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たった一つの行路 №286 の変更点


“な……なんでですか……”

 可愛い顔立ちをした執事の少年は、驚きの表情を表して倒れていった。

“……チェリー様……一体どうしてこんなことを……”

 そのチェリーは、とある二人と対峙していた。

「どういうこと?教育を受けておきながら、お嬢様に逆らう気だって言うの?」

 とある一人のアスカが少々驚きながらも、ボールを構える。

「アスカ。私たちがこの子達をしつければ大丈夫よ。むしろその方が……ハァハァ……いいと思うわ……ハァハァ……」

 とある一人のマキナが涎を口で拭いながら、2人を見据える。

「教育ぅ?そんなの私はサボっちゃったもんねぇ♪」

 チェリーはあっけらかんと言ってのける。

「一体どうやって!?あんた、最初にここに連れてこられた時、ロープで両手を縛られて、抵抗なんてできなかったじゃない!そして、チャイナドレスの子に……」
「縄抜けして逆にしつけちゃったもんねぇ♪」
「!!」
「あらあら、じゃあ、あの子達3人はみんなチェリーちゃんには逆らえないのね」

 あの子達三人とは、サクノとクレナイにあっさりと敗れたコスプレ三人娘のことである。

「一体なんでこんなことをしたかわからないけど……あんたら、許さないぞ!」

 誘拐されてきたカナタはボールを持って戦う気満々である。

「私たちと戦う気なのね」
「いいわ、打ちのめしてやるっ!!」
「返り討ちだっ!!」

 アスカがラクダのようなポケモンのバクーダ、カナタはニョロゾで対抗する。

「『大地の力』!!」

 地を揺るがし、下からエネルギー波を突き上げる。

「ニョロゾ、走れ!」
「……!」

 カナタの指示通りに素早くダッシュすると、ジャンプして大地の力をいとも簡単に飛び越えた。
 そして、バクーダの背後を取ると、ハイドロポンプで一気に押し流した。

「バグーダ!?まさか、一撃でやられるなんて……油断してたわっ!!」
「油断……してくれてありがたいわぁ。実は私がカナタにポケモンバトルの特訓をしてあげたのよぉ」
「それなら少しは楽しめそうね、アスカ」
「あたしがカナタをやるから、マキナはチェリーを頼むわよ」

 こうして、倉庫内でチェリー&カナタvsアスカ&マキナのバトルが勃発した。

“た、大変だ……カヅキお嬢様に……連絡を……”

 そして、カヅキの耳に連絡が届くのであった。



 たった一つの行路 №286



 ケビンの全力はサクノとクレナイをとどまらせていた。
 実力的に見れば、この2人なら突破できる力を持っていたのだが、カヅキの残したアビリティーダウナーの力がまだ残っていて、2人のポケモンは全力を発揮できずにいた。
 サクノはフローゼル、クレナイはエレキブル、ケビンはグラエナがそれぞれ倒れて、次のポケモンを繰り出すところだったが……

「ここは俺がやるでぇ」
「ビリー!?」

 2人の目に紫色のロングヘアが映る。
 先ほどまで、背中の痛みでまともに立てなかったビリーが、歯を食いしばって立ち上がる。

「どうやら、あのカヅキってやつに加えて、マキナやアスカも残っている。こいつの実力は大体読みきった。後は俺に任せんしゃい!」
「ビリー……気をつけて」
「そこまで言うなら任せた!」

 そういって、サクノとクレナイはカヅキの後を追っていった。
 ケビンは2人を止めずにビリーを見据えていた。

「……見くびるなよ?」
「見くびっているよ」

 そういって、ビリーは笑うが、ケビンも笑っていた。

「こちらの作戦通りだ。サクノとクレナイ……二人を本拠地へと案内することができた。それがトラップだ」
「つまりアレか?サクノはんとクレナイの二人を捕まえるために呼び寄せたってことか?」

