ポケモン小説wiki
時計の針 の変更点


[[三毛猫]]


*時計の針 [#z1146885]



「あ~つまんない、つまんない、つまんない~」
「五月蠅いんですけど、さっきから何回目です?」
「だってつまらないものはつまらないんだもん」
「それだったら本でも読めばいいじゃないですか」
「御免、活字とか無理。催眠効果のある物わざわざ見る必要は…ブッ!」
「あれ、少々近すぎましたかね」
「今、本を通して顔面に張り手したよね!どういうこt…ブッ!」
「静かにしないと、鼻無くなっちゃいますよ」
確かに、平凡過ぎてつまらないと思うのは僕も同じだ。
時刻は太陽が一番強く照っている頃、正午ごろだと思う。
隣にいる少々耳障りなゾロアみたいなやつは、この静かな時をいとも簡単に破壊してしまう、良くとれば、元気がある。
悪くとれば、五月蠅くて、僕の読書タイムを邪魔するし、夜にいきなり驚かすし、とてつもなく鬱陶しい、そんな奴。
僕に叩かれたところが余程痛かったのか、前脚で鼻をさすっている。
少し強かっただろうか?
「お前って、いつも読書してるよな。そんなに眠りたいのか?」
「活字を読んで眠くなるのは、非常にまずい事だと自覚しなさい」
「何で?」
「いや、まぁ個人個人で好き嫌いがあるから強制はしないけど」
僕は、また本に目を落とす。
活字って不思議なもので、読んでるとこう何て言うのか、凄い落ち着くんだよね。
こいつは、それが催眠効果に転じてしまっているのかもしれないが。
ガサッ…。
上の物音に反応して、上を向いたのと同時だった。
「ねぇ」
「わぁ!」
こ…こいつ…。
ゾロアの十八番のイリュージョンを、僕を驚かす用途でしか用いないのだ。
ゾロアークに変身したために、足を木にかけて逆さになったとしても、いつも以上に顔と顔との距離は近くなってしまう。
私が驚いたのに満足したのか、こいつはニッと笑って身軽に木から下りた。
「驚いた、驚いた!」
「少しは、異性の気持ちも考てよ!あんたも、僕と同じ年なんだから!」
「イセエビ?何それ食えんの?」
「…」
「あれ、怒った?って、顔が怖いよ!変なオーラ出てるし!」
「鼻、無くしてもらいたいみたいだね」
「笑顔でそんなこと言わないでよ!」
さて、本が痛まないように…。
「待った!待った!それ張り手より痛いから!」
本を閉じ、角が武器になるような持ち方に変える。
「さて、何発いこうか」




意外と頑丈なものである。
かれこれ20発はやったはずなのだが、それでも死んでないところは
だてに殴られ続けられてないと思う。
頭にひよこでも浮かんでいそうだが、しばらくすれば目を覚ますだろう。
静かにしていれば可愛いやつなのだが…いや可愛いわけがないだろう、何を考えているんだ僕は。
悪童ほど寝顔は可愛く見えるもの…のはずだ、多分。
そっと頭に手を滑らしてみる。
滑らか過ぎるほどの毛並み、性格からはとても考えられない程の整った顔。
牝である僕でも、憧れるほどに。
時刻は日も傾いた頃、夕方だ。
「う~ん」
「意外と早かったね」
「まだ、ねみゅい…」
僕の方へ歩み寄ってくると、少し飛んで僕の正座していた足に座ってそのまま寝てしまった。
本当に同年代かと思ってしまいたくなるほど、オープンな行動である。
恥じらいという概念が存在しないとしか、この行動は説明できないと思う。
まぁ、嫌いじゃないからいいけどさこの体制。
とは言っても、もうそろそろここを離れないと。
夜は色々と危ない方々がやってくるので、出来るだけ早急に。
またこいつを担いでかなきゃいけないと思うと、慣れっこだとはいえ少々気が滅入るが…。
まぁ、気付くのが少し遅かったみたいだ。
そうも言っていられない状況になってしまったようである。
「ちょっと、良さそうなやついたぜ。今夜はこいつで決まりだ」
何をするつもりかは見当はつくが、そう簡単に捕まっていてはこの森でやってはいけないのである。
相手は、グラエナ三頭。
こっちは、この状況下でも絶賛爆睡中のゾロアと僕。
でも、負けないでしょ。
明らかに戦う相手間違ってるし。
いきなり飛んでくる、熱線。
僕は、少し体を反らしてそれを避ける。
続いて飛んでくる、二頭のグラエナ。
僕は、それより体一個分高く跳んで、二匹を踏み台にして、もう一頭の方へ飛ぶ。
そして、空中で青白い球を作り、それを放つ。
まず一頭、掃除完了。
続いて、またもワンパターンに攻めてくる二頭に対し、僕はバレットパンチで応戦。
一撃で撃破。
とまぁ、一連の動作を寝ぼすけを背負ったままで行ったのだった。
「おかしいだろ、全部読まれてるぜ」
いや、戦う相手を少し選んだほうがいいと思うよ。
何てったて、僕は波動ポケモンなんだから。




