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第三話:憤怒の果てに の変更点


  

――眩しさに恋焦がれて――                            Written by[[水無月六丸]]
 
前回のお話:[[第二話:孤独の理由]]
注意:&color(white){若干の性的表現を含みます。};
 
 
**人物紹介:簡易版 [#p4079173]
-レイガ    男
人間。銀髪の少年で、凡庸な者では到底太刀打ち出来ない程の凄腕トレーナー……なのだが、テンションが高くすぐ調子に乗る困った人。シンオウポケモンリーグを制覇する為に、他地方からやってきた。
 
-デューン  (フライゴン)♂
レイガの手持ちポケモン。ひょうひょうとしていて捉えどころが無く、レイガ、アリスを手玉に取って楽しんでいる。野生時代の経験がトラウマになっており、時折不安定さが垣間見える。戦闘能力は高く、空中戦は勿論の事、地上戦をもこなす。
 
-アリス  (サーナイト)♀
同じくレイガの手持ちポケモン。平時は淑やかな性格で、レイガを&ruby(マスター){主人};と呼び慕っている。些か暴走気味なレイガを諌める役割を担っているが、彼女自身も調子に乗ると羽目を外してしまいがち。


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 ベランダの柵を足裏が叩く、カン、という軽い音。一方的に悪戯を仕掛けて、悪友を置き去りに首尾良く自分だけ逃げだした、厄介かつ薄情なドラゴンポケモンの帰還を告げる合図である。
 翼を巧みに操り飛行の勢いを殺し、足の幅分も無い狭い場所に着地する。ビブラーバに進化して翼が生えたばかりの頃は、そんな芸当が出来るようになる事等、彼にとっては夢のまた夢だった。生憎それはフライゴンに進化してからも同じで、立派な翼を持ちながらもジャンプ後の姿勢制御程度にしか使えないという酷い有様。
 それは全て&ruby(あの女){師匠};の所為だと思えば、多少の慰めにはなったかもしれない。だが現実に立ち返れば、飛べないが為に付き纏う諸々の問題と向き合わねばならず、飛べるようにならなければ、何時までも彼女の幻影から逃れられないだろうと分かっていた。
 生き地獄から解放されて間もない頃は、食事や睡眠もおざなりにしてまで、狂ったように飛行訓練を繰り返した。極端さと激しさだけなら、修業時代にも匹敵しただろう。筋肉痛とは直ぐに仲良くなったし、翼の付け根がうっ血したり、疲労で気を失い倒れたりするのも慣れっこになる。
 もう少し自重するようにしたらどうだ、という仲間の忠告にも一切耳を貸さなかったし、聞きたくもなかった。力ずくでも止めようと実力行使に踏み切られた事もあったが、生憎当時は誰も、自分に敵うだけの力を有してはいなかった。戦うのは面倒ではあるものの、ちょっとした憂さ晴らしにはなっていた。ぼろぼろの相手にすら勝てないなんて、と何度鼻で嘲笑ってやったことか知れない。
 訓練と静止を振り切る為の戦いとで、疲労だけが過剰に蓄積していく日々。当然長続きなどする訳が無い、逆に持ちこたえてきた事自体驚きに値するだろう。
 重ね重ねの負荷に耐え切れず、遂に身体が参ってしまい入院を余儀なくされる。根性や意地でどうにかなる類のものでは無く、糸の切れた操り人形の様に、身体がぴくりとも動かない。
 担ぎ込まれて即検査、担当医から叱責と共に二週間の絶対安静を言いつけられる。大人しくしていればいいんだろう、と半ば不貞腐れた気持ちで、寝ているだけの時間を過ごした。見舞いの客にもぞんざいな応対をし、善意の差し入れにも一切手を付けずに放置した。
 しかし何もすることが無く、思案に暮れるだけが唯一の暇潰しだった事がかえってプラスに作用する。暫くして冷静になってみれば、何もかも&ruby(あの女){師匠};にしてやられた様なものだと考えるようになった。己を追い込み責め続けるというやり方だけでは、今までと何一つ変わらない。だったらどう変わればいいというのか。
 結論は案外直ぐに導き出せた。自分には共に歩める仲間が出来たではないか。現にここまで傍若無人極まりない振る舞いを続けても、どうにかして自分の心を開こうとあの手この手で接してくれている。それをただ鬱陶しいと撥ねつけているだけの己の何と幼稚な事か、と初めて素直に認められた。
 &ruby(ひとり){一匹};で恐怖や苦痛と戦い続ける時はもう終わった。これからは皆と一緒に生きていこうと決意を固め、退院を機に反省して無茶をやめる旨と、今までの非礼に対する謝罪を一人一人へ丁寧に伝えた。訝ってあまり信用した顔でなかった仲間にも、しつこく付きまとって半ば強引に認めて貰った。
 それからの毎日は本当に楽しかった。多少無理をしてでも、明るい自分を演じるだけの価値は大いにあったと彼は思う。演じ続けている内に段々と自然になっていき、苦にはならなくなっていったし、いつしかそれが自然で当たり前の自分だと思えるようになっていった。

