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アドバンズ物語第三十四話 の変更点


&size(20){''ポケモン不思議のダンジョン 探検隊アドバンズ物語''};
作者 [[火車風]]
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第三十四話 宿命の対決! モリゾーVSガブリアス! 後編


まずは例のごとくにらみ合いが続く。
そして、先手を打ってきたのはガブリアス率いる敵集団。
ドサイドンをゴロスケ、ガブリアスをモリゾー、ドータクンをソウイチ、オニドリルをソウヤ、ニドキングをシリウスがそれぞれ担当。
敵一人に対し全員でかかれば早急に倒すこともできるかもしれないが、五人もいたのでは必ず包囲されてしまう。
そこで一対一の勝負に持ち込むことにより、他の仲間へ攻撃が行かないようにしたのだ。
とは言うものの、各々相手に効果抜群な技があるとはいえ、向こうのレベルはソウイチ達をはるかに上回る。
確実に勝てる保障はどこにもなかったが、絶対に勝つという唯一つの思いが、五人の体を動かしていた。

「それええええ!!」

「フン! それっぽっちの威力で勝てると思うのか!?」
ゴロスケはみずでっぽうやどろかけでドサイドンの弱点を突いている。
威力はあまりないが、効果は抜群なのでじわじわとダメージは蓄積していった。
しかし向こうもただでやられるほど甘くはない。
十万ボルトやはかいこうせんなどの大技で、あっという間にゴロスケを追い込んでいく。

(負けるもんか・・・! こんなことぐらいで負けるもんか!!)
体力の消耗は激しかったが、それでもゴロスケはあきらめなかった。
勝ちたい、その一心でふらつく足をしっかりと地面につけている。
一方、ソウイチはドータクンを相手にしていたが、なぜか向こうは一向に攻撃してくる様子はない。
それならばと一方的にかえんほうしゃを浴びせ、ものの数分でドータクン倒してしまった。
拍子抜けするとは思ったが、倒せたことに代わりはないのですぐにモリゾーの援護に回る。

「速さでオレに勝てると思うなよ!」

「そっちこそ、僕を甘く見ないほうがいいよ!」
ソウヤの方は、でんこうせっかと十万ボルトを組み合わせ、空を飛ぶオニドリルを猛追していた。
技を当てるタイミングや位置も正確で、よっぽどのことがない限りは命中させている。
でんこうせっかの速度を利用して飛び上がり、アイアンテールを頭にぶちかましオニドリルの背に飛び乗った。
そして、体に密着した状態で最大パワーの十万ボルトを浴びせる。
もちろん耐えられるはずもなく、オニドリルはあっという間に地面に墜落した。

「だから甘く見ないほうがいいって言ったでしょ?」
ソウヤは目を回しているオニドリルを一瞥すると、すぐさまゴロスケの助っ人へ向かう。
相性的には不利だが、大事なパートナーを援護するのにそんなことは言ってられない。

「おのれちょこまかと!!」

「へへ~ん! こっちだこっち!」
シリウスの方は、得意のあなほり戦法で相手を翻弄している。
その様子を例えればもぐらたたき、実に滑稽と言っていい光景だ。
ニドキングは体が大きい分素早さの面でシリウスに劣り、攻撃もあなをほるでかわされ、かなり一方的な展開となっていた。
が、わざわざ体力を削りたくないシリウスは、これ以上戦うのも面倒なので、大きな穴を掘ってニドキングを落とすことに。
相手にばれないように地面を突き進み、重みがかかれば上が崩壊するよう細工をする。
ニドキングはシリウスを血眼になって探していたため、策略に気づくこともなく落とし穴にはまって動けなくなった。

「どうだ!! オレをなめんなよ!!」
無様な姿をさらすニドキングに吐き捨てると、シリウスはコンの様子を確認するためいったん戦線から撤退する。
気絶しているとはいえ、このまま放っておくわけには行かないのだ。
一方モリゾーとソウイチは、ガブリアスの素早さと柔軟な技の使い方に苦戦していた。

「うぐう・・・!!」

「くっそお!! 早すぎるぜこいつ!!」
ガブリアスのドラゴンクローに押され、二人はひたすら防御に回るしかなかった。
少しでも攻撃するそぶりを見せようものなら、その隙を突いて技を叩き込まれかねないのだ。

