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ユナイトバトル、それはエオス島で盛んに行われている特殊な方式のポケモンバトルである。人とポケモンが心を一つにして五対五で戦略を練りつつゴールを決め、得点の多い方が勝利となる。
ユナイトバトルに於ける大きな特徴の一つとして、試合中に経験値を得てレベルを上げて技を覚え、進化する点が挙げられる。相手よりレベルが高い程ゴール攻防や
そんな野生ポケモン、言葉を選ばずに言うなら基本的にはやられ役。しかし彼らこそ、ユナイトバトルに於ける名脇役と言っても差し支えない。そんな野生ポケモン達に、スポットを当ててみよう。
話の舞台はテイア蒼空遺跡。文字通り遺跡でありながら、正式なランクマッチが行われるバトルフィールドである。長閑な未開の地だった頃から多くのポケモンが棲んでいた場所だが、開発によって様変わり。それでもエオスエナジー研究者のリン博士、ユナイトバトル運営のエル研究員の計らいもあってポケモン達の暮らしが保障される代わりに、試合を左右する存在たるフィールド中の野生ポケモンとして、現在もこの遺跡に棲み続けている者は多かった。
試合開始前、定位置に着くネイティオとホルビー達。スタンバイするファイターの面々を見て、ネイティオが顔を顰める。
「奴らだ」
テレパシーを受け取ったホルビー達もげんなりする。試合が始まるなり中央のアブソルを筆頭に上ルートへアローラロコンとブラッキー個体のイーブイ、下ルートへヒメンカとフシギダネが向かう。アブソルは早速フェイントの
「チッ、雑魚が。さっさと急所晒せ!」
高圧的な態度で荒げる声に苛立ちを滲ませる。だが一定の確率で決定する急所判定を変える訳にもいかず、ネイティオは普段通りに振る舞う。するとアブソルはネイティオの頭を思いっきり踏み付け、鋭い爪で思い切り身を薙いだ。緑の羽毛が飛散してアブソルの経験値とエオスエナジーに昇華される。
「雑魚ごときが手こずらせやがって……」
険しい目つきでネイティオのいた場所を一瞥してから急ぎ足でアギルダーの出現箇所へ向かう。
一方上ルートでは……。
「あたしの雪を浴びても動かないで!」
とアローラロコンが睨みを利かせる。特性のゆきふらしで一定時間毎に付近の野生ポケモンないしファイターに攻撃する仕様で、序盤の三、四匹目のホルビーをキープするにはタイミングが大事になる。共に行動するイーブイの計らいでどうにか切り抜けたが、フロントゴールを抜けた先のホルビーにゆきふらしが当たった。当たった以上、ホルビーは攻撃を繰り出すしかない。
「ちょっと! あたしのホロウェアに泥ひっかけないで!」
こごえるかぜでホルビーを草むらに飛ばし、首根っこに咬み付いてゼロ距離のこなゆきを繰り出す。ホルビーは苦悶に手足をじたばたさせる。この攻撃では倒れず、殊更苦痛を味わう。そのまま首を振り、超高級なオーロラスタイルのエレガントさとは程遠い野性味を剥き出しにしてホルビーを地面に叩き付けた。それでもホルビーは倒れない。すると突然ロコンの身に痛みが走り、咬み付いたホルビーは倒れた。だが経験値は得られない。
「削りサンキュー♪」
「キャア!」
なんと相手のルカリオに横取りされ、コメットパンチでイーブイ諸共弾き出され、筋トレゴールを決められてしまった。その後アブソルの援護でどうにかレーン崩壊は免れたが、腹いせにキープしたホルビーに対し経験値稼ぎとは程遠い残虐行為を働いた。
「素直にやられりゃいいのに、俺らのことナメてんのか?」
そして下ルートでも……。フシギソウは草むらでイエッサンを蔓で持ち上げ、強く締め付ける。彼女が苦痛に呻くと、フシギソウは途轍もない力で遺跡の壁に叩き付けた。イエッサンは倒れ、ワタシラガの学習装置で多くの経験値を得てフシギバナに進化。
「出しゃばるくらいならさっさとやられて次よこせってんだ」
「最近増えたよね、身をわきまえないおバカさん」
