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レポートNo.7「何を思い何を馳せる?」 の変更点


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作者 [[亀の万年堂]]

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※ 注意 このお話には人とポケモンの絡む18禁的要素が含まれています ※

更新履歴

4月2日 作品を投稿

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**『レポートNo.7 「何を思い何を馳せる?」』 [#o4cdcdb9]

 いくつかの大陸と、その数の何十倍、何百倍とある島々、そしてそれらを全て浮かべる海とで織り成されている世界の中で、ここはホウエン地方と呼ばれる島です。このホウエン地方は年中を通して温暖な気候であるおかげで、生き物も自然も世界に点在する他の地方と比べて豊かであるとされています。
 一般的に自然が豊かであるとすれば、それは森の木々と葉や草が織り成す緑、大小様々な花が彩っている赤や黄色といった色が見られることを意味します。しかしながら、それが必ずしも唯一の正解というわけではなく、自然の全てが鮮やかと言うに相応しい色で在るわけではないのです。それを良く表している例として一つ――ここ、ホウエン地方の北方に位置する”ぴっかり山”を紹介してみましょう。
 この何とも安直で間の抜けた印象を与える名を冠する山は、先の”豊かな自然”の一般的なイメージのそれとは全くかけ離れた外見を備えています。麓こそ森の緑がほぼ年中を通して豊かであり、そこに糧と住居を求める多くの生き物がいるのは確かで、それもまた”豊かな自然”を表す一つの要因として成りえるのですが、肝心の山そのものは無機質な色で埋め尽くされている岩山なのです。険しいというほど尖ってはいないものの、それは安息の象徴たる緑の中からそびえ立つにはあまりにも目立ち、不恰好なようにすら思えることでしょう。――が、それはあくまでそれ単体をその周囲の環境と照らし合せてみた場合の話です。ある一定の条件、――そう、仮に空を飛んでそれを夜に見ることができれば、そして遮られない星と月を頭に抱き光るその姿を見ることができれば、感銘を抱かずにはいられないでしょう。そしてその瞬間まで、馬鹿にしていたその名前の意味を知り、思考の矢印は真の姿に基づく認識という道標を経て、敬意を以って”ぴっかり山”と呼ぶようになるのです。
 
 そんな地に足を着け続ける者には名の由来を見ることが適わぬ山の麓、風も無く空からの光によって多くの者が安らぎを得ている森の中に、ぽうっと灯る明かりが一つありました。そこはもう森の切れ目に近いということもあり、それほどまでに樹木が生い茂っておらず、気をつけさえすればそれが森を舐めていくことはなさそうでした。そしてそこからは静かな森の時間を邪魔せぬ程度に楽しげな声が聞こえてきます。森の奥から木々の切れ間を縫って見てみれば、そこにいくらかの生き物がいることが、そして森の者が見れば、それらが森の外からやってきた者であることがそれぞれわかることでしょう。

「今はまだ寒い時期じゃないけれど、それでも暖かいと思うのは、やっぱり焚き火があるおかげなのかな?」

 ゆっくりと揺らめき、音をたてている火の傍で、一人の人間の少女が自身の半分程の高さのテーブルを地面に置きながら呟きました。そしてそれに答えるように近づいてくる、ずっしりとした足音が一つにガチャガチャと不安定な音がいくつか。

「それはそうかもしれんな。夜は夜とて、普通はある程度冷えるものだからな。――と、ここでいいか?」

「うん。ありがとう」

 少女の傍に彼女が置いたものよりもさらに大きなテーブルを置き、さらにその上にフライパンや鍋といったいくつかの調理器具に野菜やパンといった食材までもが置かれました。それらを持ってきたのは、少女とは大変にというほど背丈に差があるわけではありませんが、体の大きさという意味では遥かに上回っている灰色の肉体((どこかの天才ポケモン博士曰く”色の悪い肌”))を持つ、巨躯の人間の男のような生き物でした。冷えるとはいいつつ、その生き物は黒い腰衣((人間でいうところのぶりーふのぱんつ。股下を省略した下着。体に沿ったデザインで運動をするにはうってつけ。しかしこれ一丁で人前に出ると漏れなく一生の傷と保安官のお世話がついてくる。))一枚身に着けているのみでしたが、人間の少女も、当の本人もそのことについてはまったく気にしていないようでした。

「とりあえず適当に食材は持ってきたが、今日の夕飯はどうするんだ? キョウカ」

「そうねー・・・」

 巨躯の生き物が呼びかけたように、この人間の少女の名前はキョウカといいました。彼女はそのまだ未成熟な体つきと、整っていながらもあどけない顔立ち相応の年齢の子どもです。しかしながら、彼女はこの世界における一般的な子どもではなく、世界に数えるほどもいないであろう資産家の娘、つまりとてつもない大金持ちの家に在るお子様なのです。それは具体的に言えば、ここホウエン地方のみならず、この星のありとあらゆる場所に影響を及ぼす程度の力を持っているということになります。もしくは、彼女自身が何か大それたことを考えるわけもないですが、「お金さえあればなんでもできる」という身も蓋も無いことをいくらでも行動に移せる人とも言えます。

「んーと、ボッカは何か食べたいものある?」

「いや、特にはないが・・・」

「好き嫌いもないの? ニンジン((頭に緑色の葉っぱを冠して地表に出し、橙色の身を地中に埋めて生えている野菜。皮と葉っぱをとり、茹でたり炒めるなどして食す。色取りと栄養価も良く、栽培が容易となった今日では年中を通して食卓に並ぶことが多いが、その独特の味によって毛嫌いする者は後を絶たない。))とか」

「問題ない。師範代は何でも食べさせてくれたからな。ニンジンはうまいぞ。栄養も抜群だしな」

 キョウカからボッカと呼ばれたこの巨躯の生き物は、見た目こそ人間のそれに近いですが、もちろん人間ではありません。この世界には人間と動物、魚や植物と様々な生き物がいますが、それらと同じくして世界に在る生き物として”ポケットモンスター”略してポケモンという者達がいました。彼らはその姿と能力を一様には留めておらず、何でも溶かしてしまうような炎を吐ける竜((古来より伝わる御伽噺に良く出てくる伝説上の生き物。話によってその見た目は様々だが、大体にして固い鱗に鋭い角と牙、そして長い尻尾にごつい爪を備えた四肢に巨体を浮かばせるに値する翼を持っている。口からは雷や炎を吐くのが多いとされているが、中には興奮した結果、でろでろの鼻水や大量の唾といった迷惑極まりない物を吐き出す者もいるらしい。))のような者もいれば、触れずして物を自在に動かせる超能力を持つ者もいます。そしてボッカもまたそのポケモンの仲間であり、種族としての名はゴーリキーと言います。剛力という大きな力を意味する言葉から名を取っている通り、人間を遥かに上回る力をもっていることで有名な生き物です。

「そうよね。でも私のパパ、ニンジンだめだったのよね・・・」

「ふむ、そうなのか。好き嫌いはよくないな。大きくなれないぞ」

「あははっ! じゃあ家に戻ったらニンジンのケーキでも作ってみようかな。そうしたら食べてくれるかも」

「そうだな。だが、今はとりあえず夕飯を考えた方がいいんじゃないか? テントも立て終わったのだから、後すべきことは夕飯の準備くらいだろう」

「あっと、それもそうね。昨日はカズユキ師範代からもらったお肉と、オダマキ博士からもらったお野菜を炒めたのだったわよね。だったら今日はシチューにでもしようかな。ここに来る途中でお水いっぱい汲めたしね。ボッカが荷物重くなっちゃって大変だったけど・・・」

 先にも言ったとおり、ボッカは仮に”身長150cm足らずのキョウカが十分に手足を伸ばして潜れる量”の水を持つことになったとしても、それを片手で軽く持てるだけの筋力は備えているのです。それに加えてゴーリキーという種族の基本的に穏やかで体を動かすことが大好きな性格を考慮して、人間が何かを建造したり動かす際には協力を仰ぐことは決して珍しいことでは在りません。この世界の人間であれば、それは最早誰でも知っているといってもいいくらいなのですが、キョウカはそのあたりのことが全くと言っていいほどわかっていないのでした。もっとも、実はキョウカの家の資産というのは”ポケモンに関する事業”に投資し、その結果生まれてきたものだったりするので、その家の娘である彼女がポケモンのことをまったく知らないというのは大変に問題なのですが・・・。

「オレなら大丈夫だ。あの荷物にあの程度の水が加わった所でどうということはない」

 そう言ってボッカは自分の後方にある”巨躯の生き物であるボッカが霞んで見える小さな家くらいの大きさのリュックに詰まった荷物”を指差して見せました。その隣にはちょこんと”キョウカくらいの大きさの水筒((もはやタンクである。推定数百キロ。))”が置かれています。これだけあれば余裕で一週間は持ちそうです。もちろん、それだけの量の水が果たして必要なのかどうかはわかりません。

「どうということはない」

 どことなく本人も気づいているようです。これもまた修行というところなのでしょう。荷物と水筒のそれぞれの大きさの比率だけを見れば、かろうじてまだ許容できそうなそれらの理不尽な大きさも、修行というのならば納得がいくかもしれません。

「なるほど。でも疲れたでしょ? いっぱいご飯食べないとね」

「確かに食事は大事だな。どれだけトレーニングを積もうと、食を怠ってはその効果も無いというものだ」

「うんうん。じゃあ早速準備に入りましょ。とりあえず私がこっちの具材を切ってるから、ボッカはこっちのを切ってくれる?」

「心得た」

 お互いにすべきことを確認し、二人はテーブルの上にまな板((食材を切る時に台として用いる物。ナイフを当てても傷がつきにくく、その土台に傷がつくのを防ぐために用いる。広く伝わっているのはゴムで出来ているものだが、キョウカ達が使っているのは木製の物である。見た目に反して重いので注意が必要。))を乗せて刻み始めました。二人とも慣れているのか全く危なげ無くナイフを使うことができており、しばらくの間、森の中には一定のリズムの小気味良い音が響き渡っていました。

