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アドバンズ物語第五十九話 の変更点


&size(20){''ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語''};
作者 [[火車風]]
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第五十九話 夏の悪夢!恐怖の肝試し! 後編


それからも脅かしは続き、光を下から当てて怖い顔を演出したり、こんにゃくのようなものをぶら下げたり、タオルに水をしみこませ、水滴をぽたぽたたらすといったものがあった。
そして、カメキチ達はこの肝試しで一位二位を争う恐怖の演出ポイントに来ていた。
海岸まではあと少しだが、この脅かしがめちゃくちゃ怖いのだ。

「先輩・・・、なんだか変なにおいしませんか?」
ドンペイはカメキチにたずねた。

「え?」
ドンペイに言われてにおいをかいでみたが、カメキチは顔をゆがめた。
何かが腐ったようなかなり不快なにおいなのだ。

「うわ・・・。なんなんやこのにおい・・・。きっついわ~・・・。」
カメキチは鼻を覆って言った。
ドンペイもにおいができるだけ入らないように鼻を覆っている。

「ひどいにおいですね~・・・。あれ・・・?先輩、なんだか地面が揺れてませんか?」

「ん?そういやなんかゆれとるな・・・。おまけになんか音もしよるし・・・。」
ドンペイに言われて、カメキチはとまって耳をそばだてた。
そしてそれが、何かの足音だという結論にたどり着いた。
おまけに後ろからどんどんとこっちへ近づいてきている。

「な、何の足音なんですか・・・?」

「お、オレに聞かれても知らんがな・・・。」
そして、足音は不意にぴたりとやんだ。
二人が不思議に思って振り返ると・・・。

「オレを助けてくれぇぇぇぇぇ・・・。」
そこには、白装束を着ていたるところに矢が刺さり、いたるところから赤いものが流れ出ている刀を持った落ち武者だった。

「ぎゃあああああああああああ!!!」
二人はその姿を目にするなり全速力で駆け出した。
背後からそんな姿を見せられたら逃げる以外になすすべはない。
逃げていく二人を見て、落ち武者はほくそ笑んだ。

「ハッハッハッハ!あそこまで驚くとは、やっぱりオレの脅かしが一番だな!」
その落ち武者はリングマが変装しているものだった。
体格、声色からしてすごくぴったりの役だといえるだろう。
あのにおいは、この世界ですごくにおいがきついといわれる木の実酒の一種だったのだ。
ひどいにおいゆえ飲むのにはものすごく勇気がいるが、慣れればそれなりにうまいらしいのだ。
リングマは肝試しで必ずこの役をやっており、驚かなかったポケモンは一匹もいなかった。
リングマはそれに自信と誇りを持っていた。
あまりほめられることではないのだが。
そして今度はソウイチ達がやってきたようだ。
リングマは意気揚々と茂みに隠れて、三人が通過するのを待った。

「うぐ・・・。なんなのこのにおい・・・。」

「ひどいにおいですね~・・・。」

「あのむかつく野郎どもよりかは劣るけど、鼻がおかしくなりそうだぜ・・・。」
ソウイチ達は口々に言った。
リングマはその様子を見てにやっと笑い、ある程度距離が開くと、地響きを立てて後ろから接近した。

「な、なんですかこの音は・・・?」
コンは立ち止まって耳をすませた。

「何かが近づいてくるようだけど・・・。」
モリゾーも音をよく聞き取ろうとしている。

「な、何かって何だよ!?」
ソウイチはすでにおろおろしていた。
こういう部類も相当苦手なのだ。
そして地響きがやみ、みんなが後ろを振り返ると・・・。

「オレを助けてくれぇぇぇぇぇ・・・。」
リングマはさっきの要領で声を出した。

「きゃあああああああああああ!!!!」

「うわあああああああああああ!!!!」
モリゾーとコンは今までで一番大きい悲鳴を上げた。
ソウイチは悲鳴を上げようとしたが、声がつかえて出てこなかった。
おまけに腰まで抜けてしまい、逃げることすら不可能だった。

「助けてくれ・・・。助けてくれぇぇぇぇ・・・。」
リングマはだんだんと近づいてくるが、三人とも恐怖で足がすくんで動けない。
そしてリングマが目の前まで迫ったとき、モリゾーはなんとかコンを引っ張ってその場から逃げ出した。
しかしモリゾーは、コンを助けることで頭がいっぱいでソウイチのことはほったらかしだった。

「お、おい待てよ!!オレを置いて行かないでくれええええ!!!」
ソウイチは二人に声をかけたが、もちろん止まるはずもない。
リングマはじっとソウイチを見下ろしている。

