※残虐描写及び死亡描写多数につき閲覧注意
現在分割編集中につきお騒がせしております、各種更新完了までしばらくお待ちください
written by 慧斗
ポケモンだらけの雑踏をかき分けながら火の手が上がる本拠地へと急ぐ。
焦燥感と後悔にかられながら、近くのカフェにレガータを置き去りにして走り続ける。
お願い、みんな無事でいて…!
決戦の予定だったはずの昼過ぎ、ナバールが僕に真剣な顔で話しかけてきた。
「コバルト、レガータを連れてここから逃げろ」
「どうして⁉僕も戦えるよ⁉」
「お前とレガータは悪タイプじゃない、コガネシティにいても怪しまれないしお似合いのカップル同士仲良く生き延びろ。ただそれだけだ」
「何で⁉レガータは確かに悪タイプと縁はないけど僕だってヒスイ種になれるから半分は悪タイプだよ⁉」
「その力が不安なんだろ、俺だってそんな奴を戦場に出して無駄死にさせるわけにはいかない」
必死に答えても、ため息交じりなナバールの正論に一蹴されてしまった。
「そんな…」
「これは団長命令だ、今すぐコガネシティに行け!」
攻撃力も下がりそうな咆哮に慌てて部屋に戻って荷物をまとめようとした時、ふと聞こえた一言がずっと耳に残っていた…
「コバルト、お前は俺たち月下団の保険であり切り札だ。絶対死ぬなよ…」
その言葉に急かされるように本拠地に乗り込んだ時、そこには傷つき倒れた月下団の仲間たちと、満身創痍でヒビの入ったソードメイスを振るっているナバールがいた…
そして偽善で身を着飾り強大な力を纏いながらも、青い体を赤い返り血に濡らしたポケモンが一匹。
「コバルト、なんでここに来た⁉逃げろ!」
「おや、ゴミがまた一つ増えたみたいですね、目障りな…!」
「お前が、邪神ゼルネアス…!」
挨拶もなしに飛んできたオーロラビームに合わせてハイドロポンプで迎撃しようとするも、オーロラビームとは思えないほどの威力を前にハイドロポンプは少しずつ押されていく。
ハイドロポンプが少しずつ凍り付いていき、完全に撃ち負けそうになった時、投擲されたソードメイスがオーロラビームとぶつかり合って共に砕け散った。
「来いッ!ゼルネアス」
倒れ込む僕を庇うようにナバールは敢然とゼルネアスに立ちはだかった。
あの強大な角で突撃されたらナバールはきっと全身を串刺しにされて、他のみんなみたいに死体になってしまう。
ただでさえ悲しすぎる現状なのにこれ以上ナバールを失いたくはない。
「ナバール、逃げて!」
斜め後ろからナバールを横に突き飛ばし、アシガタナを構えて突き技の要領で角とぶつけ合わせる。
「愚かな、ウッドホーンの前に貝殻など堆肥同然というものを!」
嘲笑とともに、ギリギリで拮抗していたアシガタナが砕け散り、僕の体に刺し貫かれた痛みが走る。
「コバルト!お前、俺を庇って…」
「いいんだよ、ナバールは団長なんだから生き延びなきゃ…」
乱暴に角から外れて地面に叩きつけられる。肺の空気もほとんどなくなって、視界もだんだん暗くなってきた…
「邪神ゼルネアスに殺されても、どうにか僕のできること、できた、かな…」
「馬鹿野郎、ここまで想定通りになることねぇだろ…」
悲しそうなナバールの声、お願いだから生きて…
「スティルアライブ、時よ戻れ」
ふと気づくと知らない四角の天井が広がっていた。
起き上がってみても血の臭いはしないし、戦場にいたとは思えない。
それにレガータはいないけど他のみんなは無事に生きてここにいる…
確かに僕はみんなを助けに飛び込んだ後、ナバールを庇ってウッドホーンで全身を串刺しにされて…
「ここが、天国…?」
「何寝ぼけてんだよ、そろそろ動き出すってのに気持ち良さそうに寝こけてよ…」
「へ…?」
みんなの言動が変だ。天国でも地獄でもないのは分かったけど誰も戦いのことを覚えてないし、まるで強襲の前に時間が戻ってるような…
そうだ、ナバールなら何か知ってるかも…
「やっぱり、使ったんだ…」
「想定内だがな、一応それを踏まえて作戦修正はかけるが基本は予定通り頼む」
「了解。それとこれ、お守りに持っといて…」
「リボルバーか?6発装填型だし結構綺麗だが、作ったのか?」
「ニンゲンの作ったのを修復してみた、リロードできる弾はないけど6発ともお守りの銀弾にしたから…」
「ありがとな、魔除けの銀弾なら下衆野郎にはさぞ痛かろうぜ」
みんなと離れたところで、マリンさんから武器らしきものを受け取って左脇のホルスターに装填したナバールの視線が僕と交わる。
「コバルト、まだ生きてるか?」
「うん、無事だけど、なんで僕が一度死んだことを…」
思わず口にしてしまったが、それを聞いたナバールは安心した表情で微笑んで見せた。
「とりあえずスティルアライブの発動には成功したらしいな」
「じゃあ僕本当に死んで、それをナバールが生き返らせてくれたの⁉」
「声がデカいからもうちょい抑えろ、厳密には時間を巻き戻しただけでここから生き返れるかどうかはお前次第だ。俺のスティルアライブはそういう能力だからな…」
「それがナバールの、イベルタル因子の能力とか魔法なの…?」
「…そうだな。だがあまり時間がない、俺の能力を簡単に教えるから大体把握してくれ」
・死亡して60秒以内のポケモンを起点に時間を死の瞬間から3600秒前まで巻き戻す
(名前を知らないポケモンや自分自身、後述の事情により死因が寿命による死の場合は起点にすることができない)
・能力者と起点になったポケモンは死因と3600秒間の出来事を記憶し共有できる
(過去に起点となったポケモンとの共有は能力者が任意に調整可、今回は共有済)
・3600秒経過後、起点になっていたポケモンがかつての死因を回避していた場合、今後一生同じ原因で命を落とすことがなくなる
(ex.爆死から能力で生還したマリンは今後爆発に巻き込まれても無傷)
・代償として能力者の力を激しく消耗するため、起点の生死に関係なく3回使うと命を落とす
(一度使うだけでも時間が戻り次第徐々に体力を蝕まれる)
「なるほど、複雑だけど時間を巻き戻して蘇生する感じ?」
「要は1時間死ななければお前は一部死因への耐性持ちで生還できるって訳だ、あとは予定通りレガータと逃げても…」
「それはしない!」
ナバールの提案に思わず叫んでいた…
「いいのか?このまま一緒に逃げればちょっとカフェでお茶してるうちに生き返れるんだぜ?」
