作者[[GALD]] ---- 外で鳥ポケモン達の声が響く朝で、俺はに爆睡していた。 朝の生暖かい日差しが、天窓から差し込んでくる。 起きているのに、なんだか布団から出る気にもなれず、いつも布団から出ない。 ただの寝坊さんなだけなのだが、要はもっと寝ていたい。 「いい加減に起きなさい。」 ドアをノックせずに、1匹のポケモンが堂々と入ってくる。 この時間に起こしに来るなんて彼女しかいない。声だけでもわかるが、パターンで察しがつく。 とりあえず起きないことには電撃のモーニングコールが襲ってくる、それだけは避けたいのだが、反面寝ていたいという気持ちも強くある。 「本当にさっさと起きないわね。」 彼女はすぐに力ずくに行動する。今日も例外ではなかった。 そのまま、足音が近づいてくる。そこから床を軽く蹴り俺のいるベッドに飛び乗る。 耳元で、パチパチパチィと発電してる音が響いてくる。 次の瞬間、俺の体中を少量の電流が流れ、悲鳴を上げざるえなくなるのは、言うまでもない。 響く悲鳴に満足そうに彼女は降りて来いと一言残して、足音が遠のいて行く。 体が少しはピリピリするが、また来られて流されてはさすがにもたない。 痺れて鉛のように重い足を引きづりながら階段を下り、リビングまで地を這うのを覚悟で目指した。 「やっと、起きてきたわね。朝からしっかりしなさいよ。」 階段を降り切ると、そこには黄色いきれいな毛に、チクチクしてそうな逆立ち、首のまわりだけ白い毛をしている、サンダースが座っていた。 見かけによらずツヤツヤなのだが、触りすぎると怒るし、異性というのもあるので、最近は少し控え気味だ。 「おまえもう少し人を、丁寧に起こす気とかないのか?」 力任せなのは性格だからと分かっていても、電流を流されて何も言わないわけにもいかない。 俺が騒いだ所で心を改めるなんてことはしないの目に見えている。 「起きないあんたが悪いんでしょ。」 一言俺にざっくり刺すと、反省の色のない涼しい顔をしている。 とりあえずは俺も所定の席に座って、朝食が出てくるのを待つ。親が台所で調理をしている後姿を眺めて暇をつぶす。 直接鼻に流れ込んでくる料理の匂いが、朝の空腹を駆り立てて、見ているだけの俺をせかしてくる。 けれども、朝から頑張ってくれている親に文句を投げるわけにはいかない。その中で気長に待つことしか許されない俺を、食欲が煽ってくる。 なんとか食欲を耐え忍んでいると、調理を終えて母が盛りつけた皿を目の前に並べる。 「また起こしてもらってるみたいね。まったく、いい加減に新しい生活に慣れなさい、聞いてるの?」 親の話なんて二の次で、俺は食器に手を伸ばして盛られた食事に食らいついた。 親は呆れた顔で、床で律義に座って待っているサンダースの前に朝食を置く。 「毎朝御苦労様、フィリア。あの子の世話ばっかりごめんなさいね。」 朝食を大人しく食べるフィリアの頭を母は撫でている。 「そう、ソルマ、実は頼みごとがあるのよ。港まで迎えに行って欲しんだけど。」 まともな話のようなので、俺は食事の手を止めて母の方を向く。 「構わないが、あそこは一度しかいったことがない。しかも、徒歩だと数日間はかかるぞ。」 俺達がこっちの地方に引っ越してきたときに利用しただけで、はっきりと歩いてきた道を覚えていない。ただ不安になるぐらい森の挟まれた道を延々と歩いたのは、記憶にはっきりと刻まれている。 「大丈夫よ、地図と宿泊代ぐらいは支給するわ。」 特別断る理由もなく、数日家を俺が離れたぐらいで死傷が出ることもなかったので、素直に引き受けても良かった。が、あの気の遠くなる距離を歩きたくはない。 それなりに俺は反対の意を述べて、避けようとした。 しかし、母もすんなりと引き下がってくれるわけがなく、上手くこちらに押し付けようとしてくる。 