writer is [[双牙連刃]] 作者のポケモンXクリア(今更!?)&カロス地方伝ポケ促進? 作です! と言っても、X側しか出ないのですが…お、お楽しみ頂ければ幸いです! ---- 「……で、先生が慌ててアルコールランプをひっくり返して危うく火事になるところだったんだよ。あの先生、本当に慌て者でさ」 なんて語りかけても、俺の話し相手から返事が返ってくる事は無い。それはもうずっと前から分かってるんだ。それこそ、小学校に入る前からの付き合いだからさ。 でも、俺はこいつに今日会った事なんかを話に来る。雨降りじゃない時は、大体毎日。なんというか、小さい時からずっと来てるから、こうしてこいつに取り掛かって話しているのが凄く落ち着くんだ。 最初は、父さんに連れてきて貰ったんだったっけ。大昔に、この地方を助けた偉ーいポケモンがこの樹になったんだぞーって教えてもらいながらさ。 そう、俺が話し掛けているこいつは、一本の樹。俺が生まれる前から、ずーっとここから世界を見てる一本の樹。 バカだって言われた事ももちろんある。けどさ、俺にとってこの樹は、ずっと一緒に過ごしてきた友達なんだ。だから多分、これからも俺はここに来ると思う。一緒に居て安心する、この物言わない友達に会う為に。 「っと、そろそろ5時か。じゃ、また明日」 流石に夕日が沈み終わるまでここに居るのは不味い。だから、大体夕日の加減からいつも帰る時間は決めてる。今日は、少しゆっくりめかな。 ここまで漕いできた自転車に跨って、夕日を背に走り出す。学校がある時は、大体1時間くらいをここで過ごして帰る。休みの時は、予定が無かったらここで一日のんびりしてる時もある。……別に他に友達が居ない訳じゃないからな。 ただ、ここに来ると明日からも頑張ろうと思えるんだ。辛い事があっても、なんだか話すと励ましてくれてるみたいでさ。 ま、最近はそんなに辛い事なんてあった訳じゃないけどさ。何が無くても、ここは落ち着くんだよ。ポケモンもそうなのか、よく一緒に寛いでたりするんだよな。 さて、と。今晩の飯はなんだろな。昨日の冷やし坦々麺は辛過ぎて何食べてるのか途中で分からなくなったからなぁ……今日は普通の物だといいんだけど。 沈み掛けた夕日を背に、自転車から降りてロック。最近だと、自分の家の敷地内にある自転車まで盗むような奴も居るから鍵を閉めるのは忘れられない。 自転車を停めたらもう外でやる事は無い。さっさと家に入るとするか。 「ただいま」 「ん? おぉ、帰ってきたかユウ。丁度今、晩飯出来たぞ。今日のは昨日のような失敗は無い! ……筈」 「あのさぁ、もっと自信持って言ってくれよ……」 「な、なぁに、食べられない物は作ってないだろ?」 「昨日のはギリだったけどな」 こんな感じで、早々に晩飯に怪しいフラグを立てたのが俺の親父。仕事としては、自然とポケモンを守るとやらをスローガン? にしてるポケモンレンジャーって仕事をしてる。簡単に言えば、ポケモンの保護とかそういうポケモン関係全般の事件なんかの解決をする組織、らしい。 で、会話から分かって貰えるかもしれないが、俺はこの親父と二人で暮らしている。母さんは……俺が今手を合わせてる写真の中で、優しい笑顔を今も見せてくれている。 それじゃあ母さんへの挨拶も済ませたし、ちょっと心配な晩飯を食べるとしようか。今日のは、どうやらパスタのミートソースらしい。これは、失敗は無いだろう。 「どうだ、なかなかだろ」 「どれ、頂きます。……親父、これ……何入れた?」 「ん? おかしな物は入れてないが……うっ? な、なんか……」 「甘い、よな?」 「おかしいな、隠し味にマゴの実を入れると味がまろやかになるって聞いて試したんだが」 「どう考えても入れ過ぎたろ? まぁ、これも悪くないからいいけどさ」 「うむむ、隠し味を付ける時はもう少し考えんとならんな」 こんな感じで、微妙な料理ながら小学生の終わり頃から俺を男手一つで育ててくれてる。息子の俺が言うのもなんだけど、良い親父だよ。 休ませる事無くフォークを動かして、風変わりな甘いミートソースは完食。これももう慣れたもんだから食べれるが、最初に食べる人は少し躊躇うだろう。 