 
 二人が料理に専念している間、キョウカ達がどのようにしてここへやってきたのか、少しだけ振り返ってみることにしましょう。
 ホウエン地方の中でも北西端に近い所に位置し、キョウカの故郷でもあるプラムタウンから出発したキョウカは、そこから僅か一日の距離にあるミシロタウンを目指しました。――が、その距離であるにもかかわらず、キョウカはとある事情((レポートNo.2,3 参照とのこと))により、プラムタウンとミシロタウンの間にある森で一泊野宿をすることになりました。そしてようやくミシロタウンに到着しましたが、またまたとある事情で((レポートNo.4 参照とのこと))町道場の中で一泊することになりました。そして三日目にしてようやく、最初の目的であるオダマキ博士との接触をとても苦労して((レポートNo.6参照とのこと))果たしたキョウカ達は、博士からポケモンのたまごというお礼の品を受け取ったのでした。それと同時にオダマキ博士からは”絶景ポイント”として、この”ぴっかり山”を紹介してもらったのです。というのも、キョウカの旅の目的は”世界中の絶景を見ること”でしたので、オダマキ博士がそれを知ってわざわざ教えてくれたというわけです。

「そういえば、そういう目的だったわね」

 ・・・・・・と、とにかく、キョウカ達は博士からの情報を元にミシロタウンを出発し、夜も半ばというところで辿り着いたコトキタウンにて一泊し、ここ”ぴっかり山”の麓の森までやってきたのです。道中はコトキタウンも含めて相当に広い森林地帯だったのですが、不思議と野生のポケモン達に襲われることはありませんでした。キョウカに同行しているボッカ以外の仲間である某ポケモンは、

「確実にボッカの荷物のせいでしょ。大きい+数が多い=強いっていうのを十分にわかっている野生のポケモンからすれば、おいら達はものすんごい怖い存在なんだと思うよ。まぁこの辺のポケモンは異常種((後に某天才亀っこが説明してくれるはずである。))を除けばみんなおとなしいからっていうのもあるんだろうけどね」

 などというように、ペラペラと説明しており、みんながそれに納得していました。しかしながら、実際にその通りなのかどうかは野生のポケモン達に聞いてみないとわかりません。
 理由はどうあれ、そういうわけで道中は極めて安全でした。それを期に、ミシロタウンで仲間になったばかりのボッカもキョウカを含む一行にすっかり馴染むことができました。もっとも、巨大すぎる荷物という圧倒的な印象があるが故に、どうしたって意識せざるを得ないという話だったりもしますが・・・。ちなみにボッカがそんな巨大な荷物を持つハメ((本人曰く修行である。))になったのは、彼の元トレーナーであるミシロタウンに置かれている道場の主のカズユキ師範代がはっちゃけたからです。しかしながら、そうして旅の荷物は押しなべて少なめにという原則を無視したおかげで、一向が物に不自由することはなくなったのでした。見た目は凄まじく怪しくなってしまいましたが。((街中で保安官に見られたら補導されるレベル。))

「そういえば、キョウカ」

「ん? なあに? ボッカ」

 食材を刻む手を止めずにボッカが聞き、キョウカがそれに返事をしました。が、ナイフを使っている時に余所見はしないという鉄則は守られています((余所見一秒”ふいうち”の元))。

「先程テントを立てている時に思ったんだが、いや、正確には昨日もだったんだが・・・」

「んん? どうしたの?」

「少し気になったんだ。キョウカはどこで旅のことを覚えたのか? とな」

 ボッカが疑問を口にすると、やにわにキョウカは手を動かすのを止めて、「あっはっは!」と大笑いしました。予想外の反応だったのか、それにはボッカも手を止めざるを得なかったようですが、特に何も口を出さずに、今のトレーナーである彼女が答えを教えてくれるのを待っていました。

「私はまだ旅を始めたばっかりなのよ。だからそんな覚えただなんていわれるにはまだまだよ」

「・・・オレは師範代との稽古の関係で野宿をすることもあったんだが、その時の流れを見る限りでは今でも十分できていると思うぞ」

「あらら。だったらそれはリードのおかげね。だって私は旅に出てリードに教えてもらうまで、なーんにも知らなかったんだもの((今でも知っているとはお世辞にも言い難い。))」

 キョウカが言うリードというのは、ボッカと同じくポケモンで、種族名で言うゼニガメです。キョウカが旅を始めるにあたって最初にパートナーとして選んだ・・・というよりも選ばざるを得なかったポケモンで、名付けられた名のとおり、キョウカのことをリード((ひっぱる。牽引する。連れて行く。))してくれています。もっとも、リード自身が嫌味な性格をしているが故に、わかりやすいのはともかくとして、それらの多くはどこか聞く者の神経を逆なでするようなエッセンスを含んでいるのでした。
 ちなみに、実はリードはポケモン全体の中でも極めて稀な存在だったりします。それはゼニガメという種族によるものではなく、彼自身の能力によるものでした。その力とそれに伴う結果の数々は無数に及ぶので解説こそしませんし、本人も全てを明かそうとはしていませんが、それはその能力をしれば、欲しがるトレーナーは山のように集まるほどのものです。
 で、あるにもかかわらず、キョウカはその能力については”説明された”にもかかわらず全く興味関心をもっていません。彼女の中ではせいぜい”大喰らい””口うるさい””なんか頭がいい”くらいにしか映っていないのでした。しかしながら、ボッカにリードのおかげだと説明しているあたり、感謝はしているようです。あくまでその程度のものだということです。

「ふむ。では家で習ったりしたのではないのだな?」

「うん。全部リードが教えてくれたのよ。最初の野宿の時にね。それに今日で旅を始めてから4日くらいだし、まだまだわからないことはいっぱいあるのよ」

「なるほどな、そのためにリードが指南役としてキョウカについてきているわけか」

「ええ、憎ったらしい性格しているけど、なんだかんだいって頼りになるのよね・・・。あ、これはリードに言っちゃだめよ? 言ったらすぐ調子に乗って、“ま、全部おいらの教えのおかげだしー”とか言い出すんだから」

「むん・・・・わかった。キョウカがそう思っていることはオレの胸の内にしまっておこう」

 などと言いつつ、実はボッカはリードがキョウカに対して色々と教えていることを、グレイから聞いて知っていたりします。にもかかわらず、どうして彼がこのようなことをしたのかは彼自身にしか知りえませんし、キョウカもそうだと知る余地はありません。
 それはそうとして、キョウカの頼みに答えるボッカは依然として真面目な顔をしてはいましたが、そこには若干の笑みのようなものが浮かんでいました。元の顔がゴツイだけに、それは見る者によっては恐ろしくもありましたが、キョウカはそれを正しく受け止めることができたようで、自身も笑みを返して「ありがとう」とお礼を言いました。

「それにしてもボッカ、昨日から私も思っていたんだけど、切り方がとても上手よね。ちゃんと刃をうまく入れられているし、切った具材の大きさも形も丁度いいし」

「む? そ、そうか?」

「そうよ。私ってボッカはこういうの苦手なのかなって思っていたから、正直言って、昨日私のことを手伝おうって言われた時はどうしようかなってなっていたのよ」

「ふむ、そうだったのか」

「だけどこんなに上手じゃない? それに、ボッカのおかげでお鍋とかフライパンとか色々もってこれるようになったし、本当に助かったわ」

 キョウカが称賛すると、真面目で固かったはずのボッカの顔が、一層崩れて、より笑みに近いものへと変わっていきました。やはりどんな者でも褒められるのは嬉しいようです。もっとも、その笑顔は不器用といって差し支えなく、やはり見る者によっては、例えば、子どもが見たら泣き出しそうな怖さを持ち合わせていました。キョウカにもしも理解・・・はある意味元からありませんが、許容できる範囲が狭かったら、間違いなく距離をとっていたことでしょう。

「師範代曰く、料理も修業の内だからな。これくらい出来なければ、師範代に申し訳が立たないというものだ。それにオレは荷物持ちとして同行させてもらっているのだからな」

 ボッカは道場で”わざ”を習得したり、体を鍛える術を師範代から教わっていたはずなのですが、こうなってくると最早いったい師範代に何の教えを乞いて、何の修業をしていたのかわかりません。そもそもボッカはこの旅で、強いとは一体どういうことなのかを学ぶことを第一としているはずなので、単純に考えれば、ボッカのしていることはそこからはかけ離れているように見えるのですが・・・・・・ボッカの表情を見る限りでは、それどころかどこか満足気な様子でした。

「ふふふ」

 キョウカはそんなボッカを見て、楽しそうに笑いつつ、その隣でボウル((タマゴを割って入れたり、食用としての粉を入れたり、これから調理するための食材を入れたりと用途の広いドーム状の形をした調理器具。同じような大きさの物を重ねることでスペースを減らせるが、キョウカ達の使っている物は特殊な素材で出来ている折り畳み式、かつ軽量の物なのでほとんどスペースをとらない。もちろん高い。))の中身をカシャカシャとかき混ぜていました。そしてボッカもまた気分良さそうにナイフで食材を刻み続けました。それぞれが作業して生まれているもの全てが、何やら尋常ではない大きさや多さになっているようにも見えますが、それはこの際はあまり気にせずとも良いことです。
 とにもかくにも、誰が見ても二人がまだ出会って二日足らずとは思えないほど仲が良く見えるのは間違い無さそうでした。それは言ってしまえば、師弟というよりも――もっとも、そう思っているのはボッカだけでしたが――普通の友達同士、あるいはもっと深い関係にあるようにも見えました。もちろん当の本人達がお互いをどのように意識しているのかはわかりませんが・・・

 と、そこに、二人の傍の茂みをガサガサと音をたてながら何かが抜け出てきました。

「きょ、キョウカさん、薪集め終わりました」

「あ、おかえりなさい! グレイちゃん」

 茂みから出てきたのは一匹のこの世界で言う犬のような生き物でした。全身くまなく黒の混じった灰色の豊かな毛で覆われていて、小さな頭には形のいい三角形の耳がピンっとたっています。そして、それほど長くない吻の先にはポチッと赤い鼻がついており、大きく黄色い目には爛々とした赤い瞳が据えられていました。体こそ小柄なキョウカよりも大分小さいですが、地面にしっかりとついている四肢と小さな口に備わっている鋭い牙を見れば、この生き物が単純な愛玩用ではないことがわか・・・