結局俺は引き受けてしまい、今度は支度をするために自分の部屋に戻ってあれやこれやと、必要そうな物を詰め込んだ。 周りから見れば明らかにいらないだろうと思うようなものを入れたつもりはなかったが、背負ってみると重たさにいらない物を入れすぎたかなと感じてしまう。 それから母に地図とそれなりにやり過ごすための現金をもらい、準備は完了した。 「それじゃ、頼んだわよ。」 「家の事は任せる。行くぞ、フィリア。」 冒険に出るわけではないが、それなりの旅になることを想定して色々詰め込んだリュックを背負って玄関を出た。 玄関から出て出発を見送る母に、背を向けたたまま腕をあげて手を振り家を後にした。 出発してから何時間かの時を過ごした。最初は調子が良かったものの、進展のない風景ばかり続くので飽きが生じて、やる気がどんどん削られていった。 地図を見ても数時間を消費しているにも関わらず、途中の町までもまだかなりの距離を残している。 話題も最初はまともに成り立っていたが、段々互いの反応がそっけなくなっていき、今はほぼ沈黙状態である。 この窮屈さに耐えかねたのか、フィリアの口が再び動いた。 「で、まだ聞いてないんだけど、誰を探せばいいのよ?」 「言わなかったか?知らない、いけば分かるとだけ言われた。」 「そういう大事な事は先にいいなさいよ。しかも知らないって、適当ね、全く。」 適当と怒られても知らされていないのだから、俺は答えようがなかった。彼女の機嫌を損ねたのは問題事の種になりそうだが、変に誤魔化しても後々知られるだろうし、そっちの方が問題事が大きくなりそうで怖い。 フィリアが不満なのも分かるが、俺自身も十分不満である。ならどうして引き受けたのか、と彼女に再度激怒されそうなので、あえて口にはしない。 「どうやって探すつもりよ?」 「分かるって言われたしな。俺の知ってる誰かだろう。」 「そうでなきゃ、見つかるわけないでしょ。」 当たり前の事をいって、フィリアにストレートに打ち返される。 彼女の言う通り、知らない相手を何の情報も無しに探し出すのは、至難の業の領域だろう。 仮に流石にそんな無茶な要求をされても、俺は探偵でもないし、フィリアも超能力が使えるわけがない。出発した時点で、目的を達成することが不可能である。 そんな成功するか暗い目的を、達成条件にして俺達を向かいにやることはないと信じたい。 とりあえず、俺の中では面識のない相手というのは候補から外れていた。 「お前は誰だと思う?フィリア。」 彼女から知るわけないでしょと、正論が跳ね返ってる。しかし、正論の投げ返し方は、彼女のイライラの詰まった口調でである。 先頭を背を向けたままスタスタと歩いて行く後姿からは、怒り一色のオーラが見える。下手に踏み込んでも、撃沈するのが目に見えているが、放置しておいては彼女の機嫌の悪化を止めることはできない。 出発してから早々この調子では先は辛く思えるが、初期段階であるからこそ、互いの関係を保っておきたい。 それを意識しすぎてが、俺は慎重に言葉を選んでは駄目だなと、選んだものを並べて出来上がる一言に満足がいかない。 ああでも駄目、これもよくないと、結局有効そうな言葉は謝罪類のものだけしか思いつかなかった。 だから、俺はフィリアの前に立ち塞がって行く手を阻むと、素直に謝罪を一言述べた。もちろん、いい訳や余計な言葉で飾らずに、そのまま。 以外にも、彼女は誤ってもらえれば気は晴れたらしく、以前と背を向けたままではあったが、ちゃんと受け答えはしてくれる。 気分の重い空気は払いのけられて、移動速度も順調、このペースをキープしていければ、中間地点であるノーリットまでは予定通りに到着できるだろう。 