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inFlAted fRusTration 後編 の履歴(No.1)


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※このページは後編です。注意書きは前編にあります




12


 めいめいの棲み処に戻って早々、次回スピードレースに向けて練習を重ねる日々が始まる。サナギラスはあの件をきっかけに、ドラパルトを始めとした選手間の交流が多くなり、合同で練習する機会が増えた。リザードンは兼ねてから出場しているバトル大会で好成績を収めて得た賞金の一部を、イワパレスへの資金援助や練習コース作りに回す等して全力サポートに吝かでなく、ソーナンスは商売あがったりの裏返したる自由時間を回して、リザードンの代理で練習監督を務める機会が増えた。オーロットは本業の木工に勤しみつつ、顔の広さを活かした情報収集や、隙間時間を使ったポジション及びコース取りの戦術の考案に熱を入れた。



 そんなある日の事――


「……っ、はぁ、はぁ……!」
 棲み処で独り勤しむ(、、、)リザードン。伸ばした両手で扱く、快楽に腫れ上がった雄々しい肉柱は、漏れ出す淫蜜を纏ってぬるりと艶めく。手指と擦れて絶え間なく濡れた音が立ち、卑猥な雄竜の喘ぎと混交して孤独な空間を震わせる。
「うぐっ……!」
 自家発電で生じた性電気が突如鍛えた肉体に襲い掛かり、刹那に強張りながら刺激に弱い肉柱を膨らませる。
「ギラ、スゥ……うぅ!」
 独り嗜む糧として脳内に描いていたのは、サナギラスの細まった腹先。以前打ち明けて罵倒の限りを尽くされたあの瞬間は、未だ劣情を煽られる。寧ろ真剣勝負の場面ではマフラーで隠されていたのが幸いだった。
「うぅ、屁が……出ちまうかんな……」
 妄想の中のサナギラスが恥じらいながら腹先を曝け出す。覆っていた殻が開き、鮮やかなピンクが顔を出す。腹を鳴らすエネルギーが柔らかな出口に集中して丸く膨らみ、薄い皮膚が張る。
「うおっ! やば、もうっ……!!」
 次第に前屈みになり、翼は開き、尻尾は真っすぐ伸びて硬直する。もたらされる性感に音を上げようと、雄柱は噴火寸前の火山の如く血管と筋をより浮き立たせながら硬く膨れ、煮凝りに近い粘りを噴き出し続ける先端はより強く反って上を向く。尿道に沿って張り出した太い筋が、割れ目の窪みを埋めた根元から歪に浮き立ち、それは徐々に先端へと移動する。頭に描くサナギラスの腹先も限界まで膨れ上がり、窄まった出口が圧に負けて皺を伸ばされ、その瞬間が訪れる。
「イ、イクッ!! ウオォォォォォッ!!!」
 抗えない熱エネルギーに翻弄され、リザードンは迫り来る恍惚の極大に吼えて腰を突き出す。最も雄々しい突出から白く噴火して周囲に飛散し、地面から粘着音が立った。一部は滲んだ汗が臭う体にも降り、鼻粘膜を刺すような青臭さが瞬く間に支配する。握り続ける雄山の重々しい噴火の律動が厳つい手指にも伝わり、内燃した熱に浮かされる陶酔のひとときを味わっていた。


「お取り込み中のところ悪いンスけど……」
 脳内に語り掛ける馴染みの声。リザードンは途端に鼻筋に皺を作った。
「なんてときにテレパシー送ってくんだよお前……」
「も、申し訳ないンス! あなたにも聞いてほしい案件があって待ってたンス」
 咄嗟にテレパシーで謝ったソーナンスだが……。
「は? 待ってた(、、、、)? ってことはお前……」
「べ、別にあんなことを思ってそんなことをしてたとか、わたし、全然知らないンス!」
「……警察呼んでいいか?」
「そ、それだけは勘弁しておくれナンスーーー!!」
 誤って滑った口が、火に油を注ぐ結果に。静かに怒りを燃やすリザードンを鎮めようと必死にソーナンスは謝り倒した。
「で? 案件ってなんだよ」
 いつまで怒っても埒が明かないからと、リザードンは感情を抑えて自ら本題に切り込んだ。
「サナギラスさん宛てナンスけど、あなたにも聞いてほしいんで、わたしの店に来てほしいンス」
 これだけでは見当も付かずにリザードンは訝しむ。
「なんだかわかんないけど、とりあえずこれから行くから」
「待ってるンス……あ、ちゃんと体は洗うンスよ。今のあなためちゃくちゃ臭いンスから」
「……やっぱ後で警察に突き出すかー」
「ひえー勘弁ナンスーーーーー!!!」
「……バーカ、冗談だ」
 声を震わすソーナンスに嘆息を零しつつ、テレパシーが切れたのを確認して後始末。綺麗になったのを確認してから外に出て、巨木目指して飛び立った。
 南中に程近く昇った太陽に照らされる、一際高く茂った枝葉。それを目印に降り立ち、洞を潜って店を訪れると、一匹のサイドンがソーナンス、そしてサナギラスと何か話している。ソーナンスは気付くなり手招きした。ギロッと睨みを利かせると、一瞬戦慄く水色の体。その反応に疑問符を浮かばせたサナギラスには、なんでもないと満面の笑みで答える。遅れてオーロットも、作業が一段落したからと奥の工房からやって来た。


「……シチリン山のきりばらい?」
 それがサイドンの持ち掛けた依頼だった。シチリン山は活火山で、知名度こそスリバチスタンドの由来となったスリバチ山に及ばないものの、絶景を味わえる山道を観光の売りとしている。サナギラスにとっては、先のレースに於いてパワーアップのために食べた土がある場所で、以前訪れた際は霧の一つも見受けられなかった。因みにサイドンは一帯の管理者であり、往来の多く風光明媚な山道に掛かりやすい霧を、きりばらい要員として雇ったポケモン達によって日々取り除いているとの事。
「――ところが、次々流行り風邪に倒れて寝込んでしまって、残った一匹でどうにか回していたんですが、彼の奥さんの産卵が近いからって急遽子守で休むと告げられまして……」
「それで、あのレースで見せたパワーならどうにかなりそうだと……」
 先日の決勝を観戦していた一観客でもあったサイドン故に、苦肉の策で思い付いたのが、今持ち掛けたこの依頼。やってみるか否かサナギラスに確認すると、オレのパワーが役立つならと、とりあえず承諾は得た。
「で、いつ伺えばよろしいンスかね?」
「急ですが……明日の朝にお願いしたいのです」
「明日ァ!?」
 サナギラスは思わず飛び上がる。
「こうしちゃいられねぇ! レースで世話になった以上、今から食いに行かなきゃ間に合わねぇ! 午後の練習は中止! 屁ぇ溜めるぜぇ!!」
 急ぎ足でシチリン山へと向かうサナギラス。後で詳しい話を聞かせてほしいとソーナンスにお願いしてから、リザードンも後を追い駆けた。
 山に着くなり土を貪る姿を後ろから眺めるリザードン。そして下見がてら飛び立って上空から俯瞰する。名前の由来ともなるカルデラの外輪山を通る山道自体は結構長く、周囲の風景を嗜む事も考えると、相当広範囲の霧を飛ばさなければならないと分かる。現に一匹体制でやっている現在ですら、所々に霧が掛かって手が回っていない事が窺えた。
 食べ終えて満腹のサナギラスに、上空から見た状況を伝える。
「またソーナンスとオーロットに、お前を受け止めてもらわないといけなくなるから、ちゃんとお願いしなきゃな」
「パワーが必要だったら、マフラー付けねぇほうがいいよな」
「そうなると屁のにおいもそのままだけど、元々硫黄のにおいが強いからいけそうな気がする」
「アイツにオレの影踏んでもらうんだろ? 影できるのか?」
「それは――」
 実際に山道を歩きつつ、とりあえず二匹で作戦会議。存分に下見を終えてから戻り、サイドン含め五匹で詳細を詰める。天気予報も確認した上で、翌日の段取りを決めて一まず解散した。
 巨木からの帰り道。午後の木漏れ日を浴びながら、リザードンとサナギラスは途中まで一緒に歩いていた。ずーっと凝視するのに気付き、サナギラスは怪訝そうに見上げた。
「お前ずっとウキウキしてるなーって」
「……なんでわかるんだよ?」
「いつも以上に元気に跳ねてるから」
「マジかよ」
 照れ隠しなのか、更に大きく飛び跳ねたサナギラス。その滑稽振りに、リザードンは笑みを零した。
「だってそりゃあ、オレの屁がまた違う形で役に立つかもしれねぇだろ? そう考えたらウキウキワクワクしちまうっての」
 揺れる木漏れ日に輝く瞳が、サナギラスの思いを率直に表していた。だったら明日がなおさら楽しみだな、とリザードンは牙を見せて笑った。