「ご馳走様」 「お粗末様。っと、そうだった。ユウ、悪いが明日の晩飯は自力でなんとかしてくれるか? レンジャーベースの方で会議があってな、最悪明日は向こうで泊まりになる」 「そうなのか? 分かった、なんとかするよ」 「あぁ、晩飯代はこれで足りるだろ」 「サンキュー。じゃあ、寝るわ。お休み」 「あぁ、お休み」 まぁ、そこまでべたべたした親子じゃないけど、並程度には仲は良いんじゃないかな。少なくとも、俺は親父の事を嫌いじゃないよ。 明日の晩飯の事は明日考えればいいし、今日は休もう。まぁ、千円もあれば困る事は無いよな。 ---- ……今日も学校が終わり、俺は自転車を漕いでいつもの場所へ向かってる。俺が通う樹があるのは、俺が暮らすクノエシティから自転車を漕いで30分程のところ。道は一応あるけど、舗装はされてない轍の部分の草が無くなったような道だ。 そこを通って、今日もまた1時間くらいここで寛ぐ。一人でこんなところに来て危険じゃないのかって聞かれた事もあるけど、実際小学生の頃から殆ど来てるけど、危険だと思った事は一度も無いかな。 っと、今日はあいつも居たんだ。一ヶ月ぶりかな、こいつがここに居るのは。一月に数回しか居ないけど、一応顔見知りかな。 「よっ、久しぶり」 なんて言っても、こいつから返事が返ってこないのは分かってるんだけど。 体の色は黒と緑。それと、体の鱗みたいのは全部六角形の不思議な奴。時々こうしてここに来て、樹を見上げるような姿勢を取ってるんだ。で、俺が来ると少しこっちを見て、俺が座る位置を空けてくれる。 俺はその空けてもらった場所に座って、樹に寄り掛かる。たまにしか逢わないとは言え、もう数年の仲だ。向こうも、何かしら分かってくれてるんだろうな。 「……あ、そうだ。これ、食べるか?」 俺がカバンから取り出したのは、ヤキソバパンとメロンパン。来る途中にあるコンビニで新発売ってなってて、衝動的に買っただけなんだけどさ。なかなか美味そうなんだよ。 それの袋を開けて奴の前に見せると、こっちを向いて何やら品定めのように……し、触手? 体の横から出てるニョロニョロしたのを動かしてる。 前にも一度クッキーとか分けてやった事はあるけど、実際に動かしてるのを見てるのはやっぱり違和感あるんだよな、これ。 しばらくまじまじと選んだ後、俺の手からはメロンパンが消えた。……甘い方が好みなのか? いや、食べるか? って聞いたから、食べたい方を持っていくのでいいんだけどさ。 それじゃあ俺は残されたヤキソバパンを食べよう。少し見ていると、奴もメロンパンを食べてるのが分かる。パッと見口が何処にあるか分からないけど、どうやら目の下辺りにあるらしい。 「うん、美味いな」 おっ、ゆっくりだけど頷いたような反応をした。今まで静止した状態から頭が揺れたんだから、頷いたと見ていいだろう。 パンを食べ終えて、特に喋る事も無く少しゆっくりする。そりゃあ毎日面白おかしい事が起こる訳でもなし、実は結構こうして寛いでるだけの日っていうのは多い。 そうして寛ぎながら周囲に気を配ると、今日もここは人気の場所だって分かる。まぁ、俺以外はポケモンなんだが。 もう俺はここに来るのが分かってるかのように、ポケモンも俺が来てもあまり動じない。極稀に俺がこうして寛いでると、興味本位で来たであろうトレーナーなんかが来るんだけど、その時は脱兎の如く気配が消える。現金なような気もするけど、俺の事は受け入れられてると思うと悪い気はしないかな。 それにしても、陽の光も温かいし良い風も吹いてる。こうして樹に寄り掛かってると眠くなってくるなぁ。 ……ちょっとくらいなら、昼寝……とは言わないけど、眠ってもいいかな。まだ夕日って言うのにも早いし、日が沈んでくれば自然と目も覚めるだろうし。 今日は親父も居ないって言ってたし、そう焦って帰る事も無い。よーし、一休み一休みっと。 意識がゆっくりと戻ってくる。なんか、物凄くがっちり寝てた気がする……だって、目を開けたら周囲真っ暗だし。 なんで日が沈んでるのに寒くないのかは、状況で分かった。そりゃあねぇ、シシコやポッポ、ヤヤコマなんかにくっつかれて一緒に寝てたんなら寒くないわな。 辺りを見回すと、あいつもまだここに居た。