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光、進化に立ち会う の変更点


writer is [[双牙連刃]]

しばらく停滞していた光の続編です。
この話からちょっと仕様が違いますが、ご了承下さいませ。
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 俺は今、二人分の昼飯を取りにキッチンへ来ている。
 二人っつうのはもちろん俺とリィの分。俺の世話係も継続したままって事だ。
 やっぱり心の傷ってぇのは厄介なもんだよな。まだマスター以外の人間には抵抗あるみたいで、外を出歩くのは無理なんよ。

「今日の昼飯は何かいなっと、ふむ、マトマサンドか。悪くないな」

 昼飯はいつも朝の内にマスターかレンが作っていってくれてるもんを頂いてんだ。本来なら俺が作れれば良いんだがな。
 で、今日はマトマの実のスライスとハムとレタス。そいつ等を食パンで挟んだマトマサンド~。適度な辛さが売りのサンドイッチだ。
 なかなか旨いからありがたいぜ。作りがしっかりしてるから、今日作ってくれたのはレンだな。帰ってきたら礼を言っとこう。
 さて、冷蔵庫から皿に乗ったこいつをリビングまで運ぶんだが、その際はもちろん両前足は塞がる。つまり後ろ足だけで歩く二足歩行モードだな。
 おっと、前と一緒だと思うなよ? あれから5日、俺は修行を続けたのだ! 具体的に言えば、普段は常に後ろ足だけで歩くようにしていたのだ!
 最初は笑われたさ! プラスからもソウからもレオからもフロストからもリーフからもマスターからも! はぁ、はぁ……。
 でも俺は挫けなかった! お陰で今はこの状態でも走れるぐらいまで二足歩行を極めた! 恥辱心は究極の成長促進剤だ!
 ま、走るとなんとなくミミロルっぽいから滅多にしないがな。なんつうか走るより跳ねる感じになっちまうんだよ。
 無駄話が過ぎたな。リィの奴が待ってるんだった。

「おーいリィ~、昼飯、待たせたな。ん?」

 返事が無いと思ったらソファーで寝ちまってる……待ちくたびれちまったか? 午前中は散々遊んでやったから疲れたのかな? (変な事してた訳じゃないからな? そういう事考えた奴は挙手! 感電させてやる!)
 茶色いふわふわの毛が寝息と共に僅かに揺れてる。気持ち良さそうに陽だまりで寝るもんだな。
 とりあえずはマトマサンドをテーブルに置いて、と。起こすのも気が引けるな。つっても腹は減ってるし、う~むどうしたもんか。
 ふむ、最近リィの寝顔なんて見てなかったな。しげしげと見るもんでもないが、こうして見ると顔立ちも整ってるし、他のイーブイよりハイランクの可愛さかもしれん。
 って! 俺は何をしてんだ!? リィの寝顔に顔近づけてたし! まるで寝込みを襲おうとしてる変態じゃないか! 落ち着けライト、お前はそんな奴じゃないはずだ!

「あっぶね~、危うく犯罪者だぜ……」

 リィにドキドキする事になるとは思いもしなかったぜ……ん? 俺は今ドキドキしてんのか? いや、まさかな。
 また変な事をしでかす前にリィを起こしますか。

「おーい、リィ起き……」

 言いかけて俺は固まった。一瞬だったんだ。ほんの一瞬俺は後ろを向いてただけだったんだ。
 リィが……光っとる!

「うぉぉ!? リィ!? おい、リィ! 起きろー!」
「ん、ふぅ……どしたのライト? そんな大きな声出して」
「ちょっ、落ち着いて自分の体を見てみろ!」
「まずはライトが落ち着きなよ。僕の体なんて何とも……」

 リィが固まった。自分の変化を目の当たりにして。そりゃそうだよな、いきなり光ってんだし。
 次にリィがこっちを向く。案の定目は潤んでる。生来泣き虫だからな。俺の影響で大分薄まってはいるが。

「ふぇぇ、ぼ、僕どうなっちゃったの? ライト助けてぇ、僕まだ死にたくないよぉ」

 そう言って俺にリィが抱きついてくる。いや、もうなんかありがとうございます。

「い、いや、死にはしないと思うぞ。冷静に考えれば俺はその状態を見た事がある。というか、おそらくこの家のプラスとソウ以外のポケモンなら一度はなってる」
「ほ、本当!? よかったぁ。で、これって……何?」
「恐らくは進化の光、なんだが……」

 リィの体に変化が無い。こんなに光ってんのに無変化? どうなってんだ?

「へぇぇ、じゃあ僕進化しかけてるんだ。でも、何ともないんだけど」
「そうなのか? う~ん、変だな? もうとっくに体が変化し終わっても良い頃なんだけどな」

 一向に光ったまま変化が無い。わかんねぇ、本当なら光りだした途端に変化が現れだす筈なのに?
 あ、光が止んでいく。リィは……結局イーブイのままか。

「なんだよ、進化しないじゃん。ライトぉ、本当に進化の時の奴だったの? 今のって」
「その筈だぞ? リィ、フラッシュなんて使えないよな?」
「ライトやプラスにぃじゃあるまいし、そんなの使えないよ」
「だよなぁ」

 じゃあ今のは一体……。
 一人で悩んでもしょうがなさそうだな。皆が帰ってくるのを待つしかないか。

「な~んか僕お腹空いちゃったよ。ライト、ご飯食べよ?」
「あ、あぁ、そうだな。とりあえず離れてくれ」
「あ、僕抱きついたままだった。ゴメンゴメン」

 やっとリィが離れたよ……上目遣い、つーか見上げられながらの会話はなかなかに精神ダメージ大だな。やばかったぜ、色々と。

「わ~いマトマサンドだ~! 僕からいの嫌いだけどこれは好き~」
「良かったな。さ、食べようぜ」
「は~い! いただきま~す!」

 旨そうにほおばってるな。機嫌は悪くなってないようだ。良かった。
 って、また光りだしとる~! なんなんだ一体!?

