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Vortice Rovente 06 の履歴(No.2)


全体的にグロ描写多めです、苦手な方ご注意ください



物語を振り返る

Vortice Rovente


written by 慧斗




TURN16.25 閃光の仮面


 カイナシティの壊滅事件から一週間、UBの発生情報もないままぼんやりと過ごしていたが少しは外に出る気力も出て来た気がする。
 玉桂組の生存者を探したい気持ちはあるが下手な行動はかえって危険、こういう時は案外夜の街に繰り出した方が安全だったりするし、ちょっと小銭稼ぎでもするか…


「お願いです、お金はちゃんと払ってますから…!」
「ダメだな、もっと高額の買い手が見つかったんだ」
 路地裏で必死に懇願するマフィティフを一蹴するエルレイドを見ると、平和に見えてかつての戦いの傷が癒えていないことを実感する。
 地上げ屋との交渉だろうがまぁいい、こういうのは下手に関わり合いにならない方が…

「そこの君、助けてくれませんか…?」
 黙って通り過ぎようとしたら気づかれて泣きつかれた。
 これが地上げ屋の方に気付かれたなら上手いこと言って退散できたが…
「なんだお前は?」
「…ただの雇われですよ、そこの方についさっきカツサンドで雇われた」
「そうなんです、ちょっと力仕事をお願いしようと…」
 なんか上手いこと口裏合わせてくれた、後でコンビニのでいいから奢ってくれよとアイコンタクトしつつエルレイドにそっと対峙する。
 敵は奴だけのようだが、クリップボードに挟んでるボールペンに書かれた不動産屋の電話番号からしてこの辺りじゃない。俺の携帯でジャミングかけるから増援は呼ばせないし、楽に行けるか…
「そういう訳でこれから力仕事の予定がありますので、また日を改めて頂けませんか?」
 とりあえず探りを兼ねて脅しを入れた、さぁどう出る?

「ハハハハハ、私を笑い殺そうとでも言うのかね君は?」
「そうだな、そんなにお望みなら一日笑い続けてから笑い死なせてやるよ」
 もちろんハッタリだが、隙を見て一撃で倒すか…!
「分かった、そうする」
 予想とか質問とはかけ離れた回答が飛んできた。
 何かの洗脳にでもかかったか他の奴に何か…?
「ハハハハハハハハハハ!」
 色々推測する俺を横目にエルレイドは突然爆笑しながらどこかへ帰って行った…

「ありがとう、あの社長に地上げされて少し危なかったんだ…」
「そうなのか、本当にヤバくなる前に知り合いとか警察に相談した方がいいぜ」
 明らかに普通じゃない事態が起こったが、幸いそこまで気にしていなかったらしい。
「君は悪い奴をどかす力仕事をこなしてくれたんだ、カツサンドぐらいはご馳走するから私の店においで…」
 本当にカツサンドか、ラッキー…!


 案内されたのは少し広めのバーだった。
 バーカウンターとビリヤード台、ダーツのセットもあり奥ではチェスの対局もやってるらしい。
「これがお礼だよ、飲み物はアイスコーヒーでいいかな?」
「むしろそれがいい、です…」
「分かったよ、それじゃあごゆっくり…」
 用意されたカツサンドにそっとかぶりつく。熱くはないが衣のサクサク感やソースの味も結構いい感じでなかなかいける…
 ぼんやりしていた思考がようやくすっきりして来て、さっきの現象について考察する余力が出来て来た。
 俺の奇妙な呪いじみた能力は恐らく死をもたらす効果がある。今までは相手を焼き殺すことでしか発動しなかったが、さっきは【笑い殺す】という死因を引き起こしたのかもしれない。
 もしそうだとしたら、能力の強化なのか元々あったのかは分からないができることは結構多そうだ。武器を知らずに使うのは危険だとシャイナさんも言ってたし、色々実験して分析しなきゃな…
 UBを倒すこと以外にやるべきことが見えた安心感にアイスコーヒーを飲んで一息ついた時、奥のチェス対局が騒がしくなるのが聞こえた。

「どうする、持ち時間は尽きて一手20秒だが?」
「どうするか…」
 見るからに偉そうにやすりで爪を研いでるブニャットと爪を噛んで次の手に悩んでるレントラーか…
 黒番のレントラーのが旗色悪そうなリアクションしてるが、待てよあの盤面…
 シャイナさんに教えられてチェスの対局もプロに行ける程度はある。
 ちょっと偉そうなデブにお灸据えるついでにあいつを助けてやるか…


「お待たせしました、黒番の代打ちです」
「代打ち…⁉」
「おやおや、敗戦になってからご到着とは君も運がないね…!」
「全くだよ、これから負けるお前がな」
 面食らった表情を見せたブニャットを前に、タイマーの裏に置かれた賭け皿に札を置く。
 わざとらしく財布が空になったのを見せるとニヤリと脂ぎった笑みを浮かべたブニャットも財布から全額賭け皿に乗せた。
「助けてくれるのは嬉しいけど、いくら君が強くてもこの盤面じゃ…」
「君ここのバイト?」
「うん、そうだけど…」
「じゃあ俺の賭けた十万だけくれたら残りは全部あげよう、それで詰めチェスの本でも買って勉強してから賭けチェスやった方がいい」
 持ち時間が尽きて一手20秒になっているが全く問題ない。
「それじゃあ君は…?」
「心配するな、この盤面はMate in 3で黒の必勝だ」
 ブニャットに不敵な笑みを見せてから、タイマーを作動させて左端にいた黒のキングを掴んだ。