 フッとケビンは口元を緩ませる。

「あの二人がヒィヒィ言って懇願する姿が目に浮かぶなぁ」
「残念だけど、そんな風にはならへんよ」

 自信を持ってビリーは断言する。

「どうかな?実は僕も会った事はないが、トップはカヅキ様ではないんだぜ?」
「それでも……だ」

 ビリーはランクルスを繰り出す。

「クレナイは相手のことをよく知っているみたいだし……そして、サクノはんはどんな現実も乗り越えていく力がある。決して負けはしない!」



「うわっ!!」

 ヌマクローとカナタは吹っ飛ばされた。

「もう一発、『タマゴ爆弾』!」

 アスカのハピナスの猛攻が続く。
 何とか、マッドショットで攻撃を相殺するものの、やられるのは時間の問題だった。

「くっ……やっぱり強い……普通のジムリーダーを軽く凌ぐ強さだ……」

 チェリーにバトルの特訓を受けたカナタだったが、短期間で四天王に匹敵する実力を持つマキナ&アスカに抗えるわけではない。
 先ほどバクーダを倒したのは、相手が油断していて、タイミングよく最高の一撃を放てた上に、相性と急所が相乗効果で発揮したに過ぎなかった。
 証拠にカナタは次々とポケモンを倒されて、何とかパートナーであるヌマクローでハピナスの攻撃に耐えているのである。

「こうなったら……」
「どうするの?」

 ハピナスが再びタマゴ爆弾を放つ。
 今まで避けていたカナタとヌマクローだったが、今度は避けなかった。
 防御に徹して、攻撃をあえて受けたのだ。

「(終わった……いや?今のはワザと攻撃を受けた?)」
「いけっ!ヌマクロー!!」

 今までのダメージとフラストレーションを一気に介抱した。
 この技を『がまん』という。

 ドゴォッ!!

「どうだ……!?」

 ハピナスは大ダメージを受けて吹っ飛ぶ。
 これで倒れただろうとカナタは思った。
 しかし、ハピナスは余裕で立ってみせたのである。

「う、ウソ……」
「この程度のダメージなら、耐え切れるわよ?」

 そして、お返しと言わんばかりに、ハピナスのタマゴ爆弾がカナタとヌマクローに炸裂した。



「あら、あっちは終わったみたいね」
「…………」

 一方のチェリーvsマキナ。
 こちらの戦況はほぼ互角だった。
 ロズレイドの茨のムチで叩こうとするチェリーだが、エネコロロの素早い動きは中々捉えられなかった。
 しかし、『どくびし』で牽制すると、エネコロロの動きは鈍り、攻撃を叩き込むことに成功した。
 そんな感じでバトルは進み、チェリーはロズレイドを含めた3匹、マキナはエネコロロを含めた4匹がダウンしていた。

「マキナ、まだ戦っていたの?」
「意外とこの子、強かったのよ」
「そうか、じゃあ、あたしも手伝うか?」
「いえ、大丈夫。なんとかなるわ」

 マキナはコロトックを繰り出した。
 チェリーもドクロッグを繰り出したが……

「いいえ、ここは私一人に任せなさい」
「「っ!お嬢様!?」」

 戻ってきた黄色の短髪の女性のカヅキに頭を下げる2人の美少女。

「あらら……3人……これは分が悪いわぁ……」

 と、言うが、表情はあまり大変そうに見えない。

「私が直々相手になってあげるわ」
「それは、楽しみねぇ♪」



 ―――倉庫街路地。
 軽い少年ビリーとレンジャーケビンの戦いは、決着の時を迎えていた。
 既にケビンはキャプチャースタイラーを破壊され、残り一匹となっていた。

「ヨノワール、『連環シャドーボール』!!」

 数珠繋がりになったシャドーボールを撃つケビンのヨノワール。
 この最大の一撃に、ビリーのクイタランもあっさりと敗れたのだ。

「二度も同じ技に負けたりはしない!」

 砂を纏った手でシャドーボールをいなす。
 一度軌道が外れると、連関したシャドーボールはあっという間に別の方へと行ってしまう。

「っ!!ここに来てお嬢様のアビリティダウナーの力が切れた!?」
「これで、仕舞い!!『サンドクロス』!!」

 目付きと柄が悪い砂ワニポケモンのワルビアルが『辻斬り』と『切り裂く』に地面属性をつけて、ヨノワールを十字に切った。
 ヨノワールは崩れ落ちて、勝負はついた。

「くっ……」
「ランクルスとクイタランがやられてしもうたが、まだ3匹が戦えるで。さて……」

 すべてのポケモンがやられたケビンを一瞥する。

「これで……お仕置き確定か……お仕置きかぁ……お仕置き……あぁぁ……ハァハァ……」

 虚ろの目で崩れ落ちるケビン。
 ビリーはそんなケビンを無視して、サクノたちを追いかけていったのだった。

「(しっかし、あのアビリティダウナーは厄介やで。どうやって攻略すればいい……?) グッ……」

 よろけるビリー。

「(畜生……カナタのヤツ……後で覚えてろ……)」

 背中の痛みを引き摺りながらビリーは走る。



 ―――倉庫のアジト。
 2人の美少女と1人の女性がくの一の格好をした女の子を追い詰めていた。

 ドサッ!

