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サマーバケーション! ~迷子のリオルと不思議な出会い~ の変更点


writer is [[双牙連刃]]

前話へは[[こちら>サマーバケーション! ~夏休み開始!~]]

 夏休みに入った主人公、葛木 零次と黒子 司郎。今回はある人物達と変わった出会いを致します。その出会いがどんな縁を生んでいくのでしょうか…。

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 う、ん。日が差し込んで来てる……もう朝か? あれ、ここは?
そうだ、俺は夏休みに入って、親が旅行に行った所為で司郎の家に泊まる事になってたんだったな。もう三日目だって言うのに、まだ慣れてないか。
体を起こして周りを見ると、ベッドで寝息を立ててる一匹のゾロアークが居る。もちろんここが司郎の部屋である以上、ベッドに居るのは司郎だ。
軽く頭を振って思い出そう。昨日は、課題を四つ片付けた。それから司郎に付き合ってゲームしたり出掛けたり、そんなこんなであっという間に過ぎたんだったな。
今日は残り一つ……俺的に一番厄介な化学のみ。あれだけはどうしても、どう足掻いても絶望な状態だ。先生に頼んでたまに補修してもらってもなんとか成績を繋ぐのが限界なんだ。
そして、司郎は化学のみ俺よりも成績が良い。だからこそ、手を借りるのに今の状況は願ったり叶ったりだ。

「今日はそれを片付けて……後はどうするかな? 午前中には終わるだろうし」

 まずは起きて居間に行こうか。司郎は……もうしばらく寝てるだろう。放っておくか。
午前中は何処にも行かないし、Tシャツとハーフパンツでいいな。よし、行こう。
この家は一階しかない。二階建ての方が土地は少なくて済むけど、こういう造りも俺は嫌いじゃない。一つ一つの部屋が少しだけ手狭に感じなくもないけど。
部屋は今俺が居る司郎の部屋と一番広い居間、それにおじさん達の部屋と空き部屋が一つ。後は物置の部屋があるんだってさ。割と部屋数あるんだよな……。
居間にはおばさんが居た。朝食の準備をしている辺り、まだ早かったか? 時間は……おぉ、まだ7時だった。ろくに時計も見ずに出てきたからな、通りで司郎もまだ寝てる訳だ。

「お早うございます」
「え? あら零次君、随分朝早いわね。まだ朝ごはん出来てないんだけど……」
「あぁ、勝手に目が覚めただけなんで気にしないで下さい」

 とりあえずはテレビでも見て待たせてもらおうかな。それにしても、人の時のおばさんはかなり美人だ。何着てても栄えるし、誰かモデルが居るのか? それともおばさんのオリジナルなのか? その辺謎なんだよなぁ。
あ、おじさんは平均的な30代の男性っていうか、メガネの似合うスタイリッシュなサラリーマンって感じかな。簡単に言えば美形夫婦って事。
ん、ニュースだ。何々……夏真っ盛り、海水浴場は大賑わい、か。世の中平和だな。まぁ、その後すぐに交通事故のニュースが流れてるんだが。
高速道路で玉突き事故、重軽傷合わせて10人以上に被害、か。この季節には必ず一度は起こる事故だよな。休みで浮かれるのはいいが、この辺気をつけないと散々な夏を過ごす事になる。俺も注意しないとな。

「おっ、零次君はもう起きてたのか。お早う」
「あ、お早うございます」
「あらあなたも起きてきたの? 今日はなんだか皆早起きなのね?」

 そう言っておばさんは朝食を運んできてくれた。ベーコンエッグにトースト、それにサラダ。洋風だけどバランスはばっちりだな。
どうせ司郎は起きて来ないだろうって事で三人で食事開始。ベーコンエッグをトーストに乗せて齧り付く。これって、なんだかかなり贅沢してる気分になる。一番好きな食べ方だ。

