ポケモン小説wiki
たった一つの行路 №295 の変更点


 サクノは息を乱して、正面をじっと見据えていた。
 隣には剣をついて、息を大きく乱しているルカリオの姿がある。
 その目線の先には、先ほど気合玉を繰り出して、打ち倒した相手がいるはずである。
 しかし、気合玉の爆発のせいで、今は煙で状況が読めない。
 ルカリオが波動を感じ、サクノより一歩先に動いた。

「(来た!)」

 ルカリオと反対方向に動いて、水攻撃を回避する。
 同時に姿を現したのはミロカロスと長い髪のポニーテール、グレーのジーンズに黒のランニング、耳に髑髏のピアスをした180センチの不良っぽい男。
 年齢は20代前半だろう。
 水攻撃を撃つミロカロスにルカリオは剣を振るって切り払いながら接近していく。
 そして、剣に闘気を集め、ミロカロスに切りかかった。

 ガキンッ!!

 ミロカロスが尻尾で剣を防ぐ。

「『まもる』だ」
「そう……みたいね!」

 ガガガガガッ!!

「!!」

 攻撃を防いだと確信していた男だったが、一撃はルカリオの『フェイント』だった。
 すぐさま、骨の剣と闘気で作った骨の二刀流で『ボーンラッシュ』を叩き込む。
 最後の一発でミロカロスを蹴り飛ばし、一つに剣を集中させる。

「エンプ、『Soul Blade』!!」
「一匹ばかりに気をとられているんじゃねえぜ」

 ハッと後ろの気配に気付き、後ろを見ずに即座に横っ飛びした。
 ハクリューの冷凍ビームはサクノには当たらない。
 ただし、その延長線上にいるのは、ルカリオであり、攻撃が背中を掠める。

「ミロカロス、『渦潮』!!」

 ルカリオの足元から、巨大な渦潮を発生させて、動きを鈍らせる。
 最大の技、Soul Bladeは接近しないと威力を発揮しない。
 その間にハクリューがミロカロスと合流する。

「アンジュ、援護して!」

 出た直後から炎を纏わせているからわかりにくいが、体にはダメージの後が伺える。
 相当激しい戦いの後なのだろう。

「ハクリュー、ミロカロス、行くぜ!」

 2匹はコクリと頷く。
 ミロカロスが水の波動と凍える風を発動し、ハクリューは流星群を打ち出す。

「くっ!『Flare Drive』!!」

 ブォォォォッ!!!!

 炎系最大の技と竜氷水の合成技が激突し、凄まじい烈風が巻き起こった。

「アンジュっ!?きゃぁっ!」

 ウインディとサクノはその風で吹き飛ばされる。
 その一撃でウインディはダウンしてしまう。

「必殺『天の川』。綺麗な星は見れたかよ」

 そう言って、男は人差し指をサクノに向ける。

「レックウザ、ハガネール、アーボック、ライボルト……ここまですべて倒して俺を追い詰めたヤツは、俺が生きていた中でもそうは居なかったぜ。さすが、俺と同じ種類のバイクを乗っているだけのことはあるな」

 そうして、余裕で煙草を口にくわえて、一服する。

「はぁはぁ……油断しすぎよっ!!」
「……なっ!?」

 神速で回り込み、全身全霊を込めたソウルブレード。
 ミロカロスとハクリューを一掃した。
 ハクリューは一撃でダウンしたが、ミロカロスは持ち直して、ハイドロポンプで反撃する。
 聖なる剣で攻撃を抑えるが、それも持ちそうにない。

