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虫タイプのポケモンの中には、花から蜜を採取して生きる者がいる。中には草タイプのポケモンからそれを行う者もおり、ドダイトスの樹皮を傷つけ樹液を啜ろうとしたり、花弁を持つポケモンから蜜を吸おうとしたり、その方法も様々。
対する草タイプのポケモンの反応千差万別で、吸われることを喜ぶ者もいれば、嫌がる者もいる。特定の相手なら大丈夫という者もおり、このロズレイドの場合はそれであった。
ロズレイド、美しい花弁を持つポケモンと思われがちだが、それはあくまで雑誌のモデルになるような……ジムリーダーやチャンピオンなど優れたトレーナーなどが育てる、よく手入れされた個体のみの話だ。
ポケモンに関わる者ならば言うまでもないことだが、草タイプのポケモンにとって虫タイプの攻撃は弱点なのだ。虫タイプのポケモンがその気になれば、草タイプのポケモンは一方的に葉っぱや花弁を食われ、みすぼらしい姿になってしまう。そして傷口から病原体に感染したりで、命を失ったりといった個体も少なくない。
そして、この個体はどうかと言えば、傷だらけで噛み跡も多く、両腕の赤青の花弁も、頭部の白い花弁も、かじられた先端が茶色く萎れていた。彼から漂ってくる甘い匂いは、他の個体よりも強いのだ。
一般的にロズレイドの花弁から漂う甘い香りは、毒の強さと正の相関性を持っている。つまり、彼の毒は強く、それは一般的に言えばモテるロズレイドの要素である。だが、その甘い香りにより虫タイプのポケモンにしょっちゅう狙われ、しかも悪いことに彼は、冷静な性格といえば聞こえはいいが、毒は強いがそれ以外は少しどんくさかった。
その強力な毒で迫りくるポケモンを返り討ちにするだけの強さはあったが、先手を貰う機会は他のロズレイドの何倍も多かった。そうしてすっかりみすぼらしい見た目になったロズレイドは、同種からはもちろん、異種の雌からもすっかり相手にされなくなっていった。
それでも甘い香りは継続して出される。見た目はみすぼらしくとも、虫タイプのポケモンにとっては以前魅力的であることには変わりなく……
「ねぇ、君、一人ぼっちなの?」
背の低い木々が茂る明るい森の中、一人寂しさに打ちひしがれるロズレイドに声をかけたのが、アブリボンであった。アブリボンは落ち込んでいる者の気持ちを感じ取っては、手作りの花粉ダンゴで元気づけることがあるポケモンだ。
アブリボンという種は、サーナイトなどのように良い感情をエネルギー源にする種族ではないものの、落ち込んでいる者を元気づける行為が、巡り巡って自分の利になることを本能的に知っているのだ。
雌から見向きもされないそのロズレイドは、花粉ダンゴを貰ってからというものアブリボンに親しみを覚え、良き友人として、時にはお互いを守りあう仲間として、関係を深めていくのであった。
アブリボンはといえば、最初はロズレイドから蜜を与えてもらう程度であったが、徐々に彼の愚痴も聞くような関係になっていった。アブリボンはロズレイドが女にモテないことや、不届きなバタフリーに無理やり蜜を奪われそうになって困るといった愚痴の聞き役になりながら、甘い蜜をお互いの同意の上で貰うのだ。
無理やりじゃなければ花弁が痛むことは少ないし、愚痴を喜んで聞いてくれるアブリボンは、ロズレイドにとって大層ありがたかった。
様子がおかしくなったのは、ロズレイドの生殖の季節が訪れた頃のことだ。彼はいつも通り、背の低い森の中で一人太陽光を浴びながら項垂れている。
「あれぇ、君一人? やっぱり、今年も……」
アブリボンは座っている彼の肩に止まり、囁く。
「そうなんだよ、聞いてくれよ! 君が一緒なら外敵もうかつには手を出せないけれど、でもやっぱり君がいないと全然だめで……しかも、今は春。僕の蜜の匂いが一番強くなる季節だから、虫タイプのポケモンがひっきりなしにやってきて……さっきも、ヘラクロスに僕の蜜を無理やり……」
「それで、今年もダメってことか……」
「あぁ、そうさ。大して美味しくない、だから虫タイプに見向きもされず、見た目がいいだけの奴に女が群がっている……はぁ……」
特大のため息とともに、ロズレイドは肩を落とす。
「君の蜜の味と香りは本当にいいから、虫タイプの僕にはいいけれど……」
「そうなんだよ。僕を褒めてくれるのは虫タイプのポケモンばかり! 君みたいに、優しく吸うだけなら歓迎するけれど、でも……無理やり奪ってくる奴のせいで……はぁ、僕の花粉は、今年も役に立たずに空しく消費するだけか……」
そこまで言って、ロズレイドはアブリボンを見る。
「そう言えば君、僕と最初に遭ったときにくれたのは花粉ダンゴだったね?」
「え、うん……そうだけれど。草タイプに渡して嫌がられないかちょっと気になってた」
「いやぁ、あれは美味しかったよ。栄養も満点で、体の底から元気になるような……あれ、ほとんどは自分で食べてるんだよね?」
「うん、それはもちろん。自分で今日食べる分だけ作ったら、その日は休むかなぁ。あの時は、お腹が空いていない時に残ってる分を譲っただけで……」
「じゃあ、もしよければ君も、僕の花粉を食べなよ! 蜜と違って、誰かに食べさせたことがないから、味がいいかどうかはわからないけれど、その辺の花から集めるよりも、僕の花粉なら君も集めやすいだろう?」
「君の花粉……いいね、美味しそう」
アブリボンに嫌悪感はなかった。あれほどおいしい蜜を出すロズレイドならば、きっと花粉もとてもおいしいだろう。
「ありがとう、君になら無駄じゃないと思えるよ」
花粉は雌を相手に使うのが本来の役目だが、しかしながらアブリボンは今まで何度も助けてくれた友人だ。むしろ、貰ってくれて嬉しいとすらロズレイドは思っていた。
「それじゃあさ、ちょっと股を開いてくれるかな?」
乗り気になったアブリボンはそう言って、話を進める。ロズレイドははにかみながら股を開く。艶やかな股はまだまだ無垢で、雄蕊も顔を出していない。割れ目の様子を見ても、慣れていなければ彼が雄か雌かを見分けるのは難しいだろう。
ただ、それも僅かな時間だけの事。アブリボンがロズレイドの股間を優しく撫でると、彼の雄蕊はむくむくと膨れ上がっていった。まだ花粉が放出される準備を始めているだけだが、バラ科が持つ清涼感のある甘い香りがほんのり立ち上り、その匂いだけでも価値がありそうだ。
花畑にはこんな大きないおしべを持つ植物はない。アブリボンとロズレイドでは三倍近くの身長差があるせいもあって、中々壮観だ。
「ロズレイド君は、おしべまでいい匂いだね」
「そうかい? ちゃんと見てもらったのは君が初めてだから、そんなことを言われたのも初めてだよ……嬉しいな」
「そう? じゃあ、これから味も見るね。きっと美味しいよ……いただきます」
アブリボンはそう言って手をすり合わせる。そうして手についた汚れを擦り取ったところで、アブリボンはそそり立つ雄蕊に手を添える。味を見ると言っても、アブリボンの場合は口をつけるわけではない。彼は手の平に味覚があるため、触っただけでも味がわかる。しっとりとみずみずしいおしべにはほのかな甘み。それを手のひらを転がすようにして味わっていると、彼の体液が循環して少しずつ熱を帯びていくのが伝わってくる。
誰かに触られたのは初めてなのか、股を開いたロズレイドはとても見せられないような表情をしている自覚があるらしい、青い花弁で自分の顔を隠している。
余った赤い花弁は、アブリボンの頭の上に軽く添えられている。ロズレイドからは機嫌がいい時に出る、優しいオーラ。アブリボンが好むオーラが出ていた。相手が楽しんでいる事を感じて、アブリボンの花粉を絞る手は加速していく。
おしべからも蜜が溢れ始める。触れてみればそれは、両手の花弁から滲む蜜よりもよっぽど美味な代物だ。味はもちろんだが、今のロズレイドはとても気分が良さそうだ。ロズレイドから漏れ出る淫らなオーラに当てられて、アブリボンまで無垢なペニスが自己主張を始めていた。
ロズレイドからは見えないところで大きくなった欲望の化身に、アブリボンまでどんな表情をしていいのかわからない。幸い、彼は顔を隠しているため、自分まで興奮していることがバレなかったのは幸いか。
我慢できず、アブリボンは小さな口でおしべに口をつけ、ゆっくりとドレインキッスをする。相手は草タイプだが毒タイプでもある。フェアリータイプの技には耐性があるから、少しくらい強めに吸ってしまっても大丈夫かと、徐々に吸引力を強めていく。
「あ、あ、あ……」
余裕のなさそうなロズレイドの声が漏れる。花弁が頭を抑える手が強くなる。あっという間におしべからは蜜混じりの黄色い花粉がドロリ、こぼれ出す。
それを地面に落とさないよう、アブリボンは急いで手で掬い上げ、それでも間に合わない分は直接舐め取った。
「美味しい……」
その辺の花よりも花粉を取るのに苦労したが、それに見合う以上の味と香り。そして栄養も満点だ。
「美味しいかい? よかった。花粉はまずいとか言われたらどうしようかと……」
「そんなことないさ。僕は美味しいって信じてたし」
「そっか……君に食べてもらえるなら、僕の花粉も無駄にならなくて済んだよ……女の子に求められないのは残念だけれど、でも、これで僕の花粉も浮かばれるよ」
ロズレイドは少しだけ寂しそうに。しかし、どこか満足そうにそう言った。彼のオーラもその表情通りで、満足しているがどこか寂しそう。やっぱり、ロズレイドは自分の花粉が雌に受け止めてもらうことを望んでいる、ということなのだろう。
「あ、そうだ! 僕たちって、花から花へ花粉を集めていることで、花粉をめしべにくっつけるような役割があるみたいなんだよね……だから、君の花粉を雌のポケモンに運べば、もしかしたら……君も子孫を残せるかも!」
「え、いいの? そんなことまで任せたら悪いよ」
「いいのいいの、僕に任せてよ」
ロズレイドは遠慮したが、アブリボンは彼への親切心でそう言って、飛び出した。多くのポケモンは直接交尾をしたり、卵に制止をかけるなどして生殖をおこなうが、草タイプには虫や鳥、などを利用して間接的な交尾を行う種だって多い。
ロズレイドもそうだが、パンプジンやキマワリなんかも虫を介した交尾を好んでいて、たまにミツハニーやアブリボンを介する交尾を行っている。
アブリボンはどうせなら、いい香りをした女性に花粉を渡してみようと思い立ち……悠然と歩くいている、ひときわ甘くそして高貴な香りのポケモンを見つける。
「そこの甘い香りが麗しいおねーさん! 僕に蜜をくだゴベバッ!」
アブリボンは彼女の正面を飛び回って話しかけたが、その相手から踵落としを食らって、彼は地面に突っ伏した。
「汚らわしい下郎め。わらわにどこの誰とも知れぬ男の花粉など近づけるな!」
そう言い放ったアマージョは、虫による花粉のやり取りは断固拒否のポケモン*1である。そんな彼女に花粉をべったり付けた状態で近づけば、踏み潰されても文句は言えないだろう……女王様、本当にありがとうございました。
うつ伏せに踏み潰され、しばらくは動けなかったアブリボンだが、息も絶え絶えになりながらロズレイドの花粉と蜜で作った花粉ダンゴを口にして回復する。
そんな時、小さな桃色の花を揺らしながら悠然と歩くポケモンが近くを歩いた。見ているだけで元気が出るそれを目の当たりにし、アブリボンは体中が痛いのも忘れてそのポケモンに飛びついた。
季節は春。鳥たちが色気づく繁殖期。雄たちはダンスの腕を磨き、時に意中の雌を前にして他の雄とかちあったときは、雌の前で互いのダンスの腕の競い合う。
ダンスでライバルの雄に格の違いを見せつけて雌のハートを射止めれば、その雄は見事つがいを得る。
そうしてつがいになった雄は、雌を抱いてダンスをする権利を得られるのだ。
その日は、ウェーニバルとパチパチスタイルのオドリドリが、一人佇む鳥型のポケモンの目の前でかちあった。
「……あんたもあの女が目当てか」
「君もかい? ふふ、気が合うね……でも、僕が目を付けていたんだ、渡さないよ」
そのポケモンは見たことがない容姿をしている。全身が漆のような光沢のある黒で、尾羽や翼の先が優雅な朱色。眉毛や嘴、そして胸元に垂れさがる鎖のような飾り羽は、毒々しいピンク色。
歩く姿、羽を繕う姿ですら舞いのように優雅で、その全身からは何とも心惹かれる匂いが漂っている。誰も見たことがないポケモンではあったが、こんな娘がいるならば、誰かに取られる前に自分がものにしたいと、雄鳥たちは誰もが釘付けになった。
たとえば、アチャモやポッチャマなどは飛行グループに見えても、陸上グループしか持っていないように、この鳥型のポケモンが飛行グループかどうかは定かではないが、恐らくは形状からしてそう、なのだろう。
しかし、その雌鳥はその美しさに比例するように、雄に対する望みも高かった。木の実を差し出さなければ話すら聞いてもらえない。木の実を差し出し求愛のダンスをしても、そのダンスに少しでも粗があれば首を縦には振ってくれない。
お眼鏡にかなわなかった雄に、負け惜しみで『高望みしてるんじゃねえぞ、ブスが!』などと言われれば、その雌鳥はお手本とばかりにうっとりするようなダンスを見せつけた。
それでも諦めきれなかった乱暴者が、実力行使をしようと襲い掛かれば、雌鳥は圧倒的な強さで不届きものをねじ伏せ、猛毒に犯して始末してしまっていた。
そんな彼女のハードルの高さに、自分では高嶺の花だと諦めた雄も多い中、ウェーニバルとオドリドリの二人は自信満々に人垣……もとい、鳥垣を掻きわけて、そのポケモンを口説きに向かう。
「そこのいい匂いのお嬢さん! 今からボクは、このオドリドリに華麗に勝って見せる! その暁にはボクと木の実をつまみながら愛のダンスをしてくれないかい?」
ウェーニバルが気障に告白をする。その手にはみずみずしいクラボの実をたくさん抱えており、手土産もばっちりだ。
「そこの可憐なレディ。俺と一緒に、夜通し踊ろうぜ! 美味しい木の実もあるんだ」
オドリドリもまた、言い回しが気障だった。彼の手にはウブの実が握られている。
「おやおや、どちらもみずみずしい木の実を持ってきてくれはったんどすなぁ……」
雌鳥はそう言って、クラボの実とウブの実を一つずつ摘み上げ、ついばんだ。美味しそうに食べる彼女の美しさに、思わずため息が漏れる。
「どちらもいい体で、活きのいい男子どすなぁ。あんたらのダンス、見ててあげるから……ウチに格好いいところ、見せてくださる? 格好良く勝ったほうは、ウチが遊んでもええよ?」
雌鳥はそう言ってニタニタしながら二人を見る。
「だ、そうだ。丁度ギャラリーもいることだ……君と僕、どちらのダンスがより上を行くか、勝負しようじゃないか」
「ふふん、俺に勝てるかな?」
雌が、勝った方と遊んでいいというものだから、雄鳥二羽は木の実を地面に置くと、臨戦態勢に入った。雌を眺めることしかできない有象無象の雄鳥たちはその二人の様子を固唾をのんで見守った。
オドリドリはボンボンのような翼をすり合わせ、静電気を帯電させて周囲に美しい黄金色の火花をまき散らす。ウェーニバルは尾羽を扇のように広げるとともに、足先から飛沫を吹き出し、扇状に水を振りまいてしなやかな脚の動きを存分に見せつける。
お互い、キレた動きで軽やかなステップを踏みつつも、互いの動きから目を離すことなく。先に仕掛けたのはウェーニバルだ。彼は地面にホバリングしているかと錯覚するほど小刻みなタップを刻んだかと思えば、急激に地面を踏み込んで前転。水飛沫とともに強烈な踵落としを見舞う。先ほどまでオドリドリがいた場所には小さなクレーターと水たまりが出来るが、オドリドリがいる場所はそのすぐ横。
オドリドリは片足を軸に、水を伴った蹴り。脚が短いせいもあり、ウェーニバルは余裕をもってその蹴りを躱すが、オドリドリは開店の勢いを殺すことなく、さらに腕を広げながら回転。ボンボンのような翼がウェーニバルの脇腹をかすめる。
ウェーニバルの体はバネの様にはじけて、後方倒立回転跳び。ウェーニバルの脇腹をボンボンがかすめ、感電した結果わき腹に痛みが走った。
「君、やるなぁ……かすめただけでこの痛みとは」
「お前こそ、素晴らしい動きだ。普通なら今のでぶっ倒れてる」
互いの動きを褒めあいつつ、二人は他害御観察を続ける。ウェーニバルの動きは、さっきの水しぶきを飛ばす蹴り以降、明らかに良くなっている。ウェーニバルのアクアステップ、それは攻撃を兼ねた柔軟体操。体をほぐしながら蹴ることで、水のようにしなやかな関節と筋肉を得る、ウェーニバルのみに許されたダンスである。
しかしながらそれはオドリドリ相手には悪手。オドリドリは戦う相手が舞いを踊れば、その性質に合わせて自身の舞いに相手の舞いの要素を付与できてしまう。そのおかげで、オドリドリの動きも上昇してしまい、ウェーニバルのアドバンテージは無くなってしまう。
互いに小手調べ。獲物を得るための殺し合いではないため手加減しあっていたが、どうやら手加減して勝てる相手ではなさそうだ。
ならば全力で挑むべきだと、オドリドリは蝶の舞い。ウェーニバルは剣の舞で決定力を上げる。これも前述のとおり悪手。オドリドリは物理的な攻撃は得意ではないものの、それでも剣の舞の力を得られるアドバンテージは大きい。
次に仕掛けたのはオドリドリ。前蹴りのように足を高く掲げてエールを送るチアリーディングの動きををすると、翼から雷撃がほとばしってウェーニバルの心臓を射貫こうとする。
ウェーニバルは地面を蹴りあげてめくり、吹っ飛んだ土くれを盾にして雷撃を防ぐと、跳躍。空中でその土塊を再度蹴り飛ばして、まるで玉つきのようにオドリドリを狙う。だが、オドリドリは真っ向からその土塊を蹴り砕く。
ウェーニバルに負けないほどに素早く、ウェーニバルに負けないほど力強く、そして足先から放たれた水飛沫は空に虹を掛けさせた。
「僕のアクアステップを真似した!?」
「それが『俺達』さ」
四散して飛び散った土くれの向こう側で、オドリドリはふらふらと危なっかしいダンスを踊っていた。パチパチスタイルには似つかわしくない、ふらふらやまいまいスタイルのような踊りだ。ウェーニバルは思わず魅入ってしまい、動きを見続けていたのが良くなかった。突如ウェーニバルの視界が90度傾いたかと思うと、オドリドリのパンチが横っ面に降ってくる。