「おいリィ! また光ってるぞ!」
「あ、本当だ。なんともないし、ほっとこうよ。ライト食べないなら貰っちゃうぞ~」
「あ! 俺の分にまで手ぇ出すなって! 俺だって腹減ってんだから!」

 うむ、こういう時って周りは騒ぐが本人は冷静ってよくある事だよな。リィの場合はもうちょっと考えた方がいい気もしないではないが。
 なんにせよマスター待ちだなこりゃ。

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「……て事があった訳よ。でだ、一度進化したことがある皆とマスターに意見を聞きたくてこうして集まってもらったわけ」

 時刻は進んでもうすぐ日が沈む夕方、リビングのテーブルを囲むようにして俺を含む五匹と一人がリィの進化光の謎についての話し合いを始めようとしております。

「進化の光に包まれながらも進化しない……そんな現象は聞いたことも無いな」

 最初に口を開いたのはレオ。二回も進化をしている観点から言えば、この問題の答えに一番近い答えを導き出してくれそうな予感がする。

「私もイーブイから進化した一人だけど、光に包まれてからすぐに体の変化は始まったわね」
 
 次がフロスト。彼女も賢いグレイシアだからこういう議論では頼りになる。

「私はバトルした時に進化したから、この問題とはあまり関係無いし、お役に立てないかもです……」
「いや、全然大丈夫だぞリーフ。俺たちの話を聞いてて引っかかることがあったらどしどし言ってくれ」
「はい! 分かりましたです!」

 そしてリーフ。ベイリーフだがツッコミの切れの良さはなかなか侮れない。葉っぱカッターの威力も高いし。関係ないか。

「私の進化が一番近いのかなぁ? ねぇ、ご主人?」
「あぁ、俺もそう思ってたんだ」

 そしてレンとマスターのハヤト。どっちも有力な情報を持っていそうだ。

「よし! 此処に、第一回ハヤト家会議を開始する! お題は『何故リィは進化の光が出ているのに進化しないのか』だ!」
「その前に、ライト、何故お前が司会役なのだ?」
「こまけぇこたぁいいんだよ! 第一に、現状を見てるのは俺だけだしな」
「ふむ……まあいいだろう」

 納得したようだな。この会議についての意見はいいんだよ!

「ところで、当事者のリィが居ないのはなんでなの?」
「退屈そうだから遊んでる。だ、そうだ」
「全く……そんなにのん気な子だったかしら?」
「気にしない気にしない。あれでも昼間は結構ショック受けてたからな」
「ふ~ん」

 因みに、今リィはソウとプラスに相手をさせてます。蚊帳の外にしたい訳じゃないんだが、進化しない二人に話を聞くのもちと酷なような気がしたんだ。許せ、二人とも。

「話を戻すぞ。リィの奴は見ての通りイーブイだ。進化の条件が揃えばすぐに進化を始める。のだが、光るばかりで肝心の進化が起きない。俺には理由が分からん」
「ふむ、リィの近くに進化用の石の類は無かったのか? それにリィの体が反応した可能性はあるぞ」
「それならその可能性はオミット出来るよレオ。この家には進化用の石は俺の部屋にしか無いし、さっき確認したら閉まった場所にちゃんとあったからね」
「む、主殿がそう言うならこの可能性は省かれるか」

 進化の条件1 石による進化は除外されたな。

「この家の近くの公園に一箇所、自然の力っていうんでしょうか? 私が元気になれる場所はありますけど、そこにも行ってないですよね?」
「うむ、リィと俺は今日、庭と家の中以外には行ってないな」
「この家から出ていない以上、リーフィアや、あたしと同じグレイシアに進化しようとしているんじゃなさそうね」

 進化の条件2 特定の場所へ行っての進化も除外された。つまり、後の進化条件は……。

「じゃあ私と同じ懐き進化だねぇ。誰に懐いたんだろぉ? 私は一応、ご主人だったよねぇ」
「一応は酷いよレン……」

 うん、レンの言うとおりだな。そうなると、エーフィかブラッキーになろうとして発光した訳か。

「よ~し! 何に進化しようとしているかは特定できたな!」
「エーフィかブラッキー……この場合、昼間に進化しようとした訳だからエーフィかしら?」
「いや、結局進化していないからブラッキーである可能性も否定出来ない」
「いやいやお二人さん、問題は何に進化するかじゃなくて、何で進化しないかなんだよ」
「そうだったな。論点を間違えていた」
「でもちょっと興味あるじゃない? リィは結局何になりたいのかしら?」

 フロストの意見も確かに。進化しない謎を解いても、結局進化するのはリィなんだから聞いておかなきゃならんな。

「は~い議長のライトさ~ん」
「なんだレン? いきなり手なんか上げて?」
「私のさっきの疑問、リィちゃんが誰に懐いて進化しようとしてるのかが気になりま~す」
「私も気になるです!」

 ……流れを断ち切ってまでする議論じゃない気がするのは俺だけ?

「あはは、なんだ、分からないの二人とも」
「へぇ? ご主人には分かってるのぉ?」
「だ、誰なんです!?」
「進化しちゃうほどリィに懐かれてる奴なんて……」
「この家には……」
「一匹しか……」
「「「居ないでしょ」」」

 そこの暑苦しいのと居るだけで場を涼しくする奴と人間! 一斉にこっちを見んな!

「あ~」
「なるほどです」

 二匹も納得しない! 可能性は高そうだなとは俺も思ってたけど!

「やっぱり……俺?」

 全員一致で頷きやがった……何この団結力。

「んな!? んな事今はいいんだよ!」
「あ~ライトちょっと赤くなってる~」
「茶化すな! ったく、これ以上はリィが居ないと駄目なようだから、リィ呼んでくるから待ってろよ」

 な~んか恥ずかしい……くそっ、何故にリィの事で俺が顔赤くせにゃならんのだ!
 さっさと席を立……。

「師匠ぉぉぉぉぉ! リィっちが大変っすーーー!」
「ライト兄ちゃん! リィが……リィが……」

 あ、この二人に説明すんの忘れてたぜ。迂闊。
 そうそう、あのプラスとリィ誘拐事件の後、急にプラスの奴は俺を呼ぶ時『兄ちゃん』と付けるようになったんだ。リィは相変わらず呼び捨てなんだが。

「光りだしちゃったよー!」
「あぁ、説明すんのめんどいから後でな」
「二人とも、僕が光ったくらいで驚き過ぎだよ」

 後からリィも来た。呼ぶ手間が省けてよかったか。ていうか何でそんなに余裕なんだリィの奴……。

「ほ、本当に光っているな」
「ホンとね……」
「わぁ~、リィちゃんすごぉ~い」
「ビックリです!」
「おぉ、見事に光ってるね」

 はい、多種多様な感想でした~。何故にレンはそんなに余裕があるんだ?