「そのまま『波動弾』!!」

 剣を持ったまま強引に砲弾を打ち出した。
 ルカリオは吹っ飛ばされるが、その砲弾でミロカロスも吹っ飛ぶ。

「チェンジ!『Lighting』!!」

 ルカリオをボールに戻し、先制攻撃技の電光石火でミロカロスを感電させた。
 そして、ミロカロスは倒れた。

「……っ!……やるじゃねえか」

 すべてのポケモンを倒された男は、フッと煙草の煙を吐きながら、不敵に笑う。
 すると、男が徐々に粒子になって消えていこうとしていた。

「これは同じ種類のバイクではないよ。同じバイクなのよ」

 サクノがふと呟くと、彼は驚いたように目を丸くした。

「これはSHOP-GEARの片隅に置いてあったあなたのバイクよ」
「SHOP-GEARだと!?お前、その関係者だったのか!?」
「社長……カズミさんが教えてくれたの。このバイクの持ち主は自分の信念を曲げないカッコイイ男が乗っていたって」
「カズミ……あのラグナフェチか」

 ぼそりとサクノに聞こえぬように呟く。

「そうか。じゃあ、俺のバイクを改めてお前に託す。しっかし、8年……いや5年後くらいだったら、俺がデートに誘ったりしてイロイロ教えてやったのにな。実際モテるだろ?」
「……んー?そうではないと思うけれど」
「そうか?正直に言っても、可愛いと思うぜ?本当にナンパされたことはないのか?」
「ないです」

 さっくりと答えるサクノ。
 これをビリーやカツキ、その他サクノに関わった大勢の男の子たちが聞いたらなんと言うだろうか……。
 それを見てぷっと吹き出す。

「どっちにしても、俺には好きな人が居たからな。どっちにしても、天然で純情そうなお前には関わってはいけないな。もし好きな人ができたら、そいつを大事にしてやれよ」
「え?はい……」

 そうして、彼はサクノの頭を撫でながら、その姿を消失させた。

「『王侯の潰し屋:バン』……手強かった……それにしても……ふぅ……」

 一息ついて、ライチュウをボールに戻し、その場にへたり込む。

「一体どこまで進めばいいの……?」

 バンとの戦いが終えると、怪しげな基地のフロアから、普通の洞窟に背景が戻っていった。
 そして、洞窟はまだまだ奥へと続いている。



 たった一つの行路 №295



 キッカケは2週間前のことだった。

―――「実は、あなたの父親がカゴメタウンで目撃されたって噂があるの」―――

 カナタの母、カズミからもたらされた情報だった。

―――「そこで誰かを探して聞き込みしていたようなの。どうやら人探しをしているみたい」―――
―――「……人探し……」―――

 一体誰を探していたのだろう?
 サクノは疑問に思い、適合する人物を思い浮かべようとするが、まったくできない。

―――「私もそっちに行くわ」―――
―――「え?カズミさんが自ら?」―――
―――「ええ。私もあなたの父親に聞きたいことがあるのよ」―――

 デパートのR9で楽しんでいた4人は一転、急いでソウリュウシティを通り越し、さらに東のカゴメタウンへと向かった。



 カゴメタウンにやってきた4人は、手分けしてサクノの父の情報を探った。
 すると、大体の街の人が彼のことを知っていると言ったのだ。

―――「その人なら、女の人を探しているって話だったよ」―――
―――「女の人……それはどんな人なの?」―――
―――「美人で色白で知的で髪がちょっと長くてメガネを掛けたら似合いそうな知的な人だって」―――

 と、マキナが聞いた情報によるとそんな感じだった。
 似たような情報を他の仲間たちも聞いたようだった。

―――「……お姉様……」―――

 集合した4人。
 しかし、一人怒りを露にしている者がいた。

―――「母さんがどれだけ寂しい思いをして待っていると思っているの……?なのに、女の人を追いかけている?……許されることじゃないわっ!!」―――
―――「まー、おちつきんしゃい。きっとお義父さんにも深い事情があるんやー。察してぐほっ」―――
―――「行くわよ!あのアホ親父が向かったって言うジャイアントホールへ!」―――

 ビリーを珍しく暴力で封殺し(正確には拳で腹を殴った)、北へ向かっていくサクノ。
 ビリーは悶絶しながら、カナタはカズミに情報を伝えながら、マキナはくすくすと笑いながら、サクノを追いかけていった。



