&size(20){''ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語''}; 作者 [[火車風]] まとめページは[[こちら>ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語]] 第六話 アニキはバクフーン!? ソウマ登場! 次の日の朝、ソウイチ達は掲示板の前に立っていた。 今度はうろうろする前から依頼を解決するようペラップに命令され、若干むっとしながらも依頼を選んでいたのだ。 「できるだけ簡単な依頼にした方がいいんじゃない? あんまり難しすぎて失敗したら大変だし」 「それじゃあ数が少なくなるだろ? 同じ場所でたくさん依頼があるところに行けばいいんだよ。かいがんのどうくつなんか五個もあるぜ?」 数を優先するか、難易度を優先するかでソウイチとソウヤは対立していた。 ソウイチの言うとおり、かいがんのどうくつはまとまった依頼をすることができそうである。 しかし、その依頼の半数は難易度が高く、失敗を犯す危険があった。 堅実に依頼をこなしたいソウヤは、そこで慎重になっていたのだ。 「とにかく、今日はここにしようぜ。まとめて依頼片付けた方がお礼だっていっぱいもらえるしよ」 ところが、ソウイチは気合で何とかなると強引に依頼を受けてしまう。 あまりの強引さに、三人は言葉を失った。 「よ~し、そうなったら早速出発!!」 ソウイチはそんなことを微塵も気にせず、三人を放置したまま一人階段を駆け上がる。 自分勝手にもほどがあると三人は思うものの、このまま遅れをとるわけにも行かないので彼の後を追いかけた。 そしてソウイチは、ギルドの門を飛び出したところで誰かと勢いよく衝突。 そのまま入り口近くまで吹っ飛んでしまった。 「いててて・・・。誰だよ全く!!」 ソウイチがぶつけたところをさすりながら前を見ると、そこに立っていたのはバクフーンだった。 だが、通常のバクフーンより背が高く、耳の長さも長い。 何より特徴的なのは、オレンジのハチマキを巻き、表が茶色、裏がオレンジのマントを羽織っているところだ。 おでこには星型模様の傷もあり、その珍しさは類を見ない。 「ん? なんだお前は?」 バクフーンは不思議そうにソウイチを見つめる。 ソウイチはしばらくその姿に見とれていたが、やがてぶつかったことを思い出し文句をつけた。 「なんだじゃねえよ! ぶつかっちまったじゃねえか!!」 「何言ってんだ。お前が勝手にぶつかってきただけだろ?」 感情的になっているソウイチに対し、バクフーンは冷静そのもの。 それもそのはず、前方不注意でぶつかったのはソウイチで、バクフーンのほうに一切非はないのだから。 「い~や、お前がでかいからぶつかったんだ! このひょろひょろ野郎!」 冷静に返されたことでソウイチの怒りはさらに刺激され、あろうことかバクフーンに対して暴言を吐いた。 だが、それでもバクフーンは平静としていて、怒る様子は全くない。 「悪口を言うのは勝手だが、どっちが悪いとかは関係なしに、ぶつかったら謝るのが普通じゃないのか? そうじゃないと、周りから白い目で見られるだけだぜ」 「なにお!?」 余所見をしていたことは自覚していたものの、どうにも自分の悪口を言われているような気がして我慢ならない。 向こうにそんなつもりは毛頭ないが、ソウイチは今にもバクフーンに殴りかかりそうな勢いだ。 と、そこへソウヤ達がようやく追いつき、けんかしている二人を見てあわててソウイチを引き離す。 「ちょっとソウイチ! 知らない人にけんか売ってどうするのさ!!」 「邪魔するなソウヤ!! 偉そうなこと言いやがって!! 何が何でもボコボコにしてやる!!」 怒り狂うソウイチを必死で腕を引っ張り抑制するソウヤ。 