「おらおら! オレを倒すんじゃなかったのか!?」
ガブリアスはニヤニヤと余裕の表情をしながら二人をいたぶる。
例え技が不利でも、二人は一歩たりとも引く気はなかった。
とことんぶつかっていき、とにかく少しでも相手にダメージを与えたかったのだ。
ちりも積もれば山となる、さすがにガブリアスも危険を感じたのか、そろそろ決着をつけるべく動き出す。

「これで決めるぜ! ほのおのキバ!!」
ガブリアスは目にもとまらぬ速さでモリゾーにせまり、彼ののど元に食らいついた。
その様子は、モリゾーの父、グラスが戦っていた時の様子を再現しているかのようだ。

「ギギギギギ・・・!!」

「フハハハハハ!! 苦しめ苦しめ!! どうせお前も、親父と同じ死ぬ運命なんだからな!!」
モリゾーはもがき苦しんだが、ガブリアスのあごにががっちりとつかまれており逃げられない。
ガブリアスは高笑いしながらモリゾーを痛めつける。

「てめえ!! やめろこの野郎!!」
ソウイチはガブリアスを遠ざけようと、必死で何度も何度もたいあたりを食らわせる。
さすがにガブリアスも距離をとったものの、あまりのダメージにモリゾーの足元はおぼつかなく、目の光さえも消えかかっていた。
これ以上は体力が限界を超え危険だと判断し、ソウイチはモリゾーを下がらせようとする。

「い・・・やだ・・・。こい・・・つ・・・は・・・、オイラが・・・、倒すんだ・・・!!」
とぎれとぎれになりながらも、はっきりと言い切るモリゾー。
それは、例え力尽きることになっても、父が逃してしまったガブリアスを倒したいという、モリゾーの確固たる意思の表れ。
このまま下がらせてはモリゾーの無念さが残るだけだと思い、ソウイチはモリゾーの意思を尊重した。
そしてガブリアスは、二人の注意がそれている間に一気に片付けようと力を溜め始める。
二人が気付いた頃には、ガブリアスはすでに目一杯力を溜め終わっていた。

「これで終わりだ! りゅうせ・・・」
しかし、技を出そうとした瞬間、ガブリアスの体が大きく揺らぎ、その場にひざをついた。
何事かと思って足元を見ると、なんと足が地面に深く埋まっているではないか。
彼が驚愕の表情を浮かべている中、地面からシリウスがひょっこりと顔を出した。

「へへへっ! オレのことを忘れてもらっちゃ困るぜ!!」
どうやらさっきのはシリウスの落とし穴だったようだ。
コンの様子を確認し終え、いつの間にか戦線に復帰していたらしい。

「ナイス! モリゾー! あとは一気にやっちまえ!!」
ソウイチはシリウスに向かって親指を立てると、モリゾーの方を振り返って叫んだ。

「コンや仲間を傷つけたこと、父さんをバカにしたこと、絶対・・・、絶対に許さない!!」
そして、モリゾーの体からは緑のオーラが立ち昇る。
同時に、森の木の葉がモリゾーの周りを舞い始め、徐々に速度を増していく。

「くっ!! まずい!!」
ガブリアスは何とか足を引き抜こうとしたが、深くはまっているのでちっとも抜けない。
その間に、モリゾーの態勢はすっかり整った。

「いっけえ!! リーフストーーム!!」
数メートルはある木の葉の嵐が、一斉にガブリアスに襲い掛かる。
ガブリアスは防御しようとしたが、無数の木の葉が相手では焼け石に水だった。
あっという間に飲み込まれ、体のいたるところを木の葉が切り裂く。

「ぐおおおおおおお!! ば、バカな!! オレが・・・、このオレがこんなガキに負けるなんて!!」
断末魔の叫びが森中に響き渡る。
嵐が消滅すると、そこには地面に突っ伏したガブリアスの姿があった。
体は傷だらけで、もう起き上がる体力も気力もない。
モリゾーは、父が倒せなかった敵をとうとう倒したのだ。

