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交わった緑と黒 の履歴(No.2)


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交わった


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Illust: 放狼丸カズヒ(敬称略)



 晴れやかなお昼時、燦々と照らす陽の光を黒々とした体に浴びつつ散歩を楽しむあごオノポケモン。二メートルを超す体躯は硬い鎧状の皮膚越しにも隆々とした筋肉の存在を主張して、凛とした顔立ちと色違いの黒い体色が、雄々しい魅力に華を添えている。
「熱くない? 木陰で休む?」
 隣で身を案ずる人間の男性は、彼のご主人。種族柄汗をかかない事と吸熱しやすい黒を纏う事から、時節柄熱中症を特に警戒していた。
「そうさせてもらおう」
 と、黒いオノノクスが頷き、彼らは公園の大きな木陰に入り込んだ。鞄から水の入った大容量のペットボトルを取り出し、キャップを開けて黒竜に手渡すと、それを頭から浴びた。端整な顔立ちから顎の刃、黒い皮膚へと熱を奪いながら流れて行き、木漏れ日を反射して煌めく。
「水浴びするハルバードも映えるなぁ」
 と、その光景をスマホロトムで写真に収めるご主人。武器の名を賜ったオノノクスはそれに気付いてポーズを決めるも、水が目に入って頭を震わせた。
 体が冷えた所で、近くの自販機で買ったばかりのサイコソーダをふたりで飲む。その刺激的な冷たさは、体の内側からも心地よく熱を奪う。
 濡らしたばかりのタオルを首に掛けたハルバードは、水気の残る体と相まって風呂上がりのよう。タオルの白色とのコントラストが、彼の魅力を一層引き立てていて、ご主人はさり気なく一枚撮った。


 完全に冷えた所で、再び散歩する彼ら。快晴の空の下、歩き慣れた道をのんびり進んで行く。その視界の一角に、見慣れない物を捉えた。
「なんだ?」
 ご主人は首を傾げる。ポケモン……にしては異質な、見た事のない風貌。黄緑を基調として胸から腹、そして長い尻尾の一部にかけて黄色い領域が目立ち、それより濃い目の色をした頭の二本角、そして背中には翼が生えている。タイプで言うなら恐らくドラゴンが適当だろうが、リザードンという例外もいるため真相は分からず。どうやらその異形は昼の陽気に眠っているようだった。
「ご主人、どうする?」
「見なかったことにしよう」
「そうだな。俺も無駄な争いはごめんだ」
 何事もなかった素振りで通り過ぎようとしたが、突如瞼が開いて、オノノクスと同じ赤色の瞳が露になった。異質な存在は即座にハルバードらに向けられた。ハルバードは目つきを更に鋭くして咄嗟にご主人の前に立ち、黒々とした盾となる。
「おいおい、そんな警戒しなくたっていーじゃねえかよ~」
 開口一番のほほんと笑顔を見せる謎の存在。
「どう見てもこの世界の者じゃないだろ。ご主人に触れようものなら、この爪と牙で八つ裂きにする!」
 顎の刃と赤い爪を輝かせながら、威圧的に構えた。それでも動じない緑。
「まあまあ、俺は別に傷付けたり手ぇ出したりする気はねえよ。俺だってポケモンの知り合いはいるし、ただこの世界に飛ばされて右も左もわかんねえからちょっくら助けてほしいだけよ」
 快活な口調で危害を加えない事を主張する緑のドラゴン。それでもハルバードは未だ警戒を解く仕草を見せない。
「俺はソルヴァ・フリード。変な実を食べたせいでリザードンやカイリューみたいな体になっちまってる、魔法が得意なただのドラゴンだぜ」
「魔法が得意な時点でただ者じゃないだろ……」
 ハルバード達は渋い反応をするが、構わず続ける。
「その体じゃ熱そうだな。だったらよ」
 とソルヴァが指を鳴らすと、ハルバードの周りに心地よい風が渦巻く。これなら確かに日光の熱も即座に奪って快適そうだ。
「これくらい朝飯前ってわけ」
 ソルヴァは牙を見せて笑った。ご主人とハルバードは小声で相談を始める。怪しさ満点ではあるが、悪気はなさそうだし、ポケモンの事も知っている。数分の話し合いの末に、ご主人は手を伸ばした。
「変なことさえしなきゃ、君が戻れるまで僕がこの世界で面倒見るから、ついておいで」
「お、マジ!? ありがてえ!」
 ソルヴァは嬉々として腹を揺らしながら走り出し、ご主人の手を取った。その光景に視線を険しくするハルバード。
「少しでもご主人に変なことをしたら、命はないと思え!」
「それはやりすぎ」
「さすがにご主人が不用心すぎるから、俺が圧をかけねばな」
 ハルバードは荒く鼻息を吹いた。そこから帰路に就こうとするも、ご主人はソルヴァに再び目を向けた。
「君みたいな見慣れない姿が一緒にいると色々とまずいから、翼があるなら空高く飛んでついてきてくれるかな?」
「え、マジ!!?」
 ソルヴァはぎょっとする。自分の体を見ながら翼を動かし、苦笑い。
「……しかたないなー」
 ソルヴァは懸命に羽ばたかせ、丸い体を浮かせた。そのまま公園の木々よりも遥か高くまで飛び上がり、それを確認した時点で家へと歩き出した。
「なんかあいつきつそうだぞ?」
 流石のハルバードも些か心配そう。
「だってしょうがないじゃん。お前は顔が知られてるんだから、ソルヴァ君の件で騒ぎになったらもっと自由に外出られないよ?」
「まあ、それはそうだが……」
 とこれ以上は口を噤んだ。ハルバードは自らの意志で自身の筋トレの風景をご主人の手によってライブ配信している。色違いで体格もいい事からチャンネル登録者は着実に増えて、僅かながら収益を得られる程にまでなっている。彼自身はそこまでの自覚はないものの、やはり自由に出歩けないのは嫌だと分かる。結局ご主人の言う通り、ソルヴァを空高く飛ばさせたまま帰宅した。



 家に到着し、ようやく地面に足を着けられたソルヴァ。汗だくで息も絶え絶えで、相当な運動量だった事が窺える。
「俺に空を飛べってなかなか残酷なこと言うなぁおい……」
「いい運動にはなったんじゃないか? 俺より背が低いのに、リザードン以上に重そうだもんな」
 汗で艶めく丸く黄色い腹部に目を遣ったハルバード。引き締まって腹直筋や腹斜筋が黒く硬い山脈を作り出す自身の腹部とは対照的だった。
「まあ俺、二百キロはあるしな……」
「に、二百!?」
 ハルバードは思わず目を丸くした。彼も体重は百五十キロ余りと、二メートル超のオノノクスにしては筋肉の賜物で重いが、それをも上回る重量が、ご主人とほぼ同等の背丈のこの丸い体に詰まっている事が俄かに信じ難かった。
「さすがに痩せろよな」
「いや、こういう呪いだから無理……」
「お前お得意の魔法で、飛ぶのくらいどうにかならないのか?」
「それもめっちゃ疲れる……」
 飛ぶ事に関して面倒臭がる肥竜に、流石のハルバードも嘆息を禁じ得なかった。
「だったらなおさらやる前から無理とか言うな。俺が手ほどきして――」
「ほらハルバード、見るからに疲れてるのに無茶言わない!」
 助け船にも等しいご主人の注意に、ソルヴァはほっと胸を撫で下ろした。一方ハルバードは不機嫌そうにご主人を睨む。
「ご主人、こんな奴の肩を持つつもりか?」
「いや、そういうの以前に、彼はお客さんだよ? 慣れない世界でストレスもあるだろうし、家の中くらい少しは居心地よくさせてあげて」
「チッ、いけ好かない……」
 ぼやきながらソルヴァを横目で睨んだ。そして自室へと歩き、ストレス発散がてらウェイトリフティングを始めた。自身の体重以上の負荷を受けた太い両腕は筋肉を硬く膨らませ、重力に逆らって持ち上げる。それを何度か繰り返し、上半身は熱を発していた。
 大きく息を吐きながら、火照った部分を濡れタオルで拭いて冷やす。立っていた気もいつの間にか落ち着いていた。



 日が暮れて、程よい空腹感を覚える。リビングへと足を運ぶと、ご主人が作る夕飯の匂いが漂ってきた。
「うまそーなにおいがするじゃん」
 ハルバード以上に胸を躍らせる太竜。涎が垂れている事にも気付いていないその姿に、黒竜は冷たい視線を向けた。
 そしてテーブルに次々と並べられる夕飯。ハルバードは木の実とプロテインドリンク、そしてポケモンフード、ご主人とソルヴァには火を通した料理。ハルバードはソルヴァの皿を見て目を丸くした。
「毎日その量を食ってるのか?」
「まあな」
 ソルヴァは得意気だが、その目の前の皿には料理がこんもり。ご主人のそれの優に数倍はあるか。ハルバードとて大食いではあるも、夕飯は控え目の盛りにしている。それでもハルバードの皿と比較して、倍くらいはあるだろうか。
「夜にその量は太っても当然だな」
「魔法使いってのは意外と疲れるものよ。それに今日はめっちゃ飛んだし」
「にしても多すぎるだろ絶対」
 呆れて溜息を零すハルバード。この感じだとソルヴァがいる限りは食費も馬鹿にならないのではなかろうか。そんな事を勝手ながら憂慮するばかりだった。
「いただきまーす!」
 ご主人が座るなり、お待ちかねの食事タイム。ご主人は比較的ゆっくり食べ進める一方で、ハルバードは顎の刃で器用に木の実を切りつつ、体格に比して小さ目な口へと次々運ぶ。ポケモンフードと交互に食べ進め、見る間に皿から消えていく。
 だがそれをも上回るペースで食べているのがソルヴァだった。相当空腹に苛まれていた事もあるだろうが、その大食いかつ早食い振りに、ハルバードとご主人の食べる手が止まってしまう程だった。
「そりゃ痩せないわけだ……」
 ぽつりと零れた小言も、食べるのに夢中な緑竜には伝わっていないようだった。渋い顔をしつつ、プロテインドリンクを飲み干した。


 我先にと食べ終えるなり、ソルヴァは食器をシンクに置いて、名目上は来客用の空き部屋兼物置へ入って行く。次いで食べ終えたハルバードが、その部屋へと足を運んだ。
「俺が筋トレに使ってるやつがあるから、それで筋トレでもしてみたら……」
 部屋の中を覗くと、ソルヴァはご主人が仕立てたばかりのベッドに仰向けになって眠っていた。
「……呪い以前の問題だな」
 溜息混じりに、そっと扉を閉めた。



 翌朝、ハルバードは起床するなり欠伸をしながら軽くストレッチを始める。窓から部屋の一部を照らす朝の日差し。この日も天気はいい予報。外に出て、朝露に濡れた庭の一角で早速技の練習を始める。設置されている的を目掛けて、太く長く硬い、自慢の尻尾を振り抜く。命中した的は勢いよく飛ばされるが、太く丈夫なワイヤーを取り付けてあるため、紛失の恐れはない。ワイヤーを手繰り寄せ、ボロボロになった的を再度設置する。繰り出したのはドラゴンテール。攻撃のみならず接近して来た相手から強引に距離を取れる便利な技でもある。ハルバードは眼光を鋭くして的を捉え、尻尾に力を込めた!