グラエナって本当にしっぽ巻いて逃げるんだ、とか思いつつあいつらが落としていった
金属の円形の塊を見つめる。
懐中時計だろうか、中で針の音がする。
ボタンを押して開くと、何とも奇妙な形状な時計だった。
短針、長針、秒針、と通常は三つしか付いていないはずの時計針が四つついている。
針も、真っすぐではなくて、途中で湾曲して時刻を示している。
「これ知って…るわけないか」
「スースー」
まだ寝てるし。
こんなものどうしてあいつらが…。
「フフ、やっぱり君に渡るのか」
後ろからの接近に気がつかなかったことは、僕にとって衝撃的なことだった。
僕は、波動を感知する事が出来るのは周知の通り、その感知できる範囲は軽く半径100㎞は見積もってもいいと思う。
それなのに、気付かなかった。
この短冊をぶら下げている奴に、気が付けなかった。
「そんな怖い顔しないでよ。私はあなたにそれが渡るのを見届けただけだから」
「僕の背後になぜ立てた?」
「目を瞑って」
少々怪しい雰囲気を感じたが、タネを教えてくれるらしいのでゆっくりと目を瞑る。
目の前には確かにこいつの波導を感じる。
「それじゃ行くよ」
次の瞬間だった。
マップの、どの範囲からも消滅したのだ。
驚いて目を開けると、しかしそいつはそこにいた。
「驚いたみたいで、こちらとしても面白いものを見せてもらったよ。タネはね、僕の波導をこの地面と一体化させたからだよ。
君は今おそらく、目を瞑った状態で僕を識別する事は出来ないだろうから、信じてもらえるよね。
僕は、願いの神ジラーチ、1000年の眠りにつく種族みたいな言い方されてるけど、実際はそうじゃないから。
まぁ、そんな話はどうでもいいから、まずその時計の説明からだね」
「ジラーチ!!!んじゃ、おいらの願い事叶えてよ!!!」
何時の間に起きたんだこいつは。
しかも、このジラーチはそういうことしてくれなそうだし。
「君、少々黙っててもらえる。じゃないと、気絶させるよ」
「なんで、何時も厄介者扱いなの!?」
「いや邪魔だから」
「ひどっ!」
「まぁ、どっちにせよ、少し聞かれては困る内容だからね」
一瞬、短冊の一つが光った。
その効果なのか、ゾロアはまた眠ってしまった。
「心配は無用だよ。ただ眠っているだけだから」
「さっさと、これがどういうものか教えてくれないかな」
「そう、トゲトゲしないでってば。まぁ、説明するよ。その時計は一つの時間軸上で、時間の操作ができる時計なんだ。例えば、この時計を持って時間よ巻き戻れっていうと時間が巻き戻るんだ」
「そんなお伽話みたいなことあるわけないでしょ」
「意外と夢が無いみたいだ、残念。じゃあ、貸して」
言われるままに、時計を差し出す。
「それじゃあ、いくよ」
この時の時間は、物質一個も動かないほどの時間だったと思う。
それなのに、自分の体は盛大に遥か後方に吹き飛ばされていた。
訳が分からなかった。
「今は、時間よ静止せよっていったんだ。これでこの時計が本物かどうか分かってもらえたかな?」
痛みと波導は本物だ。
信じるしかないのか?
「分かった、信じる」
「良かった。それじゃあ、この時計を使うに当たってのルールを説明するよ。この時計は、時間を操作する時に、自分の寿命を使用するよ。それじゃなきゃ、永遠に静止させたまま生き続ける事が出来てしまうからね」
「それから?」
「それだけ」
「それだけ?」
「なんだか不服そうだけど、これでも君たちにとっては莫大な対価だと思うんだけどな。他にもつけようか?」
「遠慮しておきます」
「つまらないですね。色々考えたのに…。手足が無くなるとか、波導使えなくなるとか」
「いちいち、発想がブラックなんですけど。っていうか致命傷ですよね!特に波導が使えなくなるとか、僕の特徴なくしちゃっているのと同じじゃないですか」
「それしか自分の特徴ないんだ…」
「余計なお世話です!」
本当に、こいつの話は全て余計な話に聞こえてくる。
「あと、それは肌身離さず持っていてね。その時計を自分から半径10メートル以上離すと、契約が解除されちゃうから。あっ、そうだ肝心なこと聞いてなかったね」
「何?」
「これ使う?」
「今さら!?」
「一応聞いとかなきゃいけない決まりになっているから」
「分かった、使ってみる」
「それじゃ、契約成立」
そして、短冊が光ったかと思うと、そいつは消えていた。
僕の手には、規則正しい音を立てる四つ針時計だけが残っていた。
本当に使えるのかな?
明らかに年代物だし、4つのうち一つは動いてないし。
辺りはもうすっかり日が暮れて、月まで出ている。
突然、風が吹き、木を揺らした。
僕はおもむろに時計を突きだし、葉に向かってこう思った。
『時間よ静止せよ』
時計の4つ目の針が、90度だけ進んで3を指した。
そして秒針が12のところに戻っていた。
そして再び動き出す。
規則正しく、カチカチと。
静止した世界はとても気持ちが悪かった。
自分が息をしている事を感じれないほどに空気の流れは、閉ざされ、この葉は空中で止まっている。
触ってみると、柔らかい感触はあるが、その場所から一切動かない。
僕が心の底から恐怖に似た感情を感じていると、聞きなれた音が聞こえてきた。
「スースー」
今現状で動けるのは僕だけのはず…。
体が接触していると、効果が伝染するのだろうか。
『時間よ動き出せ』
僕は再び時計に命じた。
そして再び動き出す。
葉は落ちていき、地面に落ちた。
ところで、時計が汚くてよく見えなかったが、針の中心よりちょっと下に21:53と書かれている。
これはいったい何なのだろうか?