「…それでも、僕が逃げたらみんな死んで、いずれはゼルネアスに世界を滅茶苦茶にされて僕も死ぬかもしれない。だったら、そんな未来を迎えるぐらいなら、僕は戦うよ、因子が不安なんて関係ない。レガータを、みんなを、そして世界を救えるのなら…!」
あれが悲劇の序章だとしたら、死ぬより恐ろしい思いをみんながするのなら、イベルタル因子が鍵なら無理やりにでも乗りこなして全てを救ってみせる。上手く言えないけど、ナバールと出会い、月下団で戦い始めた時のような、強い感情がみなぎっていた。
「…」
ナバールも腕組みしながら目を閉じていたが、目を見開いて僕の肩を掴む。
「よく言った!自分で行動しようとする勇気、それこそが因子を使いこなす極意で、だったら戦いを止める理由もないな」
「うん…!」
戦線復帰を内心喜んでいると、通信セットから着信音が鳴る。
「心の準備はできたみたいだな、先にお前に会いたいやつがいるから話しておきな」
仕事モードのマリンさんの声が聞こえたあと、レガータがしっかりとした鰭取りでこっちに来る。
「コバルト、戦うんだね…」
「レガータ、僕は行くよ。僕たちが今ここで勝つかどうかに世界もポケモン達の命もかかってるからね」
「そっか、だったら私も協力するよ!戦えないけどバースさん達に大事な役割頼まれたからね…!」
「大事な役割?よく分からないけどよろしく頼むよ…!」
「うん、コバルトも頑張ってね!」
大事な役割について考える僕の口にレガータの唇が一瞬触れていった…
「お熱いところ邪魔して悪いがそろそろスタンバイ頼む」
「…了解」
「お待たせ、例の熱線焼却機構は予定より殺傷能力高めに完成したけど試作型だし接触しないと当たんないから気を付けてよ、右のワイヤークローにセットしたけどバランス調整のために左はただのビーム兵装乗っけといたから」
「突貫工事だし贅沢は言わねぇよ、とはいえワイヤークローに付けるのは名案だな」
「でしょ?な訳で団長お手製のアルプトラオムフランメ、紅蓮一色は熱線焼却機構とゴールドの装甲を追加した改修機、紅蓮錦にバージョンアップ完了!」
各種機構はさっぱりだけど、全体的に赤と黒だったマシンに金の装飾が増えて、前輪のワイヤークローも大型になってる気がする…
「エンジンも快調だな、そろそろドッキング始めるか」
「OK、それとコバルト君はこれ読んで待っててね」
渡されたのは、何かのマニュアル…?
「コバルトはそれ読んでマルジャーリの指示を聞いてスタンバイしておいてくれ、お前は文字通りの意味で切り札だからな」
紅蓮錦を何かとドッキングさせたらしいナバールが通信セットを起動させながら出ていった。
「これよりステージは14、作戦プランをファイナルに移行、他の犠牲に構わず作戦通り挟撃でゼルネアスを二重に殺せ!」
「そうだ、お前の能力に名前付けとくか」
「名前?因子の能力に?」
「格好いい名前付けた方が愛着湧くんだよ、デイブレイクスベルとかどうだ?」
「デイブレイクスベル、夜明けの、鐘…?」
「始まりを意味すると同時に平和への願いも込められてるのが夜明けの鐘だ、コバルトの願いにピッタリだろ?」
そこで通信は途切れて、別れ際に渡された白いスティックをぼんやりと眺めていた。
平和の始まり、それを僕がもたらすとナバールは考えてるのかな…?
「もうすぐ調整終わるからここでスタンバイしてて、一応社長に頼まれてテレビ中継用の隠しカメラを仕掛けてあるから」
マルジャーリ専用、と書かれたテレビからは賑やかな光景と音が映っていた…
「本日は慰問サーカス公演にお越しいただきありがとうございます!」
コガネシティ役所前広場に突如現れたサーカス会場のテントは満員御礼状態だった。
踊り子の衣装に身を包んだマルジャーリが来客に挨拶すると観客からの拍手が上がり、これからの演目に期待しているのが分かる。
奴が根城にした町だけのことはありフェアリータイプばかりだが、純粋に拍手してくれるのを見ると案外平和なんじゃないかと錯覚しそうになる。
だが鉄パイプで組まれた観客席最前列の大きめに空いたままのボックスを見るとそんな思いも消えていく。
もはや一片の情すらもいらない。ただ一つの目標のためだけに…!
「それでは我がサーカスの花方をご紹介しましょう、レジギガスのジューワン君です!」
「レレジギ、ギガギガフンフン!」
スポットライトと共に現れたレジギガスが陽気な鳴き声と共に挨拶をすると、観客から拍手と笑い声が飛び交う。
楽し気な雰囲気の中で空いたままのボックスが埋まるのを感じた、今だ…!
天井に仕掛けておいたクロスボウを作動させて金属矢を発射、眉間を狙った一撃はウッドホーンで弾かれて近くのピクシーの頭部に突き刺さった。
「おやおや、これもサーカスの仕掛けか何か?」
「これは失礼、先に動いちゃったみたいで…」
マルジャーリの返答を待たずにゼルネアスはゆっくりと角にエネルギーを集中させていく。
「ようこそ私の世界における不純物、そしてさようなら月下団」
横柄な態度と共に指示を出すと客席の全員が立ち上がって戦闘態勢に入っている。1000程度が全部敵かよ…!
だがショーの幕は上がった、あとはアドリブだろうとどんな手を使ってでも勝ってやる!
「おうおうみんな団体客だったのか、言ってくれたら団体割引適用したのによ?」
敢えて演技的な台詞と共にゼルネアスを挑発する。
「いつかの取り逃した餓鬼が随分大きくなったものですね、先日私を嗅ぎまわっていたアブソルを警告替わりに半殺しにしてあげましたが、ちっとも学習しないんですね?」
「そりゃどうも、だがユエはお前の生年月日を知ることができたから目的は達成したんだぜ?」
やっぱりユエを殺したのは貴様か…!
怒りに震えて斬りかかりたくなるが今は抑えろナバール、俺が頭脳戦で勝たなきゃ始まらないだろ…!
怒りをこらえて携帯電話で写真を撮る。
「んー、遺影用にしちゃ写り悪いな?もうちょっと優しい顔した方がみんなに好かれるぜ?」
「は…⁉」
「そしてユエの占いに出てたよ、あんた今夜死ぬらしいぜ?俺たちに殺される以外ならやっぱ老衰死か?生年月日占いの本に載ってないぐらい昔の生まれだったなんてな、老害クソババア」
「なっ⁉言わせておけば…!」
流石に老害クソババアは効いたらしい、遠目からだが血管浮き出てそうなぐらいにお怒りだぜ…!
通信セットで前衛メンバーに指示を出しておく。やるなら今がチャンスだ…!
