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外伝EX2 駆け抜ける白き雷鳴 の変更点


writer is [[双牙連刃]]

偶発的な事故により、サンダース突然変異体、ライトは別世界へと迷い込む。
そこでライトはその世界の管理者と名乗るアルセウス、アルスに出会い、彼女(?)の提案により、一軒の人間の家で帰還までの間生活をすることに。
その家の家人達の名は葛木。風変わりなポケモン達と暮らす人々の家へ、護衛としてアルセウスに任を与えられたギラン、人の姿になったギラティナと共に暮らし始める。
しかし、その家がある町では大きな事件が起こっていた。その事件に巻き込まれる予感をしながら、ライトは不思議な一時の冒険を始める……。

[[前話>外伝EX 時空を超えた邂逅]]

以上、あらすじのような何かでした。本編は↓からです。お楽しみ頂ければ何より。では、幕を上げるとしましょう……。

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 ライトが居なくなって二日……僕は何度も空の扉を試してるけど、あの暗い穴は開いてない。
パルキアさんのところに行って事情を聞いたら、ある事実が分かったよ。
ライトは……あの穴を通って、どうやら別の世界に行ってしまったみたい。
でも、少し信じられない。僕が、別の世界との入口を開いちゃったなんて。って言ったら、どうやら原因は僕の空の扉じゃないみたい。
ライトが飛ばされちゃった世界……そこの空間がおかしくなっちゃって、それが僕の空の扉に繋がっちゃったって事みたい。
どうしてそんな事まで分かったかって? なんでも、パルキアさんのところにその世界のパルキアさんから声が届いたらしいよ。
それを提案したのが……ライトなんだって。僕ならきっと、パルキアさんのところに聞きに行くだろうからって。

「ね、だから元気出してレン姉ぇ。ライトは、向こうで元気みたいだから」
「……本当、なんだよね? リィちゃん」
「うん。後一週間前後で帰れるようになるんだって」
「良かった……ほん、とうに……」
「まったく、なーにが後任せたよ。……心配するこっちの身にもなりなさいよね、もう……」

 レン姉ぇもフロスト姉ぇも泣いちゃった。でも、仕方ないかな。
レン姉ぇ、あの後からずっと自分の部屋で泣いてたんだ。自分の所為でライトが、って。フロスト姉ぇも落ち着かなくなってたし、これで少しでも安心出来たかな。

「良かったですね、レンさん。私もリィちゃんと一緒に行きましたから、間違い無い情報ですよ。流石ライトさんってところですね」
「うん。……ライトが帰ってきた時笑われないように、もう元気出さないとね」

 これでもうレン姉ぇは大丈夫そう。ライトが帰ってくるまであのままだったら、レン姉ぇが倒れちゃうところだよ。
きっと、ライトがそうならないようにしてくれたんじゃないかな。ライトなら、きっとそうなってるって思ってただろうし。
ライト……必ず、帰ってくるよね? ここが、ライトの帰ってくるところなんだもん、帰ってくるよね?
でも、なんで僕……不安に思ってるんだろ? なんだか嫌な予感がする。
行けたら、僕もライトを助けにいけるのに。……ライト、無事に……帰ってきてよ……。

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~二日目 昼~

「なるほどねぇ……コバルオンか、知らんポケモンだな」
「コバルオンを含む三剣士、それと聖剣士と呼ばれるポケモンは昔から争いの場を諌める為に戦い命を落とし、今では数少ない者が残っているだけになっている筈ですよ」
「ほぉ、博識ですなギラン殿は」

 ……どうやら一晩経って蒼刃も立ち直ったみたいだな。それに、ギラン君やライトとも打ち解けたみたいだ。もう昨日の晩みたいな事にはならないよな?
でも、蒼刃はあんなにまだ強さを隠してたのか。そして、その蒼刃の攻撃を簡単に防いでみせたライト、か。
どういう奴なのか、正直分からない。目の前に居るのに、何処か遠くに居るような錯覚がする。でも、すぐ傍に居るような感覚もある。

「ん? どうかしたかい、零次さんよ」
「……別に、零次って呼んでもらって構わないぞ。俺もライトって呼んでるんだし」
「そうかい? そんなら、そうするとするかな」

 ただ、間違い無く言える事は、俺なんかよりも遥かに先を歩いてるって事だ。何というか……生きる道筋って奴を。
もしかしたら、蒼刃よりもそうなのかもしれない。同じ場所に居ながら、何処かずれているって感覚があるんだよな。
これは、別の世界のポケモンだからってだけじゃないと思う。上手く言えないが……そう、感じるんだ。

「……零次、何考え込んでるか知らないけど、そろそろ学校行く準備してきなさいよ」
「え? あ、こんな時間か。もうのんびりしてられないな」
「ライト君の事が気になるのは分かるけど、あの子はあんたが考えてるより普通よ。……少なくとも、普通で居ようとしてる」
「……母さんにも思うところはある、か」
「誰の親だと思ってんのよ。ほら、あんたはさっさと行く準備」
「へいへい」

 お見逸れしました。まったく、うちの母は聡明な事だな。薄々はライトの事に気付いてたって事か。
その上で受け入れてるんだから、頭が下がるばかりだよまったく。
さて、遅刻する訳にもいかないから部屋で制服着てくるか。今日は誰を連れて行くかな?
昨日は蒼刃だけだったから……拳斗と海歌にするか。よし、戻ったら声掛けよう。
ブレザーとズボン着てと、鞄持って準備完了。中はYシャツなので悪しからず。
っと、忘れるところだった。二匹用のボールも持っていかないと。それじゃ、居間に戻るか。
階段を下りたところで、タイミング良く玄関が開いた。そこに居たのは……親父だ。

「ふぁぁ……おや、ただいま零次。今から学校かい?」
「お帰り親父。時間見て帰ってきてないのか? 七時半だぞ?」
「そうだったのか……いや、研究を一段落させたその足で帰ってきたから何も見てないんだ」
「ふ~ん。あぁ、今さ、俺の知り合いから預かってる子とポケモンが居間に居るけど気にしないでくれよ」
「おや、そうなのか。知子がいいって言ったんなら私は構わないよ。どれ、挨拶して来ようかな」

 それなら一緒に居間に行くか。そろそろ朝飯の片付けも終わっただろうし。
居間に入ると、出た時と同じようにライトとギラン君は蒼刃と話してたみたいだな。

「やぁ、皆ただいま。……ふむ、君とそこのサンダース君が零次の言っていたお客様みたいだね」
「あら、あなたお帰り。研究に没頭するのはいいけど、もう少し帰ってきてもいいんじゃない?」
「い、いきなりだね知子……気を付けるよ。とりあえず、先に挨拶だけさせておくれ」
「ふーん、あんたがここの大黒柱か。ライトだ、世話になってるぜ」
「ちょ、ライトさんいきなり喋っちゃっていいんですか!? って、わ……ぼ、僕は、ギランと申します! お世話になってます!」
「ほぉ、ライト君にギラン君か。いやぁ、最近は喋れるポケモンの知り合いが本当に増えるなぁ」

 ……ギラン君もライトも、どっちも相変わらずだな。そして親父はナチュラルに受け入れ過ぎだろ。
まぁ、親父は放っておいても問題無いだろ。俺は学校行くとするか。

「んじゃ、俺は行くよ。拳斗、海歌、行かないか?」
「リオ? うん、兄さんが連れてってくれるなら行くー」
『私も構わないよ。行こうか』

 それなら海歌はボールに戻してと。拳斗は、学校の前までは一緒に歩いてくか。

「あ、もう行くんですね零次さん」
「あぁ、行ってくる。今度は心紅も一緒に行こうな。雪花もたまには連れて来いって煩いし」
「ふふっ、分かりました。あ、玄関までお見送りしますね」

 そういう事なら玄関まで一緒に行くか。……なんか背中にニヤニヤした視線を五人分程感じるが、気にしないでおこう。
さて、靴を履いてと……ちょっとだけ、拳斗には外で待ってもらうか。

「拳斗、ちょっと先に出ててくれ」
「はーい」
「……じゃ、行ってくるよ、心紅」
「はい……ん……」

 ……こんなところ、誰かに見せる訳にはいかないからな。
少しだけの心紅との繋がりを済ませて、お互いの顔を離す。俺も、大分こういうのには慣れたかな。

「行ってらっしゃい、零次さん♪」

 嬉しそうにそう言った心紅に軽く手で返して、外に出た。ははっ、拳斗が待ちきれなさそうにこっちを見てたか。
いつもみたいに肩車してやると、こっちも嬉しそうにする。やれやれ、これくらいで喜んでくれるとは、俺の弟は可愛い奴だよ。
片手に鞄を持ってるから、拳斗の足は片手で押さえてやることになる。だから、拳斗にはいつもよりも落ちないように頭を抱えさせてたりするんだ。

「おーい、れ~いじ~! おっ! 今日は拳斗も一緒か」
「あ、司郎だ」
「朝から喧しいなお前は……お早う」
「お早うさ~ん。そんな事言ってー、これが無いと朝がキター! って感じしないっしょ?」
「いや別に?」
「そ、そげな……最近親友が辛辣なう、っと」
「いきなり世界に何を配信してるんだお前は……」

 変なSNSにハマるのはいいが、おかしな事書かないかが心配だ。まぁ、その辺は流石に司郎でも弁えてるだろうがな。

「あ、そうそう。急に話振るけどさ、今日学校終わったら零次の家行っていい?」
「ん? どうした?」
「昨日言ってたじゃん、アルスさんから預かったって言う一人と一匹だっけ? それに会ってみたいだけ~」
「あぁ、そういう事か。いいぞ。ただ、一人の方は普通だが、一匹の方はかなり癖者だぞ?」
「ふっふっふ、このゾロアークよりも癖者なんてそうそう居ないっしょ! どの程度か測ってしんぜよう!」

 あぁ、どうしてだろう。ライトが完全勝利する未来しか見えない。向こうの癖者っぷりはこいつの比じゃないだろうって事がひしひし感じる。

「ライト兄ちゃんは凄いんだよ。司郎じゃ適わないよ」
「ぬぐっ!? い、いきなり酷い事言うね拳斗!?」
「まぁ、凄いって言うのは拳斗に同意だ。あの蒼刃と同格か、それ以上だな」
「……今の聞いて急速に勝てない気がしてきました!」

 現金な奴だなぁ。ま、会わせればその辺は分かるだろ。
そんな事を話してたら学校が見えてきた。さて、今日もぼちぼち過ごすとするか。

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「別世界のポケモンかぁ……とてもそうは見えないね」
「基本的にポケモンはポケモン。俺は、しがないサンダースですからね」

 遅めの朝食を済ませたこの家の旦那、葛木箕之介さんに捕まり話をしてるところだったりする。ま、それ以外にする事なんざ散歩が関の山なんだがな。

「しかしサンダースか……ライト君、お願いがあるんだけど、少しいいかな」
「俺が出来る範囲の事であれば」
「簡単だよ、君の電気を少し見せてくれないかな。今私が手掛けている研究が、電気タイプポケモンの電気の原理でね」

 ほぉ、そりゃまた変わったもんを研究してるな。なんの為の研究なんだか?
見せろっつうんだから別に見せてもいいか。ま、俺のは他のポケモンに無い特殊な電気だがね。

「別にいいですよ。んー……これでいいか」

 額の辺りに電気を集めるようイメージして、電磁波を収束して一つの電気の球を作り出す。電磁球ってところか。

「!? こ、これは!?」
「おっと、触れんでくださいよ。電磁波を固めて作った球だから痺れちまいますよ」
「白い電流……それにこれ程のエネルギーコントロール……君は一体……」
「ま、しがないとは言いましたが、ちょいと特殊かもしれんですね」

 唸りを上げながら、興味深々って感じで電磁球を見てるな。普通じゃちょいと拝めないもんだろうし、作るのに苦労するもんじゃないから幾らでも出来るがな。

「通常なら青や黄色い電流色になるというのが通説なのだけど……白というのは本当に始めて見させてもらったよ……」
「ポケモンの電流色ってな、その電圧や発電を行う細胞に由来するもんですからね。俺はどっかおかしいんかもしれません。サンダースになった時からこうでしたから」

 研究者って人種にあまりおかしい事を言うと後が大変になるから、俺が突然変異体である事や消滅の光の事は言えんな。

「! そうか、ポケモンの発電も基本的には細胞からという事になるし、それに左右されるのか」
「えぇ。ピカチュウなんかの、発電した電気を何処かにストックして利用するポケモンはやはり僅かに電圧は下がりますし、発電した電気をそのまま発現させられる奴の電圧は高いと思いますよ」
「た、確かに。ちょっと待ってね」

 ん? どっかに電話掛けるみたいだな。まぁ、何処かは想像出来るが。
何かを熱心に伝えて、電話は切られた。おぉ、ホクホクした顔してるぜ。

「いやぁありがとうライト君。君のお陰で研究も進みそうだよ」
「それはどういたしまして。しかし……ポケモンの電気の性質なんて調べてどうするつもりなんですか?」
「最終的には、人が使っている機械にポケモンの電気がどう影響する可能性があるかというところまで調べるつもりなんだ。それが分かって、もし悪影響を与える因子が見つかったらそれに対応した物を作れるようになるしね」

 へぇ、ちゃんと社会貢献の為の研究だったか。やっぱり、色的に白い研究みたいだな。
それなら俺も協力してもいいか。グレーや黒だったらこれ以上は何も言わんつもりだったが。

「電気っつっても向ける方向性によってまた形を変えるもんですから、そのポケモンの電気はこう影響するってなぁ言い切れなくなると思いますけど。まぁ、そのポケモンはその方面が得意だってなぁ大まかには割り振れるかもしれんですけど」
「そうだね。動力、発光、神経伝達、細胞活性、原子活性による熱生成、それだけの変化を君達電気タイプのポケモンは行えるという事になるし……」
「自身の体を電気質に変えて機械に入り込むロトムなんてポケモンも居る。奥は深いですぜ?」
「だからこそ、調べ甲斐もあるのさ。……ライト君、君の知識には驚嘆させられたよ。まさか研究の話をポケモンとするとは思った事も無かった」
「なぁに、ちょこっと囓った程度の知識ですよ。俺ぁ研究者でもなんでもないんでね」
「いやいや、君とはじっくり話がしたいな。下手をすると、研究所の面子と話すより有意義かもしれな……」
「はいはい、仕事の話はそこまで。あなたは本当に研究の話になると夢中になるんだから」

 っとぉ、知子さんのカットが入ったか。そういやその研究を切り上げて帰ってきたばっかりだったな。

「えぇ、今ちょっと盛り上がって来たところだったのに……」
「そのまま盛り上がったら、ライト君連れて研究所にとんぼ返りを決めるでしょ?」
「うっ……」
「諦めましょうぜ、箕之介さん。休む時には、頭も休ませてやらにゃ」
「う~、確かライト君達は一週間程は居るんだったね? その間に、じっくり話す機会をくれないかな?」
「俺はいつでも。何処までついて行けるかは分かりませんがね」

 こういう話が出来る奴ってなぁ向こうにゃ居ねぇから、俺としても実は新鮮で悪くないんだよな。
それに、俺の知識は……あそこの知識だ。薄ら暗い利用法をされるよりゃ、世の中を良くする為に使われた方がこいつも本望だろうよ。

「……聞いてましたけど、さっきのやり取りが僕にはさっぱり分かりませんでした」
「げ、原子? 神経伝達?」
「な、なんでライトさんは箕之介さんのお話に普通に返せるんですか?」
「研究者の顔してるこの人の話は、私もさっぱり分からないのよね」
「……話し相手が居ないってなぁ肩身が狭いもんだねぇ」
「ま、まぁ、私も普段はあまり家で研究の話はしないようにしてるからね。あははは……」

 あー……傍で聞いてたギランや蒼刃の頭から煙が出てるのが見えるようだ。そこまで難しい話をしてた訳じゃねぇんだけどなぁ。
さて、禁止令が出た以上ここでこれ以上それ関係の話をするのは得策じゃねぇな。どうすっかねぇ?

