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#author("2023-12-08T00:42:06+00:00","","")
#include(第十一回帰ってきた変態選手権情報窓,notitle)
この作品には人を選ぶ要素(&color(white,white){強姦♀→♂・♂→♀ 浮気・NTR 同性♀×♀ 3P♂♀♀ TFリージョンフォーム 拘束 肛門異物挿入 失禁 ポケモンの能力でしかできない特殊責め 流血};)が存在します。
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*怨恨の宴 [#rfc2fa16]
波導を駆る蒼き戌獣人、その名もルカリオ。彼は故郷のシンオウの大地を股にかけ、修行の日々を続けていた。そんな中で、ある時自分は既にシンオウの大地を一通り巡っていたことに気付く。その瞬間、彼の脳裏に新たな選択肢が浮かび出た。このまま延々とシンオウの大地を往来し続け、究めていくのも一つの路。だが、敢えてシンオウの外に飛び立つと何が見れるのか。
逡巡、のち、逡巡。
数日のうちに膨らんだ気持に身を委ね、ルカリオは船のコンテナに入り込んでいた。どこに向かうかなど考えない。出たとこ勝負。着いた地に合わせて出会いと研鑽に励もう。そのような蛮勇じみた旅立ちの時は、あんな道程になるなど考えてもみなかった。
[[イッシュにて>#isshu]]
[[カロスへと>#karosu]]
[[アローラでは>#arora]]
[[ガラルより>#gararu]]
[[ヒスイには>#hisui]]
[[パルデアから>#parudea]]
&aname(isshu);イッシュにて
船のアナウンスが停泊を告げる。イッシュ地方のホドモエというところに着いたらしい。それにしても想定などしていなかった長い航海であった。航海の二日目に乗組員に見つかり、武芸を披露することで受け入れられてそのまま乗船を許されていたが、そうでなければ餓死してもおかしくない日数海の上にいた。蛮勇もほどほどにしなければと出だしから反省で始まってしまう。
「まあ、到着だ」
既に何日ぶりかもわからない陸地に降り立つルカリオ。可愛がってくれた乗組員たちが声を掛け手を振りながら見送るのに応えると、そのまま町の中を一直線に駆け抜ける。簡素で硬派な街並みは、同じ港町でもシンオウのミオシティとは大きく異なるのを感じさせられる。
「さて、どこに向かうか……」
行く先に全く当てが無いのは、シンオウの大地を往来する修行の時から変わっていない。ならばここからも変わらず波導に従えばいいだろう。そんな軽いノリで、何となく向かったのは町の東側。大きな彫像が鎮座する公園に入ると、その先にはシンオウでは見れない巨大な赤い橋が伸びていた。下には船に乗っている間と変わらない波間が広がり、潮風の香りももう幾日も嗅ぎ続けたものである。シンオウ地方にあるサイクリングロードは、同じ巨大な橋梁でも陸橋であるため、異郷に対する新鮮さを感じずにはいられなかった。
「出て来てみて良かったものだな」
先程の反省ももう吹き飛んでしまっていた。遠い地に降り立ちまだ間もないというのに、早々に喜びを吐露するルカリオ。橋の向こう、視界の果てに霞む輝きもまたシンオウでは見たことが無い異質なものだと感じさせられる。期待は膨らむばかりである。舞い降りてきた一枚の風切り羽を胸の毛並みに挿し、この旅路の飾りとする。
長かった橋の上の時間も終わり、遠かった輝きもだいぶ近くなってきた。木々の並ぶ間に人々が往来する道がもう少し続いている。途中で挑んできたトレーナーは何人かいたが、縦横無礙(じゅうおうむげ)、相手の技を受ける場面すら無く、飾り羽はずれてすらいなかった。故郷で鍛えた技は、遠くイッシュの地であっても通用することに若干の高揚を覚えつつ。
「さて、到着か?」
遠く見えていた輝きは、街並みのものであるというのは近付くにつれて理解していた。入り口のゲートをくぐると、そこは。無数の電飾が立ち並び、昼間でも明るさが変わるほどの煌びやかな街並みであった。
「ここは……?」
バトルを楽しむ施設のものと思われる看板、シンオウの「コンテスト」を思わせる施設の広告塔。全て電飾で彩られていた。ひときわ目立つのは聳え立つ巨大な円盤状の存在。観覧車というものをルカリオは知らなかった。あの円盤の頂上に至れば、町全体どころではなく遠くまで見渡せそうである。見渡せそうではあるが……。
「なんか、俺……」
これでもかと言う程に彩られた、豪華絢爛な娯楽都市。その空気は、どこか自身を異質なものへと押し込めるような印象があった。大きな街並みの中では小さい自分が指差されるようなことは無いのだろうが、生真面目に修行に明け暮れる自身には居づらさを感じさせられてしまい。路地裏の歓楽街が巨大化したような退廃的な……などと言ったら怒られるだろうか。遠くからでも見えるほどの輝きは、しかし思っていたものとは違っていた。異郷にはこういったものもあるのかと、とぼとぼと歩き続け。
その日は町の中心部にある、建物の屋根の上で眠り夜を明かした。夜中でも燦然としている無数の電飾のお陰で、どうにも寝た気がしない。すぐ真下には波導を読むまでもなく実力者とわかる風格の者たちが出入りしているのが見えたが、修行と銘打ってもなお挑む気にはなれなかった。
「仕方ないか……」
まさにカルチャーショック。昨日は異郷の新鮮さに喜びを感じたが、この地も自分のために用意されたわけではない。合わずに落胆させられるのも旅路というものなのだろうと気持ちを振り払うと、ルカリオは屋根から飛び降りる。唐突な出現に通行人たちは驚くが、気にせずに更に東へと走り出す。屋根の上からは巨大な森が広がるのが見えた、細い道路へと向かっていく。波導という名の当てずっぽうで、あの森なら良い修業が出来そうだと感じたのである。
道なりに進むと、森は南から入る形となった。入り口からして木々が鬱蒼と生い茂っており、その奥はあまりにも木々が密であるあまり立ち入ることすらできないようにも見えた。だが、その木々の生え方に異様さを感じたルカリオは、波導を迸らせてその奥を覗き込むと。
「あららら? そうまでして覗きなんて、良い趣味しているわね?」
見たことの無い黒いポケモンが、舌なめずり一つしてこちらに目を向けているのが見えた。当惑、などという生ぬるいものではない。扇情的とも蠱惑的とも言うべきその立ち振る舞いは、先程の電飾の街すら居づらさを感じたルカリオには即座に警戒心を植え付ける。
「アタシはゾロアーク。アンタは?」
「……ルカリオ」
「ふぅん? ルカリオ、ね? 中々のイケメンね!」
ゾロアークはもう一度舌なめずりをすると、腰に手の甲を当てて股を大きく開き。明らかに誘惑しているのが見て取れた。強さを求め修行に明け暮れる中で、無用のものと押し留めてきていた性欲。今更この程度で動くようなことは無かったが故に、逆に嫌悪感を抱かせる。そんなルカリオの心情は、波導を辿れない者であっても表情を見るだけで嫌と言う程感じ取ることができる。
「あらあら。うふふ! そんなに嫌がるなんてね」
「寄るな、汚らわしい!」
「んふっ! 大丈夫よ。アタシの得意技は幻影だからね。素敵なもの、見せてあげる?」
言い終わる頃には、ゾロアークの姿は砂の如く崩れ出していた。視界を奪い、ここから何をしてくるか。させるものかと、ルカリオは波導を迸らせた。その瞬間。
「ひぁっ!」
「あらあら? 触ってないわよ?」
言いながらも、ゾロアークは片手で空を優しく摘まむような手つきをして見せ。ルカリオは触れられてもいないのに、衝撃に身悶えする。波導を読んだだけで、何故。明滅する視界の向こうで、ゾロアークは口元を釣り上げる。
「やっぱり精神を読むような能力だったのね? 今のアタシの精神、気持ちいいことでいっぱいだからね?」
「なっ? おま? ひぃっ!」
ゾロアークが手首を返すような動きをすると、それだけでルカリオは悲鳴を上げる。ゾロアークの頭の中では、その手でルカリオの雄を撫で上げる光景が鮮明に映し出されていた。ゾロアーク自身は女であるため感じられる衝撃は想像するものでしかないが、それでもルカリオ相手には効果が覿面だったらしい。膝から崩れ落ちそうになるルカリオ、その股の毛並みからは、雄のそれが顔を出し始めていた。
「お前……くそっ!」
ルカリオは波導を読むのをやめ、押し寄せる快楽の波を遮断することに努める。しかしそれと同時に、ゾロアークの姿は再び崩れ落ちていた。波導を読めば強烈な快楽を叩きつけられ、読むのをやめればゾロアークの姿は視認できなくなる。万事休す。最早破れかぶれに拳を振るい、偶然にも当たることに期待するしかない。背後を突いてくるかと体の向きを返しながら拳で薙ぎ払うと。
「残念ね?」
その瞬間を待っていたゾロアークは、ルカリオの正面から胸元に入り込んでいた。その手には溜め込まれた気合玉。
「ごほぉっ!」
零距離から叩き込まれた弱点属性の弾丸。どんなに制御が難しくともこれでは外れない。ルカリオは咳き込んだ時点で弾き飛ばされており、胸の飾り羽は砕け散った。しかし叩きつけられた地面は柔らかい草むらであるのはゾロアークの気遣いなのだろう。
「後ろからを読んだみたいだけど、アタシの欲しいモノは前にあるのよね」
ルカリオのことを慮った気遣いではなく、自分の欲を満たす相手であるためである。仰向けに倒れ、投げ出された四肢。衝撃で一旦は縮み上がってはいるが、ルカリオの雄は手を伸ばすには丁度いい位置に出ていた。
「ふ、ふ? 貰うわね?」
ゾロアークはルカリオの陰嚢の裏側へと手を伸ばす。それだけで。
「ひゃひぃんっ!」
ルカリオは先に受けた痛みすらも吹っ飛ばされていた。大きく鋭い爪が生えるその手で、しかし陽根陰嚢を傷つける様子も無く器用に撫で上げる。文字通り息子を手玉に取られたこの瞬間、ルカリオは体を強張らせ震えることしかできなくなっていた。
「美味しそうね?」
持ち上がった性器の先端は、しかしまだ皮に包まれ出てきてはいない。ゾロアークは皮を掻き分けるように舌の先端をねじ込む。尿と先走りの混じった味がゾロアークの舌を刺激した瞬間には。
「ぃいいいっ!」
悲鳴も震えも一層激しく。誰かに触れられることなど無かった場所であるが故に、どこまでも敏感になってしまっていた。手足でもがいて逃げ出そうにも、それをする力すら入らなくなっていた。心は拒み続けているが、体は反射的にそこへと力を集中させており。着実に膨らみつつあった性器の姿にほくそ笑んでいたゾロアークだが、その瞬間を直感的に感じ取り、まだ出来上がってない性器を思いっきり咥え込む。
「うぉぉぉわぁっ!」
勃起しきるよりも早く、ルカリオは絶頂に至る。暴れ狂う性器を抑え込み、ゾロアークはルカリオの精液を口の中で全て受け止める。その独特の臭気で満たされた汁を、一滴すら惜しむように啜っていき。唇で丁寧に拭い取りながら解放すると、そこでようやく最大となった性器が顔を出す。はち切れんばかりに膨れ上がったそれは、空を指しつつも鼓動に合わせて震えており。そんな姿を眺めつつ、ゾロアークは重い音を響かせ精液を飲み下す。
「出してからが本番だなんてね?」
折れることなく膨らみ切ったルカリオの性器に、ゾロアークはご満悦である。まだ完成していなかったのだから、精を放つと同時に力を失ってしまっては興ざめとなるところであった。ゾロアークの方も膣口から奥までが脈動しだしており、飲みこむ準備は万端となっていた。
「ぅ……やめ……!」
まっすぐに立つルカリオの先端に、自らの割れ目を宛がう。ルカリオもその行いの意味は知っているし、何よりも先程の快楽でも砕け散りそうになっていた。ここで全てを行なわれては、とても耐えきれるとは思えない。そんな懇願すら、しかしゾロアークにとっては欲に突き動かすための衝動となり。
「っつ!」
「くぅうううんっ!」
浮かしていた膝を地面につかせた瞬間は、ゾロアークにとっても全身を貫く衝撃であった。一方、まだ先端しか飲みこまれていないにもかかわらず、ルカリオは盛大に喘いでいた。本番はまだ始まったばかりだというのに、心は早くも砕けそうであり。しかしそれとは裏腹に性器だけは容赦なくルカリオの力を吸い上げており。上下させながら徐々に飲みこんでいこうとするゾロアークの膣に、ルカリオの意思とは反対に食い込んでいく。
「やっ! あっ! あっ! あっ!」
ゾロアークが上下する、その動きのたびに悲鳴を上げるルカリオ。一方のゾロアークも余裕がなくなってきたのか、腰を振る激しさとは裏腹に無言である。膣が拡げられルカリオのモノが深く入っていくにつれ、息が荒くなっていくのだけは感じ取れた。
「最後!」
「あっ! うわぁあああっ!」
ゾロアークが唐突な掛け声とともにルカリオの性器を根元まで飲みこむと、呼応するようにルカリオは達する。精を吐いて震える性器がゾロアークを内側から掻き乱し、吐かれた精液が中へと染み込み満たしていく感覚。
「……っ! ……ぅっ!」
荒ぶる吐息。直前までの傍若無人な攻めが嘘のように、快楽で身を震わせるゾロアーク。その下で、ルカリオは精液はおろか魂まで吐き出さんばかりの勢いで射精し続ける。髄が快楽に打ち砕かれ、彼岸此岸の境も見えないほどに。
その到達からどれほどの時間が経っただろうか。お互い言葉も発せないまま。荒い息を飛び交わせ続け。ゾロアークの口からぶら下がった舌からは、丁度いい位置とばかりにルカリオの胸の棘へと唾液が垂れている。何時間でもこの余波に身を委ねていたいゾロアークであったが、それに気付いてしまう。
「ふ、ふ……。まだ、残ってるのね?」
「ぅえ?」
ルカリオの性器はこれでもなお折れることを知らず、ゾロアークの中へと喰らい付いている。まるで流し込んだ精を一滴たりとて外には漏らさないと言わんばかりに。そんな主の意思などお構いなしの性器に気付いてしまったゾロアークは。
「もっとくれるんなら……遠慮なく」
「ちょ……うわっ! あっ!」
腰を持ち上げ連戦へと突入する。全ての感覚が打ち砕かれていたと思っていたルカリオに対し、性器はそんな届かないはずの感覚をそれどころか余すことなく届けてしまう。突然に襲い掛かってきた相手を気持ちでは今なお拒んでいるのに、手先足先には今なお逃げ出そうという意思は残っているというのに。しかし僅かに股の間で立ち上がっている性器が全ての意思を抑え込んで、ルカリオの心も体も裏切り自らの欲へと突き進むのであった。
それから何時間が経過しただろうか。ゾロアークは延々とルカリオの上で暴れ狂い、それに媚び諂うように性器は幾度となく射精を続けていた。膨れ上がりこれでもかと言う程にゾロアークの膣を内から圧迫していた性器だが、この怒涛の射精の結果大量の精液を漏れ溢させてしまっている。ルカリオの内股は精液にまみれきっており、周囲に漂う青臭さが惨状を伝えている。ある瞬間、この場は満足したらしいゾロアークが、いい加減くたびれて萎え始めていた性器を引き抜きルカリオの脇に倒れ込む。そのまま幸せそうに寝息を立て始めたところまでは、ルカリオも遠くなっている意識の彼方で確認はしていた。
何時間も過ぎているのだけは感じた。すぐにでも起き上がりたい気持ちと収奪されつくした体の要求とのせめぎ合いの中で、いつの間にか落ちてしまった意識。今なお心身とも鉛と化したように重苦しいが、それでも身を奮い立たせて起き上がる。
幸いにも、ゾロアークは未だに寝息を立てている。突然に襲い掛かって凌辱の限りを尽くしてきた災厄に対し、それは幸せな添い寝までしてやったという結末。まだ目を覚ましてない内に、どうにかしなければならない。
「さて、こいつは……」
ルカリオは拳を握り締め、ゾロアークの顔を覗き込む。幸せそうに眠るその顔はつくり自体は可愛らしくもあるが、災厄をもたらした仇敵の顔である。相手が悪タイプであることも感じ取れるため、今なら波導を溜め込んだ拳を叩きつければ木端微塵にできる。
だが、それでも殺すことは躊躇われた。強姦されたことの仕返しとしても殺すのは流石にやり過ぎの気がするし、単純にルカリオ自身が誰かを殺すことへの抵抗を感じるというのが現実である。
何もできない。ルカリオは立ち上がると、そのまま寝息を立てるゾロアークを放置し立ち去ることにした。本当であれば何発か死なない程度に殴りつけてやりたい気持ちはある。だがそれでゾロアークを起こしてしまったら、また同じことの繰り返しになる。仕返しはしなければならないが、対策できない今やるべきではない。ゾロアークの傍から離れると近くの川で精液を洗い流し、再び走り出していた。
その後は森を離れ、これまで通り当てもなく彷徨い続けた。視界を制する幻惑を波導でもって破ろうとしたら、その波導から感覚に入り込み手玉に取ってくるゾロアークの戦法。恐らく向こうも強い精神を持っており、それが故に波導が逆手に取られるほどの大量の情報を送り込めるのであろう。出会って即座にそれを思いついて実行するほどの大した姦計の持ち主であるということまでは理解した。
だが、対策が全く思いつかない。何かヒントが無いものかと出歩くことにはした。西はあのあまり近付きたくない電飾の街のため、取り敢えず東に。再び巨大な橋に出会うことになる。橋が多い地方なのかと思いつつ進んでいくと、昨日の赤い橋と同様に羽が舞い降りてくるのが見えた。胸につけていた飾り羽は、ゾロアークの気合玉で砕け散ってしまったのを思い出す。その後凌辱され尽くした自身のプライドと重なるようで、どうにも悔しく腹立たしい。
「くそっ!」
ルカリオは首を振る。感傷に走っては見つかるヒントも見つからなくなってしまう。橋の上をひたすらに走り、腹の奥に渦巻く感情を振り払おうとする。橋上を抜けたところで丁度日が暮れたので、今日は一先ず橋脚のところで眠ることにした。腹の奥に渦巻くものは今なお苦しいが、一晩寝れば落ち着くはず。