「わわわっ!? きょきょ、きょっ、きょわふっ!?」

「ありがとうね。グレイちゃん。さっきの分と合わせて、これだけあればもう大丈夫よ」

「そそ、そわふふわわっ!? で、でですか。そそそそれならああああうううう~、はうっ!?」

 ・・・どうやら彼の主人であるキョウカにとってはそうでもないのかもしれません。キョウカはこの旅を始めて、生まれ育った町を出て一番最初に出会ったこの生き物、ポチエナと呼ばれるポケモンのことをとにかく愛して止まないのでした。そしてその結果、自分よりも小さな生き物に全力で抱きつき、体を押し付けながら”全身の至るところ”をわしゃわしゃと撫で続けて労うのでした。
 キョウカがその体躯を染める美しい灰色を見てグレイと名を付けたこのポチエナは、ボッカと同じくキョウカと旅を共にする仲間です。キョウカが最初に選んだポケモンを除けば、初めて仲間にしたポケモンであるとも言えます。旅を始める前も今も、キョウカは全くといっていいほどポケモンについての知識・興味がなく、ポケモンも決して積極的に仲間にしようという気はなかったのですが、グレイは特別の事情があって仲間にすることになったのでした。

「キョウカ、その辺にしておいたほうがいいんじゃないか? グレイが苦しがってるぞ」

「あ、そうね。ごめんね、グレイちゃん」

「ぷふっ! ――い、いえ、大丈夫です・・・ふ、ふぇ、ふえっ、ぷしっ!」

「あははは! 可愛いわね、グレイちゃんは」

 ボッカからの指摘によってグレイを解放したキョウカでしたが、グレイが思わずくしゃみをしたところで、またその手をグレイの方へと思わず伸ばしてしまいました。もっとも、今回は柔らかく頭を撫でるに留めており、グレイもまた、人間だったら顔を赤くする程度の恥じらいで済んでいるようでした。それではさっきの慌てっぷりはどの程度の恥じらいなのかと思わず疑問に思いたくもなりますが、そこはグレイ個人の尊厳を尊重する意味合いで自重することにしましょう。

「あ、あう・・・。え、えっと、その、集め終わったので・・・」

 キョウカの手を頭で感じつつ、グレイはちょこっと首を動かして、自分の仕事の成果を控えめにアピールしました。グレイ自身が何度も言っているように、グレイには薪集めに行ってもらっていたようです。
 グレイの四肢はしっかりしており、それによって小さな体からは想像もできないほど力強く、速く走ることができます。また、ポチエナという種族の特性上、かなりの時間の間走ることができます。しかしながら、四肢をもって歩行をしているだけに、キョウカやボッカのように手を使って何かを持って運ぶようなことはできません。つまりは口を使って、しかもそれをもって咥えられる程度の大きさの薪を一本ずつしか運べないのです。なので、本来ならグレイにとって薪集めは大変不向きな仕事であると言えますが、他の仕事のことを考えると、どうしてもこれが一番やりやすい仕事になってしまうのでした。
 もっとも、そのことを考えれば、今現在は人員も十分にいるのでグレイが敢えて働く必要はありません。しかしながら、出会った最初の夜にキョウカにお願いされたからということもあってか、グレイは積極的にこの役割を果たそうとしているため、こうして薪集めをしてもらっているというわけです。もちろんそれに伴って苦労も絶えないはずですが・・・どうやら今回はそういうわけでもないようです。

「どう?“それ”つけたら前よりも楽になった?」

「は、はい、運べる量も増えましたし、動きやすくなったのでとても楽になりました。ありがとうございます、キョウカさん」

「ううん、お礼を言うならボッカに言ってあげて。グレイちゃんに合うように作ってくれたのはボッカだしね」

「そ、そうですね、ボッカさん! ありがとうございます!」

 グレイが少し離れた所にいるボッカにお礼を言うと、ボッカはそれに対して無言で手を振って返答を返しました。気にするな、ってことらしいです。元々が無愛想な顔なだけに、こういったことをすると一層無愛想に見えるのが何とも損なところです。

「ふふふ、じゃあ外すからね」

 キョウカはそのやり取りに笑みを漏らしつつ、グレイの首の周りから横にぶら下げるようにして付けられている“それ”――緑色の丈夫そうな革((擦れない蒸れない壊れない))で作られた小さな袋のような物を取り外し始めました。初日から今日に至るまで、直接口で咥えて薪を運んでいたグレイでしたが、どうやら今回はその袋のような物を使って薪を運んでいたようです。結局は袋に放り込む時は口を使わなければいけないわけですから、手間がかかるのには違いありません。しかし、何度も往復するのではなく、まとめて運ぶ方が楽であるとして、このグレイ専用バッグができたのでしょう。グレイ自身にはかなりの力があり、それなりの量の薪を運ぶにはことかかないのを踏まえれば、その判断は適切であると言えます。
 それにしてもグレイの体に合うように装備を作ってやれるあたり、ボッカはなかなかに手先が器用なようです。料理はできるは裁縫のまねごとのようなこともできるとは・・・ボッカは本当に道場で一体どんな修行をしてきたんでしょうか? カズユキ師範代が花嫁修業がごとくボッカのことを指導していたのだとすれば、大分絵的に問題があるような気もします。

「はい、これで大丈夫ね。のど渇いたでしょ? 今お茶淹れてあげるからちょっと待っていてね」

「は、はい。ありがとうございます」

 キョウカは引き続き料理をボッカに任せ、グレイのお皿にあらかじめ用意しておいたお茶を注いで出してあげました。グレイはそれを過去に何度も失敗したようにやけどに気をつけながら飲み始めます。そしてキョウカはそのグレイの様子をニコニコしながら見ていましたが・・・

「キョウカ、悪いがちょっと来てくれないか?」

「はーい。じゃあグレイちゃん、私は料理に戻るから、ご飯が出来るまでゆっくりしていてね」

 ボッカに呼ばれ、キョウカは再び料理へと戻ってしまいました。ボッカの質問に対してキョウカが丁寧に答えている姿は、先ほどと同じようにとても仲が良さそうに見えます。そんな二人の様子を少し離れた所から見ているグレイの顔は、焚き火に照らされてはいたものの暗く、どこか寂しげなように見えました。
 麓に辿り着いて数時間、夜は大分その色を増して、空にはより多くの光が現れてきました。それはその下に在る者全てに柔らかく穏やかな光を与えているはずでしたが、どうやらそれはその内面までは照らせないようでした。パチパチと小気味良い焚き火の爆ぜる音が小さく響く中、グレイは冷めていくお茶を前にして顔を少し下げます。その目の先には、静かに波を受けて歪んでいく自分の顔が写っていました。

「しかし・・・昨日も思ったが、随分と量が多いな」

「おかわりをいっぱいするのがいるからね。これくらい作らないと、すぐにブーブー言うのよ」

「ふむ、確かにあの食べっぷりは見事なものだったな」

「でしょ? ホント、あの体のどこにあれだけの量が入るのかしらね?」

「そうだな。だが、これからもこの量を確保するとなると、積み込む食料や水のことを考え直さないといけないかもしれんな・・・」

 いくらボッカがとんでもない量の荷物を持てるとはいえ、それにも限界というものがあります。ましてや旅には様々な物が必要なわけですから、食料や水ばかり持っていくわけにはいかないのです。ここまでの旅路では町と町の間隔が短いために補給も楽に済んでいましたが、これから長期的に野宿をすることになった場合、これまでのように消費するわけにはいかなくなります。
 もっとも、”普通の旅と仲間”であれば、ボッカの搭載量をもってして1ヶ月は余裕で旅ができるのですが・・・。

「それよりリードよ。リードがあんなに食べなければそれで済むんだし」

「それはそうかもしれんが、食うなというわけにもいかないんじゃないか?」

「そうかなぁ? 旅に出た初日の夜はそんなに食べてなかったし((あくまで現リードを基準にした量である。))、大丈夫な気がするんだけど」

「むう・・・だが、どちらにせよ本人と話す必要があるだろう。オレ達だけでは決めれん」

「確かにそうね。話しても結局我慢できないーってことになりそうだけど・・・。――あれ? そういえば、リードはどこかしら?」

 ひょんなことからリードの話題となり、その本人と話をつけるべく辺りを見回したキョウカでしたが、その姿が見当たりません。今現在キョウカの近くにいるのは、本人と比べると遥かに小さいナイフを片手にキョウカの横に立っているボッカ、リードを探すキョウカのことを耳を垂らして見上げているグレイだけです。

「近くにはいないようだな。水汲みはすでに終わっていたはずだが」

「そうよね。こんなに真っ暗になってるっていうのに、一人でどっかに行くなんて・・・もう」

「まぁリードもそう弱くはないのだろう? なら仮に野生の者達に襲われたとしても大丈夫だろう」

「それはそうだけど・・・」

 ボッカの言葉に納得はしているようでしたが、キョウカの顔は先程までとは打って変わって暗くなってしまいました。ボッカの立ち位置からはキョウカのその表情は見えませんでしたが、丁度彼女の真正面にいたグレイにはよく見えていました。
 ほんの少し前までの様子から察するに、グレイもまた複雑な心境であり、およそ平静であるとは言えなかったに違いありません。しかしながら、今の主人であるキョウカが表情を曇らせているのに、それを黙って見て過ごすなどということは彼にはできないのでした。