「それじゃ、私は一眠りしてくるよ」
「ふむ、俺はどうすっかな……ギラン、散歩でも行くか」
「お散歩ですか? いいですけど……昨日みたいな事になった時、ライトさんだけでは危険じゃないですか?」

 ふむ……確かに最初の一戦以外は昨日も拳斗の力を借りる事になったしな。まぁ、俺がちと油断した所為ってのもあるが。

「ならば、我が共に行こうか」
「おっと、凄いところから立候補が来たな」
「家に居るだけというのはやはり退屈なのでな。普段は零次が居なければ出歩く機会も無し、たまには他の者と歩むのも悪くない」

 そういう事なら別に構わんけど、行くとしたらどの辺にするかだな。

「なら私も行きましょうか。ついでにお買い物も済ませられますし」
「あ、それいいわね。じゃあお買い物は心紅ちゃんに任せちゃいましょうか」
「ん? 買い物? ポケモンの姿でか?」
「いえ、こういう事です」

 ! ほぉ、自身の姿を光を屈折させて別のものに見せるか。確か、ラティアスとラティオスはそんな事も出来たっけな。
実際に見るのは初めてだが、見事なもんじゃないか。見た目だけは完全に人間だ。

「わ!? 心紅さんも人になれるんですか!?」
「ちゃうちゃう。見た目だけを相手に見えてる光を弄って変えてるだけっしょ?」
「その感じだと、ライトさんはご存知だったみたいですね。……ん? も?」
「あ……き、気にしないで下さい! アル様と同じ事が出来るのかと思って驚いただけですから!」

 上手い返しだな。そりゃ、自分もそうだから驚いたのは仕方ないだろうが、気を付けないとギランもすぐに尻尾が出ちまうな……。

「……ライト殿、気になっていたのだがギラン殿は……」
「ギランはギランだ。それ以上でも以下でもない。あいつはあの姿で今ここに居る。それでいいだろ?」
「む……それも、そうかもしれませんな」
「そういうこったよ」

 ま、気付いちまう奴はそろそろ気付き始めるだろうな。そろそろ俺もフォロー入れる準備するか……。
それはそれとして、どうやら出掛けるメンバーはこの四匹で決まりみたいだな。そんなら、ちょっくら行くとするか。

「そういう事なら、そろそろ行こうぜ。心紅ちゃん、買うもんは把握してんのかい?」
「あ、そうでした」
「大丈夫、はいこれでよろしく!」

 っとぉ、知子さんがもう用意してたか。これで出掛ける準備は終わりだな。
知子さんだけ残しちまうのはちっと悪い気もするが、そんなにしないで帰ってくればいいだろ。よし、行くか。
揃って玄関を出ると、散歩日和の良い天気だ。あ、でも確か、夜から崩れるんだったな……明日はどうするかね?
……ん?

「どうかしましたか、ライトさん」
「いや……今、どっからか見られたように感じたんだがな」
「え、私達をですか?」
「あぁ。旦那、そっちはどうだい?」
「いや、我は何も。……多少、警戒を切らさずに行った方がいいやもしれんな」

 同意だ。昨日の夜の事もあるし、嫌な感じだぜ……。
とりあえず心紅ちゃんの先導で買い物に行く事にした。歩く姿も再現出来てるってなぁ結構凄いな心紅ちゃん。
で、何故かギランは蒼刃の背に乗せてもらってる。乗ってみたいって言ったらすんなり乗せてくれたんだな、これが。
俺も誰かを乗せれるが、こうやって見るとやっぱりこのサイズが誰かを乗せた方が絵になるな。俺だとこんなのんびり乗せてやるってなぁ難しいからよ。
んで、行き先はスーパーとかじゃなくて商店街みたいだ。ま、確かにこっちの方が人と接触しちまうって心配は無いか。
しばらくとことこ歩いてると、商店街らしき通りが見えてきた。人の入り具合はぼちぼちってところかね。

「心紅さん、まずは何から買うんですか?」
「そうだね……お野菜とかから買っちゃおうか」

 普通に喋れる奴が二人になると色々楽だねぇ。昨日は結構色々ギリギリだったもんなぁ。
知子さんから渡された手提げ鞄からメモを取り出して、買う野菜をチェックしてる。まぁ、服着てるようには見えるが、実際は何も身に付けてないんだからこういう鞄が必要だわな。
買い物してる間は周りの様子でも眺めてるか。それ以外にする事なんかねぇし。
でも、こうして見てると誘拐事件なんて起きてるようには見えねぇな。平和そうな良いところなんだがなぁ。

「ん? きゃっ!?」
「あ、心紅さん!?」
「ん?」

 なんだ? 心紅が倒れ込んでる。これは?
あー……どうやらしょうもない奴が居たみたいだな。引っ手繰りか、しょうも無さ過ぎて見落としてたみたいだな。
相手は自転車か。んなので成功してると思ってたら大間違いだぞ、っと。
地面を思い切り蹴り、一気に引っ手繰り犯との距離を詰める。さて、どうしてくれようか。
野郎の腹の辺りに前足を差し込んで、そのまま後ろに押す。瞬間的に俺が寄ったんだ、気付く暇もねぇだろ。

「!? うわっ!?」
「下らねぇ事した報いだ。痛ぇのは我慢しろよ」

 そっから自転車から引っペがして、背中から地面に叩きつけてやった。自転車の方は少し走って……倒れた。

「げはっ……なっ……」
「ライトさん! 捕まえたんですね!」

 いや、返事出来んからな? まったく……やれやれだ。
これだけ人が多いところでやって、逃げられなかったらどうなるかなんて分かりきった事だろうによ。馬鹿な奴。

「くっ、降りろ! 邪魔だ!」
「ほう……それだけ派手に落とされてまだそのような暴言を吐く元気があったか」

 すっと蒼刃の聖なる剣とかいう技が、俺が捕まえた犯人の首元に降ろされる。動けば首がスパッと行っちまうな。

「ひぃっ!?」
「ライト殿、お見事です」
「どうも。……そんな普通に喋っちまって大丈夫なのか?」
「我は特に気にしませんので。ギラン殿が警察を呼んだようなので、時期にここに来ると思いますよ」

 さいですか。まったく、ただの買い物をこんな風に濁してくるとはな。迷惑極まりないぜ。
手提げ鞄は無事みたいだな。どれ、心紅に持ってってやるか。

「よっと、大丈夫かい?」
「は、はい……ライトさん、凄く速いんですね」
「ま、あれくらいならな。それよりすまんな、やられる前に気付いてやれなくて」

 うーん、いつもならああいうのの気配は分かるんだがな? 人混みだったってのもあるが、考えてみるとちょっとおかしいな?

「むっ!?」
「ん? 蒼刃?」

 蒼刃の声を聞いて振り返ってみると、なんか黒いコートを来た妙な奴が俺が倒した引っ手繰り犯を抱えてた。なんだ、こいつは?
出で立ちもおかしいが、また俺が気配を探れなかった。……おかしい、何かがおかしい。
そういや引っ手繰り犯も黒い帽子とTシャツ着てるな。……まさか、な。

「貴様……何者だ」
「……」

 無言、か。黒いマスクまで被ってるし、どんな顔してるかも分からんな。
……! ボール? いや、それよりもあいつの右手にチラッと見えたあれは……不味い!
奴のチャージが終わる前に、間に合うか!?

「我を捕らえるつもりか? 無駄だ、そのような物に当たりはせん!」
「蒼刃、退け!」
「!?」

 奴が蒼刃に向けてボールを投げたと同時に、俺の電磁ショットがそれを捉えた。ふぅ、もうちょい遅かったらヤバかったぜ。

「な、ライト殿!?」
「そいつの右手の機械はスナッチシステム! ボールの捕獲能力と捕獲範囲を広げる違法パーツだ!」
「……!?」
「へっ、どうやらその存在を知ってる奴が居て驚いてるようだな。てめぇ、マジで何もんだ! なんでそんなもん持ってやがる! 答えろ!」
「……」

 身を引いたな、逃げる気か? だが逃がさん。んな物騒な代物を持ってる奴を逃がしたりするかよ。
ん、またボールを出しやがった。今度のはもうポケモンが入ってるみたいだな。
出したのは……ケーシィ? あ、やべっ!

「ケーシィ、テレポート」
「させっかよ!」

 いや、このタイミングじゃ奴のテレポートが働くのが先だな。だったら!
狙いを奴から、奴の抱えてる引っ手繰り犯に切り替えた。そして……その頭に被ってるもんを頂くぜ!

「!? ……ちっ」
「……逃がしたが、俺の一歩リードってところだな」

 頭引っぱたいて帽子だけは奪ってやった。……やっぱこの材質、俺も知らん布で出来てるみたいだな。

「えっ? えっ? 消え、た? な、何が起こってるんですか?」
「……さぁて、な。が、俺達は……厄介なもんを相手にしちまったのかもな」

 掬い上げた帽子を前足でくるくる回した後、とりあえず頭に乗せておく。ここ以外だと、どうやっても邪魔になるからな。

「み、皆大丈夫ですか!? あれは、一体!?」
「ライト殿、何か知っているのですか?」
「あぁ、奴が付けてた機械についてはな。詳しくは、後で話す」

 どうやら通報されて警察も来たみたいだ。こりゃあ、喋れない振りなんかしてる場合じゃないかもしれんな。

 事情を警察に話して、ついでにここで起こった事の全容を話したところだ。俺が喋った事に驚いてたが、話は聞いてるようだ。

「これが、引っ手繰り犯が被ってた帽子なんだね?」
「あぁ、間違い無い。その帽子、詳しく調べてみてくれ。恐らく、何かしらの特殊な材質で出来てる筈だ」
「黒コートの不審者が、その引っ手繰り犯を連れて逃げた、でいいのかな?」
「その通りだ。なんの気配も感じ取れなかったとは、我の勘もそこまで落ちたか……」

 あの時、俺が心紅に鞄を渡してる間に蒼刃は蹴りを喰らいそうになって剣を放しちまったらしい。俺もあの黒コートが近付いてた気配を感じなかった……。
だとすると、その理由が必ずある筈だ。それの種明かしが、恐らくその帽子で分かると思う。

「し、しかしポケモンが喋るとは……」
「隠しておければそうしたかったが、そうも言ってられないだろ」
「あ、あぁ……とにかく、情報提供に感謝するよ。急いでこの帽子についても鑑識に回さないと……」

 ポケモンの話を信じるたぁ、なかなか柔軟な考え方の出来る警察じゃないか。こっちの世界じゃ喋れないのが普通なのにな。
……スナッチシステムについても話した方がいいかとも思ったが、そこまで話しちまうと今度は俺も疑われかねないからな、そこは隠させてもらった。
警察はこれから、他の目撃者達に話を聞くようだ。商店街で人の目には大分触れたし、俺達の証言の正確性くらいは実証出来るだろ。

「……で、ライト殿、スナッチシステムとはなんなのですか?」
「あぁ、俺が知ってるもんと同一ならって前提になるが、いいか?」
「もちろん。我を止めてまでボールを破壊するという事は、それだけの危険があったという事では?」

 スナッチシステム……元々は確か、かなり遠くの地方で開発されたっていう違法パーツだ。それが、俺が居た研究所で調べられてたんだ。貴重なサンプルとかで、実物もあった。
基本的に腕に身に付けて、掌の機械からボールに特殊なエネルギーを送りボールの性能を著しく向上させられるって代物らしい。

「著しく上昇? どういう事ですか?」
「基本、ボールは触れたポケモンを中に収納するってのは知ってるな?」
「えぇ、我も零次の使うボールに入れられている者ですから」
「その触れるってのを、投げたら対象のポケモンを吸い込むくらいに強化すんだよ。おまけに、吸い込まれた後の捕獲力も通常の状態より格段に上がってる。逃げ出すのも困難だろうさ」
「なるほど……だから奴が投げたとほぼ同時に撃ち落としたのですね」
「あぁ。だが……スナッチシステムのヤバイところは、ボールの強化だけじゃない」
「それは?」
「……相手トレーナーの手持ちポケモンを盗めちまうんだよ。相手の妨害を無視してな」
「! それは、まさか!?」
「あぁ、多分そういう事なんだと思うぜ」

 この町で起こってる誘拐事件、それにはもしかしたら、こいつが関わってんのかもしれねぇ。
つまり、あいつはあの誘拐事件にも関わってた可能性があるってこった。ちっ、やっぱり逃がしたのは失敗だったな……。

「とにかく、あのスナッチシステムはヤバイ。俺達ポケモンじゃ、ボールが展開される前に破壊しねぇとまず逃げられねぇ」
「なんと……そのような物があるなどと言う話、聞いた事もありませんぞ」
「寧ろ知ってる方がおかしいぜ。見た目には普通のボールとは変わらないし、機械自体を知らなけりゃ、ただの変わったアクセサリーだと思うくらいのもんだ」
「むぅ……」

 とにかく、あんな代物が出て来た以上、こりゃあただの誘拐なんかじゃないぞ。なんとかしないと、まだまだ被害は出るばかりだ。
それに、あのケーシィから一瞬感じた嫌悪感……。まさかと思うが、俺の知りうる事件で類似してるもんは二つ。あの研究所のデータベースの中にあったもんだけだ。
スナッチシステム、それによって奪われたポケモンがどうなったか……それがこの町でも起きようとしてんなら、何があっても止めないとならん。でないと、取り返しの付かない事になる。
生み出しちゃならねぇ。……ダークポケモンは。

「ライトさーん、蒼刃さーん。警察の方とのお話は終わりましたか?」
「あぁ、こっちはな。そっちはどうだい?」
「はい、こっちも必要な物は揃えました。それで、これからどうします?」
「ここは一旦帰ろう。今日出会った奴等の事、もうちっと整理して考えた後調べないとならねぇ」
「え、調べるんですか?」
「あぁ。この事件、スナッチシステムの事を知ってる俺は関わらないとならねぇみてぇだ」

 やれやれ……犬も歩けば棒に当たるたぁ言うが、とんでもない棒に当たっちまったな、畜生めぇ……。

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~二日目 夕~

 事情の説明やら情報の整理やらをやってたら結構時間を食っちまったな。まぁ、その途中で箕之介さんが起きてきたから、ついでに全員に分かり易いであろうように説明してたって感じだ。

「スナッチシステムか……そんな名前をここで聞くとは思わなかったよ」
「箕之介さん、どういう物かってとこまでは知ってますか?」
「残念ながら、名前だけだよ。ただ、それを使って起こされた事件についてはあらましを知っているね」
「他者のポケモンを奪い集め、一体何が行われていたんですか?」
「……ポケモンが負の感情を溜め込むとどうなるか、知ってるかい?」

 箕之介さん以外の面々は分からないって顔してるな。そりゃ、知らなくても無理はない。
ポケモンが負の感情を抱え溜め込み、心を閉ざした状態になると、自発的な行動を殆ど取らなくなる。代わりに、他者からの命令を機械的に聞くようになる。
そして……負の感情から生まれた力を行使出来るようになる。その攻撃は相手の身体だけじゃなく、心にもダメージを与える危険な代物だ。そうなったらまず並のポケモンじゃ歯が立たないって言っていい。

「そういった、心の闇に堕ちたポケモンの事をダークポケモンっつうんだ」
「でも、このダークポケモンは普通の状態のポケモンではまずなる事は無いんだ。そう、誰かに無理やり負の感情を押し込まれるような事が無ければね」

 ダークポケモンは、言っちまえば生きた戦闘マシンだ。どんな命令にも逆らう事は無いし、たとえ命の危険にあっても戦闘命令が続いていれば戦う。戦りあう相手としちゃ最悪の部類に入るだろう。

「そのダークポケモンを作り出す為に使われたのが、ライト君の言ったスナッチシステム。あれによってポケモンを集めて、ダークポケモンを大量に生み出し世界を支配しようと考えた組織が過去に一つだけあったんだ」
「もう潰された筈だが、その技術だけが生きてて、どこぞの良からぬ事を考えてる奴に流れたって話は考えられなくもない。スナッチシステム、そして……恐らくダークポケモンだろうって奴を実際見ちまった以上、のんびりはしてられねぇって話さ」

 皆、真剣に考えてくれてるみたいだな。だが、この問題にこの面々を巻き込む訳には……。

「ライトさん、僕達には、何が出来ますか!?」
「え、ギラン? いや、お前達は……」
「確かに私達は何も知らなかった。でも、真実の一部を知ってしまった以上、それを見過ごす事は出来ないね」
「危険なのは今の話で理解出来たつもりだ。だが、そんな危険がこの町に潜んでいるのであれば、黙っている事は出来んな」
「ポケモンが危険だって言うなら、人の戦力も必要じゃないかしら?」
「……下手をすると、ヤバイ戦いに巻き込まれるのかもしれないんだぞ? そんな事に、あんた等を巻き込める訳無いだろ」
「だったら、ライトさんだってそうじゃないですか? そもそもライトさんは違う世界から来てしまったポケモンです。そのライトさんが戦おうとしてるのに、お手伝いもしないなんて私は嫌です!」

 ……ふぅ、慣れないマジな顔までして脅したのに、皆引かないって顔しやがって……。
ならしゃあねぇ。全員、面倒見るしかねぇやな。

「分かった、降参だ。あの黒コート達の足取りを掴む為に、協力してくれ」
「当然よ! とは言ったものの、手がかりには乏しいっていうのがネックよねぇ」
「そうだね……それに、ライト君と蒼刃君が気配を捉えられなかったというのも気になるね」
「そいつについては、奴等の被ってた帽子を頂いたんだ。黒コートが舌打ちしてた辺り、あれが臭いと俺は睨んでる」
「でもあれ、警察に渡しちゃいましたよね?」
「それしか方法が無かったからな……なんとかして、鑑識結果だけでも知れればいいんだが……」
「あ、それならなんとかなるかもしれないわよ。持っていったのは、警察なのよね?」

 ん? 知子さんには何か思うところがあるのか?