「あ・・・、ああああ・・・!!うああああああ!!!」
ソウイチは唯一動く手を使ってその場から逃げようとした。
下半身を引きずり必死でリングマから遠ざかろうとする。

「(まさかソウイチがここまでお化け嫌いだとはな・・・。・・・面白いからもう少し脅かしてやるか!)」
リングマは悪乗りし、逃げるソウイチの後をゆっくりついていって更なる恐怖を与えてやろうと思った。
それには、リーダーとしての根性を叩きなおそうという考えも含まれていたが、脅かす楽しみのほうが大きかった。
ソウイチは半泣きでリングマから逃げたが、リングマは執拗に追いかけ続けた。
そしていつのまにか、リングマは持ち場から遠ざかっていた。
それから、ソウヤとゴロスケがやってきたのはまもなくのことだった。

「うわ・・・、ひどいにおい・・・。」

「ほんとだ・・・。鼻が曲がりそうだよ・・・。」
ソウヤとゴロスケは鼻を押さえながら言った。
しばらく進むと、道端に大きな足跡がついていることに気付いた。

「うわ~・・・。大きな足跡だね・・・。」
ゴロスケは足跡を眺めながら言った。

「おまけにずいぶん深いね・・・。いったい何の足跡だろう・・・。」
ソウヤは足跡を見て深く考え込んだ。
すると、遠くのほうから地響きが聞こえてきた。

「な、なんなの・・・?今の音は・・・?」
ゴロスケの顔はちょっと青ざめた。

「この様子だと、そうは遠くなさそうだね・・・。ちょっと行ってみよう!」
ソウヤはゴロスケに向かって言うとすぐに走り出した。

「あ!待ってよソウヤ!」
ゴロスケもあわてて後を追いかける。
しばらく走っていると地響きはどんどん大きくなり、やがて、リングマに追いかけられているソウイチを見つけた。
ソウイチはまだ腰が抜けているのか、ひっきりなしに腕を動かして逃げ続けていた。
だが、とうとう腕も力が入らなくなり、ソウイチはその場から動けなくなってしまった。

「助けてくれぇぇぇぇぇ!!」
リングマはここぞとばかりにものすごい声を出した。

「ぎゃあああああ!!!くるな!くるなああああ!!!」
ソウイチはすでに半泣きどころか、涙をぼろぼろ流しながら号泣していた。
もう虚勢を張るどころの事態ではないのだ。
すると、突然リングマが前にバランスを崩した。
ゴロスケが後ろから思いっきりたいあたりをかましたのだ。
ソウイチはとっさに横によけたが、リングマは何とか倒れなかった。

「ソウイチ、大丈夫!?」
ゴロスケはリングマの前に立ちふさがった。

「お、お前ら・・・、どうして・・・?」
ソウイチはおずおず尋ねた。

「遠くのほうで地響きがするからあわてて追いかけてきたんだよ!こいつ、よくもソウイチを・・・。」
ゴロスケはソウイチをかばって戦うつもりだったが、リングマの形相を見てあっという間に闘志が引っ込んでしまった。
何しろ想像以上に怖い顔になっていたからだ。

「うわああああああ!!!」
今度はゴロスケがソウイチの後ろに隠れてしまった。

「ば、バカ!!何やってんだよ!!」
ソウイチはゴロスケを前に押し出した。

「あんなのにかなうわけないよ!!ソウイチはお化けなんか平気でしょ!?」
今度はゴロスケがソウイチを前に押し出した。

「冗談じゃねえよ!!お化けだけは昔から大の苦手なんだよ!!」

「リーダーなのに何言ってるのさ!!」

「そんなの関係ねえだろ!!」
二人は押し合いへしあいして後ろに下がろうとしたが、リングマが痺れを切らしてほえたのでその場にうずくまってしまった。
一方ソウヤは冷静にリングマの様子を観察しており、怖がる様子はまったくなかった。
リングマもソウヤに気付いたのか、脅かしてやろうとさっきのように怖い声を出した。
ところがソウヤは、リングマの顔をじっと見つめると、唐突ににっと笑った。

「な!?」
リングマはかなりショックを受けた。
自分の落ち武者を見て驚かないやつなど初めて見たからだ。

「二人ともよく見てよ。落ち武者に変装してるリングマだよ。」
ソウヤは笑いながら言った。

「え・・・?」
二人はソウヤに言われてリングマをまじまじと見つめた。

「塗ってるのはリンゴジャムで、矢が刺さってるように見えるけど、裏側から固定してるだけで本当は刺さってないよ。それにこの刀は木刀に色を塗っただけだし。」
ソウヤはまたしても細かく変装を分析した。
リングマは唖然とした表情でソウヤの言うことを聞いていた。