目を見開いて敗北を覚悟したウェーニバルに、激しい衝撃は襲ってこなかった。
「君は見事なダンスだった……だが、今回は俺の勝ちだったようだな」
「くっ……ボクが負けるだなんて。でも、君に負けたのならば本望だ……素晴らしいダンスだったよ」
「あぁ、お前こそ素晴らしいダンスだった。今度は、雌の奪い合いじゃなく、互いに美しさを競い合いたいくらいだ」
オドリドリはボンボンに残っていた電気を放電すると、ウェーニバルに握手を求めた。ウェーニバルは微笑みながら体を起こし、その手を強く握りしめる。固く、固く握りしめたあと、オドリドリは先ほどの雌を見る。
「俺の勝ちだ。さぁ、レディ……俺の手を取ってく……れ?」
先ほどの雌はいなかった。ついでに、二人が土産に持ってきた木の実もなくなっている。
「あれ、さっきの子は?」
オドリドリは周囲を見渡すが、その姿は影も形もない。周りにいた雄たちも、二人の勝負を見守っていたがために、誰もその姿を見ていない。
ただ、その雄たちの中にいたイキリンコが、興味深いことを言う。
「そう言えばさっき、君たちのダンスバトルを見ている時に……『やーねー、私は雄だってのに、雌と勘違いしちゃって、みんなバカねー』『ひひひ、取り放題でやんすねぇ。あっしの言ったとおりだったでやんしょ?』『いいね!』みたいな会話が聞こえたような……。もしかしたらその時盗まれたのかも」
「え……」
「はい?」
ウェーニバルもオドリドリも開いた口がふさがらなかった。
「あ、俺が持ってた木の実もない!?」
「俺のリンゴも……」
「おじさんの 金の玉も だ!」
求愛のために、集った雄達は様々なものを持っていたのだが、その中でも美味しそうなものやキラキラしたものは優先して盗まれたようだ。探そうと思ったが、先ほどあれだけ心を惑わせたいい匂いが、今となっては残り香すら感じない。ここでようやく雄たちはあの美しい鳥型のポケモンに(しかも雄)騙されたことに気づく。
ある者はぶちのめしてやろうとすぐに飛び立ち、またある者はその場で頭を抱えた。飛ぶことがあまり得意ではないウェーニバルとオドリドリは、ため息をついてその場に項垂れるばかりであった。オドリドリとウェーニバルが謎の雌鳥(本当は雄)を探しに行けなかったのはある意味幸運だ。謎の鳥型のポケモンたちは非常に強く、挑んでいれば返り討ちであったろうから。
「はぁぁぁぁぁぁぁ……俺は雄相手に求愛しようとしてたのかぁ……」
集まっていた雄たちが捌けていっても、ウェーニバルとオドリドリは座ったままため息をついていた。
二人が項垂れた理由は、木の実が盗まれたからではなく、雄にときめいてしまったという恥ずかしさや、自分の見る目の無さ、そして手に入るはずのものが手に入らなかったことによるショックが原因だ。
失望が大きすぎて、しばらくはやる気が出そうになかった。その点、ウェーニバルは、オドリドリに負けたせいか、雌を手に入れることに関してはあきらめがついていた。その分だけ、ちょっとだけ立ち直りが早かった。
「確かにあいつは雄だったかもしれない……確かめたわけではないからわからないが。だがしかし、あの優美な姿を見たときに感じた胸の鼓動は本物だったはずだ。雄であろうと、雌であろうと、美しければそこに胸の高鳴りが生まれる。僕はそう思うよ」
そう言ってウェーニバルはオドリドリを励ました。
「ま、確かにときめくほどの美人だったけれどさぁ……でも、胸が高鳴った分、それが手に入らなかった時のショックは大きいというかなんというか……はぁ。次の雌を探すかぁ」
「確かに、雌が手に入らないのはショックだ。僕だって、君に負けてしまったときは、ショックだったさ……だが、代わりに心が躍る感覚も覚えているよ」
「なんで?」
「それは、君という存在を見つけたからさ!」
ウェーニバルは隣に座るオドリドリに、顔をぐいっと近づけながら笑顔を押し付ける。
「それは、その、どうも」
オドリドリは首を後ろに倒し、少しでもウェーニバルから距離を離して苦笑する。
「君とダンスを競い合ったとき、自分がいつ倒されるかもわからないという緊張感だけじゃない。確かな胸のときめきを感じたんだ。動きは花弁が舞い散るように美しいのに、攻撃に移る際はまるで流星群のように鋭く無駄がない。黙っていればふさふさの羽に隠れてしまうが、躍動すれば筋肉の力強さは隠しきれない熱を帯びている。
今度は殴り合いじゃなく、君の動きを雌の立場で眺めたいとすら思うほど……」
「そう言ってくれるのは嬉しいね……それにその、お前のダンスも素敵だったし……あぁ、でも、雌じゃないんだよなぁ! 雌とダンスして、その後交尾したかったってのによぉ!」
オドリドリはやけくそ気味に大きな声を出すと、急に立ち上がる。先ほどからウェーニバルの視線が怪しく、なんとなく、ここに居てはいけないと本能が告げている。
「よし、仕切り直しだ。暇してる雌に話しかけてくる! 雌はあいつだけじゃないんだ!」
そう言って去ろうとするオドリドリの翼の先をウェーニバルが掴む。
「待ってほしい。さっきも言った通り、僕は君のダンスに惚れたのだ」
「そ、そ、それはどうも」
「雄同士で悪いが、僕とつがいになってくれ!」
「……さーて、新しい雌を探しに行くか」
オドリドリはウェーニバルから目を逸らし、どこかへ。ここではないどこかへと行こうとするも、彼に抱きしめられてしまう。
「話を聞いてくれ! 僕はね、美しさに惚れることに、雄も雌もないと思っている! 我々ウェーニバルも、君たちオドリドリも、男女共にダンスを学ぶ種族かもしれないが……つがいを見つけるためにダンスを日々磨き続ける雄と、ダンスを与えられる側の雌では、ほとんどの場合雄のほうが優れた舞いを見せてくれるんだ。
その雄の中でも、君はとりわけ優秀……僕は雄でありながら、僕の中にある雌の心がときめいて仕方がないんだ。だから僕は、君と共に愛のダンスを踊りたい」
「えぇぇぇぇ……」
オドリドリは困惑していた。オドリドリがウェーニバルを拒否するのは、嫌だからではない。むしろ、嫌じゃなかったからだ。ダンスの腕前には自信があるが、かといって雌との経験があるわけではなく。
だからこそ、雌と交わるということがどういう事かもわからず、雄と何が違うのかもわからない。誰かに抱きしめられ、密着されるのは、子供のころ姉妹と一緒にピヨピヨ言いながら親の寵愛を受けていたころ以来の事だが、その頃には感じなかった衝動が湧き上がってくる。
皆が雌がいいと言うから、自分も当然雌とつがいになるべきだ。オドリドリがそう信じてやまなかったこれまでの半生が崩れ落ちていくような。それを危ないと思う気持ちがウェーニバルを拒絶しろと叫んでいるが、このまま抱きしめられたままでいたい、という欲求が勝りつつある。
そして、オドリドリはウェーニバルの腕を乱暴に振りほどくことはできなかった。気付けば、ムラムラした欲求は止められなくなり、なんでもいいからこの欲求を解消したいという本能に突き動かされ、オドリドリはボンボンのような翼の先をウェーニバルの手に添える。
「わかった……」
言いながら、オドリドリはまだ迷っている。雄同士で愛のダンス、それはつまり子作りの真似事をするということだろう。そんなことをやって、楽しいのか、気持ちいいのか、心は満たされるのか?
その逆、嫌悪感に塗れてしまうようなことはないだろうかと、イマイチ踏み切ることが出来なかった。だけれど、ウェーニバルはそんなオドリドリの思惑などどこ吹く風だった。
ウェーニバルは戦闘前のように尾羽を広げると、正面からオドリドリの手を取る。そよ風が湖面に波を立てるようにゆっくりと、彼のダンスが始まった。
先ほど見せられた戦闘用のダンスと違って、供給される側の雌でも合わせやすいリードするための動き。元々踊り子の特性を持っているオドリドリだけに、他人のダンスを見ると自然と自分も踊り出してしまう気質はあるが、それにしたってここまで無意識に体が動かされるのは初めてだった。
生まれた時からこの踊りを知っていたかのように自然に足が運ばれ、腕を振らされ、視線を誘導され、否が応にも見つめあわざるを得ない。しばらく揺られるように踊っていると、手首をちょいと折り曲げて引っ張られる。脚が自然と前へと運ばされ、飛び込んだ先はウェーニバルの胸の中。
抱きしめられて、水タイプ特有の締めった質感の羽毛に包まれる。ダンスはゆったりしたもので、息苦しくもないのに心臓の鼓動が激しい。そっと体が離れたかと思えば、屈んだウェーニバルが嘴をあわせて口づけをしてくる。
つつくように小刻みな口づけで、嘴だけじゃなく体中に刺激を与えられる。その口づけの連続で、普段誰かに触れられることの無い場所に意識を集中させられている間に、不意打ちのように引っ張られたオドリドリは、気付けばウェーニバルを押し倒したような体勢に。
「さぁ、今度は僕の上でダンスをしてくれ」
「もう止まんないからな……後悔するなよ」
ウェーニバルはオドリドリを見上げながら笑みを浮かべる。猛火阪神は見ないことにした。見上げるウェーニバルの期待に満ちた眼差し。笑顔が雌の最も魅力的な表情と思っていたが、それは雄でも変わらない。笑顔さえ見つめていれば、それがどちらの性別でも変わらなかった。
先ほど一緒にダンスを踊ったことで、体は交尾を求めて止まないほどに昂っている。相手が雄であっても、何をすればいいかは体が教えてくれた。いま最もむずむずしている場所を、相手の尻に押し付けてやればいいのだ。
オドリドリはウェーニバルを四つん這いにさせるよう促す。先ほどまであおむけだったウェーニバルがゆるりと体を反転させると、オドリドリはウェーニバルにのしかかる。そうして、足爪と翼で自身の体を固定すると、自身の総排出孔をウェーニバルの同じ場所へとこすりつける。
瞬間、理性がはじけ飛んだ。背中まで美しいウェーニバルの後姿を見下ろしながら、一心不乱に下半身をこすりつける。普段からダンスのために体を鍛えていたこともあり、激しい交尾の動きにも呼吸が乱れることはなかった。
真っ白な頭の霧が晴れたのは、恐らく呼吸を止めていられるくらいの時間。思い切り体を押し付けるような体制を自然と取り、苦しくなるくらいにウェーニバルの体を抱きしめ、絶対に孕ませるようにと下半身を押し付ける。
本能に支配された頭には、もう相手が雄なのか雌なのか、そんなことは一切考える余裕がなくて。ただ気持ちいい、それだけに突き動かされた。ウェーニバルは交尾のことをダンスと表現したが、そう表現するにはあまりに乱暴で、粗暴ですらあった。ただ、それを受け止めるウェーニバルは、その力強いオドリドリの交尾にむしろ興奮した。
射精し、抱きしめたまま呆然と余韻に浸るオドリドリ。激しい鼓動を背中に感じながら、ウェーニバルもオドリドリに総排出孔を刺激され、一緒に射精していた。オドリドリと比べて手先が器用なウェーニバルは、何度か自慰も経験したことがあるため、その衝撃度はオドリドリと比べて少なく。
比較的冷静な頭で、いまだ衝撃から頭が冷めやらないオドリドリの翼を撫でてあげた。徐々に落ち着きを取り戻したオドリドリは、ウェーニバルの体から降りるとその場に座り込む。
「いいな、これ……」
「君もそう思うかい? 本当、最高だったよ……君のように美しく踊る相手なら、きっと力強い交尾が出来ると思ったが……予想以上だ。美しさも、力強さも、それに触れているだけで満たされる……ダメだ、ダンスを待っているだけの雌よりも、君と一緒にいたい」
「い、いや……褒めてくれるのは嬉しいんだけれど、俺はやっぱり雌とつがいになって子供が欲しいというか……」
ウェーニバルはすっかりオドリドリにお熱だが、対するオドリドリの方は射精によって冷静になったおかげもあってか、快感だけが交尾の目的ではないと思い出してしまう。
「……まぁまぁまぁ、そんなこと言わずに! これから、機会があれば雌とか繁殖の季節とか、関係なしに僕たちでダンスの腕を高めあい、そして時には体を重ねて楽しもうじゃないか!」
そんなオドリドリの気持ちなどどこ吹く風で、ウェーニバルはオドリドリを抱きしめた。悪い奴ではないのだけれど、このまま彼に付きまとわれることになったら面倒だろうなと、息苦しいほどの抱擁の中オドリドリは無気力になって諦めていた。
そうして抱きしめられている最中、ウェーニバルはオドリドリにずっと愛の言葉をささやき続けていた。他人のダンスを見ただけで真似をしたり、それがなくとも美しいダンスには目を引かれたとか、脚の挙げ方が見事で、君の太ももに挟まれたいだとか。褒めてくれるのは嬉しいのだけれど、聞き続けているのも頭が疲れそうだ。
出したばかりなので、しばらく雌探しはいいやと思っているから、ウェーニバルといることそのものは悪い気はしないのに、どうしてここまで喋る話題があるのかとある意味感心する。
そんなことを考えていると、どこからともなくふらりとポケモンが歩いてきた。
「……おや、あの角のあるポケモンは? ふふ、誰かはわからないけれど。もしかして、僕たちのダンスを見に来たのかな?」
「いや、俺を巻き込まないでくれよ!? ダンス見せたいなら勝手にやってくれ!?」
オドリドリは面倒になりそうなので、この隙に逃げようとするも。
「まぁ、待ちたまえ。きっと僕たちの華麗なダンスを見に来たんだよ」
そう呼び止められた。
「違うと思う」
オドリドリは冷静にそう言うのだが、ウェーニバルはオドリドリの手を掴んで離さないのだ。
とある火山帯の洞穴に、二匹のドラゴンが共に助け合いながら生きていた。ジュラルドンは穴を掘り、地中の金属を見つけて食べる。クリムガンは掘られた穴に誘われてきたポケモンを待ち受け、肉を得る。金属は食べないので、ドリュウズやミミズズなど鋼タイプのポケモンが得られた時は、金属部分をジュラルドンに分け、肉や骨の部分はクリムガンが優先的に食べていた。一方、ジュラルドンが獲物を取ったときも、食べきれない分なんかはクリムガンに分け与えていた。
シェアするのは食糧だけでなく、熱もだ。ジュラルドンは体温が上がりやすく、そのため尻尾を放熱に使用しているのだが、体温の低いクリムガンはその熱を貰うことで活動に必要な体温を得るのであった。
そうやって効率的に生きた二人は、豊富な食料や長い活動時間のおかげか、いつしか同族よりも大分たくましい体となっていた。
そんなクリムガンは、ある願望があった。同居しているジュラルドンには、ブリジュラスという進化系が存在する。自分達の縄張りの付近にも、たった一匹だがそんな進化を成し遂げた個体がいた。
初めて見たとき、そのシャープでスタイリッシュなシルエットに、クリムガンは目を輝かせたものであった。その進化のために複数の金属が層になっている物体が必要と聞いたクリムガンは、獲物がそういうものを持っていないか、土を掘り起こす際にそういうものが見つからないか、毎日のように目を光らせていた。
ある日、クリムガンは巣となる洞穴の整備をしていたところ、それは見つかった。いかなる自然現象の産物かはわからないが、色とりどりの金属が混ざりあい、撫でる部位によってまるで感触が違う。それに、その辺の鋼と比べると、大きさのわりにとても重い。
聞いたことのある通りの代物だった。それを見つけたクリムガンは穴の整備を切り上げ、誰かに盗まれることなど絶対に無いよう、巣に戻って抱きかかえるようにしてそれを守った。
体温の維持にエネルギーを使わないクリムガンは、食事など二~三日取らなくたってどうとでもなるため、今日は早々に狩りを切り上げる。そうして、複合金属を守りながら暗い洞穴の中でジュラルドンを待ち、どれほどの時間が経ったか。狩りの時もじっと待って気を伺うのが主流なので、待つのは得意。洞穴に住んでいるから太陽の動きも関係なく、数刻の時間が過ぎた頃にジュラルドンは帰ってきた。
彼の手にはドリュウズと、少量のオレン。鋼の部分を食べつくしたら、肉のおこぼれは貰えそうだ。
「おや、もう帰ってたのか。獲物は取れたのか?」
「いや、獲物は取ってこれなかったが、いいものを見つけたぞ」
「おいおい、獲物もないのに帰ってきてたのか?」
「そう言うなって! これ、お前が進化するために必要な道具なんだろ? 盗まれないように大事に取っておいたんだ」
「マジか?」
クリムガンが複合金属を差し出すと、ジュラルドンはラスターカノンの応用で光を灯してそれを見る。僅かな光を反射してまばゆく輝くそれを見た瞬間に、ジュラルドンの本能がそれを求めて、鼓動がせわしなく走りだした。
「マジだ、本物じゃん」
「だろ? ジュラルドンは進化しなくても十分強いって言っていたけれど、やっぱり欲しかったんだよな?」
「あぁ、そりゃ強いに越したことはないからな。なぁ、今すぐ食っていいか?」
「もちろん……って、言いたいところなんだけれど、その前に、いいか?」
クリムガンは金属を床に置くと、ジュラルドンの体に体重を預け、押し倒す。
「おいおい、そんなの進化してからでいいんじゃないのか?」
「馬鹿、最後の一回はいい思い出にしたいだろうがよ? これで最後なんだぞ?」
「しゃあねえなぁ」
2人は、雄同士だが肉体関係であった。ある日雌にありつけず、かといって自身の手ではどうしても解消できない欲求に苛立っていたジュラルドンの性欲を解消してやったとき、クリムガンは自分の中で湧き上がる喜び、雄でありながら雄を魅力的に思い、その肉棒を愛でた時の満足感に気づいた。ジュラルドンも同様に、その時に雄と交わることも捨てたものじゃないと実感した。そして、捨てたものじゃない、から楽しいに変わるまでそう時間はかからなかった。
「じゃあ、進化する前にしっかり味わっておけよ」
「へへ、そうさせてもらうぜ」
クリムガンはジュラルドンにのしかかって口づけする。光はほぼない。暗黒となったその空間では、視覚がない分、それ以外のすべての感覚が研ぎ澄まされる。
ひんやりしたジュラルドンの硬い肌。血液を思わせる、金属と生物の匂いが入り混じったジュラルドンの匂い、そして唾液の味。触ると痛いサメ肌と金属がこすれる音。
ジュラルドンにのしかかっていると、彼の体温は少しずつ上がっているのがわかる。そして、彼の興奮度合いが測れる肉棒も、暗闇でもその熱と質量がわかるほどに大きく怒張して、早くもジュラルドンが臨戦態勢に入っている。