「一手目、h6のキングをg6へ」
「ハハハ、キングから動かすとはとんだマヌケ代打ちだな…!」
「本当にね、キングの重要性に気付けなかったヌケサク上流階級さん」
 タイマーを止めて手番が変わるが、向こうもあんま持ち時間ないらしい。
「ビショップ、d2からe1へ!」
 キングの守りを固める動きか、だが遅い。
「二手目、a8のルークをh8へ」
 この一手でブニャットは冷や汗をかいて悩み始めたようだがここでどう動こうが俺の一手ですべてが決まる。
「………c6のポーンでxb7!」
「本来のプロモーション戦法か、だが遅かったな」
 スタンドバトルなら敗北フラグだが、チェスにおいては勝利を確信しているとすがすがしさまで感じるな…!
「三手目、h3のクイーンをh1へ、チェックメイト」
 キングの移動でhの筋を開けて隅のルークを援護に回し、クイーンで逃げ道を封じてチェックメイト、余裕ある勝利だった。

「ぐ ぐーッ! そんな ばかなーッ!」
 格好いい台詞も上流階級にあぐらかいたデブが言うとただの三下というかなんというか…
「ありがとう、本当に君勝っちゃうなんて…!」
「相手も弱かったし、何より君が諦めなかったからだろ」
 UBより手応えのない相手ではあったが、胡坐かいてるやつの喉を噛みちぎって引きずり降ろすのは違った面白みあるな…

 携帯電話が不規則な着信音を鳴らした。UB出現反応か…!
「じゃあ俺はこれで」
 背後でレントラーが何か叫んでいた気はするが、聞こえないままに店を出てUBの出現場所へ急いだ。


「ウツロイドとマッシブーンだけかよ、市街地とはいえ誰もいないうちにさっさと片付ける…!」
 シミュレーションで戦っただけだが、そこまで強い敵ではない。
 ウツロイドは毒とパワージェムに注意してヒートトリガーで攻撃、マッシブーンは筋肉こそあれど下半身は貧弱なのでカイリキーと戦う要領で足を崩すかヒートジョーカーで腕を切断して無力化する、無理なら焼き殺す。
 一番大事なのは恐れず油断せず戦うこと。
 シャイナさん曰く、最近のUBは月下団が戦っていた時より強くなってるらしいが、確実に倒す…!

「………!」
 毒液を躱しながら急所を手早く探して熱をチャージ、足の間にあることを確認したら威力調整を試す意味を込めて中ぐらいの火力で全弾発射。
 6発全弾撃ち込んで倒したが、中2発で倒せてたしこの距離ならフルパワー一発で行けるか。
「……!」
「おっと!」
 物陰でシリンダーに頬の毛から弾を投げ入れてリロードしているとマッシブーンが壁を砕いて襲いかかってきた。
 路地裏でマッシブーンとやり合うには周辺被害も大きすぎるし躱せる場所も少ない。砕かれたコンクリートの破片から身を守るように壁を蹴って飛び上がり、ヒートジョーカーを抜いて熱を送り込んで長剣サイズに変える。
 この距離なら腕、いや胴体ごといける…!
 ヒートジョーカーに熱を送り込んで赤熱化しながら飛び降り、ガードしようとした腕もろとも一気に叩き切った。


「UB反応なし、これで任務完了か…」
 熱を吸い取ってナイフに戻したヒートジョーカーを鞘に戻して帰ろうとした時、背後に気配を感じてヒートトリガーを静かに構える。
「誰だ!」
「君お店にお金忘れて、ってこの近くにUBもいるし、ってあれ…?」
 さっきのレントラーは俺が置き忘れた金を届けに来てくれたらしいが、途中でUBを見て慌てて俺を助けようと来た結果、UBの死体の傍でヒートトリガーを構える俺がいたということで…

「もしかして、君があのUB全部倒したの…?」

「…」
 そっと携帯に【場所を変えよう】とだけ打って見せ、説明を考える時間稼ぎを選択した…


「それじゃあ君はUBと戦うための戦士ってこと⁉」
「…声がデカい、もちろん極秘事項だからな」
 結局このレントラーの住んでるアパートに案内されて色々説明することになった。
 手狭な部屋がさらに狭く見えるぐらい騎獣クルセイダーグッズだらけだな…
 ヒートトリガーをチラ見せして暗に下手な真似できないように牽制はしているが、さっきからの反応は純粋に驚いてるだけなのか…?
「それは分かってるよ、だからもっと詳しく教えて…!」
「へいへい…」
 なんか目を輝かせて来る奴にはつい優しくなってしまうのは何故だろう、シャイナさんにバレたらしばらくトレーニング増量になりそうな気はするが、差し障りのない情報だけ教えるか…