「ははっ、君はとても美味しそうに食事するね」
「作ってる身としても嬉しいわ。どんどん食べてね」
「あはは、ありがとうございます」

 本当に、こうしているとおじさん達がゾロアークだっていう事を忘れそうだ。人とまったく変わらない……礼節だけを見れば下手な大人よりずっとしっかりしてるくらいだ。
そうする必要があったから必死に覚えたって話だったけど、世の人間は見習うべきところだよなぁ。
……おじさん達が何故、人間として過ごさなければならなくなったか、俺は知ってる。そして、少なからず申し訳なく思ってる。
心無い人間がポケモンを乱獲する……ニュースくらいでしか聞いた事のなかった事実でも、被害者に会えば嫌でも意識せざるを得ない。俺も聞いた時は、胸糞悪くなったよ。

「? 零次君、どうかしたかい?」
「……いえ、なんでもありません」

 いけないいけない、どうやら少し表情に出てたみたいだ。変に心配させちゃったかな?
……他の人がどうであれ、俺はおじさん達がやってる事を間違った事だとは思わない。木を隠すなら森って言葉があるくらいだし、おじさん達がこうしなきゃならなくなった原因は人間にある。騙されてたって文句は言えないだろ。
さて、自己内シリアスはここいらで終わりにしよう。折角美味しい食事にあり付けてるんだ、しっかり食べないと勿体無いよな。
よし、良い感じに腹は膨れた。少しゆっくりしたら司郎を起こしに行くか。ん? おや、そう思ってたら起きて来たみたいだな。もちろんゾロアークの姿で。

「ふぁー、おはよ……」
「やっと起きて来たか。もうお前以外は食べ終わってるぞ」
「え? マジで?」
「まぁ、零次君と私が早起きしたのもあるけどな」
「片付けもあるし、司郎も早く食べちゃいなさい」
「へーい」

 おじさんは今日も仕事だから支度に行った。俺は司郎が食べ終わるまでまたテレビだな。
っと、あっという間におじさんが戻ってきた。ネクタイ巻いてスーツを着ている……ゾロアークで。

「そうだ零次君、一週間後くらいになるんだけど、私の休みが取れそうなんだ。何処かに出掛けようと思うんだけど、行きたい場所なんかを皆と考えておいてくれるかい?」
「あ、はい。分かりました」
「あなた……スーツ姿で元の姿に戻ってるわよ。そんなに慌てなくてもいいじゃない」
「おぉ!? いや、早く伝えたほうがいいと思ってな? それじゃ、行って来るよ」

 ふっと人間の姿に戻っておじさんは出掛けていった。……便利だなぁ。
一週間後に出掛けるのか。ふむ、定番ならやっぱり海とかかな。この辺、山では有名な場所とか無いし。
おばさんに聞いてみたけど、やっぱり海よねーって事だった。司郎も食べながら頷いたし、海行きで決定だな。一週間後か……楽しみだ。

「よし、ご馳走さまー。零次、お待たせ」
「別に大して待ってないけどな。さ、今日で課題を片付けるぞ」
「おいすー。でも、俺あと四教科あるよぅ。今日中に終わるかな?」
「まぁ、三日って決めたのは俺だけだからな。手伝いはしないが教えてはやるし、明日まで掛かってもいいんじゃないか? まだ夏休みは始まったばかりだし」
「あら、もうそんなに課題やったの? 去年は司郎、夏休み終わりの二日くらいで寝ないでやってたのに、これも零次君が居るお陰かしら?」
「ちょっ、そんな事バラす事ないじゃん!」

 そうだったのか。なら、今年は俺が居て良かったな。そんな苦労せずに済むぞ。
とにかく何にせよ、部屋に戻って戦闘開始だ。化学……今日こそお前を討ち取る!
ん? おばさんも何処かに出掛けるらしい。何やら、他の家で集まって主婦の会合のような物をやるそうな。近所付き合いっ奴か。なるほどなー。
ん? おばさんも何処かに出掛けるらしい。何やら、他の家で集まって主婦の会合のような物をやるそうな。近所付き合いって奴か。なるほどなー。
部屋に戻って早速課題を開く。くっ、化学式とかそういうのを見るだけで固唾を呑みそうだ。やはりこいつは……強い。
まずは分かる所を埋めていこう。幾ら苦手と言っても、学んできた事は確かに頭に残ってる。全部司郎に頼る訳にはいかんのだよ!