 そして、4人は一斉にジャイアントホールのある周辺に来たはずだった。

―――「霧が……物凄く濃い……」―――
―――「周りがよく見えへんなぁ」―――
―――「お姉様ーどこー?」―――

 辺りを手探りで迷うように歩いて行く3人。

―――「……? ガチャリって何の音?」―――

 マキナ一人だけ、その謎の音を聞き取ることができたが、その音が何を示すかはまったくわからなかった。
 しかし、その霧が晴れてきた。

―――「あれ?カナタ?ビリー?マキナ?」―――

 周りを見渡すと、周りにはフェンスが囲われていた。
 広さはポケモンバトルをやる分には十分な広さがあった。

―――「っ!(後ろ!!)」―――

 殺気みたいのを感じて拳を裏手に振りかざす。
 バキッと音を立てて、その人物の頬を殴り飛ばした。

―――「いつつ!……これはこれはまた可愛いクセにハネウマのような女の子がきましたね。それこそ馴らし甲斐があるというものですね」―――

 男はクロバットとモルフォンを繰り出した。
 クロバットは無数に分身をし、モルフォンは広範囲に毒眠り麻痺の粉『レインボーパウダー』を広範囲に撒き散らす。

―――「私は忍術の使い手、名をムラサメ。元ロケット団の四天王です。さぁ、恐れおののき、私の前に這いつくばって降伏しなさい!」―――

 ぶわっ!!

―――「なっ!?バカなっ!?」―――

 だが、勝敗は一瞬のうちに決まってしまった。
 サクノはエルフーンとテッカニンを繰り出していた。
 まずエルフーンの『暴風』でレインボーパウダーを吹き飛ばした。
 そのパウダーが自分たちに返ってきて、2匹のポケモンとムラサメは状態異常に苦しむ。
 その後、テッカニンが風を纏った爪で、多重影分身をしたクロバットとモルフォンを残らず一掃したのだ。

―――「ムラサメ……ってあの忍者ムラサメのこと?」―――
―――「私のことを知っていたというのですか。忍者は偲ぶ者だと言うのに、これでは裏で動くのもままなりませんね」―――
―――「知っているも何も、最後はトージョーの滝の裏側で遺体となって発見されたってニュースになっていたわよ。……なんであなたは生きているの?」―――
―――「…………そうか。やはり私は死んでいたのか」―――

 すると、ムラサメの体が粒子となって消えていく。

―――「まあいいとしましょう。存在の知れた忍びは消えるのみ。女を弄べないのは残念ですがね…………」―――

 ムラサメが消えると同時に、周りの光景が草原と霧に戻っていく。

―――「今のは幻なの……?」―――

 目の前には洞窟の入り口があった。

―――「カナタたちがいない。もしかしたら、この洞窟の先に行ったのかも……」―――



 そして、現在に至る。

「それにしても不可解なのは、進むたびに風景が変わるのと、過去に名を馳せたトレーナーばかりが出てくること。それだけならばまだいいのだけど、そのすべての人物がもう亡くなっている事。これは一体……?」

 ここまででサクノは4人と戦っている。
 そのトレーナーの誰もが歴戦の強さを持ち、サクノを追い込んでいた。

「カナタたちは無事かな……?」

 サクノは仲間達の一計を案じた。



 バリバリバリッ!!

 どこかのスタジアムのような場所で強力な電撃が四散する。
 四散する理由は、バクオングが音波でその電撃を受け止めたからである。

「……このポケモンは、伝説のポケモンのサンダー……ファイヤーに続いて2匹も所持していたなんて……」

 多彩な音系の技を駆使するマキナだが、相手の連続の伝説のポケモンに目を見張っていた。
 相対する相手は細身の体で黄色い派手なマントを羽織った男である。

「墜ちろ!『プラズマウイング』!!」
「『ハイパーボイス』!!」

 音攻撃でサンダーを押しのけようとするバクオング。
 しかし、なかなか止まらず、零距離になったとき、サンダーの電気エネルギーをもろに受けてしまう。
 それで危機を感じたバクオングが全力でハイパーボイスを放ち、サンダーを吹っ飛ばす。
 さらに音波を圧縮した『爆音玉』をサンダーに投げつけて大ダメージを与えてダウンさせた。