 ――スカッ


 思わぬ空振りに、何事かと目を丸くしたハルバード。その頭に、狙っていた筈の的がコツンと当たった。
「おいおい何見てんだよ」
 背後から聞こえた声に振り向くと、ソルヴァがほくそ笑んでいる。
「さっきのは……!」
「戦う相手は、お前の都合よくなんか動かねーぞぉ?」
 指を動かすと、振り向いたハルバードの後頭部に的が当たった。
「この野郎……!」
 ハルバードの目が血走り、赤い爪を朝日に光らせてソルヴァ目掛けて振り被る。
「うおっと!」
 咄嗟に魔法で近くにあった大き目の的を盾代わりにして、ハルバードのドラゴンクローを防いだ。
「おいおいそりゃ反則(プレイヤーキル)だろ!」
 ソルヴァは一歩後ずさる。更に距離を詰めようとハルバードは一歩踏み出す。その足に何かが絡み付き、黒く屈強な肉体はバランスを崩す。
「ぐおっ!」
 濡れた地面にうつ伏せに倒れ込んでしまった。足に目を遣ると、足の自由を奪っていたのは的に取り付けたワイヤーだった。狙う筈の的が、唖然とするハルバードの頭に置かれた。
「くそっ、何たる……!」
「これが学園で三本の指(S+)に入った俺の魔法操作の神髄よ」
 ソルヴァは得意気に胸を張る。それ以上に丸く目立つ腹が胸以上に揺れた。
「ソルヴァ、とか言ったな……。お前のこと、見くびってた。大したものだ……」
 一杯食わされた悔しさを滲ませつつも、ハルバードはソルヴァの実力を認めた。
「ハルバードだって、全然弱いってわけじゃないんだぜ? 相手の動きに合わせることを覚えりゃ、もっと強くなれると思う」
「そうか……」
 ゆらりと立ち上がるハルバード。ゆっくりと歩み寄り、突如ソルヴァの手を掴んだ。
「お前がそう言うなら、その力を使って俺に稽古をつけてくれ!」
「ふえっ!?」
 握る手の力強さのみならず、懇願する黒竜の気迫の強さに、ソルヴァは圧倒される。だがぶれずに見つめる赤い眼の澄んだ輝きに、引き込まれる何かを覚えた。
「……おもしれーじゃん。乗った!」
 ソルヴァはニヤリと牙を見せた。
「……ありがと痛っ!」
「ほら早速油断してるぞ~」
「こいつ……!」
 ソルヴァの魔法で気ままに動き回る的に早速翻弄されながらも、ハルバードは鍛錬に励み出した。庭で繰り広げられる賑やかな様相に、ご主人も目を覚まして窓から眺めていた。
「どうやら大丈夫そうだ」
 ご主人はすっかり安堵を滲ませていた。



 ――ハルバードとソルヴァはこれを機に打ち解け、互いの生活について語り合ったり、トレーニングやバトルについて真剣に意見を交わし合ったりするようになった。一時的とは言え更に嵩む食費に頭を抱えつつも、別の世界に住む者ならではの交流を楽しむ彼らを、ご主人は時に楽しそうに眺めていた。



 ソルヴァがこの世界に来て早数日。日が暮れてから、ハルバードは落ち着きがない。夕飯を食べてからダンベルで軽く筋トレした所で解消された訳でもなく、太く長い尻尾が、頻りに揺れたり軽く床を叩いたりする所にそれが現れていた。
「おーいハルバード、入っていいか?」
 扉の外から聞こえる声。だがこの時ばかりはハルバードにとって耳障りな事この上なかった。
「入るな」
 きっぱりと断ると、不満気な声が耳に入る。
「――ま、どんな状況か薄ら想像つくけどな」
 扉が開いて目に飛び込む緑竜に、大きな溜息を禁じ得ない。
「俺がいると都合が悪い。そうだろ?」
 ソルヴァが問うと、ハルバードは小さく舌打ちした。現にこの日はハルバードの方から意図的に距離を取っていたのだ。
「けどそれを解消できるのも俺だったら、どうする?」
 徐に距離を詰めるソルヴァを、ハルバードは尻尾で拒絶した。やや抑えたつもりだったが、黄色く丸い腹に直撃して食い込む。しまったと咄嗟に力を緩めたが、ソルヴァはびくともしていない様子。寧ろ笑みまで見せる。
「結構な一撃だったな。けどこの程度で音を上げるほど俺の腹はヤワじゃねーよ。触ったらヤワだけど」
 丸い腹を叩いて余裕綽々。それを見て緊張が解けたハルバード。緑竜はその一瞬の隙を見逃さなかった。
「正直に言っちまえよ。このマッチョな体がウズウズして我慢できねぇんだろ?」
 ソルヴァは懐に潜り込んで、隆々とした筋肉の形を写し出す天然の黒い鎧を撫で回していた。緑の体から立ち上る汗の臭いに混ざって感じる、何とも言えない甘い香り。それはハルバードの変温の肉体で新たに熱が生み出される糧となる。
「ソルヴァ……もしやお前、発情してるのか?」
「へへ、さすがはドラゴンだな」
 牙を見せた笑みに滲む火照り。
「やはりお前のせいか……」
 と煩わし気に見下ろした。それでも構わず硬い胸や腹を撫で続ける。左右に並ぶ広々とした高原、その境にある深い峡谷に沿って下ると、左右三つずつ整って並ぶ山並み、そして人間の臍に相当する部分から下腹部、そして尻尾の付け根へと小高い丘が続く。文字通り天然の鎧であるが故に、撫でられた所で鎧越しに刺激が弱まっている筈だが、甘い匂いと相まって黒竜の心臓は徐々に鼓動を強く、速めていく。
「お前も俺にあてられて発情してるのはお見通しだからよ、我慢なんかすんなよ」
 ソルヴァは黒く逞しい腕を掴み、自ら黄色い胸に押し当てた。ハルバードとは正反対の、力を入れると沈み込む感触。今までも何度か触れた部分だが、今回はその意味合いが全く異なる。ハルバードは次第に自ら黄色の双丘を愛撫する。壊さないよう加減しつつ、肉の食い込みを堪能した。その様子を、ニヤけ混じりに見上げるソルヴァ。思惑通りになっているのが納得いかない一方で、抗えない欲望ばかりが次第に大きくなっていく。
 双丘の下で更に立派に聳える丸山に、黒い掌を移す。柔らかくも張りのある独特の感触が、手指を楽しませる。呼吸に合わせて膨らんでは萎む動きも、丸く張り出した形状によって一層強調される。いつしか相互に、正反対の肉体を堪能し合っていた。
 突如ソルヴァが顔を近づける。吐息の生臭さに混じる、体とも異なる甘い香り。それに誘引されるが如く、ハルバードも首を伸ばした。自ずと開いた口は両者共に粘度を高めた唾液が糸を引き、彼らが既に発情している事実を相互に突き付けた。そして伸ばされた舌が、唾液を纏って絡み合う。ハルバードの癖のある味わいとソルヴァの甘味を含んだ味わいが交換されて味蕾を刺激した。彼らが初めて及ぶ行為で、体は次第に熱を溜めていく。