「きっと、さっきのにおいもリンゴジャムの匂いを消すための演出だったんだよ。さ、二人とも行こう。」
ソウヤはそういうと、リングマの横を素通りしてさっさと行ってしまった。

「お、おい待てよ!」

「おいてかないで~!」
ソウイチとゴロスケは我に返ってソウヤを追いかけた。
リングマはその場に呆然とたたずんでいたが、やがて一言つぶやいた。

「何でソウヤはオレの落ち武者で驚かないんだ・・・?」
リングマはがっくりと肩を落とした。
ソウヤが驚かなかったことがかなりこたえたようだ。


「ねえソウイチ、何でさっきはあんなにおびえてたの?」
ソウヤはソウイチに聞いた。

「は?何の話だよ?」
ソウイチはしらを切った。

「とぼけないでよ!さっき僕を身代わりにしようとしたことを忘れたの!?」
ゴロスケはさっきのことをかなり根に持っていたようだ。

「してねえよ!大体お前だってかっこつけて飛び込んできながらぶるぶる震えてたじゃねえかよ!!」
ソウイチもむっとして言い返した。

「そういうソウイチだって大泣きしてたじゃないか!!リーダーのくせにみっともない!!」
ゴロスケは一番ソウイチの心に刺さることを言った。

「み、みっともないだと!?あれは演技だよ!!あそこまでしないと盛り上がらないからな!!」
ソウイチはでまかせを言った。
あれは明らかにこわがっていただけなのだが。

「あれのどこが演技なのさ!?本気でこわがって泣いてたじゃないか!この弱虫!!」

「んだとお!?てめえのほうだって弱虫だろうが!!」
とうとう口げんかにまでなってしまった。

「二人ともけんかはやめなよ!」
ソウヤは仲裁に入ったが、二人は依然としてにらみあったままだ。
このままでは殴り合いにまで発展してしまいそうだ。

「お~い!!」
すると、遠くから声が聞こえてきた。
どうやらモリゾーとコンが引き返してきたようだ。

「おいてめえら!!人ほったらかして何先に逃げてんだよ!!」
ソウイチは早速八つ当たりした。

「だ、だって・・・。すごくこわかったから・・・。」
モリゾーはうつむいていった。
あれでこわくないほうが正直おかしいだろう。

「だからってオレを置いて逃げるかよ普通!?ラブラブだからっていい気になってんじゃねえぞ!!」
とうとうソウイチは全く関係のないことまで持ち出してきた。
これにはモリゾーもかんかんだ。

「別にいい気になんかなってないよ!!大体、ソウイチが一番こわがってたじゃないか!悲鳴だって一番大きかったし、最初の絵のところなんか木の後ろに隠れてたくせに!!」
モリゾーはおもいっきり言い返した。

「うぐ・・・。」
ソウイチは事実を言われて何も言い返せなかった。

「え?木に隠れてたの?」
ゴロスケはモリゾーに聞いた。

「そうだよ。他の脅かしだって、オイラやコンはそんなに驚いてないものでも、ソウイチは結構驚いてたし。その後に演技演技って言ってるけど、絶対お化け嫌いだよ!」
モリゾーはソウイチを横目で見ながら言った。

「やっぱり!さっき僕を身代わりにしたのだって、自分が怖かったからじゃないか!!」
ゴロスケはまた怒りが再燃してきた。
そして二人はじりじりとソウイチとの間合いを詰める。

「ちょ、ちょっと二人とも!」

「けんかはだめですよ!」
ソウヤとコンはあわててやめさせようとしたが、二人が引き下がる気配はない。

「さあ、どうなの!?」
二人はとうとうソウイチを追い詰めた。
後ろは木でソウイチに逃げ場はない。

「ああそうだよ・・・。オレは昔からお化けとかそういうのが大嫌いなんだよ!!」
ソウイチはしばらく二人をにらんで黙っていたが、観念したのかやけになったのか、本音を話し始めた。

「友達に無理やりお化け屋敷に誘われて、中で迷った挙句置いていかれたんだぞ!?ずっと一人で、オレがどんだけこわくて泣きそうになってたか、お前らにわかるのかよ!?」
どうやら、人間のときのトラウマはかなりのようだ。
忘れようと思っても、どうしても忘れてしまうことができなかった。

「だからオレは参加したくなかったんだよ!!でも、参加しなかったら絶対お化け嫌いのレッテルを貼られる・・・。それがどうしても我慢できなかったんだよ!!だからこわいの必死でこらえて参加したんだよ!!」
ソウイチは心の中にたまっていたものを全て吐き出し、しばらく荒い息をしていた。

「お前らだって・・・、オレのこと情けないとか、弱虫とか思って心の中で笑ってんだろ・・・?」
ソウイチは自嘲した。
モリゾーとゴロスケはしばらくその様子を見ていたが、一言だけ言った。