「言っとくがユエはお前に殺されに行ったんじゃあない、お前の弱点を炙り出すため先陣切って戦いに来ただけだ、そして…」
スモークが噴き出し姿が一瞬隠れた後、前衛メンバーの俺やシャウト、ヴァイル、ナタクが一斉に銃火器を構える。
「俺たちが本隊だ!!」
「ガガガガガガガガガガガガガガ!!」
いつの間にかガトリング砲を左腕に装備して右手にバズーカを構えたレジギガスが一斉掃射を開始、臨戦態勢だった敵ポケモン達を一掃していく。
それと同時に俺たちも一斉掃射を開始、会場にセットした火炎放射器を作動させて敵の退路を塞ぎつつ、ガトリング砲で逃げようとしたトゲキッスをスポンジ状にして炸裂弾を逃げ惑う敵に撃ち込む。
「ガガガガガガガ‼」
背後のレジギガスが体の輪からも弾丸を掃射して敵の状態に関係なく弾丸を浴びせていく。
「まさか奴ら、金属弾を…!」
オーラで身を守るゼルネアスも維持はきついらしく反撃もできずにいるらしい。
「どこまでも卑怯な、UB部隊!」
フェアリータイプの一般ポケモン配下が全滅したらしく、続けざまにエンジュ攻防戦の時以上のUBがなだれ込んでくる。
「ヤバいぞナバール、どうすんだよコレ⁉」
「前回より多いしそろそろ弾切れ近そうなんだけど⁉」
「このままでは不味いぞ!」
UBの多さに俺とマリン以外はかなり焦っているが、俺達にはそこまで焦ることじゃない。
むしろこの状況を一度見たから対策済み、案の定奴らはゼルネアス同様観客席に乗ってる。それなら…!
「全員に通達する、これより攻撃対象はウツロイドとカミツルギに限定、浮遊する敵から撃ち落とせ!」
「「「「了解!」」」」
「ガガガガ!」
浮遊するUB以外はゼルネアス含め観客席の上、そして観客席はプレハブの鉄パイプ製。
「浮遊するUBを、ならば地上にいるUBは私を囲んで護衛しながら攻撃しろ!」
流石に伝説だけのことはあるらしく、狙われないUBで自分を囲んで身を守る作戦らしい。
だが、この状況においてはその自己保身への欲望が仇になるとも知らずに…
「これで、チェックだ…!」
手元のスイッチを押すと観客席の足場に仕掛けておいた爆弾が作動、ゼルネアスにこそ回避されたが崩落する足場に巻き込まれて浮遊できないUBは全て落下、さらに地面に仕掛けた爆弾も連鎖的に爆発して完全に地面に叩き落された。
「ガガカ、ガガガガ!」
ガトリングの掃射中のレジギガスも装備していたポッドからホーミングミサイルとマイクロミサイルを一斉発射、ウツロイドやカミツルギも含めて綺麗に掃除していく。
「馬鹿な、エンジュに痛手を与えた時以上のUBを一瞬で…」
「保身に回ったのが過ちだったな、攻撃すべき場所を絞り込んでくれてるようなものじゃないか」
既に知っていることを悟られないようにしながらも精神的な余裕を奪っていく。一瞬は優勢でも敵は邪神ゼルネアス、高笑いも油断せず攻め続けるッ…!
「すごい、ナバールはあんな仕掛けを一瞬で…!」
「なかなか面白いことしてるよね、調整終わったからそろそろ始めようか」
「了解です、ってあれ?」
テレビを消して戻ろうとした時、テレビの画面に違和感を覚えながら準備を進めた。
さっきから僕と一緒にいるマスカーニャはマルジャーリさんとして、さっきサーカスで挨拶してたマスカーニャは一体誰なんだ…?
「ガガガガガガガ、カタカタカタカタ…」
後方からナタクと共に集中砲火を続けていたレジギガスだったが、とうとう弾切れになったらしくガトリング砲から煙がのぼっている。
「もう弾切れか、もうちょっとぶち込みたかったのに…」
「大分敵の数は減ったが油断するな!」
弾切れになった銃火器を手放した後、突撃チョッキと隠密マントを羽織ったガオガエンがかなりの速度で走り出し、状況整理中のゼルネアスにまたがって首にしがみついた。
「おやおや、ようやく私の魅力に気づいたのですか?」
「肌シワシワな奴は嫌いだよ、H2SO4でも刷り込んだらどうだ?」
「それで、こんなことして何するつもりです?」
「貴様が何故尊い命を奪ってまで襲撃活動を繰り返したか教えてもらおうか、下手な真似すりゃこいつでドカンだぜ?」
マントを翻すと、チョッキにもマントにも爆弾がぎっしり付いていた。
「自爆テロですか、そんなことで私を倒せるとでも?」
「さぁな、だがどのみちお前は死ぬほど痛い思いすることになるぜ?」
「…いいでしょう、愚か者には冥土の土産でに教えてあげましょうか」
「Xプロジェクト、作戦名イーロソ。この世界におけるドラゴン、悪、格闘といった存在自体が愚かなポケモンを絶滅させ、ニンゲンの使っていたロストテクノロジーを滅ぼし、フェアリー以外も含めた善良なポケモンのみが生きられる、私に、いや、世界にとって素敵な世界に作り変える、たったそれだけです」
「じゃあお前はそのポケモン個人ではなくタイプで善悪を決めると言うのか⁉」
「当然でしょう、私に刃向かうものは全て滅びた方がマシというもの!」
周辺一帯が静寂に包まれた。
「バース、台詞は録音できたか?」
「あぁバッチリだよ、これから世界に真実を伝えよう!」
通信セットからの返答にほくそ笑むと外の大型テレビから声が聞こえ始めた。
「なんで罪のない私たちを殺そうとするの⁉私はフェアリータイプに進化するオシャマリだし、悪いことしてないんだよ、ゼルネアス様!」
「当然でしょう。Xプロジェクト、作戦名イーロソ。この世界におけるフェアリーも含めた存在自体が愚かなポケモンを全て絶滅させ、ニンゲンの使っていたロストテクノロジーを滅ぼし、私だけにとって素敵な世界に作り変える、刃向かうものは全て滅びロ!」
「お願い、殺さないで、きゃあああ!」
テレビから流れてきたのは必死に泣き叫びながら命乞いをするオシャマリの女の子と、それを無情にも野望のために嘲笑って虐殺するゼルネアスの会話だった…
「馬鹿な、あれは私の肉声、しかしいつの間に…⁉」
「今の会話だよ、お前の台詞を切り貼りして繋げて真実を告げる文章に変えた後、元々収録したレガータの声と爆破で視界不良の動画を組み合わせ、バースがそれを全国ネットの生放送中に流した。それが今の音声だ」
「まさか貴様、私の信頼を奪うのが目的で…」
「そのまさかだ、既に全国ネットで放送済み、ジョウトでは既にエンジュの仲間たちが扇動してるから各地でお前を引きずり下ろすための暴動が起きるのも時間の問題だぜ?」
「おのれクソガキが…!」
体に力を溜めながらも完全に出し抜かれたことへの怒りに震えるその顔が見たかったぜ…!