翌朝。少しも落ち着いてなどいなかった。それどころか苦しみの正体を示すかのように、性器は盛大に勃起していた。修行の日々の中でいつの間にか朝勃ち自体無くなっていった程だったのに、ここにきて痛みを伴う程の盛大な勃起。起きるなり拒絶したくなるような現実であった。
目を背けて呼吸を整えることに努め、幾ばくかの時間が過ぎ。再び目を開けると勃起は治まっていたが、腹の奥にある暑苦しいものはなおも消える様子は無い。
「あぁ……」
悲嘆。昨日のゾロアークの凌辱で、自分の何かが壊れてしまったことを理解し漏らす悲嘆の声。ゾロアークへの仕返しより先に、何とかしないといけないものが増えてしまった。いつ再び勃起するかもわからない体になってしまっては、羞恥心で外を出歩くこともできない。ルカリオは頭を抱える。
気が付いた時には、昨日の森まで戻っていた。自分でもげんなりしてしまう答えであるが仕方ない。ゾロアークは昨日の場所で、満足げに木の実を食べながら腰を下ろしていた。
「あっ。ふふ、戻ってきたのね?」
ルカリオの顔を見るなり、喜びの色を深めるゾロアーク。脇に置いてあった木の実を一つ手に取り、勧めようと差し出した。その瞬間、ルカリオの膝がゾロアークの腹に刺さっていた。
「責任、取ってもらう……!」
「ぐっ! せき、に……?」
食べかけの木の実が地面に落ちる。幻影も何も準備していない状態で受けた、突然の一撃。打ちのめされて動けないでいるゾロアークを蹴飛ばし、仰向けの状態に転がすルカリオ。ゾロアークが「飛び膝蹴り」を受けた腹を押さえ、睨み返すことさえできないでいるのを見下ろし。
「お前のせいでこんな体になってしまった、その責任だ」
苦悶に顔を歪ませ目を瞑るゾロアークには見えていなかったが、盛大に勃起したルカリオの性器。一時に過ぎない凌辱でありながら、性欲を抑えられない体に変えてしまった。そのゾロアークの罪の、責任の切っ先。突き立てる場所は決まっている。
「ひゃあんっ!」
ルカリオはその割れ目に、乱雑に足先を押し当てる。痛みを吹っ飛ばして全身に響き渡る刺激。薄目を開けると飛び込んでくるのは凶器と化した先端。欲望の先走りにまみれ、凌辱した時とは打って変わった禍々しさ。同じものである筈なのに、到底同じものには見えないのは何故であろうか。
「ちょ、ちょっと!」
慌てて起き上がろうとするゾロアークだが、ルカリオが一度機先を制した時点でもう逃げることすらできない状況になっていた。ルカリオはゾロアークに覆い被さると、愛撫もそこそこに性器の先端を秘所に押し当て。
「許すか!」
「や゛ぁあああんっ!」
容赦なくねじ込んだ。一晩おいて沈静化しており、何の準備もできていないというのに。暴力的な挿入とあって、ゾロアークの中は音を立てて軋む。
「お前が昨日したこと……ぅう……」
一方のルカリオも、早くも苦悶の声を漏らしていた。準備など一瞬たりとて無かったため、肉質としてはほぐれておらずどこか強張っている。だが何はともあれ性器を包み込む形をしており、体温も健在である。昨日の凌辱までは性欲から長く離脱していた身であるため、反撃としてはかなり大きいものであった。
「ちょっと、いきなり……ぃやぁあああっ!」
腰を浮かして再び叩き込む。三度、四度……。中は徐々に脈動し始めているのを性器から感じ取るルカリオ。一方で身が内側から削り取られるような痛みにゾロアークが悲鳴を上げる姿は、この時点でも仕返しとしての価値あるものだとも感じる。
「お前も昨日はいきなりだった!」
ゾロアークの拒絶に対しては恨みの言葉で返すが、声が上ずっており虚勢でしかないのを感じ取られないだろうか。一先ず自らの中で渦巻くものを吐き出せれば、もうどうでもいいと腹を括り。突き込むたびに悲鳴を上げるゾロアークに対し、合わせるようにそれは膨れ上がっていき。
「う゛っ! ぶっ!」
「あ゛あああぁぁぁっ!」
決壊。溜まり切った苦悶が抜け落ちていく一瞬。生来に刻み込まれた快楽に身を震わせるルカリオと、暴力の果てに注ぎ込まれた熱に苦悶するゾロアーク。昨日とは逆の立場である。ルカリオはなおも身を震わせ、残渣をひとしずくも残さず吐き出し切り。
「ふぅ……」
おもむろに性器を引き抜くと、ゾロアークの毛並みに垂れる精液。対比色であり非常に目立つ。ゾロアークを押さえる腕の力は緩めない。いくら幻影を作り出せたところで、押さえ込む手の感覚を誤魔化すことはできないだろうと思い。
「仕返しの……つもり?」
「本当はもっとしっかり対策してから挑みたかったんだがな」
逆に今手を放してしまえば、昨日と同じ手段で反撃される。幻影で視界を奪い、見破ろうとした波導を逆手に取って快楽に入り込む封じ込め戦法。それを今使わなかったのは、戻ってきた理由が気に入ったからだと思い込んだゾロアークの油断のせいである。
「対策……ね」
「ああ。あの手には結局やられっ放しだったからな」
それはプライドというだけではなく、手を放せなくなっている現状を見ての話でもある。手を放してしまえば反撃に乗り出されかねないが、いつまでも覆い被さって手を放さないままというわけにもいかない。射精の余波が今なお脳内で響いているが、何とか対策を考えないといけない。
「読み取った精神が強く響いちゃうなら、強烈な精神を浴びまくって鍛えるとか?」
「あ?」
こいつは何を言い出すんだと、目を剥いたルカリオ。対してゾロアークも怪訝な表情を返す。交錯する目線。ゾロアークの言葉を考えること数秒、手段としてはありかもしれないと思い至る。即座にできる対策ではないが、時間を掛けて精神耐性を得ればあの手段に動じることは無くなる。だが。
「お前、自分の戦法の対策を教えてどうするんだ?」
「えっ? あっ!」
ルカリオが満面に浮かべた疑問符の答えである。ゾロアークは自分の失敗に頓狂な声を吐く。勿論すぐに対策されるということは無いのだろうが、確かに自らの戦法の弱点を当てずっぽうではあっても言ってしまうなどお間抜けな話である。
「お前……」
「やっちゃった。ふ、ふ……」
自らの失態を理解し、もうどうしようもないと失笑を漏らす。あの姦計の持ち主が思わぬ手抜かりを見せるものだと呆れるルカリオは、ここで気持ちが折れて手を放す。それに気付いても、ゾロアークはすぐには起き上がらず。
「なら、ヒウンシティに行ってみるといいんじゃない?」
「お前なぁ……。取り敢えず、地名は分からないが」
それどころか妙に楽しげに、ルカリオのための対策の続きを提案し始める。これ以上呆れても仕方ない。出した後の虚脱感もあり、ルカリオはゾロアークの隣で並ぶように仰向けになる。
「西にあるのがライモンシティ。あの派手な町ね? そこから南の砂嵐が吹く道路を抜けるとある、大きな建物がひしめく町ね」
「ここに来る途中でライモンシティは通ったが、ヒウンシティはまだ行ってないな」
「そうなんだ? 旅慣れているように感じたけど」
「シンオウっていう遠い地方から船でやってきて、今日が三日目だ」
「あー。来たばっかりだったのね」
「ああ。来て早々に酷い目に遭わせて……」
「まあ、お互い様ってことでね?」
最初の強姦を軽く詰ってみたが、謝る様子が無い辺りは流石である。今この体勢だと、応酬とばかりにまたしても強姦されそうな気もするが、何だかもう馬鹿馬鹿しくなったルカリオはそのまま身を投げ出すこととする。
「で、行くの?」
「ああ。なんでそのヒウンシティとやらなのかはよくわからんが、最初からあてを決めている旅じゃないからな」
「そうなんだ。ふふっ!」
何故そこで笑うのか、問う気にもなれなかった。強姦に対する強姦の応酬。最悪な出会い方のお陰で話しているだけでも疲れる。この後ゾロアークが起き上がれば、再び強姦されるかもしれない。だがそれが終わったら、自分が立ち去れば終わる関係だろう。ルカリオはため息一つ。疲れの中に意識を手放した。
「で、何でついてきているんだ?」
「別に? 責任、取らないといけないし?」
寝て起きて。森で次の日の夜明けまでを過ごした翌日。ルカリオはゾロアークに言われた通りライモンシティから南に向かっていた。その脇には、誘ったわけでもないのに何故かついてきているゾロアーク。話の通り吹きすさぶ砂嵐はゾロアークには若干辛そうではあるが、それでも楽しげについてきているのは何故であろうか。
「言っておくが、もうあんな責任の取らせ方はしないぞ」
「そうね。やるならもっといい感じにしないと気持ち良くないんじゃない?」
話が通じているのかいないのか。ルカリオ自身正直なところ、昨日出してから時間が経っているとあってまた蠢きだしているものは感じている。そして隣を見ればゾロアーク。長いマズルに鋭い目つきという獣的な強さと可愛らしさを備えたような顔つきであり、豊満な毛並みの下は素早い動きの障害とならない機能美の細身の体である。余計な言動が無ければ魅力的なのではないかと思いそうになるのを、どこか振り払っているルカリオ。つまらない欲は押さえるべきと必死に言い聞かせているのだ。
「それで、どうしてヒウンシティなんだ?」
「行けば分かる。もうすぐよ」
またか。ヒウンシティについては何度訊いても「行けば分かる」の一点張りである。繰り返すやり取りに不満を抱きつつも、何となくは感じ始めていた。もうだいぶ近くなっているのは、ルカリオの中では「もはや巨大建造物の羅列」という印象を抱いていた。見えるのは真っ直ぐな線が印象的な、単体では整った印象があるような建物が、しかし「羅列」と呼べるほど窮屈に並んでおりそれだけで見ていて息苦しい。シンオウ地方のコトブキシティも比にならない、存在しないが故にルカリオは「摩天楼」という単語を知らないのである。
「あっ、そうそう」
「なんだ?」
「町にいる間、あなたは人間になってなさい」
「はぁ?」
唐突にも程がある提案にルカリオが呆れた声を上げた瞬間、何やら視界に変化が起こった気がした。驚き見てみると、ルカリオの手が既に人間のものに変わっていた。それによって最初の視界の変化はマズルが消えたことによるものだと気付く。
「幻影、俺の方に使うのか」
「似合っているよ?」
いつの間にかヒウンシティのゲート前まで着いていた。扉のガラスに映り込むのは、ゾロアークと人間の少年である。身長は元のルカリオのままで変わっていないため、どうしても少年という様相になるのは仕方ない。何故ゾロアーク自身の方を変えなかったのかという疑問は残るが、もうどうせ碌な答えが返ってこないだろうと訊く気にもなれなかった。何はともあれ目的地。扉を開けてゲートを通ると。
「うっ……!」
人間。人間。人間。無数に人間であった。しかも、である。どの人間も多かれ少なかれ切羽詰まるものを抱いている。それもその筈、ここヒウンシティはイッシュ地方のビジネスの中心地。ヒト・モノ・カネが常にギリギリのせめぎ合いをする苛烈な中心都市なのである。勿論そんな事情は来たばかりのルカリオには理解できないが、波導を読むまでもなく漂う空気の強烈さを感じ取ることができる。個々人でも長閑なシンオウ地方の人々とは比べ物にならない様相をしているというのに、この数は。
「うぅ……」
逃げ出したくなった。ゾロアークの方を見れば、顔を背けており。噴き出しそうな笑いを堪えているのが分かり腹立たしい。むせ返るほどのこの空気の中で、下手に波導を読もうものなら倒れかねない。だがこれも修行なのだろうと意を決した、その瞬間。
「あ、波導を読むにしても、いきなりフルパワーはやめた方が良さそうね」
ゾロアークからのブレーキ。昨日のうちに「波導」「幻影」の情報は交換し、恐らくあの姦計の働かせ方から性質に思わぬ理解が及んでいるかもしれない。ルカリオの方は性格が実直過ぎるとあって、全力で波導を読むかその力を止めるかの両極端であり。実際今は全力で波導を読み取る力を起こそうとしていた。どこか悔しさとも腹立たしさともつかない感情は出てくるが、一方で全く頼りにならないほどでもないとは理解する。
「くっ……!」
僅かに波導を解放しただけで、もう逃げ出したくなった。誰かに向けた怨恨から誰にとも無い不平から、より正確なものが流れ込んできて反吐が出そうである。成功直後らしいポジティブなものも、それはそれで興奮が強烈な欲望と切り離せない状態となっていて近付きがたい。
「この中で、瞑想でもするといいんじゃないかな?」
言われてゾロアークの方を見ると、彼女も気の重そうな表情をしている。波導を読めるルカリオが特別ではあるのだが、この町は雰囲気だけで辟易させるには十二分なのだ。こんな街で日々を過ごしている人間たちは、勿論この空気に慣れているというのもあるであろうが、種族的にもこういった感覚に多少鈍感なのもあるのかもしれない。
「瞑想、な」
そう思った瞬間、ルカリオの視界がまた揺らいだ。どうやらゾロアークがまたルカリオの姿を変じさせたらしい。幻影を掛け直すならせめて言ってからにして欲しいと思いながら、何に変えたのか確認しようとその手を見ると、無い。これには一瞬驚いたが、別の存在に姿を変えることができるのだから、完全に消すことも可能なのだろう。或いは空気にでも変えたか。いずれにしてもこの往来の真ん中で瞑想を始めたとしても、この姿であれば邪魔が入ることは無いだろう。傍から見たら少年が一人消滅した格好となるため、それを気にせずに往来するこの町の空気にはなおのこと辟易するが。とは言え気にしても仕方ない、あとは誰もぶつかってくることの無い場所を選ぶことだ。周りを見渡すと、玄関が出張った建物の存在に気付く。屋根の赤いデザインはシンオウ地方ですらよく見たポケモンセンターであるが、この町では独立した建物ではなく巨大建造物に取り込まれるのは宿命なのかもしれない。
「っと!」
ルカリオがセンターの玄関屋根の上に飛び乗ると、ゾロアークもそれに続く。傍から見たらゾロアークが一匹で飛び乗ったようにしか見えないであろうが。誰もが自分たちのことのみに腐心しているこの町の中で、態々センターの屋根によじ登ってくる人間などいないだろう。ルカリオは誰に見られることなく座り込み、呼吸を整え。刹那例によって無数の感情がルカリオの心の芯まで纏わりついて揺さぶる。この揺さぶりは呼吸すら乱れさせるが、今はただ耐えるしかない。脇で早くも寝息を立て始めたゾロアークにも構わず、ルカリオは精神の統一に努める。
何時間が経過したであろうか。いつの間にか息が詰まり気を失ってしまったのは理解した。周囲にこだましていた怨嗟の波導は無くなり、砂嵐の轟音が外から響いているのが聞こえていた。
「ん……?」
「起きたか」
気を失った瞬間のことは覚えていないが、摩天楼階下のセンターの屋根に上ったことは覚えている。今は元来た道を引き返して、砂嵐吹きすさぶ道路の岩陰にいるのは理解できた。気を失った状態で無意識にここまで歩いてこれるとは考えらえない。と、いうことは。
「お前、ここまで運んできてくれたのか?」
「うん。気絶した後あのまま晒して置いたら本当に壊れそうだったし」
ゾロアークは特に何という様子も無く答える。恩を着せたりするでもなく、ただ全てノリでついて来てノリで助けたという感じである。そんな純粋な表情でこちらを見ているから、かえってルカリオはいたたまれなかった。
「そうか。その……ありがとうな」
「あらやだ。うふふっ」
取り敢えず礼を言ってみたルカリオだが、相手が相手とあって異様な気恥ずかしさが迸る。言われたゾロアークもゾロアークで、笑いながらもいきなり顔中の毛並みを逆立て気恥ずかしさを隠せなくなっていた。
「まったく……お前もそんな顔するんだな」
「いやぁねぇ。でもまあ、修行も休みながら、でしょ?」
「まあ、次は不覚は取らない」
「次ってのもそうだけど、休みついでにさ?」
ゾロアークが目線で示すのは、ルカリオの股間。強烈なストレスに晒された後の寝起きとあって、それは当然だとばかりに勃起していた。流れるようなあまりの違和感の無さに、ルカリオは若干の自己嫌悪を覚える。一旦は拒否して自然に治まるのを待つことも選択肢に浮かんだが。
「……使うんなら勝手にしろ」
ため息交じり。上体を投げ出し仰向けになると、勃起したそれが突出する。その先端は今回も変わらず相手を求め脈動しているが、ルカリオ自身はゾロアークが拒否するようならそれで結構と投げ出している。
「はーい。勝手にさせて貰いまーす!」
「はぁ……」
待ってましたとばかりに覆い被さるゾロアーク。まあこいつが拒否するわけがないだろうなとルカリオはため息を重ねる。ゾロアークの割れ目を自身の先端に重ねられた瞬間には、そこが既に濡れ切っているのを感じ取ったルカリオ。自分が目を覚ます前から勃起していたため、準備しながら待っていたのだろうと感じ取り。
「じゃあ、いただきね!」
「ひゃあっ!」
ゾロアークの中に飲み込まれた瞬間、あっさり嬌声を上げるルカリオ。先に「勝手にしろ」と突き放すような態度でいたというのに、それが虚勢にしかならない自らに情けなさを……感じる余裕すら既に無くなっていた。
「んっ! ぃいっ! あっ!」
「ぁうっ! くっ! うっ!」
ゾロアークが上から腰を叩きつけると、準備万端とあってルカリオのものはあっさり奥まで飲みこまれてしまう。その腰を引き上げる瞬間は咥え込むようにルカリオの性器に肉が絡みつき、ルカリオの本能を引き込む。次の瞬間には再びルカリオを飲みこんでおり、その上下する動きに合わせてルカリオもゾロアークも声を上げる。まるでそれが二人の間柄であるとばかりに。
「っ……!」
挿入した瞬間も既に力が籠り切っていたというのに、引き込まれた本能が更にルカリオを膨れ上がらせる。その瞬間が確実に近付いているのを感じさせる。ゾロアークの胸の奥で脈動するものが大きくなり、それに伴い腰の動きも早まっていく。動きが早まり力が籠れば、当然……。
「あ゛ああぁぁぁっ!」
「ふっ、ぅううんっ!」
達するその瞬間は一気に引き寄せられた。本能を注ぎ込むために他全てが抜き去られるルカリオ。注ぎ込まれる熱に脈動を焼かれるゾロアーク。声を余すことなく混じり合わせて、解放と充足を交換する双り。
