大会は終了しました。このプラグインは外してくださってかまいません。
ご参加ありがとうございました。
エントリー作品一覧
書:烙雷
どうもー、ガメノデスです。ガメノ、ですですじゃないねんな、ガメノデス、です。まぁそう言うのはどうでもよくて。
最近パルデア地方でテラスタルがよう流行っとるらしいやないですか。ガメノデスもまぁやってみたいとおもたんですよ。ほら、ガメノデスって岩タイプやからさ。宝石みたいになってみたい願望ってめっちゃあるんです。岩の中でもキレイな光沢のある岩になってみたいってガキの頃のどっかで思うもんやねん、岩タイプは。
え、岩タイプだったんって? いや正真正銘岩タイプやん。もう見た目からしてごっつ岩タイプやで。そもそも見た目思い出せへんて? 失礼すぎやろ自分。スマホロトムで検索したら出てくるから覚えて帰ってや。超絶プリチーやろ、見た目。まぁ目の前におるんやけどな、超絶プリチーが。おい、今鼻で笑うたやつ。《つめとぎ》しとくからな。
一旦それは置いといてな、そんで飛行機乗せてもろてパルデア行ったろうおもて、旅行会社にお願いしてええプラン作ってもらおうおもたんですよ。そうそう、こう見えてもガメノデス、漫談家としてそれなりにお金いただいとりまして。まぁ見てくれてる皆さんのおかげです、いつもありがとうございます。ねー、そこの僕もありがとうございます、ちーちゃいのにガメノデスの漫談聞きにきて、将来笑いの天才なってまうな。もっとオモロいネタ話してくれたら天才なれるかもしれへんかー、すまんなーオモロないネタでって喧しいわ。もうめっちゃオモロいやろがい。贅沢言いよって。そんな生意気言うガキの為にもうちょいギア上げたるか。
まぁそれなりにいい感じの旅行プラン組んでもらおうおもてな、窓口行ってパルデア行きたいんですけど、なんかいいプランないですかねーって聞いてんけど、なーんかみんなノリ悪うて。なになにどうしたんよーみたいな感じで、ほんまにえきらん感じの反応ばっかされてたから、なんか言いづらいことあるんかなーって考えたとき、ふと思い出したんですね。
何思い出したかって、最近地方によっては行けないポケモンがいるとか言う、そう言うやつ。確か環境保全とかそんなん言うて行ったらあかんってされとるポケモンもおるらしくてな、まさかガメノデスも引っかかってないやろっておもて調べたら、見事に入れんポケモンにリストアップしてて。そんでマジかー行かれへんのかーって思わず項垂れてもたわ。
ただな、風の噂では最近はそれが緩和されてな、伝説のポケモンさんも行ってはる言うてて。ガメノデスもいつか行けるようになるかもってネットでは書かれててんな。でもまぁおかしいやん、絶対環境への影響考えたらガメノデスよりカイオーガの方がやばそうやん。なのにガメノデスは今も行かせてくれへんって絶対おかしいやん。見た目がカイオーガより怖いやって? 自分ら、世の中には言わん方が幸せになる言葉があるんやで。
とにかくその時はガメノデス頭がズガドーンなってな、こんな差別は許せん、一回だけでええから行かしてくれてもええやんけ言うてな、ガメノデス楯突いてん。そんな選民主義みたいな考えしてたら、今度はお前が追い出してやるぞと、もうやめといた方がいいぞと。ガメノデスこわーい顔してそう言ったってん。いや、普段はプリチーな顔やけどな。ガメノデス。
しっかしこういう風に言うてみても、ホンマに反応悪くて。もうこんな仕打ち受けて無視されたらムカつくわ、ホンマにしばいたろかって思ったその時に、ようやくきぃついたんよ。話してる相手、人間やないか。ハッと周り見渡したら人間用窓口やってん。そら言葉通じへんわな。ガメノデス、受付さん困らせてスマンデス。
***
「本日もお疲れ様でした」
