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無くしたもの、拾ったもの 3 の変更点


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#hr
そうだ・・・ホーちゃんが俺を押した後に爆発が起きたんだ。
つまり・・・?

診察室のドアが開いて俺は呼ばれた。目が覚めたホーちゃんの様子が変だというのだ。
俺は仕切りのカーテンからホーちゃんを見ていた。

サーナイトさんはホーちゃんに万年筆を渡した。これで文字を書け、というのだ。
ホーちゃんは特になんでもなくサーナイトさんが言った言葉を紙に書いていく。
「今日は何月何日ですか?」
サーナイトさんが尋ねる。
「5月15日。」
ホーちゃんの答えだ。間違ってない。何をしているのだろうか、俺は疑問に思った。

「ルギアさん、入ってきてください。」
俺は診察室に入れられた。
ちらっとホーちゃんを見る。ホーちゃんは少しおびえた表情をしていた。
「ホウオウさん、この方はどなたですか?」
冗談だろ?と俺は思った。ホーちゃんはしばらく考えていた。
「わからない・・・」
ホーちゃんの答えに俺は愕然とした。
次にフリーザーが呼ばれ、同じことをしたが結果は同じだった。

サーナイトさんはしばらく黙ってカルテを書いていた。何を書いてあるのかはさっぱり分からなかったが。
「わかりました。どこにもけがはないようですね。頭にも傷はないですし。」
サーナイトさんが突然口を開いた。
「どういうことですか?」
俺はぼかしながら答えるサーナイトさんにイライラしつつ尋ねた。
「中程度の健忘・・・ですね。とくに社会的な部分、友達や自分のことであるとか、を記憶してないですね。」
健忘?俺は耳慣れない言葉を聞いて戸惑った。
「経験的な知識、教養的知識であるとかは記憶があるみたいですね。ホウオウさんは学生さんですよね?担当の教員を呼びますので学校と教員のお名前を教えていただいてもいいですか?」
フリーザーがすべて答えている。
・・・・俺はしばらく口をきくことができなかった。

あわてた様子で息を切らせながらアルセウス先生が病院に来た。
サーナイトさんは先生にも同じように説明していた。先生は相当ショックだったようで顔からは普段の厳しい色は消えていた。
出てきた先生を俺は捕まえて、先生にどういうことかわかりやすく教えてもらうことにした。

「ルギア、よく聞いてくれ。ホウオウはな・・・おまえのことを憶えてないそうだ。もちろん、俺のことも。全て。自分のことは名前しかわからないそうだ。」
それを聞いた瞬間、俺は今まで生きてきたことのほとんどを否定された気がした。
「だが、落ち着けば記憶はある程度は戻るらしいから、落ち着くまで様子を見よう。」

ホーちゃんは2日くらい落ち着くまで入院、俺は謹慎という建前で休みを貰った。
といっても、はいそうですかといって寮に帰れるはずもない。しばらく俺はホーちゃんの様子を見ることにした。
ホーちゃんは精密なテストを受けている最中らしく、その間は誰とも会えない。
「ごめん、私が遺跡に連れて行かなかったらこういうことには・・・」
フリーザーは俺に謝るが、俺はむっとしてしまう。
「いや、別にいいよ。俺が止めたらよかったんだし。」
申し訳なさそうな顔をしてフリーザーは待合室から出て行った。

気づけばテストは終わったらしく、ホーちゃんはベッドで横になっていた。
「もう面会してもいいですよ。ただし、あまり悩ませるようなことを言わないでね。」
看護師のラッキーさんがそう俺に優しく言ってくれた。

