#include(第十回短編小説大会情報窓,notitle) 人間が汗水たらしてお金を稼ぐのだから、ポケモンが汗水たらしてお金を稼ぐのも当然のこと。中には「虐待」にあたるから労働禁止の国もあるみたいだけど……。 テレビや舞台に出る、肉体労働、後は、芸術的な才能を活かすとか、後は希少種だけど、頭脳労働とか? 私はチラチーノ♀。この白い体毛素敵でしょ? これで結構得してるかも。舞台公演も終わって、ほっと一息。私の主人が来月の予定を教えてくれる。私の主人はしがない会社員。どこにでもいるごく普通の人間。変わっているところといえば、まあ、それなりの大企業に努めているところくらい。でも、稼ぎがいいかといえばそんなことはなく、今も会社の社宅住まい。 じゃあ何で、私がこんなことができているかって言うと、会社で募集があったかららしい。その時は深く考えなかったけど、この世界に入ってもう2年になる。演技の評判はそれなりにいいらしい。問題も起こしていないし、これからも安泰ね、と思ったけど、それは甘かった。 「……え?」 「だから、来月は1か月間仕事はない」 「……どういうこと?」 「どうって、言葉通りだよ」 「……」 予定表をひったくって見てみても、次の月、つまり9月なんだけど、予定はまっさら。本当だ、本当に仕事がないわ……。私のしがない主人が努めている会社は芸能事務所でもなんでもない普通の会社。でも、何故か仕事はそこから回ってくる。ポケモンをテレビや舞台に出す事務所とかプロダクションもあるらしいけど、ピンハネが半端ないらしく、評判は悪い。だから、ポケモンたちはフリーで活動しているのが多く、仕事が来るかどうかはコネ次第というわけ。こういう活動をしているポケモンたちも「友達を増やしたい」という理由で活動しているのが多い。 干された? 徐々に仕事が減っていくのなら分かるけど、いきなり仕事ゼロって言うのはどうも腑に落ちない。 「まあ、舞台公演で大変だったろ? 遅い夏休みを満喫したらどうだ? スターにだって休みは必要だろ?」 あいつの言う通り、少しは休んだ方がいいかも、ね。でもね、仕事が全くないスターっていうのも、なんか惨め……。 次の日から、何の予定もない日が始まった。最初は寝坊できるからいいわ、と思っていたけど、これまた考えが甘かったことを思い知らされる。暇、はっきり言って暇。仕事があるのが普通だったから、逆に暇すぎる。テレビをつけてもつまんない番組しかやっていない。暇で暇でしょうがない。え、ちょっとこんな日があと30日も続くの? そう考えると憂鬱になってくる。 夜になって、しがない主人は帰ってきた。 「あ、おかえり」 「ただいま、今飯を作ってやるから」 夕飯を食べながら、今日一日のことを話す。といっても、うだうだして一日が終わったから、特に話すこともないんだけど……。 「今日なんか面白いことあったか?」 「ない」 「だろうなぁ、干されたスターって惨めだな」 やつはにやにやしながらそんなことを言っている、マジで頭来るわ。その面にビンタの一発でもお見舞いしてやりたいわ。 「ちっとは、新しい芸を身につけるとか、勉強に使えばいいんだよ。ちょうどいい機会じゃないか」 珍しく、まともなことを言うわね。でも何をしたら、いいのか……。 「野球のボールをおでこでキャッチするとか、どうだ? ウケるぞきっと」 斬新だけど、却下。斬新だけど元ネタが古すぎるわ、だからダメ。それ以上にあれはキャッチって言うけど取れてないから。どうしよう、一番人気はマニューラさんか……。イケメンだし、あの身軽な動きと、氷技。でも、到底真似できそうにないし、何よりもパクリは恨みを買うし、友達をなくす。それだけは避けないと。信用で成り立っている世界だからね。 そんなこんなで1日終了。でも、確かにあいつの言う通り、何か始めるにはいい機会かもね。自分だけじゃなにもできないから、こういう時のためにアレがあるのよ。まぁ、行動するのは明日からでいいわよね。