「やったぜモリゾー!!」
ソウイチは飛び上がり、手を叩いて喜んだ。

「はあ・・・、はあ・・・。やっ・・・た・・・」
モリゾーの目がすっと閉じたかと思うと、彼の体は大きく揺らぎ、そのまま地面へ倒れこむ。
体力をすっかり使い果たしてしまったようだ。

「や・・・、やったよ・・・。父さん・・・。オイラ、あいつに勝てたよ・・・」
ソウイチがあわてて駆け寄ると、モリゾーはその言葉をうわごとのようにつぶやいていた。
気絶したわけではなく、極度の疲労で眠ってしまったようだ。
満足感と達成感に満ちたその顔を見て、ソウイチも自然と口元がほころぶ。

「お疲れさん・・・。あとはゆっくり休んでな。よく頑張ったな」
ソウイチは心からモリゾーをねぎらい、コンのいる木ところまで急いで運ぶ。
ちょうど戻ってきたシリウスに後を頼むと、再びソウヤとゴロスケの加勢に向かった。
実はコン、しばらく前に目を覚まし、モリゾーの活躍を一部始終見ていたのだ。

(モリゾーさん、ありがとう・・・)
声に出すことはできなかったが、コンは心の中でモリゾーに礼を言った。
自分のために、そして仲間のために一生懸命頑張ってくれたからだ。
そんなことはつゆ知らず、コンの隣ですっかり熟睡しているモリゾーであった。

一方こちらは、ドサイドンを相手に戦っているソウヤとゴロスケ。
ドサイドンはじめん技を覚えてはいなかったものの、威力の高い技でソウヤを追い込んでいく。
しか対処法がないだけに、不利なのは目に見えていたが、事態はさらに悪い方へと進展してしまう。
ドサイドンのれいとうビームで、ソウヤのしっぽが凍り付いてしまったのだ。

「ぐうう・・・!!」

「そ、ソウヤ!!」
体の凍結は、一部とはいえかなりの痛みを伴う。
ソウヤは苦痛に顔をゆがめるが、ドサイドンは対照的に勝ち誇った表情を浮かべている。
心のうちで見限ったともいえるだろう。

「ハハハハハ!! でんきタイプがこのワシにかなうものか!!」

「な、なんとかしなきゃ・・・!」
ゴロスケはみずでっぽうを当てて氷を溶かそうとしたものの、予想以上に厚く、なかなか融けなかった。
これ幸いとばかりに、ドサイドンはエネルギーを溜め始める。
チャージが終わりはかいこうせんを放とうとした瞬間、突然ドサイドンは横腹に衝撃を感じ、白の光は上の方へ放たれた。

「な、何事だ!?」
ドサイドンは状況を理解できず辺りを見回す。
後ろを振り返ると、そこに立っていたのは自分よりもはるかに小さいヒノアラシ。

(こんな小さなやつに、ワシは倒されかけたのか・・・!?)
先ほどの技はどう見てもたいあたり。
しかし、じめんいわタイプのドサイドンにここまで衝撃を与えたとなると、よほどの勢いでぶつかったといえる。
その事実を悟り、ドサイドンの顔は青ざめた。

「弟に何しようとしてんだ? タイプで勝敗が決まるなら苦労しねえ。ひっくり返してこそ、勝負は面白みがあるんだよ!」
面白みどうこうの問題ではないが、相性がいいからといって確実に勝てるとは限らない。
完全に硬直しているドサイドンを尻目に、ソウイチはひのこで丁寧にしっぽの氷を溶かした。

「ありがとう、ソウイチ。おかげで助かったよ」
ソウヤは深く頭を下げた。
助っ人に駆けつけてくれなければ、間違いなく自分はやられていただろう。

「気にすんなよ。オレ達兄弟だろ?」
ソウイチは優しい笑いを浮かべる。
それにつられて、ソウヤも思わず笑顔を見せた。

「おのれ・・・! まだ勝負は終わってないぞ!!」
ようやくドサイドンも我に返ったようで、ソウイチ達は上等とばかりに相手を見返した。
すぐさまシャドークローで襲い掛かりるが、三人はいとも軽々とそれを交わし、それぞれの持ち技で攻撃を再開する。
すばやさが低い上の三対一、状況は一変し、ドサイドンが不利になりつつあった。