「この光で滅びなs」
「させるかよ!」
小さく通信セットに任務了解と呟き、ガオガエンは手元のスイッチを押すと同時にその体が光に包まれ、ゼルネアス諸共爆炎とも血とも似た緋色の閃光と共に飛び散った……
緋色の閃光が消えた後、首回りにダメージを負ったゼルネアスだけが残っていた。
「ふ、団長自ら自爆特攻とは所詮は愚かな種族。少々痛い思いはしましたがこれで厄介な種族が絶滅したなら好都合…」
結果オーライと言わんばかりのゼルネアスに対して月下団メンバーは皆感情をなくしたかのように呆然としていた。
「あとは残党を片付けれ、ば、何故私の体から血が…⁉」
突如首から血を流したことにゼルネアス自身が驚いているが、それを誰も気にも留めない。
「…死ぬほどじゃないにせよ多少は痛い思いをしてくれたようだな」
突如周囲にナバールの声が響き渡る。
「貴様、自爆して死んだはず…!」
「老眼が前より酷くなったようだな、こんな簡単なトリックにも気づけないとは」
「トリックだと…⁉」
周囲を警戒しながら見回すゼルネアスを月下団が鼻で笑うと同時にその姿が揺らぎ、さっきまでいなかったはずのゾロアークが加わっていた。
「はい、コバルトです。ナバール?」
「決戦が近い、搭乗していつでも突入できる態勢に入ってくれ」
通話を切ってアイコンタクトすると、マルジャーリさんはウインクして外のコンテナを開ける。
中には白くて四輪のマシンらしきものがセットされていた。
ワイヤークローとかマシンの感じとか、細部はナバールのと似てるけど形状が全然違う。
「これが、さっき渡されたマニュアルに載っていた…?」
「そう、これが私たちアンブレオン社が独自に開発した嚮導アルプトラオムフランメ、アロンダイト。世界でただ一つの四足歩行ポケモン操縦専用のアルプトラオムフランメよ」
「お待たせ、放送の方は扇動は十分だしアロンダイトの発進準備手伝おうか」
放送システムを操作していたバースさんも合流してアロンダイトの起動が進んでいく。
「初期起動開始、ステージは一部省略して15から開始」
トラックや車みたいな構造とは違って手足の様に一輪ずつ独立して稼働する機構ってのも独特だ。
マニュアルを読んだから大体の操作はできるけど、戦闘時には後輪を増やして二足歩行的な機動を取れてってのはやってみないと想像もできない。
通信セットより大型のヘッドセットを装着、通信機能に加えて二足戦闘時の脳波操縦もこれでやるらしい。
跨る様に乗ったシート前部のカバーを開けて白い起動キーをセット、前足のホルダー兼操縦桿で指示通りに初期設定を行っていく。
時間が戻る前の僕ならきっと怖がっていたけど、今はそんな恐怖も気にならなかった。
何もせず後悔するぐらいなら、僕の方から動いて見せる…!
「あの悪狐、まさかイリュージョンでガオガエンと入れ替わって…?」
「今更気づいたか、だが入れ替わる目的ももう終わった」
ゼルネアスの近くに転がっていた音響機材からは俺の声が最大音量で伝わってくる。
「サーカスの間に入れ替われるとも思えないがいつの間に…⁉」
「サーカスを始める前から。何ならマルジャーリに入れ替わって舞台挨拶だってしたし声はそこに転がってる通信セットと録音。始まる前から既に別ポケモンなのはマジックショーでよくあるネタだろ?それでお前を脅しながらほしいセリフを吐かせてテロリストの死なない自爆テロの出来上がりって訳だ」
「かつて私を爆殺したこと、今更後悔しても遅いってものだけどね」
あの日復讐を誓い合った仲だけあってマリンもかなりテンションが上がってるらしく、キャラクター的に本性見えつつある。
「この下衆野郎ども、この世界の癌は今すぐ虐殺してやる!」
「同感だ、だから俺たちも、お前を殺す」
レジギガスがゆっくりとアーミーナイフを構えると同時に二種類の連絡を入れた。
「総員に通達、敵の隠し玉UBはテッカグヤ3匹と新型1匹と推定、全て倒せばゼルネアスの死は目前だ!」
「了解!」
「これより作戦をファイナルに移行、27番発動!」
「来た!」
27番が指し示すものは恐らく僕の名前だろう。
幸い初期起動も終えて僕がスロットルを回すのを待ち続けているだけだ。
「それじゃあ頑張って来てね」
「試作機だから無理しないようにね」
「頑張ってね、コバルト!」
二匹の声に交じって応援する黄色い声、その声で完全に迷いも不安も吹っ切れた気がする。
軽く深呼吸してYの痕がある右前足で勢いよくスロットルを回す。
「アロンダイト、発進!」
いきなりフルスロットルと言われても、僕がこの世界を、みんなを救ってみせる!!
「こうなれば奥の手だ、来いUB共!」
口調から冷静さを無くしたゼルネアスは予想通りなりふり構わず残存戦力を総動員してきたらしい。
「テッカグヤ3体にデカいだけのカバルドンみたいな新型1体、予想通りだな…!」
シャウトのコメントに一度見てるからと言いたかったが、あえて言わないでおく。
「レレレレジギンギンギンギンギンギン!!」
他のメンバーが動くよりも早くレジギガスがテッカグヤに接近、砲撃しようとした腕を蹴り飛ばして阻止した後、追撃のラリアットで地面に倒して右腕にアーミーナイフを構えた。
「ガガガガガガガ!!」
その場で回転しながらテッカグヤを質量のパワーに任せて切り刻んでいった。
アーミーナイフを上段に掲げてゼルネアスを威嚇したレジギガスだったが、襲撃に来た新型を見て対峙する。
「ガガガガ、ガガガ⁉」
殴りつけた左腕が新型のUBに引きちぎられて捕食されていく光景に困惑するレジギガスの腕からは、金属のフレームと機械が露出していた。
「悪いがマルジャーリ、ビークル用のハンドルで操縦するタイプの砲撃戦特化型メカニカルレジギガスじゃ殴り合いには流石に向かないぜ…!」
コックピットに付いてる左のクローからビームを乱射すると一発が急所に当たったらしくどうにか距離をとることに成功。自爆装置を作動させて突進させながら背後からコックピットシートをパージ、俺が操縦する紅蓮錦で操縦したメカニカルレジギガスは華麗に爆散した。
「まさか、頭がいないと思えばあのレジギガスを操縦して大量虐殺を…」
「お前ほどじゃねーよ、というか毎回オーバーリアクションありがと、なっ!」
スロットル横のボタンを押して右のワイヤークローを射出、派手に着飾った角を挟み込むと同時にハンドルのロックを開いて機構のトリガーを押す。
赤い光線が放たれたと同時にゼルネアスの左側の角が膨れ上がって行く。
「馬鹿な、レーザーから熱線を放って焼く兵器が…⁉」
頭を振って体への焼却は免れたが左の角は焼け落ちた。
「これが紅蓮錦の熱線焼却機構、次は全身ローストしてやろうか?」
「あの時からずっと厄介な種族め、こいつから殺せ!」
テッカグヤと新型以外のUBがまだ十数匹出てきやがった、他のメンバーも大型と交戦中だし流石にきついな…!