段々と冬の始まりを告げる冷気が外で吹き荒れ、スカビオサの花々がその花弁を揺らす中、漫談を終えてきた彼に私はそう声をかける。彼は目を顰めながら、手を払うような仕草をした。
「堅苦しいからやめい言うとるやろ、エレザード」
「業務中ですから、謹んでおこうかと思いまして」
「おうおう、生真面目でええこっちゃなぁ」
恐らく字面通りの意味では発言してないであろうその言葉を背にしながら、私、エレザードは控え室のドアを開ける。すまんな、と一声かけてガメノデスは中へと入っていく。それについていきながら、控え室のソファに並んで腰掛ける。その時、ガメノデスはだぁーっとダミ声を上げて座っていた。
「もうちょいなんとかならんの」
「何がよ」
「座り方よ、座り方。おっさんくさすぎるわ」
「おっさんくさいってなんやねん、自分も同い年やろ」
「せやけどな」
喋り方を崩しながら、私はガメノデスの近くの椅子に腰かけ、コガネ弁でこう言った。ガメノデスのマネージャーという立場上、人目がつくところでは敬語で彼に話すが、二人でいる時は水臭いとガメノデスに拗ねられてしまうので、タメで話すようにしている。公共の場でため口を使ってしまわないかよく心配になるが、自分としても肩の力が抜けるから悪くはないかもしれない。
「まぁガメノデスの控え室やからええねんて。この瞬間は誰も見に来んやろ」
「私は見とるんよ」
「許してぇや、もう十年の付き合いやん」
「まだ九年やわ」
「直になるやろ。あと一ヶ月もしたら十年やで」
大体一緒や一緒、と机の上のお菓子をかじる彼。そんなおっさんくさくなってしまった彼のマネージャーについてからもうすぐ十年かと思うと存外長い付き合いになったものだ。十年というと、私の人生の三分の一を占めるのだから、改めて考えるととても長い時間を彼と過ごしたのか。この間に彼のソロ活動を軌道に乗せることのために、無我夢中に頑張ってきたが、少しは彼の役に立てたのだろうか。そんな風に物思いに耽っていると。
「なぁ」
「どうしたん?」
「ガメノデスの野望、聞いてくれへん?」
珍しく改まってそう言うガメノデス。えらく神妙な雰囲気に感じたが、何を言うつもりかも察することができなかったので、私はただ頷いた。
「いやーな。ガメノデス、それなりに漫談で稼げてるやん。飯に困ることなんてあらへんし、旅行も行けるし。けど、なんか足りへんなーって」
「お給料あげろって話?」
「ええんやったらお願いするわ! 手取り月五千万で頼むな!」
やけに回りくどいもんだから茶化してみると、ガハハと笑って冗談を抜かすガメノデス。それは気丈な振る舞いに見えるが、なぜか違和感を覚える。普段から舞台に出ているためか仕草や声色に変化があるわけではないが、どこか取り繕っているように感じる。だがその正体が分からないため、彼の言葉を黙って聞く他なかった。
「ま、してくれるんやったら大歓迎やけど。ワイの野望はそんなチャチなもんやあらへん」
いつも通り、飄々とした声で彼は一本、指をピンと立ててこう言った。
「漫才でな、今度のグランプリのトップ取りたいねん。ピンもいいねんけどな、やっぱ漫才でトップ取ってみたいやん」
今度のグランプリというと、もうすぐ行われる全世界トップの漫才師ポケモンを決めるグランプリ。丁度、直に今年の参加〆切が迫っているところだった。その願いを聞くと、漫談でそこそこ人気になっている彼がどうして今更とか世論では言われるだろう。私としては、驚きはしなかった。だが、その野望を素直に応援はできなかった。
「それは、勧められへんけどなぁ」
「もう大丈夫やって、十年以上前の話やで?」
「でも、ガメノデス。あの時の君、見てられへんかったで」
「せやなぁ。あの時は最悪な気分で大分長いこと燻ってたわ。何回お笑い引退しようか悩んだこともあった。でも、大丈夫やろ。ガメノデスのこと、そんな繊細に見えるか?」