「私が進化した時とやっぱり似てるねぇ~」
「そう、だな」
「二人とも、さっきもそんな事言ってたが、何か知ってるのか?」
「ん~、とりあえず皆が座ったらお話するねぇ~」

 なんなんだ? すげぇ気になるじゃねえか! 話す気はあるみたいだからいいんだけどな。

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 二人への説明はフロストとレオにまかせた。俺? 疲れたからちと休憩だ。

「と言う事がリィには起きているのよ」
「分かったか? 二人とも」
「なるほどっす!」
「へぇ~進化って大変なんだね。僕は出来ないけど」

 説明も終わったみたいだな。よしよし。

「お待たせライト。続きといきましょう」
「続きと言っても、リィが何になりたいか聞くところからだがな」
「いや、その前にレンとマスターの話を聞くぞ」
「? 急に変更か? リィの進化先についてはいいのか?」
「そいつは後で聞くさ。もしかしたらリィが進化しない理由が分かるかも知れねぇんだと」
「ほほぅ、それならば興味がある。聞かせてもらおう」
「オーケーだな? じゃあ、レン、マスター、よろしく!」
「は~い」
「まかされたよ」

 レンが何かを思いだすように軽く宙を仰いだ後、ゆっくりと話し始めた。

「私ね、進化する前の晩、何でか眠れなかったの。今思うと、その時から進化の予兆は始まってたのかもねぇ」
「ほう、光ってはいないが、確かに今回のリィに似ている……か?」
「話は続くんだから大人しく聞いてなさいよ」
「う、むぅ」

 フロストとレオって、力関係フロストの方が上なのな。氷タイプに圧される炎タイプ……面白いんでねえの。

「でね、自分の部屋に居ても眠れないから、リビングのソファーでどうしたのかな、って悩んでたの」
「ソファー……此処のことだよな」
「うん。そしたらね、私の足音聞いてご主人がリビングに見に来てくれたの」
「うぉぉ、おれっちが寝てる間にそんな事が起こってたっすか!」
「煩いわね。氷像になりたいの?」
「ひ、ひぃぃぃぃ……」

 フロストの目が何故かキラキラしてるぞ。こういう話好きなのか?

「ご主人ね、どうしたの? って心配そうに聞いてくれたから、私も正直に眠れないのって伝えたんだ」
「レンねぇが眠れないのってちょっと心配になるよね。普段が寝付き良いし」
「そうなのか?」
「うん。一応一緒の部屋で寝てるから分かるんだけど、必ず先に寝ちゃうよ」
「ほ~ん」

 ふむ、リィが言ったとおり、俺がプラスと相部屋なように、リィはレンの部屋で寝ているのだ。早く一人部屋が欲しいもんだ。

「そしたら、じゃあ眠くなるまで一緒に居てあげる、って」
「お~、優しいんでねぇの? マスターもやるねぇ」
「自分の家族の為さ。当然だろ?」

 ふふ、自分の手持ちのポケモンの事を恥ずかしげも無く家族と言い切れるのがマスターの最大の長所だな。これでバトルの実力があればなお良いトレーナーだったのにな。

「嬉しかったなぁ。ちゃんと心配してくれてるんだって。それでその後は、ご主人の膝枕で朝までぐっすりぃ」
「へぇ~、なんだか心温まるストーリーですぅ」
「本当ねぇ……」

 リーフは若干うっとり、フロストは……感動してんのか? 若干目に光るものが見えるような……。

「ん? 何見てんのよアンタは!」
「い、いや待てフロスト! 俺は別に……って飛ばすな! 氷を飛ばすんじゃない!」
「ぎゃあーー! 室内で暴れないでくれーー!」
「あ、あれ? 私が話してる間に何があったのぉ?」

 ……フロストの照れ隠し、最強です。そしてレンは気付いてなかったのか!? それだけ一生懸命話してくれたってことだよな。うん、ここは感謝で。
 ってか、他の奴等何処行った! ……居た! 皆してキッチンの方に逃げてるし! てかプラス寝てたのか! 通りで一言も話さない訳だ。目ぇ擦ってるし。
 リビングは悲惨だ……刺さる氷、氷が溶けて水を被る家具、避ける俺、ひたすら氷を飛ばしてくるフロスト、それを眺めるレン、悲鳴を上げるマスター。
 そのカオスな状況はもうすぐ終わろうとしている。

「い! やばっ! 避けれな……いぎゃあああぁぁぁぁぁ!」

 そして、俺が最後に見たのは真っ白になったマスターの姿だった……。

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 俺は戻ってきたぜ! 氷像化という現象からな!
 洒落になんねぇ……俺を支えてくれたのは、寝たら死ぬっていう自分の強い意志だった。誰か助けてくれても良かったんじゃねえか!? 結局溶けるまで放置って……。
 ん? 話はどうなったって? まだ途中なはずだ! これじゃレンの不眠症の時の話になっちまうだろ!

「う、うぅ、さみぃ……」

 当たり前だよな。凍らされてたんだから。

「大丈夫ライト? うわぁ、体超冷えてるよ」
「リィか、大丈夫、じゃねぇが何とかなる……と思う」
「心配させないでよね? もう」

 そう言って俺にペッタリとくっ付いてくる。あったけぇ~。でも、これじゃリィが冷えちまうな。

「おいおい、無理しなくていいって。寒いだろ?」
「無理させたくないなら早く温かくなって。それまでは僕が温めるから」

 無茶言いなさるね。体でも動かさねぇと無理だっての。でもリィに触れてると心地いい……少しの間だけお言葉に甘えさせてもらおう。

「すまねぇ、もうちょい動くの無理そうだから、頼めるか?」
「ん!」

 抱っこする形で座りなおさせてもらった。ん? なんかリィの体温が上がってるような? 気のせいか。

「そういや、リィ。 他の奴は?」
「ん? 周り見てみなよ」

 おお! 皆せっせとリビングの片付け、もとい修繕作業中か。
 レオがフロストが撒き散らした氷を溶かして、ついでに溶かした後の水気も蒸発させてる。
 んで、プラスがフローリングの雑巾がけ。ソウとリーフで穴開いた壁の修復。すげぇ、ソウが木材切り出してそれをリーフが壁に草結びで固定しとる。ってか草!? 何故壁から草が!? ミステリーだ……。
 ええっと? レンとフロストは……。

「あぁ、やっと出られたの。結構時間掛かったわね」
「あ~! ライトが直った~。よかったぁ」

 近くに居たし! ん? マスターがソファーで横になってる。レンはそれを介抱してたのか。フロストは氷水の作成係ね。

「てめこのフロスト! 冗談じゃねえぞ! 危うくあっちの世界にコンニチワするところだったじゃねぇか!」
「生きてるんだから別にいいでしょ。もう少しそうやってリィに温めてもらってなさい」

 生きてりゃいいって、恐ろしい奴……。
 ふぅ、凍ってる間にこんなバタバタしてたとはな。まぁ、日も沈んでもう夜になってんだ。小一時間凍ってたっぽいからなんか変化が無いとその方が変だけど。
 さて、体の方は……もう動くな。そろそろリィを開放するか。

「悪かったなリィ。もう大丈夫だ」
「え、もういいの? 僕はまだ大丈夫だけど」
「無理すんなって、顔、ちょっと赤くなってんぜ? 風邪引かれたら悪いだろ」
「あ、え、ここ、これは……」
「アンタ、予想以上に鈍いわねぇ」
「ん? なんか言ったかフロスト」
「いえ別に?」

