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懐かしきあの音を求めて #1 の変更点


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何時からだろう。
君を見ることができなくなったのは。
ただただ、空しく時間が過ぎるようになったのは。

何時からだ。
君をこの目で捉えることができ無くなったのは。
ただただ、遠くでしか見ることができなくなったのは。

あの日から僕たちは旅立った。

あの日から俺たちは旅立った。

懐かしきあの音を求めて。

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~序曲~ 旅立ちまで


起きたのは夕方だった。
暑い夏が終わり、涼しい風が心地よい季節がやってきた。
今のような季節が一番好きだ。
暑いのは嫌いではないのだが、ここ近辺に夏は他地域と比べ湿度が高くて夏は過しにくい
と、ご主人が言っていた。
こうやって、何も考えず窓から外を見ているのも悪くない。
「フール、晩ご飯だよ降りてきな。ついでに、ルカリオとムクも呼んできて」
ご主人が呼んでる。
僕の名前はフール。
数年前、ブイゼルだったころ今のご主人に出会った。
今は進化して、フローゼル・・・だったけ忘れちゃった。
自分は自分だから、別に種族は関係ないけど。
野生でいたころ、ここからさほど遠くない丘にある林を住処としていた私は、町に興味を抱き町に下りてきた。
そのとき、運悪く私が道路を横切ろうとしたとき、鉄の塊に衝突され意識を失った。
気がついたとき、私はゲージの中に入れられ多数のポケモンがいる部屋にいた。
(ここが、保護施設と言うことを知るのはもう少し先である)
ゲージの中に入れられ、後悔と不安で頭がいっぱいだった。
この後の私はどうなるのかと言う不安と、後悔の念が渦巻いて
ただただ泣きじゃくることしかできなかった。
それから、数日後ゲージが突然開かれ外の光を再び浴びた。
すぐに後のご主人に抱きかかえられ、そこを後としたのだけれど。
本当に感謝している、今のご主人には。
こうして再び外の光を浴びることができたのだから。
「お~い、早く来ないとさめるよ~」
そろそろ行こう。ご主人が待ってる。
扉を開け、ルカリオの部屋に向かう。          
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「これが、『ド』でこれが『ファ』・・よし完成」
いつものように、楽譜の譜面を読み終えベッドの上で伸びをする。
「ふぁ~まだか晩飯」
欠伸をしながらそうつぶやいている俺はルカリオという種族。
名前は主と二人きりのときにしか使わないようにしているし、別段誰かに教える気も無い。
今のところはだが・・・。
主と出会ったのは、五年前この地域では珍しい雪が、ひらひらと花びらのように舞い落ちてくる様な日だった。
捨てられ、当てもなくその日の俺もただただ歩いていた。
ついには、歩けなくなりその場に倒れこんだ。
あの時は、真面目にこのまま寝てしまおうと思った。
そのときだった、ザクザクと音を立て主人が当時リオルだった俺を抱きかかえ
「大丈夫?」と声をかけてくれたのは。
久しぶりの、人の温もりを感じそのまま寝てしまった。
今考えると、なんともおかしな話である。
普通捨てられたなら、怒りや憎しみ等々が湧き上がってくるはずなのだが、なぜかそれが無かった。
とても、不思議な気分だった。
主には、ポケモンを癒すことができるらしい。
現在は、「コウコウセイ」である主の音楽活動に同行させてもらっている。
「コウコウセイ」が何なのかはいまだに分からない。
外では日が落ちかけ、秋ならではの風物詩ともいえる綺麗な橙色があたりを染めている。
ガチャガチャ・・ドンドン
ドアの方でけたたましい騒音が鳴り響く。
「ルカリオ、鍵は開けといてよ!ご飯だよ」
いつものことなのだから、いい加減慣れればいいのにと言う突っ込みをするとあいつが五月蝿いのでとりあえず、返事をしておいた。
「今行く。それと、あまり強くたたくとドアが壊れる」
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「鍵ぐらい開けといてよ!いつも言ってるのに・・・」
僕はそういいつつ溜息をつき食卓へと向かう。