「なるほど、つまり君は秘密裏に世界に侵略して来るUBをポケ知れず倒してるってことか…!」
「…だいたい合ってる」
 なんか騎獣クルセイダーじみてる気もするが、あんま表沙汰にしない方がいいだろうしそういうことに美化しておくか…
「…でもさ、隠れてUBと戦うならパッと見て誰か分からないようにした方がいいんじゃないかな?」
 さっき僕が見て君だと分かった様に、と付け加えられると痛いところを突かれた気がする。
 シャイナさんはUBとの戦闘時に姿を隠すことまでは何も言ってくれなかったからな…
「だからさ、仮面と服を着て戦ってみない?」

「仮面と服?確かに武器使うから問題はないが…」
「そうそう、服を着て仮面を被れば正体を隠すと共に防御力も上がるから君の活動には効果的だと思うんだ。騎獣クルセイダーだって仮面で顔を隠してるんだし…」
「でもあれ顔隠しても体はパーツアーマーだから分かるんじゃないか?」
「そこは作品の都合だろうけど、君は顔も体も仮面と服ですっぽり隠しちゃおうって訳だよ!」
 なんか滅茶苦茶明るいテンションに振り回されていたが、冷静になると色々ツッコミどころが多い。
「…その服はどこで調達するんだよ?」
「僕は趣味の範囲でなら作れるよ。今はまだ服を着るポケモンも専門職の時ぐらいで少ないけど、いつか服を着るのが趣味になるような世界を作るのが僕の夢なんだ」
「…それもそうだが、いきなり信用できるか分からないポケモンの話に乗るってのもな」
「そういや自己紹介まだだったね。僕はネメオスっていうんだけど、家族と将来で揉めて絶賛家出中。バンドもやりたいし格好いい服を作る仕事もしたいしヒーローの力になれる仕事もしたい、そんな夢はあれど今はしがないバイトだよ」
「…本当親ってのはどいつもこいつも、というか最後の夢ちょっと待て!」
「気付いた?僕騎獣クルセイダーシリーズのファンで、小さい頃からヒーローを支えることがしたくて憧れてたところに君に会ったんだ。大体分かると思うけど、折角のチャンスを無下にしたくないから君にとって不利益になることはしないよ」
 …そう言われると妙に説得力がある。下手な綺麗事より利害関係の一致の方がその面については信用できるというか…

「…下手な真似したら即刻射殺だからな」
「信用は勝ち取るから安心してよ、その代わり君の名前とか連絡先ぐらいは教えてよ」
「ナバールだ、番号は俺から鳴らすスタイルで行く」
「それはいいけど、ナバールって君のコードネームじゃないの?」
 こいつ、ガキっぽく見えて案外心理戦強いというか変に鋭いというか…
「ルトガーだ、もちろん外ではナバールにしろ、いいな?」
「それも分かってるから、その物騒な銃を降ろして…?」
 色々奇妙な展開になってきたが、どこか楽しんでいる俺がいるのは否定できなかった。


TURN16.50 死神曰く燃えよフェアリー


 あれから1か月ほど経過して、俺なりに色々動き始めてはみた。
 UBとの戦闘は変わらずだし、服についても採寸して以来なかなかネメオスからの進展もない。
 だが、あいつにも伏せてることは今日少し進展させるつもりで…
「データによると、テスティモーネ・ファータの残党はこの辺りか…」
 綺麗そうな建物だが周囲はゴミが片付けられてない。こういうタイプは決まって性格が噛み合ってないタイプのフェアリータイプの巣窟だとシャイナさんも言っていた。
 外部から防犯システムを探るがジャミング済みなので問題なし、恨みもあるし仕返しがてらちょっと潰すか…!


 門のロックを自動解除して真正面から入ろうとすると、いかにも用心棒らしいフラージェス二匹に止められた。
「何だ貴様!ここはテスティモーネ・ファータの支部だぞ!」
 なるほど、ビンゴか。
「分かった、じゃあ【お前たちは死ね】」
 その一言を声に出した瞬間、背中に熱が駆け抜け炎のイベルタルに変わり、高速でフラージェスを貫き焼き殺した。
 普通に使うと【炎のイベルタルで対象を貫いて灰になるまで焼き殺す】、って感じか。
 幸いまだ実験台はたくさんいそうだし、調べておきたいことを色々実験してみるか。



 一時間で大体のことは分かった。
・一度に出せる命令は6種類まで(ただし命令を出せる総数ではなく一回で同時に出せる命令の数のため、タイミングをずらせば問題なし)
・発動した相手からは発動前後能力に関する記憶が欠落する
・個別発動における対象は俺の五感で認識できていることが条件(吸血と組み合わせれば血の匂いや味の情報でも選定は可能)
・五感は直線的なものが条件、テレビカメラや電話は対象にならないが、望遠鏡や偏光レンズ、鏡といった光学的なツールは使用可能
・五感の射程外でも発動は可能だが条件等は現在不明、今後調査していく予定
・殺し方を指定しない場合は【炎のイベルタルで対象を貫いて灰になるまで焼き殺す】に統一、タイプ相性や特性による影響は受けない模様(それ以外でもイベルタル状の何かが死因を作っている様子を確認済、詳細は不明)
・方法設定は脳内でも可能だが、相手自身に死因を作らせる場合は声に出すことが必要(【転落死させろ】なら脳内で可、【その場で自決しろ】なら声が必要)
・【死の結果をもたらす行動】を強制させることも可能、【一日中笑い続けて死ね】といった命令はもちろん、【最後の一匹になるまで殺し合い、勝者は自決しろ】、【俺の質問に答えて死ね】といった発動も可能
・多重にかけることも可能だが、死が早い方の命令から発動されていく
・一度発動した命令に関するキャンセルや修正は不可能