「あ、あの、きょ、キョウカさん。ぼ、ボクこの辺りを少し見て回って、り、リードさんを探してきます」

「えっ? グレイちゃんが? でも、そのうち“ご飯まだー?”とか言って戻ってくると思うわよ? わざわざ探しに行かなくても」

「い、いえ、どちらにせよ何もしないで待っているのは落ち着きませんし、その・・・と、とにかくちょっと見てきます!」

「あっ、グレイちゃん!」

 グレイは何やら焦っているかのようにキョウカにそう言いきると、キョウカからの言葉を待たずに、再び茂みの向こうへと走って消えていってしまいました。その速さはまるで何かから逃げ出す時のもののようで、およそ小さな用事を片付けに行く時のものであるとは言えませんでした。
 小さな仲間が風のように去ってしまった後には不安げな表情をしているキョウカと、その後ろに立っている無表情のボッカ、そして少し冷めてしまったものの十分にその量を保っているグレイのお茶が残されていました。

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 静かでも、耳を済ませれば誰かの息遣いが聞こえる。姿は見えなくても、あの茂みの向こうや、この木の上にはきっとだれかがいる。
 それはボクがいた森でも一緒でした。ご主人様の言いつけを破って穴から出て、ボクはその感じるものを頼りに、もともと住んでいる方達の邪魔をして怒らせないようにとして生きてきたのです。だから、ここでもきっとそれは同じで、森というのはどこでも同じなのかと思いましたが・・・どうやらそれはボクの間違った考えだったようです。
 同じような大きさだけど違う木。同じような色だけど違う色。同じような臭いだけど違う臭い。よくよく見てみれば、同じ呼び方でもみんながみんな違います。森は森でも、ここはボクがずっといたあの森ではないのです。
 どうして、今なんでしょうか。どうしてボクは、今になって、初めて、ここはずっといた、あの森ではないと思ったのでしょう。それはもう、キョウカさんと旅に出てからずっと感じてきたことのはずなのに。ボクはもう、あの森にはいないのに。

「ふぅ・・・」

 思わずため息が出てしまいました。目をあっちこっちに配っていましたが、リードさんはなかなか見つかりません。前にいた森だったらすぐにでも見つけられたかもしれませんが、ここではどうやらそれもうまくはいかないようです。どれだけ気を配っても、リードさんの気配を掴むことが全然できないのです。他の誰かのことならわかるのに。

「リードさん、どこにいるんでしょう・・・」

 口に出してもリードさんが出てきてくれるわけもありません。ひょっとしたら、大きな声を出して呼べば出てきてくれるのかもしれませんが、夜の森で大きな声を出すのはとても危ないというのはここでもきっと一緒でしょうから、そうすることはできません。
 だけど、でも、ボクはきっと口ではそう言っておきながら、頭の中で自分にそうと言い聞かせながら、そうとは考えていないのです。リードさんをどうにかして見つけなければ、ということについて考えられず、今は違うことで頭の中がいっぱいなのです。

 ボッカさんにお礼を言うべきなのに、思わずキョウカさんにお礼を言ってしまったこと。
 ただ薪拾いをしてきただけでお茶を飲んでのんびりしてしまっていたこと。
 キョウカさんが呼び止めたにも関わらず、こうして飛び出してきてしまったこと。

 こんなことばかりでいっぱいなのです。すでにしてしまったことばかりです。でも、そういったことよりも一番気になっているのは・・・

「キョウカさん・・・ボッカさんとすごく仲が良さそうでした。――まだ・・・会ったばかりなのに」

 本当にまだ会って間もないのに、ボッカさんと一緒に料理をしているキョウカさんは凄く楽しそうでしたし、ボッカさんのことをとても頼りにしているようにも見えました。それに本人が側にいる時はキョウカさんは言いませんが、普段の態度からしてリードさんのこともとても頼りにしているのがよくわかります。

 なのにボクは・・・

「キョウカさんはボクのこと・・・頼りにしてくれているんでしょうか?」

 キョウカさんはなんだって許してくれます。ボクが失敗をしても、あのとても落ち着く笑顔をボクに向けながら、優しく手を頭の上に乗せてくれます。
 ボクはキョウカさんに怒られることはありません。キョウカさんはいつだってボクに優しくしてくれます。お願いされて一生懸命やれば、ちゃんと褒めてくれます。
 だけど、だけれどボクは考えてしまうのです。思ってもいけないことを思ってしまうのです。気にせずキョウカさんの傍にい続けられるようにしていけばいいのに、どうしても考えずには、思わずにはいられないのです。本当は、キョウカさんはボクのことを・・・と。

「・・・う」

 そうしてこれまでのことを思い返している中、ボクはあることを思い出してしまいました。それはボクがキョウカさんと出会ってまだそれ程の時間が経っていない中でも、特にキョウカさんが優しくしてくれたとボクが感じることです。このことを思い出すと、何だかボクは悪いものを食べてしまった時のように、体の中がぐるぐると気持ち悪くなって、それから頭が熱くなって落ちつかなくなるのです。特に、キョウカさんのあの姿を思い出すとそれがどんどん強まってきて・・・

「あいたっ!」

 
 考え事をしながら歩いていたら思いっきり木にぶつかってしまいました。ぶつけた鼻の先がズキズキと痛むのと同時に、何だかとても情けなくなってきました。
 どうしてボクはこうダメなのでしょう。随分と時間が経っているはずなのにリードさんはぜんぜん見つからないですし、考え事をして木にぶつかるなんてどうしようもないです。こんな姿をボッカさんやリードさんに見られたらきっとがっかりとした顔をされるに違いありません。それはボクにとってはとてもとても辛いことです。

「うぅ・・・」
 
 でも、今は落ち込んでいる場合じゃありません。キョウカさんのために、ボクはリードさんを見つけなければいけません。リードさんがいないとキョウカさんはとても不安になるはずです。さっきだってリードさんがどこかへ行ってしまったと知った時、キョウカさんは・・・何だかとても辛そうで、寂しそうな顔をしていました。ボクはキョウカさんのそんな顔は見たくないのです。キョウカさんにはいつだって笑っていてもらいたいのです。だから、だからボクはもっともっと頑張らなきゃいけないのです。

 そう思って、ちょっと鼻を地面に当ててから、ボクは木にぶつからないように気をつけながら茂みをくぐって再びリードさんを探し始めました。――のですが・・・

 森がさっきよりも暗くなっているように見えるからでしょうか。何だか遠くの方から大きな生き物の寝息のような音が聞こえるからでしょうか。そこまでしても、どこまでいっても、ボクの頭からはさっきから考えていることが頭から離れませんでした。むしろキョウカさんのために頑張ろうとすればする程、それは強まっていくようでした。
 キョウカさんは・・・キョウカさんは、ボクのことをどう思っているのでしょうか。リードさんとボッカさんみたいに頼りにしてくれているんでしょうか。それとも単純に可愛いと思っているだけなのでしょうか。

 こんな状態でリードさんのことを見つけることなどできるはずがありません。来たこともない森の中で、今は昔とは違う中で、何かを見つけるなんてことができるはずもないのです。だけどボクはそのことが気になって気になってしかたがないのです。

「ボクは・・・キョウカさんにとってなんなんでしょう」

 わかりません。わかりようがありません。人が何を考えているかなんて、その人自身で無ければわかるわけがありません。ましてやキョウカさんのような素晴らしい人の考えを、ボクのようなどうしようもない生き物がわかるはずがないのです。でも、それでも気になってしまいまうのです。それがわかってどうなるかはわかりません。ただ、今は何だか、とても辛いです。それだけがハッキリとしています。その原因もわからないのに、この、ドクン、ドクンと音のなるところが、きゅううっと痛くなるのです。
 わかりません。わかりようがありません。人が何を考えているかなんて、その人自身で無ければわかるわけがありません。ましてやキョウカさんのような素晴らしい人の考えを、ボクのようなどうしようもない生き物がわかるはずがないのです。でも、それでも気になってしまうのです。それがわかってどうなるかはわかりません。ただ、今は何だか、とても辛いです。それだけがハッキリとしています。その原因もわからないのに、この、ドクン、ドクンと音のなるところが、きゅううっと痛くなるのです。
 キョウカさんがどう思っているのかがわかれば辛くなくなるのでしょうか。でも、それはしてはいけないことであるような気がします。知ってしまったら、もう、それこそどうにかなってしまいそうな気がします。なのに、でも、だけど、だけど辛くて、痛くて、苦しくてしょうがないのです。
 
 キョウカさん、ボクはどうしたらいいのでしょうか。どうしてボクは今、こんなことを考えている場合じゃないのに、止まっている場合じゃないのに、この場でうずくまってしまいたくなっているのでしょうか。そしてキョウカさんに抱きしめて欲しいと思ってしまうのでしょうか。どれだけ思ってもらわなくても、何をされてもいいから、ただ・・・ただあの優しくて、暖かくて、キレイで柔らかい手で、ボクの頭に手を乗せて欲しいと思ってしまっているのでしょうか。キョウカさん、キョウカさん・・・ボクは・・・

ガサッ

 答えが見つからない疑問が頭の中をぐるぐる回っているのを感じながらも歩いていると、近くの茂みが音をたてて揺れているのに気がつき、ボクはハッとして身構えました。
 誰かの縄張り((誰かさんの家、もしくは所有している場所。野生のみなさんのこれにうっかり入ると怒られる。街のみなさんのこれに無断で入ると捕まる。))に入ってしまったのでしょうか。だとしたら襲われてしまうかもしれません。ボクはこの森のことはよくわかりません。もしも、もしも、とてもとても怖くて、ものすごく大きな相手だったらどうしたらいいんでしょう。そうなったら、キョウカさんのところまで・・・

「あ・・・」

 ボクはチラッと後ろを振り返って気がつきました。ボクはどうやってここへ来たのでしょう。ボクはどこをどうやって歩いてきたのでしょうか。
 周りを見ても同じ木しかありません。同じ茂みしかありません。そして何よりも、今ここにはボクしかいません。

「あああ・・・」

 リードさんを探しに来たのに、これではボクがキョウカさん達の所まで戻れません。それどころか、もしこの茂みの向こうの相手が襲ってきたら、ボクは、ボクは・・・・・・

ガサガサッ

 茂みがさっきよりも大きく揺れて、いよいよ中から何かが飛び出してきそうです。怖い。怖い。ボクはもうどうしようもなくなって、その場から動けなくなってしまいました。そんな状態で襲われたらどうしようもないのはわかっていても、ボクにはもう・・・