こういう場合は大概ソウイチが悪いことを知っていたのだ。 モリゾーとゴロスケも必死でなだめているが、ソウイチの頭の中はどうやってバクフーンを倒すかということでいっぱいだった。 (ん? ソウイチ? ソウヤ? どこかで聞いたことのある名前だな・・・) 二人が呼び合うのを聞き、バクフーンの頭の中に何かが思い浮かぶ。 だが、全体像は実におぼろげで、どこで聞いたことのある名前なのか間では思い出せなかった。 「お~い! ソウマ~!」 「先輩~!」 「お待たせ~!」 彼らが声のするほうを見ると、向こうからライチュウとカメール、そしてヒトカゲの三人組が走って来るのが見えた。 どうやらこのバクフーンの知り合いのようだ。 「ソウマ、こいつらは?」 カメールはソウイチ達を指差して聞いた。 どうやら、このバクフーンの名前はソウマというようだ。 「ああ。オレがギルドへ入ろうとしたら、いきなりこのヒノアラシがぶつかって来やがったんだ。それでちょっともめててな」 ソウマは特に怒っている様子もなくカメールに話す。 その平静とした態度が気に食わなかったのか、ソウイチの怒りは再燃した。 「だから!! お前が突っ立ってたのが悪いんだろうが!!」 ソウイチはソウヤの腕を振り解き、ソウマとの間合いを詰める。 だが、バクフーンの前にカメールが立ちふさがり、ぞっとするような目つきでソウイチを上から睨み下ろした。 「なんやお前? オレらにいちゃもんつける気か?」 カメールの話し方を聞いてソウイチは目を見開いた。 なんと、そのカメールは関西弁をしゃべったのだ。 人間の、それも特定の地域でしか存在しない方言が、なぜポケモンにまで伝わっているのだろうか。 「お、お前・・・。なんで関西弁しゃべれるんだ・・・?」 「ああ? このしゃべり方は生まれつきや。それよりお前、はよソウマに謝れ。ぶつかってきたんそっちの不注意やろうが」 目つきを緩めることなく、カメールは相変わらずソウイチを睨み続ける。 もちろん、ソウイチには謝る気などさらさらなく、話を聞いていないかのように顔を背けた。 「おい!! 調子乗るんもええかげんにせえよ!! 謝らんのやったら・・・!」 「やめとけカメキチ。どんな事情があっても手を出した方が負けだ。行くぞ」 ソウイチの首根っこをつかみ持ち上げるカメールに、バクフーンは冷静な口調で行動を制す。 カメールは不服そうだったが、乱暴にソウイチを突き放した。 バクフーンは後ろで見ていた二人にも目で合図し、マントを翻すとそのままソウイチ達の横を素通りして中に入っていく。 三人もそれに倣い、バクフーンの後をついていった。 「あ、あの!」 ソウヤがバクフーン達を呼び止めると、彼らは怪訝そうな面持ちで振り返る。 まだ自分達に用があるのかといった感じだ。 「うちのリーダーがご迷惑をおかけしてすみません・・・。どうも怒りっぽくて、相手が悪くてもけんかを吹っかけちゃうんです・・・」 ソウヤは丁寧に頭を下げて謝った。 モリゾーとゴロスケもごめんなさいと頭を下げる。 ソウイチはそれに対し何か言おうとしたが、場の空気を壊されてはたまらないと思い、ソウヤは器用にもしっぽで口を塞いだ。 「リーダー・・・。ってことは、お前らもギルド所属の探検隊か?」 「あ、はい。でも、どうしてそれが分かるんですか?」 バクフーンに聞かれて、ソウヤは不思議に思った。 やはりそれらしい格好をしているからそう見えるのだろうか。 「あなた達が持ってるそのバッジよ。ノーマルランクのところを見ると、まだまだ駆け出しのようね」 ライチュウに指摘され、自分達のバッジを改めて見ると、真っ白のまま貰った時から変化がない。 プクリンは、ランクが上がるとバッジの色も変わると言っていたが、白のままなのを見るとまだレベルは上がっていないようだ。 