「鍵はいつもかけておくものだと思うがな。それじゃないと集中できないのだ」
いつも思う、人の親切を何だと思っているのだろうかこいつは。
階段をススーと降りて一階のリビングへとたどり着いた。
「ご主人連れてきたよ」
「遅れてすいませせん、主」
この態度の変わりようにも、もう慣れた。
「ごめんな、ムクはもう知らない間にこっちに来ていてんだ」
「気にしてないよ。時々あったし」
ご主人は温厚でとても優しいのだが、周りを見るのがとても苦手。
ボーっとしているときに背中をつついてみるとこれでもかと言わんばかりに驚いてくれるから面白い。
「ごめんごめん、とりあえず食べよう。冷めるしさ」
僕たちは一応ご主人の食物を口にはできるのだが、味覚が多少違うためいつも別のを用意してくれる。
「ルカリオ、今回の曲できそうか?」
「結構難しいですけど、なんとか」
「そうか、それは良かった」
ルカリオは、音楽の才があってご主人と一緒にコンサートについていっている。
僕も音楽は嫌いではないけど、訳あって遠慮している。
「聞いてよご主人。こいつが僕が呼びに言ったら『邪魔だ』見たいな事言って来るんだよ」
「ちょっと待て、俺はそんなこと言ってない。それと、いい加減僕口調直したらどうだ」
「あれはそう聞こえる」
僕口調は、ご主人の一人称が僕だったのが移ってこうなってしまった。
いまさらどうしようもないし、自分は自分なんだからどっちでもいい気がする。
「それくらいにしとけって、ところでさ今度旅行行かない?」
「旅行?・・・僕は良いよ」
「主の赴くままに」
ムクは基本無口なので返答なしのときはOKのときだ。
「よし、明後日出発久しぶりの船旅だししっかり準備しよう」
「ちょっと待って、いつものはいつもの」
『いつもの』とは、ご主人によるピアノの演奏だ。
僕たちは、とても好きなのだ、この音が。
「はいはい」
そう言って、ピアノの鍵盤のふたを開ける。
間もなく、優しい旋律が流れ始める。
その音は、風に運ばれるかのような心地よさと夜空に抱かれるような静寂を含んでいる。
毎日毎日聞いているのだが、聞き飽きない。
ご主人には不思議な力があるのだと、そう私は思う。
音が途切れた。
「今日も、良かったよご主人」
「とてもよかったです、主」
こうしていると、こいつとも笑いあえる。
「よし、今日は解散。みんなお休み」
こうしていつものように一日一日が過ぎていく。
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俺は、主に旅行について聞いてみた。
ちなみに、主とはいつも同じ部屋で寝ている。
「主、旅行とは・・その・・船旅とおっしゃいましたが・・・」
「そうそう、船に乗るんだよ。久しぶりに何にも予定ないし」
俺の血の気が引いていくのに気付いていない。
船には、できるだけ近づきたくない。
理由は、極度の船酔いのせいもある。
だが、2年ほど前主に海に連れて行ってもらった。
もちろん三匹でだが。
主と一緒に海に入ったは良いが、どうにもこうにも泳ぐことができない。
フールからは散々からかいの洗礼を受けたあげく、
いきなり後ろから突き飛ばして海に入れたりするのだからたまったものでは無い。
おかげで、すっかり海が苦手になってしまった。
そんなこんなで、できるだけ海には近づかないようしていたのだが・・・。
「主、お忘れでしょうか。私がかなづちなのを」
「覚えてるよ」
皮肉混じりにそう聞いてみたのだが、帰ってきたのはごく普通の答えだった。
「ルカリオ、フール最近機嫌悪そうじゃん」
「あいつのことは・・・」
確かに機嫌が悪そうだ。
ここ最近、俺のことでストレスでもためているのだろうか。
「だから、少しでもさ治してもらわないと」
こちらとしてはとんだ迷惑なのだが、主の考えならしょうがない。
「分かりました」
「お休み。ルカリオ」
「お休なさい主」
そう言って寝床に着いた。
ドア越しにフールが聞き耳を立てていたのも知らずに。
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毎晩恒例のようにこうしてご主人の部屋のドアに耳をつけ、聞き耳を立てている。
目的は、ルカリオの名前を知るため。
あいつが、どうして名前で呼ばれたくないのかが知りたいのだ。
とぼとぼと寝室に向かう。
そして、部屋のドアを開きベッドに向かって重力が働く。
辺りは、夜長の静けさがただただ過ぎてゆく。