とワタシラガも嘲りを見せた。
前述の通り、彼らは基本やられ役。ユナイトバトルの主役である十匹のファイターに攻撃はするもほぼ通らず、一方的に体力を削られ、倒され、ファイターの経験値となるのが彼らの役目。だがそれ故に、一部ファイターからぞんざいな扱いを受けているのも、目を背けられない事実だった。
特にこの五匹で結成されるチームは野生ポケモンの間で悪名高く、暴言は朝飯前。相手よりも早いレベルアップのために脅迫して急所の暴露や行動の制限、自傷を強要したり、上手く試合を運べない苛立ちをぶつけたり――度を越した攻撃を繰り出したりする事も厭わず、先述の出来事は氷山の一角。しかも端から見れば普通に試合をしているように上手く隠蔽しているのが尚の事厄介であった。その代わり勝率は高く、この試合も勝利を飾っては、陰の蛮行を思わせぬ爽やかな笑顔を観客に見せていた。
一方でこちらは遺跡内の一角に設けられた野生ポケモン用の控室。微かに聞こえる試合後の歓声に苦虫を噛みつつ、傷の手当や体力回復に臨んでいる。
「もう許せない!」
「姐さん!?」
姐さんと呼ばれたリーダー格のイエッサンが憤懣を爆発させて立ち上がった。
「いくらやられ役だからってあれはやりすぎよ! いい加減野生ポケモンとしての意地、見せ付けなきゃ!」
「意地を見せ付けるって?」
首を傾げたのはホルビー。他の面々も次々と集まり、どうするのかと声が上がる。それに対する彼女の答えは、普段の試合ではごく当たり前に起き得る事象だった。だがそれでも一部は難色を示す。
「そんなことをして、やつらにもっとひどいことされるんじゃないか?」
「そうね、あいつらなら絶対そうしてくるはず……でも私に任せて! 前から準備してたの」
と姐さんはウィンク。他の面々は顔を見合わせた。
「その日は私、裏方に回って指示を出すから。皆の協力が必要なの、お願い!」
姐さんは深々と皆に向けて頭を下げた。彼らとて同じ苦痛を味わった身、二つ返事で了承する。彼女は涙ながらに何度も協力に感謝していた。
そして一週間後、例の五匹のチームの試合前に控室で野生ポケモン達が円陣を組む。その陣頭には姐さん。
「いい? 基本はいつも通りで、加えて私が言った通りのことをやればいいから。一勝負やりましょ!」
「おうっ!」
気合十分で控室を出てそれぞれの持ち場に向かう。それを見届けた姐さん、振り向いた先の存在に目を鋭く輝かせる。
「ちゃんと準備できてる?」
「ハ、ハイッ!」
その者は体を硬くして、緊張の面持ちで応えた。
不思議な力で進化前に戻り、スタート地点に臨む例の五匹。今回も勝つだろと笑い混じりにその時を待つ。
「Ready GO!」
号砲を合図に、各ルートへ向かい走り出す。その時は早速訪れる。
「あの二匹はキープだ」
「ええ。あんたたち、そこでおとなしくしてて!」
上ルートのロコンが早速横並びのホルビーに高圧的な睨みを利かせる。イーブイと協力して特性ゆきふらしが当たらないタイミングで立ち回る。ここまではいつも通り、だが……。
「ヒャッ!」
ホルビーの一匹に冷気が直撃。それを機に走り出した。
「ちょっと何当たってんのよ!」
「おいおい僕らいつも通りの動きしかしてないぞ?」
焦りを見せる二匹を横目にほくそ笑むホルビー。姐さんの指示で立ち位置を普段より少しずらし、わざと当たる事で目論見を潰した。その腹いせとばかりに二匹がかりでホルビーの喉笛を掻き切ってロコンの成長の糧とする。すると敵陣側からやって来たのはルカリオ。前と同じく序盤のダンベル積みでゴールにまっしぐら。中央ヤジロンはどさくさに紛れて相手に獲られ、標的は彼のみ。冷気が当たったタイミングで奇襲を掛けて阻止しようと目論んでいた。
ピシッと冷気の当たる音。だがルカリオが鈍足になった気配がない。その音は、ロコンの潜む草むらから立っていた。まさかと思い振り返ると、青い目は飛び出さんばかりに丸くなった。