それに対し彼らのバッジは、同じ白さでも輝きのあるダイヤモンドランク、ノーマルの自分達と比べればかなりの格上だ。 「そうなんです。オイラ達、数日前に弟子入りしたばかりで・・・。こっちが悪いのに、本当にごめんなさい・・・」 モリゾーは心からすまない気持ちでいっぱいになり、また頭を下げた。 それを見てますますソウイチのいらいらは膨れ上がっていく。 「もう謝らなくていいわよ。ソウマだってもう気にしてないんだし。ね?」 「ああ。オレは別に気にしてないぜ。急いでてぶつかることは珍しいことじゃないしな」 ライチュウが笑顔でバクフーンを見上げると、バクフーンも笑ってソウイチの行動を許した。 新人で自分より年下の相手に怒るのは大人気なく、つまらないことだと思っていたのだ。 「か、かっこいいなあ・・・」 モリゾーとゴロスケは憧れのまなざしでバクフーンを見ていた。 リーダーとしての風格は十分、一緒に探検できたらどれほどいいだろうと思っていたのだ。 自分の立場がどんどん悪くなっていることを感じ、ソウイチはますますいらいらした。 「そういえば、自己紹介がまだだったわね。私の名前はライナ。よろしくね」 「僕はヒトカゲのドンペイって言います。どうぞよろしく」 「オレはカメールのカメキチや。さっきの、関西弁? とかいうしゃべりかたは生まれつきや」 三人は次々と自己紹介をした。 しかし、生まれつき関西弁を話すカメールというのも珍しいものだ。 「そしてオレが、探検隊アドバンズのリーダー、ソウマだ。よろしくな」 バクフーンは握手を求めて手を差し出し、他の三人も同じく手を差し出す。 しかし、四人の関心はそこではなく、チーム名のほうへと向けられていた。 自分達もアドバンズだが、ソウマ達のチーム名もアドバンズ、一体どうなっているのだろう。 「どうした? 何か気になることでもあるのか?」 ソウマが首を傾げたので、三人は慌てて握手をする。 もちろん、ソウイチはへそを曲げていたので加わろうとしなかった。 「じゃあ、オレ達は用があるからこれで失礼するぜ」 ソウマはカメキチ達と一緒にギルドの中へと入って行った。 「かっこいいな~・・・。あのソウマっていうバクフーン・・・」 モリゾー達は、相変わらずソウマ達を憧れのまなざしで見ている。 「フン! あんなやつのどこがいいんだよ! オレの考えたチーム名をパクリやがって!」 「どう考えても向こうが先でしょ・・・。こっちがパクッたって言われるかもしれないのに・・・」 いつまでも腹を立てているソウイチに、ソウヤはため息をついた。 その一言一言がソウイチの癪に障る。 「るせえ!! とにかく行くぞ!!」 ソウイチは足を踏み鳴らしながら歩き出すが、勢い余って階段を踏み外し、ものすごい勢いで転げ落ちる。 三人は慌てて追いかけたが、一番下に着くと、ソウイチは頭を打って気絶してしまっていたのだ。 そして気絶してる間に、ソウイチは夢を見た。 [アニキ・・・。本当に過去の世界へ行っちゃうのか・・・?] [仕方ねえよ。オレがやらなきゃ、世界は救われないんだ。留守は任せたぞ] [嫌だよ・・・。アニキがいなくなるなんて、そんなの嫌だよ!] [ソウヤ、男なら泣くな。もうお前も大きいんだ。例えオレがいなくても、ソウイチと協力して、兄弟で力を合わせて生きるんだぞ] [ソウヤのことは任せろよ。オレがしっかり面倒見てやるぜ!] [頼むぞ、ソウイチ・・・!] 姿こそぼやけていたものの、会話の内容ははっきりと聞こえた。 そして、アニキと呼んでいた人間の額には、星形模様の傷跡がくっきりと浮かんでいたのだ。 「・・・ソウイチ、ソウイチ!!」 ソウヤは必死でソウイチを揺り動かし、その甲斐あってか、ソウイチはようやく息を吹き返した。 ぶつけたところが痛むのか、しきりに頭をさすっている。 「大丈夫・・・? ものすごい落ち方したけど・・・」 モリゾーは心配でしょうがなかった。 