 絡み付いていた舌が離れ、その間を銀色の橋が僅かな時間ながら架けられた。甘い唾液に催淫効果があるとは露も知らぬまま、それを飲み込んだ黒竜は強い興奮を次第に隠し切れなくなっていた。
 股間の硬い皮膚の一部が開き、そこから覗いた赤黒い肉。ソルヴァはそれを、指先で慎重に撫でた。
「うぅ……!」
 野太い音波を発する声帯が絞られて出てきた呻きと共に、黒く逞しい巨体がぴくりと跳ねる。小さな愛玩に喜び、割れ目を押し開きながら次第に赤黒く大きな姿を曝け出していく。
「おぉ~ガタイ通りの立派なチンポじゃねーの」
 先程まで体内に収まっていた湿り気を纏って強い臭いを放つ敏感な表面に緑の手指を絡ませ、ハルバードを快楽に苛まれる雄へと仕立て上げる。
「うぅ……! ご主人以外の奴にされるの、ヤバい……!」
 息を荒げ、甘く鳴きながら、普段からご主人とそのような行為に興じる事実をも露にした。
「ほ~、あのご主人様に気持ちいいことしてもらってんのか……。だったらよ、この俺で新たな気持ちよさに目覚めちまおうぜ?」
「うぁ、あぁ……頼む……もっと気持ちよくして……エロくよがる俺を……見てくれ……!」
 赤黒い突出をソルヴァに掌握され、逞しい逆三角の胴を誇る黒々とした雄竜は、自己主張の強い被虐的(マゾヒスティック)な一面を小柄で豊満な緑竜に曝した。突出も期待を込めて刹那に膨れ、表面を走る血管や尿道沿いの筋を各々太く浮き立たせ、亀頭に似た形状の先端は、人間や一部人型ポケモンのそれよりも先細り、勃起直後の状態ですらエラが張り出して刃の如き様相を見せ、それは正しく槍斧(ハルバード)、名は体を表していたのである。槍にしては太ましい柄が、その凶悪振りをソルヴァに見せ付ける。
「とんでもねえ淫乱マゾドラゴンと知り合っちまったな……カズヒやツヴェンがかわいく見えちまうぞ……!」
 大いなる凶器に圧倒されつつ生唾を呑むソルヴァ。早くしてくれと言わんばかりに赤黒く躍動していた。
「ここまできたらもうやるしかねえ!」
 ソルヴァは立派な構ってちゃんに両手指を絡める。ぴくり、と黒竜の体が反応を見せた。
「うおぉ……ソルヴァに、俺の、いやらしくてぇ、でっかいチンコ、弄られてるぅ……!」
 惜し気もなく喜びを表出するハルバードを背に、屹立した硬さと表面の凹凸や段差を、指先に神経を集中させて楽しむ。行為を通じ、性感は確実に蓄積されていき、やがて蓄積の限界に達した太々しい雄槍は硬く膨れて生み出す波に性感を変換しつつ、快楽に耐え切れずに屈する最も雄々しい突出の瞬間へと確実に近づくのを、ハルバードはもたらされる刺激に気持ちよく耐えつつ味わう。先細りの先端は出口が丸く開き、今は乾きながらもいつでも漏らせるぞと準備万端な様をソルヴァにアピールした。
「う、あぁ、っ!」
 溜まった欲の解放で硬さを増し、尿道沿いの太い筋が張り出しを強める雄突から漏れ出した透明な竜汁が、水玉を作って流れ出す。
「へへ、やっと濡れたなぁ」
 指先に塗り付けて長く糸を引き、漏れた濃さを淫乱な黒雄に見せ付ける。
「俺の、我慢汁……お前のせいで、めっちゃ濃い……んぅ!」
「そんだけ俺のテクが気持ちいいってことだよな?」
 ハルバードは喘ぎつつ徐に頷いた。ソルヴァが濡れた指を舐めると、癖のある塩味が舌に広がり、赤黒い凶器本体と漏れた竜汁それぞれに異なる強い雄の臭いが、混ざり合っては口内から鼻腔へと立ち上った。
「ソルヴァぁ……チンコ、シゴいて……もっと、エロく、してくれぇ……」
 荒い呼吸に途切れる甘く野太いお強請(ねだ)りを、潤んだ眼差しと共にソルヴァに向けた。
「うわエッロ……! マジでそういうの上手えなぁ……!」
 惜し気もなく卑猥な一面を曝け出すハルバードを前に、断る理由がなかった。ソルヴァは握るも、片手では満足に握り切れず、止むなく両手を使う。そして根元から先端まで、長いストロークで赤黒い表面を刺激し出す。
「うおぉ! チンコが、チンコしてて……気持ちいい……っ!」
 腰を前に出して、ソルヴァに対して彼の手中にある急所を逞しい肉体から最も突出させながら、黒い逆三角を震わせてよがる。扱く事で、上向きに反っているのを手指を通して感じ取る。脈打つ瞬間に太くなったり、尿道が硬くぷっくり張り出すと同時に根元から押し出されて漏れ出したりするのも合わせて感じられた。
「もっとぉ、気持ちよく、チンコ汁、搾って……ヌルヌルバキバキに、してくれぇ……! お前に、見せ付けてっ、もっと気持ちよく、エロい雄に、なるからぁ……!」
 ハルバードの気持ちいいアピールで臭い粘りが噴出口から宙を舞う。
「畜生! 想像を超えるドスケベドラゴンだなぁ!」
 ソルヴァも卑猥な雄の色香に中てられ、息を乱しながら赤黒い凶器を扱いて磨きを掛けていく。ハルバードは野太く甘い嬌声を発し、扱かれてウズウズと溜まる快楽を都度雄々しく膨らませて戦慄きながら発散し、気持ちよく生殖に臨む雄が漏らす粘りを、扱く手諸共ねっとり汚して塗り広げられ、彼が望んでいる濡れて艶めきながら怒張する姿へと、刻一刻変貌する。先端から根元まで、満遍なく照りを纏った状態になって、ハルバードは卑猥な姿を喜ぶ。ヌルヌルツヤツヤで、バキバキにそそり勃って、一層強く臭って、更なる快感を得ようと本能的にアピールしてはソルヴァに刺激されて黒く屈強な肉体を震わせる。被虐的嗜好には天国のような時間が流れていた。
「お前のチンポ、めっちゃ使い込まれてる色してるけどよぉ、どんだけ食い散らかしてきたんだ?」
「おっ、俺、童貞、だし……うあっ」
「はぁ!?」
 流石のソルヴァも口をあんぐり。
「そんな色に見えねーって」
「元々、濃い色でっ、俺の、鍛えた体、見てっ……ずっと、シコって、きたからぁ……!」
「とんだマゾどころかナルシストなんて……真性の変態じゃねえか!」
 ねっとり汚れているのも厭わず、両手で頭を抱えたソルヴァ。英雄色を好むとは言った物で、配信を始めて登録者が増え、再生数が伸びてきた事によるウィナーズエフェクトによって、自ら鍛えた肉体に対する欲情が加速しては鏡越しに扱いて、必死に耐えて雄の凶器を限界まで膨らませ、耐え切れずに竜の遺伝子が競り上がって爆発する力強い被虐の極みを嗜んでいた。故に致す度に長丁場となって、扱かれ続けた立派な雄は見事に黒ずんだ。
「そんなド変態童貞に、新たな道を開いてやっかあ」
 ソルヴァは更に距離を縮め、赤黒い凶器を豊満な黄色い胸の谷間に据える。両端から肉を寄せ、その部分をすっぽり包み込んだ。
「お前の胸で、扱くのか?」
「おうよ、自分で腰振ってみろ。俺の顔は存分に汚して構わねえかんな」
 ハルバードは自ら腰を振ってみる。脂の乗った胸肉に擦れてぐちゅぐちゅと音を立て始める。
「うおぉ! こんなの、初めて……!」
 時折身震いを交えて抽送を続ける黒竜。未だ体内で経験していない雄の動きは、ソルヴァからだと先端が眼前に迫って通り過ぎては、後退していつ噴射するか知れない先端が目に入っての繰り返し。運が悪ければ漏れた粘りが緑竜の顔に降りかかる事もあった。だがその嗜みは長く続かなかった。
「手で、シゴいてくれた、方が……もっと気持ちいい……」
「あ、マジか。悪いな」
 お詫びに再度手で扱きつつ先端を口で咥え込む。
「うあぁ! 口はぁ……!」
 がくがく震えて雄を膨らませ、直に緑竜の口内に臭い粘りを搾り出す。それを堪能しつつ呑み込んでは舌でお代わりを催促するが如く敏感な粘膜に絡み付いた。しばらく嗜んで口から解放すると、惚れ惚れする程の雄姿がソルヴァの目の前に聳え立つ。
「俺のチンコッ……エロくて、ドクドクしてっ、かっこいいぞぉ!」
 自らそう言い放つ程の魅力が詰まって張りを強める。それを見るなり、ソルヴァの下半身が突如疼いた。一瞬迷った。だが体が覚えた本能的欲求に抗う術はないと悟る。