「ありがと、ね?」
一しきり余韻を楽しむと、ゾロアークはルカリオの隣に倒れ込む。精液は糸を引いてルカリオの腿に数滴垂れるが、もう気にする余力もない。寝て起きた直後に交尾をして、そのまま再び意識を手放すというのもふしだらな話ではある。だがルカリオもゾロアークに合わせ、今はただ快楽と虚脱に身を委ねるのであった。
ルカリオとゾロアークがヒウンシティに来てからひと月半が経過した。その間に双りは町の名物に……なっているはずもなく。ここで過ごす人間たちは日々ぎりぎりのせめぎ合いの中で、町を行き来するだけのポケモンを気にする余裕など無かったし、ゾロアークは日々使う幻影を変えていたため彼らの毎日を追える者がいなかったというのもある。何はともあれそれだけの時間をルカリオがこの町で修行する中で過ごした。そして……。
「ふぅ……」
いつものセンターの屋根の上で息を吐くルカリオ。初日こそこの町に流れる空気に気を失ってしまったが、それもその時だけである。町は相も変わらず重苦しい空気に覆い尽くされているが、今はその波導を惜しみなく読んでも気がふれることは無くなった。
「ふふっ! どうやらだいぶ耐えれるようになってきたようね?」
「ああ。まったく、お前のような奴の言葉でも試してはみるものだな」
嬉しそうに声を掛けるゾロアークに対し、ルカリオはぶっきらぼうに返す。既にいつもの通りとなったやり取りである。最初の最悪な出会いは今も忘れられる筈も無く、ルカリオがゾロアークに優しい態度をとることは無い。だが腐れ縁とばかりに、両者が離れることも無かった。何だかんだ言っても修行に付き合ってくれたというのもあるし、既に幾度となく体を重ねてしまっているというのもある。
「酷いなぁ。でもまあ、結果が見えてきたんなら、試してみる?」
「試す、か。まあ……そうだな」
歯切れが悪いルカリオの返事。やることがわかっているとあって、気乗り良く返事ができないというのが正直なところである。ゾロアークはそんな態度にすらご満悦であり。
「それじゃあ、場所を変えようか」
「場所だと?」
ゾロアークがセンターの屋根から飛び降りると、ルカリオもそれに続く。一応、人人人と行き交う地獄の中で練習ではあってもアクティブにバトルを始められるわけではないことくらいはわかっている。だがゾロアークの表情からは、そんなのは口実で行きたい場所に連れていきたいだけであるというのが読み取れる。さて。
「やっぱり海もいいわね」
「お前な……」
彼方水平線を眺めながら、ゾロアークはルカリオの肘に腕を絡ませる。町の西側にあるこの港は、市街地の中心ほどではないがやはり人の数は多い。目的の試合をやるには落ち着かない空気の場所ではある。それでも遥か彼方を見渡せる開放的な場所ではあるためだいぶましではあるが。
「私たち、最高のカップルよね?」
「いきなり何を言い出す?」
無数に並べられた人工物は、市街地のものと比べると格段に小ぶりで、しかも中に人間がいる様子を感じられる物はほぼ皆無である。荷物を入れる「コンテナ」と呼ばれるものであることをルカリオもゾロアークもよくわかってはいない。ルカリオが最初に降り立ったホドモエと比べるとコンテナは少ないが、それでも夥しいまでのヒト・モノ・カネに横付けできる場所であるため、ゾロアークの唐突な話が無ければ圧倒されていたであろうか。
「あなたを一目見て、すぐにわかったの。私たち、最高のカップルになれるって」
「その一目見た直後には結構なことをしてくれたってのにな」
ゾロアークの言葉を鼻で笑うと、ルカリオは絡まされている腕を引き抜く。この暫くの間で修行に付き合っても貰ったし、幾度も体を重ねてしまった事実もある。そのためゾロアークはことあるごとに愛を語り掛けてきているのだが、相変わらずルカリオが靡く様子は無い。
「やだぁ? まだあの時のこと繰り返すの?」
「最高のカップルとやらになりたいってなら、もっと色々やり直せっての」
ルカリオのにべもない言葉に、ゾロアークは頬を膨らませぷうと息を漏らす。少しくらいは愛の言葉に応えてくれてもいいのにと思う気持ちはある。尤も、今でも本気で嫌っているのであれば最初の強姦の後のように逃げ去っているだろうことは想像がつく。いつの日か少しくらい愛を返してくれるのではないかという期待はなおも持ち続けるゾロアークなのであった。
「絶対、堕としてあげるんだからね?」
「その性根がある限り無理だな。それよりも、成果を試すんだったよな?」
「もう。結局修行ばっかりなのね? 少しは修行を脇に置いて休めないの?」
「ちゃんと休んでいるのはお前も見てるだろ?」
だがルカリオの方にはとりつく島もなく、ただただ自らを鍛える修行にしか目が行ってない。ゾロアークからすれば呆れるばかりだが、ルカリオの方は自らの性分を顧みる様子も無い。休めと言われても睡眠は必要なだけとっているつもりだ。内心今はその休みにゾロアークから搾られることで余計な浪費をしている気がするのだが、そこまでは言わなかった。
「それも結局修業が目的にあっての休みじゃない。たまには全てを忘れて休んだら?」
「……。そういうことは、考えたことが無かったな」
言いながら今度は胴に腕を回し込んでくるゾロアーク。いつもであれば軽くいなして終わるのだが、ふとルカリオの手が止まる。大方が自分のところに引き寄せようというゾロアークからの口実のような気がするが、それでも考えてみると自分は全てを修行に繋げるばかりであったことは否定できない。
「ちょっと寝て起きたら、いつもは食べない美味しいものでも食べたらどう?」
「お前の言葉だから釈然としないが、たまにはそうしてみるか?」
ゾロアークの手を引き剥がしながら、ルカリオはため息一つ。何だかゾロアークの口車に乗せられたような気がしてならない。実際、ゾロアークは腕を引き剥がされているにも拘らず嬉しそうに喉の奥から声を漏らしているのだ。ルカリオはずっと修行に修行、ゾロアークに体を委ねるのも修行に付き合って貰っている礼程度でしかなかった。そんなルカリオの口から趣向を変える言葉が出てきたことが何よりも嬉しかった。
「そうしなさいよ。それじゃあ、美味しい物を探してくるね」
「ああ。今日のところは口車に乗ることにする」
言いながらルカリオは、扉の空いているコンテナがあったのでそこに入っていく。赤く目立つロゴが塗装された物のため、ゾロアークが行って戻ってくる時にはいい目印となるだろう。積まれた荷物の奥で仰向けになったのを見届けると、ゾロアークは市街地の方へと駆け出す。この町、空気が最悪なのは恐らく鈍感な人間にとっても同じなのだろうが、そんな中でもやっていけるようにするためなのだろうか、中々食欲を刺激する食べ物を見せ付けてくる。いくつかは当たりを付けていたが、まだ手を出していたわけではない。まだ知らない味覚への期待は、ルカリオとの初めてのデートへの喜びも相まって昂っていく一方である。
ゾロアークがこの場を離れたのと入れ替わりで、何人かの人間がコンテナの周りにやって来た。その時にはルカリオは眠りに落ちており、外の様子に全く気付かずにいた。
「ルカリオ、どこだ?」
人間が店で「ヒウンアイス」と呼び売っていた食べ物を両手に一つずつ持ち、戻ってきたゾロアーク。だがいくら探しても先程のコンテナが見当たらない。あの赤く目立つロゴが塗装された物なのだ、そう簡単に見失う筈はないのだが。
「おかしい。どうなっているんだ?」
市街地を構成する建物と比べると格段に小ぶりではあるが、それでも自分たちの背丈よりも大きい上に見るからに重そうな金属製である。今行って戻ってくる間に動かせるとは思えないのだが。だが、それらの人工物が明らかに減っており、ゾロアークの心に不安が立ち込め始める。そんな瞬間、沖合から響くのんびりとした太い音が耳に飛び込んでくる。
「まさか?」
その音を響かせたのは、巨大な貨物船であった。先程ルカリオが入っていった人工物よりもどこまでも格段に大きい存在。そう言えば人間はあんなものをも動かす能力を持っているのだ。だが、いくらなんでも……。そう思いたかったゾロアークだが、目を凝らした瞬間絶望する。
「まさか!」
ルカリオが入っていった人工物の目印である赤いロゴが、その船の最後尾に載せられていた。放心。ゾロアークは両手のアイスを取り落とす。ただでさえ泳ぐのも難儀するのが分かる深さを見せ付けている海である上に、既に追いつくこともできない沖合まで離れてしまっているのだ。
ゾロアークはゆっくりと膝から崩れ落ちる。ルカリオが一つ心を開いてくれたと思った直後、その身に触れることもできない所まで遠ざかってしまった絶望。いつの間にか幻影は霧消しており、その場ではただ膝をついて力無く涙を零すゾロアークがいるだけとなっていた。
&aname(karosu);カロスへと
目を覚ますと同時にとんでもない状況になっていることは理解した。場が闇に包まれても波導を読むことができるので問題は無いが、如何せん閉じ込められている状況であることには変わりない。とは言っても寝ている間にどこかに連れて行かれたとかいう話でもなく、自分を閉じ込めている空間は先程眠るために入った人間特製の金属製の箱と変わらない。だが単に扉を閉められたのだと安穏とできる状況でもなく、周囲から伝わってくる波導が街のものとは明らかに変わっているのだ。
「どうなっているんだ?」
こんな大きなものを動かせるなど、まさかとは思った。だがイッシュ地方に来るときにルカリオが乗ってきた船はこの箱など比べ物にならないほど巨大なものである。思いたくはない「まさか」が現実のものとして、まさにルカリオを包み込んでいる。
「とにかく、出なければ……!」
ルカリオは壁を擦り、手を軽く打ち付けてみる。重々しくも音が内外に響き渡るのを感じ、絶対に突き破れないまでの存在でないことを理解する。ただし突き破るのはあくまでも最終手段。持ちうる波導を総て叩きつければ破れなくはないが、この狭い空間でそれをやれば余波に容赦なく体が引き裂かれることであろう。流石に死ぬことまでは無いと思うが、好んで重傷を負う趣味は無い。他に取れる手段を考え抜き、打破できなかった状況がいよいよ切迫した段階で取る手段である。
「外は……どうなっている?」
波導で外の様子を探るも、生憎手掛かりになりそうなものは感じられない。だが、焦っても何にもならない。一度扉を閉めに人間が来たのだから、再び人間がやってくる可能性はある。外の波導を読むことだけは忘れず、但しそれ以上は動かず体力の温存に努める。焦りそうになる気持ちを宥めて腰を下ろし、待つことどれくらいであっただろうか。外から歩いてくる人間の波導を感じ取った。
「出してくれ! 出してくれ!」
その人間に伝えるべく、ルカリオは必死に壁を打ち鳴らす。先程一度鳴らしてみたが、本気でやってみると思っていた以上の音が体の芯まで響いてくる。だが気にしている暇は無い。幸い人間もその轟音に気付いたようで、一度外から壁を叩いてきた後に離れていった。読み取れた感情の波導から逃げ出したとかではなく、ここを開ける準備のために離れたのだということは理解した。
数分後扉は開き、強烈な太陽の光が差し込んで……来なかった。いつの間にか日は暮れていたのである。緊張の面持ちで警戒する人間が三人と、パートナーのポケモンたち。彼らの目線と、人間が確か「ライト」と呼んでいる人間製の装置の出す光を浴びながら、ルカリオは恐れ戦きつつもゆっくりと外に出る。人間たちからは警戒心こそ強く感じられたが、敵意は全く感じられない。波導でそこまでを理解したルカリオは周囲を見回すと、なるほど先程とは金属製の箱の並びが変わっている。まさかとは思いたかったが、やはりこの箱を動かしたらしい。
「そうだ、ゾロアーク!」
ルカリオは人間たちの脇を抜け、金属製の箱が立ち並ぶ道を通り抜けると。船の欄干の先には広大な海が広がっていた。ルカリオは欄干に手を掛け、がっくりと項垂れる。どうしようもない相手ではあるが、こうも突然に逸れてしまうとなると言い尽くせないやるせなさが沸いてきてしまう。
人間たちの説明で、ルカリオは状況を確認した。ルカリオが入って眠っていたコンテナは、カロス地方というところに運ぶ荷物が詰まっているものであった。また数日の船旅となるらしく、ルカリオは暗澹とした気持ちに包まれる。船の方は荷物を運ぶ日程等があるためルカリオだけのために引き返すことはできないが、電話で知り合いに連絡を取ってくれるとのこと。あとはカロス地方に着いたところでイッシュに向かう便を探し、帰してもらう手配をするという。そして最後に、確認不足でコンテナを閉めて連れてきてしまったことを謝罪される。不承不承ではあるが、ここで荒れても仕方が無いとルカリオはカロス地方への旅路に同行することとした。
波止場に停泊した船から、忙しなくコンテナが下ろされていく。金属製のロープが掛けられ、上から伸び縮みする棒状の機械で吊るす……船乗りからクレーンという物であると説明され、自分がコンテナに入る前の港にもあのような物があっただろうかと記憶を探りつつ。到着した連絡所に入った船乗りを待ちながら、遠目で船の搬出作業を眺める。
運悪く事案を起こされてしまったが、眺めている分には壮観だ。
既にゾロアークとは電話で話すことができた。船乗りが連絡所でイッシュ地方に向かう直近の船を見繕ってくれている。そういった周囲の動きが無ければ、割り切ってこのまま修行の旅路でカロス地方を巡るのも良かったのかもしれないが。考えても仕方ないと立ち尽くしていたルカリオの耳に、聞き慣れない音が飛び込んでくる。
なんだあれは?
薄手の白が主体の服装自体は人間のものとしてはさして珍しくはない。だが足に装着している物が。人間は靴というものを履いて外を歩くのはルカリオも知っているのだが、その靴の底には何やら回転体が付けられている。故郷のシンオウ地方で見たことがある自転車という物と同じ要領だろうか、回転体の滑らかな動きによって普通の人間には見られない移動速度と異音で目立つ人間の少女。その後ろからは自分と同じルカリオが走り追いかけている。
こちらに来る。
向こうもこちらに目を付けたらしく、そのまま真っ直ぐ向かってくる。自分の連れているポケモンと同じ種族の者が佇んでいるのが気になったのだろうか。ルカリオがそんなことを思った瞬間、少女は回転体による速度を利用して大きく跳び上がり。着地の瞬間その場で猛烈な速度でスピンしだした、そう思った次の瞬間には直前の回転速度が幻であったかのように正確に止まり。
「コルニ、参上!」
真っ直ぐに立ち名乗りを上げる。こちらを見据える瞳。唐突も過ぎる派手な「参上」に、ルカリオはただただ当惑を重ねさせられるばかりであった。この少女は誰に対してもこんな派手な振る舞いをするのであろうか。
「旅のルカリオ、珍しいね! トレーナーはいるのかな?」
首を振る。今までに納得できる人間と出会えなかったというのもあり、モンスターボールに入ることを選ばずにきたルカリオ。モンスターボールは入るポケモンに守りを与えてくれるというのもあり、人間の元にいるポケモンからは「相手となる人間をあまりえり好みし過ぎず妥協してもいいのではないか」と言われたこともあるが、自分にはそれが出来なかった。人間の連れているポケモンの数に押されて危うくなった時も、相手を認めてボールに服属することなくさっさと逃げ出していた。そのため今でも気楽な独り身であるのだ、ゾロアークはいるが。
「そう。じゃあ……あたしのルカリオとバトルしてみない?」
断る理由は無いが……。一先ず頷きながら、ルカリオはコルニの相方を見る。種族は自分と同じで、感じられる雰囲気や波導からも実力的に拮抗していることは理解できる。但し人間の元にいるポケモンはその豊富な生産性により、見知らぬ道具を駆使してくるのは幾度となく見てきた。様子の方はと言うと、彼女の脇で真っ直ぐに佇む姿は、相方のアクションの派手さとは対照的である。
「うん! じゃあ、行くよ!」
コルニが足裏の回転体の動きで滑らかに距離を取ると、入れ替わりに相方のルカリオが間に入る。間合いとしては少々長めである。波導弾といった遠隔技の打ち合いだろうか。ルカリオも応戦すべく手元に波導をチャージし始めると。
「命、爆発!」
コルニは絶叫とともに、腕輪を着けた左腕を掲げる。その瞬間、相手のルカリオに閃光が纏わりつき始める。それは見る間も無く球体と化して相手のルカリオを包み込み、次の瞬間には爆ぜ失せ、姿の変わった相手ルカリオが現れる。まず体躯が一回り大きくなり、体の至る所に黒い紋様が刻み込まれている。そして足先手先が紅く変色しており――そこまで見た瞬間には赤い拳がルカリオの眼前まで迫っていた。速い。
慌てて身を反らし回避しようとするも、拳に込められた力は圧倒的であった。全身が追い付かず、そのまま尻から地面に倒れ込む。そんな未来を見通していたかのように、相手のルカリオの拳は先程まで自身の顔があった位置の寸前で止まっていたのが見えた。寸止め。だが相手ルカリオから迸るエネルギーはなおも身を打ち据える程であるし、倒れたこちらを見下ろすその目には一切の心情が感じられなかった。
「どうだったかな? メガシンカ!」
コルニが腕を下ろすと、解け落ちるように相手ルカリオの姿も元に戻っていく。一度息を吐くと、倒れ込んだこちらにおもむろに手を伸ばす。その若干申し訳なさそうな表情は、先程の心情の失せた姿とは似ても似つかない。これは。コルニの言う「メガシンカ」は、自らの枠を破壊して圧倒的な力を手に入れるものであるということは理解できた。メガシンカしている間は自分が自分でなくなる程の変化を身に受けるため、到底手に負える代物ではない。だが、手に負えないものほど欲しくなる。ルカリオは喉を鳴らして唾を呑むと、差し出された手を掴んで立ち上がり。その後は感嘆の声を上げていた。
