ポケモン小説wiki
初詣 の変更点


27日に授業が終わった。28日がバイト納め。そこから忘年会。
29日。重いアタマを叩きながら、一日かけて在来線で帰省。すまないみんな、もうお金がないんだ。学割証? 今年はちゃんと取ったよ。
家に帰ってまずは軍資金を貰う。二重に苦に通じるので、この日に帰っても何も手伝わなくていい。ぐっすり眠る。
30日。母にいい加減にしろと起こされたのは正午前。飛び起きて地元の古い友人と会う。そりゃ飲み食いになるよな。お前たちも懐かしい顔に会えただろう。就職したもの、旅に出たもの、進学したもの、様々だった。死ぬほど飲み食いして、日付が変わるころ終電で家に帰る。
大晦日。例によって昼前に置きだしてみれば、嫁と姑が一夜飾りで大喧嘩。仲のいい家族だ。今日はずっと家にいる。大晦日の短縮営業になったスーパーに足を運び、カネに糸目をつけずに肉を買う。蟹も買う。そこまでしなくてもいいのに。帰ってから霜降り肉を焦がし、酒を煽る。紅白とバラエティと格闘技をローテーションで回すテレビに同情しながら、手持ちのポケモンにも肉を食わせた。
来年もよろしく。この辺では除夜の鐘は中止にしてないらしい。

元日。寝たか寝てないかも怪しい時間に友人が来た。ライチュウを持ってる奴。親戚が集まってきてお年玉をねだられてはかなわんと、誘いに乗る。俺も歳をとった。その前に自分のお年玉だ。親父にはもう成人だろとにべもなく断られたが、グランパとグランマは優しいもんだ。待ち合わせ場所の駅に行くと、プラスルとマイナンをカップルで持ってる同級生と待ち合わせだった。しかも子供がいる。人間の。聞いてないぞ。新生児かよクッソおめでとう。飲み会一回分のお年玉。電車で町の方へ出て、大きな神社と寺をハシゴした。ポケモンセンターはコンビニよろしく年中無休24時間空いてる。酔っ払い同士の喧嘩で重傷を負ったポケモンを観ないといけないから。通りがかった時も患者がいた。頭が下がる。
安い居酒屋チェーンに入って、カラオケで夜を越した。1月1日30時とでもいえばいい時間に帰宅。母に怒られた気がするが、すぐに寝た。

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 そして、2日。痩せ細る財布と裏腹にたるむ腹。まあそりゃそうなるよなと思いながら、持たれる胃と、焼ける胸、そしてガンガン響く頭を抱えながら起きだす。手持ちも全員グロッキーだった。予定がないから緊張も解けたらしい。
「あら、起きたの」
「動いたほうが楽だから……」
 都会のまずい水と違って、この辺りは蛇口を捻ればそれなりに飲める水が出てくる。水道管が凍っているのが唯一の不安だったが、その辺はやはり母、とっくに水が出るようにしてくれていた。
「あなた遠くの神社には行ったみたいだけど、この近くの神社には行った?」
 餅と菜っ葉だけ入った簡単なお雑煮を目の前に置かれる。いや、だから重いんだって。しかもドロドロだし。
 汁だけすすると、ちょっと胃がすっきりした。これが正月開けたら話題になる地方お雑煮か。とけた餅でドロドロしてるけど。
 それはそれとして、小さい頃は確かにこのあたりの神社や祠を練り歩いた記憶がある。どれが火の神様でどれが水の神様で……というのは完全に忘れたけど。
 ただ、なんとなく行っておかないといけない気がした。先の細い祝箸がすっと餅に沈んでいく。出歩くし食べたほうがいいよなあと、一息に飲み込んだ。若いから詰まって死ぬことはあるまい。
「初詣行ってくるわ」
「帰りの切符取ってるんでしょう? 遅れちゃだめよ」
 しれっと帰りの交通費は出さないと言われてしまった。仕方がない、グランパグランマに頼もう。