「ちーっす」
「ご無沙汰してまーす」
「なつかしー!」
現在そこにいる筈のない三匹。そう、最初期の僅かな期間だけ登場していたネイティだった。これも姐さんの要請。
「なんであんたたちがこんなとこに……あっ!」
気付いた時には遅かった。でんこうせっかで攻撃しつつゴールに飛び込み、コメットパンチでイーブイを突き飛ばしてから初ゴールを奪うルカリオ。
「ちょっと! あんたたちのせいよ!」
甲高い怒声に釣られ、ルカリオも草むらに。こなゆきを繰り出そうとしたら上から岩が落ちて行動不能に。懐古しつつしれっとネイティを倒しては、イシズマイの妨害でヘイトを買っている間にまたもゴールを決めるルカリオ。
「どうなってるんだいったい!?」
イーブイも混乱を見せる中、マッシブな獣の一撃が二匹の身を切る。耐久の低いロコンは呆気なく倒され、イーブイはブラッキー個体と言えど二対一では敵わず相手の経験値にされてしまい、上ルートは一気に不利に。更にスタックを溜める状況に、中央のアブソルは舌打ちしつつ上ルートへ向かう。退場したホルビー達はしめしめと袖からその状況を窺っていた。
どうにか上ルートの二匹を退散させた所で、アブソルは休まらない。もうすぐ二分が経過しようとする。下ルートも相手の中央ゼラオラで微不利だったが、援護は諦める。
「こいつらは何としても獲る」
レジェンドピットの草むらで待機し、二分経過で現れるチルタリス達においうちで爪を輝かせる。
「あらよっと」
チルタリス達はくるりと反転した。振り下ろされた爪は彼らの正面を切り裂く。
「ざけんな! 背中出せクソ鳥!」
発生した待ち時間に憤怒して羽毛を毟りつつ攻撃する。その羽毛を、彼らはわざとアブソルに吹き付けた。纏わり付く白に四苦八苦すると、突如一帯を包む電撃。
「カモ発見♪」
その正体はほうでんを纏ったゼラオラ。しまったと苦虫を噛み締めるも遅かった。次々にチルタリス達を狩られては技の効果とボルトチェンジで拉致され、アブソルはレベル差の一撃でKO。
「やったね!」
「あの顔見たらスカッとした!」
退場したチルタリス達はご機嫌に囀った。
そして三分が経過。遺跡での試合を左右する存在の一つ、上ルートのレジエレキ。その争奪のために面々は上ルートに集まるも、下ルートのフシギバナとワタシラガは相手のプクリンに足止めされて出遅れる。その代わりプクリンを倒してフシギバナはユナイト技を覚えられた。
既に争奪戦が始まる上ルート。アブソルがユナイト技でいい感じに相手の体力を削る中、はなびらのまいで急いで向かう。
「一発ぶちこみましょう!」
ワタシラガの提案に頷き、ユナイト技の狙いを定める。ここぞと照準を定めた瞬間、草むらから何かが飛び出した。
「おい馬鹿! なんで――」
発動寸前で体力の削れたヤジロンに照準が向く。修正しようにも手遅れで、相手集団とは離れた所に炸裂しては無駄に経験値とエオスエナジーを得るに止まってしまった。
「バカ! ちゃんと狙えぐああっ!」
アブソルは真っ先に倒され、ブラッキー、キュウコンも体力が少ない。敵陣も体力こそ少ないが数で有利。
「こうなったら――」
とフシギバナが体当たり戦法を決めようとした瞬間、眩い光線がレジエレキを貫き、自陣側に攻め入り始めた。相手のフシギバナのソーラービームここに在り!
「何やってんのよ!」
「雑魚に振り回されるな!」
「ああ出られたら対応しきれないんだよこっちは!」
試合中にも関わらず
「残念だったね♪」
とユナイト技を一身に受けたヤジロンは会場の袖で軽快に身を揺らした。
試合は中盤、例のチームは相手に押され気味ではあるも、挽回出来なくもない様子。下ルートは比較的拮抗してはいたが、攻撃と回復、耐久上昇を兼ね備えたはなびらのまい型フシギバナが、先に倒されたワタシラガの援護もあってどうにか押し切った。
「今決めるしか!」
無防備なフロントゴールに向かい、ゴールを決めようとする。
(誰も来るなよ……!)