13


 東の空から太陽が昇る。サナギラス、リザードン、ソーナンス、オーロットは日の出と同時にシチリン山へと赴いた。朝の冷えた空気も相まってか、見上げた山容は麓こそ見えるも、高度を上げるにつれ白く覆われていた。これは手強そうだと一斉に固唾を呑む。登り始めるなり一面が湿っぽい白に覆われ始め、視界を奪われるために滑落しないよう足元に意識を集中してゆっくり進まざるを得ない。きりばらい要員の重要性を早くも突き付けられる事に。安全第一で進んだ結果、集合場所へは想定より遅い到着となった。
「ご協力いただき、ありがとうございます」
 到着を待っていたサイドンが、深々と一礼する。
「正直なところ上手くいくかはわかりませんが、全力でやらせていただきます」
 想像以上の深刻具合に苦笑が零れるも、やると言った以上はやるしかない。彼らは早速準備に取り掛かる。サナギラスは記憶と勘を頼りに腹先の向きを決め、ソーナンスは彼を受け止めるために前に立つ。その後ろにオーロットが根を張った。これぞイワパレスに噴射を見てもらったあの時と同じ布陣。だが渋い顔を浮かべたのはソーナンス。
「晴れてるのに霧のせいで光が届かなくて、影が踏めないンス……」
「霧の細かな水分で日光が乱反射されているのか」
 辺り一面を覆う白が、まさしくその答えだった。
「そのために俺がいるんだろ?」
 リザードンが背を向けて尻尾を高く掲げると、先端の炎によって影が出来、それでようやくソーナンスも踏めるようになった。
「そんなとこで立ってて、オレの屁の勢いでブッ飛ばされねぇか?」
「それもそうだな」
 リザードンは四つん這いになって再度尻尾を掲げた。これでとりあえずは大丈夫そう。サナギラスはその姿につい目が行ってしまう。
「サナギラスさんは準備できてるンスか?」
「……お、おぅ、今メッチャ屁が溜まってきてるぜぇ!」
 遅れてゴロゴロ、グリュリュと威勢よく腹も答えた。
「やるなら早くしてもらえると助かる。ここの土は不味い……おえっ」
 オーロットが顔を顰めて催促を始めた。活火山であるシチリン山を構成する土壌には高濃度の硫黄分が含まれ、サナギラスにとってはパワーの源となる一方で、草タイプたるオーロットには毒として作用する。それは一帯の植生の乏しさからも明白だった。
「だったら早速やるかぁ!」
 とサナギラスはパンパンに張った腹を見せ付ける。そしてうつ伏せになってスタンバイ。
「ちなみに掛け声は――」
「サイドンさんがいるんであっちの方で頼むンス」
「おぅ、んじゃぁ……」
 出口を覆う硬い殻が開く。幸か不幸か、四つん這いのリザードンからは丁度見えない位置だったために、不意の反応で恥を晒さずには済みそう。
「っしゃぁ全力パワーで恩返しいくぜえぇぇぇぇぇっ!!」
 かっと目を開き、硬い腹が更に大きく張った。必死に堰き止めていた肉が、ぷっくり突出する。
「INFLATED FRUSTRATIOOOOOOOOOOOONNNNN!!!」


 パンパンッ! ブゴォォォォゴオォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーッ!!!


 マフラーを通さない出力百パーセントの衝撃が、霧中に放たれる。その勢いで発進したサナギラスを、ソーナンスが全身で受け止め、リザードンのお陰ではっきり映る影をしっかり踏んでその場に固定する。
「や、やっぱりレース仕様であのときより桁違いのパワーナンスゥゥゥゥゥッ!」
 すぐさま苦悶が滲み出す。後ろへ押しやられる水色の体を、オーロットが根を張って受け止めた。一面を覆っていた白が放射状に吹き飛ばされ、徐々に露になる山道やカルデラ。
「おお! 素晴らしいです! サナギラスさん一匹でこんなに早くきりばらいができるなんて!」
 脇で見ていたサイドンも感激に打ち震える。次第に青空も見えてきて、露に濡れた山道に朝日が燦々と射し込み、(ちりば)めたダイヤモンドの如き煌々とした光景に一変していく。
「リザードンさん! もう日が射してきたから大丈夫ナンス!」
「わかったぜ!」
「それより早く、オーロットさんを!」
 不要になった尻尾を下げるや、サナギラスのジェット噴射によって周辺に巻き起こる気流に体を持って行かれそうになりながらも、四つん這いで地面にしがみ付きつつオーロットの方へゆっくり進む。
「くっ……! この土……不味い上に脆い……!」
 霊木の厳つい顔が一層歪になる。必死に根を張っているにも拘らず、衝撃を受け止める前方の根が、山土を押し上げて露出してきた。
「加勢するぜ、オーロット!」
 ようやく二本足で立てる所まで来るなり、リザードンはオーロットの背中を押し返し、三匹がかりでサナギラスの猛烈な推進力を受け止める。
「体は熱いが……助かるよ……!」
 相性上炎タイプとの物理的接触は避けがちな彼も、サナギラスを抱えて飛べる程の屈強な熱い肉体による援護は心から頼もしかった。
「見えてきたぜえ、絶景がよぉ!!」
 リザードンは噴屁の轟音にも負けない大声を張り上げ、皆を奮い立たせた。彼の言う通り、どんどん霧が吹き飛ばされて、見慣れた風光明媚な山道を取り戻しつつあった。
「駄目だ……これでもやはり……厳しい……!」
 土からの養分は望めず、かつ地盤もよくないこの状況は辛酸を舐めるも同然。
「もうちょっとだ!」
「がんばるンスー!」
 前後からの声援を受け、残った力を振り絞ってオーロットは衝撃に耐え続ける。
「なんと! 見事に霧が……!」
 眼下に広がる絶景と一面の青空。先程までの濃霧が嘘のよう。
「すまんっ! もうっ……!」
 オーロットの体は既に限界を迎えていた。
「よくがんばった、霧は晴れたぜ!」
「そう、かっ……!」
 オーロットは力尽き、張っていた根が一気に土から抜けてサナギラス、ソーナンス諸共リザードンを吹き飛ばし、澄み渡った青空へ打ち上げられる!
「うわあああぁぁぁぁぁっナンスゥーーーーー!!!」
「しまった!」
 起き上がるも時既に遅し。リザードンの飛翔速度では到底追い付けない勢いで、三匹は彼方へ飛んで行った。
「お、お礼は後でちゃんと致しますので、今は皆様を捜しに行ってください!」
 思わぬ事態に狼狽するサイドンに頭を下げ、リザードンは青空へ飛び立った。

 土煙を上げて墜落する三匹。ソーナンスの咄嗟のカウンターによって、その衝撃は和らげられ、三匹共にとりあえず無事だった。
「……すまない、僕が不甲斐ないせいで……」
 普段吐く事のない後ろ向きな言葉が、オーロットの口から零れた。
「そんなことないンス! オーロットさんはあんな状況でも精一杯がんばったンス!」
「ありがとう、ソーナンス……!」
 二匹が感極まって抱き合う中、サナギラスは一帯を見回す。
「それよりどうやって帰るか考えたほうがいいんじゃねぇか?」
 途端に言葉を失う二匹。彼らも見回すが、明らかに見た事のない山並みが三百六十度に広がっていた。
「……帰るにしたって、これではな……」
 オーロットはがくりと肩を落とした。その隣で俯いて身を震わすソーナンス。大丈夫かと顔を覗き込んだ。


「……ソソソ、遭難(、、)()


 突拍子もなく顔を上げて水色の額をぺちっと叩いた。瞬く間に寒風が吹き抜け、雪まで舞い出した。山の天気は変わりやすい、とは言うが……。
「どうしてくれんだよおい!」
「わ、わたしのせいナンスか!?」
「そ、それより寒くて敵わん……風だけでもやり過ごせないか……?」
 三匹は微妙な空気の中、風を凌げる所へ移動した。一まずは無駄に移動しないに越した事はないと言う見解で一致する。
「オメェお得意のアレでアイツに助け呼んでみたらどうだ? ちったぁ離れてても届くんだろ?」
「まぁとりあえずやってみるンス……」
 ソーナンスは両手で頭を押さえ、必死に念じ始めた。
「……あ、届いたンス!」
「っしゃぁこーゆーときのソーナンスだな!」
「とりあえず樹氷にならずに済みそうだ……」
 周囲が吹雪く中で、三匹の心に希望の炎が灯った。
「樹氷ってかまずユキノオーもどきじゃね?」
「……そう、そのまま呑み込んで、僕のウッドホーン……」
「やめろ気色わりぃ! てかオレで回復しようとすんな!」
「オーロットさんが寒さでおかしくなったンス! リザードンさん早く助けてナンスゥゥゥゥゥ!!」


 ――ソーナンスのSOSを受け取ったリザードンはすぐさま彼らの元に赴き、山岳救助隊の助けも借りて三匹はどうにか事なきを得た。サイドンのお礼はスピードレースに向けての大きな足しになったものの、流石にこれには皆懲りて、このような系統の依頼は受けないという意見に一つの異論も出なかった。