……昼間は気付かなかったけど、体の六角形の鱗が時々白く光ってる。不思議な奴だなぁ……。 ん? 手に何か触れた。これは、モンスターボール? おかしいな、俺はこんなの持ってなかったし、寝る前にもこんなの無かったと思うけど。 『お目覚めですね』 「あ、あぁ……ん? 今のは?」 女性的な高い声が聞こえたと思ったら、俺に寄り掛かって寝ていたポケモン達が起きて、俺から少しだけ離れた。 『危ないので、ジガルデの居る場所まで下がって貰えますか?』 「え、ジガルデ? ……あぁ、お前ジガルデって言うのね」 肩をちょんっと突かれたと思ったら、いつものあいつのピラピラした奴でした。何時の間にか下がってたのね。 それじゃあ下がれって事だから、下がっておきますか。って言うかこの声は一体何処から聞こえてきてるんだ? え、んな!? 樹が、光りだした!? どうなってるんだ一体?! 樹の中央に光が集まっていく……これって、結構定番的には集まり終わったら弾けるとかだよな? ……あ、やっぱり。光が玉みたいになったと思ったら、それが弾けた。 あら、その光が弾けたところから何かが出てきた? うぉぉ、結構デカい。えっと……多分ポケモン、だよな? 『ふぅ……この姿では初めまして、ユウ』 「え、なんで俺の名前を? それに、この姿でって……!? この声、お前から聞こえてるのか!?」 『ふふっ、慌てなくてもお答えしますよ。私はゼルネアス、あなたの事は、小さい頃に知り合って以来ずっと見守ってきたのですよ』 ゼルネアス……いや、小さい頃に知り合ったって、俺は始めて会ったとしか思えないんだけども。 『分かりませんか? あなたは、毎日ここに来て私に語り掛けてくれていたのですよ』 「! それって……」 ちらっとゼルネアスの後ろに生えてる樹を見た。俺が語り掛けていたと言えば、この樹に対してだ。それってつまり……。 『そう、この樹は私が眠りに落ちている時の姿。本来ならば、私が目覚めた時に消えるのですが、この樹が消えてしまうとここのポケモン達が寂しがるでしょうし、少し力を残してそのままにしました』 「やっぱり。でもそうすると、ここで俺が話した事は全部?」 『はい、覚えていますよ♪』 うわ、何それ恥ずかしい。元々誰も聞いてないと思って話してた事も大分あるし、それを覚えられてるとかどんなイジメですか? 俺が頭を抱えると、楽しげな笑い声が聞こえてくる。くぅぅ、こっちとしてはあまり笑えない事だって言うのに。 『落ち込まない下さいよ、ユウ』 「……なるほど、それで俺の名前も知ってたのか」 『そういう事です。コウジがあなたを連れてここに来てからはもう7年、その間、あなたは私の元へ来てくれているんですから、忘れたりしませんよ』 7年か……そう考えると、もう長い付き合いだな。そして、俺の親父の名前ももちろん知ってるか。 でも、それがどうして今晩は樹からポケモンに? さっき眠りに落ちたとかなんとか言ってた気もするけど。 「ゼルネアス……って呼んでいいよな? なんで今日に限って、そのポケモンの姿に戻ったんだ?」 『簡単ですよ。今日が、私が目覚めるだけの力が戻る日だったという事です。その日にあなたがここで眠ってしまったのは、本当にたまたまの事でしたが。そうじゃなければ、明日まで私は、あなたをここで待つつもりでした』 「待つ? どうして俺を?」 『……ユウ、あなたにお願いがあります。私を、あなたの元へ置いてはくれませんか?』 へ? 置くって……どういう事? 『私はここで、千年の眠りについていました。その間にも、私を使役しようと多くの者がここを訪れ、私を無理矢理眠りから覚まさせようとしてきました。それを思うと、私が今のままで野に出てしまうと、要らぬ争いを生みかねません。それを避けるには、あなたに使役されてしまうのが一番の策だと思うのですが……如何でしょう?』 「いやまぁ、基本的に誰かの捕まえたポケモンを別の誰かが捕まえるのは窃盗になるから、俺がゼルネアスを捕まえちゃえば他の奴が手を出してくる事は無いかもしれないけど、俺ボールなんて持ってないし……」 『それならジガルデに用意してもらいました。