俺は警戒しながらホーちゃんの寝ているベッドに近づく。
するとホーちゃんのほうが先に俺のほうを向いた。
今までと同じような感じで俺はホーちゃんに話しかけた。
「ホーちゃん、ホーちゃん、おなかすかない?」
ホーちゃんはちょっとびっくりした表情をした。
「あのー、ごめんなさい。どなたでしたっけ?」
その言葉を聞いて俺は悲しかったが、それよりもホーちゃんは俺を傷つけまいとして、必死に忘れてるだけのふりをしているように感じた。
「あーそうそう。俺はルギアです。ル・ギ・ア、です。よろしく。」
ホーちゃんは笑顔になったがそれは無理に作ってる顔だという感じがする。
「僕はホウオウっていうんだそうです。よろしくお願いいます、ルギアさん。」
「ホーちゃんって呼んでいい?あと変な丁寧語は使わなくていいよ。」
俺はホーちゃんとの距離を近づけるためにどうすればいいか悩む。
「あ、ありがと・・・うございます・・・あれ?」
必死に抑えようとするがどうしても丁寧語が出るようだ。
「ホーちゃんおなかすいてる?」
「はい、少し。」
俺は朝ホーちゃんが作っていたマフィンを取り出す。
「これ、朝にホーちゃんが作ったやつだよ。」
マフィンを手渡すと、俺は自分の分を食べきってしまったことに気付いた。

「そうなんだ・・・あ、もしお腹すいてるんだったら、どうぞ。」
ホーちゃんは俺にマフィンを1つ分けてくれた。
マフィンを貰うとすぐに俺は朝の会話を思い出しながらそれを食べた。

”「はい、ルギアの分。足りなくなったら、僕のをあげるよ。」”

「おいしい。」
ホーちゃんがそんなことをいうもんだから変な自画自賛だなと苦笑してしまった。
「ホーちゃんは読みたい本とかある?」
「んー、無いですかね・・・」
「普通の喋りでいいのに。」
「本当ですか?じゃあお言葉に甘えて。」
俺はちょっと嬉しかった。ホーちゃんが俺を憶えてなくても、すぐに俺を認めてくれた。
「ホーちゃんはいつ退院するかは知ってる?」
「知らない・・・不安だなぁ・・・」
ホーちゃんの口調がやや普段に近づいた気がする。

病院の時計を見た。面会時間の終りに近づいていた。
「じゃあ、俺帰るね。また明日来る。」
「ありがと。楽しみにしとくね。」
ホーちゃんは笑顔になった。俺はそれに安心して寮に戻ることにした。

「もういいの?」
サーナイトさんが俺に尋ねる。
「また明日も来ます。朝から。」
何が良かったかはわからないが、サーナイトさんは笑顔で俺を病院の玄関まで見送ってくれた。

寮に帰った俺は、晩御飯をどうしようかと思い、俺が普段は使わない、木の実やら果物やらが置いてあるかごを見る。
「なんだこれ?」
かごにはびっしりとメモが貼ってあった。木の実の食べる時間の目安、果物の食べごろ、消費期限。
全部ホーちゃんが書いた字だった。

しかし、俺は何をすればいいかわからなくて、ホーちゃんの持ってる料理のレシピ本を捜した。
あ、あったぞ。パラパラとめくるとレシピ本のいろんなページに折り目が付いていた。
最初のページをみるとメモが書いてある。
「なになに・・・ルギアの好きなもの・・・嫌いなもの・・・栄養評価・・・」
事細かに俺の好物、嫌いな食べ物、それをどうやって食べさせるかなど書いてあり、俺は驚いた。
「結構マメなんだな・・・」
すごいけど・・・俺にはまねできないな。ただ、マメな割に整理できなさすぎる。
本に折り目つけたままとかメモそのまま貼り付けるとか。確かにホーちゃんはきれい好きではないな。
「腹が減ったな~。何を作ろうかな。」
何が作れるんだろう?ホーちゃんみたいに料理が上手くないし、基本的なものでいっか。

木の実を使ったスープを・・・ん?コンソメってどれだ?鶏がら?何それ?
「あ、あった。あった。」
俺は鍋に沸かした湯に適当にスープの素を入れて時間を計って木の実を入れた。
「よし、味見だ。」
お玉でスープ?を掬って飲む。
「あちっ!辛っ!」
失敗だ。
俺は終始この調子で次々と晩御飯の調理に失敗し続けた。最終的に晩御飯はパンと最初の激辛スープだけになった。
ああ、ホーちゃんがいてくれたらな・・・ホーちゃんは料理をまだ憶えてるのかな。
明日料理の本を持っていっとこ。憶えてたらコツでも伝授してほしいところだが。さっさと風呂に入って俺は寝ることにした。
布団の中で今日の出来事をずっと整理している。
あの時、ホーちゃんは俺を庇ったのかな。だとしたらなんで記憶をなくしたんだろう。
何があったのか・・・わからない。もう一度あそこへ行ってみなければ・・・でも何もなかったら?