「気に入ったみたいだね! 大抵の子はこの時点で避けるような反応をするんだけど、君はこれだけで才能だよ!」
メガシンカに強く興味を示したルカリオの手を、コルニは嬉しそうに握る。相方のルカリオもその様子に胸をなでおろす。どうやら今までも多くのポケモンにメガシンカを見せてきたのだろうが、好意的な反応をされるのは珍しかったのだろう。実際、自分が自分でなくなる程の力とあっては忌避する者が出るのは当然のことであるが。しかし修行の果てに力を求めることに執心するルカリオには関係無かった。そして……。
「君もメガシンカ、できるようになりたいかな? 今までは人間が一緒にいないとできないものだったんだけど、実は新しい方法が見つけ出せてね。少しの間ならポケモン独りでもメガシンカできるようにする、そんな方法を広めたくて」
ルカリオが期待した言葉である。自分もメガシンカを使えるようになりたい、手に負えないものをも扱いこなしたい。そんな願いが向こうから転がり込んできた。その瞬間だった。
「あーあ、メガシンカの伝道師に捕まっちまったか……」
どのタイミングで出てきたのだろうか、連絡所に入っていた船乗りがぼやく。その声を聞いてルカリオも我に返る。そうだ、イッシュに戻らないといけないのだ。だが。コルニと船乗りの間で目線を行き来させる様子で、波導を扱えずとも未練を抱いていることは簡単に理解できる。
「あれ? トレーナーさん?」
「いや。俺は船乗りなんだが、手違いでこのルカリオをイッシュ地方から連れてきてしまってな」
「そうなんだ? うーん、折角興味を持ってくれたみたいだけど、それなら一旦はイッシュ地方に帰らないとね?」
船乗りのため息交じりの説明に、コルニもそれなら仕方ないと頷く。船乗りは丁寧にゾロアークのことまで説明したわけではないが、それでも向こうに知り合いがいるかもしれないくらいは誰であっても想像がつく。一旦は向こうに帰り、後で改めて来てから声を掛けて貰おう。そう思って踵を返そうとした瞬間。ルカリオは慌ててコルニの手を掴む。
「あーあ」
「早くても二か月くらいは掛かるよ? せめて……向こうに連絡を入れた方が良いんじゃないかな?」
ルカリオの気持ちは完全にメガシンカへと突っ切っていた。これには船乗りも完全に呆れ果て、コルニの方も状況を案じて当惑する。だが真っ直ぐにコルニを見据えるルカリオの目には、他のものなど何一つ映っていなかった。別に後からでも良い気がするのだが、修行に執心し力を得ることを至上とする勢いの目線。無理に曲げさせても仕方ないことを感じさせられ。そんな流石のルカリオも、連絡を入れた方が良いというコルニの言葉には頷いたが。
「やれやれだな」
「そう。それじゃあこの辺で待ってるよ。波導を辿ればすぐに来れるよね?」
ルカリオがもう一度頷くと、コルニは気を取り直しつつその場を離れる。待っている間に近くのトレーナーとバトルでもしているのだろう。船乗りは何処まで準備を進めていたのだろうか、いずれにせよこの予定変更である程度は無駄になってしまった。とは言え間違って連れて来てしまった手前があるので仕方なし、一緒に連絡所に入るように促す。
「そういうわけだが、まあ二か月くらいで……」
「馬鹿!」
電話口。一通り説明し、事も無げにすぐに戻るという態度のルカリオの声を、ゾロアークの絶叫が叩き斬る。向こう側。ゾロアークは顔中の毛を逆立て、目に涙を浮かべている。電話では波導を辿ることはできないが、それでも悲痛の声であることはルカリオにもわかる。だが。
「落ち着け。二か月くらいで戻るから……」
「なんですぐに戻ってこないの! 着くまでだって何日も掛かってるじゃないの!」
ルカリオにとってはほんの二か月くらい。別に逃げ出すつもりも無いのだから気楽に構えてくれれば良いのにという感覚である。ゾロアークにとっては二か月も先。今まで隣にいた筈のルカリオがいなくなってしまった空虚の時間を、どうして無為に延ばすのかという絶望。
「そんなに急ぐものじゃないだろう。何をそんなに怒っているんだ?」
「あんたこそ、そんなに急ぐものじゃないでしょ! 私たち、カップルなのよ!」
「そもそも最初のあれだってお前が無理矢理にやったものだろうが……」
両者の感覚はとんでもない差となっていることにお互いがお互いに気付いていない。ヒートアップしていくばかりのゾロアークに対し、ルカリオは当惑を募らせていき。漏れて零れた一言に、ゾロアークは絶句。喉から息を漏らすのが聞こえてきた。数秒。
「まだそれを言うの? この修行馬鹿! もう知らないんだから!」
ゾロアークが言うが早いか、受話器から響く衝撃音。立て続けの絶叫の挙句で聞かされた音に、最後も顔をしかめるルカリオ。断ち切られた電波の向こう側では、ゾロアークは暫し息を荒げて肩を上下させ。しかし怒りのあまり通話を切ってしまったことに絶望し、それは自分とルカリオのつながりが切れてしまったことの暗示以外に思えず、いつの間にか慟哭し出していた。だがこちらルカリオは遠く海の向こうであり、そんな姿など知り得る筈も無く。
「よくわからないが、早めに戻れるようにした方が良さそうだな」
仕方なしに、ルカリオの方も受話器を置く。その様子を見て、船乗りが声を掛けてくる。連絡は取れたのかと。受話器からの悲痛の声が余程漏れていたのだろう、呆れ果てた様子であった。だが事も無げに頷くルカリオの姿。もう一つ呆れを重ねさせられる。だが、自分が追及しても仕方ないと諦めると、ルカリオに封筒を差し出す。
「これは?」
受け取ったルカリオに、船乗りは説明する。彼らも二か月もの間ルカリオを待っているわけにもいかず、修行が終わったルカリオにすぐに再会できる保証など無い。その時にルカリオがすぐに戻れる手配ができるように、自分の連絡先を記した手紙を書いておいたのである。ルカリオのこの態度には呆れるしかなく、こちらに対しては態々丁寧な対応をする必要は無い気がする。が、電話口からの悲痛の叫びを思うとやはりこの対応は必要だと納得できる。
「礼を言う」
明らかな温度差があるが、それでもルカリオも必要なことであるのは理解する。これに対してはルカリオも丁寧な態度をとったのだが、それはそれで船乗りは呆れを募らせ殴りたいとまで思う程だった。そんな心情を波導で把握し、ここに至ってようやくまずいことをしたのではないかとまでルカリオも理解したが、ここまで進んでしまったのだから引き返せないとも思い。船乗りと一緒に連絡所から出ると、そのままコルニの波導を読みそちらへと向かっていった。
コルニの波導を辿っていくと、予想通り彼女は手持ちのポケモンと共に通行人とのバトルをしていた。ただし相方のルカリオは後ろに下がった位置で控えており、今対戦に入っているのはコジョンドであった。対戦相手のカイリキーの拳を難なく躱し続けており。
「当たらない……?」
「さあ……『アクロバット』!」
拳による連撃の切れ目を見切りコルニが叫ぶのに合わせて、コジョンドは跳び上がる。狙うは前のめりになったカイリキーの背中。こうなるとカイリキーに体勢を立て直す暇は無く、空中で身を捩じらせ落ちてくるコジョンドに備えることはできない。
「あ、あ……!」
そして相手のトレーナーもカイリキーへの指示が追い付いていない。圧倒的なパワーに振り回されて、既に何をすればいいかもわからなくなっている。どうしようもないカイリキーの背中にコジョンドは一撃……ではなく軽く触れるだけで終わらせ、そのまま背後に着地する。カイリキーの方はまだまだ戦える状態ではあるが、相手トレーナーは既に手を失っていた。決着。
「……使ってみて、どうだった?」
「あ、あ……。やっぱり、パワーが違い過ぎますね。俺には扱い切れません」
歩み寄ってきたコルニの声で相手トレーナーはようやく我に返ると、手に握っていたボールをコルニに渡す。どうやらカイリキーの方もコルニのポケモンで、一般のトレーナーに自身が持つ圧倒的なパワーのポケモンを使わせる体験をさせていたらしい。相手トレーナーにとってはやはり貴重な体験だったらしく、コルニにお礼を言って下がっていった。
「さて……」
コルニはコジョンドとカイリキーに労いの言葉を掛けながらボールにしまうと、やって来たルカリオの方を振り返る。見れたのはバトルの最後の方のみであったが、ルカリオの方もこのバトルには思わず唸っていた。コジョンドもカイリキーもメガシンカを使った様子ではないが、どちらも圧倒的に鍛え上げられているのを見せ付けられた。船乗りは「メガシンカの伝道師」と表現したが、一体どういう立場の人物なのだろうか。
「連絡、ついたんだね?」
頷くルカリオ。内心ではどこか良くない形になっているような気がしてならない部分はあるが。そしてそんな内心はコルニの相方のルカリオには波導で何となくは見られているが。とは言えその辺りは「メガシンカの伝道師」の相方らしく、多少のことがあったところでメガシンカを広める機会の方を大事にする様子ではあるが。
「それじゃあ、明日から修行に入るわけだけど……」
おもむろに歩き出すコルニに、付き従うルカリオ二匹。夕日が沈んでいく中で表通りを抜け、裏路地に入っていく。一足早く暗くなっている人目につかない場所に辿り着くと、コルニは腰を下ろし。
「溜まっていると修行の障りになるからね。ちゃんと抜いておかないとね」
唐突に何を言い出すのだと。唖然とするルカリオに対し、慣れたものだとばかりにコルニの相方も腰を下ろしており。胡坐をかいて広げている股の間には、いつの間に立たせたのだろうか雄のものが顔を覗かせていた。
「自分の体のことでも、君みたいな子は中々受け入れられないんだよね。自分で処理することだって知らないことも結構あるんだよね」
コルニの言葉を具体化するかのように、相方のルカリオは自身の性器を握りしめて見せる。実のところゾロアークから突然に引き離されてから既に幾日。ルカリオ自身も腹の奥で蠢く重苦しいものを感じ続けてはいた。修行に奔るに従い高潔さに入れ込むようになり、どうにも自らそこに触れるのは忌避するようになってきていた。そんな忌避感情に入り込むかのように、向こうのルカリオはそれを扱いて見せている。
「頼める相手がいるなら良いけど、いつでもってわけにはいかないことも多いからね。ちゃんと自分で出すことも覚えておいた方が良いよ」
正直なところ、ゾロアークの自由に使わせているうちに自分自身でも辟易するほど癖になってしまっていたというのもある。そんな中でいきなりゾロアークに頼れない状況になってしまった。見透かされているようで妙な怖さがあるが、しかし溜まってしまっているのも事実。ここは素直に習い、自分で……「自分で」処理することを覚えるのは必要なことであろう。ルカリオは腰を下ろす。
「それじゃあ、頑張って」
促されるがままに、ルカリオもまた自らの性器を握る。正直なところ、ゾロアークに対する後ろめたさが全く無いとは言えない。これも浮気になるのだろうかと。だがそもそものゾロアークとの始まりは自分をレイプしてきたことであり、彼女の方は黄金カップル気取りであるが自分はそれを肯定したことは無い。それに何よりもこれは修行のために必要なことであり、しかも「自分で」やることなのだ。浮気と気負うことなど全く無いだろうと、ルカリオは見様見真似で性器に自らの手を滑らせる。
最初こそろくに力を持とうともせず、縮み切った状態で毛並みの中に埋もれていた性器だが、撫でられ揉まれていくうちに膨れ上がっていくのは正直なものである。全身を巡っていたはずの力はいつの間にか吸い上げられ、それとともに感覚が過敏になっていく。腹の奥にしまわれたまま行き場を無くしていた欲求は、ようやく掛けられた呼び出しに色めき立ち、鋼をも熔かさんとばかりに熱を帯びてゆく。脈動が早くなっていくとともに、自らの手も突き動かされていく。全ての感覚が瓦解し、内から膨れ上がっていくもののみに支配される。あとはもう、進むばかりであった。
決壊。溜まり切ったものはようやく行き場を得て、音を立てて吹き上がる。それと同時に立ち昇るルカリオの絶叫。羞恥、解放、虚脱。入り乱れる感覚にただただ身を震わせ、自らの体という宿命に感じ入る。あらゆる現実から遮断される中、呼吸だけが喉の奥に冷たく入ってくる。
「うん、頑張ったね」
いつの間にか射精は終わっていた。どれほどの時間が経ったのかはわからないが、性器は未だに勃起している。先端からは精液が力無く糸を引いて垂れており、その下の地面に大きく染みを作っている。何日も溜めただけある量だと、妙に納得してしまうルカリオ。コルニはその頭を撫でると。
「それじゃあ、ご褒美をあげようか」
ルカリオに覆い被さるような体勢で両膝を地面につく。下半身を覆っていたスパッツをいつの間にか脱いでおり、即ちあられもない部分を向き合わせる格好となっていた。ここから何をしようというのか、想像つかない方がおかしい。だが、これでいいのか。ルカリオはもう一匹のルカリオに目線を向けると、達した後の勢いも相まって事も無げに眺めている。割とよくあることらしい。
「まだまだいける感じだね」
ルカリオの手をどけ、なおも準備万端勃起したままの性器を確認する。この光景を見たら、流石にゾロアークは怒り心頭となるだろう。だが、そのゾロアークは遠く海の向こうである。一抹の申し訳なさは感じなくはないが、知られなければゾロアークが傷つくことは無い。修行が終わったらコルニと別れてイッシュに戻る予定である以上、彼女がゾロアークと接触することは無い。そのため何の心配も無い。致した直後の勢いとあって、ルカリオはあっさりと上体を地面に投げ出しコルニに身を委ねる。
「ふふ、よろしい」
コルニは秘部を先端にあてがい、迷うことなく腰を下ろして飲み込む。刹那、ルカリオの再びの悲鳴。多くのポケモンの雄を飲み込み百戦錬磨の肉壁。締め付けも熱も濡れ具合も、自分の手で行なった時とは比較にならない。自分の手で致せたのは或いはご無沙汰であったが故の勢いで、彼女の中に慣れてしまったらもうそれ無しでは致せなくなってしまうかもしれないと思わされるほどであった。そんな早くも壊れそうになっているルカリオにお構いなしに、コルニは腰を振り絞り上げる。
「っは!」
立て続けだというのに、早かった。ルカリオの方も反射的に腰を突き出し、捻じ込まれた性器はコルニの奥で精を噴き上げる。その瞬間には流石のコルニも軽く声を漏らし。だがそれ以上にルカリオの嬌声の方が悲惨であった。身を震わせて注ぎ込んだ精液は、勢いのあまり奥から押し返されて膣から噴き出し、ルカリオの腹の毛並みを白く塗れさせていた。
「う……ん。ご苦労様」
コルニはルカリオの鼻先を撫でるが、既に意識は無くなっていた。色々とあった一日は最後は快楽で埋め尽くされ、幸せな夢路で締められることとなったのである。歓迎が終わったのを見届けると、次は自分の番ともう一匹のルカリオが鳴く。コルニもわかっていると立ち上がり、連戦へと臨むのであった。
翌日より、ルカリオの修行が始まった。メガシンカをしても最後のところで自分を保てるよう、精神面の修行が主であった。実際にメガシンカを行なうトレーニングメニューもしっかり組み込まれていたため、そのたびにルカリオは心身を消耗していた。それを癒すため、コルニと体を重ねることも何度となくあった。だがゾロアークのことを忘れたわけではなく、寧ろゾロアークを待たせている分早く会得しないといけないというのがモチベーションになっていた。コルニからは二か月と言われていたが、まだ一か月半にならない今の段階でも完成へと近付いているのを感じ取れていた。そして……。
「いよいよだな」
その日のトレーニングで完成であると宣言された。日課を一通りこなした後はコルニからルカリオナイトを受け取り、とある洞窟で最後の修行を行なうとのことであった。その日課は先程終わり、コルニの元に向かう足取りは軽い。気持ちが高ぶるあまり、自分の元に近付く影に気付いてはいなかった。
「ルカリオ!」
突然の聞き覚えのある呼び声。振り返るとそこにいたのはゾロアークであった。口から心臓が飛び出たかのような衝撃を覚えた一瞬。その驚きを見て、ゾロアークも悪戯とばかりに笑う。
「ぞ、ゾロアーク! どうしてここに?」
「あれからずっと海辺で泣いていたんだけどね。ルカリオを間違って連れて行っちゃったっていう人間が声を掛けて来て、連れて来てくれたの」
困惑し続けるルカリオの顔を見て、ゾロアークは更に満足げに笑う。仕返しと言わんばかりである。ゾロアークの手にはルカリオが船乗りから渡されたものと同じ形の封筒が握られていた。あの船乗りが万が一入れ違いになった時も含めてコルニ宛に書いたものである。あの船乗りは完全に善意で行なったことである。だが、ルカリオには全く想定していなかったことだ。修行の合間にコルニとどういうことをしていたかが一気に頭の中を駆け巡り、背筋の毛並みが逆立っているのが分かる。
「そうか、そうか……。丁度今日で終わりだったところだから、態々来ることも無かったんだが……」
「何よそれ? 一日でも早く会えた方が良いに決まってるじゃない?」
この突き放すような態度は相変わらずだと思いつつも、それにしてもここまで驚くのだろうかともゾロアークは若干感じる。何はともあれ、一旦はコルニの元に戻らないといけない。そうなると必然的にゾロアークもコルニと接触することになる。まさか、バレないだろうなとルカリオは震え上がる。だが、混乱するばかりの今の頭のルカリオに、ゾロアークをコルニに接触させないための方便が全く思いつかなかった。
「……取り敢えず、最後の修行に行ってくるから」
「じゃあ、付き合うわ」
言いながらゾロアークはルカリオの肘に腕を絡める。まあ、こうなるなと。ひとまずまだバレていないことが救いだろう。ゾロアークがルカリオのように相手の精神を読む類の能力を持っていなかったのが不幸中の幸いだろうか。何はともあれコルニに接触してもまだバレると決まったわけではないし、もしバレて詰ってきたところでゾロアークのカップル気取りの始まりが強姦であることを言い返せばいいかと腹に決め。ルカリオはゾロアークを伴いコルニの元へ向かう。