そう言われてしまうと、マネージャーとして止められるはずもない。知っているから。私は彼がどれだけその夢に焦がれていたのか。どれだけその夢にたどり着くために努力しているのか。それを見ていると、助力することを惜しめない。例えそれが、彼をまた苦しめてしまうんじゃないかと思っていても。
「事務所の後輩、紹介する。丁度相方探してるポケモンもおったからな。けど、無理せんといてよ」
「ガメノデスはクッソ楽しんでお笑いやってるんやで。無理も何もあれへんわ」
カッカ、と豪快に笑う素振りを見せるガメノデス。一抹の不安を拭うことができなかったが、それを止めることもできなかった。
多種多様な漫談家や漫才師のポケモンたちをプロデュースする、トカモト興行。その事務所に戻り、会議室へとガメノデスを案内する。こんなおっきい部屋やのうてもいいのに、とガメノデスは言うが、彼はもう大御所に足を踏み入れ始めた中堅の漫談家だ。上もそれなりにいい待遇で迎えたいらしく、手配を頼むとかなりいい部屋を用意されてしまう。そう言いつつもそこにソファがあればドサリと座り大きな態度を取っているのだから、心の底では喜んでるんじゃないか、と邪推してしまう。そんな会議室に、ノック音が聞こえる。どうぞ、とガメノデスが言うと、ぎこちない敬語と共にポケモンが現れた。
「よろしくです、ガメノデスさん」
「おう、ルガルガンくんよろしく頼むで。後、ワイらコンビなるんやし、タメでええで」
「じゃあそれに合わせる。後、ルガルガンで呼ばれると兄と被る。ヨルで呼んで」
「オッケー、ヨルくんね。お兄ちゃんも俳優さんやっとるもんなー。了解了解」
うんうん、と頷くガメノデス。その様子を表情をビタ一つも変えることなく、真顔で見つめるルガルガン改めヨル。有名俳優の兄を持つ彼は、つい最近コンビを解消して暫くはソロ活動をしていたのだが、やはりコンビで仕事したいと相方探しを始めていたため、今回このマッチングが相成ることとなった。ただ、自己紹介では波が立たなかったが、ガメノデスは知っての通り、そしてこのヨルもかなり棘がある方だと聞いている。見た目の話ではなく、言葉遣いや性格が。馬が合うといいが、と心配していたが。
「ガメノデスとコンビ組めるの、嬉しい。絶対面白いネタ作れる」
「おー、ヨルくん見る目あんねー! ワイもヨルくんのネタ好きやから、ゴッツおもろいの作ったろ!」
意外と、話している雰囲気は悪くないようだ。個性派同士、上手く歯車が噛み合ってくれたのか。会話は弾むようだし、ガメノデスはやたらと上機嫌に話している。この関西弁ガンガンのハイテンショントークに静かな方に見えるヨルがついて行けるのかが心配になるが、しっかりと目線を合わせて頷いているあたり、関心は示しているのだろうと思う。そのままの雰囲気でネタ合わせが始まりそうになったので、私はガメノデスにこっそり一声かける。
「……どうですか、体調優れておりますか」
「バッチシやで。そんな心配せんでええよ」
そうは言われても、過去の貴方を思うと心配してしまうのだが。とはいえそれを伝えたところで重荷になるだけだろう。何よりこのことに関する決定権は彼が持つべきものだ。だが、異変を感じたらすぐに止める。それがマネージャーの役割だと私は念を押されている。心配する気持ちはあるが、私は歩を引き、見守ることにした。
ネタ合わせは、順風満帆そのものだった。ガメノデスが上機嫌に笑いながら、これどう、あれどうとマシンガンのように問いかけると、頷きながら読み上げてみるヨル。それにお腹を抱えながら手を叩いて笑うガメノデス。自分のネタにここまで笑えるのか、といつもおかしくなるが、ガメノデスはそう言う奴だ。それに、ヨルにセリフを読み上げさせると、聴こえやすい声なのに平坦なトーンで読み上げるものだから、シンプルに大笑いを狙うネタのはずなのに、なんとなくシュールな笑いが込み上げるのだ。しかし、ガメノデスが誰かとこんなに楽しげにネタ合わせするのは一体いつ以来だろうか。仕事の合間にも頻りにネタ合わせをしており、お互い夢中でネタを作っているように見えた。