あれほどまで派手な落ち方をして、たんこぶを作るくらいだったのは幸いだが、それでも不安は拭い切れない。 大丈夫と答えるソウイチだったが、そんなことよりも、さっき見た夢の方が気になっていた。 (オレがアニキと呼んでいたあの人間・・・。あいつの頭には、星形の傷があった。さっきのソウマってバクフーンも同じ位置に星形の傷があった・・・。ま、まさか・・・!) 頭に浮かんだ考えを、ソウイチはありえないと否定する。 がしかし、これほどまで特徴が一致するだろうか。 「ソウイチ、どうしたの? 頭ぶつけたショックでバカになっちゃった?」 ぼ~っとしているソウイチを見て、ソウヤは目の前で手を振る。 ソウイチは我に返り、なんでもないとかぶりを振って歩き出す。 だが、依頼の最中でも、ソウイチの頭からさっきの夢の内容と考えが消えることはなかった。 それから数時間後、彼らはようやく依頼を終え、ちょうどギルドへ帰るところだ。 さすがにランクの高い依頼だけに、その疲労も並大抵ではなかった。 ソウヤ達はしきりに首を回したり肩を叩いたりしている。 (しかし・・・、やっぱり気になるな・・・。あの夢・・・) ソウイチはそんなことも忘れ、しきりに考えにふけっていた。 どうしてもさっきの内容が頭から抜けないのだ。 「ソウイチ、さっきからずっと変だよ? なんか依頼の時も上の空だし」 ソウヤは不安そうにソウイチの顔を覗き込む。 いつもとあまりに様子が違うので、どうも心配なのだ。 「いや・・・。ちょっと気になることがあってよ・・・」 さすがにいつまでも隠しているわけにもいかず、ソウイチはとうとう自分に起きた出来事を話して聞かせた。 もちろん、ソウマがソウイチとソウヤの兄弟であるという意見に、三人は飛び上がって驚く。 ソウマの事で機嫌を悪くしていたソウイチの口から、そんな言葉が飛び出してくるとは思ってもみなかったのだ。 「でも・・・、じゃあなんで向こうは分からなかったの? 兄弟だったら、僕達みたいに分かるんじゃ・・・」 「夢からして、あのときのオレ達は小さかったし、アニキも、オレ達がこんな姿になってるなんて夢にも思わねえはずだ。それに、オレ達と同じようにポケモンになってるってことは、忘れてる可能性だってある」 ソウヤの疑問はもっともだったが、今のソウマは人間ではない。 彼はあくまでもポケモンになっており、その状況がソウイチ達と同じだと仮定すれば、記憶を失って覚えていない可能性もあるのだ。 「でも、それって夢なんでしょ? だから、そうとは限らないんじゃないかな・・・? 僕にはそんな記憶がないし・・・」 だんだんと表情が曇っていくソウヤ。 そういうことに関して頼れるのは自分の記憶、それがないのだから、もし違っていたらと思うのも当然だ。。 「だったら、なおさら直接聞くしかねえだろ? それしか解決策はねえよ」 ソウイチはソウヤに笑いかけると、一足先にギルドへ続く階段を上っていく。 安心させようとしてソウヤに笑いかけたソウイチだが、自分の中でも、やはり不安があるのは否めなかった。 地下への階段を下りていくと、四人はちょうど依頼から帰ってきたところなのか、依頼者からお礼を受け取っている。 それが終わるのを待ってから、ソウイチ達は四人に声をかけた。 「ん? どないしたんや?」 カメキチは不思議そうにソウイチ達を見つめた。 そして、ソウマに用があることを伝え、これから話しても大丈夫かと確認を取る。 「別にいいぜ。依頼も終わったし、この後は晩御飯まで自由だからな」 ソウマはすんなり承諾し、大事な話なのでとソウマだけをギルドの入り口まで連れて行く。 近くに人影がないことを確認すると、ソウイチは口を開いた。 「実はさあ・・・。変だと思うかもしれねえけど、お前って、兄弟いねえか?」 「兄弟・・・? この世界にはいねえな。