 むぅ、勘は鋭い方だと自負してるんだが、鈍い? なんのこっちゃ。

「ところでレン。なんでマスターが倒れてんだ?」
「うんとね、ライトが凍っちゃった後に、ご主人、部屋の有様見て気絶しちゃったの」
「あぁ、納得だ」

 そういや凍る前に白く燃え尽きてたっけ。酷な事しちまったな。俺じゃないけど。

「この分じゃ話の続きはまだ無理そうだな」
「それなんだけどね、私の話はあれで終わりなの」
「なんと!?」

 あ、あれで終わり? じゃあ全く関係無いじゃねえか! 勘弁してくれよ、凍らされ損じゃねえか。

「でもねでもね、私の話は前ふりでぇ、肝心な話はご主人の方の話しなのぉ」
「ま、前振り?」
「だって、いきなり話し出しても話の経緯が分かんないでしょ? だから、先に私が話したのぉ」
「あ~、そういう事か。つまりは、だ」
「うん! ご主人が直らないと話の続きは無理なのぉ」

 はは、は、はぁ……つまりは待たなきゃいけないって事か。めんどくせぇな。
 凍ってた俺が言う事じゃねえな。
 しかし、一向にリィが離れない。別にいいんだが、ってまた光りだした。

「これも早く何とかしないとな」
「なんで光るだけなんだろうね?」
「いや、レン? それを考えるための話し合いを今してるんだからな?」
「そうだったねぇ~」
「皆、僕の為なんだよね……嬉しいな……」
「ふふふふっ」

 俺ら四匹、それぞれが適当に話をして時間が流れていった……。
 片付けもあらかた終わったみたいだし、後はマスターが回復すれば話の続き、だな。
 でも、何故にフロストは笑ってるんだ?

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 まだ日付は変わってないな。日付変更一時間前だ。
 やっとマスターが回復したぜ。リィもプラスもうとうとしながらもなんとか起きてる。プラスの方はほとんど目が開いてないから寝てるとも言えなくはないがな。
 
「ご、ゴメンね皆、あまりの事につい……」
「別にマスターが謝ることはないさ。悪いのは俺と……」
「アンタだけよ」

 この野郎! 人が言う前に割り込みやがって! いつか、これでもか! って言うくらい麻痺させてやろうか!
 まぁ、俺はそんな鬼畜野朗じゃないけどな。でもその涼しい顔、いつか歪めてやろう。変な意味じゃなくて。

「まあいい。さて、マスター? 話の続きはマスターの方が話すってレンから聞いたんだが」
「そうなんだけど……皆もう眠たそうだし、リィも現状、ほっといても大丈夫でしょ。今日はもう休もうか。どうせ明日休みだし」

 ふむ、俺以外の皆はもう限界そうだな。俺がなんで元気か? 凍ってたからだろうな。多分。

「そうするしかなさそうだな」
「うん。じゃあ今日は皆解散! ゆっくり休んでね!」

 ん? なんか言い方に違和感が……どうでもいいか。

「僕、もう限界……」
「うお! プラス、ちょぉ待てって! あ~あ、寝ちまったよ」
「あぁ、プラス君ずっと眠たそうだったからねぇ」
「仕方ない、俺が適当に運んどくわ。じゃ、皆お先~」

 眠たそうにしている皆に軽く挨拶して俺はリビングを後にした。なんとなくリィがこっち見てたような気がするが……レンが部屋まで連れてくだろ。

「よっと、布団掛けて……これならもうほっといてもいいよな」
「んぐぅ~~~……ふぐぅ~~~……」

 今のはプラスの寝息だ。こいつ、変わった寝息たてんのよ。慣れたから今は気にならないが、最初はまんじりとも寝れなかったぜ。
 今俺が居るのはプラスの部屋(兼俺の部屋。今はな)。カーテンもカーペットも黄色だから電気タイプの部屋って感じだな。
 ある物といえば、使われた形跡の無い勉強机とプラスのおもちゃ箱。後は俺達が使ってる二段ベットだな。
 元々はマスター達の子供部屋だったのを、使わなくなったからカーテンとカーペットだけ変えてプラス用の部屋にしたんだと。
 勉強机と二段ベットはその名残だそうだ。
 そういや二段ベットが有るのはこの部屋だけらしいが、レンの部屋はどうなってんのかな? 今はリィも寝てるはずなんだが……俺が気にすることじゃないか。

「さてと、俺も寝ますか」

 俺は二段ベットの上の段に上る。確実におかしいのは分かってる。でも俺が上の段なんだ。
 プラスの奴が昔、上の段で寝てて寝返り打った際にベットから落ちたことがあるそうで、それ以来上の段には寝る者が居なかった。
 そこに現れたのが俺。強制的に俺はこの部屋のベットの上の段が宛がわれたのよ。
 登るのが超めんどくせぇ! 大体、四足歩行タイプの俺にハシゴが使える訳ないだろ!
 だから、ハシゴの中段辺りを足場にしてジャンプ。飛び乗る形を取ってるんだが、たまに天井に頭ぶつける。そんなに天井との隙間が大きい訳じゃないのよ。
 はぁ、早く俺用の部屋、なんとかしてくんねぇかな。今度マスターに直談判してみるか。

「はぁ……」

 なんとかベットインして天井を見つめる。そういえば、天井の染みが人の顔に見えるとかって怪談のセオリーだよな。
 って、寝る前に何考えてんだろ俺。だって眠くねぇんだもん。さっき永眠しそうな所から復活してきた訳だし。
 ぼーっとしてたら部屋のドアがノックされた。お前はどうやって扉を開けたって? 二足歩行が可能になった俺には野暮な質問だぜ?

「誰かいなっと」

 折角乗ったベットから降りる……ちょっと気が引けたが扉の前に居る奴を待たせるのも悪いからな。

「あ、ライト……」
「なんだリィ? こんな時間に?」

 ノックしたのはリィだった。
 リビング出てから30分ぐらい経ったから皆寝たと思ったんだがな。

「うんと、ちょっとね? 眠れないから誰か居ないかなって」
「眠れない? ……やっぱり不安なのか?」
「それもあるし、眠ってる間に光りだしたらレンねぇにも迷惑かけちゃうし」
「それで俺のところへ来たと」
「うん……」

 頼られるのは別に構わないが、ここじゃ今度はプラスがぐずりだすしな。
 と、すると……やっぱりリビングしかないかな。

「分かった。今誰も居ないのはリビングぐらいだから、そっちでいいよな?」
「うん」

 必要なのは、毛布ぐらいでいいか。布団は持ち運びにくいし

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 俺はソファーの前で躊躇している。なんでかって?
 やっぱり健全な状況じゃないよなぁ。まだ小さいって言っても、リィも異性なんだよ。
 添い寝の状態は如何なものかと思う。マジで。