道中、ルカリオは恐怖のあまり上の空であった。ゾロアークは失っていた時間を取り戻さんとばかりに色々と話しかけていたのだが、返ってくるのは軽い相槌ばかり。最初は驚かせたかもしれないが、いつまでも引きずっている姿は段々と異様な気がしてきた。そんな中でコルニの元に辿り着き。
「お帰り。あれ? お友達かな?」
コルニの姿を見た瞬間、ゾロアークは一度鼻先を震わせた。見る見るうちに立ち消えする表情。バレたことをルカリオは直感した。波導のような能力を持ち合わせているわけでもないのに、女の勘というのは恐ろしいものである。だが、まだ。最初のゾロアークからの強姦を詰れば、まだ……。そう思ったルカリオだが、絶望が怒りに変わり始めたゾロアークを前にはどうしようもなく精神が縮み上がっており。
「えっと?」
コルニの顔に疑問符が出た頃には、ゾロアークが絡めていた腕から手を引き抜いており。脱兎。次の瞬間には脱兎のごとく逃げ出していた。
「あっ!」
明らかに尋常ではない様子のゾロアークに、この後の修行を投げ捨てて逃げ出したルカリオ。瞬く間に自らの腕からすり抜け逃げ出したルカリオに、ゾロアークは唖然としたのも束の間。次の瞬間には絶望の方が押し寄せ、膝をついて崩れ落ちていた。
「えっ? 何があったの?」
ゾロアークは涙を零しながら、震える声で語り始めた。とは言っても説明しようにも思考が回らず、断片的なものであったが。それでもゾロアークはルカリオとのカップルだったという立場を理解すると、自らのしたことに表情が強張っていく。
「ええっ! でもあの子、君のことは一言も……」
実際のところ、今の今までゾロアークの存在を知らなかったのは事実だ。ルカリオもそうだが、船乗りとの会話の中でもゾロアークのことは全く出てきていなかった。イッシュに知り合いがいるらしいことだけは想像していたが、それがカップルという関係だとまでは想像もつかなかった。それには勿論ルカリオの振る舞いもあってのことではあるのだが。
「いや、その……申し訳ありません!」
知らなかったとは言っても、これ以上の言い訳はできない。コルニはゾロアークの前に膝を突き、土下座をする。ここでゾロアークが強靭な爪を振るえば、コルニの首を切り落とすことも不可能ではないかもしれない。だが。ゾロアークは首を振る。何よりもまずは逃げ出したルカリオである。彼を捕まえ問い詰め、後のことはそれからであるとゾロアークは意を決したのである。
&aname(arora);アローラでは
とにかく遠くへ。ルカリオはゾロアークに捕まらないために、ただただ走った。途中見つけた電車にしがみ付き、その先の空港で押しに弱そうな波導の人間を見つけると、頼み込んで相棒のポケモンということにして飛行機に同乗させてもらった。とにかく遠くに逃げることだけを考えたため、行き先がどういう地であるかすら確認していなかった。地名がアローラ地方ということだけは聞いたが。
既に空を越えている段階でゾロアークは追って来れない気もするが、それでも見つかる可能性は少しでも下げたい。空港から山間へと道なき道を入っていくこと数日。
「何をやっているんだ、俺?」
岩陰の泉のほとりで腰を下ろすと、途中で採った木の実にかぶりつく。心身ともにすっかり疲れ切っている中、急激に虚しさが押し寄せてくる。いくらゾロアークが追って来ようと執念を燃やしたところで、まずアローラという異国の空に飛ぶ便を見つけ出す時点で不可能であろう。それなのに態々こんな山奥に入る意味があるのだろうかと、今更に振り返る。
「まあ……これも修行だ!」
割り切ると、次は泉の水を啜る。喉を鳴らし、汗で出ていった水分を補う。それで人心地ついたらしく、体の方は次の欲求を訴えてくる。下腹部の奥に熱を帯びるような感覚は慣れることが無い。いい加減に抜き去らないといけないと訴えてくるのだ。ルカリオが座り直すとそれは既に鎌首をもたげており。コルニに自慰を習っていたのは救いである。
「ふぅ……」
抜き去った後は虚脱感に身を委ねて眠りに落ちよう。そう思った瞬間。矢鱈重い衝撃音が響き渡る。続いて甲高い悲鳴が上がる。本能のままの欲求に流れていた感覚は、一気に臨戦態勢へと切り替わってしまう。
「くっ……!」
思わぬ妨害が若干恨めしくもあるが、それ以上に聞こえてくるのが気になる。甲高い悲鳴の隙間から苦しそうなうめき声。そちらを片付ければ今度こそ落ち着けるだろうかというのもあり、覗いてみる。そこには黄色のポケモンが二匹。腕や脚から激しく出血する方と、それに寄り添う方。
「父上……! 父上……!」
「落ち着け……。大事は……あるかもしれないが……」
声の様子からするに父娘であろう。激しく出血する父親を前に、取り乱して泣き叫ぶことしかできなくなっている娘の心情もある程度は理解できるが。何にせよ放置はできない。生憎股間のものはすぐに落ち着いてはくれないようなので、葉の茂った枝を折って握ることでそれを隠し。
「怪我か。治そう」
「あ、貴方は……?」
ルカリオは突然の来訪者を訝しむ父娘の脇に膝をつき、父親の傷口に空いている右手をかざす。その手のひらから放たれる淡い光は、傷口にゆっくり流れ込むように。癒しの波導。コルニの元での修行の中で覚えた技の一つである。傷が塞がっていくのに合わせて放つ手をまだ残っている傷の部分にスライドさせ。ものの一分と経たないうちに、父親の傷はすっかり癒えていた。
「お、おお……。これは見事な」
「あ……! ありがとうございます!」
「うわっ!」
それでも失血した分まで完全回復とはいかなかったらしく、父親の方はまだ若干朦朧としている様子だ。一方で感極まった娘の方は、お礼を言う以上の勢いでもってルカリオに飛び付いていた。そして……。
「あっ……。きゃっ!」
飛び付いた拍子にルカリオが握っていた枝が弾き飛ばされ、父娘はまだ若干萎えた程度で存在を誇示し続けている性器をまともに見てしまう。父親の方も打って変わって怪訝な表情となるが、娘の方は破裂するように顔中の毛を逆立てる。
「これは……たまたま催していたタイミングであなたたちを見かけて……!」
慌てて説明するルカリオだが言い訳臭さは拭えない。娘とは正反対で、顔中の毛並みが窄み上がっている。初対面の娘に対して父親の目の前で性器を見せるという行為がどれだけ拙いか。いつの間にか尻餅をついてへたり込んでいる娘に手を出そうとしていたなどと思われたくはないが。
「ふっ! ははは! 男というのはこういうものだ、許してやれ」
「は、はい……」
「ははは!」
父親に言われて頷く娘であるがなおも顔中の毛を逆立てたままで、話を理解しているのかはわからない。その姿にもう一度笑う父親は豪放磊落といった印象である。
「あの、あなた方は?」
「ああ。儂らはこの近くに住むゼラオラ一族だ。外の者にはなるべく姿を見せないようにしながら、密猟者の退治を行なっている」
「密猟者、か」
言われて周囲を見回すルカリオ。確かに人間と関わりたくないポケモンであれば、どうしてもこういった山奥に住むしかない。人間との関わりを持ちたいポケモンは自然と人里付近に出ていくものであり、そうではないポケモンの居場所として禁猟区を設定するという話を聞いたことはある。
「ああ。この辺はポケモンの禁猟区になっていてな。僅かに姿を見せることを許している『エーテル財団』とかいう者たちと協力して密猟者と戦っているのだ」
そして周囲が荒れているのも見て取れる。何の技を使ったのだろうか木々には無数の傷や焦げ跡がつき、目立つところに鎮座する岩に向かって地面が抉られている。相当な戦いがあったのだろうか。
「今の怪我はその密猟者と戦って負ったのか?」
「いや。確かに密猟者とは戦ったのだが、吹っ飛ばした際にやり過ぎてな。余波でずれた岩が時間差で転がって来て撥ねられた。下敷きだったらそなたでも助けられなかったかもな。ははは!」
ルカリオに治された足を軽く叩きながら、豪快に笑う父ゼラオラ。強いのは良いがどこか抜けている部分を感じさせられる。笑い事ではないと内心呆れるルカリオの耳に、駆け寄ってくる足音が入ってくる。ブーバーだ。
「族長! ご無事で良かった! 今しがたの密猟者どもについての話で『エーテル財団』のやつが来てますぜ!」
「そうか。それはすぐに行かないとな。娘よ、客の案内は頼んだぞ?」
「は、はい……。え? あ、はい」
娘ゼラオラの返事も聞かないうちに、父親は飛び去っていた。まさに迅雷が如く。ブーバーも見慣れぬルカリオには若干怪訝な表情を浮かべたが、気にしても仕方ないとばかりにそのまま戻っていく。だが残された娘ゼラオラは相変わらず尻餅をついたまま。父親に客の案内を頼まれて我に返ると、しかし目線はどうしても真っ先にルカリオの股間に向かってしまう。父親と会話している間に一旦は毛並みに収まったのだが、それでもあの見せ付けられたものに対する気持ちの衝撃は引きずっている。急ぎではない。だからこそ、気まずい。ルカリオと娘ゼラオラは暫くは動けないまま、その場で時間を過ごすのであった。
ルカリオはひとまず、ゼラオラ一族の集落に滞在することにした。聞いた話だと何でもゼラオラという種族は「幻のポケモン」とも呼ばれており、圧倒的な能力を生まれ持つ代わりにその希少性から狙われる部分もあるのだという。そんな立場から一族でもゼラオラに生まれ付いた者は、人目を忍んで密猟者たちとの戦いに明け暮れることとなるのだ。近年はゼラオラたちに協力的な人間の集団が現れたことにより、大幅に楽をできるようになってきている。
暫くが過ぎたその日、ルカリオは娘ゼラオラと共に密猟者たちの拠点の襲撃作戦に加わっていた。ルカリオには別段加わらないといけないような義務は無かったのだが、話を聞きつけると「これも修行」と加わることを申し出たのである。それを見て族長ゼラオラが何やら得心の笑みを浮かべていたのは気になったが。
「波導と言ったな? 大した力だ」
娘ゼラオラはルカリオに語り掛けながら、足元で倒れる人間の気絶を確認する。周辺の木々を伐採して作った数々の簡素な建物からは、まだまだこちらを窺う目線が嫌と言う程突き刺さってくる。ゼラオラはその目線を閃光で眩ませつつ、再び物陰に隠れる。少し遅れて白い服に身を包んだ人間が駆け寄ると、気絶した人間をポケモンに引きずらせ回収していく。
「お前の動きも凄まじいな。全く隙が無い」
言いながらも、ルカリオは波導で次に狙うべき相手を定め始める。敵は着実に潰してく。ルカリオが波動弾を放つと、それに炙り出された相手をゼラオラが迅雷の一撃の下に叩き伏せ、他の目線に見つからない内に再び隠れる。ルカリオの方はある程度知られた種族であるが、その波導弾に混ざって苛烈な雷撃を叩き込まれる……密猟者の目にはそのようにしか見えず、拠点内には困惑の空気が充満し始めていた。
「こいつらは、確実に……討つ!」
ルカリオの前に現れたエルレイドの姿を目視した次は、その後ろにいる密猟者をゼラオラは睨みつける。何度も捕り逃してきた難敵であり、幼馴染の一匹を連れ去った仇敵でもあるのを忘れてはいなかった。直接対峙するルカリオにとっては相性こそ確実に不利ではあるが、基礎力の差から十分に戦える相手であることは感じ取った。だがルカリオは敢えてじりじりと押されるように下がっていく。そしてエルレイドを追うように入り込んだ密猟者の背中ががら空きになると、そこにゼラオラは飛び込む。
「そうだ、討て!」
ルカリオはゼラオラの心情をある程度察し、直接討たせることを狙った。既に拠点の周辺はゼラオラの一族やエーテル財団の者らによって取り囲まれており、逃げられることは万に一つも無いが。だが。怒りのままに雷撃纏う拳を叩き込む一瞬、密猟者とは目が合った。だが次の瞬間にはその体から閃光が迸っており、意識は刹那のうちに砕け散っていた。残った勢いも惜しみなく駆使し、その動きのままに宙で弧を描いた爪をエルレイドの背中に向け。ルカリオの波動弾も同時にエルレイドの腹に刺さっていた。
「貴君、戦っている姿の方『は』中々に見事だな」
「最初に会った時のことなら、いい加減忘れてくれ……」
白目を剥いて崩れ落ちたエルレイドは、一足早く気を失った密猟者のボールに自動で回収されていく。また一人主力を倒したことに得心の笑みを交わすと、隠れ際のゼラオラからの一言。一か所強調している言葉の意味は、波導を使わずとも嫌でもわかる。この状況でも冗談を放つ余裕があるのは大したものである。ルカリオの方は次に向かう気持ちの中でため息も吐けずにいたから尚更である。
数時間の戦いの末、密猟者の拠点は壊滅した。密猟者たちは残すことなく逮捕され、疲労や負傷を吹き飛ばす満足感に場が沸き上がった。ルカリオも密猟者を捕らえるというこの戦いには満足していたが、集落に凱旋する中でも意気揚々でまだまだ元気のある娘ゼラオラの姿には舌を巻く。タフなものである。ルカリオの方は流石に疲れたのでと休むために部屋に戻るのを見届けると、娘ゼラオラは遠目で背後から眺める影に呆れた目線を向ける。
「父上……悦に浸っていますね」
「ははは。どうも、見事に上手くいったのでな」
娘やルカリオとは別働隊で、族長ゼラオラも斬り込みに回っていた。若干抜けているところはあるのだが、それでも族長になるだけあって実力は圧倒的であり、斬り込み隊とは言ってもこちらは倒した密猟者を回収する付き人だけで、戦いは一人でこなしていたから流石である。
「私はそんな気持ちで彼と戦っていたのではありません!」
全てが片付いて戻ってきた娘と相方を見て、こちらも狙い通りにいった事に満足する族長ゼラオラ。娘ゼラオラもルカリオと組むように言われた時点で父に何かの意図があるのだろうということは感じていたが、実際にこういう態度をとられると腹立たしい。
「そうは言うがな……やはりお前には何としてもあの者を堕として欲しい」
「父上!」
そしてまた有り体な一言である。娘ゼラオラの顔中の毛が逆立ち、赤い素肌が透けて見える。その姿に声を上げて笑う父親に対し、娘ゼラオラは戦いでも何度も使った強靭な爪を剥いて鼻先に突き付ける。族長ゼラオラはこれには軽く飛び退きながらも。
「では逆に訊くが、あの者が再び旅に出ると言い出したら、それで見送ってお終いにしていいのか? お前は良くても、儂にとっては何らかの形で繋がりを作っておきたい。それがおかしいと思えるほど、つまらぬやつであるか?」
次は落ち着いて語り始めた。この集落に来てから暫くの日にちが流れ、その間にルカリオのことも見てきていた。少々世間から外れている印象は否めないが、それでもストイックに力を求めて村の中でもできる修行を続ける姿には感心させられてきていた。ルカリオがどんな過去を持つのかはまだまだ知らない部分も多いが、それでも存在と言うべきものを感じさせられる。
「ああ、そういう意味でしたら……確かにですが」
「お前があの者は嫌だというのであれば、お前の気持ちだ。その時は他の姉妹を差し向けることにするが、いいか?」
「それは……」
狡いものである。父親の目的を知れば、向こうにとっては確かに他の姉妹でも良いというのは間違いない。だが娘ゼラオラにとっては自分のことであるし、ルカリオも他ならぬ彼のことである。いつの間にか娘ゼラオラの手の爪は収まり、構えていた腕も力無くぶら下がっていた。
「どうだ?」
「私が……やります」
「助かるぞ」
ことここに及んでまで意固地になることは無かったかと、父親は安心する。修行に邁進するルカリオは、清楚で凛とした態度のこの娘とは息が合うのではないかと感じていた。実際に今回嗾けてみて明確に距離が縮んだことを感じた以上、目的はあってもその為に他の姉妹を嗾けるようなことになるのは本当は避けたかったのである。
「兎にも角にも……私がルカリオと結ばれれば良いのですよね?」
「ははは。何なら、どうすれば男が気持ち良くなるかも手解きしてやるが?」
「父上!」
そんな内心の安堵を感じさせてはならないと、父親は娘を茶化す。また娘ゼラオラは弾けさせるように顔中の毛並みを逆立て、爪を立てた手を父親に向けて叩きつけようとする。しかし感情のままに振り回したものが当たる相手である筈も無く。躱したその足で逃げ去った父親を眺めた後、娘ゼラオラはたまらず絶叫するのであった。
「ルカリオ、入るぞ」
「えっ? ちょ……!」
ルカリオの返事も待たず、ゼラオラは個室の扉を開ける。立ち寄った客にあてがう仮の部屋のため、ベッドが置かれている程度の質素な部屋である。そんな部屋のベッドで、ルカリオは腰を下ろして壁にもたれかかっていた。突然の来訪者に慌てて下半身を掛け毛布で覆い、その中で両膝を立てた状態で……何を隠したのかはゼラオラの目にも明らかであった。
「どうやら、丁度いいタイミングだったようだな」
当惑するも逃げられずにたじろぐルカリオに、ゼラオラはつかつかと歩み寄り容赦なく掛け毛布を引き剥がした。その下で立てていた膝の間には、先日見せ付けられたそれがあの時以上の勢いを持って顔を覗かせていた。
「ちょっと待て! いきなり何を!」
「ああ。貰いに来た」
平静で強気を装っているが、その実ゼラオラの鼓動は明確に早まっていた。父親に揶揄われた時以上に顔中の毛並みが逆立ち、呼吸も矢鱈と荒い。何があったのかと当惑するルカリオであるが、それをいきり立たせたままでは部屋から逃げることもできない。
「貰いにって、お前……!」
「私は嫌か?」
ゼラオラは股を開き気味にし、指先でそこの毛並みを掻き分ける。溢れた蜜が毛並みの間で糸を引きつつも、すぐにその中の割れ目が露わになる。欲するものに突き動かされる一方で、どこか緊張して強張っている印象も見受けられる。まだ誰のものも受け入れたことが無いのが見て取れる。
「いや……お前こそ、俺でいいのかよ?」
「ああ。貴君が欲しい。父上もお前を欲しているしな」