でも、オレが人間だったときには兄弟が二人いた。オレの弟達だ」 最初はきょとんとするソウマだったが、やがて懐かしそうに目を細め、遠くの方を見る。 その様子を見て、ソウイチは確信した。 このバクフーンは紛れもなく、自分達の兄、ソウマなのだと。 「オレが人間からポケモンになって随分経つけど、あいつらどうしてるんだろうな・・・。兄弟で仲良くやってるんだろうか・・・」 ソウマの目には、どこか寂しげな色が宿る。 先ほどのような立派な姿はどこにもなく、そこにあるのは、離れ離れになった兄弟のことを想う優しい兄の姿だった。 「あのさ。ちょっと聞くけど、その兄弟の名前ってなんていうんだ?」 いよいよここからが重要なところだ。 ソウイチはごくりとつばを飲み込み、意を決して質問してみる。 「名前か? 次男がソウイチ、三男がソウヤだ。もう今じゃ、結構大きくなってるんだろうな・・・。会えるものなら、もう一度会いたいぜ・・・」 気のせいかソウイチには、ソウマの目元が光に反射してきらりと光ったように思えた。 二人のことを思い出し、切なさで胸が締め付けられているのだろう。 「実は・・・、驚くかもしれねえけど、オレの名前もソウイチっていうんだ」 「僕の名前もソウヤっていうんだよ」 二人は思い切って自分達の名前を告げるが、ソウマはそうではないと目の前で手を振る。 あくまでも弟達は人間で、ポケモンで名前が同じだからといっても、そんなことはありえないと思ったのだ。 「だから、オレ達も何でだかわかんないけど、人間からポケモンになっちまったんだって! それに人間の時の記憶もほとんどねえんだよ!」 「それでもお互いのことは兄弟だってちゃんと分かった! それに、ソウイチは気絶したときに、夢で頭に星型の傷がある人間をアニキと呼んでたんだよ!」 ソウイチとソウヤは、信じてほしい一心で必死で訴えた。 と、二人の言葉を聞くうちに、ソウマの顔は徐々に驚愕の表情で満ちていく。 「嘘・・・、だろ・・・? まさかそんな・・・。オレの兄弟がみんな、ポケモンになったっていうのか・・・?」 ソウマは二人の言った言葉を整理しようとしていたが、あまりにも意外で唐突だったため、思考は混乱するばかり。 ポケモンになったのは自分だけだと思っていた分、二人までもがポケモンになり記憶を失ったと分かってショックでもあった。 「そいつは、家を出るときオレにこう言ったんだ。ソウヤを頼むって・・・。兄弟で力を合わせて生きろって」 「オレも、弟にそんなことを言った記憶がある・・・。まさか・・・、本当にお前ら、ソウイチとソウヤなのか・・・?」 最後の言葉が決め手になったのか、ソウマはようやく、二人が実の弟であると分かったようだ。 それは二人にも伝わり、ソウイチとソウヤはしっかりとうなずいてみせる。 「本当に・・・、本当にそうなんだな・・・。ソウイチ、ソウヤ・・・!」 例えようのない想いがこみ上げ、ソウマはぎゅっと二人を抱きしめる。 その体からは、人間の時にソウイチとソウヤのそばにいた兄と全く変わらない、温かく、優しい匂いがした。 その匂いが、失われていた兄弟の記憶を、二人の頭の中に呼び起こす。 「ソウイチ、ソウヤ・・・。今まで、寂しい思いさせてごめんな・・・。でも、やっと・・・、やっと会えたんだな・・・。会いたかったぜ・・・」 ソウマは二人を置いていったことを詫び、再会できたことを心から喜んでいた。 その想いが深かったのか、ソウマの目からは、一筋の涙が零れ落ちる。 「気にすんなよ。また会えたんだからさ」 とは言いものも、ソウイチの目にも涙が浮かんでいた。 そしてソウマは、優しく弟達の頭をなでる。 その瞬間、人間の時のソウマの姿と、バクフーンのソウマの姿が、重なり合った。 「アニキ・・・! アニキいいい!!」 ソウヤはこらえきれなくなり、ソウマの胸に顔をうずめて泣きじゃくる。 