「ひいいいいっ!」

「んぐんぐっ・・・あれ? グレイじゃん、どうしたの? 悲鳴なんかあげちゃって」

「えっ?」

 悲鳴を上げながら地面にへたり込んでいるボクの耳に、どこか聞き覚えのある声が入ってきました。そろそろと顔を上げてみてみると、目の前には青い体にしっかりとして固そうな甲羅、丸い顔をしている方がいました。そうしてキョトキョトと目を瞬かせているその方は、間違いなくリードさんでした。

「う・・・」

「ん~? どうしたのさ? グレイ? おーいグレイってば」

 リードさんはどんどんボクの方に近づいてきます。そしてボクの鼻がもうリードさんの体に当たってしまうくらいに近くに来て、ボクの顔の前にご自分の顔を持ってきてじっとみつめてくれました。その目を見て、リードさんがそこに確かにいるのだとわかって、ボクはもう、もう・・・

「うわああああああん! うわああああん!」

「うおわっ!? ど、どうしたんだよグレイ!? い、今はちょっと危な・・・ってホントに、ホントにいい」

「リードさん! リードさーん! うわああああん!」

「お、落ちつばらはっ!? アッー! おいらのきのみがああああ!!! ぐ、グレイ! 離して、離してくれえええええ!」

「リードさああああああん!」

「誰かおいらのきのみを止めてくれええええええええええ!!!」

 リードさんが困っているのはわかっていましたが、ボクはもうリードさんに飛びつかずにはいられませんでした。その衝撃でボクの頭に何かがぼこぼこと落ちてきましたが、それでもボクはリードさんにしがみついて離れられませんでした。リードさんは何か言ってボクのことを落ち着かせようとしてくれていましたが、今のボクの耳では何て言ってくれているのかは聞き取れませんでした。

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 ――それからしばらくして


「ぜぇぜぇ・・・お、落ち着いたかい? グレイ」

「はい・・・」

「それはよかったよ。――ああ、おいらのきのみ・・・」

「す、すいません。リードさん」

 やっと落ち着いたボクを前にして、リードさんはとても疲れた様子でぺたりと地面に座り込みました。その表情はひどく残念そうです。というのは、ついさっきボクが思いっきりリードさんにしがみついたせいで、リードさんがせっかく集めたきのみをあちらこちらへと吹き飛ばしてしまったからのようです。おまけにどうやらそれに気づいた森の方が、すかさず駆け寄ってそのきのみを全部持っていってしまったらしく、すでにきのみはどこにもありませんでした。それにもかかわらず、リードさんはボクのことを許してくれましたが、それで余計にボクは申し訳ない気持ちでいっぱいになりました。

「まぁ、気にしなくていいってば。すでに結構食べてたしね」

「あう・・・すいません」

 ちなみに、リードさんはお腹が空いてご飯まで我慢ができなくて、その結果キョウカさんには内緒できのみを探しに森を散策していたようです。ちゃんと言えばキョウカさんはきっと許してくれるのに、どうしてリードさんは言わずに行ってしまったんでしょうか。うーん、同じことが起きないように、言っておいた方がいいんでしょうか。でも、ボクからリードさんに言うなんて、何だかとても偉そうですし・・・。

「それはそうと、グレイは一体何しにきたのさ? キョウカ達はどうしたんだい?」

「え、えっと、リードさんのことを探していたんです。もうそろそろ夕ご飯ですから。それと・・・」

「それと?」

「い、いえ、何でもないです・・・」

「ふーん。じゃあそろそろ戻ろっか」

 そう言ってリードさんは立ち上がって、キョウカさん達がいるであろう方向へと歩き始めました。流石にボクと違って、ちゃんとキョウカさん達がどこにいるのかはわかっているみたいです。そしてボクもそれに続いて歩こうとしましたが・・・。

「ん? グレイ? どうしたのさ? ついてこないと置いてっちゃうぞ」

 リードさんと同じく、その場から立ち上がったものの、ボクは動かずにじっとしていました。そんなボクのことをおかしく思ったのか、リードさんは少し進んだ足を戻してボクの傍までやってきました。
 何も言わずに、何も聞かずにこのまま戻れば元通りです。きっとキョウカさんは何も言わずにリードさんが戻ってきたことを喜ぶでしょうし、ボクのことを褒めてくれるのでしょう。でも、何だかそれではいけない気がするのです。余計にキョウカさんに心配をかけてしまうかもしれないけれど、でも、ボクは・・・。

「あ、あの! リードさん、ちょっと聞きたいことがあるんですけど・・・」

「んん?」

 ボクの呼びかけに対して、リードさんは首を傾げて見せました。それはいつもと変わらない顔でしたが、ボクは言葉を続けるべきかどうか迷ってしまいました。でも、リードさんだったらちゃんと答えてくれるはずですし、ここは思い切って聞いた方がよさそうです。ボクはそう心に決め、リードさんの顔を真正面から見て思い切って口を開くことにしました。

「り、リードさんは、リードさんは・・・」

「うん、おいらは?」

「ボボボクのことわをっ」

「ボボボ? ことわ? なんじゃーそりゃー」

「あ、あう・・・ち、違うんです。ぼ、ボクは」

「あっはっは! じょーだんだよ。じょーだん!」

 うまく言えずにしょげるボクのことを、リードさんは大きく笑いながらべしべしとボクの体を叩いて慰めてくれました。こんなことではこの先の質問を続けられるかどうか・・・。

「さ、いいから続けて続けて」

「は、はい・・・」

 やっぱりリードさんは優しいです。ちゃんと聞けるか、聞いても大丈夫かまだ不安ですけど、でも、リードさんが待ってくれているのですから、ちゃんとしないといけません。

「い、いいですか?」

「いいですとも」

「う・・・じゃ、じゃあ聞きます。その・・・あの、り、リードさんは・・・ですね。ぼ、ボクのことを、ボクの、ことを・・・」

「グレイのことを?」

「ぼ、ぼ、ボクのことをどう思っていますかっ!?」

「え?」

 ボクの問いかけに対して、リードさんは丸い目をもっと丸くしてしまいました。もしかして、もしかしなくても、ボクは何か失敗してしまったんでしょうか。聞き方が悪かったのでしょうか。それとも聞いてることがあまりにも馬鹿らしくて、それでリードさんはびっくりしてしまったのでしょうか。それともそれとも、そもそもボクの問いかけなんてリードさんからすれば、ああでも・・・。

「ちょ、ちょっと待ってよグレイ。あのさ、どういうこと? 悪いんだけど、もう一回言ってくれない?」

 やっぱりボクの言葉が伝わらなかったみたいで、リードさんは何が何だかわからないと言った顔で、ボクの顔を覗き込んで来ました。これはもう一度同じことを言うべきなんでしょうか。それで意味が伝わらなかったら・・・でも、リードさんはもう一回と言ってくれているのですから、やっぱりちゃんと言われたことは守らないといけません。

「で、ですから、リードさんは、その、ぼ、ボクのことをどう思っているのかと・・・」

「お、おいらがグレイのことをどう思っているかって?」

「は、はい、教えてください。お願いします」

「う、うーん・・・どうって言われてもなぁ・・・うーん」

 リードさんの様子からして、どうやらボクの言葉の意味は伝わったようですが、肝心の答えについてはまだ得られていないため、何とも微妙なところです。けど、ボクのこんな唐突な質問でも、リードさんは一生懸命考えてくれています。ボクとしてはそれだけでもすごく嬉しいことなのですが、今はそこで終わってしまうわけにはいきません。

「あの、ど、どんな答えでも構わないんです。リードさんから直接聞けるなら、それでぼ、ボクはいいんです」

「ど、どんなって言われてもさぁ。だって、おいらだって突然だったし、まさかグレイからこんなこと・・・いや、でも、うーん・・・」

 何だかリードさんはとても困っているみたいです。ボクの聞き方がやっぱり悪かったのでしょうか。一生懸命に考えてくれるのはとても嬉しいですけど、そのせいで困らせてしまうのはよくないです。
 だけど、どうやったらリードさんは困らずに答えてくれるんでしょうか。もう少しわかりやすくするには、もっとはっきり言わないといけないはずですけど、これ以上どう言っていいのかわかりません。うう・・・ボクの方まで困ってきてしまいました。とにかく、何か言わないと・・・。

「あ、あの、困らせてしまってごめんなさい。ぼ、ボク、そんなつもりじゃなくて・・・」

「そ、そりゃグレイはそうだろうけど・・・さ。そのー、こんなこと言うのもなんだけど、おいらってあんまりこういうの経験ないもんだから、どうしたものかなって」

「うぅ・・・じゃ、じゃあ、やっぱり、リードさんはボクのこと・・・」

「いやいやいや、だからさ、あー・・・うん、嫌いではないよ。うん」

「そ、そうですか・・・」

 嫌いではない。嫌いではない。嫌いではないというのは、一体どういうことなんでしょうか。それはやっぱり、ダメだってことなんでしょうか。ボクはリードさんには受け入れてもらっていないんでしょうか。だとしたら、きっとボッカさんだってそうですし、それに、それに・・・。

「あああ、そんなに落ち込まないでくれよ。おいらだってさ、別にグレイのことを傷つけたいわけじゃないんだよ」

「す、すいません・・・すいません」

「うう・・・や、やっぱりおいらはこういうの苦手だよ」

「に、苦手? それって、それって・・・う、うぅ・・・」

「わわわわっ!? ち、違うんだよグレイ! おいらはさ、グレイのことを仲間としては好きなんだよ。こと、キョウカを見ていく上ではグレイはいてくれないと困るし、実際頼りにしてるしさ」

「えっ? た、頼りに?」

 きっと知ってはいけなかったに違いない答えを聞いて、ボクは頭が熱くなって、胸がとってもとっても痛くなって、それから目から何かが溢れ出てしまいそうでしたが、リードさんからの言葉を聞いてどうにかそうならずに済みました。でも、ボクはてっきりリードさんからは全然頼りにされてなくて、ましてや仲間として好きでもなんでもなくて、邪魔でしかないと言われたのだと思っていたのですが・・・。