どうやら父親に焚きつけられたらしいのは理解した。そんな勢いのままに入ってくるのは当惑せざるを得ないが。しかしこうして掛け毛布まで剥がされて入り込まれたとあっては、流石にやらせて貰わないわけにはいかない。今でこそ突き動かされるままに迫ってきている姿は猛獣さながらであるが、普段の凛とした清楚な彼女には正直なところ惹かれていたのである。流石に自分が逃げてきたものを思うとこちらから声を掛けられる筈も無かったのだが、向こうから入ってきたとあっては話が変わる。
「そう言うなら、まあ……任せる」
ベッドの上で身をよじり、ルカリオは仰向けの姿勢となる。ことここに至ると、隠していた性器は意気揚々と天を突く。その勢いにゼラオラは息を呑みつつも、覆い被さりその先端を自らの割れ目にあてがう。
「それでは……。うぅ……」
僅かに先端が入った瞬間には、ゼラオラの体は強張っていた。腹の奥深くでは早く入ってくるものを催促しているというのに、僅かに入り口が拡げられたその衝撃でも打ちひしがれているのだ。数秒。ルカリオにとっては生殺しの数秒であった。しかし受け入れたことの無い彼女が自ら動くのは厳しいのだろうと悟ると。
「仕方ないやつだ」
上体を起こして両肩に手を回し、そのまま自身の隣に寝せ。いつの間にか組み敷いてルカリオの方が覆い被さる格好となっていた。先程の「任せる」とは何だったのか。ゼラオラが何を思う間もなく、ルカリオは性器を突き込んでいた。
「ああああああっ!」
嬌声。突き込んだとは言っても、強張っているところには無理をさせ過ぎてはいけないからと少しずつという気は遣ったつもりである。だのにこの嬌声である。蜜も既に溢れ切っており、さながら失禁の有様となっていた。
「少しずつだ。いくぞ……」
少しずつ、だが着実により深く。ルカリオが突き込んでいくのに合わせて、ゼラオラは狂ったように嬌声を上げる。一方のルカリオも、挿入が深くなるに従い性器をしっかり咥え込まれており。さながら電撃を撃ち込まれるが如く、体に衝撃が駆け巡る。
「こんな……こんなに……!」
最初こそ勢いのままに上がっていた嬌声だが、段々と掠れ始めており。声なき声が出るに任せて押し出される重量級の吐息。流れのままに及んでしまったが故に、行為がどこまで強烈かなど想像する間もなかった。
「よ、し……一番奥まで……」
突き込みを繰り返す中で、ルカリオの方もとうに息が上がり切っていた。誰かの中などしばらくぶりであるため仕方ない。既に性器から伝わってくる痺れには全身で限界を迎えており。あとは……。
「ああああああっ!」
「うわああああっ!」
最後の突き込みと共に果てるだけであった。注ぎ込まれる波を、更にこれでもかと言う程に搾り取ろうとする痺れ。絶叫もまた重なり、両者ともどうしようもなく震え続ける。それはどれほどの時間だっただろうか。やがてどちらからともなく満足したのが伝わったのだろう、ルカリオはゼラオラの脇に倒れ込む。目線を合わせて互いに至ったことを伝え合うと、繋がったまま一気に眠りに落ちるのであった。
&aname(gararu);ガラルより
こうして、ルカリオはゼラオラの一族に迎え入れられることになった。どちらも修行に対しては生真面目ということもあり、父親の目論見通り意気投合するに至った。それから結構な月日が流れ。ゼラオラはルカリオと連日連夜体を交えることによって、気恥ずかしさに関してはすっかり無くなり慣れてきた。
「そう言えばルカリオ、聞いたか?」
「何をだ?」
「昨日から旅のポケモンが滞在しているらしい。貴君以来だな」
語るゼラオラは楽しげである。というのもゼラオラ自身はこの集落のある島から出たことがあるわけではないため、外の世界に興味津々だからである。ルカリオの辿ってきた旅路の話も非常に熱心に聞き入っているくらいだ。とは言え、一部の土地の話の中ではルカリオが何をしていたのかどうにも掴めない部分があったが。ルカリオ自身が語りたくないならそれでいいかとゼラオラもその辺には踏み込まずにいた。
「本当に外の話には目が無いな」
「悪いな。だが、貴君とも別のところから来ているのやも知れん。後で一緒に聞きに行かないか?」
ゼラオラのテンションは高い。これにはルカリオも苦笑する。思い返せば最初の頃は、ルカリオが直接ゼラオラに聞かせていたわけではなかった。出会った当初にいきなり見せ付けてしまったため、暫く距離を取られてしまったのである。だが族長や他の者に外のことを話すその脇で、しっかりゼラオラが聞き耳を立てているのはすぐに把握していたのだ。
「お嬢様! 族長がお呼びです!」
「そうか! すぐ行く! では、また後程な」
「ああ」
ルカリオは走り去るゼラオラの背中を見送ると、次のトレーニングに移ろうとした。だがその瞬間、ふとゾロアークの顔が脳裏によぎった。刹那、不安が胸中になだれ込んでくる。ゼラオラが言っていた旅のポケモンというのは、まさかゾロアークのことではないだろうか。そう思った瞬間から、外には出せない恐怖に支配されてしまい。そんなルカリオの心情を表すかのように、視界は急に暗転……。
「だーれだ?」
心情とは関係が無かった。柔らかい毛並みに覆われた手に、ルカリオの視界が塞がれたのである。いつもであれば背後からであってもこのような不覚をとることは無かったのだが、偶然にも不安が押し寄せた一瞬がこの何者かの悪戯に重なってしまったのである。ルカリオは慌てて波導を読み、手の主が誰であるか記憶を辿る。だが集落にいるポケモンとは既に皆知り合いであるというのに、感じられる波導はその誰のものでもなかった。勿論ゾロアークやコルニのものでもない。
「だ、誰だ……?」
慌ててルカリオはその手を引き剥がし振り返ると。そこには見慣れぬ白い毛並みのポケモンがいた。見るからに無邪気なそのポケモンは、当惑するルカリオに屈託なく笑って見せると。
「俺、エースバーン。昨日からこの集落に来ている」
「……今のは知り合いでなければ意味が無い悪戯だからな?」
またしても妙にテンションの高い娘が現れたものだと、ルカリオは呆れる。それでもエースバーンはなおも屈託なく笑って見せるが、ルカリオの方は不意を突かれた悔しさもあって憮然としている。ひとまず旅のポケモンがゾロアークではないのが分かっただけでも安心材料にできればいいのだが。
「なんだよ、ノリの悪いやつだな」
エースバーンは不満気にルカリオから数歩下がると、手近な石を足先で蹴り上げる。石は次の瞬間には炎に包まれ、頭ほどもある球体と化する。その球体を、エースバーンは宙に蹴り上げ、落ちてきたところを頭で受け止め。首を傾けると火球は側頭部を転がり、肩に至った瞬間にそこで打ち上げられる。次は胸で受け止め、再び足先で……舞わせるがごときその動きには、ルカリオも思わず見入ってしまう。
「ん? こーいうのには興味あるのか?」
「ああ。器用なものだな」
実際のところこの幻惑されそうな動きには、強さに邁進するルカリオならずとも興味惹かれる。こうして火球を駆る中で動きを捉えられなくなった隙に思いっきり叩き込まれれば、非常に痛いであろう。生憎と炎自体を扱う方法はルカリオには限定されるが、それでも自分の技の中に取り入れる方法はありそうな気がしてくる。
「何だ、ルカリオ? 抜け駆けか?」
「いや、向こうから来た」
戻ってきたゼラオラにも、エースバーンはにっと笑みを向ける。その幼子のようなテンションに、しかしゼラオラの方は特に気にすることも無く。それよりもどんな話が聞けるのかということの方に気持ちが向かっていたのである。
話によるとエースバーンは「ガラル地方」という土地から来たらしい。尤も生まれ故郷がそこであるというだけで、ルカリオ同様多くの土地を廻ってきたとも語っていたが。そんな彼女の語り口調は非常に気乗りの軽いものではあったが、性格的には何処か実直な様子を見せており、ルカリオやゼラオラのトレーニングに一緒に加わるときは楽しみながらもふとした拍子に真剣な表情を見せていた。そんな性格のため、ルカリオやゼラオラとも意気投合するのは早かった。様々な場面で三匹で揃って行動するようになっていた。そんな日々がしばらく続いたある日。
「なー。ゼラって、ルカと仲いーよな?」
「ん? 確かに仲は良いが?」
唐突な語り掛けに、ゼラオラは特に気に留めることなく答える。エースバーンは仲良くなった相手の名前を短く切った略称で呼ぶらしく、そのため「仲が良い」と言われれば別にエースバーンとも同じであるような気はしていたのだが。
「俺が言ってるのは、毎晩ルカとベッドでやっていることだよ」
「なっ! あれは……!」
ゼラオラの顔中の毛並みが爆ぜるように逆立つ。
「声は聞こえるからな。正直羨ましーなって思いながら聞いてる」
「聞いてるって……お前! それに流石に毎晩ではない!」
長い耳を動かして見せるエースバーンに対してゼラオラも言い返すが、毎晩であるかなど色々な意味で外れたことであろう。
「んでも楽しそーだなって。俺も混ぜて貰えない?」
「お前! 私たちがやっていることを知っているなら、お前がルカリオとやることを私が許可するわけないだろ!」
怒髪天。今度はゼラオラの頭の毛並みが逆立っていた。毛並みの隙間から見える地肌には、怒りのあまり血管が浮き出て線となっているのが見える。
「ん、そーか。ルカとは駄目か」
そんなゼラオラの怒りに、しかしエースバーンは意に介すことなく引き下がる。エースバーンは色々と話す中で「俺馬鹿だから」と繰り返してきてはいたが、流石に浮気を許可するなどまず無いくらいのことは理解できるのだろうとゼラオラも納得した。
「まったく……藪から棒に何を言い出す」
「んじゃ、ゼラとは駄目か?」
「は? 待て待て! 女同士だろう!」
納得からの、転落。エースバーンが何を言っているのか理解できず、ゼラオラは混乱する。ああいう行為は異性同士でやることである筈という認識に、情け容赦なく食い込んでくるエースバーン。
「でもさ、ゼラもかわいーじゃん? 毛並みもきれーに整っているしさ」
そんな当惑するゼラオラの手を取り、エースバーンはその手の甲を撫でる。実際黄色の柔らかい毛並みで覆われており、集落と付き合いがある財団の人間から貰った櫛というもので身嗜みとして丁寧に手入れしている。それを「綺麗」と言われるのは普段であれば照れつつも少し喜ぶ程度であったのだろうが。
「いや、だからって……お前は本当に何を言い出すんだ!」
「ルカがいない時にゼラと俺だけでやる分には、ルカが浮気になることはないだろ?」
「だからって! いくらなんでも女同士で……!」
ゼラオラは首を振り、エースバーンが重ねる手を払う。感情の乱高下で、顔の毛並みはエースバーンが言った手前だというのにさんざんなまでに乱れ切っていた。その様子を見て、エースバーンも仕方ないとばかりに俯く。
「んー? ひょっとして、ここでも『同性愛は禁忌!』みたいにされているのか?」
「禁忌……だと?」
「俺が旅した地方の中には、本当に『同性愛は禁忌』ってされているところがあったんだよな」
「禁忌……正直今お前に迫られて当惑しているが」
「当惑どころか、同性愛のやつはそれだけを理由に殺されたりもする。しゅーきょー? ってやつで」
「殺される……だと?」
次の混乱が叩き込まれるゼラオラ。一瞬おいて息を吸い、それは外の話であると理解する。いつもルカリオもエースバーンも外の世界で経験してきた楽しい話をしてくるが。だが、今聞かされた一言は今まで聞いてきた「外の話」とは明らかに一線を画している。
「俺馬鹿だからわからないけど、そのしゅーきょーってやつがそんなに大切なところもあるらしいんだよな」
「そんな……関係ないやつを巻き込むでもないなら、別にいいって話にはならないのか?」
「ゼラもそー思うのか。俺が馬鹿だからそのしゅーきょーってのがその地域で大切にされる理由がわからないだけかと思ったんだけどな」
俯き加減のエースバーンに対し、ゼラオラも掛ける言葉が出せない。いつも外の世界の話に胸を躍らせていたゼラオラにとっては、叩きつけられた現実である。見たことが無いものが並び夢の溢れる世界だとずっと思ってきたというのに、一方では暮らしてきた集落だけでは想像もつかない禍々しさのある世界も存在するというのか。
「もしかして、エースバーンもそれでつらい思いをして逃げてきたのか?」
「いや? 別に俺は好き勝手に旅してきた。それだけだ。ゼラたちのところで同性愛がいけないことだっていうルールがあるんなら、俺はゼラからも手を引くけど?」
「いや、そんなルールは……。無い、が……」
「じゃ、やるだけやってみよーぜ?」
ゼラオラの答えを聞き、エースバーンは相手の両頬に手を当てる。ゼラオラと違って爪は小さく、柔らかい毛並みの下にはそれに負けず劣らず柔らかい肉がある小さなてのひら。エースバーンも戦いとなれば鋭さを見せそうな動きをしているのだが、それは全て足によるものである。手の方はそこまで鍛えられていない様子であり。
「その……。んうっ」
近付けられた顔をそのまま密着させると、重なり合う唇。少し押し込まれると、自然に唇が開く。その開いた僅かな隙間から、エースバーンの舌は歯に触れて傷付くことも厭わず入り込んでくる。もし断るのであれば、この舌を軽く噛むだけでも十二分であろうが。だが混乱するまま流されていっているゼラオラには、拒絶という選択は既に潰えていた。
「へへ。それじゃあゼラ、勝負どうだ?」
「勝……負?」
「俺がゼラを気持ち良くさせたら、俺もゼラとルカのやることに混ぜて貰う」
「それは……あっ!」
ゼラオラの答えを待つことも無く、エースバーンはゼラオラの胸の毛並みに手を入れる。刹那、ゼラオラは全身を震わせる。ルカリオとの行為はただただ挿入を楽しむだけであったため、触られ慣れていない胸に入り込まれるだけでも感じ入ってしまう。
「へへ。ゼラもルカも真面目だからな。挿入以外はあんまりよく知らないんじゃないかと思ってたら案の定だ。しっかり教えてやる必要があるな」
言いながらエースバーンは喉を鳴らす。極上の獲物を前に欲が加速していくのを自分の中でも感じているのだ。黄色の上毛を掻き分けて、黒の下毛から更に奥の胸の体温を感じながら揉み込む。それだけで。
「あっ! あっ!」
「ゼラの胸、良い形だよな。鍛えてるとは思えないくらい柔らかいし」
「うぅ……。そんな……!」
猛烈に息を荒げ、顔中の毛並みを逆立てるゼラオラ。エースバーンは遠慮なしに、その胸を堪能する。鍛えているとあってか、動きの邪魔になりそうな脂肪は殆どついていない。黙っていれば男と見紛いかねないような容姿であるのだが、こうして丁寧に触ってみるとどこか柔らかさがある。今まで行為の際にこれを触ってこなかったルカリオには勿体無いの言葉しかない。とは言え、これからも機会や時間はいくらでもあるのだ。
「ルカにもしっかり教えてやらないとな」
「その……ぁ゛あああぁぁぁっ!」
揉みしだきながら探り当てた、ゼラオラの乳首。エースバーンが短い指で遠慮なく摘まむのは、自分ですらそんな触り方をしたことが無い場所。ゼラオラは嬌声を上げて絶頂すると、またがっているエースバーンの尻や短い尻尾に汁が掛かる。
「どうだ、気持ち良いか?」
エースバーンは胸から手を引くと、享楽に総ての感覚を融かされているゼラオラの意識を呼び戻すように、左右の頬を優しく手で撫でる。それは先に言った「勝負」の意味もある。ゼラオラも暫くは蕩けて息を荒げたままであったのだが、エースバーンの手の感触と共に現実に少しずつ戻ってくると……。
「……。良かった」
一瞬は迷ったものの、屈した。それはルカリオをエースバーンに差し出す意味を持つ言葉でもあり、意地を張った言葉を返し続ければルカリオを自分のものとして留められる。だが。この享楽の前には、どうにも独占に虚しさを感じられてしまい。
「そうか。じゃあ……」
「ぅう……」
「次も楽しめそうだな!」
「ぇえっ?」
そしてゼラオラが屈服を選んだことに関して悔しさを噛み締めようとした瞬間、しかしエースバーンが放った言葉は勝利宣言などではなかった。エースバーンが一息おいた一瞬の間に、続く言葉は「これでルカとも交わってOK」みたいに宣言するかと思っていたのだが、どうやらまだ続ける気らしい。エースバーンは軽くゼラオラと唇を重ねると。
「言っておくけど、俺はゼラのことも本気で好きだからな? これがただルカとの許可を取るだけのためだとは思わないでくれよ?」
「ぇう……」
そんなゼラオラの内心を読み取ったかのように、エースバーンは宣言する。独占だとか考えていた自分がどうにもちっぽけであると感じさせられ。敵わない。四肢を投げ出し、ゼラオラはエースバーンに総てを委ねることを選んだ。
「ゼラ、お前は本当にいいやつだよな」
言いながらエースバーンは体の向きを変え、今度は胸の上に跨るような姿勢となり。何を始めるのかとゼラオラが身構えた次の瞬間、陰部から強烈な刺激が全身を駆け巡る。
「ぁうわぁっ!」
打ちのめされて訳が分からなくなった一瞬の後に、エースバーンが陰核に舌を這わせたのだと理解する。二度、三度と深い呼吸をし、感じ入るゼラオラの息遣い。エースバーンはそれを数秒耳で堪能し、次は左右の腿の付け根に手を添える。それだけでもゼラオラの背筋はぞわぞわと毛並みが蠢くかのように感じ入るのだが。
「それじゃあ、いくぜ?」
かぷり。エースバーンは音を立ててゼラオラの陰核を咥え込む。まずは唇で揉み込むように。次は前歯で。硬さも鋭さもあるエースバーンの前歯だというのに、見事に痛みもなく感じ入らせる力加減。だがそれだけでは終わらない。エースバーンはゼラオラの鼠径部に手首を押し当てつつ、手先で割れ目をそっと拡げる。
「ひゃあああっ!」
ゼラオラの二度目の絶頂。先程尻に浴びた汁を、今度は顔にも浴びるエースバーン。だが炎タイプでありながら濡れるのも構わないとばかりに、手先を更に押し込むエースバーン。二度目の絶頂でも終わりにはしないと。