「うわ、零次の目が本気だ……」
「当然だ。相手は化学、それ相応の心構えで挑んでいる」
「あっ、そう言う事。分からない所あったら聞いてくれよ?」
「頼むぞ、その時が来たら」

 頭の中の何かがフル回転しているのが音として聞こえてきそうだ。それくらい俺は今までの授業や補習を読み込んでいる。
本当に、本当に化学だけは授業から消滅して欲しい。もう全部化学者に任せてしまえばいいじゃないか。わざわざその道に進まない者にこれを学ばせる意味があるんだろうか!?
お、落ち着こう。駄目だ、化学が相手だと俺と言う物が音を立てて崩壊していく。
とにかく、落ち着いて一問ずつ処理していこう。

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「……零次ー、生きてるかー?」
「お、おぉ、お……」

 CPU破損30%オーバー、思考能力43%減少、残存メンタルポイント25%にまで現象。いや、減少。やはりこいつは……最強の敵だった……。
多分今の俺の口からは白い透明な物が半分ほど顔を出しているんだろう。こちらの被害は甚大だ……。
だが、目の前には全てが埋まった化学の課題がある。俺は……勝ったんだ……。

「これで……課題終了……」
「最後のほう半分涙目でやってたもんなー。なんでそんなに化学だけ出来ないんだ?」
「生理的というかなんというか……もう生まれる前に何かあっただろうレベルで駄目なんだ。小学校でも理科で散々苦しめられたし」
「よく分かんないけど、とにかく理系が駄目なのはよーく伝わってきたよ」

 言い終わって、俺は敷いたままにしてあった布団に潜り込んだ。もう……何もしたくない……。
いや、打ちひしがれる前に司郎を手伝ってやるか。俺ももう半分以上課題を解く為に質問したし。
掛け布団を勢い良く吹き飛ばす。司郎が驚いているが気にしないで、隣まで行って教えるスタンバイ。今やってるのは現代文か、問題ないな。

「ど、どした突然?」
「教わった分の礼はしてやる。ほら、やるぞ」
「あ、助かるー。そんならここから教えてくれぃ」
「ん」

 時間は11時、半分くらい終わってるようだし、なんとか昼までにこれは終わらせるか。
ふと外を見ると、見事な快晴が広がってた。……午後は散歩にでも出るのもありかな。
司郎に課題を教えながら時間も過ぎて、玄関の開け閉めがされた音がした。どうやらおばさんが帰ってきたみたいだ。
となると、これから昼食の準備がなされる筈だから実際に食べるのは正午過ぎってところか。俺が見張ってる状態だから司郎の手も止まらずにどんどん問題を解いていってる。これなら間に合うだろう。

「うぐはぁ、これが最後だー」
「よろしい、それは……」
「ふむふむ、あ、なるほど。解けたー!」
「コンプリートだな。お疲れ」
「後三教科残ってるけどなぁ。あー、疲れた」
「午後は休憩がてら散歩にでも出るか。あまり家の中に居ても腐るだけだし」
「賛成。この三日、課題がメインで過ごしてきたからしんどいわー」

 俺が終わったから司郎に教えるのに集中出来るし、もう終わったも同然だ。これくらいの息抜きはしても大丈夫だろう。
しかし、ちょっとスパルタが過ぎた気もするな。結局付き合わせたような物だし、ジュースくらいは後で奢ってやろう。
ん、部屋のドアがノックされた。おばさん以外には居ないし、昼食の為に呼びに来てくれたのかな。