「これ、やりたくない」
「……え?」
そう、ヨルが拒否の意志をはっきりと示す、この瞬間までは。嫌な空気感を察知して、ヨルの発言を止めようとしたが、その続きはすぐに発された。
「ここのノリ、オレがやっても冷める。ガメノデスがやらないと、面白くない」
淡々とそう言う彼。マズい。彼の言葉は、素朴な疑問を問うような、悪意が一欠片も感じられないトーンだったが、どんな言い方だろうがその言葉は今のガメノデスには劇薬なのだ。様子を伺うと、目の焦点があってない。私は急いで駆け寄った。
「ガメノデス! ガメノデス、しっかりしぃや!!」
だ、大丈夫や、とかすれ声で言っていては説得力が無い。息を整えようと大きく肩を揺らしているように見えるが、それが過呼吸を助長する。これは以前彼がコンビを解散した時も同じ状態になった。
『このネタって、僕いるんかな。全部、ガメノデス一匹でやった方がおもろいんとちゃうかな』
そう、彼の相方がそう言って姿を消したときのことだ。その時のガメノデスの取り乱し様は見ていられなかった。それがトラウマとなってか、以来ガメノデスは別のポケモンと組んでもネタを作れなくなっていた。そして、その時に出ていた症状が、今発露した。やはり、無理だったのだ。ネタ作りをしていると、こう言った衝突は避けられない。異変が起こったからにはもう見逃すことができない、と思ったが。
「ごめん、オレまた言葉足りなくて。前の相方も、怒らせちゃったのに。ネタ作ってくれたのに、酷いことしか言えなかった」
すぐさま詫びを入れるヨル。確かに彼の言葉に少し棘があったようには思うが、これはガメノデスのトラウマに触れてしまった不運でしかない。しかしそれでも、これ以上組ませられないと言うことを伝えなければならない。それは、最近相方を失ったヨルにとっても辛いことだろう。その板挟みに言葉を詰まらせてしまった。だが、そのどうしようもない空間を打破したのは、ヨル自身だった。
「えっと。オレはあんまり表情に感情出ない方だから、その大袈裟なボケツッコミはオレがやると面白みがなくなると思ったんだ。だから、こういうのどう。オレが生意気な口叩いて、それに対してガメノデスは大声でツッコむ、みたいな」
そう、ゆっくりと説明するヨル。いつもの平坦なトーンではなく、はっきりとガメノデスに伝えたいと言う感情が伝わるような、そんな迫力を感じる。その言葉によって、ガメノデスは落ち着き始める。一つ、深呼吸をした後に、ガメノデスは頷いた。
「ええと、思う」
「うん。じゃあ、ネタ詰めてみよう」
また和気藹々とネタ合わせを進めていく。意外にも、あっさりとガメノデスの平静を取り戻すことに成功していた。ガメノデスの顔色も、晴れやかになったように感じる。あぁやって取り乱した時、他に相方になってもらえたポケモンたちは怯えるか怒るかのどちらかの反応をしており、ガメノデスの心の傷が深まるばかりだった。だが、彼は感情をぶつけるのではなく、ただネタに対して真摯に向き合っていた。冷静に自分に向いていないことを説明し、そしてそのネタの代案を提案したことで、ガメノデスの中で作られていた悪い予定調和が崩されたのだ。そのおかげか、段々とまたガメノデスはいつもの明るさを取り戻していき、またネタ合わせがヒートアップする。私はそれを呆然と見つめていた。
そのままの勢いで休憩時間に差し掛かり、ヨルがこの部屋を出ようとした時、私は彼に耳打ちをする。
「ありがとうございます」
「え? オレ、マネさんに礼を言われること何かしたっけ」
「いや、失敬。私の思い込みも、貴方のお陰で晴らされたので」
「……? どういたしまして」
