば奴は一体何処に……」 最後に意味の分からない言葉を残し、そのまま闇へ消えていった。 *狂い始めた運命 [#vc08e2f4] いつもどおりの時間。いつもどおりの朝。いつもどおりの太陽。なのに、今日はいつもと違う気がした―― ---- 狂い始めた運命 とある国の首都「ライネスケージ」にある、何処にでもありそうな6畳程の部屋。これといって目立つもののない、一般人としてはごく普通の部屋だ。あるとすれば、扉の両隣にある若干大きめの本棚とその反対側にあるやけに綺麗なクローゼット。そして、角に置いてあるベッドで丸まっている真っ黒い毛玉。 その部屋で、突然目覚まし時計のような音が鳴り響いた。 すると、獲物を捕らえる鷹の如く瞬時に毛玉から黒い球体が現れ、正確に音源へと飛んで行き―― 爆発。 5秒程の沈黙。しかし、それは扉を吹き飛ばして入ってきた訪問者によって破られた。 1分後、毛玉と訪問者は廊下にいた。さっきの毛玉はブラッキー、訪問者はエーフィのようだが、何故かブラッキーがボロボロである。 「あのさぁ、せめて廊下じゃなくて部y「黙ってください。そもそも時計を壊したのが原因でしょうが」 「はい…」 先ほどからブラッキーが説教を受けている。どうやら時計を壊したらしく、部屋の壁が一部爆発で焦げている。 「もうこれで13回目ですよ兄さん。シャドーボールで目覚まし時計を止めるなとあれだけ言ったじゃないですか。掃除する私のことも考えて下さい」 「いやだって癖になっちゃったんだから仕方n「問答無用!スピードスター!」 エーフィが叫ぶと突然沢山の星が天井付近に現れ、兄さんと呼ばれたブラッキーに向かって突撃した。 「痛い!いやホント痛いって!Stopコルミィ!」 「壁の修理代と扉・時計代…また食事代削らないとかなぁ…」 ブラッキーの必死の訴えはコルミィと呼ばれたエーフィにスルーされ、結局ブラッキーは暫く星の雨を受け続ける羽目になった。 #hr ライネスケージ北東部にある名前の無い公園。中心に小さな噴水があり、その周りにブランコと鉄棒、シーソーが1つずつある。公園の周囲には柵と南北に2つのベンチがあるだけというとても簡素な公園である。現在名前を募集中らしい。 もう太陽が沈みかける頃、2つのベンチの内北側に位置するベンチには先ほどのブラッキーと新聞を持ったフライゴンが座っていて、話をしている。 「あー、スティア、また妹様にやられたのか?また傷だらけなんだが」 「いやぁ、あいつ全然話聞かないし。っていうかその妹様って言うの止めろよ、俺の方が立場低いみたいじゃないか」 「事実じゃん」 「あぁどうせ俺は妹より弱い男ですよ……」 「あっはっは」 「笑うな」 スティアと呼ばれたブラッキーは精神的に撃沈された。暫く笑っていたフライゴンは新聞を読み始め、すぐに話を再開した。 「なぁ、また“紅い死神”が出たらしいぜ。目撃者は相変わらず例の新聞記者」 「あぁ……あの紅い眼をした殺人鬼か……」 フライゴンの読んでいる新聞には大きくこう書かれている。 またも“紅い死神”現る 目撃者は新聞記者のチェルク=クラン 「今度は全身を切り裂かれた死体が森で見つかったらしい」 「なぁ、確か前回は焼死体で見つかったって聞いたが、何で同一犯だって分かるんだ?紅い目ったって沢山いるし、殺害方法だって全然違うじゃないか」 スティアの問いにフライゴンは頭を振って両手をあげ、さもお手上げといった感じでこういった。 「さあな。んなこたぁ知らんぜ」 スティアはその返事に問い返す気力もなくなり、 「新聞もあてにならんな」 の一言で話は終わった。 その後暫く雑談を続けていたが、フライゴンが急に 「あ、そういえば仕事やってねぇ!悪いなスティア、俺先帰るわ!」 と言って高速で飛んで行ってしまった。 一人取り残されたスティアは、ため息のあと欠伸をするとベンチから降りて家路についた。 