2年前の春、僕はフローゼルに進化した。
ルカリオは、それよりも前に進化している。
自分がどうも変なのだ、進化してからと言うもの・・。
ルカリオを見る目がどうしても熱くなってしまうのだ。
口調はものすごい悪いけど、牝から好かれないタイプでは決してないはずだ。
「ルカリオ・・・」
枕を握り締め、そうつぶやく。
ご主人と話しているルカリオは、僕と話すときでは考えら無いほど笑顔でいる。
僕と話すときは、どこか気難しい顔をしている。
いつも、遠目で眺めている僕にとっては儚い夢であるのかもしれない。
でも、一度でいいから自分の前であの顔を見せて欲しい。
「もう寝よう。明日にはもしかしたらが起きるかもしれない」
胸に思いをしまい、寝床に着いた。

窓からは星が見える。
しかし、その星は掴めそうで掴めない。
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あれからは、あっという間だった。
現在出航から早一週間がたとうとしている。
今、俺は殺風景な天井を見ながらベッドで横になっている。
当初心配していた船酔いは、主持参の酔い止めで事足りていた。
しかし、そう言っても水の上に今自分がいると言う現実に恐怖を抱かずにはいられない。
一方、トラウマを植えつけたフールはと言うと船内にあるプールでのんきに遊んでいるそうだ。
(暇だ・・・)
別に、フールを嫌っているのではない。
嫌々ながらも、俺に気を使ってくれることには感謝している。
でも、それでも超えないで欲しい一線があるんだが・・・。
小さいころは良く一緒に散歩に行って、少し遠いが丘に行ったりしてとても仲が良かった。
年齢が年齢なのでそういったことはもうしないが、昔は一緒に寝たりしていたこともあった。
それが、何時の日か忘れてしまったが、距離が少しづつ遠ざかってしまった。
(フール・・・)
あいつのことを思い浮かべると、胸が締め付けられるような気分になる。
今と昔では見る目が変わってしまったのだ。
昔は、唯一無二の友達として見ていた。
今は・・・。
そこで思考を断ち切って毛布を頭からかぶる。
そして、頭を振り今の考えをかき消そうとする。
(何を考えているんだ。あいつは俺に対してストレスを感じているのにそんなやつのことなんか)
丁度そのとき、
「ただいま~!」
部屋のドアを勢い良くあけ、なんとも嬉しそうな声の調子で部屋に入ってくる。
水の上でこうも嬉しそうににしていることがうらやましい。
「何してんの、毛布頭から被っちゃって」
自分は返す言葉が無かった。
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船の上はとても快適だった。
何といっても、プールがあることが嬉しい。
普通に考えたら、こんな船に乗ることは到底不可能だが
ご主人いわく、この船の演奏者として招かれたらしい。
でも、今は余り関係無いこと
それよりルカリオが意味不明な行動をとっているのが気になる。
本人の了解なしに布団を剥ぎ取ってみた。
見るからに顔が赤い。
「ほら、こんなことしてるから暑くなるんだって」
「これは・・・」
「それとも何、好きな子のことでも考えてた?」
からかい半分に言ったじぶんを後から反省したが、どうやら図星だったらしく
俯いてさらに顔を赤くしている。
ここは、もう少しいじって聞き出したいところだが、機嫌を悪くしてしまってもらっては困るので話題を変えた。
「久しぶりだよね、こうして二人だけって」
「あ・・・あぁ」
「小さいころのルカリオはかわいかったな~」
「かわいいって、どこか違うような気がするんだが」
「普通に女の子かと思ってたもん」
「リオルの雌雄ぐらいは見分けつけろよ」
心にグサっと来たのはできるだけ気にしない。
ルカリオがとげのある言葉を放って間もなく、ご主人が帰ってきた。
「ただいま。1時間後ぐらいにご飯食べに行くよ」
「ちょっと早くない?ご主人」
「今日は、僕の演奏の日だからさ。これのおかげでこの船に乗ってるわけだからしっかりやらないと」
「楽しみにしてるよ、ご主人」
「私はどうしていれば」