ソードメイスを振り回して迎撃しながら発進させて攻撃を回避、ワイヤークローで軌道を変えながらもUBを狙い、回転する前輪で轢き潰してソードメイスで斬り付ける。
必死に捌いているが上空からの殺気が二つ、だが今からじゃ回避も迎撃も無理か…⁉
小型のワイヤークローが二本、ウツロイドを串刺しにして撃ち落とした。
その直後、白い機体が走り抜けると同時に残ったUBは鋭い切り口で切り刻まれて崩れていく。
「ようやく切り札のお出ましだ…!」
攻撃をガードしようとしたマッシブーンを腕ごと切り裂き、ワイヤークローで攻撃と軌道変更を同時にこなしつつ逆手に持ち替えたアシガタナで胴を切断した。
「お待たせ!」
アロンダイトで疾走しながら敵を一掃したコバルトがターボコバルト状態で俺の隣に滑り込んだ。
「原種ダイケンキが迷い込んで来たようですね、あなたのような一般ポケモンはとっととこの戦場から戻ってはどうです?」
声のトーンで完全に苛立ちを隠しきれてないのだが、それでも口調は理性的に戻して平静を装う無駄な努力が正直滑稽に見える。
外では暴動の起きる声もするのに、今更無駄なあがき頑張っちゃってさ…
そんな俺の内心での嘲笑を知ってか知らずか、コバルトは黒に変わったアーマーから黒いアシガタナを引き抜き一閃、剣先から破片が飛び散りその一つがゼルネアスの頬をかすめた。
「…これは、どういうつもりですか下等種?」
「こういうつもりだ。僕は月下団副団長コバルト、壮大な想いも大切な仲間の願いも、そして僕自身の恨みもこの剣に込めて、世界に夜明けの鐘を鳴らすため、邪神ゼルネアス、お前を殺す!!」
「俺たちでテッカグヤとデカいのを倒す、お前はゼルネアスを殺せ!」
「分かった、あのデカい新型は機械破片食べてるけど大丈夫そう?」
「マジかよ、問題ないとはいえ予想以上の悪食野郎だな…」
「…じゃあアクジキングとかどう?」
その案採用、とだけ言ってナバール達は大型UBとの交戦を開始した。
僕もアロンダイトを後輪走行に切り替えてゼルネアスに接近する。こいつさえ倒せば戦いは終わる…!
「どいつもこいつも下等種族は鬱陶しいことばかりしてくれる!」
ムーンフォースを躱しながらスラローム軌道で接近、右前足を狙った一撃はウッドホーンで流され、逆に受け流す勢いに任せた反撃はワイヤークローでアロンダイトの軌道を変えて緊急回避。
斜め上への上昇タイミングで反対側にワイヤークローを射出しつつ、ホタチをゼルネアスの眼前目掛けて投擲する。
「こんな子供騙し、当たるはずもない!」
目視で首を傾けてホタチは躱されたが想定内。二本目のワイヤークローにベクトルを切り替えてゼルネアス上部を通り抜けつつ、すれ違いざまに力を高めながらヒスイのアシガタナで背中を斬り付けた。
「そりゃ当たらないよ、デコイなんだからな!」
ワイヤークローが巻き取られて斜め上に移動すると同時にゼルネアスの背から血がしぶく。
「馬鹿な⁉」
動きで翻弄されながらも正確にムーンフォースを撃ってきたが、力を特防に回しつつ原種に戻してダメージを最小限にしながら飛び上がる。
「ちょこまかとしつこい奴め…⁉」
さらなる追撃を加えようとしたらしいが、弧を描きながら戻ってきたホタチに左前脚を裂かれてバランスを崩した。
デコイもデコイのまま終わらせない、できる限りの攻撃で確実に痛めつけて殺してやる…!
「そして今のお前は、アシガタナを突き刺しやすい角度…!」
ヒスイと原種のアシガタナを二刀流で逆手に構え、体勢を崩した首筋に突き刺した…!
アクジキングと名付けたのはいいが正直俺では打点がなさすぎる。
下手な攻撃は奴の餌な以上正面から物理技は使いづらいが、紅蓮錦の機動力を活かしてソードメイスでチクチク叩き続けられるほど暇じゃない。
待てよ、さっき確か奴の頭部辺りに急所があったよな…?
ワイヤークローで紅蓮錦をジャンプさせながら、マリンのくれたリボルバーで頭部辺りを狙う。
眉間は普通、眼球辺りも大したダメージなし、あとはあのちっこい頭か…?
「⁉」
反応を見る限り頭部の小さい頭、あそこが急所らしいな…!
左のワイヤークローからビームを乱射して牽制しながら再度接近して熱線焼却機構を叩き込みたいが残りエナジーは一発。確実に奴の全身を焼かなきゃ今度こそ打つ手がなくなる。
「こうなりゃ一か八か、くらいやがれ!」
レジギガスの残骸を踏み台にしてジャンプ、紅蓮錦を斜めにしながら右のワイヤークローを射出する。
「………!」
だがアクジキングが口を開きながら放つバークアウトに煽られてワイヤークローは口の中に飲み込まれた。これじゃ頭部の急所に叩き込むどころじゃない…
「…かかったな」
絶望した演技をやめて無表情のままトリガーを押すと、体内が赤く光った直後、アクジキングは膨れ上がって爆散した。
「至近距離なら脂肪腫より体内に打ち込んだ方が効くんだよ、産廃デブ」
少し遅れてテッカグヤも倒されたのが見えた。
右のワイヤークローを巻き取ってもワイヤーだけになっちまったが、マルジャーリには便利だったと教えておくか…
動かなくなったゼルネアスを横目に着地。
脈は測ってないが確かな手応えはあった。首筋に二本アシガタナを突き立てて致命傷じゃない理由がない。
「……」
確かに殺したはずで動かないのが当然のはずなゼルネアスから、何故か強い殺気を感じる。
まさか、この殺気はヤバい…⁉
「…………死にやがれゴミ屑共め!!」
死んだはずのゼルネアスから周囲に激しく攻撃的な光のオーラが立ち込めた。
「うわああああっ!」
咄嗟にアロンダイトから降りて盾にすると同時に耐久に必要なステータスを全振りし、アシガタナを突き立てて壁を増やしたがまるでダメージを防ぎきれない。
アシガタナは2本とも砕け散り、アロンダイトも機体からエラーを吐いて機能停止してしまったが、どうにか鉄板にはなるよな…!