「どうして相談してくれなかったの?」

「え・・・?」
ソウイチは予想外の言葉にぽかんと口を開けた。

「お化けが嫌いなことがどうしてだめなの?苦手なんだったらしょうがないよ。誰にだって一つぐらい苦手なものはあるんだしさ。」
モリゾーは言った。

「それに、お化けが嫌いなことでソウイチのことを情けないとか思ったりしないよ。さっきは弾みで言っちゃったけど、本当はそんなこと思ってないよ?」
ゴロスケも言う。

「ほ・・・、ほんとかよ・・・?」
ソウイチは疑わしそうな目で二人を見た。

「ほんとだよ。オイラ達親友でしょ?親友のことバカにしたりなんかしないよ。だから、悩みがあるんだったら遠慮なく相談してよ。」

「そうそう。それに、自分にとっては苦手でも、他人にとってはちっとも苦手じゃない。逆に、他人にとって苦手なことが自分にとって得意だったりするんだから、お化け嫌いなのも恥ずかしいことじゃないよ。」
モリゾーとゴロスケはにっこり笑った。

「お前ら・・・。」
絶対バカにされると思っていたソウイチは、二人の言うことを聞いてなぜかほろりときてしまった。
二人は、それほどソウイチのことを大切な存在だと思っていたのだ。

「それに、毎日が肝試しなわけじゃないし、今日が過ぎれば大丈夫でしょ?」
ソウヤはいたずらっぽく笑った。

「お化け嫌いでも、いつものソウイチさんにかわりはないですよ。いつもと同じ、アドバンズのリーダーですよ。」
コンもソウイチに優しい言葉をかけた。

「もうお化けを怖がらなくて大丈夫だよ。ソウイチは一人じゃない。オイラ達がいる。」
モリゾーはソウイチの目を見ながら言った。
ソウイチは、何かしらこみ上げてくるものに気付いた。

「・・・へっ!何かっこいいこと言ってんだよ!」
ソウイチは思わずみんなから顔を背けた。
光っているものを見られたくなかったからだ。

「よ~し!それじゃあ早く次に行こう!」
ソウヤは腕を高く上げた。

「おお~!!」
みんなも同じく腕を突き上げた。


時を同じくして、ソウマとライナは例の異臭ゾーンに突入していた。

「うっ・・・。すごいにおい・・・。」
ライナは手で鼻を覆った。

「こりゃひでえな・・・。いったい何のにおいだ・・・?」
ソウマは鼻を覆いながら考えた。
まったく経験したことのないにおいだからだ。
そして二人はリングマがいるところまでやってきたが、肝心のリングマはソウヤのことでショックを受けて石の上に座り込んでいた。

「あれ・・・?あそこに誰かいるわよ。」
最初に気付いたのはライナだった。
二人はリングマに近づいたが、リングマは一向に反応がない。

「おい、どうした?大丈夫か?」
ソウマは普通に声をかけた。
が、次の瞬間その顔は真っ青になった。

「オレを・・・、オレを助けてくれ・・・。」
それは心のそこから助けを求める切ない声だった。
さっきソウイチ達を脅かしたものより何倍もソウマとライナの恐怖感をあおった。

「あ・・・、あああ・・・。」
二人は思わず後ずさりした。

「なあ・・・。助けてくれよお・・・。」
リングマは立ち上がり、なおも二人に助けを求めた。
迫ってくるリングマにライナは思わず悲鳴をあげそうになったが・・・。

「ふぎゃああああああああああ!!!」
真っ先に悲鳴を上げたのはソウマだった。
今までソウマが出したことのないような悲鳴に、ライナとリングマはその場に固まった。
その直後、ソウマは全速力でその場から逃げ出した。
ライナをほったらかしたままで。

「・・・はっ!ちょ、ちょっと待ってよソウマ~!!」
ライナははっと我に返るとあわててソウマを追いかけ始めた。
リングマは一人その場に取り残され、去っていくライナを呆然と見ていた。

そして、一番先を行くカメキチとドンペイは、最後の脅かしポイント、丸井戸のところまで来ていた。
あたりには荒れた木や、塔婆のようなものが山のように置いてあり、気味の悪さは抜群だった。

「ぜ、絶対何かでそうです・・・。」
ドンペイはぶるぶる震えていた。

「し、心配すんな・・・。なんか出てきたらオレがぶっ飛ばしたる・・・!」
そういうカメキチのしっぽもぶるぶると震えていた。
やはりこわいことは隠せないようだ。
すると、急に井戸の釣瓶がものすごい音を立てて下に落ちた。