夜間を移動するには危険度も増し、視界も悪くなるため、日が沈むまでには町に入っておきたかったが、心配はいらなさそうだ。 町に到着できれば夜間の移動を避けるために、一夜宿を過ごす算段だ。 「このまま行けば、夕方までには着けそうだが、大丈夫か?」 俺は気を配って、ベルトに装着してあるボールを一つ手に持ってフィリアの視界に入れる。彼女が休憩したいなら、立ち止まって時間をとっても良かったし、疲れたから戻りたいのなら、ボールに回収して俺が持ち歩くつもりだった。 けれども、自分の事を心配しなさいと強気な返事が返ってくる。俺は付き合って時も長いので、フィリアなりの心の気遣いの表れなのは分かるが、いつも言葉が尖っている。 俺も特段体調が優れないわけでもないので、歩く速度を乱さず着々と前に進行していく。快調に進んでいるとは言え、俺は人間でフィリアはサンダース、彼女にとってはこちらに合わせて歩いているため、遅いと感じているかもしれない。 現に、俺はフィリアの後方を歩く形を取っている。正確には追いかけているが当てはまるだろう。 相手が調整していても、こちらはついて行くのにやっとである。それなら走るのも一つの策かもしれないが、体力の温存などを考慮すると、現状を維持することが無難だ。 こうやってフィリアの背を追い続けて歩いてきたが、改めて地図を見てみると俺達の暮らしている町ネイトからは随分離れた。 今回は海岸沿いに発展した港町ハーボッシュに行くことである。飛行タイプなど移動する際に背に乗せて飛んでくれるなど便利な能力があれば、一日もかけないで済むかもしれないが、俺の手持ちには個人の移動能力がたけている者はいても、俺自身を乗せれるような巨体なものはない。 だからどうあがいても、数日間は必要としてしまう。一体そこまでして迎えに行く価値があるのか、そもそも誰に会えばいいのか分からないのに、本当に頼みごとにしては投げやりな内容である。 愚痴をこぼしてもよかったが、下手な発言をすればまたフィリアの気に障ったり激怒されかねないので、言葉に配慮しながら地面を踏み続けた。 時が流れて、太陽も西に傾いており、時刻は昼間を過ぎたぐらいだ。途中には休憩も挟んで慎重に進んではきているため、壁にぶつかることなくここまでこれている。 しかし、疲労の蓄積だけは避けることが出来ない。足もちゃんと休ませているのに、少しづつ上がりにくくなっている。 肩も荷物からかけられる体重のせいでだるくなってきている。 そんな中で進行速度が落ちるのは仕方がないのだが、フィリアにせかされ体に鞭を打っている。この調子なら明日はひどい筋肉痛にみまわれるだろう。 不満の一つや二つ投げつけてやりたい所だが、変な所に元気を使いたくないので、とりあえず意地で足を引きずる。 両サイドで道を挟んでいる木々は永遠に続いて、同じ風景ばかり続く迷宮の中をむやみに彷徨っているような、進んでいる感覚を感じさせず俺の気力を削っていく。 体力と精神力の両面での戦いを強いられながらも、依然とペースは駆け出しに比べれば劣るものの、極端な低下に陥ることなく継続できている。 木々の影は自身よりも大きくなり道を黒く侵食し始め、夜を迎え入れる体勢が整っていた。 不気味な空気が漂い、不安を煽ってくる。その薄暗い中で、カモフラージュでもしているのか、黒い物体がどこからとなく地面から浮かび上がる。フィリアも気配を感じて足を止めて、謎の物体を睨む。 頭は白く黒に目立つが、他の部位はほとんど黒に染まっており、赤い線が首元を一周している。 そして、青白い冷たい瞳に俺の姿を写した時に、俺に悪寒がした。自分でもはっきり口で説明できるわけではなかったが、不味い、その一言に尽きた。 「フィリア、逃げるぞ。こいつは相手にしない方がいい。」 