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 小さな神社で由来も系譜も聞いたことのない神社だ。社務所なんてないし、管理人もおらず、町内の人が面倒を見ているレベル。正式な名前も知らない。
 ただ、お爺さんが物心ついた時からここにある、ということだけは聞いている。
「お?」
 古い記憶では、この神社で従業員に出会ったことは一度もないはずだった。
 しかし、今年はどうやら違うらしい。この時期だけ人を雇ったのだろうか、遠目で見てもはっきり巫女とわかる姿の人間が一人、竹ぼうきで境内を掃いていた。
 珍しいこともあるものだ。
「おはようございます」
「んん? ああ、おはよう。やっと来たな」
 違和感を覚えた。
 この女性は知らない女性だ。それ自体は何もおかしなことはない。多分見た感じ同じくらいの年齢だろう。狭い田舎とはいえ、学校が同じではなかった女子が今ここにいる可能性はある。
 違和感があったのはそれ以外だ。
「おうおう、こりゃまたあっちこっちの神様を見境なく巡ってきおって」
 やけに馴れ馴れしい。こんなにサービスをしたって別に何か変わるような神社でもないのに。親近感を覚えるというより、これでは気持ち悪いくらいだ。
 巫女が近づいてきて、有無を言わさず抱き寄せた。役得? そういわれればそうかもしれないが、いや、やっぱり気持ち悪い。
 え、いや、デカくね? 俺より身長高いぞ? 体格もよくない?
 しかし、これくらいの女性が発する化粧品とか、石鹸とか、香水とかの香りじゃなくて、どちらかといえば、ポケモンや獣に近い臭いがした。
「神様同士仲が悪いのもいくらでもあるのに、ただ大きいからって片っ端から行くのは薦めんぞ?」
 そう言って蜘蛛の巣を払うように頭や肩を払ってくる。何しやがる!とか、やめやがれ!、とか、言おうとはしたけど、その段階で力が抜けた。
 ぱっ、ぱっ、と、彼女が手を払うたびに力が抜け、同時に毒気も抜けていった。
「祟り神あがりの子童が、わっちの見てる人間に憑くなんぞ千年早いわ」
 言っていることの意味はまるで分からない。でも、ぺしん、ぺしんと鈍い音を響かせるたびに、体はすっきりしていく。力は抜けていくけど。
「いくら神とてしょせんは人間あがり。わっちに噛みつこうというのか、ふふん」
 たまにべしん、とかぐちゃっ、とか、よくわからない変な音を出してくる謎の巫女に抱き寄せられていた。
 意味が分からない。いや、本当に。大学に帰ってから帰省どうだった?と言われても言葉にできないレベルで。
「五月蠅いぞ、八幡、鹿島。こいつはわっちのもんじゃ」
 ここにきて、ふと彼女は人間ではないのではないかという突飛な発想が浮かんできた。
 着想は、ぐちゃっ、という音を立ててから、何かを掴んで口に放り込んだ時だ。ちらりと覗いた下顎から見た彼女の顔が、人間ではなかった。
 鼻が顔から口から盛り上がるようにせりあがっていて、それはポケモンでいうマズルのような形をしていた。開いた大きな口は涎をたたえながら肉食獣さながらの立派な牙をちらつかせていた。自分が噛まれたらひとたまりもない。
 なんで正面から見れば人間のように見えているのかが分からないくらい、雑な変装だ。……変装といっているあたりだいぶ毒されているのだろう。
 てか、やべえ。手持ちポケモン全部置いてきちまった。
 ……どうせ二日酔いで役に立たないだろうけど。
「お前、人間じゃないな」
 勇気を出して、聞いてみる。思えば、謎の抱擁からのお祓いはほとんど終わったタイミングだった。まさか巫女が金縛りを解いたわけではあるまいが。
「そりゃあそうじゃよ、わっちはヌシの1000年前の先祖から知っとるからの」
 ……そして、なおのことよくわからないことを言った。
「……はぁ???」
「アレじゃよ、わっちは」
 巫女がようやく離れて指を指すのは、荒れ始めていた参道の脇にある、狛犬の座る台座。ポケモンが神様の神社なら、それに伴った神使が座っていることも多い。こっちの神社はほとんど見回っていなかったが、大学周りにはブラッキーの狛犬とか、アブソルの狛犬とか、珍しいのがちょこちょこあった記憶がある。
 そして、この神社だ。そういえば見たことがない。昔からあったことは間違いないだろうが、こうしてまじまじと見るのは初めてだ。
「……キツネ?」
「惜しい!」
 第一印象はキツネだった。正一位稲荷大明神とか言ったか、全国各地に存在するあの赤い幟に囲われた赤い小ぶりな鳥居に囲まれて鎮座するお社様。
 いいセンいってたと思うんだけど。
 でも違うもんはしょうがない。てか、なんだこいつ。いつの間にかまた後ろから手を回しやがった。
 パッと見は、キツネ。でもキツネじゃない。じゃあキツネによく似た生物ってことだろ? ポケモンだろ。
 あ、どん兵衛食べる?
「……キュウコンじゃねえか!」
 しっぽの数が丁寧すぎる。胴体や顔はよくわからないが。うちの手持ちや代々の爺婆父母の手持ちにキュウコンはおろかキツネポケモンすらいない。
 それでも、鎮座する像にはしっぽが9本あった。
「そ、正解。じゃあの。また来年も来い。何も元日に来いとは言わん。また不用心なおヌシについた悪いもんを払ってやる。ただ、松の内には来い。わっちはいつまでもお前の家を見守ってやるからの」
 後ろから腕を回された状態で、耳元に生ぬるい息が吹きかかる。根拠はないが、この時点でもう人間に擬態するのはやめて真実の姿に戻っていたことだろう。
 まてよ、と言おうと振り向いたところで、彼女の姿は消えた。
 1月だというのにやたら生臭く、暖かい風。目の前に見えている景色が現実なのか、はたまた彼女の見せている幻術なのか。意識を手放す前に見た巫女服の下は、黄金の毛並みがびっしりと生えそろっていた。
 そんな風に思っている。ひょっとすると、夢かもしれないけど。
 時間にすれば30分にも満たない時間だっただろうが、息子の体調の悪さと先祖代々の嫌な予感を引っ提げて神社に踏み込んだ父の言うことには、俺は本殿の賽銭箱の前で倒れていたらしい。
 気絶ほど大げさな倒れ方じゃなくて、ただ安息に、スース―寝息を立てていたとか。
「…………キツネにつままれた?」