 今分かるのはざっとこんなところか。
 支部もいい感じに全滅したし、あとは最後の一匹をどうするかだがもう決めてある。
「こ、殺さないで、死にたくない…!」
 完全に戦意を喪失して命乞いをしている青いニンフィアだけだが、そこまで相手にする必要はない。
「安心しろ、すぐには殺さない」
「ひぃっ…⁉」
 たまたま見分けやすい個体だっただけで残しておいたが、返り血に濡れた笑顔で言われても怖いだけだろう。
 記憶の欠落もちょっと怪しいし、一応足しておくか…
「大丈夫、ちょっと俺の実験に手伝ってもらうだけだから…」


 諸々片付けてからネメオス宛の着信が来た。
「久しぶり、元気にしてた?」
「元気そのものだが、今日はどうした?」
「ほら、君にこの前紹介したバンドなんだけどそのギタリストが使ってるのと同じ音の出るギターを知り合いに偶然貰ったから連絡しようと思って」
「…別に俺バンドはしないからな?」
「そう堅いこと言わずにさ、ものは試しだよ?」
 なかなか押しが強いというか何というか、この俺にここまで交渉できる胆力は相当のものだと内心感嘆符を抱きながら空を見上げると、返り血に濡れた青いニンフィアが空を飛んでいたトゲチックをリボンで捕まえて絞殺して微笑んでいた。とりあえずは作動してるらしいがここからが肝心か…

「ねぇ、聴いてる?」
 ぼんやりしていたせいでネメオスに声をかけられたが、丁度携帯から奇妙な着信音も鳴った。ナイスタイミング…!
「悪いがこれから出動だ、一旦切るぜ」
「ちょっと待って、ちょうど完成したんだよ第1号が…!」



 結局出動前にネメオス宅に案内されて着せ替え用ぬいぐるみにされていく。
 レーシングスーツみたいな機能ながらどこか洒落て見える服を着せられて姿見に写る俺の姿は普段よりも細くなってしまっていた。
「結構いい感じだよ!」
「…なんか俺細くなってないか?毛ぶくれする体質なのは知ってたがこれだと細すぎる気も…」
「着瘦せする体質なんだろうね、でも服着てCLAMP体型なら正体分かりにくくなっていいんじゃないかな?」
「そう、かもな…」
 元の骨格雌にモテやすいんだよとフォローはされたが、多分発育不良を未だに引きずってるだけなんだよな…

「まぁ心配しなくても今後も服は新しいの作っていくし、今日は問題なければそれで行こうか!」
 用意されたフルフェイスヘルメットのような仮面を被ると、完全に種族が特定できなくなった。
「これで視界良好なのがすごいな」
「特殊な偏光素材使ってるから、中はクリアでも外からは見えないんだよね」
「なるほどな、今日の出現場所はポケ通り多いし早速役立つな!」
「了解、頑張ってね!」
 服を着る感覚は慣れないが、どこか気持ちが引き締まる。
 ネメオスの服を着て紅蓮錦に跨り、勢い良く現場に急行した。



 市街地にUBが出現したのもあって案の定大パニックになっていた。
 服の重要性を説かれてそれが完成した矢先にこれはご都合主義すぎる気もするが、今は気にしていられない。
 ビルの屋上から紅蓮錦のワイヤークローを飛ばしてテッカグヤの胴体を挟み込み、トリガーを作動させて熱線焼却機構で胴体から一気に焼き尽くす。
 そのまま一気に地上に飛び降りながらヒートトリガーでウツロイドを撃ち抜いて倒していく。
 加速度を上乗せしたヒートジョーカーの斬撃でマッシブーンを横に両断し、返す刃先でフェローチェを斬り捨てる。
 レーシングスーツに隠したスピードローダーで手早く再装填してカミツルギを狙撃してデンジュモクに残弾を一気に撃ち込んで倒した。これで敵UBの反応はゼロ。
 さっさと帰ろうとした時、周囲で怯えていたポケモン達が歓声を上げて駆け寄ってきた。
「助けてくださりありがとうございました!」
「お名前は何て言うんですか?」
 市街地で目撃者が多すぎるが故の弊害というか、これはどうするべきか…
 バスターカートリッジで吹き飛ばす訳にはいかないし…

「あれはもしかしたら都市伝説になってる戦士ファイじゃないのか⁉」
「なんだって!それは本当かい!?」
 なんか周囲が変に納得してる、よく分からないがこの騒ぎに乗じて逃げるか…!