 チェリーのドクロッグが力でねじ伏せられて倒された。

「『毒突き』が完全に無効化されちゃったぁ……」
「あんた程度じゃ、私に勝てないわよ」

 カヅキはハリテヤマで高らかに勝利宣言する。
 しかし、チェリーはまったくそうは思っていない。
 チェリムを繰り出し、颯爽と走る。
 その狙いは、ナースの格好とチャイナドレスを着たマキナとアスカだった。

「なにをっ?」
「……!」

 チャイナドレスのアスカはハピナスで迎撃に出るが、チェリーは攻撃をかわす。
 そして、あっという間に2人の間を通り抜けていった。

「いただきぃ!」
「え?あれ!?ポケモンが!?」

 アスカのボールが1つ減っていた。
 どうやら、手持ちポケモンを盗まれたようである。

「あらあら、やられちゃったわね」
「っ!マキナも盗られたんだろ!?」
「私はなんとなく嫌な予感がしたから反撃しないで様子を見てたのよ」
「あ、あたしだけ!?」

 落ち着きがなさそうなアスカだけが狙われたようである。

「ギャラドス!」

 盗んだアスカのポケモンでチェリーは逆襲に出る。
 普通、盗んだポケモンの言うことは聞かないはずなのであるが、チェリーは盗んだポケモンさえも言うことを聞かせる力があった。
 今回も例外ではなく、ギャラドスはハリテヤマに威嚇をし、攻撃意欲を削ぐ。

「『投げつける』!!」

 ハリテヤマは近くにあった自分の体ほどの木箱を投げつける。
 ここは倉庫であり、木箱や樽などが多く存在する。
 ゆえに投げるものには困らなかった。
 ギャラドスは箱をぶつけられて怯む。

「そこねぇ!」
「!!」

 エネルギーを溜めた太陽光線がハリテヤマを打ち抜く。
 チェリムの『ソーラービーム』である。

「ギャラドス、止めェ!」
「ハリテヤマ!」

 ズドオォンッ!!

 全身を使った突進攻撃だった。
 だが、ダウンしたのはギャラドスだった。

「カウンターね。さすがお嬢様」

 マキナが息を巻く。

「私のアビリティダウナーで能力が下がっているのよ。チェリムやギャラドスも例外じゃないわ」
「その力はグレイシアの遠距離攻撃だけじゃなく、打撃攻撃にも纏わせることができるってことねぇ!?」
「ただ、チェリムがポジフォルムになっていたら、流石に倒れていただろうけどね」

 そのままハリテヤマが冷凍パンチにアビリティダウナーの力を纏わせて、突撃してくる。
 チェリムはそれを『守る』で防ぐが、あまりの力に吹っ飛ばされる。

「あと、この力は『守る』をも突き抜けるわよ」

 エナジーボールを反撃で撃つが、ハリテヤマはかまわず突っ込み、攻撃をもろともせずにドクロッグと同じように張り手で押しつぶした。

「厄介ねぇー」
「おしまいよ」

 ハリテヤマがチェリーに狙いを定める。

 ドゴッ!!

 しかし、ハリテヤマの方が殴り飛ばされた。

「ニョロボン!?」
「このポケモンは……!」

 同時に男女二人が駆けつけた。
 チェリーの兄である背の高い男性のクレナイと美少女サクノである。

「大丈夫か、チェリー」
「ナイ様!?」
「どうやら、操られてなかったようだな」
「私がこんな奴らのいいなりになるはずないじゃないですかぁ。と言うよりも、誰の言いなりにもならないわよぉ」

 と、慎ましい胸を張って宣言する。

「じゃあ、どうしておれたちを攻撃したんだ?」
「もちろん、この人たちを欺くためだよぉ。欺いて中から壊していこうと思っていたんだけど、戦力が思ったよりも整っていて手を出せなかったのぉ。でも、ナイ様やアキャナインがいたから、しめたと思って行動に出たんだよぉ」
「……で。チェリーは何のためにこんなことをやっているんだ?」

