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来てはみたけれど の履歴(No.1)


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 物を運んだり、届けたりする仕事。この仕事は今やなくてはならない職業。店に行かなくても、ネットで買い物をすれば、どこかしらの業者が届けてくれる。そういう時代だ。
 今日はそんな仕事のお話。仕事を探している皆様方の参考になれば幸いだ。
 まあ、最初に言っておくと、労働環境はそこまで悪くない……と思う。このご時世なんで仕事が多いのは事実だが。どういうことかはおいおい説明していこうと思う。

「ただいま、戻りました」
「ああ、お疲れさま。少し休んで」
 この会社にはちょっと変わったオプションがある。一言で言えば、荷物を早く届けてくれるものなのだが、荷物には制限がある。何でもいいというわけではないのだ。それに、早く届けてくれるのだから、追加料金がかかる。これもまあ、仕方のないことだ。そもそも「配送料無料」とかいうのが冷静に考えればおかしいのであって……。
 おっと、話が横道にそれてしまいそうだ。ではでは、オプションの説明からいきましょうか?
「カイリュー、説明する?」
「いや、休ませてくださいよ……」
「あ、いや。冗談冗談」
 所長が説明を横投げするかと思いきや、ここの営業所の所長は部下からの評判も良く、部下に仕事を押し付けるような真似はしない。なんだって、そうかもしれないが、悪評というのはすぐに広まってしまうもの。何でも先代の所長はパワハラ疑惑で、左遷されたらしく、それで、本社から今の所長が派遣されてきたというわけだ。
 この会社、というか営業所には荷物を早く届けてくれるオプションがある。追加料金はあるが、評判はいい。

・ラティオス便。この会社のエース。荷物と甘いマスクをあなたにお届け。もちろん、ハイスピード配達。
・カイリュー便。陸上輸送と違って、渋滞に巻き込まれないので、時間の正確性には自信あり。
・ガブリアス便。まあ、短時間で届けてはくれるけど……。見た目がちょっと……。

 当人は「しょうがないだろ! そんなの」と言っていたが、容姿ばっかりはどうしようもない。見た目がちょっと怖いのが難点だな、もちろん、悪い奴ではないんだが。
 当然、普通の人間も働いているし、所長も人間だ。ちょっと考えてもらえば分かると思うが、ポケモンにトラックを運転してくれと言ってもそれは無理なわけで……。
 むろん、所長の手持ちではない。もしも、こんな「凶悪な」面子が手持ちなら、そこら辺の大会に出て、片っ端から相手を薙ぎ倒し、ファイトマネーで生計を立てたほうがはるかに楽かもしれない。
「じゃあ、次は、労働環境だな。帰ってきたばかりでって、お! ちょうどいいところに!」
「あ、すいません。次の配達があるんで、話ならまた後で」
 ラティオスが配達を終えて戻ってきたが、次の配達があるらしく、水を飲むと、伝票と荷物を持って、風のように出ていった。
「やれやれ、せわしないやつだな」
 そう言って、所長はラティオスの後姿を見送った。
(すごい、もう見えなくなった……)
 
 働いている以上は当然ながら、ちゃんと給料も出る。どうしても、税金や社会保険料などは引かれてしまうが、何かあったときは、国の公的な保護があると考えていい……。多分な……。
 カイリューにしろ、ラティオスにしろ、この仕事は副業であって普段は別の仕事をしている。プロのトレーナーの手持ちなので、本来の収入はファイトマネーということになるのだが、このご時世で催し物はことごとく中止か延期。そうなると当然、収入が断たれてしまうことになる。
「1回あたりに入ってくる金額は大きいんだろうけど、まあ、プロのトレーナーって言っても、自営業だからな……」
「ええ、まあ『勝てれば』の話ですけどね」
 なかなか一攫千金というわけにはいかないようだ。もっとも、大金を手にしたとしても、次の年に税務署に結構な額を持っていかれることにはなるが。
「って言ってもまぁ、純粋な専業は少ないですよ」
「と、いうと?」
「本業が農業だったり、漁業だったりするやつがいるんですけど、これがまた過酷な作業で鍛え上げられたもんだから、猛者揃いでして、なかなか手ごわいですよ」
 人間にやらせるのと違って、追加料金がかかるものの、需要はかなりあり、ラティオスは勤務時間中に休む暇がほとんどないが、その分、高給取りとなっている。具体的な額は明らかになっていないが「人間よりも稼いでいるんじゃないか?」とのこと。
 何でも、ファンになってしまうお客さんが多いとのこと。
「そりゃ、ドアを開けてあんなイケメンがいたら、ねえ?」
 春や晩秋のように穏やかな天気が続く季節はいいが、真夏や真冬は照り付ける日差しや乾いた冷たい空気との戦いになる。屋外の仕事であるため、この点は少しきついかもしれない。
 今は宅配ボックスの普及で、そこに荷物を置いて帰ってくることも多くなったが、依然としてドアを開けて荷物を直接渡すというケースもまだまだ多い。