「とりあえず初陣はどうにかなったみたいだね」
「まぁな、正体はバレなかったが都市伝説の話する奴がいなかったら今頃質問攻めだったけどな」
「仮面の戦士ファイ、結構いい名前でしょ?」
「悪くはないが、ってあれまさかお前が…⁉」
 よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりの得意げな顔でネメオスは俺に答えた。
「その通り、仮面のデザインした時から決めてたんだけど我ながらいい感じにできたと思ってるよ」
「ナントカ仮面とか付けられるよりは当然いいが、ファイの由来はどこから来た?」
「アンノーン文字の原型になった文字からだよ。数学用語である空集合、つまり空っぽの意味を持つφから来てるんだ」
「空集合、数学はよく知らないが無ということか?」
「そうでもあるよ。そしてφは0に射線を引く形でゼロじゃない、つまり無ではあるが確かに存在するとか、希望への可能性はゼロじゃないとか、そういったイメージで付けてみたよ」
 空っぽで空っぽじゃない、まるで俺のようでもあるし、空っぽじゃない存在でありたいという願いなのか…
「…気に入ったよ、ありがとうネメオス」
「そっか、良かった!」
 色々フレンドリーで微笑むことも多いネメオスが始めて心の底から笑ったような気がする。

「じゃあ服の新作も色々作ってみるね、どうも体内に蓄熱してるみたいだから適度には放熱できるようにしたいし、格好いいアーマーも追加したいよね、局部をガードできるアーマーはあった方がいいけどトイレは行きやすいようにしないと戦闘に支障でるかもだし…」
 互いの目的が一致しただけなのかもしれないが、それでもここまで俺のことを考えて調整してくれることに嬉しさを感じつつ、こんな俺に何かできることがあればいいが…


「ネメオス、さっき話してたギターで練習させてくれないか?」
「それはいいけど、急にどうしたの?」
「弾き方は知ってるけど弾くのは初めてでな、バンド組むならそれなりに使えなきゃだろ?」
「……うん!」


TURN16.75 血染めのネメオス


 夜のストリートも駅前は帰宅ラッシュも多い中でちょっとしたポケだかりができている。
 こういう時の歌についてはかなりピンキリあって大体キリの方だと偏見で見ているが、偶然にも今演奏しているバンドはピンの方だったらしい。
 ギターとヴォーカルにデジタルサウンドを組み合わせた王道で新しさのあるバンドで、ネメオスの身体から電力を得たエレキギターでラスサビ手前のギターリフを奏で、動力源&ヴォーカル担当のネメオスはラスサビの歌い出しから高音で攻める。
「「BAD COMMUNICATI〇N!」」
 
 …まさか俺とネメオスで服のお礼も兼ねて始めた趣味のコピーバンドがここまでになるとは思ってなかったけどな!

 ネメオスと知り合ってから一年と3か月ほどが過ぎ、UBとの戦闘も仮面の戦士ファイとしてさながら騎獣クルセイダーごっこLv100みたいなこともしてるし、コピーバンドも予想に反してそこそこ名は知れてる、服の方も色々改良が加えられてある種の兵器じみて来た。
 色々シャイナさんから聞いてた情報による危険予測を忘れた訳じゃないが、ネメオスといる時間は少し心が落ち着く気がする。

「今日もお疲れ様!」
「お疲れ…!」
 ストリートライブ終わりにラーメン屋で軽く水のグラスを交わす。
 何だかんだ今日も上手く行って、投げ銭の額面的にラーメンと餃子足してもおつりが返ってくる成果だった。
「そうだ、例の追加兵装もそろそろ本格的に使えそうだよ」
「ニードルバルカンとネイルキャノンか、使ってみたら意外と便利だったからな」
 ヒートトリガーの機構について聞かれたときは色々不安はよぎったが、結果として熱伝導による空気の膨張を活かした機構のアレンジで放熱と共に射撃できる機構が完成するとは思ってもみなかった。
 試験段階での装備にはなるが、いずれは仮面に迎撃用のニードルバルカン、肩口に追加したマントの留め具に連射用のネイルキャノンを本格的に実装する予定とのこと。
 ヒートトリガー程精密性や威力がある訳じゃないにせよ、手を使わずにそれなりの火力で迎撃や牽制ができて、何より6発単位でリロード必須なヒートトリガーに比べて連射性に優れてるのが大きい。
 迎撃や目潰しとかチャフに使えるニードルバルカンはもちろん、ネイルキャノンは上手く当てればUB倒せる火力あるのが大きい。
 これからも戦えるのは俺だけなら装備もそこそこ必要だからな…
「お待たせしました、シンオウ塩バターラーメンとホドモエラーメンです!」
 運ばれてきた塩ラーメンをネメオスに渡して俺も辛口ラーメンをすする。
 辛口ながら旨味もしっかりあって、付属品の卵はもちろん野菜炒めトッピングとも意外に親和性高いのが個人的に好印象。
 ふと窓の外を見ると、青いがプクリンをリボンで捕まえて至近距離からハイパーボイスを撃ち込んでいた。
「なんだ、今日もやってるのか」
「どうかした?」
「いや、思いのほか餃子来るの遅いなって」
「そういやそうだね、っと噂したら焼きたてだよ…!」
「ベストだな、タレとラー油用意するから好物堪能しな!」
「うん…!」


「それなりに食ったな、あの餃子結構美味かったし」
「ここの餃子、実はネットのランキングで上位なんだよね」
「マジか!?もう二匹前食おうかな…?」
「珍しくナバールも食いしん坊モードだな、でも次の楽しみで止めとくぐらいがいいんじゃないかな?」
「…それもそうだな!」
 別れの多い生き方だが、こうして悩まずいられる時間があるのは俺にとっては貴重かもしれない。
もしそんな存在を失くしてしまったら、きっと俺は…