「ライト入ってよ。そんなとこに居たって寒いだけだよ」
「いや、俺は隣に座ってるよ。眠くなったら寝ちまいな。傍には居てやるからさ」
「だ~め! ちゃんと一緒に居てくれてるって僕が分かるように入って!」

 どうやら逃げられないようだ。これは俺の意思じゃなくリィの意志だし……しょうがねぇよな。

「やれやれ……よっと、これでいいのか?」
「オッケー。ふふ、あったかいね」
「そりゃあどっちもふさふさの毛があるからな」

 さて、おそらく疑問に思う人が居るだろうから先に答えておこう。
 サンダースの毛は普通、ミサイル針として飛ばせるくらいに逆立ってるもんだ。ある程度の硬度も持ち合わせている。
 俺も見た目は他のサンダースと違いは無いんだが、意外や意外、俺の毛は硬くないのだ。だからリィをおんぶしたり出来たし、前にレンに抱きつかれた時もふかふかと表現されたのだ。
 イーブイから進化する時に、イーブイ特有の不安定な遺伝子とやらがもたらした恩恵って事らしい。前の主人の所に居た時の話さ。検査したのはな。
 他にも幾つか、ポケモンが種族として持っている特性以外の俺だけの特性、体質って言ってもいいかな? が俺には備わってるんだぜ。
 バトルの時に電磁波しか使わなかったり、我流の体術使うのもこの体質の所為さ。じゃなかったら体力の上がりにくいサンダースが接近戦なんておかしいだろ?
 俺の体質については今はあまり触れないぜ? あんまり思い出したくないし。

「どうだ? 寝られそうか?」
「ん~、まだ駄目そう。ちょっとお話でもしようよ」
「話しか……俺は別に話す事なんか無いんだが」
「え~? つまんないなぁ。なんでもいいからさ、ね?」

 なんかいつになく積極的というかなんというか……。
 あ、そうだ。この際だから俺だけでも聞いちまおうかな、あの事。

「なぁリィ。お前、進化するなら何になりたいんだよ」

 そう、進化先ぐらい自分で決めたいよな。バトルの勝敗にも関係してくるし、何より一生もんの問題だ。

「進化か、僕、そんなの考えた事無かったな。今まではずっと、怖いのから逃げたい。もう怖い目に遭いたくないとしか考えられなかったし」
「そっか、ずっと怖かったか……」
「ん! そうだ! 僕、ライトより強いポケモンになりたい!」
「はぁ? いきなりなんだよ? 俺より強いポケモン?」

 だとしたら相性的にはリーフィアか? 電気効きにくいし。俺にはあんまり関係無いけどな。

「そんでもって、今度は僕が、ライトの事助けるの!」
「俺の事を助ける?」
「だって、今こうして僕が此処に居られるの、みんなライトが一緒に居てくれたからだもん」
「そういう事か。ならリィ、お前は俺の事をもう助けてくれたさ」
「へ? どういう事さ?」

 俺がリィを助けた日、もしリィが俺を引き止めていなければ俺は此処には居なかった。もしかしたら、野垂れ死んでたかもしれねぇな。
 そういう点で言えば、俺がリィに救われたんだ。今なら分かるし、感謝もしてる。

「なんでもねぇよ。気にすんな」
「むぅ~、気になるじゃん。話してくれないだろうけどさ」
「分かってるじゃないか」

 はは、付き合いもそれなりに長くなったもんだよ。相手の事もなんとなく分かるくらいにな。
 これじゃ……恋人同士みたいか? いやいや、リィと俺は歳が一回り違うんだ。そんなんじゃない。
 兄と妹、そんな感じだろうな。

「……ライト、お願いがあるんだけど」
「お? 急にどうしたよ。お願いって?」

 急に改まられるとビックリするじゃねぇか。なんだろな?

「僕が何に進化しても、今まで通り、僕の傍に居てくれる?」

 真剣な顔……いや、不安も混じってるかな。そんな顔でリィが俺の方を見ている。
 傍に居てくれるか、か。俺がリィの傍に居たんじゃなくて、リィが俺を選んだ筈なのにな。
 でもいいさ。俺の答えはもう決まってる。

「そんなの聞くまでも無いだろ」
「え?」
「どんな姿になったって、リィはリィ。お前みたいな泣き虫、独りに出来るかよ」

 俺の精一杯の照れ隠しだ。笑わば笑え。

「泣き虫はひっどいなー! ……でも、一緒に居てくれるって事だよね」
「ああ、絶対に独りにしない。絶対だ」
「……ありがとう、ライト」

 ゆっくりとリィが抱きついてくる。俺は抱き返していいのか? いいよな。空気的に。

「少しだけ、動かないでいて」
「ん? なんだよ? どうし……」

 俺の口が何かで塞がれた。
 目の前、鼻先にリィの顔があって、俺の口には柔らかい物が触れている。
 あるぇ~? これってちょーっとばかし、不味いんでねえの?

「ん……」

 これまたゆっくりとリィの顔が離れた。
 まだ俺の唇にはさっきの柔らかさが余韻として残っている。

「一番最初は、大切な人に貰ってほしかったんだ」

 そう言ったリィの顔がかなーり赤い! 多分俺も人の事言えた状態じゃないだろうけどな。

「いや、俺もファーストなんだけど」
「え、じゃあライトの最初、僕が貰っちゃったんだ。嬉しい、かも」
「かもってなんだよ! しちまったもんはしょうがねぇけど」

 もう何したか分かってるだろうがあえて言おう。
 俺とリィが……キスという奴をしちまった。(ファーストキス同士で)
 今まで俺はキスなんかするような環境に無かったからこれが本当に、正真正銘のファーストキスだ。
 ヤバイ、頭クラクラしてきた。落ち着けねぇ。

「なんかもう眠れそう……一辺にすっきりしちゃった」
「そ、そうか。じゃあ、お休み」
「うん。お休み」

 そしてあっさり俺の腕の中で眠りだすリィ。
 俺のこのモヤモヤは何処に向かえばいいんだ? 何この放置。
 とりあえず俺は今晩眠れねぇ。それだけははっきりとした事実として認識できた。
 何故俺はこんなに冷静なんだ? それすらもうわかんねぇ。

----

「なんかライト眠そうだね? どうしたの?」
「何でもねぇ……」

 朝飯を済ませて、昨日の続きを聞くためにリビングに集まってる訳だが、
 眠い! ひっじょ~に眠いわけですよ! そりゃそうだ、俺はあの後一睡もしてないんだからな!
 結局モヤモヤしてたら朝日が昇ってきたよ! やばいってんですぐにリィ叩き起こして、その場を片して何事も無かったようにした。
 勘違いしないでくれよ? 別に俺がリィ襲った、何てことは無いからな?