14


 リザードンの姿は、巨木の何でも屋にあった。サナギラスの練習が入っていた筈だが姿を見せないため、立ち寄ってみたら案の定そこにサナギラスもいた。彼の横には、偶然オーロットの工房に顔を出していたイワパレスもいる。
「なぁ、マフラーに穴が開いちまったんだけど、直せるか?」
「あー、確かに開いてやすね。この大きさですと、何か開けたような覚えありやすか?」
「いや? 別に」
 これじゃ練習どころじゃないなと、頷くリザードン。今回に限らずマフラーの不調や体調の関係で中止になったり、思わぬ観客がいて安全上中断したりする事もさほど珍しくはなかった。
「これくらいだったらちょちょいと直せやすぜ」
「ありがてぇ! じゃあ頼むぜ」
 イワパレスに修理を頼み、サナギラスは急遽空いた時間をどうするかリザードンと相談を始める。
「いらっしゃいませー」
 ソーナンスの挨拶が耳に入る。閑古鳥の鳴く現状では、普段入り浸る面々(イツメン)以外相手に聞く方が珍しい代物。
「あの、こちらに伺えば、サナギラスさんとお話しできるとお聞きしたのですが……」
 まさか、とサナギラスは固唾を呑む。店に訪れたのは壮年と思しきバリヤードだった。
「今ちょうどいらっしゃいますけど、お呼び致しましょうか?」
「よろしくお願いします」
 深々と一礼するバリヤード。普段の口癖が皆無な接客モードのソーナンスに違和感を覚えつつ、一角の応接間に足を運んだ。
「是非、あなたのお力をお借りしたいのです!」
 サナギラスに向けられた表情から事の切実さが窺えるものの、次回のスピードレースの地区予選が迫っていた事、及び先日のシチリン山の件がちらついて素直に承諾しかねていた。その事を遠回しに伝えてみるも、バリヤードは尚も訴え続けた。
「我々の村を襲うゴースどもを、是非とも一気に吹き飛ばしていただきたいのです!」
 ゴースと言えばガスじょうポケモン。それ故に神出鬼没で警察も実質お手上げ状態。重さ僅か0.1kgで気体も同然なので吹き飛ばす事は訳ないが、そのためにソーナンス達に負担を強いる事になるのを、サナギラスは懸念していた。だがその空気は、一気に変わった。
「家々に侵入しては盗み食いしたり中を荒らしたり、果ては村のメスたちや子供たちにも、ちょっと言いにくいことをしでかすのです!」
「なんですと!?」
 座っていた椅子から立ち上がったのはリザードン。
「それは断じて許しがたい! ましてや子供にも手を出すロリコンショタコンペドフィリアなんて、ヘキが終わってるな!」
 怒りに打ち震えながら、大きく開いた鼻から煙を噴き出した。約二名から冷たい視線を向けられていたが、それに気付いていたか否かは定かではない。
「ペドですって!? そりゃあ聞き捨てなりやせんね!」
「懲らしめるなら僕も是非協力させていただきたい!」
 アンチ小児性愛という共通点が発覚したオーロット、イワパレスが意気揚々と乗り込んで来た。
「決まりだな、オレも乗った!」
「サナギラスさんが乗り気なら、わたしも喜んでお受け致します!」
 結局瞬く間に話が決まってしまい、バリヤードは涙ながらに何度も頭を下げて感謝の弁を述べた。
 そうと決まれば早速作戦会議。ゴース達が一斉に現れるのは新月の夜であるため、一網打尽にすべくその日に行われる事となった。今は下弦の月で猶予は約一週間、その間に準備も可能。
 バリヤードは用意した紙に、村の概況を描き始めた。ソーナンスが広げた地図で場所を確認すると、丘陵の谷沿いに棲み処がある事が分かる。
「谷地形だったら風が集まりやすいし、一網打尽にはしやすいな」
「ですのでそれを利用して、奴らに感付かれないように、なるべく遠くから吹き飛ばしていただきたいのです。それから侵入できないように、我々総出で村に結界を張ります」
「そうなるとマフラーは着けない方がよさそうですね」
 イワパレス曰く、マフラーは噴射の操作性を高めるために出力を抑制する他、指向性が高いためある一方向しか風が届かず、却って非効率らしい。
「ってことは、フィルターを通さないから悪臭ガスが村一帯に吹き付けられることになるが……大丈夫なのか?」
「でしたらオイラが、試作段階ですけど村の住民分のフィルターマスクを作りやす!」
 イワパレスは鋏を鳴らしてやる気十分。まだまだ受注の少ない中では貴重なお仕事案件だった。紙を取り出し、住民の数と種族、年齢の内訳をバリヤードから聞き出して(したた)める。その筆捌きも普段以上にテキパキしていた。
 肝心の作戦自体も大筋で煮詰まり、バリヤードは改めて何度も深々と頭を下げて感謝し、リザードン達に見送られる中で帰路に就く。
「本当に困ってたンスね」
「ああ。あんなやつらの好きにはさせない!」
「オイラも一殻破りやす!」
「全てはあの村の治安を守るため、僕もこの身を捧げよう」
「今度はうまくやるぜぇ!」
 彼らの心は一つ。徐々に小さくなる後姿を見届けて、やってやるぞときあいだめ。残り約一週間、それぞれにやる事を確認してから、その場を解散した。

15


 橙に染まる空。夕日が遠くの山々に触れようとする時分、村のある丘陵を望む平原に、五匹は集結していた。村の住民はマネネ族とミブリム族が殆どを占めており、遠くからその姿もちらほら確認出来た。五匹の元にわざわざ足を運んだ依頼者のバリヤード。彼は村長でもあった。
「今夜は何卒、よろしくお願い致します」
「任せてください! あんなやつらから村の治安を守ってみせます!」
 各々用意周到で気合十分。新月の今夜がその時。天気は快晴でほぼ無風の予報、ゴースからしても活動しやすいのは間違いなさそうだった。
 バリヤードは村へと戻る。沈み行く日の中で、噴射の向きや布陣等を入念に確認する。よくも悪くも一発勝負。めいめいの顔に緊張が表れていた。
 そして完全に日が沈み、空は茜色から紫、紺色へと緩やかなグラデーションを描きつつ、一番星を筆頭に次々煌めき出した。迫り来るその時に、一同は息を凝らす。
「ギラス、準備はできてるか?」
「おぅ、いつでもブッコけるぜ!」
 周到に溜めて丸く膨れた腹が鳴る。村一帯が宵闇に包まれ出し、一転静まり返った。
「ゴースたちが来たンス」
 バリヤードからのテレパシーがソーナンスに届く。静かに、しかし迅速に布陣を組む四匹。
「オイラは見てるだけですいやせん」
 イワパレスは鋏を合わせて見守るが、住民にしっかりマスクを支給済。
 イワパレスから借りた拡大レンズ越しに村を観察するリザードン。確かに至る所からゴースが現れては村民にちょっかいを出したり、棲み処に侵入してつまみ食いしたりとやりたい放題。特に狙われていたのはメスしかいないミブリム族の棲み処。固く握られた拳がわなわな震え出す。その間にも嬉々として次々村に出現するゴース。さっさと吹っ飛ばしたいものの、全員集結していない事を理由にGOサインのテレパシーが聞こえてこない。彼らが抱く心持ちはさながら、闘志を剥き出しにしつつも「待て(stay)」を命じられて焦れったさばかりが膨らむオラチフ。リザードンは拳を握りつつ小声で唸り、サナギラスは腸を目一杯膨らませて決壊秒読みの出口を、閉じた硬い殻で押さえて踏み止まり、ソーナンスは黒い尻尾を幾度となく地面に叩き付け、オーロットは根を地中深くまで張り、イワパレスは両手の鋏が甲高い音を立てて鳴らないよう互い違いに挟めて戦慄き、それぞれに遣る方ない憤懣を抑え込んでいた。
「――全員集合ナンス! 今ナンス!」
 ようやく届いたGOサインに、彼らは一斉に動き出す。リザードンは四つん這いになって尻尾を高く掲げ、ソーナンスは新月中の唯一の光源で影が出来た事を確認し、オーロットは地中の養分を取り込んで、そしてサナギラスは腹先で閉じられたままの苛立ちの扉を開放した。途端に脆弱なピンクが露出して膨張し、集中する圧に負けて抉じ開けられる快感が、硬い殻とその中身の柔らかな組織へと次々伝播する。
(ブッ飛べぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!)
 血走った目がくわっと開き、解放の悦びとガス状の変質者共への正義の一発を下す使命感に、小声で雄叫びを上げた。


 パンパン、パンッ! ブゴゴゴゴオオオオォォォォォォォーーーーーーーブオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォォーーーーーーーン!!!


 腹先から生まれた衝撃波が放射状に広がるのが目で確認出来る。村では一斉に棲み処の窓や扉を開けられる限り開け放ち、村民はマスクを装着した。
「なんだなんだ!?」
 勝手気ままに村を荒らすゴース達が異変に気付いたが、運命の瞬間まで僅か数秒しか残されていなかった。瞬く間に村に届いた衝撃波は爆音として一帯を轟かせ、暴風が吹き荒れる。村民は一斉に蹲った。
「ウワアァァァァァァッ!!!」
「しかもめっちゃくっさああぁぁぁぁ!!!」
 次々と風に煽られるままに飛んで行くゴース。それはリザードン達からも、棲み処の明かりに照らされて砂粒以下の大きさながら視認出来た。
「オーロットさん! 大丈夫ナンスか!?」
「まだまだいける! この時のために……僕も体を引き締めた!」
 気合の籠ったジェット噴屁の反動たる猛烈な運動量は今までの物を凌駕し、案の定かげふみと併用して受け止めるソーナンスを容易く押し出して、それをオーロットが受け止める。シチリン山の時とは異なり、リザードンが動けず援護に回れないものの、一週間でより硬く仕上げた木組織としっかりした地盤、そして養分による十分な回復で、厳つい表情には余裕が見られた。
 ゴミや塵芥と共に、邪悪なガスは正義のガスの勢いに成す術なくあれよあれよと吹き飛ばされる。
「なんだこれはよぉぉぉぉぉぉっ!!?」
 そしてとうとう最後の一匹が空の星々の中へと消えて行った。
「よし、今だ!」
 村のバリヤード達が総出で結界(バリアー)を張って村を覆った。これでゴース達の侵入を完全に防げる。
「ありがとうございます! これで村の安全は守られました!」
 村長のテレパシーがソーナンスに届く。
「やったンス! ミッションコンプリートナンスゥ!」
「っしゃあ! あとは……」
 リザードンが掲げていた尻尾を下ろす。途端に光源を失い、枷を解かれた運動量が、直に水色の体に衝撃として伝わり、ソーナンスは苦悶の表情を浮かべて仰け反る。オーロットも流石に苦痛が表出する。
「かっとべナンスゥゥゥゥーーーーーッ!!!」
 ソーナンスの体に溜め込まれたエネルギーが爆発的に発散され、その影響で、サナギラスの軌道は真上へと変化した。
「イヤッホオオオォォォォォウ!!!」
 依頼を遂行出来た歓喜の雄叫びを響かせ、サナギラスは満天の空へ打ち上げられた――

16


 村の皆から多大なる感謝を受けた数日後、穴だらけの棲み処から新たな棲み処へと引っ越した。新居となるその場所はイワパレスの親族や知り合い一同が集って硬い岩盤を溶かして作られ、中はこれまでの棲み処の数倍もの広さを誇り、高さも十分。以降はここで快適な時を過ごしつつ、日々を勤しむ事となる。