「はーい、母さん昼飯出来たのー?」
「ごめん司郎に零次君、ちょっと来て手伝ってくれない?」
「手伝う? どうしたんだ?」

 部屋から出てみると、おばさんがダンボールを運んでいるところだった。なんか重そうだな、それに三つもある。

「どうしたんですか、これ?」
「さっきご近所の奥さんに貰ってって頼まれたお野菜なんだけど……こんなに大量だったの。運ぶのがちょっと大変で」
「これ、全部野菜? どうやって運んだのさ?」
「後で家の前まで運びますって言われたから安心してたんだけど、まさかトラックで持って来られるとは思わなかったわー」

 なんとまぁ……自分の家で処理出来ないからって限度があると思うんだが、まぁタダで貰えるなら安上がりではあるか。
とにかく手分けして運ぼう。多少動いた方が食事も美味いだろうしな。それにしても大きなダンボール箱3つにぎっしりの野菜か……今晩は野菜ずくしになりそうだな。
重かったが、なんとか居間まで運ぶことが出来た。そのまま昼食も済ませて、俺は司郎が着替えてくるのを玄関で待ってる。一応ハーフパンツからジーパンに着替えてるぞ。

「お待たせー」
「おっ、来たか。って……またカーゴパンツなんて暑そうな物選んだな」
「その分物は持てるぞ。財布とケータイくらいだけど」
「そっか。……あ」

 今気付いた。俺、携帯持ってない。多分家に置いたままだな……取りに行くか。あまり使う事は無いんだけどな。
司郎に事情を話して、まずは俺の家に行く。一応携帯くらい持ってないと、何か連絡取り合うのに不便だし。
そういう訳で外に出てきたんだが、やっぱり暑い。あまり長時間うろちょろしたらあっという間に体力を持ってかれるな。気をつけよう。

「あっつー、でも風はあるな。それが唯一の救いって感じ?」
「確かに。これで風も無かったら、外に居るだけで倒れかねんぞ」

 司郎の場合、ゾロアークの姿で居るのもアウトだろう。毛皮だし、黒いし。体に熱が溜まり過ぎて卒倒しかねんな。
司郎の家から俺の家までは約12分、何も無ければ特に坂道も無いし苦労せずに到着するだろう。
にしても、本当に課題を完遂するのに集中してた所為で携帯を持ってない事に気付かなかったとは迂闊だな。二日放置したが、何も連絡が入ってないといいんだけどな。
やっぱり夏休み中だからか、街中に人が多い。ポケモンを連れ歩いてる人も居るから、余計に多く感じるな。ポケモンにはこの暑さは厳しいだろうに、ある意味拷問だぞ?
そんなのを眺めながら俺の家に到着。携帯は……多分部屋に充電したまま放置してたっけな。さっさと回収してくるか。

「三日間完全に留守にしてたけど、特に変わり無さそうだなー」
「あってたまるか。といっても、大事な物は親父達が持っていったみたいだし、空き巣に入られて困るような物は残ってないがな」
「そうなのか? 通帳とかも?」
「あぁ、無くなってた。荒らされた様子も無かったし、まず間違いなく持っていったんだろうさ」

 携帯を取りに自分の部屋に入ると、出た時の情景がそのまま保存されたように変わりない。あ、携帯も見つけた。
……ん? 着信が来てたか。それも親父からだ。日付は……なんだ、少し前じゃないか。
なら今こっちから連絡しよう。それが早い。リダイアルっと。

「はい、葛木です」
「親父? 俺だよ、零次」
「おぉ零次か。どうだそっちは?」
「お蔭さんで楽しくやってるよ。まったく、一言くらい先に言ってくれてもよかったんじゃないか?」
「悪い悪い。まぁ元気そうで何よりだ。その確認の為に電話したんだ」

 そうだったのか。ったく、二日放置しといて今更な感もあるがな。
そうだ、ついでに通帳の事も聞いておこう。万が一って事もあるし。

「そうだ親父、通帳なんか無くなってたけど、そっちで持ってる?」
「ん? あぁ、それならこちらにある。心配は要らないよ」
「オッケ。そんならそっちも楽しみなよ、折角の母さんと二人きりなんだし」
「そうさせてもらおう。それじゃ、何かあったら連絡するんだぞ。じゃ、一ヵ月後にな」
「了解」