「俺の事はいいから、マスターは今回の事と関係ある話を頼むぞ。関係無い話じゃないだろうな?」
「多分ライトなら俺の話とと今回のリィの件、結び付けられると思う。心配しないでよ」
「俺? なんで俺が?」
「今、この場にいる誰よりリィの事を理解してるからさ」

 リィの事を一番理解してるのはリィ自身な筈だが……。
 何でもいいさ。関係があるんならそれでな。

「よし、皆居るな? 昨日はレンがマスターの膝枕で寝た所で話が終わってる。今日はその続きからだ」
「いやぁん♪ そんな事改めて言わないでよライトぉ、恥ずかしい」
「いや、レン? これは昨日自分で言った事実だろうが」
「そうだけどぉ……ライトが言うと恥ずかしいのぉ」

 なんでだ! とツッコむ事は出来たが、話が進まんので割愛させてもらう。

「朝からアンタ等のコントが見たい訳じゃないのよ。今はリィの事が先決なんでしょ?」
「「コントじゃない!」」
「息合いすぎて怖いわよ」

 さて、フロストへレンとのコラボツッコミを決めた所で、マスターに話し出してもらいますか。
 言っとくが皆居るからな? 俺達のテンションに付いて来れなくて喋らないだけさ。

「じゃ、喋りだしていいかな?」
「どうぞどうぞ」
「うん。レンが眠った後、俺はしばらく様子を見てたんだ。もちろんレンのね。よく眠ってるようだし、一安心かと思ったら変化が起こったんだ」
「変化? 何が……ってもしかすると?」
「ライトの予想した通りだと思うよ。進化の光さ」

 やっぱりか! じゃなきゃこの話をされる意味がねぇ!

「正直驚いたよ。リオルの進化条件はレンが来た時に調べて知ってたから、タイミングがおかしかったんだ」
「タイミング?」
「その時はまだ、日が昇ってきてなかったんだ」

 そういう事か。確かリオルは懐いた上でさらに太陽の恩恵、日の光を受けている状態じゃないと進化しない……だったかな? つまりは日の光を受けてないのに進化が起きるのはおかしいわな。
 ん? なんで俺がそんな事知ってるかって? 俺は博識なのさ!

「それで? その後レンはどうなったんだ?」
「実に四時間位かな? 光ったり止んだりを繰り返しながら朝になって、俺の膝の上でルカリオに進化したんだ」
「ちゃんと進化出来たんだな」
「そうだよぉ。じゃないと、私が居るのが変になっちゃうでしょぉ?」
「それも、そうだな」

 ふむ、進化条件が揃って無事に進化している……だとしたら、今のリィには進化条件を満たしていない物があるってことか? だとしたら何が足りないんだ?

「なぁ、マスター。レンが光り出したのは何でだと思う?」
「お、久々の真面目なライトだね。そうだなぁ……多分あの時は、懐き度は満たしてたんだと思う。でもそれだけじゃ進化しないし、あの時は全然分からなかったね」
「あの時は、ってぇ事は今は何か分かった、つー事だな?」
「鋭いね。もしかしたら進化するポケモンの心理状態が関係してるんじゃないかと思うんだ」
「心理状態……」
「レンの場合、俺が来たことで眠れない不安から解消されたよね? それでリラックスした事で進化が始まろうとしたんじゃないかな?」
「リラックスか、確かにポケモンが進化するのは必ずバトル後、バトルの緊張が無くなりリラックスした時に起きているな」

 思い起こせば、リィも眠ったり食事をしたりすると光っていたな。だが、それなら進化条件は満たしている……う~ん。
 そういや、皆はどうしたんだ? 一言も喋ってないが?

「ラ、ライト? 何故お前は主殿と普通に喋れているのだ?」
「どうしたよレオ? そんなに変な会話はなかった筈だぜ」
「私達には何を喋っているか理解出来なかったぞ?」
「でも、真剣なライトもカッコいいよぉ」

 あっお~う、俺とマスター以外は皆理解出来てなかったのね。顔に疑問符がいっぱいだ。俺の非凡さが炸裂しちまったようだな。
 人間の話を理解できる程の知性を持ったポケモンなんてざらにはいねぇよな。迂闊だったぜ。
 それでもこの家の奴等はかなり賢いと思うぜ? なんせマスターの指示無しでも普通に生活出来てるからな。
 てかレン? ちょっとずれてる……否! かなり話がずれてるぞ? 嬉しいけど。

「あぁ、皆にも分かり易く話せばよかったね。ライトと話しているとつい難しい言葉使っちゃうよ」
「心理状態とか言われても分からんかったか。ようは気持ちの事だ。落ち着いたからレンは進化しようとしたんじゃないかって事だ」
「なるほどな。それならば理解できる」

 ソウやプラスはともかくとして、他の奴等ならついて来れると思ったんだがな。昨日の議論の感じだと。
 何にしてもマスターの話は流石学者の息子って感じだな。よく考えられている。お陰でヒントになりそうなワードは増えたぜ。

「そうだ! 急に話しは変わるけど、結局リィは何になりたいのかな? それさえ分かれば、石も雷の石以外はあるし、グレイシアとサンダース以外ならなれるよ!」

 本当に急だなマスター! いや、それが分かんないと意味が無いってんで昨日も止まったんだったな。
 で、俺も昨日の夜聞こうとして結局余計な事して聞いてないし。
 余計な事……うわぁ思い出しただけで顔が赤くなってきそうだ。俺もまだまだ純粋だな。

「僕? 聞かれると困っちゃうなぁ。あ、マスターは僕に何になってほしい? 僕も役に立てるポケモンになりたいし」
「う、急に振られると困るな……やっぱり皆で考えよう! それがいい!」

 結局聞いた意味ねぇ! 二人とも(一匹と一人か?)なんか考えろよ……。
 
「それならばこの家にいないタイプになれば良いのではないか?」
「お! それは俺もありがたいな! リィもそれでいいかい?」
「オッケー。で、何がいないんだっけ?」

 こういう時はリーダー気質のレオが頼りになるよなやっぱ。この意見をマスターが言ってくれれば俺もちと見直すんだがな。
 さて、この家に居ないタイプでリィがなれるのはと……。

「氷タイプはアタシが居るわね」
「いや、元々進化出来ないって言われてるっすよ! フロストの姉貴!」
「だまらっしゃい!」

 ソウが凍っていく。ほうっておこう。

「草タイプは私です! だからリーフィアは駄目ですね」
「炎タイプは俺だな」
「電気タイプは僕! と、ライト兄ちゃん。あ、サンダースも駄目なんだっけ」
「とすると残りは……水タイプのシャワーズと、悪タイプブラッキー」
「後はぁ、エスパーのエーフィだねぇ」

 三つにまで絞り込めたな。じゃあこの中から。

「あ、僕シャワーズやだ」
「え~、どうしてだい? リィ」
「だって……」

 チラッとリィがこっちを見てきた。なるほど、水タイプのシャワーズは俺と相性が悪い。それでなりたくない訳か。
 なりたくないならならなきゃいい。俺がフォローを入れてやりますか。