「まだだ!! まだワシは負けん!!」
いきがる言葉とは対照的に、ドサイドンの息遣いは荒く、動きも鈍くなる一方。
目に見えて疲れが表れ始めたようだ。
その隙を逃さず、ソウイチがかえんぐるまでバランスを崩し、ゴロスケのみずでっぽうで相手を押し倒す。
ドサイドンが立ち上がろうとするところに、回転で勢いをつけたソウヤのアイアンテールがクリーンヒット。
しばらくは無念そうに宙を睨むドサイドンだったが、やがてそのまぶたはゆっくりと下がり、その場に大きな音を立てて倒れこんだ。

「よっしゃあ!!」

「やったあ!!」
全ての敵を倒したと思い、無邪気に喜ぶ三人だったが、彼らは重要なことをすっかり忘れていた。
そう、ニドキングは穴に落ちただけで、まだまだ余裕で戦える状態だったのだ。
自力で穴から這い上がり、憎悪のこもった目でソウイチ達を睨みつけている。
自分より体の小さい相手に手玉に取られたことが、よほど屈辱だったのだろうか。

「ガキの分際で調子に乗りやがって・・・! 目に物を見せてやる!!」
このニドキング、若干頭に血が上りやすい性格なのか、即座にりゅうのはどうの準備を始める。
標的になったのはソウヤ、シリウスでないのは同じピカチュウで、戦闘に手一杯だからだろうか。

「くたばれええええ!!」
ニドキングは怒りに任せてりゅうのはどうをお見舞いする。
ソウヤが気がついたときにはすでに至近距離、ゴロスケも逃げてと叫ぶがもう間に合わない。
目をつぶった瞬間、自分の横で誰かの気配がした。
再び目を開けると、ソウヤがいた位置にはなんとソウイチが立っていたのだ。
自分が身代わりになろうというのだろう。
ソウヤが言葉を発するまもなく、りゅうのはどうはソウイチに直撃し、大地を揺るがすような大音響が響き渡る。
目線の先にあったのは、セカイイチの木に叩きつけられ、力なくうなだれているソウイチの姿だった。

「そ、ソウイチ!!」
ソウヤは慌ててソウイチの元へ駆け寄る。
彼を起こそうと揺り動かしたが、全く気が付く気配はない。
さらに、ソウイチの頭からは、赤いものが筋をなして流れており、ソウヤの手にも付着する。
本当はとがっていた木の枝で切れただけなのだが、取り乱しているソウヤにそんなことは分かるはずもなかった。

「なんで・・・。何で身代わりなんか・・・。こんなときばっかりアニキらしいことしないでよ・・・。バカ・・・!」
いつもはけんかすることが多いが、言葉に出したりはしないものの、ソウイチはソウヤのことを大事に思っていた。
逆も然りで、突っ込みを入れたり皮肉を言うソウヤも、本当はソウイチが大好きなのだ。
泣いているつもりなどなかったのに、両目からは透明の雫がぽたぽたと滴り落ち、赤く染まったソウヤの手を濡らす。
それが、本当の兄弟というもの。

「ちっ!! たかが雑魚の分際でしゃしゃりでやがって!!」
ニドキングは舌打ちした。
ソウイチに邪魔をされ、ソウヤに攻撃を当てられなかったことに憤慨しているのだ。

「黙れ・・・」

「何?」

「軽々しく雑魚なんて言うな!!」
ソウヤは涙にぬれたままニドキングを振り返る。
その目は怒りに燃え、なおかつ見たものの背筋を凍らせるものだった。
大事な兄弟を傷つけられ、バカにされたことがさらに拍車をかけたのだ。

「許さない・・・。ソウイチをこんな目に遭わせるなんて・・・。僕は・・・、お前を絶対に許さないっ!!!」

「黙れ!! 雑魚を雑魚といって何が悪い!! 今度はキサマが同じ目に遭う番だ!!」
泣き叫ぶソウヤに対し、ニドキングはいかにも鬱陶しいという風に顔をゆがめる。
そして、またしてもりゅうのはどうをソウヤに向かって放つ。
だが、ソウヤはニドキングを見据えたまま一歩も動かない。
このままではソウイチも巻き込まれかねないので、ゴロスケは慌ててソウイチをシリウスの元へと連れて行く。
ちょうどたどり着いたとき、光線に呑まれてしまったのを見て、三人はソウヤがやられてしまったと目を覆った。
ソウイチでさえ気絶するほどの威力なのに、ソウヤが無事でいる確率は0に等しい。
ところが・・・。