僕の住処は非常に簡素で殺風景で、あのお子ちゃまにさえお前本当に牝か、と疑われたほどだ。
そこら辺にある物で、寝心地だけは考えて作ったベッドと、小さな木の棚があるぐらいで窓も一個しかない。
大木を自らくり抜いて作ったらせいぜい頑張ってもこれが限界だろう。
僕は、今にも壊れそうなベッドに腰掛ける。
確かにこの時計の力は本物だ。
ただ自分の寿命の上限が分からない事には、むやみやたらに使うわけにもいかない。
大いなる力には、大いなる責任が伴うのかもしれない。
何より、この力は僕にとって巨大すぎた。
「時間を操作できるって言われてもなぁ~」
正直、やりたい事が無い。
今の生活に満足しているし、これ以上の生活も望まない。
幸せボケしているなんて言われそうだが、今の生活が楽しいのだ。
森の中をものすごい勢いで駆け抜けたり、たまたま見つけたきのみをお腹いっぱい食べたり、それも一人ではないし、あいつがいるし。
そう思って、激しく首を横に振る。
何で楽しい事に、あいつと一緒にいる事が含まれてるんだよ。
驚かされて、化かされて、毎回軽くは無い体を背負わされて散々だっつの。
それか何か?僕はMなのか?いじめられる事を楽しいと思っちゃう生き物なの?
「そんなの絶対あり得ない!」
僕はひとりでそう叫ぶと、まだ寝るのには早いが早々に眠ってしまった。

事実を認めたくないのは、生き物である性だと思う。
楽しい、面白い、あいつといる事が。
それだけは、正しいし、認めなければならない事だと思う。
かれこれ、10年以上の付き合いなのだから。
僕は、あいつに拾われたらしい。
小さい頃の事なので、あまりよく覚えていない。
当初僕は涙腺がとにかく緩かったようで、よく泣いていたそうだ。
泣いた時はいつもあいつに慰められていたらしい。
いついかなるときにも、僕の傍を離れなかったらしい。
その時のままの性格だったら、良い兄貴的存在だったはずなのに。
全く記憶は無いが、添い寝をしたこともあるそうだ。
今となっては、怖いもの知らずだと、自分を叱ってやりたい。
「僕って、どんな子だったんだろう?」
そんな勇気ある行動ができるくらいだったら、もっとほかの事に使ってほしい。
勇気…ではないか。
危険を冒すと言った方が妥当かもしれない。
何が危険かは、聞かないでほしい。
閉じた目を開け、寝付けない体を起して隣のベッドで寝ている天使をそっと覗いた。
「こんな奴に助けられたなんてね」
とても信じられない。
なら自分の目で確かめればいい。
そのための力が、今僕の手にあるのだから。