現レベル最大量の四十点を入れるには、それなりの時間を要する。途方もない長さに感じる中、祈るような思いでエオスエナジーを込めていく。
「いてっ!」
身に走る痛みと同時にゴールは中断。何事かと振り向くと、ふわふわと羽ばたくにっくき鳥達。
「ぼくらだってゴール阻止くらいできるんだから」
「雑魚のくせにえらそうな口たたきやがって!」
チルタリスを蔓で締め上げつつぶん回し始める。付近のチルット三羽を薙ぎ倒し……
「ぐわあ!」
突如身を切る閃光。駆け付けた相手フシギバナのソーラービームは、ギガドレインの被ダメージ減少効果にも拘らず体力を大きく削る。追って駆け付けた相手のイワパレスを見て、流石に撤退すべくはなびらのまいを繰り出すが、眼前を分厚い岩が阻んだ。だっしゅつボタンを駆使した先回りがんせきふうじ。そして行動を封じるシザークロスで、ギガドレインを繰り出す隙を与えない。浴びせられたヘドロばくだんからの手痛い蔓の一振りに、復帰したワタシラガを待たずにフシギバナは倒されてしまい、経験値の多いチルタリスまで奪われ、成す術なくゴールを決められて下フロントゴールも割られてしまう。
「もうっ! なんでこううまくいかないの!?」
比較的温厚なワタシラガも流石に怒声を禁じ得ぬまま、相手チームの経験値にされてしまった。
一方の上ルートも厳しい状態が続く。フロントゴールを割られた自陣側にイエッサンが三匹登場して、そこでレベル上げをしやすくなっているものの、相手側のルカリオがプクリンと組んで一部を横取りしているのを見てしまう。させるかとキュウコン、ブラッキーが向かい、アブソルも合流するが、相手もゼラオラが助太刀して、純粋なレベル差で押される展開に。次々倒される中、キュウコンだけ僅かな体力で持ち堪えて草むらに隠れ、スタート地点に戻ろうとする。
――やっちゃって
脳内に響いた指示で、動き出す。
キュウコンは劣勢の苛立ちを露にしながらも流麗な所作で戻る準備を進める。その傍らにぽつんと佇む存在に目が行った。
「何よ、邪魔しないで!」
獣の形相を目にしてもイエッサンは表情一つ変えず、逆にキュウコンを平手打ち。勿論それで動作は強制的に中断される。
「ふざけないでカス!! 痛い目見たいの!?」
「私たちだって、まともな扱いをしてくれないあなた方の経験値にはなりたくないのよね」
初めて言葉にした本音に、キュウコンの激高は治まるどころか火に油を注いで氷が解けんばかりに。
「口答えするな――キャアッ!」
キュウコンは突如、その場に倒れ込んだ。その背後にはチルタリスが嘴からエネルギーを立ち上らせている。彼のエネルギー弾が止めとなり、キュウコンは復帰までに時間を要してしまう羽目に。
「いいねえ、かっこよかったよイエッさん」
「そう? おかげで私もちょっとスッキリ」
清々する彼らの元に、相手チームが攻め入る。半ば媚びるように立ち回っては、相手チームの経験の糧となっていった。
咆哮が一帯に轟き、見る間に暗くなる。残り時間は二分を切ってレックウザ降臨のラストスパート。両チーム共にレジェンドピットに集まり、レックウザを巡る攻防が始まった。だが少しばかり様相が違う。
「あいつら、触らせねえつもりだっ!」
アブソルが苦虫を噛む。レックウザを背にしてプクリンとイワパレスを陣頭に立ちはだかる。相手側がリードこそすれ、レックウザを倒してゴールを決められれば逆転も可能な点差と推定される。無論この攻防を野生ポケモン達は見守るだけ。
「クソッ、どうにもならない……!」
ユナイト技を打ち合い、タンク兼ヒーラーのブラッキーや純粋なヒーラーたるワタシラガのサポートを受けてしても元のレベル差を埋め合わせられず、じりじり劣勢になりつつあった。
(しょうがない……)
密かに動きを見せたのは機動性の高いフシギバナ。混戦のどさくさに紛れてレジェンドピットを抜け出そうとするも……。
