#include(第五回帰ってきた変態選手権情報窓,notitle) *恋するウロボロス [#bd2ba3fd] #contents この作品には以下の表現が含まれます。 &color(red,red){vore表現};、&color(red,red){流血};、&color(red,red){絞殺};、&color(red,red){特殊性器};、&color(red,red){産卵};、作者のトンデモ世界観 一般的ではない表現が含まれていますので、合わない方はブラウザナックを推奨します。 作者:[[COM]] ---- **1 [#f9ae4b25] 今でもよく覚えている。 あの日はとても月明かりが眩しくて、眠ることを許されないような……そう思わせるほどの夜だった。 僕と君、二人だけでいっぱいいっぱいになるような小さな洞穴にまでその光が届いて、僅かだけど君の濡れた頬を照らしていたのが見えていたから。 舌も、陰部も、身体も、なにもかもを絡み合わせて、境目も分からないほど僕と君は深く深く愛し合った。 この一瞬を永久にするために、二人とも全力で愛し合った。 だからこそ覚えている。 だからこそ一度たりとも忘れたことがない。 「いつまでも愛し合いましょう。あなたと私、二人の命が尽きるまで」 君と交わした約束を、僕はこれからも守り続けるために……。 今はただ、愛し合おう。 深く、静かに、そして激しく……。 &size(30){''恋するウロボロス''}; 鬱蒼と茂る森の中に温かな日差しが注いでいた。 深い森だが、その奥までしっかりと木漏れ日が注ぎ、森は見た目ほど暗くはなかった。 そんな森の中、暗がりに沿って黒い何かが長い体を這わせていた。 「みつけた……」 それは広角を上げてそう呟くと、またゆっくりと影から影へと縫うように進んでゆく。 ほとんど音を立てずに見つけたそれへと近づいてゆき、あっという間に背後を取った。 そして後ろからあっという間にその長い体を絡みつかせた。 「ああ!? ちょっと! ヴォレ! せっかくきのみを集めたのに!」 ヴォレと呼ばれたハブネークが、そのオオタチに絡みつくと、手に持っていた沢山のきのみがポトポトと地面に転がりだした。 絡みつかれたそのオオタチの声は、生命の危機を感じているものではなく、おふざけに付き合っているようなそんな余裕の声だった。 「エイミー。すぐ戻るって言ったのに帰りが遅いから心配したよ? それに集めたきのみは落としただけだろう? あまり僕を心配させないでおくれよ」 ヴォレはそのエイミーと呼んだオオタチに、体を優しく絡みつけていただけで、殺意や敵意は一切感じられなかった。 それどころか二人は笑っており、彼らの様子を見る限り、とても親密な仲のようだった。 オオタチの体も長いが、ハブネークの身体はそれ以上に長く、ヴォレは絡め取っても余りある尻尾の先で、エイミーのお腹をこちょこちょとくすぐった。 「ちょっと!! やめてやめて! 分かったから! 降参! 今度からもっと気を付けるから! くすぐったいのは苦手って分かってるくせに!」 「じゃあ約束。さあ、お昼にしよう」 そう言って、ヴォレは彼女の拘束を解いた。 よほどくすぐったかったのか、目には少し涙を浮かべており、お腹を少しさすっていた。 「ごめんね。私じゃあんまり沢山持ってこれなかった」 「気にしなくていいよ。僕じゃそもそもきのみを持ち運べないし」 一つずつ、色とりどりのきのみを口に運びながら、二人はそんな会話をしていた。 エイミーには短いがきちんと手足がある。 それに対して蛇であるヴォレには手も足もそもそもないため、彼女の謝罪に彼なりのユーモアも含めてそう返していた。 きのみを食べ終わると、流石にそれだけでは量が足りなかったため、結局二人で森の中を探し回りながら食べ歩くことになった。 その森はそれほどの緑樹に囲まれているためか、食料となるきのみも豊富なため、あちらこちらにポケモンがいる。 「こんにちは。二人共散歩?」 「こんにちは。散歩がてら食事ですね」 ただの散策でもかなり広いはずのその森では結構な頻度で誰かに出会う。 だが、食料の乏しい場所とは違い、取り合いになることや喧嘩になるようなこともなく、普通に会話をすることができる。 そして、都会からかなり離れているのか、あまり人間がやってくることもないため、みなそこまで警戒心が強くはなかった。 そのためか、ヴォレとエイミーのような不思議な組み合わせのカップルというのもあまり珍しくはなかった。 少し談笑してからヴォレ達はきのみを探しては食べ、また誰かに出会い、談笑するというような繰り返しをしていた。 「このまんまじゃいつまで経ってもお腹が一杯にならなそう」 食べては動いて、誰かと出会って話しているため、時間の割に確かにあまりお腹は一杯にはなっていなかった。 エイミーが不意にそんなことを言って、ヴォレ達は笑いながら、まだ腹八分目ともいかない内に家へと帰っていった。 ヴォレ達の家は、大きな崖にポッカリと空いた、洞窟だった。 程良く光が差し込むため、洞窟にしては湿気も少なく、とても快適に過ごせる空間だった。 そこに二人が入ると、ヴォレは半身を洞窟の外へ出した。 そうでもしなければ二人でゆったりと洞窟で休むことができないからだ。 「ねえ、やっぱり引っ越さないの? いっつもヴォレがはみ出してて申し訳なく感じるし、もっと広い場所とか、こだわらないなら洞窟以外とかでも……」 「いや。ここじゃなきゃダメなんだ……。君と過ごす家はここ以外には有り得ないからね」 エイミーの問いに対して、ヴォレは首を横に振りながらそう答えた。 それを聞いてエイミーはあまり納得した様子ではなかったが、とりあえずはふーん。とだけ答えていた。 既に日も落ちていたため、エイミーをくるりと囲うようにヴォレが体を横たわらせて眠りに就いた。 そんな他愛のない日々が続いていたある日、いつものように寝座に帰り、後は眠るだけという時にエイミーがふと、彼に質問を投げかけた。 「そういえばヴォレって、昔からずっとここに住んでるの?」 「そうだね。君と出会う結構前からここに住んでるよ。その時はこの家はこんなに狭くはなかったから……。僕にとってはこの窮屈さは幸せなんだ」 「そうだったんだ。ごめんね、引っ越そうとか言っちゃって」 「気にしてないよ。それに君がそういうのも分からなくはないからね」 「ふふっ。でも、そうなると私とヴォレって結構年の差があるのね」 そう言ってエイミーが笑うと、ヴォレは痛い所を突かれたのか苦笑いをしていた。 ヴォレにとって、この場所でエイミーと生きていけることは、体が半身洞窟の外に飛び出していることよりも幸せだった。 それは勿論、エイミーにとってもそうだろう。 「そういえば……もうすぐ君も十五になるのか……」 「そうよ! 私だってもう立派な大人なのよ?」 「え……何それ。もしかして僕にそういうこと求めてるの?」 「逆に聞くけど、恋仲なのにオスの方からそういうこと求めてくれないってどうなのよ?」 「……ダメなんだ。君と愛し合うなら、丁度今ぐらいの時期じゃなければ……」 「それってOKってこと? 期待しちゃっていいの?」 オオタチにとって十五歳は十分に成熟した歳((作者の勝手な設定です。根拠も何もありません。))であるため、彼女はそう言って体を艶めかしくひねっていたが、どうやらヴォレにはあまりその気がないようだった。 会話をしていく内に、二人の雰囲気はそういった方向に向かっていたが、明らかに二人の表情には差があった。 会話から察するに、二人は今まで肉体関係に至った事がないようだった。 そのためか、エイミーはそういう雰囲気になっていくに連れて、少しずつワクワクとしているような、興奮しているような、そんな感じになっていたが、対照的にヴォレは明らかに深刻な表情になっていた。 その間にも既にその気になったエイミーが、色気を醸しながらヴォレの顔へゆっくりと近寄っていた。 「嫌なの? 私とそういうことするの」 「嫌じゃないさ……。分かったよ」 根負けしたのかヴォレはそう言い、小さくため息を吐いた。 すると、ヴォレの間近まで寄っていたエイミーの唇を静かに奪った。 そのまま長い舌を物欲しそうな彼女の口内へ這わせてゆく。 すると彼女の舌も蛇の如く、彼の蛇独特な細長い舌を求めて口の中でくねらせた。 そうしている内に自然とエイミーは瞼を閉じていた。 ただ必死に彼だけを求め、静かに彼を感じていた。 「さあ……。愛し合おう……。君が求めるままに、僕も君を求めるよ……」 長い舌はすり抜けるように彼女の口の中から滑り出し、ようやく求めていたものが手に入り、恍惚とした表情を浮かべていた彼女の耳元で囁くようにそう告げた。 先程までと打って変わり、エイミーはとても恥ずかしそうに顔を赤らめていたが、そんな様子の彼女をヴォレは愉しそうに眺めながらゆっくりと、自分の長い体を彼女に巻き付ける。 先程までと打って変わり、エイミーはとても恥ずかしそうに顔を赤らめていたが、そんな様子の彼女をヴォレは愉しそうに眺めながらゆっくりと自分の長い体を彼女に巻き付ける。 僅かにひやりとするウロコの肌が彼女を刺激し、体を縮こませた。 しかし、それすらも気にしていないかのようにヴォレは何度も体を巻き付け彼女を包み込んでいった。 どんどん体がひやりとする感触に包まれていく中、彼女の秘部に明らかに温度の違う感触が触れた。 しかし、それすらも気にしていないかのようにヴォレは余った体をさらに巻き付け、彼女を包み込んでいった。 どんどん体がひんやりとする感触に包まれていく中、彼女の秘部に明らかに温度の違う感触が触れた。 胴を巻いた彼の大きな体から覗き込むように自分の秘部を見ると、そこには黒い体表と対照的な赤い突起が二本伸びており、それの一つが入口付近に宛てがわれていた。 思わずエイミーは声を出しそうになるが、その声をグッと堪えた。 僅かに湿り気を帯びたヴォレのペニスが膣の入口を擦る度に、奥から更に湿り気が溢れてその動きをさらに滑らかにしていった。 それを繰り返している内に小さく艶めかしい吐息が聞こえ始めた。 「はぁ……んっ!」 既に愛液で秘部の周りの毛が全て濡れてしまった頃、必死に彼女の膣口へ向けて擦りつけていたペニスが彼女の中へ滑り込んだ。 すると彼女のリズミカルな息遣いが一度途切れた。 「気持ち良いかい?」 「ちょっと……キツいけど……。でも嬉しい」 二人は繋がった事を今一度確かめ合うと、ヴォレは腰をゆっくりと動かし始め、より深く二本のペニスの内の片方を彼女の中へより深く進めていった。 エイミーの方へグッと力を入れながら腰を動かすと、彼女のお腹が僅かに盛り上がっているようにも感じられた。 それほどに彼女の中は狭く、無理に入れようとすれば壊れてしまいそうなほどに、彼女が必死に痛みに耐えているのがよく分かった。 だからこそヴォレも無理に自らのペニスを彼女の秘部へ押し込むことはなかった。 彼女が快感を味わえるように少しずつ動かしていき、嬌声が聞こえるまでその先には踏み込まなかった。 大分彼女も余裕が出来たのか、彼のペニスを根元まで受け止めても痛がる素振りを見せなくなった。 それを待っていたかのように深く自らのペニスを膣内へ突き、そしてギリギリまで引き抜いた。 彼女の押し殺したような嬌声が聞こえ、それを聞いた彼は少しずつ動きを早くしていった。 引き抜く度、突き込む度に気泡の弾ける音と、弾き出される愛液の淫らな音が狭い洞窟に響いていた。 気が付けば狭い洞窟の中に二人の体は収まっており、しっかりとエイミーの体をヴォレの体が包み込んでいた。 その中心で優しくもしっかりと抱きしめられたエイミーが、嬉しそうな笑みと乱れた呼吸で悦びを噛み締めていた。 一瞬、その締めつけがきつくなったのをエイミーは感じた。 それと同時に彼女は自分の中に熱い脈動を感じた。 彼女の中に入っていないもう一方のペニスから熱い白濁液が噴水のように吹き出し、彼女のお腹の上に降りかかった。 ドクン、ドクンと彼女の腹部を内側から確かな脈動を伝えていたが、その脈動と彼女の腹部の上にあるペニスはゆっくりとその吹き出す白濁液は勢いを弱めていった。 「やっと……やっとあなたと一つになれた……」 「まだだよ……」 嬉しさのあまりか、エイミーはそう言って喜びの涙を流していた。 それを見てヴォレは笑顔のような、真顔のようなよく分からない表情で彼女を覗き込んだ。 そしてゆっくりと彼女の膣から深く刺さりこんでいたペニスを引き抜いた。 入りきらなかった白濁液がスルリと流れ出し、既に愛液と精液でまみれた彼女の腹部にさらに一本の線を描いていた。 本来、蛇の交尾は長いが、それは既に本能的というよりは、ポケモンとしては交尾という行為を楽しむためのものになっていた。 故に卵を産ませるという目的のみならば、一度しっかりと膣内に射精を行えば問題ない。 そのため、ヴォレはそのまま彼女の体を抱きかかえたままその時を静かに待っていた。 それから暫く時間が経つと、彼女の一度落ち着いた呼吸がまた荒くなり始めた。 定期的にいきみ、彼女は新たな命を必死に産み落とそうとしていた。 ポケモンの繁殖力は異常に高く、受精してからあっという間に卵を産み落とす。 彼女もあっという間にその時を迎え、ヴォレに抱かれたままゴロリと彼の体の上に産み落とした。 「はぁ……はぁ……産まれた……」 疲労感と幸福感の入り混じる疲れきった笑顔を浮かべながらエイミーはそう呟いた。 そのままぐったりと彼の体に身を預けて、エイミーはゆっくりと息を整えていた。 だが、次第に自分の体を包み込むヴォレの体が強く巻きついてきたのを感じ、目を開いた。 「ど、どうしたの? ちょっと苦しいってヴォレ」 「……そうだろうね。でも大丈夫。すぐに気を失うから」 「どういうこと? 止めて! 冗談に付き合えるほど今は体力がないの!」 「冗談なんかじゃないさ。君と一つになるためだ」 「止めて……! 殺さないで……!」 「僕が君を殺すわけないだろ? でも、確かに君はもうすぐ病気で死んでしまう。だからその前に一つになろう。約束したんだから……。僕と君、二人の命が尽きるまで愛するって」 「何を……!?」 次の言葉を発そうとしていたエイミーの言葉が急に途絶えた。 優しく包み込んでいたヴォレの体はあっという間に、獲物を仕留めるためのギリギリと締め付ける容赦のない万力のように彼女の体を締め上げていった。 短い手足をバタバタとさせ、必死にそこから彼女は逃げ出そうとしていた。 だが暴れれば暴れるほど、息を吐き出せば吐き出すほどその締め付けは骨のミシミシという音が耳の奥に聞こえるほどに強くなっていった。 いくら息を吸おうとしても締め上げられて、肺が膨らむ余地すらないほどに締め付けられた状態ではそれも叶わなかった。 ひたすらもがき、息を吐く度に締め付けが強くなり、砕ける音が体中に響いていた。 蛇の締め付けは獲物を絞め殺すためではなく、肺を押し潰し息を吸えなくして窒息死させるために行う行為だ。 その結果として肺を守る胸骨や、体中の骨が圧力に耐え切れず折れるが、どんな者でも簡単に相手を気絶させる方法としても有効なのが同じく窒息である。 ついにエイミーは意識を失い、僅かに痙攣していた指先も動きを止めた。 「ごめんよ。でもこの方が長く苦しまなくて済むからね……」 そう言ってヴォレは締め付けを緩め、彼女の体へ頭を寄せた。 そして口をゆっくりと大きく開き、彼女を頭から少しずつ顎と体をうまく使ってゆっくりと飲み込んでいった。 彼女の体を半分ほど飲み込んだ時だっただろうか、彼女は意識を取り戻してしまった。 まず全身を襲う激痛に驚き、そして目の前の光景に言葉を失った。 『食べられてる……!? 嫌だ……!! 死にたくない!』 しかし、そう思って体を動かそうとしても指先を動かそうとしただけで激痛が走る。 普通に捕食されたのならば、その強力すぎる締め付けで内出血を起こし、その時点で死ぬ。 だが、ヴォレの場合は殺すことが目的ではなかったことが仇となった。 僅かな空気を求めて彼女は痛みを堪えながら息をした。 ゆっくりゆっくりと愛していた人に飲み込まれてゆきながら、彼女は様々な思いを頭の中で巡らせていた。 何故殺されるのか、何故愛していたはずの彼と愛し合えたと思った瞬間に……。 自分が生き残る道よりも、多くの何故が彼女の心を支配していた。 