「んぅぁ。まぁ」
陰核から口を放さないままで、何を言っているのかはわからない。次はしっかりと舌を絡めていく。同時に陰唇を拡げながら、手首で鼠径部を押し込むのも忘れない。器用なものであると感心する間もなく。
「ぁあああっ!」
ゼラオラは三度目の絶頂を迎えた。どこか体の奥が空になったような、全身の感覚がエースバーンの炎で焼かれたような。ルカリオの時のように奥で何かが満たされたのとはまた違う感覚。このままエースバーンに身を委ね続ければ、どこまでも自分が堕ちていくのだろうと感じた。だというのに次を求める気持ちが先に来てしまい、近付いてくる足音に気付かずにいた。
「おい。ひとの娘、ひとの嫁に随分なことをしてくれるな?」
族長ゼラオラであった。その声はここまでの快楽を吹き飛ばすには十二分であった。これはエースバーンの方から押し掛けてきた行為ではあるが、しかし自身も間違いなく身を委ねてしまった。ゼラオラが顔を上げると、実際父親の怒りはエースバーンだけでなく自分にも向かっているのが感じられた。
「悪いな。お前の娘が本当に可愛くてな」
しかし、何よりも怒りの主体はエースバーンであった。他の兄弟姉妹と比べて特別扱いしてきたわけではないが、大切に愛情を注いできた一匹である。それを、勿論本人の望みでもあるが、ルカリオとの繋がりを深くするために結ばせた。その筈だった。その全てを破壊したこの兎に、族長ゼラオラの怒りは避けられないものであった。
「まだ言うか!」
「なら逆に訊くが、今の最中、お前の娘は不幸なように見えたか?」
「そういう問題ではない!」
「いや、そういう問題だ。幸せの形はそれぞれだ。自分が思っている幸せの中に他の奴を押し留めようとする方が、よっぽど酷ぇことだと思うが?」
だが、雷鳴のごとき怒りを一身に受けてもなお、エースバーンは焦り一つ抱かなかった。弱い者などそれだけで気絶するような怒りの目線に対し、力を込めて睨み返すでもなくただ平然と目線を向けている。
「詭弁を……!」
「なら、だ。火山のマグマの中で暮らしている炎ポケモンを、そこから完全に切り離して無理矢理にでもここに連れてくることが幸せだと思うか? あのブーバーだって定期的に火山に帰っているって聞いているが、ここでのお前の生き方ならそれは不幸なことになるよな?」
「だからって……」
そんなエースバーンの態度に、族長ゼラオラの方が着実に気持ちを削られているのであった。日頃自身のことを「馬鹿」だと語ってきた口で、たとえ認めたくはなくても妙に筋の通ったことを言ってくる。怒りよりも不満よりも、段々と不気味さが募ってきたのだ。
「俺は馬鹿だからできねえことは沢山あるかもしれねえけど、ゼラもルカも大好きだ。絶対に不幸な目には遭わせないことは約束する。絶対に幸せにするって約束する! それじゃあ駄目だって言うのか?」
「まったく……とんでもない者と繋がる結果になってしまったものだ」
そして畳みかける言葉。全く根拠のない約束だというのに、それは「馬鹿」と名乗るからこそ妙に説得力が出てしまう。族長ゼラオラは肩を落とし、喉の奥を開いて呻く。それはこの「馬鹿」に屈してしまった無念であり。
「認めるんだな?」
「但し一つ。二度と『馬鹿』を名乗るな。ただでさえも頭が痛いのに、余計分からなくなる」
せめてもの抵抗。自分の屈した相手は「馬鹿」ではない。そう思えるようにしなければ、自らのやり場のない気持ちが重く硬くどうしようもないものになってしまうのだ。
「えー? どう見ても俺、馬鹿だよな?」
「まだ言うか!」
その要求に不満げなエースバーンに対し、族長ゼラオラはてのひらの肉球に電撃を迸らせ。しかしこの暴力をちらつかせた脅しにも、エースバーンは全く動じることも無く。とは言え相手がゼラオラの父親ということで、必要もなく喧嘩をしたくないとも考え。不承不承とばかりにため息一つ。
「あー、はいはい。仕方ねーな。俺は天才、俺は天才……」
「いや、天才まで名乗る必要も無いが……」
一旦は構えた手を、力無く下げる族長ゼラオラ。実際のところこういう振る舞いは確かに「馬鹿」に見えるが、これが本気なのか見せかけなのかがまずわからない。どうしようもないところまで連れて行かれてしまった娘に目を向け、もう一度呻いて踵を返す。世の中思い通りにはいかないとは言うが、こんな形は二度とないものと信じたかったのである。
その日のルカリオはと言うと、ゼラオラ一族が協力する人間の財団の依頼で、波導を駆使しての探索に赴いていた。夕暮れ時まで働いて、戻ってきた集落はどこか妙な雰囲気に包まれていた。波導で出来得る限り読んでみたが、何かがあったらしいことしか感じ取れず。何はともあれ必要であれば誰かしら伝えてくるだろうと思い、食事を済まして寝床へと向かう。来たばかりの頃の簡素な宿は既に引き払っており、今はゼラオラの部屋に転がり込んでいたのである。が。
「この部屋はゼラオラの部屋で、俺はつがいとして間借りしている。だよな?」
「ああ、そうだ」
「それで、なんでエースバーンがいるんだ?」
ゼラオラと自分が一緒に寝れるように、大きく頑丈なベッドを新調していた。その上には、ゼラオラだけでなくエースバーンも座っていた。ちょっと遊びに来るにしても時間帯としては随分に遅く、いくら繰り返し「俺馬鹿だから」と言い続けていたにしても様子がおかしい。何よりルカリオに応えたゼラオラは、毛並みが悲惨なまでに乱れているというのに矢鱈幸せそうなのが異様である。
「ああ。今夜の相手はエースバーンだからだ」
「そーゆーわけだ。まあ、頼むぜ?」
「どうしてこうなった!」
自分と愛し合っているはずの男が他の女と交わったと知ったら、それがどれだけの怒りを巻き起こすのかは身をもって知っている。だがゼラオラはと言うと、異様に幸せそうな表情のままルカリオの知る世界をひっくり返すようなことを言い放つ。恐らくエースバーンとの間で何かの事案が発生したのであろうとは感じたが、しかし波導での本格的な感知をする気にもなれず。あまりにも怖すぎた。
「まどろっこしいやつだ」
不意にゼラオラは立ち上がると、電光石火、いつの間にかルカリオの背後に回り込んでいた。たじろぐ間も無く、ルカリオはゼラオラにベッドの上へと押し倒されていた。待ちわびた相手を歓迎する笑顔に、しかしルカリオは更に怯まされるばかりであり。
「遠慮することはねーんだぞ、ルカ。一日働いて溜まってるんだろーから、楽しもうぜ?」
「そんなことを言われても、心の準備が……!」
唇を奪おうと寄せてくるエースバーンの頬に手を当て、戸惑いのままにそれ以上を拒否しようとする。流石に強く押し返すようなことまではしないが。目線を向けると、実際当惑のまま準備しようもないと言わんばかりにルカリオのそれが膨らんでいる様子は無かった。毛並みの中から僅かに先端を出している程度であり、とてもすぐには使えそうにない。
「仕方ねーやつだ。ゼラ、見てろよ?」
「ああ。レクチャーを頼む」
ゼラオラは素早くルカリオの背後に回り込み、下半身を投げ出しているルカリオの上体を羽交い絞めにする。本気で暴れればひょっとしたら振り払えるかもしれないが、相手がゼラオラとあって本気を出すことができないルカリオ。そんな相手の股の間に入り込むと、僅かに出ている先端に手を伸ばし。
「やめっ!」
「まあ、このくらいの接触はゼラともやってるよな」
毛並みを押しのけると、エースバーンの手の中でルカリオの性器が露わとなる。まだ縮んだ状態とは言え、エースバーンに触れられたことが刺激となり脈動し始めている。既に幾度となく交尾を重ねた身であるため、この程度で完全に上がってしまうことは無いが。
「とはいえ、時間の問題にも見えるがな」
「ん? 時間を掛ける気なんて無ぇよ?」
言うが早いか、エースバーンはルカリオの未完成の雄を根元まで咥え込む。前歯は根元に寄せられた皮の上に引っ掛け、性器の粘膜には直接触れないように準備する。そして舌を這わせる。
「ぉわわわっ!」
「聞いたことの無い声を上げるな」
湿り気や熱は膣内と似通うものがあるようで、舌の絡みつき方は全くもって異なる。全体を包み込む膣内の肉壁に対し、舌は局所的に突き込んでくる。舌による責めを受けるのは久方ぶりであるため、ルカリオから今の現実を突き飛ばすには十二分であった。エースバーンの口の中で瞬く間に膨張し。
「あがぁっ!」
重い一発が先端から吐き出される。それはエースバーンの喉を直接撃ち、しかしエースバーンもむせる様子も無くあっさり飲み下す。精液だけでなく、先走りの一滴まで惜しむように啜る。
「んぅっ、んぅっ!」
「あっ! はぅっ!」
その吸い付きが、ルカリオに更なる刺激として纏わりつく。これでは萎える暇も無い。エースバーンが口から引き離すと、ルカリオの性器は名残惜し気に精液の糸を引きながらその怒張しきった姿を誇示していた。眼前から零距離、エースバーンが喉を鳴らして飲むのは唾だけではない。
「私が見ている前で他の女に出す気分はどうだ?」
「こ、これは……!」
言われて振り返ったそこにいるゼラオラは、壁に寄りかかった状態で腰を下ろし、膝を曲げて股を開いて見せている。自分の見ている前で行う不貞行為を詰るかのように足裏でルカリオの頭を軽く押す。ここまではゼラオラも同意の上で、どちらかと言えば自分の方が意思を無視される形だと思っていた中だったので、この突然の追及に当惑するルカリオ。
「ん? 口の中で出しておいて、今更俺は嫌ってか?」
「それは……! そんなことを言われても……!」
それに対し、エースバーンも逆側から言葉でもって襲い掛かる。膝立ちとなって股の割れ目を手で開き、あとはまっすぐ下ろせばルカリオのそれを飲み込むことができる準備万端の体制。期待に蠢くその膣を前に、挟み撃ちとなったルカリオの声は震えている。
「まあ、意地悪はこの辺にしておくか」
「だな。でもゼラ、いー言葉責めだな」
ゼラオラとエースバーンは手を当て合う。自分以上に息が合っているのではないかと疎外感を覚えるルカリオ。何がどうなって彼女らはここまで仲が良くなったのか、知りたいようで知るのが怖くもあり。
「良い言葉責めか。まあ、そろそろ入れさせてやれ」
「おー、そうだったな。ほったらかしだと萎えるな」
エースバーンはルカリオの両脇に手をつくと、迷うことなく腰を下げる。放置されて萎え始めそうになっていたルカリオの性器は、不意を打つように飲み込まれたことで震え上がる。
「あっ!」
「ぅっ!」
性器を中ほどまで咥え込んだところで、エースバーンの腰は一旦止まる。長い両耳は力なく垂れ下がり、炎タイプらしい熱い吐息を漏らす。思えば村に来てから暫くの日々、その間にエースバーンが誰かと交わったという噂は無い。この手慣れた調子から流石に初めてということは無さそうだが、自らの中に入れるのはしばらくぶりなのかもしれない。
「ルカリオの、良いだろう?」
「ああ……。それじゃー……」
エースバーンは大きく息を吸うと、最後の一押しを一気に落とし込む。
「あぁあああっ!」
「くぅうううっ!」
再び勢いを持ち始めていた性器が、一気に包み込むのは苛烈なまでの熱。エースバーンの深いところにより近いため、炎タイプらしさがルカリオを迎える。一方のエースバーンの方も自らの中を突き崩す感覚に悦び声を上げ。
「あっ……。あっ……」
「ルカ……。どうだ?」
エースバーンはついていた手をルカリオの胸に当てると、棘の根元をなぞるように擦り始める。その予想しなかった動きにゼラオラが目を丸めた瞬間。
「ひゃうぅぅぅっ!」
「気持ち良さそうだな?」
胴回りの毛並みを逆立てて、ルカリオは感じ入っていることを誰の目も憚らず叫ぶ。ゼラオラがまた頭を足の裏で押し込むが、既に現実にまでは感覚が回らない。そんなルカリオの姿を堪能すると、エースバーンは腰を上げて性器の方を撫で上げる。一度、二度。
「あがあああぁぁあっ!」
「っ! っ!」
絶叫しながら果てるルカリオ。中に注がれるものに、エースバーンの方も体を震わせる。両耳を垂らし、顔を俯かせ。吹きこぼれる精液が内股を染めていくが、構うことはできない。ルカリオの方は相変わらずゼラオラに足蹴にされているが、それももう感じられない。一しきり全てが出し切られると、しかしルカリオとエースバーンはそれでも全く動かないまましばらくの時間。ゼラオラはそれも悦に浸り眺めていたが。
「さて、そろそろ代わって貰うか」
起き上がってエースバーンの肩に触れる。エースバーンも顔を上げると、軽く息を漏らして脇に降りる。ルカリオの性器は果てており、精液の残渣を零して横たわった。
「すまん……。もう……」
「なんだ、私はお預けか?」
ルカリオに向けてずっと開いていた秘部は、二人のやり取りに中て(あて)られて準備万端に湿っていた。だがルカリオの性器はもう今日は使い物にならない姿を晒している。
「すまん……。すまん……」
「お前、いくら何でも……ん?」
明らかにこのまま意識を投げ出そうとしているルカリオ。そんな相手に不満を並べたくなったその瞬間。エースバーンの手がルカリオのへそ下に当てられる。その部分で円を描き……疑問符を浮かべるゼラオラに目線を返すエースバーン。数秒。その意図を感じ取ったゼラオラは手を構えると、エースバーンが引っ込めたのと入れ替わりにへそ下に押し当てる。
「がぎゃっ!」
電気鏝(こて)とでも言うべきか。勿論手加減はしていたが、それはゼラオラの方から見て。このまま快楽に身を委ねて眠りたかったルカリオは、その痛痒に涙を浮かべて悲鳴を上げる。
「うむ、元気そうな声が出たな」
「お前……! お前……!」
得心とばかりに頷くゼラオラに対し、ルカリオは突然の仕打ちに不満の目を向ける。現実に叩き戻されてみると、先程からずっとゼラオラに足蹴にされていたことにも不満が出始める。だが。ゼラオラは既にルカリオの性器に顔を近づけており、口を開けて性器を咥え込もうとしているところであった。
その後ゼラオラとエースバーンに、ルカリオは交互に何度出したであろうか。尽き果て満たされ、今は三匹で並んで抱き合うように寝ている。
「なあ?」
「どうした、エースバーン?」
「今度、ルカの故郷に行ってみないか?」
エースバーンの提案に、微睡んでいた二匹も何となく意識を戻す。
「ルカリオの故郷……シンオウ地方といったか?」
「シンオウ地方には俺もまだ行った事はねーし、ゼラもいつも外の世界に憧れているんだから、一度くらい出てもいーんじゃねーか?」
「ふむ。まあ、少しくらいなら良いかな?」
「俺は構わんが……どこか案内できるかな?」
問題が無いことを確認しようとするゼラオラと、シンオウ地方のことを思い出そうとするルカリオ。とはいえ行為に狂った後とあって、どうにも頭が回らない。エースバーンの方はこんな中でも楽しそうに喋るから元気なものである。
「まー、出たとこ勝負でてきとーでいーんだよ。俺たちのハネムーンってやつ!」
「随分斬新なハネムーンの気がするがな」
男一匹に対し女二匹。こんなハネムーンなど存在したであろうか。呆れるルカリオの一言に、三匹で笑い合う声。流石にこれ以上の行為はしないが、それでも彼らの幸せそうな夜はまだまだ続くのだと感じさせられる。
その様子を見ていた影がその場を去ったことに、気付く者は誰もいなかった。
集落から走り去り、森の奥。ゾロアークは呆然と涙を流していた。
「ルカリオ、なんで……!」
コルニの前から逃げ去ったルカリオ。その行方をコルニの協力で探し続けることどれほどの期間であったことか。執念で情報を集め続け、アローラ地方に向かう飛行機に乗り込んだという情報を掴み、コルニと別れてやってきた遠い地。そこでようやく見つけたルカリオは、二匹の嫁ポケモンに挟まれる姿を見せ付けてきた。
「私たちは……」
自分たちは黄金カップルである、そう思ってきたというのに。ルカリオは行く先々で現地妻を作っていく。取り残された自分は一体何だというのか。虚しさのまま叫ぶ声も出ない。あそこから奪い去れるか、そんな力があればいいのに。あの輪の中に入り込めるか、そんな割り切りが出来ればいいのに。ゾロアークは独り首を振るばかり。
「まずは……先回り?」
ルカリオたちはそれは楽しげに、シンオウ地方という場所へ行くことを話していた。ルカリオの故郷だとも言っていた。何ができるかはわからない。ひょっとしたらルカリオの過去から何かを握れるかもしれない。何はともあれ、このまま泣いていても仕方ない。ゾロアークは歯軋りを一つすると、シンオウ地方への航路を確保すべく人里へと降りて行った。
&aname(hisui);ヒスイには
辿り着いたシンオウ地方。見知らぬ土地を歩くとあって、気が紛れることは多少ある。だが、少しでも油断すると涙が押し寄せて来て駄目になる。
「アタシ、何してるんだろ?」
ゾロアークは息を吐く。いつの間にか鬱蒼とした木々の間の道に入っており、その奥にある泉へと辿り着いていた。僅かに差す光に照らされ、断崖の下の水面に映る自分の姿。全てを投げ出して以来毛づくろいも碌にせず、ぼろぼろに瘦せこけた有様となっていた。先回りと意気込んで来てみたシンオウ地方であるが、たとえルカリオたちが来たとしてもその時に手を出せるとは思えない。
「もう、駄目ね……」
何かが降りてきた。ゾロアークは意を決する。意を決してしまう。泉に背を向けると、両腕を左右に伸ばして真っ直ぐに立ち。
「さよなら」
足の力を抜くと、ゆっくりと背後に倒れ。ゾロアークは目を閉じ、まっすぐに崖下の泉へと落ちていく。着水。衝撃と共に冷たい水が全身を包み込み、これから向かう死を感じさせる。これでいいんだ、これで……。
嫌だ!
その瞬間、ゾロアークの胸中が拒絶に引き裂かれる。あんな奴のために死にたくない。あいつを取り戻さないといけない。しかしそんなゾロアークの変心も意に介さず、水は容赦なく毛並みの中に入り込んでくる。体はどんどんと重くなり、もがいてももがいても水面は遠くなっていく。
嫌だ!