「ひゃあ!!」
二人はびっくりして井戸のほうを見た。
しかし、釣瓶の滑車がからからと音を立てていることに気付き、ほっと胸をなでおろした。
ところが次の瞬間・・・。

[うふふふふ・・・。]

突然不気味な笑い声が響いた。

「な、なんや!?」

「なんですか!?」
二人はあたりを見回した。
すると、井戸のほうが急に明るくなり・・・。

[う~ら~め~し~や~・・・。]

井戸の中からピカチュウのろくろ首がでてきた。
作り物ではなく、本当に首が伸びてカメキチ達の目の前に迫ってきた。

「ぎゃあああああああああ!!!」
カメキチとドンペイは腰を抜かしてしまった。
それほどリアルなろくろ首だったからだ。

「くくくく・・・。」

「ん・・・?」

「あははは・・・。あははははは!!!」
突然ろくろ首が笑い始めた。
二人はぽかんとした顔でろくろ首が笑うのを見ていた。

「まさかここまでびっくりするとは思わなかったぜ!オレだよオレ!」

「へ?」
二人はさっぱりわけが分からない。

「だ~か~ら~・・・。オレだよ!」
すると、首の部分がすぽっと抜けて、中からシリウスが出てきた。

「えええええ!?し、シリウス!?」
二人は飛び上がった。
まさか首の中に入っているとは思わなかったのだ。

「結構リアルだろ?このろくろくび。首の部分が自由に伸び縮みして、中に入ったら本当に首が伸びてるように見えるんだぜ?」
シリウスは自分の作った仕掛けを自慢した。
よくもまあここまで作れたものだ。

「だ、だけど、どうしてここにいるんですか・・・?」
ドンペイは恐る恐る聞いた。

「そりゃあみんなのびっくりした顔が見たかったからさ。だからばれないようにこっそり脅かし役になったんだ。」
どうりで最初からいなかったわけだ。
カメキチとドンペイはその理由がようやく分かった。

「そういや、この後来るのは誰なんだ?」
シリウスは二人に聞いた。

「確か、ソウイチにモリゾーにコンやったと思うで。」
カメキチは言った。

「おお!そりゃ好都合だ!よ~し、早速準備準備っと!」
シリウスはうきうきしながらまた仕掛けの準備を始めた。
カメキチ達がその様子を見て先に行こうとすると、シリウスは二人を引き止めた。

「しばらくその辺に隠れてろよ。ソウイチの面白い顔が見れるぜ。」
シリウスはニヤニヤしながら言った。

「それってどういうことですか?」
ドンペイは聞いた。

「実はな・・・、あいつ昔っからお化けが大嫌いなんだよ。だから絶対こしぬかして大泣きすると思うぜ?」
シリウスは嬉しそうに言った。
全く趣味の悪いことだ。
二人は困惑したが、シリウスが無理に勧めるので、仕方なく井戸の近くの草むらに隠れて様子を見ることにした。
仕掛けが終わったところで、ようやくソウイチ達が姿を現した。

「(お、来た来た!ん?)」
シリウスは遠くのほうに目を凝らした。
すると、ソウイチ、モリゾー、コンだけでなく、ソウヤとゴロスケも一緒に来ていることが分かった。
これはますます好都合と考え、シリウスははやる気持ちを抑え、わくわくしながらみんなが来るのを待ち構えた。

「ううう・・・。なんだか不気味な場所だね・・・。」
モリゾーは少し青い顔になっていた。

「いかにも何かでそうって感じですね・・・。」
コンもうなずく。

「何か出てきそうな井戸もあるし・・・。」
ゴロスケは井戸が結構気になるようだ。

「(よ~し!今だ!)」
シリウスはひもを引っ張って釣瓶を落とした。
釣瓶は大きな音を立てて井戸の底に落ちた。

「ひいっ!!」

「な、何ですか今の音は!?」
みんなは辺りをきょろきょろ見回した。
そして、滑車がからから音を立てていることに気付いた。

「なんだ・・・。釣瓶が落ちただけか・・・。」
ソウイチはほっとため息をついた。
みんなも安心したそのとき・・・。

[うふふふふ・・・。]

またしても不気味な笑い声が響いてきた。
そして・・・。

[う~ら~め~し~や~・・・。]

井戸の中からシリウスのろくろ首が顔を出した。
みんな顔面蒼白だ。

「きゃあああああああ!!!」

「うわあああああああ!!!」
コンとゴロスケは、それぞれモリゾーとソウヤの後ろへ隠れた。
モリゾーとソウイチはその場から動かない。

「(守るんだ・・・!オイラがコンを守るんだ!)」
モリゾーは逃げたい衝動を押さえ、ろくろ首に向かい合っていた。
足はガクガク震えているが、それでもコンを守るために必死だった。

