written by cotton
今宵私の手の中で 十,
「…?あれ…?」
重い瞼をゆっくりと開く。…私、生きてる?
目の先にいたのは、
「ルカリオ…?」
「…?ハーブ?」
傷だらけで、呼吸の荒い彼。
「助けに…来てくれたの…?」
「ああ、…ただ、」
衝撃と共に、彼の顔が歪む。背中でそれを受け止めた彼の向こうに見えたのは、
「イイ加減、諦メタラ?」
ムウマ…!彼をこんなに傷つけているのは彼女…?
「…大丈夫だ」
そう言い、彼は立ち上がる。右肩のマントがヒラリと揺れる。
「護ってみせる。」
とは言ったものの、これといった手段はない。
両足はなんとか使えるが、直接打撃が通じるわけがない。足技は使用不可。
両手が使えないため波動は使用不可。彼女を置いて使えたとしても、この距離なら両手ならまだしも、左手オンリーとなると威力は高々知れている。ゼロ距離で放てればいいのだが、そうなるとリスクはかなり大きい。
ークソッ…!どうすれば…!
敵の攻撃は未だ止まない。やや動きが掴めてきたため、避けられるようにはなったが…。
ふと、避けた先の足元の感触が違うことに気づいた。
ーん…?これは…清めのお香か…?
束となったそれらを拾ってみる。少し減ってはいるが、火をつければまだ使えそうだ。
「これしか…方法は無ェか…」
「ン…?何ヲ…?」
その拾った束を口にくわえる。
攻撃を避ける間に、先端を木の幹で擦る。ーそう、火をつけるにはそれしかない。
香の効果は知っている。火さえつけば、呪いの効果をかなり薄められる。
口の中はかなり苦い。でも、耐えるしかない。このまま何もせずに負けを認めるのは嫌だから。
「ルカリオ…」
「ちょっと揺れる。しっかり捕まっててくれ」
もう一度彼女を抱える。ここにくるための道標となった甘い香りが口の中の苦さと混ざる。
「タダデサエ息ガ荒イノニ。ソンナ物クワエテテイイノ?」
「シャドーボール」。避けると同時に、首を振って木に擦ろうとする。が、当たらない。
「チィッ…!」
もう一度。…駄目。
「無駄無駄ッ☆」
クソッ…!何故だ…!?何故当たらねェ…!?
距離もタイミングも丁度の筈。何が狂ってる…!?
「捨てて…。」
小さく、彼女は囁く。
「ハーブ…?どういうことだ?」
「自分を捨てて、覚悟を決めて…。当たる刹那、避けようとしてるから…」
ーそうか。まだ恐れてるのか。自分を捨てることを。
「次は当てるッ!!」
その大木へ突っ込む。覚悟を決めた。目を瞑って、自分を信じた。
「ルカリオ…」
「痛ってェ…おもいっきり顔擦った…」
彼の左目の横から、血が滴り落ちる。でも、
「灯いた…!」
彼がくわえた香は、目映い紅に照らされた。
「やったね…」
「後は任せろ、ゆっくり休んでてくれ」
そう言うと、彼は束のうちの何本かを抜き取り、休む私の近くへ置いた。
「さあ、仕切直しだ」
「…へえ。やるじゃない」
…?「悪魔」の目から、怒りが消えた…?
「でも、その体で戦うつもり?」
「俺の波動はピンチの時に強くなる。止めさせはしない」
「…」
何故?一気に劣勢になった筈なのに、なんでこんなに落ち着いていられるの…?
「終宴よ」
「…え?」
「もう、終わりにしましょう…」
こちらを見るその目は、悲しくて、寂しい。
「呪いは使えない。近づいて戦っても、勝ち目ないし」
「は?何言って…」
表情すら浮かべず、淡々と話を続ける。
「私は命を絶つ。あなた達を道連れにね」
そう言い終えると、彼女を闇が包み始めた。
「命を絶つ…!?私たちを道連れに…!?」
「どういうことだ!?説明しろ!」
彼女は聞こえていないのか、返事をしない。目の前に重ねた両手を凝視していた。悲しそうな表情を浮かべてー
十一話へ。
気になった点などあれば。
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