「な、なんだと!?」
ニドキングはこれまでにないほど青ざめた。
ゴロスケが不思議に思い目を開けると、なんと、ソウヤは平然とその場に立っていたのだ。
体中からは周辺にいる人物をも感電させかねないほどの電気があふれ、ソウヤの怒りの深さを象徴している。
このすさまじい電気が防御壁となり、りゅうのはどうのこうかをなくしたようだ。

「お前みたいな最低最悪なやつは・・・、この僕が倒す!!」
今まで見たことないようなソウヤの表情に、三人は寒気を覚えた。
ニドキングの方も唖然としていたが、ただのまぐれだと思い直し、ヘドロばくだんを発射。
ソウヤはまたしてもよけることなく電気でそれを粉砕。
直後、目にも留まらぬ速さでニドキングに接近すると、彼の目にアイアンテールを打ち込む。

「うがあああああ!!」
ニドキングはあまりの痛みに目頭を押さえ、その場にうずくまる。
しかし、目潰しをしたにもかかわらず、ソウヤは声にならない叫びを上げながら容赦なくニドキングを攻撃した。
あまりの豹変振りに、ニドキングの心にもわずかながら恐怖心が生まれる。
目が見えないにもかかわらず、身の危険を感じてむやみやたらにシャドーボールを連射するが、ソウヤは時に電気で防御しつつ、次々とかわして行く。
一見冷静に技の軌道を読んでいるようにも見えるが、働いているのは思考回路ではなく、兄の敵をとるという闘争本能。
体力やPPを考慮しているわけもなく、文字通り捨て身の攻撃となっていたのだ。
ニドキングが戦意を喪失する頃には、とっくに技は使えなくなっており、通常攻撃のみだった。

「許さない・・・! 許さない許さない許さない!!」
向こうが戦う意志を示していないにもかかわらず、ソウヤは依然として猛攻を続けた。

「た、助けてくれ!! もう勘弁してくれえええ!!」
この狂気の沙汰にはニドキングも悲鳴を上げずにはいられなかった。
それでもなお、ソウヤはかみついたりたいあたりをしたりと攻撃をやめない。
怒りがあまりにも深いため、すっかり自我を喪失していたのだ。

「ソウヤ!! もうやめて!! 向こうも参ったって言ってるんだからそれ以上傷つける必要はないよ!!」
ゴロスケは見るに堪えかね、急いでソウヤを止めに入る。
だが、ソウヤはゴロスケが分からないのか、必死で手を振り解こうとした。

「放せ!! ソウイチの敵をとるんだ!! 誰にも邪魔させない!!」
ソウヤはしっぽでゴロスケをなぎ払い、再び恐怖におののくニドキングを攻撃し始めたのだ。
ゴロスケは、何度も何度もソウヤの手を引っ張ったが、その都度投げ飛ばされ、弾き飛ばされる。
やがて足をひねってしまい、まともに歩くことすらできなくなってしまった。
シリウスはゴロスケを木の近くまで連れ戻し、今度は自分がソウヤを止めに入ろうとする。

「う・・・。ううっ・・・」

「! ソウイチ!」
と、ようやくソウイチの意識が戻り、シリウスはソウイチの容態を確認する。

「心配すんな・・・。これぐらいかすり傷だ・・・」
バンダナの下の傷を見て、シリウス達も重症でないことが分かりほっとする。
しかし、ソウイチはソウヤの狂乱振りを見て愕然としていた。
ソウイチでさえも、あそこまで執拗に攻撃するソウヤを見たことはない。