 ソルヴァは突然、仰向けに寝転がって挑発的に見上げた。
「俺の体が……お前のかっこよくて立派な童貞チンポを欲しがってんだ……いい機会だぞ?」
「え、ほ、本当に、いいのか!?」
 ハルバードは目を丸くする。ソルヴァの大いなる御腹(みはら)山の裾野の縦割れを抉じ開けて硬く伸びる熱い漲り。そこから更に下った尻尾の付け根の菊花状の窄まりが、くぱっと開く。そこを指差して雄々しい童貞を唆す。
「でもお前……体がちっちゃいんじゃ……」
「ちっちゃいって言うな! こう見えて何本もデカチン食ってるんだぜ。遠慮なく来いよ」
「お、お前がいいって言うなら……!」
 ハルバードは生唾を飲み込み、ソルヴァの尻尾に跨ってから徐に覆い被さる。体に生じた熱が、相互に伝わってきた。
「じ、じゃあ、いくぞ……!」
 顎の刃でソルヴァを傷付けないようにしつつ、下半身をもぞもぞ動かして、長い雄槍の先で新たな冒険の入口――本来は「出口」だが――を探る。そのやや苦戦する動きに初々しさを感じて、ソルヴァの表情が綻んだ。
「ここだな……それじゃあ」
 見つけるや否や、腰を押し付けて鋭い先端の刃で抉じ開ける。うぅ、と低く甘く呻く声が、すぐ近くに迫る喉仏から発せられる。段差を越え、一旦窄まるのが肉感で緑竜に伝わる。そこから根元にかけて太ましく拡げ、尿道に沿った筋や浮き立つ太い血管が、菊門に止まらずその更に内側の肉壁をも押し退ける。
「うぐ……すごい、締め付けるっ……!」
「めっちゃ形が、わかるなぁ……!」
 二メートル超のオノノクスに対して、ある程度横幅はありながらも高さ一六五センチ程度のソルヴァの体はやはり小さい。それ故の圧迫感を性感と共に覚えつつも、根元までやおら挿し込んでいく。
「あっ、あぁ……気持ちいい……っぐ!」
「おっ、脈打った」
 締め付けの快楽に初めて体内で気持ちよく膨らんで漏れ、相手の体内を自身の体液で穢す筆下ろしの第一歩を踏み出す。無論これは始まりに過ぎず、ここからじわじわ体内を汚しつつ膨らむ度に強まる、包まれ、擦れ、締め付けられる快感にやがて耐え切れず、最も大きく力強い姿で、新たな生命が始まる可能性を秘めた爆発的な漏出を迎えて、黒竜は初めて立派な雄になれる。豊満な肉体は、初心な雄槍を根元まで咥え込んでいた。
「お前のチンポ……すげーでかさだな……!」
 実際に呑み込んではっきり実感するソルヴァ。
「ご主人の手コキより……はるかに気持ちいい……!」
 体が大き過ぎてソルヴァの視点からは見えないものの、もたらされる圧と摩擦に表情は歪んでいた。
「じゃあまずはゆっくり動いてケツマンコの感覚に慣らしな」
 言われた通りにゆっくり腰を引く。張り出したエラの段差が内襞(インナーラビア)に当たっては捲る強い刺激に苛まれ、身を震わせて悶え、中で気持ちよく膨れて搾られる。
「ケツマンコがぁ、チンコ、イジめて、ヤバいぃっ!」
 抜かれて空気に触れた部分がひんやりと一瞬太くなる瞬間を捉え、体内でも再度搾られの衝動で貪欲な竜肉を押し退ける感覚。そして再びゆっくり奥へと挿し込む。
「めっちゃ先っぽ、感じるぅ!」
 狭い空間を抉じ開ける先端に刺激が集中し、加えて襞が笠状に開く部分を舐めるように刺激して、またも力を込める刹那に苛まれた。
「そうやってチンポとマンコが擦れて気持ちよくなってザーメンぶちまけて、運がよけりゃ仔ができる、それが交尾ってもんだ」
「お前の、中でぇ、ぶちまけたら……俺たちの仔が、できるって、ことかぁ?」
「……そうかもな」
 出来ないと即答すべき所を、少し間を開けてソルヴァはそう答えた。
「……てなわけだ。俺と気持ちよく仔作りしようぜ。何、俺の中でいつも通り限界までチンポ膨らませて気持ちよく果てりゃいいんだよ」
「お前の、中で……エロかっこよく、立派にっ……!」
 ハルバードは再び、初心な赤黒い突出を経験豊富な肉穴と擦らせ始める。
「んんっ! お、おぉっ! やばっ……!」
 再度襲う強い性感に嬌声と我慢の証を漏らすも、抽送を止めない。
「あぁっ、いい塩梅だ……ズンズンくるぜぇ……!」
 犯されるソルヴァも圧倒的な体積に息を乱し、高まる物を感じる。洗濯板の如き凹凸の腹部に雄の象徴が擦れるのも一助となるが、ハルバードはそれに気付いていない。
「んおっ! お、おぉっ! チンコ、膨らんで、漏れてっ! うあぁ!」
 徐々に抽送が軌道に乗っていく。体内で膨れて近づきつつあるスリル満点の瞬間が、次第に現実味を帯びてくるのを感じ取るハルバード。
「これで、ド派手に童貞卒業したらっ……いや、今からお前も、チンコって呼ぶの、卒業してっ、チンポって、呼ぼうぜぇ……!」
「うおぉ! お前の、中でっ! 惚れ惚れ、するっ、最高の、『チンポ』にぃ! なって、やるうっ! あっ、あぁっ!」
 卑猥な音を立て、エラに掻き出された古い粘りが結合部から溢れ出す。ソルヴァに体内で導かれ、長く伸びた尿道を通って気持ちよく脈動しつつ搾られながら、より太く硬く肉を押し広げ、先端はより奥を抉じ開ける。
 ソルヴァが視界に捉えるのは一面黒々とした逞しい肩回り、胸板、そして腹筋。この持ち主が今、生まれて初めて中に出すための一連の快楽を味わっている、その事実だけでも十分に彼を昂らせる上に、覆い被さられて強く感じる雄のフェロモンが彼を酔わせ、腹筋に擦れた竜槍が心地よく張り詰め、体内で蹂躙する槍斧に熱をもたらされる。
 ……だが突如、ハルバードの動きが止まる。何事かとソルヴァが訝しむと、やおら竜槍を抜き始めた。次第に露になる、卑猥なぬめりを纏って艶めく太く長い姿。抜かれた先端は、エラに掻き出された物で一際潤っていた。
「俺……やっぱり、お前に、俺の仔……搾られたいっ!」
 上気して滾った突出を脈打たせながら被虐的絶頂をせがむ、童貞を失い掛けた逞しい黒竜の淫らな姿は、ソルヴァの下腹を強く疼かせ、同時に張りを強めた突出から雄蜜を溢れさせた。
「そんな風に頼まれちゃ、やらないわけにいかねえだろうが……!」
 ソルヴァは舌なめずりしつつ立ち上がった。そしてハルバードの尻尾を前に出させ、背中を壁に着いた状態で床に座らせる。淫靡に濡れそぼった巨大な屹立が、物欲しそうにドクンドクンと脈動しては、先端から生命を息吹かせかねない涎を零して流れ落ちた。
「俺のケツマンコで……マッチョなお前らしい、立派な仔作りチンポにしてやっからなぁ!」
「た、頼むっ、ソルヴァぁ……!」
 ハルバードは迫られて一層期待と劣情に胸を高鳴らせた。黒い腹部に跨って向かい合い、ソルヴァは前傾しつつ徐に腰を落とす。黒い刃が菊の門に触れ、そこを切り開かされる。
「うおぉっ! マンコに、入ってくっ……!」
 先とは一転、動かない事で一層鮮明になるソルヴァの体内の形。先端は肉のうねりを抉じ開けさせられ、締め付けと同時に傘状の刃や表面に浮き立つ血管、筋の凹凸が絶えず内襞に舐められて生まれる性感に、ハルバードは甘く鳴きつつ喜ぶ。
「んぁっ! チンポ、食われてっ、気持ちいぃ……! でっかく、なっちまぁ……ぐぅ!」
「やべえとこ……当たっちまうっ!」
 黒い強面が歪み、体内を汚す強い躍動を発した瞬間、ソルヴァもぴくりと豊満な肉体を揺らす。黄色い臀部と黒い鼠径部が密着する。ソルヴァの重量が直に鼠径部まで伝わり、飲み込まれた剛突は自ずとより奥深くまで埋め込まれてしまう。分厚い肉の壁は圧を強め、誘われた大きく赤黒い被虐的な冒険者を、あらゆる場所から攻め立てる。気持ちよくさせられた冒険者は、逞しい身体を硬く膨らませて肉壁を押し退ける力強さをアピールしては更に気持ちよくなり、未知の領域に近づきながらその身をぬるっと汚す。その外では捕らわれた筋骨隆々の黒竜が、低い嬌声を零しながら心地よく火照った身を震わせていた。
「じゃあ動くぜぇ」
「頼む……激ヤバケツマンコで……デカチンポに、仔作り教え込んで……もっとイジめて、もっと立派に、もっと気持ちよく、させてくれっ……!」
「マジでいやらしいドラゴンだなっ……!」
 受け続けた快楽に潤む眼差しで訴えるハルバードは、ソルヴァの欲望をこれでもかと刺激した。ソルヴァは目を細めてから腰を浮かせ、そして再び下半身を密着した。それは連続的になり、縦向きのピストン運動は、緑竜の豊満な肉体、そして股間の竜突を揺らす。丸い腹部に生じる波立ち、それは黒竜を飲み込む内部の肉々しさを表していた。
「うおぉ! やば、もっと、シゴいてっ……!」
 時折震えつつ、主導権のない刺激的な生命の営みに喜ぶハルバード。抜かれてはエラに襞が引っ掛かり、挿し込まれては先端が肉洞を押し退ける。そこに常に圧迫と摩擦が加わり、ソルヴァの体内で蓄積される性感に軽く音を上げて刹那に膨れては危ない粘り気を搾り出され、肉洞を潤しながら微かな膨張を続けているのをハルバードは感じ取る。
「とんでもねえ、上物だっ……!」
 貪欲に食らい付く雄膣肉に擦れる、硬くも敏感な熱い雄の表面。その凹凸も分かる程の噛み合いは、ソルヴァにも甘やかな刺激をもたらし続ける。
 犯すソルヴァの汗臭と甘い香り、それに混じる、虐げられて汚れていく立派な性器の臭いは、彼らの順調な仔作りの一助として効果を発揮する。抽送に合わせて音量を増す濡れた破裂音のみならず、ソルヴァが腰を浮かせた瞬間の、彼らの間を結ぶ糸の数や露出した凶器が次第に太くなっていく変化からも、順調に事が進むのを感じ取れた。
「中で、立派に、なってきてんぜぇ……!」
「んあぁっ! 俺のっ、仔作りチンポッ! デカくて、硬くてっ! ドクドク漏れて……童貞じゃ、なくなってくぅ!」
 ハルバードは、容赦なくほしがる攻撃を繰り出し続ける他者の体内で立派な急所を責められて、屈強な遺伝子を漏らそうと更に力強く突出させられる初めての刺激に喜びを露にする。太く長く押し広げられ、体内のより奥へ到達していく感覚は、ソルヴァをより貪欲にしていく糧となる。
「こんなに、元気だとっ、もう種がっ、ちょっぴり、漏れてんだろうなぁ!」
「俺、もう仔作りして……んおぉっ!」
 ハルバードは体内で更に穢れる衝動を放ち、それでも堪え続ける。だが差し迫る限界には抗えない。赤黒い凶器は膨張のペースを速め、筋張りを強めながら徐々に上向きに反り始める。
「あ、あっ! めちゃ、いいとこ! きてるっ!」
 ソルヴァの嬌声が上ずり始める。黒竜の先端は奥の分厚い扉を叩き始めていた。
「んあぁ! めっちゃ、チンポ、デカぁ!」
 ハルバードは差し迫る限界に戦慄きながら悶え、責められ続けて立派な姿になった雄竜に酔う。
「ソル、ヴァぁ! 今のっ、デカチンポ、見たいっ!」
「見てえ、かぁ!?」
 ハルバードは息を荒げながら頷いた。いいぜ、とソルヴァは抽送を止め、ゆっくり立ち上がって立派なハルバードを解放した。外気に晒される、ぬるりと艶を纏った、挿入前よりも更に大きく張り詰めた姿。一方的な交尾によって搾り取られた、立派な姿で筆下ろしを迎えようと耐え続けてきた童貞の穢れを纏い、むわっと煽情的な臭いを放つ。
「俺のデカチンポ……惚れ惚れしちまう……もうすぐ、童貞じゃ……うぅっ!」
 ぴくりと震えて呻いた瞬間、汚れた立派な雄が刹那に張りを強め、先端から更に危険度を増した体液を飛ばす。
「俺の仔が……ウズウズしてる……!」
 確実に限界が迫ってきているのを、ハルバードは体で実感する。
「やべぇ……めっちゃ雄々しくてエロい……!」
 雄の魅力は、ソルヴァをも釘付けにする。
「お前の中で……エロくて、パワフルな仔作り、させられたい……!」
 夢中になるソルヴァに、被虐的なクライマックスを要望した。
「ったく、とんだ童貞マゾドラゴンめ……!」
 再びハルバードの上で腰を下ろし、赤黒い突出を丸く大きな腹の中に収めた。途端にハルバードは甘く鳴き、ソルヴァの体内で仕上げの準備運動と言わんばかりの脈動を発する。尿道の中で押し出される感覚も強まり、本番さながらに濃い物が漏れようとしているのを、次第に疼く下腹部と共に感じ取る。
「あ、や、ヤベェ!」
 ソルヴァの声が突如裏返る。急激に膨れ出した雄が、奥の扉を抉じ開けようとしている。勿論それはハルバードにも強い刺激をもたらす。
「ぐおぉ! もっとっ、でっかくぅっ!」
「うぁ、あっ! 突き抜けちまっ!!」
 相互に猛烈な快楽に見舞われながら、腰の動きは止まらない、止められない。奥の分厚い襞は徐々に細い先端に抉じ開けられていく。そしていよいよ訪れるその瞬間。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 熟れた肉の窄まりを押し開いて奥の肉壺へ届いた瞬間、ソルヴァは怒涛の快楽に耐え切れず、筋張った雄槍から白い弾を飛ばす。弧を描いて黒い胸板に降りかかり、白を強調すると同時につんと臭いが立ち込める。
「うおぉぉっ! マンコ気持ちいいっ!」
 絶頂で反射的に締まる体内がもたらす刺激に喜び、悶絶する。それでもまだ限界まで耐えようと踏ん張り、躍動で締め付ける肉を外側へ押しやり、先端のエラも肉壺の領域を犯した。
「あ、あ、あぁぁ……!!」
 絶頂を迎えた豊満な肉体が更に奥へと切り込まれ、ソルヴァは情けなく鳴く事しか出来なかった。脱力して直に圧し掛かる体重によって、自ずと奥へと押し込まれ、反射的な締め付けに更なる圧力を加えた。
「デカチンにぃ! 俺の、仔がぁ! も、漏れるっ!!」
 ソルヴァによる一方的な交尾の末に、気持ちよく耐えて最高に立派な姿になった大槍斧(ハルバード)が、屈強な遺伝子を溜め込んで童貞として最後の瞬間を迎える。爆発寸前の目一杯太い尿道から肉壺に搾り出される、煮凝りの如き体液が、体内に漏らす快感のトリガーとなって、剛突は焼きを入れた刃の如くに熱く硬くなる。頭脳が麻痺していても、ソルヴァの体は熱い刃を欲して脈打ち、締め付ける。そしてとうとう抑え切れずに遺伝子が動き出す。踏ん張って耐えながらも、尿道を押し広げてゆっくりと、絶頂に戦慄くソルヴァの肉壺目掛けて上がりながら、大槍斧は最も童貞から遠ざかる瞬間に、最も大きく硬く筋張って反りを強めた、雄々しい姿となる。
「で、でるっ!! ガオォォォォォォォォォッ!!!」
 赤黒い色味によって強調されるハルバードの濃厚な白が、ブリュッと押し出されて噴射口から頭を出し、ソルヴァの胎内に漏れ出す。必死に抑え込んだ爆発の衝動が抑え切れなくなる至高の快感を以て、ハルバードの初体験は佳境を迎える。
「ああぁぁぁぁあぁぁあぁぁああぁぁ!!!」
 突き抜けんばかりの猛烈な生命の噴射と同時に、ソルヴァの喉から発せられる揺らいだ絶叫。種を送り込む力強い躍動が、丸みの目立つ肉体を小刻みに、時に大きく揺るがす。程なくして結合部から溢れ出し、黒い鼠径部が即座に白く塗られ出した。
「すげぇ、量……!」
 見た目に違わぬ容積を誇る肉壺が、忽ち満たされる。
「と、止まらない……っ!」
 初めて味わう交尾の喜びは、普段の行為を凌駕する雄液の量にも現れていた。脈打って尿道から押し出す度に、その濃さを感じる。ソルヴァの丸い腹部が更に丸く大きく膨れて、汗に濡れた皮膚の張りが強まる。それでも未だに種付けは続き、水風船と化して膨れ続けた末に、黄色い下腹が黒く硬い腹筋に触れる。対照的な感触と共に、双方の身に溜まった熱も感じられた。立ち込める生命の始まりの臭いが、一線を越えた事実を心身に強く刻み込ませた。