今日はもう寝よう。 アレとは電話帳兼メール帳。いろんなポケモンたちと友達になったから、この電話帳にも、結構名前が増えた。ポケモンとその主人の名前がここに控えてある。とりあえず、マニューラさんに電話してみようか、メールだけど遅くなりそうだし。 「もしもし?」 「やっほー、今何してる?」 「『やっほー』じゃねぇよ。もうすぐ稽古なんだ。用がないなら後な」 「次は何の役をやるわけ?」 「『ラスコーリニコフ』って言ってもなぁ……。知ってっか? オレは稽古の前に頭に入れろって覚えさせられたから、知ってるけど」 「何それ?」 「……あー、もう、切るぞ」 電話は切れてしまった。まあいいわ。相手も忙しいから。次はエモンガちゃんかな。主人はお金持ちらしいし、今日は家も近所だから。きっと相談に乗ってくれるはず。で、電話してみると、今、家にいるらしい。歩いてすぐだから、家に行っちゃおう。玄関のドアに鍵をかけて、これで良し、と。鍵は首から下げて持たされているわけね。やっぱり出かけるときに鍵を書けないのは不用心だから。 家は社宅の別の棟。だから、歩いて2、3分ってところ。 「あ、チラちゃん。こんにちは」 「エモちゃん、暑いけど元気にやってる?」 こうやって、お話でもしないと暇でしょうがない。マジで1ヶ月何もしなかったら、干からびて干しイモか干し柿みたいになっちゃうわ。ちなみにこう見えてエモちゃんは結構博学。結構外国暮らしが長くて、その間色々と苦労したっていうのは聞いていた。 「干されて暇なら、外国語でもやったら? 英語とか。ひょっとすると、海外公演の話とかも来るかもよ?」 「まだ干されたって決まったわけじゃ……。でも、海外公演かぁ。それ、いいかも」 「でもね、本当に使えるようになりたいんだったら、相当な覚悟が必要よ? 本気で勉強しても最低でも1年はかかるから。私なんか、使いこなせるまでに10年かかったし」 「じゅ、10年!? 私『ミソジーノ』になってる……」 「嫌ならやめといた方がいいわよ、中途半端じゃ意味ないから」 そう言われると、火がつく。そういう性格なの。文句ある!? 「ま、とりあえず、触れてみないとね。どうにもならないから。本を読んでいるだけじゃつまらないし、必要に迫られた方が勉強する気になるでしょ?」 「え? 触れるって?」 「パスポートある?」 「あるけど……。あいつが会社に入るときに作らされたから」 「じゃ、話が早いわ」 エモンガちゃんは、主人のS君を呼んできた。なかなかの好青年だと思う。ちなみに彼は大学生。彼はいとこが会社に勤めているとかで、この社宅から近くの大学に通っている。実名は伏せておくわね……。まあ、何というか、プライバシーのこともあるから。あと「君」づけなのは「さん」だと、なんか他人行儀だから、と本人が言ったからね。 「早速だけど、ここに行くから飛行機予約して。お金はあるでしょ?」 「ある……けど、いつ?」 「そうね、3、4日後」 「お前、何考えてんだよ!? 席なんかあるわけないだろ! 第一、何のためにそこまで行くんだよ?」 「そこを何とかすんのがあんたの役目でしょ。それに、人助けなのよ?」 「まあ、人助けっていうか、ポケ助けか……」 S君は私をちらっと見た。 「しょうがないなぁ。まあ、とりあえず、旅行会社から席を予約するのは不可能だから、航空会社に直接電話して何とかしてもらうか。多分何とかなるだろ、直行便は無理かもしれないけど」 S君は語学に堪能とか聞いていたけど、それが分かった。電話で飛行機の予約を取っていたけど、その時の会話が英語。……なんて言っているかさっぱりだったわ……。 で、結局4日後に出発することになったわ。あいつには連絡しておかないと……。まあ、メールでいいよね「友達と外国へ行くから4日くらい留守にするわ、行先は秘密」こんな感じでいいかしら。外国のことに疎いあいつに地名を出したって分かるかどうか不透明だし。。 