「ちょっと警察に知り合い居るから、多分聞こうと思えば聞けるわよ。他に何か聞きたい事ってある?」
「それじゃあ……ここ最近、この町で起こってる誘拐以外の事件について、浚えるだけでいいんで調べて下さい」
「オッケー、明日早速聞きに行ってみるわ」
「スナッチシステムか……もしかしたら、私の知人にその行方を知っている者が居るかもしれないから、私はそっち方面から調べてみるよ」
「本当ですか? そんなら、そっちは頼みます」
「あぁ。伊達に研究者やってる訳じゃないからね、使えるパイプは使っていかないと」

 なんとまぁ、優秀な人材が揃ってること。仮になんの情報も出てこなかったとしても、別段責めるつもりも無いしな。

「我々はどうするんだ? 戦ならば、我が先陣を切ろう」
「それは、相手の実態が分かってからだな。相手がスナッチシステムを使ってるって分かった以上、幾らトレーナーと一緒に居てもポケモンは外を出歩くのは得策じゃない。しばらくはここに詰めててもらう事になるだろ」
「ぬ、むぅ……何も出来ないとは……」
「ぼ、僕はもちろんライトさんのお手伝いをやりますよ! と言うか、やらせて下さい!」
「……そうだな、いざって時に携帯を使って連絡も取れる。頼りにさせてもらうぜ」
「はい! 頑張ります!」
「うぅ、こういう時、私って出来る事が無いです……」
「んな事ねぇさ。心紅ちゃんはこの家の留守を頼む。皆が帰ってくるところなんだ、何かあったら蒼刃と一緒に頼むぜ」

 ……俺の思い過ごしならいい。だが、昨日の夜の覗き野郎がもし奴等の仲間だったら……ここも狙われるかもしれねぇ。
スナッチシステムは確かにヤバイが、それ以外なら蒼刃で対処出来る筈だ。それに心紅ちゃんの力が加われば、ここの防衛に気を割く心配はかなり減ると思っていいだろう。

「正直、この頭数でどんだけ出来るかは分からんが……俺はやれるだけやらせてもらう。スナッチシステム、それにダークポケモンの被害を広げる訳にはいかねぇ」
「知った者はその責任を果たす義務がある。出来る限りの事をしよう、皆」
「承知!」
「ど、どうしよう、まだなんにも始まってないのに私、ドキドキしてきました……」
「ぼ、僕もです……」
「ギラン君も心紅ちゃんも心配しなーいの。危ない事はさせないから。でしょ? ライト君」
「あぁ、俺達は奴等の尻尾を掴んで、それを警察に伝えるだけでもいい。正直、戦力だけなら相手の方が上なのは目に見えてる、闇雲に俺達だけで挑んでもやられるのがオチだろう」

 俺単騎ならなんとかなるだろうが、皆を守りながらじゃまず無理だ。そうなった場合は、皆を騙してでも俺だけで行く。異邦者である俺なら、どうなっても誰も傷付ける事はねぇからな。
まぁ、帰れなくなったら、またパルキアさんによろしく言ってもらうさ。それが俺の道だったって事でな。

「それじゃ、今日はしっかり食べて明日に備えましょ!」
「……ただいまー」
「ん、零次か……いや、足音が多いな? 誰だ?」
「おっ邪魔っしまーす!」

 なんか妙にテンションの高い声が聞こえたな? 本当に誰だ?
零次と一緒に居間に入ってきたのは、着てる制服からして同級生とかか? ……いや、なんだこいつ?

「おぉ、本当にサンダースが居るよ! すっげぇ~」
「お前な、来て早々に失礼だろ」
「いいじゃんいいじゃん? あ、おじさんおばさんお邪魔してまーす」
「なんだ司郎君だったのね。今日はどうしたの?」
「零次がアルスさんから預かったってポケモンと、ギラン君って子を見に来たんすよ~」
「……俺なんかは見ても面白くもなんともないと思うがね?」
「うぉ!? 本当に喋った!」

 うん、こういう反応されるよなやっぱり。俺としてはこの司郎って奴の方が面白そうだが。

「で? あんたはなんなんだ?」
「俺? 零次の同級生で黒子司郎ってんだ! よろしくぅ!」
「オーケー、名前は分かった。だからもう一度聞くぞ? あんたは、なんなんだ?」

 おぉ、今の俺の一言で俺以外の全員が固まった。だって、なんか妙なんだもんよ、こいつ。
気配がぼやけてるっつーか、霧を纏ってるみたいに感じるんよ。で、その霧が人の姿って感じかね?

「ライトさん、どうしたんですか? あ、僕がギランです。よろしくお願いします、司郎さん」
「お、おぅ、よろしく。で、えーっと……」
「あー、ライト、ちょっといいか?」

 おっと、零次に呼ばれた。さて、何かいね?

「……なんで司郎の事、分かった?」
「気配、かね? 耳打ちするってこたぁやっぱりあいつ、人じゃねぇな?」
「あぁ、ゾロアークっていうポケモンなんだ。その事を多分母さん達は知らないから、秘密で頼む」
「ほーん……別にあの二人に隠す必要は無いと思うが? そういうならそうすっかな」

 なるほど、正体はポケモンか。なんらかの力を纏う事で、完全に人間の姿になってるようだな……ははっ、こいつはすげぇや。
そんなポケモンが居るってなぁ俺も知らなかったな。へぇ、面白いもんだ。

「いや、悪いな司郎さんだっけ? どうやら俺の気のせいだったみたいだわ。気にせんでくれ」
「お、おぅ」
「……ライトさんの勘違いって、今まで殆どの場合勘違いじゃなかったような……」
「細けぇ事は気にしなさんなって。で、俺らを見に来たんだっけ? ご感想は?」
「……参りましたぁ!」

 うぉ、いきなり何故土下座!?

「零次から癖者だなんて聞いてたからどんなもんかと思ってたけど、まさかこれほどだったとは……!」
「だから言ったろ? お前じゃまず勝てないって」
「あー、まぁ気にしなさんな。俺は、他の奴よりちょこっとばかし勘が働くだけだからよ」
「ライトさんの勘って、もうほぼセンサーの一種ですよね?」
「失礼な事言うなギラン? 俺はロボでもなんでもないぞ?」
「くぅっ、些細な返しにも強者の余裕を感じる! 悔しい、でも感じちゃう!」

 はいはいビクンビクンと。こういうムードメイカーも嫌いではないぜ。
どうやら飯はこの司郎の分も用意されたらしい。ってかなんか常に多めに作られてんのね。
ま、とりあえず晩飯を食うとするか。あの事を話すかは、知子さん達に任せよう。……正直、俺はこれ以上巻き込む事はしたくない。
落ち着いてこれからのプランを考える必要があるな。まず、相手の正体と気配を消したカラクリは知子さん、箕之介さんの情報を待つ。
この家の警護のは心紅と蒼刃……いや、こればかりは零次が誰を連れて行くのかにも左右されるな。……拳斗と海歌には事情を説明すべきか?
いや、拳斗に話せば十中八九は零次にも伝わる事になる。零次に事情を話さないままにするのなら、拳斗に話すのも得策とは言えんな。
その辺は保留で、俺とギランは外で奴等を索敵する。危険ではあるが、ギランも元の姿はギラティナ、その能力は並じゃあない。俺についてこれると仮定させてもらう。
今日の様子からして、あの黒コートは監視者だ。そして、監視対象はあの引っ手繰り犯。そこから推察するとどういう事が分かるか……。
簡単だ、奴らは一枚岩じゃない。特殊な気配を遮断する装備を使って悪さをする事自体は容認してるようだが、それが元で警察に捕縛、調査される事を避ける為にあの黒コートが出端って来たと推測出来る。
じゃないと、あの黒コートが出て来たタイミングはおかしくなる。目立たぬように犯罪をさせないつもりなら、心紅ちゃんを狙う以前に奴を止めてる筈だ。
恐らく、その悪さで稼いだ金が奴等の資金源の一部なんだろう。だから容認されてるんだ。
つまり、知子さんに調べてもらうのはそういう理由だ。他の犯罪も増えているのなら、俺の予想は確定している。

『……? ライト、どうかしたの?』
「ん? あぁいや、大した事じゃないさ。ちっと、考え事をな」

 どうやら隣に居た海歌には俺が考え込んでるのがバレたらしい。なんか俺、表情隠すの下手になったかね? まぁいいか。
とにかく言いだしっぺは俺だ。そして、この問題に首を突っ込む事を決めたのも。だから、俺は『最良』と『安全』を導かないとならねぇ、思考を止めてる暇はねぇ。
俺に協力しようとしてる全員を、巻き込んじまったのなら絶対に守る。誰も、欠けさせやしない。
途切れたが、俺達がやるのは引っ手繰り犯みたいな奴らが居るって仮定から決まった。まずは、奴等を末端を捕らえる。
それは奴等にとっての情報漏洩に他ならない。帽子一つで舌打ちだ、人一人とあっちゃあ黙ってないだろ。
そこが俺の狙いだ。そうなれば、必ずあの黒コートみたいな奴が出張ってくる。そいつなら、かなり確実な情報を手に入れられるだろう。
問題はそいつに俺が勝てるか、だな。普通のポケモンならまずやられる気は無いが、相手は情報として知ってるだけのダークポケモンに恐らくなるだろう。実際のスペックが分からん相手に、俺は油断をしてやるつもりは無い。

『……ここまで顔近付けても気付かないんだから、やっぱり変だね』
「ん? ぬぉう!?」

 真横に顔あったー!? 試す為とは言えなんばしよっとですか!?

『もう何かあったって言ってるようなものだね。すぐに話さなかったって事は、多分零次や司郎に聞かれたくなかったって事かな?』
「……良い勘してるぜ、海歌ちゃんも」
『呼び捨てでいいよ。ちゃんなんて付けられると擽ったいから』

 さいですか。そんならそうさせてもらうとするか。
ここまで疑われてる以上、海歌には話しておくべきだろうな。ま、飯の後でいいだろ。

「あ、そうそう零次。明日からこの家、臨戦モード入るから」
「ぶっ!?」
『あ、ライトが噴いた』

 と、唐突過ぎる! 唐突過ぎるぞ知子さん! しかも臨戦モードってなんぞ!?

「は? なんだよそれ?」
「最近の誘拐犯、それとどうやらライト君達が遭遇したっぽいのよ。んで、その相手が使ってた機械をライト君が知ってたって訳」
「いやまぁ事実ですけど、話の振り方が唐突ですね」
「隠してたってしょうがないでしょ? あ、でも零次、あんたはきっちり学校行きなさいね」
「……あのー、俺も聞いちゃったんですけど!? 何なに!? どういう事!?」

 言いたくなかったんだけどなぁ……しゃあねぇ、横から海歌も見てきてる事だし、あった事は話そう。
だが、零次達にプランを組むつもりはない。この計画に、なるべく巻き込みたくないんだ。

「スナッチシステム、か……」
「ポケモン側じゃ、まず俺みたいに知識が無いと防ぎようが無いってのが現状だな。とりあえずここに居るポケモンのメンバーは覚えただろうが、相殺するにゃタイミングがシビアなんよ」
「それって、相手が投げるのを邪魔すりゃいいんじゃねぇの?」
「どっこい、もしこっちの技が相手に避けられたらアウトだ。持ってるボールをこっちに投げられてハイ捕獲ってな」
「その点、投げられたボールになら防ぎようが無いから、持ってるボールを駄目にするより確実って事か」
「が、タイミングが遅れればボールが展開して結局捕まっちまう。厄介なもんだよ、マジで」

 ふむ、ボールホルダーである零次にこの話をしたのは間違いじゃなかったかもな。これで、もし町中で奴等に襲われてもある程度の対処は出来るだろ。

「……本当に、予想の斜め上を行く話だな……」
「だが、ライト殿が話した事は事実だ。現に、ライト殿が居なければ我も奴等に捕らえられていただろう」
「あ、蒼刃でも……? ちょ、おばさん達マジでそんな奴等とやり合う気なんスか!?」
「それに、ダークポケモンだっけ? 本当にそんなの居るのか?」
「俺もそっちについてはまだ確定した事は言えん。奴のケーシィと戦った訳じゃないからな」

 半信半疑ってところみたいだな。警戒だけしてくれるようになってくれりゃいいんだから、これで十分だ。

「とにかく、少しでも気に留めておいてくれればいい。それから、それらしい奴が居ても戦おうとしちゃいけないぜ?」
「スナッチシステムって奴でポケモンを盗まれるからか?」
「そうだ。幾らスナッチシステムでも、ボールの中に居るポケモンまで盗むこたぁ無理だ。少なくとも、俺が知ってるもんならな」
「という訳。零次と司郎君は自分達に何か起こらないように気を付けてくれてればいいわ」
「り、了解っす」
「……母さんや親父達だけでどうにか出来るものなのか?」
「ま、出来る限りをやるってところまでね。でも、ライト君がいれば、かなり良い線行くと思ってるわよ?」
「あまり過度には信じんで下さいよ? 正直、まだ全容の見えてない相手をするのは苦手なんで」

 とりあえず飯は食い終わったな。あまり思案ばっかりしててもしょうがねぇ、こっからはちっと休むとするか。

 テレビで天気予報を確認したが、やっぱり明日は雨みたいだな。降り出すのは、今晩からか。
だとすれば、明日はまずは知子さんと箕之介さんの情報を待つのも手か……雨の中じゃ気配を探るのもちと面倒になるしな。

『まーた考え事してるでしょ』
「うぉ!? だ、だから顔を近づけんでくれ海歌」

 何を気に入ったんだか、俺の驚く様子を見て笑ってらっしゃいますよこのラプラスさんは。……なんか、どっかのグレイシアを彷彿とさせるのは何故だろうか?