不思議そうな顔をしていたが、それでも私は彼に感謝の意を表する。きっと、こちら側の事情を理解して、意図して発言したのでは無いと思うが、それでも彼の言葉がガメノデスの思い込みを晴らしてくれたことには変わりない。自分のネタ作りが、相方を潰してしまうのではないかという不安を。そして同様に、私もガメノデスが漫才をするのはもう難しいのではないかと思い込んでいたことも、払拭された。
これならきっと、大丈夫。まだ危ういところはあるだろうが、このコンビならなんだかうまく行くような気がする。その予感は間違いではなかったようで、それからのネタ合わせはスムーズに進んでいく。そして、グランプリ当日。大勢の前で、ついに彼らのネタが披露されることとなった。
***
「どーもー、ガメノデスですー!」
「ども、ルガルガンのヨルです」
「二匹合わせてー?」
「「ヨルナンデスです!」」
「いやー、最近ミアレシティが都市再開発してるみたいやね!」
「確かに、この間見に行った時はたくさん立ち入り禁止の看板があった」
「そうなん? いつ頃行ったんよ?」
「イワンコの時」
「ヨルくんそれだいぶ前やないか。進化したんいくつなん?」
「九歳」
「今の年齢は?」
「二十歳」
「十年以上前やんか! 絶対それ違う工事やわ全くもう」
「てへぺろ」
「てへぺろやあらへんがな! あー皆さん可愛い言うたらあかんでつけあがるから。勘弁してやホンマ。可愛い言うんやったらガメノデスに言うてな」
「えー……」
「おい先輩やぞ、少しはおべっか使えやホンマ!」
「古典的」
「誰の考えがレガシーや! もう、話戻すで! しかしカロスはなー、ワイの生まれ故郷やからな。ガメノデスも帰って都市開発のお手伝いしたいなぁって思うんや」
「え、お手伝いできるの?」
「失礼な、こんな立派なおててあるし、腕力もバッツグンやから何でも手伝えるやろ」
「いや、入国審査通るのか」
「あー、カロスに帰れんくなるんね、今流行りの環境保護って観点でってやかましいわ。流石に地元やで、いくらガメノデスがとんでもなく美しくても帰してくれんと困るわ!」
「美しい……?」
「美しいやろ、カロスの自然にも遜色ない美しさやで」
「岩場の茶色にも調和する醜さ?」
「どうやったらそう聞き間違えんねん! ホンマにもう、とにかくお手伝いしたいんよ都市開発の!」
「でもガメノデス不器用だし手伝うの難しいんじゃない?」
「いやこう見えて不器用ちゃうでー、ガメノデスめっちゃ器用やもん」
「本当に?」
「ホンマよホンマ!」
「じゃあ、オレが工事現場でも動けそうかテストする」
「予行演習にもなるしええやんか、やってみてや!」
「うん、じゃあ始めよう。オレは現場指導員やるから、ガメノデスは下っ端ね」
「おうおう、任せとけ。シャカリキ働くで〜!」
「減点」
「なんで!?」
「私語は慎む」
「いやもう始まってるんかい!? 始める時は合図出してや、分からへんやろ!」
「働くポケモンには察する能力、必要。守ろう、てぃーぴーおー」
「いやせやけど意気込んだだけやん!」
「減点」
「なんでや! あかんあかん、取り敢えず実技見てくれへんか! ウチらポケモンやから言葉は人間には通じへんさかい、言葉は一旦無視しよや!」
「致し方なし。じゃあ荷運びやってみよう」
「任せてや、バシバシ建材運ぶで……よいしょ、っと」
「持ち方が違う」
「え、そうなん? 詳しいやん」
「これはこう持った方がいい」
「あぁ、確かに身体に負担かからなさそうやな!」
「それで、こうして、こう」
「……えっ、おう分かった」
「このままイスのポーズで三十秒キープ」
「いやヨガやらすな! なんでヨガのポーズさせとんねん!」
「身体が健康になったらカッコよくなる、カッコよくなったらカロス行ける確率上がる」
「それは一理あるなー、じゃないねんな。ガメノデスが現場の手伝いできるか確認して欲しいねんな! 誰もシェイプアップしてイケメン度増し増しにしたいんとちゃうねん!」