ただただ、絶望に打ちひしがれながら、自分の体が最愛の人に飲み込まれてゆくのを待つしかなかった。 長い尾も全て飲み込み、彼の太い胴が更に太くなった後、彼は自らの胴を舌で舐めた。 「少しの間お休み……エイミー。また君を愛するよ」 そう言って彼は長い尾で卵を抱き寄せ、優しく包んで眠りに就いた。 **2 [#t2617a1d] そこには何もなかった。 枯れ果てた大地と少しのポケモン、そしてその僅かな&ruby(ポケモン){食料};を奪い合っての殺し合いが当たり前の世界だった。 「食わねぇのか? ヴォレ。だったらお前の分も俺が食うぞ」 目の前にはコラッタだったものが何匹か転がっていた。 ここにはきのみなんてものはない。 もしもそんなものが実っている木があったとしても、この世界では二日と持たずに木ごと貪り尽くされているだろう。 「いっぴ……一つだけ残しておいて……。僕も後で食べるから……」 表情を歪め、目を背けながらヴォレは彼の兄にそう言った。 ヴォレは優しすぎたがために、誰かを殺すことができなかった。 現に今も既に死体となったコラッタを前にしても、それを口にすることに非常に抵抗があった。 そのためいつも獲物を狩ってくるのは兄の仕事だった。 この世界において助け合いなど何の意味もなさない。 弟であるヴォレもそれはよく分かっていた。 だからこそ、ヴォレは何度も兄に言っていた。 「僕のことは置いていっていいよ」 「馬鹿が! お前は俺なんかよりもずっと強いんだ。だから俺はお前を利用してるんだよ! もしもの時はせいぜい俺を守ってくれよ?」 自分が獲物をとってこない分、兄に負担をかけていることをヴォレは十分理解していた。 だが、その度に兄は笑いながらそう言ってヴォレの頭を尾の先でペシッと叩いていた。 兄はいつも笑顔を絶やさないようにしていた。 そんな世界だからこそ、彼は弟を守りたかった。 幼い時に二人は親を他のポケモンに食われていた。 この世界では当たり前のことだ。 寧ろ彼らは親に食われなかっただけ恵まれていたのかもしれなかった。 そんな記憶と経験があるからか、兄は唯一の肉親である弟を大事にし、弟は殺し合いを極力避けていた。 だが、兄の言う通り、ヴォレは強かった。 そんな世界でそんな正確だからこそ、ヴォレはよくいろんなポケモンに狙われていた。 そいつらと命懸けの戦いを続けている内に、兄弟は強くなっていたが、この世界で生きるには強いことは当たり前だった。 だからこそ兄弟は約束していた。 「いつかこの大地の先にある場所まで行く」 無限に続いているようにも思えるその荒野を、二人は決まった住処も決めずにただ進んでいた。 こんな世界が嫌だからこそ兄弟は違う世界を求めた。 何処かにあることを信じて進み続けた。 そんなある日だった。 狩りに行った兄の帰りが遅かったため、ヴォレも兄が狩りに行った方へ進んだ。 「来るな!! 逃げろ!!」 複数のヘルガーに囲まれ、息も絶え絶えの兄を見つけた。 ヴォレは兄を守るためにヘルガーたちに襲いかかった。 結果として大小複数の怪我を負いながらもヴォレはヘルガーを返り討ちにすることができたが、兄の傷は既に致命傷だった。 「やっぱ……お前の方が強かったな……」 「嫌だ……嫌だ!! 兄さん! 死なないで!!」 「無茶言うなよ……。もう目も霞んでるっていうのに……」 血の海に浮かぶ兄を前に、ヴォレはただ泣くしかなかった。 「約束守れなくてごめんな……。お前なら生きていけるさ……。俺の分まで……生きてくれよ……」 その言葉を最後に兄は動かなくなった。 ひとしきり泣いた後、ヴォレは空腹感を思い出していた。 そもそも兄が狩りに行ったのは、二人共空腹で仕方がなかったからだった。 今まで一緒に生きてきた兄は既に息絶え、そこに横たわっていた。 たとえ死んだとしてもそれは兄であることに変わりはない。 だが、そのまま放置して先へ進んでも兄は結局、他の誰かに食べられるだけな上に、怪我をしたヴォレも今襲われればひとたまりもない。 何度も葛藤した。 大事な兄を他でもない自分が『食べる』のかと……。 だが、血の海が広がっている以上、匂いを嗅ぎ付けてすぐに他のポケモンが現れるため悩んでいる時間はあまりない。 結局ヴォレは泣きながら、兄の亡骸を食べていった。 兄の体を半分ほど飲み込む頃には流れる涙も止まっていた。 目的はただ一つ。 此処ではない何処かを目指し、兄との約束を果たすために……。 それからはヴォレは一人で兄と行っていた果てへの旅を続けた。 しかし、一人で進むのには大きな問題があった。 ヴォレは誰かを殺すことができない。 そのため、狩りを行わなかったヴォレは何日も飲まず食わずで過ごしていた。 それでもその荒野の果ては訪れてはくれなかった。 フラフラと進むヴォレはさぞ格好の獲物だっただろう。 エレザードがヴォレを狙って現れた。 だが、ヴォレも既に極限の状態だった。 『何かを食べなければ死ぬ』 そんな本能が理性を上回ったのか、エレザードは返り討ちにあい、既にヴォレがしっかりと意識を取り戻した頃には腹の中に収まっていた。 そうやって誰かを食らったことに気付く度に、腹は満たされ、進む力は生まれたが、同時に彼の精神は罪悪感で磨り減っていった。 極限の生活を送りながら既に一ヶ月もの時が経ったが、それでも世界の端は現れなかった。 彼の精神は既に限界だった。 殺したくないと願えば願うほど弱りきった彼を狙ってポケモンが現れる。 そしてそれと同じだけ死にたくないと願い、襲ってきた相手を殺して生きる糧にする。 自分の思想が矛盾し、既に兄と死別して多くの命を奪い続けたせいで、彼を生かしているのは既に兄との約束だけだった。 此処ではない何処かを目指していたが、そんなものはないのかもしれない。 ついに彼を狙って現れるポケモンもいなくなり、精も根も尽き果てて最後の気力で進んでいた。 ただ、無心で進んでいる内に、ついに彼は動けなくなった。 それでよかった。と心の何処かで安堵しながら、同時に唯一の約束を守れなかった悔しさが心に溢れた。 「だ、大丈夫!? あなたハブネークよね?」 そんな時に何処かから久しぶりに誰かの声を聞いた。 目を開くとぼんやりとだが、そこに何かがいるのが分かった。 ヴォレは生きるためにもう一度体を起こそうとしたが、既にその力も使い切っていた。 僅かに動いただけのヴォレを見て、そのポケモンはとても心配そうな声をまた出していた。 「すごい痩せ方……。待ってて! 急いで食料を持ってくるから!」 そんな声も既にヴォレには届いていなかった。 だが、そこにいた何者かが何処かに行ったことだけはよく分かった。 力なく、最後の瞬間を待とうとしていたが、その声の主は本当にあっという間に戻ってきた。 何かが地面にばら撒かれる音が聞こえ、ヴォレも死を確信したが、口の中に何かが染みてきたのを感じた。 それは血生臭い鉄の味ではなく、甘い今まで感じたことのないものだった。 ゆっくりと目を開くと、そこには一匹のオタチが必死にきのみを絞っては、その汁をヴォレに与えていたのが見えた。 ヴォレにとって今目の前で起こっていること全てが理解できないことだった。 だが、それは実際に起こっており、彼が願いながらもずっと心の何処かでは諦めていた光景だった。 だがもうそれを見ても何かを言える程の気力も残っていなかったヴォレはゆっくりと気を失った。 「あ! 良かったー!! 目が覚めたのね!」 どれほど気を失っていたのかわからないが、ヴォレが次に目を開けた時、そこは大きな木の下だった。 体にある程度力が戻っていることを確かめ、ゆっくりととぐろを巻いて起き上がり、その声の主を見つめた。 「君は何者だ? 何故僕を助けた」 「な、何故って……。あんなところで倒れてる人がいたら普通助けるでしょ? それにあんなに痩せてたら何かあったんじゃないかって不安になっちゃうし……」 その言葉を聞いてヴォレはもう一度困惑した。 痩せ細っていたから食料にしても意味がなかったとでも言われると思っていたが、目の前にいるそのポケモンは間違いなく助けるために彼を看病していた。 それどころか、そのオタチにとって誰かを助けることはごく普通のことなのだと言ってのけた。 それを聞いてから一度ヴォレは深呼吸をして目を瞑り、ゆっくりと開いて周囲の景色を見渡した。 意識もはっきりとし、目の前にいるポケモンが明らかに自分の知っている『世界』のポケモンと違うことを確信して、見上げた世界は見たこともない世界だった。 焦がすような日差しは空一面を埋める緑の空から散り散りの温かな光を落とすだけになっており、周りを見渡してもほぼ全てが緑一色に染まっていた。 「本当に……あったんだ……。そんな世界が……」 ヴォレはそう呟くと、静かに涙を零した。 いろんな感情が溢れてそれが涙となり、咽び声となり、溢れていった。 オタチは気が付いたと思ったら急に泣き始めたヴォレを見て慌てていたが、理由が全く分からないためただオロオロとするしかなかった。 「だ、大丈夫? 急に泣き出してびっくりしたけど……」 数分経ってようやく泣き止んだヴォレにオタチは恐る恐る話しかけた。 ようやく心も落ち着いたヴォレは、目の前にいるオタチをまじまじと見つめ、ゆっくりと囲んでいった。 そのままぐいっとオタチの体を持ち上げたが、オタチはただただ困惑するだけで、逃げるようなこともせず、逆に襲いかかってくる様子もなかった。 「ひとまずありがとう。ただ、僕がもしもこういう性格じゃなかったら、君もう食べられてるよ?」 「えぇー酷い!? 助けたのに!」 「本当に……そういうことを知らない人なんだね」 そう言ってヴォレは久し振りに笑った。 もうどれほど笑っていなかったのかも忘れたほど、本当に久し振りに心から笑えた。 だがそれと同時に抑えていた沢山の悲しみや悔しさ、罪悪感も思い出してしまった。 生きるために、約束を守るために必死だったとはいえ、多くの命を奪っていったことをヴォレは今更ながら痛感した。 「そういえばあの時、君が僕に食べさせてくれた物は一体何なんだい?」 「何……って、きのみよ? あなたもよく食べてるでしょ?」 ヴォレの質問に対し、さも当たり前のようにオタチは逆に質問を返してきた。 勿論ヴォレは人生できのみというものを見たことなどない。 そのため首を傾げると、オタチは驚愕していた。 「きのみを知らないって……じゃああなた逆に今まで何を食べてたの?」 「……あまり知らない方がいいよ。それよりもあのきのみというのはまだ食べてもいいかい? お腹が空き過ぎてまだ足りてないんだ」 「食べてもいいかって言われても……そこらじゅうに実ってるわよ? 好きなだけ食べればいいのに……。本当に不思議な人」 オタチの言葉を聞いてヴォレは自分が今まで殺してきたポケモン達の事と、兄のことを思い出して少し表情を暗くしたが、そういった世界を知らない彼女に対して自分のことを話すべきではないと考え、ヴォレは話題を変えた。 不思議そうな表情を見せて、オタチは少しだけ微笑み、そこらじゅうの木に実っているきのみを指差した。 それを教えられて今度はヴォレが驚愕させられた。 指差した先にある色とりどりの物体、それらが全て食べることのできるものと知り、自分の知っていた世界のバカバカしさを呪い、同時にオタチがどうしてここまで自分に対する警戒心がないのかもよく分かった。 奪い合う必要がないどころか、食料となるものが文字通り無尽蔵にある以上、誰かと睨み合う必要など微塵もなかった。 ヴォレは呆れにも似た気の抜けた笑い声を出して、ゆっくりと仰向けに倒れこんでもう一度噛み締めた。 『此処ではない何処か』それどころか、奪い合う必要のない世界に自分はたどり着いたのだ……と。 それから暫くの間は、森の中を彷徨いながら、お腹が空けばきのみを好きなだけ食べ、ゆっくりとその世界を堪能していた。 だが、彼は元々その世界に住んでいたわけではない。 ヴォレが木漏れ日の下で日向ぼっこをしながら、うたた寝をしていたある日、近くの茂みが不意にガサガサッと揺れた。 その瞬間、ヴォレは素早く起き上がり、その茂みに向かって殺気を放ちながら威嚇した。 だが、その茂みから出てきたのは臨戦態勢のヴォレに驚いたタネボーだった。 「な、なんだこいつ!? 驚かすなよ!」 「あ、いや……そういうつもりじゃ……」 訝しげな表情でコノハナはヴォレを見つめ、すぐに引き返していった。 ヴォレもすぐに謝ったが、彼に悪気はなくともその世界ではヴォレの行動は異常だった。 その森で生活を始めて既に二週間程経っていたが、それ以上に過酷な環境を生きた時間が長すぎた彼は、近づいてくるポケモン全てを警戒してしまっていた。 この世界で襲われることは決してない。 そう分かっていても、気を抜いたらその瞬間死ぬような世界で生きていた彼にとって、ポケモンが近寄ってくること自体恐ろしいことだった。 この森に来て数日しか経っていなかった頃だと、正面から挨拶をしてきたポケモンすら警戒していたが、流石に今では不意を突かれない限りは警戒することはなくなっていた。 だが、この森は彼が知っている世界ほどポケモンは少なくない。 ポケモンの数が多いこの森では噂というものは人伝てにあっという間に広がってゆく。 「おかしな奴がこの森にやってきた」 そんな噂が広まるには十分すぎる時間が経っていた。 そのため、一月程経ち、ようやくこの森における身の振る舞いというものを理解したヴォレだったが、既に彼に近づこうとする者はいなくなっていた。 変わり者の彼は、ようやく見つけた安住の地で唯一誰からも敵と認識されてしまったが、ヴォレとしては正直な所、その方が有難かった。 森の中には勿論今まで荒野で食らってきたポケモンと同じ容姿のポケモンが少なからず住んでいた。 そのためそういったポケモン達を見る度に、ヴォレは罪悪感に駆られ、逃げ出したくなっていた。 そういった者達が近寄ってこないことは、ヴォレにとっては心の中に秘めている過去を認め、これからのことを考えるための良い時間になっていた。 だが、そうなってもなお彼に近づいてくる者の姿があった。 「こんにちは! 今日もいい天気だね!」 「また君か……。よく近づく気になれるね。僕の噂を知らないのかい?」 「もちろん知ってるわよ? 誰にでも敵意剥き出しの人が森の外からやってきたって噂。とっても大きな森なのに知らない人の方が少ないんじゃないのかしら?」 「ならなんで近づいてくるかな……」 「だってあなた、威嚇してるだけで本当は優しいんだもん!」 彼を助けたオタチだけは未だにそうやって寄ってきては、ヴォレのとぐろを巻いた体の上にピョイと飛び込んできていた。 オタチというポケモンは荒野には住んでいなかったため、彼の過去がぶり返すことはほとんどなかったが、彼から見れば小さなそのオタチを見ると、殺してきた小さなポケモンを思い出して心が痛んだ。 その先も何度もオタチは彼の警告を無視して近寄ってきたためか、ヴォレも次第にオタチにだけは心を許していた。 「そういえば、あなたってどこに住んでるの? それともこの辺り?」 「別に住む場所は決めてないよ。森の中で適当に寝てる」 「そうなんだ!? あれだけ警戒してたのに特に決めてないのね」 「確かにおかしな話だね。そうだ、君なら良い場所を知っているかい? 誰も近寄らないような……一人になれるような家にできるような場所」 「もしかして……私が来るの迷惑だった?」 「いいや、寧ろ有難かったよ。流石にこれだけ沢山のポケモンがいる森で、本当に誰とも関わりが無いのはちょっと寂しいからね。ただ、誰とでも打ち解けられるようになるには……僕にはもう少し一人で、この森で生きていくための心の準備が欲しいんだ」 「そういうことなのね。それなら良い場所を知ってるわよ」 オタチはヴォレの心情を察してか、あまり深くは聞かず、ヴォレを彼の求めるような場所へ案内した。 そこは森の中にある鬱蒼とした木々たちから少し離れた場所にある、森の中からピョコンと飛び出した、少しだけ日当たりの良い小さな崖にポッカリと空いた洞窟だった。 「ここなんてどう? すぐ近くにきのみが実ってないからあんまりこの辺りにはポケモンが住んでいないの」 「いいね、ありがとう。ここならゆっくりできそうだ」 「よかった。気に入ってくれて」 「そういえば、どうして君は僕にここまで優しくしてくれるんだい?」 「うーんと……秘密! いつかあなたが私に秘密を教えてくれたら教えてあげる! じゃあまた今度ね!」 