「相変わらずデカいな」
のしかかってるだけ。触ってすらいないそれがクリムガンの尻尾に振れた。相変わらずの大きさだ。クリムガンは口づけを中断すると、地面に降り立ってジュラルドンの肉棒に触れた。二本ある肉棒のうち、よく使っている右側の方は特に敏感で、触れられただけで先走りが漏れ出している。
ジュラルドンの体は水晶の柱のような角ばった体形をしており、四肢の関節はともかく胴体の柔軟性は低い。そんな体型ゆえ、小さな肉棒では同族同士の交尾は非常に困難、ということもあって。その太さは両手で抱えるほど、長さはジュラルドンのひじより少し長いくらいだ。
クリムガンも小さくはないが元々の身長がジュラルドンよりも小さく、彼と比べれば少しだけ柔軟性もあるためか、二回りほど小さかった。最初こそそれをコンプレックスに思っていたが、今は魅力的に思っている。
長すぎて両手と口を駆使しても根元まで覆いきれないそのスケール感。大きいというだけで心が踊ってくる。ねっとりした唾液をまぶして、滑りのいい小さな鱗に覆われた手の平で撫でてやれば、ジュラルドンの肉棒は面白いように暴れまわる。奉仕されていることがジュラルドンにとって愉悦であるが、奉仕する側のクリムガンにとっては、こうして相手を気持ちよくさせることで、快感という手段でジュラルドンを思い通りにしているという愉悦がある。
射精するのも、気持ちよくなるのも、全部クリムガンの手の内にかかっている。それが楽しくて仕方がない。だからクリムガンは、手が疲れたふりをしてじらしたり、じっくりと舐めたり。
簡単に射精で終わらせず、いつまでも反応を楽しんでいる。溢れてくる先走りを舐め取り、暗闇で顔が見えない分、かすかに漏れる声と息遣いからジュラルドンの様子を感じる。
今はまだ余裕があるようで、手のひらの中の肉棒は、二本ともまだのたうち回るような跳ね方はしていない。いつもならば、ここで一度射精させてから、アナルで受けるというのが定番の流れだ。
けれど今日は、重要な進化の日。そのための体力を残しておかないといけなかった。少し早いが、クリムガンは再びジュラルドンの体の上にまたがると、まだ慣らしもそこそこにアナルに肉棒を宛がった。
何度も彼のモノを受け止めたクリムガンのアナルは、少しくらいの無茶なら問題ない。ジュラルドンの先走りと、クリムガンの唾液。二つのぬめりのおかげで先端は難なく入った。
「今日は急ぐんだな?」
「最後にお前を味わうのもいいけれど、その後進化したお前を味わいたいからな。そう何度もここを酷使できないだろうよ?」
「まぁ、いきなりケツマン味わうのも嫌いじゃないぜ。お前のナカは冷たいけれど具合はいい」
のしかかるクリムガンを見上げながら、ジュラルドンは肉棒が中へと入っていくのを待つ。
「うぅん……ううん、いい形だなぁ……ちょっと名残惜しいぜ」
クリムガンは前脚でバランスを取りながら、尻尾を小刻みに振って下半身を上下させる。一回の上下のたびにわずかに、ほんのわずかずつだが下へ下へと沈んでゆき、中ほどのところまでで限界となる。
元々、同じ種族の雌と交わることになっても、交尾の際に尻尾と腹が邪魔になるため根元まですっぱり収まることはないし、根元の方は神経も敏感ではない。ジュラルドンは先端だけでも十分に快感を得られ、のしかかったまま尻尾の動きで体を上下させるクリムガンの動きに陶酔している。
だが、そうこうしているうちに熱が生じ、それに伴って快感がより強く感じられるようになると、ジュラルドンも動かずにいることは耐えられなくなった。
「ぬあぁぁぁ……これじゃあじれってぇ! 俺がやる、降りてくれ!」
クリムガンによる焦らしに耐えきれなくなったジュラルドンは、体をゆすってクリムガンを降りるように促す。
「そう焦んなよ」
と言いつつ、クリムガンが地面に四つん這いになると、がっついたジュラルドンは腕が鮫肌で傷つくのもいとわずにクリムガンを抱え込み、無我夢中でクリムガンのアナルへと肉棒を沈め込む。
ガシガシと金属の体、岩のように硬い肌がぶつかり合う音が、狭く暗い洞穴の中に鳴り響く。反響のおかげで結構遠くまで届く為、聞こえる範囲にいた弱いポケモンたちは怯えてそそくさと逃げ始めたが、その音が終わるのはすぐだった。
直前までじらされていた分、決壊は早かった。ジュラルドンは体を震わせながらクリムガンに密着すると、痙攣する肉棒から精液を吐き出してゆく。そうして中に出される液体の感触、びくびくと脈打つ肉棒の感覚をひとしきり味わうと、そのまま地面にへたり込んだ。
「ふう、これがこの体で最後の遊びか。いつもよりも感慨深いなぁ」
一回目を出し終えすっきりしたジュラルドンは、呼吸を整えながら肉棒をずるりと引き抜いた。二本ある肉棒は、片方が射精したため、一緒に萎えていった。
「……堪能したぜ。じゃあ、お待ちかね。進化と行こうじゃないか」
同じく、クリムガンも平静を装いながら呼吸を整え、地面に座りなおしてジュラルドンを見上げる。ジュラルドンは置いてあった複合金属を拾い上げると、つばを飲み込んでから一気にかみ砕こうとして、そのあまりの硬さに口の動きが止まる。
より強く、強大な体になるための代物だけに、簡単に歯が立つようなものじゃなく、大きな音を立てながら砂利になるまですりつぶし、じっくりと胃袋に流し込んでいく。当然、大きな音が洞窟中に反響するし、噛み砕くことで振りまかれた金属の匂いは、同族はもちろんその他の鋼タイプも引き寄せる。
気付けば周囲に別個体のジュラルドンが集まってしまい、進化アイテムを奪おうと殺気立ったジュラルドンに目を付けられる。レベルアップで進化出来るポケモンとは違う形だが、これも進化のための試練である。
もしも生まれたばかりのジュラルドンが、偶然にアイテムを見つけたからと言って、簡単に進化できるわけではないという事だ。
しかしながら、クリムガンと一緒に住んでいたことが功を奏した。クリムガンが穴を掘って待ち構え、複合金属を頬張るジュラルドンにばかり意識が向いて、周囲への警戒が疎かになっていたジュラルドンに攻撃をぶちかます。二匹目も同じような感じで倒されたが、続く三匹目。
「くらえぇぇぇぇぇ!」
と、クリムガンが足元から攻撃を加えても、三匹目はフェイントをかけてバックステップでそれを躱す。
「邪魔だ!」
それどころか、石柱のような尻尾を振り回し、クリムガンはドラゴンテールで壁に叩きつけられられた。そのうえワイドブレイカーで追撃。さらに、削岩機のような手で首を掴まれ壁に押し付けられる。
ワイドブレイカーで攻撃能力も削られたクリムガンは、危機的状況ながらなんとか動く目でへびにらみを行い、複合金属を狙う不届きなジュラルドンを麻痺させる。
「くっ……何よこいつ! あんたなんかにかまってる暇はないの!」
三匹目のジュラルドンはとっさに目を背けてクリムガンを放り投げたが、蛇にらみを至近距離で食らってしまい、麻痺してしまったようだ。クリムガンは一矢報いたが、それで精いっぱいだった。しばらく体の痛みで動けそうにない。
「やべぇ、あいつ相棒よりもずっと強い……」
麻痺させることには成功したのだ、相棒のジュラルドンも逃げられるだろうと思っていたが、白く強烈な光が洞窟内に満ちるや否や、三匹目のジュラルドンの足が止まった。
「俺の相棒をよくもやってくれたなぁ、てめえ……死ぬ覚悟は出来てんのか?」
ようやくブリジュラスに進化した相棒は、麻痺して鈍った不届きなジュラルドンにドラゴンテールを撃ち返す。吹っ飛んだジュラルドンにそのまま追撃を食らわせてもよかったが、争う理由もなくなった今。同族の女と無駄に傷つける必要もないだろう。交尾するときに傷ものになっていたら楽しみが減ってしまう。
不届きなジュラルドンは名残惜しそうに一度だけこちらを見たが、複合金属がかけらも残っていないとわかると、それ以降は一目散に逃げていった。
「大丈夫か?」
「おう、大丈夫。あちこち痛いけれど……たしかオレンの実があったよな?」
三匹目のジュラルドンも、複合金属を奪うためにクリムガンに構うつもりだったため、とどめを刺す余裕もなかった。オレンの実を食べてじっとしていれば治るだろう。
クリムガンは横になったまま、ブリジュラスに進化した相棒からオレンの実を食べさせてもらう。見上げていると、シャープで直線的なフォルムはうっとりするほど美しい。じっと見ているだけでムラムラとしてきて、触れてもいないのにむくむくと肉棒が成長してくる。
「おい、ジュラルドン……じゃなくて、今はブリジュラスか。強そうなだけじゃなく、格好いい。むかーし、遠目に見たっきりだが、こうして近くで見ると……ジュラルドンの時より格段にそそるじゃねえか」
「嬉しいねぇ。へへ、格好良くなっただけじゃなく、力も強くなったのを感じるぜ。今なら山の主のコバルオンだってぶちのめせそうだ」
「そいつはさすがに無理だろうよ。でも、強くなったならこれから狩りも楽になるな」
「おうよ! それより、お前のおかげでこの姿になれたんだ。おんがえしってことでよ、お前が望むならウケでも攻めでも、いくらでも付き合ってやるぜ?」
ブリジュラスに言われ、クリムガンはのそのそと立ち上がる。
「じゃあ、今度は俺がお前を攻めさせて貰うぜ」
「お? いいぜ、俺の体の具合がどうなったか、感想を聞かせてくれよ」
そう言うなり、ブリジュラスは新しい体を確かめるようにしながら屈み、クリムガンと口づけをする。削岩機のような見た目から、二股に別れた橋桁のような見た目に変わった腕でクリムガンを抱きしめ、互いの口の中をいやらしく確かめあう。
複合金属を食べたばかりの口内は複雑な金属の味がする。鋼タイプではないクリムガンにはあまり好ましくない味であったが、成長した舌はより大きく変化していて、それだけで新鮮な気分が加速する。
進化したてでエネルギーが有り余っているのか、先ほど射精してからそれほど時間が経っていないにも関わらず、ブリジュラスはがっついている。口づけだけでは足りないとでも言いたげにぐいぐいと押してきて、クリムガンはたまらず押し倒されてしまう。
押し倒されてもなお口づけは継続。見た目の割りにブリジュラスは軽いので何とか押しつぶされずに済んでいるが、見た目通りの体重なら大変なことになっていたかもしれない。
熱を帯びた金属姓のボディが蛇腹に触れて、クリムガンの肉棒はさらに質量を増していく。そのまま前後に軽く体を揺さぶってやると、腹と腹に挟まれた肉棒が嬉しそうに跳ねあがる。
「もう準備万端か?」
ブリジュラスは体を起こし、屹立したクリムガンの肉棒に触れる。二本ともギンギンに勃起しており、今すぐにでも収めるべき場所を探しているかのようだ。ブリジュラスは、クリムガンがそうしたように、彼の肉棒の使いなれたほうに唾液をまぶし始める。いい具合にヌメリを帯びたところで、ブリジュラス四つん這いになり、尻を向けてクリムガンを迎える。クリムガンはかすかな光と音、手触りで彼の体勢を把握すると、欲望の赴くままにブリジュラスのアナルを貫いた。
ブリジュラスよりも小柄なだけあって、クリムガンの肉棒はプリジュラスのそれよりかはスムーズに入る。何度も何度も小刻みに往復することなく、数回の往復ですべてねじ込まれてしまった。すんなりとは言っても本来は排せつ物が出ていくだけの器官だ。肉をかき分け逆流してくる肉棒が一気に侵入してくる負担は結構きつい。
進化して一発目の交尾、ブリジュラスはきつく歯を食いしばっていた。
「うぐっ……今日は容赦ねえな」
いつもよりもがっついたクリムガン攻めは、慣れるよりも先に強烈な圧迫感をブリジュラスに与える。気分は盛り上がるが、ちょっと手加減してほしい……
「新しい体になったら、前よりももっといい具合になってるからな。大丈夫か?」
「おう、大丈夫よ!」
結局手加減してほしいともいえず、ブリジュラスは暗闇の中微笑んだ。刺激は、大きな不快感とともにかすかな快感を与えてくれる。だが、激しい動きで感じた圧迫される不快感は、時間が経つごとに体が馴染んで薄れてゆき、上書きされるように快感が塗りつぶしていく。
「ブリジュラス、調子はどうだ? もっと激しくしていいか?」
「お、おぅ……もっと、激しくしても……いいぜ?」
気分とともに体の調子も上がってきたところで、互いにヒートアップしていく。運動することでクリムガンの体温は上がりより活発に。ブリジュラスも、体の中で生まれた熱が全身を駆け巡り、冷えた洞窟の中にささやかな熱気をもたらしている。
熱のおかげでより神経も敏感になったクリムガンは、欲求の赴くまま、熱をありったけ注ぎ込むように夢中で腰を揺さぶった。洞窟の中、金属と固い鱗がこすれあう音に、うめき声とも嬌声とも取れる声。光はほとんどないのに、襲い掛かる感覚の渦が漏れ出した影響か、視界が赤や白に染まるほど激しい衝撃。
その衝撃が病んだ頃には、クリムガンは何か言っていたらしいが、ブリジュラスにはほとんど聞こえていなかった、ただ夢中で、気持ちよくて、うるさくて、光もないのに眩しくて、それらが収まった瞬間に、胎内に射精される感覚に愛おしさを覚え、何とも言えない心地よさが全身を包む。
疲労感に導かれるままに体を投げ出して横になると、鼓動が落ち着いていく感覚にため息が漏れる。クリムガンが体を乗っけて、触れあう箇所があるだけで、心が満たされるようであった。
「なぁ、ブリジュラス……お前いまどんな顔してるんだ?」
クリムガンは言いながら、炎のパンチの要領で軽く指先に火を灯す。手触りだけで彼の体を探っていくのもいいが、やっぱり顔も見たい。
「どうだよ?」
ブリジュラスは頼りない炎の照明に照らされながら微笑む。シャープで素敵な相棒の顔は、改めて見つめても、ため息が出るほど美しかった。
「あぁ、思った通りの顔だ。とってもイケてて、格好いい。休んだら今度は俺が受けるぜ」
「じゃあ今度は日の光を浴びながらやろうぜ? たまにはお前の顔を見ながらやりてえし、喰いカスの骨も溜まってるから、ついでに捨てに行こうぜ」
「いいな。お前の新しい姿、存分に目に焼き付けるぜ」
二人はそう言って、巣のゴミ掃除がてら、のそのそと外に出る。外では、山のヌシであるコバルオンが見慣れないポケモンと話をしている姿が見えた。体形はヌシと似ているが、角には青葉が茂っている。一体何者なのだろうか……?
青い海、白い砂浜。人間がよく訪れ、観光客に愛想を振りまけばいつでも餌にありつけるビーチのすぐ近く。地形のせいか潮の流れがきついために、人間が近寄らない岩が乱立する砂浜で、二匹のポケモンが駄弁っていた。
「なぁ、、俺交尾の練習がしたい」
「いや、突然なんだよ!?」
アシレーヌに進化してしばらく経った幼馴染の突然の言葉に、イルカマンは戸惑っていた。
「いやさぁ、イルカマンは男同士で交尾の練習するっていうじゃないか? 俺達アシレーヌはさぁ、ハーレム作るだろう? そうなるとほとんどの雄がカップルを作れなくって余っちまう……見たろ? あっちの入り江で雌に囲まれてにやにやしてる雄の姿」
「あー、とても浮かれていたな」
「その浮かれた奴のせいで雌日照りになってるやつがごまんといるんだ! 俺もそのうちの一人だ」
「でも、女とつがいになれないなら、練習の必要ないのではないか? そんなことよりも、雌をめぐる戦いに勝つための練習をしたほうがよいのでは?」
「うるせぇ! 俺には練習が必要なんだよ! 肝心な時に、雌たちに雄らしいところを見せられなかったら、ダサいことこの上ないだろう? だから、なんでもいいからこの疼きを止めたいんだ。頼むよ……」
「ふぅん……なんでも良い、ねぇ」
イルカマンはアシレーヌの顔をまじまじと見る。
「私は確かに仲間同士オス同士で交尾の練習してるけれど……」
「な、なら俺もやりたいんだ。ほら、練習しとかないと、雌と本番するときに恥をかくかもしれないだろう? 」
「『なんでもいい』だって? なんでもいいっていうなら、そういうことをしている奴らに勝手に混ざればいい。生憎だが今の私はそういう気分じゃない……とにかく私は、君がそんな態度じゃ頼まれる気にならないな」
そう言うなり、イルカマンはアシレーヌの返答を待つこともなくその場を去ってしまった。彼の姿はどんどん遠ざかり、追いつこうと思えば追える速度ではあったが、追う気にはならなかった。
「あー……頼み方がまずかったかな……俺も恥ずかしかったから少し、勢い任せに言ってしまったし……はぁ……」
アシレーヌは岩の上に座りながらため息をつき、これからどうしようかと考える。アシレーヌはただでさえ雌不足なのに、その少ない雌すら一部の雄が独占してしまう。そのせいで欲求不満は溜まるばかりだ。
イルカマンとは捕れたヨワシのやり取りをする仲で、これまでずっと顔見知りである。イルカマンは男同士で交尾の練習をする種族なわけだし、彼ならこのもやもやを何とかしてくれるとも思っていたのだが……なんでもいいとは言ったけれど、本音ではあんなことを頼めるのはイルカマンだけだ。
目を閉じれば雌に囲まれた、憎たらしい雄の顔が浮かぶ。昨夜、ムーンフォースで全身を焼かれて痛みと欲求不満に苦しんでいるところを、悠々と雌との交尾を見せびらかされ、ムラムラしていた気持ちは一夜明けた今も引くことはない。
この村々を沈めたいのは事実だが、それでも誰でもいいわけではなかったのに、照れ隠しで何でもいいなんて言ったのは失敗だった。そうして一人で悶々としている時、不意に遠方からテッポウオのように水面を跳ねながらこっちにやってくる巨大な魚影が、水しぶきを上げて水面からジャンプ。そして、空中でくるくると回りながら、尾びれと左手を岩につく体勢で着地した。
「ヒーロー参上! そこの少年! 大丈夫か!」
「えー……うん? 大丈夫です」
いきなり大声で現れた謎の不審なポケモンに、アシレーヌは開いた口がふさがらなかった。尾びれで立ち上がるその姿は自分達アシレーヌと同じ感じだが、しかし上半身はガオガエンに負けないくらいに逞しい。こんな逞しくて、水のヴェールが首元や目元から水がほとばしっているポケモンは見たことがない。
「いいや、少年! 君は大丈夫じゃないはずだ! 何故なら、君は雌と交尾できなくてムラムラしているところを、友人に解消してもらおうと思ったが断わられてしまったような顔をしてる!