「むっ、まさか小生のサンダーが倒されるとは……」

 サンダーを戻し、ばさりとマントをなびかせる。

「伝説のポケモンに対して怯まずに小生とこれだけ戦えるとは、末恐ろしいな」
「伝説のポケモンとはいえ、ポケモンには変わりないものね。すべては鳥ポケモン。そうでしょ?バドリスさん」
「その通りだ。すべては鳥ポケモン。その鳥ポケモンの力、味合わせてやろう!」

 さらに伝説のポケモンのフリーザーを繰り出し、バクオングに襲い掛かる。

「バクオング、『オーバーヒー 「フリーザー、『アイスゲイザー』!!」

 超過したエネルギーの炎を打ち出そうとしたが、フリーザーが地面から氷の槍を突き出させる。
 打ち上げられたバクオングは無防備になる。
 爆音玉はおろかハイパーボイスも撃つ事ができない。

「『吹雪』!!」
「きゃあっ!!」

 猛烈な冷風にバクオングは倒され、マキナも吹き飛ばされた。



「はぁはぁ……ぐっ……はぁはぁ……ようやく……追い詰めたぜ!!」

 全身ボロボロで、あからさまに肩で息をして、カナタは手を膝についていた。
 カナタは4人の中でも体力がもっともあるほうなのだが、彼女の体力がなくなるほど、戦いは激しいものだった。
 カナタのポケモンも既に3匹倒されている。
 残りはラグラージとニョロボン、カバルドンである。
 今はその中のニョロボンが相手のサイドンを気絶させたところだった。

「…………ふっ」

 しかし、男は鼻でその状況を笑った。
 黒いスーツに右胸にRの文字。
 彼はRというシンボルを掲げる組織のボスだった。

「その程度でサイドンを倒したと思ったか?」

 不意打ちを思わせるかのような素早い一撃だった。
 ニョロボンが身構えた時には、既に角の一撃が入っていた。

「『角ドリル』!!」
「ニョロボン!」

 ところが、その向かってきたサイドンをまったく力を掛けず流すようにニョロボンはひょいと投げ飛ばした。
 サイドンは地面に地響きを立てて仰向けに倒れこむ。
 そこへ止めのハイドロポンプが叩き込まれて、今度こそサイドンは再起不能になった。

「倒したと思ってなかったよ。ボールに戻すまで、何かがあると思っていたからな!」
「驕りはなしか。子供ならばもっと自分の力に過信があってもいいのだが」
「私はずっとお姉様たちを見て戦ってきたんだ。そんなものあるはずがない!」
「いつの時代も成長期の子供というものは、厄介らしいな」

 そういって、ロケット団のボス:サカキが繰り出したのはピンク色の遺伝子ポケモンだった。

「まさか……こいつはミュウツー!?」
「やれ」

 超能力で浮き上がり、高速で迫るミュウツー。
 カナタはカバルドンを援護に繰り出すが、サイコキネシスで一気に吹き飛ばされる。

「ぐあっ!!」

 何とか踏ん張る。
 カバルドンとニョロボンも耐え抜いて、反撃に出る。
 サカキとの戦いはここからが正念場だった。



 どこかの森のような中で、2つのエネルギーが激突している。
 一つは月の力を集めた力でもう一つは破壊的エネルギーを集めた力だった。

「ラグナロク、破壊しろっ!!」

 黒いリザードンのような姿をした合成ポケモン:キメラを使うこの男は、『凶悪使いのバロン』。
 螺旋の破壊光線である『ジャイロビーム』は並の攻撃をぶち抜く最大の技だ。

「ピクシー、押し切れっ!」

 しかし、ビリーはバロンのその攻撃を押し切る力を持っていた。
 『エンゼルハート』で強化したピクシーの『ムーンインパクト』はラグナロクの攻撃を包み込んで、押し切ったのだ。

「ぐぉぉぉぉっ!!」

 ズドゴォッ!!!!