「あ、あの、リードさん。そ、その、リードさんはボクのこと、き、き、嫌いなんじゃ?」

「えええっ? な、なんでさ? どうしておいらがグレイのことを?」

「だ、だって、だって、ボク、リードさんやボッカさんと違って、きょ、キョウカさんの役に全然立てていませんし、迷惑ばっかりかけてますし・・・」

「ちょ、ちょっとちょっと、グレイ」

「きょ、キョウカさんとリードさんが旅に出て初日にボクと会わなければ、もっと旅は順調に進んでいたはずですし、ぼ、ボクがいても、き、きっと、本当は、本当は誰も・・・」

「グレイってば!」

「は、はいっ!?」

 リードさんからもの凄く大きな声をかけられて、思わずボクは飛び上がってしまいました。リードさんの顔を見ると・・・うぅ、な、何だか怒っているみたいです・・・。

「・・・あのさ、グレイはキョウカのことを頼りにしているかい?」

「ふぇっ? きょ、キョウカさんを、ですか?」

 リードさんは怒った顔のまま頷いています。きっとそれは、ボクが聞き返したことで合っているっていう意味なんでしょう。
 でも、ボクがキョウカさんのことを頼りにしているかどうか・・・。キョウカさんは、今のボクのご主人様ですし、ボクが頼りにするというのは何だか違う気もします。本当なら、ボクの方がキョウカさんに頼りにされるべきなのです。だけど、今はそうできていなくて、だから困っていて、それで、リードさんに聞いてみて・・・・・・あ、あれ、そういえば、どうしてリードさんはキョウカさんをと聞いたんでしょうか。ボクはキョウカさんのことはほとんど言っていないのに。

「どうしてキョウカのことを聞いたのかって顔してるね。そうだろ?」

 す、すごい・・・。リードさんにはやっぱり何でもお見通しなんでしょうか。ボクなんかではとても敵いそうもありません。

「よーするにさ。グレイは不安なんだろ? キョウカにどう思われているかってさ」

「う、うぅ・・・」

「もーちょっと質問の形を考えないとさぁ? こんなのおいらじゃなくてもわかっちゃうよ?」

「あう・・・す、すいません」

「いや、謝る必要は無いんだけどさ・・・」

 ボクがまた余計なことを言ってしまったのか、リードさんはどこか疲れたように頭を落としてしまいました。どうしてボクはこういつもいつも失敗してしまうんでしょうか。何だかさっきも同じようなことを考えた気がします・・・。

「まぁ、それはともかくして、そうなんだろ? もっと直接聞けばよかったのにさ」

「すいません・・・」

「だから謝らなくていいってば。――ふむ、よく考えてみれば、おいら達が会ってすぐにも同じことをしてたよね」

「そ、そうですね。ボクがきょ、キョウカさんとリードさんと会ってすぐの夜に・・・」

「あの時はキョウカはなーんにも気づかずによく眠っていたっけ。今もそうだけど、本当にお嬢様なのかねぇ?」

「・・・」

 ボクがキョウカさんとリードさんに会った最初の夜、確かにボクはリードさんと一緒にお話をしました。リードさんはキョウカさんのことをどう思っているのか、そしてボクはキョウカさんのことをどう思っているのか。
 キョウカさんは優しい。キョウカさんはきれい。あの時思ったことは今でもそう思えています。ボクから思うことは変わっていません。――いえ、でも、キョウカさんを守らないといけないという気持ちは、あの時よりもずっと強くなっているかもしれません。キョウカさんを守り続けられれば、ボクは・・・。

「キョウカはグレイのこと、頼りにしてるよ」

「えっ・・・えっ、えっ? えええええわわわうっ!? うぅ・・」

「な、なに一人で踊ってるのさ」

「あ、あう・・・す、すいません。でも、でも・・・」

「そんなことないって? そんなことあるっつーの!」

「あうあっ!」

 ボクがおろおろしていると、リードさんはボクの頭に軽く手をぶつけてきました((リードチョップ 威力5 命中100 こうげき  PP1/1  このわざによっては相手は倒せない))。軽く頭を振ってから顔を上げると、リードさんはさっきと違って笑っていました。

「繰り返すけど、キョウカはグレイのことを頼りにしているよ。見てればそれくらいわかるさ」

「そ、そうなんですか? ほ、本当に?」

「本当だよ。――大体さ、あの天然ボケかましまくりの田舎お嬢様にウソなんかつけると思うかい?」

「い、いなか? あ、あの・・・」

「だーっ! よ・う・す・る・に! キョウカはウソなんかつけないんだよ。だからあの態度がそのまんま答えってこと!」

「あう・・・。あ、あの態度って」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 ボクが聞くと、リードさんは今までに見せたことが無いような顔をして見せた後、とっても長いため息をついて、それからボクに背中を向けてしまいました。何だかその背中からは・・・口ではうまく言えない見えない壁のようなものが出てきているみたいで、ボクはもうリードさんに近づけそうも在りませんでした。

「・・・・・・・・・グレイ、一度ポケモンセンターに行こうか。徹底的に検査してもらわないとね」

「えええええええええええええええええええっ!? ぼぼぼぼぼぼぼボク、ど、どどっ、どどっどこっか、わ、わわわるいんでしょうか?」

「そうだよ、グレイ。何とも恐ろしいことだけどね、グレイの頭の中にはめちゃくちゃヤヴァーイ虫がすんでいるみたいだよ」

「ひいいいいっ!? む、虫ですか? そ、そんな、そんな・・・そそそそそれって、ど、ど、ぼぼっどどどど?」

「ボクはどうなるんですかって? 教えてあげよう。このまま放っておくと、グレイの頭の中にある記憶がみんなそいつに食べられちゃうよ。困ったね」

「き、きおく? そ、それって・・・それって」

「キョウカとかおいらのことを忘れちゃうってことだよ。もちろんボッカもね」

「ええええっ!? い、いや、いやですうううううう! ど、どどどどどうしたらいいんですか!?」

「これから急いでグレイの頭の中にいる”どんかん虫”を取り除くのさ。そうすれば大丈夫」

「ほほほ本当ですかっ!? 本当にそれで大丈夫なんですかっ!?」

「・・・いや、あの、グレイ? これはじょうだ」

「嫌です嫌です! ボクは嫌です! リードさんのことも、ボッカさんのことも忘れたくなんか無いです! キョウカさんのことを忘れたりなんかしたくないです!」

「あ、あのー・・・」

「ボクは皆さんが大好きなんです! もう独りなんか嫌です! やっと、やっと見つけてくれて、だから、だからボクは・・・ボクは・・・。ふ、ふえ、ふえええ」

「わわわわわっ!? ごめんごめん悪かった! 悪かったよグレイ! 今のはウソ! そんな虫なんかいない! グレイはおいら達のことなんか忘れたりしない! だから大丈夫!」

「ほ、本当に? ほ、本当に、本当に?」

「ホント! ちょっとグレイが馬鹿で鈍感でどうしようもないからイラっときてついやっちゃんだんだよ。ごめん」
「ホント! ちょっとグレイが馬鹿で鈍感でどうしようもないからイラっときてついやっちゃったんだよ。ごめん」

「そ、そうだったんですか。よ、よかったです・・・」

 本当に冗談でよかったです・・・。もしも本当にそんな虫がボクの頭の中にいて、それでリードさんのこととか、ボッカさんのこととか、それから、キョウカさんのことを忘れてしまったら、きっとボクはもう・・・。

「でも、さ、ちょっとやり方はまずかったけど、これでわかっただろ?」

「え? わ、わかったって、何をですか?」

「・・・・・・うー、我慢、我慢、おいらは我慢ができる。我慢ができる・・・」

「り、リードさん?」

「よし。――こほん。えー、つまり、グレイはキョウカのことをものすんごく頼りにしているってこと!」

「ぼ、ボクが? で、でも・・・」

「でもじゃないよ。だってさ、グレイはキョウカのことが好きなんだろ? それこそ、おいらとボッカ以上にさ」

「そ、それは・・・」

「別にそれはいいんだよ。グレイがそうなるのはとても自然だしさ。だからそうならそうと、おいらとかボッカに悪いなんて思わずに言いなよ。大体、あの夜だってグレイは言ってただろ?」

 確かに、ボクはキョウカさんのことを好きだと言いました。今だってそう言えます。でも、ボクが気になっているのはそうじゃなくて・・・。

「キョウカから好きだって言われないと言えないかい? 言っちゃいけないと思うかい?」

 そうなのです。ボクはキョウカさんのことが好きです。でも、キョウカさんが本当にボクのことが好きじゃなかったとしたら、ボクがそう思うのはキョウカさんにとってはとても迷惑なことになってしまいます。ボクはキョウカさんに対してそうしてしまうのは嫌です。キョウカさんのことが好きだから、傍にいたいから、だから、キョウカさんがそうじゃないなら、そうだとわからないなら・・・。

「きっとグレイの中ではそりゃーもうひどい矛盾だらけで大変なことになっているんだろうね。でもね、何度も何度も言うように、キョウカはグレイのことが好きだよ。間違いない」

「でも・・・」

「信じられないかい? だったら思い返してごらんよ。おいら達が一緒になってまだたった4日だけどさ、それでも、まぁ普通は十分とは言えないかもしれないけど、少なくとも好きだと思われていると思ってもいいくらいの出来事はあったはずだよ」