「ねぇ、あれウィルソン議員じゃないかな?」
「…どれだ?」
「あそこで酔っぱらって暴れてるリングマ。あいつあんまいい噂聞かないんだよね…」
「あれか、酒癖悪い奴は嫌いなタイプだ」
 本当酒飲みとかリングマってのはどうしてこうろくな奴がいないのか…
 心の中で毒づいていると、急に空が赤い光に染まる。
 あれは投光器とかの光じゃない、もっとこう炎のような燃える赤…
 その光が点から形に変わる瞬間、リングマの体を貫いて一瞬のうちに焼き尽くした。

「何なの、今のは…?」
「とにかく急いでここから離れるぞ、何か嫌な予感がする…!」
 大パニックになる町の中、ネメオスをお姫様抱っこしたまま高速で駆け抜ける。
 血流と共に加速する思考は最悪の論理思考結果を叩き出そうとしていた。
「あれは俺の能力で作られたイベルタルの形状、そして過去にを狙った命令はたった一度だけ、それも初めて使った時に出したことがある…」
 あの日、グレースを守りたくて願った時に目覚めた死神の力、【リングマよ焼け死ね】のたった一言だけの命令と今の状況を重ね合わせると真実は一つだけ。

「まさか俺の能力は【種族を見分けられても個体を見分けられない】のか…?」

 俺自身も複数匹同じポケモンに並ばれると見分けつかなくなる感覚は前からあったし、敵を確実に撃破しないとどれが敵か混乱してしまうというウィークポイントも自覚はしていたが、能力にもその特徴が反映されていたとしたら、あの命令は未だに達成完了していない判定で、世界中でリングマを見つける度に片っ端から焼き殺していく怪奇現象のできあがり…
 ってことはカイナシティの謎の事件も、もしかして俺がリストに載ってたポケモンを片っ端から指定して【この町のどこかにいる○○を殺せ】と指定したら町中の種族すべてがターゲットに選定されて…
 それで一応謎は半分解けはするが、逆に解決になってない…
 つまり一歩間違えればあの時のグレースも、これからネメオスを危険な目に遭わせてしまう可能性も…?

 次々に不穏な推測が頭を埋め尽くして、ネメオスに家を通り過ぎたと言われるまで走り続けていた…

 

 あれから数か月後の1月末。
 気分転換や景気づけも兼ねてちょっといいホテルのレストランに俺から食事を誘ってみていた。
 ネメオスには「相談したいことがある」と言ってはみたが、本題の中に混ぜて話すかどうかはその時決めるか…

「ここ、結構綺麗なとこだね」
「まぁ、星付きホテルのレストランだからな」
 シャイナさんにこういう場でのマナーこそ学んで習得済みだが落ち着かないのはネメオスと変わらない。お互い無意識にミネラルウォーターを飲んで一息入れようとしていた。

「便乗にはなるけど、ちょうど今日君の服の10作目が完成したんだ!」
「それはおめでとう、でもファイのスーツは特に問題なかったよな?」
「基本は問題ないけど、着脱の時間短縮とか仮面の装着機構のリニューアルとかね。もちろん放熱機構や射撃兵装のスペックアップもしてあるよ」
「なるほどな…」
 確かに最近はUBの出現率や強さも上がっていて、シャイナさんが警戒していた事態も近いのかもしれない。
「運びやすいようにボストンバッグも新調したけど、装着だけで言えばナバールなら5秒もあれば変身できるから群衆の中でも正体ばれないね!」
「5秒あってもその場で姿変われば普通気づくだろ…」
「それもそうか、やはり変身タイムは0.05秒こそ理想なのか…」
 滅茶苦茶真剣な顔で悩んでる、そのうちヒートメタル製のスーツでも蒸着しかねないぞコレ…

「それで、ナバールの相談したいことって?」
「あぁ、実はこれから各地方を巡ろうと思ってるんだが、そうなるとネメオスとはしばらく離れることになるなって…」
「それはいいけど、各地方に何かあるの?」
「…ウルトラホール、つまりUBの出現箇所になる空間が各地方において出現するエリアに法則性があることや、バスターカートリッジで一発ビーム攻撃を打ち込めばホールを破壊してUBの出現を阻止できるってことが分かってきた。だからそこを叩きに行く」
「なるほど、ついに敵のスポーン自体を止めるって訳か…!」
「そのためにしばらくここを離れることになるんだが…」
「いいよ。でも本当に相談したいことって別にあるんでしょ?」
 フレンドリーかつ純真に見えて鋭く本質を捉えたような瞳、やっぱすごいな…
「ご名答、っとメイン料理来るしそれ食べながらでもいいか?」


「なるほど、つまり君は死神の力に呪われてるってことか…」
「大体合ってる、ネメオスはこれを笑い話として聞くか?」
 メインディッシュの肉料理もあんまり味わえるだけの心の余裕がない。
 割と本気でなんとかしたいとは思っていても、普通に聞いただけなら承太郎の悪霊関連と同じ扱いをされても当然の内容。しかも恐ろしさを証明するには目の前で誰か殺さなきゃいけないので下手な証明はネメオスを変に巻き込むリスクも大きいという現状…

「…ぶっちゃけ事情はよく分からないけど、その表情見たら噓じゃないことは大体分かるよ」
 そんな俺の予想に反してネメオスは承った、とでも言わんばかりの顔で俺の皿から付け合わせのきゅうりを食べていった。
 ありがとな…