あなたが眠ってる間に傍に置いてもらったんですが、気付きませんでした?』 あ、このボールそれか! ってかポケモンがボールなんてどうやって用意したし? まさか買った訳は無いだろうし……あ、あまり想像しないでおこう。何やら犯罪的な物を感じる。 さて、これでゼルネアスを捕まえろって事だけど、正直どうしようかな? 事情を話せば、レンジャーである親父は納得するだろ。多分ゼルネアスの事は知ってるだろうしさ。 ただ俺、トレーナーじゃないんだよ。それがボールを使って何かしてもいいのかな? トレーナーの仕組みなんて、興味無かったから知らないんだよ。 『あのー、ダメでしょうか?』 「あ、いや、ダメとかじゃないんだけどさ、俺トレーナーの事よく分かんないんだよね。そもそもこのボールの使い方もよく知らないし』 『え? 確か、それで私達ポケモンを捕らえる事が出来るのですよね?』 「それくらいは俺も知ってるけど、どうやって使うか知らないんだよ」 『……あ、私もユウから聞いた事ありませんでしたね、そう言えば』 なんだっけ、確か投げて使う的な事は聞いた事はあるな。テレビでも、そんな風にポケモンを捕まえてた気がする。 『どうしましょう……私、そこまで考えていませんでした』 「うーん、でもこのままにしておくのも危ないかもしれないし、一緒に居るのは賛成だよ」 『ありがとうございます。あ、そうです。確かそのボール、投げて使う物でしたよ。前にここでジガルデを捕まえようとしたトレーナーが、返り討ちにされる前に使ってました』 何やってんだよ……っていうかこのボール、そういう奴から奪った奴だよね絶対。しかも投げて使いのは俺も分かったからね。な、なんかゼルネアスって微妙に抜けてる? 何やってんだよ……っていうかこのボール、そういう奴から奪った奴だよね絶対。しかも投げて使うのは俺も分かったからね。な、なんかゼルネアスって微妙に抜けてる? 何やら期待したような視線を向けてきてるし、とにかく投げてみようか。ゼルネアスさん、なんかこの状況楽しんでるよね、これ。 上手投げで投げて失敗したら痛そうだし、下手投げでゆっくり投げてみた。ゼルネアスに避ける気が無いからそのままコツンと当たった。!? うぉぉ、開いたと思ったらゼルネアスがボールに吸い込まれた! 間近で見ると凄いな、このボール。 そう言えば前に、近くにあるボール工場に見学に行ったっけな。こんな事なら、その時にちゃんとボールの事聞いておけば良かった。 あ、吸い込まれたと思ったらカチンて音がして、ボールがその場に転がった。捕まえられたのか? 「終わった、のか?」 なんかジガルデは不思議そうに首を傾げてる。あれ、失敗? ゼルネアスは大丈夫なのか? 「お、おーい。大丈夫か、ゼルネアス」 『はぁー、このボールの中って不思議ですね。居心地が悪い訳でもないし、本当にあの小さい物の中に居るとは思えませんよ』 「っと、その分だと大丈夫そうだな」 ゼルネアスがボールの中に居るのに声が聞こえるって事は、これって所謂テレパシーって奴だったのか。そう言えば、声が聞こえる間、ゼルネアスの口って動いてなかったな。 で……入れれたのはいいんだけど、これってどうやって中のポケモンを出すんだ? うーん? 「なぁジガルデ、これってどうやってポケモン出すんだ?」 また首を傾げた後、近付いてきてボールの真ん中辺りを触手で示してる。……あ、この真ん中の白いのスイッチか。ジガルデがやってる仕草的に、これを押して投げろって事らしい。 それならレッツ実践。ここを押して……投げる。おぉ!? 空中で静止したと思ったら割れてなんか出た! へぇ、凄いもんだなぁ。 『っとと、驚いた……もう、出すのなら出すで、一声掛けてくれてもいいじゃないですか』 「あっと、ごめんごめん。でもこれでボールの使い方は分かったぞ。ありがとう、ジガルデ」 お礼を言ったら、ジガルデの表面の光が綺麗に光りだした。喜んでるのか? 多分そうだよな。 それにしても、ポケモンにそのポケモンを捕まえる為の道具の使い方を教わってる俺って……もう少し、そっち方面の知識も覚えておこうかな。 『とにかく、これであなたは私の主となったという事ですね。よろしくお願いします、ユウ』 「あぁ。