「声がでけぇよ! いくら潮の流れで五月蠅いこの場所でも限度があるわ! ってか、どんな顔だよ!」
この不審者の言うことは、まるでさっきの会話を聞いていたかのように正確に今の状況を言い当てている。というか、完全に聞いていたとしか思えない。
「声がでかいことなど気にするなぁぁぁぁぁぁぁ! 元気なことはいいことだ! そして安心しろ、少年よ! そんなムラムラなど、この私がパパっと解消してやろう!」
「だから声がでけぇえよ! ってかお前誰だよ!?」
「私は通りすがりの海のヒーローだ! 困ってるものを助けるのが仕事……ゆえに君のようなムラムラした少年の、堪えきれない性欲を鎮めるのも私の仕事だ! 心配はいらない、私にすべて任せたまえ!」
「あぁ、もうわかったから喋るな!」
謎の不審者……見たことはないが、噂は聞いたことがある。人間がたくさんの荷物を積み込んだ船が転覆した時、たった一人で三〇人の人間を引っ張って海まで運んだとか。黒い服を着たやあしい集団が幼いポケモンを次々と捕まえていた時、数十の集団で現れて船を破壊したとか。
曰く、声がでかい。曰く、腕が太い。曰く、上半身がすごい。そして、一人でヨワシの群れを一掃するくらい強という。間違いなくこいつの事だろうとアシレーヌは理解した。
「なるほど、喋る暇があれば、さっさと始めろと言うことだな! かしこまった、」
「そうは言ってねえよ!」
勝手に話を進められ、アシレーヌは身の危険を感じてしまい、体は自然と逃げる準備を始めていた。
「遠慮はいらない! 困っている者を助けるのは当然だろう!?」
だが、逃げようとする直前に、不審者の言葉で思いとどまる。この言葉、まだ狩りが下手なオシャマリだったころに食糧となるヨワシを分けて貰った時のイルカマン。その進化前のナミイルカのセリフだった。
もしかしたらこの不審者、友達の関係者なのではなかろうか? そう思って動きを止めたその瞬間に、アシレーヌは仰向けのまま組み敷かれていた。
腕としても使える長い前ヒレを平たく削られた大きな岩の上に押さえつけられ、十字になって空を仰ぐ。太陽を直視する時間帯では無かったが、眩しくて顔を背けながら片目で不審者を見る。押さえつけられた腕は、抜けようとするとその瞬間に物凄い力でつかまれるが、アシレーヌが力を抜いていれば、そこまで強い力で握られることはない。
「ふむ、男でありながらも美しい顔をしている! 普段から良いものを食べ、よく狩りを成功させている証拠だな! それなのに、その余ったエネルギーを解消できなければ、欲求不満も当然だな! よし、欲望を出し尽くすぞ!」
「お、おう……そりゃ欲求不満だけれどさ」
そんなことよりも、組しかれて密着されているせいで、意志に反して下半身の自己主張が激しくなっている。
「だがもう心配はいらない! 早速取り掛かるぞ」
「えぇ……?」
こちらの困惑などお構いなしに、不審者はそう言ってアシレーヌの前ヒレから手を放す。
どうする、逃げるか? 解放された腕は少し重く痺れかけている。この不審者の泳ぎは大したものだが、狭い岩場で、泡の障害物を設置して逃げればこちらに理があるかもしれない。
だが、手袋のような水のヴェールに覆われた指に体をつつつ……となぞられると、悔しいことに体は反応してしまった。先ほどから声が大きく人の話を聞かないようなところはあるが、その手つきは天使のように繊細で、悪魔のように大胆だ。
水のヴェールに包まれた手の平は、しなやかな水ではなく、どこかねっとりした滑る水。そっと握られて上下に擦られるだけで、腰がピクピクと上下に動きたがっている。
「いい具合じゃあないか! これならば君の困りごともすぐに解決しそうだな! よし、私のスリットに入れるがいい!」
「ちょっと待て、話が早すぎる!?」
不審者はアシレーヌの反応が悪くないとみるや、立ち上がってとろとろに粘液が溢れたスリットを見せつける。頭では逃げるべきだと思っているのだけれど、そのいやらしいスリットを見てしまうと、目が釘付けになって離せない。
そのまま覆いかぶさられ、不審者の胎内にアシレーヌの愚息が収納されてしまう。ヌルヌルで温かく、そのうえ挟みこむように締め付けられる。柔らかく弾力のある肉の壁に挟まれた瞬間、感じたこともない感覚に思考が持っていかれ抵抗の意思は根こそぎ持っていかれてしまう。
不審者はアシレーヌの上にのしかかると、波に乗って泳ぐように下半身を跳ねさせる。スリットの中では不審者の肉棒とアシレーヌの肉棒が擦れあう。肉の壁の締め付けと合わさって、アシレーヌを搾り取る暴力的なまでの快感に、決壊までは早かった。
アシレーヌは事が始まってから二分と持たず。まともに動くこともできないままに射精してしまう。自分の胎内で脈動するアシレーヌの肉棒を感じ取った不審者は満足そうに動きを止めると、ようやく声量を押さえた声を出せるようになったらしい。
「どうだ……頭はすっきりしたか?」
動いてもいないのに息切れしたアシレーヌは、射精後の急激に性欲が消え去って正気になった思考に至り、今の自分を客観的に見て、ありえないくらいの恥ずかしい状況だ。
「あぁぁぁぁ……なんてこったぁ。俺の初めてが……」
「なんだ少年よ。なんでもいいから交尾の練習をしたいと嘆いているような顔をしていたが、冷静になったらなんでもよくなかったとでも言うのか?」
どんな顔だよ、と言いたくもなったが、全て図星なので反論は出来ない。
「いや、俺は確かになんでもいいとは言ったけれど、それは照れ隠しだっただけで……本当は、友達だからこそ頼みたかったんだ……お前なんかじゃなく。でも、俺が『なんでもいい』なんて言ったから……多分、あいつもへそ曲げてしまって……」
「ならば、素直にそう伝えるべきではないのか!? 照れ隠しなど不要! 正直な気持ちを大きな声で伝えろ!」
「……言葉もないよ」
不審者に言われてアシレーヌはうつむいた。
「ようし、それがわかったところで! 二回戦をやってみるか!」
「要らねえよ! 次はもう絶対に同じことは言わない。お前とだから練習したいって言う……だから、お前はもうどっかいけ!」
「いいだろう! もう君にはヒーローは必要ないということだな!」
「最初から必要ねえよ!」
「はっはっは! さらばだ! また困ったことがあればいつでも呼ぶと良い!」
「そもそも呼んでねえよ!」
最後までツッコミどころ満載な不審者は、岩の上から海面へと飛び込み、そのままどこかへと消えていった。
不審者と強引に行為に及ばされた疲れがどっと押し寄せて来て、アシレーヌは海水で体を洗うと、そのまま岩場で眠ってしまった。そうして黄昏度時になって目覚めてみると、岩場の隙間には友達のイルカマンがいた。
「お、ようやく目が覚めたか。随分お疲れだったみたいだな?」
「お前を待ちくたびれてたんだよ。っていうか、すまなかったな……」
アシレーヌはそう言って岩の上から飛び降り、イルカマンと視点を合わせる。
「済まなかったって何がだ?」
「……いや、さっきなんでもいいから交尾の練習したいだなんて言って、お前をがっかりさせたなって思って」
「ふむふむ、それで?」
中々言葉が出ずに、潮騒の音だけが二人の耳に響く。けれど、ここで目を逸らしたり、何も言えなかったらまた友達をがっかりさせてしまう。深呼吸をして意を決し、言葉にする。
「お前とだから、交尾の練習をしたいんだ……他の誰かとじゃ嫌だ」
アシレーヌは包み隠さずに自分の気持ちを伝える。もちろん、雌とのハーレムを作りたいのは事実だが、雄同士で交尾の練習をするなら、こいつしかいない。
「そうか……私がいいか。そう言ってくれるなら、是非やろう。さっきので疲れてないか? 今から行けるか?」
「あぁ、お前を待っている間に十分回復したからな」
「ようし!」
不審者が何者なのか、それは結局よくわからなかったが、もうアシレーヌは気にしないことにした。あの不審者に「さっきので」初めてを奪われたのは不本意だが、その思い出は友達で上書きさせてもらおう。
「じゃあ、まずは私から、仲間に好評だったものをやってあげよう」
そうして、イルカマンはアシレーヌのお腹に額を当てて、超音波でアシレーヌの体を内側で撫で尽くすところから。耳や頭に当てられていないため気分が悪くなったり混乱することはないが、体の中までくすぐったいというこの感覚は、さっきの不審者とはまた違った意味で初めての感覚だ。
額を腹に当てられていると、長い鼻先はアシレーヌの肉棒が収納されているスリットに近くなる。イルカマンの口が触れられそうな位置に口があると、少しドキドキしてしまう。
と、言うのもこの浜辺は岩が多くて潮の流れがきついということもあって、人間はめったに来ないのだが、逆にこういうところに来る人間は、この場で交尾をおっぱじめる者も多かった。そうでもなければわざわざ野生のポケモンに襲われたり、海流で怪我をしかねない浜辺なんかに好き好んでこない。
その時は雌の人間が雄の人間の肉棒を口に含んで奉仕していたので、あれなら男同士でも気持ちよくできるんじゃないかと、よく夢想したものだ。だから、こうして口が近くにあるとちょっと期待してしまう。
そう思って、しかしアシレーヌは考え直す。期待するのは勝手だが、自分がやらなきゃ相手もやってくれないと。超音波を受け止める気持ちよさに浸るだけじゃだめだと、アシレーヌはイルカマンの顔を起こすと、イルカマンのいきり立った巨大な肉棒に舌を這わせる。
「おっと……積極的だな、君は」
「こういうのもいいでしょ?」
アシレーヌは上目遣いでイルカマンを見上げる。
「あぁ、好きだね」
イルカマンは微笑み、頷いた。アシレーヌはそのまま肉棒を口に含む。どうせ交尾をするなら、雌ならもっとよかったなぁ、と脳裏にかすめるけれど、それはいい意味でも悪い意味でも雌を知らない彼だからの思考だった。肉欲だけで繋がるよく知らない雌よりも、かけがえのない友として、助けあった相棒としてよく知るイルカマン。そんな彼だからこそ味わえる充足感に満たされていることを、アシレーヌはまだ知らない。相手を気持ちよくしたい、相手を楽しんでほしい。そして、彼が楽しんでいる姿を見て嬉しいと思う感情は、彼が将来、雌と交尾することに成功したとしても、強く味わうことが難しいであろう感情だった。
イルカマンの肉棒を口に含むと、一緒に海水が流れ込む。塩辛い味と冷たい水に晒されるも、イルカマンの血流が運び込む体温の生暖かさが口の中に確かな存在感を放っている。あまりに大きい肉棒は口だけで包み込むことが出来ず、手としても使える前ヒレを駆使して彼の肉棒を愛撫する。
「ん……」
イルカマンの腹の奥から声が漏れた。
「どうだ?」
一度口の動きを休め、上目遣いでアシレーヌが尋ねる。
「……初めてなのに、仲間より上手いな。手の使い方が仲間よりも上手いし、丁寧だ」
「マジかよ? 俺って変な才能あるのかな?」
口の中の生暖かい体温と、うねる舌遣いのおかげでイルカマンの快感は絶え間なく上がっている。口と手を使っているのに、前ヒレしかないはずなのに『手の使い方が仲間より上手い』と口走ってしまった事を、アシレーヌは特に気にすることなく、友人が愉しむことを純粋に喜びながらアシレーヌは続ける。
しゃぶり続け、揉み続け、扱き続け。口の中でピクピクと肉棒が揺れる。イルカマンは体をくの字に折り曲げて、精液を思う存分に放出した。喉の奥まで叩きつけるような射精の勢いにアシレーヌは驚き口を離して、口の中に吐き出してしまう。射精が終わるまで咥えていようと思っていたこともあり、もっと気合を入れて咥え続けるべきだったかな? と少しは思うも、どうやらイルカマンは満足げだ。
ようやく射精が収まったイルカマンは、短い前ヒレでアシレーヌを抱きしめる。
「良かったよ。君の愛撫は最高だったな!」
男同士とはいえ、付き合いの長い友人から抱きしめられ、手放しで褒められて、嬉しくないはずもなく。
「そう? 良かった、初めてでそう言ってもらえるなんて……」
もう性別だとか、煩わしいことなど吹っ飛んでアシレーヌははにかんだ。
「じゃ、今度は私が気持ちよくしてやらねばな」
「頼むぜ?」
イルカマンが気持ちよくなったので、今度はアシレーヌが気持ちよくなる番だ。イルカマンはアシレーヌに口づけをすると、水中にもぐりこんでもつれあう。
無重力の水中でイルカマンは、自分の肉棒が収納されているスリットにアシレーヌの肉棒をぬるりと挿入させた。萎えかけの自身の肉棒が、アシレーヌのそれと触れあい、絡み合う。刺激がどうのこうのという意味では大したものではないのだが、友達の肉棒がそこにある、という事実は今やアシレーヌにとって興奮の種となっていた。
イルカマンの胎内をブチャぐちゃにかき回され、本日二回目の初体験の感触に、アシレーヌの頭の中は空っぽになって、夢中になりながら腰を振り乱す。疲れを感じる間もなく、アシレーヌは本能のままに射精まで上り至った。
時間の経過すら忘れていたアシレーヌは、疎かだった呼吸をするために水面に顔を出す。イルカマンも頭から潮を吹き出し、その分大きく息を吸った。
「……よかった。最高だった。イルカマンって、仲間同士でいつもこんなことをやっていたのか?」
「あぁ、同族の仲間とな……うーん、でも、これからは別に仲間とじゃなくていいかもな……君と、なら」
改めてそんなことを言うのは照れ臭いからなのか、目を逸らしつつイルカマンは言う。
「……丁度俺もそう思ってたところ。まぁ、雌には負けるけれど? でも、その時が来るまでは、たまにこうやって遊ぼうぜ……」
アシレーヌは射精を終えて冷静になっても、イルカマンの告白に嫌悪感はなかった。目を合わせづらい気恥ずかしさはあって、少し素直じゃない物言いになってしまったが、気持ちは伝わるだろう。
お互い気持ちを伝え終わった後は、交わった疲れを癒すために、2人で崖の方に夕日が沈むのをゆっくり見上げていた。その様子を、崖の上から見守るポケモンがいた。足が細めの四足歩行のポケモンで、二本の角があるようだが。しかし、逆光のせいもあって、どんな顔かはよくわからなかった。
ある日突然、住んでいた森が枯れてしまった。巣の周りの木の実を食べながら、穏やかに暮らしていたヌメルゴンもその被害の真っただ中にいた。しかし彼はのんびり屋の多いヌメルゴンの中でも、とりわけ能天気な性格だった。他のポケモンが異常事態に恐れをなして逃げ出しても、彼はのんびりのほほんと日々を過ごしているだけ。
しかし、翌日にはほとんどのポケモンが枯れた森を捨てて他に移住してしまったため、ヌメルゴンは酷く孤独感を覚えた。巣の周りをうろついても、すでにほとんどのポケモンは避難済み。枯れた木に実っていた木の実は萎び、腐り、保存性の高いぼんぐりも、無事だったものはあらかた食い尽くされてしまう。ここにきてヌメルゴンはようやく危機感を覚え始めた。
「はぁ、お腹空いたなぁ……なんで森が枯れちゃったのかな? みんなはいつ帰ってくるのかな?」
今更なことを呟きながら、ヌメルゴンは朝もやの中をとぼとぼ歩く。しかし、周りには死体、死体、虫タイプの死体が特に多いが、ミルホッグやミミロップなどといったポケモンもやせ細って死んでいる。草食のヌメルゴンには食べられるものじゃないし、たとえ食べられたとしても、やせ細ったその体は食えたものじゃないだろう。
「もしかしてみんな死んじゃったのかなぁ」
仲間のヌメルゴンは、もうとっくに避難済み。残っている能天気なヌメルゴンはこの一匹だけだ。しかし、だからこそ彼には発見できたものがあった。
気温が少しずつ上がり、朝もやも晴れてきたころ、枯れた森の中心部には、見事なまでに青々とした小さな森がぽつんと生い茂っていた。突如森が枯れた後、数日のうちに成長したその森、まともな人間だったら絶対に近づかないだろうが、彼はヌメルゴンで、しかもその中でもまともとは言い難い重度の能天気。
あんなに青々とした森ならば、美味しい草花が食べられるかもしれない、だなんて、能天気ここに極まれりな想像をしている。ヌメルゴンという種族は、下手に力が強く、どんな攻撃にもへこたれないだけの耐久力を持っているおかげか、大人の姿になってからは恐れるものがなくなってしまった。それもまた、彼の性格を形作った要因の一つだろう。
ぽてぽてと、分厚い脂肪の腹を揺らしながら、ヌメルゴンは小さな森で待ち受けているであろう歓迎を想像しながら笑顔で歩く。青々とした森は、とてもいい匂いがした。
実のところ、ヌメルゴン以外にもこの森へと足を踏み入れたポケモンは少なくない。エサ不足の果てに、共食いを繰り返し、それでも事態が改善しなかったストライクや、数日絶食して耐え抜いたが、限界を迎えてしまったジュカインなど。そしてそのどれもが二度と森の外に出てくることはなかったのだが、皆極限状態で、見送る仲間もいなかったため、その危険性を伝える者も居なかった。
そうして、ヌメルゴンは狩場へと迷い込む。アリアドスよりも恐ろしい捕食者の元へ。
ヌメルゴンはどこかに生きている者がいないかと森の中を散策する。寂しがりやなヌメルゴンのさがもあって、まずは腹ごしらえと同列になるくらいに友達が欲しかった。
森の中は不思議と、ぶら下がった蔓が道をふさぐようにところどころにぶら下がっていた。そんな蔓をいちいち切り裂いて進むのは面倒なので、ヌメルゴンは蔓を切らずとも歩けるルートを選択してずんずん突き進む。
もちろんそれは、ヌメルゴンを最深部に誘導するための罠で、誘導された先はもちろん、この森の主がいる。
対に対面したその森の主は、マイマイに落ち葉を纏わせ、木の板をらせん状に巻き付けて殻を形作った草の化け物のようなポケモンであった。
「始めまして! ねぇ、君はなんて名前?」
それを一目見たたヌメルゴンは、仲間だと認識した。ヌメルゴンとそのポケモンは身体的特徴も似ている。特に、過去に存在した鋼タイプのヌメルゴンに似ていることもあり、自分とは遠い生き物だとは思えなかった。
「……さようなら」
が、草の化け物にはそんなことは関係なかった。油断しきったヌメルゴンに、草の化け物はヤドリギの種を放つ。ギガドレインなどの技では吸い取る際にエネルギーが逃げてしまうが、ヤドリギの種で行くりと吸い取るんであれば、エネルギーはすべて自分のものになる。それでゆっくりとヌメルゴンの体を吸い取ってやろうと思ったのだが、生憎ヌメルゴンの特性は草食であった。
「あ、美味しい、ありがとう。えっとなに? 君の名前、さようならなの? それとも、会ってすぐなのに、もういなくなっちゃうの?」
ヌメルゴンはきょとんとした顔で、思いついたままに言葉を紡ぐ。どうやら草食の特性を持つ彼にとっては、草タイプの技は食事のようなものらしく、むしろ食料を分け与えられた気分らしい。草の化け物は、なるほど、草による攻撃が通じない奴もいるのだと納得した。
「いいや、いなくなったりしないよ」
「そうなの!? やったぁ! 僕はヌメルゴン! なんか、森が枯れちゃって、みんないなくなっちゃったから、友達を探しに来たの!」
「そうかそうか、じゃあ友達になろうよぉ」
呆れかえるほど無邪気なヌメルゴンに草の化け物は言う。
「いいよぉ」
草の化け物はにんまりとわらう。今まで、森に誘い込んだポケモンの身体的栄養はかなりの量を吸い取ってきたが、怨み、憎しみ、絶望といった精神的な栄養は、すぐに食べてしまったためにあんまり得られていない。
こいつから、奪おうかぁ。草の化け物は、そのために信頼を育てることにした。
「じゃあ、お友達ならさ、抱き合いっこしよ!」
ヌメルゴンはそう言って草の化け物に思いっきりハグをする。べっとりした粘液がまとわりつき、草の化け物は嫌そうな顔をしたが、これも餌のため、と我慢した。