「とりあえずコントロールの方法を考えるのが妥当だよね、実質ナバールの力って聞いてる感じ暴走フォームみたいだし」
「暴走フォーム?」
「騎獣クルセイダーシリーズで最近よく出る、強い力と引き換えに制御が難しく暴走してしまうフォームのこと。敵を倒すには最適だけど無関係なポケモンを巻き込んじゃったり、制御が難しいのって本当に暴走フォームみたいだなって」
「ってことは制御方法もそれなりに確立されてるのか?」
「鋭いね。基本な対策は二つあって、一つは制御用のアイテムを追加で使うこと。追加の武器だったりさらなる強化フォームへの布石だったり形状は色々だけど、コントロール用の追加アイテムを組み合わせることで上手く力を使いこなすスタイルだね」
「制御用アイテムか、あったら便利だがぶっちゃけ基本の仕組み自体がよく分かって無くてな、それを解析する方が手間かもしれない」
「確かにそこがミソだよね、僕もそういう方面はさっぱり分からないから現状制御アイテムは作れそうにないね…」
「それは仕方ないな、それでもう一つの対策は?」
 アイテム作戦が成立しないことを悟って、ネメオスはグラスの水を飲み干してから深呼吸した。
「それはね、精神論でコントロールすることだよ」


「せいしんろん」
「うん、精神論。要は気の持ちようというか強い心で暴走しないように抑え込むパターンだね、でもこれが案外多くて…」
「…役に立つのか?」
「意外と何とかなってるね。まぁ冷静さ失ったら対処できることも対処できないし、仲間のサポートとか守りたいって思いとかで…」
 そこから先のセリフは爆発音と重なって聞き取れなかった。


「何今の爆発は⁉」
「UBだ、それもテッカグヤより大型の個体らしい」
 携帯の反応を見ながら紅蓮錦を呼び寄せるスタンバイをしていると、テーブル下に置いてあったボストンバッグが俺の足元にスライドして来る。
「だったら戦士ファイの出番ってことかな!」
「ちょっと待ってろ、どこか隠れられる場所探して着替えてくるから…」
「その必要はないよ、みんなパニックになってるし僕が隙を作るからその間にスーツと仮面だけ装着して!」
 目を光らせて俺に合図してきた、そういうことか…!
「了解、時間稼ぎ頼むぜ!」
 ネメオスが電撃を放って周囲のポケモンの目が眩むほどの光量で発光、それと同時にボストンバッグから取り出したスーツに着替えて仮面を被る。
 光が止む頃にはマントも含めて装着完了していた。


「UBは任せろ、避難誘導を頼む!」
「分かりました、お願いしますファイ…!」
 すっかり戦士ファイへの対応に変えている容量の良さを少し寂しく思いつつ、呼び寄せた紅蓮錦からワイヤークローを窓に打ち込み、窓からワイヤーをジップラインの要領で滑って着地する。
「敵は大型はアクジキング一体とその他雑魚が多数、あの浮遊してるのは新型か?」
 フロント近くにいるUBをヒートジョーカーですり抜け様に斬りながら状況を把握していく。正面入口辺りにアクジキングが外部モニュメントを捕食中、だったら裏口に誘導すれば被害は軽微になるはずだしネメオスもそれを想定して動いてるな…!
 携帯電話に新型のデータ登録も完了、仮称アーゴヨンとでも名付けてみたが結構速いな…!
 毒液を躱しながらヒートトリガーで射撃を繰り返し、リロードしながらアクジキングを踏み台にしてZ座標をアーゴヨンに合わせる。
「下手な攻撃じゃきっと通じない、ならば最大火力で仕留める!」
 ヒートトリガーをバスターカートリッジと連結、牽制の毒液をニードルバルカンで相殺しながら逆にネイルキャノンを乱射して羽根を撃ち抜き空戦機動力を奪う。
 負けじと飛んできた竜の波導に合わせてトリガーを引くと、大出力のビームが竜の波導とぶつかり、やがて一方的に竜の波導をうち破って下のアクジキングごとクレーターを形づくりながら消し飛ばした。


「避難もあらかた終わりました!」
「助かった、あとは雑魚UBを片付ければそれで終わりだ」
 サポートをこなして駆けつけてくれたネメオスと情報を軽く交換する。強敵が多くて多少焦ったがあとは簡単だ。
「だったら簡単だ、ね…」
 ネメオスの声が段々ゆっくりになっていく。
「ルトガー、危ない!」
 一瞬のうちに突き飛ばされていた。
 少しだけ遠ざかる視界に崩れ落ちる鉄筋コンクリートの破片が見える、アクジキングが齧ったせいで崩れたのかよ…


「……ルトガー、ルトガー………!」
 俺の本名が呼ばれてる、一体何がどうなって…
 激痛に耐えながら目を開けると、血に濡れたネメオスが俺を起こしていた。
「良かった、大きなケガ、なさそうだね…」
「ネメオス、お前の方が重症じゃねーか!」
 急いで動こうとしたが俺も瓦礫に下半身が埋まって動けない、紅蓮錦を呼ぼうにも携帯も落とした…
「ヒーローを支える仕事、憧れてたから…」
「でも仕事は選べよ!救助隊呼べばまだ助かるから…」
 ネメオスは俺を庇って突き飛ばした時に瓦礫が直撃したらしく、鉄筋が何本か突き刺さっていた。
 敢えて言わなかったがこれなら急げば助かるのが事実、だからネメオスだけでも助かってくれ…