 ところで、このオプション。追加料金がかかるということはすでに述べたが、もう1つ大事なことがあるので、その説明を。
「所長。またあの家、留守でしたよ!」
「ええ? また? いい加減な依頼主だな」
 というようなケースが今は減ったものの、以前は結構多かった。どういうことかというと、荷物を届けに行って、家主が留守で渡せなかったという場合は、不在票を入れて、荷物は帰ってくることになる。その後再配達をしてほしいという連絡があり、指定された時間帯に行くと、またしても留守。
 トラックに荷物を積み込んで届ける場合は「しょうがない、次に行くか」となるが、ポケモンには荷物をそうたくさん持たせることが不可能なので、一度営業所に戻らないといけない。この時間がもったいないのだ。一度くらいならちょっと家を空けた時間に来てしまったということもあるかもしれないが、二度三度とあると届ける側としてはたまったものではない。
 そのあたり、依頼主の性格が出ているというか「三度目の正直」ということは少なく「二度あることは三度ある」ということの方が多い。
 そういったことが続くと労力と時間の無駄になるので、営業所というか会社の方でも対策に乗り出すことになった。まずは、起き配つまりはドアの前に置いてきてしまう形式にしてしまうこと。
 もう一つは、再配達のための手間賃をもらうシステムにするというものだった。人件費と燃料代の高騰で、利益が目減りしており、少しでも穴埋めしなくてはならないという事情もあったのだが、再配達に来るように言っておいて、不在などというふざけた状況を減らすという目的の方が大きかった。ちなみに追加料金のことは、不在者伝票にきちんと書かれており、代引きと同じ方法で、荷物を届けに行ったときに徴収するというわけだ。
 再配達させる度に追加料金がかかるという仕組みに納得がいかないのか、文句を言いに来た客がいて、所長が渋々対応していたが、結局はお引き取りいただいた。再配達も一回目までは追加料金は発生せず、二回も三回もそんなことをさせなければ済む話だし、嫌なら営業所まで取りにくればいい話なのだが。
「まったく……。気分が悪くなった……」
 所長はそういうと、まずは営業所の空気を入れ替えさせ、それでも空気が良くないと感じたのか
「みんな、ファブリーズだ、ファブリーズ!」
 徹底的に、見当違いな文句を言いに来た客の痕跡を消していた。ちなみに、あまりにも理不尽なクレームをつけると、ブラックリスト入りしてしまい、依頼を拒否されることもあるんだとか。
 所長が言うには
「違う意味で世間に広まってしまったから、本人も気の毒だけど『お客様は神様』とかいったやつが恨めしいわ」
 とのこと。理不尽な要求や意味不明な苦情に対しては、塩対応どころか無視でもいいのだが、そういうやつに限って、金は出さない。神様でも「貧乏神」か「疫病神」でしかなく、依頼が来なくなっても何の問題もない。本社にあれこれ言われると、面倒なので、最低限の礼儀は持って応対しているが、所長曰く「時間の無駄」とのこと。
 ああ、そうそう。料金が嫌というのなら、こんなプランもあるのでどうだろうか。安いは安いぞ。

・ヌオー便。安さに自信あり。いつ届くかはお約束できませんが、荷物は届きます……多分な……。

 急ぎの依頼主が多いということもあってか、このプランの需要はほとんどないらしい。ちなみに、確実に追加料金を払わなくても済む方法と言えば、営業所に取りに来るか、コンビニに届けてもらい、自分で取りに行くという方法がある。
 平日に来られても、仕事や学校でどうせ受け取れないからという理由で、この方法を選んでいる依頼主も多い。
 全体的に外出自体が減ってしまった世の中なので、それと反比例するように荷物の扱い量は増えてはいる。しかし、運び手もそれにして増えてくれればいいのだが、なかなかそうもいかない。
 ある日のこと
「なあ、カイリュー」
「なんでしょう?」
「箪笥の数え方って、知っているか?」
「ええと『一つ』『二つ』ではなくて?」
「じゃあ、ラティオスは、知っているか? 箪笥の数え方」
「ああ、確か『棹(さお)』でしたね?」
「そうそう、その通り」
 この通り、ラティオスは優しいし、イケメンだし、頭もいい。当然ながらモテる……と非の打ち所がないのだが、内心、バカを見下しているのでは? ようにも見えるらしい。まあ、これだけ出来が良ければ妬まれもするというもの。妬んでいるやつが勝手にそう言っているのだろう。
「一つ」「二つ」でも問題はないのだろうが、箪笥はこのように数える。由来は諸説あるが、棹を通して肩に担いで運べるように作られていたから、という説が有力である。
 所長が言うには、急ぎの荷物があるのだが、その荷物というのが桐箪笥とのこと。
「ラティオスとカイリューで担いで持って行ってもらおうと思ったけど、まあ、遠いしそんなことさせるのも可哀想だし断っておくよ。普通にトラックの夜行便で運んじゃうよ」
 ホームセンターで売っているような衣装ケースに毛が生えたような代物ではなく、桐製の箪笥と言えば高級品だ。それでいてデリケートである。何かあったら困るし、家主が万が一留守だった場合、また持って帰ってこないといけないからだ。
 と、このように荷物によっては断ることも結構あった。
「ただ、運べばいいってわけじゃないんだよな。板ガラスとか、鏡だと運び方に注意しないといけないし」
 板ガラスや鏡も人間が運転するトラックに厳重に梱包したうえで運ばせている。というのも鏡や板ガラスは運び方があって「横に寝かせて運ぶことは厳禁」ということは、新入社員でも知っていることだ。研修の時に絶対にやってはいけないこととして教えられるからだ。
 なぜかというと、寝かせて運ぶと、わずかな振動でもひび割れが入ったり、割れてしまったりするので、その時点で商品としての価値がなくなってしまうからだ。だから、ガラス類は必ず立てて運ばなければならないことになっている。
 運べる荷物に制限があったり、それでいて追加料金が発生するものの、需要は結構ある。運ぶ荷物としては傷みやすい生ものや急ぎの書類が多い。仕事の全体量が多いため、仕事がないということは絶対にない。