「はぁ、はぁ……多すぎだろ……!」
 ソルヴァは丸く張り詰めて艶めく自らの腹を徐に撫で回す。捕らえた末に穢した赤黒い凶器は、やっと切れ味を失って委縮する。筆下ろしの瞬間を迎えてから僅か数分の出来事であっただろうが、ソルヴァには遥かに長く感じられた。
「俺も……こんなに出したの、初めて……」
 ハルバードは心地よい脱力感に浸る。凶暴性を表出する程に蓄積された生命エネルギーの爆発的解放を伴った初体験は、脱力の中でも黒竜を一驚させるに値した。目の前で膨れる黄色い水風船に、黒い手が触れる。突いたら破裂してしまいそうな程に張った皮膚は、劣情に燃え上がった末に孕んだ熱を発していた。
「ソルヴァ……童貞じゃなくなる俺……エロかった……?」
 潤みの残る上目遣いで尋ねるハルバード。ソルヴァの視界に映った彼の胸板から下は、すっかり腹の陰になっていた。
「マッチョなのに情けなくよがっちゃうとことか、俺の中でめちゃくちゃパワフルで雄々しい種付けかますとことか、最高にエロかったぞ……」
 あの瞬間を思い返す緑竜は、すっかり黒竜の虜となっていた。
「よかった……これでもっと、俺の体を誇らしくアピールできる……!」
「間違いないぜ……さて、そろそろ抜くぞ」
 やおら腰を上げ、割れ目に収まり掛けた雄槍を解き放つ。赤黒い身に纏う白い粘りが、捕らえていた竜穴との間に糸を引く。ソルヴァが振り撒いた分と合わせて、黒い上半身に浮き立つ白い汚れが、収まり切らない刃と相まって事後の雄の淫猥振りを引き立てた。
 一方のソルヴァも、解放された穴から白濁を滴らせて、籠る空気に青臭さを強める。そのまま浴室へと足を運ぼうとする太ましい後姿に、声が掛かった。振り向くと、頬を染めて立派な雄の姿を取り戻しつつある光景が目に入った。
「また……お前の中で、チンポ気持ちよくさせられて、もっと、お前の腹、膨らませたい……!」
 穢されたばかりの雄々しい肉体を惜し気もなく曝け出しながらの被虐的なお強請りに、ソルヴァは生唾をごくり。
「しょーがねえな~」
 水っ腹を揺らし、再び黒々とした雄竜に跨った――



 ソルヴァの姿は、浴室にあった。(ぬる)いシャワーで汗や体液を洗い流しつつ、内を満たす雄のエキスを排していた。時間の経過で粘りが弱まったと言えど、襞に絡み付く感覚は取れずじまい。自然流下が止まった所で、諦めてシャワーを止めて体を拭き、浴室を出た。
 いつまで入ってるんだと言わんばかりの鋭い目つきで脱衣所で待つ、白く汚れたままのハルバード。入れ替わりで入るなり、温めのシャワーで精を流す。失われた粘性で容易に流れ、本来の黒が戻った。ソルヴァの胎内で種付けを遂げた赤黒い武器を、割れ目から露出させて打ち付ける水に晒す。これを怠ると股間から猛烈な悪臭が漂って射精がバレるため、欠かせなかった。ましてや初めての中出しなら尚更臭いそうで、普段より念を入れて洗う。それでもソルヴァに比べれば短時間で済んだ。
 浴室を出ようと扉を開けると、ずっと脱衣所にいたと思われるソルヴァが、乾いたバスタオルを投げ渡した。水気を拭き取り、黒く逞しい肉体は艶めきを放った。ずっと凝視されている事に気付いてソルヴァに目を向けると、ニカッと笑みを返された。
「……俺、今はもう童貞じゃないってことが、まだ信じられない……」
 アドレナリンを切らした冷静な頭脳が、ハルバードを一足遅れて困惑させる。
「ま、ナカに出したか出してないかってだけで、童貞だろうがなかろうが、日常自体は変わんないからなー」
 ハルバードから濡れたバスタオルを受け取り、それを洗濯機に放り込んだ。
「ハルバードはハルバードらしくいりゃいいんだよ」
「……そうだよな」
 脱衣所を出て、めいめい自室に戻る。寝床で丸まっても、思い返される交尾の一時。襲い掛かる重量と肉々しい圧迫は、すっかり体内に収まった刃が未だ覚えていた。だが体力の限り営んだ体に、切れ味を増し、存分に精を搾り出す程のゆとりは微塵もない。
 一方のソルヴァも、体内を切り開かれてから注ぎ込まれた白濁で腹が膨らむあの感覚を忘れられず、未だ中で熱く燻っているような錯覚に苛まれていた。あの時に比べれば萎んだ腹を、緑の手がゆっくり撫でる。そうするとあの燻りが、一層強く感じられるような気がした。



 あの一夜を境にして、二匹の距離は少し遠ざかる。トレーニングに付き合ったり会話こそ交わしたりするも、双方踏み込んだ事はしないようになり、ぎこちなさすらも覚えていた。どうしたの、とご主人に訊かれると、住む世界が違うからだとはぐらかす。ご主人とて彼らの間に何があったかは薄ら感付いているようだが、その真意までは探れる術はないし、この時点で探る気もなかった。