「何言ってるの?そんな風には感じないけど。」 元気を闘志をあり余らせているフィリアに、俺 の命令が行き届くはずがない。 歩いてばかりで退屈していたのか、体格的にもいまいちな相手を肩慣らしにでもする気でいる。 体の周りに電気を纏い、フィリアはやる気を剥き出しにしている。 威嚇に電気をあえて相手をそらして、フィリアは電撃を放つと狙い通りに砂利を弾く。しかし、相手はフィリアの挨拶に腰が引けて逃げる様子は微塵もなく、沈黙を保っている。 「全く、やる気あるのかないのかわかんないわ。とりあえずこっちから行くわよ。」 駄目もとで一言俺が飛ばした時には、フィリアの体内に蓄積された高圧電流が相手めがけて襲いかかる。 対して今まで反応を見せなかった相手だが、初めて雷撃に反応を見せる。細い右腕を迫りくる雷撃に向けると、黒い波が手を中心に半円状になって電撃にぶつかる。 双方の攻撃がぶつかり合い、均衡の中の力比べになると思えばすぐに崩れ出す。 相手の方がフィリアよりも威力が高く、電撃は簡単に押し負けてしまい、多少の威力は軽減されているものの、黒い波動にフィリアは押し流される。 しかし、サンダースといわれる種族だけあって、物理的な攻撃でなければ耐性は備えているので、威力の軽減した悪の波動を受け止めて体勢を立て直す。 「勝てる相手じゃない、退くぞ。」 フィリアの目には相手の姿が写っているだけで、逃げる気は欠片もないようだ。肉弾戦よりも遠距離戦を得意とするフィリアにとって、遠距離戦で劣る以上勝機はかなり薄いと言える。それでも負けず嫌いな性格のせいで、一層闘志が燃え上がっているようだ。 相手もこちらを敵と認識しているので、気長に待ってくれるわけもなく、再度同じ攻撃を繰り出す。 フィリアには何の策も無く、ただ全力で10満ボルトを放つ。今度は波に衝突した瞬間、簡単に弾かれてしまい、威力の低下すら期待できないまま押し合いに負ける。 俺自身もこれはまずいと思ったのか、反射的にフィリアの前に立ち塞がりかばう姿勢を取る。 そして、体が不気味に黒紫に鈍く光ると、慎重がぐっと縮みフィリアと視線の高さが同じぐらいになる。 全身を黒い毛で覆い、そのため一層気味悪く光る黄色い円状の模様が目立つ。ブラッキーの姿の俺は禍々しい波をフィリアの前で受け止め難無く耐えてみせる。 フィリアが何か言っているが耳に入らず、俺は次の行動に移る。地面の軽く蹴って砂を相手に飛ばし、視界を僅かに遮る。 その瞬間に影分身で俺の残像を生みだし相手を囲む。相手には砂掛けで一時俺を見失っているので、相手には俺の正確な位置がつかめない。 慌てる様子は見れなくとも、相手はどこから来るか様子を窺っている。相手が攻撃する気配がないので、更に俺は黄色い輪を不気味に光らせる。 この光が目つぶしとなり流石に目を閉じて腕で目を守る。このタイミングが唯一のチャンスだった。 「逃げるぞ、フィリア。走れるだろ。」 流石に自分ではどうにもならない事を受け止めててはいるが、フィリアは認めたくないために悔しげに背を向けて走り出した。 俺も続いてフィリアの背中を追う、だが相手だって背を向けている敵に追い打ちをかけないほど甘くはない。 視界を取り戻すと、すぐさま俺達の背中を確認し小さな紫色の球体を両手で形成し、絶え間なく俺達に乱射を仕掛けてくる。 しかし、それは相手の視界での映像であって俺達を正確にとらえてはなっているわけではない。怪しい光の効果によって混乱した目で俺達の存在位置を捕えることができず、俺達から見ればただ乱射しているだけである。どれだけ打っても地面に直撃して砂煙が舞い上がるだけで、その中に見える俺達の影は錯覚である。 黒い不気味なポケモンが正常な目に回復した時には既に俺達は逃走に成功していた。 