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兎の耳はデリケー蜥蜴 の変更点


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この作品には&color(red){流血表現、BL};等が含まれます。
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* 兎の耳はデリケー蜥蜴[#E5000B]

 誰にも言えない秘密。
 言葉にするとそれは何だか大仰な響きを含ませるが、いざ話してみると物事は単純なもので後々どうして悩んでいたのだろうと馬鹿らしくなったり笑い話に転換したりする事の方が多い。
 秘密が秘密で無くなった時、その蜜蝋の味が忘れられなくなるあの感覚は何なのだろうと兎は妹からの悩み相談に向き合いつつ一匹そんな事を考える。
「オレ達一族は足の器用さにばかり目が行くけれど、実はもっと大事な物があるんだよ」
「それがさっき言ってた耳掃除?」
「そう、特にラビフットはより意識した方がいいな」
「どうして?」
「ヒバニーの頃は気にならなかったのに今は違うだろう?」
「うん、時々ムズムズして痒くなる」
「お前の年頃だとな、蒸れやすくなる上に汚れが蓄積しやすいからそうなりやすいんだ」
 自分もかつてそうだった様に耳を手繰り寄せ、擬似的に垂らした耳を使って解説を続けていく。
「面倒だろうが毎日一、二回はこうやって耳を持ち上げてだな、通気性を良くして中の湿気を取り除くんだ。そうすることで痒くは無くなるよ」
「兄さんもそうしてたの?」
「いや、オレは……」
 
「いえ、彼は面倒くさがり屋でしたからね。いつも痒い痒いと耳を引っ掻いたりして生傷が絶えなかったものですよ。ほら、ここなんかまだ痕が残ってる」
「インテレオンお兄ちゃんこんにちは」
「……おう」
 
「はい、こんにちはラビちゃん。泣き喚く彼をこうやって私がケアしてあげたものです。懐かしいですね」
「そうだったの?」
「……おう。インテレオン、いつまでオレの耳弄ってんだよ」

「いえ、また耳関連の問題でも起こしたのかなと思いましてね。触診しているのですが」
「もうそういう年じゃねーだろ」
「兄さんの耳の咬み痕ってそういう理由だったの……」