朝早くに家を出て、近くの湖まで来ていた。
早朝は霧が深く、僕ぐらいしかここへは立ち入らないからだ。
もちろん、あの懐中時計を持って。
湖の近くのせいか、少し空気が湿っぽい。
何となくあいつに秘密を作ってしまっているようだが、正直あまりこの力の事は話したくない。
だって、もしかしたら一緒に巻き込んで寿命を減らしてしまうかもしれないから。
心配し過ぎかもしれないが、事前の対策は重要だと思う。
懐中時計を目の前に差し出す。
目を瞑る。
一言。
『時間よ巻き戻れ』
瞬間、突然聞こえるはずのないほどの音量で時計の針が動く音が聞こえてきた。
頭が割れそうだった。
そして、止んだ。
目を開けると、そこにはいつもと変わらない草原が広がっていた。
時計を見ると、4つ目の針だけが動いている。
そして、下の数字が21:41に変わっていた。
この時計にはまだルールがありそうだ。
おそらくジラーチが教えてくれていない、ルールが。
「あれ、まだ来てないみたいだな。折角おいらが早く来てやったて言うのに」
(死ぬかと思った…)
声がしたのとほぼ同時に、僕は木の後ろに身を隠した。
なんかよくあるじゃん、過去の自分とかに見られたら消えちゃうとかって話。
ルールがよく分からないなかで、自分の姿をさらすのはまずいだろうと思ったわけ。
にしても、この頃から高慢さは変わってないみたいだな。
ガサッ…。
すぐ横を、『僕』が通った。
「ごめん!待った?」
「すごい待った!…なわけないだろ。さっき来たところ」
「ごめんね、準備に手間取っちゃて」
小っさ!
僕ってこんなに小さかったんだ。
手のひらサイズは言い過ぎだと思うけど((標準リオル0.7mに対して0.5mぐらい))、少し大きいぬいぐるみだと言われても違和感がないほどだ。
「それじゃ、始めるか」
「よろしくお願いします」
僕こんな奴に敬語使ってたの!?
それより何を始める気だろう?
「今日の目標は2分な」
「馬鹿にしないでよ!」
「そんなこと言ったて、前は30秒も持ってなかったじゃないか」
あ~むかつく!!
いかにも見下してますよなあの顔!!!
一人で悔しがっていると、ふいに爆発音が聞こえた。
「へぇ~不意打ちとは、中々面白い手だね」
「でしょ」
なるほど、バトルの特訓をしていたのか。
また爆発音。
「ほらほら、そんなんじゃいつまでも当たんないよ」
「くそ、当たれ、当たれ!」
はどうだんをしっぽでうまく流している、その動作のしなやかさ。
相当なレベルのものだった。
「それじゃ、こっちから」
そういって、はどうだんとは違う真っ黒な物体を小さな僕に向かって放った。
このぐらいの速度なら普通避けれるよね、普通…。
何で避けないかな…。
「ぐぴゃああ~」
「1分12秒、まぁ、持った方なんじゃないかな、一応褒めてやる」
「強いなゾロアは。何でそんな強いの?」
「強さに理由なんかないだろ」
「そうなんだけどさ、やっぱり素質みたいなものもあるのかな」
そう聞かれると、ゾロアは僕からも『僕』からも見えないようにそっぽを向いてしまった。
「素質は…あるんじゃないか」
「えっ!?本当!!」
「ま、まぁ素質だけな。お、おいらは別にお前の事褒めてるわけじゃないからな!」
僕、顔近いってば…。
どんだけ無防備なんだろうか。
弱いうえに、異性を異性と思わないと来たらこれはもうおかs…。
コホン、今のは聞かなかった事にしてほしい。
「それじゃあまた明日ね」
「ああ、また明日な」
そこまで聞いて突然、目の前が真っ暗になった。