ルカリオは、通常はご主人と一緒に舞台に上がっている。
「今日は、お客さんでいて。お願い」
「分かりました」
ルカリオはそうは言っていても残念そうに耳をたらしてシュンとしている。
本人は怒るかもしれないが、とてもかわいい。
「そうがっかりするなって。それじゃ、時間あるしそこら辺歩こう」
「うん、行こう行こう!。ほら、ルカリオも引きこもりみたいになってないで行こう」
「俺は引きこもりじゃない。(俺をこんな風にしたことを完全に忘れてる)」
中々、ルカリオが出て行こうとしないので肩をぐいぐい押して部屋の外に出させた。
このとき、ルカリオをそのままにしていれば良かったと後々後悔することとなる。
船は、海流の強いところに差し掛かりかすかに揺れ始めていた。
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嫌々ながらも部屋から出た。
久々に、外に出たような気がする。
漣の音を聞いただけで、背筋に冷たいものが走るのだから無理も無いのだが。
そのときは、まだ知らなかった。時が迫っていることを。
それは、食事をするところに差し掛かるかどうかのところにきたときだった。
突然、目の前から光が遮られ暗闇に包まれた。
一瞬何が起こったのか訳がわからなかったが、誰かに担がれた感触からすると俺は誘拐された。
「誰かそいつを止めてくれ!」
「ルカリオ」
その声はしばらく続いていたが、唐突に主の声だけが消えた。
このままではまずい。
そう思った俺は、とにかく暴れて袋から脱出しようとした。
光はすぐに見えた。
「ぐぇ・・」
誘拐犯のものと思われる叫び声と共に俺は宙に放り出された。
それと同時に、袋の紐が解けたのだが・・・。
目の前はなんと海!
しかも、ものすごい荒れている。
俺は、過去のトラウマが恐怖を呼び、案の定、気絶してしまった。
その後、無論俺は暗黒の世界へと落ちて行った。
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「ルカリオ!」
僕の、思いを寄せている人が、今まさに漆黒の空間に吸い寄せられている。
この行動は、反射でもなければ思考したことでもない。
とにかく、僕は海に飛び込んだ。
僕たちの種族は、皮膚呼吸によって水中から酸素を得れるように作られているのだが、
陸上では取り入れられる酸素量に限りがあるためため、自分で切り替えをする。
でも、切り替え時に器官に物が入るとパニックに陥る。
(ルカリオ・・・)
僕は、可能な限りのスピードを出した。
いくら、水中で呼吸ができるといっても、前述したとおり限界がある。
ルカリオは、気を失っているのかピクリとも動かない。
ルカリオを救出して海面まで上がるまでに、息が持たなかった。
ギリギリのところで、海面に顔が出た。
「ぷはぁ!・・はぁはぁ・・っえ」
運命とはこうも意地悪なのだろうか。
僕が海面に顔を出して息着く間も与えないまま、僕もろともそれは漆黒の世界に引きづりこんだ。


もちろんパニックに陥ったのは言うまでも無い。
海の中で、揉みくちゃにされ意識を失ってしまった。
僕は、薄れ行く意識の中でルカリオを守ることしか考えていなかった。
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めまぐるしく世界は回る。
こうもいとも簡単に、命は消えていってしまうものなのだろうか。
時に、運命とは残酷だ。
と同時に、この世界にはその残酷さを隠すように音が存在する。
音は、常に自分たちのみの身の回りを取り囲みその運命の近づきを不透明な色にする。
分からない未来の中で、俺たちは生きている。
自分にとって、分からないことは不安でしかない。
そう、前の主人を自分が判っていなかったように。
本当のことなど誰にもわからない。
何が正しくて、何が間違っているのか其れも分からない。
ただ言える事、それはこの世に絶対が無いこと。
信じてきたものに裏切られることもあれば、奇跡が起こることもある。
分からないからこそに起こりうる其れは、誰も干渉することができない唯一無二の暗黙の了解である。