「で、明日から3日間で、基本的な挨拶と受け答えは私が教えるから」 やっぱり、友達は主人がしっかりしているのが多いから、本当に頼れるわ。あいつは一番ダメな方じゃないかしらね、ヘタレだし、特技もこれといってなし。 「とにかく、ビシビシいくわよ? やり方がぬるいとあんまり効果がないから」 「あ、ありがとう……」 「お礼ならいいわよ」 「いや、でも、タダっていうわけには……。あ、ちょっと待ってて」 こういう時は、マニューラさんだ。多分、何とかしてくれるはず。 「今度は何だよ?」 「実は、かくかくしかじかで……」 「何だ、そんなことか。何とかなると思うぞ? しかしまぁ、お前もかわいいだけじゃないな。あのエモンガを頼るとか、なんつーか、隅に置けないやつだな」 マニューラさんのやることは早かった。翌日、私がエモちゃんにしごかれている間にメール便で荷物が届いた。中に入っていたのは、今度上演される劇のチケット。 「これ、今回のお礼。大したもんじゃないけど受け取ってよ」 「ええ、マニューラがやる劇を見られるの? いいのこんなの受け取って? イケメンだし、悪タイプだから結構いい配役かもね。ポルフィーリは誰がやるの?」 「えー、えーと、誰だったっけ?」 やっぱりエモちゃん、教養あるわ。 声が小さいとか、ぼそぼそ言わないとか、ビシビシしごかれる。 「はい、声に出す。耳で聞く、声に出す、読む! その大きい耳は飾りじゃないでしょ? 書くのはあと!」 大きい耳って、他人のこと言えないでしょうよ……。 あっという間に3日は過ぎた。あいつは、一度様子を見に来て、その時、念のためもう一度、海外に行くということと、いつ、どこ行きの飛行機に乗るかも教えておいた。面倒だから、飛行機を乗り継いでどうとかは言わなかったけどね。言っても分かんないだろうし。でも、その時、S君にやたら頭を下げていた。S君ってそんなにすごいのかしら? 確かにお金持ちだけど……。 当日、エモちゃんに叩き起こされて、眠い目をこすりながら、空港まで行く。ええ? ちょっと早過ぎない? すると、エモちゃん、呆れた顔になって 「あのねぇ、電車じゃないんだから、時間ギリギリに行っていいわけないでしょ? 飛行機に乗る前にいろいろやることがあるんだから……。そんなことも知らないの?」 なかなかきつい一言。歳は同じはずなのに……。歳は一緒でも、全然経験値が違うわ……。そう感じた。 「だってさぁ、あいつ出不精だから、どこも連れていってくれないんだもん……」 「まあ、いいわ、とにかく行くわよ」 電車とバスを乗り継いで、空港に辿り着く。まだ離陸の4時間前。やっぱり早すぎる気がするんだけど……。でも結論から言ってしまうと、早めに来てよかったのかもしれない。七面倒な手続きで時間を食ったから。 早めに来たおかげで、余裕を持って飛行機に乗ることができた。それにしてもS君やエモちゃんは旅慣れしているわ。一緒にいるととても心強い。それに引き換えあいつだったらどうだろう。海外に行ったことないから、きっと右往左往するに違いない。それどころか飛行機に乗り遅れる、なんてことになるかもしれない。 飛行機が離陸するとき、小さくなっていく地上の景色を見て、感動する私の横で、エモちゃんやS君は何だか眠そうにしていた。まあ、朝早かったし……。 「ところで、これからどこに行くの?」 「まぁ、ざっくり言うと『南の島』ね。言っとくけど、遊びに行くんじゃないからね? ちゃんと勉強しに行くんだからね??」 「う、うん」 エモちゃん、いきなり喋らせるつもりなのかな……。その点はかなり不安。4時間後、何の問題もなく、飛行機は無事に着いたって、ちょっと待って。なんか、8時間か9時間くらいかかるとか言っていたけど、早過ぎない? 途中でワープでもしたわけ? すると、S君がこんなこと言う。 「じゃ、これから飛行機を乗り換えるから」 「へ?」 そっか、8から9時間って、全部の行程でそれだけかかるっていうことなのね……。 