 ラグナロクに命中し、大爆発が起きる。
 その煙の中から、倒れたラグナロクと粒子になって消え行くバロンの姿があった。

「こんな胡散臭いガキに負けるとは……ぐふっ……」

 完全に消滅してから、ビリーはピクシーをボールに戻して、エンゼルハートの力を抑える。

「はぁはぁ……非常に厄介な相手やった……。ランクルスにワルビアル、クイタランがやられてもうたし、エンゼルハートも使用して、体がガタガタや……」

 強力な力を解放するエンゼルハートだが、その強力さゆえに力の解放は極力抑えている。
 下手に何度も使ってしまうと、暴走して力が抑えられなくなるのだ。

「早く、サクノはんたちと合流せな……って」

 顔をしかめるビリー。
 周りが森から洞窟に戻ったと安心したのだが、再び周りが洞窟から森へと変化した。

「次は一体誰や?」

 メタグロスのモンスターボールを取り、次の戦いに備えるビリー。

 ドガッ!!

 後ろからの攻撃に反応し、メタグロスがガードする。
 攻撃を仕掛けてきたのはカポエラー。
 トリプルキックを放ってきたが、3つともメタグロスが防ぎきり、サイコキネシスで吹き飛ばす。
 エスパー系の攻撃は弱点のはずだが、回転して着地した為に対した効果は得られなかったようだ。

「あんたも俺の進む邪魔をする気か?」

 目の前に現れたのは、白髪に長い青のコートを着た目付きの鋭い男だった。

「俺はサクノはんを助けに行くという事情がある。だから、どけ!」
「あんたの事情なんて興味ない」

 ビリーの言葉はあっさりと切り捨てられた。

「なんだと?」
「興味ないと言った。俺の名前はハルキ。俺には知らなければならないことがある。そのために、今消えるわけには行かない」
「やっぱり戦うしかないというわけか……『コメットパンチ』」
「『インファイト』」

 2匹の打撃攻撃が炸裂し、互いに吹っ飛んだのだった。



 サクノたち4人は、ジャイアントホールに突入してから、過去の猛者たちと戦い続けていた。
 しかも、不可解なのは、その誰もがもう生きているはずのない者たちばかりだった。
 誰もが苦戦し、ボロボロになりながら、仲間たちと合流するために進む。
 そして……



「……ここは……」

 サクノが洞窟を抜けて辿り着いたのは、たくさんの木々だった。
 そうして、そこを抜けていくと、大きく神々しい祭壇があった。
 まるで何かの生贄を捧げるためにできたその祭壇は、歴史的に見て価値があるように見えた。

「(ここが一番奥……と考えたいけれど、ジャイアントホールの奥にこんな祭壇があるとは聞いてないわ。これも幻ね。それなら、ここにも戦うべき相手がいるはず……)」

 サクノはモンスターボールを確認する。
 ここまででウインディとフローゼルがダウンしている。
 テッカニン、ルカリオは連戦で出ているために、消耗戦に出たら分が悪い。
 一応回復アイテムは持っていたが、万が一の為に残している。
 すなわち、残りのエルフーンとライチュウで次の戦いを凌ごうと考えていた。

「(相手の強さがどんどん上がっているから、恐らくその考えは通用しないと思うけれど……とにかくやるしかないわ)」

 ガサリ

 そして、茂みの中から人影が飛び出してきた。

「次の相手はあなたね」
「ん?ありゃ?」

 サクノに指差されたその人物は、ふと自分の体を見回したかと思うと、さらに懐から手鏡を取り出す。

「あ。すごーい。あたし、若返ってる♪」

 その少女は緑色で長めのマフラーを首に3回くらい巻いている。
 それ以外は黒のミニスカートにクリーム色で長袖のカーディガンをきっちりとは着用していて、まるで女子高生の制服のようだった。

「あれ?レンコ?」
「……?」

 サクノのことをレンコと呼ぶ少女。

「どうしてレンコがここにいるの?」
「……私はレンコではなくて、サクノですけど」
「え?じゃあ、あたしの勘違い?自分の娘だと思ったけど、どうやら勘違いだったわね。それにしても、レンコと瓜二つねー」