午後11時、もう殆どの者は夢の中にいる時間帯。そこを歩くスティアは先ほどの出来事を思い出していた。 「あれは一体…」 フライゴンは気付かなかったかもしれないが、スティアは気付いてしまっていた。あの公園の柵の陰に隠れて此方を見ていた何者かに。しかし、その気配は雑談の最中に消えてしまっていた。 「明日あたりにコルミィも連れて調査するか」 悪人ならサイコキネシスでいたぶってくれる、そういえばあいつの仕事って何だよ、などと思いながら歩いていた、その時だった。 「御免」 背後から声が聞こえたと思った刹那、スティアの意識は闇に落ちていった。 *突然の非日常 [#r347ce2f] スティアが目を覚まして最初に目に入ったのは、自室の天井。壁には今朝の騒動の痕跡も残っている。家具もそのまま。いつも通りだ。 しかし、唯一つ違うものがあった。それは、ベッドに横たわっている自分を見下ろす影。スティアは、美しい青と白の毛並みや胸と手の甲にある鋭い棘からルカリオだと判断した。ついでにL字型の棒を持っている。 何が起きたのか分からず色々と頭の中がぐるぐるしているスティアに、声が掛けられる。 「君はハルーデンス家の者だろう?」 低く、そして力強い声。その声でスティアはハッとした。 「だだだだ、誰だ!?というか何で此処にルカリオがいるんだよ!」 ルカリオは若干険しい顔のまま返答する。 「失礼。私はネロ=グリフィス。しがないダウザーをしている。あの時公園で君を見つけたのだが……まぁ、訳ありなのでね、一応君の妹…コルミィ、といったか?彼女に許可をとって、こうしてこの家にいるのだよ」 じゃあ要件あいつに言えよ、とスティアは思ったのだが、言ったら首が飛ばされそうなので言わないでおいた。どちらかというとコルミィに。 「まぁ、あの気配があんたのだってのは分かった。けど、何で俺の家が此処だって分かるんだよ」 ネロと名乗ったルカリオは呆れ顔をする。 「何を言っている。私はダウザーだと言っただろう。この程度、波動を使うまでもない」 ああ、その棒ダウジングロッドなのね、と心の中で納得する。 その後暫く質問と返答の繰り返しが続いたのだが、途中でネロが暑いと言うので外に出た。外は満面の星空で、周りのレンガの家や塀がなければ絶景だった、とスティアは思う。 夜明け近く、スティアが完全に納得すると、ネロは改めて用件を言う。 「さて、用件を言おう。事情があって誰かは言えないが、ある男から頼みがあってな。その頼みというのがハルーデンス家当主、つまり君を探して連れてこいというものだった」 「んで、俺の意識を奪って連れて行こうとしたってのか?手荒だな」 「そんな訳なかろう。でなければとっくに依頼主に預けているところだ。実はもう一つすることがあってな。あまり気は乗らんが」 スティアは唾を飲む。 「して、そのすることとは?」 「それは……君を試すことだ!」 ネロはスティアの方を向き、ロッドを構える。そして、次の瞬間にはスティアの目の前に迫っていた。 「うおっ!?」 それなりに戦闘経験のあったスティアは右手で振り下ろされるロッドを紙一重で避け、バックステップで距離を取る。ロッドは空を切り、地面へと叩きつけられた。ロッドの当たったところは深くえぐれ、その威力を物語っている。 さすがにやばいと思ったスティアは、次にきた回し蹴りを屈んで避け、速射シャドーボールを胸へと放つ。なんの前触れもなく放たれたそれは直撃はしたのだが、ネロは一切気にせず次の攻撃へ移行する。 回し蹴りの勢いを利用した振り向きざまのロッドによる攻撃。少しは怯むだろうと油断していたスティアは左の頬を強打し、豪快に吹っ飛ばされた。 幸い打たれ強い種族であったため、それほどダメージを受けずにすんだスティアはすぐに体制を立て直し、その後3発ほど飛んできた波動弾をシャドーボールの連射で撃墜する。