「あんなギリギリに予約して安い席が残っているわけないだろ、直行便で」 S君やエモちゃんにとっては常識らしい。でも、私には分からないわよ。そもそもヒコーキなんて乗ったことないもん。あいつは出張で何回か乗ったことがあるらしいけど。 何だか、よく分からないけど、とにかく『南の島』についた。この島のシンボル、上が赤、下に白になっていて、上には白地に三日月と5つ星がデザインされている旗が、私たちを出迎えた。面積はかなり小さいけど、これで一つの国らしい。S君が荷物を受け取って、空港の出口まで歩いていく。 「月と星か、次の新作的な?」 え? それって太陽と月なんじゃ……。まあ、分かってて言ってるんだろうけど。 「次はアレでしょ、こうインノケンティウス3世的な?」 「そうだな『太陽と月』だな」 意味わかんなーい。でも2人は言葉のキャッチボールができているわ。どうも外国暮らしは莫大な経験値をもたらすらしい。それだけは分かった。 「それはさておき、地下鉄はまだ走っているけど、疲れただろう? タクシーにしようか?」 タクシーって、言葉の問題があるけど、まあでもS君英語ペラペラだし、大丈夫よね。それにしても、蒸し暑い。毛皮に容赦なくまとわりつく湿気、いつもなら自慢の毛皮もこの時ばかりは邪魔だった。暑い、暑すぎる。こんなところに4日間もいるの……。 「あつ~い……」 「当たり前でしょ、ほぼ赤道直下でまわり海なんだから」 「リゾート地で、白い砂浜がお出迎えしてくれると思ったのに……」 飛行機が着陸する前に見た景色は、綺麗にライトアップされたビル街で、とてもよく言われる「南の島」って感じはしなかった。私が半ば文句を言ったと思ったのか、エモちゃんは 「うだうだ文句言うんだったら、帰る? 遊びに来たんじゃないって、さっきも言ったよね? 覚悟がないんだったら、新しいことなんてやめといた方がいいよ。そんなの時間の無駄」 いつものエモちゃんらしからぬ厳しい口調。 「よせよ、言い過ぎだろ」 「Sも一言、言ってやってよ。私たちは、自分の意志とは関係なしに言葉がまるっきり違うところに連れてかれて10年以上苦労したのよ、なのに、言葉も通じるところにずっといて、いざ実践となったらうだうだ言って、甘ったれてんじゃないわよ!」 うう、すいませんでした。私が間違ってました。完全に叩きのめされた私。確かにエモちゃんたちは暇だったかもしれないけど、それでも私のために時間を使っていてくれていることは確かだった。これは確かにエモちゃんが言っていることが正しい。 タクシーに乗ると、S君の堪能な語学に驚かされる。本当に現地の人みたいだった。 「どちらまで?」 「ハイナンホテル」 語学が苦手な人にとっては、あまりありがたくないかもしれない。この運転手、なかなかの話好きだった。でも、S君はよどみなく言葉を返す。 「学生か?」 「そうです」 この辺までは、まあ何とかなるかもしれない。私も聞き取れはした。でも、ここからが問題。言葉と言葉の豪速球のやり取りが続いた。 「親父さんは何してるんだ?」 「会社員だよ」 「兄弟はいるのか?」 「上に2人。2人とも学生で、姉は外国に留学している」 「そりゃあ大したもんだ。留学先はイッシュか?」 「いや、ブリテン」 「ブリテンに留学か。この国だったら、将来は約束されたも同然だな。そういや、ブリテンは女がトップになったらしいな」 「テリーザ=メイだろう? 仕事はできるけど、付き合いがよくないから、評判は今一つと聞いているよ」 すご~い……。言葉は聞き取れないけど、ちゃんと会話がつながっているのは分かる。すごいすごすぎるわ……。 高速道路を抜けて、目的地に着いた。代金を渡して、こう付け加えた。 「おつりは結構です。とっておいてください」 「そうかい、悪りいな」 タクシーは去っていった。おつりをもらわなかったので、何だか損をした気分だったけど、S君が言うには「コーヒー1杯か2杯分だったからチップとしてあげただけ」といっていた。