その後、草の化け物は三日間、ヌメルゴンを軟禁し続けた。追いかけっこをしようと言われれば森の中だけで。ヌメルゴンが「僕の巣に来てみない?」と言っても、自分は森を出ないと首を横に振り、食料はいくらでもあるからと、山ほどの若草や花粉ダンゴを生み出してヌメルゴンに食べさせた。
普通のポケモンなら怪しんでもおかしくない行動だが、ヌメルゴンは寂しがり屋でのんびり屋なポケモンだ。そんな気質だけに、草の化け物もきっとそうなのだろう。片時も離れたくないのだろうと、大して気にしなかった。それに、草の化け物が用意してくれる食料がいくらでもあるのだから、無理して森の外に出る必要もない。
その間にも草の化け物は、森へ入ったポケモンを始末していた。昼夜を問わずその森に断末魔をが響くが、それを聞いて怯えるヌメルゴンをあやしたのも草の化け物だった。
つるを伸ばしてヌメルゴンを抱きしめ、「大丈夫だよぉ……僕が守ってあげるからねぇ……」と、優しく、優しく、ヌメルゴンを包み込んで……そうして、身も心も草の化け物に依存した事を確信した草の化け物は、その日ヌメルゴンをいただくことに決めた。
「ねえねえ、僕たち友達だよねぇ?」
草の化け物が問うと、ヌメルゴンは顔をぱぁっと明るくさせて喜ぶ。
「当然だよ! 僕らは友達だよ!」
「だよねぇ……じゃあ友達になった記念にぃ、私と楽しいことしない?」
「楽しい事? なに? お散歩? お昼寝?」
「違うけれど、きっと君もぉ、気に入ることだよぉ」
草の化け物は言うなり、ヌメルゴンに迫る。スキンシップが大好きなヌメルゴンは、巨大な化け物に迫られてもなお、恐怖を抱くことはなかった。密着したヌメルゴンの体に蔓が這う。草の化け物にとっては味見、もしくは値踏みだが、ヌメルゴンはそれを抱擁と受け取って、草の化け物を抱き返した。
「抱き合いっ子だね! 僕、大好き!」
「そうかぁそうかぁ、それはいいねぇ。ねえねえ、それじゃあ……目を閉じてぇ……僕がいいものあげるよぉ」
「いいもの?」
ヌメルゴンが首をかしげると。草の化け物はにっこり笑う。
「うん、そうだよぉ。目を閉じてぇ、口をあけてぇ」
「こう?」
ヌメルゴンは無防備に、それどころか期待に満ちた顔をしながら目を閉じる。
「キス、スル……」
ヌメルゴンの口に草の化け物が伸ばした蔓が差し込まれる。蔓を突っ込むことを口づけと言ってよいのかはわからないけれど、悪い気はしなかった。蔓の先端から、粉が振りまかれる。少し咳込みそうになったけれど、これも食べ物なのだろうかと思い、何の疑問も持たずに飲みこんでしまった。
「なあに、これ?」
「毒の粉、だよぉ」
「え、どういう意味?」
ヌメルゴンが目を開ける。草の化け物は黒いまなざしでヌメルゴンを睨んでいた。
「もう、逃げられないよ」
「な、なんで!?」
「&ruby(カタストロフィ){悲劇的結末}だねぇ……」
草の化け物はヌメルゴンの質問に答えず、地面から立ち上る黒いオーラでヌメルゴンの体力を削る。
「やめて……なんでこんなこと」
カタストロフィは相手を殺す技ではない。半死半生の状態で生かし、かろうじて命を永らえている状態で、魔振り殺しにするための技だ。ヌメルゴンは体力を削られた苦しみで膝から力が抜けた。
そうこうしているうちに、毒が回り始め、頭痛と腹痛で目の前がくらくらする。
「酷いよ……どうしてこんなことするの? バカ! ウンコ! アンポンタン!」
「あぁ、もっと聞かせてぇ……怨みの声」
ヌメルゴンは精一杯の語彙力で罵倒し、草の化け物に殴り掛かるが、毒であることを加味してもどうにも力が入らないせいで、草の化け物はあまり痛そうではない。
「絶対に許さないから! 今度見たら、食ってやる!」
そう言い捨ててヌメルゴンは逃げようとするが、ダメだった。背を向けて走り出した瞬間に、心臓が握りつぶされるような痛みを覚えてその場にうずくまってしまう。黒いまなざしの力で、もうヌメルゴンは逃げられないし、もし黒いまなざしが無くても、きっと草の化け物は逃しはしなかったろう。
「やめてよ! ひとでなし! 酷い奴! 死んじゃえ!」
ヌメルゴンは草の化け物を非難しながら、必死で抵抗した。だが、草の化け物は蔓でヌメルゴンを拘束し、密着したまま殴られ続けるが、そのすべてを涼しい顔で受け止めて笑っていた。
「あぁ、いいよぉ、いいよぉ。僕を信じてた君が、僕を殺したいほど憎んでるのが、とてもいいよぉ……」
ヌメルゴンは命が続く限り、口汚くののしり、そして触角で攻撃して足掻くが、すでにすべてが手遅れだ。たっぷりと吸い込んだ毒は、時間をかけてヌメルゴンの全身に致命的なダメージを与え、なまじ猛毒じゃないせいもあってか、ヌメルゴンは長い時間苦しんだ。苦痛に歪んで、胃の中のモノを吐きつくした亡骸をいつくしむように眺め、草の化け物は何度も何度も彼の体の上を蔓で撫でる。
「あぁ、よかったよぉ……」
ひとしきり満足した草の化け物は、ヌメルゴンの亡骸にのしかかりながら、その栄養を残らずに吸い尽くした。
その日、死に絶えた森の川辺にはキャンプをしている人間がいた。何かの仕事で死んだ地を訪れた人間は、相棒たちの武器や体を極限まで研ぎ澄ますべく、多数の砥石を所持していた。そんな人間だが、ポケモンの体を手入れしている最中に便意を催したのだろう、澄んだ水場から離れたところで用を足すためどこかへ消えた。
とあるギルガルドは、その瞬間を待っていた。人間が持っていた砥石をバッグごと奪うと、入り組んだ森の中へと消えていく。ギルガルドは浮いているため足跡もなく、人間たちがテントに戻るころには、泥棒の存在は影も形もなくなっていた。
そんな砥石泥棒は、共に暮らしている相棒の元へとたどり着いていた。相棒の種族もまたギルガルドで、名前はタチとジュン。二人は小さなころからニダンギルごっこをしたり、お互いにノーガードで剣戟をして、刃こぼれさせながらも丈夫な刀身を得るために鍛えあった仲である。
二人は先日起った森の枯死と、それに続く大雨の影響で土砂崩れが起こった際、削れた山肌から闇の石を見つけたのだ。そうして進化するとともに、異性への興味が今までの何倍も俄然増してきて、それだけに良質な砥石を入手できた幸運に心を躍らせている。
「なぁ、ジュン。いいものを手に入れたぜ。みろよ、この石!」
「なにこれ? すごく綺麗に切られた石だね。真四角だ。僕たちの切れ味でもここまで綺麗には切れないよ……これ、タチが切ったの?」
「違う違う、人間が持ってたんだ。人間ってのはすげえよなぁ、石をこんなにきれいに切っちまうんだからさ……あぁでも、別に石が綺麗に切れてるとかそう言うのはどうでもいいんだ。触ってみろよこの石……」
タチに促され、ジュンは砥石の表面を布の手でなぞってみる。それだけで、刀身が疼くような感覚が走る。
「なにこれ……この砥石で体を研いでみたい」
「だろ? さっき人間が連れていたポケモンを見てたんだ。真っ青でさ、頭には大きな角があって、前脚に刀を収納してるポケモンなんだけれどさ。その前脚の刃物が輝かしいくらいに研がれていてさ……いや、あんなにきれいな刃は初めて見たよ。
もう一本の刃物はまだ研がれていなかったから、差を見れば一目瞭然だったよ。でさ、この砥石があればさ、雌のナンパにもいいんじゃないか?」
「え、自分で使わないの?」
ジュンは全身を傾げる。
「もちろん、自分にも使うさ。雌に恰好良さをアピールする必要もあるからな。雌ってのはよぉ……良いと石を手に入れられる雄。自分の体を綺麗に研いでくれる雄を好きになるもんだってのは知ってるよな?」
「うん、綺麗に研がれてるやつは格好いいもんね」
「だから、手に入れた砥石は自分にも雌にも使う」
「なるほどぉ」
タチの講義を聞いて。ジュンは全身を傾けて頷いた。
「で、だ。まずは雌を研ぐ前に練習として、俺達でお互いの体を研いでみるってのはどうだ? 人間から取ったこの砥石なら、俺達もさぞやピカピカになる事だろうぜ。いい練習になるし、俺たち自身も格好良くなれるぜ」
「いいねぇ! 切れ味がよくなったら、狩りも楽になるかな?」
「そりゃもちろんよ。早速水場で研ぎに行こうぜ」
二人は、別の水場に訪れ、盗んだ砥石を水に浸す。この時、二人は角に紅葉した葉を茂らせた四足歩行のポケモンとすれ違っていた。見たことのないポケモンだった。謎の枯死には関わっていなそうな雰囲気だが、何のために訪れたのかもわからない得体の知れないポケモンなので、二人は物陰に隠れ、遠巻きにそのポケモンを眺めて通り過ぎるのを待った。
そうして、水に浸した砥石が十分に水を吸ったところで、ふたりはいよいよ研ぎ作業に入る。あの後、死んだ森の中心部に出現した、謎の森が燃えたり、その後そこに雨が降ったりもしていたが、その後は特に何事もなかったたので、二人は気にせず作業を開始する。
「じゃ、まずは俺がお前を研いでやるぜ」
粗い石からタチとジュン、交互に研ぎあうことが決まり、まずはジュンが研がれる役。つまり雌役になる事が決まった。こうしてお互いの体を研ぎあうのはヒトツキ時代以来だ。ニダンギルのころはどちらも、自分自身の双子に研いでもらっていたから、お互い濃密に体を触れ合わせるのもそれ以来ということだ。
剣戟も体を触れ合わせていると言えばそうかもしれないが、布の手を優しく刀身に触れさせるのは、大人になってから初めてということになる。タチは自身の盾を背負うと、布の腕で優しくジュンの刀身に触れる。その分厚さも、大きさも、随分と成長したものだ。完全にリラックスして力を抜くと、ずっしりと重い。
濡れた砥石にジュンの体をこすりつける。布の手越しに砥石のざらざらの感触が伝わってくる、自分で自分の体を研ぐ。大人になってからは誰かに研いでもらわずとも、自分で自分の体を研ぐのにもすっかり慣れてしまっていたが、こうして他人を研いでいると、研ぐ音が近くに感じないだけ何だか新鮮に感じる。
大きくなった相棒の体の重さ、布の手が二つに増えたことによる違和感など、最初こそ慣れないところもあったが、タチは徐々にコツをつかみ、ジュンの体はざらざらの砥石に馴染んでゆく。河原で削られた丸い石では味わえないほどの研ぎやすさ、気持ちよさだ。研いでいるだけのタチですらそれを感じるのに、研がれる立場のジュンは、盾から魂の残渣が漏れてしまうほどリラックスしていた。
「おい、口から魂が漏れてるぞ」
「あ、ご、ごめん」
「まだ粗い石だぞ? これ以上細やかな石になったら、溶けちまうんじゃないか?」
「えぇ……そんな、僕たち鋼タイプなのに」
「ゴーストタイプは形が変わる奴も多いだろ?」
言いながらタチはジュンの体が完全に砥石に馴染むまで研ぎ続ける。ある程度続けると、指先から伝わる感覚に変化が感じなくなったところで、盾も同じように石で磨いてゆき、表面が滑らかになったところで交代となる。
ジュンがタチの体を研ぐ事になると、タチは砥石の質の良さに思わず目を見開いた。刀身が音を立てて砥石に擦られるたび、体の奥底から打ち震えるような快感が走っていく。気を抜くと眠ってしまいそうなほどのリラックスを誘発させるので、魂の排泄器官が緩んでしまったジュンのことを笑えない。駒かな刃こぼれが消えていく感触は、憑き物が落ちていくようだった。
しかもそれはまだ序の口で、ジュンも最初は大きくなった友達の体を研ぐことに慣れていなかったらしい。徐々に手つきがこなれてくるに従い、甘い快感はさらに強まっていく。刀身に手を添え、真剣なまなざしで体を研いでくれる相棒に見下ろされながら、体が永遠に沼に沈んでいくような心地よい浮遊感に包まれる。
「終わったよ」
気付いたときには、時間が飛ばされたかのようにその感覚に浸りきっていた。
「お、おう。じゃあ次は俺の番な」
目の細かい石になってくるごとに、布の手から感じられる感触はより繊細になっていく。それに伴って、研ぐ難易度は少しずつ上がっていくが、本能的に研ぎに対するセンスを持って生まれたギルガルドたちにとっては、なれるまでにそう時間はかからない。繊細な砥石の感触を指先から感じ取るのはもちろん、ニダンギルのころに培ったテレパシーで、どうすれば一番気持ちいいのかを感じ取っていく。
そうして刀身が磨かれるたび、二人の体は鏡のように輝いていく。当然、切っ先は鋭く尖ってゆき、試しに草の葉を切り裂いてみれば、固定されてもいない、薄くしなやかな葉がスパっと切れてしまう。求愛が終わった際、雌も同じように周囲の草木に向けて試し切りを行い、その切れ味次第で雄の求愛の成否が変わる。これだけ鋭く切れるのならば、盾を差し出さない雌はいないだろう。
砥石で盾も一緒に磨いてどんどん滑らかになり、指で触れればそのすべすべとした感触に、生まれたてのヒトツキの手のような、絹の織物にも劣らない心地よさを感じた。ずっと研いでいてお腹が空いたので、交尾を終えて死んでいる雄の虫タイプのポケモンの死体を刻んで腹ごしらえをしたのだが、その際のあり得ないほどの切れ味には快感すら覚えた。
しかし、それでもまだ終わりではない。さらに細やかな砥石は残っていた。
「この砥石が一番細かい奴だ……最後の仕上げ、行くぞ」
「うん」
タチはジュンを寝かせると、ジュンの腹を撫でる。
「っんぁ……」
刀身にごみがついていると思って、タチがそれをぬぐおうとしただけでジュンは声を漏らした。一日かけて磨きぬいた二人の体は全身ピカピカで、盾も刀身ものぞき込めば自分が綺麗に映るほど。
砥石が細やかになるごとに、研がれる際の強烈な快感こそなくなっていたが、微細な感覚が長く続くだけに、どんどん体は敏感になっていき、やがて布の手が触れただけで刀身に電流が走るほど敏感になっている。
「どうした? まだ砥石に触れてすらいないぞ?」
「いや、ちょっとくすぐったかっただけ。続けて」
「はいはい」
タチはそう言って、濡れそぼった砥石にジュンの刀身を這わせていく。すでに美仕組みがかれた刀身に珠のような水滴がつき、それが宝石のように日光を反射して煌めいている。動かすときに摩擦の音はほとんど感じられない、きめ細かいがゆえに、鳴らされる音も川のせせらぎにかき消されてしまう。
ジュンは研がれる心地よさに目を細めてリラックス。傍らに置かれた無防備な盾。二人が一日かけて行っているのは、雌への求愛行動だ。練習だとはわかっていても、本能的なものなのか、求愛行動をずっと続けていると、ムラムラした気持ちは増すばかり。それは、砥石で磨き始めた頃は意識するほどの事ではなく、徐々に刀身と盾の煌めきが増すごとに、気のせいかと思い始めたムラムラは、徐々にごまかしがきかなくなっていた。自分の顔がぼやけた像から鏡として機能し始めた頃には、自分に嘘をつき続けるのも大変になってくる。
せせらぎの音を右から左に流しながら、タチはジュンの刀身を熱心に磨き上げ、盾もつるつるのピカピカに磨き上げた。砥石と金属の粉が混じった汁を清流で洗い流すと、のぞき込めば曇りない自分の顔が映る。水鏡で自分の顔を見たことはあったが、光の反射も頼りなければ、水面の揺らぎで顔が歪んでしまうため、正しく自分の顔を見つめたのは今日が初めてだ。
イケメンだとか、ブサイクだとかいう事はなく、良くも悪くもない無難な顔だな、と思った。ただ、自分の顔はどうでもいい。タチはジュンの磨き抜かれた顔をじっと見つめる。
「どうしたの、タチ?」
少し眠そうな顔でジュンが尋ねると、タチはジュンの盾を手に取り、裏側を見る。
「ちょ、ちょっと……裏側なんて見てどうするのさ?」
「いや、その……ほら、お前を磨いてたらさ、その……自分の顔がわかるくらいに磨き込まれてて、その、綺麗だなって……」
「うん、綺麗だよね。自分の顔は分からないけれど、盾を見るだけでもきれいなのがわかるし、タチもかなり磨き込まれて綺麗だし……っていうか、今度は僕が磨く番でしょ? タチも横になってよ」
「いや、その、そういうことじゃなくてさ。なんだか、こう、雌をナンパする時の行動をこういう風にやっているうちにさ、なんだか、そういう気分になっちまったんだ……お前と、交尾したい」
「僕……雄だよ?」
「雄でも盾はあるだろ?」
「あるけれどさ……」
タチはじっと眺めていたジュンの盾を反転させ、表側を刀身に包み込むよう抱きしめた。本体から離れてはいるが、体の一部。冷たい金属の体同士なので、抱きしめられたからと言って暖かいわけではないが、それでも濡れた状態で外気、風に晒されないだけで体温が奪われていく感覚は大分薄まる。そして、魂のこもっていない砥石とは違う、刀身と盾のふれあいは、こと魂の存在に敏感なゴーストタイプには刺激的であった。
触れ合った場所から、タチの生命エネルギーと自身の生命エネルギーが混ざりあう感触。極限まで研ぎ澄まされたジュンの体は敏感で、砥石で研がれるのとは別の心地よい感覚がジュンの中に生まれていく。
抵抗する気力を削がれるような安心感と心地よさに導かれるまま、ジュンは体の力を抜いた。タチはジュンの盾を抱きしめたま、盾の裏側を優しく撫でる。
普段誰にも触れられることの無い場所、研がれたことすらない裏側は、自分でわかって触れるのと違って、酷く敏感で臆病だった。タチの指先で裏側を撫でられるたび、今までにない欲望に体が支配されるのを感じてしまう。
雄に抱きしめられる、雄から雌のように扱われる。そう、言語化することはできなかったが、抱きしめられていたい、というわけでなく、脳裏に浮かぶ自分の望む状態が、交尾をしている光景で、しかも自分が雌として扱われているところだ。
わけもわからないまま、ジュンはその衝動に身を任せてしまう。タチもまた同様で雄同士でどうすればいいかなんて習ったことも見たこともない。けれど、湧き上がる衝動に導かれるまま、行為を進めた。
ギルガルドの雄は、普段から盾を持っている方の手に生殖器が存在する。その指でジュンの盾を撫でているうちに、タチは何をすればいいのか、本能が教えてくれた。
盾の裏側に、剣から血液とともに吸い取った魂の排泄孔が存在する。雌の場合はそこから枝分かれする形で膣、そして卵巣があるのだが、雄の場合はただの出口でしかない。出口でしかないはずなのに、存在しないはずの膣が疼くような感覚。タチに撫でられ続けたおかげで、ジュンは体を錆から保護するために薄い脂膜が染み出していく。その脂が次第に指に馴染んでゆき、タチの布の指が油まみれになったところで、排出孔に指をねじ込んでいく。
指の先端を畳んでいたため、推し広げる際の痛みはなかった。異物が入り込む感覚に違和感を覚え、ジュンは布の手を握り込んでぐっとこらえる。
「大丈夫か? 痛くねえか?」
タチが心配して声をかける。雄同士で致しているポケモンを見たことがないわけじゃないが、同族のギルガルドで、というのはまだ見たことがなく、誰に習うでもなく、真似するでもなくこんなことをしていると、相手を傷つけてしまわないかとおっかなびっくりになる。
「大丈夫、それより、もっと……もっとやって……あ、でもゆっくり、ね」
「痛かったら言えよ」
タチの方も最初こそ緊張していたが、案外痛くもなければきつくもなかった。違和感があって気持ち悪いという感触はあれど、それよりも気になるかすかな快感が『もっと続けろ』と叫んでいた。
タチはジュンの盾をゆっくりゆっくりまさぐっていく。体の中をいじくりまわされる不快感は、徐々に薄れていった。それに加え、快感も少しずつ増していく。ジュンは抱かれた盾を見上げたままずっと横たわり、凍えるように縮こまっていた。ジュンはふと、何故寒いわけでもないのに、こうして縮こまっているのかと疑問に思い、タチに盾をまさぐられながら自分が何を求めているのかを考えた。