「リィがなりたくないってんならしょうがねぇだろ」
「うん……ちぇっ」

 マスター舌打ちしとるよ! シャワーズ狙いだったのか……。
 何にせよ後は二択だな。

「リィちゃんの性格だと、悪タイプだとピンと来ないなぁ私」
「僕もそう思う! リィは元気で明るい方がいいよ絶対!」

 今日は元気だなプラス。俺も明るい方がいいかもな。元が泣き虫だったし。

「皆が進めてくれてるみたいだし……うん! 僕決めた! エーフィになる!」
「よっし! 決まりだな! 皆、異論あるか?」
「リィ自身が決めたことよ。他人が口出しすることじゃないわ」
「水タイプも便利だと思うんだけどなぁ……」
「往生際が悪いぞマスター。諦めてマリル辺りでも捕まえるんだな」
「……そうする」

 これで満場一致! 後、残す問題はどうやったら進化するか、か。

----

 エーフィになると決まって早一時間、俺達の時間は止まっていた。違う、俺達の思考は止まっていた。
 なんで進化しないのかの理由がわかんねぇ~! 光るんだよ!? そっから何で体の変化が起きないの!?

「どうしたもんかな? なんか分かる人ー」

 無反応。誰も反応しない。空しさだけがこの場を包んでいるぜ。

「とぉーう! おれっち復活っす!」

 赤くて白いのが氷を割って出てきた。でも無反応。

「ありょりょ? なんか皆が暗いっすね? リラックスすよリラックス!」

 お願いだから空気を読んでソウ! フロストがイライラして君をまた睨んでいるよ! また凍らされるよ!
 ……リラックス!?

「そうだ! リラックスだよリラックス!」
「どうしたライト!? 何か分かったのか?」
「あぁ、謎は全て解けた! ……多分!」
「力強く多分て付けなければカッコよかったのに、詰めが甘いわね」
「確証がねぇんだからしょうがないだろ。リィに一個聞きてぇ事があんだよ」
「僕に? なんなの?」
「体が光った時、どんなこと考えてた?」
「え? 特に考えた事は無いけど、やっぱり落ち着かないよ~」
「そうか! 俺にも分かったぞ!」
「ナイスだレオ! そういう事なんだよ!」
「ちょっと! 雄二人で納得しないで説明しなさい! 気になるでしょ!」

 答えは全て、マスターの話しの中にあったんだ! 俺が見逃してただけでな!

「マスターの話しを皆に思い出してほしい。あの中でレンはどんな時に光りだしたかな?」
「確かハヤト兄ちゃんのお膝で寝てた時だよね?」
「そうだ。よく覚えてたなプラス」
「その時レンは安定した状態にあった。これを覚えておいてくれ」
「でも、リィだって寝ている時に光っていた事があった筈よねライト?」
「あぁ、だが状況が違った。光った後に、リィを俺が起こしちまったんだ」
「それにより進化キャンセル、進化過程の中止が発生してしまった」
「それがレンとリィの違いだ」

 俺が原因だったんだ。慌てて俺が起こしちまったから状況が変わっちまった。

「後は、自分の体が光ると認識しちまった所為で、リィ自身が勝手に進化しないように、光らないようにと無意識に進化をキャンセルしてるんだ」
「これは、リィが置かれてきた環境によるものだな」
「リィちゃんの環境?」

 レオがレンに頷いて話しを進める。

「リィはここに来てやっと安定した生活を手に入れた。それを失いたくないと思う気持ちもあるだろう。どうかな、リィ?」
「う、うん。皆に迷惑かけたら、また別の所に連れてかれちゃうかもしれないとは思ってたけど」
「その気持ちが進化を妨害しちまったんだよ」

 俺とレオの見解はピタリだ。流石だな。

「二人とも凄いね! それなら、リィのその不安が光ってる時に起きないようにすれば……」
「リィは進化する。間違いないぜ!」

 答えに辿り着いてやったぜ! ざまぁみろ! ……誰に言ってんだろうな、俺。

「後は方法か……」
「それなら簡単よ。ライト、耳貸しなさい」
「なんだよフロスト?」

 耳打ち? なんでだ? 他の奴には聞かせられないって事だよな?
 ……何……だと?

「分かった? これはアンタにしか出来ないの」
「ちょっと待てよ! それは関係無いんじゃ……」
「昨日の夜、リィが光ったのは何処?」
「昨日の夜って……あんときか!? でも、それならあん時進化しただろ?!」
「あれじゃまだ足りないって事! がばっといきなさいがばっと! 男でしょ!」
「何の話をしてるんだ? 俺達には説明出来ないのか?」
「外野は黙ってなさい。すぐに分かるわ」

 ……説明はされた。もしかしたら成功するかもしれんとは思う。昨日のフロストはそんな事考えて笑ってたのか……。
 やれるか、俺に……いや、リィの為にもやるしかないんだ! そう思うしかない!

----
途中保存という事で……
いやぁ、久々にライト達を書いたのでキャラが若干ずれてるかもしれないです。
色んな場所がおかしいかもしれませんが、何かおかしな点がございましたらぜひ指摘をお願いします。
次の更新で完結します!

 俺の目の前にはリィ、周りには皆が居る状態がリビングに形成された。
 フロストがあっという間に皆に指示を出し、それに逆らう者無く今に至る。
 誰かに止められるとか、そういうのは多分フロストが防ぐんだろうなぁ。俺としては止めてほしいんだけど。

「なんかこうなっちゃったけど、何が始まるの? ライト」
「フロスト提案のお前をエーフィにする作戦だよ」

 きょとんとしたまま俺の方を見ているリィ。そんなじっと見ないで! 決心が揺らいじゃう!
 フロスト以外の奴等も同じような顔をしている。フロストだけがニヤニヤしている。若干ムカつく。
 配置は……ソウとレオでレンを挟んだ立ち位置。おそらくレン対策を二匹ないし三匹と一人にやらせるためだろう。ソウとレオの隣はそれぞれマスターとプラスだ。
 自分はリーフと一緒に少し離れた位置に居る。自分はリーフの暴走対策要員ね。ま、無難な線か。

「さて、準備はいいわよライト。後のタイミングはアンタに任せたわ」
「マジで……やんないと、ダメ?」
「いまさらでしょ? 拒否権は無いわ」

 うぅ、凄く……恥ずかしいです。
 もう行こう! さっさと終わらせる! それしかない!