 リードさんに言われて、ボクはあの森でキョウカさんと出会ってからのことを思い返してみました。
 
 ボクがまだあの森にいた時、今から少しだけ前に、ボクはキョウカさんと出会いました。キョウカさんはすぐにボクのことを抱き上げて膝の上に乗せてくれた後、頭を優しく撫でながら、目の前においしい匂いのする食べ物を置いてくれました。お腹が空いていたボクは、特に気をつけることもなくそれを食べました。それがとてもおいしかったのを今でも覚えています。でも、何よりも覚えているのは、ボクがその食べ物を食べている間、キョウカさんがボクに向けてくれていた笑顔と、ボクの体を撫でてくれる手の柔らかさと温かさです。本当だったら、そんな初めて会う方に安心してはいけないのですが、ボクはうっとりとしていました。こうして思い返してみると、少しだけ恥ずかしいです・・・。
 だけど、キョウカさんがリードさんと一緒に行ってしまった時はそれとは逆で、何だかとても辛くて、悲しかったのを覚えています。同じように体の中が痛くなった時と比べても、いえ、それは比べることなんてできないのかもしれません。行って欲しくなくて、ただ傍にいて欲しくて、きっとボクの言葉はわからないとわかっていても、それでもボクはキョウカさんのことを呼ばずにいれなかったのです。――でも、だけど、キョウカさんはその時は行ってしまいました。もしもその後、ボクが森の方に襲われている時に来てくれなかったら、そうでなくても、二度と会えなかったら、それは今でも言えることなのですが、ボクはもう耐えられないのではないかと思います。
 キョウカさん達が戻ってきてくれてから、ボクは前に暮らしていたほら穴にキョウカさん達を案内しました。キョウカさんとリードさんが何か色々話した後、ボクが喋ったことをリードさんがキョウカさんに教えてくれて、それから、キョウカさんはボクのことを抱きしめてくれました。ボクはその時は辛かったのかどうかわかりません。ただ、ボクのことを抱きしめて、前のご主人様とは何にも関係の無いキョウカさんが、震えながら「ごめんね」と何度も小さく呟いてくれていたのは、その意味は未だにわからないですが、よく覚えています。それと、頭の上にぽたぽたと垂れる、不思議と温かい水の感触もきっとまだ・・・。
 キョウカさんはそれからはいつもボクに笑ってくれていました。ボクの体をとても、細かく、優しく、丁寧に・・・丁寧に・・・えっと・・・その、丁寧にしてくれた時も、ボクが食べたいと言ったオムレツを作ってくれた時も、ボクが仕事を終えて戻ってきた時も、あの落ち着く笑顔を見せてくれていたのです。それは本当にきれいで、もしもできるなら、ずっとずっと見せて欲しい笑顔なのです。ボクがどんな失敗をしても、キョウカさんの手と笑顔と、その温かさはいつも変わらなくて・・・。

「・・・どうだい?」

 聞きなれた声に反応して、気がつくと地面に向けてしまっていた顔を上げてみると、目の前にはやっぱり見慣れたリードさんの顔がありました。
 今までのボクはどうかしていたんでしょうか。どうしてリードさんがボクのことを嫌っているなどと思ってしまったのでしょうか。もしもリードさんがボクのことを嫌っていたら、リードさんはきっとこんなにボクに付き合って話をしてくれるわけがないのです。そしてそれは・・・キョウカさんも。

「キョウカさんは・・・本当にボクのことを大事に思ってくれているんですね。それに、リードさんも」

「そ、そう言われると照れるけど・・・。まぁ、でも、そうだよ」

「ありがとうございます。教えてくれて。――ボクは、もっともっと頑張らないといけないですね。そうして、もっと・・・きょ、キョウカさんが頼れるようにならないと」

「もっともっとはそうかもしれないけど、すでにもうグレイは頼りにされているし、ついこないだされたじゃないか」

「えっ?」

「守ったんだろ。キョウカのことを、たった一人で」

「あ・・・」

 リードさんに言われて思い出しました。つい昨日のことなのに、どうしてボクは忘れてしまっていたんでしょうか。確かにボクはキョウカさんを守りました。キョウカさんを襲って、動けなくしていたケムッソをやっつけたのです。そして、そのお礼に・・・あ・・・あ・・・。

「ぐ、グレイ? 何だか、顔が・・・その・・・大丈夫かい?」

「えっ!? あ、あう・・・いえ、はい。大丈夫、です。はい」

「そ、そう。いや、何だか初めて見る顔だったからさ。大丈夫かなあって」

「じょじょだいじょ大丈夫です! はう・・・」

「うーん。でもまぁ、キョウカってグレイのことを可愛く思っているのは間違いないし、キョウカのそれって、言うなればペットのそれに近い所もあるかもしれないんだよね」

「ペットの、それ・・・ですか?」

「言い方は悪いけどね。だけど、完全にそうってわけでもないんだ。――だってさ、ペット扱いだったら間違いなくモンスターボールを使うはずなんだよ。・・・って、キョウカは使い方を忘れているか、存在そのものを忘れているんだろうけど」

「そ、そうなんですか」

「でもねー。何ていうか、実際にそうできているかどうかはともかくとして、グレイに対してはさ、キョウカは守りたいっていう気持ちが強いんだろうね」

「ま、守りたい? きょ、キョウカさんが、ぼ、ボクを、ですか?」

「そーそー」

 ご主人様であるキョウカさんをボクが守るのではなく、キョウカさんがボクを守る。それはさっきも考えた気がしますが、本当だったら全く逆のことです。ボクがキョウカさんを守らないといけないのに、キョウカさんがボクを守るというのはおかしいことです。

「で、でも、普通はポケモンが主人を守るものですよね? なのに、主人である、きょ、キョウカさんに守ってもらうというのは・・・」

「うん、おいらもそうだと思うよ。実際、ドーナツ博士からはキョウカのことを守るように頼まれているしね。普通はポケモンが主人たるトレーナーの命令に従って動いて、トレーナーのためにバトルしたり、トレーナーのことを守ってやるもんだよ」

 リードさんの言うとおりです。普通だったら、ポケモンであるボク達は、主人の――今だったらキョウカさんの命令を聞いて、あれこれ動き、いざという時は身を呈してでも守るものです。だから、ボクもそうしなければと今まで思っていたのですが・・・

「だけどさ、キョウカは自分のことをトレーナーだとは思ってないし、なろうともしてないんだよね。ま、キョウカにトレーナーのなんたるか、なんてわからないんだけど」

「そ、それはボクも話を聞いたのでわかっていますが、でも、今現在こうしてボク達はキョウカさんと一緒にいるじゃないですか。つ、つまり、キョウカさんボク達のトレーナーであって、主人であって、守るべき存在であって・・・」

「うん、グレイが言うとおり、オイラ達からすればキョウカはそういう存在さ。ああでも、おいらはキョウカのことを主人だなんて思っていないからね! ここは重要だから忘れないでね!?」

「は、はい」

 突然リードさんが怒り始めました。ま、またボクがいけないことを言ってしまったんでしょうか。でも、リードさんがキョウカさんのことを主人ではないと言うのなら、リードさんにとって、キョウカさんって一体なんなんでしょうか。・・・うう、ボクではわかりそうもありません。

「うおっほん! ――まぁ、そんなどーしょーもない人間のキョウカだけど、キョウカ自身はポケモンのことを、つまり、おいら達のことを自分を守るための手段とかっていう風には考えていないんだよ」

「え?」

 ボク達が本来果たすべき役割をキョウカさんは求めていない。ボク達がキョウカさんに付き従っている理由だとか意味は、キョウカさんが求めているそれとは合っていない。リードさんはそう言っているのでしょうか。 でも、だとしたら、ボク達は一体どういったことを求められているんでしょうか。

「じゃあキョウカは一体どういう意図をもっておいら達と付き合っているか、ってことになるけど、それって普段一緒にいれば大体わかると思うんだよね。ましてや、今さっきこれまでのことを思い返したんだったらね。――だけど、ここでよく考えてみてほしいのは、一体どうしてキョウカはグレイのことをそこまで思っているのかってことなんだよね」

「キョウカさんがどうしてそこまで・・・ですか? それって」

「そう。わざわざ旅路を引き返して見ず知らずのポチエナを助けて、あまつさえ一緒に連れて行って前のご主人様を探すことを約束して、体をお風呂で洗って・・・とかってことだよ。まぁ、おいら達にポケモンフーズを出さずに普通の食事やお茶、それからおやつだのなんだのを出したりするのもそうだけどね」

「そ、そうなんですか?」

「そうだよ。だってさ、普通のトレーナーだったら“ここまで”しないだろ? でも、キョウカはその普通を覆すようなことをたくさんしてるじゃん? それはなんでかって考えてごらんよ」

 リードさんにそう言われ、再びボクは考え始めました。
 リードさんが言っている“ここまで”というのは、恐らくボクがさっきまで思い返していた、キョウカさんがボクに対してしてくれてきたことを言っているのでしょう。確かに、ボクが知っている範囲でも、普通のトレーナーだったら、ポケモンに対してわざわざ料理を作ったりすることはほとんどありえないことです。でも、キョウカさんはそういう風にはボク達のことを扱っていません。一体どうして・・・

「はいブブーッ!時間切れ~」

「ええっ!? あ、あの、まだわからないんですけど・・・」

「じゃあ10ポイント減点ね、今日の晩御飯のオカズを一つおいらに分けるように」

「そ、そんな・・・」

 10ポイント減点というのが何なのかは良くわかりませんが、どうやらボクはリードさんの期待にそうことはできなかったようです・・・。はう。

「まぁ冗談はおいといてさっきの話に戻るけど、正直言っておいらもハッキリこうだ! とは言い切れないんだよね」

「そ、そうなんですか? てっきり、リードさんは何もかもわかっているのではないかと思っていたんですが」

「そう思ってくれているのは光栄だけどさ、おいらはまだキョウカと会って4日しか経ってないんだよ? 確証を持つ説明をするにしては短すぎる研究期間だよ」

 そう言っている割にはかなりキョウカさんのことを理解しているのではないかと思うのですが、これはボクが単純に勘違いしやすいというだけなのでしょうか。もしもこれでまだまだわかっていないというなら、この先、リードさんはどこまでキョウカさんに近づいていくのでしょう・・・。

「だからそれを踏まえた上での説明になるけど、キョウカはポケモンに関して全く興味が無かったらしいから、色々な偏見が無いんだよね。セオリーを全く無視しているってことね」