ん? なんかボールにニックネームの登録が出来るところがあるな?」 『ニックネーム? なんですかそれは?』 「簡単に言えば、ポケモンそれぞれに付ける名前、かなぁ?」 あ、ジガルデ頷いた。当たってたっぽいな。 『名、ですか……』 「どうする? 何か決めるか? それとも、呼ばれたい名前があるならそれにするけど」 『そうですね、ならば……ナティア、と』 ナティアか。なんだかゼルネアスが寂しそうに言ったのが気になったが、今言及する事でもないだろ。ささっとボールに入れちゃうか。 ボールからホログラムディスプレイが出てきたのも驚いたけど、タッチパネル式でそれを操作するのも凄いな。このボール、こんな最新技術使われてたんだ。それが200円とか、安いよな。 「よし、これで入力終わりっと。俺はどっちで呼べばいい?」 『親しみを込めてくれるのならば、決めた名で呼んでくれますか?』 「分かった、それじゃあよろしく。えっと、ナティア?」 『……ふふ、呼ぶのにはこれから慣れて下さいね、ユウ』 一瞬見えた寂しそうな顔は、微笑みによって消えた。なんだったんだろ? って、テレパシー飛ばしながら顔を近付けて来ないで下さい。近い、近いから。ん、なんだろ。ナティアの目の中に、×印みたいのが……。 「ちょ、ちょっと近いってナティア」 『ごめんなさい。でも、こうしてあなたと話せるのが嬉しくて。ずっと、あなたの話してくれる事を聞いているだけでしたから』 「それはまぁ、樹だったんだから仕方無いでしょ」 『えぇ。でも、今度からはちゃんと会話が出来ますね。……ところで、今日はもうかなりの時間ここに居ますが、よろしいんですか?』 言われてハッとして携帯の時計を見た。21時38分、そしてここから家に帰るまでには30分くらい掛かる。ははっ、親父が泊まりの仕事で良かった。 「よし帰ろう。なるべく急いで、晩飯を調達して」 『ですよね。まぁ、この辺りのポケモンで、あなたを襲うような者は居ないと思いますが』 「そうなのか?」 『はい。周りを見て下さい、皆私が目覚めたのを祝福しに来てくれたようです。この状態で襲われてないのが、何よりの証拠だと思いますよ』 うぉぉ!? 本当だ、ジガルデを含む色んなポケモン達が周りに集まってた! 俺はこの中であんなコントみたいな事してたのか……。 考えれば、襲われるんならあの寝てた時にもう襲われてるよな。一緒に寝てたくらいだし、本当に襲われないみたいだな。 『小さい頃からここに通っているから、皆もう仲間のように思ってるようですね』 「へぇ、そうなんだ。うん、悪くはないかな」 『それに、余程の相手でなければ私が傍に居るのに襲ってくる者は居ないでしょう。これでも、生命を司る存在ですからね、私は』 「ふーん……って、今はのんびり話してる場合じゃなかった! 本当にそろそろ帰らないと!」 『そ、そうでしたね。ではユウ、お願いします』 そうか、ナティアを連れて行くにはそのまま連れて歩く訳にはいかないよな。うろうろしなくていいように、俺がボールで連れ歩くようにしたんだから。 えっと、ポケモンをボールに戻すにはまたスイッチを押せばいいのか? お、おぉ、ボールが開いてナティアが吸い込まれた。便利だなこれ。 「よし、っと。親父に捜索されないにしても、一人でこんな時間にうろうろしてたら警察に声掛けられちまうよ」 『警察は流石に不味いですね……急ぎましょう』 「あぁ」 って事で、ジガルデや集まってたポケモン達に軽く手を振り、急いで自転車に跨って漕ぎ出した。 晩飯は……コンビニだな。通り道にあるのは、コンビニだけだし。って言うかこの時間じゃそれ以外の店は開いてないだろうなぁ。 ---- 時刻は午前8時。今日は開校記念日で学校が休みで、俺は今家で親父の帰りを待っている。 その理由は当然、俺の隣で座る体勢で寛いでるゼルネアス、ナティアの事を説明する為だ。親父も、トレーナーに興味が無かった俺がいきなりナティアみたいなポケモンを連れてきたとあったら、相当驚くだろうし。 『そうですか……少しだけ話は聞きましたが、コウジは今ポケモンを守る職に就いているのですね』 「そうなるのかな。