「じゃあ、始めるぞリィ。心を落ち着けて……」
「ふぁぁ!? ライト!?」

 優しい口調で宥めるように言った後、俺がリィを抱き締めた。そりゃ、戸惑うわな。
 フロストの作戦を簡潔に説明するぞ。

 俺、リィを抱き締める。
     ↓
 リィ、俺の腕の中で進化開始。
     ↓
 俺、進化中も離さずしっかりとリィを抱き締める。
     ↓
 リィ、進化完了!

 ハイ! シンプルですね!
 昨日、俺が氷結から復帰した後、リィが俺を温めててくれたよな? その時もリィが光りだしたのを覚えてるか?
 リィにとって俺は、どんな場所よりも安心できる場所なんだと。(フロスト説だ)だから、俺に抱っこされて光りだしたんじゃないかって事だ。
 それなら、もっと密着すれば完全に進化するんじゃないかって事でこの作戦を説明された訳よ。
 因みに、あの時に笑ってたのは、本来ならこんな事絶対にしない俺が抱き締めるなんて行為に出た所を想像したからって事らしい。つまり今だな。

「んな!?」
「師匠ぉぉぉぉ!?」
「え? 何でライト兄ちゃんが?」
「フロスト、こんな事やらせるつもりでライトに……」
「いいわよぉ、ライト、そのままよ。くふふふ……」
「ふぇ!? ライトさん!?」
「ええええぇえええぇぇぇぇえええええぇ!!!!????」

 いやぁ、皆さん良いリアクションです。恥ずかしさが倍増されますねぇ~。止めてほしいDEATH☆。
 マジ死にそう。恥ずかしさで。

「ラ、ライト……」

 リィの顔、あけぇー! しかも目も潤んでるし。俺のハートが打 ち 抜 か れ るぅ~。いかんいかん、これはリィの為、リィの為なんだ。

「大丈夫……俺が傍に居てやる。怖い物なんて俺が吹き飛ばしてやる。だから、安心しろ……」
「……ライトの胸、あったかい……」

 まだ光り出さない。急過ぎたか? こうしてるとリィの鼓動が聞こえてきそうだ……。落ち着くまではこのまま……。

「だぁめぇぇぇぇえええぇぇぇぇ!」
「あ、不味い。ソウ! レオ! レンを抑える! 急いで! この状態でレンがライトにタックルしたら作戦がパァよ!」
「む! 心得た!」
「う、うぉぉ!? おれっち達がやるんすか!?」
「ライトは今手が離せないでしょ! プラスもハヤトも行く!」
「は、ハイーーー!」
「俺も!?」
「はぁぁ~~~……ライトさんとリィちゃんが抱き合ってる……抱き合う……抱く……」
「リーフ、しっかりしなさい!」

 周りはカオスな事になり始めてるようだ。でも、リィから顔が離せねぇ。
 俺の半分位の大きさ、それでも俺をしっかりと抱き返している。
 俺が守りたい者。俺を、孤独から救ってくれた奴……。
 絶対に……離しはしない!

「ライトお願い、絶対、絶対に離さないでね」
「あぁ、離すもんか」

 リィから光が放たれ出す。この光を、希望の光にするんだ!
 俺の名前はライト! 光を手放しはしない!

「お、おぉ、美しい……」
「なんすか!? 何が起きてるんすか!? おれっちには見えねぇっす! 見たいっす!」
「す、凄いや……」
「何度見ても綺麗な光だね……」
「こ、これは……アタシも予想外だわ。素敵……」
「ふぉぉ、神秘的ですぅ」
「うわぁぁぁぁああああぁぁあん!」

 光が、止んだ。
 俺の前には……同じ位の大きさの薄紫のポケモンが居た。

「よぉ、気分はどうだい? リィ」

 ゆっくりとリィが目を開いていく。

「なんか変な感じ、だね。首周りと尻尾の毛は無くなってるし、ライトの顔が目の前にあるって」
「なんだよ? 屈んだりした時はいつもそうだったろ?」
「ううん、これからはこうして向き合えるってこと。どんな時でもね」

 そう言って俺に微笑みかけてきた。声はあんま変わってないな。あれ、何とも無いぞ? どうしたんだ俺?
 本来なら恥ずかしさで顔、赤くなってもおかしくないのに?
 心境の変化? この感じは……愛おしさ、って奴なのかな。なんか、リィの事見てるとドキドキはしないけど好きだって気持ちはある。
 純粋な好きな気持ち? ってこんな感じなのかね?
 そういやギャラリーの奴等の声がしないぞ? どうしたんだ?

「やぁぁぁぁあああああぁぁああぁ!」
「ハギョオオオオォォォォ!」
「うわぁ! ライト!?」

 横からタックルされました。俺の脇腹ブレイク……。
 見なくてもなんとなく誰かは予想できます。

「リィちゃんばっかりズルイ~! 私もライトに抱き締められたい~!」
「いや、抱き締められてる。俺が抱き締められてる形になってるぞレン」

 やっぱりレンでした。ルカリオのタックルって凄いね。危うく色々出しちゃいけない物が出るところだったよ。
 レオとソウは……あ、殴られたみたいね。気絶してる。
 で、何故かマスターとプラスが凍ってる。凍ってる!? ヤバイだろ!? マスターは!
 フロストは?

「素敵よリィ。とっても綺麗になった」
「はい! もう可愛いじゃなくて綺麗です!」
「あ、ありがとう。でも、綺麗って言われても僕、いまいちピンと来ないんだけど」
「その内慣れるわよ」

 リーフと一緒にリィの所に居ました。早くマスターを開放するように言わなければ。

「お、おいフロスト! 何マスター凍らしてんだよ! 早く出してやらねえと大変な事になんだろ!」
「あ~ん! 今は私のこと見てよぉ!」
「ちょ、待てレン!」
「あら? いきなり何か飛んできたから防いだらハヤトとプラスだったのね。ハヤト~今出すわよ~」

 割れた。氷が。グレイシアってあんな事出来たっけ? もう氷の支配者だな。

「はぁ、はぁ……し、死ぬかと思ったよ……」
「寒いよぅ……」
「あ、あははは、ゴメ~ンね?」

 もう、なんか色々大変な事になってんな。殴られた二匹は起きないし。
 俺はレンからの抱擁で動けません。これは、しばらくはこのままだろうな。愛されてるね俺。
 何にせよリィは無事に進化できた。それでいいだろう。
 今夜はパーティーでも開かれるかな? 楽しみが増えて何よりだ。

「リィちゃんみたいに私も抱き締めてよライトぉ~」
「分かった分かった。特別に、な?」
「え!? 良いの? やった~!」

 ……とりあえずおめでとう、リィ。  
----
後書きという事で……
リィのドタバタ進化劇、これにて完結です!
いやぁ、主人公とはいえ、ライトは美味しい役回りですね。
さて、リィも無事進化したので、次回からはライトと他のメンバーとのドタバタも書いていこうと思います。
兎にも角にも、お付き合い頂き、ありがとうございました!
----
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