不意に、自分の目の前が開けた。
いきなり入ってくる照明の光に目がくらんだがすぐになれた。
明らかに船の中ではないことは確かなのだが、天井がある。
「ここ・・・は・・」
体が動かない。
確かに俺は、海に落ちたはず。
なら、なぜ俺は生きている。
俺の体質上、助かることはまず無いのにも関わらず・・・。
「お目覚めかな」
声がする。
比較的細めの男で、白衣を身にまとっている。
通常なら、見知らぬ音を聞いたときにはすぐにでも臨戦態勢をとるのだが、体が言うことを聞いてくれない。
「そう怖がることは無い。こうしてあんたの友達も助かってる」
そう、男は言って身を回転させその場から去った。
俺は、首だけ動かしてドアのほうを見た。
「ルカリオ・・・ぐす・・ひっく・・・うぁぁぁぁぁ」
フールが、泣きながら俺に駆け寄ってきた。
いきなり泣かれても、状況が理解できない俺にとっては対応に困ったのだがとりあえず・・。
「フール・・・落ち着け・・まずは・・・それからだ」
そう言って、まだ動かし難い手をフールの頭にのばし優しく撫でてやった。
こうすると、落ち着くのだこいつは。
雲は、雫こそ落とさないものの、まだ黒い色を変えない。
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久しぶりだった。
こうして、人の温もりを感じたのは。
頭を撫でられると落ち着くのを知っているのは、多分ルカリオだけだ。
「落ち・・・着い・・たか」
掠れ声になりつつも、僕に気を使ってくれる。
「うん、ぐすっ・・・もう大丈夫」
泣き止んだらすぐにいつもの顔に戻した。
まだ照明に涙が反射して、星が目の前に瞬いていたけど。
僕はいつもルカリオに甘えっぱなしだ。
小さいころ、どうしても生まれ育ったところに、どうしても行きたいとご主人に頼んだことがあった。
でも、ご主人は中々許してはくれなかった。
無理も無い、ご主人も暇をもてあましてるわけじゃない。
かといって、僕一人行かせるのはあの日の二の舞になりかねないと思ったのだろう。
そのときだったはずだ。
半ばあきらめて、啜り泣きをしていたら丁度今のように、突然だけど包み込まれるように
ルカリオ(当時リオルだった)が撫でてくれた。
そして、その後ご主人を承諾させ僕と一緒に丘までついてきてくれた。
いつも助けてもらってばっかで情けないな、僕。
「フール・・今の状況を説明してくれないか」
少しづつ声にも、掠れが無くなってきた。
僕は、全てを話した。
隠しても現実からは逃れられないから。

ー此処での話は長くなりますので、要約しておきます。

まず、ここはあの男性の家で、あの人はたまたま海岸に散歩に出かけたときに、
偶然僕たちを見つけたらしい。口調こそ尖っているものの、見ず知らずの僕たちを
助けてくれたところだけでみると根は優しいらしい。
此処の位置は、僕らの住んでいる地方内だけど、俗に陸の孤島と呼ばれるようなところでほとんど人は来ないし僕らの家からはかなりの距離があるらしい。
周りは、山に囲まれその中には、いたるところにハンターがいて下手に外に出ると
危ないらしい。
無法地帯もいいところだというのが、男性の見解らしい。