 そういって、うーんと勝手に納得する少女。

「戦う気がないなら、そこを避けてくれない?私、先を急ぐの」
「え?戦う気?それならあるわよ。またこんな若い体でバトルできるなんて夢見たいだもの。バトルするわよっ!!」
「……結局するのね……」
「あ、名前がまだだったわね。あたしはアンリ。かつて『大地の守護者』と呼ばれた巫女よ!」
「アンリ……『大地の守護者』?」

 アンリが繰り出してきたのは、おなかに子供を抱えたポケモンのガルーラ。
 同時にサクノが繰り出したのは、ライチュウだ。

 バシッ!!

「っ!!」

 両手を叩いて、ライチュウを怯ませる。
 ガルーラの奇襲『猫騙し』が決まった。
 『10万ボルト』を撃とうとしていたライチュウは体勢を崩して後ろに転がる。
 そこへガルーラの『連続パンチ』が炸裂する。
 数発をもろに受けるライチュウだが、耐えて拳で応戦する。

「(駄目……体勢が悪い!) レディ!!」

 サクノの指示で、ガルーラの攻撃から逃れて木の下まで逃げてみせる。

「レディ、『雷撃』!」

 太く威力のある電撃を繰り出す。

「遅いわよ」

 力のある電撃だが、あっさりとガルーラは回避する。
 電撃は、木に当たって根元から折った。

「連続攻撃よ!」

 同じく連続で高い電圧の電気攻撃を繰り出すが、ガルーラは巧みなフットワークで回避する。
 電撃はそこらじゅうの木を次々となぎ倒していく。
 計7本の木を折った。
 ガルーラはまったく当たらずにライチュウを射程に捉えた。

「『ピヨピヨパンチ』!」
「『アイアンテール』!」

 ドゴッ!

 接近戦になり、ライチュウが打撃に切り替える。
 そして、互いの尻尾と拳が入って、吹っ飛ばされる。

「今よ、『10万ボルト』!!」
「ガルーラ、『破壊光…… しまった!?」

 ビリビリと帯電して動けないガルーラ。
 ライチュウの特性の『静電気』で麻痺したのである。
 チャンスであるはずなのだが、ライチュウはガルーラへの攻撃を外す。

「外した……? それなら、もう一度破壊光線を……」
「これでいいのよ」
「……!?」

 アンリは周りを見る。
 すると、先ほどの強力な電撃によってなぎ倒された木々に10万ボルトが次々と当たって連鎖していく。

「(しかも当たるごとに威力が増している!?)」
「チェック!『Connect Sander』!!」

 七つ目の木々に当たりガルーラに向かって超強大な電撃が襲い掛かった。
 その電圧は、100万ボルト以上の威力はある凄まじいものだった。

「『こらえる』!」

 しかし、ガルーラは攻撃に耐えてみせ、闘気の力を集中させる。

「『きしかいせ 「レディ!」

 一筋の電光となって先制攻撃を繰り出し、ガルーラに止めを刺した。

「……凄い……やるわね!それなら、様子見はこの辺にして、本腰を入れていくわよ!」
「……様子見……(こっちはほぼ全力で飛ばしているのに……本当かしら?)」

 アンリが次に繰り出したのはフライゴンである。
 それを見て、サクノはすぐにポケモンをチェンジする。
 ルカリオだ。
 まず波動弾を3発ほど撃つ。
 対するフライゴンは地面に衝撃波を放ち、砂を巻き起こす。
 その砂が完全に波動弾を遮断した。

「このくらいの攻撃なら、『砂の壁』で防げるわよ!」
「それなら……エンプ、『気合玉』!」

 先ほどの波動弾よりも大きな闘気の塊を打ち出す。

「フライゴン、『砂の壁』!!」

 地面から巻き起こした砂の壁に気合玉がめり込む。
 始めは押し切るかと思われた気合玉だったが、結果は気合球が爆発し、相殺されてしまった。

「(遠距離攻撃が駄目なら) 『聖なる剣』!」
「『ソニックブーム』!」

 神速で回避し、攻撃を叩き込むことを考えていたサクノ。
 しかし、音速に匹敵する速度と連射能力が、回避を不可能にした。
 ルカリオは釘付けになり、音波のスライスを骨の剣で裁くことにしたのだが、的確に弾き返せずダメージを受けていく。