「ねぇ、タチの盾……僕に、頂戴」
答えはすぐに見つかった。タチは自身の盾を背負っており、ジュンは自身の盾の主導権をタチに奪われた状況だ。
「……そうだな。俺がお前の盾持ってるし、代わりにお前に……」
胸元が寂しいからこんな姿勢を取っているのだと気付いたジュンは、タチに盾を交換してもらう。やはり、温かいわけではないが、別の魂を持った盾を抱いていると、普段とは全く違う感覚がする。ジュンはタチの盾をシールドフォルムの時と同じように、裏側と刀身が触れ合うように抱いてみると、自分の盾との違いがよく感じられる。
タチは勇敢でその分刀身が分厚く盾の大きさは標準程度。のんきなジュンの盾は分厚く、防御力が高い。そんな性格の違いを表すような盾の違い。
自分の盾ではないのに、抱きしめていると安心した。その安心で以って、ジュンはタチのことが好き。友人とか、つがいとか、そんなものを超えて理屈じゃなく好きであることを自覚した。自分の盾よりも大事に、いつくしむようにタチの盾を抱くと、感極まって少し涙が漏れそうになった。タチの盾を撫でているだけで、ジュンの全身が幸せで満たされるようだ。タチに体をこねくり回されているうちに体温も上がって、神経はより昂り、体を捩って快感に浸る頻度も増えていく。
そんなジュンの顔を見て、タチは照れてしまうと同時に、自分が抱いているジュンの盾の存在をより強く確かめた。ここでようやく、タチは自分の盾との違いを確かめるように色々と観察した。
ジュンの盾は自分より大きく重い。こいつらしい盾だな、と、思うだけで愛おしさが増した。抱きしめた盾を感じて、横たわるジュンの表情を見て。そして、ジュンに抱きしめられ、撫でられる感触に浸って。タチはジュンのことをどれだけ好きなのかを自覚する。
こいつをもっとめちゃくちゃにしたい、自分のモノにしたい、気持ちよくしてやりたい。支配欲、そして愛欲以外の思考は徐々に放棄されてしまう。タチは盾の裏側を執拗に攻め、自分も通常の交尾と同じように、射精へと至る快感を高めている。ジュンはといえば、通常の交尾では決して得られない、自身の胎内を愛する者に満たされる幸福。
声に出したいくらいの幸せをタチから注がれ続け、時折漏れる甘い声は幸せがあふれ出している証拠のよう。そうやって下手な雌なんかよりもよっぽど色気を醸し出したジュンの痴態にどこまでも惑わされながら、もう引き返せないほど高まった生殖器の快感を、タチは一気に頂点まで駆け上がろうとする。
盾の奥深くまで指を突っ込み、油塗れの指で摩擦と締め付けを味わい、その果てに堰を切って、生殖器が爆ぜた。普段は自在に動く指が、まるで自分のいうことを聞かない。どくどくと精液があふれ出し、ジュンの盾にある排出孔へと注ぎ込んでいく。ジュンを雌に見立て、確実に受精するよう、奥深くに指を差し込み、出口から精液が漏れ出ないように押さえつける。
どんなふうに射精したとて、決して孕むことはあり得ないのに、その瞬間脳裏に浮かんだのは、『孕め!』の3文字だけだ。気持ちよさと生殖本能は頂点に達したのちに急速に冷め止んでゆく。
人生で最も達成感のある射精を終えた後、ジュンを見る。
「ジュン、大丈夫?」
「うん、平気……っていうか、なんていうのかな……えっと、幸せ……」
ジュンは恥ずかしいのか、なかなか目を合わせることも出来ず、刀身を横向けにした。研ぎ澄まされたジュンの刀身は鏡になるので、映った自分の顔も、すごくとろけた顔をしている。
冷静になったタチは、より優しくジュンの盾を抱きしめる。盾の感触を感じて、ジュンから甘い吐息が漏れた。しばらくは無言。何を話せばいいのかお互いよくわからず、少しずつ呼吸音も静かになって、やがてせせらぎにかき消されてしまう。
「あの……」
完全に熱が冷めたところでジュンが切り出す。現在、タチはうつぶせ。視線は合わない。
「う、うん、なんだ?」
「次、僕が研ぐね……」
「お、おう、頼むぜ」
かなりぎこちない感じになりながら、二人は本来やるべきことであった、研磨作業へと戻る。そうして横たわるタチのことを見下ろしながら、ジュンはぽつりぽつり、自分の中にある気持ちを言葉にしていく。
「あのさ、上手く言えないけれど……最初は、少し戸惑ったけれど、すごく、今の、よかった……」
「おう、そりゃ何よりだ……俺も、その、なんだ? あんなことやって、嫌われたり、嫌がられたりしないか心配だったけれど、お前も楽しんでくれてたなら……何よりだよ」
「あのさ、じゃあさ。こうやって研ぐのもだけれどさ、今みたいなのも、その……また、出来るかな? その、食糧が余ってるときとか、暇な時でいいから……ほら、今はなんか森が死んでるからさ。餓死したポケモンの魂がそこら中さまよってるし……その、食料には困らないじゃん?」
「おう、じゃあ、食料を確保する時間がいらないから、暇はいくらでもあるし……近いうち、出来るかも、な」
体を左右に往復させられながら、タチは自分に言い聞かせるようにそう言った。餓死したポケモンから血を吸い、魂を食べて、一緒に眠って、そんな暇な時間にまたやろう、と。
そうして数時間後。一番目の細かい砥石に体が馴染み、白く濁った汁を清流で洗い落としたところで、二人はお互いの体を見つめることで、アン説的に自分がどんな顔をしているのかを初めて理解する。鏡となったお互いの体を見て、二人は見つめあう自分たちの表情が、似たような照れ顔になっていることを思い知るのであった。
「……お腹空いたな。何か食べたい」
死んだ森に見切りをつけて、行く当てもなくテールナーはさまよっていた。一昨日から何も食べておらず、悲鳴を上げ始めた腹の虫は今日も元気に鳴り響き、歩き続ける体力ももう残っていない。
足が動かなくなって、木の幹に寄り添いながらへたり込んだテールナーは、このまま餓死するのを待つばかりかと思っていた。しばらく休み、最後の気力を振り絞って動いていたら、テールナーは木のみの匂いが空中に漂っているのを発見した。その匂いの元をたどり、餌場にたどり着いたテールナーは涙を流しながら食料にありつく。
しかし、同時に危険も感じている。周囲には傷をつけられた木、それに白い糞混じりのマーキングの跡もある。ここは誰かの縄張り、自分はその縄張りを侵している。危険であることは分かっている。幼い自分では、縄張りの主に勝てない可能性もわかっている。それでも空腹には抗えなかった。
「ここで何をやっている」
食事を終えたらすぐにここを出よう、そう考えていたテールナーだが、運悪く縄張りの主に鉢合わせになり、耳の体毛を掴まれてしまった。
「ご、ごめんなさい……僕、住んでいた森がいきなり枯れてしまって……食べ物が無くて……」
テールナーの耳毛を掴んだのは、彼よりも二回り以上に背が高いバシャーモだった。力は強く、掴まれた場所が耳じゃなくとも振り払えそうにない。
空腹以上に差し迫った恐怖で縮こまるテールナーを見て、バシャーモはにやりと笑みを浮かべた。
「森が枯れたって噂は聞いてる。森が枯れて、大量のポケモンが逃げ出してきてるって大騒ぎになっていたしな。それで食料が足りなくなってみんな迷惑してるんだが……俺の場合は縄張りが広い分、一人じゃ食べきれないくらいの食料はあるから大した問題はねえけれど、最低限の縄張りしかない奴は、食い荒らされて大変だって愚痴ってたよ」
「ごめんなさい……でも、お腹が空いてて」
バシャーモに見下ろされながらそんなことを言われ、やっぱり自分はとんでもないことをしたんじゃないかと、テールナーは一層怯えてしまう。しかし、小さなテールナーが怯える様子を見ていると、バシャーモは中々くるものがあったらしい。
「うん、確かに、縄張りを荒らされたとあっては、タダで返すわけにはいかないが……お前、中々かわいい顔をしてるじゃないか? 殴って追い出すのはもったいない。お前だって、殴られるのは嫌だろ?」
「あ、は、はい……」
「よし、素直でいい子じゃねえか。じゃあ、俺と遊んでくれるんなら許してやるから、俺の巣に来いよ」
「遊ぶ、ですか?」
「あぁ、遊ぶんだ、俺の巣に来い」
遊ぶ、という割には、楽しげな感じではなく、随分と威圧的だった。その振る舞いに恐怖を覚えるテールナーだが、ここで逆らってしまえばきっと命はない。喰われたり殺されるよりはましだろうと、従うことにした。
バシャーモに案内されてたどり着いた巣は、太い木の枝を組み合わせて作られたかまくら型になっており、雨風もある程度防げるように出来た居心地の良さそうな巣であった。中には保存がきく木の実がたくさん積まれているのと、寝床の部分に草が積まれている以外は綺麗に片付いていた。
「それで、ここで何をすればいいの?」
「教えてやるから、まずは後ろ向いて座れ」
「……こう?」
テールナーはバシャーモに背を向け座る。小さな背中を覆い隠すように大きな尻尾がモフっとしており、後ろ姿だけでも可愛らしい。バシャーモはテールナーの腰を掴み、自分の胡坐の上に座らせる。
「ちょ、何するのさ」
「こうしないとダメなんだよ。それとも、木の実を勝手に食べたお仕置を食らいたいか?」
「や、それは嫌だ……」
「なら、黙って従うんだな」
言いながらバシャーモはテールナーを抱きしめる。
「恥ずかしい……」
「誰にも見られてないだろ?何に恥ずかしがっているんだ」
「うぅ……」
胡坐の上に座らされ、必然的に抱かれるような形にされて、テールナーは恥ずかしさから顔を伏せる。もっとも、そんなことをしなくとも、後ろにいるバシャーモから顔は見えないのだが。恥ずかしくて立ち上がろうとはするのだけれど、バシャーモに抱き止められていて立ち上がることが出来ない。バシャーモはテールナーが恥ずかしがっているのを感じると、逃がさないように抱きしめる力を強めた。逃がさないぞ、という意思表示のようだ。
「安心しろ、取って食ったりはしねえよ。むしろ、楽しい気分にさせてやる」
「本当に?」
「あぁ、嘘はつかない」
お互い炎タイプなだけあって、体温は高い。バシャーモに抱きしめられて体をぽかぽかに温められながら、テールナーは胸板を撫でられたり、耳をくちばしで摘ままれたりと、いいように弄られた。
少しずつ胸を撫でられる手が下がっていくごとに、テールナーはなぜかわからないが、心臓が高鳴ってしまうのを感じた。確かに恥ずかしいけれど、痛いことはされていない。テールナーは少しずつ緊張がほぐれ、心臓は高鳴るのに気分はすごく落ち着いていく。何をすればいいのかわからないから、まだちょっと怖いけれどずっとこうしていたい心地よさがあった。
「あ……」
そうこうしているうちに、テールナーの未成熟な肉棒がむくむくと成長を始める。
「落ち着いてきたか?」
「あ、うん」
バシャーモに囁かれてテールナーは頷く。
「おちんちんが大きくなってるな」
「う、うん……あんまり見ないで」
バシャーモがテールナーの肉棒を肩越しに見る。テールナーはそっと手で隠してしまう。
「まぁ、そう言うなって。今から面白い事をしてやるからな」
バシャーモはテールナーの手を払いのけて、右手で肉棒を優しく摘まみ上げる。そんなところ、久しく触れられたことが無いこともあり、かつてないほどの恥ずかしさがこみ上げた。しかし、怖いし恥ずかしいし、なのになぜかその恥ずかしさに勝るだけの期待が産まれている。
「なにこれ……なんか不思議な感じ」
バシャーモに肉棒をつままれていると、体が変な風に震えてしまう。もっと続けてほしい、それどころかこれじゃ物足りないとすら感じる。
「もっと、もっと」
自然とそんな言葉が漏れて出た。肉棒の先からも透明な汁が出て来て、随分と気持ちよさそうだ。
「なんか、気持ちいい……もっとやって」
テールナーは思考力が落ちて、難しい言葉も言えなくなるし、恥ずかしいという感情も忘れてしまう。バシャーモの余っている左腕に抱き着く、というよりはしがみつくように体を縮め、縋りつくさまはまるで赤子のよう。
初めての行為、バシャーモも焦らすことは出来た。ただ、テールナーは最初に恥ずかしがって反抗したっきり、それ以降は目に見えて何も言わなくなってしまったので、バシャーモは意地悪をすることなく愛撫を続ける。テールナーが太ももをぎゅっと閉じたり、何も握っていない手が固く閉じたり、そういった初々しい反応がたまらなく愛おしくて、次の反応を見てみたいのだ。
「仕上げだ」
バシャーモはそう言って、テールナーのまたぐらに顔をうずめ、肉棒を口に含む。暖かな口の中に肉棒を包まれ、舌で舐められ、揉まれ、吸われ……肉棒にこんなにまで刺激を受けたのは初めてで、テールナーは耐えればいいのか、逃げればいいのか、もっと刺激が得られるようにすればいいのか、何が何やらわからない。
理性で判断できず、本能に従った結果、テールナーはバシャーモの頭を掴んでいた。もっと根元まで、もっと強く、と訴えように。
テールナーが何が起こっているのかもわからないうちに、終わりの時が来た。愛撫され続けた肉棒は限界を迎え、テールナーは体を折りたたむようにして前のめりになり、そのすぐ後に射精する。
「うぅん……うっ……」
肉棒が大きく跳ね上がり、断続的に精液が吐き出される。くちばしの中に性癖が吐き出され、バシャーモはそれを全て飲み干した。
テールナーの顔が見られないのは残念だったけれど、自然と漏れ出たうめき声にも似ている唸りが、何も考えることが出来ない、取り繕うこともできないほどの衝撃だったのだと察せられる。今回はその声だけで十分だ。
精液を出し終わり、肉棒の痙攣が収まるまで、テールナーはずっとバシャーモの顔を掴み、縋りついていた。落ち着いたところでバシャーモはまたぐらから顔を離すと、今だに余韻に浸るテールナーをひょいと持ち上げ、正面に向き直らせて抱きしめる。
「あの……さっきのは、何?」
不思議そうに見上げるテールナーの頭を撫でながら、バシャーモは言う。
「あぁ、あれはな……子供の素だよ。あれを雌の体の中に出せば、雌が卵を作れるようになるんだ」
「へぇ……なんだろう、何だかわからなかったけれど、すごく気持ちよかった。子供の素を出すって、すごいんですね……」
バシャーモに頭を撫でられながらテールナーはとろけたような微笑みを浮かべた。
「そうかそうか、それは何よりだ。じゃあ次は、お前の番だ。同じように俺を気持ちよくしてみろ」
「えぇ……?」
精通を終え、頭が落ち着いたところでそんなことを言われ、テールナーは戸惑う。
「え、その、どうすればいいの?」
「同じように俺のを握って上下にゆすればいい。あんまり強く握りすぎるなよ? 子供の素が出るまでやれよ?」
「え、あれが出るまで……?」
そうは言われても、テールナーはどうすればいいのかわからず、不安げな顔でバシャーモを見上げる。
「どうした?」
だが、断るという選択肢はなさそうだ。とにかく、見よう見まねで頑張るしかない。テールナーは恐る恐るバシャーモの肉棒を握る。痛くないように、強く握り絞めすぎないようにして、上下に揺さぶった。
「いいぞ、その調子だ」
テールナーの頭を撫でてバシャーモは微笑む。自分が今何をしているのかはわからないけれど、縄張りを侵したことを許してもらったし、自分を気持ちよくしてもらったし。とにかく、相手も同じように気持ちよくしなければいけない。それだけを考えて、テールナーは必死だった。バシャーモは片手でやっていたからと、最初こそテールナーも片手で扱いていたが、よくよく考えればバシャーモとテールナーは体格差があまりにも大きい。
両手じゃないといけないと思い、テールナーは両手でバシャーモの肉棒を扱き上げる。まだ自慰すら知らなかったテールナーの手つきは非常に粗く、つたないものではあった。自分の手でやったほうがよっぽど気持ちいいがその必死さが愛おしくて、じれったさはむしろ心地よかった。
しかし、テールナーの手つきは段々と鈍ってしまい、やがて完全に止まってしまう。
「はぁ……すみません、手が疲れて……」
慣れない行為だったのだろう、テールナーは腕を上げていることも辛い様子だった。
「じゃあ、俺と同じように口で奉仕するんだな」
「は、はい……これで大丈夫ですか?」
テールナーは一度バシャーモの肉棒を口に含んでから、数秒吸ったり舐めたりをしてから、確認のために顔を上げる。
「あぁ、そのままだ」
「わかりました……」
テールナーはバシャーモが自分にしたように、肉棒を口で愛撫し続けた。体格が逆なのだ、バシャーモは大きなくちばしで小さな肉棒をついばむといった感じだが、テールナーの場合は小さな口で大きな肉棒を頬張るといった感じだ。
口を開けるだけでも大変そうな様子で奉仕するその姿は酷く愛おしい。身も心もいっぱいいっぱいなテールナーは、口と手でひたすらバシャーモへの奉仕を続ける。手が疲れて、休み休みではあったが、そんなつたない奉仕でも久々の刺激だったバシャーモには効いてしまった。
時間はかかったが、テールナーの努力は身をむずび、バシャーモは彼の口内へ射精する。何の準備もしないままに口の中に吐き出されたテールナーは、むせそうになりながらも、先ほどバシャーモが全部飲んだのだから、自分もそうしなければ……と、吐き気を堪えて全て飲みこんで見せる。
「……あの、これで大丈夫ですか?」
よほどひどい味だったのか、精液を飲み下したテールナーは涙目だった。
「ほう、やるじゃねえか。上出来だ」
そんな献身的なテールナーの頭を撫で、バシャーモはほくそ笑む。このテールナー、ただ可愛いだけじゃなく、奉仕の才能もありそうだ。育ててやれば、立派な性処理役になってくれるだろう。
「あの、貴方の縄張りを荒らしてしまったのは本当にすみません……でも僕、行く場所が無くて……」
「わかってる。お前、行く当てがないんなら俺が世話してやるから……これから毎日、俺に付き合って遊んでくれよな? 木の実はやるから、これからもっと色々な遊び方を教えてやる。
大事にしてやるから逃げんじゃねえぞ?」
「う……はい。頑張ります」
テールナーは何だか危険な雰囲気を感じて逃げ出したくもあった。しかし、苛烈な縄張り争いも怒るこの状況で、この先バシャーモの庇護無しに生きていける気はしないし、先ほど教えてもらった『遊び』が楽しかったのも事実。なんで子供の素を出す瞬間はあんなに気持ちいいのか。どうして肉棒をこすると子供の素が出るのか。テールナーにはその意味は全く分からなかったけれど、それを教えられて悪い気もしない。きっともっと楽しい遊びをたくさん教えてもらえるはずだ。
「お、お願いします」
「あぁ、可愛がってやるよ。次は、自分で気持ちよくなる方法を覚えてもらうからな」
バシャーモは大きな胸でテールナーを抱き込んだ。これからテールナーは彼の性処理要員として飼われることになるのだが、テールナーはバシャーモにいいようにされるうち、少しずつ嫌悪感も剥がれてゆき、そのたびに彼の遊び相手として、歪んだ愛情が完成していくのであった。
とある火山の一帯。この火山は定期的に噴火を繰り返すため、大きな木々は育たず、草木を食べて生きるポケモンは極端に少ない。その代わりに、火山の熱を好む炎タイプ、火山から湧き出す毒ガスを好む毒タイプ。そして、火山が常に鉱物を循環させているため、地面、岩、鋼タイプといった、鉱物を主食とするポケモンたちや、それらを餌にするポケモンが多く住んでいた。
この一帯はコバルオンがヌシとして、広大な縄張りを統治している。縄張りを統治とはいっても、そんな大げさなものではない。縄張りが広い分心は広く、勝手に踏み入れられても咎めたりするようなことはなく、荒らしたり狼藉を働く様子が無ければ手出しはしない。時折人間も通るのだが、妙な真似さえしなければ通行したところで襲い掛かったりはしないし、珍しいポケモンだからとゲットするそぶりが無ければ、歯牙にもかけない。