あぶくとなり消えていく声は、誰もいない泉ではあまりにも無為であった。何度拒絶を叫んでも、息はどんどんと苦しくなり。公開が沸く間も無く藻掻いているというのに、着実に近付いてくる死の気配。段々と体も動かなくなり始め、拒絶の気持ちだけが迸り続ける。
「ふむ、やかましいやつだ」
幻聴かと思った瞬間。何かに体が引っ張られるのを感じた。これが死なのか。疑惑を抱く間も無く、ゾロアークの視界全てが暗転していた。そして。
「ここは……?」
先程の泉よりもずっと暗い空間。だというのに自らの体だけははっきり見える。息苦しさも消え、しかし周りには何もない。これが死の世界だというのだろうか。
「ここは、世界の裏側だ」
「なっ!」
声が掛けられると同時に現れた巨大なドラゴンポケモン。グレーの体の腹部には赤と黒の縞模様が印象的で、頭部や胴回りに輝く外骨格のようなものは、永遠を象徴するかのように黄金に輝いている。掛けられた言葉など今更であり、それよりもその姿に圧倒される方が先であった。
「驚かしてしまったな」
「ええ、うん……。それより、世界の裏側って言った? アタシは、死んだの?」
「いや。単純に我が暮らしている場所がここであるから連れてきただけで、そなたは死んではおらぬぞ」
「そ、そうなの? また奇妙な体験というか……。まあ、ありがとう?」
ゾロアークとしてはどうにも腑に落ちない部分はあるが、体の感覚は生きている時と変わらないというのが一つ。目の前にいる存在が圧倒的すぎて、もう何が起こっていても不思議ではないと納得するしかない部分もあり。
「まあ良い。我はギラティナ。この程度は遊び故気にすることは無い。それで、そなたは何をしていたのだ?」
「えっ? アタシ? アタシは……」
ギラティナと名乗った圧倒的な存在の問いかけで、ようやく我に返る。既に幾度も押し寄せてきた涙が、この世界でも零れる。ゾロアークはルカリオのこと、ここまでの旅路を嗚咽交じりで語り始める。
「なるほど、そのようなことがあったのか」
「アタシ、諦めて身投げしちゃったんだけど……。やっぱり死にたくなくなって……。でも折角助けて貰ったのに、やっぱりどうしていいか……」
この圧倒的な存在にとって、自分たちのやり取りなど取るに足らぬことかもしれない。ギラティナの顔を覆う外骨格はさながら鉄面皮であり、自分の言葉に何を思って聞いているかも感じられない。だが。ゾロアークはただただ、この不意に訪れた異形の優しさに身を委ね、語るだけなのであった。
「ふむ……。では、力を貸そうぞ」
唐突にギラティナから言葉が返ってきて、ゾロアークは泣きながら一度頷く。それからも泣くこと数秒。遅れてギラティナの言葉を理解し、顔を上げる。見下ろしてくるその顔からは相変わらず表情は読み取れないが、聞き間違いにも嘘にも感じられず。
「えっと……それはありがたいけど、お礼できることは何もないわよ?」
「良い良い。我らにとっては一時の遊びに過ぎぬ」
「遊びって……アンタも酷くない?」
先程自分を助けた時も「遊び」と言っていたが、どうやらギラティナにとっては自分たちの事情などその程度なのだろう。そのくらいの方がかえって神か何かに思えて納得できてしまうのだが、それでも。ゾロアークは泣き腫らした頬を膨らませる。
「断るのであれば、まあ泉のほとりに帰すだけぞ」
「あ、それだけでもありがたいけど、でも力を貸してくれるなら、アンタの遊びに乗るわ!」
「良い返事だ。では……かつてシンオウがヒスイと呼ばれていた頃に生きた者の力を、そなたに」
ギラティナが宣言すると、ゾロアークの体が光に包まれる。刹那、体が崩れ落ちるような衝撃。ゾロアから進化した時とも違う苛烈なまでの感覚は、しかし何故か苦痛ではなく。手を見下ろすと、その毛並みの色が胴の方から順に先端に向けて白に染まっていくのが見て取れた。それと同時に体の奥から吹き上がるエネルギー。自らが恨みそのものと同化したのが感じられ、どうにも悪くない気がした。
「そしてディアルガから送られてきた力で狙うその者が来る『時間』に……」
これは。視界の先にルカリオが見える。自分がシンオウに来た時に降り立った港で、二匹の嫁と歓談しながら周りを眺めている。一瞬で芽生えた恨みの感情は、自身そのものとしてゾロアークを突き動かしていた。
「パルキアから送られてきた力で『空間』を自在に動けるよう……」
時空が裂け、ゾロアークは飛び出す。ゼラオラとエースバーンの間をすり抜け、ルカリオに飛び付き引っ掴んでいた。
「なっ! お前、まさかゾロアーク!」
「お前は、私のものだ!」
ゾロアークはルカリオを掴んだまま、宙高く飛び去る。ゼラオラもエースバーンも取り押さえようとするが、間に合わない。
「ルカリオ!」
「ルカ!」
大方のところコルニ同様、この二匹も自分のことは知らないのだろう。それなのにいきなり愛する相手が消え去ったとあっては、かわいそうと言えばその通りかもしれない。そしてそのかわいそうが自らの胸中に興奮の鬼火を灯していることを感じる。
「気の早いやつだ。まあ良い。そなたは『ヒスイのすがた』と呼ばれる姿になった。そなたの新たな体である。今圧倒的に動けているディアルガとパルキアからの力は、そう長く持たずに消え失せる」
二匹の姿が遠く消え去ったのを確認したタイミングで、ゾロアークの頭の中に声が響く。お礼も言わず、突き動かされるがままに飛び出してしまった。それは恨みと同化したこの肉体だからこそしてしまうことなのだろう。何はともあれ、こうしてルカリオをこの手に戻すことができた。
「ありがとう」
「この短い時間で何ができるか、見て楽しませてもらうぞ」
そのギラティナの一言と同時に、何かの感覚が途切れるのを感じた。ギラティナとはこれでお別れなのだろう。感謝はし尽くせないが、自分ごときが何お礼をできる相手でもないのは今この身をもって感じさせられている。ならばギラティナの言う通り、自分ができることをやり尽くそう。そうしてギラティナの遊びに乗ることこそが何よりのお礼だと考えたのである。
強引な引っ掴み方で運ばれる間に、ルカリオはいつの間にか気を失っていた。意識を取り戻した段階でどれほどの時間が経っていただろうか、体は既に雁字搦めにされていた。両腕両脚は大きく伸ばされ覆い尽くす程の鎖で拘束されており、腹部も何周か縛り付けられている。まるで十字架のような形状の細いベッドであり、さながらこれから死刑に処さんとしているのではないかと感じられる状態であった。
「ふふ、起きたわね?」
「ぞ、ゾロアークなのか?」
目を覚ましたその脇にいたのは、ルカリオが知っているゾロアークとはどうにも違う姿のポケモンである。全身の毛並みは白いものに変わっており、体から迸るエネルギーで髪が揺らめいている。波導を読むとそのエネルギーは恨みであることがわかるから恐ろしい。
「そうよ。親切な神様に会って、アンタのことを話したら力を貸してくれてこうなったの」
「神様……ディアルガか、それともパルキアか?」
自分もメガシンカというものは経験したが、どうやらこの姿の変化はその類ではなさそうである。種族的に恨みのエネルギーが身上の存在であり、その神様とやらの力でルカリオへの強い恨みを利用し姿を変えたのであろう。元の体を捨ててでも自分に執着する恨みに恐怖を感じられ、また余計なことをした神の存在に恨めしさも抱く。感覚を読む限り、先程飛び出して自分をさらったほどのエネルギーはもう消え始めていたが。
「それで、何か言うことはある?」
「解放してくれ」
ゾロアークはルカリオの顎をつまみ、自分と無理矢理に目線を合わせさせる。既に全てがこちらにあると言わんばかりに。だがルカリオはそれでもおいそれとは屈せず、まずは自分を通すことを選ぶ。
「ふふ。謝りもしないのね?」
「謝れば……許してくれるのか?」
本当のところ、ルカリオからすれば謝らなければならない理由など無い。一番最初は最悪な強姦で始まった関係であり、その後暫くは修行の脇について付き合っては貰ったが、カップルであることを認めたことは無い。体は何度も重ねたが、それも自分から求めたことは無くゾロアークに勝手に使わせていただけである。そんな形の関係であるから、他の相手に移ったとしても謝ることすら正直不満感がある。だが。
「少なくとも、あの二匹とはお別れすることね?」
予想通りと言えばそうであるが、ゾロアークの要求は謝るだけでは終わらなかった。ルカリオは歯軋りしながら唸るも、ゾロアークにはそれすら悦を覚えさせる。
「……わかった。別れる」
ルカリオとしては、ゼラオラとエースバーンの方こそが本当の相手であると感じていた。強姦してくるような相手より、隣で一緒に高め合える相手の方がずっと良いに決まっている。だが、まずはこの状況を打破しないといけない。そうしないと彼女らの元に戻ることはできない。その為であるから、この嘘は許されると、そう思い。
「ふーん? 嘘でもそんなこと言っちゃうんだ?」
「そう言うと思ってた。今更謝っても解放する気なんて無いのだろう?」
しかしゾロアークはあっさり嘘と見放す。或いははったりなのかもしれないが、いずれにせよこの圧倒的優位の状況を捨てるはずが無いというのは理解できていた。
「そうだとしても、自分の立場は理解した方が良いんじゃない?」
ゾロアークは周囲を見ろと目配せをする。恐らくどこかの洞窟と思われる空間。脇にはテーブルが設置されており、まずそれなりに豪華なオードブルが一皿置かれている。これからどのような行為に及ぶのかはわからないが、時間をおけばやってくるであろう空腹の眼前に、あの豪華な料理が手に届かない状況はなおのこと辛いであろう。そして何やら様々なものが詰められた道具箱。いくら一時的に神の力を借りていたとは言っても、このような数々の人間のものをどうやって調達したのだろうか。
「俺を……どうする気だ?」
「取り敢えず、宴の肴ね」
ゾロアークは舌なめずりすると、ルカリオの体を眺めまわす。身が崩れる程の怨恨と、それすら上回るほどの情欲。いずれにせよろくなことにならないのは、流石のルカリオも察する。これからルカリオを悲惨なまでに罰し、その哀れな姿を肴に食事とするのだろう。身の毛のよだつ怨恨の宴、うらみぎつねの宴は幕を開けるのであった。ゾロアークは道具箱から……。
「待て! それでどうする気だ!」
「ふふ? 男はこういうのが好きだって聞いているわ?」
取り出したのはイボが並ぶ棒状の物体。見るからに人間が作った物であるということだけは分かるが、その使い道は。まさかと否定したい気持ちであるのだが、いずれにせよろくな目には遭わないだろう。
「やめろ……! やめろ……!」
「それじゃあ、挿入!」
その丸く滑らかな先端をルカリオの肛門にあてがい、ゾロアークは真っ直ぐにねじ込む。
「あぎゃぁああああっ!」
激痛。敏感な部分から引き裂かれるような激痛に絶叫するルカリオ。ゾロアークもそれを望んでいたとばかりに。押し込んでは軽く引いてもう一押し。ルカリオは目を見開いて涙を流す。
「なに? 男はお尻の穴に入れられるのも好きって聞いたわよ?」
「痛い! 痛い! やめてくれ!」
押し込まれた遺物は骨格をも歪ませ、それが前後するたびに体内の肉が抉られたような。幾重にもわたる痛みが、ルカリオの全ての感覚を引き裂いている。ゾロアークは期待のまなざしでルカリオの性器を見つめるが、全く立つ様子も無く寧ろ縮み上がっている。
「ほら、いっちゃえばこれはおしまいにしてあげるわ」
「こんなので……! いけるわけが……!」
ルカリオの悲鳴を愉悦と身に刻んでいたゾロアーク。その目の前で、ルカリオの性器の先端から吹きこぼれるものが。精液ではない。苦痛のあまりのルカリオの失禁に、ゾロアークは手を引っ込める。
「どうやら、相当痛かったみたいね?」
「ぅう……」
尿はルカリオの内股を、尻を、容赦なく濡らし、十字架をつたって床に垂れていく。滴り落ちる音が、一つ、また一つ。しかしルカリオは気付く様子も無く、異物を動かす手を止められたことに一息つくだけ。なおも響く痛みの余波に息を漏らすばかりであり。
「漏らしているわよ?」
「も……?」
ゾロアークに指摘されてもなお、その言葉の意味が理解できなかった。頓狂な声を漏らしてから数秒。痛みの余波が一旦引いてくると、そこでようやく尻を濡らす感触に気付き。頬の毛並みが逆立っていく。
「ふふ」
「こ、これは! 違う!」
「違うの? じゃあもう一回やる?」
「そ、それは……!」
恥辱からも追い詰めてくる。流石に失禁は予想外だったかもしれないが、狡賢く口が減らない態度は流石ゾロアークである。
「まあ、今のはお試しね。聞いた話だと、男は強烈な刺激に慣れると女の子の中でもいけなくなるみたいだからね」
「くっ!」
「アタシの刺激じゃないといけなくなるように、壊してあげる」
ルカリオの心が恐怖に凍てついた瞬間には、ゾロアークは恨みのエネルギーを体中から迸らせていた。そしてルカリオの下腹部に手をかざす。何を始めるのかと恐怖に身を震わすこと数秒。間をおいて叩き込まれる、重い激痛。
「やぎゃぁっ!」
どうやら今のゾロアークは恨みの力によって体の中にも直接ダメージを与えることができるらしい。狙ったのは精巣。睾丸から送り込まれた精液を溜め込んでおくその場所に、ゾロアークは直接刺激する。先程の後ろからの痛みすら比にならないほどの衝撃に、ルカリオはただただ叫び続け。
「ええいっ!」
「がっ!」
ゾロアークがもう一押しを加えると、ルカリオの縮み上がった性器の先端から白い粘液が吹き上がる。勃起していないにも拘らず射精したルカリオ。普通の射精であれば虚脱の快楽に身を包まれるのに、今はただ痛い。ゾロアークはひとまず最初としては満足とうなずくと、尿と精液にまみれ哀れな姿となったルカリオを眺めながら、手元の料理を口にするのであった。
&aname(parudea);パルデアから
ゾロアークに捕まってから、どれほどの日々が流れただろうか。時々体を動かすために鎖を解かれるルカリオであったが、既にボロボロで逃げ出す力も残っていなかった。ゾロアークは自らが眠りにつく前にはしっかりルカリオを拘束しており、その日もルカリオを拘束した状態で眠っていた。どうすればこの日々が終わるのかと悲嘆にくれるルカリオと、いつまでもこんな日々を続けていたいゾロアーク。そんな二匹が眠る中に、足音が入ってきたのであった。
「待て」
「にゃ?」
ゾロアークが目を開けると、そこにいたのは緑色のポケモン。全身に香草の匂いを纏わせ、草タイプのポケモンであることは理解させる。どうやって拘束を解いたのか、半死半生で眠るルカリオを腕に抱きかかえており。
「招かれざる客ね。何者かしら?」
「カーニャはマスカーニャ! こう見えても、立派なドロボー猫なのにゃん!」
ゾロアークはびくりと鼻先を震わせる。鼻につくのは香草だけではない。一挙手一投足にいたるまで媚びをばら撒いており、全てにおいてゾロアークの感情を逆撫でする。
「ドロボー猫に立派とかあるのか? それに『こう見えても』ってこの状況だと明らかに……」
「ルカリオは黙ってろ!」
「にゃはは。折角カーニャも気付かなかったツッコミをしてくれてるのに」
勿論、ゾロアークを逆撫でしているのはその態度だけではない。誰にも触れさせまいと拘束していたルカリオを連れ去ろうとしているその行動。まず他の女がルカリオに触れている時点で怒りを燃え上がらせる現状であり。
「それで、そのドロボー猫が何故ルカリオに手を出す!」
「にゃはっ! なんか泣きながら仲間を探している二匹がいたから、声を掛けて探すのを手伝ってあげてたのにゃ!」
やはりまだ諦めていないかと思いつつ、そこに新たに加わったこのマスカーニャの存在に苛立ちを募らせる。何はともあれ。ゾロアークは鼻先を動かし、軽く息を吸うと。
「一々媚びた態度が腹立たしい! 香草の下から加齢臭を漂わせてよくやるな! 年増!」
「とし……」
香草の下からの臭いを確認した上で言い放つ。強烈なまでの香草は、加齢臭を誤魔化すためのものだった。それを喝破され、マスカーニャは愕然と言葉を呑み。
「年増スカーニャと名乗るのを許そう。似合っているし臭っているぞ!」
「カーニャは……」
「その……」
怒りに任せて言葉を重ねるゾロアークと、愕然と立ち尽くすマスカーニャ。その間で、ルカリオは明らかに空気が変わったことを感じ取っていた。だが女対女、そのやり取りに恐怖が先立ってしまい。そっと脇の地面に寝せられた後も動けないまま。
「調子に乗るのもその辺にしろ……」
マスカーニャは真っ直ぐにゾロアークへと目線を向けると、両手の爪を立てる。正面からつかつかとゾロアークに迫る。暴力に奔るか。ゾロアークも真っ直ぐにマスカーニャを睨み返し、それでも間合いに入ってきたのを確認すると軽く爪を振るう。その切っ先が当たったそれだけで、マスカーニャの体は粉々に砕け散る。
「え?」
軽い威嚇程度の動作だったのに、ここまで砕け散るなんて。後処理が大変だろうかと思った次の瞬間、背後からの気配が。
「死ねっ!」
辻斬り。ゾロアークの背後、陰から飛び出してきた爪の切っ先が遠慮なくゾロアークに叩き込まれる。しまった。先にゾロアークが斬ったのはマスカーニャが用意したデコイで、隙だらけの動きと見せかけて一瞬で変わり身となりその隙にゾロアークの背後に回り込んだのである。
「がはっ!」
「死ねっ! 死ねっ! 死ねっ!」
辻斬り。辻斬り。辻斬り。マスカーニャは惜しげもなくゾロアークの背中に弱点を突く切っ先を叩き込み、遂に返り血を浴びるほどの傷に至らしめていた。
「やめろ! それ以上は本当に死んでしまう!」
「う゛ー……! う゛ー……!」
ルカリオも起き上がり止めに入れるほどの状態ではないが、流石にこれ以上はまずいと叫ぶ。その声は流石にマスカーニャへのブレーキとはなったが、それでも怒りは収まらない模様で。喉の奥を震わせ唸る姿は、先程の媚びに奔った態度とは正反対である。
「もう、良いだろう?」
「ルカリオは優しいな! そんなにボロボロにしてくれたこの腐れでも、死なないかを心配する……!」
痛みに悶えるゾロアークを、もう一度蹴り入れ。どうやら本気で殺す気だったらしいその態度に、ルカリオは唖然とする。
「その……。怒ると口調が変わるんだな……」
「にゃっ?」
「まさか、自覚……」
「違うのにゃ! こいつがあんまり酷いことを言うから、ちょっと荒ぶっちゃっただけなのにゃ!」
両手を振るい冷や汗を飛び散らせ、マスカーニャは慌てて説明する。が、時既に遅しである。この媚びに媚びた態度の裏にある本性をここまで見せ付けられたら、誰であってもその二面性に恐怖するしかない。一応ゼラオラやエースバーンのことを知っているみたいなので変なことにはならないような気はするが、この本性が自分に向くことがあるのだとしたら非常に怖い。
「そ、そういうことなら……」
だからこそ、ルカリオはそれ以上の追及をやめた。これ以上は刺激せず、その本性はしまってもらおう。そして二度と出させないように気を付けよう。そんな風に怯えるルカリオに、何を思ったのかマスカーニャは覆い被さる。
「にゃはは。でもまあ、もっといいことを思いついたのにゃ!」
マスカーニャはルカリオの性器に手を伸ばす。既に爪はしまってあり、柔らかい肉球で縮み上がった性器を揉み込むが。しかし既にゾロアークにさんざん無茶な刺激をされ続けていたため反応は鈍い。マスカーニャは不満気に首を傾げる。
「ちょっと待て! ゼラオラやエースバーンから俺のことを聞いてないのか?」
「にゃはっ! 見つけ出したらやっていいって、ちゃんと許可は取っているのにゃ! そうじゃなきゃ協力しないのにゃ!」
口から変な声が漏れそうになるのを、ルカリオは寸でのところで堪えた。この恐ろしい相手との関わりは、どうやらこの場で終わってはくれないらしい。ゼラオラとエースバーンはとんでもない相手に協力を求めたものだと、ただただ絶望する。
「アンタ、まさか……!」
「大事な彼が寝取られるところ、その目でしっかり眺めるのにゃ!」
無理矢理刺激され続け、ルカリオの性器も何とか膨らんできてはいた。だがゾロアークがやり続けたことのお陰で、感覚としてはどうにも鈍い。それでも多少膨れ上がったのを見て、マスカーニャは腰を下げてそれを自らの中に挿入する。
「その……。でも俺、壊されてて……」
「んにゃ? んにゃー……。何とか頑張ってみるのにゃ」
言うが早いか、マスカーニャは小さな花束を取り出す。それは花弁からも香しさを醸しながら、マスカーニャの手により宙を動き回っていた。右へ、左へ。次の瞬間にはいったん消えており。そう思った次の瞬間にはルカリオの鼻先に現れていた。幻惑。複雑怪奇な動きが香りとともにルカリオを幻惑し、段々と意識と感覚を切り離していき。
「あっ!」
「にゃはは! ちょろっと出たのにゃ!」
マスカーニャはこれ見よがしに宣言しつつ、ゾロアークの顔を見下ろす。無数の連撃に打ちのめされて立つこともできないでいるゾロアークは、それを信じたくないとばかりに唸るが。マスカーニャが立ち上がると、その秘部から糸を引いて垂れる精液が現実を突き付ける。
「壊されても、ちゃんと治してあげるのにゃ。だから……何度でも壊されて大丈夫なのにゃ!」
「いや! 壊されることは金輪際あって欲しくないのだが!」
「にゃはは」
肝心なところがあまりにも外れた宣言に、また突っ込みを叫ぶルカリオ。そんなルカリオに対して満足げに笑うと、マスカーニャは再びルカリオを抱えて逃げ去るのであった。ゾロアークに残されたのは、屈辱、痛痒、喪失……。だが諦める気にはなれなかった。今は休んで傷を癒そう。傷が癒えたらまた、ルカリオを取り戻しに掛かろう。ゾロアークは誓いの中、眠りにつくのであった。
「どうだ?」
「ここまで面白いことになるとは……ディアルガ、やるな」
ギラティナはその居場所で、訪れていた青いドラゴンポケモンに応える。ディアルガと呼ばれたそのポケモンの後ろで、もう一匹白いドラゴンポケモンが腹を抱えてうずくまっている。
「パルキア、笑い過ぎだ」
「だって……! だって……!」
倒れ込んだまま眠りについたゾロアークと、ルカリオを抱えて走るマスカーニャ。それぞれの姿を映し出したホログラムが消えた後も、パルキアはもうひとしきり笑うのである。
「まったく……。ルカリオとやらはこのシンオウの出身だったな。今後もますます楽しませてくれそうだな」
「期待して見ていようぞ」
そんなパルキアを脇に置き、ディアルガとギラティナは頷き合う。ディアルガに「面白いことになる」と言われたので助けてみたゾロアークは、実際言われた通りそれは彼らを満足させる顛末を見せてくれた。ディアルガは最初からこうなることを知っていた上でゾロアークを助けるように言ったのである。
ゾロアークの今回の宴はここで終わりとなった。だが神々は彼らの血も涙も享楽として眺める、それだけのことなのである。そんな意図も知らないまま、追跡と逃走は今日も続くのであった。