ソウイチは声こそ出さなかったものの、ぼろぼろと涙をこぼし、ソウマの温もりを肌で感じ取っていた。 そんな二人を見ながら、ソウマは穏やかな笑みを浮かべ、優しく頭をなで続ける。 三人はそのまま、再会できた感動を分かち合っていた。 が、そんな思わず見ている方も涙がこぼれそうな状況なのに、事情がよく分からないモリゾー達はきょとんとしている。 完全に蚊帳の外で、何がどうなっているのかさっぱりだ。 「ソウイチ、ソウヤ・・・。これってどういうことなの・・・?」 三人が落ち着いてきた頃を見計らい、ゴロスケは声をかける。 すっかり二人のことを忘れていたことに気付き、ソウイチとソウヤは分かりやすく事情を説明した。 それで、モリゾーとゴロスケもようやく合点がいったようだ。 「つまり、ソウマはソウイチとソウヤのお兄さんなんだね?」 「そういうことさ。改めてよろしく。いつも弟達が世話になってすまないな」 モリゾーが念を押すと、ソウマは自然な笑顔を浮かべた。 そして、弟達が世話になっている礼を言う。 「そんなことないよ。ソウイチとソウヤのおかげで、今までいろんな依頼をこなして来れたんだもの」 ゴロスケはとんでもないと目の前でかぶりを振る。 むしろ、世話になっているのは自分達の方。 お礼を言わなければならないのはこっちの方だ。 「そうか。これからも、弟達のことをよろしく頼むぜ」 二人のことを頼まれ、モリゾーとゴロスケは照れて頭をかく。 格好いいと思った相手にこういうことを言われるのはどうも照れ臭い。 「そういえばアニキ、もう一つ聞きたいことがあるんだ」 先程、ソウマのチーム名がアドバンズだと言っていたので、ソウイチはあっているかどうか早速質問する。 結果は予想通りで、ソウマはずっと前からアドバンズという名前を使っていた。 もちろん本人は、そんなことを聞いてどうするのかと言わんばかりだ。 「実は、オレ達のチーム名もアドバンズなんだ」 「そ、それ本当か!?」 ソウイチの口から告げられた事実に、ソウマはひどく驚いた。 チーム名の重複は不可能なので、しっかり名前を考えるよう、弟子入りする時にペラップに言われていたからだ。 一体なぜ、同じ名前で登録できてしまったのだろうか。 「これはちょっと訳をを聞く必要があるな・・・」 ソウマは急に立ち上がると、小走りにギルドの中へと駆け込んでいく。 遅れをとってはまずいと思い、四人も慌てて後を追いかけた。 ソウマは階段を下りると、迷うことなくプクリンの部屋へと向かう。 「あ、ソウマ。話の方は・・・」 だが、ライナが話しかけているのに気がつかないのか、ソウマは何の反応も示さず部屋へと入っていく。 カメキチもドンペイも何があったのだろうと思案に暮れた。 「親方! ちょっと話がある」 ソウマは挨拶も抜きにプクリンに近寄っていく。 それを見てペラップは早速ソウマをどやしつけた。 「おいソウマ! 挨拶もなしに親方様の部屋へ入るなんて何を考えているんだ!!」 だが、ソウマは黙っててくれとペラップを一蹴し、脇目も振らず親方の元へ行く。 ペラップが呆然と立ち尽くす中、ソウマはプクリンに名簿がどこにあるかを聞いた。 この口の利き方からして、プクリンとかなり親しい間柄か、それなりの実力があると彼に認められているようだ。 「名簿? どうして必要なの?」 「ちょっと確認したいことがあってな。オレ達のチームと、別のチームの名前がかぶってる可能性があるんだ」 すると、ソウマの言うことを聞いてペラップは突然笑い始めた。 一体何事かと思い、二人はペラップの方を見る。 「そんなバカな。チーム名は重複しないように私が管理してるんだ。同じ名前などあるはずがないさ」 「それがあるんだよ! オレ達のアドバンズって名前が別のチームでも使われてるんだよ!」 ソウマはむっとしてペラップに反論する。 