「せ、せおりーですか? つまり・・・えっと・・・」

「例えば、――まぁさっきも少し触れたけど、普通だったらポケモンはボールに入れたままなのに、キョウカはこうやって外に出したまま旅をしているだろ? こんなん普通のトレーナーだったらあり得ないことじゃないか。そういったことをするのに何の疑問も持たないのは、キョウカがそれがおかしいことだって知らないからだと思うんだ」

 確かにそうです。ボクも、前のご主人様の時はずっとボールに入っていた気がします。ポケモンバトルの時と、食事の時くらいしか外に出ることは無かったと思います。だけど、今はキョウカさんが外に出してくれているから、色々なものを見たり、聞いたり、嗅いだりすることができています。別に産まれたばかりというわけでもないのに、今はまるで新しい世界を見ているかのように何もかも新鮮に感じ取ることができています。

「言っておくけど、もちろんそれはとても危険なことだよ? 今のところはそれほど問題はなかったからいいけど、人間にとっての常識がそのままおいら達に当てはまるわけではないし、場合によっては、おいらはキョウカのことをぶってでも間違っていることを修正しなきゃいけないと思っている」

 これもリードさんの言うとおりなのでしょう。もしも水が苦手な方が、何かの間違いで水を思いっきり被ってしまったら死んじゃうかもしれませんし、それをキョウカさんが知らなかったら・・・と思うと、とても怖いです。流石にぶってでも・・・というのはやりすぎだと思いますが、リードさんがキョウカさんに対してそれを正しく教えるというのは、とても大事なことだと思います。

「でもさ、不思議とキョウカはそういったところで間違いをしないんだよね。火の焚き方だとか、テントの張り方だとかは最初てんでダメだったのに、ポケモンのことに関しては何でかそうはならないんだ。さっき普通はしないって言ったけど、ボールから出しっぱなしにするのだって、おいらはそんなに悪いことじゃないと思うんだよね。お腹はその分減りやすくなるんだけどさ」

 どうやらボクと同じく、リードさんも今の出しっぱなしの状態をそう悪くは思っていないようです。そういうところがあるから、その・・・せ、せおりーを教えるようにしても、そのせおりーを必ず守るように厳しく言ってはいないのでしょう。

「ここまで言えば大体わかってくると思うけど、普通のトレーナーがポケモンに対してやる色んなことに比べて、キョウカのそれは“ポケモン”に対してするというよりも、同じ“人間”に対してやっているものに近い。つまり、キョウカはポケモンとトレーナーっていうんじゃなくて、おいら達、っていうよりもこの場合はグレイのことを・・・そうだな、大事な友達として、というより仲間として守ってあげなきゃって思っているんじゃないかな。最初の出会いが出会いだったからっていうのもあると思うけど、基本的にはずっとそう在りたいからってことなんだと思うんだよね」

「と、友達や仲間として・・・ですか?」

 友達や仲間がどう違うのかはよくわかりませんが、まるで同じ人間同士のようにして付き合っていると言われると、確かにそうだという気がしてきます。
 リードさんと喧嘩をしている時、ボッカさんと一緒に料理をしている時、そしてボクに話しかけてくれたり、頭を撫でてくれたりと色々なことをしてくれている時、キョウカさんがそれぞれとすごく近い存在になって見えている、感じられるのは、きっとキョウカさんがボク達のことを本当に近い存在だと思って接しているからなのでしょう。

「ちなみに、何度も何度も繰り返すけど、おいらはグレイのことは仲間だと思っているよ。それはね、おいらもキョウカも、もちろんボッカだって昨日のグレイの働きを知っているんだから、みんなグレイのことを信頼しているんだよ。グレイはおいらのことを頼ってくれているだろ?」

「は、はい! もちろんです!」

「だったらさっきみたいな自己卑下はやめて、素直に信頼されているってことを受け入れてくれよ。それにさ、あの時約束したじゃないか。二人で――って今はボッカもいるけどさ、キョウカのことを一緒に守っていこうって。だから細かいことは気にしないで、一緒に頼りないご主人様を助けていこうよ。うまい飯目当てでさ」

 何の仕草なのかはわかりませんが、リードさんは片目をパチッと閉じて、首を傾げて見せました。でも、それによって、ここまでのリードさんの言葉が、ボクなりにではあるけれど、よく意味がわかって、何だかそれが体の中にはいってくるようで、ボクはまた頭が熱くなって、目から何かが溢れてきてしまいそうになりました。
 ボクはこの夜、リードさんと会う直前まで、キョウカさんと一緒に仲良さそうにしているボッカさんに対して、きっととてもよくない気持ちを抱いてしまっていました。しかもそれだけではなく、一番自分のことを大切に思ってくれているキョウカさんに対しても、その気持ちをだめにしてしまうようなことを考えてしまっていました。だというのに、リードさんは、恐らくそれすらもわかってくれた上で、それを悪く言ったりすることもなく、ボクの話を聞いて、こうして正しいことをわからせてくれました。そしてこんなにも情けないボクのことを信頼し、一緒に行こうと言ってくれています。こんなに嬉しいことが他にあるでしょうか。

 そうなのです。前にも確かに思いました。今のボクはもう一人じゃありません。独りではないのです。自分のことをとても大切に思ってくれる人と、リードさんが言ってくれているように、信頼し合える仲間がいます。そしてそれは、きっと、ずっと・・・。

「うっ、うえ、うええええええっ!」

「うおわっ!? な、なな泣くなよ。帰った時、おいらがグレイになんかしたんじゃないか? ってキョウカに怒られちゃうよ」

「えっえぐっ・・・すいません・・・でも、あんまりにも嬉しくて、うっうっ・・・」

「わーっ!? じゃ、じゃあ早く戻ろう。きっとグレイのことを心配しているだろうし。ほら・・・って、あっ! グレイの鼻水があっ!」

 リードさんに促され、リードさんに鼻水をつけながら、ボクはキョウカさん達のいる所へと戻ってきました。キョウカさんはボク達の姿を確認すると、慌てて駆け寄ってきてボクのことを抱きしめながら 「心配したのよ!?」 と声をかけてくれました。あの時と同じく、キョウカさんの腕はとても温かくて優しかったですが、ボクはそれに対して、「ごめんなさい ごめんなさい」とひたすら謝り続けることしかできませんでした。

 溢れ出るものでどうしようもなくなっているらしい顔を見て、キョウカさんは 「ど、どうしたの?」 と慌てていましたが、ボクの目から流れる何かはしばらく止まりそうにありませんでした。

レポートNo.8  あなたのお家はどこですか? へ続く

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***還って来たあとがき [#u6ee75f0]

 こんにちは、こんばんは、おはようございます。初めまして。ごめんなさい。還って来て孵ってきた亀の万年堂でございます。
 流石に今回は長すぎました。作者ページには死んだのかとのコメントまで頂いてしまいました。実際ある意味死んでいました。ご心配をかけてしまったことを深くお詫び申し上げます。
 亀ロッカーの方にも進行中の作品がありますが、これからもペースは落ちていきそうです。情けない話ですが、体力的と精神的な意味で最近はめっきり苦しくなっています。これもxxのせいでしょうか。まだxxじゃないかとよくよく言われますが、すでに心境は天寿に達しているのではないかという。そのくせに録音と非録音のお喋りの方は量が増える一方なんですが。恐らく読んでくださっている方の中にも・・・はう。
 
 さて、No7です。作者的にも待っていたグレイちゃんの本編での一人称です。といっても、前半はボッカさんの紹介シーン、だったりしますが。
 今回は修正前のものと比べると大分様変わりしていると思います。というか表現については全面的に直されています。それはもう、過去の作品を見て私がひたすらに赤面していたからにつきます。それにしても読みやすくなっているかどうかが不安です。
 後半のグレイちゃんの一人称部分を見ていただければわかると思うのですが、今回は特に会話が多くなっております。どこぞの天才と比べるとグレイちゃんが謙虚(?)だからというのもありますが、ここではNo3でのどこぞの天才とのアレを繰り返すような形をとっているからというところが大きいです。人によってはその会話が大変にいかがわしく、どっちが攻めるのかというような妄想をかきたてられるようですが、作者的には大いに歓迎です。しかし、あくまで話はピュアです。健全です。官能のかけらもありません。
 話がそれました。今回の話はタイトルが今までのそれと少し違っていることもあり、今後の話には大変に影響してきます。しかも、かなり近い所で、です。このグレイちゃんとどこぞの天才のやり取りはこれ以前にも何度かあるのですが、その度に少しずつお互いに変化していっております。二人とも同じ目的に向かえども、その気持ちが一緒とは限らず、またそれを成し遂げるための手段も異なります。その結果がどうなるのかはこうご期待、というところですが、何分更新が遅れるので大変に待たせてしまうことになると思います。申し訳ありません。
 次の話からはいよいよ”ぴっかり山”の登山となります。この6歳の子どもが名付けた山で一体なにが起きるのか。リード君は何を食べるのか。ボッカさんは何をかつぐのか。グレイちゃんは何にあうあうするのか。そして存在が忘れられそうになっている”たまご”からは何が孵るのか。これまでの話の変わりようが変わりようなだけに、作者にも全く予想がつきません。困ったことです。

 話は変わりますが、小説板の方にて行われていた1レス小説大会に、実はこっそりと一番乗りで作品を投稿していたのですが、気がついたら投票結果が出ており、何と一位になっていたようです。これには大変驚きました。レスの方でも書かせていただいたのですが、今回投票で一位となりました『薄毛小説家の苦悩』を修正し、それにプラスで1つか2つの短いお話をつけて改めてwikiに投稿させていただこうと思っております。なので、次回はNo.8ではなく、そちらの方が先になると思いますのでご了承ください。もっとも、私の予告はどうにもあてにならないので、何とも言えませんが・・・。

 そろそろあとがきの方も締めたいと思います。先にも書かせていただきました理由により、亀日記も含めて更新が大変厳しくなりそうです。ご期待してくださっている方々には重ね重ねお詫び申し上げます。まさにマグカルゴがごとき歩みの遅さではありますが、今後も私の世界に付き合っていただければ幸いです。

 それでは、また次の世界でお会いしましょう。亀の万年堂でした。

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何かあったら投下どうぞ。

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