崖の洞窟にヴォレを案内すると、オタチはそう言って笑顔で去っていった。 だが、どことなくその笑顔はいつもの笑顔に比べて何処か元気のないもののように見えた。 しかし、彼にも語りたくない過去があるため、深くは言及せず、尻尾を振ってオタチを見送った。 「また今度……か。兄さん以外と会話できる日が来るなんて思ってもみなかったな」 ヴォレはそう呟いて、深い深呼吸を一つして少しだけ何かを考えてから、新居へ潜り込んでいった。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 森に訪れ、洞窟で暮らし始めてから一年程の月日が経った。 彼の噂も既に風化し、今では当たり前のように森のポケモン達と会話できるようになっていた。 だが、まだ彼の中で過去への罪悪感は癒えておらず、森の外に広がる荒野からやってきたことは明かしたが、何を食べて生きていたのかは未だに言えていなかった。 そのため、殺してきたポケモン達と同種のポケモン達との交友は極力避けていた。 ある程度その森にも、その森での生活にも馴染み始めてから、明らかに今までと変わったことがあった。 必ずと言っていいほどヴォレに顔を見せに来ていたオタチが、最近はあまり顔を見せないようになっていた。 そんなある日、日も暮れ始め、帰路についていたヴォレの前にオタチがヒョッコリと顔を出した。 「こんばんは! もう大分この森にも慣れたみたいね」 「おかげさまでね。最近はあんまり君に会えないからお礼を言うタイミングもなかったんだよ?」 「別にそんな大層なこともしてないでしょ? それとも何? 私に会いたくて仕方なかったの?」 「まあ本音を言うとそういう所だね」 最初こそ、他愛のない話をしていたが、ヴォレは出会った時から秘めていた想いをようやく口に出していた。 そのオタチはそう言われて冗談だと思っていたのか、最初はキョトンとした表情を見せ、笑って誤魔化していたが、ヴォレが本気なのだと分かると次第に表情を暗くしていった。 「はっきりと言おう。君のことが好きだ」 「ありがとう……。でもダメなの」 「何故?」 「あなたには黙っていたけど……。私はね、呪われてるんだって」 オタチはそう言った。 ヴォレにはオタチの言っている意味が全く分からなかった。 いきなり呪われているなどと言い出せば、誰もがそうなるだろう。 だが、オタチは明らかに悲しげな表情でそう語った。 その言葉には決してヴォレを避けたいがための意志はなく、オタチは本当にその呪いで苦しめられているのが伝わってきた。 「私はね……昔から誰かと関わったりすると、必ずその人を不幸にしてしまうの……。信じられないかもしれないけれど、実際に私の親も、友人も……みんな死んでしまったの……」 オタチはそこまで言うと、声を殺して泣き出した。 オタチの『呪い』のことをこの森で知らない者はいないらしく、オタチと関わることを森のポケモン達は避けていた。 だからオタチは常に独りだった。 ヴォレはこの一年、オタチとよく接していたからこそ、とても優しく、周りを幸せにする人なのだとよく分かっていた。 「ごめんなさい……。本当はあなたともすぐに関わらないようにしなければいけなかったのに……。久し振りに誰かが私と会うことを喜んでくれたのが……嬉しくて」 「そんなものが『呪い』だというのなら。僕は構わない。ただ運が悪かっただけだろ? それを全て君のせいにするのは見当違いな話だ」 「でも!」 「この世界では関わってはいけない人なんていないんだよ!! 誰もが話し合える世界でそんなことは絶対にありえないんだ!!」 オタチは何かを言おうとしていたが、ヴォレはつい大きな声でそう言ってしまった。 そう言うとオタチは首を横に振った。 「あなたは私のことを知らないからそう言えるのよ……」 「君だって僕のことを知らないだろう。……僕は本当はこんな平和な場所でぬくぬくと生きていていいようなポケモンじゃないってことも……」 「どういうこと?」 「僕がここに来たばかりの頃、君は僕に聞いたよね? 『何を食べて生きていたのか』って……。ポケモンだよ。他のポケモンを殺して食べて生きてきた。出会うポケモンのほとんどを殺してきたと思う……。僕はそんな奴さ」 ついにヴォレは自分の口から今まで忘れることのできなかった過去を、オタチに話した。 親も兄も、友人と呼べるような者もおらず、全てを敵と認識し、自分の信念と何度も矛盾した生き方をし続けたことを明かした。 泣いていたオタチもその言葉を聞いて絶句していた。 「君が『いい人』だと思っていた僕はそういう奴なんだ……。分かっていても何度も自分で何度もやりたくないと決めたことを躊躇いもなくやってきたんだ。誰も殺したくない。心の奥底からそう思っているのに、殺し合う必要のないこの森でも未だに自分が怖くなる……。またいつか……僕は誰かを殺してしまうような、自分ではなくなってしまうような気がするんだ」 「そう……だったのね……」 「ああ。でも、僕のこの想いは本物だ。だからこそ君には言いたかった。これが僕だと……。そして、君が望むのなら……僕はこの森を去るよ」 「どうして!? あなたは何も悪くないでしょ!? それは生きるために仕方のなかったことでしょう!?」 「一年もこの森に住ませてもらったからこそ分かる。未だに僕は荒野で生きていた感覚が抜けないんだ。いつか取り返しのつかないことになる。だから、いずれ僕は死ぬべき場所へ戻るつもりだよ」 「なんでそんなことを……私に決めさせるの? そんなこと、あなたがこの森で暮らしちゃいけない理由じゃないでしょ!?」 「君だけなんだ。僕が心を許せたのは」 ヴォレはオタチの瞳を真っ直ぐ見て、そう言った。 「結局僕は自分勝手な奴さ。殺したくないと言いながら沢山のポケモンを殺して、この森にいるべきではないと分かっていながら、君とこの森で静かに暮らしたいとも願っている……。だから、君に決めて欲しい。悩む必要はないさ。僕は元々この森にはいなかったんだ。思った通りに言ってくれればいい」 「私たちって……どこか似てるのかもね……」 続けてそう言ったヴォレに対して、オタチはそう言って泣き顔のまま小さく笑ってみせた。 そしてゆっくりとヴォレの方へ歩み寄った。 「私もあなたと生きたい……。そう願ってもいいのかな?」 「君がそう望むのなら、そうすればいい。僕も君と生きたいから……」 二人はそう言うと、オタチは静かにヴォレの体に抱きついた。 そんなオタチをヴォレも優しく包み込んだ。 日が沈み、あっという間に暗くなっていく森の中で、ヴォレとオタチは密かに愛を誓った。 その後、二人は同じ帰路についていた。 オタチは元々その『呪い』のことがあったため、決まった位置に住んでいなかったらしく、ヴォレは愛を誓った時点でオタチを自分の住んでいる場所に連れて行くことにした。 洞窟に着くと、ヴォレは先にオタチを洞窟に入らせて、自分も彼女を追うように入っていった。 その洞窟は二人が住むには丁度いい広さだった。 オタチを中心に、ぐるりと囲むようにヴォレが入り、まるで常に抱きしめているかのようになっていた。 「夢みたい……。誰かに好きだなんて言われるなんて……」 「僕にとっては今生きているこの時間全てが夢みたいなものだよ」 「そういえば私、まだあなたの名前を知らないわ」 「そういえばそうだね。僕も君のことを好きだと言ったのに、名前も知らなかった」 「私はエイミーよ。あなたの名前は?」 「ヴォレだよ。これからもよろしく、エイミー」 二人はそう言って笑いあった後、出会ってから一年経ってようやく自分の名前を相手に伝えた。 ヴォレとエイミーは幸せそうに笑いながら、そのままゆっくりと眠りに就いた。 それから二人は一緒に生活するようになっていた。 毎日二人で様々な事を語り、笑い、時にお互いの過去を語り……そして互いに過去を赦しあった。 気が付くとあまり外へ出たがらなかったエイミーはヴォレと一緒なら森を散歩するようになっていた。 ヴォレがエイミーにだけは気が許せたように、エイミーも呪いのことをなんとも思っていないヴォレの傍に居たいと心の底から思っていた。 もちろん、エイミーの呪いのことを知っているポケモン達は二人が仲睦まじく散歩をしているのを見て、訝しげな表情を浮かべていた。 だがそんなことは今の二人には関係無い。 ただ二人で笑い合えたらそれでよかった。 そんな幸福な日々が続いたからだろうか、エイミーはヴォレと共に生活し始めてから数ヶ月も経たない内に進化して、オオタチへと姿を変えた。 「進化できたんだ。前の君も可愛らしくて素敵だったけど、今の君も美しいよ」 「や、止めてよ! 恥ずかしい! ……でも、ヴォレと同じような姿になれてちょっと嬉しいかな?」 進化しても二人の愛はもちろん変わることもなく、より愛を深め合っていた。 そして二人が一緒に暮らし始めてから二度季節が巡り、二人共より一層心からお互いを信じ、愛し合っていた。 そんなある日、ついにヴォレは恐る恐る口にした。 「ねえ……エイミー。もし君がよかったら……君と子供を作りたい。いいかな?」 「フフフ……やっとヴォレから言ってくれた。私の口からじゃ言いにくいでしょ?もちろんいいわ」 二人には既に少しだけ窮屈さを感じるようになった洞窟の中で、ヴォレはエイミーの体にゆっくりと巻きついていった。 それだけでエイミーは恥ずかしそうに顔を赤らめながら、だが嬉しそうにヴォレの瞳を潤んだ瞳で見つめていた。 エイミーは文字通り、大好きな人に包まれ、静かに唇を重ねていた。 舌を絡めようとエイミーは彼の唇を押しのけて、ヴォレの舌を探そうとしたが、蛇の唇は固く、無理矢理開けられるような代物ではなかった。 だがヴォレもエイミーが何をしたいのかはよく分かっていた。 そのため、ヴォレはゆっくりと彼女が自分の口内を覗き込めるほど口を開き、彼女の舌を受け入れた。 するとエイミーは何を思ったのか、ヴォレの口の中へ自分から頭を滑り込ませた。 ヴォレは少しだけ驚いたが、すぐに彼女の頬を長い舌で優しく撫でた。 少しだけその不思議な光景のディープキスを堪能した後、エイミーは少しだけ名残惜しそうにヴォレの口から顔を出した。 「ごめんね。顔中涎まみれになっちゃったね」 「ううん気にしてない。それよりも謝らないといけないのは私の方ね。嫌じゃなかった?」 「言っただろ? 僕は君にだけは何をされても許せるんだ。気にしてないよ」 そう言ってヴォレは笑い、もう一度軽いキスをした。 そしてヴォレは頭を彼女の背中側へ回り込ませて、見下ろすように彼女の腹部を覗き込んだ。 そこには既に大きくなった彼の二股のペニスが伸びていた。 エイミーもそれに気が付いたのか、少しだけ体を強張らせたのがヴォレにも伝わった。 「大丈夫? 無理そうなら止めておくけど」 「二本は流石に無理だけど……どっちか一つだけなら大丈夫。私も早くヴォレと一つになりたいもの」 彼女の返事を聞いて、ヴォレは彼女の秘部をその立派なペニスで探していた。 柔らかな毛の感触が、心地良い刺激をヴォレに与えるが、気にせず彼女の腰の辺りを探っていった。 すると彼のペニスの根元に明らかに違う感触が触れた。 「ここよヴォレ。早く頂戴」 エイミーがそう言ったかと思うと、ヴォレのペニスは導かれるように彼女の膣に当てられていた。 ヴォレの股間は彼女の短い足に挟まれて、しっかりと誘導されていた。 催促するエイミーの瞳をしっかりヴォレも見つめ、そしてゆっくりと彼女の秘肉を押し広げていった。 案の定彼女は痛みに顔を歪めていた。 思わずヴォレは動きを止めるが、エイミーの足は痛みからか、震えながらも彼のペニスをしっかりと挟み込み、必死に受け入れようとしていた。 それを見て躊躇っていたヴォレは決心し、またゆっくりとペニスを挿し入れていった。 しかし、あまりエイミーに負担をかけないように最新の注意を払いながら挿入していったためか、今にも泣き出しそうなほどに歯を食いしばっていたが、それ以上の痛みを与えないようにしていた。 少しずつ少しずつエイミーの秘部の中へ彼のペニスは入っていき、できる限り負担を抑えながらなんとかヴォレのペニスはしっかりと根元まで入りきった。 僅かにお腹が盛り上がっているのが分かるほど、彼女にとって彼のペニスは大きく、きつかったはずなのだが、入りきるとエイミーは息を荒くしたまま、微笑んだ。 「本当に大丈夫かい?」 「嬉しいの……。誰かと……こうやって愛し合えることが……本当に嬉しいの……。だから、いつまでも愛し合いましょう。あなたと私、二人の命が尽きるまで」 「もちろんだよ。これからも君を愛するよ。ただ、命が尽きようとも。だね」 「ありがとう。ヴォレ、私は今、本当に幸せ。あなたと出会えて本当に良かった」 お世辞にも彼女はその行為で快感を味わっているとは言えない表情を浮かべてそう言ったが、その言葉と瞳には確かに幸福に満ちたものがあった。 だからこそヴォレも彼女の体を気遣いながら、少しでも彼女を悦ばせようと少しずつペニスを動かしながら、彼女の喉元を優しく舐めたりした。 ゆっくり時間をかけ、彼女が快感を味わえるように少しずつ動かしてゆく。 行為を始めてから大分時間が経ち、ようやく彼女は痛みを感じなくなったのか、嬌声が少しずつ聞けるようになっていた。 熱く狭い彼女の膣内は挿れているだけで十分な快感だったが、それもヴォレにとってはあまり関心のないことだった。 ただ彼女に気持ち良くなってもらいたかった。 そう考え、自分が行為を愉しむことは後回しにして彼女に快感を与え続けた結果か、次第にエイミーはその快感を素直に言葉にしていた。 ようやくピストンと呼べるような腰の動きになり、既に体中舐められて涎まみれの彼女の秘部から、突き入れる度に愛液が溢れ、水音を立てて僅かに散っていた。 そこでようやくヴォレも快感を味わうようにした。 心地良い痺れにも似た刺激がペニスから全身を駆け巡り、可愛らしく鳴いている彼女の声が更に彼を興奮させた。 それからはあっという間だった。 彼女のお腹が更に圧迫されたかと思うと、精液が勢いよく吹き出し、涎と愛液にまみれた彼女に更に降り注いだ。 膣内に収まりきらない精液も溢れ出し、音を立てて流れ落ちていった。 「気持ち……良かったかい? エイミー」 「意地悪。私、大分前にもう限界だったのに、イってからもそのまま続けてるんだもん……。おかげでおかしくなりそうだったわ」 ようやく絶頂を迎えたヴォレがそう聞くと、息を切らしたエイミーが息も絶え絶えにそう言った。 そしてそのままぐったりとヴォレに体を預けたが、ヴォレはそんな彼女の体をグイと抱き抱えた。 「ちょっとなになに? 私もう十分満足してるんだけど」 「まだまだ! 蛇の交尾は長いんだよ? もっと愛してあげるから」 「ひー! 死んじゃう! 死んじゃう!」 そんなことを言って笑っていたが、もちろんヴォレはその後も沈んだ太陽がもう一度天高く登るまで彼女を滅茶苦茶に愛した。 彼女がなんと言おうとしっかりと抱きしめられているエイミーが彼の愛から逃げられるはずもなく、しっかりと愛を受け止めていた。 ようやく解放された時にはエイミーの体はほとんど白濁で染まっており、同様にヴォレも自身の精液で腹部の辺りが汚れていた。 本来ならばすぐにでも川で洗い流したかったが、思わず体力も使い果たすほど全力で行為を続けたため、そのまま二人とも次の日まで眠っていた。 ようやく目覚めた二人はすぐに川で体を洗い流そうとしたが、その前に産まれた卵を見て、疲れも忘れてただただ喜んでいた。 それから数日、何度かエイミーが行為を求めてきたこともあったが、既に卵が産まれていたのでヴォレはきっぱりと断っていた。 「この子の名前は何にしようかしら? ヴォレは何か思いついてる?」 「特にこれだっていうのは思いつけないね。君が決めなよ。その間に僕がきのみを取ってくるから」 幸せな日々にまた新しい幸福が追加され、ヴォレはエイミーの分のきのみも集めて洞窟へ戻った。 だが、そこに待っていたのは幸福とは程遠い光景だった。 卵の横には赤い海が広がっており、そこにはエイミーが横たわっていた。 「嘘だ……嘘だ!! エイミー! 一体何が!?」 「おかえり……なさい。