「全員何としても耐えろ、奴はジオコントロールで蓄えた力を解き放つマジカルシャインで一掃する気だ!だが耐えれば活路はある!」
通信セット越しに指示とエールをくれたナバールもソードメイスを盾に攻撃を防いでいるが、ソードメイスにもヒビが入り始めている。
他のみんなもレジギガスの残骸を壁にしてるけど、このままじゃ全員…
「眩しいんだよさっさと灯り消して寝ろよ永久の眠りに!」
「うゎっ⁉」
ナバールが左脇のホルスターからリボルバーを抜いて発砲すると、銀弾にマジカルシャインが反射してゼルネアスにもマジカルシャインが当たり、思わぬ形で攻撃は終わった…
「私は細胞一つ一つが強い生命力を持っている以上、斬り付けたところで所詮は水の泡というものを…」
…なんか煽って来てるが正直敵の情報以外はどうでもいい。
「全員戦えるか…?」
クールダウンしているゼルネアスを拳銃で牽制しながら通信セットで全員の様子を確認するが、今のところ全員無事らしい。
タイムリミットはあと60秒、正直俺だけで稼ぎ切れるとも思えない…
「ナタク、一旦外部メンバーの防衛を頼む、それ以外のメンバーは俺と一緒にコバルトを守り抜く」
「分かった、誰も死ぬなよ」
ナタクが離れていくのと一緒に戦ってきた月下団の仲間たちがうなずくのが同時。
「待ってよナバールもみんなも、僕戦えるよ⁉」
「お前は切り札なんだよ、ノルマは60秒、どんな手を使ってでも副団長、コバルトを守り抜け!」
「「「了解!」」」
クールダウンを終えて臨戦態勢に入ったらゼルネアスを前に俺たちは走り出した。
「新入りが副団長になって切り札扱いか、まさか先越されるなんてね…!」
「ヴァイル、さん…!」
氷の礫を乱射しながら爪でゼルネアスの角と切り結んでいくが、それでも劣勢なのに変わりはない。
「ごめん、ムーンフォース一発頼む…!」
「任せとけ!」
僕を囲んで守る陣形から白と黒の雄叫びと共に、ブロッキングでムーンフォースを弾き飛ばした。
「腕が立つ奴でも後輩を守るのが俺様先輩の仕事なんでな!」
「シャウト、さん…!」
2対1でも状況は変わらず、マジカルシャインで加勢したシャウトごと倒されてしまっていく…
「この野郎!」
ナバールが紅蓮錦のワイヤークローを射出するが牽制程度に終わってしまう。
「老害クソババアはやられちまえってんだよ!」
さらに赤熱化させたソードメイスを投げつけウッドホーンと相殺したが、柄以外が砕け散り、飛散した破片が左脇腹に当たってナバールも倒れ込んでしまった。
「そのダイケンキさえ倒せば…!」
ムーンフォースの乱射が走り回るダイケンキに当たり、イリュージョンで僕に化けて囮になっていたマリンさんも倒されてしまった。
「これでとどめだ…!」
ゼルネアスが巨大化したウッドホーンを振り砕いて僕に槍として打ち込もうとしてくる。でもこの位置じゃ避けきれない…!
「…させるか!」
倒れていたナバールが紅蓮錦のワイヤークローを操作すると逆に紅蓮錦がワイヤークローの方に滑り、それにぶつかったゼルネアスがよろけて射線が半分以上逸れた。
でもこの位置じゃまだ全部躱すのは…
「コバルト!」
紺色の身体が僕の前に現れ、ウッドホーンの破片が氷の盾を砕き体を貫くような音が響いた。
「ヴァイルさん、僕を庇って…」
「これが任務だし切り札なんだってね、あとは頼んだよ、副団長…」
攻撃的な言動ながらも仲間想いなマニューラは、僕の目の前で命を失ってしまった……
「よくも、また簡単に命を殺しやがって… 殺してやる…!」
亡骸の傍の氷柱を掴みながらアシガタナを構えて走り出す。
弱った声でナバールが何かを叫んで僕を止めようとするが、今更止まりたくない…!
だが、感情のままに動いた時、僕の急所目掛けてカウンターのウッドホーンが素早く伸びていた…
避けられない、死……
「…あれ?」
いつまで経っても痛みも苦しみもない。
僕の体を見ると、ゼルネアスが必死に刺そうとするウッドホーンもなぜか僕の体には傷一つ付けられなくなっていた。
「……3600秒経過、おめでとう」
通信セットから小さくナバールの声が聞こえてきた。
「3600秒?そうか、僕が死んだはずの時間を超えたから…!」
「そうだ。俺のスティルアライブの効果でお前はもうゼルネアスの攻撃で死ぬことはない、やっちまえ…!」
ウッドホーンが刺さらないどころか砕け散ったことと、ナバールのセリフにゼルネアスの表情はとうとう絶望の色が浮かび始めた。
「まさか、あの時お前たちが生還した謎の能力、それでダイケンキを生き返らせて…⁉」
「俺がコバルトを蘇生した時点で1時間過ぎりゃ俺たちの勝ちだった、本当の狙いを別の目的で始めからすり替えておく、まさにマジックショーと同じだな!」
あの土壇場で組み立てたのか、それともイベルタル因子に目覚めた時から考えてたのか、いずれにせよ切り札になってた僕も驚きだ…!
「嘘だ、そんな噓には騙されない…!」
パニックになったゼルネアスがマジカルシャインをPP分一斉に発射したが、効かないと分かればあしらうのも簡単になる。
「ハイドロコンフューズ!」
残ったホタチを投げつけ、そこに特攻を高めたハイドロポンプを撃つと激流が乱反射しながら全てのマジカルシャインをかき消した。
「馬鹿な、バカなバカナバカナバカナバカナバカナバナナ…!」
片側だけのウッドホーンを滅茶苦茶に振り回しているが、そんな動きも惨めな命乞いにしか見えない。
「…コバルト、これを使え!」
破片の刺さったホルスターを脱ぎ捨てたナバールが僕にソードメイスの柄を投げ渡してきた。
キャッチしてから頷いて氷柱と共に力を籠める。
「フレースヴェルグ!」
僕の手の中に、二本の大剣が現れて失った武器も補えた。
「これで終わらせる…!」
全てのステータスを力と素早さに調整して一気に走り出し、ムーンフォースを高速移動で難なく躱しながら最短ルートで突っ込み、ウッドホーンを軽く切り裂きフレースヴェルグの二刀流で粉微塵にする。
さらにウッドホーンを生やそうとしたゼルネアスだったが、銃声と共に残った右の角ごとへし折られる。
「…今だ、コバルト!」
フレースヴェルグをスキーのストックの様に地面に叩きつけて飛翔、顔面をクロスするように切り裂く。
「コバルトストライク!」
「きゃああああああああ!」
叫ぶ以外の声すら出せないままもがくゼルネアスの背に飛び乗り、上空で一本に合わせたフレースヴェルグを背中に深く突き刺した。
奴の細胞の繋がりが強さの秘訣というなら、その繋がりをバラバラにすれば確実に殺せる…!
「これがお前に踏みにじられたみんなの痛みと苦しみだ!くたばる瞬間まで思い知れ!」
フレースヴェルグを刺す力はそのままにして、素早さを特攻に振ってハイドロポンプをシェルブレードの要領でフレースヴェルグに経由させてゼルネアスの体内に注ぎ込む。
「ぎゃああああああああああ!」
細胞をバラバラにして肉体が崩壊するまで激流を注ぎ込む、一つ一つが鋭いなら60兆全部痛めつけて確実に殺してやる…!