過去にも一度、そういう事例があったのをソウマは覚えていた。 それが公になっていないのは、ペラップが親方に懇願して公表させなかったからである。 そんな昔のことなど、彼はすっかり忘れているようだ。 「じゃあ、それは一体どこのチームなんだい?」 自分の能力を疑われていると思ったのか、ペラップはじろりとソウマを睨む。 ソウマが早速説明しようとすると・・・。 「オレ達のチームだよ!!」 唐突にソウイチ達がドアを乱暴に開け、中へとなだれ込んできたのだ。 これにはその場にいた三人も大変驚いた。 「お前達! ノックぐらいしろ!! それから挨拶をしろと何度言わせれば気がするんだ!!」 ペラップはものすごい剣幕だが、そんなことよりもチーム名のほうが大事だ。 ソウイチは早速、自分達のチームとソウマ達のチームの名前がかぶっていることをプクリンに説明する。 だが、プクリンが反応したのは全く斜め上をいく部分だった。 「アニキってどういうこと・・・?」 (聞くのそっち!?) その場にいた誰しもがプクリンに対して心の中で突っ込みを入れる。 天然と言うべきか、マヌケと言うべきか、実に線引きが難しい部分だ。 「アニキってどういうこと!?」 「そやそや! ちゃんと説明せんかい!」 「僕達抜きで話をしないでくださいよ!」 今度はライナ達まで部屋の中へと飛び込んでくる。 この様子からして、部屋の外で聞き耳を立てて今までの話を聞いていたようだ。 もちろんペラップは早速説教を開始しようとしたが・・・。 「うるさい!! 今はこっちの話の方が大事なんだから邪魔するな!!」 またしても全員から一蹴されてしまい、ペラップは黙り込むしかなかった。 だが、その目は怒りに燃えており、時折ソウイチ達のほうを見ては何かぶつぶつとつぶやいている。 「で、アニキってどういうことなんですか?」 「ああ、それはな・・・」 ドンペイから質問を受け、早速ソウイチは入り口での話をその場にいる全員に聞かせる。 それでようやく、プクリンを含め全員が納得したようだった。 「そんな不思議なことが起きるなんてね~・・・。しかも三人続けてなんて・・・」 ライナは心底驚いていた。 以前ソウマから人間からポケモンになったことは聞かされていたものの、弟達も同じ道をたどっているとなれば驚かずにはいられないだろう。 「そやけど、同じチーム名使っとったんは意外やったな~・・・」 「そうですよね~・・・。どうして今まで気付かなかったんでしょう・・・」 カメキチとドンペイはお互いに顔を見合わせて疑問を口にする。 プクリンは語気を強めて、ペラップに理由を問い詰めた。 彼は慌てて名簿を確認し、そして、見事にソウイチ達とソウマ達のチーム名がかぶっていることを発見。 自分のミスであることをようやく自覚し、ひたすら土下座をして詫びを入れている。 「で、どうすればいいんだ? チーム名はかぶっちゃいけねえんだろ?」 「う~ん・・・」 ソウマに聞かれて、プクリンは首をひねる。 以前のチームは、お互いに面識がないので片方が名前を変えることで落ち着いたものの、今回はリーダーが兄弟ということもあり、前例がない。 それでどうするのが一番ベストな方法か、真剣に考えていたのだ。 そして数分後、ようやく解決策が思い浮かんだのか、プクリンは笑顔で全員に告げる。 「よし! じゃあ特別に、八人で一つのチームとして活動していいよ!」 「ほ、ほんと!?」 あまりにも寛大な処置に、一同は目を見張った。 さらに、八人全員でダンジョンに行くことも可能とし、メンバーを分割して活動することも可能という。 そうなれば、人数が多い分こなせる依頼の数も増え、強敵のいるダンジョンは集団で挑めるのでいいことづくしだ。 「し、しかし親方様! そんな処置は前例がありません!」 ペラップは面食らっていたが、慌ててプクリンに異を唱える。 