だが、追撃はこれだけでは終わらず、いつの間にか上空にいたネロは全身から漆黒の波動を放つ。 スティアは咄嗟に「守る」を使い、目の前に不可視の壁を作る。しかし、悪の波動はフェイクだった。ネロはスティアが壁の維持に気をとられている隙に、背後からロッドで殴りつける。 スティアは背中に電撃が走るような激痛を感じ、すぐに振り向いてシャドーボールを連射した。しかし、ネロは後退しながら華麗なフットワークで全て回避する。 戦闘が始まって数分も経っていないが、最早勝負は決したも同然だった。疲弊しきって立っているのがやっとのスティアに対し、まだ顔に余裕が見て取れるネロ。天地がひっくり返るかしなければ、スティアの勝利はあり得ない。 しかし、ここでネロが突然構えを解き、ロッドを地面に置く。これを見たスティアは、安心して地面に倒れこんだ。 「まだまだだ。これでは連れていく訳にはいかないな」 スティアは地面に伏せたまま、抗議の声を漏らす。 「はぁ、はぁ、いきなり攻撃してきて、何だよそれ……」 「最初にいっただろう、試すと。依頼人は、弱ければ緋翠神社に連れていけ、と言っていた」 多少呼吸が整ってきたスティアはすぐに聞き返す。 「で、結果は?」 若干期待しているのか目が煌めいている。が、ネロは率直に 「弱い」 と宣告した。 #hr 翌日の正午、スティアの部屋。スティアは今だに昨夜のことを引きずっていた。ベッドの上であーだのうーだの言ってぼけーっとしている。 「あーうー」 「起きろ馬鹿兄貴」 扉の外から声が聞こる。そして、何もない空間にいい加減トラウマになりそうな星型の物体が出現し、スティアへ突撃。 「ぐほぉ!」 まさかの扉越しスピードスター。しかも大怪我人に容赦なし。恐るべしコルミィ。 「今日は神社に行くって言ってたじゃないですか。ネロさんはもう外で待ってますよ」 「へいへい分かってますよ……痛っ」 あのあとネロは明日の正午にまた来ると言っていた。本当は一日中寝ていたかったのだが、強くなれるとか死神事件の真相を知るとか興味を引くようなことばかり言われたため、ついイエスと言ってしまった。今脳内メーカーとやらに名前を入力したら「悔」の字で埋まっているとスティアは思う。 しかし、今はネロについて行く他無いため、仕方ないと切り捨てて玄関へと向かう。 そして玄関に着いた瞬間、体がフリーズした。そこには目を疑う光景が。 「早くしろ、神社には3時に着かなくてはならない」 「そうですよ兄さん。日が暮れます」 右側のルカリオはまだ良かった。いや、スティアからしたらこんなことに巻き込んだ上怪我を負わされた張本人なので良くはないのだが、それよりも問題なのは左側の悪魔である。スティアは少し後ずさった。 「ななな、何でお前がががが」 「私は兄さんが逃げないか監視について行くだけです。あと凄い汗かいてますけど」 スティアは暫く深呼吸し、心を落ちつかせようとする。が、無理だった。 「もたもたしてないで早く行くぞ」 「しゅっぱーつ」 「……悪夢だぁ…」 スティア達はそれぞれの想いを持って神社へと向かった。彼等にゆっくりと忍び寄る影があることを知らずに… ---- 初バトル。にも関わらず後半がすごいことに。 夜に書くと毎回こんな結果に。生活習慣改善しよう。 何かありましたらコメントをお願いします。 #pcomment(魔導コメントログ,10,) IP:61.22.93.158 TIME:"2013-01-14 (月) 17:55:37" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E9%97%87%E5%A4%9C%E3%81%AE%E9%AD%94%E5%B0%8E%E5%A3%AB" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0)"