ごめんね……結局貴方を不幸にさせちゃった……みたい……」 この平和な森で誰かに襲われたとは考えにくかったが、荒野で元々生活していたヴォレからするとその光景は兄の最後を思い出させたため、急いで近寄ってエイミーの体を尻尾で持ち上げたが、外傷は見当たらなかった。 だが、ヴォレが抱き上げてもなおエイミーは血を吐いていた。 外傷が一切ないのにも関わらず、今も彼女は苦しんでいる原因が一切分からなかった。 なんとかしようにも既に過去を思い出してしまったせいで混乱しているヴォレにはどうすることもできなかった。 「多分ね……病気だったとおもう……の。大分前から胸の辺りが……少しだけ痛かったんだけど、さっきそれが激痛に……なって」 「なんで、そんな……。これからもっと、君を幸せにできるはずだったのに!!」 取り乱すヴォレに手を伸ばして、エイミーはそう言った。 集めたきのみの中からなんとかなりそうなものを探すが、もちろんどんな病なのかも分からないものを治せるきのみなど存在しない。 成す術なく、どんどん弱っていくエイミーを抱き抱えてヴォレはただ泣くしかなかった。 「お願いだ……エイミー。僕を一人にしないでくれ……みんな僕を置いていかないでくれよ!」 「ヴォレ……最後に、一つだけお願い……したいの」 「嫌だ、最後だなんて言わないでくれ!」 涙を流しながらヴォレはエイミーを何とかして救いたいと願っていた。 ヴォレに抱き上げられてからもエイミーは吐血が続き、少しずつ呼吸も鼓動も弱くなっていた。 ひたすら泣いていたが、どうしようもない現状も頭では理解していた。 その内取り乱すことも止め、ただ静かにむせび泣きながらエイミーを優しく抱きしめていた。 「お願い……聞いてくれる?」 「分かったよ……。必ず叶えるから……」 「私を……食べて……」 ヴォレは静かに首を横に振った。 エイミーがそんなことを頼むと思っていなかったヴォレは、エイミーの瞳を見てただただ絶望としか例えようのない表情を浮かべて首を振り続けた。 だが弱ってゆくエイミーのその瞳は真剣そのものだった。 「嫌だ、嫌だ嫌だ……なんでっ!!」 「今ならまだ……あなたの中で生き続けられる気がするから……。お願い。あなたが誰かを殺し……たくないのは……私もよく知っている。でも、私も同じなの。あなたと……離れたくない。もっと一緒にいたい……! だから、せめてあなたの中で……」 既に伸ばす腕に力はなく、もう幾分も猶予がないのはヴォレもよく分かった。 胸が張り裂けそうなほどの悲しみがヴォレを襲ったが、彼女の願いを叶えなかったとしても彼女の骸が目の前に残されるだけだ。 ヴォレは声に出さず、小さく頷き、ゆっくりと口を開いていった。 ゆっくりとしている時間などあるはずもなく、すぐにでも彼女を飲み込まなければ恐らく彼女はの願いを叶える前に死んでしまうだろう。 だが、何度もそうしようとする度に吐き出しそうになっていた。 覚悟を決め、涙を流しながら彼女を口へ運び、そして更に奥へ送り込んでゆく。 「ありがとう……ヴォレ。愛してるわ……」 そう聞こえた気がした。 実際にそう言っていたのだろう。 まだ生きている彼女を飲み込みながらヴォレは一つのことを考えていた。 二度も自分の人生においてかけがえのない人を食べなければならなくなった。 本当に呪われているのは自分なのだろう。ヴォレは本気でそう考えていた。 事実、理由はどうであれ、自分の身近にいる人はエイミーと同様に皆死んでいった。 だが、ついにはその最愛の人であるエイミーすら死なせた……今のヴォレはそうとすら思っていた。 だからこそ、自分のそんな呪われた人生を顧みて一つの結論に至った。 自分が誰かを『食べる』ということは、誰かを『愛する』ことと同意なのだと……。 そう考えなければヴォレには辛すぎた。 エイミーが喉を通り過ぎ、体の全てが腹の中へ収まるように滑り込んだ時、同時にヴォレは心の中で何かが滑り落ちたような気がした。 気が付けば涙も枯れ、血の海と散らばるきのみだけがその場に残った。 憔悴しきった表情でヴォレはその場に転がるきのみを全てどかして、その血を片付けようと思った。 そこでヴォレの目に一つの希望が残っているのが写りこんだ。 血の海の傍らに、彼女の残した卵が転がっていた。 ヴォレはすぐさまその卵を優しく抱き上げ、その卵に語りかけるように呟いた。 「大丈夫……大丈夫だよ……。今度はもう大丈夫だよ……。もう一度君を愛するよ。約束したんだ、僕の命が尽きるまで君と愛し合うと……。もう一度愛し合おう、『エイミー』」 そう呟いてヴォレは卵に口付けをした。 あの日の夜、エイミーにしたように。 **3 [#v5bc5c70] 森の中を一匹のオオタチが走り抜けていた。 木から木へとそのオオタチは器用に飛び回り、実っているきのみをあっという間に集めて、ゆっくりと味わっていた。 それほどの芸当を見せつけ、そのオオタチはさぞ満足しただろうと思いきや、きのみをほおばってゆくその表情は無表情や苛立ちの感情に近いような話しかけずらい表情だった。 ある程度食事を済ませると満足したのか、オオタチは木から飛び降り、住処へ帰るのかと思いきや、またしてもきのみを集め始めた。 二度、きのみを集め、今度はそのきのみは食べずに拾い集め、手や尻尾を器用に使って今度こそ住処へと戻り始めた。 住処に戻ると、集めたきのみをそっと地面に置き、そこにいるハブネークに声を掛けた。 「ほら父さん。取ってきたよ。じゃ、俺もう出るから」 「おお、ありがとうエイミー。いつもすまないね」 そのオオタチは彼の名を呼びはしなかったが、確かにそのハブネークを父さんと呼んだ。 そしてそのハブネークは間違いなくそのオオタチをエイミーと呼んだ。 だが、ハブネークが彼をエイミーと呼んだ瞬間、明らかに苛立った表情を浮かべてハブネークを睨んだ。 「ついてくんなよ。外でまであんたに俺の名前呼ばれたくないからな! 俺は男だってのになんでそんな名前付けたんだよ!」 「僕にとって君は君でしかない。君をエイミーと呼んではいけないのかい?」 少しだけ怒鳴り気味にエイミーはそのハブネークに伝えたが、彼は決して調子を変えることなくそう返してきたため、エイミーは苛立ちを募らせたままその場を去っていった。 そのハブネークには硬い鱗の皮膚だったが、僅かに褪せた色と、皺から恐らく若くはないことが推測できた。 きのみを一つずつ口で拾い、そのまま食べていくそのハブネークは見た目こそ僅かに変わったが、その話し方や雰囲気はまさしくヴォレだった。 ヴォレにとってとても大事な存在であるエイミーは女性だった。 だが今、彼のことを父と呼んだオオタチの名前がエイミーであった通り、彼は男だ。 だが、ヴォレは変わらず彼を愛し続けていた。 しかし、その愛の形は少しだけ変わっていた、というよりも変えなければならなかったのだろう。 エイミーが男性である以上、ヴォレの接し方がいつも通りならば確実に反感を食うのは分かりきっていた。 だからこそヴォレは彼が自分のことを『父さん』と呼ぶことを止めさせはしなかった。 ヴォレにとってはその程度の譲歩で済んでいた。 だが、当の本人は違う。 ヴォレの中で何度生まれ変わろうと彼女がエイミーであることには変わりないが、今のエイミーは彼女ですらない上に彼にとっては今よりも前の自分のことなど知るはずもなく、勿論ヴォレが過去について語るはずもなかった。 だからこそエイミーは自分のその名前が嫌いだった。 森で誰かと出会い、初めはなんの気兼ねもなく自分の名前を相手に伝えていた。 だが、彼の名前を聞くもの全てが皆一様の反応を示す。 「エイミー? エイミーって女性じゃなかったっけ? それとも別人?」 誰に話しかけても同じように答えられ、不思議そうな表情を浮かべる。 そんなことを繰り返している内に名前を名乗ることすら嫌気がさしていた。 気が付けば彼は外では名を偽るようになっていた。 彼は外で誰かに名乗る時、『エイビー』と名乗るようにしていた。 そうすれば、過去に自分の名前を聞いた者も聞き間違いだったと思ってくれるからだ。 彼はそうやって誤魔化して、毎日普通の日々を送っていたが、名前を誤魔化さなければならないその日々にも嫌気がさしていた。 本来ならば彼も本当の名を名乗りたいが、そんなこともできない、そんなジレンマが募っていた。 その内、そんな悩みはヴォレへ怒りとして向けられていた。 『ヴォレがそんな名前をつけなければ、自分はこんな面倒なことも惨めな思いもしなくてよかったのに』 エイミーは常々そう思っていたが、当のヴォレはそう言ってもいつもと変わらない調子で彼を宥めるだけだ。 そうやってほとんど常にイライラしていたせいか、彼に積極的に話しかけてくれる者は少なかった。 ただ一人を除いて……。 「あ、おはようエイミー! 今日はどんな所を案内してくれるの?」 「おはようエイヴン。昨日はどこ紹介したっけ?」 そのエイヴンと呼ばれたポケモンはアーボで、とても笑顔の可愛らしい女性だった。 エイミーは彼女の前ではイライラを忘れることができた。 というのも、彼女だけは彼の名前のことに特に疑問を持つことがなかったからというだけの理由だった。 その理由も彼女は元々この森に住んでいたわけではなく、最近この森に来たばかりだと言っていたため、この森のことについて知らないだけだった。 かといってヴォレがいたような荒野から来たわけではなく、彼女は元々親と共に旅をしていたらしく、様々な土地を渡っているそうだ。 物心付いた時点でそんな旅の最中だったため、あまり一所にいたことがなかったのだが、彼女も大きくなり、一人で旅が出来る歳になったため親とは離れ、一人で旅をしていた。 そんな中、丁度たどり着いたのがこの森だったそうだ。 初めての一人旅ということもあり、彼女としても長距離の移動は堪えたらしく、しばらくはこの森で暮らすことにしていた。 ちょうど良い場所を見つけ、彼女が住処にしようとしたその時だった。 「ん? 先客か?」 「あら? 初めまして。私はエイヴンといいます。今日から暫くここに住ませてもらおうかと思ったのですが……あなたのおうちでした?」 「いや、ただ単にここは日当たりが良いからちょくちょく休みに来てただけの場所だよ。別に住んでもいいんじゃないの? そんかわり、俺もたまにここに来るから」 「あら、てことはこの辺りに住んでいるのね。もしよろしければこの辺りのこと、全く分からないので教えてもらえると助かります!」 「別にいいよ。特に何かしないといけないことがあるわけでもないし」 「本当ですか! ありがとうございます! それではよろしくお願いしますね! えっと……お名前は?」 「エイミーだよ。変な名前だろ?」 「そうですか? とっても素敵な名前じゃないですか? それじゃ、改めてよろしくお願いしますね、エイミーさん」 「べ、別にエイミーでいいよ……」 二人の馴れ初めはそんな感じだった。 初めて自分の名前を誰かに素敵だと言ってもらえたことが素直に嬉しかった。 いつもならそう言った後、エイビーだ。と嘘の訂正をするのだが、彼女があまりにも素直にそう言って笑ってくれたことが嬉しくて、思わず照れ隠しをしてしまった。 それからは彼女の家であり、彼にとってのちょっとした休憩所だった場所から近い場所から、森の中でもよくポケモンが集まる場所や、美味しいきのみが実っている場所などを説明していった。 彼にとってそれは日課になっており、同様に彼女にとっても日課となっていた。 出会ってから数週間も経つ頃には近場で説明できるような場所もなくなり、話すネタがなくなったため、エイミーは少しだけ寂しそうにしていた。 「もう、この辺りは多分一人で歩き回れるだろ? じゃあな……。あとはまあ、森の奴らと仲良くしときな」 「え? もう来てくれないんですか?」 「あんたには隠してたけど、俺はこの森じゃ爪弾き者なんだよ。だからあんまり俺と関わったってみんなに言わない方がいいぜ」 「あなたが爪弾き者かどうかは知りませんけど、あなたがとても優しくて、楽しい人だってことは良く知っています。だから私はこれからもあなたと色々とお話したいです」 去っていこうとしたエイミーの背中にエイヴンはそう伝えた。 するとエイミーは首だけで振り返り、照れくさそうな表情を見せて、小さく頷いた。 その日からはエイミーはエイヴンとただ話すために、その日当たりの良い彼女の住処へ毎日足を運んだ。 彼女と会って、話している間はエイミーはイライラを忘れることができた。 その本当の理由は恐らく、彼女が彼の名前のことを気にしていないからではないのだろう。 エイミーもそのことには気が付いていたが、それを言葉には出さなかった。 彼女とこのまま、何気ない関係のままでありたかったから……。 「お帰りエイミー。最近楽しそうだけど、何か良い事でもあったのかい?」 「まあ、ちょっとね……」 帰ってきたエイミーを見て、ヴォレは微笑みながらそう言った。 エイミーはいつもならヴォレには強めの口調で返すのだが、彼はどうやら嬉しかったことを素直に言うのは苦手だが、かと言って口に出さないのも苦手なようで、少しだけ照れくさそうにそう言った。 それを見てヴォレは特に何か聞くことはなかったが、ただ嬉しそうに頷いて横になった。 いつもならエイミーはそのままヴォレのいる方と、逆の壁に寄りかかってそのまますぐに寝るのだが、その日は思わずヴォレに声を掛けた。 「なあ、父さん。女性を喜ばせるには……どうしたらいいかな?」 「そうだね……傍にいてやりなさい。後は君が思う限りのことを尽くしてあげなさい。ただし、相手が喜ぶことだ。君が嬉しいこととその子の嬉しいことは全く同じではない。そして……それでも君とその子の想いが変わらないのならば、想いを伝えなさい。焦らなくていい。恋が愛になるまで育めばいい」 ヴォレはその質問に対して柔らかく微笑み、そしてそう告げた。 それを聞いて、エイミーは少しだけ虚空を見つめて何かを考えた後、何度か小さく頷き、照れくさそうに、ありがとう。と小さな声で呟いた。 エイミーは今までの言動で分かる通り、隠し事ができないとても分かりやすい性格だ。 ヴォレも彼に嫌われていることはよく分かっており、その原因も知っていた。 だが、そうだったとしてもヴォレの愛は不変だった。 が、そう言い切ると少々語弊が生じる。 ヴォレの『愛』は『エイミー』という存在へ向けられたものであり、彼自身に向けられたものではない。 なら彼に向けられた愛はないのかというと、そういうわけでもない。 その愛が何かは、好きな人ができたと素直に伝えられず、かといって隠さずに好きだと伝える方法を聞いてきた彼を、そっとサポートする言動とそれを温かく見守る姿から用意に想像できるだろう。 「おやすみ。エイミー」 ヴォレの言葉に彼からの返答はなかった。 だがヴォレは彼を少しの間見つめて、そしてゆっくりと目蓋を閉じた。 翌日、エイミーは起きると直ぐに体を伸ばしてヴォレに何も伝えずに出かけた。 目的は勿論、エイヴンの住処だった。 「おはようエイヴン!」 「あら、おはようエイミー。今日は早いわね」 まだ朝早い時間帯だったが、エイヴンは既に起きていた。 いつもなら二人は出会った後、すぐに他愛のない話をするのだが、その日はいつもとは様子の違うエイミーを見て、エイヴンもただキョトンとするしかなかった。 体力に自信のあるエイミーは、特に激しい運動をしたわけでもないのに何度も深呼吸をし、とても真剣な表情をしてエイヴンの顔を見つめ直した。 「エイヴン! 好きだ! 俺と&ruby(つがい){番};((夫婦の別称))になってくれ!」 「えー……っと……。エイミー、私もあなたのことは大好き。だけど、ちょっとだけ考えさせて」 エイミーの言葉に対して、エイヴンは驚いた表情を見せたが、言葉の調子や態度はあまり変わらず、一呼吸おいてからそう答えた。 それを聞いて、エイミーはこの世の終わりのような表情を見せて呆然としたかと思いきや、踵を返して去っていった。 「ちょ、ちょっと!? エイミー!?」 いきなりやってきたかと思うといきなり去っていき、エイヴンは訳も分からず嵐が通り過ぎたかのようにただ呆然とするしかなかった。 エイミーはそのまま全速力で森の中を駆けてゆき、真っ直ぐ家に戻った。 「おや、お帰りエイ……」 「振られましたー!!」 ヴォレが彼に気付いて声を掛けようとしたが、それよりも早く簡潔に要点だけを述べて、エイミーは普段は近寄りもしないのにヴォレに縋り付いて泣き始めた。 