「逃げるな、戦え」
それを阻んだのは意外な存在。フシギバナは興奮に充血した眼をかっ開いた。
「アギルダー!? ぐわっ!」
アギルダーの技で押し戻される。定位置と離れた場所での出現に訝しむよりも苛立ちが先んじた。
「なんでおまえがこんなところで……!」
一方でアブソルも同様の事を考えたか、抜け出そうとしてシュバルゴに阻まれた。
「貴様らの件は我々の沽券に係わるのでな」
と一突き食らわそうとするも、アブソルは容易く避けた。
「チッ、バックドアも無理か……待てよ」
はたと冷静になったアブソル。俊敏な動きでシュバルゴの背後を取り、おいうちで仕留めた。
「バナ! さっさとそいつ倒せ! 押し切るぞ!」
「おうっ!」
フシギバナもアギルダーを倒し、二匹はレベルを上げつつそれぞれのオーラを纏って戦線に合流。移動速度低下と技の回転率向上はそれぞれアブソル、フシギバナと相性がよく、劣勢を徐々に跳ね除け始めた。
「どんどん行こう!」
彼らの士気は更に高まり、相手のレックウザ防衛線はいよいよ瓦解しようとしていた。
「一旦退くぞ!」
ゼラオラの一声で相手チームは撤退を余儀なくされる。すぐさまレックウザにラッシュを仕掛け、程なくして討伐。妨害を受けず素早いゴールの出来るシールドを獲得した。そのまま嬉々としてゴールに向かおうとする面々を、キュウコンは慌てて制止した。
「あいつら、固まってバックドア仕掛けるかもしれない! バナ以外戻って!」
「そうだな、点差広げられたら意味がない!」
四匹は一斉にスタート地点に戻る。スーパージャンプパネルで様子を確認したら、案の定予想は的中。上下に分かれて固まり、それぞれセカンドゴールで得点を決めようとしていた。
「ナイスゴール!」
上ルートで百点を決められてゴールを破壊されたが、下ルートはどうにか間に合う。ゴール攻防の間に再度高らかなナイスゴールが響き、点差は元に戻った。フシギバナは夜叉の如き形相で相手上ルートのイエッサンを手に掛ける。
「てめえらのせいで! メチャクチャだ!」
鋭い葉で身を切り刻んだり、蔓の一振りで急所を仕留めたり、時間をかけて
「くそ、間に合わない! もう一発でかいのくれ!」
「今倒すから待ってて! あぁっ!」
フシギバナの剣幕に応えたワタシラガは、相手の猛攻に耐えられず倒れ、彼女は実質試合終了。それでもモニターを見ると相手チームは全員倒れ、ブラッキー以外倒されたかシールドを破壊され、自ずと五十点を持つブラッキーが下ルートのセカンドゴールへ向かう。残り時間は二十五秒程だが、スピーダーを持っているため充分間に合う。大きな懸念を一つ抱えながらも、早速スピーダーで移動速度を高めてゴールへまっしぐら。
――最高じゃない
その様相を眺める者が、口角を吊り上げた。残り時間十五秒程でブラッキーは相手陣地に差し掛かろうとする。すると何かが視界にぬっと現れた。
「お、おい……今はやめてくれないか? なあ」
途端に毒混じりの冷や汗が噴き出すブラッキー。その様相が映り込んだ瞳は、つと細くなった。
「だーめ♪」
チルットは群がって黒い身を突き、チルタリスは嘴からエネルギー弾を放った。
「や、やめろおおおぉぉぉぉぉぉ!!!」
ブラッキーの絶叫虚しく、先の攻防で風前の灯火だったシールドは、彼らによって呆気なく割られてしまう。これで追加得点の道は完全に断たれてしまった。
「この野郎! 後でたっぷり痛い目見せてやる!」
「それはどうかな?」
目を濡らして牙を剥くブラッキーに対し、チルタリスは飄々と答えた。無情にも響き渡るカウントダウン、そして試合終了のホイッスルが甲高く鳴った。その瞬間、アブソル率いるチームの面々はその場にへたり込み、唯一ワタシラガのみ復帰を待たずの終了となった。
モニターに結果が表示され、観客席が沸き立った。結局点差を埋められず、相手チームの勝利。無論これで納得がいかないのはアブソル達。トレーナー含め全員で運営に猛抗議を仕掛けて無効試合に持ち込もうとしていた。