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「頭はスッキリしたか?」
 家に帰ると、仏壇の前に座布団を並べて、お爺様が正座で鎮座していた。お婆様はお神酒を持って脇にいる。
 え? 何? 洒落怖?
「お前の前にも氏神様が現れたということで、ひとまず伝えておく」
 お爺様が咳ばらいをする。そして、お神酒を口に含む。神妙な顔をして。……ダメだ笑う、こんなジジイ見たことないんだが。
「アレ……じゃなかった、氏神様については、結局のところよくわからん。ただ、私のお爺様やひいお爺様の前にも、同じようにあらわれて、同じように処置をしたとは聞いている」
 あら、俺だけじゃなかったの。結局されたことはよくわからないが、効果としてはとても覿面。二日酔いの頭はスッキリしたし持たれていた胃はさっぱりした。
 なんか地味な効果だが、
「私らは、結局アレを、ウチの一族に憑いてる専属の神様だと結論付けているよ」
 先に言えよ。
 まあ、実際に事に出会ってみないと俄かには信じがたいというのはその通りだけど。中学生や高校生にこんな話したってコピペですか?とか厨二小説でも読みました?が落ちだろう。
 あ、そうだ。ところで。
「氏神様の素顔って、見ました?」
「素顔……?」
 お爺様と親父様が顔を見合わせる。どうやらそこまでは知らないらしい。
 あれで案外恥ずかしがりやなところもあるのかもしれない。
「気にしたこともないな」
 ……マジ?
 それはそれで自分の着眼点がちょっと異端なのかなと思うけど。
「毎年来いって言われただろ? 氏神様もな、寂しいんだよ。」
「はぁ……」
 恥ずかしがり屋で寂しがりやな氏神様か……。寂れつつある田舎では割とよくある存在なのかもしれない。自分は神様のことは全くわからないけど。

 帰り道は電車に乗って大きな駅に出た後高速バスだ。交通費がふんだんに出れば新幹線を使ったが、よく考えたらこれから新年会でバンバンお金が飛んでいくんだった。
 駅に行くまでの道には、例の神社はない。わざわざ寄り道しないと鳥居すら拝めない。
 父が言うにはほかの親戚の前には現れないし、かといって正月以外に来ても例の巫女はいないらしい。正月に他の氏族も参拝に来るんじゃないの、と聞いたら、ヨソの家のことまではわからないと言われた。ごもっとも。

 最後に、もう例の巫女は見えなかったが、茂みに埋もれた例の独特な狛犬を見た。確かに同じイヌ科……なんだろうけど……。
   コーン!!

 鳴き声に振り返っても、もちろん何もいなかった。まっすぐ駅に向かって、進級のための勉強をしないといけない。
 来年もまたここには来てあげよう。


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12月31日の21時くらいに急に舞い降りてきて一心不乱に書いてました。いやだからまったく推敲とかしてないんですけど、縁起物だと思ってください。
1月2日のお話を1月1日に読めるのは今だけ!

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