「なぁなぁ、おまえどこ行ってたんだよ。こんな朝早く」
「散歩」
「さっきからそればっかじゃん。他に面白い事やってたんだろ」
ベッドの上で、飛んだり跳ねたりと朝から騒がしいこと。
朝からこんなギア全開だから早々に眠くなるんだよ。
言いたかったけど、頭の中が混乱していてそれどころではなかった。
(今いる世界が現実で本当にあっているんだよね)
それに加えさっきから、頭痛がひどいんだって。
何でかは分かんないけど。
「そういえばさ」
「何?」
「あの短冊やろうから何か貰ったのか?」
「何も貰ってないよ」
「え~、つまんないの」
「僕は面白さを求めてないから…」
少しだけ昔の記憶をたどれただけだし、それにその代償のこの頭痛が釣り合わないような気がしてならない。
それに教えたら、何するか分からないし…。
「てい!」
「痛っ!やったなこの悪ガキ」
「悔しかったら、投げ返してみろやーい」
こいつ…。
「いや、久しぶりにバトルしない?」
「本気っすか?」
「今この場で気絶させてあげてもいいけど…」
「断るなんて言ってないし、受けて立つ!」




「痛っ!」
少し予想はしていたが、やはり今となっては進化もしていないゾロアに、僕に勝つ事は難しいらしい。
最後は軽く足を払って、転ばしてお終い。
手加減する余裕すらある。
「強いよ~。っていうかひどくない!?いきなり波導弾連発してくるのはさ」
「ごめん久しぶりだからさ、手加減できなかった」
大きく溜息をついてそっぽを向いてしまう、ゾロア。
余程悔しかったらしく、こちらからも見て取れるぐらいに頬を膨らましている。
「お前も進化したら、いい勝負ができるのにな」
不意に漏らしたそんな言葉。
その言葉にはしばらく返答が無かった。
「そう思うのか?」
僕は思わず、疑問の声を発する。
「いや、そう本当に思っているのかなって思っただけ」
「どういう意味?」
「い、いや覚えてないなら良いんだよ、覚えてないなら…ハハ」
「凄い気になるんですけど…」
意味深な言葉を言ったまま、そこで会話は別の方向にそれてしまい、その真意を探る事は出来なかった。
それというのも、この時にまたあいつが出てきたのだ。
シャリンと音を奏でて、光輝く星の様なあいつが。
「もしもだよ、もしも時間を行き来できる力を自分が持ったとしたら使って見たいと思うよね」
「それを、それをどこで手に入れた!!」
「わっ、どうしたの急に。顔が怖いよ」
「教えろ、どこでそれを手に入れたんだ!!!」


「は~い、ストップ。君にはその事を聞く権利が無いよ」


一瞬光った。
しかし、僕の時は止まらなかった。
「そう言うことだから。分かっているね」
「くっ」
悔しがるゾロアと、たか高に笑うジラーチ。
全く話が見えないまま、時間だけが過ぎていった。




あれからというもの、全く口を開かなくなってしまったゾロア。
あれだけ騒がしいやつがいきなり静かになると、心配になる。
外は月明かりが煌々と輝くだけの静かな森が広がるだけ。
僕は、そっとベッドの上から下りると、戸棚の方へ足を運んだ。
「出かけてくるから、ちょっとの間だけこれ持ってて」
金属音を鳴らしてその場に時計をおく。
「ごめん、隠し事なんかして。これが時の力を操る物。信じてもらえないかもしれないけど…」
「使ってみてどうだった?」
「えっ?」
思わず感動詞を漏らす僕。
使っていたところを見られたのかな。
「いや、もしそれが時間を操れるとしたらおいらは使うぞ。お前も使ったんだろ?」
「まぁ…一回だけだけど。面白かったよ」
「そっか。話は変わるけど、懐中時計の上にあるボタンみたいなの押してみろよ」
「それがジラーチから言われたこと?」
「鋭い。その通り」
少し硬めのボタンを押してみた。
「このボタンを押してくれたって事は、僕の言った事を聞いたみたいだね。
それでだ、伝えてない事があるから言っとくね、時計盤の下にある数字は、君の寿命の残額を右から順に年:月 日で表しているよ。
だから使いきっちゃわないように気をつけてね。使いたくなくなったら僕が回収に向かうから、よろしく~」
なんとも軽い口調である。
ということはすなわち、僕の寿命は現時点で21年と4ヶ月って事なの…。
僕まだ十何年しかこの世に生きてないはずなんだけど…。
「ねぇ、これってどういうことかな?」
「…」
「ねぇ、どうしたの?今にも泣き出しそうな顔して」
「泣きだしそうな顔なんか、して…ない…」
そして僕に飛びついて、こう言った。
「今から聞いてほしい事がある」