「おや、何だと思っていたんです?」
「激しいバトルで負った名誉の傷かなって」
「……おう」
 上目遣いのアイコンタクトを送る兎へ察した蜥蜴は優雅に手を添えて肯定とともに嘯いた。
 それが嘘だと分かるのは秘密を共有した二匹だけの共通事項である。
「お兄さんのアドバイスも的確ですが、君の年頃でしたら元気一杯に跳び跳ねているだけでも自然解決しますよ」
「ほんと? でも落ち着きがないって思われちゃう……」
「他者の視線を気にする君の優しさは美徳ですが、それで君の元気が損なわれてしまうのでは本末転倒です」
「そっかぁ……うん、何かスッキリした! ありがとうお兄ちゃん! ジメちゃんとこ行ってくるね!」
 どういたしましてと兎の耳を手に見立てて見送り、姿が見えなくなる頃合で蜥蜴が意地悪く兎に訊く。
「名誉の傷……ねぇ」
「何だよ」
「たった一文字変えるだけで随分と印象は変わりますねぇ」
「言っとくが、あいつが勝手にそう思い込んでただけだぞ。第一他へ聞かせる話じゃねえよ」
「ええ、貴方は嘘をつくのがとても下手ですからね。だから私が代わって誤魔化すのでしょう?」
 耳の傷痕へ蜥蜴の口先が這い、次いでに牙が這うと収まるべき鞘を見つけたかの様に傷痕と歯並びの位置が一致した。
 甘く刺し貫く痛みに兎は全身を戦慄かせ、詰まる呼吸と共に艶声を漏らす。
「名誉の傷ではないと知ったらあの子どんな顔をするんでしょうね」
「オレ達だけの秘密じゃなかったのかよ」
「ええ、当然秘密にしますとも。この傷痕に誓いましたからね。その度にこうして――」
 花弁を千切られる痛みが脳髄を焼き、危険のシグナルを乗せた電気信号が全身を駆け巡る。
 耳を伝う鮮血は薄く幾重にも走る毛細血管の枝を覆い隠して下流へと流れていく。
 じわじわと耳奥へ浸食する洪水を蜥蜴の指が塞き止めた。
「――秘密の契約を更新していくんです。だから貴方の耳は何時まで経っても『治らない』」
「このド変態がッ……」
「それはお互い様ですよ。お互いがそう望み、結果として歪な関係を続けている。お互いに妻子が居るにも拘らず、またこうして秘密を重ねていく……ねぇ、どんな気持ちなんです? あの頃の私達と今の私達はどう変わってしまったんでしょうねぇ」
 郷愁にも似た思いを馳せる蜥蜴へ兎の蹴りが飛ぶ。
 あらかじめ反撃が来ることを予測していたのか、蜥蜴は動じることもなく片手でそれをいなして兎と対面する。
 血の色に映える緋色の眼が激しく揺らめき、彼らしいと心中で称賛を向けながら指を濡らす返り血を舐め、舌の上へわざとらしく擦り付ける。
 挑発する蜥蜴の誘いに乗らず、脱兎として背を向け奔る兎もまた蜥蜴は分かっている体でおやおやと嘯いた。
 逃げる兎と追う蜥蜴。
 双方の速力は互角なようにも見えたが、僅かながらに蜥蜴の方が勝る。
 現に双方の距離は徐々に詰まりつつあり、手を伸ばせば届く距離を蜥蜴の飛翔が一気に縮めた。
 始めに手を、肩を、腰を、順に蜥蜴の手で絡め取られ、止めとばかりに長い尾も使って自分ごと兎を巻いて拘束し、勢いのままに坂を転げ落ちて花畑の中へと消えていく。
 衝撃と風に煽られ散った花弁の雨の中、炎と水はどちらとも主張を張り起たせ、荒い呼吸を整えつつ間を捏ね繰り、各々が後に広げられる展開を過去と照らし合わせながら夢想する。
 先走る思いはやがて擦れる水音を孕み、見下ろす蒼月が三度訊く。
 三度どころかそれは双方の合意の合図として定着されており、過去の分を照らし合わせれば十以上も繰り越されていた。
「ねぇ、エースバーン。あの頃と今の私達はどう変わったんでしょうねぇ」
 それを訊かされる度に思い出す。
 始まりのあの頃を。