『それにしても、大分事件の事気にしてるみたいだね? そんなに危険なの? スナッチシステムって』
「……俺が気にしてるのは、寧ろダークポケモンの方さ」

 ダークポケモン……心を閉ざし戦闘マシンと化したポケモン達。それを、俺は見た事がある。
ダークポケモン同士を戦わせ、その戦闘データを取るっていう研究もあそこではやられてた。結果は……知らない方がいいだろう。
その戦闘結果もさることながら、最悪なのはその製造工程だ。研究所のデータを閲覧させられて、吐き気を催したのは唯一そのデータだけだった。
あらゆる苦痛のデータ、悪質な人間がポケモンに行った凶事、ポケモンが行った犯罪……膨大な量の負のデータをボールに閉じ込めたポケモンに強制的に植え付け、狂わせ、そして最終的には何も感じなくさせる。心を壊す事によって完全に心を閉ざすそんなやり方、到底許せる訳がねぇ。
そんなポケモンを……そんなポケモンが増えていくのを俺は、見たくないんだ。異世界だから関係無いなんて言って、見て見ぬ振りなんか出来ないね。

『ふぅん……ライトは優しいね。他の誰かを助ける為に大変な戦いをするなんて、本当はやりたいなんて思わないと思うけどな』
「そうだな、確かに。でもな、俺に生き方を教えてくれた奴は、そういう事に命を掛けれる奴だった。そして、俺はそいつの生き方をカッコイイと思った。言っちまえば、ただの真似みたいなもんだな」
『生き方を、教わったって?』
「似たようなもんだったんだよ。俺も……ダークポケモンって奴等とな」

 心を閉ざしたダークポケモンと、心の拠り所を失った俺……昔の俺と重なって見てるのかもしれないな。
俺は、師匠に救われた。だからこそこうして今の俺が居る。そんな救われた俺だからこそ、今度は誰かを救いたいのかもしれないな。

『そっか。不思議なポケモンだなと思ったけど、結構普通なところもあるんだね』
「言ったろ? 俺はしがないサンダースだって」
『ふふっ、しがないサンダースはスナッチシステムやダークポケモンの事なんて知らないと思うけどな』
「ははっ、違ぇねぇや」

 なんか、海歌と話すのはあいつ等と話してるみたいでちっと落ち着くな。フロストとレンを足したような感じかね。
うん、ちっと落ち着いた。海歌には感謝しねぇとならんな、もちっと地に足付けていかんと。
俺の采配によって皆が動く現状で、俺が浮き足立ってたらおかしなミスが出ちまうもんだ。焦りは禁物だ。

「ライトさん……?」
「ん? ギランか。どうかしたか?」
「あ、い、いえ! その……あの人達と会ってから様子が妙だったんで、ちょっと気になっちゃって」
「そっか、済まなかったな。もう大丈夫だ」
「……良かった、本当に大丈夫みたいですね。って、ライトさんなら私が心配しなくても平気ですよね」
「いや、んな事ねぇよ。サンキューな、ギラン」

 知らん内にギランにも心配掛けちまってたようだな。いかんいかん、相当浮き足立ってたようだ。

「やれやれ、相棒に心配掛けちまうとは俺もまだまだだな」
「相棒、ですか?」
「あぁ、そうだろ? 明日からも、頼りにさせてもらうぜ」
「は、はい! 私、頑張ります!」

 相棒、か。なーんか本当に、俺ってば師匠に似てきちまったかな。見習ってる対象があれしか居ないんだからしゃあねぇか。
ぺたんと座ってこっちを見て笑ってる姿は、本当に子供だな。出来れば、無理をさせないで済めばいいがな……。

「あ、そうだ。相手がダークポケモンである可能性があるなら……」
「ん? なんだギラン、ダークポケモンの事知ってたのか」
『携帯電話なんか出してどうするの?』
「アル様に連絡するんです。ちょっと、ある物を用意して貰う為に」

 ある物? なんだ一体?
ギランは携帯を掛けだしたし、しばし見守ってるとするか。

『……ねぇ、ライト』
「ん、どした海歌?」
『ギランって……私の言ってる事分かってるよね?』
「あー……アルスさんと同じ存在だって思ってくれや」
『なるほどね。何かは分からないけど、そうしておくよ』

 っと、通話は終わったみたいだな。さて、ギランの秘策とはなんじゃいな?

「ふぅ、これで奥の手の用意はいいかな」
「奥の手? どういう事だ?」
「ライトさん、ダークポケモンを元に戻す方法は知ってますか?」
「あぁ、確か……心を閉ざしたポケモンを、ダーク化してないポケモン達と触れ合わせて治療するリライブシステムって奴があった筈だ」
「あ、そっちでご存知なんですね。僕がアル様に頼んだのはそれの元になった方、他者を清める力を持つ場所や物によって闇に染まった心を浄化するリライブの方です」

 なんと、そんな方法があったとは。あの研究所でも知られてなかったって事は、多分人的要素によって生まれたもんじゃなかったから除外されたデータなんだろうな。

「基本的にそういった物は効果が少し弱めで、十分に他者と触れ合った者しか治せないんですけど、アル様ならより強い清めの力を持つ物を作れるんです」
「そいつは一体……」
「命の宝珠って言って、アル様が星の命の息吹を集める事で作れる、言わば星の分身みたいなものですね」
『ほ、星の分身? なんだかとんでもなく凄そうな物だけど……』
「ただ、それを扱えるのはアル様に使用を認められた者だけって事になります。今回は、僕が専属で使えるようにして頂くようお願いしました」

 なるほどねぇ……そんな、恐らく高密度エネルギーの集合体をほいほい誰にでも与えられる訳ゃ無いわな。悪用されたらとんでもない事になっちまう。

「生成に二日くらい掛かるけど、なるべく早く作って持っていくって言ってくれたんで、それでダークポケモンの治療と抑止は出来ると思います」
「ははっ、転ばぬ先の杖にしても磐石過ぎるくらいだぜ。俺からも礼を言わんとならないな」
『……逆に言うと、そんな物が必要になるくらいダークポケモンって言うのは危険だって事?』
「……ダークポケモンの負の力に当てられた者は、その心すら闇に蝕まれます。それがどういう事かは、ライトさんがダークポケモンの作り方を説明してくれたから分かりますよね?」
「! まさか、ダーク化は……」
『感染するって事!?』
「……もし本当にダークポケモンが作られているとしたら、それはもうこの町だけの問題じゃありません。報告したら、僕も完全にこちらの問題を解決する為に動くよう言われました」

 闇は相手にもとり憑く、か……そいつは俺の斜め上の事実だ。だが、負の力の技の効果を知ってるんだから予想は立てられてた筈だな。これは俺の想定漏れだ。
下手に被弾し続ければ、仲間が敵になるって事か……やれやれ、事態ってのは嫌な方嫌な方に進むもんだな、まったくよぉ。
なら、奴等の尻尾を掴むのは早いに越した事は無い。じゃないと、収集付かなくなるぞこりゃ。

『……今ので、私もようやくこれがどれだけ危険なのか分かったよ。止めなきゃ、絶対に』
「はい、必ず」
「やれやれ、知った責任って奴は重いね、まったく」
『頼りにしてるよ、ギランもライトも』
「やれるだけは全力でやるさ。な?」
「もちろんです!」
「おーい海歌、風呂入るだろ? 行くぞー」
『あぁ、分かった。……今の事、零次には黙っておいた方がいいよね?』

 俺とギランは頷いた。巻き込まない為にも、決着は俺達で着ける。零次達には……知子さんや箕之介さんにも、情報収集以上の無理はさせるつもりは無い。
海歌はその辺を弁えた協力者になってくれそうだ。何かあったら、皆を止めてくれるだろう。
俺の力が何処まで通じるか……少々派手な戦いになりそうだぜ。

「……すいません、ライトさん。異世界からの来客を、こんな問題に巻き込んじゃって……」
「気にすんな。偶然行った場所でトラブルに巻き込まれるなんてなぁ俺の性分みたいなもんだ、今に始まった事じゃねぇ」
「でも……」
「それに、このタイミングで俺がここに居るってなぁ、なんかが俺をここに呼んだのかもしれねぇ。だったら、呼んだ主の願いを叶えてやらないとな」
「……? 呼んだって……一体何が?」
「はは、真に受けるなよ。俺が思っただけの戯言さ。ま、強いて言えば……」

 空間の歪曲とやらが世界中に出来てるもんなら、世界が望んだ来訪者……なんてな。
消滅なんて危険を孕んでる俺が、誰かに来る事を望まれる訳がねぇ。ありゃ、ただの事故だなやっぱり。

「強いて言えば、なんですか?」
「……悪ぃ、やっぱり思いつかねぇや。忘れてくれ」
「えー? 気になりますよぉ」
「だぁって俺も思いつかねぇんだもんしょうがねぇだろ? さて、海歌が終わったら俺らも風呂にするか」
「むー、分かりました。お背中流しますね」
「おう、頼むわ」

 明日からは忙しくなるんだ、今日はゆっくり休もう。……幸い、今日は妙な奴も居ないみたいだしな。

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~二日目 ???~

 役立たずは再洗脳の後スナッチ班に移動、展開範囲を拡大。
交戦したポケモンの情報を確認、コバルオンとサンダースと確定。不確定情報有り。
……何故あのサンダースがスナッチシステムの情報を知り得たのか、予測不能。
不審要素であるサンダースを最重要排除因子への認定を申請……。

「スナッチシステムを知り、人語を介するサンダース……何者だ?」

 申請を承認。対象を捕獲、不可能な場合はダーク化させ我が組織の兵にせよ。
全部隊へ。対象の発見に全力を注ぎ、見つけ次第指令を実行せよ。任務の実施も忘れる事無かれ。諸君らの健闘を祈る。

「今、我々の邪魔をする者が現れては困るのだよ。計画は、もうすぐ最終フェイズなのだからな……」

 もうすぐ……もうすぐ世界は生まれ変わる。全てが等しく、争いの無い世界へと……。

「我々はディヴァインガイダンス、世界に神の導きを説く者なのだ……邪魔をする者には、神に逆らう愚かさを教えてやろう……」

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~三日目 昼~

「……次、零次! 零~次~!」
「煩いな、聞いてるって」

 学校の二時限目終了の休憩時間に喧しい奴が声を掛けてきた。というか、朝からずっとこの調子だ。

「なぁなぁ、どうなってるんだよそっちは、やっぱりおばさんとか調べてんの!?」
「さぁな……親父も母さんも朝から出掛けたし、ライトやギラン君も、おまけに海歌まで心配するなとしか言わないんだから分かる訳無いだろ」

 結局俺は、また今日も普通に学校に居る。今日連れてきたのは蒼刃と心紅だ。
いつもと変わらずに朝飯を食って、いつもと変わらずに挨拶をして家を出た。なのに、気分はまったくいつも通りじゃない。
別に除け者にされてるとか、そう言った事で不貞腐れてる訳じゃない。なんで皆が俺を巻き込まないようにしてるかもなんとなく分かる。
俺は高校生で、学校へ行くのは義務だし、巷で騒がれてる事件を調べたり解決するような力なんて無い。いつも通り過ごすのが当たり前だ。
皆もそう思って、俺に何も知らせないし何かをしてくれとも言わなかったんだろう。それは分かる。分かるけど……。
俺は、そんなに無力なのか? 何も出来ないのか? 皆が何かを起こそうとしてるのに……力になれないのか?

「くぁー! 誘拐犯退治とかマジすげぇじゃん! 俺もなんか手伝いたいのになー!」
「……そんなに簡単な事じゃないから、皆必要な事しか聞かせてくれなかったんだろ? 手伝うとかそれ以前に、自分の身を守れって事で」
「むぬぅ……なんだよぅ、零次はそれで納得してんのかよぅ」
「……してたらこんな機嫌になってる訳無いだろ」

 何も出来ないのが、こんなに歯痒いと感じた事は無かった。いや、正確には自分がこんなに無力だと感じたくなかった。
結局俺は、何も変わってないのか? 兄貴を止められなかった、あの頃と。肝心なところで何も出来ないなんて……。

「なーに考え込んでるのよ、あんた」
「ん……雪花か」
「あ、いいんちょ! なーなー聞いてよ、今零次の家でさ……」

 司郎が話すのを止めるべきかとも思ったが、雪花もトレーナーだ。スナッチシステムの事なんかは知ってるべきかと思って止めなかった。
でも、この顔は信じてない感じだな。当然だ、そんな機械聞いた事も見た事も無い。俺だって昨日聞いて嘘だと思ったし。

「なんていうか……何処までが本当なの、それ?」
「知らねぇよ。少なくとも、うちの母さんと親父は信じて調べるってさ」
「叔母さん達が? うーん……」
「別に信じる信じないはお前の勝手だ。ただ、俺の家の居候はマジでそう思ってるみたいだったぞ」
「居候?」

 あぁ、雪花には話してなかったっけな、ライトとギラン君の事。
知識も、能力もポケモンのそれを超えてる。ライトは一体何者なんだ? 悪い奴じゃないのは確かだけど、謎が多過ぎるんだよ。

「蒼刃と互角以上って……そんなサンダース居るの? サンダースはスピードこそ一級だけど、他の能力はそこまで高くない筈よ?」
「知りたかったら見に来ればいいだろ? 向こうも別に気にしないだろうし」
「あ、じゃあ俺も行くー! どうなるのか気になるし!」
「はぁ……勝手にしてくれ」

 気楽なもんだな、まったく。ライトが言ってる事が本当なら、出歩くのは危険だって言うのに。いや、司郎は基本ポケモンの姿じゃないから安全なのか。
と、そろそろ時間だな。二人にそれを言うと、それぞれの席へ戻っていった。昼休みを挟むと言っても、後4時間もあるのか……面倒になってきたな。
外にはさぁさぁと静かに雨が降ってる。今日一日こんな感じだったかな。ん、先生が入ってきたか。
号令を掛けられて、授業が始まった。耳は傾けてるけど、なんとなく外を眺めたままでいる。
……ん? あの車は? 見た事の無い車が校舎の敷地内に入ってきたぞ?
!? な、なんだ!? 黒い服を身につけた集団が出てきた!? 一体なんだ、あれは!?

「先生、あの車はなんですか?」
「どうした葛木? ……? なんだあれは?」

 校内から先生方が出てきた。やっぱり、学校が呼んだ業者じゃないみたいだな。
……!? ポケモンを出して、先生方を襲った!? あ、後からトラックも入ってきた。それに乗せてるぞ!?

「な!?」
「これは……ヤバイぞ!」
「全員席に座って大人しくしているんだ! 決して教室から出るんじゃないぞ!」

 俺が先生を呼んだ時に窓を見に来た生徒が騒ぎ出した。どう考えても、これは異常事態だ。

「何!? 何が起こったん零次!?」
「分からん、ただ言えるのは……」
「言えるのは!?」
「何が起こっても、ここに逃げ場が無いって事だ」

 どうする!? 何をすればいい!?
……連絡……そうだ、警察へ!

「司郎! 携帯で警察に電話掛けろ! 学校に不審者が来たとか、理由はなんでもいい!」
「ら、ラジャっす!」

 あれが、もし昨日話に聞いた奴等なら……あいつを呼ぶべきだな。

「ち、ちょっと、何が起こってるのよ」
「分からんって言ってるだろ。だから……分かりそうな奴を呼ぶ!」

 頼むから、家に居てくれよ……ライト、ギラン君!

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「ふぁ~……雨降りは退屈でしょうがないぜ」
「リォ、お散歩にも行けないもんね」
『まぁ、知子も箕之介も時間が掛かるかもって言ってたし、大人しく留守番していようよ』
「ですね。テレビでも見てましょうか」

 時刻は10時、この時間は情報番組くらいしかねぇから結局退屈なんだよなぁ……やべ、また欠伸出ちまう。
こればっかりはどうしようもねぇし、ちこっとでも暇潰しにゃあなるか。テレビに付き合うかね。

『昨日とは打って変わって気が抜けてるねぇ』
「気は、張る時張って緩ませる時は緩ませるんでいいんだよ。ずーっと気ぃ張ってたら疲れちまうだろ?」
「そうですよね。何か飲み物もらおうかな」
「あ、んじゃ俺も」
『私も何か貰っていいかな?』
「ル~、僕も飲みたいから手伝うよ~」

 んじゃ、手を使える組に頼むとするか。
テレビでは相変わらずニュースが流れてる。この町のニュースでは無いがね。
……ん? なんだ、なんか鳴り出したぞ? テーブルの上か?

「あれ、僕の携帯が? 誰だろ、アル様かな」

 あ、ギランの携帯が鳴ってたのか。テーブルが高いから地味に見えんのよな。
携帯っつーよりスマートフォンって奴なんだけどな。これ、あのアルスさんが作ったって言ってたけど、充電とかしてるとこ見た事ねぇよなぁ……どうなってんだろ?

「零次さんからだ。どうしたんだろ?」
『零次から? おかしいな、今は授業の時間な筈だけど』
「出てみれば分かるだろ。ギラン、出てみろよ」
「そうですね。通話っと……はい、ギランです。零次さんどうし……!?」

 む? 通話に出たギランの様子が変わったな? どうしたんだ?

「え、どういう事ですか!? 学校が襲われてるって!」
『な……』
「黒い服を来た集団に……わ、分かりました。ライトさんとすぐに向かうから、もう少し耐えてて下さい!」
「どういう事だ、ギラン?」
「零次さんの居る高校が、何者かに襲われてるらしいです。それも、黒い服を来たおかしな集団だそうです!」

 そいつは……昨日の黒コートの仲間か? まさかこんな大々的に動くとは……だがなんで高校を?
ダークポケモンを作るなら、高校なんか襲っても大したポケモンは得られないと踏む筈だがな? ……別の目的があるのか?
とにかく、行かねばあるめぇよ。助けを呼ばれて行かないんじゃ、二度と師匠に会わせる顔がねぇ。

「分かった、行くぞギラン!」
「はい!」
『って、ギランとライト、零次の学校の場所は分かるの?!』
「僕の携帯から、零次さんの携帯へGPSで追跡出来るから大丈夫です!」
「拳斗と海歌は留守を頼む! 誰かが帰ってきたら、この事と俺達が向かった事を伝えてくれ」
「リオ! 分かった!」
『私も行きたいところだけど……分かった、ライト達も気を付けて!』

 頷いて、外へ飛び出した。雨なんか気にしてる場合じゃねぇな。

「ちと急ぐ、ギラン俺に乗れ」
「はい!」
「よし、落っこちるなよ!」

 自分から身を屈めるように乗ってくれて助かる。よし、行くぜ!
今回は急ぎだ、ギランが乗ってるが、なるべく本気で走らせてもらうぞ。

「ふぉわぁぁぁ!?」
「口開けてると舌噛むぞ!」
「ひゃいぃ! ラ、ライトさんそこを左ぃ!」
「あいよぉ!」

 指示された方へ方向を変えながら、町中を縫うように駆け抜ける。流石にギランを落とす訳にいかんから、最低限の手加減はしてるぜ。

「ら、ライトさん電気! 電気出てますよ!」
「こいつはお前さんが触れてても問題無い! 次は!?」
「み、右です! その後は直進!」
「おっしゃあ!」

 俺が本気に近い状態で走ると、自然と発電量が増えて体が電気纏っちまうんよ。ま、これは俺の守りの雷が増加したもんだから無害だがな。
まぁ、見た奴から言えばバチバチ音させながら高速で動き回る電気の塊だから危ないもんに見えるだろうがな。
……! 見えた、あれだな!
校門の前には……警察か? パトカーが来てるみたいだな。誰かが呼んだみたいだ。
だが、なんかもめてるみたいだな……。だったら!