「…大変だ、裏口の方はホテルの看板が落ちたらしくて犠牲者がたくさん出てる…!」
「何だって⁉」
 透視で救助隊を探してたネメオスが青ざめた。
「みんな怖がって怒ってる、きっとあっちに誘導した僕のせいだ…」
「お前のせいではない、このホテルの設計とUBのせいだ!」
 当たり前とはいえ、必死に頑張って事故に巻き込まれただけのネメオスを責める連中も今の俺にとっては敵同然の存在にすら思える。
「とにかくこの瓦礫どかすの手伝ってくれ、それさえできればあとは俺がこのホテル内の敵を全部殺して助けてやるから…!」
 今できるのは一刻も早く敵を全部殺してネメオスを救助隊に預ける、それだけだ…!


「そうだね、僕はこのホテルにいる敵を全部殺さなきゃ…」
「ネメオス、何言ってるんだ…?」
 急にネメオスの言動がおかしくなった。まるで俺の思考を反射しているような…
 まさか…⁉
「僕はこれからホテルにいる敵を全部殺すんだ、ウルトラビーストも、僕たちを非難する敵も、君と僕以外は全部敵なんだ!」
「ネメオス、それは俺の命令じゃない!忘れろ!」
「待っててねルトガー、敵を全部殺して君を助けてあげるから…!」
「待つんだ、ネメオス!」
 優しい笑顔は俺を置き去りにして消え去り、数分後には裏口から電撃の音と悲鳴だけが響き渡った…


 しばらく瓦礫の中でもがいていたが、左鞘にヒートジョーカーが残っているのに気付いた、これに一気に熱を送り込んで伸ばせば…!
 刃が伸びる勢いで周囲の瓦礫を弾き飛ばして脱出成功。携帯もヒートトリガーも回収して紅蓮錦を呼び寄せてホテルの状況を確認する。
 どうやらネメオスは順調に最上階に向かってUBを倒しながら進んでいるらしいが、あの身体じゃ最上階に着く頃には力尽きてしまう。
 そうなる前にできることはただ一つ、先にUBを全部倒す!
 ワイヤークローを屋上に飛ばして一気に巻き上げ最上階の窓からマッシブーンを轢き殺しながら突入、ヒートトリガーやネイルキャノンで片っ端から倒しながら、面倒な敵はワイヤークローで掴み熱線焼却機構で焼き殺していく。
 階段にUBが湧いてるのに内心絶句しつつネメオスがいないことを祈りながらバスターカートリッジで階段ごとUBをまとめて消し飛ばす。エレベーターのカゴも威力を抑えて撃ち壊し、空になったカートリッジを紅蓮錦に置いてエレベーターのワイヤーをつたって階下に降りていく。
 ちょうど一つ下の階でネメオスを見つけた。返り血かネメオス自身の血かも分からないけど、全身を血に濡らし、必死にUBと戦っている。
「ネメオス!」
 最後の敵と思しきデンジュモクに向かってワイルドボルトで突撃するネメオスとシャイナさん直伝の跳び蹴りでデンジュモクを狙う俺の攻撃が炸裂したのは同時だった…



「ネメオス、ごめん、俺のせいで…」
「いいよ、あれ全部僕の意思だったから…」
 仮面を外して衰弱したネメオスと話しながら紅蓮錦で外に脱出したが、今救助隊が来ても助かる見込みはない程にネメオスは弱っていた。
「仮にそうでも、こんな目に遭わせた俺に恨み言の一つぐらい…!」
「何言ってるの、僕は君のおかげで夢を諦めずに済んだんだ。むしろこれはささやかな恩返しみたいなものだから…」
「なんでそう、前向きに…」
 一気に脱力感が襲ってきて座っていられなくなった、出血こそないが俺も大概ダメージ負ってるんだったな…

「ルトガー、今助けるから…!」
 膝の上で弱っていたネメオスはゆっくりと起き上がってきた。
「確か、君は吸血を覚えてたよね…」
「やめろ、これ以上無茶したら死ぬぞ…!」
「僕の血ってそんなに美味しいかは分からないけど…」
「やめてくれ、死ぬな…!」
 正反対の願いは届かないまま、ネメオスは俺の口にそっと血に濡れた口を重ねた。
 鮮血が俺の口に流れ込み、牙に染み込んで体に力がみなぎっていく。
 無意識に絡め合っていた舌も、ネメオスの力が弱まっていき、自然に口ごと離れていった。


「ネメオス…」
「必ず勝ってねルトガー、ウルトラビーストに、そして、君自身を縛る呪いに…」
 ゆっくりと俺に微笑んで見せて、そっと眠る様に目を閉じた。


 別れの言葉も思いつかず、【さようなら、またいつか】とだけ呟いて仮面を被り直し紅蓮に跨った。
 行こう、この力が呪いだとしても、今はUBを止めることだけを考えて動くだけだ。
 呪いをどうにかする方法はこの戦いの中でなにかしら見つけてみせる。

 場合によっては俺自身を止めてでも呪いを止めてみせるから…
 ありがとう、ネメオス…



 to be continued…


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