とりあえず、要点だけはしかっり伝わったはず。
「主には、すぐには逢えないのだな」
自分も、そのことは良くわかっていた。
ご主人は今も船の上なのだろうか。
「すまない、フール俺の・・せいで」
「いいよ、気にしないで。それより今は自分の事考えてよ」
「そうだな、もう少し眠るよ」
「うん、お休み」
そう言って、僕は部屋を出た。
窓越しに見える空には、橙と藍色のカーテンが広がっていた。
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「どお、調子は」
俺が、船から落ちて早5日がたった。
体も少しづつ動くようになってきた。
「いいほうだ。明日にはいけると思う」
「よかった」
フールが笑った。
此処最近は、どこか表情が怒っているようだったから、やはり新鮮である。
「そんなに見ないでよ。恥ずかしいから・・・」
俺は、いつの間にかフールを凝視していたらしい。
こんな時に急に牝になんなくてもと思うが、それよりも頭の中が真っ白になりそうだった。
俺は、慌てる気持ちを抑えつつ、平静を装った。
「すまんすまん。でも、久しぶりに笑ってくれたと思って」
「そうかなぁ。自分では笑ってるつもりなんだけど」
何にせよ、今回の旅行の目的はフールの機嫌を直すことだったのだからこれで少しはよしとするかな。
「ありがとな、フール」
「へっ・・・?」
キョトンとしている。
「お前だろ、俺を助けたの」
「う、うん・・・まぁね。でも意外だね、ルカリオからそんな言葉聞けるなんて」
意外とは何だ・・・。
「俺は感謝はするぞ、ちゃんと、それにだな・・・」
「プッ・・・ハハハハ」
腹を抱えて笑い始めた。
「何かおかしいことを言ったか?」
「ごめんごめん、余りにも真剣に張り合ってくるから・・・フハハ」
俺は、無口なのだろうか。
「そんなにおかしいか?」
しばらくフールは笑っていたが、それも収まったころ。
「もうしばらくご主人の連絡を待つ?」
「そうしよう、フールの話だと此処から出たら他に安全な場所は無い」
そのときドアが開いた。
「どうだ、調子は」
やはりそうだ。
この男の声、どこかで聞いた覚えがある。
「おかげさまで」
「そうか、それじゃ明日までにあんたの主に電話するから」
「お願いします」
もう、そのときには近づいていたのだ、非情な集団が。
「ここで本当にあっているのか?」
「あっているはず、やっと尻尾を出した。フフフ・・・。『あれ』お願い」
次の瞬間、空のそれとは違う濁った橙が辺りを包んだ。
耳を劈くようなおとがあたりに響き渡った。--------------------------------------------------------------------------------------
どのくらい経ったのだろうか?。
多分あの爆発音からして、火炎放射か何かだと思う。
声が聞こえてくる。
「本当にこいつか?」
「いや、こいつは違います。種族は確か・・・」
瓦礫の下に下敷きになっている。
でも、どうにか動けそうだ。
「ルカリオ。名を・・・・」
「名前なんかあるはずが無いだろう」
「それもそうですね」
周りの業火の音で、余り聞こえない。
だけど、目の前にいるポケモンが通常でないことは見当がついた。
腕になにやら変な腕輪みたいなものをはめている。
「あいつらの狙いは、ルカリオだ」
すぐ横で、声がする。
「あいつは、予想だがあいつらに追われている」
僕はすぐに聞き返そうとした。
追われるようなことしてないはずだ、あいつは。
だが、手を口の前にやられ遮られてしまった。
見ると、手には血がにじみ、そこらじゅうに血痕がある。
「質問は後だ、あいつを助けないと殺されるぞ」
殺される。
僕はその言葉に叩かれた様に起き上がり、二人組みに向かって突進した。
「くっ・・・」
「ぐ・・・」
二人組みは不意をつかれたのか、そのままうずくまってしまった。
どうしようどうしよう、こういう時ってえっと、こういうときに働いてよ僕の頭!
「早くしろ!。ルカリオをつれて逃げるぞ」
思考回路をつないでくれた、あの人の言葉。
そうだ、何よりもまず逃げなきゃ。
そう思って、ルカリオを探す。
すると、足元で何かが動くような感じがした。
「不快なもんだ、誰かに頭を踏まれるっていうのは」
本当は、言い返してやりたいがそれどころじゃない。
「ルカリオ急いで」
そういって、ルカリオの腕を強引に引っ張ってその場から立ち去った。
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今俺たちは、男の手持ちのホエルオーの上にいる。
あれから、こういうこともあろうかと通しておいたと言う隠し通路を通って海岸に着き
今の状態にある。
一つ不満があるとしたら、何回海に近づかなければならないのだろうかということだけだ。
「間一髪だった。もし隠し通路が無かったらここいはいないだろうな」
そういいながら止血の作業をしている。