 確認したい事も出来たし、取りに来て正解だったな。あとは、充電器も持って外に出よう。

「で、俺が電話中に何を物色しとるんだお前は」
「いや、家で対戦とかするのに予備のコントローラーあったらいいかなーと思って」
「……一言言ってから始めてくれ」
「了解であります!」

 そんなこんなで、最初に荷作りした時に必要ないと思って持っていかなかった物から数個を選んで持っていくことにした。といっても、殆どゲーム関係なんだが。
用も済んだし、またこの家を無人に戻す時が来た。もう物を取りに来る事は無いかもしれないし、念入りに戸締りを確認しておこう。
さて、一応用件は終わったし目的地も無い。どうするかな?

「司郎、どっか行きたいところとかあるか?」
「特に無いなー。適当に散歩して帰ろうぜ。そんで、ゲームしてから課題の続きって感じで」
「分かった、そうするか」

 司郎を連れて、夏めいてる町を眺めながら歩いていく。空には白い雲と青空、清清しいじゃないか。

「うーん! 課題も殆ど終わってやーっと夏休みって感じだなー。明日から何する?」
「そうだなぁ……あ、新しい海パンでも買いに行くか。ほら、隣町にデパート出来ただろ?」
「そうだっけ? あー、そう言えば前にチラシ来たかも。じゃあ明日はそこ行こう」
「決まりだな」

 金には余裕がある。多少買い物しても問題無いだろう。
ん? あれは……。

「あれ? 零次なんで急に止まったんだ?」
「いや、ほらあそこ」

 シャッターの閉まってる商店の前に座り込んでるポケモンが居た。確か、リオルだったかな? そんな名前だった筈だ。
近付いていくと、俺が見てるのに気付いたのか顔を上げた。でも、またすぐに俯いちゃったな。どうしたんだ?

「訳ありそうだな……司郎、話せるか?」
「どうだろ? ま、事情聞いてみるよ」

 基本、ゾロアークである司郎はポケモンの言葉が分かるし話せる。それは、人の状態でも変わらない。
ゾロアークの鳴き声でリオルと何か話し始めたみたいだ。とりあえず俺は見ていよう。

「……あー、なるほど。どうやらトレーナーと逸れて、疲れてここにへたり込んだらしい」
「つまり迷子か。ふむ……」

 話して思い出したら寂しくなったんだろう、目に滲んだ涙を拭いだした。……放ってはおけないよな。
こういうのは、ポケモンセンターに連れて行くのが上策だろう。どれ、そこまで連れて行ってやるか。

「俺の言ってること、こいつは分かりそうか?」
「ちょっと待ってな……うん、大丈夫っぽいぞ。逆は俺が通訳するよ」
「頼む。さて、君のご主人はこの町の人かい? それとも、別の町の人?」
「……後者だってさ。ここまで旅してきたんだと」

 ならポケモンセンターを利用してる可能性は高い。上手くすれば、特定する事も出来るかもしれないな。

「それじゃあもう一つ、君のご主人の名前……なんて呼ばれてるかは覚えてる?」
「ほんほん、皆からはシロナさんって呼ばれてた、だってさ。女の人みたいだぜ」
「グッド。そこまで分かれば十分だ。もしかしたら、君のご主人に会わせてあげられるかもしれないけど……どうする?」

 俺の一言にリオルはぴくっと反応して、少し迷った後にコクンと頷いた。了解も無しに連れ歩く訳にもいかないし、頷いてくれて良かったよ。
それなら早速連れて行こう。でも、疲れてるとなると歩かせるのは酷か。それなら……よし、こうしよう。

「司郎、荷物頼む。俺はこの子を肩車するよ」
「おっ、やっさしーい。分かった、荷物は任せろぃ!」
「あぁ。さ、怖くないからな」

 抱き抱えると、思ったよりも軽かった。それを肩車の形に持っていく。
驚いてはいたが、俺の頭を抑えたからもう大丈夫だろう。この辺からポケモンセンターだと……大体30分くらいか? まぁ、どうせ散歩の続きだし、行くとしよう。
少し道行く人達の視線が気になりはするが、そこまで気にするような物でもない。構わず歩を進めよう。