「大丈夫だよ。このメンバーなら信用できるもの」 「それならいいんですが・・・」 プクリンの屈託のない笑顔に、ペラップは意見を認めざるをえなかった。 もちろん、ソウイチ達は手を取り合って喜んだ。 仲間が増えるのはとても嬉しいことで、それも先輩格の仲間だから、分からない部分はいろいろと教わることができる。 弟子入りしたばかりのソウイチ達四人にとって、これほど心強いことはない。 彼らはお暇の挨拶をし、プクリンの部屋を後にした。 「いや~、一時はどうなることかと思ったけど、まさか一つのチームに合体するとはな」 ソウマは意外そうにつぶやいたが、それを喜んでいないわけではなかった。 他のメンバーも、合体することに大きなメリットを感じている。 「でも、それじゃあチームのリーダーはどうするの?」 「そうですよね。一つのチームにリーダーは二人も要りませんし・・・」 早速疑問を投げかけるライナとドンペイ。 二つのチームが一緒になったからには、どちらかがリーダーの座を譲ることになるのは必須。 当然、その場にいた誰もが、リーダーはソウマになると思っていたが、その予想を裏切ったのはソウマその人であった。 「アドバンズのリーダーはオレじゃない。ソウイチだ」 誰もが飛び上がって驚き、特に一番衝撃を受けていたのはソウイチだ。 自分よりも立派な兄が、自らリーダーの座を自分に譲るなど考えてもみなかった。 ライナ達からは不満の声が上がったが、ソウマはそれを手で制し、その理由を述べる。 ソウマは今までリーダーをやってきたが、ソウイチがリーダーを務めたのはほんのわずかな期間。 それなのに、早々とリーダーの座を降ろすのは、ソウイチが成長する機会を失うと考えたのだ。 「リーダーっていうのは、普通のメンバーとは違ういろいろなことを学ぶことができる。それを通して、ソウイチにはもっと立派になってほしいんだ」 ソウマはそう言ってソウイチのほうを見る。 兄にここまで言われたことは初めてなので、彼はすっかり照れていた。 「ソウイチ。チームのことはお前に任せる。しっかり頼むぜ!」 「ああ! チーム名に恥じないようがんばるぜ!!」 ソウマはソウイチの頭にぽんと手を置き、ソウイチは笑顔でそれに応える。 最初こそ不服そうなライナ達だったが、ソウマの態度を見ているうちにソウイチがリーダーでもいいと思えてきた。 さすがはソウマというべきか、あっという間に八人の絆が深まっていく。 「それじゃあ、朝礼で寝る癖を直さないとね~」 「う、うるせえ!! みんなの前で言うなよ!!」 ニヤニヤとソウヤに指摘され、ソウイチは完熟トマトのごとく真っ赤になった。 一同は笑いの渦に包まれ、ソウイチは恥ずかしそうにうつむくばかり。 「ハハハハ! ま、しっかり頼むぜ」 ソウマは笑うのをやめ、再びソウイチの頭に手を置いてなでる。 それで幾分かは、ソウイチの恥ずかしさも紛れた。 「みなさ~ん! 晩ご飯の時間ですよ~!」 食堂からチリーンが姿を現し、鐘を鳴らす。 もうそんな時間かと思っていると、彼らのお腹も大きな音を立てた。 「じゃ、早速飯食いに行こうぜ!!」 「あ! 抜け駆けはずるいぞ~!!」 ソウイチは他のメンバーを尻目に真っ先に駆け出した。 抜け駆けは許されるはずもなく、彼らも慌ててソウイチに続いて食堂に入る。 (やっぱり、昔と変わらねえな。でもあいつらは、これからもっと立派になる) 一人その場に残ったソウマは、そんなソウイチとソウヤの様子を見てふっと笑う。 そして自分も、空腹を満たすために食堂の中へと入って行った。 兄はいつでも、弟達のことを信頼しているのだ。 ---- [[アドバンズ物語第七話]] ---- ここまで読んでくださってありがとうございました。 誤字脱字の報告、感想、アドバイスなどもお待ちしてます。 #pcomment(above)