「僕がいくら言っても、ソウイチの敵をとるって一向にやめないんだ・・・。あのままじゃ、ニドキングだけじゃなくてソウヤも取り返しの付かないことになっちゃうよ・・・!」
ゴロスケはソウヤに近づいたときに、相手から攻撃を受けていないにもかかわらず、無数の傷跡があるのを見つけた。
暴走しているので痛みの感覚がなく、知らず知らずのうちに無理をして、自分の体を傷つけていたのだ。
電気による防御も体力を莫大に消費し、今のソウヤは闘争本能だけで動いているようなものだった。
これ以上戦えば、回復力を超えるダメージを負うこととなる。

「一体・・・、どうすれば・・・」
ゴロスケの心を不安が覆いつくし、終いには目に涙がたまり始める。
ソウイチはゴロスケの話を聞きながらも、荒れ狂ったソウヤを見ていた。
すると、何も障害物がないところで、ソウヤが派手に転んだ。
すぐに起き上がり攻撃しようとするが、狙いが定まらずニドキングには当たらない。

「やべえぞ! このままじゃほんとに取り返しが付かないことになるぞ!!」
シリウスに言われるまでもなく、誰もがソウヤに迫る危険を感じ取っていた。
と、ソウイチは無言で立ち上がり、そのままソウヤの元へと走り出す。

「そ、ソウイチ!! その体じゃ無理だよ!! 戻ってきて!!」
ゴロスケは叫んだが、ソウイチの意志を変えるには至らなかった。
自分がやられた姿を見て、ソウヤは我を忘れてまで戦っている。
あそこまでソウヤを暴走させてしまったのは、自分のせいでもあるのだ。
冷静さを取り戻させるためには、自分がやるしかない、彼はそう思った。

「許さない・・・! 絶対に許すもんか・・・!!」
うつろな目つきになりながらも、ソウヤはひたすら攻撃し続ける。
ニドキングはすっかり恐れをなしていたが、体力自体もなく反撃はしてこなかった。
ソウヤがニドキングのしっぽに噛み付こうとしたその時、すんでのところでソウイチの手がソウヤの肩をつかんだ。

「放せ・・・!! 放せええええ!!」
ソウヤはソウイチのことすらも分からなくなっており、無我夢中で腕を振り解こうとする。
ソウイチはぐっと力を込め、何がなんでも腕を放さないつもりでいた。
しっぽをみぞおちに叩き込まれたり、腕に噛み付かれたりするのは、傷だらけの体には相当こたえる。
それでも、ソウイチは必死で痛みに耐え、無言のままソウヤの腕を放そうとはしなかった。
すると、どこからかきれいな歌声が聞こえてくる。
この歌も、ソウイチとソウヤが人間の時に好んで聞いていたうちの一つだった。
中盤に差し掛かるとソウヤにも変化が現れ始め、ぞっとするような冷酷な目つきは緩み、次第にソウイチから逃れようともしなくなったのだ。
歌が終わると、ソウヤはすっかり元のソウヤに戻っていた。

「そ、ソウイチ・・・?」
ソウヤは目の前にソウイチがいるのが信じられないといった風に、何度も瞬きをした。

「ソウヤ。もう大丈夫か?」

「え・・・? う、うん・・・。だいじょ・・・」
大丈夫と答えようとした矢先、ソウヤの足に激痛が走った。
倒れそうになるソウヤを、ソウイチは慌てて支える。

「いたたた・・・。何でこんなに体が傷だらけなんだろう・・・」
怒りに身を任せていたせいだろうか、ニドキングがソウヤに向かって二度目のりゅうのはどうを放った時から、一切記憶がないのだ。
だが、ソウヤを見て以上に怯えるニドキングから、ソウヤは自分がやったのだと理解した。
ソウイチを侮辱したことが、自分の身代わりにさせてしまったことがどうしても許せなかったのだ。

「さっきモリゾーにも言ったけど、自分を見失ったらそれで終わりだ。相手を必要以上に傷つけるか、自分までも危険にさらすことになる」
ソウヤの話を聞いて、ソウイチは怒ることもなく、穏やかに言って聞かせる。
その言葉は、普段けんかしているときの言葉以上に、ソウヤの胸に突き刺さった。