 そんなある日のお昼時に、この新居に足を運ぶ。
「この辺か……?」
 何かを探している。生活に必要な物が置かれているスペースを色々動かしつつ目を遣ると、一つの箱が目に入る。それを取り出して蓋を開けてみる。中に入っていた物に、目を細めた。
「これだ」
 箱の中から取り出した物、それは紛れもなくスピードレース用のマフラー。替えの物を含めて二個入っていた。それを眺めては悦に入る。
「いい仕事してんじゃねーか……」
 それは徐に地面に置かれる。しばし眺めていたと思いきや、突如腕を上げ、それは勢いよく振り下ろされる。
 バキーン!
 硬質な音を岩壁に響かせ、マフラーは粉々になっていた。そしてもう一個にも容赦なく。
 ガツッ!
 壊れはしないが鋭い爪が突き刺さり、ひびが入る。深く刺さった爪を抜こうと姿勢を低くした瞬間。
 ズドゴゴゴゴゴゴ
「なんだ!?」
 地響きと共に大きく揺すられ、体勢を崩して四つん這いになってしまう。
 バリバリッ! ガラララララ……
 耳を(つんざ)く轟音がするや否や、忽ち辺りは暗闇に包まれる。
「なんだ!? 何が起きたんだ!?」
 辺りを見回すも、当然目は一帯の暗黒を捉えるのみに止まる。あまりに突然の事象に、脳の理解は追い付かないまま呆然としていた。


“――ホントにこんなことしてたなんてな”


 突如鼓膜を震わす野太い声に、背筋を寒気が走った。暗闇の一角に、淡い緑が灯る。それと同時にメリメリと音が立った。
「なっ!? おい、なんだこれは!!?」
 四つん這いの四肢を、頑丈な岩がしっかり捕らえていた。光の放つ方を見遣ると、そこに映るは光源を片手に持ってどっしり構える、巨きく逞しい姿。
「態度悪ぃし、勝つために情報漏らしたり他のヤツらの邪魔して練習できねぇようにするとか、よくねぇウワサとか聞いちゃいたけどよ、マジモンだって信じたくなかったぜ、ガブリアスさんよぉ!」
「は……はぁっ!? お、おめーまさか!!」
 ガブリアスは驚愕の余り瞠目し、大口を開いたまま顫動する。暗闇に浮かぶ強面はニタリと口角を吊り上げた。
「残念だけどよ、もうテメェと同じ舞台で争えなくなっちまったぜ。どうした? 喜べよ」
 奇しくもこの日は、第248回ポケモンスピードレース地区予選の前日でもあった。
 バルビートの発光機構を応用した火気不要のランプの淡い緑の輝きは、映し出すバンギラスグリーンを一層引き立てていた。
「ちゃーんと証拠も押さえたぜ。もう言い逃れできねぇな」
 がんせきふうじでびくともしない右腕の爪には、刺さったままのマフラー。
「さーて、落とし(めぇ)つけてもらうかぁ!」
「ひっ、ひえぇぇぇぇぇ!!」
 喜ぶどころかじりじり迫り来る威圧感に慄き、ガブリアスは悲鳴を上げた。


「……お、やってるな」
 直上から崩れた岩盤で入り口を塞がれた幼馴染の新居を眺めつつ呟くリザードン。
「しかし、奴の悪事の話を持ち掛けた時点で進化したばかりだったとは、俺も予想外だった。それをひた隠しにして、新居に越したことだけ大々的に触れ回ったのは正解だったな」
 リザードンの横で大きく頷いたのは、準決勝、決勝でサナギラスと速さを争ったドラパルト。
「あいつ、なんだかんだで色々『持ってる』やつだからよ」
「でもそれに巻き込まれるのはもうこりごりナンス……」
 あの出来事を思い出し、ソーナンスの顔面は青みを増した。

話せば長くなるが…… 「イヤッホオオオォォォォォウ!!!」
 依頼を遂行出来た歓喜の雄叫びを響かせ、サナギラスは満天の空へ打ち上げられた。すると突然、眩い光が発せられ、辺り一面明るくなった。何事かとその場にいた者達は一斉に空を見上げる。
「まさかあいつ……!」
 事態を真っ先に把握したのは、リザードンだった。数十秒程輝き続けたと思いきや、忽然とその光は消失して、元の満天に戻った。


 ドスーン!


 地響きと土煙を立てて何かが落下した。立ち込めた煙は徐々に薄れ、揺らめく尻尾の炎に照らされたのは、刺々した大きな背中と太く長い尻尾の目立つ後姿。
「お、お前……」
 巨体は声に気付いて振り返る。リザードンを見るなり、はにかんだ強面。
「へへ、進化しちまったぜ……」
「ギ、ギラスぅ……!」
 溢れる思いを抑え切れずに零れ落ちる大粒の涙。震える頭を撫でる手は、幼少のそれ(ヨーギラス)よりも遥かに大きかった。
「んだよ、泣かなくてもいいじゃねぇか」
「だって……お前あんなに進化したがってたじゃないかぁ……!」
「まぁな。でも進化できるってわかったとき、ぶっちゃけ進化するかどうか迷った。進化しねぇ道もあったけど……やっぱ自分にウソつけなかったぜ。またオメェと一緒にちゃんとバトルしたがってる自分によぉ……」
「うぅっ、ギラスぅ……!」
 リザードンはサナギラス改めバンギラスに抱き着き、丁度頭の位置に来る硬い胸に顔を押し付けて頬を濡らした。バンギラスはずっと傍に居続けた幼馴染の翼を撫でながら、唖然として見上げるソーナンスとオーロットに目を向ける。
「オレのためにいろいろ力を貸してくれて、ありがとな。おかげでオレ、もっと自分に自信が持てたぜ」
「おめでとうナンス! わたしたちはたいしたことしてないンス。物事を動かしたのはあなたの力ナンス」
「寧ろ僕たちは、君に楽しませてもらった側だ。色々あったが、君のお陰で日々が楽しくなった。僕の方こそ、ありがとう」
 彼らは笑顔で進化を喜び、バンギラスを心の底から称賛した。
 そしてイワパレスを見るや、顔色は曇った。
「すまねぇイワパレス! オレ、オメェのこと裏切っちまった! この体じゃもう、スピードレースは……!?」
 バンギラスは咄嗟に身構える。飛んで来た何かを腕で防いだ。忌々しい煙が揺らめく。
「それどころじゃねぇようだな……」
 抱き着くリザードンをそっと引き離し、そしてイワパレスを一瞥。
「すまねぇ、後でオメェにブン殴られに行くからよ!」
「は、はいぃっ!?」
 勝手に作られたシナリオに困惑するイワパレスを背に、気配のする方を睨んだ。
「よくもオレさまの子分をブッ飛ばしてくれたな」
 新月の暗がりの中で大層ご立腹なのは、シャドーポケモンのゲンガー。村を悩ませたゴース達の親玉ここに在り。
「何言ってやがる。ひとん家に入り込んでイタズラだけならまだしも、メスはおろかガキどもにも手ぇ出してるって言うじゃねぇか! ペドならリアルに手ぇ出すなってド変態子分に教育しやがれ!」
「は、マジ?」
 ゲンガーは毒気を抜かれて目をぱちくり。だが再度毒々しい憤怒が沸き起こる。
「ウソつくなコラァァァァァ!!」
「はぁ!?」
 ゲンガーは怒りの早業シャドーボールを繰り出す。平均的個体より一回り大きな肉体を以て攻撃を受けるが、相性が今一つで進化によって大幅に体力と耐久が上昇したと言えど、連続で食らい続ければダメージは馬鹿にならない。しかも彼の後ろにシャドーボールが効果抜群な者が二匹いる。
 バンギラスは強く大地を踏み締め、砂埃を舞わせた。これぞ進化して得た特性すなおこし。砂嵐による妨害や継続ダメージのみならず、元々高めな自身の特防を更に上げる効果も付随して、受けるダメージは減少した。しかしあくまで持ち堪えられる時間が延びただけで、根本的問題は変わらず。
「くっ、このままじゃやられちまう……何かいい手はねぇか……」
 大切な仲間達が被弾しないよう必死に盾となる中で、辺りを見回す。ふと視界に入った存在に、ピカッと閃いた!
「悪り、体借りるぜ!」
 バンギラスは咄嗟に持ち上げ、括れた部分を両手で掴んだ。
「なな、何するンスかぁぁぁ!!?」
 突然の出来事にソーナンスは混乱一歩手前に陥る。
「いいか、ミラーコートしとけよ!」
「よ、よくわかんないけどわかったンスー!」
 言われるままにミラーコート状態になったのを確認したバンギラス。シャドーボールが飛んでは当たる中で目を細め、やおら構える。飛んで来る内の一個に、狙いを定めた!
「かっ飛ばすぜええぇぇぇ!」
 カキーーーーーーーーン!!!
 ソーナンスを振り抜いた瞬間、ミラーコート発動のサインたる快音が響く。振り抜いた勢いで独楽(こま)さながらに回転を始め、飛んで来たシャドーボールを次々打ち返す!
「なっ、マジ!?」
 ゲンガー目掛けて飛んで来る霊球は威力、速度共に上昇して牙を剥く。しかもそれは一個のみならず何個も。砂嵐で視認性の落ちる中で咄嗟に躱し続けるが、ふとした瞬間に短い足が(もつ)れる。上手く動けない状態でも、容赦なく飛んで来た!
「ギャアァァァァァァァァ!!!」
 爆発音と同時に響き渡る悲鳴。何とも不思議な、自身の持つタイプがそのまま弱点となるゴーストタイプには効果抜群の一撃。ゲンガーは怪しい煙を立ち上らせて仰向けに倒れていた。尚も回転を続けるバンギラス。その速度は落ちるどころか益々上昇の一途を辿る!
「あぁぁぁぁぁ頭に血が上るンスーーーー!!」
 ソーナンスの苦悶の叫びも気にせず、只管回り続ける。
「イテテ……」
 傷だらけのゲンガーが震えながら徐に起き上がり始める。絶妙な隙が出来たその瞬間を、バンギラスは見逃さなかった!
「もうちょいおねんねしやがれぇぇぇぇぇっ!!!」
 高速回転の中、バンギラスは手を離す。
「あぁぁぁぁぁぁナンスーーーーーー!!!」
 猛烈な勢いで飛んで行くソーナンス。標的(ターゲット)はようやく立ち上がろうとしていた。その目に飛び込む者に、大きな瞼は最早丸く開くしかなかった。
「がああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 激烈な衝突音と同時に、喉を潰すが如き絶叫が立った。自身が悪タイプとなり、手足が復活したからこそ真価を発揮する悪タイプの技「ぶんまわす」と「なげつける」を最大限に活かしたソーナンスとの協力(?)プレイに、リザードン達は惜しみない拍手を送った。
「これだ、これがオレのやりたかったことだ!」
 進化早々初勝利を収めたバンギラスは、誇らしく鼻息を吹いた。
「と、とんだとばっちりナンス、ひと使い荒いナンスゥ~~~~~~」
 満身創痍のソーナンスは、千鳥足になってどうにかこうにか戻って来た。ゲンガーは仰向けの状態で、完全に意識を失っていた――