「はてさて、今晩の寝床はベッドか砂浜か……」

 ベランダの内側に飛び降りながら彼、フライゴンのデューンは独り言を漏らす。つい勢いで屋外に脱出したのはいいものの、その後は全く頭から抜け落ちていたのだ。
 部屋に戻れなくなるという可能性に気付いたのは、砂浜で呑気に談笑していた時だった。嵌めた相手が憐憫を垂れてくれる事を祈るという、間抜けで情けない図式には、流石のデューンも少しだけ狼狽した。加えて部屋に残した共犯者のサーナイト、アリスは何らかの制裁を食らっている筈であり、彼女自身も逃亡に加担したとはいえ恨みを募らせているかも知れなかった。
 彼の主人レイガは本来なら、今直ぐにでもベランダに飛び出し彼の首を締めあげるとか、鍵をかけた窓ガラス越しに、ここぞとばかりに下品なジェスチャーを連発するような人間である。しかし日中大暴れした反動の疲れには抗し難かったようで、消灯して大人しく眠りに就いていた。
 開きっぱなしのカーテン、窓の向こうにデューンはレイガの寝顔を見つける。腕白やんちゃで猪突猛進なくせして、意外に寝相はいいのだから不思議だとデューンは常々思っていた。月光が放つ、仄かな宵の明かりで朧げに照らし出される、穏やかな表情の横顔。他人の寝顔を覗く趣味は無いが、デューンは何となくレイガを見つめたまま、その場で佇んでいた。
 ぼっとしている内に、不意に込み上げてきた眠気が行動を促す。デューンは短い右腕で窓枠を掴み、寝床を決める運試しを決意した。
 開くか開かないか緊張の一瞬、入り混じる期待と不安。どうせ散るならいっそ派手に。彼の脳裏に、捨て身で挑んだあるバトルの一場面が浮かび上がった。開くのならば一気に全開になる力を込めて、窓枠を押す。

「きゃ」

 窓枠が止め具に接触した音に混ざって、部屋の奥から微かな短い悲鳴――驚きの声が上がる。だがそれはデューンの耳を素通りし、彼が気付く事は無かった。
 ''開いた、入れる、ベッドだ最高。''上等な寝床に有り付けるという感動に打ちのめされ、デューンは右腕を振り切った恰好のまま、十数秒程の間石像の様に突っ立っていた。
 その内に自分で自分が可笑しくなってきて、小さく噴出した。レールを跨ぎ、彼はカーペットの上に足を下ろす。開け放った窓を尾で閉めつつ、寝息を立てているレイガに小声で感謝の言葉を掛けて、自身も就寝すべくベッドへと向かった。
 隣に居るアリスが寝返りを打つ気配がしたが、彼女の方は絶対に見ないように意識する。森での事があった後で、無防備な雌を見た自分はどんな行動に走るのか信用ならないと考えていたからである。
 ベッドの前まで来たのはいいものの、このままダイブするのは気が引けた。万が一、ベッドに何らかの罠が仕掛けられていたら。別に掛け布団に不自然な膨らみがあるとか、そういう訳では無かったが、されども最後の最後まで油断出来ない。警戒心を働かせ、デューンは手始めに掛け布団を捲ってみた。異常なし。枕やシーツの下、挙句の果てにはベッド下までチェックしてみたものの、どこにも細工を施した形跡は見当たらなかった。
 ここまで努力して、やっとデューンは安心できた。ベッドに飛び乗り、うつ伏せの恰好で目を閉じる。程良く冷房の効いた室内は涼しく、快適で心地が良い。種族柄暑さや乾燥には耐性を有するが、人間寄りに好みが傾いているのはトレーナー付きの宿命である。これがもし野生ポケモンだったら、「寒い」と感じる可能性もあるだろう。一つ欠伸をして、同時に大きく伸びをする。全身の筋肉に力を込めて強張らせ、すっと解放した。疲労感が身体を包み、意識レベルを低下させていく。
 まどろみの中で、デューンは森で聞かされた話にぼんやりと思案を巡らせた。あの一帯に住む者達が『あれ』と称する雌のドラゴンポケモン。恐らくその正体は――色違いのボーマンダ、そして彼女の巣穴に充満していた艶めかしい匂い。
 彼女は何をしていたのだろう。答えの分かり切っている問い、だがそれは健全な雄ならば否応なく妄想を掻きたてられる、甘い快楽の世界への入り口。
 気がつけば、イメージの中で再び横穴を覗いている自分が居た。暗闇に隠された部分は都合よく取り払われ、記憶の中にあるボーマンダの姿が、曖昧な像となって心を埋め尽くす。聞こえる筈の無い嬌声が頭の中で響き渡り、悩ましげな様子で地面に身体を擦りつける影に色欲を煽られ、誘惑されるがまま横穴の中へと歩を進めた。

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電気袋など持たぬ私。充電した&ruby(気力){ぱわー};はどこかへ逃げてしまうようです。
 
 
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- 発電機を付けていればおk
――[[ペカツー]] &new{2009-12-18 (金) 14:51:34};

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