さらに突き刺す力を強めると、体中の傷口から水が噴き出し始めた。これで終わりだ!
「私が、この程度で野望を捨てるとでm」
「お前の戯言なんて聞きたくない!」
乱暴にフレースヴェルグを引き抜き上段に構えてから腰だめに構えると、ゼルネアスの身体が背後で完全に爆破四散した。
「コバルトストライク・ミッシングエース!」
フレースヴェルグが手の中で氷柱と柄に戻り、砕け散った。
みんな、僕、ついにやったよ…!
「…マリン、そろそろヤバい」
「そんな時間だよね、一発しとこっか」
口の中に熱いものを溜めていき、ベッドで仰向けになった彼のベルトに少しずつ吹き込んでいく。
「んっ…」
くすぐったいのか気持ちいいのか、動きそうになる体を必死に固定してくれてるのは彼の優しさかもしれない。
だから私ももう少し下に口を添えたい欲望を噛み殺して慎重に火炎放射を続ける。
火炎放射を一発分吹き込んだからこれでOK。
「…いつもありがとな、俺もまさかこんな体になっちまうなんて」
「仕方ないよ、能力の後遺症でコアフレイムが炎を精製できなくなっちゃったんだし…」
「こうして外部供給を受けられるだけまだマシなのかもな…」
どこか寂しそうな声のナバールに抱きしめられると、こらえていたのに目頭も熱くなってしまう。
ゼルネアスの暗殺に成功してから一か月、月下団は表立った活動を休止しそれぞれに分かれていった。
増援組はイッシュに帰り、シャウトは警察を目指して勉強中、コバルトはバースの協力もあって医学を学ぶ学校に留学中でレガータも付いて行き、ヴァイルとユエは隣同士で活気の戻りつつあるエンジュでみんなを見守っている。
ナバールはコアフレイムに後遺症が残ってしまい、生命維持にも外部から炎の摂取が必要と聞いた時、二重の意味で私にできることが見つかった。
今はコニコシティに移住してナバールと静養中だが、ナバールが私を連れていってくれたことは本当に嬉しかった。
どうやら決戦前に渡したリボルバーも戦果を挙げるどころか左脇腹に飛んできた破片から守ってくれたらしく、棚にリボルバーを飾ってる辺り喜んでくれたのかな…
「なぁマリン」
「どうしたの?」
「今の世界は救われたとはいえ皆の心は傷だらけのまま、だからこそ今の俺にでもできることが何かあるんじゃないかと思うんだよな」
気分転換にコーヒーを淹れてから部屋に戻ると、18タイプ共同の平和会議の成功を祝うニュースを消して、ナバールは私に聞いてきた。
「きっと、あると思うよ…」
「そうか、もし俺が何か始めるとしたら、また一緒に戦ってくれるか?」
「……! …………うん!」
「…ありがとな、まずは俺たちの傷の舐め合いでもしてみるか?」
「もちろん!」
激レアイベントを見逃す程感動に震えてちゃいられないね…!
「タマムシシティで久々に会わないか?」
昇級試験に合格した後、携帯電話に懐かしい連絡先からメッセージが届いた。
即刻OKを出してレガータのお土産のことも片隅に入れながら、医療雑誌をお供にタマムシシティに向かう。
ゼルネアスの死後、世界の摂理が少し変わったらしく、タマゴから孵るポケモンの種族が母親のみの固定がなくなり半々になったとか、18タイプ合同の平和会議が成功して以来偏見やわだかまりも多い中でも少しずつ互いに歩み寄れる世界ができつつあるとかその他諸々。
アンブレオン社からマルジャーリさんの論文も載ってる。医療機器としてのロストテクノロジーの活用、アルプトラオムフランメを活用したのかな?
そんなことを考えながら揺られているとタマムシシティに到着していた。
「よぉ、二年でちょっと賢そうな顔になったな?」
「そっちは、ちびっ子受け良さそうになったね…?」
コアフレイムの病気とは聞いていたけどナバールは元気そうだった。
というか毎週元気そうな姿はテレビで見てたけど…
「とりあえずなんか食おうぜ、個室の店でも行かなきゃいつサインねだられるやら…」
「何なら僕も貰っていい?毎週応援してるから」
「…後でな」
かつて世界を敵に回すレベルの偉業をやってのけたヒールのナバールは、今では特撮ヒーロー「騎獣クルセイダー」の主演として毎週ちびっ子に応援されるヒーローになってしまっていた…
「サインだっけ、ほらよ」
案外快諾してくれたナバールはサインを書いた紙を僕に手渡した。
「裏面見てみろよ」
言われるままに裏返すと、月下団時代のみんなが写った写真だった。
「後片付けしてたら偶然携帯電話に残っててな、これをコバルトに渡そうと思ってよ」
「ありがとう、嬉しい…!」
大事に写真を仕舞ってから互いの近況報告をしてみた。
僕が昇級試験を合格したようにナバールも昨日でクランクアップしたらしく、お互いちょうど一区切りついたらしい。
「今日マリンは用事で来れないんだが、レガータも忙しかったのか?」
「それがちょっと風邪みたいで、お土産頼まれちゃった」
「なるほどな、だったらあそこの店のティラミス結構美味しいって…」
ナバールがブラインドを開けた時、外で爆発が起こったような音がして窓から煙が見えた。
「…外で悲鳴がする、けどただの悲鳴じゃない?」
「夜にしてはやけに眩しい気もするからな、これは月下団再出動案件かもな…!」
テーブルに届いていた辛そうな肉料理を一口で平らげて代金をテーブルに置いた後、僕とナバールは店を飛び出した。
「さっきまで見えてたビルが、ビーム攻撃で溶かされた…⁉」
僕らのいた方は無事だったけど、反対側は壊滅的な事態になっていた。
「上空にUBがいる、そして、あれは新型…?」
ナバールに指さされた方を見ると、白い光のようなポケモンが浮かんでいた。
「元凶はあいつだ!ビーム攻撃に気をつけろ…!」
指示を聞くと同時にアシガタナを抜き放ち、近くを浮遊していたウツロイドを片っ端から切り裂いて叩き落していく。
「どうやら奴はチャージ中らしい、今のうち雑魚を片付けるぞ!」
ナバールもいつの間にか紅蓮錦を乗り回して避難誘導をしながらワイヤークローでフェローチェを倒して援護してくれている。
僕たちだけとはいえUBもそこまで多かった訳じゃないので10分程度で片付いた。
「あとはあのデカいのだね」
「幸い止まってるし、避けろコバルト!」
急にナバールが僕を突き飛ばした。何が起こったか理解する前にナバールは光の束に巻き込まれていた。
「…案外、あいつの十八番はエスパー技らしいぜ」
僕に笑って見せたナバールだったが、追撃のパワージェムが全弾直撃してしまった。
「ナバール!」
「後ろ、大丈夫か?」
口から血を流しながらの指摘にナバールの後ろを見ると、瓦礫の中、息絶えたポケモンが守るように包んでいるタマゴがあった。
「まさか、君はあのタマゴを守って…!」
「それがc、ヒーローって奴だろ?」
そういうのはテレビの前だけにしてと言いかけた時、ナバールは倒れてしまった…
「ナバール!」
「なんだよ、結構当たんじゃねーかよ…」
たまたま近くを通りかかった救助隊にタマゴの保護と救助の要請を頼んだ後、傷口の応急処置を開始した。
「ありがとな…」
「今は喋らないで、抜群でも傷は浅いからちゃんと処置すれば治るよ…!」
必死に元気づけながら応急処置をして、救助隊に処置が上手いと褒められながら病院に向かっていた時、ナバールの携帯が鳴りだした。
「どうした?まさか…」
「そうか、分かった、一時間で決着付けて必ず助ける」
通話を切った後、周囲の空気が変わるのを感じた…
「スティルアライブ、時よ戻れ」
「さっきまで見えてたビルが、ビーム攻撃で溶かされた…⁉」
見たまま呟いたはずが、セリフの聞き覚えがある。まさか…?