ただ、多分ゼルネアスはカロスの伝説のポケモンらしいし、親父が、自分達が保護するーとか言ってくる事も考えられるんだよな」 『確かにその方が安全なのかもしれませんが、私としてはやはり、ユウの傍に置いてもらいたいのですが……』 「俺はそれでも構わないけど、親父がなんて言うか次第かなぁ」 『そうなりますか。まぁ、彼なら私が説き伏せられますけど』 うわ、ナティアが黒い笑みを浮かべてる。こうして話してる間に聞いたけど、どうやら親父もナティアだった樹に色々話してたようだし、やらかしてるみたいだからなぁ。 ん、玄関の扉が開いた音がした。親父、帰ってきたかな。じゃなきゃ家宅侵入で入ってきた奴をえらい目に遭わせるだけだ。ナティアが。 「ただいまー。ユウ、居るか?」 「居るぞー。お帰りー」 「済まなかったな。これ朝め……し……」 『この姿では初めましてですね、コウジ。と言っても、その顔では何を言っても聞こえてないでしょうね』 ナティアの姿を見て、親父は固まった。この分だと、やっぱりゼルネアスの事は知ってるみたいだな。 とりあえず、親父が落とす前に親父の手にある朝飯は確保。サンドイッチか、レンジャーベースのって事になるのか? 美味そうではあるけど。 「……ゼ」 「ん?」 「ゼゼゼゼ、ゼルネアスー!?」 『大きな声を出さなくても、私はゼルネアスですよ。あなたが、大きくなったら捕まえるって意気込んでた、ね』 あ、親父がビクッとした。ほほぅ、親父はナティアにそんな事言ってたのか。そんな相手が目の前に居れば、確かに衝撃受けても仕方無いかもな。 「ゆ、ユウ! どういう事だこれは!? なんでここにゼルネアスが!? ゼルネアスは、あの樹で!」 「眠ってたらしいな。で、なんかその眠りから昨日覚めたらしいぞ?」 『で、そのまま私がうろうろするのは危険だと判断したので、ユウに協力してもらいここに連れて来てもらいました』 「!? こ、これはテレパシー? いやしかし、お前がゼルネアスの、生命の樹に毎日行ってるのは聞いてたが、まさかそれの復活に立ち会ってくる事になるとは……」 へぇ、流石に親父もポケモンレンジャーなんて仕事をしてるだけあって、状況を飲み込むのが早いな。詳しく説明しなくてよくなったのは何よりだ。 「と、とにかくレンジャーベースに連絡を!」 「してどうするんだ?」 「決まってるだろ! 急いで保護を!」 『この家に居るのに、ですか?』 「……あ!? そ、そうか、野生でうろうろしている訳じゃないから、早急に保護するって必要は無いのか」 「その為に俺だってナティアの、一応のトレーナーになったんだからさ。ちょっと落ち着きなって」 「? トレーナーになった? だってユウお前、トレーナーライセンスなんて持ってない、よな?」 「ライセンスは無くてもこのボールは使えたみたいだけど?」 『コウジ、とにかく一度深呼吸をしなさい。落ち着きが無いのは、子供の頃から本当に変わりませんね』 ナティアの一言に、頭を掻いて照れてる。中学生に上がってからは来なくなったらしいけど、小学生の頃は親父もナティアの樹の近くを遊び場にしてたようだから、子供の時の事ははっきり見られてるって事だな。 一先ず飯を食べようって事で、俺が持ってるサンドイッチを全員で食べる事にした。ナティアには、俺から食べさせるって形だな。 食べ始めると、親父も落ち着いてきたようだ。ナティアに言われたように深呼吸をした。何か話し始めるかな。 「いや、済まなかった。急な事で頭がついて来なくてな」 「まぁ、無理もないとは思うけど。俺も、昨日ナティアに話しかけられて驚いたし」 『もっと前から声だけでも飛ばせれば良かったのですけどね。しかし、これ美味しいですよ』 「それにしても……まさかユウがゼルネアスのトレーナーになってるとは思わなかった。他の一般のトレーナーがなるよりも、俺やレンジャーからの手助けがし易いから良いが」 「って事は、ナティアは俺が連れてるんでいいのか?」 「下手にレンジャーベースに連れて行くと、逆にポケモンハンターなんかに狙われる可能性もあるからな。レンジャーが大々的に動くと、マスコミも動くだろうし」 でも、レンジャーベースまで連れて行けば安全じゃないのか? とも思ったけど、そりゃあ連れて行ってもベースの中に監禁する訳にもいかないから、どうやっても外に出すタイミングがあるって事か。