流石に何が起きたのかが容易に想像できたヴォレは呆れた表情を浮かべたが、ひとまず彼の感情が収まるまで宥めた。 「さて、そろそろ聞いてもいいかな? 何があったの?」 「好きだって言ったら、考えさせてくれって言われた」 「本当に君は……物臭なのか愚直過ぎるのかは僕には分からないけれど、いくらなんでも早すぎるでしょ。告白するのも諦めるのも」 「もうこれまでも結構会ってたし、俺と話すの楽しいって言ってたからー……」 「急過ぎるし、脈絡がなさ過ぎる。本当はアドバイスだけするつもりだったんだけどねぇ……。多分、その子も君の事が嫌いになったわけではないと思うから、もう君がその子に出会った日から今日までを素直に白状しなさい」 思っていたよりも彼の感情が収まらず、いつまでも泣いていたのでヴォレの方から何があったのかを聞くことにした。 そこでヴォレは初めて彼が大分前からエイヴンとエイミーが会っており、どういう馴れ初めと経過があったのかを知ることができた。 普通ならそこまで聞くことはしないだろうが、ヴォレはエイミーの性格をよく知っていたので、状況を整理するためにも最初から全て聞いた。 そして全てを聞いてからヴォレは深いため息を吐き、ニッコリと笑った。 「つまり、君とそのエイヴンという子は出会ってから今日までちゃんといい友達だったのに、今日いきなり告白した……と」 「うん……。ダメだった」 「ダメだったと結論を出すのも早いけどね。聞いた限りだと二人ともお互いに好きなんでしょ? その子もいつかは切り出そうとはしてたと思うけど、君の場合は急過ぎるんだよ。だから彼女も急に決断を迫られたから一度心を落ち着かせて、今すぐ君と深い関係になりたいのか考えただけでしょ」 「そうなの?」 「そうなの。だから、そんな唐突に切り出していきなり帰ったのならその子も不安になるだろうから、早くその子の所に行って謝ってきなさい。そして、君は何もかもがぶっきらぼう過ぎるから全部説明しなさい! そうすれば多分、その子も君の想いが分かるから。分かったかい?」 「はい。ごめんなさい」 「分かったのなら僕に謝るよりも早くその子の所に行く!」 そうやってヴォレはエイミーに叱咤激励を送り、さっさと向かわせた。 泣きながら帰ってきた時と同じか、それよりももっと速い速度でエイミーは走り抜けていった。 森を走り抜けてゆき、彼女の家までたどり着くと、エイミーは転がり出すように彼女の前に飛び出した。 「エイヴン!」 「えっ!? な、なに!?」 走り去ったと思ったエイミーがあっという間に今度は滑り込んできたため、当たり前ながらエイヴンは驚いていた。 一言彼女に大きな声で話しかけたが、流石に何度も森を全速力で走り抜けて、何事もなかったかのように話しかけられるだけの体力は残っている訳もなく、ひとまず呼吸を整えていた。 呼吸が整ってもエイミーの心臓は高鳴っていたが、一つ深呼吸をしてエイヴンの瞳をしっかりと見た。 「さっきはごめん。いきなりあんなこと言ったり、どっか行ったらびっくりするよな……」 そう言ってエイミーはしっかりと頭を下げて謝った。 するとエイヴンはクスクスと笑った。 「ええ、本当にびっくりしたわ。嫌われてしまったんじゃないかとも思ったわ。でも、あなたの気持ちもよく分かったから、番にはなりたい。でも、その前にもっとあなたのことを知りたい。ダメ?」 「そうだよな……。俺のこと、お前に話したことないもんな。分かった。俺もエイヴンのことをもっと知りたいし、それからでも遅くはないからな。ゴメンな。こんな不器用で面倒な奴で」 「本当にね。でも、面白いし、とても優しい人だって知ってるから。改めて、これからもよろしくね」 そう言い合って二人は楽しそうに笑った。 その日は二人はあまり話さず、いつものように少しだけ雑談をして直ぐにエイミーは去っていった。 ヴォレの待つ家に帰り着いたエイミーはヴォレと直接言葉を交わすことはなかったが、ヴォレは彼のその笑顔を見て察したのか嬉しそうに微笑んだ。 それを見てエイミーは照れくさそうに視線を外したが、すぐにヴォレの方を見直してきのみを渡した。 「ありがとう……。助けてくれて……」 「君も素直じゃないねぇ。親なんだからこう見えて君のことはしっかり見てるからね。大事にしてあげなさい」 「べ、別にあんたに言われなくてもそうするさ! 飯食ってくる!」 そう言って反論するようにエイミーは言葉を返したが、その顔は見せかけの怒りの表情には隠しきれない、感謝の感情がしっかりと見えていた。 それからはエイミーは毎日エイヴンに会いに行き、お互いに自分のことを話し合ったり、気になることを話したり、二人の知らないことを話し合った。 暫くお互いの楽しい話をしていたが、数ヶ月経った頃に二人は打ち明けたくなかったことも言い合えるような仲になっていた。 そしてそういうことも言い合う内に、二人にはお互いに見えていなかった相手の辛かった部分が見えてきた。 エイミーは自分の名前のこと、そしてその名前を付けた親や森のポケモンたちと関係が上手くいっていないことも全て打ち明けた。 エイヴンはとても明るく優しい、そう思っていたが実際のところ彼女は旅から旅の根無し草だったため、どんな土地のポケモンとも馴染むことができず、常に孤独感や疎外感を感じていたという。 だがもちろん語り合ったことは辛いことだけではない。 エイミーはそうやって親のことを嫌っていたが、それでもヴォレは変わらずエイミーのことを大事に思っていてくれて、今回もヴォレのおかげで不器用な彼がエイヴンにもう一度話し合える切欠を得る知恵を与えてくれた。 そんな本当はヴォレの存在に感謝しているが、森のポケモンたちとの摩擦が原因で素直に親を慕えないエイミーの苦悩も知ることができた。 エイヴンはそんな辛い思いをしながらも、新たな土地を訪れた時の高揚感や、全てのポケモンが彼女のことを他人と決めつけ排他するわけはなく、暖かく受け入れてくれる優しいポケモンがいて、その度に旅が楽しいと思えた。 そんな一期一会と旅でしか味わうことのできない感動や嬉しさも語ってくれた。 「エイヴンはまた旅に出るのか? もしそうなら俺も一緒に旅に行くからな!」 「その時はもちろんお願いね。でも……エイミーは親と別れたいの? 私の場合はちゃんと話し合ったけど、今のエイミーの話を聞いてると、まるで今すぐにでも旅立ちたい。そう言ってるように聞こえたから……」 「……正直、分からない。あいつのことは嫌いじゃない。でも、この森に住んでる奴はみんな俺の名前を聞けばおんなじ反応をするからうんざりするし、そんな名前を付けたあいつもそこだけは許せないし恨んでる」 「でも、たったそれだけのことで何も言わずに別れてしまえば、必ず後悔する日が来るわ」 「それだけじゃないさ……。あいつは時々、俺の名前を呼んでるはずなのに、俺じゃない誰かの話をしているような……まるで俺じゃない別人と話すように俺を見てる時がある……そんな気がするんだ」 「そんなことないでしょう? 今回も助けてくれたってとっても嬉しそうに話したのに……」 「だからさ……。時々父さんのことがよく分からなくなる。嫌いじゃないのに、あいつは本当に俺の事を大事にしてくれてるのかよく分からない……まるで、俺のことなんかどうでもいい、そう思わせるような時もあるんだ……。だから、好きだと言えないんだ。父さんに……」 「どうでもいいと言われるのが怖い……ってこと?」 エイヴンの質問にエイミーはあまり明るくない表情で頷いて答えた。 それを見てエイヴンはため息を吐き、少しだけ悲しそうな表情を見せた。 「私には恐らく、旅の途中で親と別れ、それからも旅を続ける変なポケモンだからみんなの言う、普通の感覚というものがないのかもしれないけれど、たとえ親のことが好きでも嫌いでも、必ず自分がどうしたいのかは言うべきだと思う。見守るのが親の責任なら、自分がどうしたいのかを言うのは子供の責任だと思う」 「分かった……。君が言うくらいなんだ。今日帰ったら父さんにはエイヴンと旅をしたいってことは伝えるよ」 「私がここで暮らしたいって言ったら?」 「多分、そうなったとしても俺は旅に出たいっていうと思う。俺はこの森のことが好きじゃないから……」 エイミーの返答を聞いて、エイヴンは納得したのかそれ以上は聞かなかった。 その後はあまり重たい話はせず、いつものように笑いの絶えないような雑談をしてからエイミーは家へ帰っていった。 その日の夕暮れ、エイミーは家に帰り着くと、昼間エイヴンと話し合っていた通り、旅に出たいことを打ち明けた。 正直な所、エイミーはあまり言いたくなかった。 それであまりにも簡単に送り出されてしまったのなら、それはエイミーが最も危惧していることを暗に示していることになってしまう気がしたからだった。 「そうか……。旅に出たいのか……。正直父さんは反対だ。だけど、僕が止めても君は恐らく行ってしまうだろう。だから……そうだね、孫の顔だけは見せて欲しい。これだけが僕の条件かな」 だが、ヴォレはそう言ってエイミーに笑いかけた。 しかし、いきなりそんなことを言われれば誰だって驚く。 だがエイミーの場合は顔を真っ赤にして明らかにパニックに陥っていた。 「え!? いや……孫!? いきなり何言い出してるんだよ!!」 「別にいいだろう。君とエイヴンという子。もうあれから随分と経ったんだ。子供作りたいぐらい言ったって拒否されるわけないさ」 「い、いや……。そうかもしれないけど彼女アーボだよ? 多分子供産まれないと思うけど」 「なら君はどうやって産まれたんだ? 僕はハブネークで君の母さんはもちろんオオタチだ。期待してるぞ」 そう言うとエイミーは湯気でも出そうなほどにさらに顔を真っ赤にしてフラフラと洞窟から出て行った。 フラフラとおぼつかない足で出て行くエイミーの足取りはおぼつかず、何かをブツブツと呟きながら出ていくさまは明らかに上の空だった。 そんな調子の彼を見てヴォレは少しだけ微笑んだ。 「君の愛する人と君が生きていくのを見ながら死ねるのなら……それでも良かった。でも、君が僕の元から離れるのはダメだ。君は僕のエイミーなんだから……」 そう誰にも聞こえないように呟きながら……。 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ 「ねえ、最近どうしたの? なんだか私と話をしてる間もボーッとしてるし……」 「え!? い、いや……別に!?」 数日後、エイミーはいつものようにエイヴンのところに通っていたが、明らかにエイミーの様子が違うことに気付き、彼女はそう聞いた。 エイミーはどこかそわそわとしており、極力彼女と目を合わせないようにしていた。 動揺を隠せないままエイミーは適当な返事をしたが、そんな返事でエイヴンが誤魔化せるはずもなく、結局何があったのか問い詰められた。 聞こうとするほどに彼は顔を真っ赤にし、エイミーから離れてゆこうとする。 「もしかして……他に好きな人ができたとか?」 「そんなことあるわけないだろ!!」 「じゃあなんで私と目を合わせてくれないの?」 「え、いや……。それは……その……。孫を見せて欲しいと」 観念したのかエイミーはようやくヴォレに言われたことをエイヴンに伝えたが、その部分だけを切り取って言っても全く意味が分からず、彼女も不思議そうな顔を見せて首を傾げた。 さらに問い詰められてエイミーはようやく話の本題を伝えた。 「いや……だから……俺とエイヴンの子供が見たいって……父さんが」 「なんだ。そんなことだったのね」 「そんなことって!」 「そんなことでしょ? 別に今すぐ旅立つわけでもないんだし、私はあなたと一緒ならどこでも生きていける。だって、あなたは私に番になってほしいって言ってくれたんだから」 「……よろしくお願いします」 エイヴンが少しだけ恥ずかしそうにそう言うと、エイミーは顔を真っ赤にして小さな声でそう言った。 ゆっくりと日も傾いてゆき、日当たりのいい彼女の家にも少しずつ暗さが目立つようになっていた。 いつもならヴォレの待つ家へと帰っている時間だが、その日はそのままエイヴンと夕日を眺めていた。 先程まであれほど動揺していたが、打ち明けてからその時まで待っている間、エイミーは不思議と落ち着いていた。 エイヴンがあまりにも当たり前のように自分を受け入れてくれたからなのか、彼は少し嬉しさも覚えていた。 だが、それはエイヴンも同じだった。 一緒に旅に行きたいなどと言い出してくれたのはエイミーが初めてだったからだ。 そこに色々な事情があったとしても、それでも彼女と一緒にいたいと言ってくれたのが素直に嬉しかった。 日もすっかり沈み、二人のいる場所には綺麗な月明かりと満点の夜空が覗いていた。 「へぇ……夜のこの場所も素敵だね」 「そうよね。いつもこの時間にはもうエイミーは家に帰ってるから知らないわよね」 そう言ってお互いに顔を見合わせた瞬間、思わず言葉が止まった。 今しかない。なぜかそう思えるほど二人は言葉も交わさずに惹かれ合っていた。 ゆっくりと顔を近づけてゆき、唇を重ねる。 この世界にいるのが二人だけだと思えるほど森は静かだった。 唇を離すとそのままエイヴンは体を地面に預けた。 彼女の体は月明かりで照らし出され、恥ずかしそうにエイミーを見つめるその姿は彼にとってとても興奮するものだった。 あっという間に彼のペニスは怒張し、その姿を毛の間から覗かせていた。 「い、いいんだよな?」 「今更何を言い出してるのよ。それとも私がお願いした方が興奮する?」 そう言われてエイミーは生唾を飲み込み、彼女の長い胴を抱きしめた。 少しだけ彼女は体を強張らせたが、エイミーはあまり気に留めず、そのまま彼女の秘部を探した。 見つけた彼女の秘部はかなり体の後方ではあったが、彼が思っていたよりも普通に見つけることができた。 グイと広げると思っていたよりも簡単に開いた。 少しだけ彼女の秘部を見つめていたが、明らかに彼女が恥ずかしがりだしたので、流石に見つめるのは止めた。 そして今度はエイミーのペニスをそこへ押し付けた。 ググッと彼女の秘肉を押し広げながら彼女の中へ深々とペニスが刺さり込んでいくが、彼が思っていたよりもその締め付けは強かった。 「ご、ごめん。すごい今更だけど大丈夫? 痛かったりとかしない?」 「気を遣ってくれてありがとう。でも大丈夫よ」 エイヴンはそう返事したが、明らかに苦しそうな表情だった。 それを聞いてエイミーはしっかりと彼女の体にしがみつき、一番深くまでペニスを押し込んだ。 それからゆっくりと腰を動かし始めた。 肉厚なエイヴンの膣内が絡み付き、きつくない程度にエイミーのペニスを刺激していた。 少しすると膣内の滑りが良くなってきた。 というのも、蛇は総排泄口と呼ばれる器官しか存在しないため、愛液というものがなく、代わりにオスの精力が凄まじい。 エイミーも挿入してからゆっくり腰を動かしていたため、既に先走りが少し出ていた。 それによりようやく滑りが良くなり始め、お互いに気持ち良くなり始めていた。 だが、エイミーの方が先に限界が訪れた。 蛇の体はほとんどが筋肉で構成されている。 そのためか、彼女の膣内は彼のペニスを心地良く締め付け続けていたため、既に射精寸前だった。 「ごめん! もう出る!」 「いいよ。出して」 既に限界だった彼の声に比べてエイヴンの声には非常に余裕があった。 しかしエイミーがそんなことに気付けるはずもなく、そのまま中で果てた。 彼女の中へ精液を流し込み、少しだけ息を切らせてエイミーの体に倒れ込んだが、エイミーはゆっくりと上体を起こしてエイミーの体をぐるりと囲んだ。 「ハァハァ……どうしたの?」 「逃げられないように捕獲したの」 「なんで!?」 「なんでって……当たり前でしょ? 折角あなたと一つになれたんだもの。ちゃんと最後まで私を気持ち良くさせてね? あ、先に行っておくけれど、蛇の交尾は長いわよ?」 エイヴンがそう言うと、彼はただ呆然としていた。 しかし彼女は自分の膣内へ挿入されたままの彼のペニスを刺激するために捕まえた彼の体をグイグイと寄せた。 体を器用にくねらせて更にペニスへ刺激を与えていくと、割とあっという間に復活した。 「さっ、朝までお願いね」 「じ、尽力します」 その後、エイミーは何度も疲れ果てて動けなくなりながらも、必死に腰を動かされながら行為を続けた。 