 撞木状の器官が目立つ頭部を、巨大な緑の足が踏み付ける。腕を組んでガブリアスを見下ろすその視線は、生ゴミや排泄物に対するそれに等しかった。踏み付ける足に、捻りを加える。空気抵抗を減らす自慢の鮫肌も、硬い足裏には傷一つ付けられない。足の下から悲痛な呻きが聞こえてきた。
「テメェ、オレが決勝でブッ飛んじまったとき、オレのいねぇところで『いくらケツ穴かっぽじって屁ぇブッコいたところで、そのちっせえケツ穴から無様にプーッて情けねえ音が出るだけで俺に勝てっこねえ』なんてみんなの前で言っちまったってな?」
 ガブリアスは無言を貫く。そもそも踏み付けられているため、話す事すら実質困難だが。
「そんなことほざいといて、ケツ穴ちっちぇーことやってんのテメェのほうじゃねぇか! あ? 違うか?」
 踏み付けていた足を浮かせ、威圧的に訊いてみる。ガブリアスは視線を逸らし、一言も発さず。
「へーえ、そうかそうか、やっぱオメェそんなヤツだったんだな! だったらよ……」
 再び背後へと、緩慢かつ重厚感溢れる足取りで歩く。情けなく臀部を突き出した後姿が正面に映った所で、膝に手を着いて屈み、冷笑した。
「今ここでテメェのケツかっぽじって広げてやっからよぉ!」
「はぁ!? おめー何言ってやがる!」
 振り向いた鮫面は、すっかり血の気が引いていた。矢庭に鮫尾を掴んで捲り上げると、窄まった穴がこんにちは。その下には盾に走った筋も見える。
「ばか! マジでヤる気かよ!?」
「ったりめぇだろ! 雄に二言はねぇよ」
 鮫尾の付け根をそっと撫でると、ぞわりと立つ鮫肌。それは全身へと一気に広がった。
「こうして見たら、なかなかいいケツじゃねぇか……」
 バンギラスは舌なめずりして、口元を涎で濡らす。次第に昂る物を身に覚え、それは股座の鎧に走る縦割れを押し開く原動力となる。そこから顔を出す紅色。それは見る間に伸びつつ太さを増して存在感を強める。
「ばっ……でかすぎんだろぉ!?」
 目が飛び出さんばかりに、ガブリアスは驚愕した。
「進化したらこんなにでっかくなっちまってよぉ、自分でも惚れ惚れしちまってんだぜぇ?」
 バンギラスグリーンからそそり立つ紅色の岩突(ストーンエッジ)は心拍に合わせて上下に脈打ち、その持ち主をも魅了する巨きさと厳つさ、そして漲る生命の力を前面に主張していた。
「こんなの無理に決まってんだろーが!」
 ガブリアスは迫り来る恐怖に慄き、切れ込みの目立つ背鰭をも大きく顫わせていた。
「テメェとヤんのはまっぴら不本意だけどよ……もう後には戻れなくなっちまったしな……」
 バンギラスはそう呟いて目を瞑り、大きく息を吐いた。そして再び目を開き、両手で尻尾をしかと掴んで距離を詰める。本来出口たる穴に、雄の(きっさき)を宛がった。そこから巨体が更に圧を掛けると、鮫穴は抉じ開けられる。
「いでででででででででっ!!」
 苦痛の叫びが密室に反響する。そして涙を滲ませた鋭い眼光が、緑の怪獣を突き刺した。
「バッキャロオッ!! 慣らしも濡らしもなしでブチ込むやつがあるか! おめーまともにシたことあんのかよ!!?」
 怒声を以て図星を突かれるも、バンギラスは一切動じない。
「おっとわりぃわりぃ」
 寧ろ厳つい笑みを以て事を中断した。そして巨岩を揺らしながら、またもガブリアスの前方へと移動する。目前にして改めて主張する、急所を捉えんばかりの紅い岩突は、表面を走る血管と尿道に沿って隆起する筋それぞれの太い隆起によって、雄々しい厳つさを高めていた。
「へっへ、わりぃことしてレースのてっぺんに立ったヤロウが、無様に四つん這いになって捕まってるたぁコーフンしちまうぜ……」
 バンギラスは自慢の雄をやおら両手で扱き始める。体躯に対して短めな腕によって、実際に刺激されるのは先端を含めた上側の一部のみに止まるも、もたらす刺激は彼を喜ばせるに十分。
「目の前でシコんな! それに臭えっ!」
「あ? チンポだからくっせぇに決まってんだろ。ホントはもっと近づけてぇけどよ……」
「ちょっとでも口が届いたら、先っぽだけでも噛みちぎってやらあ!」
「しゃぶらせたらさっさとヤれるのに、どうせそんなこと考えてると思ったぜ……あー気持ちい……っ!」
 四つん這いのまま青筋立てて唸る陸鮫をおかずに、優越感に満ちた雄の突出した嗜みに耽る巨獣。紅い岩突の突発的、かつ漸次的な二つの膨張を、擦る両手の触覚と火照り続ける肉体で味わい続ける。ガブリアスから見れば、煽り構図で否でも視界に飛び込む巨岩が、扱かれながら快楽を滲ませる強面をバックに、脈打ちながら体積をじわじわ増やしていく。
「ううっ……チンポ……喜んじまうっ!」
 口から臭く粘つく涎を零し、巨体がぴくりと跳ねる。その元凶たる立派な股座の怪獣は、元気一杯に怒張して鈍い輝きが強まる刹那を見せ、大きく開いた出口からドバッと糸を引いて噴き出した。それは鈍く艶めく乾いた表面に淡緑の(てか)りをもたらし、手指との摩擦を大いに低減する。噴き出した透明な怪獣の息吹はその一部をガブリアスの頭に滴らせ、鮫肌の凹凸に滲みながら、数刻前まで収められていた雄の内に孕んだ熱い昂りを伝える。
「オレの、立派なチンポッ……どんどん気持ちよく、汚れちまうぜぇ!」
 バンギラスは腰を突き出し、立派で大胆な自慰をガブリアスに惜し気もなく見せびらかす。不意に襲われた快感に太い艶声を発して厳つい顔立ちは情けなく、岩突だけが力強く張って漏らす瞬間も躊躇なく曝け出す。ガブリアスを汚す蜜は、体外へ噴き出て直に着弾した物のみならず、汚れても尚扱き続ける手から飛び散った物も含む。
「頭がベトベトして……気持ち悪りー……」
 文句を垂れ、眼前のバンギラスを一切見ようとしない。そしてバンギラスはその反応を更なる興奮に変え、時折上を向いて喜び震えては雄々しく汚れる。ガブリアスの頭はすっかり潤され、粘つきながら垂れて口に入る。途端にぬめりと臭みの強い塩気が支配して唾を吐き捨てた。そして口はしっかり閉じられる。それでも鼻が頭と地面に滴った雄臭を拾い、ガブリアスは目を顰めた。
「ここまで濡れりゃ、大丈夫だろ……」
 熱を持つ巨体に汗を滲ませ、離した手に泡立った糸を何本も引かせる。汚れた手を舐め、自身の分泌した粘りと塩気を味わっては気分が乗って舌なめずり。快楽を欲してビクンと跳ねた凶悪な剛直は手の可動域に沿って満遍なくぬめりに覆われ、雄の潤滑液は根元から先端付近まで隆起する筋に沿って根元まで流れ下っては、そこから地面に滴った。
「ちくしょお……!」
 屈辱的な頭の汚れに牙を鳴らすガブリアスを横目に、またも背後に回る。尻尾で抵抗を試みるも、あっさりと掴まれてしまった。空いた手で付け根を撫でると再び強く立った鮫肌が全身に広がる。その付け根を、今度は両手で捕らえた。
「今度こそテメェのケツかっぽじって広げてやるぜぇ……」
 上気した強面が、生臭い涎を垂らしつつ不気味に笑った。
 やおら前進して再度濡れた鋒を宛がうと、菊の蕾が突如膨らみ、プーッと音を立てて花開く。
「なんだ、情けねぇ音立てやがって。喜んでんのかぁ?」
「ばっ、ちげーよっ!!」
 ガブリアスは顔を真っ赤にして胴間声を発した。
「んじゃ遠慮なく……」
 徐々に押し当て、再度閉じた菊花に圧を掛けていく。そしてまたも抉じ開けられるや、陸鮫は呻き、戦慄いた。ガブリアスの眼前でたっぷり漏らした我慢汁が、潤滑剤として作用する。滑らかな侵入のままに、バンギラスはゆっくり前進する。
「ぐおっ!?」
 その瞬間、バンギラスは新たな扉を開いた。門を突破してから程なくして大きく柔らかな肉扉に当たり、押し付けると比較的容易に開いた代わりに、それは敏感な雄突の表面を舐める舌と化した。もたらされる未知の刺激にバンギラスは口を噛み締め、震えながらも更に奥へ突き進もうとする。すると再びあの障壁が立ちはだかる。押し破ると、先程とはまた異なる形状の襞が舐り始めた。
「クソッ! うぅ……!」
 立て続けに責められた岩突が喜び、露出した部分が明瞭に太さを増す刹那を伴う衝撃にバンギラスは目を細めて牙を剥き、耐えた刺激を雄の粘りに変えて体内に搾り出す。
「があぁ! いてえっ!」
 尚もガブリアスは侵入される苦痛に悶えて、捕らわれの身が蠢動を続ける。スピードレースに向けて引き締めた肉体にはあまりに巨大でありながらも初々しい乱暴者。
「んだよテメェッ! ケツ穴ちっちぇーくせに名器……いや凶器じゃねぇか!」
「うるせーーー! 知らねーーーーーー!」
 気持ちいい抗議に対しガブリアスは頑なに聞く耳を持たない。
「認めやがれ淫乱ケツマンコ! ぐおぉ!」
 突くなりまたも新たな肉の扉を開く。それ以外の部分の径も狭く、バンギラスの突出した硬い急所は常に締め付けと舐りに晒され続ける事となる。同時にそれはガブリアスにとって開発と拡張の痛みとして身に降りかかった。奥へ続く螺旋状の空間に薔薇の花弁の如く大襞が咲き誇る、鮫の仲間特有の形状たる螺旋腸は、初めて交尾を営むバンギラスには刺激の強い代物となり、その後も唸り、戦慄き、牙を剥き、時に背を丸めては幾度となく肉襞を押し退けながら搾られて、雄々しい悶えを曝け出した。
「……っぐう!」
 目を瞑り、歯を食いしばったバンギラスは、やっとガブリアスと下半身で触れ合えた。雄のフェロモンが強く臭う汗にびっしょり濡れた立派な巨体からも、挿入一つで相当な体力を消費した事が窺える。
「ぐおお! ケツがジンジンしやがるっ……!」