「(近付けない……!これじゃ、『Soul Blade』も当てられない! ……打撃が駄目なら、あの技を試してみるしかない!)」
「(代えてくるかな?……いや、違うわね)」

 サクノを見てアンリは反撃のオーラを感じ取った。
 ルカリオは剣での防御を止め、全身に力を溜め始めた。

「全波動を体に集めて解き放って!!」
「『火炎放射』!」

 ソニックブームから軽い一発の火炎攻撃に切り替えた。
 火炎の弾がルカリオに直撃する。
 弱点だったが、爆発から決死の表情をしたルカリオが姿を現した。

「行くわよ!エンプ、『Soul Storm』!!」

 両手から放たれる気合玉とは比べ物にならない清々しい威力の攻撃。
 人はこれを別名『波動の嵐』と呼ぶ。
 フライゴンに向けて一直線に向かって、激突した。

「それが、あんたの切り札ね」
「……!」

 攻撃を放った瞬間に、サクノは嫌な予感がした。
 ルカリオのこの技が通用しないのではないかと。
 そして、その予感は的中していた。
 フライゴンはサクノのルカリオの最大の技であるSoul Stormを真正面から受け止めているのだ。

「(『Soul Storm』は『Soul Blade』の遠距離技……それクラスの威力を受け止めている!?)」
「それならこちらも、それ相応の技で対抗するわ!フライゴン!」

 フライゴンの体が銀色に輝く。
 すると、Soul Stormをエックス状に切り裂きながら、突撃してきた。

「フライゴン、『エクストリームアタック』!!」
「!!」

 アンリのフライゴンの一撃は、居る筈の洞窟を凄まじく揺らすほどであった。



 第四幕 Episode D&J
 Ι<イオタ>① P51 立春 終わり



 ☆今回の話に出てきたバトル相手

 バン♂
 元バイクの走り屋で、後にSHOP-GEARのチームトライアングルとしてジュンキ&ミナミと活躍していた男。
 見た目が不良っぽい上に粗暴な言葉遣いのせいで第一印象は恐れを感じるが、頭も良く女性に優しいために結構もてた。
 24歳の時、とある少女を助けるために炎攻撃を受けつづけて、命を絶った。 

 ムラサメ♂
 とある武術の里の末裔の忍者で、ロケット団に四天王として所属し、後にフリーの忍者として様々な暗躍をしていた男。
 丁寧な口調や変装で、相手に不審を抱かせずに始末する。
 46歳の時、トージョーの滝で依頼者に裏切られて殺害された。

 バドリス♂
 飛行ポケモンをマスターを目指し、鳥ポケモンの組織である『風霧』を組織し、後に“鳥ポケモン大好きクラブ”を設立した男。
 鳥ポケモンしか使わないが、自力で伝説の鳥ポケモンを従わせる実力を持っていた。
 38歳の時、自然の雷に撃たれて亡くなった。

 サカキ♂
 元トキワシティのジムリーダーであり、かつてあったロケット団を設立した男。
 地面ポケモンの使い手であり、カントー最強のジムリーダと恐れられた。
 彼がどのような最後を迎えたかは定かではない。

 バロン♂
 かつてあったロケット団の屈指の幹部の男。
 破壊光線と怪獣使いであり、その力は一人で街を滅ぼすほどだったといわれる。
 46歳の時、病に倒れて亡くなった。

 ハルキ♂
 元スナッチ団の凄腕スナッチャーであり、オーレ地方のアゲトビレッジの長候補だった男。
 根暗っぽく、ぶっきらぼうで、興味を持たないものは見て見ぬ振りをする性格だった。
 18歳の時、コールドペンタゴン事件の犠牲になり命を落とす。




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