「……なんか、こうして零次が誰かを助けてるの見てると、あの時の事思い出すな」
「あの時? あぁ、去年の初めのか?」
「そうそう、俺が学校で熱出して、零次が保健室まで送ってくれた時。あの時、零次以外に運ばれてたら……俺、こうやってまだ高校生やってられなかったんだろうなぁ」

 これは、俺が司郎と友達になった時の話。去年の、五月の初め頃だったかな。連日雨が降る薄暗い日だった。
その頃、学校で季節外れの風邪が流行って、何人か休まないとならない位蔓延した事があったんだ。俺はなんとも無かったけどな。
そんな時、司郎も風邪を貰って熱を出したんだ。でも、朝はなんとも無かったから学校に来てしまっていた。
三時間目が終わった辺りだったか……苦しそうなこいつを俺が見掛けて、やばそうだったから保健室に連れて行くことにしたんだよ。
でも、そこで力が尽きて、司郎はゾロアークに戻ってしまった。驚いたよ、肩貸してた奴が突然ポケモンになったんだから。
幸い、偶然にも誰も居ないところで変身が解けたから咄嗟に俺は司郎を連れて身を隠した。その後は大変だったな。司郎の力が回復するまで待って、人に戻ってから保健室へ行く破目になって。
そして保健室に着いてから俺は色々聞いた。保険の先生は忙しいからって、俺に司郎を押し付けて仕事してたから話は聞いてない。
そんな事があって、俺は司郎と親しくなった。事実を知ってる奴が一人居れば、司郎の事をフォロー出来るって事でおじさん達から頼まれたのもあるんだけど。
ま、そうい事があって現在に至るって感じ。一年も経つと、なんだか懐かしいな。
ま、そういう事があって現在に至るって感じ。一年も経つと、なんだか懐かしいな。

「あれから一年かぁ。零次には助けてもらってばっかりだなぁ」
「なんだよ改まって? 別に気にしてないって」
「……へへっ、サンキュ」

 不思議そうに覗き込んできたリオルになんでもないと伝えて、そのまま歩いていく。
こいつがなんであれ、俺の友人である事に変わりはないさ。これまでも、これからも。

「あ、ポケセン見えたぜ。こいつの主人が上手い事居ればいいんだけどな?」
「名前と性別が分かってるんだ、かなり絞り込める筈だぞ。とにかく行ってみるとするか」

 それに、外を歩いてて結構暑い。早くクーラーに当たりたいっていうのも少しだけある。
センターの自動ドアが開くと同時に俺達を冷風が迎えてくれる。ふぅ、生き返るな。
おっと、センターの中も結構人が居るな。流石にここではリオルを下ろすか。
窓口に訪ねれば何か分かる筈だ。っと、先客が居るから少し待つか。

「そうですか……では、見つかったらここに連絡をお願いします」
「ん、前の人もなんか探してるのかな?」
「そうらしいが……男だし、違うだろ」

 前で話していた、青い帽子を被った男性は窓口から離れていった。なんか不思議な感じのする人だったな?
おっと、それは置いといて、俺達は俺達で用件を済まさないと。

「いらっしゃいませ、ポケモンセンターにようこそ。ポケモンの回復ですか?」
「いえ、俺達トレーナーじゃないんです」
「あら? ではどういったご用件でしょうか?」
「迷子のポケモンを保護したので、こちらに問い合わせに来たんです。どうやら旅のトレーナーのポケモンで、ここにいらっしゃるかもしれないと思いまして」
「まぁ……それで、その迷子の子は?」
「ほい、こいつです」