おいらはずっと親友を騙し続けた。
こうなる事も前から知っていた。
寿命と引き換えに、時を行き来する力はおいらが仕えている時の神の所有物だった。
もう何時になったか忘れてしまったが、おいらはとある森の中で従者にならないかと誘われた。
そして今は従者となってここにいる。
別に死んでいるわけではない事は知っておいてほしい。
ルカリオに会ったのはそれから間もなくだった。
雨にうたれて、極限まで痩せていた記憶は非常に衝撃が大きかったことを今でも物語ってくれる。
助けてあげたいと思った。
それが全ての過ちの始まりだった。
その後ジラーチがでてきて、自分が神の従者としてやってはならない事をした事を知った。
寿命を延ばしてしまったのだ。
神々は不老不死ではない。
創造の神だけは唯一寿命の操作が可能ではあるけど、それ以外、例え時の神でも寿命の操作はできない。
寿命はくじ引きにのようにランダムに決められて、その寿命は生まれてから減り続けていく。
そのルールをおいらは破ってしまった。
罰として、おいらは従者でありながら神々の領域に一切入れなくなってしまったうえ、ルカリオにも罰が下る事になってしまった。



「それがこれ?」
「そう言うことになる。信じてはもらえないだろうけど、真実は伝えたよ」
そんなこと言って涙目になっている相手の言うことを信じないわけにはいかないでしょ。
そうか、こいつに僕は救われたのか。
僕は感謝の意味を込めて思い切り抱きしめた。
「ちょt…何を…」
「暴れないの、抱きしめたい気分なんだから」
「おいらはぬいぐるみじゃないんだけど、それと…すごく恥ずかしい」
「恥じらう気持ちがあったんだね、あんたにも」
「異性がどうとか言ってたのはどこのどいt…ムキュ」
「うるさい」
それと。
「ありがとう。信じるよ」




「へぇ~、それでこの時計はもういらないと」
「つまらなそうな顔してんじゃないよ。最初に会った時は幻覚でおいらを欺いてまで、ルカリオに手を出しやがって」
「怖い顔しないの。スマイルスマイル~、おっと危ない」
「渾身のシャドーボールだったのに…」
またあの木の下でこの会話をしている。
もう、この時計とはおさらばだ。
「それじゃあ預かるよ」
もうこれで…。
「次使う時までにね♪」
消える時にはなった光は、視覚でとらえた色とはまったく異なる漆黒に染まっているような気がした。






「あれ、ここはあの木の下?」
僕は確かに眠って…って。
「何でリオルになってるの!?」
そう、僕はリオルになっていた。
時折風が吹いて木を鳴らす以外は、何の音もしない。
どうしてと考える前に、あの言葉がよみがえってきた。
『次使う時までにね』
僕はあの時計を確かに返した。
考えられる要因はあのジラーチしかいない。
「は~い、大正解」
姿が見えない。
どこにいるんだ?
「見えるわけないよ、君は今僕の幻想世界にいるんだから」
「何をしたい?」
「かくれんぼ」
「何を言って…」
「僕を見つけてみて。そしたら出してあげる」
どうやら条件をのまなければ、永遠にここに閉じ込めるつもりだろう。
覚悟を決めようとした時、上から何かが降ってきた。
「制限時間はこの時計が0になるまで、面白いでしょ」
「どこがおもしろいんだ!!これは4つ針時計じゃないか」
「あいつから聞かなかった?これは罰なんだよ。神々の禁則事項に触れてしまったからね彼は、そしてあなたは」
「どうしてゾロアにこんなことするの?」
「それは、『どうして僕に』の間違えでは無いのかな?」
「何を言って…」
「だって、あいつさえいなかったら君はこの時計の事も、神々の事も知らずに生きていられたんだよ」
一瞬納得しそうになった。
「僕はあいつに助けられなければ死んでいたかもしれない。だからあいつに会ったことに後悔はしていない」
僕はあいつに助けられたんだ。
「自信有り気だね。それじゃあ始めようか。時間は21分間だけど、僕の隠れている場所に対してヒントをあげよう」
何だ?これは罰のはずなのに、ヒントなんてものをくれるのか?
「少し高いところにいるよ。それじゃあ」