星空も見えなくなり、朝日も高く登った頃にはようやく彼女も満足したのか、それとも疲れ果てただけなのかエイミーを解放した。 体力には自身のあったエイミーも、流石に一生分搾り取られたのではなかろうかという長く、濃厚な後尾には耐えられるはずもなく、そのまま泥のように眠った。 そんな彼を見てエイヴンは一つため息を吐いた。 「もう、折角なら子供が産まれるところも見てくれればいいのに」 そう言って笑った後、エイミーの後頭部の辺りに口付けをして子供が産まれるのをゆっくり待っていた。 エイヴンにも彼が寝るのは仕方がないことだとよく分かっていた。 無理矢理自分の交尾の長さに合わせてもらったのだから、動けなくなるほど疲れるのは当たり前のことだった。 暫くするとお腹からゆっくりと卵が滑り出し、彼女もようやくほっと一安心し、卵を尻尾で抱き寄せた。 「お疲れ様。二人共」 そんな声が聞こえたかと思うと、抱き寄せたはずのその卵はするりと地面に転がった。 いつからそこにいたのか、エイヴンが気付く暇すら与えずヴォレは彼女の体を締め上げていた。 だが、蛇同士での締め付けはあまり効くはずもなく、彼女は必死にその拘束から逃れようともがいた。 しかしヴォレも締め付けだけでどうにかできるとは最初から思っていなかったため、すぐに口を大きく開いて彼女を頭から飲み込んでいった。 なおも必死に暴れるが、先程まで交尾していた上に、卵まで産んで体力を使い切っているエイヴンが抵抗できるはずもなかった。 そのままあっという間に飲み込まれてゆき、既に口からは尻尾の先の方しか見えないほど飲まれてしまい、逃げることも叶わなくなったエイヴンは諦めたのか、それとも窒息したのか動かなくなった。 「君はエイミーを愛してくれたんだ。エイミーが愛した人ならば、僕も君を愛するよ……。次は君だ。君は僕と共に生きてゆくんだ。誰にも渡さない……。だが、君を悲しませたくはない。そのままお休み……」 エイヴンを飲み込みきった後、ヴォレはそう誰かに言い聞かせるように呟き、すやすやと寝息を立てるエイミーの元へ移動した。 そしてエイミーの頭をしっかりと口を開いて飲み込んだ。 まるで死んだようにエイミーはピクリともしなかったが、体が半分ほど飲まれた時にようやく目が覚めたのか、激しく暴れ始めた。 だが勿論既に遅い。 そのままエイミーも飲み込むとヴォレは少しだけその場で呆然とし、暫くしてその場に残された卵を尻尾で大事に抱え、去っていった。 「大丈夫だよ。君も同じように愛してあげる。だからまた……ゆっくりとお休み、エイミー」 そう言い残して……。 **4 [#w6898c23] 鬱蒼とした森の中にポッカリと木がほとんど生えていない小さな丘があった。 その洞窟から一匹の紫色の蛇がスッと顔を出し、朝日を目一杯浴びながら欠伸をしていた。 「それじゃヴォレ。少し遊んでくるね」 「ああ、気を付けてな。エイミー」 そう、その紫色の蛇、アーボックは洞窟の中にいるヴォレへと声を掛けて、ゆっくりと坂を降りていった。 ヴォレもそのエイミーと呼んだアーボックの後を追って洞窟から姿を現した。 二人は変わらず、恋人の関係だった。 だが、一つだけ変わったことがある。 洞窟から出てきたヴォレの姿は明らかに老いていた。 傍目から見ればその二人が恋人同士という歳ではなく、孫と子のような存在だと思うほどだろう。 そうなったとしてもヴォレは変わらず彼女を愛し続けた。 そして彼女もまた、彼を愛し続けてくれていた。 だからこそこの不思議な関係は続いていた。 今のエイミーになってからも既に十数年が経っていた。 そんなある日、彼女は今日も日課である自分の好みにあったきのみが実っている木まで散歩をしていた。 長い体を器用に気に巻きつけて登り、好きなだけきのみを味わった後、腹ごなしに森の中でも日当たりの良い獣道を巡っていろんな場所へ行っていた。 そんな何気ない日々、いつものように獣道を進んでゆくととても日当たりの良い、いい感じに開けた場所へ辿り着いた。 「ここは良い場所ね。お昼寝とかしたら気持ちよさそう!」 「おや? あんた旅に出たんじゃなかったのか。久し振りだな」 独り言を呟いた彼女の後ろから誰かが声を掛けてきた。 振り返るとそこには一人のダーテングがいた。 そのダーテングは彼女のことを知ってるようだったが、彼女はそのダーテングのことを知らなかった。 そもそもエイミーは森をよく散歩していたが、明らかに彼らの方からエイミーのことを避けていたからだった。 だからエイミーが話をしたことのあるポケモンは少なく、その中にダーテングがいなかったことはよく知っていた。 「申し訳ないですけれど、お知り合いの方と間違っていませんか? 私はあなたとは今日初めてお話するのですが……」 「初めて? んなわけ無いだろ。この森にアーボックは元々住んでなかったんだ。あんた以外に見間違うかよ」 「いえ。私は元々この森に住んでます。あまり人と出会わないから知らないかもしれないですが、私はエイミーといいます」 「エイミー!? どういうこった? 今度はあんたが『エイミー』なのか?」 ダーテングはエイミーの名前を聞くなり、そう言いとても混乱した表情を見せた。 しかしエイミーにしてみれば、なぜそのダーテングが彼女の名前を聞いただけでそんな表情をするのかも分かる訳がなかった。 するとダーテングは先程までとは打って変わり、何かを考え込み始めたのか黙った。 よくは分からないが、エイミーがただ訳も分からずオロオロとしていると、ダーテングはゆっくりと口を開いた。 「あんたはエイミーなんだな? てことはあのハブネークは知ってるか?」 「ヴォレのことでしょうか?」 「やっぱりか……。あのクソ野郎、やっぱりまだ生きてやがったのか」 エイミーの口からヴォレの名前を聞いた途端、彼の中では合点があったのか、納得した表情をした後明らかに苛立っていた。 だが、彼の言葉を聞いてエイミーの方も少しだけ頭にきていた。 彼女はヴォレのことをよく知っているし、彼女の恋人だ。 そんな彼がクソ野郎などと呼ばれれば頭にくるのは当たり前だが、先程の言葉もありひとまずその言葉を飲み込むことにした。 「ヴォレがどうかしたのでしょうか? 今のこの話には関係ないと思うのですが」 「いいや。大いに関係がある。俺の予想だとあんたは近い将来、あいつに殺されると思うぜ」 「失礼ですが、あなたにそんなことを言われる筋合いはありません。さようなら」 「後悔するなよ。一応忠告はしてやったんだ」 見ず知らずの相手に、名前を出しただけで殺されるなどと言われれば流石の彼女も黙っていられなかった。 彼女はダーテングに背を向けてすぐに家へと戻った。 そのまま家に帰り着くと、どうやらヴォレはまだ戻っていないのか、誰もいなかった。 まだ怒りが収まっていない彼女はヴォレに今日あったことを話そうと思っていたが、いなかったため怒りもそのままに不貞寝することにした。 「おや、目が覚めたかい?」 「お帰りヴォレ。そうだ! 聞いてよ! 昼間ね……」 昼過ぎ頃に目を覚ますと、そこにはエイミーに寄り添うヴォレの姿があった。 ヴォレは彼女が目を覚ましたことに気が付くと声を掛けたが、ヴォレの姿を見て怒りを思い出したのか、昼間起きたことを話した。 するとその話を聞いたヴォレは彼女が思っていたのとは違う反応を見せた。 「ハハハ。そんなことあるわけないだろう。だがまあ、彼らは私のことを嫌っているからね。そう思われても仕方がないだろう」 「なによ! ヴォレは何も悪くないのに! もういい! お休み!」 「今起きたばかりだろう……。まあいいさ、お休みエイミー」 そう言う彼の表情は何処かもの悲しそうだったのをエイミーはよく見ていた。 それを見るとエイミーの心の奥から怒りやら悲しさのような激情が溢れていた。 彼女からすれば、ヴォレの悪口は自分自身のことのように腹が立ったが、当の本人が何処か諦めているような風だったのが納得がいかなかった。 ヴォレとは既に十余年程の付き合いになるからこそ、彼がそんな人ではないというのをよく知っていたから、本人が認めたとしても彼女の中では怒りが治まらなかった。 その日は結局そのまま不貞寝したが、翌日いつものように散歩に行った後、昨日と同じくあの日当たりの良い場所へゆくことにした。 彼女としてはあのダーテングに一言物申したくて仕方がなかった。 数時間ほどその場で日向ぼっこをしながら待っていると、彼女の予想通り、そのダーテングが現れた。 「見つけた! あなた! 昨日はよくもあんなことを言ってくれたわね!」 「ああ、すまん。俺も言い方が悪かったな」 「言い方とかそういう問題じゃないです!」 「まあまあ、とりあえず昨日のことはすまなかった。だがな、俺も一晩考えてみたんだが、あんたのためにも聞く気はないか?」 「ありません!」 「だから悪かったって! あんたにとっちゃあいつは良い奴かもしれんが、そう邪険にせずに聞けって!」 エイミーは正直、彼の話を聞きたくなかった。 だが、あまりにしつこくそう言ってくるため、仕方なく聞くことにした。 まだ怒りは冷めていないようだったが、ひとまずエイミーが聞いてくれる姿勢を見せてくれたので、ダーテングも話すことにした。 「これはあくまで予想だが、あいつは多分、ここにいたエイヴンだったか? そんな名前の旅人のアーボを食い殺してやがるんだ」 「あなたって人は!! どれだけ私を怒らせれば気が済むんですか!!」 「うるせえな! 黙って聞けよ! 俺だってあんたの事なんかどうでもいいが、こっちにまで火の粉が降りかかったら困るから忠告してやってるんだよ!」 「あなたから聞くことも、受けなければならない忠告もありません!」 「ああそうかい! だがこれだけは言わせてもらうが、あいつは元々ここに住んでた奴じゃねぇんだよ! そしてあいつがそれだけのことをしでかしたから、ここにいた奴もよそ者だというだけで嫌われてるってことをよく覚えておけ!」 「どうせあなたが彼を怒らせたんでしょう? 今私を怒らせているように!」 「あいつを怒らせるなんて考えたくもない! あいつは荒野から来た死神だ。これ以上俺の話を聞く気がないなら勝手にすればいいが、俺の事をあいつに話したり、またここに来たりするんじゃねぇぞ!? お前らの呪いに巻き込まれるなんて御免だ!」 ひとしきり怒鳴り合うように意見の噛み合わない会話を終えて、二人は振り返りもせずに反対の方向へ進んでいった。 今日彼女は、この怒りを鎮めるためにこの場所に来たのにも拘らず、あのダーテングは更に火に油を注ぐような言葉を浴びせつけてきたため、帰りの道で彼女は彼への怒り以外何も考えられないほどになっていた。 坂を上って洞窟に入ろうとすると、どうやらヴォレは今から出かける予定だったのか、洞窟から顔を出していた。 「おや、お帰りエイミー」 「ただいま!」 「どうしたんだい? 何をそんなに怒ってるんだ」 「別に!! お休み!!」 言動共に明らかに怒っているのが丸分かりだったが、そう言ってエイミーは洞窟の中へ消えていったため、ヴォレも流石にそれ以上かける言葉が見つからなかった。 そのまま彼女は不貞寝しようと先程のことを忘れようとしたが、そう考えれば考えるほど湧き上がっているのは怒りの感情だった。 結局そのままヴォレが食事を終えて帰ってくるまでの数時間ほど洞窟内で小さく暴れ、帰ってくるなりヴォレに飛びついて、今日起きたことについて怒りの感情に任せて語った。 「信じられる!? ヴォレをよそ者呼ばわりした上に、死神だなんて呼んだのよ!? あのクソ野郎!」 「こらこら。怒ってるのは分かったから、女の子がそんな言葉を使うんじゃない」 「なんでヴォレは怒らないの!? あなたのことをあいつはそんな風に呼んだのよ!?」 「まあまあ。私が嫌われているのは事実だし、元々ここに住んでいなかったというのも事実だよ。だからまあ……彼らと私の溝は仕方のないものでもあるのさ」 「えっ!? そうなの?」 「そうだよ。もう随分と昔の事になるけれど、この森のすぐ向こうにある荒野で私は元々生きていたんだ。あそこはとても過酷な環境だった。殺し合いが当たり前の世界で、ここのように食料が豊富でもなかったから……。食べられるのは常に弱い者だった……」 ヴォレの話を聞いて、エイミーの中にあった怒りはすっかり吹き飛んでしまった。 彼の過去を知り、驚きのあまり怒りを忘れたというよりは、あのダーテングの言っていたことが嘘ではなかったということの方が大きかった。 ヴォレは少しだけ自分の過去について語ると、何処か遠くの方を見つめるように目を細め、少しだけ悲しそうな表情を浮かべていた。 彼女は他にももっと話したいことがあったはずだったのだが、思わずその言葉を口に出すことができなくなった。 それは彼を悲しませたくないという思いとは違った。 『もし、ダーテングの言っていたことが本当の事だったら?』 それは小さな不安だったのかもしれない。 だが、彼女にとってみれば、その小さな不安の種は既に芽が出るほどに彼には彼女の知らないことや、彼の不可解な点があったからだった。 ヴォレはエイミーが物心つく頃から一緒に生活してきた仲だ。 だからこそ彼女からしてみれば、恋人というよりは親に近い。 だが、ヴォレは基本的に自分の過去も彼女のことをなぜ好きなのかも語らない。 単に彼女からしてみれば、彼の過去を聞く必要がなかっただけだが、ヴォレが何故彼女を愛しているのか。それについては前から何度聞いても答えは常に同じで、 「君が私を愛してくれたから、私も君を愛するだけさ。この命が尽きるまで……ね」 勿論今の彼女はそんな約束をした覚えもないし、彼女から彼のことを先に愛していると言った覚えもない。 だがあまりにも彼が当然のように彼女を愛し、大事にしてくれるものだから、そこについて深く考えたこともなかった。 しかしそれはあくまで考えなかっただけである。 不安というものは要素があればあっという間に大きくなってしまう。 彼女にとって彼の過去など興味もなかった。 だが聞いてしまった以上、気になってしまう。 彼女の不安を助長した最大の理由はあのダーテングの言葉だっただろう。 最初は怒りすら覚えていたはずの彼の言葉が時間を置けば置くほど彼の言っていたことが正しく思えてきた。 ヴォレはあまりにも過去について語らなさ過ぎた。 それは彼の過去には語りたくないことがあるからではなく、語ることのできない理由があるのではないか? エイミーはあまりにも影の多すぎるヴォレにいつの間にかそんな考えさえ持っていた。 ふと気が付くとそこですやすやと眠るヴォレの顔を見て思った。 『彼が……分からない……』 自分が知っていたはずの彼の全てはあっという間に瓦解した。 彼女の変心はあまりにも急だが、それにはもちろん理由があった。 愛していると言っている彼が、時に誰のことを言っているのか分からないようなことを言うような事があった。 自分がしたこともないようなことや、言ったこともないようなことを彼は時折懐かしそうに話す。 疑問には思っていたが、正確にはどれほどなのか聞いたことはないが、歳のせいだろうと決め付けていた。 しかし、それほど鮮明に覚えており、忘れたことはないとはっきりと言い張られれば彼女も嫌でも覚えている。 『明日、あのダーテングから彼についてちゃんと聞こう』 既に日が傾いていたこともあり、エイミーはそう考えながら今日だけは少しヴォレと距離を取り、眠りに就いた。 翌日目を覚ますと特に何事もなく、すでに目を覚ましていたヴォレが洞窟の外で朝日を気持ちよさそうに浴びていた。 「おはようエイミー。一晩経ったら流石に怒りも冷めただろう?」 「え、ええ……。ちょっと出掛けてくるわね」 「? 今日は大分早いね。気を付けて行ってらっしゃい」 エイミーはそう言って出掛けたが、何故かいつもと同じように送り出してくれたヴォレの姿を少しだけ恐ろしいと思ってしまった。 彼はいつもと全く変わりない。 だが、彼女にとってはあまりにも分からない彼が、何か得体の知れないもののように見えてしまった。 今朝も天気は良く、空は透き通るように晴れ渡っていた。 だが、昨日と同じあの日当たりの良い場所へ向かう彼女の足取りはとても重かった。 ゆっくりと進んでいたが、いつもなら朝食を摂ってからこの場所へ向かっていたため、ダーテングに出会った時間よりも少しだけ早く着いた。 だが、そのダーテングは思っていたよりも早くその場へやってきた。 「おい。