「突破するぞ、しっかり掴まってろ!」
「にゃい!」

 風圧でまともに発言出来なかったようだが、俺の首に巻いてる腕の力が増したから大丈夫だろう。
そのまま加速した状態で……踏み切る!
校門前に停まってるパトカーなんかを飛び越えた事で、ようやく何が起こってるのか分かった。警察のポケモンが、高校を襲った集団のポケモンと戦ってるみたいだな。
なら、ちと助勢してやるか。もちろん警察にな。

「退けよ!」

 進行方向に居た奴だけは薙ぎ払ってやった。後は悪いが、警察の奴等に任せるぜ。
……何? 奴等、この学校の生徒をトラックに運んでやがるだと!? まさか、こいつ等の狙いは生徒か!?
くっ、今全部の相手をするのは無理だ。しゃあねぇ、まずは零次達の安否の確認だ。

「ギラン、何処だ!」
「えっと、ここの2階です!」
「了解!」

 まだ何が飛び込んできたのか分かってない黒服共が体勢を整える前に、学校に突入する!
中も黒服だらけか、無視だ無視!
階段を駆け上がると、今まさに生徒を運び出そうとする黒服共でいっぱいだ。零次達はどこだ!?

「! ライトさん、あそこ!」
「! ……まだ零次達は捕まってないみたいだな!」

 一つだけ、黒服共が扉をぶち破ろうとしてる教室がある。ギランの指し示すところもそこだとすると、まだ抵抗してると思っていいだろう。
直線上に居る黒服共を殴り倒しながら、その教室へと迫っていく。本気に近い状態だから、連続瞬間移動してるように相手には見えてるだろうよ。
後ろ足が床に着いては蹴り、瞬時に次の相手に飛んで殴るを繰り返してるんだもんよ。どうやっても相手は避けれねぇさ。

「お前で、ラスト!」
「!? ……」

 対象の沈黙を確認、と。扉の前に居た奴も纏めて倒したから、しばらくは大丈夫……とは言えんが、話すくらいは大丈夫だろ。

「はわ~、目が回りましたぁ~」
「悪ぃ悪ぃ、ちっと休んでていいぞ。零次! 聞こえるか!」
『その声は……ライトか!?』
「あぁ! 今から奴等を一掃してくる! それまではここ開けるなよ!」
『分かった! 内側からバリケード作って凍らせてるから、こっちは心配しないでくれ!』
「了解だ!」

 へぇ、やるじゃねぇか。恐らく零次が指示を出してそうしたんだろうけど、悪くない判断だ。
助けを呼んでなかったら篭城のリスクは大きすぎるが、呼んでるなら話は別だ。外部の奴が敵を駆逐するのを待てばいいだけだからな。
だが、こうなるとギランも教室にとはいかんから、またしばらく乗っててもらう事になるか。大丈夫かね?

「! ライトさん、新手です!」
「っと、悠長にしてる場合じゃねぇか。行くぜギラン!」
「は、はい!」

 また乗ってもらって戦闘開始だ。捕まられても困るしな。
しかし、何も言わずに襲いかかってくるってなぁ気味悪いもんだ。それに、なんでポケモンを展開してこないんだ? 
ま、楽だからいいけどな。どんどん倒れる黒服共が増えていくぞ。
ふむ……Tシャツやらベストやらって差はあるが、触った感じどれも同じ材質みたいだな。視認出来てりゃ問題ねぇけど。

「ライトさん後ろ!」
「! 不便だなこの野郎!」

 そしてやっぱり気配が分からん。今はギランも周りを見てくれてるからいいが、俺だけだと不意打ち喰らってるかもしれねぇ。
後ろに跳ぶようにしながら蹴りを鳩尾に叩き込んでやった。ほい、一丁上がりっと。
こりゃ、ここで戦ってたら下手すると囲まれるな。しゃあねぇ、動きながら戦るとするか。でも動いてるとこの帯電モードも解けないんよな……まぁいいか。

「うわぁ、僕もライトさんの電気が移って白く光っちゃってる」
「そうなってもデメリットは無いから気にしなさんな。……こいつ等、明らかに俺達を狙ってきてるな」
「そうみたいですね。もう、校内に零次さん達しか残っていないからかもしれませんけど」

 どうやらそうみたいだな。2階の他のクラスにも、他の階にも誰も居なさそうだ。……こいつ等の狙い、間違い無くここの生徒や人間だと思っていいだろうな。
でもなんの為にだ? まさか、自分のところの兵隊にでもするつもりじゃねぇだろうな? こんな方法で集めて、言う事聞く奴なんか居ないだろうに。
……その方法が、奴等にはあるとか? まさかな……そんなのあったら本当に冗談じゃない事態になるぞ。
よし、校内のはあらかた倒したか。指示出しをしてる奴が居るかと思ったが、それに該当する奴は居ないな。
学校の玄関辺りまで来たが、やっぱり居ないか。なら、雑魚だけで編成組んで来たって事か?
!? なんだ、外からなんか飛んできやがった。慌てて避けたが、今までに感じた事の無い力だったぞ?
まさか……いや、確認すりゃいいだけだな。そっちから仕掛けて来たんなら、やってやるだけだ。
開きっ放しにされた玄関から飛び出すと、雨の中に佇んでいる奴が一人。……上か!
俺達が居た場所へ、覆いかぶさるように何かが降りてきた。俺の反応速度だったから避けられたが、並以上でも避けらるか微妙だったぞ今の。

「へぇ~、今のを避けちゃうんだ。凄い凄い」
「……どうやらお前は、口を聞けるようだな」
「喋るサンダース……あは! なんだか凄いのが飛び込んで来たと思ったけど、報告にあった奴じゃない! やっふぅ! これで褒めて貰えるよ!」

 身長、声の語調や声質から考えて、歳は15~18、性別は女だな。黒いフードを被っちゃいるが、顔は分かる。

「な、なんですかあなたは!」
「ふふふ、私に質問なんかしてる暇は無いよ~、イレギュラーさん達♪」

 さっき避けた奴がまた襲ってきたか。後ろからだからって、反応出来ないとでも思ったか?
後ろから突っ込んで来た奴と交差するように後ろに思い切り飛んでやった。飛び掛ってきたのは分かってるからな。
うへぇ、俺が居たところのコンクリートにざっくり斬り跡残しやがった。受けたら俺でも痛いじゃ済まんぜよ。

「え~? それも避けちゃう? ちょっとは当たってくれないとつまんな~い」
「冗談はここでやってる事と言動だけにしてもらおうか。それに、名前も聞かないうちにやられちまったら勿体無いだろ? お聞かせ願えるかな、お嬢さん」
「あらお上手。ふふん、いいわ。その口の上手さに免じて教えてあげましょー。私の名前は『奥野 美紀』(おくの みき)、ディヴァインガイダンスの可愛いピチピチ幹部でっす♪」

 ディヴァインガイダンス? 神の導きたぁ大層な名前だことで。

「あ、やっば~い、余計な事まで言っちゃった。今の無しで!」
「お望みならば。で、その美紀嬢は何故こんなところにいらっしゃるのかな?」
「もっちろん、組織のお友達を増やす為に、ね♪」

 お友達と来たか。該当するのは、ここの教師や生徒で間違い無いだろう。
ならマジで自分らの兵隊を増やす為にここを襲ったって事かよ。嫌なもんだなまったく。

「で、こっちが答えたんだからそっちも誰なのか答えてくれないかな? 最重要排除因子さん!」
「そいつは……そっちの愉快そうなお友達を止めてくれるなら、な! ギラン降りろ!」
「へ? ふわぁぁぁ!?」

 突っ込んで来たメガヤンマに驚いてギランは俺から飛び降りた。交差際、行けるか?
……羽に掠ったが、決定打は叩き込めなかったか。速いな、流石に。

「ごっめーん、その子、あなたを倒すか動けなくするまで止められないの。だから、素直にやられてね」
「ほぅ、そうかい。そんなら……第三の止め方をやらせてもらうぞ!」

 帯電状態の俺は、全神経伝達が活性化されてるんだな。言わば、普段以上の超反応が可能って訳だ。ま、神経の情報にゃ電気信号が使われてるんだから、その電気自体が増幅すりゃそうなるわな。
今の俺なら、音速で飛ぶ相手でも捕捉出来る。多分。現に今も、また交差した時に一撃くれてやった。
とはいえ……まさか、反撃してくるとは思ってなかったぜ。俺に掠めさせるとは、やるじゃねぇの。
ぶしって音が出たように、メガヤンマを殴りに行った前脚から血が軽く噴き出た。掠らせた時に、どうやら奴の顎がこっちにも掠ったっぽい。

「ら、ライトさん血が!?」
「この程度なら心配無い! が、ちと厄介だな」

 あのメガヤンマ、どうやら俺の前足を噛み千切るつもりらしい。下手に手を出しゃ、マジでそうなりそうだ。

「あっれ~? 今ので決まったと思ったのにな?」
「残念だが、俺の前脚はそう簡単にもがれちゃ適わんのでね」
「んもー、面倒だなぁ。ならこっちでやっちゃお。メガヤンマ、ダークストーム」

 !? なんだその聞いた事無い技は?
いや……メガヤンマの様子がおかしい。嫌な、どす黒い気みたいなもんで包まれてやがる。
それが、メガヤンマの羽ばたきで竜巻になって飛んできやがった。……!? おいちょっと待て、なんで二つも出てんだ!?
しかも一つのコースの先は……くそっ!

「え?」
「させるか!」

 ギランの方へ向かった黒い竜巻、そのコースへ割って入った。まさか、ギランまで狙ってくるとはな。
俺の方へ向かって来た竜巻も進路を変えて俺を追跡してくる。くそ、これはもう避けれん! 堪えるしかねぇ!

「ぐ、がぁぁぁぁ!?」
「な、ライトさん!?」
「はーい、一丁あーがり♪」

 なん、だ、こりゃ……。ぶち当たったのは……分かったが……。
……しっかりしろ、俺! こんなもんで倒れたら、後は誰がギランを守るってんだ!

「く、そ、がぁぁ!」
「……嘘ぉ、今の耐えちゃったの? 二発も当たったのに?」
「はぁっ……はぁっ……悪いが、結構根性はある方なんでね」

 心を削られる、よく分からん表現かもしれんが、まさしくそんな感じだった。体のダメージよりも、そっちがやべぇ。
胸を抉られるように、ごっそり意識が持って行かれた。こんなもん何発も受けたら、俺でもガチで倒される。
とにかく心が冷たくなる。痛いとか、そんなの感じる暇もねぇ。自分が空っぽにされたような気分だぜ……。

「大丈夫ですか、ライトさん! 聞こえてます!?」
「あぁ……サンキュ、ギラン。声掛けてくれたお陰で、なんとかはっきりしてきた」

 とは言っても、次もまともに受けたらどうなるか分からんぞ。体の前に、心がやられちまう。

「へぇ~、最重要排除因子なんて言われるだけあるなぁ。決~めた、あなたがダーク化したら私が可愛がってあげる。ずぅ~っとね♪」
「そいつは、ちっと勘弁願うぜ」

 ちっ、有効だって分かれば連射してくるよな。ここは……一か八か、相殺出来るか試すか?

「ふふ、勘弁なんて言っても、次のを受けたらもうなーんにも感じなくなるだろうし、心配しなくていいよ」
「ど、どうしよう!? ライトさん、一旦引いて……」
「残念時間切れ! バイバーイ。あ、いらっしゃーいの方がいいかな?」

 選んでる暇はねぇな……やるしかねぇ!
また黒い気がメガヤンマを包んだ。来る!

「メガヤンマ、撃っ……」
「させん!」
「!? お前……」
「蒼刃さん!? どうして!?」
「ふぅ……ズボンはびしゃびしゃだが、なんとか間に合ったな」

 メガヤンマがダークストームとか言う技を出す前に、蒼刃がそれを遮った。で、俺の横には零次が来てた。
どうやって? とも思ったが、校舎の方を見て納得した。2階の教室の一つから、氷で出来た滑り台が出来てやがった。どうやら零次はそれを滑ってここに来たらしい。

「えー? まだ学校の中に残ってる生徒が居たのー? まったく、役に立たないなぁ」
「ライト殿、ご無事で?」
「まぁ、なんとかな。良いとこでカットに入ってくれた」
「窓から見てたが、あんな叫び声聞いてじっとなんかしてられなかったからな。蒼刃、行けるな?」
「無用の心配だ、参る!」

 形勢逆転、だな。追加でポケモンを出して来ないところを見ると、現在の手持ちはあのメガヤンマ一匹なんだろう。
俺もまだやれる。これなら、どうやっても負けはねぇだろ。

「あーぁ、なんかピンチになっちゃったし、逃げちゃおっかなー」
「こんな事して逃げられると思ってるのか? そもそも逃がす訳無いだろ」
「えーっと、もう全員揃ってるみたいだしいいや。撤退てったーい!」

 !? 撤退って言った途端メガヤンマが転進して美紀とか名乗った奴を乗せやがった。そんなのありかよ!
駄目だ、トラックもエンジンが掛かってる! 強行突破する気だ!