「スタート」



あいつに言われてふと思った。
ゾロアはこちらに来ているのだろうか。
そしたら、あいつもこの時計をもっているのだろうか。
神の従者だったという事実には正直驚いたが、毎日驚かされている僕にとってそれほどのものでは無かった。
むしろ、毎日一緒に片時も離れずにいた人が、突然いなくなる恐怖に少しずつ蝕まれている事の方が驚いていた。
家族じゃないけど、僕みたいに親の顔もろくに覚えていない人たちにとっては、一番長くそばにいた人が家族の様な存在になるんだと思った。
僕はいつの間にかジラーチではなく、ゾロアを探していた。
怖かった。
自分の寿命がどんどん減っていくことも、すぐ近くに頼れる人がいなことも、全部全部。
だから、探した。
最も近くにいたあいつを。
歩みがだんだん速くなりついには全速力で森の中を走っていた。
波導の力は、わずかながらにゾロアの反応を示していた。
罠かもしれない、けど構わない。
どんな窮地だって、あいつと一緒なら乗り越えられる。
どんな後悔も、どんな恐怖も感じない。
そんな気がしたから―。





「君にそんな勇気があるとは思えないけどね」
「私も同感だが、彼は勝負に勝ったのだ」
「まぁ、彼女の寿命が尽きる前に4つ針時計を手放させるって言う内容のゲームだったからね」
「あの時計はもう効力を失っているのだろう」
「さぁ、どうだろうね」
「……」
「き、切れていますとも…」
「あの、二人で話進めないで欲しいんですけど」
全く時の神と願いの神は、命を何だと思っているんだ。
命がけの戦いの事を、ゲームなんて軽々しく言っている時点で答えは明白だけど…。
あの時計を例えるのなら、空気砲の様なものというのが一番適当だと言っていた。
空気砲は発射しなければ、空気の量は変わらない。
その空気が、ルカリオの命だったというわけだ。
栓が無ければ空気が抜けるだろう。
その栓が4つ針時計だった。
あの時計は使用者の寿命が尽きると、粉々に砕け散る。
栓が抜ければ空気はただ抜けていくしかない。
つまり死に値する結果となるのだと。
…正直意味が分からない。
「さて、本題。君には選択の時間をたっぷりと与えてあるからじっくりと考えると良いよ。勝負に勝ったから、彼女の寿命はまた新たに設定される。安心しなよ」
「さて、若き者の行動がどう出るか楽しみではあるな」
「僕も楽しみだよ~。頑張りなよ~」
何をするのか説明をする必要があったから、話してしまったが笑っている顔は馬鹿にしている顔そのものだ。
何だか、いらついてきた。
「二人とも…」
「「おい!その言葉の後を言ったr」」
こう言う時だけシンクロ率高いんだから。
「消えろ」
そう、僕はこの言葉を発すると任意の空間に対象を飛ばせる力があった。
だからもうここにはあの二人はいない。
いるのは、おいらとルカリオ二人だけ、二人っきり…。
…何だか言う前から緊張してきた。