ここにはもう来るなっていったはずだよな?」 「ごめんなさい。ただ、私にあの人のことを教えて欲しいの」 「ほぅ……。どういう風の吹き回しか知らんが、ようやく俺の話を聞く気になったようだな?」 話し始めたダーテングは明らかに苛立っていたが、エイミーの態度を見てその苛立ちは収まったようだった。 彼の質問に頷いて答えると、彼は得意気に笑ってみせた。 「どうだ? 俺の方が正しかっただろ? 大方、あいつのことが信用できなくなったんだろ? あいつは昔からそう言う奴だったからな」 「そうなんですか?」 「そうともさ。なんたって俺も昔、あいつに殺されそうになったからな」 ダーテングはそう言うと、最もらしく彼と自身の過去を誇張して語った。 彼がヴォレに殺されそうになったことなどない。 随分と昔、ヴォレがまだこの森に来た頃に、一度ヴォレに警戒されて威嚇された程度だった。 だが、この森では争いごとなどほとんど起きないため、威嚇されたことを相当根に持っていたようだった。 そのため彼は時折ヴォレや、その彼女であったエイミーを森で見かけたら気に留めるようにしていたらしく、ヴォレ達の行動を観察していた。 「あいつは元々荒野から来た野蛮な奴だ。一度荒野を見たことがあるが、あんな何も無い場所で生きてたって言うんだ。何を食って生きてたのかぐらい俺でも想像がつく」 「食べられるのは常に弱い者だったと、彼は語ってました」 「そうだろ? あいつはここに来た時も今も変わってないんだよ! 現に俺は関わりたくもないお前らの行動を見てたが、あんたの名前もそうだが、『エイミー』と呼ばれていたのは最初はオオタチだったんだ」 「最初? どういうことですか?」 「『エイミー』って名前のあいつと同じ嫌われ者がいたんだよ。いつの間にか二人は番になってて、森の隅の方に住んでたから清々してたんだが、それからあいつの姿をほとんど見なくなったんだ。エイミーの方はちょくちょく見てたけどな。で、そこからがおかしかったんだ」 彼の言葉には明らかに悪意が含まれていた。 だが、彼女からしてみれば次々とヴォレについて知らない情報が出てくるため、どんどん不安になっていく彼女からすれば、それらの悪意のある言い回しもさして気になるものではなかった。 そして昨日まであれほど反論していた彼女はおとなしく聞いているものだから、彼も調子が良くなったのかただの予想をさも当たり前のように語り始めた。 「『エイミー』に声を掛けると、何故かたまに初めましてと言われたんだ。おかしいと思ったが、この森に俺と同じ種族は結構いるから見間違われたんだろう程度に思ってたんだけどよ……。あんたの二十年ぐらい前か? 笑えたぜ! 今度は男のオオタチがエイミーって名乗ってたんだからな!」 「お、男!? どういうことなんですか!?」 「俺もその時は意味が分からなかったけれどよ、あんたに出会ってはっきりした。ここには確かエイヴンだかなんだかってアーボの旅人とやらがどっかからやってきたんだ」 「……!! 私と同じ種族……」 「そうなんだよ! 昨日だか言ったと思うが、この森にアーボは元々住んでなかった。それに既にあいつの前例があったから、この森の奴はよそ者には良い顔をしてなかったんだよ。そしたらどうだ。いつの間にかそのアーボとその男になってた『エイミー』がくっついてんだよ! 笑えたね。嫌われ者同士また惹かれあうのかよって」 「ど、そういうことなんですか? それで何がはっきりしたんですか?」 「あいつはな……ちょくちょく『エイミー』と名付けた奴を喰ってるんだよ……」 「そんなまさか!?」 「落ち着けって。ちゃんと根拠があって言ってるんだよ。お前の前の『エイミー』とそのアーボはいつか森を出て旅をするとか二人で語ってたんだけどよ、十年そこいらか? そいつらの姿をぱったり見なくなったから俺はてっきり旅に出たんだと思ってた。その矢先、アーボックの『エイミー』が俺の前に現れたんだ。もう俺はピンときたね」 「そんな……」 「喰ったんだよ。前の『エイミー』とそのアーボを。大胆な奴だよな? だが、嫌われ者ならバレないだろう、とずっと子供を産ませてはその親を喰って……そんなこと続けて来てバレないと思ってるのがすげぇよな? だが、『エイミー』に悟られないようにするために野放しにしてたのが仇となったな」 「そんな……そんなはずない!! だって! ヴォレは私のことを……! 私のことを!!」 エイミーはそう言ってその場に泣き崩れた。 考えたくもなかった。 何故、彼が彼女にそこまで優しくするのにも拘らず、多くを語りたがらないのかなど……。 彼の言う、愛が本物なのかなど……。 ダーテングはそれを見て内心、腹を抱えて笑っていた。 もちろん彼の言うことに根拠などない。 だが、簡単に彼女が自分の言葉を信じ、泣き崩れる様を見て、彼の中でヴォレへの復讐は果たされた。 これほどまでにない優越感に浸り、同時にエイミーにほとんど過去を話していないヴォレに初めて感謝していた。 「じゃあな。ちゃんと忠告してやったんだ。あとはお前らでどうにかしろよ。せいぜい森の奴等を巻き込まないでくれよ」 ダーテングは泣き崩れた彼女にそう言い残し、その場を去っていった。 エイミーはただひたすら泣いていた。 彼女の中にあった彼の姿が見えなくなり、彼の愛も見えなくなり、まるでいきなり放り出されたような気持ちになった。 それと同時にあまりにもリアルな死を突きつけられたような、そんな恐怖と恐ろしさで思わず体が震えた。 『死にたくない……。でも、彼に勘付かれればその瞬間殺されるかもしれない……』 そう思い、彼女は急いでいつも通り振舞おうと考えた。 彼の言っていた通りならば、子供を産ませるまでは殺されないはずだったからだ。 そのため、ヴォレがそんな話を切り出すまでの間に対策を練ろうと考えた。 できる限りいつも通りに振る舞い、この森にいる間にその方法を得ようと思った。 そのためにも彼女は急いできのみを食べて彼の待つ家へと足早に戻っていった。 「お帰りエイミー」 「ただいま」 家に帰ると案の定ヴォレが帰りを待っていた。 彼の秘密を知ったことをバレないようにするためにいつも通り振舞おうとしたが、意識して普通を演じようとすれば少しだけぎこちなくなる。 心の中でバレないように祈りながら、彼の横へ移動する。 「そういえば今日はもう怒ってないみたいだね」 「そ、そうなの! 私がしっかりと話したらその人も納得してくれたみたいでね!」 「そうだったんだ。よかったよかった」 彼がいきなりそんな話を振ってきたため、思わずドキリとしたが、彼女もすぐに彼に話を合わせた。 その話を聞くと彼は嬉しそうに微笑んで、それだけが気掛かりだったのか、少し話をしたらすぐに彼も食事に出掛けた。 どうやらバレていなかったようで、普通に出ていくヴォレを見てエイミーはホッと胸を撫で下ろした。 だが現状彼女は安心できる状態ではなかった。 既に彼女も女性として十分に成熟しているため、いつダーテングの言っていたその時が来てもおかしくはないだろう。 そう思うとエイミーはじっとしてはいられなかった。 すぐに家を出て、近くにヴォレがいないのを確認しながらゆっくりと坂を下り、そのまま森の方へ向かった。 そしてそのまま今朝、ダーテングに出会った場所まで急いで行った。 そんなに時間が経っていなかったため、まだ付近にいるであろうダーテングに知恵を貸してもらおうと思ったのだった。 エイミーにしてみれば今まで頼れるのはヴォレだけだった。 だが、そのヴォレが頼ることができないとなると、既に選択肢はそのダーテングしか残っていなかったからだった。 付近を虱潰しに探したが、既にそこに彼の姿はなかった。 頼れる者が彼しかいなかったエイミーに対し、ダーテングの方は既に彼の中での復讐は果たされていたため、彼らに関わる必要性がなくなっていたからだった。 数時間ほど諦めずに探したが、とうとう彼は現れず、その開けた場所の真ん中で一人絶望していた。 誰からも見放され、途方に暮れるしかなかった。 結局解決策も思いつかず、彼の待つ家へと帰り着いたのは日が暮れ始めた頃だった。 「お帰りエイミー。遅かったから心配したよ」 「ごめんなさい……」 「謝るほどのことじゃないよ。私は安心はしたけど、怒ってはいないよ?」 「そうね……」 「どうしたんだい? 随分と元気がないけれど」 「ヴォレ。私の事は好き?」 「当たり前だろう。君のことを愛する気持ちは変わらないよ」 「なら、一つだけ教えて。私のお母さんは今、何処にいるの?」 「君のお母さんのことは……流石に僕は知らないよ。会いたくなったのかい?」 「い、いえ……。別にそういうわけじゃないけれど……」 「そうなのかい? その割には君はずっと深刻な顔をしてるけれど、もしかして森で何かあったのかい?」 「だから何もないって!!」 「……ごめんよ。君が何もなかったというのなら何もなかったんだろう。今日は疲れただろう。もう眠りなさい」 「ご、ごめんなさい……。そんなつもりで言ったわけじゃ……」 「分かってるよ。君にだって言いたくない事ぐらいあるだろう。話したくなったらいつか話せばいいよ」 エイミーは思わず声を荒げてしまった。 それでもヴォレは変わらずエイミーを優しく宥めてくれた。 恐ろしいはずなのに、いつもと変わらず優しいままの彼に、エイミーは思わず涙が零れた。 それを見てヴォレはエイミーに優しく絡み付き、ゆっくりと寝かせてあげた。 そして子供でもあやすように、彼女の頭に正面から顎を重ね、尻尾で優しく背中を撫でた。 彼の優しさが嬉しかったが、同時に悲しかった。 その優しさが本当に優しさなのか、それすらも信じられなかった自分の疑心が悲しかった。 だが、もうその疑心を拭うことはできなかった。 「ヴォレは……。私と交尾したいって思う?」 「なんだ。そんなことを悩んでいたのかい? 年頃ってやつだねぇ……。そうだね。君が求めるのなら私は喜んで君の愛に応えよう」 「なら、今すぐでもできるの?」 エイミーは思わずそう聞いた。 するとヴォレは載せていた顎を引き、彼女の鼻先に自分の鼻先を当てて、グッと彼と彼女の額まで合わせた。 「もちろんだよ」 そう言ったかと思うと、彼はゆっくりと彼女の体に自分の体を巻き付け始めた。 体の長さは彼女の方が圧倒的に長いため、彼では彼女を全て包み込むことはできなかった。 それでも必死に絡み合わせ、彼女の秘部の辺りに自分のペニスが収まっている場所をゆっくりと合わせた。 彼女自身にも何故、彼にそんなことを言ったのか分からなかった。 だが、彼の愛が例え本物でなかったのだとしても、その愛を受け取りたかった。 『逃げればいいだけ……。そうすれば彼も諦めてくれるはず……。だから今だけは……』 彼女は心の中でそう言い聞かせながら更に涙を流した。 幸いにも、先ほど泣いていた涙のおかげでその涙の意味がバレることはなかった。 そして彼女の思いに応えるかのように、彼のペニスがスリットからゆっくりと伸びてきて、彼女の中へと入り込んでくる。 ぴったりと合わせたお互いのスリットはそのまま彼女の中をズンズンと押し広げながら入り込んでゆき、一番根元まで入りきった所で一度、その動きを止めた。 「動かすよ。少しだけ痛いと思うけれど我慢してね」 そう言ってヴォレは体をくねらせた。 体を更に絡み付けるようにくねらせ、ペニスを彼女の中で踊らせるように動かし始めた。 彼の言った通り、初めは痛みが襲ってきた。 だが、暫くもしないうちにヴォレの先走りが彼女の中を満たしてゆき、しっかりと滑るようになったため、痛みも快感へと変わっていった。 彼女が少しずつ嬌声を漏らすようになり、同じようにヴォレも動きを激しくしてゆく。 絡み合う二人の結合部からは少しずつヴォレの先走りが溢れて二人の体を伝っていた。 「出すよ……」 ヴォレがそう言うと、一度動きを止め、体をしっかりと重ね合わせた。 彼女の中で彼の太い二本のペニスが脈動し、精液を全て注ぎ込んだ。 そのまま少しの間ヴォレは注ぎ込み続け、脈動が終わると彼女の中にペニスが深く刺さりこんだまま少しだけ休憩した。 「さあ、二回戦目だ。今日は朝まで君を寝かせないよ」 ヴォレはそう言ってまたゆっくりと体をくねらせ始めた。 既に一度中に放った精液がさらに滑りを良くし、エイミーにも更に快感を与えていた。 だが、エイミーの頭の中には快感や、ヴォレと一つになれた喜びよりも大きな感情があった。 『朝まで……。そうやって体力を奪って……』 そう思った彼女の心の中に浮かび上がった感情は悲しさだった。 彼のその行為には恐らく愛はないのだろう。 そう思った瞬間、心が恐怖で支配された。 このまま行為を続けていれば、体力を奪われ、卵を産む頃には彼に殺されるのだろう。 そう思えば思うほど心どころか体まで支配され、行為を楽しむことも、快感を味わうこともできなくなっていた。 早くこの拘束から逃れなければ死ぬ。 だが、彼女の膣には深く彼のペニスが刺さり込んでいる。 こんな状況で逃げられるはずもなかった。 『死にたくない……。死にたくない!! そうだ、逃げられなくても、油断してる今なら……!』 彼女の心は追い詰められていた。 気が付けば次の瞬間、エイミーは彼の喉元に食らいついていた。 あまりの出来事にヴォレは行為のためではなく、パニックからのたうちまわった。 だが、エイミーも生きるために必死に食らいついた。 そうしていると、ヴォレはそのうち暴れることを止めた。 そこでようやく冷静になったエイミーは口の中へ広がる鉄の味に驚き、青ざめながら後ろへ飛び退いた。 「エイミー……な、何故……」 倒れ込んだまま首だけを彼女の方に向けて、血を吐き出しながらヴォレはそう言った。 冷静になれたのは一瞬だけだった。 エイミーはあっという間にパニックに陥り、状況が理解できなくなった。 「違う……。私はただ……。あなたに殺されたくなかっただけ……殺されたくなかっただけなの!!」 「私が……君を殺すわけないだろう……私は……君を」 「嘘よ!! あなたは私のことを愛してた訳じゃない!!」 エイミーは半ば、自分へ言い聞かせるように、金切り声に近い悲鳴のようにそう言い放った。 だが、自分で口にしたはずの言葉がそのまま自分の胸に突き刺さるように痛んだ。 「エイミー……。私は君を愛している……。君は私を愛して……いないのか?」 「愛してない。私はあなたを愛してなんかいない!!」 また彼の言葉に対する返答を、彼女は自分自身に言い聞かせるように叫んだ。 呼吸も荒く、明らかにエイミーはまともな状態ではなかった。 だからこそ、もしも本当にヴォレが初めから彼女を殺すことが目的だったのならば、すぐにでも逃げなければならないその状況で、彼女は彼との問答を続けていた。 「そうか……。良かった……」 弱々しい声でヴォレは確かにそう言った。 彼女は思わず彼の目を見た。 横たわるヴォレはしっかりと彼女の目を見て、微笑んでいた。 まるで何かから解放されたかのように、とても安らかに微笑んでいた。 「エイミー……。いや、君が僕を愛していないのならば……それでいい。君は君なんだ……。僕の愛したエイミーではないのだから……」 「どういう意味よ……。あなたの言うその『エイミー』は殺す相手のことを言っているんでしょ!? 本当は私の母さんや父さんも!!」 「違うよ。どうせ……もう長くは持たない……し、全部話そう」 そう言うとヴォレは決して彼女には語らなかった過去を語り始めた。 「エイミーは……唯一僕のことを受け入れてくれた人だった。両親も、兄も……全て失って、自分の信念さえも捻じ曲げて生きてきたせいで、誰も信用できなくなっていた僕を唯一信用して……赦してくれた人だったんだ。ようやく愛する人を得て、その人との子供授かって……。これからだったんだ。そんな時に彼女は病で倒れた……」 「病? あなたが殺したわけではないの?」 「嫌だったんだ……。殺したり殺されたりの世界が……。それが嫌で僕はこの森まで逃げてきた。なのに……彼女は僕の目の前で大量の血を吐いて……。そんな彼女が言ったんだ。『私を食べて欲しい。あなたの中で生きていたい』そう言ったんだ」 「だから私たちまで殺したの!?」 「最初からそんなつもりはなかった。だが、結局そうなってしまった……。僕はあの時、彼女の残した子供を一人で育てていくべきだった……。でも……何もかも失った僕には……それは辛すぎた。