「警官隊! 急いで逃げろぉぉぉぉ!」
「じゃ、また会おうね排除因子さん♪ 今度は、私のポケモンにしてあげる!」

 ……俺の声が届いたのか、トラックに吹き飛ばされた中に生き物の姿は無かった。パトカーは薙ぎ払われたみたいだけどな。
畜生、追えば奴等の根城が分かるってのに、体がもう動かねぇ。さっきのも食いしばって耐えただけで、もう立ってるのがやっとだったか……。
ダークポケモン……それが使う負の力……侮った……。

「ば、馬鹿な……」
「無茶苦茶だ……あんなのありかよ……」
「怪我人がいねぇか……確認、せ、にゃ……」
「!? ライトさん!? ライトさん! どうしたんですか、しっかりして下さい!」

 駄目だ、落ちる……。周りの奴から呼ばれてるが、もう、動けねぇ……。
くそっ……倒れてる……場合じゃ……ねぇ……の……に……。
…………。

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 ……ライトが倒れて、2時間位が経ったところか。俺達はとりあえず、ライトを保健室のベッドに寝かせてる。
結局助かったのは、俺達のクラスに居た30人の生徒だけだった。他の在校生も教員も、奴等に連れて行かれた。
俺達も、ライト達が来てくれなければ時間の問題で捕まっていたと思う。俺がライトとギラン君を呼んだのは間違いじゃ無かっただろう。
が……結果は、この通りだ。俺達に代わり戦ったライトは、あの気味の悪い黒い竜巻を二つも受けて、昏倒した。
今は雪花と心紅で看病してるが、まだ目を覚ます様子は無いみたいだ。
俺達以外の生徒は皆、通報で駆けつけた警官隊の応援に保護されて、それぞれの家に帰った。……こんな状態じゃ、ここに居る意味も無いだろうしな。

「な、なぁ零次、あのメガヤンマなんだったんだよ? 見てると滅茶苦茶気持ち悪くなったし、ライトを……」
「……ダークポケモン。ライトは、あいつの事を危惧してたんだ。負の感情によって作られた、生きた戦闘マシン……」
「……私の、所為だ。私を守ろうとしたからライトさんはあの攻撃をまともに受ける事になったんだ」
「それは違う、ギラン君。あの時、誰もあの攻撃がこんな結果を生むなんて思ってなかったんだ。ギラン君が悪い訳じゃない」

 そう、ギラン君だけを責める訳にはいかない。あんな事になるんだったら、俺ももっと早く助けに入ればよかったんだ。でも、俺はそれをしなかった。その前のライトの戦いぶりを見て、助かると安心してた。
結局俺は馬鹿じゃないか。何が強くなってないだよ。強い強くないなんて関係なく、一歩踏み出してれば良かったのに。それを俺はしなかった。ライトに頼ったんだ。
俺は……最低だ。

「……俯いてる暇があるのか、零次」
「? 蒼、刃?」
「俯いてる暇があるのかと言っている。俯いて、この状況は好転するのか?」
「それは……そんな訳、無いよな……」
「ならば、何故動き始めない。我を開放した者は、この程度で立ち止まる男なのか?」

 ……立ち上がって、目の前の壁に思い切り頭突きをぶち当てた。そうだ、うだうだ考えてどうなる程、俺は頭が回る方じゃない。
今、これ以上学校に居ても意味が無い。なら、何処に行けばいい。何をすればいい。
決まってる、俺の家だ。家に帰れば母さんや親父も居る。ライトが知りたがっていた情報も分かる。
ライトが倒れたのなら、その原因を作った俺が引き継ぐ。ライトを起こす方法も探す。じゃないと、倒れる寸前まで戦おうと、救おうとしてたライトに顔向けなんかする資格は無い。
勢い良く保健室の扉を開いた。雪花と心紅は驚いてるが、ライトが目を覚ます様子は無いな。

「ち、ちょっと何よ!? 今安静中……」
「二人共、ライトは目を覚ましそうか?」
「え? いえ、まだ……って零次さん!? 額から血が!」

 俺の事はいい。今は、ライトをここから移動させるのが先決だ。また奴らが戻って来る可能性もある。

「二人共、ついて来てくれ。ライトを家まで運ぶ」
「運ぶって……確かに、ここで寝かせておいても目を覚ますかは分からないけど……」
「こいつは、体を張って俺達を救ってくれた。今度は、俺達がこいつを助ける番だ。違うか?」
「そ、そうかもしれませんけど、でも……」
「ここに居ても何も解決出来ないんだ。行こう」

 少し戸惑ったようだけど、心紅は頷いてくれた。雪花も、溜め息を吐きながらだがついて来る気になったみたいだ。
なら、ライトは俺が背負って行こう。……随分軽いんだな。でも、感じる重さ以上になんだか重く感じる。
保健室を出ると、司郎やギラン君も顔を上げた。蒼刃は、静かに頷いてくれた。

「俺達は家に戻る。司郎、お前は自分の家にまずは帰れ。叔母さん達に無事だって伝えてこい」
「うぇぇ!? 無理無理無理! こんな事あった後に外一人で歩くとかガチで無理!」
「なら、とりあえず俺の家まで来い。それから後は、その後考える」
「り、了解であります!」
「零次さん、ライトさんは……」
「必ず目を覚ますさ。覚まさせてみせる」
「は、はい!」

 満場一致だな。なら、急ごう。
先導は蒼刃に任せて、全員で警戒しながら外に出た。よし、まずはあいつ等は居ないな。

「ん? おぉ、君達か。……やっぱり、そのサンダース君は目を覚まさないかい?」
「えぇ、ですからまずは俺の家まで運んで安静にさせようと思います」
「そうか、分かった。本官も一緒に行こう。出来るのは盾になるくらいだが、居ないよりいいだろう」
「助かります」

 この人、『常呂川』(ところがわ)巡査は、昨日ライトと話した警察官らしい。ライトの事を見て酷く心配してたから、多分そうなんだろう。
俺達がライトを介抱するのに学校に残るって言ったら、こうして玄関で待っていてくれたんだ。優しい人だよ。
この巡査を加えて、現在俺達のメンバーは7人。動けないライトは除いてって事にはなるけど、これだけの頭数で警戒しながら進めば、なんとかなるだろう。
……家までの道のりが、こんなに長く感じた事は無い。少しでも早くライトには休んでもらいたいが、もう少し待っててくれ。
町の中も相当慌ただしくなってる。当然だ、これだけの騒ぎになったんだから、警察も報道関係者も動いていない訳が無い。

「あ、その制服! 襲撃を受けた高校の生徒さんですよね!」

 ……こんな集団で動いてれば、それは目立つか。だが、今は悠長にインタビューなんて受けてる暇は無い。

「すいませんが、インタビューを」
「急いでるんだ、失せろ」

 俺が睨みつけると、インタビューをしてこようとした取材陣が一堂に固まった。悪いが、今の俺は本気だ。

「れ、零次がガチで怖いっす……」
「仕方ないだろ? あんなのに構ってる暇は無いんだから」
「と、とにかく急ごう。このままじゃまた引き止められかねない」

 常呂川さんの言う通りだ。少し足早に行こう。
途中引き止められそうになったら俺が尽く睨みつけて追い払った。そのお陰か、なんとか余計な時間を食わずに家まで着いたよ。
窓から見てたのか、俺達が開く前に玄関が開いて、母さんが顔を出した。手っ取り早くて助かる。

「零次、皆も! 無事なのね!?」
「話は後! 母さん、急いで休めるところを作ってくれ!」
「え? ……! 零次、あんたの背中のは……」
「ライトだ。とにかく急いでくれ!」
「分かったわ、皆入って。あら? 常呂川君?」
「葛木さん!? じゃあ、ここって葛木さんのお宅だったんですか!?」

 な、なんか常呂川さんと母さんは知り合いだったみたいだな。とにかく全員入れって事だから、常呂川さんも通そう。
ふぅ、雪花がライトに傘差してくれてたとは言え、結構濡れたな。だが、まずはライトを横にさせないと。

「とりあえずはまずライト君の体を拭いて……皆も、濡れた体拭いて。もぉ、雨の中何も差さずに帰ってくるなんて……」
「非常事態だったんだよ。あ、司郎はとりあえず俺の服貸すから、着替えてくるぞ」
「うぃ!」
「雪花ちゃんと常呂川君は、私とうちの旦那の服で我慢してね」
「あ、ありがとうございます」
「いえ、葛木さん自分は……」
「警察もごたごたで仕事どころじゃないんでしょ? まずは風邪引かないようにする! 制服はその間に乾かしておいてあげるから!」
「き、恐縮です……」

 雪花と常呂川さんの事は母さんに任せよう。司郎に適当な服を宛てがってやらないとな。
部屋に戻って、濡れた制服を一先ずハンガーに掛けて置いておく。……少しの間、これを着る事もないかもしれんな。

「ほれ、ハンガー」
「あいあい。着替えたら、俺は家に電話しないとなぁ」
「時期にニュースでも流れるだろうし、その前に連絡しろよ?」

 適当な服を司郎に渡して、俺も着替えた。んで、タオルも渡してと。
ふぅ、少しさっぱりしたかな。よし、居間に戻るか。
ん、戻ってみたら心紅が蒼刃を拭いてるところだった。心紅はもう自分を拭いたみたいだな。
ライトは、とりあえず用意された布団で横にならされてる。……うなされたりしてないところを見ると、眠ってるだけにも見えるな。
ん? いつの間にかギラン君の服も変わってる。ジャージ……子供用のジャージなんて残ってたっけな?

「ライトさん……」
「……さっきも言ったけど、必ずライトの目も覚まさせるから、今はゆっくり眠らせておいてやろう」
「はい、分かってます。分かってますけど……」

 ……しばらくはそっとしておこう。ギラン君、ライトの事が相当ショックだったんだな。
とりあえず何か飲むかな。喉も乾いたし。

「……やっぱり知子さんの服って、胸のところ余るのよね……」
「ん、そっちも着替えたか」
「あんたも落ち着いたみたいね。んじゃとりあえず……グレイシア、ユキメノコ、出てきていいわよ」

 うん、この二匹にも世話になったもんだ。教室のバリケードはこの二匹が居たから作れたようなものだからな。
二匹ともキョロキョロしてたが、俺の家だと分かると寛ぎだしたみたいだ。ま、あっちはポケモンの面々に任せよう。

「えっと、良かったんですか? 旦那さんの服を勝手に借りてしまって」
「いいのいいの。あの人が着る服って偏ってるし、折角ある服は着られた方がいいだろうから」
「よっし電話終了ー。お、皆揃ってんじゃん」
「あら、そうみたいね。それじゃ、何があったか聞きましょうか?」
「俺達にだって分かる範囲にはなるけど、やっぱりそれは話しておいた方がいいよな」

 まずは現状を把握しないとな。全ての情報を管理してたライトがこうなった以上、始めから考えていかないと。
学校であった事は一頻り話した。学校が襲われ、ライトと警察を呼んで俺達は教室で篭城、そしてライトは奴等を一掃。が、あの女のメガヤンマの一撃でこの状態に……。

「そんな事があったとは……」
「常呂川君は? 警官隊は校門の辺りで競り合ってたんでしょ?」
「自分は応援としてあの場に向かいましたので、全容は……」
「奥野美紀……」
「え? ギラン君?」
「あのメガヤンマの使い手の名前です。それから、あの学校を襲った集団の名前はディヴァインガイダンス。……ライトさんが聞き出した事です」

 まさか、ライトそんな事も聞き出してたのか!? 凄過ぎるだろあの状況で。

「ライトさんが聞き出した事ですから、必ず何らかの意味がある筈です。僕には、どう使えばいいか分かりませんけど」
「名前と組織名……でもそれでどうすればいいんだ?」
「……もしかしたら、その奥野美紀という人物についてなら、本官が調べられるかもしれない」
「え、どういう事ですか?」
「もし前科のようなものがあれば、顔写真や名前と言った情報は警察の方に残っているんだ。だから、それを辿ればもしかしたら……」

 そうか、あんな事をする組織だ、そこに所属している人間に後暗い過去があってもおかしくないか。
こうなったら使えるものは全部使おう。形振り構って来ない相手に、遠慮なんかしてやる事は無い。

「うん、ちゃんと警察官してるじゃない。なら、あの事も今度は教えてくれるわよね?」
「葛木さんがこのサンダース君と知り合いだって知らなかったんですから、朝の事は勘弁して下さいよ……」
「? 母さん、朝に常呂川さんに会いに行ってたのか?」
「そうそう。ライト君には知り合いが居るって話したんだけど、私の警察の知り合いって常呂川君なのよ。ま、朝訪ねたら見事にフラれちゃったんだけど」
「こ、今度はちゃんとお教えしますから。……もう、警察の方も黙っていられる状況じゃありませんし」

 常呂川さんの話では、俺達の学校を襲ったディヴァインガイダンスによって警察のポケモンも何匹も捕獲されてしまったらしい。恐らく、ライトが言ってたスナッチシステムによって。
だから、動ける警察のポケモンも大きくその数を減らしてしまったそうだ。それに、パトカーの被害も相当数に昇ってる。そこまでされて黙ってはいられないだろ。

「だから、こちらとしても葛木さん達の情報が必要なんです。知り得た情報、本官にもお聞かせ願えませんか?」
「……私達が知ってる事ならね。でも……」
「事件の、多分この中で1番深い部分まで知ってるのは……」

 眠ってる、ライトなんだ。どんな被害が出るか、どんな事態が起こるかまで予測してたのも。それを俺達は今、失ってる。
だから、知っている情報を掻き集めて、ライトの考えに近付けないとならない。ライトがしようとした事、それが、多分この事件を終わらせる近道だ。

「まさか……このサンダース君は一体何者なんですか? 人の言葉を喋れる時点で普通じゃないですけど」
「それならば我もだが、先見という点ではライト殿に到底追い付けん。知識量も推察する力も桁違いだ」
「でも、それには今頼る事が出来ない。ライト程出来ないかもしれないが、俺達でやるしかないんだ」

 俺の声に、皆が頷いてくれた。そう、もう関係無いなんて言わないし、言わせない。ディヴァインガイダンスは、放っておいていい奴等じゃない。
今はとにかく情報だ。沢山の情報を、全員で束ねていく。そうすれば、答えは見える筈だ。
俺達がライトから聞かされた情報を常呂川さんにも伝えて、ライトが知りたいと思っていた奴等の被っていたっていう帽子とここ最近の誘拐以外の犯罪の事を聞く事にした。常呂川さん、母さんが訪ねて来た時に情報開示を断ったんだけど、その後自分も気になって調べたり訪ねてたそうだ。

「まず、昨日サンダース君……ライト君だったか、彼から受け取った帽子についてですけど」
「ライト君は、あれが気配を探るのを邪魔してるって言ってたけど、どうだったの?」
「その気配を探るって言うのがどういうものか分からないですけど、あの帽子から妙な電磁波のようなものが起こっているらしいって事は調べられたみたいです」
「電磁波? どういう事なんだ?」
「……電磁波によるレーダー、及びセンサー機器への変調をしているのかもしれないね」
「! 親父、帰ってきたのか!」

 話に集中してたからか、親父が居間に入ってきてるのに気付かなかった。……居間の様子を見て、何が起こったのは大体は推察したのかもな。

「ただいま、なんて悠長に挨拶してる場合じゃないかな。何があったか、説明してくれるかい?」
「分かった」

 これで、全員だな。親父なら、その帽子の秘密が分かるかもしれない。それに、ライト以外でスナッチシステムなんかの事を知ってるのは親父だけだ。俺達が説明出来なかった事を説明してくれるだろう。

「……ライト君には、感謝してもしきれないね。他者を救う為に、ここまで体を張って……」
「あぁ……だから、ライトがやろうとしてた事を俺達もやりたい。ライトが動けない今、俺達が動くべきだと俺は思う」

 ゆっくりとライトの頭を撫でていた親父が立ち上がって、テーブルの席に腰掛けた。目は、見た事無いくらい真剣だ。
ゆっくりと手を顔の前に組んで、少しだけ何か考えた後、親父の口は動いた。

「零次、本当はお前を巻き込みたくはないし、ライト君もそう願うだろう。それでも、やるんだね?」
「……やる。ライトに救われたんだから、今度は俺がライトに何かしてやる番だ」
「分かった。なら、ライト君程じゃないけど、まずは現状を整理させてもらうよ」

 相手の名前はディヴァインガイダンス、現状分かってる幹部の名前は奥野美紀。構成員は多く、ライトと蒼刃が出会ったって言う黒コートの人物もまだ居る。
学校を襲った理由は今は不明。ギラン君の話では、奥野美紀は学校の皆の事を組織のお友達を増やすと言ってたそうだ。ならつまり、学校に居た人間を組織に取り込むつもりなのか?
ポケモンの捕獲確率を上げて、窃盗まで出来るスナッチシステムと、ライトすら倒してしまったダークポケモンを所持してる。これは、俺達も見たからもう間違い無い。
そして、特殊な電磁波を放つ衣服を着て自分達の気配を消したりセンサーやレーダーなんかの機械を誤作動させられる事も常呂川さんの話で分かった。……俺達の相手はとんでもないな。

「……現状で出ているカードはこんなところだね」
「まさか、こんな……」

 親父の話を事細かく手帳に記入した常呂川さんが驚嘆してる。当然だ、あまりにも非現実的な相手だからな。
話を聞いていた全員の顔が神妙なものになった。自分達がこれから戦う相手の全容が、僅かにでも見えたんだ。こうなって当然だな。

「この事もさる事ながら、これだけの情報を殆どがライト君が掴んだって事がまた驚異ね……」
「まったくだよ。……ライト君の協力は、恐らくこの組織と戦う為に絶対必要になるね。なんとか目を覚ませる方法を見つけないと」
「自分も、警察にこの話を通そうと思います。普通なら一蹴されるでしょうが、現状ならこの情報を蹴られる事は無いでしょう」
「あぁ、頼むよ。しかし……惜しむらくはその奥野という少女の姿が分からない事だね。名前だけでどれだけ絞り込めるか……」
「あのー、それなら俺、ちょっと写メったんすけど……」

 ……は!? ちょ、司郎何故それを早く言わん!