「(そういえば・・・、ソウイチが悲鳴を上げてない・・・。まさかたったまま気絶してるんじゃ・・・。)」
モリゾーはソウイチの様子が気になり、チラッと横目で確認した。
ところが、ソウイチは真顔でろくろ首を見つめていたのだ。
これにはほかのみんなもびっくりだ。
さっきまで腰を抜かしていたソウイチが、今は怖がる様子もなく、平然とした様子でろくろ首を見ていたのだから。
特に一番驚いたのはシリウスだ。

「(な、なんでだ!?あいつお化け嫌いじゃなかったのか!?)」
シリウスは動揺したが、脅かしている最中なので顔に出ないようにした。
次の瞬間、ソウイチはいきなりシリウスの耳を引っ張った。

「な!?いででででで!!!」
シリウスは引っ張られた引きおいですぽんと外に出てしまった。

「ええええ!?シリウス!?」
みんなぽかんと口をあけてシリウスを見た。
シリウスはあわてて戻ろうとしたが、ソウイチが背後から耳を引っ張っているので動けない。

「いでででで!!なにしやがんだ!はなせよ!!」
シリウスは大声で叫んだが、ソウイチはまったく力を緩めない。

「ったく!こんなところで何やってんだよ!」
ソウイチはシリウスをにらみつけた。

「みりゃわかるだろ!お前らの驚く顔を見たかったから脅かし役をこっそり申請したんだよ!」
シリウスはなおもじたばたしながら言った。

「そうか~・・・。それであの時いなかったんだ・・・。」
みんなもようやく事情が分かった。

「それならそうと言ってくださいよ・・・。心配するじゃないですか。」
コンはため息をつきながら言った。

「しゃべったら面白くねえだろうが!ってかソウイチ!いい加減放せ・・・。」
シリウスが放せと言った瞬間ソウイチが急に力を緩めたので、シリウスは頭を思いっきり井戸のふちにぶつけてしまった。

「いって~・・・。いきなり放すな!!というか、何でお前怖がってねえんだよ!?お前お化け嫌いだったはずだろ!?」
シリウスは痛いのとソウイチが驚かなかったことに腹が立って、ソウイチに向ってわめいた。
ソウイチは一瞬え?という顔になったが、ふっと笑うと言った。

「それいったいいつの話だよ?オレは別にお化けなんか怖くねえぜ?」

「な!?」
シリウスはたじろいだ。
ソウイチの口からそんな言葉が出てくるとは思わなかったのだ。

「大体、リーダーのこのオレがお化け嫌いのはずねえだろ?」
ソウイチはあきれた顔でシリウスを見た。
それを見てソウヤ達は、また調子のいいことを言ってると思った。
お化け嫌いのことを励ましたのは自分たちなのに、それをさも自分で克服したかのようにソウイチが言うので嫌な感じがしたのだ。

「で、でも!あれだけお化けが嫌いだったのにどうやって直したんだよ!?」
シリウスはそれが気になって仕方ないようだ。
しかしソウイチは、シリウスには教えようとしなかった。
そのかわりにこんなことを言った。

「いつも一緒にいる仲間が、自分にとって一番支えになるときがあるんだよ。すごくな。」
シリウスはその言葉を聞いて、頭上に?をいくつも浮かばせていたが、ソウヤ達には伝わったようだ。
みんなが励ましてくれたおかげで、お化け嫌いを直せつつあることを、ソウイチは心から感謝していたのだ。
ただ、それをあからさまに言うとシリウスに分かるので、あえてこういう言い方をしたのだ。