 そんなある日、ソルヴァがご主人の元へ足を運ぶ。気配を察して振り向く彼に、深く頭を下げた。
「今までお世話になりました」
「えっ? 待って、ってことはもしかして……」
 ソルヴァは大きく頷いた。この世界に来てからも元の世界に帰る方法を探し続けてきたが、とうとうそれが見つかったとの事。
「そ、それはよかったけど、それって今すぐに帰らないと帰れなくなっちゃうみたいなやつ?」
「いや、別に俺が帰りたきゃいつでも帰れるけど……」
「だったらもうちょっとゆっくりしてからでもいいんじゃない? 君が帰るのを待ってる誰かがいるかもしれないけど、ハルバードにもちゃんと話して。挨拶なしで帰るなんてしちゃダメだから」
 ああ、とソルヴァは小さく頷いた。あの日以来浮かなさが滲むように見える彼に対し、意を決してご主人は小声で訊ねてみた。
「ハルバードと何かあったの? 彼にはこのこと言わないから、よかったら正直に話してくれるかな」
 逸れた視線が、再び向いた。喉に引っ掛かる物を覚えながら、ソルヴァは徐に口を開く。
「も、申し訳、ございません、ご主人さん……」
 震える口元に気付き、ご主人はそっと緑竜を抱擁した。



「――元の世界に帰れる方法、わかったぜ」
「よかったじゃないか! お前のことを待ってる奴がいるんだろ? 元気な姿を見せてやりなよ」
 突然の笑顔の報告に、ハルバードも胸を撫で下ろしつつ喜んだ。だがそれは即座にくすむ。
「……お前とのトレーニング、何気に楽しかったからちょっと寂しくなるな。もう二度と来れなくなるのか?」
「いや、それはわかんねえ。けど、やり方がわかったら、またお前らに会いにこの世界に来るからな」
「そうなることを祈ってる」
 ソルヴァを見つめる、喜びと寂しさの入り混じる顔立ちに、こみ上げる物を感じたが、ソルヴァは抑え込んだ。
「いつ帰るんだ?」
「……明日の朝」
「今すぐじゃないのか」
「別にいつでも帰れるし、もうちょっとこの世界を楽しんだっていいだろ」
「……それはお前の好きだな」
 ハルバードの束の間の喜びが、微かな笑みに滲んだ。今日はどうするか尋ねてみたら、ゆっくり過ごしてこの世界を感じたいと、ソルヴァは答えた。
「そんな日があってもいいよな。じゃあ俺も、今日だけは筋トレしない」
 飛び出た思わぬ言葉に、ソルヴァの目が点になった。
「普段は筋トレバカな俺だって、今はお前と一緒に流れる時を感じたい……」
「ハルバード……!」
 彼らは庭に出て、地面に座り込む。暑くも爽やかな夏の匂いを含んだ空気が吹き抜ける。草木のざわめきや鳥ポケモンの鳴き声、遠くから聞こえる、人間による生活音。刻一刻変化するこの世界を、無意識に身を寄せ合って感じていた。
 日が高く昇り、ご主人のお昼の合図で我に返る。照れ臭そうに離れて立ち上がり、ご主人が作った昼飯に心を躍らせつつ玄関へと向かった。
 お昼を食べ終えてからも、特に何をするでもなく部屋の中でぼーっとしていた。時計の秒針が時を刻む音を微かに耳が拾う中、黒い手の上に緑の手が乗った。
「……悪いハルバード。気が変わった。俺、もう帰るわ」
「そうか……お前の帰りを待ってる奴がいるもんな」
 突然の離別の言葉を受け、気丈に振る舞おうとしても滲み出てくる寂しさを、ソルヴァは感じ取ってしまう。
「次はいつになるかわかんねーけど、また来るからよ」
「ああ、待ってるからな。約束しろよ」
「おうよ」
 先程まで重ねていた手で、彼らは指切りを交わす。この指がずっと絡み付いていればいいのに。そんな事を思いさえした。だがソルヴァの方から、それは切られてしまう。
「……じゃあな。達者でやれよ」
「お前こそな……ってお前、ここに来てまた太ったんじゃないのか?」
 ハルバードに丸腹を撫でられ、ソルヴァの毛が一瞬逆立つ。素直に撫でられつつも苦笑を見せた。
「この世界も飯がうめーからな!」
 ソルヴァが手で叩くと、張りのある音が部屋中に響き渡った。
「また来るときまでには痩せろよ」
「……がんばる。じゃ、またな」
 ソルヴァは徐に部屋を出る。後鬣を引っ張られているが如く、その足取りは軽くはない。そしてご主人に挨拶を交わす声が聞こえ、玄関の扉が開く音。ハルバードは窓から、帰路に就く緑竜の後姿が見えなくなるまで見つめ続けていた。見えなくなった後も、ぼんやりと景色を眺め続ける。変わらず時計は一定のリズムで時を刻む。
「ちゃんと挨拶した?」
「ああ、大丈夫だ」
 部屋に入って来たご主人が、ハルバードの隣で窓の外を眺め出す。
「寂しい? ま、寂しいか。あんなに楽しそうにしてたもんね」
 ハルバードは何も言わず、只頷くばかり。
「そういえばさ、途中からソルヴァ君とちょっと微妙な雰囲気になってたけど、ケンカでもしたの?」
「いや、喧嘩ではない」
 即座に否定するが、その口から溜息が零れた。
「……これ以上仲よくなると、あいつなしじゃ生きられなくなるような、この世界に住む存在じゃなくなるような、そんな気がして……」
 そう、と黒い背中を撫でながらご主人は頷く。赤い瞳は再び窓の外を向いていた。
「俺は……薄情者か?」
「いや、僕はそう思わない」
 ご主人はひんやりした黒竜の体に身を寄せた。
「確かに関係が深まっていくほど、別れの傷も深くなるよね。ましてや別の世界にいた存在だし、お前がそう考えるのも、僕は理解できるよ」
 ご主人のぬくもりと優しい言葉が、心の穴に染み渡る。
「あのトレーニングの成果を存分に発揮することこそ、今お前ができるソルヴァ君への、お前らしい最大の恩返しになるんじゃないかな?」
「俺らしい、恩返し……」
 ふと頭に流れた、ソルヴァのあの言葉。眺める景色が、途端に滲み出す。温かく小さな手が、ずっと背中を撫で続けていた。


 ――木々の合間に見える、お世話になった家。この林を抜けてすぐに、この世界を旅立つつもりでいた。
「結局あいつに言えなかったな……」
 大きな溜息を吐くが、即座に首を横に振った。
「いや、これでいいんだ」
 そう自分に言い聞かせ、ソルヴァは大通りまで続く林道を歩き続けた。



 ――開いた視界に飛び込む、飽きる程に見慣れた景色。無事に元の世界に戻れた何よりの証だった。
「あーどうなることかと思ったぜ……」
 安堵した瞬間、体が一層重くなったような錯覚に襲われる。それでも体を引き摺るようにして、安住の場所へとゆっくり歩み出した。
 やがて遠くに姿を見せる一軒の家屋。あれこそが彼の自宅。最後に目にしてから十日程経っただろうが、体感はその何倍も長く感じられていた。馴染みの道を一歩ずつ踏み締め、玄関を目の前に佇む。
「あいつ怒ってるだろうな……」
 複雑な心情を抱えながら、ドアノブを回した。


 ――おかえりなさい、ソルヴァ


 扉を開けると、馴染みの姿が佇んでいた。
「……ただいま、カズヒ……」
 ばつが悪そうに、それでいてちょっぴり嬉しそうに、ソルヴァは同じ屋根の下に住む青狼に帰宅の挨拶をした。
「……何ぼーっと突っ立ってるんですか? さっさと手洗いうがいを済ませてください。夏でも感染症が流行ってますからね」
「お、おう……」
 てっきり長い説教でも食らうのかと身構えていただけに、ソルヴァは拍子抜け。とりあえず言われるがままに洗面所に向かい、手洗いとうがいを済ませた。口に感じる水の味からも、無事に戻れた事を噛み締められた。


 ソルヴァは冷房の効いた寝室で、疲れた体を休めていた。時計に表示される日付を見て、ハルバード達の世界とは並行に時が流れている事が分かる。ツヴェンやアルス、レヴォルフ等のポケモン達と面識のある世界である事も、何かしらの関係があるのかもしれない。
 扉が開かれ、お菓子とジュースを手に持ったカズヒが中へ入って来た。欠伸を交えて起き上がる緑竜。
「相当お疲れのようですね。どうせまた調子に乗って、変な魔法でも使って異世界に飛ばされたんじゃないですか?」
「さすがだぞ! 俺のやらかしをばっちりわかっているんだな!」
「褒められても嬉しくないです!」
 眉間に皺を寄せて鋭く睨むカズヒ。ソルヴァは途端に言葉を失う。
「魔法でやらかすのはいつものことですけど、今回ばかりは流石に心配しましたからね! 貴方の身に何かあったらって、気が気じゃなかったんですよ私は!」
「うぅ、す、すまねえ……」
 険しい眼に滲む物を見て、ソルヴァの翼と尻尾が下がる。少なからず迷惑を掛けていた事実を、遅れて噛み締める事となった。
「とにかく貴方が無事に戻って来られて、やっと安心できました。もう二度とこんな真似はしないでください! わかりましたね!?」
「も、申し訳ございません……」
 土下座しようにも、丸い腹が邪魔で上手く出来ない。その場違いな滑稽振りに、カズヒはくすりと笑う。
「全く。ソルヴァは私がいないと本当に駄目ですね。向こうの世界で美味しいものでも沢山食べたでしょ? お腹周りがまた大きくなってますよ」
「ちぇ、オカズヒにゃお見通しかよ……」
「だからその呼び方やめてくださいって! しばらくはカロリー控えめのご飯にしますよ(ついでに私もちょっと痩せたいですし)」
「その割にちゃっかりお菓子とジュース持ってきてんじゃねーか」
「それは貴方がこの味を恋しいかなと思って……いらないなら仕舞いますね」
「いや待って! 俺その味めっちゃ恋しい! 恋しいからぁ!!」
 やれやれと言わんばかりにカズヒは封を切った。数日ぶりの食欲をそそる匂いに堪え切れず、手が伸びる。
「あーうめー! この味だなやっぱ」
 長年口に馴染んだ味に、心の底から喜びを表した。
「今だけですよ。そしたらしばらくはお菓子とかも控えてもらいますから」
「んだよケチー」
「もうただでさえ馬鹿にならないんですよ食費が! たまにはやりくりしてる私のことも考えてください!」
「へいへい」
 生返事をするだけで手と口は食べる行為を一切止めない。見る間に減っていく袋の中身を、カズヒは溜息混じりに見つめていた。
「で、貴方が行ってた世界ってどんな感じだったんですか?」
 最後の一切れをジュースと共に流し込むソルヴァに質問してみる。カズヒが顔を顰める程の大ゲップを発してから、ソルヴァは笑顔で語り出した。
「ツヴェンとかスーとかみてえなポケモンが住む世界なんだけどよ、あっちじゃポケモンは人間のパートナーとかペットとか、そんな感じの位置付けだったな。俺らみてーなドラゴンはいなかった」
「ふうん」
 ソルヴァはあの世界で生活した十日間程をカズヒに語る。魔法が一般的ではなかった事、親切な人間とぶっきらぼうで逞しい黒いオノノクス、ハルバードの所で世話になった事、ご主人の飯が美味かった事、ハルバードと打ち解けて相互に理解が深まった事、その中で頭を抱えながら元の世界に戻る方法を探し続けた事……。短い間ではあったが、思いの外充実した日々だったなと、ソルヴァも語りつつ振り返った。
「――とりあえず、貴方が更に太る程度には快適ではあったってことですね?」
「かもな。お前もあの世界に行ってみたいか?」
「違う世界に行くようなゆとりはないです」
「ちぇー、つれねーな」
 お菓子の空袋と飲み掛けのジュースを持ってカズヒが部屋を出るなり、ソルヴァは再びベッドに横たわる。静まり返った寝室。何もしない中で流れて行く時は、先程までいたあの世界と同じ早さではあろう。だがその世界が持つ空気感と言うべき何かが、流れる時間をも別物に仕立て上げているような気がしてならなかった。
「やっぱ俺は、この世界にいるべきなんだな……」
 丸みの増した黄色い腹を、徐に撫で回した。