 ガブリアスも、巨雄に犯される未知の感覚に涙を滲ませる。
「とんでもねぇことに、なりそうだぜぇ……!」
 バンギラスは試しに、貫く魅惑の穴の壁に押し付けるように、腰で円を描いてみる。
「うっ、ん、んんっ……!」
 これまでとは異なる圧と舐りが生じ、野太く、甘く、声を震わす。
「や、やめっ! うがぁ!」
 巨岩で掻き回される刺激は、未だ苦悶として陸鮫を喚かせる。
「う、あ、あぁっ!」
 バンギラスは初めて、相手の体内に完全に包み込まれた状態で、快楽に性器を膨らませて長い尿道から体内に搾り出される感覚を鮮明に覚え、一匹の雄として交尾の醍醐味の一つを知ってしまう。そして今度は腰を引いてみる。捕らえていた怒張を手放す瞬間に敏感な先端を次々舐められ、ぬめって露出した怒張が喜びに太くなり、嬌声を禁じ得ない。今度は再び最奥目掛けて突き進む。またも螺旋状に連なる扉を開き、知ったばかりの快楽の世界へ踏み込んで雄々しい膨張を伴う種付けの準備運動に、悶えながら夢中になった。
「がぁ、やめろっ……!」
 奥を突く度に心太の如く搾り出される辛苦の(だみ)声。内に居座る暴れん坊から発せられる興奮の熱量は、螺旋腸からじわり下半身を温め始め、その感覚も受け入れ難い代物だった。
「うっ、ぐるるるっ! ……」
 抽送を続けていたものの、あまりの刺激の強さに腰を止めてしまう。それでも尚、巨岩が中で汚れながら更に大きくなりゆくのを快く実感する。初の交尾とは言え、体力と耐久共に高いバンギラスだからこそ持ち堪えているのであって、経験豊富とて並の雄では数ストローク、果ては挿入時ですら持たないレベルの凶悪な名器であった。
「テメェ今度から、『雄喰い鮫』って名乗れよぉ……!」
「ばっ……誰が名乗るか!」
「こんな悪ぃことしなくても、チヤホヤされるぜぇ?」
「野郎どもにチヤホヤされたか……ひあっ!?」
 バンギラスに鮫尾の付け根を撫でられ、性質の異なる声が上がった。
「なんだぁ?」
「や、やめっ……あぁ!」
 再度手を滑らせると鮫肌がぞわりと立って、下半身に集中していた熱が途端に全身へと広がり始めたのを、ガブリアスは否応なく感じ取ってしまう。
「オメェここ性感帯だったんだな」
「あっ、そこ、触んなっ! あうぅん♥」
 引き締まった身が強張りを覚え、掠れた嬌声が零れ出す。それは同時に、バンギラスにも甘露な牙を剥く。
「やべ、締まっ……うぅぅ!」
 螺旋のうねりと襞の羅列が締め付けを強め、捕らわれるバンギラスの雄々しく逞しい巨体を打ち震わせて、巨岩の突出を刹那に強めるよう唆して奥にねっとり搾り取る。振り向いて睨む涙目の陸鮫は、すっかり紅潮して色香を発し、怪獣の欲を殊更にそそり立たせた。
「もうこのまま、イくとこまでイっちまおうぜぇ……!」
 バンギラスは抽送を再開した。途端に歯を食いしばって必死に耐える雄の表情を見せる。
「あっ、ひゃっ! やめっ、やめえぇ♥」
 奥を突かれ、襞を捲られる刺激ですら、広がる熱の作用で快楽へと生まれ変わってガブリアスを善がらせる。
「いい声でっ、鳴きやがるぜぇ! 雄喰い鮫さん、よぉ!」
 ガブリアスを煽りながら、新たに加わる不意の収縮に悦び戦慄き、岩突は熱い血潮を更に集めて膨張を続け、夢中にする名器を更に押し広げた。
 濡れた抽送の摩擦音と結合部から滴って卑猥な池を作り出す水音、両雄の喘ぎ声に混ざって聞こえ出す轟き。それは雄として一皮剥ける行為に没頭する恵まれた体格から発せられ、ガブリアスの体内で膨張する欲望とはまた別の膨張を、行為の刺激によって促される。
「もうあの、舞台にっ! 立てねぇ、なぁっ! っあぁ!」
「うあぁっ、やめぇ! おかしく、なっちまあ!」
 バンギラスは血管と筋の隆起によってより明瞭になった岩突表面の凹凸を至る所から舐られる性感に悦んで、生じた電撃は棘の先まで心地よく痺れさせる。ガブリアスは犯される菊花の下に走る割れ目を押し開いて露出した雄柱を膨らませ、屈辱たる快楽の享受を露にする。新たな世界の扉を開いた者同士による密室交尾は更なる熱を帯びる。
「ぐおぉキてるキてるっ! デカチンポ最高だぜぇ!」
 止まる事を知らない名器の責めに唆されて、立派な肉体が純潔でいられるのも残り僅かと知らせる下腹部の熱いうねりが生まれ出す。性器と同時に膨らみ続ける腸がそれを発散しようと出口の扉を叩き始めるのも、同時にバンギラスは覚える。だがその優先順位は明確だった。交尾によって絶えず性器にもたらされる刺激が括約筋の反射による収縮を引き起こし、普段は脆弱な扉も、この時ばかりは堅牢で突破は不可能。バンギラスが一皮剥けた雄となるまで、腹をゴロゴロ響かせながらフラストレーションを溜め込むしかない。
「や、やだあっ♥ トびたく、ねえーっ!」
 バンギラスの不意の顫動で尻尾が擦れるだけでも雄喰い鮫は身を強張らせ、高い急所率を以て甘露な急所と化したラビアだらけの空間を掘られる強い快感と相乗して、意志とは裏腹に火照った肉体は立派な雄になろうとするバンギラスを欲していた。
「クソぉっ! でちまうっ!!」
 螺旋状に内に咲き誇る雄花の園を押し広げて体積を増し、威力を極限に高めた極上のストーンエッジの根元に集中する熱い生命の息吹が、決壊秒読みの猛烈な恍惚を発し、食いしばる口は鋭い牙を露にして、細める目に涙が滲む。同時に襲う腸の皺を伸ばさんばかりの膨張も、高耐久たる怪獣の快楽を後押しした。
「い、いやっ! あ、あっ!!! あぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーっ♥♥♥」
 ガブリアスは穴を拡げられて内襞を捲られ、尾の付け根を擦られる性感にとうとう音を上げて仰け反り、わなわな震えて硬直した。ブシュッと床下から勢いのある水音を発し、雄として屈辱的な白いお漏らしを遂げた証としてバンギラスの耳に届く。その衝撃は、目一杯威力を高めた凶器としてバンギラスに襲い掛かり、童貞の最後に相応しい瞬間へと誘う。
 バンギラスは背を丸めて悶え、雄として一皮剥ける決壊を身に覚える。太い尿道を広げる濃厚な流れが、白いがんせきほうと化す長い道程(、、)を駆け上がる。それが先端へと到達する刹那、白くぼやけ出す視界に映った、あの姿。
「ウグウッ!! リ……グオオオオオオオォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーー―ッ!!!」
 岩盤を震わす雄叫びを発して爆発的絶頂を迎え、限界まで張り詰めて雄花の園の最奥に達した巨大な岩突から、勢いを込めて白濁した初物を発射した。バンギラスの視界は白く弾け、不本意な相手ながら交尾の最高の醍醐味たる生命の爆発の快楽を躊躇いなく味わう大きな助けとなった。
 律動で発した衝撃波は捕らわれの細身に伝播して、快楽の硬直をもっと長引かせる。そして注ぎ込まれる屈強な怪獣の濃厚な遺伝子のエキスが、締まった腹を膨らませんばかりの量と勢いとなっているのが、視覚を経由せずとも実感させられた。
 バンギラスは目を瞑り、筆下ろしを遂げた証の種付けに励む愛息の活躍を、未だ続く躍動と恍惚で感じ取った。ドボドボと淫口から溢れて滴る精が、立ち上らせた刺激的な香しさを鼻粘膜に届ける。次第に冷める火照りを感じつつ、はぁ、と大きく息を吐いて、ゆっくり目を開く。種付けされてすっかり汚れた悪しき陸鮫が、涙と涎で情けない顔面を濡らしながら整い切らない呼吸を続けていた。
「チッ、アイツだったらよかったのによ……」
 小声で吐き捨て、白く満たされた螺旋腸内でほぼ欲を出し切って萎み始める、一皮剥けた岩突をやおら抜いた。名残惜し気に舐られるむず痒さを覚えた雄の証は白くぬめって力を失い、硬い地面に濡れた音を立てて先端が着く。解放された陸鮫の菊は、仄かな緑に照らされて白い蜜を垂らしながら大きく花開いていた。
「おぅ、ケツ穴でっかく開いたじゃねぇか……」
「とんだ屈辱だ……!ぜってー許さねえ……!」
 ガブリアスは大粒の涙を零して(ほぞ)を噛んだ。その様相にほくそ笑むバンギラス。
「どの口がそんなこと言ってやがる」
「あっ、ひゃあん!」
 不意に尾の付け根をなぞられ、身が強張ると同時にブビュッと白蜜が菊花から噴き出した。
「オメェのケツは喜んでるみてぇだけどな」
 惨めな姿を曝け出すガブリアスを目で楽しんでいると、突如腹から轟音が響き渡る。順番待ちをしていた欲求不満が、早く出してくれと頻りに扉を叩く甘い疼きも覚えた。
「まだ終わりじゃねぇぜ……」
「まだ……!? もうやめてくれ……!」
 またもガブリアスの前方へと回る。その間にも腹は大きく膨れ、仄かな痛みと快感を内から発している。
「スピードレーサーのオメェにふさわしい、サイコーのプレゼントをわざわざ用意してやったんだぜ……」
 ガブリアスの眼前に立ち、どっしり構える。涙に濡れた目が捉えたのは、緑の鎧の割れ目から覗く窄まった穴。
「は!? 何とち狂ったこと言ってんだよ!?」
「とち狂ってなんかねぇよ。ちゃーんとレース仕様で溜めてきてるかんなぁ」
 先の交尾の反射等の枷を一切失った出口に、膨れ上がった欲求不満が押し寄せる。そのむず痒い心地よさに、バンギラスは軽く強面を歪めて善がる。
「っしゃぁテメェに一発くれてやるぜぇぇっ!!」
 ガブリアスの目の前で窄まりは丸く張り出し、寄った皺が徐々に伸ばされて既に限界に達していた。