「はあ?意味わかんねえよ・・・。なあ、どうやって直したんだよ?」
シリウスはしつこくソウイチに聞いた。

「今のがわかんなきゃ教えねえ!」
ソウイチはべ~っと舌を出した。

「てめえ!オレをバカにしてんのか!!」
シリウスは頭に来て殴りかかろうとしたが、ソウイチがひょいっとジャンプしたので、井戸のふちを殴ってしまった。

「でえええええええ!!!」
シリウスの腕は真っ赤になり、痛みのあまりぶんぶん腕を振り回した。
まさに自業自得である。

「な~んや・・・。やっぱりオレの考えは間違いやったみたいやな。」

「そうですよ。ソウイチさんがお化け嫌いのはずないじゃないですか。」
草むらの影からドンペイとカメキチが姿を現した。

「あ、カメキチ!」

「ドンペイさんも!」
みんなは二人がいることに驚いた。
二人はわけを話し、ますますシリウスはみんなから冷たい目で見られた。

「もう~・・・。悪趣味にもほどがあるよ!」
ゴロスケはシリウスをにらんだ。

「そうですよ・・・。驚いた顔が見たいなんて・・・。」
コンはすっかりあきれ果てていた。

「うるせえ!ほっとけ!!」
シリウスはそっぽを向いてすねた。
みんなはその様子を見ていっせいにため息をついた。
すると、遠くのほうから足音が聞こえてきた。

「お、また誰か来たみたいだな!早速準備準備っと。」
シリウスはすぐに機嫌を直し、また仕掛けを始めた。

「お前なあ・・・。」
ソウイチは準備するシリウスをあきれたまなざしでみていた。
すねているかと思えばすぐに機嫌を直す、本当に子供っぽい。

「るせえ!!だれが子供っぽいだ!!」

「ど、どうしたんですか・・・?」
コンはシリウスが唐突に叫んだのでびっくりした。

「へ・・・?あ、な、なんでもねえよ!それより、お前らがいると相手にばれるからどっかその辺に隠れてろよ!」
そう言うと、シリウスはそっぽを向いて再び準備を始めた。
みんなはちょっとむっとしたが、シリウスの言うとおりに草むらに隠れて様子を見ることにした。
そして、やってきたものを見てみんなびっくりした。

「(そ、ソウマ!?)」
やってきたのは、いつもと違いものすごく取り乱しているソウマだった。
足元はおぼつかず、全速力で走ってきたのか息もかなり乱れていた。
おまけに体中傷だらけで、ハチマキはどこへいったのかつけていなかった。

「はあ・・・、はあ・・・。も、もうおいかけてこねえか・・・?」
ソウマは後ろを振り返ってつぶやいた。
そして、誰もいないことを確認するとため息をついた。

「ったく・・・、最悪だぜ・・・。ライナの前で醜態さらすわ、逃げてくる途中でこけたり木にぶつかったりするわ・・・。おまけにライナを置き去りにしちまったし・・・。」
ソウマは頭を抱えてその場に座り込んだ。

「これで完全に嫌われちまった・・・。いくらお化けが大の苦手だからって・・・、ライナをほったらかして逃げるなんて・・・。これから先どうすりゃいいんだ・・・。」
ソウマの腕はぶるぶる震えていた。
お化けをこわがって、好きな人を置き去りにしてしまった自分が許せなかった。
悔やんでも悔やみきれなかったのだ。
みんなは、そんなソウマの様子をみているしかなかった。
自分の苦手なもので苦しんでいるソウマを。
しかし、井戸の中にいるシリウスにそんなことが聞こえるはずもなく、シリウスは予定通り釣瓶を落とした。
大きな音にソウマはびくっとして井戸のほうを見た。
しかし、滑車の音に気付き、釣瓶が落ちただけだとわかってほっとした。
ところが・・・。

[うふふふふ・・・。]

相変わらずの不気味な声が響いた。

「な、なんだ!?」
ソウマは青い顔であたりを見回した。
そして・・・。

[う~ら~め~し~や~・・・。]

シリウスのろくろ首が井戸の中から現れた。

「ぎゃああああああああああ!!!」
ソウマはそのままひっくり返ってしまった。
シリウスは面白がってソウマの前でうねうねと首を動かしている。

「ああ・・・。あああああ・・・。」
腰が抜けたのか、ソウマは立ち上がれずに必死でその場から逃げようとする。
シリウスはしつこく脅かすのをやめない。
すでにソウマの両目には涙がたまり、恐怖が極限までこみあげてきているようだ。
度が過ぎると思い、ソウイチが止めに行こうとしたそのとき・・・。

「いい加減にしなさあああああい!!!」
突然大声とともにシリウスが吹っ飛んだ。
シリウスは木にぶつかってそのままのびてしまった。
みんな何事かと思ってそのほうをみると、ライナがでんこうせっかでシリウスをふっ飛ばしたようだ。
もちろん、あの中にシリウスが入っているということをライナは知らない。

「ら、ライナ・・・。」
ソウマはろくろ首をにらみつけているライナを呆然と見つめていた。

「ソウマ、大丈夫?全身傷だらけだけど・・・。」

「へ・・・?」
ライナにそう言われて、ソウマはようやく自分のおかれている状況に気がついた。

「あ!!え~と・・・、これは・・・、その・・・。」
ソウマはなんと説明していいか分からず、ものすごく焦っていた。
すると、ライナは唐突にソウマのハチマキを差し出した。

「え・・・?」
ぽかんとしているソウマに、ライナは言った。

「ねえ、ソウマ。あなた本当は、お化けが苦手なんでしょ?」
それを聞いて、ソウマは頭を殴られたような衝撃を受けた。
完全にライナにばれてしまっていたのだ。
ソウマは、これで完全にライナに失望されたと思った。
ところが、ライナの口から出た言葉は意外なものだった。

