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written by [[cotton]]
漆黒の満月 二,
明け方降り出した豪雨は、二匹を激しく打ちつけていた。太陽は地を照らすこともできず、黒雲だけが空を覆っていた。木や花は、カサカサと擦るような音を重ねる。
この雨のせいなのか、街を歩く人はほとんど見られない。もっとも、アブソルにとってはそのほうが都合がいいのだが。
彼はイーブイを雨から守ろうと、風上、イーブイの右を歩く。足音はかき消され、降り続く雨のみが響く。
「…ここにいるの?」
そんなことは分からない。何処に行けば見つかるという宛てもない。ただ、
「きっといる」
彼にこれ以上の不安は与えたくなかった。雲はその黒を更に濃く、重くする。
「ここなら見つかるかもしれない」
人々の声が聞こえた。ポケモンセンター、雨宿りをするには丁度いい場所。
「ホント!?」
イーブイは、嬉しそうな顔でこちらを見る。見つけてあげたい。そのために、ここに来たのだから。しかし、
「…行かないの?」
「ああ…俺はいい。見てこいよ」
災いを呼ぶと言い伝えられるアブソル。言い伝えというよりただの迷信だが、人々はその迷信を信じている。群れている、人間だからー
ふと、彼は何かを感じた。
「隠れろ!」
冷徹で、残酷な気。
イーブイを連れ、建物の陰に入る。
「…どうしたの?」
気の正体は、自分達の前を通り過ぎる。
「あいつは…」
「御主人!」
そう言って、飛び出して行った。
「あ、おい!」
イーブイは、「主人」へと駆けていく。「主人」は、彼に気付くと口を開いた。その言葉は、
「…。なんだ、この前のー」
降り続く雨より強く、イーブイを打ちひしいだ。
「ー『出来損ない』か」
「…え…?」
戸惑うイーブイ。「主人」は、彼に冷酷な判断を下す。
「シャワーズ。水鉄砲」
そのシャワーズは、イーブイとどことなく顔が似ている気がする。シャワーズは一瞬躊躇うが、命令に背くわけにはいかない。雨の力を得、攻撃を始める。
威力の上がった水鉄砲は、イーブイを吹き飛ばし、激しく打ち付けた。彼が心に負った、傷のように。イーブイは静かに鳴き、気を失った。
「貴様ッ!!」
「主人」への怒りがこみ上げる。アブソルはシャワーズへ騙し打ちを叩き込み、ダウンを奪う。
「…久しぶりだな、『実験台』」
「主人」、ロンは相変わらずの低く、強い声で話しかける。
「捨てたのか、こいつを…!!」
テレパシーを使い、怒りを伝える。
「選んだだけだ」
ロンは淡々と話す。
「3匹のイーブイが生まれた。見込みがあったのはこいつだけだった」
そう言い、シャワーズを見る。すると、そのシャワーズとイーブイは兄弟ということになる。顔が似ているのも、そのためだった。
ロンはイーブイを見、話を続ける。
「そのイーブイは、最も弱そうだったから捨てたわけだがー」
視線をこちらへ戻す。
「ー予想通り。全く使えそうにないな」
そう言い、彼は笑う。
「何故だ。何故、仲間を信じない…!?」
「育てるだけ、無駄だからだ」
「違う!お前は仲間を『道具』としか見ていないからだ…!!」
道具のように作られ、
道具のように扱われ、
道具のように捨てられた。その怒りは、いつまでも消えることはない。
「…もう行く。時間の無駄だ。」
ロンはそう言って、去ろうとする。止めようとしたが、騒ぎに気付いた人の群が、次々と外へ出てくる。ロンは群の中へと、消えていった。
ーアブソルだ!アブソルが出たぞ!
ー追い払え!災いが起こるぞ!
群衆は、そう言って騒ぎ立てる。気が付けば、黒い影は小さい影を背負い、街の外へと走り出していた。
雨は勢いを増したのか、一段と激しく、音は鳴り響く。
ーお前は、俺が育てる。人間のところへなんて、戻る必要もないー
その決意は、しっかりと胸へ焼き付いた。石を削る、雨のように。
[[漆黒の満月 三話]]へ。
気になった点などあれば。
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