「いやー、なんか慣れない超真面目ーな雰囲気で切り出せなくてさぁ」
「いいから早くスマホを出せぃ!」
「分かってるってばよぉ。えっと……あ、これこれ」

 司郎が出した画像には、確かにあの時の場面が写っていた。メガヤンマの横、佇んでるのが奥野だな。

「んで、逃げてった時にちょっとフードがめくれたのがこれ。横顔だけど結構良い感じに撮れてるっしょ?」
「! こ、これなら顔写真があれば照合出来る!」
「お手柄よ司郎君! もう今日晩ご飯美味しいもの作ってあげちゃう!」
「マジ!? ぃやったーい!」

 子供かお前は! と言いたいところだがこれはグッジョブと言わざるを得ないだろう。
常呂川さんが司郎のスマホから画像データを自分の携帯に送って、それを更に自分の上司に送るそうだ。後、現状の連絡もするらしい。

「これでこの子の身元が分かれば、そこから更に何か分かるかもしれないね」
「あ、それとさっき言いそびれたんですけど、この町で最近起こった事件を纏めた紙が制服に……うわ!? 濡れてぐしゃぐしゃに!?」
「ライト君が調べてって言ってたもう一つの事ね。うーん……これなら乾かせばまだ読めるかしら?」
「うっ、す、すいません……」

 ……なんでライトはこれを調べようとしたんだ? うん……分からんな。

「あ! というか勝手に上がり込んですいません! 自分は常呂川と言って……」
「あぁ、さっきの零次の説明で聞きましたから大丈夫ですよ。うちの息子とその友達がお世話になりました」
「い、いえ、自分はついて来ただけと言いますかなんと言いますか……」

 いや、正直警察の協力を得られるのは大きいだろ。常呂川さんには感謝しないとな。
ん? 常呂川さんの携帯が鳴った。通話じゃなさそうだな。

「あ、上からメールが……はい!?」
「ん? どうしたの?」
「い、いや、こんなメールが上から……」

 常呂川さんが見せてきた携帯の液晶には、『その民間人のところで聞き出せるだけ情報を聞いてこい、ついでにお前そっちで協力してろ』とのメールが。……そんなんでいいのか警察!

「え、えっと、どうしましょう……」
「……まぁ、事件解決するまでは頑張りましょうか。常呂川君、一人暮らし?」
「え、はい」
「なら拠点はここね。上からの命令なら仕方ないわね~」
「ちょ、いいんですか!? 本官警察官とは言え他人ですよ!?」
「別に知らない顔じゃないしね~。皆もいいでしょ?」
「私は構わないよ。警察とのラインを確保しておくのは必要だろうし」

 俺も別に構わないから頷いておいた。雪花と司郎はここの家人じゃないから同意を求めなくてもいいだろ。

「あ、それと雪花ちゃんもしばらくここに居なさいな。一人で居るよりいいでしょ?」
「え、そうかもですけど……いいんですか?」
「いいのいいの。もうここまで増えちゃったら一人増えても二人増えても関係無いわ。それに、一人で居られると余計に心配だしね」
「まぁ、それは言えてるな。別に協力しろとは言わんし、ここに居ろよ」
「な、なら、そうさせてもらおうかな……」

 ……本当にこの家が、対ディヴァインガイダンス対策本部みたいになってきたな。昨日までこんな風になるとは思ってなかったが。
とりあえずその辺の話は決まりって事で、話を戻そう。常呂川さんの紙はまだしばらく読めそうにないな。

「そう言えば、箕之介さんもライトさんに頼まれ事してましたよね? それはどうだったんですか?」
「バッチリ! と言いたかったんだけど……実は少し問題があってね」

 問題? なんだ一体?

「ちょっと知り合いに連絡がつかなくてね。まぁ、居る地方が違うからなんとも言えなくて」
「地方が違う? 何処まで連絡したんだ?」
「オーレって地方までね。とりあえず何か連絡があったら私の連絡先を教えるように研究所の皆に言ってきたから一旦帰ってきたんだ」

 因みに、親父が調べてたのはスナッチシステムの行き先らしい。……親父って、そんな事まで調べられたんだなぁ。

「……ま、今分かるのはそんなところかしらね?」
「だな。とりあえず優先すべきはディヴァインガイダンスって奴等はなんなのかを調べるのと、ライトを起こす方法か……。心紅、そっちはどうだ?」

 話し合い中、ライトの事はポケモンの皆に任せてた。が、心紅の首は横に振られた。まだ、ライトが目を覚ます感じはしないみたいだな。
テーブルを離れてライトの方に向かった。……呼吸はしてるし、脈もあるみたいだ。本当に、眠ってるだけみたいだな。

「零次さん……ライトさんの、ライトさんの心を感じないんです……」
「感じない? どういう事なんだ?」
「分かりません、こんなの今までありませんでしたし、心を閉ざしたポケモンだって閉ざしてるって事を感じる事は出来る筈なんですけど……」
「それすら無いっていうのか?」
「はい。何かの力が邪魔をしてるか、あの黒い竜巻が関係してるのかもしれません」

 ……実質、こっちも打つ手無しか。ライト……お前は今、何を思っているんだ?
ただ、今もライトはここに居る。それだけは確かだし、何か助ける方法はある筈だ。それを、必ず見つけてみせる。

「……あまり根を詰めても仕方ないわ。晩御飯の準備するから、皆寛いでて」
「そうだね。……零次、ライト君は必ず目を覚ます。今は、信じよう」
「分かってる。あんなに強いんだし、あの技を受けても立ち上がったんだ。俺なんかよりずっと根性ありそうだよな」
「そう、です。ライトさんは強い。……私、ライトさんを信じます。また、ゆっくり笑ってくれるって」

 うん、皆で信じよう。会って間もないなんて関係無い。ライトが皆を救おうとした事を、危険に飛び込んででも皆を守ろうと戦うのを見たんだ、信じるには、それで十分だ。
目が覚めた時、呆れられるような事にはならない。……必ず、ディヴァインガイダンスの尻尾を掴んで、引きずり出してやる!

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~三日目 ???~

 うっ……ここは、何処だ? 俺は、どうなったんだ?
目を開けるとそこは、真っ青な空間だった。まるで、空だけで出来たみたいな空間だ……。
っていうか、なんともない、のか? 確か俺、倒れたよな?

「お目覚め、だね」
「!? なんだ!? 誰だ!」
「そんなに警戒されると傷つくなぁ。大丈夫、君に敵対するつもりは無いよ」

 振り返ったそこに居る者を見て驚いた。そこに居たのは、一匹のイーブイだ。
だが、俺はこのイーブイを知ってる。いや、知ってるんじゃない。こいつは……。

「そう、過去の君だよ」
「!? お前、俺の思ってる事を?」
「別に驚く事でも無いでしょ? 僕は君の記憶であり、心の欠片なんだから」
「心の欠片、だと?」
「そう。ここは、君の心象世界。ようは君の心の中だよ」

 はい? どういうこっちゃ?

「流石にダーク技は君でも堪えたみたいだね。体は耐えられたけど、心のダメージは思ってるより大きかったのさ」
「まぁ……あれはかなりきつかった。心構えも無しに喰らっちまったからな」
「分かってるね。そして、ほぼ無防備でダーク技を受けた君の心は……この通りさ」

 !? 空が、崩れていく!? 崩れた部分は、真っ黒になっちまってるぞ!?

「このままじゃ、君の心は蝕まれてダーク化しちゃうところだったからね、君自身が無意識に意識を心の中に放り込んで、それ以上の進行を止めたんだ」
「……? そんなんで止められるもんなのか?」
「普通のポケモンじゃまず無理。ただし、君の意識だけは特別。あるものとリンクしてるから、君の意識が消えてしまうこの状況だとあるものが強制的に心の崩壊を打ち消してるんだ」

 あるもの? リンク? なんじゃそりゃ?

「ま、分からないと思うから、とりあえず君は気にしなくていいよ」
「……お前は知ってるって口ぶりだな? 俺の心の欠片なのに」
「あぁうん、心の欠片って言っても、僕は無意識を司る方だから。君は意識体だから、今無意識と意識は分かれてる状態だね」

 俺が意識で、こいつが無意識ねぇ? ……ん?

「つまり、俺をここに呼んだのはお前って事か?」
「正解。僕としてもここが壊れてしまうと居場所が無くなって消える事になるからね。そうなると困るでしょ?」
「……なんつーか、俺の無意識って結構軽い奴なのな」
「何を今更。そういう自覚が欠けてるから、僕が色々大変になるんだよ?」
「んだよ、具体的には?」
「レンへの恋愛感情とか♪」

 まさか自分の無意識に吹かされるとは思わなんだ。何? 俺ってこんな軽い奴だったの本当は?

「もうさー、君が頑張り過ぎるからレンへの気持ちは心の裏側である僕に全部来るんだよ? 正直もうお腹いっぱいだったら。もっと素直になってよねー」
「ちょ、おま! なんて事をさらっと言いやがる!」
「だぁってここ心の中だもん。本音を言ったって誰にも聞こえない聞こえない♪」

 な、なんか疲れてきた……自分の無意識に疲れさせられてる俺って一体……。

「さて、ゆっくり色々話したいところではあるけど、そろそろ行こうか」
「? 行くって、何処へ?」
「ここを修復しないとならないからね。この心の中でも特に重要な深いところ」
「どこだよそこは?」
「心域。いや、深域。そして、神域」
「はぁ? どれだよ?」
「どれでもあって、どれでも無いところ。はい、レッツゴー!」

 ……よく分からんが、どうやらこいつについて行くしか無さそうだな。
心の中、か。だとすると、俺の体は今どうなってんのかね? 無事だろうが……早くなんとかして戻らんとな。
尻尾振りながら過去の俺が呼んでるし、その心域とやらに急ぐとしますか。

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~三日目 夜~

 晩飯も食い終わり、現在俺と蒼刃、そして常呂川さんで司郎を家に送ってるところだ。昼間にあんな事があったんだから一人で帰す訳にもいかんし。

「にしてもさー、散々な日だったなぁ。これから学校ってどうなるん?」
「休校状態だろうな。それを連絡してくる先生方も居ないし、残ってるのはあのクラスに居た30人だけなんだし」
「そうなるね。君達30人には、それぞれ警察官が警護の為に常駐させてもらう事になると思うよ」
「へぇ~、じゃあうちにも常呂川さんみたいに来る事になるんすか?」
「いや、本官みたいに家にお世話になるって事は無いだろうから大丈夫。交代で見張らせてもらうだけになると思うよ」

 なるほどね、そりゃ当然そうなるだろうな。常呂川さんは……まぁ、うちも許可したしいいんだろう。

「そう言えば常呂川殿、母君と親しいようだったが……」
「あぁ、葛木さんは昔、空手を習ってる時の先輩でね。今でもたまに話相手や稽古でお世話になってるんだ」
「母さんが稽古を?」
「うん。週に1回くらいは道場に顔出してるんだよ? 知らなかったのかい?」

 それは知らなかったな。多分俺の居ない昼間に行ってるんだろうな。

「つまり、常呂川殿も空手の覚えがあると」
「葛木さん程強くは無いけどね。彼女ははっきり言って天才ってレベルだったよ、本当に」

 うちの母さんが天才ねぇ? 確かに強かったと思うけど、俺そんなに母さんが空手やってるところ見た事無いんだよな。
とと、司郎の家に着いたな。とりあえず問題は無かったか。

「あ、もう着いちゃった。どうせなら俺も零次の家に泊まりたかったなー」
「馬鹿、先におばさん達に元気な顔見せるのが先だろ? 非常事態なんだから早く行けよ」
「了解了解。行けるようなら、明日零次ん家行くから。俺も、やっぱり気になるし」
「はいはい。ただし」
「一人では動き回るなっしょ? 分かってるって。そんじゃね」
「おう」

 司郎が家の中に入るまでを見守って、一安心ってところだな。

「とりあえずこれでここは大丈夫だろ。俺達もさっさと帰ろう」
「そうだな。……そういえば、昼間の奴らはどうなったのだ? 常呂川殿ならば分からないのか?」
「……無線からの連絡では、学校を襲撃した車両は分散して逃亡。そのまま攪乱されて逃げ切られたそうだよ」

 なら、連れて行かれた学校の人間も行方不明か……。そっちを助けるには、奴等の根城を見つけ出すしかないみたいだ。

「でも、スナッチシステムやダークポケモンの情報が貰えたから警察でも対策本部が作られたって連絡を受けたんだ。もう、ただの誘拐事件で処理出来ないのは上も理解してるんだと思う」
「警察と我ら、双方からの捜索か……」
「警察で得た情報は本官に回ってくる分という事にはなるけど、随時報告させてもらうよ」
「なら、こっちも何か分かったら常呂川さんに伝えますね。俺達で調べられない事も、警察なら調べられるかもしれないし」
「うん、そうしてくれると助かる」

 帰り足になりながら、少し考えてみた。俺達はこうしてまだ『日常』の中に居られる。でも拐われた者の家族は、今何を思っているのかって。
いきなりおかしな集団に拐われたなんて言われても、きっと現実感は無いだろうな。でも、そこに居るべき誰かが居ない。……不安、だろうな。
俺達もそうなっていてもおかしくなかったと思うと、複雑な気分だ。何故俺達は助かって、拐われた皆は居なくならなきゃならなかったのか……。

「残った事の責任、か」
「……零次君、君が責任を感じる事は無い。償いをしなければならないのは、拐っていった奴等なんだから」
「そう、このような事を起こした償いをさせる。いかなる理由があろうと、このような事をして許される訳が無い」
「だな。必ず皆を取り戻す。そして、こんな事企てた奴を思い切り殴ってやるんだ」

 その為にも、明日からまた頑張ろう。また、普通の生活にも戻りたいし。
それから辺りを気にしながらも家に帰ってきた。……今の我が家は随分賑やかになったもんだ。

「あ、お帰り。司郎君は?」
「無事に送り届けた。雪花はどうする? 着替えとか持ってきたいだろ?」
「そうだけど、今日はいいわ。流石に出歩く気にならないし」
「そっか」

 見た目普通そうだけど、結構気が滅入ってるみたいだな。そりゃ、唐突に襲われたんだからそうなってもおかしくないか。
母さんや心紅はライトの看病か。あれ? 親父は何処行ったんだ?

「あ、お世話になるのはありがたいんだけど、本官の寝泊りはどうすればいいんだろ?」
「ん? あぁ帰ってきてたのね零次達。常呂川君は悪いけどここで寝てね。布団は用意するから」
「なるほど、了解です」
「大丈夫なのか? ここ、ポケモンだらけだぞ?」
「本官なら心配要らないよ。横になれるだけでも感謝しないと」

 ふーん、どうやら他の警察官はほぼ総出で調査に駆り出されているらしい。そんな中で普通に休める常呂川さんは恵まれてる方って事なんだろうな。
相変わらずギラン君はライトに付きっ切り……ではなく、今は拳斗や雪花のグレイシア達と遊んでいる。司郎を送っていく前に、ライトが気を緩める時は緩めないと疲れるって言ってたなんて話をしてたっけな。それを見習ったってところか。
それじゃ、休む前に明日はどうするか決めておくか。ある程度の行動方針はあった方がいいだろ。
と思っても、どうすればいいんだろうな? 正直何をすればいいかは手詰まりだよな。

「? どうしたんですか、零次さん」
「あ、いや、明日からはどうしようかと思ってさ。何か出来る事はあるかと思ったんだけど、どうにも思いつかなくて」
「そうですね……学校を襲った組織の事を調べるにしても、何か手掛かりが欲しいところですね」
「うーん、なら本官に署からの連絡や報告が来るのを待つのはどうだろう? 闇雲に動くよりは効率が良いし、無闇に危険を冒す事も無いと本官は思うよ」
「……そうですね。焦っても仕方ない、か……それなら明日はまず雪花の荷物持ちをやるか」
「そうね。ちゃーんとエスコートしてもらうから」
「はいはい。他の皆はここで待機だな」

 もちろん常呂川さんは同行してもらうだろうし、また蒼刃にも警護に回ってもらう。外に出る時はとにかく油断する訳にはいかないな。

「ふぅ……おや、零次帰ってたのか」
「ん? 親父何処行ってたんだ?」
「トイレだけど? 明日からは研究所とここを行き来するし、ゆっくり出来る時はゆっくりしないとね」

 あぁ、そう言えば親父の勤めてる研究所の人達も協力してくれてるんだったな。スナッチシステムの行方が分かれば、こっちとしてはかなりの情報を知れたって事になるし。
そっちは親父と研究所の人達に任せて、俺達は一つずつ出来る事をこなしていかないとな。

「それじゃ、そろそろ休むか」
「そうですね。じゃあ皆さん、お休みなさい」
「はい、お休み」
「……って、心紅ちゃん、もしかしてこいつと一緒に寝てるの?」
「え? はい、そうですけど……」

 な、何故ジト目でこっちを見てくるんですか雪花さん? 俺と心紅に疾しい事は……あるけど、こんな状況下でそんな事する気は無いぞ流石に。

「怪しい……」
「な、何がだよ」
「なんで心紅ちゃんだけ、あんたの部屋で寝てるの?」
「そ、そりゃ、全員ここで寝ると狭いし、あの夏休み中は司郎も居たにしても一緒に寝てた訳だから別におかしくは無いだろ?」
「ふーん……まぁいいわ。お休み」
「お、おう」