そこを狙われかねないし、それならレンジャーだけが居場所を知ってる今の状況の方が、外部に情報が大きく広がる事は無いのかもしれないな。まぁ、今はって事になるだろうけど。 って事で、現状では俺がナティアを連れているっていうのがベストだと親父は判断したらしい。そもそも、ボールに登録されたポケモンをどうこう出来る程の権限は、流石のレンジャーにも無いそうだ。ただ、俺はトレーナーとして登録しておいた方がいいみたいだけど。 トレーナーとして登録しておけば、単にポケモンを連れている状態で居るよりもレンジャー側から色々援護がし易いらしい。まぁ、朝飯を食べ終わったら少しポケモンセンターまで行ってこようか。 「それにしても……生きてる間にゼルネアスに出会う事になるとはな」 『私も、ようやくあなた達と話が出来て嬉しいですよ。……本当は、ユイ……彼女とも言葉を交わしたかった』 「そうか、確かにユイも、あの樹のところに連れて行った事があったな……」 『えぇ、あなたが結婚すると言う事を伝えに。驚きましたよ、子供だったあなたが、人生の伴侶にあんなに美しい人を連れて来て』 ここに居る全員で、母さんの写真を見た。確かに、母さんは綺麗な人だよ。でも、体が弱かったんだ。だから、俺が小学四年くらいの頃に、眠るように亡くなった。 少しずつ心臓が弱っていく病気だったんだと聞いた。けど、あの時の俺は母さんの死が納得出来なくて、ナティアの樹で一日泣き通した事もあったよ。 『……あの時に、ユウに何もしてあげられなかった事をずっと悔いていまいた。縋り付いて泣くあなたに、何も出来なくて……』 「は、恥ずかしいから思い出さないでくれよ。あの時は本当に子供だったけど、もう五年も前の話しなんだし」 『あの時の分まで、私はあなたを守りましょう。ユイの代わりとは行きませんが……』 「いいって、気にしないでくれよ。俺は今、程々に楽しくやってるからさ」 「……どうやら仲は問題無いみたいだな。こういう事なら、俺ももう少し真面目に樹に通ってれば良かったよ」 『あ、そうですよ。突然来なくなって、コウジは薄情者ですね。まぁ、理由は友達に変だとかなんとか言われたんでしょうけど』 図星を突かれたのか、親父がナティアから目を逸らした。俺も経験はあるし、仕方無いかもな。 ま、俺はそんなの聞き流して、それからも通ったがね。居心地の良い場所に、誰かに言われたからって行かなくなるのも嫌だったし。 とにかく、これで当分はナティアがこの家の住民に追加された訳だ。なんとなく、力関係は親父よりもナティアの方が上のようにも感じるけど。 ナティアが伝説のポケモンだって言うのは分かってるけど、あまりそれは気にし過ぎないで生活したいな。ナティアも、それを気にし過ぎたら息苦しく感じるかもしれないし。 ---- ~後書き~ パッと思いついてさらさらーっと書いてみたのですが、いかがでしたでしょうか? このwikiでもまだそんなにゼルネアスやジガルデが出てくる作品って無いなーと思って、ちょっと開拓者気分で書いてみたのですけど……ゼルネアスのあの角、あれがあると室内とかの移動が相当不便だと言う事を改めて痛感しましたorz あれを克服するような何かが無いもんか……むぅぅ。 #pcomment IP:153.220.42.52 TIME:"2015-04-30 (木) 11:00:55" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%E4%BF%BA%E3%81%AE%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%8A%E3%83%BC%E3%81%AF%E5%A4%A7%E3%81%8D%E3%81%AA%E6%A8%B9%E3%81%A7%E3%81%97%E3%81%9F" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; Trident/7.0; rv:11.0) like Gecko"