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「痛ッ!」
「そんなに掻き毟ったらそりゃ痛いでしょ。バカなの? 定期的にケアしろって何度も言ってるじゃん」
「そうは言うけどさぁ。実際取り組むと面倒臭いんだよこれ」
「だからって毎回君のケアに付き合わされる僕の身にもなってよ」
 悪びれない笑顔を向ける子兎に嘆息しつつも献身的にケアを続ける小蜥蜴は手慣れたもので、子兎が自傷した傷や蓄積した汚れを纏めて長舌で小削げ取り、咥内で綺麗にしてはを繰り返して物臭な子兎を清潔に整えていく。
 それはもう彼らのルーチンワークとして組み込まれ、文句を言いつつも互いを信じて身を寄せ会う甘えの現れとして発露されていた。
「はい、綺麗になったよ」
「おう、ありがとなジメレオン!」
「全く……毎回毎回口の中が血の味で一杯だよ」
「美味しい?」
 他意はなく、純粋な質問をぶつける子兎へ呆れ気味に小蜥蜴は軽蔑の眼差しを向ける。
「美味しいわけないでしょ……どんな質問だよそれ」
「いやー、何か急に気になって」
「まぁ……不味いって訳でもないけど」
「けど?」
「……ほんのり甘いかな」
「甘い!? えっ、ちょっとオレも味見する!」
「いや、もう血止まってるでしょ……」
 本物の馬鹿に付き合いきれない投げ槍気味な塩対応に肩を項垂れるも、何かを閃いたのか直ぐに笑顔に太陽を貼り付ける。
 喜怒哀楽が激しすぎると静観する月の陰りは次の子兎の質問で更に濃さを増す。
「ごめん、聞き間違えたかもしれないからもう一回最初から言って?」
「おう! ジメレオンの舌にまだ血の味が残ってるかもしれないだろ?」
「うんうん」
「だからオレがそれを舐めれば甘いかどうか分かる!」
「ごめん、聞き間違えたかもしれないからもう一回言って?」
「何度やるんだよ!」
「それを君が言うのかよ……!」
 売り言葉に買い言葉で収拾がつかない。
 子兎も頑固だが小蜥蜴も相応なもので、互いに譲らないやり取りに疲れたのか小蜥蜴が折れた。
「はぁ……ちょっとだけだからな? 舐めたらすぐ止めろよ?」
「おう!」
 何で僕はこんな奴と友達になったんだろうと愚痴を零しつつも、小蜥蜴が舌を吐き出そうと咥内を脱力する所で子兎に阻まれた。
 口先から飛び出すつもりの舌は子兎の口付けによって中に押し止められ、逆に子兎の小さな舌が小蜥蜴の肉厚な舌に触れる。
 予想とは違う行動の展開に小蜥蜴は全身を強張らせ、されるがままに子兎の舌の蹂躙に堪えていた。
 秒の桁が一か十か計ることさえも忘れ、口腔内で繰り広げられる小さな闘いに勝利した子兎が口先を離すと銀糸が垂れ、自重に伴って地を小さく染める。
 放心している小蜥蜴はさておいて子兎は自分の味に全神経を集中させ、数秒の間を経ていつもの調子に戻る。
 もっとも片方はそうではなく、身勝手な子兎の言動へついに堪忍袋の緒が切れた剣幕を見せていた。
「自分が何をしたか分かってる?」
「はい……」
「僕が舌を出せばそれで済むことなのにあろうことか君は僕の制止も聞かないばかりか、僕のファーストキスを奪ったんだけど、何か申し上げる事は?」
「甘くなかった!」
「よし分かった、お前がそういうなら体に分からせてやる」
 掌に全神経を集中させると水滴が滲み溢れ、小さな水溜まりは徐々に塊を伴って形成されていく。
 それを見た子兎も流石に反省はしているようで、涙をうっすらと浮かべながら謝罪した。
「ごめん。そんなに嫌だとは思ってなかったんだよ」
「……」
「オレも初めてのキスだけど、お前ならいいかなって……ごめん」
「……別に……じゃない」
「うん?」
「別に嫌じゃない。急すぎたから吃驚しただけだ」
「……ホント?」
「君が無理矢理引っ剥がすからだよ。僕は自分の本心をあまり他者に晒したくないのにさ」
 照れ隠しで顔を背ける小蜥蜴だが、子兎にはまた彼を怒らせたと思ったのか目線をそっと下げる。
「ごめん。昔みたいにまた遊べたらなって思ってたんだ」
「……いつまでも同じじゃ居られないって君も分かってるだろう?」
「うん。でももう少しだけ遊べたらなって……お前が嫌々ながらもオレのワガママに付き合ってくれてるの、本当はダメだと分かっててもその優しさに甘えていたんだ」
「……そうだね」
「だからさ、もう止めるよ。次からはちゃんと自分で面倒見るし、もう、お前に……迷惑も、かけない……」
 感極まって語彙が怪しくなり、ついには泣き出した子兎に小蜥蜴は黙って背中を差し出す。
 牡としてのプライドを守らせたい小蜥蜴なりの粋な計らいだった。
 その優しさが子兎を更に駄目にする側面を抱えていても、今回限りは赦されるだろうと甘さを見せる。
 何処までも友達には甘い小蜥蜴の弱さで、何処までも優しい小蜥蜴の強さだった。
 やがて背中を濡らす感覚が乾きだした頃合で、小蜥蜴が子兎に訊く。
 思えばそれが双方のターニングポイントであったのかもしれない。
 