「シェイプアップだけじゃイケメン度足りないと思うけどね」
「ホンマに失礼やな自分!? ええから実技見て実技な」
「じゃあも一回建材運ぶとこ見せてよ」
「はいはいはい……こうでええか?」
「全然ダメ、五十点」
「ホンマに? 何が悪いんか分からへんねけど」
「まず膝曲げる」
「はい、これぐらいやな」
「両手を頬に当てて、少し目線を上に」
「いやこれまた変なポーズやんかこれ!? なぁ聞いてる!?」
「はい皆さん、貴重なガメノデスのぶりっ子ポーズ、スクショタイムですよー」
「おいこらぁっ!? ガメノデスの変なポーズを撮らすなぁ!」
「大丈夫、プリチーなやつネットで上げてくれるよ多分」
「ほなかまへんか……いやちゃうねんな! 手伝う準備したいねん! もう最後やからな、それ踏まえてテスト頼むわ!」
「がってん承知の助」
「言い方古いな! 頼むでホンマに」
「じゃあ紐縛ろう」
「おう、建材を縛るんか?」
「いや、ガメノデスを亀甲縛り、カメだけに」
「なんでやねん、名前にカメ入っとるだけやんけ!! もうええわ!」
「「どうも、ありがとうございました」」
***
番組の終了と共に、うねる様に鳴り響いていた拍手の音が徐々に静かになっていく。その熱気を奪い取ってきたかのように、熱意のこもった表情で彼らが帰ってきた。
「お疲れ様です」
「おう、おおきに。でもアカンかったなー」
「うん、二回戦敗退だね」
帰ってきた彼らに労いの言葉をかけると、悔しそうにしながらもいい表情をして返答する彼ら。手放しに完璧だとは言い切れない結果ではあるが、彼らが無事にネタを披露できたことに安心した自分がいる。なにより、彼らが仲睦まじく漫才をできていることに、まるで親の様に喜んでいた。だが、彼らはここを終着点とは考えていなかった。
「ま、即席の割にはオモロかったんちゃう?」
「もっとできる、オレとガメノデスなら」
「い、いやヨルくん。そりゃワイもいけると思うけど、照れるでそんな面と向かって言われたら」
「だって、本当に思ってることだし」
それこそ恥ずかしいがな、とヨルをどつくガメノデス。一瞬身じろぎするが、顔は寸分たりとも動かさない。少し付き合ううちに、彼は表情には出ないが言葉は素直だと分かるようになった。だから、きっと彼は本当にガメノデスとのコンビに満足しているのだろう。それに何より、次を見据えている。その熱気にあてられて、ガメノデスもまた静かに闘志を燃やしているように見えた。
この一区切りに、私は感動を覚えざるを得ない。無事、彼らがグランプリを終えることができたことは、あの時には考えられなかった。そして、また次回への闘志を燃やしていることも。長い時間を経てもまたガメノデスの夢は叶わなかったが、歩みを進められるということだけで、マネージャーとしてはとても嬉しい。そう思っていると、仕事用のスマホロトムに届いた通知に、私は胸を鷲掴みにされた様に感じた。
「ガメノデス! ちょい、来て!」
「は、はい? すぐ行くから待ってや」
慌ててガメノデスを呼び、立ち上がるや否やすぐに腕を引いて連れていく。もしそれが本当なら、絶対に今のガメノデスに会わせてあげるべきだ。何も事情が分からずに狼狽するガメノデスを尻目に、早歩きでスタジオの出入り口へと向かった。
「なんやこんなとこ連れてきて……って、自分は……!」
到着するや否や愚痴を吐くガメノデスだったが、驚いて口をあんぐりと開けるガメノデス。私だって驚いたのだ、ガメノデスが驚かないはずがない。暫く静寂が続いた後、ガメノデスは躊躇いながらも片手を上げて声をかけた。
「ど、どやった。めっちゃ、オモロかった?」
声を震わせながら問いかけると、ニコリとそのポケモンは笑う。近くの花壇では、冬の寒さでいくつもの花々が散り行く中、黄色のスカビオサだけが満開に咲き乱れていた。