 無事元の世界に戻って以降、ソルヴァは寝込みがちになった。カズヒは気を利かせて、消化がよく栄養のある食べ物を出してくれた。食欲は落ち――とは言いつつ標準的な竜族よりは格段に食べるが――以前よりゆっくり食べるようになった。
「早く体調が戻ればいいのですが」
 ベッドに腰掛けるソルヴァにヒールの魔法を掛けるカズヒ。だがその効果はあまり見られず。
「あの世界にいたストレスが、思った以上にこたえたんだろうよ」
「しれっと太った貴方が言うことですか?」
「ストレスでも太ったりすんだよ」
 語気を荒げて両手で隠そうとするも、丸く大きな腹は大半を隠し切れない。
「もしかすると、逆に外に出て運動した方がいいのかもしれませんね。昨日もアサギやルベロスに貴方のことを聞かれましたよ」
「今は勘弁してくれ……」
 ソルヴァは咄嗟に布団に潜り込む。これじゃ世話がないと言わんばかりにカズヒは嘆息を漏らした。彼はそのまま寝室を出て、独りきりになった。やおら布団から出るなり、ソルヴァは腹を撫でた。
「ほんとのこと、言えるわけねえだろうが……」
 ベッドから降りて、全身が映る鏡の前に佇む。
(はら)ん中に、異世界で孕んだ仔がいるなんてよぉ……」
 ソルヴァを見た者をして、太ったと思わせしめた変化。その正体は普通なら誰もが思いもしない事である。だがソルヴァが容易にそれを見抜いたのは、これが初めてではないからだ。幼少に食べたとされる木の実の呪いなのかは定かではないが、以前迷い込んだ洞窟で異形に犯されて身籠り、人知れず産んだ事があった。その時の卵は今どうしているか、ソルヴァも分からない。そんな過去の経験が、ソルヴァの妊娠を確たる物としていた。現に、ソルヴァの腹は日に日に丸く膨れて張っていくし、その影響で消化器官が圧迫されて、食べる量や早さにも影響が及んでいた。
「あいつのためにも……この仔は絶対、産まなきゃならねえ……!」
 腹を撫でながら思うは、あの時一線を越えて純潔を捧げてくれた黒く雄々しい斧竜(オノノクス)。交わって二日程してから、ソルヴァは身の異変に気付いていた。とは言え種族も住む世界も異なる者同士、妊娠の事実を口にするのは憚られた。話を聞く限り、ハルバードは日々を楽しく過ごしている事も伝わり、この事実を告げた事で、それが崩壊してしまうかもしれない……。そんな思いを、ご主人にだけは吐き出した。ハルバードにはハルバードらしくこれからもいてほしいから、黙っていてほしい。その代わりに生まれた命は責任を持って育てると、涙ながらにご主人に頭を下げたあの場面が、鮮明に浮かんだ。
「カズヒには……卵を拾ったってことにしとこうか……」
 新たな命を宿す丸みを、そっと撫でて息を吐いた。



 更に日が経ち、黄色い丸みは一層大きく膨れて強い張りを感じ、いよいよその時が迫るのをソルヴァは実感していた。ここまでになると膨らみを誤魔化し切れず、布団に入ったり目を盗んで行動したりと、カズヒに悟られないよう立ち回らざるを得なかった。
「それじゃあ、行ってきますよ」
「おう、気い付けてな」
 布団の中からカズヒの外出の挨拶に応えたソルヴァ。気配が消えたのを確認して、ソルヴァは布団から出てベッドを下りる。破裂しそうな程に膨れた腹が、鏡に映って一層目立つ。近い将来産み落とされる生命の大きさを、改めて目に焼き付ける。いざと言う時のために、寝室の一角にタオルを敷き詰めていて、準備は整っていた。
「違う世界で、もうすぐ自分の仔が産まれるなんて思いもしてないんだろうな……」
 張った皮膚の感触を堪能しながら、肉体美に磨きを掛けているであろうハルバードを想った。
「叶うなら、好きって言いたかったぜ……」
 心の奥の奥に秘めていたものを、初めて言葉にした。それを言ってしまえば……どうなってしまうのか、ソルヴァにとっては言うまでもなかった。同時に、あのタイミングで帰ってよかったとも痛感した。
 ハルバードがもたらした命の宿る胎内は、もう限界と言わんばかりに膨らんでいる。昨日辺りから、時折出口が開き掛かるのをソルヴァも覚えていた。産む事自体は初めてではないため、不安は少ない。只、生まれた命をちゃんと育てていけるか、初めて尽くしの将来に大きな不安を抱えていた。鏡越しに立つ身重の雄竜は、長く息を吐いた。


 限界まで張り詰めた腹が、突如疼く。いよいよその時が訪れると、ソルヴァは悟った。タオルを敷き詰めた一角へと移動する。立って壁に寄り掛かり、産卵に臨んだ。出口は完全に開き、何かが破ける感覚の後に覚える不快感。溢れ出した粘液が、敷かれたタオルに滴り落ちる。
「あいつが俺の体に残してくれた思い出……なんとしてでも、産んでやる……!」
 無理のない程度に、腹部に力を込める。ソルヴァからは見えないが、真下のタオルの染みは徐々に広がった。やがて胎内から、大きな質量の移動を感じる。それは命の揺り籠として作り上げてくれた袋を脱し、破けて潤った肉洞を押し広げつつ下りて行く。それに伴う苦痛はあまり感じられず、その分体内で起きている事に神経を集中しつつ励んだ。
「ハルバードぉ……!」
 今下りて来る生命を授けてくれた、今は想いの届かぬ雄竜に思いを馳せる。一緒にいた時間こそ短かったが、不器用ながら真っすぐで勇ましく男気溢れる一方で、臆せず被虐的な欲望と痴態を曝け出してくれた存在は、知らず知らずの内にソルヴァを魅了していた。
「うぅっ……出てくる……!」
 その遺伝子を受け継いだであろう新たな生命が、出口を押し開き始める。その太さはあの時出口から呑み込んで、初めて胎内に精を搾り出した赤黒い凶器とほぼ同じくらいだった。この大きさなら産み落とすのは容易ではあったが、急に名残惜しくなって体の力を緩める。それでも殻がゆっくり穴を押し拡げながら、徐々にその姿を露にしていく。そして最も太い部分が通ったのを皮切りに、するりと穴から抜けてタオルの上に落ち、溜まった粘液が栓を失ってその上にドバッと降りかかった。場所を移動して、初めて産み落とされた卵を目にする。独特の模様が、粘液に塗れた殻に彩られていた。
「とうとうあいつの仔……産んじまった……」
 喜びと不安の入り混じる何とも言えない感情がこみ上げてきた。だがそれも、即座に途切れる。
「マジかよ、まだ……!」
 再び体内に感じる質量の移動。だがそれは最初の移動で拡張された事もあってか、いきまずとも苦痛を伴う事なく順調に下りて来るのを感じた。そしてそのまま閉じ切らない穴を再び拡げ、呆気なく産み落とした後に更に多くの粘液を迸らせた。あっという間の出来事だった。
「はは、安産じゃねーか……」
 汚れた臀部を乾いた部分で拭い、タオルの上に転がる二個の卵に目を遣った。ぬめりに覆われ、その周囲は広範囲に濡れている。顔を近づけると、少し臭いもした。
「これが、俺とハルバードの……」
 ぬめりを拭き取り、その内の一個を持ち上げると、手にずっしりと重さが伝わる。実際に孵るかは、やってみないと分からない。だが持ち上げたそれは、異なる世界を、そして性別の壁を越えて宿した奇跡の命。ソルヴァは、密かに進めていた卵を孵すための準備の仕上げに取り掛かる。過去に見聞きして調べた通りに環境を整え、産みたての卵を置いた。あとはその時を待つばかり。