「何とか逃げ切れたな、全くたまには言うことぐらいきけよ。」 夕暮れで人の気配もなく、どこまで進んできたのか目印もなく、とりあえず逃げ切れたこと以外情報はない。 足を止めて力を抜くと、再び俺はあるべき人の姿に形を変えた。いつからかは忘れたが、知らない間に自分でも得ていた能力、しかし人前では使いたくないものであった。 非科学的で原理もわからない、こんなものを人前に持ち出せば当然まともな扱いを受けることになる。 実際誰にも披露せずに、隠し芸のように持っていた訳であったが、予想外の形でのお披露目となった。 フィリアも初めてで目の前の出来事が理解出来ずに、俺を睨んでいたが人間の姿にもどって俺と言う個体の存在であることを確認する。 「ちゃんと説明してもらうわよ。まず、なんであんたがそんな便利な体なわけ?」 「俺もそれが知りたい。心あたりが全くないものでな。だからと言ってこんな格好を見せびらかすわけにもいかないだろ。」 再び俺はブラッキーへと姿を変えると、それもそうねとフィリアは納得する。 この格好でフィリアとの視線が同じくらいの高さで逆に違和感を感じ、話しづらいので元に戻る。 「どのくらい戦えるのよ?」 「今日が初めてだ。技の練習は隠れて遊び半分に練習したぐらいで、実戦で使ったことはない。」 フィリアにとってこれは悔しいものであった。いくら逃げて戦わなかったとはいえ、強敵相手に逃げる隙を作らせてしまうのだ、しかも初陣で。 経験のあるフィリアの方が前に立って当然の存在であるはずなのに、自分が歯が立たなかったことが自分の無力さを一層責めた。 「もういいわ、さっさと行くわよ。」 怒りを研ぎ澄ませて俺に言葉を投げると、フィリアは勝手に歩きだした。 「俺が黙ってて悪かった。それは謝る。」 黙ってフィリアは先を進む、振りかえらずに淡々と足を前に出す。 夕闇の中をフィリアは戦闘をすたすたと、俺はうつむきながらその後ろを歩いた。 申し訳ないと責任感に押しつぶされそうだった。ここまでフィリアの事を気にしたことは、知れた長さとはいえ人生で初めてだろう。 今夜中に解決策を見出さないと明日からは一層気まずくなる。しかし、俺の手元には最良の策どころか、打開の可能性を少しでも秘めたものは何一つない。 沈黙を守って集中して考えるも、何故か集中できず落ちついて歩くことすらままならない。 フィリアの怒りに俺は動揺してしまっていて、焦りを重ねて思考一つまともに練り上げれずいた。だからフィリアの心は今は怒り一色だと勝手に判断して、実際のフィリアの心境を察せなかったのではなく、察そうとしなかった。 足だけを動かす作業を続けていくとようやく、ノーリットの影が遠くに見える。 町に入ると就寝の時を迎え、辺りは静まり返っている。俺達も寝泊まりするために町にある有名な施設を探す。 目立つ色合いでできた建物はすぐに見つかり、俺は不機嫌なフィリアを連れて中に入る。ポケモンセンターと呼ばれるこの施設は、宿泊ができることから旅人には重宝されている。 都市部や交流の盛んな場所なら混んでいたりするのだろうが、あいにく田舎近隣の町では込み合うどころかガラガラ。 受付で選べる部屋の多さにすこし迷い適当に部屋を取るとフィリアを連れて部屋に座り込んだ。足の筋肉が動けないと重たく訴えかけてくる。 荷物をおろし座り込んで一息着いたのはいいが、これでは俺が立ち上がれない。今から色々と大事な話をしなければと言う時に、こんな調子では先も暗そうだ。 「いつまで怒ってるんだよ?別に隠してたくて隠したわけでもないんだしさ。」 依然フィリアは口をいくつもりはないようで、耳を傾けているのかすら微妙な所。 「お前に会う前だっけな、記憶にはないんだが俺は体をいじられたことがあるらしい。