「ヘェェェガァァァデェェェルゥゥゥゼェェェェェェェェェェッ!!!」



 ブワァブォブォブォブオオオオォォブルルルブリリッブボボボボボボボボボボブルルルルルルルルゥゥゥゥ!!!


「ばか!! やめろっ!!! やめゲホッ! ゲホッ!!! ウエェッ!」
 もう一つの解放の雄叫びと汚らしい轟音、そして苦悶する悲鳴。密室で発せられた音波は岩盤のみならず棲む山をも鳴動させる迫力を放った。
「……っぷ」
 外で見守るリザードンが突如口を手で押さえて蹲る。大丈夫かとドラパルトが背中を摩る。どうにか堪えて立ち上がったリザードン。その表情は血の気が引いていた。
「すみません、彼が進化したてのあのときのことを思い出して……」
 リザードンは苦々しく頭を下げた。

またまた話せば長くなるが……  ――バンギラスの手痛い一撃を食らって、仰向けのまま気を失ったゲンガー。ソーナンスがふらふらと戻って来ると、バンギラスはすれ違いざまに緩慢な足取りでゲンガーへと近づいて行った。そして容赦なく体の大部分を占める顔面に体重を乗せた。その衝撃でゲンガーは息を吹き返す。
「ゲホッ! 何すんだくっさ!」
 押し付けられる肛門の臭いに(もだ)え、抜け出そうと必死に藻掻く。
「村のみんなの代わりによぉ、このオレが子分を好き勝手にさせたこと、後悔させてやるぜぇ!」
 嗤笑を浮かべたバンギラスの重厚感溢れる逞しい肉体から、地響きの如き轟音が鳴り響く。
「お、おい待てよまさか……!」
 ゲンガーの顔面は、見る間に蒼白と化す。バンギラスは陽気に歌い出した。


「出~るぜ出るぜ♪ 出る、出る、出る出るぜ♪」


「アッ、アァ~……」
 既に言葉を失い、進化して劇的に増えた体重に脱出を叶わぬ夢とさせられたゲンガーは表情に影を落とした。
「……なぁイワパレス、俺たちの分のマスクは?」
 即座に事態を察知したリザードンが、恐る恐るイワパレスに訊ねた。
「……こんなことになるなんて思ってなかったんで……用意してやせん……」
 震える声で告げられた、絶望的状況。
「や、やばいンス! 今すぐ逃げるンス~~~! あぁっ!」
 ソーナンスは逃げようとするも、ふらつく足が言う事を聞かない。すると俄かに水色の体が浮いた。
「逃げるぞ! 掴まってろ!」
「ありがとナンス~!」
 リザードンがソーナンスを抱え、必死に翼を羽ばたかせて逃げ出す。空気より軽い事も考慮して、咄嗟に真横に飛んで行く。
「乗ってくだせえ! オーロットさん!」
「ありがたい、助かるよ!」
 殻を破って身軽になったイワパレスに、鈍足なオーロットが乗り、爆走を始める。両者共に誰かを抱え、あるいは乗せているため十分なスピードこそ出ないものの、元スピードレーサーの息子たるイワパレスが、先に逃げたリザードンを追い抜いて行く。この切羽詰まった状況で、相互に気に掛ける余裕は微塵もなかった。


「腹が膨れて、限界(げんか~い)出るぜ♪」


 バンギラスのほろびのうた、そして殻の隙間からぷっくり外側へ膨れ出す大輪の菊の蕾が、確実にその時が迫る事を告げる。ノーマスクの四匹はどうにか距離を取って、最悪の事態を避けるしかなかった。


「おなら――」


 ブボワァブォブォブォブルルルブジュジュブゴォォブリリロロロブゴゴゴゴォォォォーー!!!


 発せられた衝撃は、進化した肉体を飛ばす程のパワーこそ失ってはいたものの……。
「ぶえっ! ゲホ、ゲホォ!! オエェッ!!!」
 ゼロ距離で浴びせられたゲンガーは悲鳴を上げる隙もなく咳き込み、途端にそれすらぱったり止んだ。
 おどろおどろしい衝撃波は周囲一帯に広がりを見せる。それはバリヤード達の村へ到達したものの、サナギラスのそれより物理的威力が低下していた事と張られた結界、そして支給されたマスクによって全員事なきを得ていた。
 一方でその反対方向へと逃げた四匹にも、少し遅れて重々しい轟音とゲンガーの悲痛な断末魔と思しき声が鼓膜を震わせた。更に血の気が引き、リザードンは翼膜が破れんばかりに全力で羽ばたき、イワパレスは足が千切れんばかりに全力で疾走する。突如彼らに吹き付ける追い風。
「うえ、くっさ! げほっ!」
「何ナンスか! ゲホゲホッ!」
 リザードン達は容赦なく鼻腔を蹂躙する極悪臭に咳き込み、コントロールを失って地面に墜落した。先を走るイワパレスにも凶悪な追い風が牙を剥き、遠くから悲鳴が届いた――



 あの後、身に降りかかった惨状と爆心地となった光景は、思い出すだけでも吐き気を催す物となってしまった。

17


「どのみちあそこを開けることになるんで、今のうちにこれ、着けといてくだせえ」
 顔色の悪いイワパレスが自身謹製フィルターマスクを着けるようドラパルトに薦めた。ドラパルトは何とも言えない表情で(まばた)きをしたが、密室を見つめる四匹の顔を見て素直に装着した。
「お、全然息苦しくないな」
 と即座に通気性を評価する。背後から騒々しく聞こえた足音に、一斉に振り返る。
「警察です! 容疑者は!?」
 事前にソーナンスの通報を受けて駆け付けた警察官達。リザードンは入り口の塞がれた堅牢な棲み処を指差した。そしてそのまま近づき、中にいるバンギラスに警察の到着を伝えると、即座に開ける旨が返って来た。
「悪い、ちょっと待て!」
 その前に、イワパレスが警察官達にマスクを着けさせた。彼らは怪訝そうにしていたものの、リザードンのゴーサインで塞いだ岩が壊されて密室が解かれた瞬間に、その答え合わせが始まった。
 棲み処から出て来たバンギラスは、爽快感に満ち溢れた厳つい笑顔でリザードン達に力瘤を見せ付ける。突入した警察官達が目にした光景、それは爪がマフラーに刺さったまま四つん這いで四肢を拘束され、涙、脂汗、鼻水が身を濡らし、大量の吐瀉物、白が混じる尿失禁、便失禁を周辺の地面に大きく広げて粗相の限りを尽くした、見るも悍ましいガブリアスの姿。これには流石に警察官も戦慄を覚える。
「な、何があったんですか……!?」
「コイツが勝利のために悪ぃことしてる証拠をつかんで、とっちめてやっただけだぜ!」
 バンギラスは誇らしく鼻息を吹いて答えた。そして彼によってがんせきふうじを解かれたガブリアスは、失神したままお縄になってしまったのである。これで既に尻尾を掴まれたチームメイトと共に揃って刑務所暮らしが確定した。
 因みにお仕置きの過程たる豪快な筆下ろしに関しては、失禁によって証拠が全て体外に流れたため、バンギラスは結果的にお咎めなし、と言うよりその咎自体を気付かれる事すらなかった。
「あくタイプを以て悪を制す……なかなかよいものだな」
「でしょう? それが彼なんです」
 勧()懲悪を果たした彼を見遣りながら、リザードンは笑顔を零した。
「ふう、これで一件落ちゃ……うぅ、げほっ! おえぇっ!」
 現場入口にいた警察官の一匹が、気の緩みでマスクを外してしまった。止めようにも時既に遅し。立ち込める猛烈な悪臭に気管を冒され、咳き込んでその場に嘔吐した。咄嗟に別の警察官がマスクを着けさせたが、その者もまた血の気が引き、戦慄を禁じ得ない状態だった。こんな形を以て、イワパレス謹製のフィルターマスクの有効性が実証される形となり、同時にノーマスクでも平気なバンギラスを見ては、自ら発する臭いに対する嗅覚の補正力という、誰でも持つ能力の恐ろしさを痛感する事となった。
 リザードンの苦笑を交えた目配せに、ドラパルトはようやく事の重大さを理解して大きな体躯の透明度が上がった。