「僕無しで本当にやっていけるの?」
「……分かんない、けどそうしなきゃいけないんだろ」
「正直なことを言うとさ」
「うん」
 
「僕もまだ隣に君が居てくれたらな、と思うことはある」
「……うん」
「ついでにいえば僕は君をケアしている時間が実のところ好きだった」
「そうなのか?」
 
「そうなんだよ。けれどその時間の代償はとてつもなく大きかった」
「……代償?」
「君をケアする度に、間が空く度に、疼くんだ。君の血をもっと啜りたいって」
「……え」
 
「これが僕が頑なに本心を見せたくなかった理由さ。君をケアする傍らで心の中の何処かでは君を滅茶苦茶にしたいって思う僕も居たんだ」
「……それは、好き、だから?」
「分からない。そうなのかもしれない。今は君の事を好きと言う感覚に近い部分はあるのかもしれないけれど」
「けれど?」
 
「その気持ちも時が経てば薄れて行くのかもしれない。狂気に染まりかけている自分も小さくなって何時かは忘れてしまうのかもしれない」
「しれないばかりじゃないか」
「未来のことは誰にも分からないからさ」
「……ジメレオンは未来で何をしたい?」

「……そうだな……素敵な奥さんを見つけて子供を作って……幸せにやってるよって君に見せびらかしてやりたいな」
「何か悪意を感じるんだけど」
「気のせいだろ。そういうラビフットこそどうなのさ」
「……分かんない」

「分からないって事は無いだろう? 成りたい自分のイメージとか無いのか?」
「今の事しか考えられないオレには、もっとジメレオンとこうして居たいって事しか分からないよ」
「……そういう事言うと揺らぐから止めろよ」
「ごめん」

「……君は僕を誑かす天才だな」
「……ありがとう?」
「誉めてないけどまぁいいよそれで」
「ジメレオンが本心を話してくれたからオレも白状するけどさ」

「……うん」
「ジメレオンがオレの事を好きって言ってくれた様に、オレもジメレオンの事好きなんだと思う」
「じゃなきゃ毎回こうやってケアする関係を続けてはいないだろうね」
「分かってたの?」

「確信は無かったけど、僕が君なら幾ら何でも甘えすぎかなって」
「それは、ゴメン。うん、そうなんだよ」
「何がそう?」
「オレもジメレオンも好きと言うだけでその好きは何処から来る物なのか、ちゃんと解ってないんだよ」

「……君って時々鋭いよね」
「だからさ、それを確かめない?」
「確かめる?」
「オレと交尾しよう」

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 記憶の滞留が現実に引き戻され、舞台が現在の二匹に擦り変わる。
 蕩ける倦怠感が束の間に見せる過去の残留へ思い出す様に蜥蜴が兎に訊く。
「エースバーン、まだあの頃の事覚えてる?」
「……どの頃の事だよ」
「君が僕に交尾しようって言った頃の事」
「……このっ……状況でそれをっ……訊くとか……頭おかしい……んじゃねぇの……!」
 夢の子兎が告げた告白の通り、子兎と小蜥蜴は一夜の関係を契った。
 その証として子兎は耳に傷を遺し、小蜥蜴は心に傷を遺した。
 そしてそれは今もまだ、こうして続いている。
 蜥蜴が兎に再契約として契り交わす度に。
 薄れては染め直す互いの『好き』を。
 歪んで拗くれた愛の形を周りの普通と擬態させる為に。
 繋がりを解かず、ただただ愛を確かめる。
 あの頃の自分と、今の自分を。
 変わってしまった自分と、変われない自分を。
 欠けた心を埋め合わせ、欠けた時間を埋め合わせ、決して戻らない関係を。
 二匹は何度も何度も契り直す。

 それが二匹だけの秘密。
 誰にも悟られてはいけない禁断の蜜蝋。
 甘さを失くした甘味の末路。
 出涸らしをただただ搾り尽くして。
 搾り尽くして。

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 後書

 書いたのは3月3日なのですが、メンテナンスで入れなくてついさっき復旧に気づいたのでこのタイミングながら新作投稿。
 性癖は治らないのでもう自分の好みをひたすら曝け出せ。
 好きな奴だけついてこいstyleで生きていく。

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