まぁ、人体実験って言えばわかるだろ。」 おれの話している中、フィリアは歩き回り窓の前に落ちついて、背を向けて座る。 長い耳から俺の言葉をちゃんと受信してくれているようで、無言というより大人しく見える。 「助けられてから別に何事もなく、医療関係の試験も受けたが異常はなかった。だから大丈夫なんだろうって思ってた。けどある日だ、なんだか変な感じがして、説明しにくいんだが試してみるとあら不思議って感じでな。まぁ、ブラッキーになっちゃったってわけだ。」 不明瞭な点が多いが、俺だって知らないものは説明できないし、空想で変につけ足して語るのも良くはない。 一通りを説明し終わるとまた部屋は静かになる。時間だけが俺とフィリアに共通して接してくるだけの空間。 「今まで黙ってたのなんてどうでもいいのよ。私は…」 声から見れないフィリアの顔がどうなっているのか俺は安易に推測できた。 フィリアが心配してくれている、それをしみじみと感じる一刻。本当によくフィリアに言われるように馬鹿だと自覚せざる得ない。結局表で彼女を分かった気でいただけで、実際の所は彼女自身の事を知ろうとしなかったのだから、当てにされてないなんて言葉をぶつけられても仕方がないのに、俺はそれを勝手にぐれてるなんて子供みたいな発想を持ってしまった。過去にあったことの大半はそうであるかもしれないにしろ、今までそうやって何度かは傷つけてしまったのかもしれないと思うと、自分がとても情けなく見てとれた。 「悪かったな、お前をあてにしなくてさ。」 振りむけないフィリアはその場で動くことなく、俺はそっとしておいて電気を消した。 俺は敷いておいた布団に横になる。フィリアは敷いてある別の布団の上で丸くなり、睡眠をとる体勢に入った。 俺は敷いておいた布団に横になる。フィリアは敷いてある別の布団の上で丸くなり、睡眠をとる体勢に入った。 明日もまた長距離を歩いていかねばならないので、速く寝ることにこしたことはない。けれども、心配事が俺を睡眠から遠ざけて、歩いている時は疲労を感じていたものも今だ健在であるが、どうも寝付けない。 「起きてるか?」 時間を持て余しているから話し相手がほしかったと言えば嘘になる。心配事が俺を騒ぎ立てて、自分にそんなことはないと暗示をかけても、不安が再発する。切っても切ってもきりがない不安に、俺は沈黙しながら抵抗していたが、とうとう口を動かして降参してしまった。 「何よ、馬鹿。電気消したんだから寝なさいよ。」 確かにフィリアの言う通り、自分で寝る雰囲気を作り出しておいて自ら背いては示しがつかない。改めて俺は蒲団に潜り直し再び巣今の世界への旅立ちを試みる。機能を停止させ、焦点が分からないぐらいぼんやりする程度の思考に切り替える。 「何で急に黙るのよ、要件をさっさと言いなさい。」 指摘されたから居直ったのだが、それがフィリアにとっては変に寸止めされた感じがして気に喰わないようだ。 「まだ怒ってるのかなってさ、ちょっと気になっただけだよ。邪魔したな。」 「何に対してよ?」 「今日の一件だよ、流石に一日で忘れましたなんてこともないだろ。」 あぁ、とフィリアはただ俺の言葉にきわどい反応を見せる。ちゃんと俺の言葉を聞いて意味を理解したのか、それともただ俺の声に対して相槌を打っただけなのか。この先に来る答えが気になる俺にとって、後者は避けがたいことであった。ましてや、後者であって気にせずにフィリアにこのまま寝られてしまったら、たぶん俺は先が気になって朝まで苦悩に見舞われるだろう。 「それなりの事は覚悟しなさいといいけど、今日は疲れたし、許してあげる。感謝しなさい。」 前者であり期待を言意味で裏切ってくれるフィリアの返答に俺は安心すると、今まで忘れ去っていたかのように疲れが暴れ出して眼が自然に閉じてしまった。 