そんなことを考えてるうちに俺は眠りに落ちた。

・・・夢か?現実か?
教室にいる・・・でも教室には椅子も机も生徒もいない。
「よく来たな。」
先生の声だ。俺は振り返る。
「どうだ、自分の記憶が無くなる恐怖は?」
その声は俺を恐怖させるのに十分だった。
「俺は記憶をなくしてない。」
先生は俺を嘲笑した。
「ハハハ・・・誰もお前自身の記憶とは言ってないがな。いいか、記憶は共有されることで意味をなす。一人だけの記憶など妄想と変わらない。」
怒りに俺は震える。
「だからってお前はホーちゃんの記憶を奪うのか!」
「いや、君のお友達が記憶を無くしたのは一つの結果に過ぎん。君を庇う行為によって生まれた副次的産物だ。言っておくが俺が奪ったわけじゃない。俺にそんな能力はない。
俺が君にコンタクトを取ったのもそんなことをするためじゃない。」
え?ホーちゃんはやっぱり俺を庇ったのか・・・
「それより、もう目を覚ませ。また、今日という日が始まるぞ。」
先生は俺の腹を思いっきり蹴ってきた。俺は鈍い痛みでその空間から意識が無くなっていくのを感じた。

朝だ・・・目を覚ました俺は心臓の鼓動が落ち着くまで待つ。
「ふう・・・嫌な夢だ。なんで俺の腹を蹴ったんだろ?夢とはいえ痛くて仕方がない。」
それに、なんで夢の相手は先生の姿をしてるんだろ・・・疑問が多すぎて気になる。
また御飯作らないといけないんだな・・・昨日の晩の準備で散らかしたままだ・・・
ホーちゃんがこれ見たら怒るな、きっと。燃やされるかもな・・・

俺はキッチンに向かって料理のレシピ本を見ながら歩いて行った。
今日は楽に作れるやつにしよう・・・ってそんなのないか。パンをトースターにセットし、木の実を適当に切ってサラダ状態にする。
簡素だけどこれくらいしか作れるものがない。本当にホーちゃんに料理を教えてもらわないと。俺はサラダを口にする。
「酸っぱ!」
辛い次は酸っぱいやつか・・・サラダに入れる木の実のチョイスを間違えたな。ああ、なんでこんなに料理がダメなんだ俺。
そういえばホーちゃんも最初のころは失敗の連続だったな。焦げたパンに焦げた木の実。煮詰めすぎて焦げてカチカチになったカレー。
ホーちゃんの料理も最初のころは限度を知らなかったからな。早く食べて病院に行ってあげないと。
俺は酸っぱいのを我慢して気合いで完食する。目には涙が・・・
急いで着替えて俺は一直線に病院を目指す。

病院の玄関に着くと、ラッキーさんが掃除をしていた。
「おはよう、朝早いね。感心感心。病室にはもう入れるよ。」
「おはようございます。」
挨拶を交わすと俺はホーちゃんのいる病室に向かう。

病室に入るとホーちゃんが目を閉じて足を曲げてじっと座っている。
「おはよう。」
俺が声をかけるとホーちゃんは目を開き、俺におはよう、と挨拶をした。
「ちょっとちょっと。こっちおいで。」
俺が来たのを知ったサーナイトさんが俺に声をかける。
何だろう?とりあえず行ってみるか。俺はサーナイトさんに診察室に案内される。
「何でしょうか?」
「記憶のことだけど、いいこと教えてあげるよ。」
え?記憶?戻るのかな?期待に胸を膨らませる。
「記憶障害っていうのはね、一時的な強い精神的ショックによって起きることが多いの。だから、リラックスしたら戻るかもね。」
「かも・・・ですか。」
ちょっとがっかりだ。それでも落ち着いたら俺のこと思い出すかな、ホーちゃんは。
俺は再び病室に向かう。病室に入るとホーちゃんは本を読んでいた。こちらを向いたホーちゃんに俺は再びあはよう、と挨拶をする。
「それさっき聞いたよ。変なの。」
ホーちゃんは少し笑っている。でも顔をよく見ると目は笑っていない。まだ警戒されてる。俺は気にしつつ持ってきた本を渡す。
「ホーちゃん、料理のことは憶えてる?」
きょとんとした顔で俺を見るホーちゃん。
「作り方は一応ね。でも作れないけど。作りようがない。」
なんか、まずいこと聞いちゃったかな・・・この空気を打破するために外にでも行きたいな・・・
「ね、外行かない?」
俺が尋ねるとホーちゃんは少し悩んだのか、間をおいた。
「いいよ、行こう。」
俺はホーちゃんの脇を抱きかかえて、ホーちゃんをベッドから下ろす。
「わっ・・・」
ホーちゃんはびっくりしたのか少し声をもらした。