「悪いなコバルト、最後の能力を使った」
「それじゃあまさか、ナバールは死ぬ気で…!」
「コバルトの治療があったから発動できたんだ、こっから先は俺の独断行動だからあんま気に病むなよ」
そう言って紅蓮錦を起動させる。
「だがそのためにもあいつらを倒すのが先決、一緒に戦ってくれ、コバルト!」
「分かった!」
頷いて紅蓮錦のタンデムシートに跨り、アシガタナを構えると同時に紅蓮錦が疾走する。
高速機動とワイヤークローの立体的な旋回を活かして、UBを片っ端から斬り捨てていく。
「このまま一気にデカいのを、ってそうださっきのタマゴ…!」
さっき守ろうとしたタマゴを再び守ろうと、降りて拾い上げにいったナバールの背が急に照らされる。
「ナバール、パワージェムだ!さっきのUBが動き出した!」
「しまった、回避間に合わねぇ…」
そんな、ここに来ておしまいなんてごめんだよ…!
「大丈夫?怪我してない?」
「ハイドロポンプで流してくれて助かった、ありがとな」
さっきと同様近くにいた救助隊にタマゴを託すと、再び紅蓮錦に乗ってワイヤークローを射出する。
「コバルト、ヒスイの姿になっとけよ」
「ゑ?」
大型のUBが強力そうなビーム攻撃のエネルギーを蓄え始めていた。
「一か八か突っ込む、エスパー技なら透かせるはずだし、接近すればお前の剣の間合いだからな」
「了解…!」
ヒスイ種の黒いアーマーになり、アシガタナも両方ヒスイ種のアシガタナに持ち替えた。
「行くぞ!」
「うん!」
ワイヤークローの勢いで飛び上がるのとビームが発射されるのが同時。
エスパー技っぽいから無効ではあるけど、それでもエネルギー量がすごい…!
「今だコバルト!」
ナバールの合図と同時にシートからジャンプ、紅蓮錦自体がスリングショットの様になり、僕の脚力と合わせてかなりの速度で顔面に急接近していく…!
「コバルトストライク!」
ゼルネアスの時よりも簡単に、UBの顔面を切り裂いた…
「………!」
顔を切られたUBは何かを叫んで空に現れた裂け目の中に入っていった。
「UBってあんな場所から来てたのか、そりゃ神出鬼没だよな」
「うん…」
なんとか撃退に成功すると共に分かった事実を噛みしめていると、突然ナバールがスロットルを回した。
「悪いな、俺はそろそろ行かなきゃ…」
「ナバール待ってよ、一体どこへ…⁉」
「まだ助けたい奴がいるんだ、そいつを助ける」
「そんな…」
実質的な突然の別れの宣告に動揺する僕の頭をナバールはそっと撫でた。
「団長命令として言うがコバルト、お前は生き続けろ。今の時代にお前の医学と優しさが必要なんだ、傷だらけになった皆の心を治して笑顔にするために」
「ナバールも、死なないでね…」
「俺は月下団団長ナバールだぞ、無駄死にはしないからそこだけは安心しろ」
差し出された右手をそっと掴んで、小さくありがとうと言うだけだったけど、それでも伝えることはできた。
「一緒に戦ってくれてありがとな、副団長でもあり未来の名医でもある、俺の友達」
「…こちらこそ、上手く言えないけど、ありがとう…!」
「じゃあ、またな!」
また明日会えるかのような言動だけ残してナバールは走り去ってしまった…
これが僕の運命を変えて救ってくれた友達の最期の姿だった。
後日、ニュースで訃報が流れたのを見た時は普通に泣いてしまったし、騎獣クルセイダーの最終回を見た時には本当に死んでしまったことを再認識してレガータと一緒に大号泣してしまった。
後日、マリンさんからの手紙で「コアフレイムの喪失だったけど眠るような最期だった」とだけ知ることができたのはせめてもの救いだった…
「いけない、つい思い出にふけりすぎてた…」
あの戦いから十年前後、今もこうして思い出しては思い出の中で会いたくなってしまう。
念願かなって医者にはなれたし、レガータとは結婚もして娘もできたけど、ついつい頼れる存在がいたせいで無意識に頼りたくなるのが僕の悪い癖かな…
二重の意味でナバールと別れてからあの時くれた写真の裏のサインを見ると、彼からのメッセージが書かれていた…
『この世界の笑顔をよろしく 名医の月下団副団長! 騎獣クルセイダー、もとい戦友より』
ヒーローとしてのファンサービスのように見えて僕への応援メッセージ、これを胸に今日も誰かを笑顔にするために頑張ろうと思える気がする…
「…よし、今日ももう一息頑張るか!」
伸びを一つしてコーヒーを一口飲み、月下団副団長コバルトは今日も指令を遂行してみせる…!
蒼剣ドリーマー Fin.
TURN00 死神が生まれた日
「おとうさん!」
夜間出入口の自動センサーが点灯して聞きなれた声がする。
「グレース、さっきはきつく言い過ぎたけど、どこ行ってたんだ?」
「ちかくのこうえん!」
涙の跡が残ったアシマリが元気よく診察室に入り込んで来た。
叱られた後夜中に公園で遊ぶとか、一体どっちに似たのやら…
「…夜は外出歩いちゃ危ないぞ?ほら手洗いうがいはしっかりして…」
「それよりこうえんに、けがしたおとこのこがいたの!」
「男の子?」
「うん、さっきこうえんにいたんだけど、けがしてたからなおしてあげて!」
「分かった。色々訳ありかもだけど、まずは怪我の手当てをしなきゃね…!」
白衣を羽織って様子を見に行くと、先に外に出たグレースが僕に手を振って呼んでいた。
「ほら、このこだよ!」
「…⁉」
to be continued…