 ……雪花が……怖いです……。
ま、まぁいい。部屋に戻るとしよう。
ふぅ、なんとなく自分の部屋に戻ってくると落ち着くな。固まって寝てもらってる皆には少々悪い気もするけど。

「零次さん……」
「ん? どうした心紅」

 後ろに居た心紅がそっと背中に触れてきた。声にも少し元気が無いみたいだな。

「ちょっと、不安になっちゃって。その……ライトさんの看病をしてて」
「ライトを看てて……?」
「もし零次さんがこうなっちゃったら……私がこうなっちゃったら……皆がこうなっちゃったらって思うと、凄く不安で……」

 ……確かに、ライトがあんな状態になるって事は、俺達もなる可能性があるのは確かだ。不安に思っても仕方ないかもしれないな。
もし心紅がそうなったら、俺も耐えられないだろう。他の皆でもそうだ。
振り返ってみると、そこには本当に不安そうにこっちを見つめてる心紅が居る。……俺が出来る事は、これくらいだな。

「……大丈夫だ。これ以上誰も倒れさせないし、ライトだって目を覚ます。心紅の事も、俺が守るから」

 そっと抱き寄せて、優しく抱きしめる。……震えるくらい怖がってたのか。
きっと、皆何処かでこんな不安を感じてるだろうな。現に俺だって、明日からどうすればいいか、何が起こるか考えると不安だ。
……ライトは……皆にこの不安を感じさせないように自分だけで戦ってたんだろうな。多くを語らないで、皆を巻き込まないように……。
俺は、同じような事は出来ない。自分だけでなんとか出来る程俺は強くない。
だから……お前の思惑とは違うかもしれないが、皆でやらせてもらうぞ、ライト。皆で、奴等と戦う。
こんな不安、さっさと終わらせてやる。必ず。

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~4日目 朝~

 一晩経って、もしかしたらとも思ったが、ライトは未だ眠ったまま起きる様子が無い。

「あ、お早うございます零次さん」
「お早うギラン君。眠れたかな?」
「はい。ライトさんが動けない時に何も出来ないようじゃ、相棒失格ですから」

 なるほど、どうやらギラン君も芯は相当強いみたいだ。ライトが倒れて大丈夫か心配したけど、取り越し苦労だったみたいだな。
台所の方を見ると、いつもの母さんと心紅、それに雪花が朝飯を作ってるところだった。……今日は訓練も無かったし、起こしてくれても良かったんだけどな。
訓練が無かった理由は、今日から本格的に奴等と対峙するのに余計な体力を使う必要も無いって蒼刃が判断したからだ。だから久々に訓練無しの時間に起きてきたかな。
で……常呂川さんはまだ寝てると。別にいいか。邪魔にはならないし。

「いやぁ、皆お早う」
「ん? なんか親父も早起きだな」
「のんびり寝てるのが惜しいからね。出来る事は出来るうちにやらないと」

 出来るうちに、か。もしこれ以上奴等に何か動きがあれば、確かにこっちは動き難くなるよな。そういう心配もあるって覚えておかないと。
まずは朝飯をしっかり食べて、今日に備えないとな。何があるにしても、動けなかったら話にならないし。

「よーし出来た……ってあら? 零次もあなたも起きてたの?」
「気付いてなかったのかよ母さん……」

 心紅も雪花も気付いてなかったみたいだ。地味にショックだが、とりあえず流しておこう。
ん、蒼刃達も起きたみたいだ。これで後起きてないのは……。

「さて……」
「常呂川さん、よく寝てますね」
「でも朝ご飯の時間なんだから起こさないとね♪」

 うわ、母さんがフライパンとお玉を持った。あれか、あれをやって起こすつもりか!?

「はい、常呂川君さっさと起きる!」
「ぬわぁ! な、なんだ!? 緊急招集!?」

 ガンガンガンガンと朝から喧しい! この二つをぶつけ合うのはなんでこんなに煩いんだ!
流石にぐっすり寝てたであろう常呂川さんもばちっと目が覚めたし、まだ寝ぼけてた面々もびっくりして起きたみたいだ。効果覿面とは正にこの事……。

「さ、今日も朝ご飯食べてしっかり行くわよ!」
「へぁ!? ここは!? って、そうだった、葛木さんの家にお世話になってるんだった!」
「まったく、警察官たる者もうちょっと寝起きはピシッとしてないと格好つかないわよ?」
「うぐっ、面目無いです……」
「まぁまぁ。とりあえず朝飯食っちまおうぜ」
「そうね。さぁ、三美女が作った朝ご飯よ。味わって食べなさい!」
「さ、三美女って叔母さん……」
「美女っていうか、私は牝ってカテゴリーだと思うんですけど……」
「細かい事は気にしなーい!」

 うちの母は朝からパワフルな事で……じゃ、言われた通り有り難がって食べるとしますか。

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~四日目 ???~

「っという訳で、最重要排除因子には出会ったけど撤退してきちゃいました」
「ふむ……ご苦労、奥野美紀。排除因子を捕らえられなかったのは残念だが、任務を完遂させた事に感謝する」
「けっ、一クラス分取り零しといてデカイ顔たぁボスも甘いんじゃないのかぁ?」
「なんか言ったダフネス!? 私頑張ったんだからね! メガヤンマもかなりやられちゃってたし、あのままやってたら私、逆に捕まっちゃってたかもしれないんだよ!?」
「けーっ! 一般人のポケモンに負けそうになってんなら余計に威張ってんじゃねぇよ!」

 一般人のポケモン……奥野美紀の報告にあったサンダースは本当にそうなのだろうか?
判断力、戦闘力、どれを取ってもポケモンのそれを遥かに凌駕している。それに、奥野のメガヤンマが用いたダークストームに耐えたというのにも驚かされた。あれの力は、容易にポケモンをダーク化させられた筈なのだがな。
最重要排除因子……放置しておくにはあまりにも危険だな。早々に居所を見つけ我らの手中に収めるべきか。

「……ボス、昨日奥野が回収した人員の洗脳、及び教育は、やはり早くても一日以上は必要だと報告が来ています」
「そうか、これから共に未来を築いていく大切な同胞だ。丁重に迎えるよう言っておいてくれ」
「了解」
「っと、俺の方でやってるダークポケモン製造は83%程まで終わりましたよっと。こっちは明日になりゃあ作戦に必要な分は揃いますぜ」
「よろしい、ベンディ、ダフネス両名はそれぞれの管理を優先してやってもらおう。奥野については、今日はゆっくり休んでおくれ」
「えー? あのサンダース君を探しにいっちゃダメですかぁ?」
「恐らく、向こうも警戒をしているだろう。明日には計画の最終フェイズを始められると思うから、それまでの我慢という事ではダメかな?」
「……はぁい、分かりましたぁ」

 万一の為にも、優秀なカードを今失うような事は避けたい。排除因子については他の同胞に探させるとしよう。
明日、いよいよ世界は生まれ変わる。この町を起点とし、あらゆる場所に神の導きが広がっていく。私達が、私が望んでいた世界が始まる。
逆らう者は居るだろうが、それも福音によって包まれれば皆すべからく同胞となる。そして、世界の全ての生命が一つとなるのだ。
いがみ合い、傷付けあう世界との決別。神が真に望んだ、あるべき理想郷の誕生。そう、我らは……神に支えられているのだ。

「諸君、我々が望む世界はもうすぐ実現される。更なる尽力に期待させてもらうよ?」
「全ては、モリオーネ様の御心のままに」
「はっはぁ! 面白くなりそうじゃねぇの!」
「あーぁ、明日までの我慢か……。あの子、早く私のものにしたいなぁ」

 我らは、ディヴァインガイダンス。神の導きを世界にもたらす為に神に導かれし者。そう、全ては神の為に……。

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「うぃっくし! うー……誰かが噂してるのかなぁ?」

 っとと、いけないいけない集中しなくちゃ。命の宝珠って作るの大変なのが面倒なところなんだよね。手抜きも出来ないし。家で出来るっていうのはメリットだけど。
簡単な方法として、私の力の源であるプレートを組み合わせる事でも出来るけど、ぶっちゃけあれは私の命を削ってるようなものだからパス。もし壊れちゃったりしたらウン十年とか何百年とか眠りにつかなきゃならなくなるし。

「アルセウス様! っと、どうやら宝珠作成は順調みたいですね」
「あ、ディアっちょ! そっちはどんな感じ?」
「えぇ、どうやら空間歪曲の原因はやはり……」

 マジかー。こりゃ、ギラ君だけに任せておけなくなっちゃったかなぁ。
心の闇の増幅による空間の歪曲、まさかそんな事で空間が不安定になってるとは思わなかったよ。心の力って凄いなぁ。……まぁ、この場合負の感情だから微妙に感心していいのか疑問だけど。
そしてその発生場所は零次さん達の暮らしてる町。ただ人が暮らしてるだけじゃありえない位の力があそこに密集してるってことは、あそこに何かあると思って間違いなさそうかな。
あの力の規模……下手すると命の宝珠でも鎮められないかも。そうなると手の打ちようが無いんだよなぁ。どうしよ?

「ですが、妙な事が一つあるんです」
「ほぇ? 妙って?」
「……ライト、あのサンダースが通り抜けた空間のトンネルの事なんですが、どうやらそれとは別の要因で発生したもののようなんです」
「なんですと? あれが?」
「はい、現在発生してる空間歪曲は空間を『破壊』する性質ですが、あのトンネルが出来た時の歪曲は空間を『繋ぐ』性質だったとパルキアが言うのです」

 空間を、繋ぐ? それってつまり、元から別の世界と繋がる為に出来た空間歪曲だったって事?

「そして、あの歪曲からは何かしらの強い意志のようなものを感じたとも……」
「リアリー? じゃああれは、誰かが何かしらの繋げるって意思を持って開けたって言うの?」
「パルキア的にはそう感じているそうです」

 だとしたら、その誰かって誰よ? 大体、そんな事出来る存在なんて私達以外に居るの?
……いや、思いつくそんな事出来る相手に一個だけ心当たりがあるけど……まさかね?

「とにかく、また私はパルキアと共に危険な歪曲の消去に向かいます。では」
「あいあい。私はまず、これを完成させなきゃね」

 考えるのは、全部が終わってからで十分よね。よーし、頑張っていきまっしょい!

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~4日目 ライト心象世界~

「ところでさ、ライト的に本命って誰なの?」
「はっ!? な、何をいきなり聞いてきとんのじゃお前は!?」
「だって気になるでしょ~? 父性的な愛情はリィに向いてるけど、一般的な恋愛感情はレンでしょ? で、兄弟的な感情はフロストだし、友達的な感情はジルと。四匹も嫁候補が居て決めてないって言うのは無しでしょ~?」

 こ、このイーブイは唐突になんて話を振ってくるんだ! 確かに何処に向かってるかも分からんところを歩いてるだけってのは退屈だけどよ!
いやまぁその、流石に俺の無意識だなんて言ってくる辺りかなり的を射てる事を言ってきてるんだが……。答えられるかそんなもん!
で、でも、その四匹の中ならやっぱり、その、レン、かなぁ?

「ほほ~う、現在一番の脈有りはレンですか。なるほどなるほど、確かにこの笑顔はホッとしちゃうもんね~」
「んな!? な、なななななな!?」
「あははは、周りを見てごらんよ」

 !? ほわぁぁぁぁぁ!? な、なんでレンの笑顔が大画面パノラマ状態!?

「言ったでしょ? ここは君の心の中。君が思った事はここに反映されるんだよーん」
「て、てめぇ! そういう事は早く言え早く!」
「だって聞かれなかったもーん♪」
「こ、このやろう!」
「おっとぉ、君である僕に追いつけるかなぁ?」

 ぐぬぅ、俺とほぼ同スピードで走るとは、やるなこの野郎。ってかあれも俺か。

「でもさ、やっぱりフロストも捨てがたいと思うんよね僕的に。ほら、お姉さん的なタイプって今まであまり接してきてないじゃない?」
「おま、何を言い出すか!」
「だって僕は無意識兼本能だから。やっぱり心が寒い時って誰かに温めて欲しいでしょ?」
「なんでその引き合いにあいつ等を出す、あいつ等を!」
「だぁって君が意識してるのって彼女達くらいでしょ~? あ、そういう包んで~的なノリならジルもありか。包容力ありそうだよ~彼女」

 あいつは子持ちだろうがぁ! 番いになっていきなり二児の父とかハードル高いわ!

「とかなんとか思って、結構まんざらじゃないっぽい?」
「はい!? のぉぉぉぉ!?」

 ちょ、なんで俺とジルが並んでその両脇をグリ達が固めてるし! 夫婦か! 家族写真かぁ!

「残念正解は君のイメージ映像にございますの事よ♪」
「もうやだここー!」
「いいなぁ、幸せそうな家族じゃない、ねぇ?」
「ねぇじゃねぇっての! 落ち着け俺、平常心、平常心……」

 ……よし、元の青空に戻ったな。まったく、なんてもんを映し出させるんだこいつは。

「あらら、戻っちゃった。流石の精神力だね」
「ったりめぇだ。伊達に世界一匹旅してた訳じゃねぇっての」
「もう、そんなんだから僕の姿がイーブイで止まってるんだよ? 理性勝ち過ぎぃ」
「アホか! 俺はポケモンだが紳士だ紳士! 理知的で何が悪い」
「一皮剥けば天然の食いまくりプレイボーイに早変わり出来るのにね。勿体無いなぁ」
「何がじゃ! 食いまくりっておまっ!」

 俺はそんな奴じゃねぇ! 交際だってきちんとした道順を進んでだな!

「んで、キスとか触れ合いとかして終着駅へっと」
「そうそう。ってそんな手には引っかからんぞ!」
「ちっ」
「舌打ちすな!」

 こ、こいつは本当に俺なのか!? ってか俺の無意識はこんな奴なのか!? 誰か、嘘だと言っておくれよ!

「残念、現実! これが圧倒的現実!」
「嘘だそんな事ー!」
「……ぷっ、あはははは! やっぱり君と話すのは楽しいよ! 一度こうして話してみたかったんだ」
「はぁ……俺はもう一匹の俺の真実に驚嘆しっ放しだぞ」
「でもそれで僕を拒絶しないんだから、やっぱり君は優しいね」
「よせよ、自分に褒められたって当然としか返しようがねぇだろ」
「そうだね。君はありのままを受け止められる器の持ち主だもん。……だから、僕も君を選んだんだよ」
「ん? 最後の方なんて言った?」
「気にしなーい気にしない。さっ、神域まではもうちょっと掛かるし、お話しながら行こうか」
「さっきまでみたいのは勘弁な……」

 やれやれ……このぼろぼろになった青空を治すには、まだ掛かるみたいだな。その心域とやらには何があるんだかな?
なんにせよ、早くここを元に戻して、外に戻らないとな。ギランや皆に迷惑を掛ける訳にもいくまいて。
あんま無茶してないといいんだがな……ダークポケモン、それに負の力の技。ありゃあ、並大抵じゃ歯が立たないぞ。

「……外の皆が心配?」
「当たり前だろ。俺の心とやらがこんな有様にされるんだ、他の奴がこんな風にされるのを見てられっか」
「でもそうすると、君はまたダークポケモンと戦う事になるんだよ? 怖くは無いの?」
「……怖くない訳無いだろ? 俺の無意識なら、多少は感じてるだろうによ」
「うん……良かった、これで怖くないなんて答えられたら、ここで彷徨っててもらうところだったよ」
「勘弁しろって……」
「怖いけど、立ち向かわないとね。僕も、一緒に頑張るから」

 ? どういう事だ? 聞こうと思ったら、ニコッと笑って歩き出しちまった。
なんか調子狂うなぁ……っと、また尻尾振って来るように催促してら。まったく、待つくらいなら置いてくなっつの。
とりあえず、今はあいつについて行って、心域とやらを拝見するとするか。俺の心の深くには何があるのか、な。

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~後書き~
な、長い……作者史上最長かもしれません……書きたい事がどんどん増えていってしまうのは考えものですな。若干超展開だし……。
とはいえ、ようやく折り返し地点の4日目に突入です。二日間が濃いなー。
とりあえずこれに懲りず、また続きを粛々と執筆中にございます。4話くらいで終わらせようと思ったけど、これなら話数増やしても良かったかなと思う今日この頃……。
とにかく、これからもお付き合い頂ける方がおりましたら、またゆるりとお待ち頂ければ幸いでございます!

[[次話>外伝EX3 希望の火を絶やさぬ為に]]
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