罠ではなかった。
ゾロアもこちらに飛ばされてた。
四つ針時計は、全く動いていなかった。
ゾロアが言うに、これは偽物で寿命どうこうの話は一切ないらしく、そこら辺にある時計と何にも変わらないとのことだ。
それを聞いたらなんだか安心して、その場に座り込んでしまった。
ゾロアも横に少し距離を置いて座った。
さすが、ジラーチ。
願い星と呼ばれるだけあって星空にはそれ相応のこだわりがあるらしく、満天の星空が今まで見た中でも一番輝いているように見えた。
「綺麗だね」
「お…おう」
小さくなったほうが、目線があって話しやすいし、何より世界が違って見えるものだ。
「あのさ…」
「どうしたの?」
少し間をおいてゾロアは口を開く。
「おいらは、ルカリオを助けて良かったんだよな?ルカリオはそれを後悔していないんだよな?」
「何言ってんの、よかったに決まってんじゃん。僕はゾロアに助けられて、友達になれた事を後悔しなきゃいけないの?」
「されたらショックだな」
そうだね、と僕も言って二人で笑った。
「おいらは、すごく不安だった。でも、それを聞いたらすっきりしたよ」
「それは良かっt」
本当に一瞬だった。
瞬きも息継ぎも許さないほどの滑らかで素早い動きで、ゾロアは素早く顔を近づけ、そして離した。
その後に残ったのは、頬に残った温もりとほんの少しのゾロアの吐息。
そして面喰った僕の顔と赤くなって俯いたゾロア。
「えっ…っと」
状況が少しずつ分かってくると、僕も顔が赤くなって口がまともに動かなくなってしまった。
柔らかく繊細な、悪戯小僧になんか到底できない芸当を食らってしまった。
頬にキスされるのなんて、本の中での話かとずっと思ってたし、現実のキスは舌べろをからませて卑猥な音を立てるものだとそう思っていた。
まるで、本の中の時間と現実の時間が入れ替わってしまったみたいだ。
面喰った僕をよそに、ゾロアは決心したように頬を紅潮させたまま口を開いた。
「おいら、ずっと…ずっと言おうと思ってた。でも、進化してからルカリオはどんどん成長していっておいらを、友達としか見てないんじゃないかと思って、すごくつらかった。だから、構ってほしくて、変わらずの石まで探してきて、進化せずに、甘えられる姿のままで、ルカリオの傍にいた。ずっと傍に、友達以上の関係を望むのなんて、到底できないと思ってたから。でも、傍にいられる時間も限られているって、今回の事で分かったから」
ゾロアは僕まで吹き飛ばされるんじゃないかと思うほど、深く息をついて、吸い込まれるんじゃないかと思うくらいに息を吸い込んで、言葉を発した。
「おいらを友達じゃなくて、こ…恋人として傍に居させてくれないかな?」
深呼吸の意味は空しく、非常に弱々しい言葉だった。
頭の中が少しずつ整理されてきた。
答えは今出さなければならない。
素直な気持ちに、素直に向き合わなければならない。
けど僕は、気持ちと相反するようにゾロアとは逆の方を向いた。
「そうだね、この本読みきったら考えてあげてもいいかも」
息をずっと止めていたらしく、それでいて中途半端な返事をされて息絶え絶えに不満を投げかけている。
「わ、分かった。でも、どこにそんなものをしまっておいた…」
本の題名を見て少しの間言葉を失ってしまったらしい。
題名は、『どうしたら彼女を一晩寝かせずにいられるか』である。
「な…なっ…」
「お子ちゃまにはまだちょっと早いかな」
「おいらの横で…いつも…こ、こんな本を…」
「そうだよ」
相当なショックを受けたようで、石像と化したように固まっている。
「そりゃあ、引いちゃうよね。友達だった奴がこんなに淫乱だと知ったら」
「わ、分かった。貸せよ」
「へ?」
「だから、貸せって」
そう言って半分無理矢理僕から本を奪い取った。
「読み切ったらちゃんと約束守れよ!」
そう言ってどこかに行ってしまった。
そして、それと同時に幻想世界は崩れていった。



「あ~あ、結局訳わかんない事になっちゃったね」
「しょ、しょうがないだろ。あんなのいきなり渡されたら誰だってビビるだろ」
「チキン」
「五月蠅いっつの」
それからしばらく経った頃、おいらは危険極まりない本と格闘していた。
「君は本当にこれでいいんだね。従者になっていれば不老不死の体もこの世界を自由に飛びまわることもできるけど、彼女と一緒にいる選択をするんだね」
「ああ、もちろんだ」
「そう、じゃあおでこ出して」
何をするのかは分からにがとりあえず言われるがままにする。
そして、スッと腕を伸ばし指に力を込めて一気に解き放った。
文字通りデコピンというやつである。
「痛っ!何すんだ」
「何って、契約解除の儀式だけど」
それを聞いた途端、急に冷静になった。
「それじゃあ、ディアルガによろしくな」
「仲むつまじくやってるよって伝えておくよ」
「お…おい、まだ付き合ってもないんだが」
冗談だよと言ったとほぼ同時ぐらいに、ジラーチの体が見えにくくなってきた。
「契約解除したら僕たちの姿は見えなくなる、これでお別れだよ」
「ああじゃあな、世話になった」
そして、おいらの従者としての役目は終わった。
何時読み終わるか分からないけど、少しずつ頑張っていこう。





ちょっと今回は面白みに欠けましたかね。
誰だって?
私ですよ。
今丁度、目的地に着いたところです。
今回のお話は即席で考えたので、伏線が回収しきれていなかったりするところもありますが致し方ないですね。
その後無事、本を読み終え二人は仲むつまじく暮らしているそうです。
さて、少しだけ時間がかかってしまいましたが、文句は言われないでしょう。
それでは、またしばらくの間。

〈終〉








やっつけ仕事になってしまいましたが、何とか書き上げました。
本当はもっと暗い感じの話にするつもりだったんですが、技量不足でどうも話がまとまらなかったため、無理やりハッピーエンドにしました。
今度はきちんと書きたいものです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
誤字脱字等の報告よろしくお願いします。

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IP:133.242.139.165 TIME:"2013-01-30 (水) 13:18:01" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E6%99%82%E8%A8%88%E3%81%AE%E9%87%9D" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (compatible; MSIE 9.0; Windows NT 6.1; WOW64; Trident/5.0; YTB730)"

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