この男、俺たちをかばって身代わりになったらしい。
それにしても、すごい反射だ。普通のやつだったら到底気付けないはず。
波導が使える俺でも気付けなかったのだから。
「あんたらどうするつもりだ」
「と言いますと?・・・」
「明日の明け方には、本島につく。そうしたら、俺たちは分かれなきゃならない」
「どうしてですか?」
フールが聞く。
「あいつらの狙いは、ルカリオ。確かにそう言った。だが、俺も追われてる身でね
あいつらがその追っ手だとは考えにくいが一応ね・・・」
全く見当がつかなかった。
そういう風なことをする人には到底見えない。
「そこでだ、二手に分かれてあいつらを拡散させる。そうすれば深手を負わなくて済む。
 まぁ、そのことは別れを意味するがな」
しばらく沈黙が続く。
こうも唐突に別れは来るものなのだろうかと思うと同時に、別れてからどうするのかという
二つの考えが頭をよぎる。
しかし、後者の疑問にはすぐに回答が出せた。
自分たちで帰るのだ、ご主人の元に。
それがどんな大変かは見当がつかない。
それでも、ご主人の下へ帰らなければ。
僕たちの帰りを今も待っている。
「分かりました、そうしましょう」
「ルカリオ!」
すかさず、フールが口を挟む。
今まで世話になった人に対しての礼儀というものが、明らかにかけている発言だった。
確かに、そのようなことになるのだが言い方というものを考えた方が良いと思う。
だが返ってきた言葉は、そんなことは気にしていないといった風な口調だった。
「良く分かってくれた。今まで楽しかった。またどこかであったら声掛けてね」
その答えた方には、静かに佇む水面のような表情をした男がいた。
その顔は、哀しげでもありそれでいながら笑っていた。
まるで、それを押し殺すかのように。
「それじゃさっさと寝て明日に備えなくては、ほら」
そう言って、かばんの中に入っていたらしい毛布を取り出した。
あの状況の中でよく持ってこれたなと感心せざるをえない。
「最後の夜だ、ぐっすりと眠るといい」
「「はい、おやすみなさい」」
そう言ってから、またも水上の恐怖心にあおられながら眠りにつくのだった。
中秋の名月も近いのだろうか、月がいつもに増して輝き、辺りを優しい光で包んでいる。
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本当にだめかと思ったあの瞬間から生き延びて、今満天の星空を眺めながら眠りにつく。
この瞬間がこうも大切に感じられることは、久しぶりだった。
野生のころはそうでも無かったが、ご主人と生活しているといい意味でも悪い意味でも
平和ボケするらしい。
「フール・・・でよかったかな少しいいかい」
男の人が私を呼んでいる。
「何でしょうか?」
最後の夜なのだ少しぐらい話に付き合ってもいいだろう。
「ルカリオは寝ているか?」
「多分寝ていると思います」
話とは何なのだろうか、そんな疑問が頭に浮かぶ。
それに、ルカリオが寝ている必要があるのだろうか?。
「俺は、あそこで償いをしていた。ある事件の」
「そうなんですか・・・」
「その事件は、『WM』と呼ばれるものだった」
「『WM』ですか。なんですかそれ?」
「World Monster 簡単に言うとポケモンを作り出す研究のことだ」
「?」
頭に疑問符を浮かべる、そんなことができるのだろうか
「俺は元研究員の一人でね、研究所の幹部役員だった。この研究は最強の生物兵器を作り出す目的で行われその研究は成功に近いところまで行った。だが、失敗したんだ。ある一匹のポケモンによって。研究所はそのポケモンによって壊滅。すぐにそのポケモンは時渡りの力を利用した装置に入れ未来世界に転送した。未来ならこのポケモンを何とかできると信じて。
ところが、そのときに逃げ出したやつもいてそいつの捕獲は間に合わなかった」
「じゃあ、なぜ追われていたんですか」
「捜索を命じられたんだ」
「その逃げ出したポケモンのですか?」
「ちがうよ。その壊滅させた方の捜索。でも、それもどうでもいいと思って。
もう、完全に期限切れてるし。それよりも、あのルカリオのことだ」
またも、頭に疑問符が浮かぶ。
「俺は、間一髪あんたを助けることができたが、ルカリオは間に合わず爆風に直撃したはずだ。
なのに、あいつはかすり傷程度で済んでいる。ほぼ確実に、あのルカリオが・・・。
でも、組織に恐れるのはやめたんだ。だからルカリオは捕まえない」
ルカリオが・・・。
そう聞いてもなんだかしっくりこなかった。
喧嘩じゃいい勝負だし、それにあんなやつが作り出されたのなら、作ったやつも相当口の悪いやつだなと思ってしまい、ついつい笑みがこぼれる。
「今のところは、真剣に聞いて欲しかったんだけど・・・。まぁいいや、ごめん。起こしちゃって」
「いいですよ、それであなたの重りが取れたなら」
「ありがとう、ずいぶん楽になった。明日は早いからぐっすり眠りな。おやすみ」
そういうと、すぐさま男の人は眠りに落ちた。