廊下を歩いていると、ラッキーさんがこっちを見ている。
「どこ行くの?」
「ちょっと外に。」
「目を離しちゃ駄目よ。」
そんな、逃げるわけでもないのに・・・と思って俺たちは玄関を通って外に出た。

ホーちゃんはずっと空を見てる。
「よく晴れてて綺麗だね。」
「そうかな・・・晴れすぎてて日差しがちょっと痛いかな。」
よく目を凝らすと、誰かがこちらに近づいてくる。
「あ、先生だ。フリーザー?」
先生とフリーザーは俺たちの目の前で止まる。
「あっ、ホーちゃん紹介するね・・・俺たちの担任のアルセウス先生と、クラスメートのフリーザー。」
ホーちゃんはふんふんと感心しながら俺の話を聞いていた。

アルセウス先生は何枚かのプリントをホーちゃんに渡し、どこまで憶えてるかのテストをすると言う。
ホーちゃんは病室に戻ると早速問題を解き始めていた。
俺は退屈で少し寝ることにした。
「ねえ、ちょっと・・・」
フリーザーが俺を揺さぶって起こす。
「昼ご飯食べにいかない?」
俺も腹が減っていたので同意する。

俺たちが昼飯から戻ると、アルセウス先生は答案の採点をしている。
ホーちゃんはちょっと疲れがたまっているのかだいぶ眠そうだ。
「よし、ここまで解けたら大丈夫だろう。ところでルギア、もう2日くらい休みをあげる話があるけどどうだ?」
アルセウス先生は俺のほうを見て言う。
「え、なんですか、それ・・・」
「簡単だよ。ホウオウに学校の勉強を教えてやってほしい。」
俺は複雑だった。俺が教えれるのか?
「大丈夫だ。俺がお前ら二人の分も補習してやる。」
やっぱり・・・楽な話じゃないよなあ・・・でも俺がやらないと。
「わかりました。やります。」
「そうか、じゃ、決まりな。今日から早速。俺は一回学校に戻るけど。またあとで来る。」
「え・・・」
先生は俺たちにプリントを渡し、学校に戻って行った。

俺はホーちゃんに勉強を教えながら、一緒に遊んでいる・・・怒られるかな・・・
少し笑顔になったホーちゃんに対して俺はホーちゃんがどういう思いをしているのか、はかりかねていた。

「おい、おまえら、遊んでんじゃねえよ。」
先生が笑いながら入ってくる・・・補習が始まった。
補習とは言いつつスパルタそのもので、授業より厳しいんじゃないかと俺は思う。
俺が寝たらその都度補習が止まってしまう。ホーちゃんは笑いながら俺のほうを見た。

「よし、今日はこんなところで勘弁してやろう。面会時間も終わるしルギア、帰ろうか。」
俺はホーちゃんに明日また来ると言って病院を後にする。
「ところで、ルギア、一人の生活はうまくいってるのか?」
「あ・・・あたりまえじゃないですか・・・」
「そうか・・・てっきり料理でも大失敗ばかりしてるのかなと、思ったが違うか。」
俺は図星を突かれた。
「これだけは憶えておくといい。お前はいい友達を持ってるよ。最高のな。」
俺は意味がわからなかったが、先生がその晩の夜のご飯をごちそうしてくれて、俺はまずい料理を作るのを回避できた。

帰るとすぐさま布団に入り、俺は先生の言葉の意味を考えていた。そして眠りに落ちる。
続きます

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