背の高い草木が育たない、見通しがよく寂しい山を回り、ほのかに漂う硫化水素の香りを感じながら、今日もコバルオンは平和な日常を過ごす。日々、崖登りなどをしながら鍛錬を繰り返しながらもしもの時に備えて、疲れ果てたらゆっくりと草をはみ、穏やかに眠る。退屈ではあったが、穏やかな日常を過ごすのは嫌いじゃなかった。
穏やかな日常、とはいっても、ここも弱肉強食の世界であることには変わらない。アイアントとクイタランは毎日のように殺し合いを繰り広げているし、ミミズズとイワークは餌となる鉱物を求めて毎日争いあっている。
その争いの果て、弱ったどちらか一方を狙うクリムガンやジュラルドンといった狡猾なポケモンもいて、毎日のように生殺与奪が繰り返されている。人間が大規模な採掘でも始めない限りは、これがここの平和であり、日常だ。
コバルオンは、見通しの良いさびれた山の頂上。今も噴煙を上げる火口を見上げながら日常を観察していたが、その日は非日常が向こうからやってきた。
角が紅葉しているメブキジカだった。彼は、軽やかな足取りでコバルオンの元までたどり着くと、深く頭を下げて再会の挨拶をした。
「お前は……」
「お久しぶりです。と、言ってもまだ一年もたっていませんが」
「まだ若いものにとっては、それでも久しぶりかもしれないな。年を取ってしまうと、どうにもその辺の感覚がイマイチわからなくなってくる。だが、若いだけある……君は、短時間で成長したな。体の成長はもちろんだが、表情がよくなった。
なんというか、良い目つきになった。しまりのある、目的を見据えた目だ。何があった?」
「……東の国。多くの人間がひしめき合って、環境破壊も著しいと聞いていたあの国で、森の広範囲を枯らす、草の化け物と出会いました」
「ほう」
「その化け物を退治しようと思い、奴の縄張りに入り込んだら、とてもかなうような相手ではなく、死にかけました」
「大変な目に遭ったな」
「しかし、そこで人間に助けられました。恐らくは、人間の中でも相当の手練れ……見たことの無いポケモンを連れていて、私と協力してその化け物を打ち倒し、ボールに捕まえたのですよ」
「なんと……お前がとてもかなうような相手ではないと言うくらいならば相当な強さだろうに。それを打ち倒し、しかも捕獲するとは、確かに人間の中でも相当の上澄みだ」
「恥ずかしながら、私も衰弱していたため、みすみす捕まってしまいまして。ですが、無理やり捕まえるのはあまり好きではないらしく、私は解放してもらいました……あの人間の元になら、捕まっていいとも、少しだけ思ってしまいましたが」
「……そこまでの人間か。私はまだそんな人間にはであったことがないが、少し興味があるな」
「人間は恐ろしいですよ。雲に届くような巣を作ったり、山に壁を作って、巨大な湖を作ったり……貴方に教えられた通りでした。ですが、良い人間もいるのですね。この旅でそれを知りました」
メブキジカがニコリと笑うと、コバルオンは嬉しそうに頷いた。
「良い人間もいる、か。私も出会ってみたいものだな」
自分の話をコバルオンに聞いてもらい、メブキジカも嬉しくなる。
「……そして、今はやりたいことが出来ました」
「あぁ、聞こうか」
「私は、その枯れた森を復活させたいと思っています」
「……復活、か。そんなことが出来るのか? メブキジカのお前に?」
「出来ますよ。時間はかかりますが。自然に任せるよりかはずっと早く」
コバルオンに問われると、メブキジカはそう言って微笑む。ただのメブキジカには出来るはずもない、が、この少年ならばできるだろうという嘘のない雰囲気はあった。
「それで、今日はその目標が出来たという報告に来たのか?」
「いえ、その報告とともに、頼みたいことがあります。貴方に、お手伝いを頼みたい」
「構わんが、私はこの場所を離れたりはしないぞ?」
メブキジカに頼みと言われ、コバルオンは首をかしげる。
「えぇ、はい。その、これに関しては人間の言葉がきっかけで気付いたのですが。ポケモンが子供を作る際、オスは交尾によって生命エネルギーを雌に渡しているのです。本来それは子供を作るために使われますが、卵が出来ない組み合わせだったり、卵が出来る組み合わせでも、卵を作れるタイミングでなかったりすれば、そのエネルギーは使われずに失われてしまう。
ですが、私ならばその、失われるはずの生命エネルギーを、余すことなくすべて吸収できる」
「ふむ、何を言ってるのかよくわからん」
「でしょうね。生命エネルギーが見えるのは、限られた種族だけのようで。ともかく、要約すると。『私は雄と交尾し、精液を受け取ることで、強くなれる』ということです」
「うむ!」
真剣な目でメブキジカが語ると、コバルオンは笑顔で頷いて、メブキジカに背を向ける。
「そうか、さて、縄張りの見回りに戻るかな」
そう言ってコバルオンはどこかへ立ち去ろうとした。
「ちょ、大事な話がまだでしょう!?」
メブキジカも当然止めるが、コバルオンは歩みを止めない。
「大事な話の予想がついたから見回りに戻るんだよ!」
コバルオンの歩調が速足になる。口調がいつもと違うあたり、内心ではかなり動揺しているらしい。
「ここに来るまでにいろいろ試したんです! 基本的に、強いポケモンの精液ほど。濃くて量が多いほど強い力を受け取れて……なので、貴方のお力を借りたく」
「えぇい、お願いは予想したものとほぼ同じ内容だったわ! やらんぞ! やらんぞ! 私は雄とやるほど雌に困ってなどいない! というか、女など向こうからやってくるわ!」
コバルオンはついに走り出した。メブキジカはそれに苦も無くついていく。
「じゃあ、たまには雄とやりましょう! 私、結構評判なんですよ? こんなに具合のいい雄は初めてだって何度も言われました」
「やらんわ! っていうか、そんなに相手がいるならそいつとやれ」
「いや、強大な力を持ったポケモンは、強くて長生きな種も多くて……そのせいで、一回絞りつくしたら数か月はもういいやって感じらしく……でも、逆に言えば一回で数か月分、絞りつくされるくらい満足度が高いと考えれば、一度はやってみたくなりません?」
「うぐっ……」
揺らいだ。絞りつくされるくらい満足度が高い。雄というものはいつまでたってもエッチなことには興味津々なものである。それはいかにも堅物そうなコバルオンでも同じことなのだろうか。
「一応、道中で強大な力を持っているわけでも無い雄とも関係を持ちましたが、大体帰ってくる感想は同じでしたよ。『お前以外じゃ抜けなくなりそうだ』って……そんなことを言って、私と一生添い遂げたがる雄は何匹も出会いました。生憎、すべて断ってはいるんですが……
でも、そんな何百匹と交わってきた私でも、貴方のことは高く買っているんですよ。貴方とならば、強くなれる。貴方ならば、満足させたい……貴方とともに、森を再生させたい。
そんな風に考えているから、貴方に頼みたいのです。この大事な仕事の、手助けを」
「ええい、鬱陶しいわ!」
どれだけ走っても付いてくるメブキジカに、コバルオンは聖なる剣を振り下ろす。メブキジカはそれをウッドホーンで受け止めて見せる。
「本気じゃないと、私は倒せませんよ。諦めさせたいなら、私を完膚なきまでにボコボコにしてください」
メブキジカは得意げに微笑む。絶対に退かないという強い意志を秘めた瞳の奥、コバルオンはXの字に切れ込みが入った光彩を見た。
「……ようやくお前の正体がわかったぞ。生命をつかさどる……」
「内緒ですよ?」
「わかった。お前がそこまでの使命を背負っているのなら、検討くらいはしてやろう」
「では? 貴方の目の前で雄のポケモンを落とす様子を見せれば、僕のことを試してくれるというわけですね!?」
「もうそれでいい……はぁ、長生きはしてみるもんだな……こんな予想外のことも起こる」
コバルオンはため息をついて、心底嫌そうにメブキジカの条件を認める。雄同士で交尾するなど、本当に嫌なのだろうけれど、興味はあるし、それに森をよみがえらせたいというメブキジカの目標には共感を示してくれてはいるようで。
なので、メブキジカも早速雄をナンパしてきた。数分後には、コバルオンの目の前に連れてきた。
「連れて来ました、ガブリアスです」
「見りゃわかるわ!」
「なんだぁ? メブキジカの兄さんは見られながらやるのがお好きになっちまったのかぁ? へへ、ヌシ様に見られるとは光栄だなぁ」
連れてこられたガブリアスには、メブキジカはよほど魅力的に映っているのだろうか、酷くご満悦だ。
「見られるのが好きというわけではありませんが……でも、これでスキモノな雄を沢山呼び込めるなら、悪くはありませんね」
「おう、見せつけてやろうぜ。しかし、あんたほどの強さなら、ほとんどの雄にマウント取れそうなものなのによぉ……それなのにマウントをとられたいとか、あんたの方がよほどスキモノだな。お前と、こんな形でまた会えてうれしいぜぇ」
コバルオンは知らないが、どうやらこのガブリアスとメブキジカは会ったことがあるらしい。
「否定はできませんね。では、お願いしますよ。見せつけてやりましょう」
メブキジカがガブリアスに口づけをする。桃色の光が口元に灯されているのを見るに、あれはドレインキッスだ。メブキジカが本来使える技ではない。それを食らったガブリアスは目がとろんと眠たそうな表情になる。
そのまま、理性を奪われたかのようにメブキジカの尻に抱き着くと、驚くほどの勢いで質量を増していく肉棒を、メブキジカのアナルに突き立てる。メブキジカに一切の意を使うことの無い荒々しい交尾、しかしメブキジカはそれをすまし顔で受け止め、犯しているガブリアスの方が今にも死んでしまいそうな鬼気迫るオーラを纏っていた。
コバルオンも、これほどの交尾は初めて見た。自分が悪タイプの攻撃をありったけ受け止めたときのような、破滅的な力を感じさせる交尾。暴走と形容しても良いほどの腰使いで、ガブリアスは10秒と持たずに射精し、2本ある肉棒の両方から大量の精液を吐き出した。
「あぁぁぁぁ……半分無駄にしちゃった!」
メブキジカはのんきにそんなことを気にしていたが、ガブリアスのほうはといえば、そんな余裕はなさそうだ。たった数秒の交尾に全力を使ってしまった代償なのだろうか。メブキジカのアナルの奥深くに射精しようと股間を打ち付けてから、ガブリアスはほとんど動かずにいたかと思えば、急に足をガクガクと震わせ、そのまま地面に崩れ落ちる。うつぶせのまま、ガブリアスはしばらく動かなかった。
アイアントなど、虫タイプのポケモンには交尾をすると死ぬポケモンも少なくないと聞くが、これがそれか。短時間でここまで力を使い果たす。否、『使い果たさせる』なんて恐ろしい限りだった。
「最高だったぁ……けど、今日はもういい……これ以上は死ぬ……」
幸い、ガブリアスは生きているようだ。うつ伏せから横向きになった彼の顔は、天にも昇るような顔をしている。
「なんだこれは? おまえ、何をやった?」
「ドレインキッスです。下の口でも使えるようになったんです。格闘タイプやドラゴンタイプには特に効き目があるんですが、死なないようにするにはちょっと調整が大変で……でも、貴方なら殺す気でやっても死ななそうですね」 メブキジカはコバルオンを見つめ、にっこりと笑いながら、首を絡めていく。四足歩行のポケモン同士、抱擁をするには向いていないが、長い首を絡め合わせれば、思いのほか密着感が得られる。
そのメブキジカが体を光らせると、コバルオンは性欲が異常なほど高まるのを感じた。癒しの波導?
とてもいい匂いが漂っている。アロマセラピー?
コバルオンが首にキスをされると、その場所に快感が走る。ドレインキッス?
「なんだこれは……」
痺れるような快感は、その場所に意識を集中させたくなる。そして、実際に目を閉じて意識を集中させてみると、自分の首とメブキジカの首がこすれあって、震えるような快感が走る。
「もしもお尻に入れるのが嫌でしたら、赤ん坊が母乳を飲むように……口で貴方の肉棒を気持ちよくさせてもいいですよ? そのほうがドレインキッスも威力が調節しやすいですし。
そっちの方が好きな者もたくさんおりました。」
「……いや、それは、その。誰かに見られると、非常に、気まずい」
「ここはアイアントやドリュウズが掘った穴がいくらでもありますし、望むならそこで」
「うぐ……」
やはり、コバルオンも雄である。交尾するならば雌がいいし、雄と交尾するのは気持ち悪い、そんなことを考えているのかもしれないが、快感にはどうやっても抗えない。何せ、快感とは毒ではないし、罪でもない。だから、基本的に抗っても何もいい事がないのだ。もちろん、セックスしたら罰を与える、みたいな事でもあればこのコバルオンは鋼の意思で跳ねのけるであろうが、今回はそうじゃない。
メブキジカはそんなコバルオンの心の動きを、表情から、鼓動から、脚の動きからつぶさに観察していた。メブキジカが誘惑するたびにコバルオンの鼓動は高鳴る。素手に触れてもいないのに肉棒は硬度と質量を増している。
これを見て、興味がないなどとは言わせない。
「貴方の力が必要なんです」
メブキジカは首の抱擁を終えると、軽くわき腹にもキスをした。今度はさっきよりもずっと性器に近い。肉棒が跳ねあがる。
「……私は鋼・格闘タイプ。フェアリータイプの技には強くも弱くもない。力の調節は、その辺を踏まえてくれ」
「わかりました。やり方はどのように?」
「洞穴の中で。せっかくだ、今までやられたことがない、赤ん坊のように吸い付く、というのをやってみろ」
「わかりました。お勧めの場所を教えてください。ここは貴方の方が詳しい」
メブキジカに頼まれると、コバルオンは無言でメブキジカを先導する。
「雨除けのための巣がある。誰も立ち入っては来ないよう、丹念にマーキングしている」
「なるほど、そこでなら危険もありませんね」
「……あのガブリアスの危険はいいのか?」
あのガブリアスは、無防備に眠ってしまっている。死んではいないようだが、果たしてあの状況で外敵に襲われたら目覚めて応戦することはできるのだろうか。
「案外大丈夫ですよ。あんな状況だからと言って、手を出すものはいません。私みたいに、狙われる立場のポケモンならばいざ知らず、ですが」
「いい加減だな……」
「あんまりきちっとし過ぎても息がつまりますから。大丈夫、手を出されそうな相手なら、終わった後もきちんと見守ってます……あぁ、ただ、虫タイプのポケモンはそのまま死んでしまう者もいますが」
「虫タイプなら……仕方がないのかもな」
先ほど連想していたことを実際にやっていると言われ、コバルオンは苦笑する。
「ついたぞ」
軽石状になった気泡混じりの岩盤層に、アイアンヘッドで掘り進んで作ったであろう横穴がコバルオンの住処だった。入口から曲がったところに寝室があるため、外からは寝ている姿が見られない構造になっているし、周囲には軽石が転がり、僅かな音もたてずい近づくのは困難だろう。
「きれいに片付いていますね」
流石、良い場所に住んでいるとメブキジカは笑う。
「寝るくらいにしか使わないからな。それで、その……」
「もう始めましょうか? それとも、一緒に寄り添って、これまでの思い出話にでも花を咲かせてもよいですが」
「……先にやってくれ。気分が乗っているうちに終わらせたほうがいい」
コバルオンほどの強者の生命エネルギーならば、待ってでも入手する価値はある。メブキジカは時間をかけてもよいと思っていたが、コバルオンの方は存外乗り気のようで。ガブリアスとの行為を見ていた時からずっと大きさを増していた肉棒はいまだにそのままの大きさを保っている。
「では、始めましょうか」
いうなり、メブキジカは四肢を折りたたんで地面に横たわる。その状態で首だけ伸ばして、コバルオンの股間にぶら下がる肉棒に唇を寄せるという、かなり無茶な体制のようだが、難なくそれをやってのけている。素晴らしい体幹だ。
最初は舌先でチロチロと舐めるだけ。悪くはないが、こんなものか……そうコバルオンが拍子抜けしていたのは最初だけ。コバルオンの交尾は短い。喰われる側である草食動物の定めか、伝説のポケモンと称される強大な力を持っていても、他の草食のポケモンと交わるに当たって不都合がないように、交尾の時間は同じくらいになるように体が出来ている。
そんなコバルオンがじらしプレイに耐えられるかと言えば、比較的交尾の時間が長い人間には想像もつかないくらいに耐えることは難しい。堪えきれずに襲い掛かるような真似をしたくないコバルオンは歯を食いしばって射精の欲求に抗うのだが、その時間の何とももどかしいことか。
時間にいて一分とない、人間だったらよほどのことが無ければ余裕の時間。気の遠くなるほど長く思えた時間を、メブキジカは唐突に解放するのだ。いきなり肉棒の先端を咥えたかと思えば、宣言通りの殺すつもりのドレインキッス。
「おっご、が……」
コバルオンは、自身の睾丸が、「ちいさくなる」を使用したフワライドが如く縮んでゆく錯覚を覚えた。嘔吐でもしているかのような汚い声とともに、足はガクガクと震え、ついには地面に崩れようとする。
幸い、メブキジカが草結びで出現させたつる草で体を支えてもらったため、そのまま倒れてしまうことはなかったものの、それが無ければメブキジカの角が腹に刺さっていたのではなかろうか。
「堪能しました」
メブキジカはコバルオンの肉棒から口を離し、草を操ってゆっくりとコバルオンを床に座らせる。
「ふ、ふ、ふ、ふん……まあまあだったな」
途中までは殺すつもりでやったはずだが、驚いたことにコバルオンは足を震わせながらも立ち上がって見せた。この状態で戦うのは難しいだろうが、それでも驚嘆に値する生命力だ。
「脚、生まれたてのシキジカみたいになってますが……」
「うるさい……大したことはなかったぞ」
「確かに、あえて無防備を晒した相手に本気でやったのにそれでは、私もまだまだ修行不足かもしれませんね。精進します」
去勢されるレベルのドレインキッスに対して虚勢を張るコバルオンをこれ以上からかうのも可愛そうなので、メブキジカはそう言って相手を立てることにした。しばらくは勃たないだろうけれど。
「素晴らしい生命エネルギーでした。きっと……森を再生するための力になると思います」
「ふ、ふ、ふん……当然だ」
コバルオンはまだ虚勢を張っている。まぁ、相手のメンツは立てておこうと、メブキジカは深く頭を下げた。
「それでは、このあたり一帯のポケモンに声をかけ、搾り取ってきます」
「お、おぉ……熱心だな……頑張れよ……。私は少し休んでいく」
「はい、頑張りますとも!」
そう言って巣穴を飛び出していったメブキジカの姿を見送り、コバルオンは思う。
「……頑張らせていいのか、これ?」
なんだか、とんでもない奴を育ててしまったような気がして、コバルオンはその結果どうなるかを考えないようにした。
目論見は成功した。それからしばらくして、様々な男を各地で食い荒らす魔性のメブキジカがいるという噂が大陸中に轟いた。美しい毛並み、凛々しい目、そしていい香りで近づき、捕食しようとすれば返り討ち。しかし、魅了された者には躊躇うことなく体を差し出して、マウントを取られることをいとわない。行為となればドレインキッスで身も心も骨抜きにする。
コバルオンはそれを幼き頃に別れた義兄弟、ケルディオからの報告で聞いた。その時思い浮かんだ『それ知り合いだし、私も喰われたよ』という言葉は、口に出すことなく飲み込むのであった。