 笑顔だが、どこか呆れるような声でクレナイは尋ねる。

「ちょこっと、コソッとするには、この人たちが邪魔だったんですよぉ」
「はぁ……やっぱりそんな理由かよ」

 笑顔ながらもやれやれとクレナイがため息混じりに呟く。

「コソッと……そんな盗みは許されませんよ!」
「私の物は私の物。他人の物も私の物。これ信条ですよぉ」
「そんなの許せません!私が止めます!」

 と、正義感の強いサクノはチェリーと一触即発しそうだ。

「内輪揉めしている余裕なんてあると思っているの?ハリテヤマ!『ギガインパクト』」
「まぁ、余裕があるからおれはほっといているんだけど」
「なに?」

 ハリテヤマが攻撃を仕掛けない。
 と言うよりも、自分自身を攻撃してしまっている。

「混乱状態!?まさか、さっきのパンチは『爆裂パンチ』!?」
「ご名答。『気合パンチ』!!」

 ハリテヤマが混乱している間に、ニョロボンは拳に力を集中して、一気にハリテヤマのどてっぱらに叩き込んだ。
 相当の数の木箱の中に突っ込んで、ハリテヤマはダウンする。

「お嬢様!」
「私たちも加勢します」

 アスカとマキナがそれぞれブーバーンとバクオングを参戦させる。

「どうやら、ここからは乱戦みたいねぇ」
「でも、乱戦は避けたほうがいいわね。1対1で戦うようにしましょう」

 チェリーがフシギバナを繰り出して、『花びらの舞』を全体に繰り出そうとする前に、サクノが注意を促す。
 カヅキのアビリティダウナーが3人全員を蝕むのを警戒しているのだ。

「エンプ、行って!!」

 『骨の剣』を抜いて、ルカリオがバクオングに切りかかる。
 電光石火のスピードで接近したために、反撃の暇も与えなかった。
 そして、ルカリオとバクオングは他の4人と離れていった。

「サクノちゃん……私と戦うのね?『爆音』!!」
「出たポケモンの相性を見て判断しただけよ。『波動弾』!!」



「マキナがサクノを……ね」
「やられっ放しはイヤだから、私があんたをやりますよぉ」

 今度こそフシギバナの花びらの舞がカヅキを捉えた。
 だが、炎の壁があっさりと花びらを燃やし尽くしてしまう。

「どうやら、あんたは私にヤられたいのね」
「そう簡単にやられないんだからぁ!」

 カヅキのバシャーモとチェリーのフシギバナが激突する。



「じゃあ、残ったおれはサイドテールの女の子か」
「あたしの名前はアスカよ!」
「……あれ?アスカ?確かホウエン地方のフエンシティのジムリーダーをしていなかったか?」
「なんで知っているのよ!?」
「いや、戦ったことあるし。でも、10年以上も前と姿がそんなに変わらないって一体……?」
「旅の途中でディアルガの暴走に巻き込まれたのよ!おかげでこのままの姿で10年後に飛ばされちゃったのよ。でも、今はそんなことどうでもいいの。あたしとマキナは既にお嬢様たちのものなのだから……」

 と、顔を赤く染めて色っぽく呟く。
 18歳の恥じらいも感じさせる女の子の表情だった。
 可愛いなとクレナイも思うが、状況は状況である。

「ニョロボン、『爆裂パンチ』!」
「ハピナス、『タマゴ爆弾』!!」

 それぞれ3つの戦いが始まった。
 だが、皆それぞれ、持っているポケモンと戦っているポケモンと残っているポケモンにばらつきがある。
 そして、戦況が変わったのは、数分くらい経った時のことだった。



 ―――ホドモエシティのどこか。
 黄色い髪のロングヘア。柑橘系をイメージさせるオレンジ色のリボン。
 それに腕から肩を露出させている黒いシックのドレス。
 年齢はカヅキよりも2~3歳くらい年上の女性だった。
 その人は大人の色気漂う服と子供のようなオレンジ色のリボンをミスマッチさせて、おかしな雰囲気を漂わせていた。
 彼女は眠っていた。

「……ヨウタ……オト……」

 不意に名前を呟く女性。
 夢の中でその人物が現れたのだろうか。
 右目から、ほろっと涙が零れ落ちた。
 そして、ふと目を覚ます。

「…………」

 夢が醒めたのだと思い、彼女はベッドから起き上がる。

「……手の届かない希望は終わり。……今、目の前の理想を私の物にする」

 そう。彼女はカヅキの実の姉であるミホシだった。



 第四幕 Episode D&J
 停滞のパラダイス③ P50 秋 終わり




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