「だけどよ、オレのために戦ってくれたのは嬉しかったぜ。ありがとう。それから、心配かけてごめんな」
すると、ソウイチはソウヤを引き寄せ、ぎゅっと抱きしめたのだ。
怒られるか、それだけで終わるだろうと踏んでいたソウヤは、一瞬何が起こったのかわからなかった。
しかし、すぐに自分もソウイチを抱きしめる。
みんなに迷惑をかけてごめんなさいと、涙を流して謝りながら。
そんなソウヤを、ソウイチは優しく、ゆっくりと頭をなでた。
二人の様子を見たシリウス達も思わずほっとし、元に戻ってよかったと笑顔がこぼれる。
気持ちが落ち着いてから、ソウヤはあることに気がついた。

「そういえば、さっきの歌はいったい・・・」

「僕です・・・」
突然、木の後ろからレクが姿を現した。
場の雰囲気に恐れをなし、自分だけ隠れて怯えていたのだ。

「本当に申し訳ありません・・・。皆さんが一生懸命戦ってるのに、自分だけ逃げるなんて・・・」

「仕方ねえよ。初めてあんなの見たら誰だってびびるさ」
平謝りするレクをソウイチは責めるつもりなどなかった。
今日始めて仲間になったメンバーだ、戦いに不慣れで怯えてしまうのは当然のこと。
それを聞いて、レクも幾分かは気持ちが軽くなった。

「さ~て、これで依頼は完了だな」

「だね。今度はセカイイチを取らなくっちゃ」
ソウイチとソウヤはうなずくと、バッジでおたずねものをギルドへ全員転送する。
すると、それまで静かだった森が一斉に活気付いた。
悪者がいなくなったことが分かり、ポケモン達もようやく安心できたのだ。
住人達は口々にお礼を言い、ハネッコが代表してソウイチ達にお礼を贈呈する。
だが、ソウイチは半分しか受け取らず、その代わりに、セカイイチを持って帰ってもかまわないかと聞く。
彼らは喜んで許可してくれ、まだ動けないモリゾーとコンを除き、早速四人で収穫を始めた。
あの時はドクローズが食べつくして緑一色の木だったが、今はところどころからおいしそうな匂いが漂い、赤い点がアクセントとなり木を彩っている。
収穫が終わると、彼らは拾ってあったオレンの実を食べ元気を取り戻すと、住民に盛大な見送りを受けながらギルドへと帰って行った。

「お~い! ぺラップ! どこだ~!?」
ギルドに着くなり、ソウイチは大声でペラップを呼んだ。

「ちょ、ちょっとちょっと! そんなに大声出さなくてもいいよ!」
あまり騒がしくしては迷惑だと思い、ソウヤはソウイチの腕を引っ張る。
だが、意に介す様子もなくソウイチは大声で呼び続けた。

「うるさいね!! 一体何の用だい!?」
しつこく名前を呼ばれ、ペラップは相当ぴりぴりしていた。
ソウイチは何も言わず、大きな袋を彼に差し出す。

「ん? なんだこれは?」
中を覗き込んで、ペラップはあっと声を上げた。
袋の中には数か月分はありそうなセカイイチがぎっしりと詰まっていたのだ。

「どうだ? 今度こそ成功させたぜ! これでもう悩む心配もないだろ?」
ソウイチはにやっと笑ってみせる。
ぺラップは感動で胸がいっぱいになったが、涙を見せてはみっともないので、あくまでも冷静を装った。

「すまないな・・・。本当にありがとう」
ペラップは袋を持ち上げ、うきうきと食料庫へ運んでいく。
短い言葉だったが、ソウイチ達にはどんな長い感謝の言葉よりもすごく嬉しい実感が沸くものだった。

「喜んでくれてよかった」

「うん。元気になってほっとしたよ」
ソウヤとゴロスケも顔を見合わせ、思わず笑顔になる。

「でも、また明日からうるさくなりそうだぜ?」
シリウスはニヤつきながらソウイチの横腹をつつく。
本音ではなく、単なる冗談だ。

「上等だ。そのほうがこっちも元気が出て助かるよ」
冗談とも本気ともつかない言い方だが、彼の笑顔からして、心からそう思っているのだろう。


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[[アドバンズ物語第三十五話]]
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ここまで読んでくださってありがとうございました。
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