吹雪の吹きすさぶ冬。冬眠前に十分な食料を確保することが出来ず、冬眠に失敗して山をうろつくリングマがいた。冬の山には食料は少なく、生き残るために必死なリングマは非常に気が立っており、殺気を感じられるポケモンは近づいてこられただけで、慌てて逃げるほど。
そのせいで、慎重に忍び足で近寄っても敏感なポケモンに逃げられ、さらに焦って苛立つという悪循環に陥ったリングマは、三日間の絶食の果てに飢えてうずくまっていた。
俺はこのまま死ぬのだろうかとぼんやり考えている時に、無遠慮に横切るそれを見つけた。白い四肢と胸の体毛、真っ白な角と、雪を纏う木のようにも見える体色のポケモン、メブキジカだ。
しかも、平均的な個体よりもずっと大きな個体だ。もしも仕留めることが出来れば数日分の食料になるであろうそれが、目の前に現れたのは非常に幸運だった。そして同時に、これが最後のチャンスであると確信して、リングマは体に力を込めた。
酷い空腹は、毒や火傷のようにリングマの生存本能を著しく増幅させた。その影響、彼の肉体は生命の危機という上体とは裏腹にベストコンディションで、吹雪に負けないほど素早く駆け、吹雪の轟音をかき消すほどの速度でメブキジカに迫った。
決まった。これでメブキジカの肉は俺のものだと確信した瞬間、からげんきを振り絞った一撃は空を切る。いるはずの場所から消えたメブキジカは、弾かれるように跳躍すると、まっすぐに立つ針葉樹を蹴りながら高度を上げ、最後に太めの枝を天に向かって蹴りあげ、猛スピードでリングマの上に降ってきた。
動きに惑わされ避けることがかなわなかったリングマはその一撃でノックアウトされる。もう二度と立ち上がることはできないかもしれない。と、いう最後の思考は最後の思考にならず、リングマは口の中の複雑な味で目を覚ます。
体が草の防壁に囲われていたため、吹雪に体力を奪われることもなく、メブキジカが触れていた体の片側がほんのりと温かかった。
「起きたか」
「俺は、生きてるのか……?」
口の中に感じた味はオレンの実のようだ。生きている、というよりは生かされているというのが正しいだろうか。
「よほど切羽詰まっていたようだな? 相手の実力差もわからずに狩りを挑むのは得策とはいえんぞ」
「うるせぇ……腹減ってたんだよ……てめぇこそ、何もんだ? 腹減ってるときの俺は無敵なのに、それを、お前……どうやって……?」
やられる瞬間が目に焼き付いている。自由落下でも恐ろしい衝撃となるであろう高さから、木の枝を下から蹴って加速。絶対に死ぬと思わせるほどの猛スピードで落ちてきたあの瞬間。
即死しなかったのは恐らく、手加減されたからだろう。体力を回復するオレンのみを食べさせられているのもそうだ、殺されなかったから生きているのだろう。
「どうやって? とは……元々強いんだよ、私は。だから普通に戦っただけなんだ」
「普通の基準が全く違う……ついていけねぇ」
「自覚しているさ。自分が全く普通じゃないということはな。そんなことよりも、腹が減っているんじゃないのか?」
「ん……ペコペコだ」
本来ならば、リングマは冬に備えて大量の食事をとる。秋のうちにぼんぐりを山ほど食べ、川を上ってくるカマスジョーを大量に食べ、まるでゴローンのように丸々とした見た目になって、穴倉でじっとして過ごすのだが……
このリングマ、川での狩りが下手だった。ぼんぐりも、リングマ同士での争いに負けて沢山落ちている場所は取られ、追いやられてしまい。今となっては死にかけながらエサを求めて山をうろつくことしかできなくなっている。
「私のお願いを聞いてくれるなら、もっと木の実をやらんでもないが……」
「木の実を? まだ、持ってるのか? そんなん、どこに……」
メブキジカを見る。大きいのはもちろんの事、食料が少ない冬はメブキジカだってそれなりに厳しいはず。奴らは日光浴で体の栄養を作ることもできるらしいが、このメブキジカの毛並みは夏のようにつやつやだ。
「お前、本当に何者だ?」
体が草木で出来ている奴らや、甘い匂いのする奴らの中には、植物を成長させる力を持つ奴もいる。しかし、メブキジカにそんな力があるなんて聞いていない。
「なんでもいいだろう? 重要なのは、お前は私に挑んだが返り討ちに会い、そしていま私に生かされているということだ」
「う、くそ……」
生かされている、という言われようにリングマは苦虫を噛みつぶしたような表情をする。今の状況はかなり屈辱的な状況だ。殺す気で命を狙った相手に返り討ちに会い、オマケに情けをかけられて生かされているなんて。
だけれど、同時に幸運な状況でもある。もしかしたら、この不思議なメブキジカにこの状況をどうにかしてもらえるかもしれない、と。
「とはいえ、私はお前の命を奪おうだとか思っていないし、かといってお前を助けようとも思っていない」
どうやらそんな簡単にはいかないらしい。
「ただし、私の頼みを聞いてくれるというのならば、助けてやらんでもない」
「本当か!? どうすりゃいいんだ?」
やっぱり助けてもらえるらしいとわかり、リングマの声色が弾む。
「私と交尾しろ」
「……うん? お前、雄だろ? 俺も雄だぞ」
「そうだぞ。雄の私が、雄のお前と、交尾するんだ。無理か?」
吹雪を避ける草の防壁の中、メブキジカはリングマの眼を見つめ、からかうような笑みを浮かべる。
「無理って言ったら?」
「そのオレンの実がお前の最期の食事になるかもしれないな。生きているうちに次の食事にありつけるといいな」
「う……うー……」
メブキジカの意地悪な物言いにリングマは言葉に詰まってしまう。こんな奴に弱みを握られ、しかもわけのわからないことに付き合わされるのは非常に屈辱だ。まだ女と交尾したこともないというのに、どうして雄に抱かれなければいけないんだと思うと情けなくて泣きたくなる。
しかし、こんな寒さと飢えの中で死んでいいのか。最後に感じるのがこんな惨めな死でいいのかと言えば答えは決まっている。いまここで、多少の屈辱などかなぐり捨ててでも生き延びる。それが今自分がやるべきことではないか。
「わかったよ……交尾でもなんでもしやがれ。その代わり、それが終わったら、その……助けてくれるんだな?」
「約束は守るさ。じゃあ、もう少し体を万全にしないとな」
リングマがやけくそでメブキジカの提案に乗ると、メブキジカは地面をトン、と叩く。すると、踏み固められた雪から見る見るうちに木の実が育ち、ヒメリの実と、オレンの実がたちまち実る。しかも、みずみずしくてとてもおいしそうだ。
「えっと……お前、何者だ?」
「どうした、食べないのか?」
リングマの質問には答えず、メブキジカはリングマを見つめて不敵に笑う。
「食うよ! 決まってるだろ!」
リングマは空腹も手伝う形で、やけくそになって食べた。もうこいつが何者でも関係ない。こうなったら生き残るために何でもやるまでだ。掻き込んだ木の実は見た目通りとてもおいしい。噛みつくと、口の橋からこぼれそうなほどに果汁が溢れ、その複雑な味に鳴っていた腹が泣き止んだ。先ほど蹴られた傷も癒えていくのを感じるし、飢えで重くなっていた体に活力がみなぎる。
「さぁ、喰い終えたぞ。もうなんでも来やがれ!」
こんなのは早く終わって欲しいと、リングマはメブキジカに背を向ける。
「おや、中々若いな。女にはそんな風にそっけない態度で交尾をやってもらうのが好きか?」
「そうは、言ってないだろ……!」
「なら、もう少し色っぽく誘ってみたらどうだ? お前が女にしてほしいように」
「いちいち注文がうるさい奴だなぁ……えっと……もう、待ちきれないから、早くしてくれよぉ……」
メブキジカにやり直しを命じられたリングマは、四つん這いで後ろに視線をやりながら、声を震わせつつ交尾を懇願する。これは演技だと言い聞かせていても、屈辱のあまり涙目になってしまう。
「なんというか私は……リングマという種族が好きなんだ。ピンチになれば底力を発揮して、何としてでも生き残ろうとする強さがある。特に、調子が悪い状態から放たれるからげんきの威力は、もはや筆舌に尽くしがたい。そういう種族が生きお用途足掻いている姿は、心が躍る」
「そりゃどーも……それでも当たらなきゃ何の意味もないんだよ」
「当たったさ。私の心にね」
気障な物言いだなと、リングマは眉を顰める。その表情を見ながらメブキジカはリングマの丸い尻尾に顎を乗せた。
「私は、こう見えて、雄として雄らしく交尾をするのは初体験なんだ」
「その強さで!? 雌なら引く手あまただろ」
「事情があったんだ。雄としか交尾できず、しかも私が雄の欲望を受け止める側しかできないというのっぴきならない事情が……なので、雌が言い寄ってきても、時間がないので断っていた。だが、私も眠る前に一度くらいは、雄らしい交尾をしてみるのもいいと思って。そんな時に、君に出会った」
「何だかよくわからないが、
妙なめぐりあわせにリングマは複雑な思いだが、今は助かるためだ。この瞬間を一刻も早く終わらせるため、リングマはもう下手に抵抗しなかった。じっとしていると、足元から草が這い上ってくるのを感じる。寄生虫がのたうつよないやな感覚に、背筋がぞっとしてしまうリングマだったが、じっと耐えた。
その草は次第に足を拘束し、逃げようという気はなく足の位置をちょっと変えようと思った動きすらも制限してしまう。思ったよりも草は丈夫で、引きちぎってやろうにもそれはかなわず四つ足を地面に付けたまま完全に身動きが出来ない。
まずいかも、と思い始めた時に、草が肉棒に絡みついた。
「動けない状況というのは怖いか?」
「……怖くねえよ!」
「強がらなくていいぞ? 空腹じゃなくなったせいで、お前の中にある生存本王が弱まってしまった……怖がってくれたほうが生存本能が働くだろうから、私好みだ」
「どんな性格してるんだてめぇ……」
「怪我はさせないように極力注意する。が、少し苦しいかもしれないのは我慢してくれ」
肉棒に絡みついた草から、蜜のような甘い粘液が滲みだしてくる。大好きな甘い味の匂いだが、今はそんなことを気にしている余裕もなく。女にありつくことも出来ず、触れてくれる相手もいない肉棒が、滑る蔦草に上下に擦られる。
一瞬で頭が沸騰し、動けない四肢に力を入れて射精するために腰を前後に動かすが、その瞬間に草に握りしめられた肉棒が解放される。先端が空しくぶんぶんと空を切るだけになった肉棒は、冷たい外気に晒されて快感も体温も急激に冷めていく。
「てめ、なんで……」
「そんなに早く終わってしまったらつまらないだろう? それと、前ばかりに意識を集中していると」
「うごっ」
抗議の声を上げている間に、リングマのアナルにツタが潜り込んでいく。このツタも、ドロドロの粘液で滑らかになっており、細いこともあってすんなりと直腸内に入り込んでいく。
中に入ったツタは、直腸内を縦横無尽にのたうち回り。前へと進んでそのツタを抜いてしまいたいのに、四肢を縛る草の戒めはどうあがいてもほどけそうにない。異物が暴れまわる感触の耐えがたい違和感に、リングマは反射的に体を逃がそうとするのに、メブキジカは解放を許さない。
ガクガクと四肢が震え、力を抜けば胸と腹を持ち上げて支えられ、抜け出そうとすれば力強く根を張った草がしがみついて離れない。あまりの気持ち悪さに涙がにじんでくるのだけれど、そうしてもがく尻の動きが、まるで雄を誘う雌のようで煽情的。
腰にのしかかってリングマの筋肉の躍動を感じているメブキジカとしては面白い限りだ。
「やめ、やめろ……気持ち悪い」
「そうか? その割には、お前の肉棒が元気じゃないか?」
「え? あ? ……なんで」
腹の中がくすぐったいという未知の状況に体は拒否反応を示しているにもかかわらず、しかし肉棒は体とは裏腹に喜んでいるかのように大きいまま。
「このまま続けていけば、気持ちよくなるかもしれないぞ?」
「ふざけんな! そんなわけないだろ……気持ち悪くって仕方ねぇ」
「試してみるか?」
拒絶の語気も強くなってきたリングマに、メブキジカは余裕の表情を見せつけてやる。後ろに振り返って抗議の声を上げていたリングマは、その顔の憎たらしさに思わず歯を食いしばった。
しかしながら、どんなに歯を食いしばっても、絶対的な力の差は埋まることがない。侵入した蔦は、時間を経るごとに太さも長さも増してゆき、蜜を中に分泌し続けていく。体内に栄養素を注ぎ込まれ、そのおかげか先ほどよりも活力がみなぎっているのがなんともいやらしい。
気持ち悪いのに癒される。気持ち悪いのに元気になる。体をまさぐられる気持ち悪さが、癒しと元気に飲み込まれていく。この気持ち悪さを嫌いに慣れなくなる。そうして心が折れてしまうと、リングマの脳は気持ち悪さに対して鈍くなり、代わりに元気になる感覚と癒される感覚に鋭くなり始めた。
アナルを弄られるたびに腰が跳ねてしまう事はなくなり、括約筋がきゅっと締まるだけにとどまる。尻の動きは前へではなく、後ろに引っ張られるように動き、これではツタを受け入れてしまっているようなもの。
リングマは文句を言う事はなくなり、代わりに喘ぎ声が増えた。試された結果、『気持ち悪くて仕方ない』は『悪くない』に変わってきた。『悪くない』に変わってからは、メブキジカは意地悪な焦らしを開始する。リングマの肉棒に草を伸ばして、くすぐるように弄る。
リングマが腰を振って射精に居たろうとしても、メブキジカはそれを許さずに焦らすだけ。後ろから体の中を弄られて、前は中途半端な刺激でじらす。
「くそ……焦らしてるんじゃねえよ……」
体をどれだけ捩ってもままならない状況に、リングマはついに弱音を吐き始めた。
「その前に言うことがあるんじゃないのか? 気持ち悪いだけじゃないんだろう?」
「あぁ、なんか気持ちよくなってきたよ……今すげーじれったくてもどかしい気分でどうにもなんねーよ。だから、早くどうにかしてくれよ!」
「いいぞ。お前の中から、気持ちよくなりたいと、そういう気持ちが強くなっているのを感じる。この感覚が癖になったのか? 悪くないだろう?」
「悪くはないけれど、もう我慢できないんだ……早く何とかしてくれ」
「大分素直になったな。お前はなかなかウケの才能がある。その才能、伸ばすといいぞ?」
メブキジカは甘く囁きながら、さらにリングマの体の奥の方を突く。
「にょあっ!? う、う、ウケってなんなんだよぉ」
今まで触れられなかった場所までまさぐられて、軽く小突いただけなのに間抜けな声が上がる。
「ウケってのはだな、男同士の交尾で、雌の役割をする奴だ。雄の役割をする奴は攻めとも言うな」
「雌の役割って……うぅぅ……」
「ん? もしや、否定するのか? 今のこの状況を見て、男らしいポーズに見えると思うか?」
「……思わねえよ。いいから、そんなことよりも早く何とかしてくれ」
「そう嫌そうにするもんじゃあない。ウケが出来る奴は、体を取引材料にして他のポケモンと交渉したり、いい友人関係を築いたりなど、得な立場になれる。もしかしたら、雄と交尾したい他の雄から、交渉で木の実を貰うこともできるかもしれないぞ? これまでの旅でそういう奴も見てきた」
「木の実のために雌の役割してる今の俺みたいに、ってか……」
さらに奥を突かれた不快感にもだいぶ慣れてきた。じんわりと快感が滲みだし、リングマはどんどん余計なことを考えることが出来なくなっていって、頭に靄がかかっていく。
まだかな、まだかな、いつ気持ちよくなれるのかな? 頭の中ではそればっかりを繰り返して、どうせ何を言っても聞き入れてもらえないので、もうメブキジカに何かを言うつもりはなかった。
肉棒には触れられていないが、何か掴めそうな気がしてリングマは腰を揺らしてツタの刺激をもっと強くしてほしいと求める。無心になって後ろ側に腰を振る姿は、とても雄には見えなかった。目元はとろんとして、舌は出て、唾液が滴っている。
狩りのために本気で自分を殺しに来た時のような命を懸けたギラギラした感じとは全く違う。そのギャップにメブキジカは酷くそそられた。
「リングマ」
「あぁん?」
ため息と言葉が混じるように曖昧な返答が漏れた。
「終わらせるぞ」
メブキジカは一言前置きをすると、リングマの中に入り込んでいたツタを一気に引き抜く。
「んっん……」
その快感に、声を漏らした次の瞬間にはメブキジカが後ろから肉棒を差し込む。ツタに比べれば自由度もないし長さも太さもイマイチ。だが、リングマの肉棒に草が絡みつき扱き上げている。後ろと前、同時に攻め立てられ、リングマは心臓の準備も整わないままに射精を促される。リングマが腰を動かすと、今度は意地悪せずにそれに応じた。
心臓の鼓動は、たった数秒の間に恐ろしく速く脈打ち始める。もはや言葉もない、わけもわからぬまま快感に突き動かされたリングマは射精し、白濁液を踏み固められた雪の上にぶちまける。それらは少しの間湯気を発していたが、やがて冷えて固まっていった。
気を失いそうになるほどの衝撃を終えて、リングマの体は力を失い雪原に倒れ込もうとしたが、彼を戒める草がその体を支えていた。メブキジカのほうを気にする余裕がなかったが、気付けば彼はアナルの中にたっぷりと射精している。
あぁ、俺は完全に雌扱いされてるんだな、という感想が頭に浮かぶも、それを悲しいとか屈辱だとか思うには、あまりに消耗しきっていた。頭の中は気持ちよさの余韻でこのまま眠ってしまいたくなるような……深いため息が出る。
「よかったぞ、初めての雄としての雄同士の交尾」
メブキジカはそう言ってリングマを縛っていた草の戒めをほどいていく。
「そりゃどーも。約束、守……あ、あれ?」
リングマが何かを言いかけたとき、体からすさまじい力が沸き上がるのを感じる。この感覚には覚えがあった。幼い頃、ヒメグマだった自分が姿を変えるときの……直後、リングマの体は光に包まれ、おめでとう。
リングマはガチグマに進化した!
「え? え? え? ……なんじゃこりゃぁぁぁぁぁぁぁ!?」
進化した本人が一番驚いている。
「あれまぁ」
メブキジカもあっけに取られている。
「『あれまぁ』じゃねえよ、なんだよこれ!?」
「ま、まぁ、強そうな姿でよかったじゃないか……」
満月の夜、謎のメブキジカの力を注ぎ込まれたせいで、リングマは忘れ去られた昔の姿を取り戻してしまったらしい。実際、メブキジカの言う通り、強そうどころか実際に強い姿なのではあるが、体が大きい分食料も余計に必要なのは、この季節には少し辛いところだ。
「と、とにかく約束は守るぞ。待っていろ」
メブキジカはそう言うと、自身の前脚を光らせて地面に送る。すると、見る見るうちに木の実が雪を突き破り、みずみずしい果実を実らせていく。
その量は先ほどのリングマにふるまったものとは比べ物にならないほどに大量で、この冷えた空気の中ならば、腐ることもなく長い期間の食料になるだろう。もしかしたら今から冬眠することも可能かもしれない。
「これで文句はないな?」
「あ、あぁ……お前本当に何者だ?」
「ただのメブキジカさ。あぁ、そうそう……この体はもう使わなくなるから、食っていいぞ」
そう言いのこして、メブキジカは雪原に倒れた。残った死体はうんともすんとも言わない。
「え?」
その際、山吹色の光を纏った巨体がメブキジカから分離していったが、それはすぐに夜の闇に消えてゆき、正体は全く分からなかった。
「え? え? 何? え? なんでこのメブキジカ死んでるんだ!? ってか……このメブキジカの死体、食っていいのか!?」
ともかく、ガチグマは突然動かなくなったメブキジカの死体を解体した。とても美味しかった。その後、出来る限りの死体の残りと木の実を、巣に持ち帰る。何が何やらよくわからな過ぎて混乱しているが、どうやらガチグマは冬を越せそうであった。