 一部悲惨な犠牲こそ出たものの、無事に大捕物を終えてガブリアスの連行を見届ける。そして翌日の地区予選に備えて早めに帰路に就くドラパルトを見送った。
「しかしお前、進化してベクトルこそ変わったけど、大量破壊兵器なのは相変わらずだったな」
「おぅ! すげぇだろ?」
 バンギラスは胸と同時に全てを出し切った腹も張って、得意気にする。
「いや、褒めてるわけじゃないンス……」
 ソーナンスは二の句が継げず、はあ、と大息を吐いた。
「あれは維管束に染み付いて一日半寝込んだ程に強烈だったんだ。せめて腸活くらいはしてほしいものだ」
 苦言を呈するオーロットは、心なしか体に生える緑葉が萎れ掛かっているように見えた。
「でもあなたのおかげで、オイラのマスクはちゃんと効果を発揮してるってわかりやしたぜ!」
「マジ? そりゃよかったぜ! ちったぁ罪滅ぼしできたかな」
 ウキウキして鋏を鳴らすイワパレスを見て、負い目を感じ続けていたバンギラスはほっと胸を撫で下ろした。

18


 ――先の一件で絶大な効果を発揮した、特殊技術により作り出した多孔質岩をベースに、ワナイダーの糸によって臭い分子の吸着効果を高めたフィルターマスクこと、イワパレス謹製ワナイダー印のニオワナイダー。プロ仕様が警察に正式採用されたのを機に知名度が急上昇し、一般向けの製品も飛ぶように売れてイワパレスの工房は大忙し。現体制での製造では間に合わなくなって会社を設立するに至った。その後も順調に業績を上げ、今やポケモンユナイトでゴキパレスと後ろ指を差されながら手間賃を稼いでいた頃が嘘のように、本業で一生分の稼ぎを得られるまでになっていた。
 そしてソーナンスの何でも屋がニオワナイダーの販売代理店に選定され、閑古鳥の鳴いていた店は今や客足が途切れる事の殆どない程の盛況振り。相乗効果でソーナンス自身にも何でも屋としての依頼が舞い込むようになり、彼もまた充実した日々を送っていた。そんな様子を端から眺めつつ、オーロットは木工に精を出す。彼もまた工芸品の売り上げ上昇という形で、その恩恵を享受していた。
 スピードレース界隈では、サナギラスの電撃引退が、ガブリアス達の逮捕と並んで耳目を驚かせたが、あの活躍を知った各地のサナギラスが我も我もとスピードレース参加に名乗りを上げ、確実に爪痕を残した。そしてここでもイワパレスが、先の経験を糧に多忙の合間を縫ってマフラー作りを請け負い、スピードレース優勝という夢をバンギラスに代わって後世に託した。


 当のバンギラスは、幼少からの夢であるバトルの頂点に向けて、再びリザードンと共に歩み出した。日は浅いながら、次々編み出す奇抜な戦法で既に頭角を現し始め、見る者をあっと言わせて魅了していた。
 その一方で高い攻撃力と耐久を買われ、警察から突撃要員及び催涙ガス要員として出動を要請されては、名立たる犯罪者を苦悶に陥れて逮捕に一役買うようになっていた。



 リザードンは棲み処から程近い平原に佇む。その横にはバンギラスもいる。
「俺もお前に負けてられないから、あっと驚く戦法でも編み出そうと思ってな」
 手にしているのは「ばくれつのタネ」。食べれば誰でも威力の高い一撃を繰り出せる事から、公式のバトル大会に於いては使用が禁じられている代物だった。
「それ大会でやったら一発アウトだぜ?」
「わかってるって! 俺だってお前みたいに悪いやつとっちめたいからな!」
 タネを口に入れて噛まずに飲み込み、喉元に生じた隆起が長い首を下りて行く。程なくして丸い腹から空気の移動する音色が立ち、黄色い皮膚は徐々に張って鈍い艶を発し始める。バンギラスは嫌な予感を覚えつつも無言で凝視するのみ。
「いい感じに溜まってきたぜ……お前の屁と過去の経験をヒントにしたこの戦法、悪くはないと思うんだけどよ」
「変なマネしねぇほうがいいんじゃねぇか?」
 バンギラスの心配を他所に、リザードンは前屈みになって尻尾を丸める。先端の炎は、膨らみ掛けた出口に宛がわれた。
「食らえ! スカタンクボンバ―!」
 黄色い肉風船に圧を加え、出口を押し開くや否や、それはかえんほうしゃとして空気を焦がす。流石はばくれつのタネ。その火力は口から吐き出すそれに引けを取らない。横で見るバンギラスの鎧がじんわり熱せられる。更に火力を上げるリザードン。これならば前後同時攻撃も可能かとバンギラスが考え始めた瞬間。
 ――ポンッ!
 火力が弱まった直後に爽快な音を伴って何かが発射される。それは炎を纏い、平原の端よりも遠くへ飛んで行く。その方角に、バンギラスは冷や汗を滲ませた。
「なぁリザ、あっちって確か――」


 ドカーーーン!!!


 一帯に轟く爆発音。そして茂みの一角から上がる黒煙。
「……お、おいまさか!」
 振り向いたリザードンは矢庭に血の気が引いて、その方角へ全速力で飛んで行く。慌ててバンギラスも後を追うが、どんどん離される。高い攻撃力と体力、耐久の犠牲となったその走りの緩慢振りは、かつてスピードレースで注目を集めた面影を一切感じさせなかった。
 ようやくその地点に到着したバンギラスは、目の前の光景に言葉を失い、そして大きく嘆息を零した。
「う、嘘だろぉぉ……」
 膝から崩れ落ちたリザードン。その横にある彼の棲み処は先の爆発によって大破し、一部から火の手が上がっていた。
「結局ガス爆発トカゲじゃねぇか……言っとくけどオレのせいじゃねぇかんな」
「そりゃわかってるけどよぉ……」
 リザードンはさめざめと涙するばかり。そんな姿に呆れを通り越して憐れみすら覚え始める。
「何度もブッ壊すくれぇだったら……いっそのこと、オレん家に棲むか?」
 思わぬ言葉に顔を上げたリザードン。巨きな怪獣は途端に強面を赤くして目を逸らした。


 涙を拭い、満面の笑みを以て、リザードンは答えた。

エピローグ


 ~♪(突然のピアノイントロ)


「おい待て、雰囲気台なしだろ」
「確かにオレら(メンズ)五匹だけどよ……」
「僕は嫌だ、こんな(はした)ない歌」
「けど歌えって作者命令ナンス」
「オイラのフィルターの出番ですかい?」


「……で、メインボーカル誰?」





「俺ェ!!?」



 プーッ

完 ~「”ヘー〇キ”ましたね」に乗せて~






――ちょっとしたおまけ


 怪しい店から流れるピアノ伴奏の下品なコミックソングを聞き流しながら、都会の歓楽街を進む者一匹。通りの掲示板に貼られ、風ではためく音を立てるのはバトル大会のポスター。前回大会ダブルバトル部門の覇者、リザードンとバンギラスの肖像画が大きく描かれていた。彼は迷わず、街の一角に密やかに佇む建物へと入って行く。扉を開けてすぐ目に入るカウンター。そこにいるのは馴染みの受付。
「いらっしゃい。久しぶりだね」
「ちょっと予定が立て込んでてね。お陰で溜まりに溜まりまくって大変だ」
 客として入ったその者は苦笑い。
「そうだろうと思って、入ったばかりの新しいコを紹介しようと思ってたんだ。どうする?」
「お、いいな。それじゃあそのコにしよう」
「承知しました。では、あとは部屋でごゆるりお待ちください」
 渡された鍵の番号の扉を見つけ、開錠して中に入る。きちっと仕立てられたダブルサイズのベッドが真っ先に目に入る。奥にはガラス窓で仕切られたシャワールーム。雰囲気は上々。
 まずはベッドに寝転がり、この部屋にやって来る新入りに思いを馳せる。新入り、それはいつ聞いても心地よい響き。馴染みの相手も安心感があっていいものだが、たまには新鮮な刺激だって欲しくなるもの。一体どんな姿なのか、どんな事をしてくるのか、想像を巡らすだけで期待は目に見える形で膨らむ。
 突如聞こえるノック音。途端に高鳴る心臓。入っていいぞと外にいる者に伝えると、やおら開く扉。目の前に現れた、待望の新入りの姿形。


「貴様なぜここに!!?」
「は!? なじみの上客っておめーのことかよ!!?」


 かつて同じ舞台で雌雄を決した二匹のドラゴンは、思わぬ形で再会する羽目となった。



「っくしょー……おめーソッチのケだったのかよお……!」
「駄目だ、これは癖になる……!」
 ベッドでさめざめ(、、、、)と泣く新入り。その横では興ざめ(、、)どころか陸()の魅力にのめり込み、冷め(、、)ない情熱を抱いた一匹の雄がいた。

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