 ではでは、職場の環境はどうか。最初に言ってしまうと、所長や内勤の人によって大きく変わる。こればっかりは運かもしれない。幸い、この営業所では何の問題もないが、果たして他ではどうだろうか?
 ちゃんと給料は、手当ても弾んでくれる。唯一悪い点があるとすれば、所長がカイリューやラティオスに触りたがることだろうか? むちむちとしているため、一回やったら病みつきになってしまったとのことだ。定期的におさわりを要求してくる。人間にやったら、確実に捕まってしまう。
 ちなみに、ガブリアスの場合はというと、所長が一回試してみたところ
「あー……。まるでホホジロザメ」
 とのこと。
「所長、それは褒めてるんですかい? それとも……」
「もちろん、褒めてるよ」
 といって、視線を合わせようとしない所長。周りの者は笑いをこらえるのに必死だった。
 働いているポケモンたちが言うには
「仕事はきついけど、体も鍛えられるし、給料もいいから」
 と、それなりに満足はしているらしい。もっとも、収入が多くてウッハウハかというとそういうわけでもなかった。日々のトレーニングなどで、出費も多いらしく収入が多くても、貯金がすごい勢いで増えていくという状況には程遠かった。
 それに、本業が農業や漁業だと、天候に大きく左右されることもあってか、元々の収入が実はそれほどでもないため、暮らし向きは意外と質素だったりする。それに、中には設備投資などで借金を抱えているところもある。ブランド物を作り出して、それで当たればデカいらしいが……。
「うーん、農業は博打っていうけど、本当なのかもな」
 本業が農業だったり漁業だった場合、ファイトマネーを獲得していき、名が知れてくれば、うまくいけば自分たち作り出している生産物の宣伝に使うこともできる。効果があるんだがないんだか分からないような広告を、広告会社に高いお金を出して作ってもらうよりはよほど効果がある。
 バトルに必死になるということは、名誉というよりも生活がかかっているという側面もあるのかもしれない。
「なるほどなるほど、大変だな。ちなみに、カイリューの家って本業は何しているの?」
「ウチですか? 梨農家です。フルーツは当たれば大きいですよ。当たれば」
 トレーナーが、農作業をしている間にこうして働きに出ているというわけだ。一緒に農作業をすることもあるのだが、近頃は燃料代も上がっていることに加えて、食糧難というわけでもないのに、フルーツ泥棒まで出る始末だから、結構経営は大変らしい。通勤電車に押し込まれて、会社に行く必要はないだろうが、その代わりに土日祝日などない世界だ。それはそれで大変かもしれない。
「だから『共働き』じゃないとやっていけないんです」
「なるほどな。ところで、泥棒対策のため、夜寝ないで張り込みをしたりとかもするわけ?」
「するけど、夜通し起きているのは大変ですよ。電流が流れる柵を設置したら、減りましたけど」
「おお、よかったな」
「ただ『減った』だけで、ゼロになったわけじゃありませんからね」
「とんでもないやつがいるもんだな、まったく」
 過重労働にならないように、最近は日曜日は完全休業日にするなど対策を取っているが、それでもなかなか日々の仕事量は多い。
 営業所の入り口が開いて、ラティオスが戻ってきた。
「おお、お疲れ様。どうだった?」
「宅配ボックスがあったんで、そこに置いて帰ってきました……って、どうしました?」
「所長、ラティオスさんのこと、指でつんつんしたいんですって」
「そ、そんなこと言ってないだろ」
「目がそう言ってますよ」
「……まあ、あのお昼休み取りますね」
「うん、お疲れ様」
 こういう職場で、仕事量は多いし、来てみたけど、無駄足だったということもある。でも、給料は弾むから、誰か来てはくれないだろうか?
 働きには、給料と手当てで応えます!


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