ご主人はいったいどうしているのだろうか。
もう、船旅は終わったのだろうか。
それとも、まだ船の上だろうか。
どちらにしても、しばらくご主人とは会えない。
もしかしたら、もう会えないかもしれない。
明日から始まるのだ。
ご主人の元へと帰る、長い旅が。

そのために、今は眠ろう。
明日寝れるかも、明日歩けるかも、明日この地に足跡を残せるかも分からない。
過酷な自然を相手にした、旅が始まるのだから。

そのために、今は眠ろう。
ご主人の、懐かしきあの音を求めて。
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昨日の夜の話は、ほぼ九割聞いていた。
自分が作り出された聞いたときにはさすがに、飛び起きそうになった。
でも、そんなことは覚えていない。
多分、時渡り時の不具合で記憶が飛んだのだと勝手に考えた。
早朝、すぐに男の人と別れた。
少々つらかったが、しょうがないのだと自分に言い聞かせた。
見たところ、左右はしばらく海岸線が続き、前方は森、後ろは今来た海上の道と言う地形だった。
「ルカリオどっちに行く?」
「あせるな、これからは少しの焦りが命取りになる」
そんなの分かってると反論しようとしたのを察したが、俺はルカリオ特有の雫のような形をしたところを、地面と平行にした。
波導を使っているときの合図だ。
5分間ぐらい経っただろうか。
平行の関係を解いた。
さすがに、5分間持たせるのは至難の技だ。
しかし、主の家の方角は気配程度しかつかめなかった。
息が上がっている。
俺は、その場にへたりと座り込んでしまった。
「ルカリオ!」
いきなり、座り込むものだから驚いて動揺してしまったのだろう。
「耳元で余り大きな声を出さないでくれ、鼓膜が破れるだろう」
「ぼくは、心配だから言ったんだよ。」
「悪かった悪かった、まぁとりあえず行く方向は決まった」
「どっち?」
そうすると、ルカリオは森の方を指差し
「森の方向にまず歩いていけば大丈夫だ。それよりも、こんなに波導を使うとなるとかなりの距離になる大丈夫だろうか」と言った。
予想はしていたが、軽い返答が返ってきた。
「最初からそんな考え込んでてどうするの行こう。ご主人が待ってる」
静かにうなずき出発した。
早朝の冷え込みが徐々に厳しくなってきている。
葉を踏みしめる音、梢をゆする音。全て新鮮なものだった。
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はしがき:これで#1は完結ですが、しばらく#2には行きません。ご了承ください。
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叱咤激励歓迎します。
#pcomment(懐かしきあの音を求めてのコメログ,10,below);


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