 いや司郎、何もわざわざ窓口まで持ち上げる事は無いだろうに。リオルもキョトンとしてるじゃないか。

「あら、この子は……」
「見ての通りのリオルです。珍しいポケモンですし、どなたか探してらっしゃる方はいらっしゃいませんでしたか?」
「それなら、お客様ー!」

 ん? ジョーイさんがさっきの男の人を呼びにいった。まさか、あの人が探してるのもリオルだったのか?
でもリオルから聞いたのは女性でシロナって名前。男性じゃないから違うだろうな。
さっきの男性が走ってきた。っと、窓口はもう空けておくか。

「君達、迷子のリオルを連れてきたというのは本当かい?」
「あ、はい。あの、あなたは?」
「失礼、私はゲン。知人に頼まれて、逸れてしまったリオルを探していたんだ」
「……零次、リオルがこの人知ってるってさ。ご主人の友達だって」

 なんとまぁ……運が良い事で。でも、一応確認するか。

「あの……ゲンさん、つかぬ事を伺わせてもらいますが、その探すのを頼まれた方の名前はなんですか?」
「え? あぁ、シロナと言うんだ。どうしてそんな事を?」
「このリオルを見つけたところに、シロナと書かれたメモが落ちてまして……」
「……嘘ばっか」
「この場合は方便だろ」

 だって、こいつ自身から聞いたとは言えないしなぁ。

「そうか……だとしたら、間違い無さそうだ。ありがとう、君達のお陰で無事に見つけられたよ」
「こちらとしても、早く解決してくれて助かりました。……よかったな」

 頭を撫でてやると、嬉しそうに目を細めて尻尾を振った。元気になったようだし、よかったよかった。

「それじゃ……戻れ、リオル」

 ゲンさんが出したモンスターボールにリオルは戻っていった。これで本当に探し人だったのが確定したな。

「本当に感謝するよ。君達もトレーナーなのかい?」
「いえ、この町で暮らしてるただの高校生です」
「そうか……リオルの様子からして、素質はありそうだね。……そうだ、連絡先を教えてくれないかな? シロナも礼を言いたいだろうし、良ければだけど」
「……どうする? 零次」
「まぁ、別に構わないだろ。電話番号でいいですか?」
「あぁ、構わない。ありがとう」

 いざとなったら着信拒否とかすればいいし、不思議な感じはするけど悪い人じゃなさそうだ。電話番号くらいなら問題無いだろう。
口頭で伝えると、ゲンさんはそれをメモした。これでよしっと。

「確かに。それじゃ、後日になるだろうけど連絡させてもらうよ」
「分かりました」

 別れを告げて、ゲンさんはセンターから出て行った。まぁ、もうこれで心配は無いだろう。

「うーん、なんか変な感じのする人だったな?」
「ん? お前もそう思ったのか?」
「って事は、零次も?」
「あぁ。どう言えばいいか分からないけど、違和感とも違う不思議な感じがした」

 ……二人で首を傾げてても仕方ない、か。また連絡があるらしいし、その時に話でもしてみよう。
散歩としては十分時間を潰したし、そろそろ帰るか。で、ちょっと遊んでから司郎の課題を片付けるとしよう。

----

後書き的な
と言うわけで、DPでも有名なあの方達と接点の出来た二人。夏休みはまだまだ残っていますし、これからもイベント目白押しでお届けいたします!

次話へは[[こちら>サマーバケーション! ~舞い降りた赤い翼~]]

#pcomment

IP:122.17.192.29 TIME:"2015-12-22 (火) 14:26:04" REFERER:"http://pokestory.dip.jp/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%82%B5%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%83%90%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%EF%BC%81%E3%80%80%EF%BD%9E%E8%BF%B7%E5%AD%90%E3%81%AE%E3%83%AA%E3%82%AA%E3%83%AB%E3%81%A8%E4%B8%8D%E6%80%9D%E8%AD%B0%E3%81%AA%E5%87%BA%E4%BC%9A%E3%81%84%EF%BD%9E" USER_AGENT:"Mozilla/5.0 (Windows NT 6.1; Trident/7.0; rv:11.0) like Gecko"

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