結局僕はその子を『エイミー』と名付け、また大事に育てながら、彼女と同じように愛したんだ……」 「どういうこと……」 「二人目のエイミーも僕を愛してくれた。愛してくれるだけでよかったんだ……。なのに彼女も子供を産み、間もなく同じように病で倒れた。信じられなかったよ……。愛した人を二度も失うことになるとは思わなかった。なのに……彼女も最初の彼女と同じように僕に『お願い』したんだ……。彼女は最初の『エイミー』のことなんて知らなかったはずなのに……」 「信じられない……! そんな言葉を信用しろと!?」 「君が信じる必要はないよ。これは僕の……過去であり、事実であり、僕の罪だ。そうだと分かっていても僕は彼女をまた愛した。今になって思えば、あの時から僕はもう、おかしくなっていたんだろう。三人目の彼女を愛した時、僕は前の二人が死んだ頃の歳になると、病で倒れ、血の海に浮かぶ彼女の……悪夢をよく見るようになり、そうなる前に彼女を……僕は絞め殺した」 ヴォレはそう言って、初めて自分でも『エイミー』を殺したことを認めた。 彼の中で食べることは愛することと同意だったはずなのだったのにも拘らず、初めて殺したと口にした。 いつの間にかエイミーも聞き返すことを止めていた。 「四人目の『エイミー』は……男の子だったよ。そして……君の本当の父親だ。あの時の僕は変わらずに彼を愛そうとしたが、当たり前だけれど拒絶されたよ……。少しだけ不器用で……でも本当はとても優しい子だった……。あの子のおかげで親というものを少しだけ味わえたし……少しだけ正気に戻れたと思う。実際、彼とエイヴン……君の母親が幸せに生きてくのを見ながら死ねるのなら……それでよかった。でも、彼が旅に出たいと言った時、僕はまた失うことを恐れた……。結局、彼も彼の愛した人も僕は殺してしまったんだ……。笑えるだろう? 殺したくないと言いながら、僕はずっと矛盾したことをし続けたんだ……。でも、僕もようやく死ねる。彼女を愛するためだけに生きて……彼女を重ねた君に『愛していない』とはっきり言ってもらえたんだ……。やっと彼女と死ねるよ……」 「……一つだけ教えて欲しいの」 「なんだい?」 「あなたが愛していたのは……私のことなの? それとも、その『エイミー』のことなの?」 「何度も彼女を愛してきたけれど……。結局みんな『エイミー』とは違ったよ。今だからこそ言える……。僕は『エイミー』も君のことも愛していたよ」 「私だって……。私だってあなたのことを愛しているわ……」 エイミーはそう言って声が震えるほど泣いた。 彼の過去は決して正しいものではない。 だが、そんな過去を聞いたとしても、彼女が彼を愛していると言ったことは紛れもなく真実だった。 それと同時にいくつもの後悔が溢れ、痛みで胸が張り裂けそうだった。 「その言葉で十分だよ……。でも、君はもう僕に縛られないでくれ……。エイミーと名乗る必要もないし、僕を愛する必要もない……。君を愛してくれる誰かを愛してあげてくれ……」 「嫌……嫌よ……。あなたがくれたこの名前も私は好きだし、あなたのことも大好きなのに……あなたは何も悪くないのに……」 「何を馬鹿げたことを言ってるんだ……。僕がしたことは僕自身がよく分かってる。悪いのは僕だ。だから……」 「そうだったとしても……私はあなたを愛したのに、信用できなくて……。こんなことになって……」 「信用できないだろうさ……。僕は君に何も語らなかったんだ」 「あなたを死なせない……。今すぐ怪我に効くものを探してくる。例えそれであなたに殺されることになったとしても、構わない」 「落ち着くんだ。もう手遅れだよ……。それに……もう老い先短いんだ。どちらにしろ、もう僕も疲れてたんだ……。そうだ……怪我に効くものはいらないから、最後に一つだけお願いしたい」 「最後だなんて言わないで!!」 エイミーはそう叫んで洞窟を飛び出した。 だが外は既に夜。 昼の晴天が嘘のように空には分厚い雲が広がっているのか、月明かりも届かず、辺りは本当の暗闇に包まれていた。 それでもエイミーは必死に探した。 そんな都合のいい物があるはずないと分かっていても、必死に探した。 星一つ輝かない曇天の森の中はまさに漆黒だった。 何も見えないなか、エイミーは傷だらけになりながら探した。 溢れる後悔を謝りたい、ただその一心だったが、時間がないことも分かっていた。 結局、暗い森の中ではきのみの一つすら見つけられず、ただ泣きながら洞窟へと戻っていった。 「ごめんなさい……。ごめんなさい……」 「なんで……。君が謝る……んだ」 どれほど時間が経ったかは分からなかったが、既にヴォレは虫の息だった。 そんなヴォレに対してエイミーはただただ溢れ出る後悔の涙と一緒に謝ることしかできなかった。 もっと彼を信用していれば……。 もっと彼にきつく問いただせば……。 彼女の思いに、彼が悪いという想いは一切無かった。 例えそこにどんな思いがあったとしても、ヴォレの与えた愛は本物だった。 良くも悪くも彼の愛した人であり、娘である彼女は確かに彼と同じような思いを持っていた。 彼の愛を裏切り、彼を殺そうとしたことは事実だ。 「最後の……お願い、聞いて……くれるかい?」 彼女は泣きながら静かに首を縦に振った。 それを見てエイミーは力無く微笑んだ後、ゆっくりと喋り始めた。 「まだ愛してくれるのなら……僕を食べて欲しい……。君の中で生きたい……」 エイミーはいつかのヴォレのように絶望に打ちひしがれながら首を横に振った。 だが、今は状況が違う。 彼女がヴォレを食べないのなら、ヴォレはそれでもよかった。 そして今になって彼女が何故そう言ったのか、彼には意味が分かった。 このまま好きな人の悲しい顔を見ながら死んでゆくぐらいなら、その人の血肉となれた方が一緒に生きていけるような気がしたからだ。 それはエイミーにとっても同じだった。 彼が初めから食べるつもりで自分をこれだけ愛してくれたわけではないことを痛いほど理解した。 愛した人を食べなければならないことがどれほど辛いことなのかを身をもって知ることになった。 だが、このまま彼を見殺しにすれば、それは彼女の中で自分の本心が嘘だったということになることもよく分かっていた。 泣きながら、彼女は彼の体を抱き上げ、ゆっくりと口へ運んでいった。 「ありがとう……」 彼を口に運ぶ瞬間、彼は小さな声でそう言ったような気がした。 実際そう言っていたのだろう。 ゆっくりと何度も吐き戻しそうになりながら、彼を飲み込んでゆく。 ヴォレの体は非常に長いが、それよりも長いエイミーなら彼を全て飲み込むことは容易かった。 だが、止めどなく溢れる涙と嗚咽で飲み込むのは非常に時間が掛かった。 最愛の彼の尾まで、全て彼女の中へ収まる頃には彼女の涙も枯れていた。 放心に近い泣き疲れた無表情のまま、エイミーは何処か虚空を眺めていた。 そんな時、体の違和感に気付き、尾の方を見た。 あまりに放心していたためか、彼女は既に卵がそこまで生まれかかっていることにも気付くことができなかった。 スルリと産まれ落ちた卵を見て、ヴォレの言っていたことが彼女にもよく理解できた。 ああ、そうなのね……。 あなたは間違いなく私を愛してくれていた。 例え誰がなんと言おうと、私もあなたも間違いなく愛し合っていた。 もし赦されるのなら……もう一度あなたを愛したい……。 あなたを殺した罪に、更に罪を背負ったとしても、あなたを忘れて生きられるほど、私は強くはない。 もう一度だけ……あなたを愛したい。 これは私の傲慢だろう……そう分かっていても、私はあなたもこの子も愛したい……。 だから……赦して欲しい。 この子の名前は…… &size(30){''恋するウロボロス''}; ---- **あとがき [#p0b623e0] どうもお久しぶりです。COMという者です。 今回は6票もいただき、大会では3位に入賞することができました。 投票してくれた方々、読んでくれた方々に感謝です。 それと、注意書きに近親相姦の一言を入れるのを忘れてました。ごめんなさい。 ま、まあ、ヴォレ的にはみんなエイミーだから問題ないよね!? 変態と聞いてどうしても一度は書いておきたかったvoreネタ。 好きな人なら恐らく、名前を見ただけで何が起きるか予想がついてしまったかもしれませんが、割と危ない要素を盛った割にはいろんな方に読んでいただけたようで嬉しいです。 残りは大会で頂いたコメントへの返答を行います。 「そうだね……傍にいてやりなさい。後は君が思う限りのことを尽くしてあげなさい。ただし、相手が喜ぶことだ。君が嬉しいこととその子の嬉しいことは全く同じではない。そして……それでも君とその子の想いが変わらないのならば、想いを伝えなさい。焦らなくていい。恋が愛になるまで育めばいい」 この言葉が、この作品の中で一番好きです。だからこそ何度も読んでしまい、そして跡に待ち受ける悲しい結末に行き当たってしまう。初めて読んだ時は心を殴られたような衝撃を受け、その夜まで心が痛かったです。 愛の形は色々あります。今回のこれも、間違っていたとは言い切れません。しかし、やっぱり心が痛んでしまうのです。 >>作中のセリフを抜き出してもらえるほど気に入ってもらえたのは本当に嬉しいです。 個人的にもヴォレの心境の変化を描きたかったため、かなり力を入れました。 深く、そして面白かったです! >>ありがとうございます。 上の方も書いてくれましたが、愛の形は様々だと思うので、深いと思ってもらえたのなら嬉しい限りです。 これ無限ループする奴じゃないですかー。ヤダー >>無限ループっていいよね。 落ちにビックリしました >>恋は盲目というのなら、頼れる人のいない彼らの場合、愛は猛毒なのかもしれません。 愛する者を食らい合う無限地獄。ヘビーで凄惨な内容でありながら、余りにも一筋なヴォレの愛情が伝わってきて、不思議と毒後感の良さも味わえるお話でした。 >>一途な愛に歪んだ感情を乗せたかったので、とてもありがたいコメントです。 歪んだ恋と純粋な狂気に恐ろしさを感じる作品でした。 ウロボロスの輪は切れることなくどこまでも……とか考えるといやはや。 実に読み応えのある作品でした。 >>ウロボロスは永遠の命の象徴であり、永遠の再生でもありますからね。 大会に投票してくれた方々、本当にありがとうございます。 それではまた何処かで。 **コメント [#cf569aee] #pcomment(ウロボロス/コメント,10,below) [[COM]]に戻る ---- **そして…… [#y9e1be53] 鬱蒼とした森の中、ポッカリと空いた小さな日当たりの良い草むらで一人のアーボックが気持ちよさそうに日向ぼっこをしていた。 とぐろを巻いた体の上に自分の頭を乗せてすやすやと眠っていた。 そんなアーボックに同じくアーボックがスルスルと寄ってきた。 とても安らかな寝顔を覗き込むと、小さく笑ってそのアーボックも同じようにとぐろを巻いてすぐ横で寝息を立て始めた。 「あ、おはよう母さん」 「あら、おはよう。もしかして私、結構寝ちゃってた?」 「そんなに寝てないと思うよ。まあ、僕もついさっきまで寝てたけど」 「なによそれ! てことは私、結構寝ちゃってたんじゃない! きのみを探しに行かないと!」 「もう自分で食べてきたよ。僕もいつまでも子供じゃないんだからそれくらい気にしなくていいよ」 しばらく経って目を覚ましたアーボックたちはそう言って笑っていた。 母さんと呼ばれたアーボックの名はエイミー。 そして、母さんと読んだそのアーボックの名はヴォルス。 二人は紛れもなく恋人ではなく、親子だった。 ヴォルスは彼女のことを母と慕い、同じようにエイミーも彼に親としての愛情を注いでいた。 だが、エイミーもそう決断することは容易ではなかった。 それは最愛の人との別れと同時に、その人を殺したことを認めることになる行為だった。 だが彼女に迷いはなかった。 彼を殺したのは間違いなく自分であり、それから目を背けることは彼女にとっては彼を愛していることにはならなかった。 もしヴォレスをまたヴォレと名付け愛したのならば、それは自分が殺した人をもう一度愛することになる。 事実から目を背ければ確かに楽だが、それは同時に本当に自分が愛した人は、殺してしまった人ではなくなるとも思った。 だからこそその罪を自分が背負い、生きていこうと思い、同時に愛した人との間に残された子供には自分と同じ道を歩んでは欲しくなかった。 彼女がそう思うことができたのは単に母性や女性の恋愛観だったのか、それともまだ彼女の心に刻まれた傷が浅かったからなのかは分からない。 答えを知っているのは彼女だけであり、彼女は今、とても幸せそうに笑顔を浮かべていた。 「そういえば母さん。えらくお腹が膨らんでるけどどれだけ食べてきたの?」 「あ、これ? 実はね、ずっと探してた大きな茶色いきのみをようやく見つけられたから食べたの」 「大きな茶色いきのみ? この辺りにそんなきのみあったっけ?」 「なかなか見つからなかったんだけどねー。ようやく見つけたから一呑みにしてやったわ」 「そんなことするから消化のためにぐっすり寝てたんでしょ?」 「もう! 親をからかわないの!」 そう言って二人はまた楽しそうに笑っていた。 基本的に二人ともとても仲良く、いつも笑っている。 時折エイミーは寂しそうな表情を見せる時があるが、そういう時はいつもヴォルスが気遣って楽しい話題で笑わせてあげていた。 そんな平和で楽しい日々も、ゆっくりと終わりの時を迎えつつあった。 「母さん……。僕、好きな人ができたんだ……」 ある日、ヴォルスは真剣な表情でそうエイミーに伝えた。 エイミーは少しだけ驚いた表情を見せた後、とても嬉しそうに微笑んだ。 「いい事じゃないの。どんな子?」 「フルスっていう子なんだ。結構前から一緒に遊んでたんだけど……この前、好きだって告白されたんだ……」 「なんでそんな顔してるの? その子のこと好きなんでしょ?」 「好きだけど……。一緒に暮らしたいって……。でもそうしたら母さんが……」 「なに? そんなことで悩んでたの? もう子供じゃないとか言ってたのに、そんな所で変な気は遣わなくていいのよ。私にはちゃんとお父さんとの思い出があるから。あなたも好きな人と沢山思い出を作りなさい」 「分かった。ありがとう母さん! 明日、返事をしてくる」 エイミーの言葉でようやく決心がついたのか、ヴォルスの表情はとても晴れやかになっていた。 それからはあっという間だった。 暫くもしない内にヴォルスはエイミーに彼女を紹介するために、二人で家に戻ってきて話したり、まだ暮らす場所が決まってないが、いつかは二人で暮らしたいことも語った。 「それならここで暮らせばいいじゃないの。私もあなたが一人立ちしたら行きたい場所があったからちょうどいいわ」 二人がとても仲睦まじい様子を見てエイミーも安心した。 だからこそエイミーはそう言い、二人を祝福した。 フルスがとても申し訳なさそうに謝っていたが、別に追い出されたわけではない。とエイミーも笑って謝っていた。 そしてエイミーは言っていたように、ヴォルスと一緒に暮らしていた草むらを離れ、ヴォルスたちを励まして去っていった。 彼女の目的地はただ一つ、この草むらのように森の中ではとても目立つ崖の上にある洞窟だった。 アーボック二匹が暮らすには狭すぎるその洞窟は、彼女一人で暮らすのならば丁度良い広さだった。 「ただいまヴォレ。私たちの子供もあっという間に大人になっちゃった」 洞窟の中へエイミーはそう告げて、帰ってこない返事に小さく頷いてゆっくりと洞窟の中へ入っていった。 最愛の人も、最愛の息子もいなくなったエイミーだったが、それでも彼女の表情はとても穏やかで幸せそうだった。 強がりではなく、実際彼女は幸せだったのだろう。 ヴォレが言ったように、彼女の中でヴォレはまだ生きている。 思い出と共に、愛した人は心の中で寄り添っている。 エイミーにとってはそれで十分だった。 彼女が忘れぬ限り彼は彼女を愛し続け、もちろん彼女が彼を忘れるはずがないため、その愛は変わらない。 不変の愛がある限り、彼女の愛は永遠でしかない。 あなたが愛してくれたように、私もあなたを愛し続ける。 これは私の罪であり、私の答え。 だからもう悲しくない。 これからもあなただけを愛しているわ、ヴォレ。 &size(30){愛するウロボロス};