けれども意識がうっすらとして眠っている感じとは違う。 僕は誰だっけ、あれ僕って何か違和感があるような気がするけど別にいいかな。 周りの景色がぼんやりと見え始める。視界に入ってきた光景は、そこらじゅうわけのわからない装置に囲まれている。変なランプが点滅していたりへんなラインがいっぱい光っていたり、目に害でしょうがない。 その光景を僕はガラス越しに目の当たりにしている。水中の中で身動きが取れず、ただ害になるその風景を見続けることしかすることがない。 口には何かが取り付けられていて、それが生命線になって僕はこの中でも生存が可能になっている。 「今日はどうだったの?」 光るランプに照らされながらもはっきりと見えないもやもやの塊が話しかけてくる。どこを見ているのかさっぱりだけど、僕に話しかけているのだろう。 「無理だったよ、僕じゃ駄目なんだ。もう、僕も用済みになっちゃうんだよ。みんなとはお別れだ。」 自分でも何を意図して発言しているのかさっぱり分からない。まるで決められたセリフを与えられていてそれをただ喋っているようだ。 「そう…やっぱり無理なの…」 「姉さんは大丈夫…じゃないよね。僕がこれだもの、次はきっと…」 「大丈夫よ、何者かが侵入してきてるの。貴方にはきっと希望になるかもしれない。御免なさい、これしかもう選択がないの…お姉さんとは私が上手くやるから…御免なさい。」 何故自分が謝られているのかわけがわからない、そもそも自分がどういう境遇に置かれてこうなっているのかさえ全く掴めていない。 ただもやもやした存在の声がさみしげになっていって、最後には涙まで混じっているようにさえ聞こえてしまうほど弱くなっている。 そんな理由を考えようとしたところで、僕には猶予が残されていないようだ。意識がだんだん薄れて体が分解されていくような感じがする。僕の体が引きちぎられるような痛みもしないのに、ばらばらになって力が抜けていく。 死んでしまうと言うよりも僕は消滅するという単語が当てはまっているように思えた。みんな、さよならと最後に口にしたけど誰かに聞こえたのか、それは記憶にない。 俺は目を開けた。たまにみる気味の悪い夢をまた見てしまっていたようだ。性質の悪いことにいつも同じ中身ばかりみせられてしまい、自分が消えてしまうような感覚が身にしみつきそうだ。 更には起きてから自分が最後消えるところ以外はっきり思い出せないので、一層俺は気分が悪くなる。 けれども気分が落ちつかないからと言って、起きていたままでは俺の体は回復してくれないし、明日にも影響が出る。内容もはっきりとしない物を考えても意味がないと、俺は無理やり布団をかぶり直して頭のスイッチを切った。 [[次回>もう一つの自分-2]] ---- ソルマ「色々変わってるらしいけど、何がなんだか…」 フィリア「知るわけないでしょ、馬鹿に付き合わされる機会が増えた私の身にもなりなさい。」 ---- #pcomment IP:211.120.160.136 TIME:"2011-11-17 (木) 21:11:58" REFERER:"http://pokestory.rejec.net/main/index.php?cmd=edit&page=%E3%82%82%E3%81%86%E4%B8%80%E3%81%A4%E3%81%AE%E8%87%AA%E5%88%86-1" USER_AGENT:"Mozilla/4.0 (compatible; MSIE 7.0; Windows NT 6.0; GTB7.2; SLCC1; .NET CLR 2.0.50727; Media Center PC 5.0; .NET CLR 3.0.04506)"