実にスマートだわ。あいつもこれくらいならねぇ、文句はないんだけど。 ホテルでチェックインを済ませ、通されたのはごく普通のツインの部屋。ベッドが2つに、小さい冷蔵庫に書きもの机、トイレとシャワーがついていた。 こうして、外国での4日間が始まったけど、やっぱり暑い……。ホテルの部屋はエアコンがきいているけど、外は蒸し暑い……。早速外へ。というのもこのホテル、食事がついていないから、自分で何とかしないといけないわけ。 ホテルの向かいに立っている小ぎれいなレストランに入る。席に案内され、メニューを開くと、飛び込んでくるアルファベットの行列。え、ええ? な、何を頼めばいいの……? 運の悪いことにウェイターが注文に来てしまった。ちょ、ちょ、ちょっと、どうしよう……? 「じゃあ、Aセット」 「じゃあ、私、Cセット」 ええ、えええ? えー、えっと、AとCがあるんなら、Bもあるわよね? 「じゃ、じゃあBセット」 「はい、飲み物は何にしましょ?」 「アメリカンコーヒー」 「私、ロイヤルミルクティー」 え? 私? 「ほら、飲み物は何がいいか、だって?」 え? えええ、ど、どうしよう……。あー…… 「あ、あいすこーひー……」 「?」 え? つ、通じてない、どうしよう? 「『アイスコーヒー』じゃ通じないって。しょうがないわね、私が頼んでおくから!」 「あ、ありがと、エモちゃん……」 ああもう、食事でこんな苦労するなんて……。先が思いやられるわ……。 食事が運ばれてきてから、エモちゃんに聞いてみる。 「ね、ねえ。何で、さっき通じなかったの? やっぱり発音?」 「まあ、ざっくり言うとね『d』が抜けてたから」 「……?」 意味わかんなーい。そもそもいきなり実践てハードル高すぎない? そんなこんなで言葉の壁の厚さを実感しまくった4日間だった。南国のフルーツは美味しかった。でも言葉はS君やエモちゃんに頼りっぱなしだった。 帰りの飛行機の中 「どうだった?」 「全然ダメ。ちっとも上達した感じがしない……」 「上達って、何言ってるの?」 「え?」 「そもそも、今回外国に行ったのは、上達するためじゃなくて、いかに自分ができないかっていうのを身をもって知るためだからね? そうすれば勉強する動機づけになるでしょ?」 そ、そうだったの……。それなら最初からそう言ってくれればよかったのに……。てっきり、話せるようになるためかと思ったじゃない……。それにしても、エモちゃん、やっぱすごいわ。かわいいだけじゃないわ。 帰国してから、エモちゃんの指導の下、しごきが続いた。あいつが会社に行ったら、エモちゃんの家に行って、教えてもらい、夜になったら帰る。この繰り返しだった。 「読んで口に出して、覚える。台本の暗記と同じ!」 何だか、あっという間に1ケ月が経ってしまった。やっぱ、休みとはいえやることはあるものね。うだうだしてたらほんとに干物になるところだったわ。 1ヶ月が経った時、家にテレビ局の人がやってきて、とんでもないことを知らされた。実はこの1ヶ月仕事がなかったのも「スターがいきなり暇を言い渡されたらどうするのか」というテレビ局のドッキリに近い企画だったというわけ。あいつは知っていたんだけど、黙っていたらしい。だから、この1ヶ月間はこっそりと密着取材をされているようなものだった。部屋にも隠しカメラがあった。ところが、この企画は思わぬところで頓挫して、番組自体もお蔵入りになってしまった。 外国に行く……まではよかった。あいつが何時何分のどこ行きの飛行機に乗るとテレビ局側に情報を流していたから、当然、同じ飛行機のチケットを取っていた。でも、ここで計画が狂ってしまった。あいつは、私たちが飛行機で乗り継ぎをすることを知らなかった。だから、スタッフは乗り継ぎの空港までのチケットしか買っていなかった。最終目的地を言わなかった私も私だったけど、その時は企画のことなんて知らなかったから。