「どうして私に打ち明けてくれなかったの?」

「ば、バカ!!人前でそんな恥ずかしいこと言えるかよ!!いい年してお化け嫌いなんてことが分かったら失望されるだろ!!」

「どうして?」

「ど、どうしてって・・・。」
ソウマは言葉に詰まった。

「確かに、お化けが嫌いなことは、普通の人がみたらかっこ悪いって思うかもしれないわ。でも、私はそんなことないわ。」
ライナはソウマの目をまっすぐ見ていった。

「ソウマが最初から取り乱してたら、私ももっとこわかったと思う。でも、ソウマは一生懸命私のためにがまんしてくれた。だから、私は安心してソウマといることができたのよ。」

「ライナ・・・。」
ソウマは、ライナがそこまで考えているとは思わなかった。
普通ならかっこ悪いの一言で終わるだろうが、ライナはそうではなかった。

「だから恥ずかしがることなんてないわよ。お化け嫌いでも、ソウマはソウマ。私の好きなソウマだもの。」
ライナはにこっと笑った。
ソウマはしばらくライナの顔を見つめていたが、やがて照れくさそうに笑った。

「さあ、行きましょ。ここを抜ければもうすぐ海岸だもの。」

「ああ。」
ソウマは、ライナの手をとって立ち上がった。
二人は海岸を目指し、手を繋いだまま歩いていった。
みんなは、ずっとその様子を眺めていた。
そして二人が見えなくなったところで、みんなは草むらから出てきた。

「まさか本当にソウマがお化け嫌いやったとはな~・・・。」
カメキチは心底驚いたような顔をしていた。

「うん・・・。僕も初めて知ったよ・・・。」
ソウヤもかなり驚いていた。

「だけど、ライナの言うとおりだと思うぜ。例えお化け嫌いだってわかっても、アニキがアニキなことに変わりはねえよ。」
ソウイチはみんなに言った。
お化け嫌いが不利になることなどそうそうはないものだ。
せいぜいこういうイベントのときなどで、ソウイチもソウマも、依頼のときや普通に生活するときはちっとも支障が出ないのだ。
夜のときも、別にお化けのことを想像したりすることもない。
だから、二人はそこまでお化け嫌いのことを気にする必要はないのだ。

「だよね。ソウイチの言うとおりだよ。」
モリゾーもゴロスケもうなずいた。
みんなも同じ意見のようだ。

「ううう・・・。」

「あ、そういやあいつのこと忘れてたな・・・。」
みんなはうめき声を聞いて、ようやくシリウスのことを思い出した。

「シリウス、大丈夫ですか?」
コンは心配そうに声をかけた。

「大丈夫なわけあるか!!ライナのやつ、本気でふっ飛ばしやがって・・・。」
シリウスはぶつけたところをさすっていた。

「さっきのは全部シリウスが悪いよ・・・。しつこく脅かすから・・・。」
ソウヤはため息をつきながら言った。

「しかたねえだろ!ソウマがお化け嫌いなんてことしらね・・・。」
すると、急にシリウスは押し黙り、みんなの後ろを指差してがたがた震え始めた。

「な、なんだ?」

「どうしたんですか?」
みんな怪訝そうな顔をした。

「う、後ろ・・・、後ろ・・・!」
シリウスはそれしか言葉が出てこないようだ。
何事かと思って振り向くと、そこには青白いものが3~4つふわふわ浮かんでいた。

「な~んだ・・・、火の玉じゃねえかよ。どうせこれも誰かの仕掛けたやつだろ?」
ソウイチはやれやれといった感じで首を振った。

「ち、ちげえよ・・・。脅かしはオレで最後・・・、他に脅かし役なんかいねえよ!!」
シリウスはやっとのことで言葉を搾り出した。

「え・・・?じゃあ、これって・・・、まさか・・・。」
シリウスの言葉を聞いてみんなの顔はすっと青ざめた。
突如として、その火の玉は青い色に変わり、目と口ができてみんなに襲い掛かってきた。

「ぎゃああああああ!!!人魂だあああああああ!!!」
みんなは慌てふためきその場を逃げ出した。
もうこのサイお化け嫌いのことを言っている場合ではなかった。
あの冷静だったソウヤでさえも、半泣きで走っていたのだから。
肝試しなどで人が脅かしているようなものは怖くないが、心霊現象などの自然的なものはてんでだめなのだ。
みんながそこから逃げ去った後、草むらからヨマワルが顔を出した。

「やっぱり・・・、脅かし役に申請しておいたほうがよかったんでしょうかね・・・。」
今年一番の脅かしは、リングまではなくヨマワルだったようだ。
しかし、そのことは誰も知らない。
 

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[[アドバンズ物語第六十話]]
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