「今よ」
「ワカリマシタ」
勝利した相手チームが困惑し、観客がどよめく中、モニターの表示画面が変わって一斉に注目が集まった。
「こ、これは、なんということでしょうか……!」
実況すらも言葉を失ったそれは、なんと撮影係のコイルによる、アブソル達の野生ポケモンに対する蛮行の数々を捉えた動画だった。スピーカーを通して響き渡る暴言や危害を加える音を伴って映し出される、残虐な一連の行為を見て絶句するに留まらず、激しく嘔吐したり気絶したりする者が続出する。アブソル達五匹に非難が集中して遺跡は混乱の様相を見せる中、突如スピーカーからたどたどしい人間の言葉が発せられた。
「わたしたちは、しなないからって、みえないところで、こんなめにあっています。わたしたちだって、ポケモンです。ファイターじゃないからって、こんなむごいめに、どうして、あわなきゃいけないでしょうか? ですから、わたしたちは、やせいポケモンのけんりや、そんげんを、ちゃんとまもるよう、うんえいに、つよく、つよくようぼういたします。こんなおもい、わたしたちは、もうたくさんです!」
その声こそ、
「そうだそうだ! ちゃんと権利と尊厳を守れ!」
「アブソルたちの行為を許しちゃいけない!」
「公平、公正なユナイトバトルのために、運営はちゃんと処分しろ! ちゃんとルール化もしろ!!」
様々な声が飛び交う中、運営が急遽審議に入る。白日の下に曝された動画には先の試合も含まれていた。動画の真贋の確認等で時間を要し、結論が出たのは日が傾き始めた頃だった。
「ただ今の試合、アブソル率いる甲チームの不戦敗とし、甲チームの出場資格停止並びに、各メンバーのフェアプレイポイントから百点差し引く措置を執らせていただきます!」
わっと轟く歓声は、野生ポケモンが憤懣を晴らした事の確たる証となった。アブソル達はぐうの音も出ず、背に影を落としつつスタッフと共に退場する。満場一致たる運営の英断に、拍手はしばらくの間止む事はなかった。
一方その様子を見届けた野生ポケモン達は、控室でハイタッチを交わして歓喜に沸いた。例のチームへの復讐のみならず、人間でいう所の人権を公式に保障された事は、ファイターの経験値となるのが仕事の彼らにとって大きな一歩であった。
立役者たる姐さんが戻るなり、歓喜は最高潮!
「ありがとう! おかげでこの仕事続けられるよ!」
「見くびってたけど、テレパシーの指示めっちゃ的確で気持ちよかった!」
「もうあんな思いしなくて済むようになるんだぁ!」
姐さんはゆっくり歩き、喜びの渦の中心に立った。途端に場は静まる。
「……私は、ユナイトバトルが好きだから、本当はファイターになりたかった。でもそれは叶わなかった。それでもユナイトが好きだから、野生ポケモンとして関わってきたの」
彼女の言葉に、皆は頷く。シュバルゴ、アギルダー、コイル含めてここにいる者の多くが同じ思いで携わっているのを、彼女自身も痛い程分かっている。
「倒されて経験値を与える、地味ながら必要不可欠な役目を担う私たちにもプライドがある。そのプライド、あなたたちの協力のおかげで、守ることができました! みんな、ありがとう!」
涙を浮かべてお辞儀した姐さんに万歳三唱。そして彼女を抱え、皆で胴上げして随喜に暮れたのだった――
この一件を機に、格下として扱われていた野生ポケモンの処遇は改善され、ユナイトバトルの要として試合を左右する存在としてあり続けていったのである。
「ところで姐さん」
「何?」
ふとホルビーが件の疑問をぶつける。
「よくコイルさんたちの協力取り付けられたね。何かしたの?」
「何って、コイルはドレパンで圧をかけて、シュバルゴたちは……」
姐さんが部屋の奥から大きな鋏を出して艶やかに微笑む。大方察したホルビーは縮み上がり、聞いた事を後悔した。