それに、あいつもあまり根掘り葉掘り聞くと、感づかれたり、不審に思われるのでそれができなかったらしい。テレビ局のスタッフも経由地が最終目的地でないということに気付いていなかった。ずっとついていくと、途中で気付かれると思ったのか、経由地の空港の出口に先回りし、出口で待ち構えていたんだけど、いつまで経っても来ないから不審に思い、もしかすると、乗り継ぎで別の場所に行ったのではないか、と考えた時には、時すでに遅し。離陸時間がせまり、チェックインは締め切られていたため、新たにチケットを買うことはできず、経由地の空港でターゲットを見失うという痛恨のミスをやらかした。 結局、1ケ月こっそりと張り付くことが前提だったのに、空白の4日間が生まれてしまい、計画はオシャカになってしまったというわけ。ただ「外国に行く」とだけ言って、最終目的地を言わなかった私も悪いのかもしれないけど……。で、でも、私に責任はないわよね? 知らなかったんだから。空白の4日間のせいで、番組は放送不可能になり、テレビ局は慌てたらしいが、そんなの知ったこっちゃないわ。杜撰な計画を立てた方がいけないのよ。 例の1ヶ月が過ぎた後、私はマニューラさんに会いに行った。まあ、差し入れを持っていくついでに、ね。あの勉強も続けているわよ? 「エモンガやSに会ったのか。2人ともいいやつだったろ?」 「え? 知りあいなの? ああ、オレの主人の上司の友人の弟の末っ子がSなんだ。ちょくちょく会ってるぜ?」 「え、ええっと? なに?」 「てか、あのエモンガ、オレらの世界では結構有名だぜ? 知らないのか?」 「エモちゃんとは友達だけど、そんな詳しい素性までは……」 「まあ、奴はああ見て、謙虚なところがあるから、聞かれない限りは言わないだろうがな。それと、誰しも秘密は一つくらいあった方がいいだろ? オレみたいなスターは特にな。にっひっひ」 (何、その笑い。それと、自分で言う?) おしまい あとがきと、いただいた票ならびにコメント 楽しく読めました。 意味わかんなーいって、随分、かっるいなぁw (2016/09/19(月) 16:15) 面白かったです。やっぱり日常系はいいですね。 (2016/09/20(火) 19:15) まるで作者様の実体験かと勘ぐってしまう様な、もの凄くリアリティがある語学修行。 エモちゃんは一体何者なんだ……。 (2016/09/20(火) 21:37) 読み応えがあって、ちゃんとオチもついていたので大満足でした。これからも期待しています (2016/09/24(土) 17:40) [[呂蒙]]です。文面で分かった方もいたと思います。今回は票が割れるだろうなと予想していたのですが、まさかここまでとは思いませんでした。4票いただいて、4位でした。満足とはいきませんが、それなりの結果であったと思います。投票してくださった皆様、ありがとうございました。 実はこれ、いつも書いているシリーズもののサイドストーリーでした。そのまま出すわけにはいかなかったので、人間の名前はイニシャルにしてぼかすなどしました。手抜きですね。マニューラのお話もその内書ければいいな。何者なんでしょうね?コイツ。 まあ、これ、半分実話です。私も語学は得意ではないのですが、海外に行ったときや、洋書を読む、海外のニュースをじかに見るときなど語学力が乏しいと不便ですからね……。で、英語を勉強するときに言われたのが、エモンガが言っている「聞いて、声に出して読んで、覚える、書くのはあと」だったんですね。効果はありました。TOEICで180か190点くらい上がったと思います。できなくても、実際に外国へ行って語学に触れるっていうのは、中国語の先生がやっていたと言っていたことでした。南京で勉強するかたわら、気晴らしに本場の武術をやっていたとかなんとか。まあ、効果はあるかどうか人によると思いますので、効果がなくても私は責任取れません。 それでは、皆様、またお会いできる日まで。 #pcomment