「ただいま戻りましたよ」
 帰宅するなり寝室へと入って来たカズヒ。飛び込む異様な光景に目を丸くする。
「ちょっと待ってください、何ですかその卵は!?」
「ああ、これか? お前が前に言ってた通りに外に出て、軽く散歩してたら見つけちまったのよ」
「で、貴方はそれを育ててみようと?」
 おうよ、と予め考えておいた嘘を吐く。カズヒは興味津々にその卵を凝視する。
「触んなよ」
「わかってます」
 沈黙の時が流れ出す。しばらく卵を見つめてから、つと振り返るカズヒ。
「いつまで隠すんですか? 貴方が産んだんでしょう?」
 ギクッと鬣が逆立つ。思いの外あっさりと、カズヒは真実を見抜いていた。
「やっぱり。卵のにおいで丸わかりです。前々からおかしいとは思ってましたよ。体調が悪いふりをして、こそこそ何かやってるのはわかってましたが、まさか妊娠していたなんて……」
「うぅ、隠してたのは悪かった……」
 苦々しく詫びた後、視線を逸らす。だがふと疑問が浮かんだ。
「お前はオスの俺が孕んだこと、おかしいと思ってねえのか?」
「別に。魔法の力であり得る範囲だとは思っていますが。何なら貴方が触手に孕まされた事も知ってますからね」
「おい待ってくれそれもバレてたとかマジショックでけーんだけど……」
 頭を抱えて(うずくま)る情けない後姿に呆れ返るカズヒ。ゆっくり歩み寄り、そっと肩に手を置いた。
「でもここまでするってことは、相当大切な相手との間にできたものなんでしょう? 詳しい経緯はわかりませんが、そうである以上ぞんざいな扱いはできません。本気で育てる気があるなら、私も協力しますからね」
「カズヒ……」
 やおら頭を上げ、振り向く。青狼の優し気な微笑みが視界一杯に映る。
「悪い、お前って奴がいながら……」
「気にしてませんよ、ワンナイトラブみたいなものでしょうし(本当は嫉妬してますけど)」
 今度はソルヴァの下顎を撫でた。
「普段はおちゃらけてる貴方ですけど、こうと決めたことにはちゃんと責任を持って筋を通そうとする、そんなところに私は惹かれたんですよ。ですからこの仔たちはこれから、我々の仔として育てていきましょうね」
 不貞に及んだ身に対しては相応しからぬ、優しい言葉だった。見上げる赤い眼から、大粒の涙が溢れ出す。
「うぅっ……カ、カズヒィィィィ!!!」
「ぐえっ!」
 勢いよく抱き着き、堰を切ったが如く号泣する。押し倒され、一気に二百キロ以上の体重が掛かった青狼は苦悶の表情を浮かべた。滅多に見ない一面を曝け出す緑竜に、苦しい中でも驚く。そして今まで不安諸々を押し殺して産み育てようとしてきたであろう心中を(おもんぱか)った。何も言わず、子供みたいに泣きじゃくる緑竜の頭を撫で続けた――



「これで気は済みましたか?」
 白目を赤くして涙を拭うソルヴァに、優しく尋ねた。徐に無言で頷いて、ソルヴァは応える。
「さて。色々思いに浸りたいのは山々でしょうけど、そんな余裕はありませんよ。子供部屋をどうするか、誰がどう面倒を見るのか。そして更に嵩むだろう出費……貴方もちゃんと稼いでもらうことになりますからね」
「カズヒも現実も容赦ねえな~……」
 と、情けない半泣きを曝け出した。
「決めたのは貴方でしょう! この仔たちのためにもしっかりしなさい!」
「わ~ったよ~……」
 ソルヴァはゆっくり立ち上がり、黄色い腹を撫でる。新たな命を産み落として小さく萎んだと言えど、未だ丸みが目立っていた。カズヒが肩を叩き、大きく頷く。その頼もしさに、ソルヴァの不安は一時ながら薄らいだ。
「さて、今からやるべきことはたくさんあります。私は生まれたばかりの仔に与えるご飯について準備しますから、ソルヴァは子供部屋の準備をお願いしますよ」
「オッケー、とりあえずやってみるぜ!」
 ソルヴァは卵を産んで以降初めて満面の笑みを見せた。異世界での交流を機に進み始めた新たな生活が本格的に始まりを告げる、穏やかな夏の日だった。



 晴れやかなお昼時、燦々と照らす陽の光を黒々とした体に浴びつつ散歩を楽しむあごオノポケモン。二メートルを超す体躯は硬い鎧状の皮膚越しにも隆々と磨きの掛かった筋肉の存在を主張して、凛とした顔立ちと色違いの黒い体色が、雄々しい魅力に華を添えている。
「熱くない? 水でも浴びる?」
 隣で身を案ずる人間の男性は、彼のご主人。種族柄汗をかかない事と吸熱しやすい黒を纏う事から、時節柄熱中症を特に警戒していた。
「そうさせてもらおう」
 と、黒いオノノクスが頷き、彼らは公園の水道に足を運んだ。鞄から大容量の空のペットボトルを取り出し、キャップを開けて蛇口を捻り、冷たい水で中を満たしてから黒竜に手渡すと、それを頭から浴びた。端整な顔立ちから顎の刃、黒い皮膚へと熱を奪いながら流れて行き、燦々と照らす日差しを反射して煌めく。
「やっぱり水浴びするハルバードは()になるなぁ」
 スマホロトムで濡れた雄姿を次々と収めていった。この肉体を売りにして筋トレの様子諸々をライブ配信し続けるチャンネルは更に軌道に乗り、そこそこいい感じの収益を上げられるまでになっていた。今撮った写真も、アーカイブ版のサムネイルに十分使える程の見栄えだ。


 濡れタオルを首に掛け、快晴の陽気と吹き抜ける風に任せて体を乾かしながらいつもの散歩道を歩き続ける。するとその視界に、何かを捉えた。その瞬間、彼らは瞠目した。その存在も、ハルバード達を凝視していた。
「ご主人、どうする?」
「見なかったことにしよう」
「そうだな。俺も無駄な――」
「薄情だなお前ら!!!」
 堪らず声を上げた異形。緑色の体と黄色く艶めく腹部が特徴的なドラゴンだった。その様子に、ご主人とハルバードはゲラゲラ笑い出す。
「初めて出会ったときのこと、もう忘れたのかよお前は」
「あーおかしー!」
「なんだよ~せっかく俺から会いに来たってのによぉ~!」
 むすっと頬を膨らませたのはソルヴァ。その腹は……変わらず丸い。
「本当にまた来てくれたんだね! うれしいな」
「ちょっと時間かかっちまったけど、またここに来れたぜ!」
 ソルヴァはご主人と熱い抱擁を交わす。そして控え目ながら腕を広げたハルバードにも抱き着いた。懐かしいあの感覚に、ハルバードは胸の高鳴りを抑えるのに必死だった。
「達者でやってたか?」
「まあな! ハルバードこそどうなんだよ?」
「今は筋トレとバトルで稼げてる。お前とのトレーニングのおかげだ!」
「そっかあよかったぜぇ!」
 遅れてやって来た再会の喜びが爆発する中、ハルバードは先程までソルヴァがいた場所に目を遣っていた。明らかに何かがいる。その事を伝えると、ソルヴァが呼び声を掛けた。するとそこから駆け出す二匹の小さな存在。
「この仔たち、もしかして……」
「おう、俺の仔! ほら、ご主人さんとハルバードだ、あいさつしな!」
 二匹の仔はぺこりと頭を下げた。
「かわいいな~ソルヴァ君に似てる!」
 見つめるご主人は、すっかり表情が緩んでいた。
「お前が一丁前に親になってたなんてな。驚きだ。腹はそのままなのに」
「だろー? って最後は余計だっての!」
 ハルバードが揉んだ丸腹は、初めて会った時と一切変わらない感触だった。
「まあここだと目立つし、また僕の家においでよ」
「また飛べって言わねえだろうな!?」
「子供たちもいるし、歩いてきていいよ」
「あー助かった……」
 ほっと胸を撫で下ろしながら、ハルバード達と共にご主人の家へと歩き出す。木々の合間に見えた家は、あの時と変わらない。だがいざ中に入ると、配信用の機材がグレードアップしていた他、アマチュアのボディビル大会の優勝トロフィーが目立つ位置に置かれていた。
「やっぱこっちも、年月が経ってんだな」
「俺たちのやってることは相変わらずだがな」
「いや、それでも一つの道を真っすぐに突き詰めて、確実に進歩してんじゃねぇか! ハルバードらしさが健在で、俺も安心したぜ」
「これが俺の生き様だからな」
 と、あの時より隆々と逞しくなった筋肉をソルヴァにアピールした。仔供達とご主人の仲よく遊ぶ声を耳に拾いながら、ハルバードはソルヴァを自室に呼んだ。扉越しにはしゃぎ声が微かに聞こえる中で、ハルバードはソルヴァと向き合い、緑の肩を掴んだ。
「……ソルヴァ」
「なんだよ……?」
 突如向けられた真剣な眼差しに、ソルヴァは戸惑いを見せる。ごくり、と黒い喉が動くのが分かった。
「ずっと気になってたんだが……もしかしてあ」
「パパもいっしょにあそぼーーー!!!」
 突如開け放たれた扉から幼子の歓声が飛び込む。想像だにしない出来事に、黒竜は固まってしまった。
「おーし遊ぶか!」
 ソルヴァは我が仔の許へ駆け寄って行く。彼らの雰囲気から、愛情を持って育てられている事がひしひし伝わってきた。
「お前も来いよ!」
「あ、ああ……!」
 ソルヴァに手招きされ、徐に歩き出す。そしてソルヴァの紹介に(あずか)る。
「ハルバードにいちゃんだ! 黒くてかっこいいだろ? けど顎の牙には触るなよ? 指とかスパーンて簡単にちょん切られちゃうからな」
「はーい!」
「ハルバルにーちゃんもいっしょにあそぼ?」
「ハルバルにーちゃんだって! かわいいなぁそれ」
「ふっ、悪くはないな。よーし俺も付き合ってやるか」
 異世界からやって来た愛おしい存在と戯れ、楽しい一時を過ごすハルバード達。あの頃の微妙な距離感も、年月の変化によってすっかり薄らいでいたのが身に沁みた。



「なんかぼくたち、ハルバルにーちゃんにちょっとにてない?」
「そうかなー?」
 黒竜と緑竜は、同時にピクリと固まった。



 ――Special thanks: 放狼丸カズヒ


【原稿用紙(20x20行)】 90.7枚
【文字数(空白改行除く)】 29445文字
【行数】 649行
【台詞:地の文 台詞率】 347:261行 57% / 8916:20859文字 30%
【かな: カナ: 漢字: 他: ASCII】 15622: 2566: 8158: 3397: 32文字
【文字種%】 ひら52: カタ9: 漢字27: 他11: A0%






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